特許第6972888号(P6972888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972888
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】水素製造装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/00 20060101AFI20211111BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20211111BHJP
   C25D 1/04 20060101ALI20211111BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20211111BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   C25B15/00 303
   C25B15/08 302
   C25D1/04
   C25B9/00 A
   C25B1/02
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-199208(P2017-199208)
(22)【出願日】2017年10月13日
(65)【公開番号】特開2019-73751(P2019-73751A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 元
【審査官】 大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−095128(JP,A)
【文献】 特開2016−204698(JP,A)
【文献】 特開2012−067343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/00
C25B 1/04
C25B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた水素製造装置。
(1)前記水素製造装置は、
固体高分子電解質膜を隔膜に用いた水電解装置と、
前記水電解装置に電力を供給する直流電源と、
前記水電解装置の酸素極に酸素及び/又はオゾンを含む酸化剤を供給する1種又は2種以上の酸化剤供給装置と、
前記水電解装置、前記直流電源、及び前記酸化剤供給装置の動作を制御する制御装置と
を備えている。
(2)前記制御装置は、水電解を停止した時に、前記酸化剤供給装置を用いて前記酸化剤を前記酸素極に供給し、水素極側から前記酸素極側に拡散した水素を、酸素極触媒の表面において前記酸化剤と直接反応させる還元抑制手段を備えている。
【請求項2】
前記酸化剤供給装置は、
(a)前記酸素極に、前記水電解装置から排出される前記酸素を含む水を供給する酸素含有水供給装置、
(b)前記酸素極に、前記水電解装置から排出される前記酸素を含む水から分離した酸素ガスを供給する酸素ガス供給装置、
(c)前記酸素極に、空気を含む水を供給する空気含有水供給装置、
(e)前記酸素極に、空気を供給する空気供給装置、
(f)前記酸素極に、オゾンを含む水を供給するオゾン水供給装置、及び、
(g)前記酸素極に、オゾンを供給するオゾン供給装置
からなる群から選ばれるいずれか1以上の装置を含む請求項1に記載の水素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造装置に関し、さらに詳しくは、固体高分子電解質膜を隔膜に用いた水電解装置を備えた水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水電解装置としては、固体高分子電解質膜を隔膜に用いた水電解装置(固体高分子形(PEM)水電解装置)、アルカリ電解液を隔壁で仕切った水電解装置、固体酸化物を電解質に用いた高温水電解装置などが知られている。これらの内、PEM水電解装置は、水のみを用いて水素を発生させることができる、水素ガス中に水以外の不純物は含まれない、作動温度が低い、などの利点がある。しかし、PEM水電解装置は、水電解セルの停止時に水素極側から拡散した水素によって酸素極側の触媒が還元状態となり、触媒が劣化しやすいという問題がある。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、水電解スタックの水電解反応が停止した後に、陽極及び陰極にそれぞれ水を供給し、電解発生電圧(1.5V)よりも低い停止電圧(電解反応が起きない電圧)を水電解セルに印加する方法が開示されている。
