特許第6972870号(P6972870)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972870
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】立坑の地震時設計方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 8/00 20060101AFI20211111BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20211111BHJP
   G06F 30/13 20200101ALI20211111BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20211111BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20211111BHJP
【FI】
   E21D8/00
   G06F30/10
   G06F30/13
   G06F30/20
   G06F30/23
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-193786(P2017-193786)
(22)【出願日】2017年10月3日
(65)【公開番号】特開2019-65633(P2019-65633A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 修一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 清
(72)【発明者】
【氏名】久末 賢一
(72)【発明者】
【氏名】秀島 喬博
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−59323(JP,A)
【文献】 特開2008−133595(JP,A)
【文献】 特開2014−63403(JP,A)
【文献】 特開2005−258569(JP,A)
【文献】 米国特許第6397168(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 8/00
G06F 30/13
G06F 30/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立坑本体に欠損部を有する立坑を地盤中に構築するための、立坑の地震時設計方法であって、
前記立坑本体の鉛直方向について、等価な剛性を有する鉛直方向のはりとして二次元でモデル化し、地震時の応答値を算定する工程と、
前記立坑本体のせん断耐力を推定する工程と、
推定した該せん断耐力と前記応答値とを比較して、耐震性能を評価する工程と、を有し、
前記立坑本体のせん断耐力は、該立坑本体を投影した立面図上の、前記立坑本体の短辺と前記欠損部における前記短辺に平行な方向の最大長さと、に基づいて開口率を算定し、該開口率に対応してあらかじめ設定された低減率と、前記立坑本体に欠損部が無い状態の平面視断面全体のせん断耐力と、に基づいて推定することを特徴とする立坑の地震時設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載の立坑の地震時設計方法であって、
前記低減率が、
前記立坑本体における前記欠損部の無い状態に対する前記欠損部を有する状態のせん断耐力の比率を耐力比とし、該耐力比を前記開口率を変えて複数算定しておき、
