特許第6972826号(P6972826)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972826
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】固体試料分析装置及び固体試料分析方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/14 20060101AFI20211111BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20211111BHJP
   G01N 23/2251 20180101ALI20211111BHJP
   G01N 23/2258 20180101ALI20211111BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20211111BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20211111BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20211111BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20211111BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   H01J49/14
   G01N27/62 G
   G01N23/2251
   G01N23/2258
   H01J37/317 D
   H01J49/42
   H01J49/40
   H01J37/28 B
   H01J37/244
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-180602(P2017-180602)
(22)【出願日】2017年9月20日
(65)【公開番号】特開2018-60785(P2018-60785A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2020年5月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-197304(P2016-197304)
(32)【優先日】2016年10月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】辻 典宏
(72)【発明者】
【氏名】西野宮 卓
【審査官】 後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−211325(JP,A)
【文献】 特開平01−110250(JP,A)
【文献】 特開2016−142722(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0321634(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 40/00−49/48
G01N 23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体試料に対して集束イオンビームを照射する集束イオンビーム照射器と、
前記集束イオンビームが照射されることによって前記固体試料から内部ガスを放出させ、前記内部ガスを構成する分子を電子衝撃イオン化法によりイオン化するイオン化部を有し、前記イオン化した前記内部ガスの成分を分析する第1の質量分析計と、
を備える、固体試料分析装置。
【請求項2】
前記第1の質量分析計は、4重極質量分析計である、請求項に記載の固体試料分析装置。
【請求項3】
前記集束イオンビームが照射されることによって前記固体試料から発生する二次イオンを分析することにより、前記固体試料の成分を分析する第2の質量分析計、
を更に備える、請求項1または2に記載の固体試料分析装置。
【請求項4】
SEM像を生成するために、前記固体試料に対して電子ビームを走査する電子ビーム照射器と、
前記電子ビームが照射されることにより前記固体試料から発生する二次電子を検出する二次電子検出器と、
を更に備える、請求項1〜のいずれか1項に記載の固体試料分析装置。
【請求項5】
前記固体試料は、1つの微粒子である、請求項1〜のいずれか一項に記載の固体試料分析装置。
【請求項6】
前記固体試料は、無機材料を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の固体試料分析装置。
【請求項7】
前記固体試料は、金属材料を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の固体試料分析装置。
【請求項8】
固体試料に対して集束イオンビームを照射しながら、前記集束イオンビームが照射されることによって前記固体試料から放出される内部ガスの構成分子を電子衝撃イオン化法によってイオン化し、前記イオン化した前記内部ガスの成分を質量分析計によって分析する、
固体試料分析方法。
【請求項9】
前記固体試料は、1つの微粒子である、請求項に記載の固体試料分析方法。
【請求項10】
前記固体試料は、無機材料を含む、請求項8又は9に記載の固体試料分析方法。
