(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
<染色システム>
以下、本開示における典型的な実施形態について説明する。例えば、
図1は本実施形態の染色方法の流れを示したフローチャートである。例えば、
図2は本実施形態の染色方法に用いる染色システムを示した概略図である。以下では、樹脂体の1つであるレンズ8を気相転写染色法で染色し、染色レンズを製造する場合を例示して説明を行う。しかし、以下で例示する技術は、レンズ8以外の樹脂体(例えば、携帯電話のカバー、ライト用のカバー、アクセサリー、玩具等のいずれかの成形体等)を気相転写染色法で染色して染色樹脂体を製造する場合にも適用できる。また、以下で例示する染色用基体1は、気相転写染色以外の転写染色の工程において使用することも可能である。
【0012】
なお、本実施形態によると、例えば、ポリカーボネート系樹脂(例えば、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体(CR−39))、ポリウレタン系樹脂(トライベックス)、アリル系樹脂(例えば、アリルジグリコールカーボネート及びその共重合体、ジアリルフタレート及びその共重合体)、フマル酸系樹脂(例えば、ベンジルフマレート共重合体)、スチレン系樹脂、ポリメチルアクリレート系樹脂、繊維系樹脂(例えば、セルロースプロピオネート)、チオウレタン系またはチオエポキシ等の高屈折材料、ナイロン系樹脂(ポリアミド系樹脂)、等の少なくともいずれかを材質(材料)とした樹脂体を染色することもできる。
【0013】
まず、
図2を参照して、本実施形態における染色システム100の概略構成について説明する。本実施形態の染色システム100は、染料付着部10、蒸着部30、および染料定着部(定着部)50を備える。例えば、蒸着部30は、昇華性染料及び固体の昇華性キャリア剤が塗布された印刷基体1(染色用基体)を加熱して昇華性染料及び固体の昇華性キャリア剤をレンズ8に付着させるために用いられる。例えば、染料定着部50は、昇華性染料及び固体の昇華性キャリア剤が付着されたレンズ8を加熱し定着させるために用いられる。
【0014】
例えば、本実施形態の染色方法においては、第一工程、第二工程、第三工程、が実施される。例えば、第一工程は、昇華性染料及び固体の昇華性キャリア剤(以下、昇華性キャリア剤と記載)を基体に塗布することで、染色用基体を取得する工程である。例えば、第二工程は、第一工程によって取得された染色用基体を樹脂体と対向させ、染色用基体を加熱することによって、染色用基体に塗布された昇華性染料及び昇華性キャリア剤を昇華させ、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を樹脂体に付着させる工程である。例えば、第三工程は、第二工程によって、昇華性染料及び昇華性キャリア剤が付着された樹脂体を加熱することによって、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を定着させる工程である。例えば、本実施形態における染色方法は、第一工程、第二工程、第三工程の順序で行われる。なお、本実施形態において、固体の昇華性キャリア剤とは、室温において固体であって、加熱をすることで昇華されるキャリア剤を示す。なお、例えば、昇華性キャリア剤は、固体の昇華性キャリア剤はわずかに液体のキャリア剤が含まれる構成であってもよい。
【0015】
例えば、昇華性染料とともに昇華性キャリア剤を昇華させて、樹脂体に付着させ、昇華性染料とともに昇華性キャリア剤を定着させることで、樹脂体内に染料が入りづらく染色を良好に行うことが困難な材料の樹脂体に対しても、容易に良好に染色を行うことができる。
【0016】
また、例えば、固体の昇華性キャリア剤を用いることによって、第三工程を実施した際に、キャリア剤が、局所的に集まってしまうことを抑制することができる。すなわち、液体のキャリア剤を用いた場合に、第三工程を実施した際に、液体のキャリア剤が、局所的に集まってしまう場合があり、色ムラが生じる場合があるが、固体の昇華性キャリア剤を用いることによって、これを抑制できる。これによって、樹脂体に均一に染料を定着させやすくなり、色ムラをより抑制でき、良好に染色を行うことができる。
【0017】
以下、染色方法について詳細に説明する。
【0018】
<第一工程>
例えば、第一工程は、染料付着部10によって、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を基体に塗布することで、染色用基体1を取得する(製造する)。例えば、第一工程において、染料付着部10は、後にレンズ8に蒸着される昇華性の染料及び昇華性のキャリア剤を、基体2に付着させることで、染料部6を形成する。なお、本実施形態において、染料部6には昇華性染料とともに昇華性キャリア剤が混合されている。基体2は、レンズ8の染色に用いられる昇華性染料及び昇華性キャリア剤を一旦保持する媒体である。基体2の詳細な説明については後述する。
【0019】
本実施形態において、例えば、染料付着部10は、昇華性染料が含有された染色用インク及び昇華性キャリア剤が含有されたキャリア剤インクを、インクジェットプリンタ11を用いて基体2に付着(本実施形態では印刷)させる。従って、染料付着部10は、作業者が所望する色合いの染料及びキャリア剤を、より正確に基体2に付着させることができる。つまり、基体2に付着させる染料の分量、色相、グラデーションの程度等の正確性が向上する。また、基体2に付着させるキャリア剤の分量の程度等の正確性が向上する。また、作業者は、染料及びキャリア剤を容易に取り扱うことができる。
【0020】
