特許第6972828号(P6972828)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972828
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、およびその成型体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20211111BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C08L67/00
   C08K3/04
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-181352(P2017-181352)
(22)【出願日】2017年9月21日
(65)【公開番号】特開2019-56060(P2019-56060A)
(43)【公開日】2019年4月11日
【審査請求日】2020年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正也
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 友浩
(72)【発明者】
【氏名】福原 弘一朗
(72)【発明者】
【氏名】浅海 博
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−248771(JP,A)
【文献】 再公表特許第2015/076112(JP,A1)
【文献】 特開2010−215893(JP,A)
【文献】 特開2011−089111(JP,A)
【文献】 特開2013−129820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00
C08K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)中に、カーボンブラック(B)が分散されてなる樹脂組成物であって、
前記ポリエステル樹脂(A)は、示差走査熱量計を用いて、40℃から300℃まで20℃/1分で昇温していき、結晶化のピークが得られた温度である昇温時結晶化温度が120℃以上であり、
前記カーボンブラック(B)は、平均一次粒子径(B1)が40〜100nm、かつ灰分が、0.1質量%以下であり、
ポリエステル樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(B)の含有量は、10〜50質量部であり、
カーボンブラック(B)は、1,1,2,2−テトラクロロエタン100質量部に対してフェノール100質量部を配合した溶液50質量部に、樹脂組成物0.5質量部を溶解し、粒子径分布測定装置により測定される平均分散粒子径(BX1)が0.3〜0.55μmであり、
さらに下記式(1)で表されるカーボンブラック(B)の平均一次粒子径(B1)[nm]と平均分散粒子径(BX1)[μm]を乗じた値(X)が、10〜40の範囲にある、
樹脂組成物。

式(1)
(X)=カーボンブラック(B)の平均一次粒子径(B1)[nm]×平均分散粒子径(BX1)[μm]
【請求項2】
前記カーボンブラック(B)が、ファーネスブラックである、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の樹脂組成物からなる成型体。
【請求項4】
希釈用ポリエステル樹脂、および請求項1または2記載の樹脂組成物を用いてなる成型体。
【請求項5】
ポリエステル樹脂(A)中に、カーボンブラック(B)を分散する樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリエステル樹脂(A)は、示差走査熱量計を用いて、40℃から300℃まで20℃/1分で昇温していき、結晶化のピークが得られた温度である昇温時結晶化温度が120℃以上であり、
前記カーボンブラック(B)は、平均一次粒子径が40〜100nm、かつ灰分が、0.1質量%以下であり、
ポリエステル樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(B)の含有量は、10〜50質量部であり、
カーボンブラック(B)は、1,1,2,2−テトラクロロエタン100質量部に対してフェノール100質量部を配合した溶液50質量部に、樹脂組成物0.5質量部を溶解し、粒子径分布測定装置により測定される平均分散粒子径(BX1)は、0.3〜0.55μmであり、