該開口率と前記耐力比との関係から設定されることを特徴とする立坑の地震時設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立坑本体に欠損部を有する立坑を地盤中に構築するための、立坑の地震時設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地中構造物である円筒状の立坑を構築するべく耐震設計を行う際には、例えば特許文献1に記載されているように立坑本体を2次元でモデル化し、応答変位法や2次元FEM解析により地震時の応答を確認した後に耐震性能を照査し、立坑本体に生じる断面力等の応答値が立坑の耐力等の許容値以下となるように、部材を決定する方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−133595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、立坑本体に欠損部を有する場合には、耐震性能を照査するための照査方法が確立されていない。現状では立坑本体の応答を確認する際、欠損部を有する部位(立坑本体を平面視断面からみて、欠損部を含む立坑本体の軸心から放射方向45度の範囲)を外力が伝達されない部位とみなし、これらを除外した欠損部が存在しない部位のみで応答値を算出する。そして、この応答値を上回るよう、欠損部を有する部位のせん断耐力を決定する。
【0005】
このため、立坑本体における欠損部を有する部位に対して合理的な設計を行うことが難しく、欠損部周囲の補強構造は、過剰に部材厚が厚くなったり、せん断補強筋が過密配筋となるなど、経済性に劣る構造となっていた。
【0006】
また、立坑本体に対して欠損部を同一深度に対向して設ける場合、上述したように、欠損部を有する部位は外力が伝達されない部材とみなして除外するため、モデル化するとせん断力に抵抗する部位が存在しない状態となる。このため、立坑を貫通するようにトンネルを設置するべく、立坑に対してトンネルとの接合部となる開口を同一深度に対向して設けようとすると、現行の耐震設計方法では対応することができず、立坑に接合するトンネルについて深度を変えて設置するなどの対策を取らざるを得ない。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、地盤中に構築予定の立坑本体に欠損部を有する立坑について合理的に耐震設計を行うことが可能な、立坑の地震時設計方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明の立坑の地震時設計方法は、立坑本体に欠損部を有する立坑を地盤中に構築するための、立坑の地震時設計方法であって、前記立坑本体の鉛直方向について、等価な剛性を有する鉛直方向のはりとして二次元でモデル化し、地震時の応答値を算定する工程と、前記立坑本体のせん断耐力を推定する工程と、推定した該せん断耐力と前記応答値とを比較して、耐震性能を評価する工程と、を有し、前記立坑本体のせん断耐力は、該立坑本体を投影した立面図上の、前記立坑本体の短辺と前記欠損部における前記短辺に平行な方向の最大長さと、に基づいて開口率を算定し、該開口率に対応してあらかじめ設定された低減率と、前記立坑本体に欠損部が無い状態の平面視断面全体のせん断耐力と、に基づいて推定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の立坑の地震時設計方法は、前記低減率が、前記立坑本体に前記欠損部の無い状態に対する前記欠損部を有する状態のせん断耐力の比率を耐力比とし、該耐力比を前記開口率を変えて複数算定しておき、該開口率と前記耐力比との関係から設定されることを特徴とする。
【0010】
上記の立坑の地震時設計方法によれば、立坑本体に欠損部が無い状態の平面視断面全体のせん断耐力と開口率に対応してあらかじめ設定された低減率とに基づいて、欠損部を有する立坑本体のせん断耐力を推定する。
【0011】
これにより、欠損部を有する立坑本体に対して、立坑本体の外径に対する欠損部の開口径に応じた適切なせん断耐力を設定できるため、立坑について合理的な設計を行うことが可能となる。
【0012】
また、欠損部が1つのみ存在する場合だけでなく2つ存在する際にも、立坑本体にせん断耐力を確保できるため、いわゆる両側開口といった、立坑本体に設けようとする2つの欠損部を同一深度に対向して配置したい場合であっても、立坑本体の耐震性能を評価することが可能となる。このため、立坑と接合する予定のトンネルについて、線形の選択肢を広げることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地盤中に構築予定の立坑本体に欠損部を有する立坑について、立坑本体の外径に対する欠損部の開口径に応じた、適切なせん断耐力を設定して、合理的な設計を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態における立坑の地震時設計方法のフロー図である。
