特許第6972802号(P6972802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972802
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】過酸化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 15/023 20060101AFI20211111BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C01B15/023 T
   C01B15/023 G
   C01B15/023 A
   C01B15/023 Z
   C02F1/50 531Q
   C02F1/50 540B
   C02F1/50 550H
【請求項の数】16
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-173394(P2017-173394)
(22)【出願日】2017年9月8日
(65)【公開番号】特開2019-48740(P2019-48740A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2020年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 規樹
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】松本 倫太朗
(72)【発明者】
【氏名】池田 英俊
(72)【発明者】
【氏名】茂田 耕平
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/129769(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第1483664(CN,A)
【文献】 特開2014−224009(JP,A)
【文献】 特開2008−087992(JP,A)
【文献】 特開平05−201708(JP,A)
【文献】 特開2008−120631(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/025735(WO,A1)
【文献】 特表2010−521398(JP,A)
【文献】 特公昭39−008806(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/00−23/00
C02F 1/50
B01J 21/04,21/12
C07C 29/143,31/125
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素と、トリオクチルホスフェートと、アントラキノン類とを含む作動溶液を、水素化後に酸化することにより過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を作動溶液から抽出し、該過酸化水素を抽出した後の作動溶液は水素化工程に戻して循環させる過酸化水素製造工程と、前記過酸化水素の生成に伴い副生する不活性物質を前記作動溶液から除去し、該不活性物質が除去された粗再生作動溶液を調製する作動溶液再生工程と、前記粗再生作動溶液をアルカリ洗浄し、循環用再生作動溶液を調製する循環用再生作動溶液調製工程とを有し、
前記作動溶液再生工程が、i)大気圧またはそれ以下の圧力下での蒸留により芳香族炭化水素を回収する第1の蒸留工程と、ii)次いでより低い圧力下での、160℃以上の蒸留により、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを回収する第2の蒸留工程とを有することを特徴とする、過酸化水素の製造方法。
【請求項2】
前記第1の蒸留工程における圧力が、1kPaから100kPaの範囲内である、請求項1に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項3】
前記第2の蒸留工程における圧力が、1kPa以下である、請求項1または2に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項4】
前記第2の蒸留工程における温度が、160℃から300℃の範囲内である、請求項1から3のいずれか一項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項5】
前記アントラキノン類が、アルキルアントラキノンとアルキルテトラヒドロアントラキノンとを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項6】
前記循環用再生作動溶液を過酸化水素製造工程に戻す工程を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項7】
前記粗再生作動溶液の溶媒組成比が、過酸化水素製造工程で循環する作動溶液の溶媒組成比に対して±20%ポイントの範囲内である、請求項6に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項8】
前記粗再生作動溶液中のアントラキノン類の濃度が、過酸化水素製造工程で循環する作動溶液中のアントラキノン類の濃度以上かつアントラキノン類の飽和濃度以下の範囲内である、請求項6または7に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項9】
前記循環用再生作動溶液調製工程において、再生作動溶液が飽和水分量の20%〜160%に調整される、請求項6から8のいずれか一項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項10】
前記循環用再生作動溶液調製工程が、アルカリ洗浄後の再生作動溶液を水洗する工程をさらに含む、請求項6から9のいずれか一項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項11】
前記第2の蒸留工程の留出物から、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを分離する工程をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項12】
前記アントラキノン類とトリオクチルホスフェートを分離する工程が、再結晶による、請求項11に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項13】
蒸留塔、調製槽、洗浄槽、水素化塔、酸化塔および抽出塔を備えた過酸化水素製造システムであって、蒸留塔は不明分排出ラインを備え、蒸留塔と調製槽とは、前段蒸留留出物供給ラインと、後段蒸留留出物供給ラインとにより連通し、調製槽と洗浄槽とは、粗再生作動溶液供給ラインにより連通し、洗浄槽にはアルカリ溶液供給ラインと水供給ラインとが接続され、洗浄槽は廃液ラインを備え、洗浄槽と水素化塔とは循環用再生作動溶液供給ラインにより連通し、水素化塔には水素化剤供給ラインが接続され、水素化塔と酸化塔とは水素化作動溶液供給ラインにより連通し、酸化塔には酸化剤供給ラインが接続され、酸化塔と抽出塔とは酸化作動溶液供給ラインにより連通し、抽出塔は過酸化水素輸送ラインを備え、蒸留塔と抽出塔とは過酸化水素抽出後作動溶液供給ラインにより連通し、前記蒸留塔は、大気圧またはそれ以下の圧力下での蒸留により芳香族炭化水素を回収する前段蒸留と、これに続くより低い圧力下での、160℃以上の蒸留により、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを回収する後段蒸留を行うよう構成されている、過酸化水素製造システム。
【請求項14】
前段蒸留留出物タンクをさらに備え、蒸留塔と前段蒸留留出物タンクとは前段蒸留留出物輸送ラインにより連通し、前段蒸留留出物タンクと調製槽とは前段蒸留留出物供給ラインにより連通している、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
後段蒸留留出物タンクをさらに備え、蒸留塔と後段蒸留留出物タンクとは後段蒸留留出物輸送ラインにより連通し、後段蒸留留出物タンクと調製槽とは後段蒸留留出物供給ラインにより連通している、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
