(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.歯車加工の基本動作)
本発明の歯車加工シミュレーション装置の適用対象である歯車加工の基本動作について、
図3及び
図4を参照して説明する。ここでは、工作物20の内周面に歯車21を加工する場合を例に挙げる。ただし、工作物20の外周面に歯車を加工する場合にも適用可能である。
【0011】
工作物20は、
図3に示すように、円環状に形成され、その内周面に歯車21が形成される。また、工作物20は、その中心軸線Zw回りに回転可能に支持される。つまり、工作物20は、C軸回転可能となる。
【0012】
加工用工具10は、
図3及び
図4に示すように、外周に複数の工具刃11を有し、加工用工具10の中心軸線Zt回りに回転可能に支持される。つまり、加工用工具10は、U軸回転可能となる。各工具刃11は、突条に形成されている。各工具刃11は、各工具刃11の延在方向に対する側面11aと、延在方向の端面11bと、径方向外面11cとを備える。
【0013】
ここで、本実施形態において、工具刃11は、加工用工具10の中心軸線Ztに対してねじれ角γ1を有している。ただし、ねじれ角γ1がゼロとなるように、工具刃11を形成してもよい。また、工具刃11の径方向外面11cは、中心軸線Ztに対して傾斜している。つまり、工具刃11の外接面は、円錐状に形成されている。工具刃11の径方向外面11cの傾斜角度ξbは、切削における逃げ角に相当する。また、工具刃11の端面11bは、中心軸線Ztに直交する平面に対して角度ξaだけ傾斜している。工具刃11の端面11bの傾斜角度ξaは、切削におけるすくい角に相当する。
【0014】
そして、
図3に示すように、加工用工具10の中心軸線Ztは、工作物20の中心軸線Zwに平行な軸線に対して角度を有する状態、すなわち交差角θ(
図27参照)を有する状態とされている。つまり、両者の中心軸線Zt,Zwが平行ではないという意味である。
【0015】
この状態で、加工用工具10の回転と工作物20の回転とを同期をさせながら、
図3の太矢印にて示すように、加工用工具10を工作物20に対して加工用工具10を工作物20の中心軸線Zw方向に向かって直進させる。なお、加工用工具10をZw方向に移動させてもよいし、工作物20をZw方向に移動させてもよい。
【0016】
加工用工具10の中心軸線Ztと工作物20の中心軸線Zwとが交差角θを有する状態であるため、加工点において、加工用工具10と工作物20とに相対速度が生じる。そのため、工作物20が切削される。そうすると、
図3に示すように、工作物20の内周面に歯車21が形成される。なお、
図3は、工作物20に歯車21を途中まで加工した状態を示しているが、上記動作を継続することにより、工作物20の軸線方向全長に亘って、歯車21が形成される。
【0017】
(2.歯車加工装置)
本実施形態の歯車加工方法を適用する装置は、例えば、5軸マシニングセンタを適用できる。すなわち、加工用工具10と工作物20とを相互に直交する3軸方向に相対的に直進移動させ、加工用工具10及び工作物20をそれぞれ軸回りに回転させ(U軸回転、C軸回転)、かつ、加工用工具10の中心軸線Ztと工作物20の中心軸線Zwとを傾斜させることができる装置を適用する。
【0018】
(3.歯車加工シミュレーション装置の概要)
本発明の実施形態に係る歯車加工シミュレーション装置100の概要について説明する。ここで、
図5A及び
図5Bに示すように、ギヤスカイビング加工においては、工作物20と加工用工具10とを同期回転(U軸回転、C軸回転)させながら、加工用工具10を工作物20の中心軸線Zw方向に送るが、このときの工作物20の回転角ηと加工用工具10(工具刃11)の回転角σ(以下、「工具回転角σ」という)は、次式(1)の関係がある。なお、Zwは歯車21の歯数、Ztは工具刃11の刃数、δは補正角である。歯車加工シミュレーション装置100は、歯車加工装置の制御装置に内蔵されていてもよい。また、歯車加工シミュレーション装置100は、PLC(Programmable Logic Controller)やCNC(Computer Numerical Control)装置などの組み込みシステムとすることもでき、パーソナルコンピュータやサーバなどとすることもできる。