さらに下記式(1)で表されるカーボンブラック(B)の平均一次粒子径(B1)[nm]と平均分散粒子径(BX1)[μm]を乗じた値(X)が、10〜40の範囲にある、
樹脂組成物の製造方法。

式(1)
(X)=カーボンブラック(B)の平均一次粒子径(B1)[nm]×平均分散粒子径(BX1)[μm]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器等の光線遮断部や容器等に好適に用いられる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル材料は、機械的強度や耐熱性、耐寒性に優れ様々な分野で用いられている。その中で、カメラのシャッター部分や液晶パネルなどの光学機器には光の介入を防ぐために高隠蔽性のフィルムが用いられている。また、容器分野においても、内容物を外部から見えなくする目的であったり、光による内容物の劣化を防ぐ目的でも高隠蔽性の材料が用いられる場合がある。このような成型体に高隠蔽性を付与するためには、隠蔽性の高いカーボンブラックなどを添加する方法が一般的である。
【0003】
カーボンブラックを添加する方法としては、成形の際に、希釈樹脂と、カーボンブラックが高濃度に配合された樹脂組成物とを用いることが一般的である。このような方法をとることで、カーボンブラックを成型体中に均一に分散させやすい。
【0004】
前述した用途では、光を遮ったり、外部からの視認を防いだりという目的の性質上、外部環境にさられる部位に使用されやすく、また光学機器内部等に使用される場合であっても、機器内部の蓄熱にさらされやすいため、外部環境や熱に対する耐久性も求められる。特許文献1では、ポリエステル樹脂の極限粘度とカーボンブラックの粒子径を規定値にすることで優れた隠蔽性の高い成型体が提案されている。しかし、通常カーボンブラックを添加すると、ポリエステルは結晶化しやすくなるため、成型体の白色化や寸法安定性が損なわれる場合があり、近年要求されるより厳しい条件下での耐久性は十分ではないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−056871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、加工性、隠蔽性に優れ、なおかつ耐久性も満足できる成型体を成形するための樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、前記課題に対し、特定の物性を有するカーボンブラックを、特定のポリエステル樹脂に分散させてなる樹脂組成物において、カーボンブラックの分散粒子径を特定の範囲とすることが有効であることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、ポリエステル樹脂(A)中に、カーボンブラック(B)が分散されてなる樹脂組成物であって、前記ポリエステル樹脂(A)の昇温時結晶化温度は、120℃以上であり、前記カーボンブラック(B)の平均一次粒子径は、40〜100nmであり、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(B)の含有量は、10〜50質量部であり、かつ、カーボンブラックの平均分散粒子径が、0.3〜0.55μmである、樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物から成形される成型体は、隠蔽性と耐久性との両立が可能である。また、成型体を成形する際の、スクリーン付近の濾圧上昇が低く、加工性にも優れたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。
【0011】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)中に、カーボンブラック(B)が分散されてなり、前記ポリエステル樹脂(A)の昇温時結晶化温度は、120℃以上であり、
前記カーボンブラック(B)の平均一次粒子径は、40〜100nmであり、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(B)の含有量は、10〜50質量部であり、かつ、カーボンブラックの平均分散粒子径が、0.3〜0.55μmである。
【0012】
ポリエステル樹脂中に分散されてなるカーボンブラック(B)の平均分散粒子径は、0.3〜0.55μmであり、より好ましくは0.3〜0.52μmであり、さらに好ましくは0.3〜0.37μmである。