再結晶槽をさらに備え、再結晶槽はフィルターと廃液ラインとを備え、再結晶槽には再結晶溶媒供給ラインが接続され、再結晶槽と蒸留塔とは後段蒸留留出物供給ラインにより連通し、再結晶槽と調製槽とはアントラキノン類供給ラインにより連通している、請求項13に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラキノン類を用いた過酸化水素の製造方法、特に作動溶液の再生工程を含む過酸化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、酸化力を有し強力な漂白・殺菌作用を持つことから、紙、パルプ、繊維等の漂白剤、殺菌剤等として使用される。過酸化水素の分解生成物は水と酸素であるため、グリーンケミストリーの観点からも重要な位置づけがなされ、特に塩素系漂白剤の代替材料として注目されている。さらに半導体基板等の表面の洗浄、銅、スズおよび他の銅合金表面の化学的研磨、電子回路の蝕刻等の半導体産業においても過酸化水素の使用量が増大している。また、エポキシ化およびヒドロキシル化をはじめとする酸化反応に広範囲に用いられ、過酸化水素は重要な工業製品である。
【0003】
工業的な過酸化水素の製造方法として、アントラキノン法が知られている。この方法では、アントラキノン類を有機溶媒に溶解して作動溶液を得、水素化工程においてアントラキノン類を水素化触媒の存在下で水素化し、アントラヒドロキノン類を生成させる。次いで、酸化工程においてアントラヒドロキノン類をアントラキノン類に再度転化し、同時に過酸化水素を生成させる。作動溶液中の過酸化水素は、水抽出等の方法により、作動溶液から分離される。過酸化水素が抽出された作動溶液は、再び水素化工程に戻され、循環プロセスを形成する。
【0004】
作動溶液に含まれるアントラキノン類をアントラヒドロキノン類に水素化し、これをアントラキノン類に酸化して過酸化水素を製造する操作を繰り返す過程で、過酸化水素生成に寄与しないテトラヒドロアントラキノンエポキシド、テトラオキシアントロン、オキシアントロン、アントロンなどのアントラキノン類の単量体副生成物、アントラキノン類の溶剤付加物およびアントラキノン類の重合物などが生成される。また、溶媒成分の劣化物も生成される。この様な過酸化水素の製造に関与できない成分は「不活性物質」として分類される。この不活性物質の増加は、活性物質であるアントラキノン類の濃度低下等の原因となり、循環プロセスの各工程能力を低下させ得る。このため、不活性物質の濃度が低く、活性物質の濃度を十分に高い状態に維持した作動溶液が必要とされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007/129769
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
作動溶液の組成は過酸化水素製造プラントによって異なるが、非極性溶媒として芳香族炭化水素、極性溶媒としてリン酸トリス(2−エチルヘキシル)(CAS番号:78−42−2、以下、「トリオクチルホスフェート」または「TOP」と表記することがある)、アントラキノン類としてアルキルアントラキノンおよびアルキルテトラヒドロアントラキノンを含む作動溶液が多く用いられている。しかしながら、極性溶媒としてトリオクチルホスフェートを含む作動溶液において、不活性物質の濃度を抑制し、活性物質の濃度を十分に高い状態に維持する方法はこれまで報告がない。したがって、本発明の1つの目的は、アントラキノン法による過酸化水素製造に使用した、トリオクチルホスフェートを含む作動溶液から不活性物質を除去し、該作動溶液の物性および/または活性を維持または改善する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、芳香族炭化水素と、トリオクチルホスフェートと、アントラキノン類とを含む作動溶液中から副生成物を除去する方法を見出した。この方法は、大気圧またはそれ以下の圧力下での蒸留により芳香族炭化水素を回収し、次いで、より低い圧力下での、160℃以上の蒸留によりアントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを回収し、回収した全留出物を作動溶液として再使用するものである。そして、本発明者はさらに検討を続けたところ、再生した作動溶液をアルカリ洗浄することにより、水添活性が向上することを見出した。
【0008】
本発明の一側面は、以下のとおりである。
[1] 芳香族炭化水素と、トリオクチルホスフェートと、アントラキノン類とを含む作動溶液を、水素化後に酸化することにより過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を作動溶液から抽出し、該過酸化水素を抽出した後の作動溶液は水素化工程に戻して循環させる過酸化水素製造工程と、前記過酸化水素の生成に伴い副生する不活性物質を前記作動溶液から除去し、該不活性物質が除去された粗再生作動溶液を調製する作動溶液再生工程と、前記粗再生作動溶液をアルカリ洗浄し、循環用再生作動溶液を調製する循環用再生作動溶液調製工程とを有し、
前記作動溶液再生工程が、i)大気圧またはそれ以下の圧力下での蒸留により芳香族炭化水素を回収する第1の蒸留工程と、ii)次いでより低い圧力下での、160℃以上の蒸留により、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを回収する第2の蒸留工程とを有することを特徴とする過酸化水素の製造方法。
【0009】
[2] 前記第1の蒸留工程における圧力が、1kPaから100kPaの範囲内である、[1]に記載の過酸化水素の製造方法。
[3] 前記第2の蒸留工程における圧力が、1kPa以下である、[1]または[2]に記載の過酸化水素の製造方法。
[4] 前記第2の蒸留工程における温度が、160℃から300℃の範囲内である、[1]から[3]のいずれか一項に記載の過酸化水素の製造方法。
[5] 前記アントラキノン類が、アルキルアントラキノンとアルキルテトラヒドロアントラキノンとを含む、[1]から[4]のいずれか一項に記載の過酸化水素の製造方法。
[6] 前記循環用再生作動溶液を過酸化水素製造工程に戻す工程を含む、[1]から[5]のいずれか一項に記載の過酸化水素の製造方法。
【0010】
[7] 前記粗再生作動溶液の溶媒組成比が、過酸化水素製造工程で循環する作動溶液の溶媒組成比に対して±20%ポイントの範囲内である、[6]に記載の過酸化水素の製造方法。
[8] 前記粗再生作動溶液中のアントラキノン類の濃度が、過酸化水素製造工程で循環する作動溶液中のアントラキノン類の濃度以上かつアントラキノン類の飽和濃度以下の範囲内である、[6]または[7]に記載の過酸化水素の製造方法。
[9] 前記循環用再生作動溶液調製工程において、再生作動溶液が飽和水分量の20%〜160%に調整される、[6]から[8]のいずれか一項に記載の過酸化水素の製造方法。
[10] 前記循環用再生作動溶液調製工程が、アルカリ洗浄後の再生作動溶液を水洗する工程をさらに含む、[6]から[9]のいずれか一項に記載の過酸化水素の製造方法。
[11] 前記第2の蒸留工程の留出物から、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを分離する工程をさらに含む、[1]から[10]のいずれか一項に記載の過酸化水素の製造方法。
[12] 前記アントラキノン類とトリオクチルホスフェートを分離する工程が、再結晶による、[11]に記載の過酸化水素の製造方法。
【0011】
[13] 蒸留塔、調製槽、洗浄槽、水素化塔、酸化塔および抽出塔を備えた過酸化水素製造システムであって、蒸留塔は不明分排出ラインを備え、蒸留塔と調製槽とは、前段蒸留留出物供給ラインと、後段蒸留留出物供給ラインとにより連通し、調製槽と洗浄槽とは、粗再生作動溶液供給ラインにより連通し、洗浄槽にはアルカリ溶液供給ラインと水供給ラインとが接続され、洗浄槽は廃液ラインを備え、洗浄槽と水素化塔とは循環用再生作動溶液供給ラインにより連通し、水素化塔には水素化剤供給ラインが接続され、水素化塔と酸化塔とは水素化作動溶液供給ラインにより連通し、酸化塔には酸化剤供給ラインが接続され、酸化塔と抽出塔とは酸化作動溶液供給ラインにより連通し、抽出塔は過酸化水素輸送ラインを備え、蒸留塔と抽出塔とは過酸化水素抽出後作動溶液供給ラインにより連通している、過酸化水素製造システム。
[14] 前段蒸留留出物タンクをさらに備え、蒸留塔と前段蒸留留出物タンクとは前段蒸留留出物輸送ラインにより連通し、前段蒸留留出物タンクと調製槽とは前段蒸留留出物供給ラインにより連通している、[13]に記載のシステム。
[15] 後段蒸留留出物タンクをさらに備え、蒸留塔と後段蒸留留出物タンクとは後段蒸留留出物輸送ラインにより連通しており、後段蒸留留出物タンクと調製槽とは後段蒸留留出物供給ラインにより連通している、[13]に記載のシステム。
[16] 再結晶槽をさらに備え、再結晶槽はフィルターと廃液ラインとを備え、再結晶槽には再結晶溶媒供給ラインが接続され、再結晶槽と蒸留塔とは後段蒸留留出物供給ラインにより連通し、再結晶槽と調製槽とはアントラキノン類供給ラインにより連通している、[13]に記載のシステム。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下の1以上の効果を奏する。
