(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ブレーキ操作部材のストロークに応じて油路を介してブレーキ液が供給される液圧室を区画するシリンダと、前記液圧室に供給されたブレーキ液によって前記シリンダ内を摺動するピストンと、前記油路に設けられたオリフィスと、前記油路のうち前記オリフィスよりも前記液圧室に供給されるブレーキ液の供給方向上流側の部分の液圧である反力圧を検出する圧力センサと、を有するストロークシミュレータを備え、前記ストロークシミュレータにより前記反力圧に対応する反力が前記ブレーキ操作部材に付与される車両用制動装置であって、
前記ストロークを検出するストロークセンサと、
前記圧力センサで検出された前記反力圧が第1閾値以上となり、且つ前記ストロークセンサで検出された前記ストロークが第2閾値以上となった場合、前記ブレーキ操作部材の操作が開始されたと判定する制動開始判定部と、
を備える車両用制動装置。
前記制動開始判定部は、前記反力圧が前記第1閾値以上となった後、次いで前記ストロークが第2閾値以上となった場合、前記ブレーキ操作部材の操作が開始されたと判定する請求項1に記載の車両用制動装置。
前記制動開始判定部は、前記反力圧を発生させるブレーキ液の温度に相関する温度相関値が高いほど、前記第1閾値を小さくする請求項1〜4の何れか一項に記載の車両用制動装置。
前記制動開始判定部は、前記反力圧の変化勾配が第3閾値以上となった場合、前記反力圧及び前記ストロークにかかわらず、前記ブレーキ操作部材の操作が開始されたと判定する請求項1〜5の何れか一項に記載の車両用制動装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。説明に用いる各図は概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。車両用制動装置BFは、
図1に示すように、マスタシリンダ1と、反力発生装置2と、第1制御弁22と、第2制御弁23と、サーボ圧発生装置4と、アクチュエータ5と、ホイールシリンダ541〜544と、ブレーキECU6と、各種センサ71〜76と、を備えている。
【0011】
マスタシリンダ1は、ブレーキペダル(「ブレーキ操作部材」に相当する)10の操作量に応じてブレーキ液をアクチュエータ5に供給する部位であり、メインシリンダ11、カバーシリンダ12、入力ピストン13、第1マスタピストン14、および第2マスタピストン15を備えている。ブレーキペダル10は、ドライバがブレーキ操作可能なブレーキ操作手段であれば良い。
【0012】
メインシリンダ11は、前方が閉塞されて後方に開口する有底略円筒状のハウジングである。メインシリンダ11の内周側の後方寄りに、内向きフランジ状に突出する内壁部111が設けられている。内壁部111の中央は、前後方向に貫通する貫通孔111aとされている。また、メインシリンダ11の内部の内壁部111よりも前方に、内径がわずかに小さくなっている小径部位112(後方)、113(前方)が設けられている。つまり、小径部位112、113は、メインシリンダ11の内周面から内向き環状に突出している。メインシリンダ11の内部には、小径部位112に摺接して軸方向に移動可能に第1マスタピストン14が配設されている。同様に、小径部位113に摺接して軸方向に移動可能に第2マスタピストン15が配設されている。
【0013】
カバーシリンダ12は、略円筒状のシリンダ部121、蛇腹筒状のブーツ122、およびカップ状の圧縮スプリング123で構成されている。シリンダ部121は、メインシリンダ11の後端側に配置され、メインシリンダ11の後側の開口に同軸的に嵌合されている。シリンダ部121の前方部位121aの内径は、内壁部111の貫通孔111aの内径よりも大きい。また、シリンダ部121の後方部位121bの内径は、前方部位121aの内径よりも小さい。
【0014】
防塵用のブーツ122は蛇腹筒状で前後方向に伸縮可能であり、その前側でシリンダ部121の後端側開口に接するように組み付けられている。ブーツ122の後方の中央には貫通孔122aが形成されている。圧縮スプリング123は、ブーツ122の周りに配置されるコイル状の付勢部材であり、その前側がメインシリンダ11の後端に当接し、後側はブーツ122の貫通孔122aに近接するように縮径されている。ブーツ122の後端および圧縮スプリング123の後端は、操作ロッド10aに結合されている。圧縮スプリング123は、操作ロッド10aを後方に付勢している。
【0015】
