(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(i)部分鹸化ポリ酢酸ビニル、(ii)第3級窒素原子含有ポリアミド、及び(iii)赤外線吸収物質とを含有する感熱マスク層を感光性樹脂層上に設けた感光性CTP凸版印刷原版であって、(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドが、ポリアミド分子中のアミノカルボン酸単位(原料としてラクタムの場合を含む)、ジカルボン酸単位、及びジアミン単位の合計に対して、シクロへキサンジカルボン酸より得られる構造単位を20〜50モル%含有し、且つ脂環族構造単位を合計50〜95モル%含有することを特徴とする感光性CTP凸版印刷原版。
(i)部分鹸化ポリ酢酸ビニルが側鎖に光重合性不飽和基及び/又はカルボキシル基を有する変成部分鹸化ポリ酢酸ビニルであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の感光性CTP凸版印刷原版。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のCTP凸版印刷原版を詳細に説明する。
【0014】
本発明に用いる感熱マスク層は、(i)部分鹸化ポリ酢酸ビニル、(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドが、ポリアミド分子中のアミノカルボン酸単位(原料としてラクタムの場合を含む)、ジカルボン酸単位、及びジアミン単位の合計に対して、シクロへキサンジカルボン酸より得られる構造単位を20〜50モル%含有し、且つ脂環族構造単位を合計50〜95モル%含有する塩基性ポリアミド、(iii)赤外線吸収物質とを含有する。
【0015】
(i)部分鹸化ポリ酢酸ビニルとしては、水溶性の面から鹸化度が60モル%以上であることが好ましい。さらに好ましくは部分鹸化ポリ酢酸ビニルとしては、鹸化度が70%以上95%以下の部分鹸化ポリ酢酸ビニルである。又、部分鹸化ポリ酢酸ビニルは、ポリアミドや赤外線吸収剤の分散性を良好にするために、側鎖に光重合性不飽和基、極性基や親水性ノニオン性基を有する変性部分鹸化ポリ酢酸ビニルであっても良い。部分鹸化ポリ酢酸ビニルを変性する方法としては、鹸化度が70%以上95%以下の部分鹸化ポリ酢酸ビニルは水酸基を有しており、水酸基と反応させることで変成することができる。又、他の変性方法としては、極性基を有する重合性モノマーを共重合することでも変性は可能である。
【0016】
(i)部分鹸化ポリ酢酸ビニルの平均重合度は300〜2,000の範囲が好ましく、500〜1,000がより好ましい。平均重合度が300以上であれば十分な強度の膜を得ることができ、平均重合度が2000以下であれば十分な水溶性を得ることができる。
【0017】
(i)部分鹸化ポリ酢酸ビニルは、水現像性と皮膜形成の面より感熱マスク層中に10〜70質量%含有することが好ましい。10質量%未満では水現像性が悪く、70質量%を越えると安定して被膜の形成が難しくなる。
【0018】
本発明に用いる具体的な変性部分鹸化ポリ酢酸ビニルとしては、分子内に光重合性不飽和基、アニオン性基やカチオン性基などの極性基を有する部分鹸化ポリ酢酸ビニルやエチレンオキサイド等のノニオン性親水基を有する変成部分鹸化ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。その中でもアニオン性基及び光重合性不飽和基を有する部分鹸化ポリ酢酸ビニルが好ましい。アニオン性極性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などがあげられるが、変成のし易さよりカルボキシル基が好ましい。
【0019】
部分鹸化ポリ酢酸ビニルにカルボキシル基を導入する方法としては、部分鹸化ポリ酢酸ビニル中の水酸基と反応させることで変成することができる。例えば、酸無水物と反応させる方法、エポキシ基を有するカルボン酸化合物との反応やカルボン酸を有するモノマーとの共重合などがある。市販品としてはクラレ社のCM−318や日本合成化学社のT-350などが挙げられる。
【0020】
一方、カチオン基を導入する方法としては、カチオン基を有するモノマーを共重合する方法、エポキシ基を有するカチオン基含有化合物との反応などが挙げられ、市販品としてはカチオン基(4級アンモニウム塩)を側鎖に導入した日本合成化学社のゴーセネックス K-434などがある。又、ノニオン性親水基を有する変性部分鹸化ポリ酢酸ビニルとしては、アルキレングリコールのノニオン性親水基を有する変成部分鹸化ポリ酢酸ビニルが挙げられ、具体的には側鎖に親水性のエチレンオキサイド基を有するノニオン性の変性部分鹸化ポリ酢酸ビニル 日本合成化学(株)製のWO−320R等が挙げられる。