本実施形態において、例えば、染料付着部10として、印刷装置が用いられる。例えば、本実施形態において、第一工程では、昇華性染料が含有された染色用インクと、昇華性キャリア剤が含有されたキャリア剤インクと、を印刷装置を用いて、基体2に印刷することによって、染色用基体1を取得する。これによって、基体2に対し昇華性染料及び昇華性キャリア剤を容易により均一に塗布することができる。さらに、印刷装置を用いることで、使用する昇華性染料及び昇華性キャリア剤が削減される。本実施形態では、印刷装置によって印刷されたインクを乾燥させる工程が行われることで、昇華性染料及び昇華性キャリア剤がさらに強固に保持される
本実施形態において、例えば、印刷装置として、インジェクトプリンタ11を用いる場合を例に挙げて説明する。この場合、例えば、本実施形態において、インクジェットプリンタ11による印刷によって、基体2に対し昇華性染料及び昇華性キャリア剤が塗布される。
【0021】
本実施形態において、例えば、インジェクトプリンタ11は、装着部14と、インクジェットヘッド15と、制御手段(制御部)16と、を備える。もちろん、インジェクトプリンタ11としては、上記構成に限定されない。
【0022】
例えば、装着部14は、染色用インクのインク容器(例えば、後述するインクカートリッジ13等)と、キャリア剤インクのインク容器(例えば、後述するインクカートリッジ13等)を装着する。例えば、インクジェットヘッド15は、装着部14にされた染色用インクのインク容器と、キャリア剤インクのインク容器と、から染色用インクとキャリア剤インクを基体2に向けて吐出する。これによって、基体2に染色用インクとキャリア剤インクを印刷する。例えば、制御部16は、インクジェットヘッド15の駆動を制御して、染色用インクと、キャリア剤インクと、をそれぞれのインクジェットヘッド15から独立して吐出させる。例えば、本実施形態の印刷装置において、染色用インクのインクカートリッジとキャリア剤インクのインクカートリッジとが装着されて、基体に向けて、染色用インクと、キャリア剤インクと、が独立して吐出できることで、基体に容易に昇華性染料及び昇華性キャリア剤を塗布することができる。これによって、気相転写染色方法用において用いることによって染色が困難である樹脂体に対しても良好に染色をするための染色用基体を容易に取得することができる。
【0023】
例えば、本実施形態において、昇華性染料は、少なくとも赤、青、黄、3色の染料が使用される。例えば、赤、青、及び黄の少なくとも3色の染料に加えて、昇華性キャリア剤が吐出できることによって、樹脂体を種々の色にて良好に染色することができる。すなわち、樹脂体を種々の色にて良好に染色することができる染色用基体を容易に取得することができる。もちろん、これら3色以外の色が使用されてもよい。例えば、混合色(緑、紫等)が用いられてもよい。なお、例えば、昇華性染料はインクの溶媒に溶解されていてもよい。本実施形態において、例えば、染色用インクは、赤、青、及び黄の少なくとも3つの染色用インクを有する。例えば、この染色用インクをインクジェットプリンタ用のインク容器(例えば、インクパック、インクカートリッジ等)にそれぞれ入れ、インクジェットプリンタ11の装着部14にこのインク容器を装着する。なお、本実施形態においては、インク容器としてインクカートリッジ13が用いられる場合を例に挙げて説明する。例えば、染色用インクをインクジェットプリンタ用のインクカートリッジ13にそれぞれ入れ、インクジェットプリンタ11の装着部14にこのカートリッジ13を装着する。例えば、インクジェットプリンタ11は市販のものが使用可能である。なお、例えば、昇華性染料は、昇華時の熱に耐え得る耐熱性を有するものが用いられることが好ましい。一例として、本実施形態では、キノフタロン系昇華性染料またはアントラキノン系昇華性染料が用いられる(例えば、染料の一例については、特開2004−326018号公報、特開2003−185982号公報等を参照されたし)。
【0024】
また、例えば、本実施形態において、昇華性染料とともに、昇華性キャリア剤が使用される。例えば、昇華性キャリア剤は、インクの溶媒に溶解されていてもよい。例えば、染色用インクと同様に、このキャリア剤インクをインクジェットプリンタ用のインク容器(例えば、インクパック、インクカートリッジ等)に入れ、インクジェットプリンタ11の装着部14にこのインク容器を装着する。なお、本実施形態においては、インク容器としてインクカートリッジ13が用いられる場合を例に挙げて説明する。例えば、キャリア剤インクをインクジェットプリンタ用のインクカートリッジ13に入れ、インクジェットプリンタ11の装着部14にこのカートリッジ13を装着する。なお、例えば、昇華性キャリア剤は、染料と親和性が強いとともに、樹脂体と親和性が強い、キャリア剤が用いられることが好ましい。なお、昇華性キャリア剤の詳細については後述する。
【0025】
なお、本実施形態においては、染色用インクと、キャリア剤インクと、が別々のインクインク容器(本実施形態においては、インクカートリッジ13)に入れられる構成を例に挙げているがこれに限定されない。例えば、染色用インクと、キャリア剤インクと、が混合された混合インクが用いられるようにしてもよい。この場合、例えば、混合インクがインク容器に入れられるようにしてもよい。
【0026】
図3は、インクジェットヘッド15の一例について説明する図である。例えば、インクジェットプリンタ11は、4つのインクジェットヘッド15(例えば、インクジェットヘッド15a、インクジェットヘッド15b、インクジェットヘッド15c、インクジェットヘッド15d)を備える。4つのインクジェットヘッド15の各々は、装着部14に装着された複数のインクカートリッジ13の各々に対し、インク供給路(例えば可撓性チューブ)によって別個に接続されている。従って、本実施形態では、1つのインクジェットヘッド15に1つのインクカートリッジ13からインクが供給される。例えば、本実施例にといて、4つのインクジェットヘッド15から、上記の赤、青、黄、3つの染色用インクに加え、キャリア剤インクがそれぞれのインクジェットヘッド15から独立して吐出される。なお、使用色数、使用するインクの種類、インクジェットヘッド15の数等を変更することも可能である。
