特許第6972801号(P6972801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6972801-過酸化水素製造用作動溶液の調製方法 図000003
  • 特許6972801-過酸化水素製造用作動溶液の調製方法 図000004
  • 特許6972801-過酸化水素製造用作動溶液の調製方法 図000005
  • 特許6972801-過酸化水素製造用作動溶液の調製方法 図000006
  • 特許6972801-過酸化水素製造用作動溶液の調製方法 図000007
  • 特許6972801-過酸化水素製造用作動溶液の調製方法 図000008
  • 特許6972801-過酸化水素製造用作動溶液の調製方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972801
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】過酸化水素製造用作動溶液の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 15/023 20060101AFI20211111BHJP
【FI】
   C01B15/023 T
   C01B15/023 Z
【請求項の数】16
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-173393(P2017-173393)
(22)【出願日】2017年9月8日
(65)【公開番号】特開2019-48739(P2019-48739A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2020年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 規樹
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】松本 倫太朗
(72)【発明者】
【氏名】池田 英俊
(72)【発明者】
【氏名】茂田 耕平
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−033031(JP,A)
【文献】 特開2014−224009(JP,A)
【文献】 特開2009−034663(JP,A)
【文献】 特開2008−087992(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/129769(WO,A1)
【文献】 特開平05−201708(JP,A)
【文献】 特開2008−120631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/00−23/00
C02F 1/50
B01J 21/04、21/12
C07C 29/143、31/125
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液を調製する方法であって、
芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液から、芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程と、
回収した芳香族溶媒と、回収したアントラキノン類と、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒とを混合し、トリオクチルホスフェートを実質的に含まないトリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液から、芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程が、
(i) 前記過酸化水素製造用作動溶液から芳香族溶媒を回収し、芳香族溶媒回収後の作動溶液から、トリオクチルホスフェートを加水分解または再結晶により除去し、アントラキノン類を回収する工程、
(ii) 前記過酸化水素製造用作動溶液においてトリオクチルホスフェートを加水分解し、トリオクチルホスフェートが加水分解された作動溶液から、芳香族溶媒およびアントラキノン類を回収する工程、
または、
(iii) 前記過酸化水素製造用作動溶液から、アントラキノン類を再結晶により回収し、アントラキノン類回収後の作動溶液から、芳香族溶媒を回収する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アントラキノン法による過酸化水素製造プロセスにおいて、芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含む作動溶液におけるトリオクチルホスフェートを、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒に置換する方法であって、
前記作動溶液の少なくとも一部を過酸化水素製造プロセスから回収する工程と、
回収した作動溶液から芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程と、
回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、トリオクチルホスフェートを実質的に含まないトリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程と、
得られたトリオクチルホスフェート不含作動溶液を過酸化水素製造プロセスに加える工程と
を含む、方法。
【請求項4】
回収した作動溶液から芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程が、
(i)前記作動溶液から芳香族溶媒を回収し、芳香族溶媒回収後の作動溶液から、トリオクチルホスフェートを加水分解または再結晶により除去し、アントラキノン類を回収する工程、
(ii)前記作動溶液においてトリオクチルホスフェートを加水分解し、トリオクチルホスフェートが加水分解された作動溶液から、芳香族溶媒およびアントラキノン類を回収する工程、または
(iii)前記作動溶液からアントラキノン類を再結晶により回収し、アントラキノン類回収後の作動溶液から芳香族溶媒を回収する工程
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記トリオクチルホスフェートの、前記トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒への置換が、過酸化水素製造プロセスの継続中に行われる、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
トリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程が、回収した芳香族溶媒と、回収したアントラキノン類と、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒との混合物を、水および/またはアルカリで洗浄する工程を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
トリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程において、前記トリオクチルホスフェート不含作動溶液が、飽和水分量の20%〜160%の水を含むように調整される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液から、蒸留により芳香族溶媒を回収する工程と、
芳香族溶媒回収後の作動溶液をアルカリ、酸または酵素により処理し、トリオクチルホスフェートを加水分解する工程と、
トリオクチルホスフェートが加水分解された作動溶液から、アントラキノン類を有機相に抽出する工程と、
蒸留によりアントラキノン類を回収する工程と、
回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、トリオクチルホスフェート不含作動溶液を得る工程と、
を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記加水分解が、無機塩基水溶液により行われる、請求項2および4から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記無機塩基水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記芳香族溶媒の回収が、大気圧またはそれ以下の圧力下での第1の蒸留により行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
記アントラキノン類収が、第1の蒸留より低い圧力下での、160℃以上の蒸留により行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
トリオクチルホスフェートを加水分解または再結晶により除去する工程におけるトリオクチルホスフェートの除去率が、1%〜100%である、請求項2および4から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
蒸留塔、反応槽および調製槽を備えた作動溶液製造システムであって、蒸留塔は留出物輸送ラインを備え、調製槽は極性溶媒供給ラインとトリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ラインとを備え、蒸留塔と反応槽とは、蒸留原料供給ラインにより連通し、蒸留塔と調製槽とは、留出芳香族溶媒供給ラインにより連通し、(i)蒸留塔はトリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ラインをさらに備え、反応槽は加水分解剤供給ラインを備え、蒸留塔と反応槽とは、釜残輸送ラインによりさらに連通し、留出物輸送ラインと調製槽とは留出アントラキノン類供給ラインにより連通しているか、または(ii)反応槽はトリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ラインと、加水分解剤供給ラインとを備え、留出物輸送ラインと調製槽とは留出アントラキノン類供給ラインによりさらに連通しているか、または(iii)蒸留塔はトリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ラインをさらに備え、反応槽は再結晶溶媒供給ラインと廃液ラインとを備え、蒸留塔と反応槽とは、釜残輸送ラインによりさらに連通し、反応槽と調製槽とは再結晶アントラキノン類供給ラインにより連通しているか、または(iv)反応槽はトリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ラインと、再結晶溶媒供給ラインと、廃液ラインとを備え、反応槽と調製槽とは再結晶アントラキノン類供給ラインにより連通している、作動溶液製造システム。
【請求項15】
トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ラインと、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ラインとにより過酸化水素製造装置と連通している、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
洗浄剤供給ラインと廃液ラインと洗浄済作動溶液輸送ラインとを備えた洗浄槽をさらに備え、調製槽と洗浄槽とはトリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ラインにより連通している、請求項14または15に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリオクチルホスフェートを実質的に含まない過酸化水素製造用作動溶液の調製方法、トリオクチルホスフェートを含む過酸化水素製造用作動溶液からトリオクチルホスフェートを除去する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、酸化力を有し強力な漂白・殺菌作用を持つことから、紙、パルプ、繊維等の漂白剤、殺菌剤等として使用される。過酸化水素の分解生成物は水と酸素であるため、グリーンケミストリーの観点からも重要な位置づけがなされ、特に塩素系漂白剤の代替材料として注目されている。さらに半導体基板等の表面の洗浄、銅、スズおよび他の銅合金表面の化学的研磨、電子回路の蝕刻等の半導体産業においても過酸化水素の使用量が増大している。また、エポキシ化およびヒドロキシル化をはじめとする酸化反応に広範囲に用いられ、過酸化水素は重要な工業製品である。
【0003】
現在、工業的な過酸化水素の製造方法として、アントラキノン法が知られている。この方法では、アントラキノン類を有機溶媒に溶解して作動溶液を得、水素化工程においてアントラキノン類を水素化触媒の存在下で水素化し、アントラヒドロキノン類を生成させる。次いで、酸化工程においてアントラヒドロキノン類をアントラキノン類に再度転化し、同時に過酸化水素を生成させる。作動溶液中の過酸化水素は、水抽出等の方法により、作動溶液から分離される。過酸化水素が抽出された作動溶液は、再び水素化工程に戻され、循環プロセスを形成する。作動溶液用の溶媒として、アントラキノン類を溶解する非極性溶媒とアントラヒドロキノン類を溶解する極性溶媒との混合溶媒が一般的に用いられている。過酸化水素製造会社によって作動溶液に用いる溶媒は異なるが、極性溶媒としてリン酸エステル(より具体的にはリン酸トリス(2−エチルヘキシル))を使用しているプラントが多いとされる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国特許出願第106044720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作動溶液に用いる溶媒に要求される性質として、アントラキノンとアントラヒドロキノンの高溶解性、過酸化水素の高分配係数、化学的安定性、低密度、低粘度、低毒性などがある。また、作動溶液の性質に大きく影響するのは、非極性溶媒よりも極性溶媒であると考えられている。作動溶液に用いる極性溶媒としては、アルコール(例えば、ジイソブチルカルビノール、2−エチルヘキサノール)、四置換尿素、リン酸エステル(例えば、リン酸トリス(2−エチルヘキシル))、2−ピロリドンまたはアルキルシクロヘキシルアセテートなどが挙げられるが、これらの極性溶媒にはメリットとデメリットが存在する。
リン酸トリス(2−エチルヘキシル)(CAS番号:78−42−2、以下、トリオクチルホスフェートまたはTOPと表記することがある)の場合、メリットとしては、水への溶解度が低い等の理由から、低TOC(Total Organic Carbon、全有機体炭素)の過酸化水素を取得し易い点が挙げられ、デメリットとしては、分解によって生じる酸不純物が触媒毒となる点、作動溶液の抽出工程における液液分離性が悪い傾向にある点、これらの結果として安定運転が困難になり得る点、リン含有廃液が生じる点、作動溶液の分配係数が低くなり、抽出し得る過酸化水素の濃度が低い点などが挙げられる。
【0006】
近年、トリオクチルホスフェートを使用しているプラントでは、上記デメリットの影響がより懸念されており、作動溶液の性質を改善するために、(1)3成分系溶媒あるいは4成分以上の多成分系溶媒への変更、(2)新規溶媒の開発などの取り組みが行われている。
【0007】