(1)不活性物質の蓄積したトリオクチルホスフェートを極性溶媒として含む作動溶液から該不活性物質を除去することができる。
(2)トリオクチルホスフェートを極性溶媒として含む作動溶液から活性物質であるアントラキノン類を効率的に回収し、再利用することができる。
(3)循環作動溶液中の不活性物質を低減することにより、過酸化水素製造の各工程の効率を高い状態に保つことができる。
(4)循環作動溶液の粘度を低く維持することができる。
(5)循環作動溶液の水添活性を高い状態に維持することができる。
(6)使用頻度の高いトリオクチルホスフェートを含む作動溶液に適用できるため、適用範囲が広く、過酸化水素製造の効率化に多大な貢献が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の過酸化水素製造システムの一態様の概略図である。
図2図2は、再結晶槽を備えた、本発明の過酸化水素製造システムの一態様の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一態様は、芳香族炭化水素と、トリオクチルホスフェートと、アントラキノン類とを含む作動溶液を、水素化(還元)後に酸化することにより過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を作動溶液から抽出し、該過酸化水素を抽出した後の作動溶液を水素化工程に戻して循環させる過酸化水素製造工程と、前記過酸化水素の生成に伴い副生する不活性物質を前記作動溶液から除去し、該不活性物質が除去された粗再生作動溶液を調製する作動溶液再生工程と、前記粗再生作動溶液をアルカリ洗浄し、循環用再生作動溶液を調製する循環用再生作動溶液調製工程とを有し、
前記作動溶液再生工程が、i)大気圧またはそれ以下の圧力下での蒸留により芳香族炭化水素を回収する第1の蒸留工程と、ii)次いでより低い圧力下での、160℃以上の蒸留により、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを回収する第2の蒸留工程とを有することを特徴とする過酸化水素の製造方法に関する(以下、「本発明の過酸化水素製造方法」と称する場合がある)。
【0015】
作動溶液に含まれる芳香族炭化水素としては、限定されずに、例えば、少なくとも1個のアルキル基で置換された芳香族炭化水素、特に炭素原子を8、9、10、11または12個含むアルキルベンゼン(例えば、炭素原子を9個含むトリメチルベンゼンなど)またはその混合物などが挙げられ、アントラキノンを溶解し得るものが好ましい。特定の態様において、芳香族炭化水素は、炭素数10の混合溶媒および炭素数9の混合溶媒(例えばクメン異性体混合物)から選択される。極性溶媒であるトリオクチルホスフェートは、以下の構造を有する化合物である。
【化1】
【0016】
作動溶液に含まれるアントラキノン類は、アントラキノン法により過酸化水素を産生し得るアントラキノン(9,10−アントラセンジオン)、テトラヒドロアントラキノンおよびその誘導体の少なくとも1つを含む。過酸化水素を産生し得るアントラキノンの誘導体としては、限定されずに、例えば、アルキルアントラキノンが挙げられる。アルキルアントラキノンは、少なくとも1つのアルキル基で置換されたアントラキノンを意味する。特定の態様において、アルキルアントラキノンは、少なくとも1個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖の脂肪族置換基により、1、2または3位が少なくとも一置換されたアントラキノンを含む。アルキルアントラキノンにおけるアルキル置換基は、好ましくは1〜9個、より好ましくは1〜6個の炭素原子を含む。アルキルアントラキノンの具体例としては、限定されずに、例えば、メチルアントラキノン(2−メチルアントラキノン等)、ジメチルアントラキノン(1,3−、2,3−、1,4−、2,7−ジメチルアントラキノン等)、エチルアントラキノン(2−エチルアントラキノン等)、プロピルアントラキノン(2−ノルマルプロピルアントラキノン、2−イソプロピルアントラキノン等)、ブチルアントラキノン(2−sec−、2−tert−ブチルアントラキノン等)、アミルアントラキノン(2−sec−、2−tert−アミルアントラキノン等)などが挙げられる。好ましいアルキルアントラキノンとしては、エチルアントラキノン、アミルアントラキノン、またはそれらの混合物が挙げられる。作動溶液中のアルキルアントラキノン類の濃度は、プロセスの状況に応じて制御され、例えば、0.4〜1.0mol/Lなどの濃度範囲で用いられる。
【0017】
過酸化水素を産生し得るテトラヒドロアントラキノンの誘導体としては、限定されずに、例えば、アルキルテトラヒドロアントラキノンが挙げられる。アルキルテトラヒドロアントラキノンは、少なくとも1つのアルキル基で置換されたテトラヒドロアントラキノンを意味する。特定の態様において、アルキルテトラヒドロアントラキノンは、少なくとも1個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖の脂肪族置換基により、1、2または3位が少なくとも一置換されたテトラヒドロアントラキノンを含む。アルキルテトラヒドロアントラキノンにおけるアルキル置換基は、好ましくは1〜9個、より好ましくは1〜6個の炭素原子を含む。アルキルテトラヒドロアントラキノンの具体例としては、限定されずに、例えば、メチルテトラヒドロアントラキノン(2−メチルテトラヒドロアントラキノン等)、ジメチルテトラヒドロアントラキノン(1,3−、2,3−、1,4−、2,7−ジメチルテトラヒドロアントラキノン等)、エチルテトラヒドロアントラキノン(2−エチルテトラヒドロアントラキノン等)、プロピルテトラヒドロアントラキノン(2−ノルマルプロピルテトラヒドロアントラキノン、2−イソプロピルテトラヒドロアントラキノン等)、ブチルテトラヒドロアントラキノン(2−sec−、2−tert−ブチルテトラヒドロアントラキノン等)、アミルテトラヒドロアントラキノン(2−sec−、2−tert−アミルテトラヒドロアントラキノン等)などが挙げられる。好ましいアルキルテトラヒドロアントラキノンとしては、エチルテトラヒドロアントラキノン、アミルテトラヒドロアントラキノン、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0018】
一態様において、作動溶液は、アルキルアントラキノンとアルキルテトラヒドロアントラキノンとの組み合わせを含む。この組み合わせにおけるアルキルアントラキノンとアルキルテトラヒドロアントラキノンのモル比は特に限定されないが、アルキルアントラキノン:アルキルテトラヒドロアントラキノンとして、0.05:1〜100:1が好ましく、0.1:1〜75:1がより好ましく、0.2:1〜50:1がさらに好ましい。また、アルキルアントラキノンとアルキルテトラヒドロアントラキノンの重量比も特に限定されないが、アルキルアントラキノン:アルキルテトラヒドロアントラキノンとして、0.05:1〜100:1が好ましく、0.1:1〜75:1がより好ましく、0.2:1〜50:1がさらに好ましい。特に好ましいアルキルアントラキノンとアルキルテトラヒドロアントラキノンとの組み合わせは、エチルアントラキノンとエチルテトラヒドロアントラキノンとの組み合わせである。
【0019】
過酸化水素製造工程は、既知のアントラキノン法による過酸化水素の製造方法に従って行うことができる。過酸化水素製造工程は、典型的には、作動溶液を水素化する工程、水素化後の作動溶液を酸化する工程、酸化により生じた過酸化水素を水相に抽出する工程を含む。作動溶液の水素化は、例えば、作動溶液を、水素化触媒の存在下、水素ガスや不活性ガス(窒素ガス等)と水素ガスとの混合物などの水素を含む気体でバブリングすることなどにより行うことができる。水素化後の作動溶液の酸化は、例えば、作動溶液を空気や酸素ガスなどの酸素を含む気体でバブリングすることなどにより行うことができる。過酸化水素の水相への抽出は、例えば、酸化後の作動溶液を水と混合し、水相を分離することなどにより行うことができる。抽出した過酸化水素には、その後、精製、濃縮などの処理を行ってもよい。
【0020】
作動溶液再生工程における作動溶液からの不活性物質の除去は、i)大気圧またはそれ以下の圧力下での蒸留により芳香族炭化水素を回収する第1の蒸留工程(以下、前段蒸留工程と称することもある)と、ii)次いでより低い圧力下での、160℃以上の蒸留により、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを回収する第2の蒸留工程(以下、後段蒸留工程と称することもある)とを含む蒸留工程により行われる。
【0021】