【0021】
部分鹸化ポリ酢酸ビニルに光重合性不飽和基を導入する方法としては、例えば、部分鹸化ポリ酢酸ビニル中の水酸基と酸無水物とを反応させ、部分鹸化ポリ酢酸ビニルの水酸基に対してカルボキシル基をポリマー側鎖に導入する。そのカルボキシル基に不飽和エポキシ化合物を反応させることにより光重合性不飽和基を導入することができる。又、別の方法としては酢酸ビニルと、不飽和カルボン酸、または不飽和カルボン酸エステルとを共重合することで光重合性不飽和基を導入するができる。
【0022】
本発明の(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドが、ポリアミド分子中のアミノカルボン酸単位(原料としてラクタムの場合を含む)、ジカルボン酸単位、及びジアミン単位の合計に対して、シクロへキサンジカルボン酸より得られる構造単位を20〜50モル%含有し、且つ脂環族構造単位を合計50〜95モル%含有する塩基性ポリアミドは、皮膜形成ポリマーとして機能する。本発明では、シクロへキサンジカルボン酸より得られる構造単位を20〜50モル%含有し、且つ脂環族構造単位を合計50〜95モル%含有する塩基性ポリアミドを皮膜形成ポリマーとして配合することで、金属支持体を用いた場合の摩擦にも耐えるという高度な耐傷性を克服することも可能となる。
【0023】
(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドは脂環族構造単位を含有するために高いTgを有し、CTP層に用いた場合には耐傷性及び低い表面粘着性を感熱マスク層に付与することができる。又、(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドを含有する感熱マスク層は、水に容易に分散するため、特に水現像版の感熱マスク層として好適に用いることができる。
【0024】
(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドは、シクロへキサンジカルボン酸より得られる構造単位を20〜50モル%含有し、且つ脂環族構造単位を合計50〜95モル%含有する塩基性ポリアミドであるが、(ii)第3級窒素原子含有ポリアミド中のシクロへキサンジカルボン酸より得られる脂環族構造単位の割合が上記範囲未満では、耐傷性が低下するので好ましくない。又、脂環族構造単位の割合が上記範囲を超えると感熱マスク層が硬くなるので好ましくない。
【0025】
本発明の(ii)第3級窒素原子含有ポリアミド中の構造単位のモル%とは、アミノカルボン酸またはラクタム単位とジアミンとジカルボン酸からなる各単位の総モル数に対する各構造単位のモル数を比率で示したものである。各構造単位のモル%は原料仕込み段階のモル数またはH−NMRの測定結果より計算することができる。H−NMRによる分析は、一般的に行われている分析方法であり、積分値より各構造単位のモル%を計算する方法である。
【0026】
分子中にシクロへキサンジカルボン酸より得られる脂環族構造単位を25〜50モル%含有する塩基性窒素含有共重合ポリアミドを得るためには、ジカルボン酸として、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸や1.3−シクロヘキサンジカルボン酸を用いて製造する方法が考えられる。
【0027】
(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドは、脂環族構造単位としてシクロへキサンジカルボン酸より得られる脂環族構造単位以外に他の脂環族ジアミン又はジカルボン酸より得られる脂環族構造単位を分子内に含有しても良い。具体的なジアミンの例としては、イソホロンジアミン、1,4−シクロへキサンジアミン、1,3−シクロへキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルニルジアミンが挙げられるが、イソホロンジアミンが物性面より好ましい。
【0028】