作動溶液の溶媒を変更する方法としては、(i)溶媒を徐々に置換する方法、(ii)作動溶液を入れ替える方法、(iii)分離操作を行う方法等がある。(i)について、実際のプラントでは、酸化工程での排ガスへの同伴等により作動溶液中の溶媒は徐々に減少するため、適宜新しい溶媒を補充しながら運転を行っている。循環プロセス中の作動溶液とは異なる溶媒を補充することで、溶媒組成を徐々に変更できる。しかし、この方法では、完全に溶媒を入れ替えるために長期間を要する。また、トリオクチルホスフェートは比較的沸点が高い溶媒であるため、アルコール等の低沸点溶媒への置換は困難である。(ii)については、新しい作動溶液を調製する必要があるため、コストが大きくなるという欠点がある。また、非極性溶媒やアントラキノン類などの有効な作動溶液成分を再利用できないデメリットもある。(iii)については、例えば蒸留による分離操作が挙げられるが、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートの沸点差は小さく、完全な分留が難しい。
このため、作動溶液の組成の一部であるトリオクチルホスフェートを効率的に除く技術の提供は有用と考えられる。
本発明の1つの目的は、過酸化水素製造用作動溶液中のトリオクチルホスフェートを効率よく除去する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、過酸化水素製造用作動溶液中のトリオクチルホスフェートの加水分解または過酸化水素製造用作動溶液中のアントラキノン類の再結晶により作動溶液からトリオクチルホスフェートを除去できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明の一側面は、以下のとおりである。
〔1〕 アントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液を調製する方法であって、
芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液から、芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程と、
回収した芳香族溶媒と、回収したアントラキノン類と、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒とを混合し、トリオクチルホスフェートを実質的に含まないトリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程と
を含む、方法。
〔2〕 芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液から、芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程が、
(i) 前記過酸化水素製造用作動溶液から芳香族溶媒を回収し、芳香族溶媒回収後の作動溶液から、トリオクチルホスフェートを加水分解または再結晶により除去し、アントラキノン類を回収する工程、
(ii) 前記過酸化水素製造用作動溶液においてトリオクチルホスフェートを加水分解し、トリオクチルホスフェートが加水分解された作動溶液から、芳香族溶媒およびアントラキノン類を回収する工程、
または、
(iii) 前記過酸化水素製造用作動溶液から、アントラキノン類を再結晶により回収し、アントラキノン類回収後の作動溶液から、芳香族溶媒を回収する工程
を含む、〔1〕に記載の方法。
【0010】
〔3〕 アントラキノン法による過酸化水素製造プロセスにおいて、芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含む作動溶液におけるトリオクチルホスフェートを、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒に置換する方法であって、
前記作動溶液の少なくとも一部を過酸化水素製造プロセスから回収する工程と、
回収した作動溶液から芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程と、
回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、トリオクチルホスフェートを実質的に含まないトリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程と、
得られたトリオクチルホスフェート不含作動溶液を過酸化水素製造プロセスに加える工程と、
を含む、方法。
〔4〕 回収した作動溶液から芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程が、
(i)前記作動溶液から芳香族溶媒を回収し、芳香族溶媒回収後の作動溶液から、トリオクチルホスフェートを加水分解または再結晶により除去し、アントラキノン類を回収する工程、
(ii)前記作動溶液においてトリオクチルホスフェートを加水分解し、トリオクチルホスフェートが加水分解された作動溶液から、芳香族溶媒およびアントラキノン類を回収する工程、または
(iii)前記作動溶液からアントラキノン類を再結晶により回収し、アントラキノン類回収後の作動溶液から芳香族溶媒を回収する工程
を含む、〔3〕に記載の方法。
【0011】
〔5〕 前記トリオクチルホスフェートの、前記トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒への置換が、過酸化水素製造プロセスの継続中に行われる、〔3〕または〔4〕に記載の方法。
〔6〕 トリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程が、回収した芳香族溶媒と、回収したアントラキノン類と、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒との混合物を、水および/またはアルカリで洗浄する工程を含む、〔1〕から〔5〕のいずれか一項に記載の方法。
〔7〕 トリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程において、前記トリオクチルホスフェート不含作動溶液が、飽和水分量の20%〜160%の水を含むように調整される、〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載の方法。
【0012】
〔8〕 芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液から、蒸留により芳香族溶媒を回収する工程と、
芳香族溶媒回収後の作動溶液をアルカリ、酸または酵素により処理し、トリオクチルホスフェートを加水分解する工程と、
トリオクチルホスフェートが加水分解された作動溶液から、アントラキノン類を有機相に抽出する工程と、
蒸留によりアントラキノン類を回収する工程と、
回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、トリオクチルホスフェート不含作動溶液を得る工程と、
を含む、〔1〕から〔7〕のいずれか一項に記載の方法。
【0013】
〔9〕 前記加水分解が、無機塩基水溶液により行われる、〔1〕から〔8〕のいずれか一項に記載の方法。
〔10〕 前記無機塩基水溶液が水酸化ナトリウム水溶液である、〔9〕に記載の方法。
〔11〕 前記芳香族溶媒の回収が、大気圧またはそれ以下の圧力下での第1の蒸留により行われる、〔1〕から〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕 前記蒸留によりアントラキノン類を回収する工程が、第1の蒸留より低い圧力下での、160℃以上の蒸留により行われる、〔11〕に記載の方法。
〔13〕 トリオクチルホスフェートを加水分解または再結晶により除去する工程におけるトリオクチルホスフェートの除去率が、1%〜100%である、〔1〕から〔12〕のいずれか一項に記載の方法。
【0014】
〔14〕 蒸留塔、反応槽および調製槽を備えた作動溶液製造システムであって、蒸留塔は留出物輸送ラインを備え、調製槽は極性溶媒供給ラインとトリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ラインとを備え、蒸留塔と反応槽とは、蒸留原料供給ラインにより連通し、蒸留塔と調製槽とは、留出芳香族溶媒供給ラインにより連通し、(i)蒸留塔はトリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ラインをさらに備え、反応槽は加水分解剤供給ラインを備え、蒸留塔と反応槽とは、釜残輸送ラインによりさらに連通し、留出物輸送ラインと調製槽とは留出アントラキノン類供給ラインにより連通しているか、または(ii)反応槽はトリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ラインと、加水分解剤供給ラインとを備え、留出物輸送ラインと調製槽とは留出アントラキノン類供給ラインによりさらに連通しているか、または(iii)蒸留塔はトリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ラインをさらに備え、反応槽は再結晶溶媒供給ラインと廃液ラインとを備え、蒸留塔と反応槽とは、釜残輸送ラインによりさらに連通し、反応槽と調製槽とは再結晶アントラキノン類供給ラインにより連通しているか、または(iv)反応槽はトリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ラインと、再結晶溶媒供給ラインと、廃液ラインとを備え、反応槽と調製槽とは再結晶アントラキノン類供給ラインにより連通している、作動溶液製造システム。
〔15〕 トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ラインと、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ラインとにより過酸化水素製造装置と連通している、〔14〕に記載のシステム。
〔16〕 洗浄剤供給ラインと廃液ラインと洗浄済作動溶液輸送ラインとを備えた洗浄槽をさらに備え、調製槽と洗浄槽とはトリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ラインにより連通している、〔14〕または〔15〕に記載のシステム。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下の1以上の効果を奏する。
(1)トリオクチルホスフェートを含む作動溶液から、簡易な方法でトリオクチルホスフェートを除去することができる。
(2)トリオクチルホスフェートを含む作動溶液から、効率よくトリオクチルホスフェートを除去することができる。
(3)過酸化水素製造プロセスを稼働させたまま、作動溶液中のトリオクチルホスフェートを他の極性溶媒に置換することができるため、過酸化水素プロセスの中断による悪影響が生じることがない。
(4)使用中の作動溶液のトリオクチルホスフェート以外の成分を再利用することができるため、作動溶液のロスを最小限に抑えることができる。
(5)作動溶液中の不活性物質も同時に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の作動溶液製造システムの一態様の概略図である。
図2図2は、本発明の作動溶液製造システムの別の態様の概略図である。
図3図3は、本発明の作動溶液製造システムの別の態様の概略図である。
図4図4は、本発明の作動溶液製造システムの別の態様の概略図である。
図5図5は、本発明の作動溶液製造システムの別の態様の概略図である。
図6図6は、芳香族溶媒を含むまたは含まない作動溶液を所定時間加水分解した後の、2−エチルヘキサノール(2−EHOH)、2−エチルアントラキノン(EAQ)およびトリオクチルホスフェート(TOP)の合計量(2−EHOH+EAQ+TOP、ピーク面積の合計)に対するトリオクチルホスフェート(TOP)の量の割合を示したグラフである。菱形のプロットは芳香族溶媒を含む作動溶液を、正方形のプロットは芳香族溶媒を含まない作動溶液をそれぞれ表す。
図7図7は、芳香族溶媒を含むまたは含まない作動溶液を所定時間加水分解した後の、作動溶液に含まれる物質の合計量(Total、ピーク面積の合計)に対するトリオクチルホスフェート(TOP)の量の割合を示したグラフである。菱形のプロットは芳香族溶媒を含む作動溶液を、正方形のプロットは芳香族溶媒を含まない作動溶液をそれぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一態様は、
芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液から、芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程と、
回収した芳香族溶媒と、回収したアントラキノン類と、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒とを混合し、トリオクチルホスフェートを実質的に含まないトリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程と
を含む、アントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液を調製する方法に関する(以下、本発明の作動溶液調製方法と称することがある)。
【0018】
作動溶液に含まれる芳香族溶媒としては、限定されずに、例えば、少なくとも1個のアルキル基で置換された芳香族炭化水素、特に炭素原子を8、9、10、11または12個含むアルキルベンゼン(例えば、炭素原子を9個含むトリメチルベンゼンなど)またはその混合物などが挙げられる。
作動溶液に含まれるアントラキノン類は、アントラキノン法により過酸化水素を産生し得るものであれば特に限定されず、アントラキノン(9,10−アントラセンジオン)、テトラヒドロアントラキノンおよびその誘導体が挙げられる。アントラキノンの誘導体としては、限定されずに、例えば、アルキルアントラキノンが挙げられる。アルキルアントラキノンは、少なくとも1つのアルキル基で置換されたアントラキノンを意味する。特定の態様において、アルキルアントラキノンは、少なくとも1個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖の脂肪族置換基により、1、2または3位が少なくとも一置換されたアントラキノンを含む。アルキルアントラキノンにおけるアルキル置換基は、好ましくは1〜9個、より好ましくは1〜6個の炭素原子を含む。アルキルアントラキノンの具体例としては、限定されずに、例えば、メチルアントラキノン(2−メチルアントラキノン等)、ジメチルアントラキノン(1,3−、2,3−、1,4−、2,7−ジメチルアントラキノン等)、エチルアントラキノン(2−エチルアントラキノン等)、プロピルアントラキノン(2−ノルマルプロピルアントラキノン、2−イソプロピルアントラキノン等)、ブチルアントラキノン(2−sec−、2−tert−ブチルアントラキノン等)、アミルアントラキノン(2−sec−、2−tert−アミルアントラキノン等)などが挙げられる。作動溶液は、1種または2種以上のアントラキノン類を含んでもよい。
【0019】
作動溶液は、アントラキノン法による過酸化水素製造の循環プロセスで使用されたものであっても、使用されていないものであってもよい。アントラキノン法による過酸化水素の製造工程は、作動溶液を水素化する工程、水素化された作動溶液を酸化する工程および酸化された作動溶液から過酸化水素を抽出する工程を含むが、本発明の作動溶液調製方法に用いる作動溶液としては、抽出工程後の過酸化水素を含まないか、または、含んでいたとしてもその含有量が極めて少ない(例えば、含有量が0.35g/L以下の)作動溶液が安全性の観点から好ましい。過酸化水素の製造に使用された作動溶液は過酸化水素の生成に伴い副生する不活性物質を含んでいるが、本発明の作動溶液調製方法によりかかる不活性物質を除去することができる。