カーボンブラックの分散粒子径が小さい程、カーボンブラック粒子の表面積が増加するため、光の吸収量も増加して隠蔽性が高くなるが、特定の分散粒子径より小さくなると、急激に透明性を増す場合がある。また、分散粒子径が小さい程、得られる成型体の強度が優れる。
そのため、樹脂組成物中のカーボンブラックの平均分散粒子径が、本発明の特定の範囲にあることで、隠蔽性を保ったまま、強度との両立を可能とすることができる。
【0013】
ここでの平均分散粒子径は、個数平均径(MN)であり、マイクロトラックにより測定し、求めることができる。
平均分散粒子径(MN)の測定例として具体的には、1,1,2,2−テトラクロロエタン100質量部に対してフェノール100質量部を配合した溶液50質量部に、カーボンブラック(B)を分散してなるポリエステル樹脂組成物0.5質量部を溶解することで遊離したカーボンブラック(B)を、マイクロトラックMT3300EX(日機装社製)にて粒度分布を測定することで求められる。
【0014】
[ポリエステル樹脂(A)]
本発明のポリエステル樹脂(A)の昇温時結晶化温度は120℃以上であり、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上である。なお、上限値は、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは170℃以下である。
ポリエステル樹脂の冷結晶化温度が120℃以上であることにより、結晶化による白色化が起こりにくいものとすることができる。これにより、黒色度に優れた成型体を得ることができる。
【0015】
ここでの昇温時結晶化温度は、示差走査熱量計を用いて求めることができる。
測定例として具体的には、示差走査熱量計DSC6200(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、40℃から300℃まで20℃/1分で昇温していき、結晶化のピークが得られた温度により求めることができる。
【0016】
ポリエステル樹脂とは、ジオール等のポリオール成分と、ジカルボン酸等のポリカルボン酸成分とを構成成分とし、必要によって触媒存在下、重縮合させて得られたものである。
【0017】
ポリエステル樹脂を構成するジオール成分としては、ビスフェノールAの炭素数2〜3のアルキレンオキシド付加物や炭素数2〜6の低級アルキルジオールが挙げられる。炭素数2〜6の低級アルキルジオールとしてはエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,5−ペンタンジール、1,6−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、3,4−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。これらのジオール成分は、2種以上を併用しても良い。
【0018】
ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸としては、テレフタル酸、低級アルキルジカルボン酸、アルケニルジカルボン酸が挙げられる。低級アルキルジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸やセバシン酸などが挙げられる。アルケニルジカルボン酸としてはアルケニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、グルタコン酸などが挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、2種以上を併用しても良い。
【0019】
[カーボンブラック(B)]
カーボンブラック(B)は、平均一次粒子径が40〜100nmであり、ポリエステル樹脂に分散し、樹脂組成物を形成する。
より好ましくは、40〜50nmである。平均一次粒子径が小さいカーボンブラックは、粒子間距離が短くなるため凝集力が強く、分散が困難な場合がある。また、平均一次粒子径が大きいカーボンブラックの表面積が小さいため光を十分に吸収できず、隠蔽性が小さくなる場合がある。しかし、本発明の平均一次粒子径の範囲にあるカーボンブラック(B)を用いることで、隠蔽性に優れ、分散安定性にも優れた樹脂組成物とすることができる。
【0020】
ここでの平均一次粒子径は、カーボンブラック粒子を電子顕微鏡で観察し、求めることができる。
平均一次粒子径の測定例として具体的には、電子顕微鏡によって得られたカーボンブラック粒子20個の粒子径の平均値として求めることができる。
【0021】
