(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6972972
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】表示装置及び表示方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/56 20060101AFI20211111BHJP
G10L 25/18 20130101ALI20211111BHJP
G10L 25/48 20130101ALI20211111BHJP
【FI】
G01S7/56 Z
G10L25/18
G10L25/48 100
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-227877(P2017-227877)
(22)【出願日】2017年11月28日
(65)【公開番号】特開2019-100701(P2019-100701A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 唯樹
(72)【発明者】
【氏名】岩永 久志
【審査官】
梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−205790(JP,A)
【文献】
特開平03−163380(JP,A)
【文献】
特開平05−273326(JP,A)
【文献】
特開平04−204073(JP,A)
【文献】
特開2000−171547(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0052704(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72 − 1/82
G01S 3/80 − 3/86
G01S 5/18 − 5/30
G01S 7/52 − 7/64
G01S 15/00 − 15/96
G01L 13/00 − 13/10
G01L 19/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響信号を異なる周波数帯域幅で分析してスペクトル信号を生成する周波数分析部と、
前記周波数分析部によって生成されたスペクトル信号を正規化する正規部と、
前記正規部によって正規化された信号を、前記異なる周波数帯域幅毎に前記異なる周波数帯域幅に比例した圧縮率で圧縮する圧縮処理部と、
前記圧縮処理部によって圧縮された結果に基づいて、変換された画像情報を作成する画像処理部と、
を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記圧縮処理部によって圧縮された信号を正規化する後段正規部を更に備え、
前記画像処理部は、
圧縮され、前記後段正規部によって正規化された結果に基づいて、変換された画像情報を作成するものである
ことを特徴とする請求項1記載の表示装置。
【請求項3】
前記圧縮処理部は、
前記正規部によって正規化された信号の複数のレベルのうち最も大きいレベルを、圧縮後のレベルとするものである
ことを特徴とする請求項1又は2記載の表示装置。
【請求項4】
音響信号を異なる周波数帯域幅で分析してスペクトル信号を生成するステップと、
生成されたスペクトル信号を正規化するステップと、
正規化された信号を、前記異なる周波数帯域幅毎に前記異なる周波数帯域幅に比例した圧縮率で圧縮するステップと、
圧縮された結果に基づいて、変換された画像情報を作成するステップと、
を備えることを特徴とする表示方法。
【請求項5】
圧縮された信号を正規化するステップを更に備える
ことを特徴とする請求項4記載の表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信した音響信号の周波数変化を、帯域ごとに異なる分析幅で分析した分析結果を表示する表示装置及び表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ソーナー装置等において、受信した音響信号の周波数変化を、帯域ごとに異なる分析幅で分析した分析結果を表示する表示装置を備えるものが知られている。ソーナー装置等は、オペレータが参照する画面として、縦軸を時間、横軸を周波数とし、レベルを輝度又は色情報で表したLOFAR画面(特許文献1参照)を表示する表示装置を有している。オペレータは、本画面を利用して次の三項目を確認する。第一に信号の有無を確認する。第二に信号の周波数変化(ドップラーシフト)を読み取ることにより、その音源との相対速力の変化を把握する。第三に信号の高調波の基本周波数を読み取ることにより、音源の類識別を行う。