【0027】
例えば、制御部16は、染色用インクを吐出する際に、染色用インクとともに、キャリア剤インクを吐出させる。例えば、昇華性染料とともに昇華性キャリア剤を塗布することができるため、第三工程を実施した際に、昇華性染料の近傍に昇華性キャリア剤が塗布されることになるため、昇華性キャリア剤によって樹脂体に昇華性染料を定着させやすくすることができる。これによって、より良好に染色を行うことができる。すなわち、より良好に染色を行うことができる染色用基体1を容易に取得することができる。
【0028】
なお、例えば、染色用インクとともに、キャリア剤インクを吐出させる場合に、制御部16は、インクジェットヘッド15から染色用インクとキャリア剤インクとを同時に吐出させ、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を基体2に混合された状態で塗布させるようにしてもよい。なお、本実施形態において、同時とは、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を混合された状態で基体2に塗布させることができる構成であればよく、略同時を含む。例えば、昇華性染料とともに昇華性キャリア剤が混合されて塗布されることで、局所的に昇華性キャリア剤が塗布されることを抑制することができる。これによって、樹脂体に対してより均一に昇華性キャリア剤を付着させやすくなる。また、昇華性キャリア剤が均一に塗布されていることによって、後述する第三工程を実施した際に、昇華性キャリア剤による昇華性染料を定着させる効果が均一に発揮されるために、均一に昇華性染料を定着させやすくなり、色ムラがより抑制された良好な染色を行うことができる。すなわち、色ムラがより抑制された良好な染色を行うことができる染色用基体1を容易に取得する(製造する)ことができる。
【0029】
なお、例えば、染色用インクとともに、キャリア剤インクを吐出させる場合に、制御部16は、インクジェットヘッド15から染色用インクとキャリア剤インクとを異なるタイミングで吐出させ、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を基体2に塗布させるようにしてもよい。例えば、染色用インクとキャリア剤インクの一方を先に吐出した後、他方をその後に吐出するようにしてもよい。
【0030】
例えば、このインクジェットプリンタ11を使用して所望の色(本実施形態においては、濃度勾配を有したグラデーション模様)をプリントさせるために、パーソナルコンピュータ12(以下PCという)を使用して、プリントされる色相及び濃度の調製を行う。例えば、色相の調製は、PC12に用意されているドローソフトやCCM(コンピュータカラーマッチング)等により行うため、所望する色データをPC12内に保存しておくことができ、必要になったときに何度でも同じ色調が得られるようになっている。また、例えば、色の濃淡は、デジタル管理されるため、必要なときに何回でも同じ濃度の色を得ることができる。なお、例えば、濃度勾配は、ドローソフト等に備えられているグラデーション機能により取得することができる。また、例えば、好みに応じたグラデーションを予め設定しておき、PC12内に独自のグラデーションデータ(色データ)として、保存させておくようにしてもよい。なお、例えば、本実施形態においては、所望の色として、濃度勾配を有したグラデーション模様を例に挙げて説明するがこれに限定されない。例えば、所望の色としては、種々のデザイン(例えば、単色のデザイン、画像等)をプリントすることができる。
【0031】
例えば、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を印刷装置によって印刷する基体2には、紙、金属板(例えば、アルミ、鉄、銅、等)、ガラス、等を用いる構成が挙げられる。以下の説明においては、基体2は、紙を例に挙げて説明する。また、本実施形態においては、例えば、基体2は、シート状の基体が用いられる。また、以下の説明においては、印刷装置は、インジェクトプリンタ11を例に挙げて説明する。例えば、インジェクトプリンタ11に基体2を入れ、PC12の操作により、予め設定しておいた色相及び濃度にて印刷を行う。
【0032】
なお、本実施形態において、染料付着部10における印刷装置として、インクジェットプリンタ11を用いる構成を例に挙げて説明したがこれに限定されない。印刷装置としては、レーザープリンタを用いて、印刷をすることで、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を基体2に付着させる構成としてもよい。この場合、例えば、昇華性トナーを用いて、レーザープリンタによって、昇華性染料及び昇華性キャリア剤が基体2に付着される。
【0033】
なお、本実施形態においては、染色付着部10として印刷装置を用いて昇華性染料及び昇華性キャリア剤を基体2に付着させる構成を例に挙げたがこれに限定されない。例えば、染料付着部10は、基体2に昇華性染料及び昇華性キャリア剤を付着させることができる構成であればよい。例えば、染料付着部10は、ディスペンサー(液体定量塗布装置)、ローラ等を駆動することでインクを染色用基体1に付着させてもよい。また、例えば、染料付着部10を用いずに、作業者によって、筆、ローラ、又はスプレー等を用いて、等を用いてインクを染色用基体1に付着させてもよい。
【0034】