入力ピストン13は、ブレーキペダル10の操作に応じてカバーシリンダ12内を摺動するピストンである。入力ピストン13は、前方に底面を有し後方に開口を有する有底略円筒状のピストンである。入力ピストン13の底面を構成する底壁131は、入力ピストン13の他の部位よりも径が大きくなっている。入力ピストン13は、シリンダ部121の後方部位121bに軸方向に摺動可能かつ液密的に配置され、底壁131がシリンダ部121の前方部位121aの内周側に入り込んでいる。
【0016】
入力ピストン13の内部には、ブレーキペダル10に連動する操作ロッド10aが配設されている。操作ロッド10aの先端のピボット10bは、入力ピストン13を前側に押動できるようになっている。操作ロッド10aの後端は、入力ピストン13の後側の開口およびブーツ122の貫通孔122aを通って外部に突出し、ブレーキペダル10に接続されている。ブレーキペダル10が踏み込み操作されたときに、操作ロッド10aは、ブーツ122および圧縮スプリング123を軸方向に押動しながら前進する。操作ロッド10aの前進に伴い、入力ピストン13も連動して前進する。
【0017】
第1マスタピストン14は、メインシリンダ11の内壁部111に軸方向に摺動可能に配設されている。第1マスタピストン14は、前方側から順番に加圧筒部141、フランジ部142、および突出部143が一体となって形成されている。加圧筒部141は、前方に開口を有する有底略円筒状に形成され、メインシリンダ11の内周面との間に間隙を有し、小径部位112に摺接している。加圧筒部141の内部空間には、第2マスタピストン15との間にコイルばね状の付勢部材144が配設されている。付勢部材144により、第1マスタピストン14は後方に付勢されている。換言すると、第1マスタピストン14は、設定された初期位置に向けて付勢部材144により付勢されている。
【0018】
フランジ部142は、加圧筒部141よりも大径で、メインシリンダ11の内周面に摺接している。突出部143は、フランジ部142よりも小径で、内壁部111の貫通孔111aに液密に摺動するように配置されている。突出部143の後端は、貫通孔111aを通り抜けてシリンダ部121の内部空間に突出し、シリンダ部121の内周面から離間している。突出部143の後端面は、入力ピストン13の底壁131から離間し、その離間距離は変化し得るように構成されている。
【0019】
ここで、メインシリンダ11の内周面、第1マスタピストン14の加圧筒部141の前側、および第2マスタピストン15の後側により、「第1マスタ室1D」が区画されている。また、メインシリンダ11の内周面(内周部)と小径部位112と内壁部111の前面、および第1マスタピストン14の外周面により、第1マスタ室1Dよりも後方の後方室が区画されている。第1マスタピストン14のフランジ部142の前端部および後端部は後方室を前後に区分しており、前側に「第2液圧室1C」が区画され、後側に「サーボ室1A」が区画されている。第2液圧室1Cは、第1マスタピストン14の前進により容積が減少し第1マスタピストン14の後退により容積が増加する。また、メインシリンダ11の内周部、内壁部111の後面、シリンダ部121の前方部位121aの内周面(内周部)、第1マスタピストン14の突出部143(後端部)、および入力ピストン13の前端部により「第1液圧室1B」が区画されている。
【0020】
第2マスタピストン15は、メインシリンダ11内の第1マスタピストン14の前方側に、小径部位113に摺接して軸方向に移動可能に配置されている。第2マスタピストン15は、前方に開口を有する筒状の加圧筒部151、および加圧筒部151の後側を閉塞する底壁152が一体となって形成されている。底壁152は、第1マスタピストン14との間に付勢部材144を支承している。加圧筒部151の内部空間には、メインシリンダ11の閉塞された内底面111dとの間に、コイルばね状の付勢部材153が配設されている。付勢部材153により、第2マスタピストン15は後方に付勢されている。換言すると、第2マスタピストン15は、設定された初期位置に向けて付勢部材153により付勢されている。メインシリンダ11の内周面、内底面111d、および第2マスタピストン15により、「第2マスタ室1E」が区画されている。
【0021】
マスタシリンダ1には、内部と外部を連通させるポート11a〜11iが形成されている。ポート11aは、メインシリンダ11のうち内壁部111よりも後方に形成されている。ポート11bは、ポート11aと軸方向の同様の位置に、ポート11aに対向して形成されている。ポート11aとポート11bは、メインシリンダ11の内周面とシリンダ部121の外周面との間の環状空間を介して連通している。ポート11aおよびポート11bは、配管161に接続され、かつリザーバ171(低圧源)に接続されている。