【0003】
ここで、高調波とはエンジンや機械雑音などの回転系から発せられる正弦波信号が、非線形な歪みを受け、信号周波数(基本周波数)の整数倍音(高調波音)で発生する音である。LOFAR画面における高調波の現れ方を
図6(a)に示し、ドップラーシフトの現れ方を
図6(b)に示す。高調波信号は、基本周波数の信号に対し2倍,3倍といった周波数の信号が発生していることから読み取れる。周波数fの信号は基本周波数で、2×f,3×f,4×fの信号は高調波信号である。信号のドップラーシフトは、信号の周波数が変化することによって読み取ることができる。
【0004】
従来技術として、周波数分析幅が一定のLOFARと、オクターブLOFAR(非特許文献1参照)との二種類のLOFARがある。一種類目の周波数分析幅が一定のLOFARのブロック図を
図7に示す。周波数分析部は時間領域の音響信号を入力とし、FFT,2段階FFT,DFTなどの手法により、周波数領域の信号に変換して正規部に周波数領域の信号を出力する。正規部では周波数領域の音響信号を、背景雑音のレベルで正規化して、画像処理部に正規化された周波数領域の信号を出力する。雑音正規化の一例としては、局所AGC(非特許文献1に記載のnoise・mean・estimation・and・removal algorithm)がある。
【0005】
画像処理部は正規部からの正規化された周波数領域の信号を、入力レベルに応じた白黒の輝度情報、あるいはRGBなどの色情報に変換し、変換された画像情報を出力する。出力された画像情報は画面表示に使用される。周波数のドップラーシフト量は音源の周波数に比例するため、低周波側では高周波側に比べて細かい周波数の変化を確認する必要がある。そのため、周波数分析幅が一定のLOFARでは、別の周波数帯域におけるドップラーシフトを確認したいときは、その度に周波数帯域と周波数分析幅を切り替える必要がある。別の帯域の信号の有無や高調波を確認したいときも同様で、その度に周波数帯域と周波数分析幅を切り替えている。
【0006】
二種類目のオクターブLOFARは、周波数分析幅を周波数帯域に応じて変化させるLOFARである。処理の詳細は非特許文献1を参照し、ここでは構成のみを示す。全周波数帯域をN分割し、周波数分析幅をN種類とした、オクターブLOFARの処理ブロック図を
図8に示す。
図8では
図7と比較して、周波数分析部と正規部とがそれぞれN個並列している。音響信号は複数の周波数分析部それぞれの入力となり、それぞれの周波数分析幅Δfn(n=1,2,・・・,N)で処理され、それぞれの正規部に周波数領域の信号が出力される。ここで、周波数分析幅Δfn(n=1,2,・・・,N)は、音源の周波数に比例したドップラーシフトを確認するために、例えば1オクターブごとに2倍となる値とされる。正規部は、雑音を正規化し、それぞれの正規化された周波数領域の信号を画像処理部に出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−171547号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Richard O.Nielsen “SONAR SIGNAL PROCESSING” Artech House,1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
周波数分析幅が一定のLOFARにおいて、得られた情報が一画面で表示されると、周波数分析結果がリニア軸上で等間隔に並び、高調波を確認しやすいという利点がある。しかし、一画面で表示するために周波数分析幅を広くすると、著しくPG(処理利得)が悪くなり信号が見難いという問題がある。また、低域でのドップラーシフトが分かりにくいという問題がある。
【0010】
また、オクターブLOFARでは、低周波側で周波数分析幅が狭いため、大きなPGが得られる利点がある。しかし、周波数帯域によって、周波数分析幅が異なるため、周波数分析結果がリニア軸上で一定間隔に並ばず、信号の高調波が読み取りにくい。
図9上部の信号レベル-周波数グラフで示すような基本周波数fの信号およびその高調波(2×f,3×f,・・・)が存在する場合、
図9下部のLOFAR表示画面のように周波数分解能が細かい低周波側ほど高調波の間隔が広く、周波数分解能が粗い高周波側ほど高調波の間隔がせまくなり、高調波関係にある周波数の間隔が異なるため、高調波が見難いという問題がある。