(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドは、ポリアミドの特性に影響を及ぼさない範囲で脂環族以外の公知のジアミン及びジカルボン酸を使用することができる。脂肪族ジアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2,2,4、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。又、脂環族ジカルボン酸以外の公知の脂肪族ジカルボン酸としては、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などが挙げられる。
【0029】
(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドは分子中の主鎖又は側鎖に塩基性窒素原子を含有するポリアミドであり、塩基性窒素原子を含有することで水溶解性又は水分散性(水現像性)を付与することができる。塩基性窒素原子としては、ピペラジン環やメチルイミノビスプロピル構造が好ましい。ポリアミドの分子内に塩基性窒素原子を含有させる方法としては、ピペラジン環を有するジアミンやメチルイミノビスプロピルアミン等の第3級窒素原子を含む塩基性窒素含有ジアミンを用いることが挙げられる。更に、ポリマーの弾性率の観点より、ピペラジン環を有するジアミンを用いることが特に好ましい。ピペラジン環を有するジアミンとしては、1,4−ビス(3−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジンなどが挙げられる。
【0030】
(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドが水溶解性または水分散性(水現像性)であるかどうかは、ポリアミドを単独で30℃の水または酸性水に浸漬してブラシ等で擦ることで判定することができる。ブラシ等で物理的に擦った後、ポリアミドが水または酸性水に均一に混合している場合、このポリアミドは水溶解性であると判定される。一方、ブラシ等で物理的に擦った後、ポリアミドの一部又は全面が膨潤して水中に分散し、ポリアミドが不均一に混合されている場合、このポリアミドは水分散性であると判定される。
【0031】
(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドは、ポリアミドの特性に影響を及ぼさない範囲でラクタム及び/又はアミノカルボン酸より得られる構造単位をポリアミド全構造単位の総モル数に対して10〜70モル%含有することができる。これにより、得られるポリアミドに結晶性を付与することができる。
【0032】
(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドの重合は公知の方法で実施することができる。
【0033】
(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドを重合するためのジアミンとジカルボン酸のモル比率(アミノ基/カルボキシル基)は、1.0以上、好ましくは1.01以上である。モル比率を上記範囲とすることで、重合が平衡となった後にポリマーを取り出すことが可能となり、分子量の変動を抑えることができる。
【0034】
(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドは、塩基性第3級窒素原子を分子内に有するジアミン、ジカルボン酸、アミノカルボン酸を用いて共重合することが好ましい。その場合は四級化剤と反応させ、アンモニウム塩型窒素原子を有する可溶性高分子化合物とすることが水溶性の面から好ましい。四級化剤としては、公知の有機酸の使用が可能であり、脂肪族有機酸、芳香族有機酸が使用可能である。有機酸の具体例は、脂肪族有機酸としては、メタクリル酸、アクリル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グリコール酸、乳酸など、芳香族有機酸としては、安息香酸、イソフタル酸などが挙げられるが、水溶性の面から脂肪族有機酸が好ましい。
【0035】
本発明のシクロヘキサンジカルボン酸より得られる環族構造単位を25〜50モル%含有する(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドは感熱マスク層中に5〜40質量%含有することが好ましく、さらに好ましくは5〜30質量%である。塩基性窒素含有ポリアミドの含有率が上記の範囲にないと、感熱マスク層の被膜の耐傷性を達成できないおそれがある。又、50質量%を越えるとマスク層として柔軟性が低下するので好ましくない。
【0036】