【請求項11】
前記固体試料は、金属材料を含む、請求項8〜10のいずれか一項に記載の固体試料分析方法。
【請求項12】
前記固体試料は、表面処理層が形成された金属板である、請求項に記載の固体試料分析方法。
【請求項13】
前記固体試料は、積層造形法により形成された構造体を含む、請求項に記載の固体試料分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体試料分析装置及び固体試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体中の組成や成分の分布を解析し、当該固体に関する情報を得ることは、当該固体の由来や、固体に起因する問題を解決する上で非常に有用である。特に、ある固体の局所的な微小領域や、個々の微小な固体を解析可能であれば、固体に関する情報をより詳細に得ることが可能である
【0003】
例えば、PM10やPM2.5等の粒子状物質は、大気中を長時間浮遊し、人間の体内に侵入すると、様々な健康被害を引き起こすことが知られている。その中でも、特に、PM2.5については、人体に対して特に大きな影響を及ぼすことが懸念されている。
【0004】
そこで、このような大気中を浮遊する微粒子については、その発生源(排出源)を特定するための技術が求められている。微粒子の発生源や、その後の飛散履歴を特定することができれば、より有効な対策を講じることが可能となるからである。
【0005】
しかしながら、通常、大気中に浮遊している微粒子には、様々な発生源に起因するものが混ざり合っている。従って、ある微粒子群の発生源を正確に知るためには、粒子ごとに発生源を特定することが求められている。
【0006】
ここで、ある1つの微粒子に注目した場合、その粒子径、成分(組成)及び濃度等は、発生源ごとにその特徴が異なると考えられる。つまり、これらの情報は、微粒子ごとの発生源を示す有力な情報であり得る。従って、大気中から採取した微粒子群を分析し、微粒子ごとにこれらの情報を得ることができれば、微粒子ごとの発生源を特定することができる。複数の微粒子に対する分析結果から、微粒子群についての粒子径、成分及び濃度等の代表値を求めれば、当該微粒子群に対する発生源の影響を切り分けることができる可能性がある。
【0007】
しかしながら、例えばPM2.5の分析については公定法が規定されているが、当該公定法では、フィルタ等で採取したPM2.5の粒子群全ての平均組成しか把握することができない。つまり、粒子ごとの粒子径、成分及び濃度等についての情報を得ることはできない。発生源を特定するためのマーカーとなり得る成分が検出されれば、公定法による分析であっても発生源を切り分けることができる可能性はあるが、通常はそのようなケースはほとんど生じ得ない。
【0008】
そこで、微粒子に対して1粒子解析を行う技術が開発されている。1粒子解析では、採取した微粒子群について、1粒子ごとに、その粒子径、成分及び濃度等が解析され得る。例えば、本願出願人による先行出願である特許文献1、2には、試料台に載置された微粒子に電子ビーム(EB:Electron Beam)を照射する電子ビーム照射器と、電子ビームの照射により当該微粒子から発生する二次電子を検出する検出器と、当該微粒子に集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を照射する集束イオンビーム照射器と、集束イオンビームの照射により当該微粒子から発生する二次イオンを検出する質量分析器と、を有する分析装置を用いて、当該微粒子に対して1粒子解析を行う分析方法が開示されている。当該分析方法では、電子ビームの照射により発生した二次電子を検出した結果に基づいてSEM像が生成され、当該SEM像に基づいて分析対象の微粒子を特定するとともに当該微粒子の粒子径が測定され得る。そして、集束イオンビームの照射により微粒子から発生した二次イオンを検出した結果に基づいて、当該微粒子の成分が分析され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−39521号公報
【特許文献2】特開2011−163872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されるような従来の分析技術においては、固体試料中に含まれ得る内部ガスを想定しておらず、当該内部ガスの分析ができなかった。
【0011】
例えば、大気中を浮遊する微粒子には、その内部に空間が存在することがあり、当該空間内にガスが閉じ込められている場合がある。この微粒子の内部に閉じ込められているガス(以下、内部ガスともいう)の種類や組成は、当該微粒子の発生源によって異なると考えられるため、当該内部ガスについての情報は、微粒子の発生源を特定するために有用な情報であり得る。しかしながら、特許文献1、2に記載の分析装置を含め、従来の1粒子解析用の分析装置では、微粒子の内部ガスを粒子ごとに分析することはできなかった。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、固体試料の解析において、固体試料中の内部ガスに関する情報を得ることが可能な、新規かつ改良された固体試料分析装置及び固体試料分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、固体試料に対して集束イオンビームを照射する集束イオンビーム照射器と、前記集束イオンビームが照射されることによって前記固体試料から内部ガスを放出させ、前記内部ガスを構成する分子を電子衝撃イオン化法によりイオン化するイオン化部を有し、前記イオン化した前記内部ガスの成分を分析する第1の質量分析計と、を備える、固体試料分析装置が提供される。