【0022】
また、ポート11bは、シリンダ部121および入力ピストン13に形成された通路18により第1液圧室1Bに連通している。通路18は入力ピストン13が前進すると遮断され、これによって第1液圧室1Bとリザーバ171とが遮断される。ポート11cは、内壁部111より後方かつポート11aよりも前方に形成され、第1液圧室1Bと配管162とを連通させている。ポート11dは、ポート11cよりも前方に形成され、サーボ室1Aと配管163とを連通させている。ポート11eは、ポート11dよりも前方に形成され、第2液圧室1Cと配管164とを連通させている。
【0023】
ポート11fは、小径部位112の両シール部材G1、G2の間に形成され、リザーバ172とメインシリンダ11の内部とを連通している。ポート11fは、第1マスタピストン14に形成された通路145を介して第1マスタ室1Dに連通している。通路145は、第1マスタピストン14が前進するとポート11fと第1マスタ室1Dが遮断される位置に形成されている。ポート11gは、ポート11fよりも前方に形成され、第1マスタ室1Dと管路31とを連通させている。
【0024】
ポート11hは、小径部位113の両シール部材G3、G4の間に形成され、リザーバ173とメインシリンダ11の内部とを連通させている。ポート11hは、第2マスタピストン15の加圧筒部151に形成された通路154を介して第2マスタ室1Eに連通している。通路154は、第2マスタピストン15が前進するとポート11hと第2マスタ室1Eが遮断される位置に形成されている。ポート11iは、ポート11hよりも前方に形成され、第2マスタ室1Eと管路32とを連通させている。
【0025】
また、マスタシリンダ1内には、適宜、Oリング等のシール部材が配置されている。シール部材G1、G2は、小径部位112に配置され、第1マスタピストン14の外周面に液密的に当接している。同様に、シール部材G3、G4は、小径部位113に配置され、第2マスタピストン15の外周面に液密的に当接している。また、入力ピストン13とシリンダ部121との間にもシール部材G5、G6が配置されている。
【0026】
ストロークセンサ71は、ドライバの操作によるブレーキペダル10のストローク(操作量)を検出するセンサであり、検出信号をブレーキECU6に送信する。ブレーキスイッチ72は、ドライバによるブレーキペダル10の操作の有無を2値信号で検出するスイッチであり、検出信号をブレーキECU6に送信する。ブレーキスイッチ72は、ブレーキストップスイッチとも呼ばれる。
【0027】
反力発生装置2は、ブレーキペダル10が操作されたときに操作力に対抗する反力を発生する装置であり、ストロークシミュレータ21を主にして構成されている。ストロークシミュレータ21は、ブレーキペダル10の操作に応じて第1液圧室1Bおよび第2液圧室1Cに反力圧を発生させる。ストロークシミュレータ21は、シリンダ211にピストン212が摺動可能に嵌合されて構成されている。ピストン212は圧縮スプリング213によって後方に付勢されており、ピストン212の後面側(配管164側)に反力室(「液圧室」に相当する)214が形成される。反力室214は、配管164およびポート11eを介して第2液圧室1Cに接続され、さらに、反力室214は、配管164を介して第1制御弁22および第2制御弁23に接続されている。
【0028】
配管164の一部でありシリンダ211の入口付近に配置された分岐配管部164aには、オリフィス91が形成されている。圧力センサ73は、配管164のうち、オリフィス91よりも上流側(踏み込み時のブレーキ液の流れにおける上流側)の部分に配置されている。つまり、圧力センサ73は、配管164のうちオリフィス91よりもブレーキペダル10側の部分(上流側の部分)の液圧である反力圧を検出するセンサである。
【0029】
このように、ストロークシミュレータ21は、ブレーキペダル10のストロークに応じて配管(「油路」に相当する)164を介してブレーキ液が供給される反力室214を区画するシリンダ211と、反力室214に供給されたブレーキ液によってシリンダ211内を摺動するピストン212と、配管164の一部である分岐配管部164aに設けられたオリフィス91と、配管164のうちオリフィス91よりも、反力室214に供給されるブレーキ液の供給方向上流側の部分の液圧(反力圧)を検出する圧力センサ73と、を有しているといえる。ストロークシミュレータ21は、反力圧に対応する反力をブレーキペダル10に付与する。