本発明の感熱マスク層は、(iii)赤外線吸収物質を含有する。さらに、紫外光を遮断する紫外線吸収物質を含有しても良いが、アブレーション効率と紫外線吸収性能とを兼ねた物質であっても良い。
【0037】
本発明の感熱マスク層に含有する(iii)赤外線吸収物質とは赤外線吸収物質としては、通常750nm〜20000nmの範囲の波長に強い吸収特性を有する物質であれば、特に限定されない。例えば、カーボンブラック、カーボングラファイト、シアニンブラックなどの黒色顔料、酸化マンガン、酸化鉄、酸化クロム、亜クロム酸銅等の無機顔料や、フタロシアニン及び置換フタロシアニン誘導体、シアニン染料、シアニン染料、メロシアン染料、ポリメチン染料、金属チオレート染料等の色素類が挙げられる。これらの中でも、アブレーション効率と紫外線吸収性能の両者を満足する観点から、カーボンブラックが特に好ましい。
【0038】
さらに、カーボンブラックは、粒径が10nm〜200nmの広い範囲で使用可能であり、粒径を選択できるために好ましい。カーボンブラックの粒径を小さくできることはアブレーション効率の面から好ましい。
【0039】
本発明の感熱マスク層には紫外線を遮光するために紫外線吸収物質を含有する。紫外線吸収物質としては特に限定されないが、好ましくは、300nm〜400nmの領域に吸収を有する化合物である。例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、カーボンブラック等を挙げることができる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でもカーボンブラックは、紫外線領域だけでなく赤外線領域にも吸収特性があるので、特に好ましく用いられる。
【0040】
本発明において、マスク層要素における(iii)赤外線吸収物質の含有量は、アブレーション効率を向上させるため、マスク層要素の全固形分中2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、10質量%以上であれば、紫外線の遮光性を確保するためにマスク層の膜厚を厚くする必要がない。一方、マスク層要素の耐傷性を低下させないため、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
【0041】
本発明の印刷原版に使用される感熱マスク層は、(i)〜(iii)以外の成分として、アニオン性ポリマーを含有しても良い。アニオン性ポリマーを含有することによって、(i)〜(iii)の構成成分の凝集を防ぐことができる。また、これら以外の任意成分として、フィラー、界面活性剤又は塗布助剤などを本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。又、本発明の効果を損なわない範囲で、(ii)第3級窒素原子含有ポリアミド以外のポリアミドを含有しても良い。
【0042】
本発明の感熱マスク層は、アニオン性ポリマーを含有させることでカーボンブラックの分散性が良好となり、感熱マスク層を薄くしても透過光学濃度ムラの少ない感熱マスク層を得ることができる。(i)部分鹸化ポリ酢酸ビニル中にアニオン性基を含有している場合には(i)部分鹸化ポリ酢酸ビニルをアニオン性ポリマーと兼用しても良い。アニオン性ポリマーを含有させた場合、カーボンブラックとの分散性が向上する。その結果、遮光性(光学濃度)を低下させずに感熱マスク層の厚みを薄くすることが出来る。
【0043】
感熱マスク層に用いるアニオン性ポリマーとしては、塩基性ポリアミド中の第3級窒素原子と塩を作りうる酸性基を有する重合体、およびアニオン性基を有する重合体である。第3級窒素原子と中和反応しうる酸性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などがあげられる。このようなアニオン性ポリマーとしては、例えば、アニオン性基を有する(メタ)アクリルモノマーを共重合したアクリル系ポリマー、また、部分鹸化ポリ酢酸ビニルと酸無水物とを反応させ、部分鹸化ポリ酢酸ビニル中の水酸基と酸無為水物を反応させてカルボキシル基をポリマー側鎖に導入した重合体などが挙げられる。
【0044】
このようなアニオン性ポリマーは、感熱マスク層中に5質量%以上含まれることが好ましい。アニオン性ポリマーが5質量%〜30質量%含まれることで、感熱マスク層に含まれる(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドと塩を作り、感熱マスク層中で(ii)第3級窒素原子含有ポリアミドの分散性が向上すると考えられる。特に、アニオン性部分鹸化ポリ酢酸ビニルの場合には顕著である。