なお、本実施形態において、例えば、第一工程において、昇華性キャリア剤を吐出するか否かが自動的に選択されるようにしてもよい。例えば、印刷装置は、染色を行う樹脂体の特性情報を取得する取得手段を備えていてもよい。また、例えば、印刷装置は、取得手段によって取得された特性情報に基づいて、キャリア剤インクを吐出させるか否かを選択する選択手段を備えていてもよい。この場合、例えば、制御手段は、選択手段によって選択された結果に基づいて、キャリア剤インクを吐出させるか否かを制御するようにしてもよい。例えば、キャリア剤インクを用いる必要があるか否かを容易に設定することができる。これによって、誤ってキャリア剤インクを塗布し忘れる等のミスを抑制することができ、容易に良好な染色を行うことができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、染色する樹脂体の特性情報が図示無き操作部を介して入力されることで、PC12(例えば、PC12の制御部)によって取得される。しかし、特性情報を取得する方法を変更することも可能である。例えば、PC12は、別の装置から特性情報を受信することで、特性情報を取得してもよい。
【0036】
なお、例えば、特性情報は、樹脂体の材料(例えば、ナイロン系樹脂)が用いられてもよい。もちろん、特性情報が上記構成に限定されない。例えば、特性情報は、染色する樹脂体の厚み、形状等の少なくともいずれかの情報が、樹脂体の特性情報として用いられてもよい。
【0037】
一例として、例えば、PC12は、染色する樹脂体の材料がナイロン系樹脂であると図示無き操作部を介して入力されることで、PC12は、樹脂体の材料がナイロン系樹脂であるという特性情報を取得するようにしてもよい。例えば、PC12は、染色する樹脂体の材料がナイロン系樹脂であった場合に、キャリア剤を吐出する制御を行うという信号をインジェクトプリンタ11の制御部16に転送するようにしてもよい。例えば、制御部16は、昇華性キャリア剤を吐出する制御を行うという信号を受信すると、染色用インクを吐出する際に、染色用インクとともに、キャリア剤インクを吐出させるようにしてもよい。
【0038】
<キャリア剤インク>
例えば、キャリア剤インクは、昇華性染料を含有する染色用インクとともに基体2に塗布される昇華性キャリア剤を含有するキャリア剤インクである。例えば、キャリア剤インクは、染色用インクとキャリア剤インクとが塗布された染色用基体1を加熱することによって、染色用基体1に塗布された染料及びキャリア剤を昇華させ、染料及びキャリア剤を樹脂体に付着させて、樹脂体を染色するために用いられる。例えば、染料とともにキャリア剤を昇華させて、樹脂体に付着させ、染料とともにキャリア剤を定着させることで、樹脂体内に染料が入りづらく染色を良好に行うことが困難な材料の樹脂体に対しても、容易に良好に染色を行うことができる。
【0039】
例えば、キャリア剤インクは、昇華性キャリア剤、水、保湿剤、及び分散剤を含有するようにしてもよい。
【0040】
例えば、昇華性キャリア剤は、4−フェニルフェノールであってもよい。例えば、昇華性キャリア剤として、4−フェニルフェノールを用いることで、より良好に染色を行うことができる。もちろん、昇華性キャリア剤は、上記構成に限定されない。例えば、昇華性キャリア剤としては、染料と親和性が高いとともに、染色を行う樹脂体と親和性が高いものであってもよい。また、例えば、昇華性キャリア剤としては、室温で固体であって昇華性を有するキャリア剤であってもよい。例えば、昇華性キャリア剤としては、トリフェニルメタノール、ベンゾイン、ヒドロベンゾイン等の少なくともいずれかであってもよい。
【0041】
例えば、保湿剤は、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール及びソルビトール、の少なくともいずれかであってもよい。例えば、保湿剤が含まれることによって、染色した後の樹脂体の染色状態に悪影響を及ぼすことなく、インクの乾燥を抑制することができる。なお、保湿剤は、上記構成に限定されない。例えば、保湿剤としては、インクの乾燥を抑制することができる構成であればよい。
【0042】
例えば、分散剤は、アニオン性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等のいずれかであってもよい。より好ましくは、アニオン性界面活性剤であってもよい。例えば、分散剤が含まれることによって、染色した後の樹脂体の染色状態に悪影響を及ぼすことなく、昇華性キャリア剤の分散を好適に行うことができ、インクの安定性を向上させることができる。なお、分散剤は、上記構成に限定されない。例えば、分散剤としては、昇華性キャリア剤を微粒子化して水性媒体中に分散させるものであり、微粒子化した昇華性キャリア剤の分散安定性を補正する機能が発揮されるものであればよい。
【0043】
なお、例えば、アニオン性界面活性剤としては、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸塩類、特殊芳香族スルホン酸塩のホルマリン縮合物、クレオソート油スルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の少なくともいずれかであってもよい。また、例えば、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルダビン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー等のいずれかであってもよい。より好ましくは、炭素数25〜150の直鎖アルコールのエチレンオキサイド付加物であってもよい。
【0044】