第1の蒸留工程では、作動溶液に対し大気圧以下の圧力で蒸留を行い、作動溶液に含まれる芳香族炭化水素を留出物として回収する。蒸留圧は、芳香族炭化水素が回収できるものであれば特に限定されず、例えば、0.5kPa〜100kPa、0.8kPa〜100kPa、1kPa〜100kPa、1kPa〜50kPaなどであってよい。芳香族炭化水素は留出するが、トリオクチルホスフェートおよびアントラキノン類は留出しない蒸留圧が好ましい。蒸留温度も、芳香族炭化水素が回収できるものであれば特に限定されず、例えば、110℃〜240℃、120℃〜220℃、130℃〜200℃、140℃〜190℃、150℃〜185℃などであってよい。芳香族炭化水素は留出するが、トリオクチルホスフェートおよびアントラキノン類は留出しない蒸留温度が好ましい。第1の蒸留工程における蒸留は、芳香族炭化水素の回収率などの観点から、留出がなくなるまで続けることが好ましい。第1の蒸留工程で留出した芳香族炭化水素は、再生作動溶液の成分として再利用される。
【0022】
第1の蒸留工程に供する作動溶液は、典型的には、過酸化水素製造工程で循環している作動溶液であり、過酸化水素の生成に伴い副生する不活性物質を含んだものである。かかる作動溶液は、過酸化水素製造工程のいずれの段階から採取したものであってもよいが、過酸化水素を含まないか、または、含んでいたとしてもその含有量が極めて少ない(例えば、含有量が0.35g/L以下の)抽出工程後の作動溶液が、安全性の観点から好ましい。不活性物質としては、例えば、アントラキノン類や溶媒(芳香族炭化水素およびトリオクチルホスフェート)に由来する副生成物(酸化物、分解物など)が挙げられる。アントラキノン類由来の副生成物としては、例えば、テトラヒドロアントラキノンエポキシド、テトラオキシアントロン、オキシアントロン、アントロンなどのアントラキノン類の単量体副生成物、アントラキノン類の溶剤付加物、アントラキノン類の重合物などが挙げられる。溶媒由来の副生成物としては、例えば、カルボン酸類、ポリオール類、フェノール類などが挙げられる。
【0023】
第2の蒸留工程では、第1の蒸留工程で得られた残渣に対して、第1の蒸留工程より低い圧力下での、160℃以上の蒸留を行い、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを留出物として回収する。これにより、アントラキノン類およびトリオクチルホスフェートより沸点の高い副生成物(高沸成分)を除去することができる。蒸留圧は、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとが回収できるものであれば特に限定されず、例えば、0.001kPa〜1kPa、0.002kPa〜0.5kPa、0.005kPa〜0.2kPa、0.008kPa〜0.1kPa、0.1kPa〜0.3kPaなどであってよい。アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとは留出するが、副生成物の留出は少ない蒸留圧が好ましい。蒸留温度も、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとが回収できるものであれば特に限定されず、例えば、160℃〜300℃、165℃〜280℃、170℃〜270℃、175℃〜260℃、220℃〜260℃などであってよい。一部の態様において、第2の蒸留工程の蒸留温度の上限は200℃未満であってもよい。したがって、この態様における、第2の蒸留工程の蒸留温度の範囲は、例えば、160℃〜199℃、160℃〜198℃、160℃〜197℃、160℃〜196℃、160℃〜195℃、160℃〜194℃、160℃〜193℃、160℃〜192℃、160℃〜191℃、160℃〜190℃、160℃〜189℃、160℃〜188℃、160℃〜187℃、160℃〜186℃、160℃〜185℃、160℃〜184℃、160℃〜183℃、160℃〜182℃、160℃〜181℃、160℃〜180℃などであってよい。アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとは留出するが、副生成物の留出は少ない蒸留温度が好ましい。
【0024】
第2の蒸留工程における蒸留は、アントラキノン類の回収率などの観点から、留出がなくなるまで続けることが好ましい。また、第2の蒸留工程での平均滞留時間は特に限定されないが、例えば1時間以上であってよい。「滞留時間」とは、蒸留工程における留出または缶出の開始から停止までの時間を意味し、「平均滞留時間」とは、同じ蒸留工程を2回以上行った場合の滞留時間の単純算術平均を意味する。第2の蒸留工程での平均滞留時間は、例えば、1時間〜10時間の範囲、6時間〜10時間の範囲などであってもよい。平均滞留時間を1時間以上とすることにより、アントラキノン類の回収率が高まるとともに、アントラキノン類由来の副生成物の、過酸化水素産生能を有するアントラキノン類への転化が生じ、過酸化水素産生能を有するアントラキノン類の量が増加するメリットがある。例えば、副生成物であるテトラヒドロアントラキノンエポキシドは、過酸化水素産生能を有するテトラヒドロアントラキノンに転化し得る。
第2の蒸留工程で留出したアントラキノン類およびトリオクチルホスフェートは、再生作動溶液の成分として再利用される。
【0025】
蒸留工程に使用する装置としては、所定の温度および圧力での蒸留が可能なものであれば特に限定されず、例えば、バッチ蒸留装置、連続蒸留装置、薄膜蒸留装置などが挙げられる。第1の蒸留工程と、第2の蒸留工程の両方で使用できる蒸留装置が、コストなどの観点から好ましい。
【0026】
一態様において、本発明の過酸化水素製造方法は、前記第2の蒸留工程の留出物から、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを分離する工程をさらに含む。アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとの分離は、アントラキノン類を再結晶させることにより行うことができる。アントラキノン類の再結晶は、アントラキノン類を再結晶溶媒に加熱溶解させた後に冷却することにより行うことができる。再結晶後、再結晶したアントラキノン類を回収し、再利用することができる。アントラキノン類から分離されたトリオクチルホスフェートは、再結晶溶媒から、蒸留などにより分離して再利用することができる。再結晶溶媒としては、アントラキノン類の加熱時の溶解度と冷却時の溶解度の差が大きいものが好ましい。再結晶溶媒の非限定例としては、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert−ブタノールなどの低級アルコール、2−エチルヘキサノールなど)、作動溶液の成分として用いる非極性溶媒(芳香族炭化水素など)や極性溶媒(TOP、ジイソブチルカルビノール、テトラブチル尿素、メチルシクロヘキシルアセテートなど)等が挙げられる。再結晶溶媒は、単一種の溶媒で構成しても、複数種の溶媒の混合物であってもよい。作動溶液に対する再結晶溶媒の量は、アントラキノン類の再結晶が良好に行われるものが好ましく、例えば、作動溶液の単位重量当たりの溶媒の体積(例えば、g/mL)として、1〜20倍、2〜15倍、3〜10倍、4〜8倍などであってよい。アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを分離する工程を含むことにより、アントラキノン類をより純粋な形で回収することができる。このため、再生作動溶液に含まれる副生成物の濃度をさらに低減することが可能となる。
【0027】
作動溶液再生工程における粗再生作動溶液の調製は、第1の蒸留工程で回収した芳香族炭化水素と、第2の蒸留工程で回収したアントラキノン類およびトリオクチルホスフェートとを混合することによって行うことができる。第2の蒸留工程の留出物から、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを分離する工程を含む態様においては、粗再生作動溶液の調製は、第1の蒸留工程で回収した芳香族炭化水素と、第2の蒸留工程後に別々回収されたアントラキノン類およびトリオクチルホスフェートとを混合することによって行うことができる。本明細書において、粗再生作動溶液は、蒸留工程で回収した芳香族炭化水素と、トリオクチルホスフェートと、アントラキノン類とを含む、アルカリ洗浄を行う前の再生作動溶液を意味する。
【0028】