【0045】
本発明の感熱マスク層の膜厚は、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmがより好ましく、1〜10μmがさらに好ましい。膜厚が20μmを超えると、アブレーション性が劣化するため好ましくない。膜厚が0.1μm未満では、紫外線遮光性が不十分となるので好ましくない。
【0046】
本発明のCTP凸版印刷版原版は、少なくとも支持体と、支持体上に感光性樹脂層、マスク層要素をこの順に有するCTP凸版印刷原版である。本発明のCTP凸版印刷版原版は、感光性樹脂組成物層とマスク層要素の間にバリヤ層や接着力調整層を設けることができる。バリヤ層と接着力調整層は単独で設けても良いし、二層に積層しても良い。又、接着力調整層とバリヤ層は兼ねた一つの層であっても良い。
【0047】
本発明のCTP凸版印刷版原版は、感光性樹脂組成物層とマスク層要素の間にバリヤ層を設ける場合、酸素による重合障害や感光性樹脂組成中の低分子量成分が感熱マスク層へ移動することを抑制できる。特に酸素による重合障害を抑制することで、光硬化によって不溶化した画像の端部(境界部分)が削られる丸みを帯びることなく、シャープなエッジを再現することができる。
【0048】
バリヤ層に用いるバインダーポリマーとしては、ポリビニルアルコール、部分鹸化酢酸ビニル、アルキルセルロース、セルロース系ポリマーを含むことが好ましい。これらのポリマーは、一種類の使用に限定されず、二種類以上のポリマーを組み合わせて使用することもできる。酸素バリヤ性が好ましいポリマーとしては、ポリビニルアルコール、部分鹸化酢酸ビニル、アルキルセルロースである。酸素バリヤ性が好ましい範囲にあるバインダーポリマーを選択することで画像再現性を制御することができる。
【0049】
(C)バリヤ層の層厚としては、0.2〜3.0μmが好ましく、さらに好ましくは0.2〜1.5μmの範囲である。上記下限未満になると酸素バリア性が不十分であり、レリーフの版面に荒れが生じるおそれがある。上記上限を越えると、画像に太りが起こるおそれがある。
【0050】
本発明の原版に使用される感光性樹脂層は、水溶性又は水分散性ポリマー、光重合性不飽和化合物、及び光重合開始剤の必須成分と、可塑剤、熱重合防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、香料、又は酸化防止剤などの任意の添加剤とから構成される。感光性樹脂層としては水系現像液で現像可能なものが好ましい。
【0051】
本発明の感光性樹脂層に用いる水溶性又は水分散性ポリマーとしては、例えば主鎖にエーテル結合を有するポリアミド、分子内に塩基性窒素原子あるいは第4級アンモニウム塩を有するポリアミド、分子内にスルホン酸塩を有するポリアミド、部分鹸化ポリ酢酸ビニルおよび変性部分鹸化ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、セルロース系ポリマー、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドンなどを挙げるが、水溶性の面から主鎖にエーテル結合を有するポリアミド、分子内に塩基性窒素原子あるいは第4級アンモニウム塩を有するポリアミド、部分鹸化ポリ酢酸ビニルおよびその誘導体が好ましい。
【0052】
感光性樹脂層には、部分鹸化ポリ酢酸ビニルとして側鎖に光重合性不飽和基重合性基を導入したポリマーを用いることもできる。光重合性不飽和基とは、ラジカル反応により架橋することができる官能基のことであり、ビニル基や(メタ)アクリロイル基が挙げられる。
【0053】
光重合性不飽和基を側鎖に導入した部分鹸化ポリ酢酸ビニルを用いた場合、光重合反応性が向上して微細なレリーフ画像を形成することができるので、好ましい。
【0054】
光重合性不飽和基を側鎖に有する部分鹸化ポリ酢酸ビニルは、例えば、以下の方法で合成できる。部分鹸化ポリ酢酸ビニルと酸無水物とを反応させ、部分鹸化ポリ酢酸ビニルの水酸基に対してカルボキシル基をポリマー側鎖に導入する。そのカルボキシル基に不飽和エポキシ化合物を反応させることにより光重合性不飽和基を導入する。又、別の方法としては以下の方法が挙げられる。酢酸ビニルと、不飽和カルボン酸、または不飽和カルボン酸エステルとを共重合することでポリマーを得る。そのポリマーを部分鹸化して得られたカルボキシル基と光重合性不飽和基含有エポキシ化合物を反応させることにより光重合性不飽和基を導入することができる。その中でも前者の方法で得られた部分鹸化ポリ酢酸ビニルが合成し易いことから好ましい。