【0020】
トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒としては、限定されずに、アルコール(例えば、ジイソブチルカルビノール(DIBC)、2−エチルヘキサノール)、四置換尿素(例えば、テトラブチルウレア(TBU))、2−ピロリドンまたはアルキルシクロヘキシルアセテート(例えば、メチルシクロヘキシルアセテート(MCHA))などが挙げられる。
【0021】
トリオクチルホスフェート不含作動溶液は、芳香族溶媒、アントラキノン類およびトリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を含むが、トリオクチルホスフェートを実質的に含まない作動溶液を意味する。トリオクチルホスフェートを実質的に含まないとは、トリオクチルホスフェートを含まないか、含んだとしても、その量が、芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程において不可避的に混入する量であるか、および/または、トリオクチルホスフェートによるデメリット、例えば、プラントの運転や、触媒、環境への悪影響が問題とならない程度の量であることを意味する。特定の態様において、トリオクチルホスフェート不含作動溶液に存在するトリオクチルホスフェートの量は、作動溶液の1重量%以下であり、例えば、0.75重量%以下、0.5重量%以下、0.25重量%以下、0.1重量%以下、0.05重量%以下、0.01重量%以下などであってよい。トリオクチルホスフェート不含作動溶液は、1種または2種以上のアントラキノン類を含んでもよい。また、トリオクチルホスフェート不含作動溶液は、1種または2種以上の、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を含んでもよい。
【0022】
芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液は、過酸化水素製造プロセスにおいて循環利用されている作動溶液であってよい。かかる作動溶液を原料に用いることにより、作動溶液に含まれるアントラキノン類および芳香族溶媒を廃棄せずにトリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製することができる。
【0023】
本発明の作動溶液調製方法における、芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液から、芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程は、
(i)前記過酸化水素製造用作動溶液から芳香族溶媒を回収し、芳香族溶媒回収後の作動溶液から、トリオクチルホスフェートを加水分解または再結晶により除去し、アントラキノン類を回収する工程、
(ii)前記過酸化水素製造用作動溶液においてトリオクチルホスフェートを加水分解し、トリオクチルホスフェートが加水分解された作動溶液から、芳香族溶媒およびアントラキノン類を回収する工程、
または、
(iii)前記過酸化水素製造用作動溶液から、アントラキノン類を再結晶により回収し、アントラキノン類回収後の作動溶液から、芳香族溶媒を回収する工程
を含んでもよい。
【0024】
本発明の作動溶液調製方法における芳香族溶媒の回収には、芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液、トリオクチルホスフェートが加水分解された作動溶液、または、アントラキノン類を再結晶により回収後の作動溶液から芳香族溶媒を回収できれば、いかなる手法を用いてもよいが、典型的には、蒸留により回収する。特定の態様において、芳香族溶媒回収のための蒸留は、大気圧以下の圧力で行う。蒸留圧は、芳香族溶媒が回収できるものであれば特に限定されず、例えば、0.5kPa〜100kPa、0.8kPa〜80kPa、1kPa〜60kPa、2kPa〜50kPaなどであってよい。芳香族溶媒は留出するが、トリオクチルホスフェートおよびアントラキノン類は留出しない蒸留圧が好ましい。蒸留温度も、芳香族溶媒が回収できるものであれば特に限定されず、例えば、110℃〜240℃、120℃〜220℃、130℃〜200℃、140℃〜190℃、150℃〜185℃などであってよい。芳香族溶媒は留出するが、トリオクチルホスフェートおよびアントラキノン類は留出しない蒸留温度が好ましい。蒸留は、芳香族溶媒の回収率などの観点から、留出がなくなるまで続けることが好ましい。
【0025】
本発明の作動溶液調製方法におけるトリオクチルホスフェートを加水分解する工程では、トリオクチルホスフェートが、ジオクチルホスフェート、モノオクチルホスフェート、リン酸または2−エチルヘキサノール等に分解される。トリオクチルホスフェートを加水分解する方法としては、アルカリ、酸、酵素などの加水分解剤による加水分解などを用いることができる。アルカリによる加水分解は、例えば、無機塩基水溶液によって行うことができる。無機塩基水溶液としては、限定されずに、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどの水溶液が挙げられる。一態様において、無機塩基水溶液は、トリオクチルホスフェート1当量当たり1当量以上の無機塩基を含む。トリオクチルホスフェート1当量当たりの無機塩基の当量は、例えば、1〜20当量、2〜15当量、3〜10当量、4〜8当量などであってよい。トリオクチルホスフェート1当量当たりの無機塩基の当量が高い程、加水分解反応が促進される傾向がある。無機塩基水溶液の濃度は、無機塩基の水への溶解度によって異なり得るが、例えば、10〜50重量%、15〜45重量%、20〜40重量%などであってよい。無機塩基水溶液の濃度が高い程、加水分解反応が促進される傾向がある。
【0026】
加水分解の反応温度としては、芳香族溶媒やアントラキノン類が変性しない温度が望ましく、また、加水分解が適度な速度で行われる温度が好ましい。反応温度は、アントラキノン類の種類や、反応液の濃度などによって異なり得るが、例えば、室温〜130℃、30℃〜40℃、50℃〜110℃、60℃〜100℃などであってよい。反応時間は、反応温度や、反応液の組成、所望のトリオクチルホスフェートの除去率などによって異なり得るが、6時間〜48時間、12時間〜36時間、15時間〜30時間などであってよい。所定の反応温度および反応液を用いた場合の最適な反応時間は、反応液中のトリオクチルホスフェートの残存率や残存量を定期的に測定することなどによって決定することができる。また、加水分解の反応条件や時間を調整することでトリオクチルホスフェートの除去率を調整できる。
【0027】
無機塩基水溶液と作動溶液中の有機物とを均一に混合するために、アルコールやリン酸ジエステルなどの両親媒性物質を反応系に添加することができる。添加する両親媒性物質は、蒸留等の操作によって容易に分離できるものが望ましい。例えば、エチルアルコールは、アントラキノン類や2−エチルヘキサノールとの沸点差が大きく、反応後、蒸留によって容易に留去可能であるため、好ましい添加剤といえる。
【0028】
トリオクチルホスフェートの加水分解後、反応系中に残存しているリン酸塩、リン酸エステルの分解物、塩基塩などの不純物を除去するため、抽出工程および/または洗浄工程を設けてもよい。後続の工程で、加水分解後の反応系に含まれるアントラキノン類(反応系に芳香族溶媒が含まれる場合は、アントラキノン類と芳香族溶媒)を回収するため、抽出工程や洗浄工程では、アントラキノン類、または、アントラキノン類と芳香族溶媒が失われないようにすることが好ましい。一態様において、抽出工程は、反応系に有機溶媒、および必要に応じて水を加えて分液し、アントラキノン類を有機相に抽出し、アントラキノン類が含まれる有機相を回収することを含む。有機溶媒としては、アントラキノン類(またはアントラキノン類と芳香族溶媒)との分離が容易なもの(例えば沸点が大きく異なるもの)が好ましい。かかる有機溶媒としては、限定されずに、芳香族溶媒、例えば、ベンゼン、トルエン、ジメチルベンゼン(キシレン)、トリメチルベンゼンなどが挙げられる。分液は、1回または2回以上行うことができる。
【0029】
洗浄工程は、水、アルカリ水溶液、酸水溶液等による洗浄を含む。洗浄に用いる水は、蒸留水、イオン交換水、逆浸透法などで精製された水が好ましいが、上記以外の方法で精製された水も好ましく用いられる。洗浄に用いられる水として純水が特に好ましい。洗浄に用いるアルカリとしてはアルカリ金属が好ましい。洗浄で使用されるアルカリ金属は、周期表第Ia族のアルカリ金属であればよいが、リチウム、ナトリウムあるいはカリウムが好ましい。これらを含む試薬に特に限定はないが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、二リン酸ナトリウム、二酸化ホウ素ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、三酸化ホウ酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、二ケイ酸ナトリウム、三ケイ酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、硫化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ホウ素カリウム、炭酸カリウム、シアン化カリウム、亜硝酸カリウム、カリウムフェノキシド、リン酸水素カリウム、二リン酸カリウム、スズ酸カリウムなどが例示される。アルカリ水溶液に含まれる成分は、好ましくは水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウムであり、さらに好ましくは、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウムであり、特に好ましくは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムである。アルカリ金属を含有するアルカリ水溶液のpHは8以上が好ましく、より好ましくは10以上であり、特に好ましくは12以上である。洗浄は1回、2回、3回または4回以上行うことができる。
【0030】
本発明の作動溶液調製方法においては、トリオクチルホスフェートを加水分解した後の反応系に対し、抽出工程のみを行っても、洗浄工程のみを行っても、抽出工程と洗浄工程の両方を行ってもよい。
また、トリオクチルホスフェートを加水分解した後の反応系は、必要に応じて上記の抽出工程および/または洗浄工程を経た後、アントラキノン類(反応系に芳香族溶媒が含まれる場合は、アントラキノン類と芳香族溶媒)を回収する前に乾燥(脱水)工程に供して水を除去してもよい。乾燥は、既知の任意の方法、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウムなどの脱水剤による脱水などによって行うことができる。脱水剤を使用した場合は、脱水反応後の脱水剤を除去することが好ましい。脱水剤の除去には、例えば、ろ過、沈殿、遠心分離などの手法を用いることができる。
【0031】
トリオクチルホスフェートの加水分解後の反応系からアントラキノン類(反応系に芳香族溶媒が含まれる場合は、アントラキノン類と芳香族溶媒)を回収するため、蒸留工程を設けてもよい。蒸留によりトリオクチルホスフェートの加水分解によって生じた2−エチルヘキサノールやジオクチルホスフェート、モノオクチルホスフェートなどの分解物を除去することができるだけでなく、作動溶液中に経年的に蓄積したアントラキノンの重合物などの副生成物を同時に除去することも可能である。蒸留工程は、1段、2段または3段以上の蒸留を含み得る。一態様において、蒸留工程は、アントラキノン類を回収するための1段階の蒸留を含む。アントラキノン類を回収するための蒸留は、アントラキノン類の回収に適した蒸留条件で行うことができる。かかる蒸留条件としては、例えば、100kpa以下の圧力下での160℃以上の温度での蒸留、0.001kpa〜10kpaの圧力下での160℃〜300℃の温度での蒸留、0.005kpa〜1kpaの圧力下での165℃〜290℃の温度での蒸留、0.008kpa〜0.5kpaの圧力下での170℃〜280℃の温度での蒸留、0.01〜0.2kpaの圧力下での180℃〜250℃の温度での蒸留などが挙げられる。トリオクチルホスフェートを加水分解した後の反応系に有機溶媒を加えて分液する工程を含む一態様において、蒸留工程は、有機溶媒を除去するための第1の蒸留と、アントラキノン類を回収するための第2の蒸留とを含む。別の態様において、蒸留工程は、アントラキノン類を回収するための第1の蒸留と、芳香族溶媒を回収するための第2の蒸留とを含む。アントラキノン類を回収するための第1の蒸留はアントラキノン類の回収に適した蒸留条件で行うことができ、かかる蒸留条件の非限定例は上述のとおりである。また、芳香族溶媒を回収するための第2の蒸留は、上述の芳香族溶媒回収のための蒸留と同様に行うことができる。蒸留は、所望の結果が得られるまで、例えば、所定の条件下で留出がなくなるまで、または、所定の量の留出物が得られるまで行うことができる。
【0032】
本発明の作動溶液調製方法におけるトリオクチルホスフェートを再結晶により除去する工程は、トリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液を、アントラキノン類を再結晶させるための再結晶溶媒に加熱溶解させた後に冷却し、再結晶したアントラキノン類を回収する一方で、再結晶しないトリオクチルホスフェートを廃棄することにより行う。再結晶溶媒としては、アントラキノン類の加熱時の溶解度と冷却時の溶解度の差が大きいものが好ましい。再結晶溶媒の非限定例としては、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert−ブタノールなどの低級アルコール、2−エチルヘキサノールなど)、作動溶液の成分として用いる非極性溶媒(芳香族炭化水素など)や極性溶媒(TOP、ジイソブチルカルビノール、テトラブチル尿素、メチルシクロヘキシルアセテートなど)等が挙げられる。作動溶液に対する再結晶溶媒の量は、アントラキノン類の再結晶が良好に行われるものが好ましく、例えば、作動溶液の単位重量当たりの溶媒の体積(例えば、g/ml)として、1〜20倍、2〜15倍、3〜10倍、4〜8倍などであってよい。アントラキノン類を再結晶により回収後、再結晶溶媒を蒸留等により回収し、再利用してもよい。
【0033】
本発明の作動溶液調製方法は、芳香族溶媒を回収するタイミングと、トリオクチルホスフェートの除去手法により、以下の4つの態様を含む。
(i)作動溶液調製方法A
作動溶液から芳香族溶媒を回収してから、トリオクチルホスフェートを加水分解により除去し、アントラキノン類を回収する。
(ii)作動溶液調製方法B
作動溶液から芳香族溶媒を回収してから、アントラキノン類を再結晶させることにより回収し、トリオクチルホスフェートを除去する。
(iii)作動溶液調製方法C
作動溶液中のトリオクチルホスフェートを加水分解により除去してから、芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する。
(iv)作動溶液調製方法D
作動溶液中のアントラキノン類を再結晶させることにより回収してから、芳香族溶媒を回収し、トリオクチルホスフェートを除去する。
【0034】
作動溶液調製方法Aの一態様は、作動溶液から蒸留により芳香族溶媒を回収する工程と、芳香族溶媒回収後の作動溶液をアルカリ、酸または酵素により処理し、トリオクチルホスフェートを加水分解する工程と、トリオクチルホスフェートが加水分解された作動溶液から、アントラキノン類を有機相に抽出する工程と、蒸留によりアントラキノン類を回収する工程と、回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、トリオクチルホスフェート不含作動溶液を得る工程とを含む。