【0030】
第1制御弁22は、非通電状態で閉じる構造の電磁弁であり、ブレーキECU6により開閉が制御される。第1制御弁22は、配管164と配管162との間に接続されている。ここで、配管164はポート11eを介して第2液圧室1Cに連通し、配管162はポート11cを介して第1液圧室1Bに連通している。また、第1制御弁22が開くと第1液圧室1Bが開放状態になり、第1制御弁22が閉じると第1液圧室1Bが密閉状態になる。したがって、配管164および配管162は、第1液圧室1Bと第2液圧室1Cとを連通するように設けられている。
【0031】
第1制御弁22は通電されていない非通電状態で閉じており、このとき第1液圧室1Bと第2液圧室1Cとが遮断される。これにより、第1液圧室1Bが密閉状態になってブレーキ液の行き場がなくなり、入力ピストン13と第1マスタピストン14とが一定の離間距離を保って連動する。また、第1制御弁22は通電された通電状態では開いており、このとき第1液圧室1Bと第2液圧室1Cとが連通される。これにより、第1マスタピストン14の進退に伴う第1液圧室1Bおよび第2液圧室1Cの容積変化が、ブレーキ液の移動により吸収される。
【0032】
圧力センサ73は、第2液圧室1Cおよび第1液圧室1Bの反力圧を検出するセンサであり、配管164に接続されている。圧力センサ73は、第1制御弁22が閉状態の場合には第2液圧室1Cの圧力を検出し、第1制御弁22が開状態の場合には連通された第1液圧室1Bの圧力も検出することになる。圧力センサ73は、検出信号をブレーキECU6に送信する。
【0033】
第2制御弁23は、非通電状態で開く構造の電磁弁であり、ブレーキECU6により開閉が制御される。第2制御弁23は、配管164と配管161との間に接続されている。ここで、配管164はポート11eを介して第2液圧室1Cに連通し、配管161はポート11aを介してリザーバ171に連通している。したがって、第2制御弁23は、第2液圧室1Cとリザーバ171との間を非通電状態で連通して反力圧を発生させず、通電状態で遮断して反力圧を発生させる。
【0034】
サーボ圧発生装置4は、いわゆる油圧式ブースタ(倍力装置)であって、減圧弁41、増圧弁42、圧力供給部43、およびレギュレータ44を備えている。減圧弁41は、非通電状態で開く常開型の電磁弁(常開弁)であり、ブレーキECU6により流量(又は圧力)が制御される。減圧弁41の一方は配管411を介して配管161に接続され、減圧弁41の他方は配管413に接続されている。つまり、減圧弁41の一方は、配管411、161、およびポート11a、11bを介してリザーバ171に連通している。減圧弁41は、閉弁することで、パイロット室4Dからブレーキ液が流出することを阻止する。なお、リザーバ171とリザーバ434とは、図示していないが連通している。リザーバ171とリザーバ434が同一のリザーバであっても良い。
【0035】
増圧弁42は、非通電状態で閉じる常閉型の電磁弁(常閉弁)であり、ブレーキECU6により流量(又は圧力)が制御されている。増圧弁42の一方は配管421に接続され、増圧弁42の他方は配管422に接続されている。圧力供給部43は、レギュレータ44に主に高圧の作動液を供給する部位である。圧力供給部43は、アキュムレータ431、液圧ポンプ432、モータ433、およびリザーバ434を備えている。圧力センサ75は、アキュムレータ431の液圧を検出する。圧力供給部43は、の構成は公知であるため説明は省略する。
【0036】
レギュレータ44は、機械式のレギュレータであって、内部にパイロット室4Dが形成されている。また、レギュレータ44には、複数のポート4a〜4hが形成されている。パイロット室4Dは、ポート4f及び配管413を介して減圧弁41に接続され、ポート4g及び配管421を介して増圧弁42に接続されている。増圧弁42の開弁により、アキュムレータ431からポート4a、4b、4gを介して高圧のブレーキ液がパイロット室4Dに供給され、ピストンが移動し、パイロット室4Dが拡大する。当該拡大に応じて弁部材が移動し、ポート4aとポート4cが連通し、配管163を介して高圧のブレーキ液がサーボ室1Aに供給される。一方、減圧弁41の開弁により、パイロット室4Dの液圧(パイロット圧)が低下し、ポート4aとポート4cとの間の流路が弁部材により遮断される。このように、ブレーキECU6は、減圧弁41及び増圧弁42を制御することで、サーボ圧に対応するパイロット圧を制御し、サーボ圧を制御している。実際のサーボ圧は、圧力センサ74により検出される。本実施形態は、ブレーキ操作機構と調圧機構とが分離されたバイワイヤ構成になっている。