なお、例えば、キャリア剤インクは、さらに、表面張力を調整する界面活性剤を含有するようにしてもよい。例えば、キャリア剤インクに表面張力を調整する界面活性剤が含有されていることによって、キャリア剤インクを塗布しやすくなる。特に、例えば、インクジェットプリンタを用いて、キャリア剤インクを塗布する場合において、キャリア剤インクの表面張力が強い場合に、キャリア剤インクがインクジェットプリンタのインクジェットヘッドから吐出されづらくなる場合がある。例えば、キャリア剤インクに表面張力を調整する界面活性剤が含有されていることによって、インクジェットプリンタのインクジェットヘッドから吐出されやすくなり、キャリア剤インクの塗布量を調整しやすくでき、キャリア剤インクを良好に塗布することができる。
【0045】
なお、例えば、キャリア剤インクは、さらに、粘度調整剤を含有するようにしてもよい。例えば、キャリア剤インクに粘度調整剤が含有されていることによって、キャリア剤インクの塗布量を制御しやすくなる。特に、例えば、インクジェットプリンタを用いて、キャリア剤インクを塗布する場合において、キャリア剤インクの粘度が高い場合に、キャリア剤インクがインクジェットプリンタのインクジェットヘッドから吐出されづらくなる場合がある。また、例えば、インクジェットプリンタを用いて、キャリア剤インクを塗布する場合において、キャリア剤インクの粘度が低い場合に、キャリア剤インクがインクジェットプリンタのインクジェットヘッドから余分に吐出されてしまう場合がある。例えば、キャリア剤インクに表面張力を調整する粘度調整剤が含有されていることによって、インクジェットプリンタのインクジェットヘッドから吐出されるキャリア剤インクの塗布量を調整しやくすることができ、キャリア剤インクを良好に塗布することができる。
【0046】
<第二工程>
上記のように、第一工程によって取得された染色用基体1を用いて第二工程を行う。例えば、第二工程は、第一工程によって取得された染色用基体1を樹脂体(本実施形態においては、レンズ8)と対向させ、染色用基体1を加熱することによって、染色用基体1に塗布された昇華性染料及び昇華性キャリア剤を昇華させ、昇華性染料及び昇華性キャリア剤をレンズ8に付着させる工程である。例えば、第二工程において、蒸着部30が用いられる。
【0047】
例えば、蒸着部30は、染色用基体1に付着された昇華性染料及び昇華性キャリア剤を電磁波によって加熱することで、昇華性染料及び昇華性キャリア剤をレンズ8に向けて昇華させる。その結果、染料がレンズ8に蒸着される。なお、レンズ8には、後述する第三工程による昇華性染料及び昇華性キャリア剤の定着を容易にするための受容膜等、各種の層が形成されていてもよい。例えば、本実施形態の蒸着部30は、電磁波発生部31、蒸着用治具32、ポンプ36、およびバルブ37を備える。もちろん、蒸着部30の構成は上記構成に限定されない。
【0048】
例えば、電磁波発生部31は、電磁波を発生させる。一例として、本実施形態では、赤外線を発生させるハロゲンランプが電磁波発生部31として使用されている。しかし、電磁波発生部31は、電磁波を発生させるものであればよい。従って、ハロゲンランプの代わりに、紫外線、マイクロ波等の他の波長の電磁波を発生させる構成を使用してもよい。例えば、蒸着部30は、電磁波を染色用基体1に照射することで、短時間で昇華性染料及び昇華性キャリア剤の温度を上昇させることができる。また、染色用基体1の昇華性染料及び昇華性キャリア剤を昇華させる場合、高熱となった鉄板等を染色用基体1に接触させることで昇華性染料及び昇華性キャリア剤を加熱することも考えられる。しかし、染色用基体1と鉄板等とを均一に(例えば、隙間無く)接触させることは難しい。接触状態が均一でなければ、昇華性染料及び昇華性キャリア剤が均一に加熱されずに色ムラ等が生じる可能性がある。これに対し、本実施形態の蒸着部30は、染色用基体1から離間した電磁波発生部31からの電磁波によって、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を均一に加熱させることができる。
【0049】
例えば、蒸着用治具32は、染色用基体1とレンズ8を保持する。本実施形態の蒸着用治具32は、レンズ支持部33および基体支持部34を備える。レンズ支持部33は、円筒状の基部と、基部の内側に配置された載置台とを備える。レンズ8は、基部に囲まれた状態で、レンズ支持部33の載置台によって支持される。基体支持部34は、円筒状の基部の上端に位置し、レンズ8よりも上方で染色用基体1を支持する。詳細は図示しないが、染色用基体1の外周縁部が基体支持部34上に載置されると、環状の基体押さえ部材が染色用基体1の外周縁部の上から載置される。その結果、染色用基体1の位置が固定される。なお、従来では、蒸着部30の汚れを抑制するために、基体支持部34に保持された染色用基体1の上面に、さらに板状のガラスを載置することで、昇華した昇華性染料及び昇華性キャリア剤が染色用基体1の裏側に抜けて広がることを抑制するようにしてもよい。
【0050】
例えば、染色用基体1は、昇華性染料及び昇華性キャリア剤が付着した面がレンズ8に対向するように配置される。本実施形態では、レンズ8の上方で染色用基体1が支持されるので、染色用基体1は、染料付着面が下方を向くように基体支持部34に載置される。
【0051】
例えば、染色用基体1とレンズ8とを対向させる場合に、非接触(例えば、2mm〜30mm等)で対向させるようにしてもよい。この場合、例えば、第二工程は、第一工程によって取得された染色用基体1をレンズ8と非接触に対向させ、染色用基体1を加熱することによって、染色用基体1に塗布された昇華性染料及び昇華性キャリア剤を昇華させ、昇華性染料及び昇華性キャリア剤をレンズ8に付着させるようにしてもよい。例えば、非接触に対向させることによって、昇華性染料を昇華させるために基体を加熱した際の熱が樹脂体に伝導されてしまうことを抑制することができる。これによって、樹脂体が熱によって、変色、収縮等をしてしまうことを抑制することができる。また、例えば、非接触に対向させることによって、染色用基体と樹脂体との間の距離が生じるため、樹脂体に対して昇華性染料及び昇華性キャリア剤を十分に分散させて付着させることができる。これによって、色ムラを抑制することができ、良好に染色をすることができる。また、特に、基体にグラデーション状の模様が塗布されている場合には、グラデーション状の模様を樹脂体に好適に再現することができる。もちろん、例えば、染色用基体1とレンズ8とを対向させる場合に、接触させた状態で対向させるようにしてもよい。