作動溶液調製方法Bの一態様は、作動溶液から蒸留により芳香族溶媒を回収する工程と、芳香族溶媒回収後の作動溶液に再結晶溶媒を加え、アントラキノン類を再結晶させて回収する工程と、回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、トリオクチルホスフェート不含作動溶液を得る工程とを含む。
【0035】
作動溶液調製方法Cの一態様は、作動溶液をアルカリ、酸または酵素により処理し、トリオクチルホスフェートを加水分解する工程と、トリオクチルホスフェートが加水分解された作動溶液から、芳香族溶媒とアントラキノン類とを有機相に抽出する工程と、蒸留により芳香族溶媒とアントラキノン類とを分留して回収する工程と、回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、トリオクチルホスフェート不含作動溶液を得る工程とを含む。
作動溶液調製方法Dの一態様は、作動溶液に再結晶溶媒を加え、アントラキノン類を再結晶させて回収する工程と、アントラキノン類回収後の作動溶液から蒸留により芳香族溶媒を回収する工程と、回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、トリオクチルホスフェート不含作動溶液を得る工程とを含む。
上記各態様における各工程の詳細は、上記で説明したとおりである。
【0036】
本発明の作動溶液調製方法の加水分解または再結晶によるトリオクチルホスフェート除去工程におけるトリオクチルホスフェートの除去率は、典型的には1%〜100%、好ましくは、例えば、10%〜100%、20%〜100%、30%〜100%、40%〜100%、50%〜100%、60%〜100%、70%〜100%、80%〜100%、90%〜100%、95%〜100%などであってよい。ここで、トリオクチルホスフェートの除去率は、以下の式で計算することができる。
除去率(%)=100−(残存量÷初期量×100)
上式中、残存量は、本発明の作動溶液調製方法で得られるトリオクチルホスフェート不含作動溶液に残存するトリオクチルホスフェートの量を、初期量は、本発明の作動溶液調製方法に供する前の作動溶液に含まれるトリオクチルホスフェートの量をそれぞれ表す。トリオクチルホスフェートの量は、例えば、重量、モル数、クロマトグラムのピーク面積などであってよい。
【0037】
トリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程は、トリオクチルホスフェート含有作動溶液から上記のように回収した芳香族溶媒、アントラキノン類、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合することにより行うことができる。調製されたトリオクチルホスフェート不含作動溶液は、新たな組成の作動溶液として循環プロセス中に戻すこともできる。新たな組成の作動溶液の調製では、作動溶液中のアントラキノン濃度および溶媒組成比は任意の値に調整することができる。ここで溶媒組成比とは、非極性溶媒と極性溶媒の体積比を表す。また、新しい組成の作動溶液を調製する場合は、新たなアントラキノン類および溶媒を混合して使用しても良い。
【0038】
一般的に過酸化水素製造の水素化工程において作動溶液の含水量は、水素化温度で飽和濃度の約50%〜約95%が好ましいとされている。蒸留工程で回収した留出物から調製した再生作動溶液は含水量が低く、水素化反応の速度が小さいことがある。また、高沸残渣から発生した酸性不純物を含んでいる可能性もある。このため、(i)飽和水分量の20%〜160%となる様にトリオクチルホスフェート不含作動溶液に水を添加すること、(ii)トリオクチルホスフェート不含作動溶液を水素化工程以外の工程に戻すこと、(iii)トリオクチルホスフェート不含作動溶液を水洗してから循環プロセスに戻すこと、および/または、(iv)トリオクチルホスフェート不含作動溶液をアルカリ洗浄してから循環プロセスに戻すことが好ましい。(iv)の手法は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液を飽和水分量付近に調製できることに加えて、酸性不純物も除去できることから特に好ましい手法である。
【0039】
一態様において、トリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程は、回収した芳香族溶媒と、回収したアントラキノン類と、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒との混合物を、水および/またはアルカリで洗浄する工程を含む。
アルカリによる洗浄は、前記混合物をアルカリ水溶液などで洗浄することにより行うことができる。アルカリ水溶液に含まれるアルカリとしてはアルカリ金属が好ましい。洗浄で使用されるアルカリ金属は、周期表第Ia族のアルカリ金属であればよいが、リチウム、ナトリウムあるいはカリウムが好ましい。これらを含む試薬に特に限定はないが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、二リン酸ナトリウム、二酸化ホウ素ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、三酸化ホウ酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、二ケイ酸ナトリウム、三ケイ酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、硫化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ホウ素カリウム、炭酸カリウム、シアン化カリウム、亜硝酸カリウム、カリウムフェノキシド、リン酸水素カリウム、二リン酸カリウム、スズ酸カリウムなどが例示される。好ましくは水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウムであり、さらに好ましくは、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウムであり、特に好ましくは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムである。アルカリ金属を含有するアルカリ水溶液のpHは8以上が好ましく、より好ましくは10以上であり、特に好ましくは12以上である。
【0040】
前記混合物とアルカリ水溶液との接触は、混合物1容積部に対して0.2倍容積部以上のアルカリ水溶液と接触させることにより行うことができる。好ましくは混合物を、0.3倍容積部以上のアルカリ水溶液と接触させる。接触させる方法としては、一般に知られる混合手段を用いることができる。例えば、撹拌、振とうおよび不活性ガスによるバブリング、並流および交流接触法などがあるが、これらに限定されるわけではなく、混合物とアルカリ水溶液とが効率よく接触できる方法であればよい。また、接触させるアルカリ水溶液の容量に重要な上限はなく、接触させる装置や作業の都合で適宜選択することができる。
混合物とアルカリ水溶液との接触時間は、例えば、1分以上、より好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上である。ここで好ましい重要な上限はなく、接触させる装置や作業の都合で適宜選択することができる。混合物とアルカリ水溶液との接触温度は、例えば、0℃〜70℃、好ましくは10℃〜60℃に、特に好ましくは20℃〜50℃の範囲である。混合物とアルカリ水溶液との接触処理中の圧力は特に限定はないが、通常常圧に保たれることが好都合である。接触を終えたアルカリ水溶液は混合物から分離され排出される。アルカリ洗浄は1回以上、例えば、1回、2回または3回以上行うことができる。
【0041】
水による洗浄は、蒸留水、イオン交換水、逆浸透法などで精製された水で行うことが好ましいが、上記以外の方法で精製された水も好ましく用いられる。特に洗浄に用いられる水として純水が好ましい。水による洗浄は、洗浄媒体として水を使用する以外は、アルカリ洗浄と同様に行うことができる。したがって、前記混合物に対する水の容量、混合物との接触手法、接触時間、接触温度、接触圧などは、アルカリ洗浄について上記したものと同様である。水による洗浄は1回以上、例えば、1回、2回または3回以上行うことができる。
洗浄は水のみ、または、アルカリのみで行っても、水による洗浄とアルカリによる洗浄を両方行ってもよい。水による洗浄とアルカリによる洗浄を両方行う場合、水による洗浄はアルカリ洗浄の前に行っても後に行っても、前と後の両方で行ってもよい。
【0042】
一部の態様では、トリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程において、トリオクチルホスフェート不含作動溶液は、飽和水分量の20%〜160%の水を含むように調整される。飽和水分量の調整は、脱水処理、水の追加、水やアルカリ水溶液による洗浄などにより行うことができる。含水量を上記のように調整することにより、得られる作動溶液の水素化反応の速度を高めることができる。
【0043】
本発明の別の態様は、アントラキノン法による過酸化水素製造プロセスにおいて、芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含む作動溶液におけるトリオクチルホスフェートを、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒に置換する方法であって、
前記作動溶液の少なくとも一部を過酸化水素製造プロセスから回収する工程と、
回収した作動溶液から芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程と、
回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、トリオクチルホスフェートを実質的に含まないトリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製する工程と、
得られたトリオクチルホスフェート不含作動溶液を過酸化水素製造プロセスに加える工程と、
を含む、方法に関する(以下、本発明の極性溶媒置換方法と称することがある)。
【0044】
本発明の極性溶媒置換方法における、回収した作動溶液から芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する工程は、
(i)前記作動溶液から芳香族溶媒を回収し、芳香族溶媒回収後の作動溶液から、トリオクチルホスフェートを加水分解または再結晶により除去し、アントラキノン類を回収する工程、
(ii)前記作動溶液においてトリオクチルホスフェートを加水分解し、トリオクチルホスフェートが加水分解された作動溶液から、芳香族溶媒およびアントラキノン類を回収する工程、または
(iii)前記作動溶液からアントラキノン類を再結晶により回収し、アントラキノン類回収後の作動溶液から芳香族溶媒を回収する工程
を含んでもよい。
【0045】
本発明の極性溶媒置換方法における芳香族溶媒およびアントラキノン類の回収、トリオクチルホスフェートの除去、ならびに、トリオクチルホスフェート不含作動溶液の調製は、本発明の作動溶液調製方法について上記したとおりである。
アントラキノン法による過酸化水素製造プロセスは、当該技術分野において周知であり、典型的には、作動溶液を水素化する工程、水素化後の作動溶液を酸化する工程、酸化により生じた過酸化水素を水相に抽出する工程を含む。作動溶液の水素化は、例えば、作動溶液を、水素化触媒の存在下、水素ガスや不活性ガス(窒素ガス等)と水素ガスとの混合物などの水素を含む気体でバブリングすることなどにより行うことができる。水素化後の作動溶液の酸化は、例えば、作動溶液を空気や酸素ガスなどの酸素を含む気体でバブリングすることなどにより行うことができる。過酸化水素の水相への抽出は、例えば、酸化後の作動溶液を水と混合し、水相を分離することなどにより行うことができる。抽出した過酸化水素には、その後、精製、濃縮などの処理を行ってもよい。
【0046】
過酸化水素製造プロセスからの作動溶液の回収は、抽出工程後の段階で行うことが好ましい。この段階の作動溶液は過酸化水素を含まないか、含んでいてもその含有量が極めて少なく、蒸留操作等における安全性が高い。作動溶液の回収は、限定されずに、例えば、抽出工程から水素化工程へ作動溶液を循環させる配管に分岐を設け、そこから循環する作動溶液の一部または全部を、本発明の極性溶媒置換方法を行うための装置に導入することにより行うことができる。
【0047】
トリオクチルホスフェート不含作動溶液は、過酸化水素製造プロセスに含まれる水素化工程、酸化工程、抽出工程のうちの、任意の1以上の工程に加えることができる。ここで、ある工程に加えるとは、その工程の前の工程が終了した段階から、その工程が終了する前の段階までの任意の段階に加えることを意味する。例えば、作動溶液を水素化工程に加えるとは、作動溶液を、抽出工程が終了した段階から、水素化工程が終了する前の段階までの任意の段階に(例えば、抽出装置の出口や水素化装置の入口で)加えることを意味する。特定に態様において、トリオクチルホスフェート不含作動溶液は水素化工程に加える。この態様は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液の高い水添活性を活用することできる点で有利である。この態様の具体例としては、水素化装置(水素化塔)の手前で、トリオクチルホスフェート不含作動溶液と、循環中の作動溶液とを混合し、得られた混合液を水素化装置に導入することが挙げられる。別の特定の態様において、トリオクチルホスフェート不含作動溶液は酸化工程および/または抽出工程に戻される。この態様は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液の含水量が低い場合に有利である。

【0048】
一態様において、トリオクチルホスフェートの、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒への置換は、過酸化水素製造プロセスの継続中に行われる。この態様では、過酸化水素製造プロセスから作動溶液の一部を回収し、これからトリオクチルホスフェート不含作動溶液を調製して、過酸化水素製造プロセスに加える。こうすることにより、過酸化水素製造プロセスを継続しながら作動溶液中の極性溶媒を置換できるため、過酸化水素製造プロセスの中断による悪影響を回避することができる。
【0049】
本発明の別の態様は、
芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液から、芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収し、トリオクチルホスフェートの少なくとも一部を除去する工程と、
残存するトリオクチルホスフェートを回収する工程と、
回収したトリオクチルホスフェートと、回収した芳香族溶媒と、回収したアントラキノン類と、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒とを混合し、トリオクチルホスフェートが低減された低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する工程と
を含む、アントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液を調製する方法に関する(以下、本発明の低TOP作動溶液調製方法と称することがある)。