【0055】
このような光重合性不飽和基は、化合物中に0.10〜0.70モル/kg存在することが好ましく、0.15〜0.35モル/kg存在することがより好ましい。0.10モル/kg以上とすることで、反応性基が反応しポリマーとの架橋密度が向上することで、現像時に微細なレリーフ画像の欠けが発生する問題が改善される。0.70モル/kg以下とすることで、良好な水現像性を維持できる。
【0056】
光重合性不飽和基を側鎖に導入した部分鹸化ポリ酢酸ビニルに水現像性を付与する場合、鹸化度が60〜99モル%有することが好ましく、さらに好ましくは70〜95モル%である。鹸化度が60モル%以上とすることで水溶解性が向上し十分な水現像性を得ることが出来る。また、平均重合度は300〜1500の範囲が好ましく、500〜1000がより好ましい。平均重合度を300以上とすることで耐水性が向上し、十分な耐水性を得ることが出来る。平均重合度を1500以下とすることで水溶解性が向上し、十分な水現像性が得られる。
【0057】
水溶性又は水分散性ポリマーは、感光性樹脂組成物層に10〜70質量%含まれることが好ましい。10〜70質量%含まれることで、厚み精度の高い感光性樹脂組成物層を形成できる。
【0058】
(iii)光重合性不飽和化合物(以下、(iii)成分とも称する)としては、当業者がこの技術分野で従来使用してきたものを使用することができるが、例えば5〜7員環を有する複素環含有光重合性不飽和化合物を含有することが好ましい。5〜7員環を有する複素環含有光重合性不飽和化合物は、複素環内に水酸基、カルボキシル基、又はアミノ基の官能基を有しても良い。複素環と官能基は、(i)成分中の水酸基と水素結合するため、(i)成分との相溶性を高めることができる。なお、5〜7員環を有する複素環含有光重合性不飽和化合物は、分子量が300以下であることが好ましい。分子量が大きくなると、(i)成分との相溶性が低下するおそれがある。
【0059】
(iii)成分としては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシメチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、ネオペンチルグリコール−(メタ)アクリル酸−安息香酸エステル、(メタ)アクリロイルモルフォリン、N−フェニル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられるが、特に(メタ)アクリロイルモルフォリンが好ましい。
【0060】
5〜7員環を有する複素環含有光重合性不飽和化合物以外の光重合性不飽和化合物としては、多価アルコールのポリグリシジルエーテルとメタアクリル酸およびアクリル酸との開環付加反応生成物や多価アルコールとメタアクリル酸およびアクリル酸とのエステル化物が挙げられる。前記多価アルコールとしては、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、フタル酸のエチレンオキサイド付加物などが挙げられ、その中でもグリセリンやプロピレングリコールが好ましい。
【0061】
これらの光重合性不飽和化合物の、感光性樹脂組成物層中における含有量は、ポリマー100質量部に対して、5〜200質量部であることが好ましい。インクを用いて印刷する際に、印刷版の膨潤を抑制する観点から5質量部以上が好ましい。また、感光性樹脂層の形成が容易になることから200質量部以下が好ましい。
【0062】
本発明の感光性樹脂層に用いる光重合開始剤は、光吸収によってラジカルを生成するものであり、従来公知のものを使用することができる。例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、アセトフェノン類、ジアセチル類などが挙げられる。感光性樹脂組成物中の使用量は、0.1〜5質量%であることが好ましい。
【0063】
本発明の感光性樹脂層には、面活性剤、消泡剤、香料、重合禁止剤などの任意成分を添加することができる。可塑剤は、柔軟性を高めるためのものであり、その具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン及びその誘導体、トリメチロールプロパン及びその誘導体、トリメチロールエタン及びその誘導体、ペンタエリスリトール及びその誘導体などの多価アルコール類が挙げられる。これらの可塑剤の使用量は、本発明の感光性樹脂組成物全体の質量の20質量%以下であることが好ましい。重合禁止剤は、熱安定性を上げるためのものであり、その具体例としては、フェノール類、ハイドロキノン類、カテコール類、ヒドロキシアミン誘導体などが挙げられる。これらの重合禁止剤の使用量は、本発明の感光性樹脂組成物全体の質量の0.001〜5質量%であることが好ましい。