【0052】
例えば、ポンプ36は、蒸着部30の内部の気体を外部に排出し、蒸着部30の内部の気圧を低下させる。すなわち、例えば、ポンプ36は、蒸着部30の内部の気体を外部に排出し、蒸着部30の内部を所定の真空度にさせる。
【0053】
例えば、第二工程において、レンズ8を蒸着部30内に入れて昇華性染料の付着を行う場合、ポンプ36により蒸着部30内を所定の真空度にして付着作業を行う。なお、例えば、本実施形態では蒸着部30内を所定の真空状態にするものとしているが、これに限るものではなく、蒸着部30の内を常圧下において付着作業を行うことも可能である。
【0054】
例えば、真空状態後、電磁波発生部31を使用して上方から染色用基体1を加熱させ、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を昇華させる。例えば、加熱温度は染色用基体1上で100℃を下回ると染色用基体1から昇華性染料及び昇華性キャリア剤が昇華し難くなり、また、例えば、250℃を上回ると高温による昇華性染料及び昇華性キャリア剤の変質やレンズ8の変形が生じ易くなる。従って、加熱温度は100〜250℃の間が良いが、レンズ8の材料に合わせてできるだけ高い温度を選ぶようにするとよい。
【0055】
<第三工程>
例えば、第二工程が完了すると、第三工程が行われる。以下、第三工程について説明する。例えば、第三工程では、第二工程にて昇華性染料及び昇華性キャリア剤が付着したレンズ8を加熱して昇華性染料及び昇華性キャリア剤を定着させる。
【0056】
例えば、染料定着部50は、昇華性染料及び昇華性キャリア剤が蒸着されたレンズ8を加熱することで、昇華性染料及び昇華性キャリア剤をレンズ8に定着させる。例えば、レンズ8が加熱されることで、昇華性キャリア剤がレンズ8に定着され、昇華性キャリア剤によって昇華性染料がレンズ8内に引き込まれる。これによって、レンズ8が良好に染色できる。本実施形態では、オーブンが染料定着部50として用いられる。オーブン(特に、送風式定温恒温器)を用いると、レンズ8の温度が長い時間をかけて徐々に上昇するので、温度差が発生し難い。よって、昇華性染料及び昇華性キャリア剤が均等にレンズ8に定着し易い。
【0057】
なお、例えば、第三工程を実施する場合に、常圧下にて加熱し昇華性染料及び昇華性キャリア剤を定着させるようにしてもよい。もちろん、異なる気圧下で第三工程が実施されるようにしてもよい。例えば、作業者は、蒸着部30内でレンズ8に対して昇華性染料及び昇華性キャリア剤の付着を行った後、昇華性染料及び昇華性キャリア剤が付着されたレンズ8を取り出す。例えば、作業者はレンズ8を染料定着部50に入れ、常圧下にて加熱し昇華性染料を定着させる。
【0058】
例えば、本実施形態では、加熱温度は、レンズ8が変形せず、十分な発色が可能な温度にて行う。例えば、加熱温度は、好ましくは、110℃以上160℃以下(110℃〜160℃)であってもよい。この場合、例えば、第三工程は、第二工程によって、昇華性染料及び昇華性キャリア剤が付着された樹脂体を、110℃〜160℃の温度で加熱することによって、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を定着させるようにしてもよい。例えば、第三工程の温度を110℃以上で昇華性染料及び昇華性キャリア剤を定着させることで、より樹脂体(本実施形態においてはレンズ8)の内部に昇華性染料及び昇華性キャリア剤が届きやすくなり、より良好に染色を行うことができとともに、第三工程後に、染色した樹脂体(本実施形態においてはレンズ8)からの色抜けを抑制できる。また、例えば、第三工程の温度を160℃以下で昇華性染料及び昇華性キャリア剤を定着させることで、樹脂体が加熱される過ぎることを抑制することができ、樹脂体の変形をよりしづらくすることができる。なお、加熱温度は、さらに好ましくは、120℃以上150℃以下である。この場合、例えば、第三工程は、第二工程によって、昇華性染料及び昇華性キャリア剤が付着された樹脂体を、120℃〜150℃の温度で加熱することによって、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を定着させるようにしてもよい。例えば、第三工程の温度を120℃〜150℃で昇華性染料及び昇華性キャリア剤を定着させることで、より良好に染色を行うことができるとともに、第三工程後に、染色した樹脂体からの色抜けをより抑制でき、樹脂体の変形をより抑制することができる。なお、特に、樹脂体がレンズの場合に、レンズが、ナイロンレンズ、トライベックスレンズ、ポリカーボネートレンズのいずれかである場合には、上記温度によって特に良好に染色を行うことができる。
【0059】
以上のように、例えば、レンズ8の染色予定面に昇華性染料及び昇華性キャリア剤を付着させ、昇華性染料及び昇華性キャリア剤が付着したレンズ8を加熱して昇華性染料及び昇華性キャリア剤を定着させることによって、レンズ8の染色を容易に良好に行うことができる。
【0060】
なお、本実施形態において、染料部6の形状(印刷形状)は、円形状としているが、これに限るものではなく、例えば半円形状やその他の形状(例えば、四角形状)であってもよい。
【0061】