【0050】
本発明の低TOP作動溶液調製方法は、
(i) 芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液から、芳香族溶媒を回収する工程と、
芳香族溶媒回収後の作動溶液から、トリオクチルホスフェートの一部を加水分解または再結晶により除去し、アントラキノン類および残存するトリオクチルホスフェートを回収する工程と、
回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、回収したトリオクチルホスフェート、およびトリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する工程と、
を含むか、または、
(ii) 芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液において、トリオクチルホスフェートの一部を加水分解する工程と、
トリオクチルホスフェートの一部が加水分解された作動溶液から、芳香族溶媒、アントラキノン類および残存するトリオクチルホスフェートを回収する工程と、
回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、回収したトリオクチルホスフェート、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する工程と、
を含むか、または、
(iii) 芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液から、アントラキノン類を再結晶により回収する工程と、
アントラキノン類回収後の作動溶液から、芳香族溶媒およびトリオクチルホスフェートを回収する工程と、
回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、回収したトリオクチルホスフェート、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する工程と、
を含んでもよい。
【0051】
本発明の低TOP作動溶液調製方法は、本発明の作動溶液調製方法とは、トリオクチルホスフェートを回収する工程を含む点、調製する作動溶液が「低トリオクチルホスフェート作動溶液」である点、作動溶液を調製する工程で、回収したトリオクチルホスフェートが混合される点が異なる以外は同じである。したがって、本発明の作動溶液調製方法に係る上記記載は、これらの点が異なるという条件の下で、本発明の低TOP作動溶液調製方法にも適用される。
【0052】
本発明の低TOP作動溶液調製方法において、「低トリオクチルホスフェート作動溶液」は、本方法に供する前の芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含むアントラキノン法による過酸化水素製造用作動溶液(以下、「元の作動溶液」と称することがある)に比べ、トリオクチルホスフェートの濃度が低く、かつ、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を含む作動溶液を意味する。低トリオクチルホスフェート作動溶液におけるトリオクチルホスフェートの濃度は、例えば、元の作動溶液の50%以下、40%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下等であってよい。また、低トリオクチルホスフェート作動溶液は、1種または2種以上の、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を含んでもよい。
【0053】
本発明の低TOP作動溶液調製方法におけるトリオクチルホスフェートを回収する工程は、トリオクチルホスフェートが適切に回収できる任意の様式および段階で行うことができる。本発明の低TOP作動溶液調製方法は、本発明の作動溶液調製方法と同様、芳香族溶媒を回収するタイミングと、トリオクチルホスフェートの除去手法により、以下の4つの態様を含む。
(i)低TOP作動溶液調製方法A
作動溶液から芳香族溶媒を回収してから、トリオクチルホスフェートの一部を加水分解により除去し、アントラキノン類を回収する。
(ii)低TOP作動溶液調製方法B
作動溶液から芳香族溶媒を回収してから、アントラキノン類を再結晶させることにより回収し、トリオクチルホスフェートの一部を除去する。
(iii)低TOP作動溶液調製方法C
作動溶液中のトリオクチルホスフェートの一部を加水分解により除去してから、芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収する。
(iv)低TOP作動溶液調製方法D
作動溶液中のアントラキノン類を再結晶させることにより回収してから、芳香族溶媒を回収し、トリオクチルホスフェートの一部を除去する。
【0054】
低TOP作動溶液調製方法AおよびCにおいては、例えば、トリオクチルホスフェートの加水分解を完全に行わず、トリオクチルホスフェートの所望の割合が残存する条件で行い、残存するトリオクチルホスフェートを、アントラキノン類と一緒に蒸留により回収することができる。トリオクチルホスフェートは、アントラキノン類の留出条件と同様の条件で留出することができ、また、この留出条件は、トリオクチルホスフェートの加水分解物である2−エチルヘキサノールやリン酸塩の留出条件とは異なるため、これら加水分解物との分離が可能となる。トリオクチルホスフェートの加水分解の程度は、例えば、加水分解剤の分量(例えば、トリオクチルホスフェート1当量当たりの当量)や、反応温度、反応時間などの条件を調整することにより制御することができる。
【0055】
低TOP作動溶液調製方法Bにおいては、例えば、アントラキノン類を再結晶により回収した後の反応液から、トリオクチルホスフェートを蒸留などにより回収することができる。
低TOP作動溶液調製方法Dにおいては、例えば、アントラキノン類を再結晶により回収した後の反応液から、トリオクチルホスフェートを蒸留などにより回収することができる。この反応液は芳香族溶媒を含むが、トリオクチルホスフェートの留出条件と芳香族溶媒の留出条件は異なるため、両者を別々に回収することができる。
低TOP作動溶液調製方法BおよびDにおいては、回収したトリオクチルホスフェートの混合量を調節することにより、所望のトリオクチルホスフェート含量を有する低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製することができる。
【0056】
本発明の別の態様は、アントラキノン法による過酸化水素製造プロセスにおいて、芳香族溶媒とトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含む作動溶液を、当該作動溶液よりトリオクチルホスフェートの濃度が低く、かつ、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を含む低トリオクチルホスフェート作動溶液に置換する方法であって、
前記作動溶液の少なくとも一部を過酸化水素製造プロセスから回収する工程と、
回収した作動溶液から芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収し、トリオクチルホスフェートの少なくとも一部を除去する工程と、
残存するトリオクチルホスフェートを回収する工程と、
回収した芳香族溶媒、回収したアントラキノン類、回収したトリオクチルホスフェート、および、トリオクチルホスフェート以外の、アントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒を混合し、トリオクチルホスフェートが低減された低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する工程と、
得られた低トリオクチルホスフェート作動溶液を過酸化水素製造プロセスに加える工程と、
を含む、方法に関する(以下、本発明の作動溶液置換方法と称することがある)。
【0057】
本発明の作動溶液置換方法における、回収した作動溶液から芳香族溶媒とアントラキノン類とを回収し、トリオクチルホスフェートの少なくとも一部を除去する工程と、残存するトリオクチルホスフェートを回収する工程は、
(i)回収した作動溶液から芳香族溶媒を回収し、芳香族溶媒回収後の作動溶液から、トリオクチルホスフェートの一部を加水分解または再結晶により除去し、アントラキノン類および残存するトリオクチルホスフェートを回収する工程、
(ii)回収した作動溶液においてトリオクチルホスフェートの一部を加水分解し、トリオクチルホスフェートの一部が加水分解された作動溶液から、芳香族溶媒、アントラキノン類および残存するトリオクチルホスフェートを回収する工程、または
(iii)回収した作動溶液からアントラキノン類を再結晶により回収し、アントラキノン類回収後の作動溶液から芳香族溶媒およびトリオクチルホスフェートを回収する工程
を含んでいてもよい。
【0058】
本発明の作動溶液置換方法における芳香族溶媒およびアントラキノン類の回収、トリオクチルホスフェートの除去、ならびに、低トリオクチルホスフェート作動溶液の調製は、本発明の低TOP作動溶液調製方法について上記したとおりであり、また、アントラキノン法による過酸化水素製造プロセスおよび過酸化水素製造プロセスからの作動溶液の回収は、本発明の極性溶媒置換方法におけるトリオクチルホスフェート不含作動溶液が、本発明の作動溶液置換方法では低トリオクチルホスフェート作動溶液となる点を除けば、本発明の極性溶媒置換方法について上記したとおりである。
【0059】
本発明の別の側面は、蒸留塔、反応槽および調製槽を備えた作動溶液製造システムに関する(以下、「本発明の作動溶液製造システム」と称する場合がある)。本発明の作動溶液製造システムは、上記のほか、洗浄槽および/または1個以上の留出物タンクをさらに備えていてもよい。本発明の作動溶液製造システムの一態様を、以下に図面を参照して説明する。
【0060】
<作動溶液製造システムA>
図1には、蒸留塔101、反応槽102および調製槽103を備えた作動溶液製造システムの一態様(作動溶液製造システムA1)が記載されている。蒸留塔101は蒸留用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104aと、留出物輸送ライン105と、釜残排出ライン118とを備え、反応槽102は反応用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104bと、加水分解剤供給ライン106と、再結晶溶媒供給ライン107と、廃液ライン108とを備え、調製槽103は極性溶媒供給ライン109とトリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110とを備え、蒸留塔101と反応槽102とは、蒸留原料供給ライン111と釜残輸送ライン112とにより連通し、留出物輸送ライン105と調製槽103とは、留出芳香族溶媒供給ライン113と留出アントラキノン類供給ライン114とにより連通し、反応槽102と調製槽103とは、再結晶アントラキノン類輸送ライン115により連通している。蒸留用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104aと反応用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104bは、トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104から分岐している。また、各ラインには、バルブVが備えられている。なお、簡潔のため、図1〜5において、バルブの符号「V」は、蒸留用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104aに備えられたものにのみ付してある。蒸留塔101は、様々な温度(例えば、120℃〜260℃)での減圧蒸留(例えば、0.1〜15kPa)が可能である。反応槽102は、温度調節装置を備えており、アントラキノン類の再結晶溶媒への加熱溶解と、その後の冷却によるアントラキノン類の再結晶が可能となっている。反応槽102はまた、フィルターを備えており、再結晶したアントラキノン類をろ別することが可能となっている。
【0061】
芳香族溶媒を除去後にトリオクチルホスフェートを加水分解により除去する態様では、トリオクチルホスフェート含有作動溶液116は、蒸留用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104aを通って蒸留塔101に入り、大気圧またはそれ以下の圧力下での前段蒸留工程に供される。留出した芳香族溶媒は、留出芳香族溶媒供給ライン113を通って調製槽103に送られる。蒸留塔101に残ったトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含む残渣は、釜残輸送ライン112を通って反応槽102に入る。反応槽102において、残渣に含まれるトリオクチルホスフェートは、加水分解剤供給ライン106から供給される加水分解剤117により、2−エチルヘキサノールとリン酸塩とに加水分解される。前記残渣の加水分解物は、蒸留原料供給ライン111を通って蒸留塔101に送られ、後段蒸留工程に供される。後段蒸留工程において、2−エチルヘキサノールを大気圧またはそれ以下の圧力下での第1の蒸留工程により留出させ、次いで第1の蒸留工程より低い圧力下での第2の蒸留工程によりアントラキノン類を留出させる。留出したアントラキノン類は、留出アントラキノン類供給ライン114を通って調製槽103に送られる。アントラキノン類以外の留出物123は、留出物輸送ライン105から回収または排出され、釜残124は釜残排出ライン118から排出される。調製槽103においては、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、留出アントラキノン類供給ライン114から供給されるアントラキノン類と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119とが混合され、トリオクチルホスフェート不含作動溶液が調製される。得られたトリオクチルホスフェート不含作動溶液120は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110に送られる。
【0062】
上記態様において、トリオクチルホスフェートの一部を加水分解により除去し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する場合、上記第2の蒸留工程により、残存するトリオクチルホスフェートをアントラキノン類と一緒に留出させ、そのまま留出アントラキノン類供給ライン114を介して調製槽103に送り、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119と混合し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製することができる。得られた低トリオクチルホスフェート作動溶液は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110に送ることができる。
【0063】