作動溶液中の溶媒組成比が変化すると、作動溶液の密度、粘度、分配係数なども変化する。これらのパラメータが変化すると、各工程の運転条件および設備も変更する必要が生じ、過酸化水素の安定生産の観点からは好ましくない。そのため、再生作動溶液の溶媒組成比は、循環プロセス中の作動溶液と近しい値に調整するのが好ましい。例えば、再生作動溶液の溶媒組成比(%)は循環プロセスの作動溶液に対して±20%ポイント以内、好ましくは±10%ポイント以内、さらに好ましくは±5%ポイント以内に調整することが望ましい(ただし、調整後の溶媒組成比の合計は100%を超えないものとする)。すなわち、作動溶液の溶媒が芳香族炭化水素とトリオクチルホスフェートとからなり、循環プロセス中の溶媒組成比(体積比)が、芳香族炭化水素:トリオクチルホスフェート=70%:30%の場合、再生作動溶液の溶媒組成比を、90%:10%〜50%:50%、好ましくは80%:20%〜60%:40%、さらに好ましくは75%:25%〜65%:35%となるように調整することが望ましい。
【0029】
実際のプラントでは、循環プロセス中の作動溶液のアントラキノン類の濃度は経年的に減少していくため、適宜新たなアントラキノン類を補充しながら運転を行っている。循環プロセス中のアントラキノン類の濃度を下げないためにも、再生作動溶液中のアントラキノン濃度は、循環プロセスと同じ、もしくは、循環プロセス中のアントラキノン類の濃度以上かつアントラキノン類の飽和濃度以下となるように調製するのが好ましい。例えば、芳香族炭化水素、トリオクチルホスフェート、エチルアントラキノンおよびエチルテトラヒドロアントラキノンを含む作動溶液においては、再生作動溶液中のエチルアントラキノンとエチルテトラヒドロアントラキノンとの合計濃度を0.1〜1.4mol/L、好ましくは0.3〜1.2mol/L、さらに好ましくは0.5〜1.0mol/Lとなるように調製することが望ましい。
【0030】
粗再生作動溶液の調製において、蒸留工程で回収した成分に加え、他の給源に由来する芳香族炭化水素、トリオクチルホスフェートおよびアントラキノン類の1または2以上を混合してもよい。特定の態様において、他の給源に由来する芳香族炭化水素、トリオクチルホスフェートおよび/またはアントラキノン類は、市販のもの、または、新たに合成されたものを含む。
【0031】
循環用再生作動溶液調製工程では、作動溶液再生工程で得られた粗再生作動溶液をアルカリ洗浄し、循環用再生作動溶液を調製する。循環用再生作動溶液は、アルカリ洗浄後の、循環プロセスでの使用に特に適した再生作動溶液を意味する。
アルカリ洗浄は、粗再生作動溶液をアルカリ水溶液などで洗浄することにより行うことができる。アルカリ水溶液に含まれるアルカリとしてはアルカリ金属が好ましい。洗浄で使用されるアルカリ金属は、周期表第Ia族のアルカリ金属であればよいが、リチウム、ナトリウムあるいはカリウムが好ましい。これらを含む試薬に特に限定はないが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、二リン酸ナトリウム、二酸化ホウ素ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、三酸化ホウ酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、二ケイ酸ナトリウム、三ケイ酸ナトリウム、スズ酸ナトリウム、硫化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ホウ素カリウム、炭酸カリウム、シアン化カリウム、亜硝酸カリウム、カリウムフェノキシド、リン酸水素カリウム、二リン酸カリウム、スズ酸カリウムなどが例示される。アルカリ水溶液に含まれる成分は、好ましくは水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウムであり、さらに好ましくは、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウムであり、特に好ましくは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムである。アルカリ金属を含有するアルカリ水溶液のpHは8以上が好ましく、より好ましくは10以上であり、特に好ましくは12以上である。
【0032】
粗再生作動溶液とアルカリ水溶液との接触は、例えば、粗再生作動溶液1容積部に対して0.2倍容積部以上のアルカリ水溶液と接触させることにより行うことができる。好ましくは粗再生作動溶液を、0.3倍容積部以上のアルカリ水溶液と接触させる。接触させる方法としては、一般に知られる混合手段を用いることができる。例えば、撹拌、振とうおよび不活性ガスによるバブリング、並流および交流接触法などがあるが、これらに限定されるわけではなく、粗再生作動溶液とアルカリ水溶液とが効率よく接触できる方法であればよい。また、接触させるアルカリ水溶液の容量に重要な上限はなく、接触させる装置や作業の都合で適宜選択することができる。
【0033】
粗再生作動溶液とアルカリ水溶液との接触時間は、例えば、1分以上、より好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上であるが、接触させる装置や作業の都合で適宜選択することができる。粗再生作動溶液とアルカリ水溶液との接触温度は、例えば、0℃〜70℃、好ましくは10℃〜60℃に、特に好ましくは20℃〜50℃の範囲である。粗再生作動溶液とアルカリ水溶液との接触処理中の圧力は特に限定はないが、通常常圧に保たれることが好都合である。接触を終えたアルカリ水溶液は粗再生作動溶液から分離され排出される。アルカリ洗浄は1回以上、例えば、1回、2回または3回以上行うことができる。
再生作動溶液をアルカリ洗浄することにより、水のみで洗浄した場合に比べ、再生作動溶液の水添活性を高めることができる。また、粗再生作動溶液が酸性不純物を含んでいる場合は、アルカリ洗浄により、酸性不純物を除去できるというメリットもある。
【0034】
一態様において、循環用再生作動溶液調製工程では、粗再生作動溶液の水分量が飽和水分量の20%〜160%に調整される。過酸化水素製造工程中の水素化工程において、作動溶液の含水量は、水素化温度での飽和濃度の約50%〜約95%が好ましいとされる。蒸留工程で回収した留出物から調製した粗再生作動溶液は含水量が低く、水素化反応の速度が小さい傾向がある。したがって、循環プロセスに戻す循環用再生作動溶液は、粗再生作動溶液より含水量が高いことが好ましい。粗再生作動溶液をアルカリ水溶液で洗浄することにより、再生作動溶液の含水量を飽和水分量付近まで高めることができる。アルカリ洗浄では所望の水分範囲にならない場合は、脱水処理、水の追加、水による洗浄などにより、含水量を調整することができる。
【0035】
循環用再生作動溶液調製工程では、アルカリ洗浄に加え、水による洗浄を行ってもよい。洗浄に用いる水は、蒸留水、イオン交換水、逆浸透法などで精製された水が好ましいが、上記以外の方法で精製された水も好ましく用いられる。特に洗浄に用いられる水として純水が好ましい。水による洗浄は、洗浄媒体として水を使用する以外は、アルカリ洗浄と同様に行うことができる。したがって、粗再生作動溶液に対する水の容量、粗再生作動溶液との接触手法、接触時間、接触温度、接触圧などは、アルカリ洗浄について上記したものと同様である。水による洗浄は、アルカリ洗浄の前に行っても後に行っても、前と後の両方で行ってもよい。水による洗浄は1回以上、例えば、1回、2回または3回以上行うことができる。
【0036】
循環用再生作動溶液調製工程では、アルカリ洗浄に加え、アントラキノン類由来の副生成物からアントラキノン類を再生する再生触媒による処理を行うこともできる。再生触媒による処理は、アルカリ洗浄前、または、アルカリ洗浄後の再生作動溶液を、再生触媒の入った固定床もしくは流動床に通すことにより行うことができる。1回の通液では不十分な場合があるため、循環通液することが好ましい。再生触媒としては、活性アルミナもしくはシリカアルミナが好ましく、活性アルミナがより好ましい。再生触媒の表面積や粒径は、反応条件や装置によって適宜選択されるが、特に制限はない。反応温度は、0℃から200℃の範囲が好ましく、50℃〜150℃がより好ましい。また、反応の進行により、ハイドロキノン類が蓄積し一部の再生反応の進行が遅くなるので、循環通液の途中で酸素もしくは空気と接触させてハイドロキノン類を酸化することが望ましい。また、このとき生成する過酸化水素を順次取り除きながら行ってもよい。
【0037】
一態様において、本発明の過酸化水素製造方法は、前記循環用再生作動溶液を過酸化水素製造工程に戻す工程を含む。循環用再生作動溶液は、過酸化水素製造工程に含まれる水素化工程、酸化工程、抽出工程のうちの、任意の1以上の工程に戻すことができる。ここで、ある工程に戻すとは、その工程の前の工程が終了した段階から、その工程が終了する前の段階までの任意の段階に戻すことを意味する。例えば、循環用再生作動溶液を水素化工程に戻すとは、循環用再生作動溶液を、抽出工程が終了した段階から、水素化工程が終了する前の段階までの任意の段階(例えば、抽出装置の出口や水素化装置の入口)に戻すことを意味する。特定に態様において、循環用再生作動溶液は水素化工程に戻される。この態様は、循環用再生作動溶液の高い水添活性を活用することできる点で有利である。この態様の具体例としては、水素化装置(水素化塔)の手前で、循環用再生作動溶液と、循環中の作動溶液とを混合し、得られた混合液を水素化装置に導入することが挙げられる。別の特定の態様において、循環用再生作動溶液は酸化工程および/または抽出工程に戻される。この態様は、循環用再生作動溶液の含水量が低い場合に有利である。