【0014】
また、当該固体試料分析装置においては、前記イオン化部は電子衝撃イオン化装置によって構成されてもよい。
【0015】
また、当該固体試料分析装置においては、前記第1の質量分析計は、4重極質量分析計であってもよい。
【0016】
また、当該固体試料分析装置は、前記集束イオンビームが照射されることによって前記固体試料から発生する二次イオンを分析することにより、前記固体試料の成分を分析する第2の質量分析計、を更に備えてもよい。
【0017】
また、当該固体試料分析装置は、SEM像を生成するために、前記固体試料に対して電子ビームを走査する電子ビーム照射器と、前記電子ビームが照射されることにより前記固体試料から発生する二次電子を検出する二次電子検出器と、を更に備えてもよい。
【0018】
また、前記固体試料は、1つの微粒子であってもよい。
【0019】
また、前記固体試料は、無機材料を含んでもよい。
【0020】
また、前記固体試料は、金属材料を含んでもよい。
【0021】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、固体試料に対して集束イオンビームを照射しながら、前記集束イオンビームが照射されることによって前記固体試料から放出される内部ガスの構成分子を電子衝撃イオン化法によってイオン化し、前記イオン化した前記内部ガスの成分を質量分析計によって分析する、固体試料分析方法が提供される。
【0022】
また、前記固体試料は、1つの微粒子であってもよい。
【0023】
また、前記固体試料は、無機材料を含んでもよい。
【0024】
また、前記固体試料は、金属材料を含んでもよい。
【0025】
また、前記固体試料は、表面処理層が形成された金属板であってもよい。
【0026】
また、前記固体試料は、積層造形法により形成された構造体であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明によれば、固体試料の解析において、内部ガスに関する情報を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態に係る固体試料分析装置の構成を略水平方向から見た様子を概略的に示す図である。
図2】本実施形態に係る固体試料分析装置の構成を略直上方向から見た様子を示す図である。
図3】実施例1における解析終了後の解析対象の粒子のSIM(走査イオン顕微鏡)像を示す図である。
図4】実施例1における4重極質量分析計による質量分析の結果を示すグラフ図である。
図5】実施例2における解析終了後の解析対象のSIM(走査イオン顕微鏡)像を示す図である。
図6】実施例2における4重極質量分析計による質量分析の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0030】
(1.固体試料分析装置の構成)
図1及び図2を参照して、本実施形態に係る固体試料分析装置の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る固体試料分析装置の構成を略水平方向から見た様子を概略的に示す図である。図2は、本実施形態に係る固体試料分析装置の構成を略直上方向から見た様子を示す図である。なお、図2では、各部材の位置関係を明確にするために、後述する飛行時間型質量分析計107についてはその輪郭のみを二点鎖線で模擬的に示している。
【0031】
なお、以下では、固体試料の一例として、1つの微粒子を挙げて本発明について詳細に説明を行う。この場合、本実施形態の固体試料分析装置は、微粒子分析装置ともいうことができる。なお、後述するように、解析対象としての固体試料が微粒子に限定されないことは言うまでもない。
【0032】
本明細書において、「微粒子」とは、例えば、粒子径が10μm以下である粒子状物質のことを意味する。ただし、本発明は、粒子状物質の中でも、特にPM2.5の分析を対象としている。従って、以下の実施形態では、分析対象である粒子状物質がPM2.5である場合について説明を行うこととし、以下の実施形態についての説明において、「微粒子」との表現は、特に記載のない限り、PM2.5のことを意味することとする。ただし、本発明はかかる例に限定されず、粒子径が10μm以下であるような他の大きさの微粒子に対しても好適に適用可能である。
【0033】
図1を参照すると、固体試料分析装置10は、サンプルステージ101と、ステージホルダー103と、集束イオンビーム照射器105と、飛行時間型質量分析計107と、4重極質量分析計109と、を備える。図示は省略しているが、これらの部材がチャンバー内に設置されることにより、固体試料分析装置10が構成される。なお、チャンバー内は、その内部空間が減圧可能に構成されており、より具体的には、チャンバー内の内部空間の真空状態を維持することが可能に構成されている。これにより、微粒子201から放出される微量のガスを選択的に検出、特定することができる。すなわち、固体試料分析装置10の分析感度を向上させることができる。