芳香族溶媒を除去後にトリオクチルホスフェートを再結晶により除去する態様では、トリオクチルホスフェート含有作動溶液116は、蒸留用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104aを通って蒸留塔101に入り、大気圧またはそれ以下の圧力下での前段蒸留工程に供される。留出した芳香族溶媒は、留出芳香族溶媒供給ライン113を通って調製槽103に送られる。蒸留塔101に残ったトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含む残渣は、釜残輸送ライン112を通って反応槽102に入る。反応槽102において、残渣に含まれるアントラキノン類は、再結晶溶媒供給ライン107から供給される再結晶溶媒121により再結晶し、再結晶したアントラキノン類は回収され、再結晶アントラキノン類供給ライン115を通って調製槽103に送られる。再結晶しなかった成分は廃液122として廃液ライン108から回収または排出される。調製槽103においては、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、再結晶アントラキノン類供給ライン115から供給されるアントラキノン類と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119とが混合され、トリオクチルホスフェート不含作動溶液120が調製される。得られたトリオクチルホスフェート不含作動溶液120は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110に送られる。
【0064】
上記態様において低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する場合、上記の再結晶しなかった成分を蒸留原料供給ライン111を介して蒸留塔101に送り、アントラキノン類と同様の留出条件でトリオクチルホスフェートを留出させ、留出アントラキノン類供給ライン114を介して調製槽103に送り、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、再結晶アントラキノン類供給ライン115から供給されるアントラキノン類と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119と混合し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製することができる。得られた低トリオクチルホスフェート作動溶液は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110に送ることができる。
【0065】
芳香族溶媒を除去せずにトリオクチルホスフェートを加水分解により除去する態様では、トリオクチルホスフェート含有作動溶液116は、反応用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104bを通って反応槽102に入る。反応槽102において、作動溶液に含まれるトリオクチルホスフェートは、加水分解剤供給ライン106から供給される加水分解剤117により、2−エチルヘキサノールやリン酸塩などに加水分解される。前記作動溶液の加水分解物は、蒸留原料供給ライン111を通って蒸留塔101に送られ、蒸留工程に供される。蒸留工程において、芳香族溶媒を大気圧またはそれ以下の圧力下での第1の蒸留工程により留出させ、2−エチルヘキサノールを第1の蒸留工程より低い圧力下での第2の蒸留工程により留出させ、アントラキノン類を第2の蒸留工程より低い圧力下での第3の蒸留工程により留出させる。留出した芳香族溶媒およびアントラキノン類は、それぞれ留出芳香族溶媒供給ライン113および留出アントラキノン類供給ライン114を通って調製槽103に送られる。調製槽103においては、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、留出アントラキノン類供給ライン114から供給されるアントラキノン類と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒19とが混合され、トリオクチルホスフェート不含作動溶液120が調製される。得られたトリオクチルホスフェート不含作動溶液120は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110に送られる。
【0066】
上記態様において、トリオクチルホスフェートの一部を加水分解により除去し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する場合、上記第3の蒸留工程により、残存するトリオクチルホスフェートをアントラキノン類と一緒に留出させ、そのまま留出アントラキノン類供給ライン114を介して調製槽103に送り、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119と混合し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製することができる。得られた低トリオクチルホスフェート作動溶液は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110に送ることができる。
【0067】
芳香族溶媒を除去せずにトリオクチルホスフェートを再結晶により除去する態様では、トリオクチルホスフェート含有作動溶液116は、反応用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104bを通って反応槽102に入る。反応槽102において、作動溶液116に含まれるアントラキノン類は、再結晶溶媒供給ライン107から供給される再結晶溶媒121により再結晶し、再結晶したアントラキノン類は回収され、再結晶アントラキノン類供給ライン115を通って調製槽103に送られる。再結晶しなかった成分は、蒸留原料供給ライン111を通って蒸留塔101に送られ、蒸留工程に供される。蒸留工程において、芳香族溶媒を大気圧またはそれ以下の圧力下での第1の蒸留工程により留出させる。留出した芳香族溶媒は、留出芳香族溶媒供給ライン113を通って調製槽103に送られる。調製槽103においては、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、再結晶アントラキノン類供給ライン115から供給されるアントラキノン類と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119とが混合され、トリオクチルホスフェート不含作動溶液120が調製される。得られたトリオクチルホスフェート不含作動溶液120は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110に送られる。
【0068】
上記態様において低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する場合、上記の第1の蒸留工程の後、第1の蒸留工程より低い圧力下での第2の蒸留工程によりトリオクチルホスフェートを留出させ、留出アントラキノン類供給ライン114を介して調製槽103に送り、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、再結晶アントラキノン類供給ライン115から供給されるアントラキノン類と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119と混合し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製することができる。得られた低トリオクチルホスフェート作動溶液は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110に送ることができる。
【0069】
<作動溶液製造システムB>
図2には、作動溶液製造システムAにおいて、洗浄槽201、留出芳香族溶媒タンク202および留出アントラキノン類タンク203をさらに備えた、作動溶液製造システムB2が記載されている。なお、作動溶液製造システムB2において、図1に示した作動溶液製造システムAと同じ構成要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。以下の作動溶液製造システムC〜Eについても同様である。
洗浄槽201は、洗浄剤供給ライン204と、水供給ライン205と、洗浄済作動溶液輸送ライン206と、廃液ライン207とを備えている。作動溶液製造システムAと作動溶液製造システムB2とのさらなる構造的な違いは、作動溶液製造システムBにおいて、調製槽103と洗浄槽201とが、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110によって連通している点、留出物輸送ライン105と留出芳香族溶媒タンク202とが、留出芳香族溶媒輸送ライン208によって連通している点、留出物輸送ライン105と留出アントラキノン類タンク203とが、留出アントラキノン類輸送ライン209によって連通している点、調製槽103と留出芳香族溶媒タンク202とが、留出芳香族溶媒供給ライン113によって連通している点、および、調製槽103と留出アントラキノン類タンク203とが、留出アントラキノン類供給ライン114によって連通している点にある。
【0070】
作動溶液製造システムAと作動溶液製造システムB2の作動様式の違いは、作動溶液製造システムB2において、蒸留塔101からの留出芳香族溶媒が、留出物輸送ライン105、次いで留出芳香族溶媒輸送ライン208を通って留出芳香族溶媒タンク202に収容され、次いで、留出芳香族溶媒供給ライン113を通って調製槽103に入る点、蒸留塔101からの留出アントラキノン類が、留出物輸送ライン105、次いで留出アントラキノン類輸送ライン209を通って留出アントラキノン類タンク203に収容され、次いで、留出アントラキノン類供給ライン114を通って調製槽103に入る点、調製槽103で調製されたトリオクチルホスフェート不含作動溶液が、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110を通って洗浄槽201に入り、洗浄槽201において、洗浄剤供給ライン204から供給される洗浄剤210、および/または、水供給ライン205から供給される水211で洗浄され、得られた洗浄済作動溶液212が洗浄済作動溶液輸送ライン206を通って回収される点にある。洗浄による廃液213は、廃液ライン207から排出される。
【0071】
作動溶液製造システムB2においては、調製槽103におけるトリオクチルホスフェート不含作動溶液の組成を自在に調整することができ、また、調製槽103からのトリオクチルホスフェート不含作動溶液を洗浄槽201で洗浄することにより、より不純物の少ない作動溶液(洗浄済作動溶液212)を得ることができる。
また、作動溶液製造システムB2においても、作動溶液製造システムAと同様にして、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製することができる。
【0072】
<作動溶液製造システムC>
図3には、作動溶液製造システムBにおいて、トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104と洗浄済作動溶液輸送ライン206とが過酸化水素製造装置301と連通している作動溶液製造システムC3が記載されている。過酸化水素製造装置301は、水素化塔302と、酸化塔303と、抽出塔304とを備え、洗浄槽201と水素化塔302とは洗浄済作動溶液供給ライン206により連通し、水素化塔302は水素化剤供給ライン305と水素化剤循環ライン306とを備え、水素化塔302と酸化塔303とは水素化作動溶液供給ライン307により連通し、酸化塔303は酸化剤供給ライン308と排気ライン309とを備え、酸化塔303と抽出塔304とは酸化作動溶液供給ライン310により連通し、抽出塔304は水供給ライン311と過酸化水素輸送ライン312とを備え、蒸留塔101に接続している蒸留用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104aと抽出塔304とはトリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104により連通している。トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104と洗浄済作動溶液供給ライン206とは、過酸化水素抽出後作動溶液循環ライン313により連通している。
【0073】
作動溶液製造システムC3の作用様式は、トリオクチルホスフェート含有作動溶液が過酸化水素製造装置301から供給され、洗浄槽201からの洗浄済作動溶液が過酸化水素製造装置301に供給される点が作動溶液製造システムBと異なっている。また、過酸化水素製造装置301の作動様式は以下のとおりである。洗浄槽201からの洗浄済作動溶液は、洗浄済作動溶液輸送ライン206を通り、途中で過酸化水素抽出後作動溶液循環ライン313からの作動溶液と合流して水素化塔302に入り、そこで、水素化剤供給ライン305からの水素を含む水素化剤314と反応し、アントラキノン類からアントラヒドロキノン類が生じる。未反応の水素化剤314は、水素化剤循環ライン306を経て、繰り返し水素化塔302に供給される。水素化された作動溶液は、水素化作動溶液供給ライン307を通って酸化塔303に入り、アントラヒドロキノン類が酸化剤供給ライン308から送り込まれる酸素を含む酸化剤315により酸化され、アントラキノン類と過酸化水素を生じる。未反応酸化剤316は排気ライン309より排気される。酸化され、過酸化水素を含んだ作動溶液は、酸化作動溶液供給ライン310を通って抽出塔304に入り、生成した過酸化水素は、水供給ライン311から供給される水317により過酸化水素水318として、過酸化水素輸送ライン312から回収される。過酸化水素抽出後のトリオクチルホスフェート含有作動溶液の一部は、トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104、次いで蒸留用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104aを通って蒸留塔101に入り、残りはトリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104、次いで過酸化水素抽出後作動溶液循環ライン313を通り、洗浄済作動溶液供給ライン206を経て水素化塔302に戻る。
【0074】
作動溶液製造システムCは、過酸化水素製造プロセスを稼働させたまま、作動溶液中のトリオクチルホスフェートを他の極性溶媒に置換することができるため、過酸化水素プロセスの中断による悪影響が生じることがなく、また、使用中の作動溶液のトリオクチルホスフェート以外の成分を再利用することができるため、作動溶液のロスを最小限に抑えることができる。さらに、作動溶液製造システムCは、過酸化水素製造システムとしても使用することができる。
また、作動溶液製造システムCにおいても、作動溶液製造システムAと同様にして、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製することができる。
【0075】
<作動溶液製造システムD>