【0038】
本発明の別の態様は、芳香族炭化水素と、トリオクチルホスフェートと、アントラキノン類と、過酸化水素の生成に伴い副生する不活性物質とを含む過酸化水素製造用作動溶液から、前記不活性物質を除去し、該不活性物質が除去された粗再生作動溶液を調製する作動溶液再生工程と、前記粗再生作動溶液をアルカリ洗浄し、循環用再生作動溶液を調製する循環用再生作動溶液調製工程とを有し、
前記作動溶液再生工程が、i)大気圧またはそれ以下の圧力下での蒸留により芳香族炭化水素を回収する第1の蒸留工程と、ii)次いでより低い圧力下での、160℃以上の蒸留により、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを回収する第2の蒸留工程とを有することを特徴とする、循環用再生作動溶液の製造方法に関する(以下、「本発明の循環用再生作動溶液製造方法」と称する場合がある)。
本発明の循環用再生作動溶液製造方法の各工程の特徴は、本発明の過酸化水素製造方法における対応する工程と同じである。
【0039】
本発明の別の態様は、芳香族炭化水素と、トリオクチルホスフェートと、アントラキノン類とを含む作動溶液を、水素化後に酸化することにより過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を作動溶液から抽出し、該過酸化水素を抽出した後の作動溶液は水素化工程に戻して循環させる過酸化水素製造工程と、前記過酸化水素の生成に伴い副生する不活性物質を前記作動溶液から除去し、再生作動溶液を調製する作動溶液再生工程と、前記粗再生作動溶液を水またはアルカリで洗浄し、循環用再生作動溶液を調製する循環用再生作動溶液調製工程とを有し、
前記作動溶液再生工程が、i)大気圧またはそれ以下の圧力下での蒸留により芳香族炭化水素を回収する第1の蒸留工程と、ii)次いでより低い圧力下での、160℃以上の蒸留により、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを回収する第2の蒸留工程とを有することを特徴とする過酸化水素の製造方法に関する(以下、「本発明の過酸化水素製造方法A」と称する場合がある)。この態様は、本発明の過酸化水素製造方法と、粗再生作動溶液のアルカリ洗浄が必須ではなく、水による洗浄で代替できる点が異なる以外は同じである。例4が示すとおり、粗再生作動溶液を水のみで洗浄しても、トリオクチルホスフェートを含む再生作動溶液の水添活性を、循環中の作動溶液に比べて向上させることができる。本発明の過酸化水素製造方法に係る上記記載は、アルカリ洗浄が必須ではないという条件の下で、本発明の過酸化水素製造方法Aにも適用される。
【0040】
本発明の別の態様は、芳香族炭化水素と、トリオクチルホスフェートと、アントラキノン類と、過酸化水素の生成に伴い副生する不活性物質とを含む過酸化水素製造用作動溶液から、前記不活性物質を除去し、該不活性物質が除去された粗再生作動溶液を調製する作動溶液再生工程と、前記粗再生作動溶液を水またはアルカリで洗浄し、循環用再生作動溶液を調製する循環用再生作動溶液調製工程とを有し、
前記作動溶液再生工程が、i)大気圧またはそれ以下の圧力下での蒸留により芳香族炭化水素を回収する第1の蒸留工程と、ii)次いでより低い圧力下での、160℃以上の蒸留により、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを回収する第2の蒸留工程とを有することを特徴とする、循環用再生作動溶液の製造方法に関する(以下、「本発明の循環用再生作動溶液製造方法A」と称する場合がある)。
本発明の循環用再生作動溶液製造方法Aの各工程の特徴は、本発明の過酸化水素製造方法Aにおける対応する各工程の特徴と同じである。
【0041】
本発明の別の態様は、芳香族炭化水素と、極性溶媒と、アントラキノン類とを含む作動溶液を、水素化後に酸化することにより過酸化水素を生成させ、該過酸化水素を作動溶液から抽出し、該過酸化水素を抽出した後の作動溶液は水素化工程に戻して循環させる過酸化水素製造工程と、前記過酸化水素の生成に伴い副生する不活性物質を前記作動溶液から除去し、再生作動溶液を調製する作動溶液再生工程と、前記粗再生作動溶液をアルカリ洗浄し、循環用再生作動溶液を調製する循環用再生作動溶液調製工程とを有し、
前記作動溶液再生工程が、i)大気圧またはそれ以下の圧力下での蒸留により芳香族炭化水素を回収する第1の蒸留工程と、ii)次いでより低い圧力下での、160℃以上の蒸留により、アントラキノン類を回収する第2の蒸留工程とを有し、極性溶媒が第1の蒸留工程または第2の蒸留工程で回収されることを特徴とする過酸化水素の製造方法に関する(以下、「本発明の過酸化水素製造方法B」と称する場合がある)。この態様は、本発明の過酸化水素製造方法と、作動溶液に含まれる極性溶媒がトリオクチルホスフェートに特定されていない点、および、極性溶媒が第1の蒸留工程または第2の蒸留工程で回収される点が異なる以外は同じである。例4が示すとおり、粗再生作動溶液をアルカリ洗浄することにより、水で洗浄した場合に比べ、得られる再生作動溶液の水添活性を向上させることができるが、このことは、トリオクチルホスフェート以外の極性溶媒を含む作動溶液にも該当すると考えられる。本発明の過酸化水素製造方法に係る上記記載は、極性溶媒がトリオクチルホスフェートに特定されておらず、極性溶媒が第1の蒸留工程または第2の蒸留工程のいずれかで回収されるという条件のもとで、本発明の過酸化水素製造方法Bにも適用される。
【0042】
本発明の過酸化水素製造方法Bにおける極性溶媒は、アントラヒドロキノン類を溶解し得るものであれば特に限定されず、例えば、アルコール(例えば、ジイソブチルカルビノール(DIBC)、2−オクタノール)、四置換尿素(例えば、テトラブチルウレア(TBU))、リン酸エステル(例えば、トリオクチルホスフェート)、2−ピロリドンまたはアルキルシクロヘキシルアセテート(例えば、メチルシクロヘキシルアセテート(MCHA))などを包含する。極性溶媒が回収される蒸留工程は、極性溶媒の種類によって適宜決定することができる。例えば、DIBCや2−オクタノールは第1の蒸留工程で回収し、TOPやTBUは第2の蒸留工程で回収することができる。
【0043】
本発明の別の態様は、芳香族炭化水素と、極性溶媒と、アントラキノン類と、過酸化水素の生成に伴い副生する不活性物質とを含む過酸化水素製造用作動溶液から、前記不活性物質を除去し、該不活性物質が除去された粗再生作動溶液を調製する作動溶液再生工程と、前記粗再生作動溶液をアルカリ洗浄し、循環用再生作動溶液を調製する循環用再生作動溶液調製工程とを有し、
前記作動溶液再生工程が、i)大気圧またはそれ以下の圧力下での蒸留により芳香族炭化水素を回収する第1の蒸留工程と、ii)次いでより低い圧力下での、160℃以上の蒸留により、アントラキノン類を回収する第2の蒸留工程とを有し、極性溶媒が第1の蒸留工程または第2の蒸留工程で回収されることを特徴とする、循環用再生作動溶液の製造方法に関する(以下、「本発明の循環用再生作動溶液製造方法B」と称する場合がある)。
本発明の循環用再生作動溶液製造方法Bの各工程の特徴は、本発明の過酸化水素製造方法Bにおける対応する各工程の特徴と同じである。
【0044】
本発明の別の側面は、蒸留塔、調製槽、洗浄槽、水素化塔、酸化塔および抽出塔を備えた過酸化水素製造システムに関する(以下、「本発明の過酸化水素製造システム」と称する場合がある)。本発明の過酸化水素製造システムは、上記のほか、前段蒸留留出物タンクおよび/または後段蒸留留出物タンクをさらに備えていてもよい。本発明の過酸化水素製造システムの一態様を、以下に図面を参照して説明する。
【0045】