図2】本発明の実施の形態における立坑本体と鉛直方向はりモデルを示す図である。
図3】本発明の実施の形態における立坑本体の3次元の解析モデルを示す図である。
図4】本発明の実施の形態における立坑本体の3次元非線形解析を実施する際の検討ケースを示す図である。
図5】本発明の実施の形態における立坑本体にせん断力を作用させた際の最大荷重時におけるせん断応力分布を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における立坑本体にせん断力を作用させた際のコンクリートの損傷状況を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における立坑本体にせん断力を作用させた際のせん断補強筋の降伏状況を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における立坑本体の外径に対する欠損部の大きさを4段階に変えた場合の解析モデルを示す図である。
図9】本発明の実施の形態における立坑本体の3次元非線形解析を検討ケース1(基準ケース)で実施した際の開口率と耐力比の関係を示す図である。
図10】本発明の実施の形態における立坑本体の3次元非線形解析を検討ケース1〜5で実施した際の開口率と耐力比の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の立坑の地震時設計方法は、立坑本体に欠損部を有する立坑を地盤中に構築しようとする際に好適な設計方法である。その手順は、従来の設計方法と同様に、立坑本体の鉛直方向について、構造解析を行って耐震性能を照査した後に、立坑本体の水平方向について、構造解析を実施し耐震性能を評価するものであるが、本発明は、耐震性能の照査方法に特徴を有する方法である。
【0016】
以下に、図1で示すフロー図の流れに従って、立坑の地震時設計方法を図2図9を参照しつつ詳述する。
【0017】
図2(a)で示すように、立坑1は、断面円形の筒状体よりなる立坑本体2を地盤中の鉛直方向に延在するよう構築する鉄筋コンクリート造の地下構造物であり、シールドトンネルの発進もしくは到達立坑、地下駅舎の躯体、洞道に連絡する立坑等に使用される。
【0018】
また、立坑本体2の下端部近傍には、2つの欠損部3が同一深度で対向するようにして設けられている。これら欠損部3は円形孔状の閉合した開口に形成されており、トンネル、下水管、電力線や通信線の洞道等、地盤中で横方向に延在する線状地下構造物との接合部として機能する。
【0019】
<STEP1:立坑本体の鉛直方向の構造解析>
上述した立坑1の立坑本体2について、鉛直方向の構造解析を実施するにあたっては、まず、立坑本体2の設計条件(例えば、立坑本体2の部材厚、配筋、コンクリートの圧縮強度、欠損部3の大きさや位置等)を設定する。
【0020】
次に、立坑本体2を二次元でモデル化し、立坑本体2に欠損部3が無いものと仮定して、応答変位法や二次元FEM解析等により応答値、具体的には地震時の変位および断面力(曲げモーメント、せん断)を算出する。
【0021】
本実施の形態では、立坑本体2を二次元でモデル化するにあたり、図2(b)で示すように、全体が等価な剛性を有する複数のはり要素を鉛直方向に連続させたはりとしてモデル化している。このときに設定する剛性として、一般には単位幅あたりの立坑本体2の壁により求まる剛性を採用するが、本実施の形態では、図2(c)で示すような、立坑本体2の平面視断面全体の剛性に設定する。
【0022】
なお、図2(b)(c)で示すBB断面のような、欠損部3が位置する高さ範囲については、AA断面のような欠損部3が存在しない平面視断面全体の剛性を、BB断面の剛性に設定し、立坑本体2のモデルに欠損部3が無いものと仮定している。
【0023】
このような鉛直方向はりモデルを用いて算定された応答値は、欠損部3の無い状態の立坑本体2における平面視断面全体の応答値となるが、後述する<STEP3>にて耐震性能照査を行う際に用いる許容値については、欠損部3の影響を考慮した立坑本体2における平面視断面全体の許容値を用いる。