【0064】
本発明のCTP凸版印刷版原版は、支持体を設けることが好ましい。支持体としては、可撓性であるが、寸法安定性に優れた材料が好ましく、例えばスチール、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属製支持体、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、またはポリカーボネートフィルムなどの熱可塑性樹脂製支持体を挙げることができる。これらの中でも、寸法安定性に優れ、充分に高い粘弾性を有するポリエチレンテレフタレートフイルムが特に好ましい。支持体の厚みは、機械的特性、形状安定性あるいは印刷版製版時の取り扱い性等から50〜350μm、好ましくは100〜250μmが望ましい。一方、金属製支持体が求められる用途では、アルミニュウムやステンレスの支持体が好ましく、支持体の厚みは180〜320μmが好ましい。また、必要により、支持体と感光性樹脂層との接着性を向上させるために、それらの間に接着剤を設けても良い。
【0065】
本発明のCTP凸版印刷原版を製造する方法は特に限定されないが、一般的には以下のようにして製造される。
まず、感熱マスク層のカーボンブラック以外のバインダー等の成分を適当な溶媒に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を作製する。次に、このような分散液を感熱マスク層用支持体(例えばPETフィルム)上に塗布して、溶剤を蒸発させる。その後、保護層成分を上塗りし、一方の積層体を作成する。さらに、これとは別に支持体上に塗工により感光性樹脂層を形成し、他方の積層体を作成する。このようにして得られた二つの積層体を、圧力及び/又は加熱下に、感光性樹脂層が保護層に隣接するように積層する。なお、感熱マスク層用支持体は、印刷原版の完成後はその表面の保護フィルム(カバーフィルム)として機能する。
【0066】
本発明の印刷原版から印刷版を製造する方法としては、保護フィルムが存在する場合には、まず保護フィルムを感光性印刷版から除去する。その後、感熱マスク層をIRレーザにより画像様に照射して、感光性樹脂層上にマスクを形成する。好適なIRレーザの例としては、ND/YAGレーザ(1064nm)又はダイオードレーザ(例、830nm)を挙げることができる。コンピュータ製版技術に好適なレーザシステムは、市販されており、例えばCDI Spark(エスコ・グラフィックス社)を使用することができる。このレーザシステムは、印刷原版を保持する回転円筒ドラム、IRレーザの照射装置、及びレイアウトコンピュータを含み、画像情報は、レイアウトコンピュータからレーザ装置に直接移される。
【0067】
画像情報を感熱マスク層に書き込んだ後、感光性印刷原版にマスクを介して活性光線を全面照射する。これは版をレーザシリンダに取り付けた状態で行うことも可能であるが、版をレーザ装置から除去し、慣用の平板な照射ユニットで照射する方が規格外の版サイズに対応可能な点で有利であり一般的である。活性光線としては、150〜500nm、特に300〜400nmの波長を有する紫外線を使用することができる。その光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ジルコニウムランプ、カーボンアーク灯、紫外線用蛍光灯等を使用することができる。その後、照射された版は現像され、印刷版を得る。現像工程は、慣用の現像ユニットで実施することができる。
【0068】
〔感熱マスク層塗工液の調製〕
表1の感熱マスク層組成に記載の組成(重量比)に従って分散バインダーを溶媒に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を調製し、感熱マスク層塗工液とした。
【0069】
〔感熱マスク層 の作成〕
両面に離型処理を施したPETフィルム支持体(東洋紡績(株)、E5000、厚さ100μm)に、感熱マスク層塗工液を、層厚が1.5μmになるように適宜選択したバーコーターを用いて塗工し、120℃×5分乾燥して感熱マスク層を設けた感熱マスクフィルム作成した。
【0070】
〔CTP印刷原版の作成〕