本発明では、カーボンブラック(B)の平均一次粒子径と平均分散粒子径によって樹脂組成物の遮光性を制御しており、下記式(1)で表される平均一次粒子径(B1)[nm]と平均分散粒子径(BX1)[μm]を乗じた値(X)が、10〜40の範囲にあることで良好な隠蔽性が得られやすく、好ましい。より好ましくは15〜30である。

式(1)
(X)=カーボンブラック(B)の平均一次粒子径(B1)[nm]
× 平均分散粒子径(BX1)[μm]
【0022】
また、カーボンブラック(B)は、灰分が、0.1質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.001質量%以上であり、また0.01質量%以下である。灰分が0.1質量%以下のカーボンブラックを用いることにより、用樹脂組成物を用いて成形する際、スクリーン付近での濾圧上昇を防止する効果が得られる。また、灰分が0.1質量%以下のカーボンブラックを用いた樹脂組成物を用いて成形された遮光フィルムは、灰分成分すなわち不純物が核となり結晶化しやすくなる現象を予防することができるため、成型体の白色化を制御することが可能となる。
そのため、灰分が0.1質量%以下のカーボンブラック(B)を用いることで、より隠蔽性、黒色度に優れた成型体を得ることが可能となる。
ここでの灰分とはASTMD1506に基づいて測定することができる。
【0023】
カーボンブラックの種類は一般に製法で分類することができ、石油系や石炭系の油を高温ガスの中で不完全燃焼させることで製造するファーネスブラック、アセチレンガスを熱分解させることで製造するアセチレンブラック、天然ガスをチャンネル鋼に析出させることで製造するチャンネルブラックなどが挙げられる。
ファーネスブラックは、アセチレンブラックに対し、比較的カーボン粒子の連なりであるストラクチャーの発達を抑制できるため、黒色度と隠蔽性がより優れたものとしやすい。また、通常粒子が非常に細かいチャンネルブラックよりも、分散性が安定化しやすいという性質を有している。そのため、カーボンブラックの粒子径によって黒色度、隠蔽、分散性を制御しやすいとの観点から、本発明のカーボンブラック(B)としては、ファーネス法によって製造されたファーネスブラックを用いるのが好ましい。
【0024】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)中に、カーボンブラック(B)を分散して製造することができる。
すなわち、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対するカーボンブラック(B)の含有量は、10〜50質量部であり、昇温時結晶化温度が120℃以上のポリエステル樹脂(A)中に、平均一次粒子径が40〜100nmのカーボンブラック(B)を分散し、カーボンブラックの平均分散粒子径を0.3〜0.55μmとする製造方法である。
【0025】
また、本発明の樹脂組成物は、ペレット状のマスターバッチとして製造することが好ましい。前記マスターバッチは、ポリエステル樹脂(A)とカーボンブラック(B)の溶融混練によってカーボンブラック(B)を所定の平均分散粒子径の範囲内となるよう分散し、さらにペレット状に成形することで製造できる。カーボンブラック(B)の平均分散粒子径は、この時の溶融混練の時間、温度等の条件により制御することができる。ここで、原料の溶融混練は、予め原料を一般的な高速せん断型混合機であるヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等を用いて混合した後に行っても、混合せずに、溶融混練する際に、別々に混練機に投入してもよい。また、用途によって必要な各種添加剤を配合してもよい。
【0026】
樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、カーボンブラック(B)を10〜50質量部配合することが好ましく、好ましくは10〜40質量部、さらには20〜30質量部配合することがより好ましい。
カーボンブラック(B)の配合量が10重量部以上の場合、溶融混練時の粘度が適切となり、十分なせん断応力が得られることで、カーボンブラック(B)の分散性に優れたものとすることができる。また、50質量部以下の場合、製造される樹脂組成物が脆くなり扱いにくくなることを防ぎ、取り扱い性に優れたものとすることができる。
【0027】
前記溶融混練は、例えば二軸混練押出機、またはタンデム式二軸混練押出機、単軸押出機、各種ニーダー等を用いることができるが、カーボンブラックを分散させやすいことから二軸押出機またはタンデム式二軸混練押出機を用いるのが好ましい。
【0028】