【0034】
解析対象である微粒子201が表面上に捕集されたフィルタ203が、サンプルステージ101の上に固定的に載置される。微粒子201(PM2.5)は、採取した粒子群(例えば大気中の粒子群)を、粒子径ごとに分級器によって分級することによって得られる。本実施形態では、微粒子201の捕集方法は限定されず、各種の公知の方法が用いられてよい。例えば、分級器としては、バーチャルインパクタ、サイクロン式分級器等、各種の公知の装置が用いられてよい。また、フィルタ203としては、シリカフィルタや、Siウェハー等、一般的に分級器において粒子を分級し捕集する際に用いられている各種の公知のものが用いられてよい。なお、図1では、模擬的に、微粒子201を表す1つの球体を図示しているが、実際には、フィルタ203上に多数の微粒子201(すなわち、微粒子群)が捕集されている。
【0035】
ステージホルダー103は、サンプルステージ101を支持する。ステージホルダー103は、サンプルステージ101の高さ及び水平面内での位置が調整できるように、当該サンプルステージ101を互いに直交する3方向(鉛直方向、前後方向及び左右方向)に移動可能に構成され得る。係る構成により、試料をあらゆる角度から分析可能であり、試料の加工面によることなく、固体試料を分析することが可能となる。
【0036】
集束イオンビーム照射器105は、サンプルステージ101上の微粒子201に集束イオンビームを照射する。集束イオンビーム照射器105としては、一般的に微粒子の一粒子解析に用いられる微粒子分析装置(例えば、FIB−TOF−SIMS(FIB−Time of Flight−Secondary Ion Mass Spectrometry)装置や、特許文献1、2に記載の微粒子分析装置)において用いられているものが適宜適用されてよい。例えば、集束イオンビーム照射器105としては、Gaイオン源からイオンビームを取り出し照射するものが用いられ得る。
【0037】
飛行時間型質量分析計107は、微粒子201についてSIMS分析を行うための質量分析計である。飛行時間型質量分析計107は、集束イオンビーム照射器105によって集束イオンビームが照射されることにより微粒子201から生じる二次イオンについて、質量分析を行う。飛行時間型質量分析計107による質量分析の結果に基づいて、集束イオンビームが照射されている微粒子201の成分を分析することができる。
【0038】
4重極質量分析計109は、微粒子201の内部ガスを分析するための質量分析計である。集束イオンビーム照射器105によって集束イオンビームが照射されることにより、微粒子201の表面が削られ、やがて微粒子201内の空間まで達する開口部が形成される。4重極質量分析計109は、かかる開口部から外部に放出される微粒子201の内部ガスについて質量分析を行う。4重極質量分析計109による質量分析の結果に基づいて、微粒子201の内部ガスの成分を分析することができる。
【0039】
4重極質量分析計109のサンプルステージ101に向けられた(すなわち、解析対象である微粒子201に向けられた)先端側には、内部ガスをイオン化するためのイオン化部が設けられる。本実施形態では、当該イオン化部は、電子衝撃法(EI(Electron Impact)法)によって分子をイオン化する電子衝撃イオン化装置によって構成される。具体的には、当該イオン化部にはフィラメントが設けられており、当該フィラメントから放射される熱電子によって微粒子201の内部ガスを構成する分子がイオン化され、4重極質量分析計109によって質量分析される。電子衝撃法は、通過する内部ガスを構成する分子に対する応答性に優れている。したがって、微粒子201が内部ガスをごく少量しか含まない場合であっても、電子衝撃イオン化装置によって構成されるイオン化部において内部ガスをイオン化し、4重極質量分析計109において検出することが可能である。すなわち、電子衝撃イオン化装置は、少量の内部ガスを分析する場合に適している。
【0040】
ここで、4重極質量分析計109については、微粒子201のごく少量の内部ガスを好適に検出し得るように、その内部ガスをサンプリングするサンプリング口(より詳細には、イオン化部のサンプリング口)が、サンプルステージ101(すなわち、解析対象である微粒子201)のできるだけ近くに配置されることが好ましい。本発明者らによる検討の結果、当該サンプリング口を解析対象である微粒子201から3cm以内に近付けることにより、内部ガスの成分について十分な検出精度が得られることが判明している。なお、当該サンプリング口が解析対象である微粒子201に近ければ近いほど、内部ガスの成分の検出精度は良好になり得るが、実際には、装置構成的な観点(例えば、チャンバーの構造や、チャンバー内に設けられる他の部材との位置関係等)から、当該サンプリング口を当該微粒子201に接近させることができる距離には限界が存在する。従って、まとめると、4重極質量分析計109のサンプリング口は、その解析対象である微粒子201との距離が少なくとも3cm以下となるように、より望ましくは装置構成的な観点から許される限界まで当該微粒子201に近付けて配置されることが好ましい。
【0041】