【0011】
このように、周波数分析幅が一定のLOFAR及びオクターブLOFARを表示する表示装置は、低周波側のドップラーシフトを検出しやすくすることと、高調波を見易くすることという両方のLOFARの利点を両立させることができない。
【0012】
本発明は、上記のような課題を背景としてなされたもので、低周波側のドップラーシフトを検出し易くし、高調波を見易くすることができる表示装置及び表示方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る表示装置は、音響信号を異なる周波数帯域幅で分析してスペクトル信号を生成する周波数分析部と、周波数分析部によって生成されたスペクトル信号を正規化する正規部と、正規部によって正規化された信号を、
異なる周波数帯域幅毎に
異なる周波数帯域幅に比例した圧縮率で圧縮する圧縮処理部と、圧縮処理部によって圧縮された
結果に基づいて、変換された画像情報を作成する画像処理部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧縮処理部によって、音響信号が分析幅の大きさに比例した圧縮率で圧縮される。このため、分析結果が、周波数軸のグラフ上において等間隔に並ぶ。従って、低周波側のドップラーシフトを検出し易くし、高調波を見易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る表示装置1を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る圧縮処理部4の処理を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る分析結果を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態2に係る表示装置100を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施の形態2に係る分析結果を示す図である。
【
図6】従来の表示装置による分析結果を示す図である。
【
図9】従来の表示装置による分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
以下、本発明に係る表示装置1及び表示方法の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係る表示装置1を示すブロック図である。
図1に示すように、表示装置1は、周波数分析部2と、正規部3と、圧縮処理部4と、画像処理部5とを備えている。
【0017】
(周波数分析部2)
周波数分析部2は、時間領域の音響信号を入力とし、FFT,2段階FFT,DFTなどの手法により、異なる周波数帯域幅で分析してスペクトル信号(周波数領域の音響信号)を生成して正規部3にスペクトル信号を出力する。
【0018】
(正規部3)
正規部3は、スペクトル信号を背景雑音のレベルで正規化して、画像処理部5に正規化された周波数領域の信号を出力する。雑音正規化の一例としては、局所AGC(非特許文献1に記載のnoise・mean・estimation・and・removal algorithm)がある。
【0019】
(画像処理部5)
画像処理部5は、正規部3からの正規化された周波数領域の信号を、入力レベルに応じた白黒の輝度情報又はRGB等の色情報に変換し、変換された画像情報を出力する。出力された画像情報は画面表示に使用される。周波数のドップラーシフト量は音源の周波数に比例するため、低周波側では高周波側に比べて細かい周波数の変化を確認する必要がある。そのため、周波数分析幅が一定のLOFARでは、別の周波数帯域におけるドップラーシフトを確認したいときは、その度に周波数帯域と周波数分析幅を切り替える必要がある。別の帯域の信号の有無や高調波を確認したいときも同様で、その度に周波数帯域と周波数分析幅を切り替えている。
【0020】
(圧縮処理部4)
図1に示すブロック図には、
図8のオクターブLOFARのブロック図と比べ、正規部3と画像処理部5との間に、圧縮処理部4が追加されている。圧縮処理部4の入力側には正規部3が接続され、圧縮処理部4は正規化された周波数領域の信号を入力とする。圧縮処理部4の出力側には画像処理部5が接続され、圧縮処理部4は周波数方向に圧縮された周波数分析結果を出力する。なお、周波数分析部2、正規部3及び画像処理部5は、
図7に示した周波数分析部2、正規部3及び画像処理部5と同様の機能である。
【0021】