【0024】
そこで、<STEP2>では、立坑本体2の許容値のなかでも平面視断面全体のせん断耐力Vd’の算定方法を説明する。
【0025】
<STEP2:立坑本体のせん断耐力Vd’の推定>
欠損部3を有する立坑本体2のせん断耐力Vd’を推定する際には、まず、図2(d)で示すように、立坑本体2を鉛直方向に投影した立面図から、立坑本体2の短辺r0とこの短辺r1に平行な方向の欠損部3の最大長さr1とを算出する。これら立坑本体2の短辺r0と欠損部3の最大長さr1とに基づいて、数式(1)から開口率Rを算定する。
R=r1/r0 ・・・・(1)
0:立坑本体2における立面図上の短辺
1:短辺r0と平行な方向における欠損部3の最大長さ
【0026】
なお、本実施の形態では、立坑本体2が断面円形の筒状体であるとともに、欠損部3が円形であるため、立坑本体2の外径が立面図上における立坑本体2の短辺r0に相当し、欠損部3の開口径が欠損部3の最大長さr1に相当する。また、数式(1)は、立坑本体2に欠損部3が2つ存在する場合であり、欠損部3が1つの場合には、上記数式(1)の開口率Rを2で除すればよい。
【0027】
次に、立坑本体2に欠損部3が無い状態の平面視断面全体のせん断耐力Vdを算定する(数式(2)を参照)。
Vd=Vc+Vs ・・・・(2)
Vd:欠損部3の無い立坑本体2のせん断耐力
Vc:コンクリートの受け持つせん断力
Vs:せん断補強筋の受け持つせん断力
【0028】
そのうえで、欠損部3が無い状態の平面視断面全体のせん断耐力Vdに、開口率Rに対応してあらかじめ設定された低減率Dを掛け合わせる。こうして算定された算定値を、欠損部3を有する立坑本体2のせん断耐力Vd’として推定する(数式(3)を参照)。
Vd’=D×Vd ・・・・(3)
Vd’:欠損部を有する立坑本体のせん断耐力
D :開口率Rに対応して設定された低減率
【0029】
なお、低減率Dは、開口率Rに対応して設定される数量であり、欠損部3が無い状態の平面視断面全体のせん断耐力Vdに対する欠損部3を有する立坑本体2のせん断耐力Vd’の比である耐力比(Vd’/Vd)と、開口率Rとの関係から導き出した数式(4)により求めることができる。低減率Dの算定方法については、後述する。
D=α(1−R)+β・・・・(4)
α、β:せん断耐力を評価するためのパラメータ
【0030】
<STEP3:耐震性能照査>
この後、耐震性能照査として従来より実施されている立坑の耐震設計方法と同様に、曲げモーメントおよびせん断力各々について、<STEP1>で算定した応答値と立坑2の許容値を比較する。このとき、本実施の形態では立坑本体2を、複数のはり要素を鉛直方向に連続させたはりとしてモデル化していることから、せん断力の耐震性能照査において、はり要素各々で、発生する応答値である断面力と許容値であるせん断耐力との照査を行う。
【0031】
そして、鉛直方向に連続するはり要素のうち、欠損部3が設けられる高さ位置のはり要素に対して照査を行う際に、許容値として<STEP2>で推定したせん断耐力Vd’を採用する。
【0032】
上記の耐震性能照査にて、地震後に立坑本体2としての安全性および機能が維持できないと判定した場合には、立坑本体2の設計条件を設定する工程に戻り、適宜設計条件を変更して上記の検討を繰り返す。一方、立坑2としての安全性および機能が維持できると判定した場合には、立坑本体2の水平方向の構造解析を行う。
【0033】
<STEP4および5:水平方向の構造解析および耐震性能照査>
立坑本体2における水平方向の構造解析および耐震性能の照査は、従来より実施されている耐震設計方法と同様の手順により実施すればよく、立坑本体2における欠損部3が存在しない一般部、および欠損部3が位置する開口部の各々について、2次元でフレーム解析を行って応答値である断面力を算定する。
【0034】