ここで、検出される内部ガスとしては、その構成する気体分子がイオン化部によりイオン化が可能であり、かつ4重極質量分析計109において検出可能であれば、特に限定されない。例えば、内部ガスは、無機物質であっても、有機物質であってもよい。無機物質としては、特に限定されないが、例えば、大気中に一般に含まれ得る気体物質、窒素、酸素、水素、水蒸気、二酸化炭素、アルゴン、ネオン、ヘリウム、クリプトン、キセノン、一酸化炭素、オゾン、二酸化硫黄、二酸化窒素およびよう素等の他、工業的に発生する、または使用される気体物質、例えば塩化水素、塩素、アンモニア等が挙げられる。有機物質としては、例えば有機溶剤やその他低分子有機化合物由来の気体物質、例えば、メタン、エタン、メタノール、エタノール、キシレン、トルエン等や、高分子化合物の気化物、そのフラグメント等が挙げられる。
【0042】
なお、図示は省略するが、固体試料分析装置10には、当該固体試料分析装置10の動作を制御するための制御装置が設けられる。当該制御装置は、以上説明した、固体試料分析装置10の各構成部材の動作を制御し得る。例えば、当該制御装置は、集束イオンビーム照射器105や電子ビーム照射器の動作を制御し、微粒子201に対して集束イオンビームや電子ビームを照射させる。また、当該制御装置は、各検出器による二次電子や二次イオンの検出結果に基づいてSEM像や二次イオン像を生成したり、各質量分析器による分析結果に基づいて、微粒子201及び微粒子201の内部ガスの成分分析を行うことができる。当該制御装置は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、又はプロセッサとメモリ等の記憶素子が搭載された制御基板等であり得る。あるいは、当該制御装置は、PC(Personal Computer)等の汎用的な情報処理装置であってもよい。当該制御部のプロセッサが所定のプログラムに従って演算処理を実行することにより、以上説明した各種の機能が実現され得る。
【0043】
(2.固体試料の分析方法)
次に、本実施形態に係る固体試料の分析方法について説明する。本実施形態に係る固体試料の分析方法は、固体試料に対して集束イオンビームを照射しながら、前記集束イオンビームが照射されることによって前記固体試料から放出される内部ガスの成分を質量分析計によって分析する、分析方法である。
【0044】
なお、以下では、上述した固体試料分析装置10を使用した例を挙げて、本実施形態に係る固体試料の分析方法を説明するが、本実施形態に係る分析方法は、これに限定されず、上述した固体試料分析装置10以外の装置によって行われてもよい。また、当然固体試料も、以下に挙げる1つの微粒子に限定されないことは言うまでもない。
【0045】
1粒子解析を行う際には、まず、チャンバー内が真空にされる。そして、フィルタ203上の微粒子群のうちで、解析対象とする1つの微粒子201に対して、集束イオンビーム照射器105から集束イオンビームが照射される。集束イオンビームの照射により得られた二次イオンが飛行時間型質量分析計107によって分析される。なお、微粒子群の中から解析対象とする1つの微粒子201を特定する際には、フィルタ203上の微粒子群に対して集束イオンビームを走査して全二次イオン像を生成し、当該全二次イオン像に基づいて当該解析対象とする1つの微粒子201が特定されてよい。
【0046】
解析対象である微粒子201の殻に開口部が形成され内部ガスが放出されるまで、当該微粒子201に対する集束イオンビームの照射が継続して行われる。そして、放出された内部ガスが4重極質量分析計109によって分析される。この際、微粒子201内に空間が存在するかどうかや、当該空間に内部ガスが存在するかどうか、内部ガスが存在する場合に当該内部ガスが放出されるタイミング(すなわち、微粒子201の殻に開口部が形成されるタイミング)を事前に調査することは困難である。従って、本実施形態では、微粒子201に対して集束イオンビームを照射している間、4重極質量分析計109による質量分析を連続的に行う。連続的に分析を行うことにより、内部ガスが放出されたタイミングで、当該内部ガスに含まれる何らかの分子が検出されることとなる。つまり、換言すれば、固体試料分析装置10では、4重極質量分析計109による質量分析の結果により、はじめて、解析対象としている微粒子201に内部ガスが存在するかどうかも同定される。
【0047】
以上、本実施形態に係る固体試料分析装置10の構成と固体試料の分析方法について説明した。以上説明したように、本実施形態によれば、1つの微粒子201について、飛行時間型質量分析計107によって当該微粒子201自体の成分を分析することができ、4重極質量分析計109によって当該微粒子201の内部ガスの成分を分析することができる。微粒子201自体の成分に加えて、当該微粒子201の内部ガスの成分まで分析できることにより、当該微粒子201の発生源の特定に有用なより多くの情報を得ることができる。従って、1粒子解析の結果に基づく微粒子201の発生源の特定の精度をより向上させることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、上記の微粒子のように微小であり、かつ微小空間を有する固体試料に対して、分析適用が可能であるため、固体試料の大小によらず、固体試料中の任意の局所的かつ微小な領域について、より精確な分析が可能となる。このように、本実施形態に係る固体試料分析装置10及び固体試料の分析方法によれば、固体試料の解析において当該固体試料の内部ガスに関する有用な情報を得ることができる。