【0037】
アクチュエータ5は、管路31、32を介して供給されるマスタ圧を調整してホイールシリンダ541〜544に供給する装置である。アクチュエータ5は、ABSを構成するアクチュエータであって、図示しないが、複数の電磁弁、モータ、ポンプ、及びリザーバ等を備えている。アクチュエータ5は、ブレーキECU6の制御により、ホイールシリンダ541〜544に対して増圧制御、保持制御、及び減圧制御を実行することができる。また、アクチュエータ5は、ブレーキECU6の制御により、アンチスキッド制御(ABS制御)などを実行することができる。また、各車輪Wには、車輪速度センサ76が設置されている。
【0038】
(制動開始判定)
ブレーキECU6は、CPUやメモリを備える電子制御ユニットである。ブレーキECU6は、各センサ71〜76、各制御弁22、23、サーボ圧発生装置4、及びアクチュエータ5と通信可能に接続されている(配線図示略)。ブレーキECU6は、機能として、制御部61と、制動開始判定部62と、を備えている。制御部61は、ストロークセンサ71及び圧力センサ73の検出値に基づいて目標減速度(目標サーボ圧)を演算し、演算結果に基づいて、各制御弁22、23、サーボ圧発生装置4、及びアクチュエータ5を制御する。
【0039】
制動開始判定部62は、ブレーキペダル10の操作が開始されたか否かを判定するように構成されている。換言すると、制動開始判定部62は、制動制御を開始するか否かを判定する。制動開始判定部62は、制御部61が増圧制御を開始するタイミングを検出する部分ともいえる。制動開始判定部62が操作開始と判定すると、制御部61がブレーキ制御(液圧制御)を開始する。
【0040】
具体的に、制動開始判定部62は、圧力センサ73で検出された反力圧が第1閾値以上となった後、次いでストロークセンサ71で検出されたストロークが第2閾値以上となった場合、ブレーキペダル10の操作が開始された(操作開始や制動制御開始といえる)と判定する。また、制動開始判定部62は、このストローク(値)として、フィルタ6aを介さないストロークセンサ71の検出値(生値)を用いるように構成されている。フィルタ6aは、ノイズを除去して滑らかに検出値を変化させるためのノイズフィルタである。この判定は、ドライバがブレーキペダル10を少しだけ素早く踏むような少量急操作時に有効となる。
【0041】
本実施形態によれば、
図2に示すように、少量急操作がなされた際、オリフィス91により反力圧の立ち上がりが早くなるため、ストロークが第2閾値以上となる前の時点で、反力圧が第1閾値以上となる。急なブレーキ操作により、ブレーキ液が急激に配管164に供給されるが、ストロークシミュレータ21のシリンダ211にブレーキ液が供給される前に、意図的に設けられた(又は構造的に生じる)オリフィス91により流路が狭められ、一時的にオリフィス91より上流側の部分が高圧となりやすい。本構成では、このオリフィス91による作用を判定に利用している。
【0042】
また、ストロークセンサ71の生値はより実際のブレーキ操作に連動して変化するため、当該生値を判定要素として用いることで、ブレーキ操作に対する応答性を向上させることができる。フィルタ6aを介さない分、ノイズ等により数値自体の正確性は低減するが、操作開始(制動制御開始)は、当該生値に関する条件と反力圧に関する条件とのAND条件で判定されるため、判定の正確性(ロバスト性)は確保される。
図2の制動判定及び目標減速度に示されるように、本実施形態によれば、少量急操作時であってもドライバの操作に対する応答性の高い制動制御を実現することができる。
【0043】
さらに詳細に、制動開始判定部62には、上記判定方式を含む3種類の判定方式が設定されている。第1判定方式として、制動開始判定部62は、ストロークセンサ71から互いに異なる配線で送信された2つの検出値を、フィルタ6aを介した2つのフィルタ値で取得し、当該2つのフィルタ値が共に所定閾値以上となった場合に、操作開始と判定する。フィルタ値は、ノイズ等が除去されており正確性が高く、また2つのフィルタ値によるAND条件で判定するため、ロバスト性も確保される。この第1判定方式は、フィルタ値がブレーキ操作に追従しやすい通常のブレーキ操作時(比較的緩やかな操作時)に有効な判定方式である。
【0044】