なお、本実施形態において、染色用基体1の加熱方法は上方から行っている場合を例に挙げているが、これに限定されない。例えば、染色用基体1の加熱方法は、側面又は下方からの加熱においても同じように昇華性染料及び昇華性キャリア剤の昇華をさせることができる。
【0062】
なお、染料定着部50の構成を変更することも可能である。例えば、染料定着部50は、レーザをレンズ8上で走査させることで、レンズ8を加熱してもよい。この場合、染料定着部50は、レンズ8の部位に応じて意図的に温度差を生じさせることも可能である。例えば、染料定着部50は、グラデーションのある染色を施す場合等に、目的とするグラデーションの状態に応じてレーザの走査を制御してもよい。染料定着部50は、レンズ8の各部位の温度が望ましい温度となるように、レンズ8の厚み等に応じてレーザの走査を制御してもよい。また、染料定着部50は、電磁波をレンズ8に直接照射することでレンズを加熱してもよい。
【0063】
また、染料付着部10、蒸着部30、および染料定着部50の各々で行われる工程のうちの2以上が、1つの装置によって実行されてもよい。例えば、蒸着部30によって行われる第二工程と、染料定着部50によって行われる第三工程とを共に実行する染色装置が用いられてもよい。この場合、例えば、第二工程における染色用基体1の加熱と、第三工程におけるレンズ8の加熱とを、同一の加熱手段(例えば赤外線ヒータ等)が実行してもよい。また、染色装置は、複数の工程(例えば、第二工程から第三工程まで)を一連の流れで自動的に行ってもよい。
【0064】
以下、実験例及び比較例を示して本開示を具体的に説明するが、本開示は、下記実験例及び下記比較例に制限されるものではない。以下の実験例1〜10では、樹脂体に対して、昇華性染料と昇華性キャリア剤を付着させて、表面に昇華性染料と昇華性キャリア剤が付着された樹脂体を加熱して昇華性染料と昇華性キャリア剤を樹脂体に定着させた。また、以下の比較例1〜2では、樹脂体に対して、昇華性キャリア剤を用いることなく、昇華性染料を付着させて、表面に昇華性染料が付着された樹脂体を加熱して昇華性染料を樹脂体に定着させた。また、以下の比較例3〜4では、樹脂体に対して、昇華性染料と液体キャリア剤を付着させて、表面に昇華性染料と液体キャリア剤が付着された樹脂体を加熱して昇華性染料と液体キャリア剤を樹脂体に定着させた。実験例及び比較例で得られた染色された樹脂体の歪、色ムラ、及び透過率を評価した。
【0065】
<実験例1>
始めに、プリンタに用いるキャリア剤のインクを作製する。キャリア剤としては、昇華性があり室温で固体のキャリア剤(固体の昇華性キャリア剤)を用いる。例えば、キャリア剤としては、4−フェニルフェノール(東京化成工業株式会社)を用いる。例えば、容器に、キャリア剤、純水、及び分散剤を入れ、純分撹拌を行い、キャリア剤インクを製造する。
【0066】
例えば、キャリア剤の量は好ましくは、0.1〜20重量%、より好ましくは0.5〜10重量%である。もちろん、キャリア剤の量は上記重量%に限定されず、任意の量で用いることができる。キャリア剤が0.1重量%未満であると、染料が定着しにくくなり、所望する濃度が得られないことがある。また、キャリア剤が20重量%を超えると、キャリア剤の分散性が悪くなってしまうことがある。また、使用するキャリア剤は、熱で分解せず、耐熱性のあるものを使用する必要がある。本実験例では、キャリア剤の量を2重量%とした。
【0067】
キャリア剤を分散させるため、分散剤を十分攪拌した後、冷却用の水が入った容器に、ャリアインクが入った容器を入れ、超音波ホモジナイザーにて指定時間処理を行ない、キャリア剤を所望する粒径にする。その後、孔径約1μmのフィルター(ガラス繊維濾紙 GF/B)でキャリア剤インクを吸引濾過し、粒径の大きいものやゴミ等を取り除く。その後、指定のインク濃度になるように純水を加え調整し、必要であれば保湿剤や表面張力を調整する界面活性剤を加えて、インクを作製する。今回分散させるために超音波ホモジナイザーを用いたが、ビーズミル等の微粒子化装置を使用してもよい。このようにして、キャリア剤インクを製造する。
【0068】
この実験例では、使用する染色用インクはウペポ社製の分散染料(水性)を使用した。プリンタの(EPSON PX−6250S)染色インク用のインクカートリッジ内をよく洗浄したのち、ウペポ社製の分散染料(赤、青、黄)を入れ、プリンタにセットした。同様にキャリア剤インク用のカートリッジ内もきれいに洗浄した後、作製したキャリア剤インクを入れ、プリンタにセットした。クリーニングを何度も繰り返した後、インクが切り替わったのを確認して、紙厚が100μmの基体(上質PPC用紙)に、PCのドローソフトを用いて、上記の染色用インク及びキャリア剤インクを同時に基体に吐出して印刷することで、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を付着させた。色相は黒色(配合比赤:青:黄=450:500:670)に決定した。以上のようにして、染色用基体を製造した。
【0069】
このようにして得た染色用基体を用いて染色を行った。蒸着部(ニデック製 TTM−1000)内にて染色用治具に染色用基体を取り付けて、ナイロンレンズ(S−0.00)への昇華性染料及び昇華性キャリア剤の蒸着作業を行った。この時の条件は、ナイロンレンズの染色面側と染色用基体との距離を5mmとした。ポンプにて蒸着部内の気圧を100Paまで下げた後、加熱ユニット(本実験例ではハロゲンランプを使用)にて染色用基体の表面温度を200℃まで加熱させた。なお、図示なき温度センサにより染色用基体の付近の温度を測定し、200℃到達と同時にハロゲンランプの電源を切り、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を昇華、付着させた。
【0070】