この後、耐震性能照査として、曲げモーメントおよびせん断力各々について、算定した応答値と立坑本体2の許容値を比較する。これら耐震性能照査にて、立坑本体2としての安全性および機能が維持できないと判定した場合、立坑本体2の設計条件を設定する工程に戻り、適宜設計条件を変更して立坑本体2における鉛直方向の構造解析から検討を繰り返す。一方で、立坑本体2としての安全性および機能が維持できると判定した場合には、現行の設計条件にて立坑本体2が決定される。
【0035】
上記の立坑の地震時設計方法によれば、欠損部3を有する立坑本体2に対して、開口率Rに応じた適切なせん断耐力を設定できるため、立坑1に合理的な設計を行うことが可能となる。
【0036】
また、欠損部3が1つのみ存在する場合だけでなく2つ存在する際にも、立坑本体2にせん断耐力Vd’を確保できるため、いわゆる両側開口といった、立坑本体2に対して2つの欠損部3を同一深度に対向して設けたい場合であっても、立坑本体2の耐震性能を評価することが可能となる。これにより、立坑1と接合する予定のトンネルについて、線形の選択肢を広げることが可能となる。
【0037】
次に、低減率Dを導き出した手順と最適な低減率Dを算定方法について、以下に詳述する。
【0038】
<低減率Dの算定方法>
まず、立坑本体2に欠損部3を有する立坑1について、図3で示すように、立坑本体2を構成するコンクリート、主鉄筋、および配力鉄筋をそれぞれ3次元でモデル化し、せん断破壊までの挙動を3次元非線形解析により把握する。なお、本実施の形態では、3次元非線形解析として、材料非線形有限要素解析を採用している。
【0039】
本解析を実施するにあたって、立坑本体2の断面形状は円形筒状とするとともに、欠損部3の形状は円形孔状の開口に設定し、その設計条件は、図4の検討ケースに示すとおりとした。また、立坑本体2を3次元でモデル化するに際し、曲げ破壊が先行しないよう解析モデル頂部の鉛直方向の変位を拘束するとともに、底面を固定した。
【0040】
上記と同様の手順で、立坑本体2に欠損部3が無い状態の立坑1aについてもせん断破壊までの挙動を把握するべく、3次元非線形解析を行った。図5(a)(b)に、立坑1、1a各々の立坑本体2に対して欠損部3の開口面と平行する方向に荷重が作用する場合の、立坑本体2と欠損部3の中央位置水平断面における、最大荷重時のせん断応力分布を示す。
【0041】
立坑本体2においてせん断応力の卓越する個所は、欠損部3が無い状態の立坑1aでは図5(a)を見ると、せん断変形に応じて斜めに分布しているのに対し、欠損部3を有する立坑1では図5(b)をみると、欠損部3より上側で斜めに、下側で欠損部3の左右にせん断応力が流れている様子がわかる。
【0042】
また、欠損部3の中央位置水平断面においてせん断応力は、欠損部3が無い状態の立坑1aでは図5(a)をみると、立坑本体2の荷重作用方向と平行する範囲において大きくなっている様子がわかる。一方、欠損部3を有する立坑1では図5(b)をみると、立坑本体2の荷重作用方向と直交する範囲で大きくなっている様子がわかる。
【0043】
このように欠損部3を有する立坑本体2において、せん断力は、立坑本体2における欠損部3の上部付近を介して、欠損部3に隣接する立坑本体2の荷重作用方向と直交する範囲に伝達されている。したがって、立坑本体2に対面する状態で2つの欠損部3が同一深度に存在する場合にも、立坑本体2全体でせん断耐力を確保できるものといえる。
【0044】
次に、図6(a)(b)に、立坑本体2におけるせん断破壊に至る最大荷重時のコンクリートの損傷状況を、図7(a)(b)に、立坑1の立坑本体2におけるせん断破壊に至る最大荷重時の水平鉄筋の損傷状況を、それぞれ示す。
【0045】
コンクリートの損傷状況について、欠損部3が無い状態の立坑1aでは図6(a)をみると、立坑本体2全体がせん断変形している。一方、欠損部3を有する立坑1では図6(b)をみると、欠損部3付近に変形が集中し欠損部3周辺でコンクリートの圧縮軟化を生じている様子がわかる。
【0046】
また、せん断補強筋の損傷状況について、欠損部3が無い状態の立坑1aでは図7(a)をみると、立坑本体2全体にせん断変形に応じて斜めに降伏範囲が分布している。一方、欠損部3を有する立坑1では図7(b)をみると、欠損部3付近にせん断変形に応じた降伏範囲の分布を生じている様子がわかる。
【0047】