【0049】
(3.変形例)
次に、本発明の上述した実施形態の幾つかの変形例を説明する。なお、以下に説明する各変形例は、単独で上記実施形態に適用されてもよいし、組合せで本発明の上記実施形態に適用されてもよい。また、各変形例は、上記実施形態で説明した構成に代えて適用されてもよい。
【0050】
(3.1.固体試料)
上述した実施形態においては、解析対象としての固体試料が1つの微粒子であると説明したが本発明は係る例に限定されない。上記実施形態に係る固体試料分析装置および分析方法は、解析対象が固体であれば特に限定されず、無機材料、有機材料またはこれらの複合材料のいずれにも適用可能である。
【0051】
無機材料としては、例えば金属板などの金属材料やセラミックス等が挙げられる。有機材料としては、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂やその他低分子化合物、シリコーン等の珪素系有機材料が挙げられる。これらのうち、無機材料は、成分の揮発が比較的少なく、上記分析方法において固体試料自体の分解等に伴って生成し放出される気体の量が少ない。上述した実施形態においては、固体試料を真空雰囲気下で分析するところ、無機材料に存在する微量の内部ガスを選択的に特定しやすく、またその量も精度よく測定することができる。
【0052】
また、その製造工程上において、内部空間が生じ得る材料を固体試料としてもよい。例えば、固体試料は、表面処理層を有する金属材料、特に鋼板、チタン板等の金属板や、積層造形法により形成された構造体であってもよい。なお、上述した表面処理層としては、例えば、溶融めっき層および電解めっき層等の金属めっき層、化成処理層ならびに塗膜等が挙げられる。
【0053】
表面処理層を有する金属板は、金属板表面に表面処理層を形成する時において、その形成条件等によっては、表面処理層と金属板との界面や表面処理層中に空隙が生じる場合がある。例えば、塗膜を表面処理層として有する塗装金属板等においては、塗膜上に微小の膨れ部、いわゆる「ワキ」、が観察される場合がある。塗装金属板においては、膨れ部が存在すると外観不良等の製品不良を引き起こす場合があるため、膨れ部の発生を抑制する必要がある。そのため、上述した固体試料分析装置10を使用して、当該膨れ部に含まれる内部ガスを分析することにより、膨れ部の発生原因を特定することが可能となり、膨れ部発生の抑制に寄与することができる。特に、平滑な塗装表面等が強く要求される塗装鋼板では、塗装鋼板中の内部ガス成分を本発明に係る分析方法を適用することは、非常に有用である。
【0054】
また、積層造形法を用いて成形された構造体に、本発明に係る分析方法を適用することもできる。積層造形法を用いて成形された構造体は、例えば、EBM(Electron Beam Melting)法を用いて形成される。EBM法では、真空中にて、金属粉末に電子線を照射して溶融させ、当該金属粉末由来の層を一層ずつ重ねていくことで、3次元の造形を行う。金属粉末は、例えば、溶融金属をノズルから流下させる際に、流下中の溶融金属に噴射ノズルから不活性ガスを噴射して粉粒化するガスアトマイズ法で生成される。EBM法で造形された製品の表面には気泡が観察されることがあり、このような気泡は製品の外観上好ましくない。よって、固体試料が、積層造形法を用いて成形された構造体である場合においても、その気泡に対して本発明に係る固体試料分析装置または固体試料分析方法を適用することにより、気泡の発生原因を特定して、効率的に製造工程の改善を行うことができる。
【0055】
この構造体における気泡の発生原因としては、例えば、ガスアトマイズ時に、金属粒子中に内包されていた不活性ガス(例えば、アルゴン)、表面の酸化層の酸素、またはEBM造形時になんらかの原因で巻き込まれた空気などの残存ガス等の原因が考えられる。このように様々な原因が考えられるため、固体試料分析装置を使用して、生成した気泡のガス種及び組成などの分析情報を得ることができれば、ガスアトマイズからEBM造形を含むプロセス全体のどの部分をどのように改良すべきかを、効率的に選択できる。
【0056】
(3.2.装置構成)
本実施形態に係る固体試料分析装置10の構成は以上説明したものに限定されない。固体試料分析装置10は、以下のように構成されてもよい。
【0057】
例えば、内部ガスの成分を分析することに特化して固体試料分析装置10を構成する場合であれば、以上説明した構成において、飛行時間型質量分析計107は設けられなくてもよい。かかる構成の場合、集束イオンビーム照射器105によって解析対象である1つの微粒子201に対して集束イオンビームが照射され、当該集束イオンビームによって形成された開口部から放出された内部ガスが、4重極質量分析計109によって分析される。
【0058】