本実施形態のCTP印刷原版は、例えば、カバーフィルム上に感熱マスク層を形成し、この感熱マスク層形成面側と、支持体上に積層形成した感光性樹脂層側とを密着させ、圧着させることにより製造できる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート支持体(必要に応じてアンチハレーション効果を有する接着層を設けても良い)に積層形成した感光性樹脂組成物層に、感熱マスク層を具備するフィルムを密着積層させることにより、CTP印刷原版に成形することができる。
【0071】
上記のようにして得られた各感熱マスク層の性能を、以下のようにして評価した。
遮光性:白黒透過濃度計DM−520(大日本スクリーン製造(株))を用いて、PETフィルム支持体上に作成された感熱マスク層の光学濃度を測定した。光学濃度としては、2.3以上必要であり、好ましくは2.5以上である。
耐傷性:得られたCTP印刷原版を20cm×20cmの正方形に切り取り、カバーフィルムを除去し、最上層が感熱マスク層であるCTP印刷原版を準備した。その感熱マスク層面にPETフィルム及び金属板を重ね合わせ、その状態を維持して力を掛けずに自重で左右方向に1回ずつこすった後、感熱マスク層の表面上に形成された傷を、10倍ルーペを使用して目視で評価した。評価は以下の基準で行った。なお、PETフィルムは東洋紡績社製E5000、厚さ100μm)、金属板は厚さ100μmのステンレス鋼板(SUS304)を用いた。
◎:確認できる傷はなし。
○:50μm以上の傷はないが、50μm未満の傷は4個以下ある。
△:50μm以上の傷が1〜4個ある。
×:50μm以上の傷が5個以上ある。
【0072】
〔(i)−1 部分鹸化酢酸ビニルの準備〕
部分鹸化ポリ酢酸ビニルは、市販品の日本合成化学工業(株)製の部分鹸化ポリ酢酸ビニル"KL−03"(重合度約300、鹸化度80モル%)(i)−1を準備した。
【0073】
〔(i)−2 側鎖にカルボキシル基を有する変成部分鹸化ポリ酢酸ビニルの合成〕
準備した部分鹸化酢酸ビニル"KL−03"(重合度約300、鹸化度80モル%)をアセトン中で膨潤させ、無水コハク酸1.0モル%を添加し、60℃で6時間撹拌して分子鎖にカルボキシル基を付加させたカルボン酸変性部分鹸化ポリ酢酸ビニル(i)−2を得た。このポリマーをアセトンで洗浄して未反応の無水コハク酸を除去乾燥した。酸価を測定したところ、9.8mgKOH/gであった。
【0074】
〔(i)−3 側鎖に光重合性不飽和基を有する変性部分鹸化ポリ酢酸ビニルの合成〕
(i)−2で得られた変成部分鹸化ポリ酢酸ビニル100部を、エタノール/水=30/70(質量比)の混合溶媒200部に80℃で溶解した。ここにグリシジルメタクリレートを6部添加して、部分鹸化ポリ酢酸ビニル中に反応性基を導入した。電位差滴定法による分析結果から、ポリマー中のカルボキシル基がグリシジルメタクリレートのエポキシ基と反応し、ポリマー側鎖中にメタクロイル基が導入されたことを確認し、(i)成分である側鎖に光重合性不飽和基を有する変成部分鹸化ポリ酢酸ビニル(i)−3 を得た。
【0075】
〔(ii)塩基性窒素含有ポリアミドの合成〕
表1に示すポリアミドの組成に従って、実施例1に使用するポリアミドの(ii)−1を合成した。ε−カプロラクタム460部、シクロヘキサンジカルボン酸266部、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン274部、50%次亜リン酸水溶液5部、及び水1000部をオートクレーブ中に仕込み、窒素置換後、密閉して徐々に加熱した。内圧が0.4MPaに達した時点から、その圧力を保持できなくなるまで水を留出させ、約2時間で常圧に戻し、その後1時間常圧で反応させた。得られたポリアミドの相対粘度2.01であった。ポリアミドの組成をH−NMRで測定し、仕込み組成とポリマー組成に差異がないことを確認した。実施例2〜8、比較例1〜3のポリアミドは表1の組成に従って、実施例1と同様の重合方法で感熱マスク層に使用するポリアミドを得た。表1のポリアミド組成はmol%を表す。ポリアミド組成のmol%はH−NMRの測定により確定した。
【0076】
〔アニオン性ポリマー〕
カルボン酸変性部分鹸化ポリ酢酸ビニルで合成した(i)−2のカルボン酸変性部分鹸化ポリ酢酸ビニルをアニオン性ポリマーとを兼用するポリマーとして準備した。
【0077】
アニオン性ポリマーは合成したカルボン酸変性部分鹸化ポリ酢酸ビニル以外にも市販のアニオン性ポリマーとして、エチレン−アクリル酸共重合体「SG−2000」(株式会社鉛市製、20質量%水溶液、吸水率1.2%、カルボン酸含有量14wt%)を準備し、実施例4で使用した。