<成型体>
成型体としては、例えば、フィルム、シート、プレート、ボトル、トレー、ポリタンク等がある。
成型体を成型する際、ペレット状の樹脂組成物は、その他の樹脂等により希釈せず、そのまま溶融させて、一般的な成形方法により成形することもできるが、その他の樹脂、なかでもポリエステル樹脂と溶融混合し、成型体を形成する方法を用いることが好ましい。
この時のポリエステル樹脂としては、マスターバッチを形成するポリエステル樹脂(B)と同じものを用いることが一般的である。
成型体の成型方法は、Tダイ成型法、インフレーション成型法、カレンダー成型法、真空成型法、ブロー成型法、射出成型法、押出成型法等があるが、特に限定されるものではない。
【0029】
カーボンブラックを、一旦、樹脂中に分散し、マスターバッチである樹脂組成物とした後で、希釈用ポリエステル樹脂と配合し、溶融混合して成型体を製造すると、カーボンブラックを希釈用ポリエステル樹脂により均一に混合しやすくなる。この時、分散混合ではなく、分配混合による希釈を行うのが好ましい。分散混合するとカーボンブラックの分散が進み粒子径が過剰に小さくなったり、二次凝集によって分散粒子径が大きくなるおそれがある。対して分配混合はマスターバッチ中の分散されたカーボンブラックの分散粒子径を大きく変えることなく希釈用ポリエステル樹脂と混合しやすい上に、混合の均一性は分散混合よりも優れている。
そのため、分配混合とすることで、成型体中のカーボンブラック(B)の分散粒子径も、樹脂組成物の分散粒子径である0.3〜0.55μmをほぼ保持することができ、隠蔽性と黒色度に優れるだけでなく、耐久性も良い成型体を形成することが可能となる。
【0030】
また、成型体に使用するポリエステル樹脂とカーボンブラックの最終配合比で、直接カーボンブラックの分散工程を行い遮光フィルムを製造する場合と比較して、マスターバッチを用いる場合は、カーボンブラックを分散するために同時に配合し溶融混錬により熱ダメージを受けるポリエステル樹脂の量が大幅に少ないため、成型体には熱ダメージを受けていないポリエステル樹脂が多く存在する。そのためマスターバッチを経て成形した前記成型体は、初期劣化が相対的に少ないため好ましい。
【0031】
よって、ポリエステル樹脂(A)に、カーボンブラック(B)を分散してなる樹脂組成物により形成されてなる成型体は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、カーボンブラック(B)10〜50質量部を分散させ、マスターバッチである樹脂組成物とし、さらにポリエステル樹脂(B)を加えて溶融混練し、成型体を形成する方法が好ましい。
【0032】
遮光フィルムとしてのカーボンブラック(B)の最適な配合量は、用途や成型体の厚さによって異なるが、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、カーボンブラック(B)を0.5〜30質量部配合するのが一般的であり、好ましくは0.5〜10質量部である。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を具体的に実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお以下、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0034】
また、樹脂の昇温時結晶化温度と、カーボンブラックの平均一次粒子径および灰分と、樹脂組成物中のカーボンブラックの平均分散粒子径との測定方法は以下の通りである。
【0035】
<樹脂の昇温時結晶化温度>
示差走査熱量計DSC6200(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、樹脂を40℃から300℃まで20℃/1分で昇温していき、結晶化のピークが得られた温度を昇温時結晶化温度とした。
【0036】
<カーボンブラックの平均一次粒子径>
カーボンブラック粒子を電子顕微鏡での観察によって得られた粒子20個の粒子径の平均値を平均一次粒子径として求めた。(平均一次粒子径(B1))
<カーボンブラックの灰分>
ASTMD1506に基づいて測定した。
【0037】
<カーボンブラックの平均分散粒子径の測定>
1,1,2,2−テトラクロロエタン100質量部に対してフェノール100質量部を配合した溶液50質量部に、樹脂組成物0.5質量部を溶解し、遊離したカーボンブラック(B)を、マイクロトラックMT3300EX(日機装社製)にて粒度分布を測定することで平均粒子径(MN)を測定した。(平均分散粒子径(BX1))