図1には、蒸留塔1、調製槽2、洗浄槽3、水素化塔4、酸化塔5、抽出塔6、前段蒸留留出物タンク9および後段蒸留留出物タンク10を備えた本発明の過酸化水素製造システムAが記載されている。蒸留塔1は不明分排出ライン8と留出物輸送ライン7とを備え、留出物輸送ライン7と前段蒸留留出物タンク9とは、前段蒸留留出物輸送ライン7aにより連通し、留出物輸送ライン7と後段蒸留留出物タンク10とは、後段蒸留留出物輸送ライン7bにより連通し、前段蒸留留出物タンク9と調製槽2とは前段蒸留留出物供給ライン11により連通し、後段蒸留留出物タンク10と調製槽2とは後段蒸留留出物供給ライン12により連通し、調製槽2と洗浄槽3とは、粗再生作動溶液供給ライン13により連通し、洗浄槽3にはアルカリ溶液供給ライン14と水供給ライン15とが接続され、洗浄槽3は廃液ライン17を備え、洗浄槽3と水素化塔4とは循環用再生作動溶液供給ライン16により連通し、水素化塔4は水素化剤供給ライン19と水素化剤循環ライン18とを備え、水素化塔4と酸化塔5とは水素化作動溶液供給ライン20により連通し、酸化塔5は酸化剤供給ライン21と排気ライン22とを備え、酸化塔5と抽出塔6とは酸化作動溶液供給ライン23により連通し、抽出塔6は水供給ライン24と過酸化水素輸送ライン25とを備え、蒸留塔1と抽出塔6とは過酸化水素抽出後作動溶液供給ライン26により連通し、循環用再生作動溶液供給ライン16と過酸化水素抽出後作動溶液供給ライン26とは、過酸化水素抽出後作動溶液循環ライン27により連通している。また、前段蒸留留出物輸送ライン7a、後段蒸留留出物輸送ライン7b、不明分排出ライン8、前段蒸留留出物供給ライン11、後段蒸留留出物供給ライン12、粗再生作動溶液供給ライン13、アルカリ溶液供給ライン14、水供給ライン15、循環用再生作動溶液供給ライン16および廃液ライン17には、バルブVが備えられている。蒸留塔1は、様々な温度(例えば、120℃〜260℃)での減圧蒸留(例えば、0.1kPa〜15kPa)が可能である。
【0046】
作動溶液は、水素化塔4で、水素化剤供給ライン19からの水素を含む水素化剤32(例えば水素ガス、不活性ガス(窒素ガス等)と水素ガスとの混合物など)と反応し、アントラキノン類からアントラヒドロキノン類が生じる。未反応の水素化剤は、水素化剤循環ライン18を経て、繰り返し水素化塔4に供給される。水素化された作動溶液は、水素化作動溶液供給ライン20を通って酸化塔5に入り、アントラヒドロキノン類が酸化剤供給ライン21から送り込まれる酸素を含む酸化剤33(例えば空気、酸素ガスなど)により酸化され、アントラキノン類と過酸化水素を生じる。未反応の酸化剤34は排気ライン22より排気される。酸化され、過酸化水素を含んだ作動溶液は、酸化作動溶液供給ライン23を通って抽出塔6に入り、生成した過酸化水素は、水供給ライン24から供給される水35により過酸化水素水36として、過酸化水素輸送ライン25から回収される。過酸化水素抽出後作動溶液の一部は、過酸化水素抽出後作動溶液供給ライン26を通って蒸留塔1に入り、残りは過酸化水素抽出後作動溶液循環ライン27を通り、循環用再生作動溶液供給ライン16に合流して水素化塔4に戻る。
【0047】
蒸留塔1に入った過酸化水素抽出後作動溶液は、大気圧またはそれ以下の圧力下での前段蒸留に供される。前段蒸留により留出した、芳香族炭化水素を含む前段蒸留留出物は、留出物輸送ライン7および前段蒸留留出物輸送ライン7aを通り、前段蒸留留出物タンク9に収容される。蒸留塔1に残った残渣は、前段蒸留より低い圧力下での、160℃以上の後段蒸留に供される。後段蒸留により留出した、アントラキノン類とトリオクチルホスフェートとを含む後段蒸留留出物は、留出物輸送ライン7および後段蒸留留出物輸送ライン7bを通り、後段蒸留留出物タンク10に収容される。後段蒸留後の残渣である不明分28は不明分排出ライン8より排出される。前段蒸留留出物タンク9に収容された前段蒸留留出物および後段蒸留留出物タンク10に収容された後段蒸留留出物は、前段蒸留留出物供給ライン11および後段蒸留留出物供給ライン12をそれぞれ通り、調製槽2に入り、混合され、粗再生作動溶液が調製される。調製された粗再生作動溶液は、粗再生作動溶液供給ライン13を通って洗浄槽3に入る。粗再生作動溶液は、アルカリ溶液供給ライン14から供給されるアルカリ溶液29により洗浄され、その後、必要に応じて水供給ライン15から供給される水30によりさらに洗浄され、循環用再生作動溶液となる。洗浄に用いたアルカリ溶液または水は廃液31として廃液ライン17より排出される。循環用再生作動溶液は、循環用再生作動溶液供給ライン16を通り、途中過酸化水素抽出後作動溶液循環ライン27からの作動溶液と合流して、水素化塔4に入る。
【0048】
本発明の過酸化水素製造システムは、再結晶槽をさらに備えていてもよい。再結晶槽を備えた本発明の過酸化水素製造システムBの概要を、図2を参照して説明する。なお、過酸化水素製造システムBにおいて、図1に示した過酸化水素製造システムAと同じ構成要素については同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0049】
本態様において、後段蒸留留出物タンク10に接続されている後段蒸留留出物供給ライン12は、再結晶槽37に接続され、再結晶槽37に接続されたアントラキノン類供給ライン40が調製槽2に接続されている。再結晶槽37には、再結晶溶媒供給ライン39、廃液ライン41およびろ液輸送ライン42がさらに接続され、再結晶溶媒供給ライン39は、再結晶溶媒タンク38と再結晶槽37とを連通し、ろ液輸送ライン42は、再結晶槽37と蒸留塔1とを連通している。再結晶溶媒タンク38は、留出再結晶溶媒輸送ライン7dにより留出物輸送ライン7と連通し、調製槽2は、留出TOP輸送ライン7cにより留出物輸送ライン7と連通している。再結晶槽37は、温度調節装置を備えており、アントラキノン類の再結晶溶媒への加熱溶解と、その後の冷却によるアントラキノン類の再結晶が可能となっている。再結晶槽37はまた、フィルターを備えており、再結晶したアントラキノン類をろ別することが可能となっている。
【0050】
本態様において、後段蒸留留出物タンク10に収容されている後段蒸留留出物は、後段蒸留留出物供給ライン12を通り再結晶槽37に入る。再結晶槽37に、再結晶溶媒供給ライン39から再結晶溶媒が供給され、アントラキノン類を加熱溶解した後冷却することで、後段蒸留留出物に含まれるアントラキノン類が再結晶する。再結晶したアントラキノン類は、再結晶槽37に備えられたフィルターにより回収され、アントラキノン類供給ライン40を通り、調製槽2に送られる。フィルターを通過した、トリオクチルホスフェートと再結晶溶媒とを含むろ液は、ろ液輸送ライン42を通って蒸留塔1に送られるか、廃液ライン41から廃棄される。蒸留塔1に送られたろ液から、蒸留により再結晶溶媒とトリオクチルホスフェートとを別々に留出させ、留出した再結晶溶媒は留出物輸送ライン7および留出再結晶溶媒輸送ライン7dを通り、再結晶溶媒タンク38に収容され、留出したトリオクチルホスフェートは、留出物輸送ライン7および留出TOP輸送ライン7cを通り、調製槽2に送られる。
【0051】
本発明の過酸化水素製造システムは、上記に説明した態様に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で種々の改変が可能である。例えば、図1に示した過酸化水素製造システムAにおいて、(A1)前段蒸留留出物タンク9とこれに接続する前段蒸留留出物輸送ライン7aとを設けずに、留出物輸送ライン7と調製槽2とを前段蒸留留出物供給ライン11で連通すること、(A2)後段蒸留留出物タンク10とこれに接続する後段蒸留留出物輸送ライン7bとを設けずに、留出物輸送ライン7と調製槽2とを後段蒸留留出物供給ライン12で連通すること、(A3)前段蒸留留出物タンク9およびこれに接続する前段蒸留留出物輸送ライン7aと、後段蒸留留出物タンク10およびこれに接続する後段蒸留留出物輸送ライン7bとを設けずに、留出物輸送ライン7と調製槽2とを、前段蒸留留出物供給ライン11と後段蒸留留出物供給ライン12で連通すること、(A4)留出物輸送ライン7と、前段蒸留留出物タンク9およびこれに接続する前段蒸留留出物輸送ライン7aと、後段蒸留留出物タンク10およびこれに接続する後段蒸留留出物輸送ライン7bとを設けずに、蒸留塔1と調製槽2とを、前段蒸留留出物供給ライン11と後段蒸留留出物供給ライン12で連通すること、などが可能である。
【0052】
また、図2に示した過酸化水素製造システムBにおいては、過酸化水素製造システムAについて上記した改変(A1)〜(A4)のほか、例えば、(B1)ろ液輸送ライン42と、留出再結晶溶媒輸送ライン7dとを設けないこと、(B2)留出TOPタンクを設け、留出物輸送ライン7と留出TOPタンクとを留出TOP輸送ライン7cにより連通し、留出TOPタンクと調製槽2とを留出TOP供給ラインにより連通すること、(B3)再結晶槽37にフィルターを設けず、アントラキノン類供給ライン40の途中に設けること、などが可能である。
さらに、過酸化水素製造システムAおよびBのいずれにおいても、必要に応じてラインの少なくとも1つにポンプや追加のバルブ、分岐ラインを設けることや、バルブを備えたラインからバルブを取り除くことが可能である。
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
<分析方法>