第2判定方式として、制動開始判定部62は、ブレーキスイッチ72がオンし(操作を検知し)、且つ反力圧が所定閾値以上となった場合に、操作開始と判定する。この第2判定方式は、ブレーキスイッチ72が反応良くオンする急ブレーキ時(急激に最後まで踏み込んで停車させようとする操作)に有効な判定方式である。
【0045】
第3判定方式として、上記のように、反力圧と1つのストロークの生値とを判定要素としたものが設定されている。この第3判定方式は、上記のように少量急操作時に有効な判定方式である。これら3つの判定方式は、いずれも2つの判定要素(AND条件)により判定する方式である。制動開始判定部62は、これら3つの判定方式のいずれかでAND条件が満たされると、操作開始と判定する。このように、制動開始判定部62は、ストロークセンサ71の2つのフィルタ値、ストロークセンサ71の1つの生値、ブレーキスイッチ72の検出結果、及び圧力センサ73の検出値(反力圧)を監視し、これらの要素に基づいて操作開始を判定している。これにより、あらゆるブレーキ操作に対して応答性及び正確性を確保することができる。
【0046】
本実施形態によれば、オリフィス91の影響を受ける反力圧を判定要素とすることで、例えばブレーキスイッチ72が反応しないような少量急操作時においても、制動開始判定の応答性を向上させることができる。また、反力圧とともに、ストロークも制動開始の判定要素とすることで、判定の正確性を確保することができる。このストロークの検出については、判定が反力圧とのAND条件で行われるため、正確性よりも応答性を優先させることができる。本実施形態では、ストロークの生値を用いることで応答性を優先させている。ブレーキ操作に直接的に連動するストロークの生値を用いることで、より応答性が向上する。なお、第2閾値を小さくするなどで応答性を優先させることもできる。
【0047】
<その他の変形態様>
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、
図3に示すように、車両用制動装置BFは、配管164のうちシリンダ211と圧力センサ73との間の部分に設けられる電磁弁92を備えても良い。この場合、ブレーキECU6は、電磁弁制御部63をさらに備える。電磁弁制御部63は、ブレーキペダル10の操作が開始されたと判定される蓋然性が高い場合、当該蓋然性が低い場合よりもストロークの増大量に対する反力圧の上昇量が大きくなるように電磁弁92を制御する。
【0048】
ブレーキペダル10の操作が開始されたと判定される蓋然性が高い場合とは、例えば車間距離が所定値未満である場合などである。つまり、レーダー等で検出された車間距離が所定値未満である場合に、上記蓋然性が高いと判定される。電磁弁制御部63は、上記蓋然性が高い場合に、電磁弁92の流路を絞り(閉弁側に制御し)、オリフィス効果を高めることで、ストローク増加に対する反力圧の上昇率を高める。これにより、上記蓋然性が高い場合に、より反力圧が立ち上がりやすくなり、制動開始判定の応答性を向上させることができる。この構成によれば、走行状況に応じて応答性を調整することができる。なお、電磁弁92は、オリフィス91に代えて(オリフィスとして)配管164に設けられても良い。
【0049】
また、制動開始判定部62は、反力圧を発生させるブレーキ液の温度に相関する温度相関値が高いほど、第1閾値を小さくするように構成されても良い。例えば、配管164内のブレーキ液の温度が高くなると、ブレーキ液の粘度が低下するため、反力圧の立ち上がりが遅くなりやすい。したがって、ブレーキ液の温度相関値を温度センサ又は推定演算により取得し、その値に応じて第1閾値を変更することで、より確実に応答性を確保することができる。制動開始判定部62は、例えば、温度相関値が所定値以上となった場合に、第1閾値を小さくしても良い。
【0050】
また、制動開始判定部62は、反力圧の変化勾配が第3閾値以上となった場合、反力圧及びストロークにかかわらず、ブレーキペダル10の操作が開始されたと判定するように構成されても良い。反力圧の変化勾配を、圧力センサ73の検出値を取得してから最初の数演算(例えば1、2演算)で算出し、その変化勾配を判定要素とすることで、反力圧が第1閾値以上となるよりも早く、操作開始を検出することができる。つまり、さらなる応答性の向上を図ることができる。例えば、この判定方式を第4判定方式として設定しても良い。
【0051】
また、アクチュエータ5は、ホイールシリンダ541〜544へのポンプ加圧が可能で、横滑り防止制御を実行できるタイプであっても良い。また、倍力機構は、サーボ圧発生装置4のような油圧式ブースタに限らず、例えば電動モータの制御によりボールねじを駆動させてマスタピストンを駆動させる電動式ブースタであっても良い。