また、例えば、固体試料分析装置10には、以上説明した構成に対して、電子ビーム照射器及び二次電子検出器が更に設けられてもよい。この場合、固体試料分析装置は、特許文献1、2に記載の固体試料分析装置に対して、4重極質量分析計109が追加的に設けられたものに対応する装置構成を有することとなる。電子ビーム照射器からフィルタ203上の微粒子群に対して電子ビームが走査され、その電子ビームの走査によって微粒子群から発生した二次電子が二次電子検出器によって検出されることにより、フィルタ203上の微粒子群のSEM像を得ることができる。当該SEM像からは、微粒子201の形状や大きさ(粒子径)等、発生源を特定するために有用な情報を、微粒子201ごとに得ることができる。このように、電子ビーム照射器及び二次電子検出器を更に備える微粒子分析装置を用いて1粒子解析を行うことにより、微粒子201の成分、及び当該微粒子201の内部ガスの成分についての情報に加えて、当該微粒子201の形状等についての情報を更に得ることが可能となる。従って、発生源の特定の精度を更に向上させることができる。なお、電子ビーム照射器及び二次電子検出器を更に備える固体試料分析装置を用いる場合には、SEM像に基づいて、微粒子群の中から解析対象とする1つの微粒子201が特定されてもよい。
【0059】
また、例えば、以上説明した構成では、微粒子201の成分を分析するための、二次イオンを分析する質量分析計として、飛行時間型質量分析計107が用いられていたが、本実施形態はかかる例に限定されない。二次イオンを分析するための質量分析計としては、各種の公知の質量分析計が用いられてよい。
【0060】
また、例えば、以上説明した構成では、微粒子201の内部ガスの成分を分析するための質量分析計として、4重極質量分析計109が用いられていたが、本実施形態はかかる例に限定されない。微粒子201の内部ガスを分析するための質量分析計としては、気体分子を分析し得る各種の公知の質量分析計が用いられてよい。また、上述した構成では、4重極質量分析計109におけるイオン化法として電子衝撃イオン化法が用いられ、それに応じてイオン化部として電子衝撃イオン化装置が用いられていたが、本実施形態はかかる例に限定されない。本実施形態では、イオン化法としては各種の公知の方法が用いられてよく、採用されたイオン化法に応じて、イオン化部も適宜構成されてよい。イオン化部は、例えば化学イオン化法(CI)によって分子をイオン化する化学イオン化装置によって構成されてもよい。
【0061】
ここで、固体試料分析装置10における1粒子解析では、上述した分析だけでなく、固体試料分析装置10の装置構成によって実現可能な分析であれば、既存の固体試料分析装置において一般的に行われている各種の公知の分析が更に行われてもよい。例えば、上記特許文献2に記載されているように、集束イオンビームの照射により微粒子201から発生した二次電子を検出することにより、SIM(走査イオン顕微鏡:Scanning Ion Microscopy)像が得られてもよい。この場合には、当該SIM像に基づいて微粒子201の形状や粒子径等が測定されてもよい。
【0062】
また、固体試料分析装置10は、上記特許文献2に記載の固体試料分析装置と同様に、サンプルステージ101が鉛直方向を回転軸方向として回転可能に構成されてもよい。この場合、集束イオンビームにより微粒子201を切断した後、その切断面に対して略垂直に集束イオンビームが照射されるようにサンプルステージ101を上記回転軸まわりに180度回転させ、当該微粒子201の内部(つまり、内部ガスが閉じ込められていた空間の内壁)に対してSIMS分析が行われてもよい。当該分析方法によれば、微粒子201自体の成分について、表面の成分だけでなく、内部の成分も分析することが可能になる。また、微粒子201の内部ガスが閉じ込められていた空間の大きさ(体積)を測定することも可能になる。
【実施例】
【0063】
(実施例1.微粒子)
本発明の効果を確認するために、以上説明した本実施形態に係る固体試料分析装置10と同様の構成を有する固体試料分析装置を用いて、実際に微粒子の1粒子解析を行った結果について説明する。ここでは、本実施形態に係る固体試料分析装置を用いて微粒子の内部ガスの成分を分析可能であること、及び当該内部ガスの成分が発生源ごとに異なること(すなわち、内部ガスの成分分析の結果が微粒子の発生源特定のために有用な情報であり得ること)を示すために、一例として、粒径が30μm以下の粒子を解析対象として1粒子解析を行った結果について説明する。ただし、粒径が10μm以下である微粒子、特にPM2.5についても、同様に、本実施形態に係る固体試料分析装置を用いて1粒子解析が可能であることは言うまでもない。
【0064】
特定の石炭火力発電所から採取したフライアッシュを、サイクロン分級器を用いて分級し、粒径30μm以下の粒子をSiウェハー(上述したフィルタ203に対応する)上に捕集した。当該Siウェハー上の粒子群に対して、本実施形態に係る固体試料分析装置を適用して1粒子解析を行った。
【0065】
本実施例では、図1及び図2に示す構成に対して、電子ビーム照射器及び二次電子検出器が更に設けられた固体試料分析装置を用いた。電子ビーム照射器から電子ビームを走査することにより、Siウェハー上の粒子群のSEM像を得た。当該SEM像に基づいて粒子群の中から解析対象とする1つの粒子を特定し、当該解析対象の粒子に対して集束イオンビームを照射した。当該集束イオンビームのイオン源としてはGaイオンを用いた。そして、集束イオンビームを照射しながら、4重極質量分析計による質量分析を連続的に行った。
【0066】