これにより、欠損部3を有する立坑1の立坑本体2は、コンクリートや鉄筋が欠損している欠損部3周辺にせん断変形が集中することにより、欠損部3が無い状態の立坑1aの立坑本体2と比較して、せん断耐力Vd’が低下することものといえる。
【0048】
次に、開口率Rとせん断耐力Vd’との関係を把握するべく、立坑本体2に欠損部3を有する立坑1について、図8(a)〜(d)で示すように、先に説明した欠損部3の最大長さr1に相当する、欠損部3の開口径を4段階に変えた、開口率Rの異なる4つの立坑1を準備した。そして、これらと欠損部3が無い状態の立坑1aに対して、せん断破壊までの挙動を上記と同様の手順で3次元非線形解析にて把握し、荷重変位関係におけるせん断破壊に至る最大荷重を把握する。
【0049】
本実施の形態では、この最大荷重をせん断耐力Vd’、Vdとして取り扱うこととし、その結果を、図9で示すような横軸に開口率R、縦軸に耐力比(Vd’/Vd)を取ったグラフにプロットした。
【0050】
図9のグラフを見ると、開口率Rが大きくなるにしたがって耐力比(Vd’/Vd)が低下しており、開口率Rと耐力比(Vd’/Vd)との間に線形関係を見て取ることができる。そこで、耐力比(Vd’/Vd)を開口率Rに基づく一次関数で表し、これを低減率Dとした(前出の(4)を参照)。これにより、開口率Rに対応した低減率Dを、数式(4)に適宜開口率Rに相当する数量を代入することで算出することができる。
【0051】
また、発明者らは、欠損部3を有する立坑本体2において、せん断耐力Vd’が少なくとも立坑本体2の部材厚、せん断補強筋比、コンクリートの圧縮強度および開口の数量の影響を受けるとの知見を得ている。そこで、これら4点について適宜設計条件を変更した立坑本体2の解析モデルを準備し、上記と同様の手順で3次元非線形解析を実施して、せん断破壊に至る最大荷重からせん断耐力Vd’を把握し、その結果を図10で示すグラフにプロットした。
【0052】
具体的には、図8(a)〜(d)で示す4種の立坑1各々について、図4の検討ケース1〜5までの8つの設計条件で3次元非線形解析を実施した。各検討ケースは、ケース1を基準とし、ケース2−1と2−2は部材厚、ケース3−1と3−2はせん断補強筋比、ケース4−1と4−2でコンクリートの圧縮強度をそれぞれ変更した。
【0053】
また、ケース5は、基準となるケース1と部材厚、せん断補強筋比およびコンクリート強度が同一であるが、欠損部3を1つのみとしている。なお、上記のすべての設計条件において耐力比(Vd’/Vd)を算出するべく、欠損部3が無いものと仮定した立坑本体2についてもせん断耐力Vdを算出している。
【0054】
図10のグラフを見ると、ケース2〜5のいずれの場合においても、開口率Rと耐力比(Vd’/Vd)との間におおむね線形関係を有する様子がわかる。また、基準のケース1に対してケース2〜5は各々で傾きが異なることから、立坑本体2の部材厚、せん断補強筋比、コンクリートの圧縮強度、および欠損部3の数量各々が、耐力比(Vd’/Vd)に影響を与えている様子も確認できる。さらに、ケース2〜4のなかでも、せん断補強筋比の数量を変えたケース3−1とケース3−2では線形の傾きの差が顕著に表れており、せん断補強筋比が耐力比(Vd’/Vd)に大きな影響を与えている様子がわかる。
【0055】
したがって、低減率Dを設定する際には、構築しようとする立坑1における立坑本体2の部材厚、せん断補強筋比、コンクリートの圧縮強度、欠損部3の数量等に応じて、パラメータであるα及びβ(前出の数式(4)を参照)を適宜調整し、立坑2の設計条件に応じて最適な低減率Dを設定するとよい。なお、α及びβの調整方法はいずれでもよいが、例えば、αもしくはβを目的変数とし、立坑本体2の部材厚、せん断補強筋比、コンクリートの圧縮強度、欠損部3の数量を説明変数として重回帰分析を行い、低減率Dを設定することも考えられる。
【0056】
こうして、立坑本体2のせん断耐力Vd’を数式(3)(4)を用いて算定するにあたり、構築しようとする立坑本体2の部材厚、せん断補強鉄筋比、コンクリートの圧縮強度、欠損部3の数量等、立坑2の設計条件に応じて最適な低減率Dを用いることにより、立坑1をより合理的に設計することが可能となる。
【0057】