図4には、加水分解によるトリオクチルホスフェートの除去に特に適した作動溶液製造システムD4が記載されている。作動溶液製造システムD4は、蒸留塔101、反応槽102、調製槽103、洗浄槽201、留出芳香族溶媒タンク202、留出アントラキノン類タンク203、留出添加剤タンク401、留出有機溶媒タンク402および留出2−エチルヘキサノールタンク403を備えている。蒸留塔101は蒸留用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104aと留出物輸送ライン105と釜残排出ライン118とを備え、反応槽102は反応用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104bと、加水分解剤供給ライン106と、水供給ライン405と、有機溶媒供給ライン406と、添加剤供給ライン407と、洗浄剤供給ライン408と、廃液ライン108とを備え、調製槽103は極性溶媒供給ライン109を備え、洗浄槽201は、洗浄剤供給ライン204と、水供給ライン205と、洗浄済作動溶液輸送ライン206と、廃液ライン207とを備え、蒸留塔101と反応槽102とは、蒸留原料供給ライン111と釜残輸送ライン112とにより連通し、調製槽103と洗浄槽201とは、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110によって連通し、留出物輸送ライン105と留出芳香族溶媒タンク202とは留出芳香族溶媒輸送ライン208により連通し、留出物輸送ライン105と留出アントラキノン類タンク203とは留出アントラキノン類輸送ライン209により連通し、留出物輸送ライン105と留出添加剤タンク401とは留出添加剤輸送ライン409により連通し、留出物輸送ライン105と留出有機溶媒タンク402とは留出有機溶媒輸送ライン410により連通し、留出物輸送ライン105と留出2−エチルヘキサノールタンク403とは留出2−エチルヘキサノール輸送ライン411により連通し、留出添加剤タンク401と添加剤供給ライン407とは、留出添加剤供給ライン412により連通し、留出有機溶媒タンク402と有機溶媒供給ライン406とは、留出有機溶媒供給ライン413により連通し、調製槽103と留出芳香族溶媒タンク202とは、留出芳香族溶媒供給ライン113により連通し、調製槽103と留出アントラキノン類タンク203とは、留出アントラキノン類供給ライン114により連通している。蒸留用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104aと反応用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104bは、トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104から分岐している。
【0076】
芳香族溶媒を除去後にトリオクチルホスフェートを加水分解により除去する態様では、トリオクチルホスフェート含有作動溶液116は、トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104、次いで蒸留用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104aを通って蒸留塔101に入り、大気圧またはそれ以下の圧力下での前段蒸留工程に供される。留出した芳香族溶媒は、留出物輸送ライン105、次いで留出芳香族溶媒輸送ライン208を通って留出芳香族溶媒タンク202に収容される。蒸留塔101に残ったトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含む残渣は、釜残輸送ライン112を通って反応槽102に入る。反応槽102には、加水分解剤供給ライン106から加水分解剤117が、添加剤供給ライン407から添加剤414がそれぞれ供給され、残渣に含まれるトリオクチルホスフェートは、2−エチルヘキサノールとリン酸塩とに加水分解される。反応槽102で得られた加水分解物は、蒸留原料供給ライン111を通って蒸留塔101に送られ、常圧蒸留により添加剤を留出させる。留出した添加剤は、留出物輸送ライン105、次いで留出添加剤輸送ライン409を通り、留出添加剤タンク401に収容される。留出添加剤タンク401に収容された留出添加剤は、必要に応じて留出添加剤供給ライン412、次いで添加剤供給ライン407を通り、反応槽102に送られ、加水分解反応に用いられる。アントラキノン類、2−エチルヘキサノールおよびリン酸塩を含む残渣は、釜残輸送ライン112を通って反応槽102に戻される。反応槽102には、有機溶媒供給ライン406から有機溶媒415が、水供給ライン405から水416が供給され、アントラキノン類を有機相に抽出し、水相は廃液122として廃液ライン108から排出または回収される。反応槽102に残った有機相は、洗浄剤供給ライン408から供給される洗浄剤404により洗浄後、脱水され、得られた有機相は、蒸留原料供給ライン111を通り、蒸留塔101に入り、後段蒸留工程に供される。後段蒸留工程において、有機溶媒を大気圧またはそれ以下の圧力下での第1の蒸留工程により留出させ、次いで2−エチルヘキサノールを第1の蒸留工程より低い圧力下での第2の蒸留工程により留出させ、次いで第2の蒸留工程より低い圧力下での第3の蒸留工程によりアントラキノン類を留出させる。
【0077】
留出したアントラキノン類は、留出物輸送ライン105、次いで留出アントラキノン類輸送ライン209を通って留出アントラキノン類タンク203に収容される。収容された留出アントラキノン類は、留出アントラキノン類供給ライン114を通って調製槽103に送られる。留出した有機溶媒は、留出物輸送ライン105、次いで留出有機溶媒輸送ライン410を通り、留出有機溶媒タンク402に収容される。収容された留出有機溶媒は、必要に応じて留出有機溶媒供給ライン413、次いで有機溶媒供給ライン406を通って反応槽102に供給され、加水分解物の抽出に用いられる。留出した2−エチルヘキサノールは、留出物輸送ライン105、次いで留出2−エチルヘキサノール輸送ライン411を通り、留出2−エチルヘキサノールタンク403に収容される。調製槽103においては、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、留出アントラキノン類供給ライン114から供給されるアントラキノン類と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119とが混合され、トリオクチルホスフェート不含作動溶液が調製される。調製されたトリオクチルホスフェート不含作動溶液は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110を通って洗浄槽201に入り、洗浄槽201において、洗浄剤供給ライン204から供給される洗浄剤210、および/または、水供給ライン205から供給される水211で洗浄され、得られた洗浄済作動溶液212は洗浄済作動溶液輸送ライン206を通って回収される。洗浄による廃液213は、廃液ライン207から排出される。
【0078】
上記態様において、トリオクチルホスフェートの一部を加水分解により除去し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する場合、残存するトリオクチルホスフェートを上記第3の蒸留工程によりアントラキノン類と一緒に留出させ、そのまま留出物輸送ライン105、留出アントラキノン類輸送ライン209、留出アントラキノン類タンク203および留出アントラキノン類供給ライン114を介して調製槽103に送り、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119と混合し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製することができる。得られた低トリオクチルホスフェート作動溶液は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110を介して洗浄槽201に送り、洗浄工程に供することができる。
【0079】
芳香族溶媒を除去せずにトリオクチルホスフェートを加水分解により除去する態様では、トリオクチルホスフェート含有作動溶液116は、トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104、次いで反応用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104bを通って反応槽102に入る。反応槽102には、加水分解剤供給ライン106から加水分解剤117が、添加剤供給ライン407から添加剤414がそれぞれ供給され、残渣に含まれるトリオクチルホスフェートは、2−エチルヘキサノールとリン酸塩とに加水分解される。反応槽102で得られた加水分解物は、蒸留原料供給ライン111を通って蒸留塔101に送られ、常圧蒸留により添加剤を留出させる。留出した添加剤は、留出物輸送ライン105、次いで留出添加剤輸送ライン409を通り、留出添加剤タンク401に収容される。留出添加剤タンク401に収容された留出添加剤は、必要に応じて留出添加剤供給ライン412、次いで添加剤供給ライン407を通り、反応槽102に送られ、加水分解反応に用いられる。アントラキノン類、芳香族溶媒、2−エチルヘキサノールおよびリン酸塩を含む残渣は、釜残輸送ライン112を通って反応槽102に戻される。反応槽102には、有機溶媒供給ライン406から有機溶媒415が、水供給ライン405から水416がそれぞれ供給され、残渣は溶解し、アントラキノン類を有機相に抽出し、水相は廃液122として廃液ライン108から排出または回収される。反応槽102に残った有機相は、洗浄剤供給ライン408から供給される洗浄剤404により洗浄後、脱水され、得られた有機相は、蒸留原料供給ライン111を通り、蒸留塔101に入り、後段蒸留工程に供される。後段蒸留工程において、有機溶媒、芳香族溶媒、2−エチルヘキサノールおよびアントラキノン類を分留する。例えば、有機溶媒としてトルエンを用いた場合は、有機溶媒を大気圧またはそれ以下の圧力下での第1の蒸留工程により留出させ、次いで芳香族溶媒を第1の蒸留工程より低い圧力下での第2の蒸留工程により留出させ、次いで2−エチルヘキサノールを第2の蒸留工程より低い圧力下での第3の蒸留工程により留出させ、次いで第3の蒸留工程より低い圧力下での第4の蒸留工程によりアントラキノン類を留出させる。留出した芳香族溶媒は、留出物輸送ライン105、次いで留出芳香族溶媒輸送ライン208を通って留出芳香族溶媒タンク202に収容される。収容された留出芳香族溶媒は、留出芳香族溶媒供給ライン113を通って調製槽103に送られる。
【0080】
留出したアントラキノン類は、留出物輸送ライン105、次いで留出アントラキノン類輸送ライン209を通って留出アントラキノン類タンク203に収容される。収容された留出アントラキノン類は、留出アントラキノン類供給ライン114を通って調製槽103に送られる。留出した有機溶媒は、留出物輸送ライン105、次いで留出有機溶媒輸送ライン410を通り、留出有機溶媒タンク402に収容される。収容された留出有機溶媒は、必要に応じて留出有機溶媒供給ライン413、次いで有機溶媒供給ライン406を通って反応槽102に供給され、加水分解物の抽出に用いられる。留出した2−エチルヘキサノールは、留出物輸送ライン105、次いで留出2−エチルヘキサノール輸送ライン411を通り、留出2−エチルヘキサノールタンク403に収容される。調製槽103においては、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、留出アントラキノン類供給ライン114から供給されるアントラキノン類と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119とが混合され、トリオクチルホスフェート不含作動溶液が調製される。調製されたトリオクチルホスフェート不含作動溶液は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110を通って洗浄槽201に入り、洗浄槽201において、洗浄剤供給ライン204から供給される洗浄剤210、および/または、水供給ライン205から供給される水211で洗浄され、得られた洗浄済作動溶液212は洗浄済作動溶液輸送ライン206を通って回収される。洗浄による廃液213は、廃液ライン207から排出される。
【0081】
上記態様において、トリオクチルホスフェートの一部を加水分解により除去し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する場合、残存するトリオクチルホスフェートを上記第4の蒸留工程によりアントラキノン類と一緒に留出させ、そのまま留出物輸送ライン105、留出アントラキノン類輸送ライン209、留出アントラキノン類タンク203および留出アントラキノン類供給ライン114を介して調製槽103に送り、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119と混合し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製することができる。得られた低トリオクチルホスフェート作動溶液は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110を介して洗浄槽201に送り、洗浄工程に供することができる。
【0082】
<作動溶液製造システムE>
図5には、再結晶によるトリオクチルホスフェートの除去に特に適した作動溶液製造システムE5が記載されている。作動溶液製造システムE5は、作動溶液製造システムBと類似の構造を有しており、留出再結晶溶媒タンク501、留出再結晶溶媒輸送ライン502および留出再結晶溶媒供給ライン503を備えているが、留出アントラキノン類タンク、留出アントラキノン類供給ライン、留出アントラキノン類輸送ラインおよび加水分解剤供給ラインは備えていない。留出再結晶溶媒タンク501と留出物輸送ライン105とは、留出再結晶溶媒輸送ライン502により連通しており、留出再結晶溶媒タンク501と再結晶溶媒供給ライン107とは、留出再結晶溶媒供給ライン503により連通している。
【0083】
芳香族溶媒を除去後にトリオクチルホスフェートを再結晶により除去する態様では、トリオクチルホスフェート含有作動溶液116は、トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104、次いで蒸留用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104aを通って蒸留塔101に入り、大気圧またはそれ以下の圧力下での前段蒸留工程に供される。留出した芳香族溶媒は、留出芳香族溶媒輸送ライン208を通って留出芳香族溶媒タンク202に収容され、次いで、留出芳香族溶媒供給ライン113を通って調製槽103に送られる。蒸留塔101に残ったトリオクチルホスフェートとアントラキノン類とを含む残渣は、釜残輸送ライン112を通って反応槽102に入る。反応槽102において、残渣に含まれるアントラキノン類は、再結晶溶媒供給ライン107から供給される再結晶溶媒121により再結晶し、再結晶したアントラキノン類は回収され、再結晶アントラキノン類供給ライン115を通って調製槽103に送られる。再結晶しなかった成分は廃液122として廃液ライン108から回収または排出されるか、蒸留原料供給ライン111を通って蒸留塔101に送られ、再結晶溶媒を回収するために蒸留工程に供される。留出した再結晶溶媒は、留出物輸送ライン105、次いで、留出再結晶溶媒輸送ライン502を通り、留出再結晶溶媒タンク501に収容される。留出再結晶溶媒タンク501に収容された留出再結晶溶媒は、必要に応じて留出再結晶溶媒供給ライン503、次いで再結晶溶媒供給ライン107を通り、反応槽102に送られ、再結晶に用いられる。釜残124は釜残排出ライン118から排出されるか、トリオクチルホスフェートを回収するために、蒸留工程に供することができる。調製槽103においては、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、再結晶アントラキノン類供給ライン115から供給されるアントラキノン類と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119とが混合され、トリオクチルホスフェート不含作動溶液が調製される。調製されたトリオクチルホスフェート不含作動溶液は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110を通って洗浄槽201に入り、洗浄槽201において、洗浄剤供給ライン204から供給される洗浄剤210、および/または、水供給ライン205から供給される水211で洗浄され、得られた洗浄済作動溶液212は洗浄済作動溶液輸送ライン206を通って回収される。洗浄による廃液213は、廃液ライン207から排出される。