【0004】
同文献には、
(A)水電解反応が停止すると、陰極(水素極)から陽極(酸素極)に向かってプロトンが拡散する逆反応(燃料電池反応)が起きる点、
(B)逆反応が起きると、陰極にトラップされていた不純物イオン(M+)もまた電解質膜内部へ拡散し、この不純物イオンが電解質膜を劣化させる原因となる点、及び、
(C)水電解反応が停止した後、両極に水を流しながら停止電圧を印加し続けると、逆反応が停止するまで(水により、水素と酸素が電極表面から除去されるまで)の間、不純物イオンが陰極に捕捉されたままとなり、これによって不純物イオンの電解質膜への自由拡散を抑制することができる点
が記載されている。
【0005】
特許文献2には、
(a)電解質膜の両側に設けられた給電体間に対する電解電圧の印加を停止させ、
(b)電解電圧の印加を停止した状態で、高圧水電解装置内に冷却用媒体を供給することにより、高圧水電解装置を冷却し、
(c)少なくともカソード側の減圧を行う
高圧水電解装置の運転停止方法が開示されている。
【0006】
同文献には、
(A)水電解処理を停止した後、カソード側の水素圧力を常圧付近まで徐々に減圧すると、カソード側の水素圧力が常圧になるまでに相当な時間を要するため、その間にカソード側からアノード側に水素が透過するおそれがある点、
(B)アノード側に水素が透過すると、アノード触媒が水素によって還元され、水電解性能が低下する点、及び、
(C)水素のリーク量は温度に依存するため、高圧水電解装置を冷却しながらカソード側の減圧を行うと、アノード側にリークする水素量が削減される点
が記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、
(a)カソード側電解室からの水素の供給が停止した後、各単セルに電解電圧より低圧の電圧を印加し、
(b)各単セルに電圧を印加した状態で、少なくともカソード側電解室の減圧を行う
水電解装置の運転停止方法が開示されている。
【0008】
同文献には、
(A)水電解処理を停止した後、カソード側の水素圧力を常圧付近まで徐々に減圧すると、カソード側の水素圧力が常圧になるまでに相当な時間を要するため、その間にカソード側からアノード側に水素が透過するおそれがある点、
(B)アノード側に水素が透過すると、アノード触媒が水素によって還元され、水電解性能が低下する点、及び、
(C)電圧を印加しながらカソード側の減圧を行うと、アノード側にリークした水素が印加電圧により再度プロトン化してカソード側に戻されるために、アノードにおける高圧水素の滞留を抑制することができる点
が記載されている。
【0009】
特許文献1、3には、電解停止後に各セルに電圧を印加することによって、電解質膜やアノード触媒の劣化を抑制する方法が開示されている。しかし、水電解の原理上、電圧を印加すれば、水素及び酸素が発生する。発生した酸素の一部は、電解質膜を透過し、水素極で水素と反応し、過酸化水素を生成させる場合がある。そのため、過酸化水素による膜の劣化が懸念される。また、過酸化水素により膜が劣化すると、Fイオンが排出される。Fイオンは、バイポーラプレートなどの他の構成部材を劣化させる原因となる。
さらに、生成した水素の行き場がない場合、水電解セルの水素極の内圧が上がる。その結果、酸素極への水素透過量が多くなり、触媒劣化が生じる可能性がある。
【0010】
また、特許文献1、3には、各セルに電圧を印加する点が記載されている。しかし、スタックの場合、各セルにそれぞれ電圧を印加するためには、そのための複雑な機構(例えば、各セル向けに電源を設ける等)が必要となり、現実的ではない。
一方、スタック全部に同じ電流を流すという方法も考えられる。しかし、この方法の場合、セル電圧は成り行きで決まる。そのため、例えば、水が不足しているセルがある場合、セル間で電圧に大きな差異が生じる可能性があり、電圧制御は事実上不可能となる。