【0038】
実施例および比較例に用いたポリエステル樹脂、およびカーボンブラックを以下に記す。
[ポリエステル樹脂]
<PET−1>
三井PET SA−135(三井化学社製、昇温時結晶化温度145℃)
ポリエチレンテレフタレート
<PET−2>
クラペット KL236R(クラレ社製、昇温時結晶化温度137℃)
ポリエチレンテレフタレート
<PET−3>
ユニペット RT513H(日本ユニペット社製、昇温時結晶化温度175℃)
ポリエチレンテレフタレート
【0039】
[カーボンブラック]
<CB−1>
ENCACO260G(IMERYS社製、平均一次粒子径45nm、灰分0.01質量%、ファーネスブラック)
<CB−2>
ENCACO150G(IMERYS社製、平均一次粒子径45nm、灰分0.1質量%、ファーネスブラック)
<CB−3>
シーストSP(東海カーボン社製、平均一次粒子径95nm、灰分0.1質量%、ファーネスブラック)
<CB−4>
シーストFM(東海カーボン社製、平均一次粒子径50nm、灰分0.2質量%、ファーネスブラック)
<CB−5>
デンカブラックHS−100(デンカ社製、平均一次粒子径48nm、灰分0.01質量%、アセチレンブラック)
<CB−6>
シースト3(東海カーボン社製、平均一次粒子径28nm、灰分0.2質量%、ファーネスブラック)
<CB−7>
シーストTA(東海カーボン社製、平均一次粒子径122nm、灰分0.1質量%、ファーネスブラック)
<CB−8>
VULCAN9A−32(CABOT社製、平均一次粒子径19nm、灰分0.6質量%、ファーネスブラック)
<CB−9>
デンカブラックビーズ(デンカ社製、平均一次粒子径35nm、灰分0.01質量%、アセチレンブラック)
<CB−10>
旭カーボン#80(旭カーボン社製、平均一次粒子径22nm、灰分0.3質量%、ファーネスブラック)
<CB−11>
旭カーボンAX−015(旭カーボン社製、平均一次粒子径19nm、灰分0.3質量%、ファーネスブラック)
【0040】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(PET−1)100質量部を二軸押出機(日本製鋼所製)に投入して溶融させた後にカーボンブラック(CB−1)25質量部を投入し、溶融混練によりポリエステル樹脂にカーボンブラックを分散し、ペレタイザーを使用してカッティングすることで、ペレット状のマスターバッチである樹脂組成物(MB−1)を得た。
【0041】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレート(PET−1)100質量部とカーボンブラック(CB−1)12質量部を一括して二軸押出機に投入し、溶融混練によりポリエステル樹脂にカーボンブラックを分散し、ペレタイザーを使用してカッティングすることで、ペレット状のマスターバッチである樹脂組成物(MB−2)を得た。
【0042】
(実施例3)
ポリエチレンテレフタレート(PET−1)100質量部とカーボンブラック(CB−1)25質量部を一括して二軸押出機に投入し、溶融混練によりポリエステル樹脂にカーボンブラックを分散し、ペレタイザーを使用してカッティングすることで、ペレット状のマスターバッチである樹脂組成物(MB−3)を得た。
【0043】
(実施例4)
ポリエチレンテレフタレート(PET−2)100質量部を二軸押出機(日本製鋼所製)に投入して溶融させた後にカーボンブラック(CB−1)25質量部を投入し、溶融混練によりポリエステル樹脂にカーボンブラックを分散し、ペレタイザーを使用してカッティングすることで、ペレット状のマスターバッチである樹脂組成物(MB−4)を得た。
【0044】
(実施例5)
ポリエチレンテレフタレート(PET−3)100質量部を二軸押出機(日本製鋼所製)に投入して溶融させた後にカーボンブラック(CB−1)25質量部を投入し、溶融混練によりポリエステル樹脂にカーボンブラックを分散し、ペレタイザーを使用してカッティングすることで、ペレット状のマスターバッチである樹脂組成物(MB−5)を得た。
【0045】
(実施例6〜9)
それぞれ表1に示すカーボンブラックおよびポリエステル樹脂を用いて、実施例1の樹脂組成物(MB−1)と同様にしてペレット状のマスターバッチである樹脂組成物(MB−6〜9)を得た。
ただし、実施例8は参考例である。
【0046】
(比較例1〜4)
それぞれ表1に示すカーボンブラック、およびポリエステル樹脂を用いて、実施例1の樹脂組成物(MB−1)と同様にしてペレット状のマスターバッチである樹脂組成物(MB−10〜13)を得た。