ガスクロマトグラフ分析装置を用いて、作動溶液および各操作で得たサンプル中の芳香族炭化水素、トリオクチルホスフェート、2−エチルアントラキノンおよび2−エチルテトラヒドアントラキノンを定量した。ガスクロマトグラフ分析装置は、島津製作所社製ガスクロマトグラフGC−2014を用いた。カラムは、Agilent社製キャピラリカラムDB−5MSを用いた。なお、上記成分以外のすべての物質を「不明分」として表記した。「不明分」の大部分が不活性物質と推測される。
【0055】
初期作動溶液および循環用再生作動溶液の密度は、京都電子工業社製密度比重計DA−640を用いて測定し、粘度は、東京計器社製B型粘度計を用いて測定した。
初期作動溶液および循環用再生作動溶液の水添活性は以下の方法で評価した。100mLの2つ口フラスコに水素化触媒と作動溶液を入れた。フラスコの1つの口に攪拌機を接続し、もう1つの口は水素供給部に接続した。またフラスコは密閉されている。水素供給部は、水素計量管とU字管マノメーターと水貯液部からなり、水素化反応中はU字管マノメーターの液面の変化に合わせて水溜液部の高さを調節することで、フラスコ内圧と大気圧を等しく保った。水素吸収量は、水素計量管内の液面高さの差として測定した。フラスコを30℃の水浴に浸し、10分間静置した。フラスコ内の排気と水素導入を3回繰り返した後、撹拌機を作動させた。水素吸収開始から30分後までの水素吸収量を測定した。水素吸収量は0℃、1atmでの値に換算した。水素化触媒の活性値は単位水素化触媒重量当たりの標準状態水素吸収速度[NmL/(min×g)]で表した。水素化触媒には、120℃で乾燥した2重量%Pd/シリカ0.05gまたは120℃で乾燥した1重量%Pd/シリカアルミナ0.1gを用いた。
【0056】
例1
本発明における第1の蒸留工程および第2の蒸留工程を小スケールで実施し、初期作動溶液と循環用再生作動溶液とを比較した。
<第1の蒸留工程>
蒸留装置に備えられた500mLフラスコに作動溶液を400g仕込んだ。減圧下で蒸留を行い、真空度は終始1.3kPaにコントロールした。フラスコ内の温度が室温から182℃になるまで温度を上げた。最終的に1.3kPa、182℃の条件下で留出がなくなるまで蒸留を続けた。
<第2の蒸留工程>
第1の蒸留工程で得た残渣を、第1の蒸留工程より低い圧力で蒸留した。真空度は、蒸留開始からしばらくは0.03kPa〜0.15kPaの間で変動したが、最終的に0.08kPaで安定した。フラスコ内の温度が室温から202℃になるまで温度を上げた。最終的に0.08kPa、202℃の条件下で留出がなくなるまで蒸留を続けた。
<蒸留結果>
初期作動溶液と各蒸留工程によって回収した留出物、残渣の組成を表1に示した。芳香族炭化水素としては、高沸点芳香族ナフサ(スワゾール1500、丸善石油化学社製、CAS No.64742−94−5)を使用した(例2〜4も同様)。なお、蒸留中には、テトラヒドロアントラキノンのアントラキノンへの転化をはじめ、種々の反応が生じるため、成分によっては、初期作動溶液より重量が増加したものもある。また、「ロス分」は、実験中にロスした量を表す(原因としてコールドトラップやポンプへのロス等が考えられる)。
【0057】
【表1】
【0058】
<循環用再生作動溶液の評価>
各蒸留工程で回収した留出物から再生作動溶液を調製した。初期作動溶液と近しい溶媒組成比になるように、第2の蒸留工程の留分に第1の蒸留工程の留分を加え、粗再生作動溶液とした。以下に、初期作動溶液および粗再生作動溶液の組成を示した。
【表2】
【0059】
粗再生作動溶液を、2倍体積量の30wt%水酸化ナトリウム水溶液、2倍体積量の純水で順次洗浄し、循環用再生作動溶液とした。初期作動溶液と循環用再生作動溶液の密度、粘度、水添活性を比較した結果を以下に示した。なお、水添活性を評価する際、水素化触媒として120℃で乾燥した2重量%Pd/シリカ0.05gを用いた。
【表3】
【0060】
<アントラキノン類の単離>
第2の蒸留工程の留出物32gにエタノール約200mLを加え、加熱溶解させた後、室温まで冷却した(再結晶)。結晶をろ別後、乾燥した。以下に、第2の蒸留工程の留出物および再結晶で回収した結晶の組成を示した。アントラキノン類を、回収率64%でトリオクチルホスフェートおよび不明分から分離することができた。この方法で、回収したアントラキノン類は、作動溶液の成分として再利用することができる。
【表4】
【0061】
例2
本発明における第1の蒸留工程および第2の蒸留工程を、例1とは異なる条件下で実施し、初期作動溶液と循環用再生作動溶液とを比較した。
<第1の蒸留工程>
蒸留装置に備えられた500mLフラスコに作動溶液を351g仕込んだ。減圧下で蒸留を行い、真空度は、終始1.3kPaにコントロールした。フラスコ内の温度が室温から157℃になるまで温度を上げた。最終的に1.3kPa、157℃の条件下で留出がなくなるまで蒸留を続けた。
<第2の蒸留工程>
第1の蒸留工程で得た残渣を、第1の蒸留工程より低い圧力で蒸留した。真空度は、蒸留開始からしばらくは10Pa〜150Paの間で変動したが、最終的に0.01kPa〜0.04kPaで安定した。フラスコ内の温度が室温から181℃になるまで温度を上げた。最終的に0.01kPa、181℃の条件下で留出がなくなるまで蒸留を続けた。
<蒸留結果>
初期作動溶液と各蒸留工程によって回収した留出物、残渣の組成を表5に示した。
【0062】
【表5】
【0063】
例1と同様の方法で、粗再生作動溶液を調製した。表6に初期作動溶液および粗再生作動溶液の組成を示した。
【表6】
【0064】
例1と同様の洗浄工程により、循環用再生作動溶液を調製した。表7に初期作動溶液と循環用再生作動溶液の密度、粘度、水添活性の比較を示した。なお、水添活性を評価する際、水素化触媒として、120℃で乾燥した1重量%Pd/シリカアルミナ0.1gを用いた。
【表7】
【0065】
例3
本発明における第1の蒸留工程および第2の蒸留工程を、例1、2とは異なる条件下で実施し、初期作動溶液と循環用再生作動溶液とを比較した。
<第1の蒸留工程>
蒸留装置に備えられた500mLフラスコに例2と同じ作動溶液を351g仕込んだ。減圧下で蒸留を行い、真空度は終始1.3kPaにコントロールした。フラスコ内の温度が室温から180℃になるまで温度を上げた。最終的に1.3kPa、180℃の条件下で留出がなくなるまで蒸留を続けた。
<第2の蒸留工程>
第1の蒸留工程で得た残渣を、第1の蒸留工程より低い圧力で蒸留した。真空度は、終始0.13kPaにコントロールした。フラスコ内の温度が室温から250℃になるまで温度を上げた。最終的に0.13kPa、250℃の条件下で留出がなくなるまで蒸留を続けた。
<蒸留結果>
初期作動溶液と各蒸留工程によって回収した留出物、残渣の組成を表8に示した。
【0066】
【表8】



【0067】
例1と同様の方法で、粗再生作動溶液を調製した。表9に初期作動溶液および粗再生作動溶液の組成を示した。
【表9】
【0068】
例1と同様の洗浄工程により、循環用再生作動溶液を調製した。表10に密度、粘度、水添活性の比較を示した。なお、水添活性を評価する際、水素化触媒として、120℃で乾燥した1重量%Pd/シリカアルミナ0.1gを用いた。
【表10】
【0069】
例4
例2で調製した粗再生作動溶液を、2倍体積量の純水で2回洗浄し、循環用再生作動溶液(純水洗浄)とした。例2と同様の方法で、水添活性試験を実施した。水素化触媒には、120℃で乾燥した1重量%Pd/シリカアルミナ0.1gを用いた。表11に水添活性試験の結果を示した。純水洗浄のみを行った循環用再生作動溶液の水添活性は初期作動溶液より高かったが、アルカリ洗浄した循環用再生作動溶液(例2)の方が水添活性がより高かった。
【表11】
【符号の説明】
【0070】
1 :蒸留塔
2 :調製槽
3 :洗浄槽
4 :水素化塔
5 :酸化塔
6 :抽出塔
7 :留出物輸送ライン
7a:前段蒸留留出物輸送ライン
7b:後段蒸留留出物輸送ライン
7c:留出TOP輸送ライン
7d:留出再結晶溶媒輸送ライン
8 :不明分排出ライン
9 :前段蒸留留出物タンク
10:後段蒸留留出物タンク
11:前段蒸留留出物供給ライン
12:後段蒸留留出物供給ライン
13:粗再生作動溶液供給ライン
14:アルカリ溶液供給ライン
15:水供給ライン
16:循環用再生作動溶液供給ライン
17:廃液ライン
18:水素化剤循環ライン
19:水素化剤供給ライン
20:水素化作動溶液供給ライン
21:酸化剤供給ライン
22:排気ライン
23:酸化作動溶液供給ライン
24:水供給ライン
25:過酸化水素輸送ライン
26:過酸化水素抽出後作動溶液供給ライン
27:過酸化水素抽出後作動溶液循環ライン
28:不明分
29:アルカリ溶液
30:水
31:廃液
32:水素化剤
33:酸化剤
34:未反応酸化剤
35:水
36:過酸化水素水
37:再結晶槽
38:再結晶溶媒タンク
39:再結晶溶媒供給ライン
40:アントラキノン類供給ライン
41:廃液ライン
42:ろ液輸送ライン
V :バルブ
図1
図2