【0011】
さらに、特許文献2には、水素のリーク量を抑制するために、減圧時に水電解装置を冷却する方法が開示されている。しかし、この方法は、水素のリーク速度を遅くすることはできても、水素のリークそのものを抑制することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013−199697号公報
【特許文献2】特開2012−067343号公報
【特許文献3】特開2010−236089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、PEM水電解装置を備えた水素製造装置において、水電解装置の停止時に水素が電解質膜を透過することにより生じる酸素極触媒の活性低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明に係る水素製造装置は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記水素製造装置は、
固体高分子電解質膜を隔膜に用いた水電解装置と、
前記水電解装置に電力を供給する直流電源と、
前記水電解装置の酸素極に酸素及び/又はオゾンを含む酸化剤を供給する1種又は2種以上の酸化剤供給装置と、
前記水電解装置、前記直流電源、及び前記酸化剤供給装置の動作を制御する制御装置と
を備えている。
(2)前記制御装置は、水電解を停止した時に、前記酸化剤供給装置を用いて前記酸化剤を前記酸素極に供給する還元抑制手段を備えている。
【発明の効果】
【0015】
水電解反応を停止させると、水素極側から酸素極側に向かって水素が透過する。その結果、酸素極側が還元状態となり、酸素極側触媒の活性が低下する。
これに対し、水電解反応を停止させた後、酸化剤(酸素又はオゾン)を酸素極に供給すると、燃料極側から酸素極側に拡散した水素は、酸素極触媒の表面において酸化剤と直接反応し、水となる(触媒燃焼)。そのため、水素極側に充満している水素ガスがほぼ枯渇するまで酸素極側に酸化剤を供給し続けると、酸素極触媒の水素による還元を抑制することができる。また、その間、電極間に電圧を印加しないため、過酸化水素が副成することもない。さらに、酸化剤には水電解反応時に副成した酸素を用いることもできるため、装置が複雑化することもない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る水素製造装置の模式図である。
図2】本発明の第2の実施の形態に係る水素製造装置の模式図である。
図3】本発明に係る水素製造装置の水電解時のブロック図である。
図4】本発明に係る水素製造装置の停止時(触媒劣化抑制制御時)のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 水素製造装置(1)]
図1に、本発明の第1の実施の形態に係る水素製造装置の模式図を示す。図1において、水素製造装置10aは、
固体高分子電解質膜を隔膜に用いた水電解装置20aと、
水電解装置20aに電力を供給する直流電源50と、
水電解装置20aの酸素極に酸素及び/又はオゾンを含む酸化剤を供給する1種又は2種以上の酸化剤供給装置60と、
水電解装置20a、直流電源50、酸化剤供給装置60の動作を制御する制御装置(図示せず)と
を備えている。
【0018】
[1.1. 水電解装置]
本発明において、水電解装置20aの構造は、特に限定されない。図1に例示する水電解装置20aは、両極水循環方式の水電解装置である。
水電解装置20aは、水電解スタック(又は、水電解セル)22と、酸素極側マニホールド24と、酸素極側気液分離器26と、貯蔵タンク28と、水素極側マニホールド30と、水素極側気液分離器32と、除湿装置34とを備えている。
【0019】
水電解スタック22は、固体高分子電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体(MEA)と、MEAの両側に配置された集電体とを備えた単セル(水電解セル)が複数個積層されたものからなる。なお、小規模の水素製造装置においては、水電解スタックに代えて、単セル(水電解セル)を用いても良い。
【0020】