【0047】
(比較例5、6)
それぞれ表1に示すカーボンブラックおよびポリエステル樹脂を用いて、実施例1の樹脂組成物(MB−1)と同様にしてペレット状のマスターバッチである樹脂組成物(MB−14、15)を得た。
【0048】
実施例および比較例で得られた樹脂組成物を以下の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
なお、(X)の値は、下記式(1)により求めた値である。

式(1)
(X)=カーボンブラック(B)の平均一次粒子径(B1)[nm]
× カーボンブラック(B)の平均分散粒子径(BX1)[μm]
【0049】
<スクリーンパス濾圧上昇値>
得られた樹脂組成物を単軸ラボプラストミル(東洋精機社製)に投入し、300℃で溶融させ、スクリーンを通過させた。樹脂組成物が通過し始めた際の圧力とカーボンブラック200部相当の樹脂組成物が通過した際の圧力の差をスクリーンパス濾圧上昇値とし、以下の基準で評価した。

◎(非常に良好):スクリーンパス濾圧上昇値が1.0MPa未満
○(良好):スクリーンパス濾圧上昇値が1.0MPa以上5.0MPa未満
△(可):スクリーンパス濾圧上昇値が5.0MPa以上15.0MPa未満
×(フィルム成形不可):スクリーンパス濾圧上昇値が15.0以上
【0050】
<フィルムの形成>
得られた樹脂組成物(マスターバッチ)と、樹脂組成物の形成に用いたものと同じ樹脂である希釈用ポリエステル樹脂を、フィルム中のカーボンブラックの濃度が0.5質量%になるように単層Tダイフィルム成形機(東洋精機社製)を用いて温度280℃にて押出し成形を行い、厚さ100μmのフィルムを得た。
【0051】
なお、樹脂組成物(MB−14、15)は、スクリーンパス濾圧上昇値が高く、フィルムを成形することができなかった。
【0052】
<透過率>
得られたフィルムの透過率を紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所社製)を用いて測定した。透過率は白色標準板に対しての分光透過率を測定し、以下の基準で評価した。

◎(非常に良好):400〜1500nm の平均透過率が0.5%未満
○(良好):400〜1500nm の平均透過率が0.5%以上1.0%未満
△(可):400〜1500nm の平均透過率が1.0%以上1.5%未満
×(不良):400〜1500nm の平均透過率が1.5%以上
【0053】
<黒色度維持性>
得られたフィルムを120℃の環境下で20分間静置し、静置前後のフィルムのLをAUCOLOR−T2(倉敷紡績社製)によって測色し、次式によって黒色度維持性を評価した。数値が小さい程、黒色度維持性が優れていることを意味する。

黒色度維持性=(静置後のフィルムのL)−(静置前のフィルムのL
【0054】
<熱寸法安定性>
得られたフィルムを垂直方向(TD)方向50mm、流れ方向(MD)方向70mmに打抜いて試験片とした。200℃の環境下で20分間静置させた後の試験片と、静置前の試験片の寸法を測定し、次式によって熱寸法安定性を評価した。数値が高い程、熱寸法安定性が良好なことを意味する。

熱寸法安定性=(静置後の寸法)/(静置前の寸法)
【0055】
<引張降伏点強度>
得られたフィルムを2号ダンベル型に打抜いて試験片とした。23℃にて試験片を引張試験機(東洋精機社製)を用いて、引張速度50mm/分の条件で測定した。
【0056】
<強度保持率>
得られたフィルムをTD方向50mm、MD方向70mmに打抜いて試験片とした。プレッシャークッカー試験機EHS−221M(エスペック社製)を用いて、120℃、100%RHの環境下で12時間試験した後、23℃にて試験片を引張試験機(東洋精機社製)を用いて引張速度50mm/分の条件で降伏点強度を測定した。同様に、プレッシャークッカー試験前の試験片の降伏点強度を測定した。次式によって強度保持率を評価した。数値が高い程、強度保持率が良好なことを意味する。

強度保持率=(プレッシャークッカー試験後の降伏点強度)/(プレッシャークッカー試験前の降伏点強度)
【0057】
【表1】
【0058】
表1の結果より、本発明の樹脂組成物は、成型体を成形する際のスクリーン付近の濾圧上昇が低く、加工性にも優れており、該樹脂組成物を用いて形成したフィルムは、隠蔽性が高く、耐久性との両立ができていることが確認できた。
【0059】
なお、希釈樹脂を用いずに、得られた樹脂組成物を用いてそのままフィルムを形成した場合にも、本願の樹脂組成物からなるフィルムは比較例の樹脂組成物からなるフィルムよりも隠蔽性と耐久性に優れていた。