圧縮処理部4は正規部3から出力される周波数分析結果数(ビン数)を減らす処理である。まず、圧縮率を(1)式で定義する。
【0022】
[数1]
圧縮率=圧縮後の情報数/圧縮前の情報数・・・(1)
【0023】
図2は、本発明の実施の形態1に係る圧縮処理部4の処理を示す図である。ここで、各正規部3からの出力の分析幅を、Δfn[Hz](n=1,2,・・・,N)とし、処理周波数帯域をfln[Hz]〜fhn[Hz](n=1,2,・・・,N)とする。全周波数帯域の周波数分析結果をΔf‘[Hz]間隔のリニア軸で表示する場合について、
図2を用いて説明する。圧縮前の各周波数帯域での周波数ビン数をMnとすると、Mn=(fhn−fln)/Δfnと表せる。Δfnの処理帯域での最小周波数ビンの中心周波数はflnとなり、最大周波数ビンの中心周波数は、fln+(Mn−1)Δfnとかける。圧縮処理部4では、周波数をリニア軸で等間隔にするために、正規部3から出力される正規化された周波数分析結果を(2)式の圧縮率mn(n=1,2,・・・,N)で圧縮する。
【0024】
[数2]
圧縮率mn=(Δfn)/((fhn−fln)/Δf‘)(n=1,2,・・・,N)・・・(2)
【0025】
mn個(n=1,2,・・・,N)の周波数ビンの情報を一つのビンに圧縮する方法として、元の雑音正規化後のmn個(n=1,2,・・・,N)の周波数分析結果における最大値となる周波数分析結果を選択する方法が考えられる。他の方法として、mn個(n=1,2,・・・,N)の周波数分析結果の平均値や加算値をとる方法も考えられる。圧縮後の周波数分析結果において、最大値を選択する方法が、最も信号のS/Nが高くなる。
【0026】
本実施の形態1によれば、圧縮処理部4によって、音響信号が分析幅の大きさに比例した圧縮率で圧縮される。周波数が周波数軸(リニア軸)で等間隔に並ぶ。従って、周波数分析幅が一定のLOFARにおける高調波関係が見易く、オクターブLOFARにおける低周波域のドップラーシフトが検出しやすい。このように、本実施の形態1は、両方のLOFARの利点を両立させることができるという効果が得られる。
【0027】
実施の形態2.
実施の形態1では、圧縮処理部4で圧縮処理された情報は、(2)式で決まる圧縮率で圧縮されるため、周波数分析する帯域によって圧縮率が異なる。実施の形態1における圧縮処理で最大値を選択する方法を用いた場合、雑音の統計的なレベルの揺らぎから、圧縮率が高い低周波の帯域ほど圧縮後のレベルが大きくなりやすい。このため、
図3のようにn(n=1,2,・・・,N)の値による圧縮率によって平均レベルが異なる。従って、圧縮率が変わる境界付近の信号(2×f,4×f)をより見易くすることが望まれる。
【0028】
図4は、本発明の実施の形態2に係る表示装置100を示すブロック図である。
図4に示すブロック図には、
図1の実施の形態1のブロック図と比べて、圧縮処理部4と画像処理部5との間に、後段正規部106が追加されている。
【0029】
(後段正規部106)
後段正規部106の入力側には圧縮処理部4が接続され、後段正規部106は圧縮された周波数分析結果を入力とする。後段正規部106の出力側には画像処理部5が接続され、後段正規部106は圧縮後の正規化出力の周波数分析結果を出力する。圧縮処理部4で圧縮された情報が正規部3に入力されると、異なる圧縮率によって圧縮された周波数分析結果を正規化する。後段正規部106の具体例として例えば局所AGCがあげられる。局所AGCの具体的な処理内容は、非特許文献1に記載されている。
【0030】
本実施の形態2によれば、
図3のように圧縮処理で生じる圧縮率が高い低周波側でレベルの平均が高く圧縮率の変わる平均レベルの境界付近で信号がわかりにくいという問題に対し、圧縮処理後に雑音正規化を行う処理を設けた。
図5は、本発明の実施の形態2に係る分析結果を示す図である。圧縮処理後に雑音正規化を行う処理を設けたため、全帯域にわたって圧縮後のレベルが平準化され、
図5のように圧縮率が変わる境界付近における信号(2×f,4×f)がわかりやすくなる効果が得られる。
【0031】
なお、実施の形態1では、全周波数帯域を一画面で確認するために、周波数軸をリニアにする例について説明した。これは、表示画面が狭い場合、又は広い周波数帯域を表示する場合には、圧縮率mnを全て同じ(m1=m2=・・・=mn)にすれば、オクターブ軸のまま一画面に表示することもできる。
【符号の説明】
【0032】
1 表示装置、2 周波数分析部、3 正規部、4 圧縮処理部、5 画像処理部、100 表示装置、106 後段正規部。