水電解スタック22の酸素極側には、酸素極側マニホールド24が設けられている。酸素極側マニホールド24は、酸素極側気液分離器26から供給される水を各水電解セルに分配するためのものである。酸素極側マニホールド24の出口は、酸素極側気液分離器26の入口に接続され、酸素極側気液分離器26の出口は、第1循環ポンプ36aを介して酸素極側マニホールド24の入口に接続されている。
【0021】
酸素極側気液分離器26は、第1循環ポンプ36aを用いて、酸素極側マニホールド24に電解の原料である水を供給すると同時に、酸素極で生成した酸素を含む水を回収し、酸素を分離するためのものである。空気極側気液分離器26で分離された酸素ガスは、通常、大気中に廃棄されるが、本実施の形態では、この酸素ガスが酸化剤として再利用される場合がある。すなわち、本実施の形態において、酸素極側気液分離器26は、酸化剤供給装置60を兼ねている。この点については、後述する。
酸素極側気液分離器26の他の入口には、さらにポンプ38を介して貯蔵タンク28が接続されている。貯蔵タンク28は、外部から供給される純水を一時的に貯蔵するためのものである。電解時には、ポンプ38を介して、適量の純水が酸素極側気液分離器26に補給される。
【0022】
水電解スタック22の水素極側には、水素極側マニホールド30が設けられている。水素極側マニホールド30は、各水電解セルの燃料極から排出される水素ガス(及び、プロトン伝導に伴って燃料極側に排出される結合水)を集めて、水電解スタック22の外部に排出するためのものである。
本実施の形態において、水素極側マニホールド30の出口は、水素極側気液分離器32の入口に接続され、水素極側気液分離器32の出口は、第2循環ポンプ36bを介して水素極側マニホールド30の入口に接続されている。水電解を行う場合、必ずしも水素極側に水を循環させる必要はないが、水を循環させながら水電解を行うと、電極表面からの水素ガスの脱離を促進させることができる。
【0023】
水素極側気液分離器32の他の出口には、さらに除湿装置34が接続されている。除湿装置34は、水素極側気液分離器32から排出された水素ガスから不純物である水分を取り除くためのものである。除湿装置34で水分が取り除かれた水素ガスは、各種の水素消費装置(例えば、燃料電池など)に供給される。
【0024】
[1.2. 直流電源]
直流電源50は、水電解装置20aに対して、水電解に必要な電力を供給するためのものである。直流電源50の+極は、酸素極側の集電体に接続され、−極は、水素極側の集電体に接続されている。本発明において、直流電源50の種類は、特に限定されない。直流電源50としては、商用電源、再生可能エネルギー電源(例えば、太陽光発電、風力発電、波力発電など)などがある。電源が交流電源である場合、交流直流変換器を用いて直流を発生させる。
【0025】
[1.3. 酸化剤供給装置]
本発明において、水素製造装置10aは、酸化剤供給装置60を備えている。この点が、従来とは異なる。酸化剤供給装置60は、水電解停止時に、水電解装置20aの酸素極に酸素及び/又はオゾンを含む酸化剤を供給するための装置である。酸化剤供給装置60の構造は、酸素極に適量の酸化剤を供給可能なものである限りにおいて、特に限定されない。
【0026】
酸化剤供給装置60としては、例えば、
(a)酸素極に、水電解装置20aから排出される酸素を含む水を供給する酸素含有水供給装置、
(b)酸素極に、水電解装置20aから排出される酸素を含む水から分離した酸素ガスを供給する酸素ガス供給装置、
(c)酸素極に、空気を含む水を供給する空気含有水供給装置、
(e)酸素極に、空気を供給する空気供給装置、
(f)酸素極に、オゾンを含む水を供給するオゾン水供給装置、
(g)酸素極に、オゾンを供給するオゾン供給装置、
などがある。
水素製造装置10aは、これらのいずれか1種の酸化剤供給装置60を備えていても良く、あるいは、2種以上を備えていても良い。
【0027】
[1.3.1. 酸素含有水供給装置]
図1に示す例において、酸素極側気液分離器26が酸化剤供給装置(酸素含有水供給装置)60を兼ねている。酸素極側気液分離器26は、水電解装置10の酸素極から排出された酸素を含む水から酸素を分離するためのものであるが、気液分離後の水には、所定量の溶存酸素が含まれている。本実施の形態では、この気液分離後の酸素含有水を酸化剤として利用する。水電解停止時には、第1ポンプ36aを介して酸素極側気液分離器26内の酸素含有水が酸素極に供給される。