結果を図3及び図4に示す。図3は、解析終了後における解析対象の粒子のSIM像を示す図である。また、図4は、4重極質量分析計による質量分析の結果を示すグラフ図である。図4では、横軸に解析対象の粒子に集束イオンビームを照射し始めてからの時間を取り、縦軸に測定結果であるH、HO、N、O及びCOにそれぞれ相当する質量電荷比m/z:2,18,28,32,44のシグナル強度を取り、当該シグナル強度の時間変化を示している。
【0067】
図3を参照すると、解析対象の粒子Xに対する集束イオンビームによる加工跡が確認できる。また、図4を参照すると、ある時刻において、H及びNが同時にスパイク状に検出されていることが分かる。当該時刻において、集束イオンビームによって粒子の殻が開口されて内部ガスが放出され、当該内部ガスの成分が4重極質量分析計によって検出されたのだと推定される。ここではある1つの粒子についての結果を示したが、Siウェハー上の複数の粒子について同様の解析を行った結果、内部ガスの成分分析について、同様の結果が得られた。当該結果から、本実施例において用いた特定の石炭火力発電所から採取したフライアッシュに含まれる粒子については、その内部ガスの成分として、COやOはほぼ含まれておらず、H及びNが多く含まれていることが分かった。
【0068】
一方、本発明者らは、他の石炭火力発電所から採取したフライアッシュに含まれる粒子についても、同様の1粒子解析を実行した。その結果、当該他の石炭火力発電所から採取したフライアッシュに含まれる粒子については、その内部ガスの成分として、COがより多く検出された。当該結果は、粒子の内部ガスの成分は、その発生源ごとに異なることを示している。つまり、本実施形態に係る固体試料分析装置を用いて微粒子ごとに内部ガスの成分分析を行うことにより、その成分の検出パターンの違いに基づいて、当該微粒子の発生源を推定することが可能になると考えられる。
【0069】
また、図4に示す結果から、集束イオンビームを照射してから内部ガスの成分が検出されるまでの時間、すなわち、集束イオンビームを照射してから粒子の殻に開口部が形成されるまでの時間を同定することができる。この集束イオンビームの照射時間に基づいて、内部に空間を有する粒子の殻の厚みを推定することが可能である。この粒子の殻の厚みについても、発生源ごとに依存性があると考えられる。従って、本実施形態に係る固体試料分析装置を用いることにより、内部ガスの成分分析の結果に加えて、微粒子の殻の厚みについての情報を併せて用いることにより、発生源の推定精度をより向上させることが可能となる。
【0070】
(実施例2.塗装鋼板)
本発明の効果を確認するために、塗膜を有する塗装鋼板を解析対象とし、微粒子を対象とする場合と同様の解析を行った。その結果について説明する。
【0071】
本実施例では、鋼板に亜鉛めっきを施したのち、樹脂系塗料を塗布し、加熱乾燥した塗装鋼板を用いた。また、本実施例では、図1及び図2に示す構成に相当する構成に対して、電子ビーム照射器及び二次電子検出器が更に設けられた固体試料分析装置を用いた。電子ビーム照射器から電子ビームを走査することにより、塗装鋼板の膨れ部のSEM像を得た。当該SEM像に基づいて解析対象とする膨れ部を特定し、当該SEM像を観察しながら、当該解析対象の膨れ部に対して集束イオンビームを照射した。当該集束イオンビームのイオン源としてはGaイオンを用いた。そして、集束イオンビームを照射しながら、4重極質量分析計による質量分析を連続的に行った。
【0072】
図5に、塗装鋼板の解析終了後における解析対象のSIM(走査イオン顕微鏡)像を示す。膨れ部上に、図の長方向に一定の直線Yが確認できる。これが、集束イオンビームによる加工跡である。
【0073】
図6は、4重極質量分析計による質量分析の結果を示すグラフ図である。図6では、横軸に解析対象の粒子に集束イオンビームを照射し始めてからの時間を取り、縦軸に測定結果であるH、HO、N、O及びCOにそれぞれ相当する質量電荷比m/z:2,18,28,32,44のシグナル強度を取り、当該シグナル強度の時間変化を示している。
【0074】
図6を参照すると、ある時点において、Nがスパイク状に検出されていることが分かる。当該時点において、集束イオンビームによって膨れ部の殻が開口されて内部ガスが放出され、当該内部ガスの成分が4重極質量分析計によって検出されたのだと推定される。膨れ部からは、ガス成分として、窒素のみが検出された。同じ条件下で製作された塗装鋼板上で発生した膨れ部について同様の分析を行ったところ、同じガス成分である窒素が検出された。しかし、異なる条件下で製作された塗装鋼板の膨れ部からは、異なる成分が検出された。
【0075】
塗装鋼板上の膨れ部の原因としては、例えば、めっき生成時の反応で発生しめっき中に取り込まれる水素、めっき中の水酸化物が加熱されて発生する水、塗料中に含まれる溶剤(例えば、トルエン及びキシレン等)、塗膜を生成する際に発生するガス(例えば、ホルムアルデヒド等)が想定される。本実施例では、上述した分析により、膨れ部の発生原因を特定することが可能となった。
【0076】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0077】
10 固体試料分析装置
101 サンプルステージ
103 ステージホルダー
105 集束イオンビーム照射器
107 飛行時間型質量分析計
109 4重極質量分析計
201 微粒子
203 フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6