なお、本実施の形態において、ケース2−1と2−2で用いた立坑本体2の部材厚は、既往の大深度立坑の部材厚(1.0〜2.5m)を含み、ケース3−1と3−2で用いたせん断補強筋比は、コンクリート標準示方書で定められている最小及び最大値を含む。また、ケース4−1と4−2で用いたコンクリート強度は、高強度コンクリートの適用を考慮し、それぞれ検討ケースを設定している。
【0058】
したがって、図10のグラフにおいて、開口率Rと耐力比(Vd’/Vd)の関係を示す線形が、ケース1〜5の全てのプロットを含む位置、つまりこれらのプロットより下側に位置するようにα及びβを決定し、低減率Dを設定する。こうすると、少なくとも、立坑本体2の部材厚、せん断補強筋比、コンクリートの圧縮強度、欠損部3の数量について、安全側に立ったせん断耐力Vd’を設定することができる。
【0059】
図10のグラフに示す破線は、α=1、β=0であり、少なくともα≦1、β≧0の範囲でα及びβを設定すると、欠損部3を有する立坑本体2のせん断耐力Vd’について安全な耐震性能照査を行うことが可能となる。なお、α=1およびβ=0を採用した場合、数式(3)及び数式(4)から、欠損部3を有する立坑本体2のせん断耐力Vd’は、下記の数式(5)に開口率Rを代入することにより推定できる。
Vd’=(1−R)×Vd・・・・(5)
【0060】
なお、従来の耐震設計法では、1つの欠損部3を有する立坑本体2のせん断耐力Vd’を算定する際、上述した数式(2)を準用する。この場合には、立坑本体2のうち欠損部3が存在する部位(立坑本体2の平面視断面からみて、欠損部3を含む立坑本体2の軸心から放射方向45度の範囲(図5(b)を参照))をせん断伝達部材として取り扱わない。このため、コンクリート受け持つせん断力Vcを数式(6)にて設定する場合に、腹部幅bwを半分にして算定することとなる。
Vc=(τalwz) ・・・・(6)
τal:コンクリートの短期許容せん断応力度
w :部材断面の腹部の幅
z=d/1.15
:全圧縮応力の作用点から引張鉄筋断面の図心までの距離
【0061】
すると、コンクリートの受け持つせん断力Vcの数量が過小評価されるため、立坑本体2の部材厚を変更することなく必要なせん断耐力Vd’を確保しようとすると、せん断補強筋の受け持つせん断力Vsを大きくせざるを得ず、せん断補強筋が過密配筋となって不経済となっていた。
【0062】
しかし、本実施の地震時設計方法では、立坑本体2全体でせん断耐力体Vd’を確保することから、コンクリート受け持つせん断力Vcを過小評価することなく適切に評価でき、従来の耐震設計方法と比較してせん断補強筋の受け持つせん断力Vsを小さくできる。これにより、せん断補強筋の配筋量を減らして合理的で経済的な設計をすることが可能となる。
【0063】
本発明の立坑の地震時設計方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0064】
例えば、本実施の形態では、立坑本体2の断面形状に円筒を採用したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、筒状体であれば角筒等いずれでもよい。
【0065】
また、欠損部3の形状は必ずしも円形の孔状に限定されるものではなく、閉合していれば馬蹄形等いずれの形状であってもよい。さらに、欠損部3の配置位置は、立坑本体2の下端部近傍であれば、いわゆる片側開口といった立坑本体2に欠損部3を1つ設ける場合や、両側開口といった2つの欠損部3を立坑本体2の同一深度に対向して設ける場合のいずれでもよい。
【0066】
加えて、本実施の形態では、<STEP1>において欠損部3の無い状態の立坑本体2における平面視断面全体の応答値を算定したが、必ずしもこれに限定するものではない。例えば、欠損部3を有する立坑本体2について開口率Rに対応した平面視断面全体の応答値を算定し、その断面力を<STEP3>の耐震性能照査に用いてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 立坑
1a 立坑
2 立坑本体
3 欠損部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10