【0028】
酸素極側気液分離器26を酸化剤供給装置60として使用するためには、酸素極側気液分離器26から直ちに酸素ガスを大気に放出するのではなく、酸素極側気液分離器26に備えられる水タンクの空間部分に酸素ガスを貯めておくのが好ましい。空間部分に酸素ガスを溜め込むと、より多くの酸素を水に溶解させることができる。また、酸素をより多く溜め込むことができるように、大型の気液分離器を用いるのが好ましい。
さらに、酸素の溶解を促進させるために、コンプレッサーやバブラーを使用しても良い。空間内の残存酸素量が少なくなった場合、こうした方法で酸素溶解量を上げることは有効である。
【0029】
[1.3.2. 酸素ガス供給装置]
システムが単純で、かつ、効果が大きい方法は、水電解で生成した酸素ガスを一部貯めておき、酸素ガスを酸化剤として利用する方法である。酸素極側の第1循環ポンプ36aを有するタイプの水電解装置20aで、かつ、酸素ガスが貯まるような空間が用意された空気極側気液分離器26を有していれば、ポンプ等を用いて、酸素ガスをそのまま酸素極に供給することもできる。
【0030】
[1.3.3. 空気含有水供給装置、空気供給装置]
酸素極側気液分離器26に備えられる水タンクの空間部分が外気と遮断されていない場合において、空間内の酸素が少なくなった時には、拡散等により空気が空間内に入る。そのため、空間内の酸素濃度が低下し、空気とほぼ変わらない状態となる。このような場合であっても、水タンク内の水には、溶存酸素が含まれる。そのため、空間部分の酸素濃度が空気に近づいた時には、水タンク内の空気含有水を酸素極に供給しても良い。すなわち、酸素極側気液分離器26は、空気含有水供給装置としても使用することができる。
あるいは、酸素極側気液分離器26とは別に、空気含有水を貯蔵するタンクと、空気含有水を酸素極に供給するためのポンプをさらに備えていても良い。
さらに、水素製造装置10aは、空気極側気液分離器26に代えて、又はこれに加えて、空気を空気極に供給するため空気供給装置をさらに備えていても良い。
【0031】
[1.3.4. オゾン水供給装置、オゾン供給装置]
空気の場合、酸素に比べて酸化力が劣るため、短時間で触媒燃焼が十分に進まない可能性がある。このような場合には、水素製造装置10aは、酸素極側気液分離器26とは別に、オゾン水又はオゾンを発生させる装置と、オゾン水又はオゾンを酸素極に供給するためのポンプをさらに備えていても良い。但し、オゾン水供給装置又はオゾン供給装置を設置した場合、システムの複雑化、高コスト化は避けられない。そのため、酸素極側気液分離器26を酸化剤供給装置60として利用するのが好ましい。
【0032】
[1.4. 制御装置]
制御装置は、水電解装置20a、直流電源50、酸化剤供給装置60の動作を制御するためのものである。本発明において、制御装置は、通常の水電解を行うための手段に加えて、水電解装置20aが停止している時に、酸化剤供給装置60を用いて酸化剤を酸素極に供給する還元抑制手段をさらに備えている。また、水素製造装置10aが2種以上の酸化剤供給装置60を備えている場合、制御装置は、2種以上の装置の切替を行う切替手段をさらに備えていても良い。この点が従来とは異なる。
【0033】
[1.4.1. 還元抑制手段]
酸化剤の供給は、水電解装置20aが停止している間、継続して行う必要はない。酸素極側の触媒劣化は、水素極側に残存している水素が電解質膜を透過して酸素極に到達し、酸素極側の触媒が還元されることによって起こる。そのため、水素極の水素が枯渇した時、あるいは、水素の透過が無視できる程度に水素の量が減少した時に、酸化剤の供給を停止させれば良い。
【0034】
酸化剤の供給を停止させるタイミングは、例えば、セル電圧をモニタすることにより知ることができる。セル電圧をモニタし、セル電圧がほぼゼロ近くになり、酸化剤を供給してもセル電圧がそれ以上変化しなくなった時は、水素極の水素がほぼ枯渇したことを意味する。このような状態となったところで、酸化剤の供給を停止させれば良い。
【0035】