その後、蒸着部内の気圧を常圧に戻した後、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を定着させるためにオーブン内にて2時間加熱した。なお、このときのオーブンの加熱温度の条件は、120℃とし、昇華性染料及び昇華性キャリア剤を付着させたナイロンレンズを加熱し、昇華性染料及び昇華性キャリア剤の定着を行った。このようにして、ナイロンレンズを染色した。染色後の以下の評価を行った。その結果を表1に示す。評価が○、◎については良好であると評価した。
【0071】
[レンズの歪評価]
染色されたナイロンレンズについて、染色されたナイロンレンズの形状の変化を目視にて確認し、歪が生じていないかを確認した。
大きく歪が生じた:×
ほとんど歪が生じていない(歪はあるが問題とならないレベル):○
歪が生じていない:◎
[レンズの色ムラ評価]
染色されたナイロンレンズについて、染色されたナイロンレンズの形状の色ムラを目視にて確認し、色ムラが生じていないかを確認した。
色ムラが見られる:×
色ムラがほとんど見られない:○
色ムラが見られない:◎
[レンズの透過率評価]
染色用基体を用いて染色された後(つまり、蒸着・定着工程後)のナイロンレンズのTv(視感透過率)を透過率計(ASAHI SPECTRA.CO.,LTD MODEL304)で測定し、染色の品質評価(色抜けの評価)を行った。
透過率が50%より高い:×
透過率が50%以下:○
【0072】
<実験例2>
4−フェニルフェノールの代わりに、固体の昇華性キャリア剤であるベンゾイン(和光純薬工業株式会社)を用いた以外は、実験例1と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0073】
<実験例3>
オーブンの加熱温度の条件を120℃の代わりに110℃とした以外は、実験例1と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0074】
<実験例4>
オーブンの加熱温度の条件を120℃の代わりに150℃とした以外は、実験例1と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0075】
<実験例5>
オーブンの加熱温度の条件を120℃の代わりに160℃とした以外は、実験例1と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0076】
<実験例6>
ナイロンレンズの代わりに、ポリカーボネートレンズ(S−0.00)を用いた以外は、実験例1と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0077】
<実験例7>
ナイロンレンズの代わりに、ポリカーボネートレンズを用いるとともに、4−フェニルフェノールの代わりに、ベンゾインを用いた以外は、実験例1と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0078】
<実験例8>
ナイロンレンズの代わりに、ポリカーボネートレンズを用いるとともに、オーブンの加熱温度の条件を120℃の代わりに110℃とした以外は、実験例1と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0079】
<実験例9>
ナイロンレンズの代わりに、ポリカーボネートレンズを用いるとともに、オーブンの加熱温度の条件を120℃の代わりに150℃とした以外は、実験例1と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0080】
<実験例10>
ナイロンレンズの代わりに、ポリカーボネートレンズを用いるとともに、オーブンの加熱温度の条件を120℃の代わりに160℃とした以外は、実験例1と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表1に示した。
【0081】
<比較例1>
キャリア剤を用いなかったこと以外は、実験例1と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表2に示した。なお、染色の評価は実験例1と同様の評価基準とした。
【0082】
<比較例2>
キャリア剤を用いなかったこと以外は、実験例6と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表2に示した。なお、染色の評価は実験例1と同様の評価基準とした。
【0083】
<比較例3>
4−フェニルフェノールの代わりに、液体キャリア剤であるベンジルアルコールを用いた以外は、実験例1と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表2に示した。なお、染色の評価は実験例1と同様の評価基準とした。なお、例えば、液体キャリア剤インクを製造する場合、実験例1と同様にして、容器に、キャリア剤、純水、及び分散剤を入れ、純分撹拌を行い、キャリア剤インクを製造する。
【0084】
<比較例4>
4−フェニルフェノールの代わりに、液体キャリア剤であるベンジルアルコールを用いた以外は、実験例6と同様に、染色を行い、評価した。以上の結果を表2に示した。なお、染色の評価は実験例1と同様の評価基準とした。
【0086】
表1に示すように、固体の昇華性キャリア剤を用いた場合には、ナイロンレンズ及びポリカーボネートレンズともに、レンズの歪についても問題なく、良好な染色状態となることが確認された。
【0088】
表2に示すように、キャリア剤を用いない場合には、ナイロンレンズ及びポリカーボネートレンズともに、良好な染色状態とならないことが確認された。また、キャリア剤として、液体キャリア剤を用いた場合には、ナイロンレンズ及びポリカーボネートレンズともに、良好な染色状態とならないことが確認された。