【0084】
上記態様において低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する場合、上記の再結晶溶媒を回収するための蒸留工程後に蒸留塔101に残った釜残を、アントラキノン類と同様の留出条件で蒸留してトリオクチルホスフェートを留出させ、留出アントラキノン類供給ライン114を介して調製槽103に送り、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、再結晶アントラキノン類供給ライン115から供給されるアントラキノン類と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119と混合し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製することができる。得られた低トリオクチルホスフェート作動溶液は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110を介して洗浄槽201に送ることができる。
【0085】
芳香族溶媒を除去せずにトリオクチルホスフェートを再結晶により除去する態様では、トリオクチルホスフェート含有作動溶液116は、トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104、次いで反応用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104bを通って反応槽102に入る。反応槽102において、作動溶液116に含まれるアントラキノン類は、再結晶溶媒供給ライン107から供給される再結晶溶媒121により再結晶し、再結晶したアントラキノン類は回収され、再結晶アントラキノン類供給ライン115を通って調製槽103に送られる。再結晶しなかった成分は、蒸留原料供給ライン111を通って蒸留塔101に送られ、蒸留工程に供される。蒸留工程では、芳香族溶媒を大気圧またはそれ以下の圧力下での蒸留により留出させ、再結晶溶媒を芳香族溶媒とは異なる条件の蒸留により留出させる。留出した再結晶溶媒は、留出物輸送ライン105、次いで、留出再結晶溶媒輸送ライン502を通り、留出再結晶溶媒タンク501に収容される。留出再結晶溶媒タンク501に収容された留出再結晶溶媒は、必要に応じて留出再結晶溶媒供給ライン503、次いで再結晶溶媒供給ライン107を通り、反応槽102に送られ、再結晶に用いられる。留出した芳香族溶媒は、留出芳香族溶媒輸送ライン208を通って留出芳香族溶媒タンク202に収容され、次いで、留出芳香族溶媒供給ライン113を通って調製槽103に送られる。釜残124は釜残排出ライン118から排出されるか、トリオクチルホスフェートを回収するために、蒸留工程に供することができる。調製槽103においては、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、再結晶アントラキノン類供給ライン115から供給されるアントラキノン類と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119とが混合され、トリオクチルホスフェート不含作動溶液が調製される。調製されたトリオクチルホスフェート不含作動溶液は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110を通って洗浄槽201に入り、洗浄槽201において、洗浄剤供給ライン204から供給される洗浄剤210、および/または、水供給ライン205から供給される水211で洗浄され、得られた洗浄済作動溶液212は洗浄済作動溶液輸送ライン206を通って回収される。洗浄による廃液213は、廃液ライン207から排出される。
【0086】
上記態様において低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製する場合、上記の芳香族溶媒および再結晶溶媒を回収するための蒸留工程後に蒸留塔101に残った釜残124を、アントラキノン類と同様の留出条件で蒸留してトリオクチルホスフェートを留出させ、留出アントラキノン類供給ライン114を介して調製槽103に送り、留出芳香族溶媒供給ライン113から供給される芳香族溶媒と、再結晶アントラキノン類供給ライン115から供給されるアントラキノン類と、極性溶媒供給ライン109から供給されるトリオクチルホスフェート以外のアントラヒドロキノン類を溶解し得る極性溶媒119と混合し、低トリオクチルホスフェート作動溶液を調製することができる。得られた低トリオクチルホスフェート作動溶液は、トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン110を介して洗浄槽201に送ることができる。
【0087】
本発明の作動溶液製造システムは、上記に説明した態様に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で種々の改変が可能である。例えば、図1に示した過酸化水素製造システムAにおいて、トリオクチルホスフェートを専ら加水分解により除去する場合には、再結晶溶媒供給ライン107および再結晶アントラキノン類輸送ライン115を設けず、フィルターを備えていない反応槽102を使用することが可能であり、一方、トリオクチルホスフェートを専ら再結晶により除去する場合には、加水分解剤供給ライン106および留出アントラキノン類供給ライン114を設けないことが可能である。過酸化水素製造システムBおよびCについても同様の改変が可能である。また、作動溶液製造システムA、B、DまたはEのトリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン104と洗浄済作動溶液輸送ライン206とを、作動溶液製造システムCと同様の過酸化水素製造装置301に連結することも可能である。さらに、作動溶液製造システムA〜Eのいずれにおいても、必要に応じてラインの少なくとも1つにポンプや追加のバルブ、分岐ラインを設けることや、バルブを備えたラインからバルブを取り除くことが可能である。
【0088】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0089】
〔実施例1〕
<加水分解によるトリオクチルホスフェートの除去>
アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを含む作動溶液から、トリオクチルホスフェートを加水分解により除去できるかを検討した。
【0090】
<分析方法>
ガスクロマトグラフィーを用いて、作動溶液および各操作で得たサンプル中の(A)2−エチルアントラキノン、(B)トリオクチルホスフェート、(C)2−エチルヘキサノールを定量した。分析条件を以下に示す。
・分析装置:島津製作所社製ガスクロマトグラフGC−2014
・カラム:Agilent社製キャピラリカラムDB−5MS(液相膜厚1.00μm、0.25mmID×30m)
・キャリアガス:He
・検出器:FID
なお、以下に示す結果において、上記(A)〜(C)以外のすべての物質を「不明分」として表記した。
【0091】
(1)芳香族溶媒を含む作動溶液の加水分解
500mL四つ口フラスコに、プソイドクメン57.1g、2−エチルアントラキノン12.8gおよびトリオクチルホスフェート25.1gからなる作動溶液と、30wt%水酸化ナトリウム水溶液46.6gと、エタノール100.3gとを仕込んだ。フラスコに還流管を取り付け、釜温度78℃で撹拌しながら加水分解反応を行った。反応中は、反応液をガスクロマトグラフィーによって適宜分析した。ガスクロマトグラフィー分析で、トリオクチルホスフェートの残存量が1面積%以下になっていることを確認し、反応を終了した。なお、トリオクチルホスフェートの残存量が1面積%以下であるとは、クロマトグラムにおけるトリオクチルホスフェートのピーク面積が、全ピーク面積に対して1%以下になることを意味する。
【0092】
(2)芳香族溶媒を含まない作動溶液の加水分解
500mL四つ口フラスコに、2−エチルアントラキノン12.8gおよびトリオクチルホスフェート25.1gからなる作動溶液と、30wt%水酸化ナトリウム水溶液46.6gと、エタノール100.3gとを仕込んだ。フラスコに還流管を取り付け、釜温度78℃で撹拌しながら加水分解反応を行った。反応中は、反応液をガスクロマトグラフィーによって適宜分析した。ガスクロマトグラフィー分析で、トリオクチルホスフェートの残存量が1面積%以下になっていることを確認し、反応を終了した。
【0093】
上記(1)および(2)の実験の結果を図6〜7に示す。両図より、芳香族溶媒を含む作動溶液および芳香族溶媒を含まない作動溶液のいずれにおいても、トリオクチルホスフェートの残存量が時間の経過とともに低下すること、また、芳香族溶媒を含む溶液では、芳香族溶媒を含まない溶液よりも、トリオクチルホスフェートの残存量(面積%)の減少率が小さいことが分かる。
【0094】
(3)エタノールの除去およびアントラキノン類の抽出・洗浄
上記(2)で得た反応終了後の反応液を、常圧、80℃の蒸留に供し、エタノールと水を留去した。残渣にトルエンと水を加えてこれを溶解させ、分液した後、有機相を10wt%水酸化ナトリウム水溶液で3回洗浄した。有機相に無水硫酸マグネシウムを加え、脱水した。脱水後、ろ過によって硫酸マグネシウムを除去した。
【0095】
(4)アントラキノン類の回収
上記(3)で得たろ液をエバポレーターに加え、減圧蒸留(最終条件1kPa、45℃)を行い、トルエンを留去した。残渣の組成は、2−エチルアントラキノン12.4g、トリオクチルホスフェート0.1g、2−エチルヘキサノール4.1g、不明分10.1gであった。次いで、蒸留装置にてさらに低い圧力・高い温度で減圧蒸留(最終条件0.67kPa・200℃)を行い、2−エチルヘキサノール3.5gを留去した。残渣に対し、引き続き減圧蒸留(最終条件80Pa・220℃)を行った。留出物の組成は、2−エチルアントラキノン10.0g、トリオクチルホスフェート0.1g、2−エチルヘキサノール0.2g、不明分0.1gであった。2−エチルアントラキノンの回収率(回収量(10.0g)÷初期量(12.8g)×100)は78%であった。また、トリオクチルホスフェートの除去率(100−(残存量(0.1g)÷初期量(25.1g)×100))は、99.6%であった。
以上の結果から、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを含む作動溶液中から効率的にトリオクチルホスフェートを除去できることが明らかとなった。
【0096】
〔実施例2〕
<再結晶によるトリオクチルホスフェートの除去>
500mLフラスコに、芳香族炭化水素200g、トリオクチルホスフェート89g、2−エチルアントラキノン28g、2−エチルテトラヒドロアントラキノン24gおよび不明分(稼働中の作動溶液再生装置より得られた蒸留釜残(副生成物))59gからなる作動溶液を400g仕込んだ。真空度は、終始13kPaにコントロールした。フラスコ内の温度が室温から182℃になるまで温度を上げた。最終的に13kPa、182℃で留出がなくなるまで蒸留を続けた(第1の蒸留)。
第1の蒸留で得た残渣を、第1の蒸留より低い圧力で蒸留した。真空度は、蒸留開始からしばらくは30Pa〜150Paの間で変動したが、最終的に80Paで安定した。フラスコ内の温度が室温から202℃になるまで温度を上げた。最終的に80Pa、202℃で留出がなくなるまで蒸留を続けた(第2の蒸留)。
【0097】
第2の蒸留で得た留出物32gをエタノールに加熱溶解させた後、室温まで自然冷却したところ結晶が析出した。ろ過後、結晶を乾燥した。以下に、第2の蒸留で得た留出物および再結晶で回収した結晶の組成を示した。
【表1】
再結晶工程によるアントラキノン類の回収率は64%(再結晶した2−エチルアントラキノンと2−エチルテトラヒドロアントラキノンの合計量(3g+4g)÷第2の蒸留により留出した2−エチルアントラキノンと2−エチルテトラヒドロアントラキノンの合計量(6g+5g)×100)、トリオクチルホスフェートの除去率は100%であった(100−(再結晶したトリオクチルホスフェートの量(0g)÷第2の蒸留により留出したトリオクチルホスフェートの量(18g)×100))。
【符号の説明】
【0098】
1 :作動溶液製造システムA
101 :蒸留塔
102 :反応槽
103 :調製槽
104 :トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン
104a:蒸留用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン
104b:反応用トリオクチルホスフェート含有作動溶液供給ライン
105 :留出物輸送ライン
106 :加水分解剤供給ライン
107 :再結晶溶媒供給ライン
108 :廃液ライン
109 :極性溶媒供給ライン
110 :トリオクチルホスフェート不含作動溶液輸送ライン
111 :蒸留原料供給ライン
112 :釜残輸送ライン
113 :留出芳香族溶媒供給ライン
114 :留出アントラキノン類供給ライン
115 :再結晶アントラキノン類輸送ライン
116 :トリオクチルホスフェート含有作動溶液
117 :加水分解剤
118 :釜残排出ライン
119 :極性溶媒
120 :トリオクチルホスフェート不含作動溶液
121 :再結晶溶媒
122 :廃液
123 :留出物
124 :釜残
2 :作動溶液製造システムB
201 :洗浄槽
202 :留出芳香族溶媒タンク
203 :留出アントラキノン類タンク
204 :洗浄剤供給ライン
205 :水供給ライン
206 :洗浄済作動溶液輸送ライン
207 :廃液ライン
208 :留出芳香族溶媒輸送ライン
209 :留出アントラキノン類輸送ライン
210 :洗浄剤
211 :水
212 :洗浄済作動溶液
213 :廃液
3 :作動溶液製造システムC
301 :過酸化水素製造装置
302 :水素化塔
303 :酸化塔
304 :抽出塔
305 :水素化剤供給ライン
306 :水素化剤循環ライン
307 :水素化作動溶液供給ライン
308 :酸化剤供給ライン
309 :排気ライン
310 :酸化作動溶液供給ライン
311 :水供給ライン
312 :過酸化水素輸送ライン
313 :過酸化水素抽出後作動溶液循環ライン
314 :水素化剤
315 :酸化剤
316 :未反応酸化剤
317 :水
318 :過酸化水素水
4 :作動溶液製造システムD
401 :留出添加剤タンク
402 :留出有機溶媒タンク
403 :留出2−エチルヘキサノールタンク
404 :洗浄剤
405 :水供給ライン
406 :有機溶媒供給ライン
407 :添加剤供給ライン
408 :洗浄剤供給ライン
409 :留出添加剤輸送ライン
410 :留出有機溶媒輸送ライン
411 :留出2−エチルヘキサノール輸送ライン
412 :留出添加剤供給ライン
413 :留出有機溶媒供給ライン
414 :添加剤
415 :有機溶媒
416 :水
5 :作動溶液製造システムE
501 :留出再結晶溶媒タンク
502 :留出再結晶溶媒輸送ライン
503 :留出再結晶溶媒供給ライン
V :バルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7