[1.4.2. 切替手段]
水素製造装置10aが2種以上の酸化剤供給装置を備えている場合、制御装置は、2種以上の装置の切替を行う切替手段をさらに備えていても良い。
どの装置を優先させるかは、酸化剤の種類、酸化剤の残存量、水素製造装置10aの状態などに応じて任意に選択することができる。
【0036】
[2. 水素製造装置(2)]
図2に、本発明の第2の実施の形態に係る水素製造装置の模式図を示す。図2において、水素製造装置10bは、
固体高分子電解質膜を隔膜に用いた水電解装置20bと、
水電解装置20bに電力を供給する直流電源50と、
水電解装置20bの酸素極に酸素及び/又はオゾンを含む酸化剤を供給する1種又は2種以上の酸化剤供給装置60と、
水電解装置20b、直流電源50、酸化剤供給装置60の動作を制御する制御装置(図示せず)と
を備えている。
【0037】
図2に示す水電解装置10bにおいて、水電解装置20bは、片側水循環方式の水電解装置である。そのため、水素極側気液分離器32に蓄えられた水を水素極に送るための循環ポンプを備えていない。この点が、第1の実施の形態とは異なる。その他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0038】
[3. 水素製造装置の運転方法]
[3.1. 水電解時]
図3に、本発明に係る水素製造装置の水電解時のブロック図を示す。水電解時においては、酸素極側に水を供給しながら、直流電源50を用いて水電解装置20に電力を供給する。これにより、水電解装置20内において水電解反応が進行し、水素極側から水素が排出され、酸素極側から酸素が排出される。生成した水素は、水素消費装置(例えば、燃料電池)に供給される。副成した酸素は、通常、そのまま大気に排出されるが、本発明においては、副成した酸素は、酸素極触媒の還元を抑制するための酸化剤として再利用される場合がある。
【0039】
[3.2. 停止時]
図4に、本発明に係る水素製造装置の停止時(触媒劣化抑制制御時)のブロック図を示す。水電解を停止した直後は、高圧の水素ガスが水素極に滞留している状態にある。そのため、これを放置すると、水素が電解質膜を透過し、酸素極に到達する。そこで、水素製造装置10を停止させた時には、酸化剤供給装置60を用いて、酸素、空気、若しくはオゾン、又は、これらを含む水を酸素極に供給する。
酸素極に酸化剤を供給すると、電解質膜を透過した水素と酸化剤が酸素極触媒の表面で反応し、水となる(触媒燃焼)。その結果、酸素極触媒の還元が抑制される。水素極側からの水素の透過がなくなったところで、酸化剤の供給を停止させる。
【0040】
[4. 作用]
水電解を停止させた後、時間の経過と共に水素極から酸素極に水素が拡散し、酸素極側の酸素濃度が減少する。その結果、酸素極が還元状態となるおそれがある。酸素極触媒であるPt、Ru、Ir等の酸化物は、いずれも酸素が少ない条件ではゆっくりとではあるが還元されてしまう。そのため、酸素極側が水素雰囲気になると、酸素極触媒の表面は、概ね酸化状態になる水電解時とは異なる表面状態になる。水電解触媒においては、還元・酸化の繰り返しが触媒の劣化要因と考えられることから、還元状態の発現は大きな問題である。
【0041】
これに対し、水電解反応を停止させた後、酸化剤(酸素又はオゾン)を酸素極に供給すると、燃料極側から酸素極に拡散した水素は、酸素極触媒の表面において酸化剤と直接反応し、水となる(触媒燃焼)。そのため、水素極側に充満している水素ガスがほぼ枯渇するまで酸素極側に酸化剤を供給し続けると、酸素極触媒の水素による還元を抑制することができる。また、その間、電極間に電圧を印加しないため、過酸化水素が副成することもない。さらに、酸化剤には水電解反応時に副成した酸素を用いることもできるため、装置が複雑化することもない。
【0042】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る水素製造装置は、燃料電池車に水素を供給するための水素ステーションに設置される水素源として用いることができる。
【符号の説明】
【0044】
10、10a、10b 水素製造装置
20、20a、20b 水電解装置
50 直流電源
60 酸化剤供給装置
図1
図2
図3
図4