【0020】
そして、ギヤスカイビング加工は、加工用工具10の外周に形成される工具刃11のうち複数の工具刃11が同時に工作物20の内周面に形成される歯車21の歯溝22(
図3参照)のうち複数の歯溝22の切削に関与するが、各工具刃11及び各歯溝22はどれも幾何学的には同じ切削状態になる。
【0021】
そこで、本実施形態の歯車加工シミュレーション装置100は、一つの歯溝22における一つの工具刃11の回転に着目し、加工用工具10を微小角度で回転、すなわち、式(1)の工具回転角σを微増させて解析している。さらに、一つの歯溝22における一つの工具刃11の送りに着目すると、一つの工具刃11の切削開始から切削終了までの範囲が明確となる。すなわち、
図6に示すように、工具刃11は、工具回転角σsで歯溝22の切削を開始し、工具回転角σeで歯溝22の切削を終了する。
【0022】
これにより、一つの工具刃11の切削状態を従来よりも短時間で詳細に解析できる。そして、加工用工具10の適正な設計に必要な工具刃特性、すなわち、工具刃11のすくい角、同時に切削に関与する工具刃11による切削力、工作物20又は加工用工具10に生じるトルクを容易に算出できる。
【0023】
上述したように、加工用工具10の工具刃11の形状は非常に複雑である。そこで、詳細は後述するが、
図7に示すように、工具刃11における端面11bと側面11aとの境界線を複数の領域ΔP(i,i+1)に分割する。そうすることで、領域ΔP(i,i+1)毎に、2次元化処理ができる。
【0024】
つまり、領域ΔP(i,i+1)毎に、2次元切削モデルを用いて、すくい角α(i)を算出し、切り取り厚さttを算出し、また、切削力F
H(i)を算出する。そして、算出した切削力F
H(i)を用いて、工作物20に生じるトルクTw又は加工用工具10に生じるトルクTtを算出する。以下に、詳細に説明する。
【0025】
(4.歯車加工シミュレーション装置の詳細)
歯車加工シミュレーション装置100について説明する。
図1に示すように、歯車加工シミュレーション装置100は、定義点決定部110、交点算出部140及び工具刃特性算出部200を備える。そして、工具刃特性算出部200は、切込ベクトル算出部120、すくい角算出部130、除去長さ算出部150、最終加工位置抽出部160、切削力算出部170、トルク算出部180及び切り取り厚さ算出部190を備える。
【0026】
ここで、歯車加工シミュレーション装置100の説明を行うにあたって、(a)すくい角算出処理に関する説明、(b)2次元切削モデルについての説明、(c)切込量算出処理に関する説明、(d)切り取り厚さ算出処理に関する説明、(e)切削力及びトルクの算出処理に関する説明の順に説明する。
【0027】
(a:すくい角算出処理)
すくい角算出処理については、
図1における定義点決定部110,切込ベクトル算出部120,すくい角算出部130についての説明となる。
【0028】
定義点決定部110は、
図7に示すように、各工具刃11における端面11bと側面11aとの境界線を複数の定義点P(k)により規定する。つまり、複数の定義点P(k)(ただし、k=1〜n、nは自然数)を直線にてつなぐことにより、工具刃11における当該境界線の近似形状となる。ここで、
図7においては、13個の定義点P(1)〜P(13)を示しているが、定義点P(k)の数は、自由に設定できる。
【0029】
ここで、工具刃11に関して、後の処理にて用いる用語について、
図7を参照して説明する。隣り合う2つの定義点P(i),P(i+1)間の領域を定義点間領域ΔP(i,i+1)と称する。例えば、定義点P(1)とP(2)との間の領域は、ΔP(1,2)となる。また、隣り合う2つの定義点P(i),P(i+1)の中点を、Pc(i,i+1)と称する。例えば、定義点P(1)とP(2)との中点は、Pc(1,2)となる。
【0030】
切込ベクトル算出部120は、定義点間領域ΔP(i,i+1)毎に、加工用工具10が回転角σ1からσ2まで回転する間に、当該定義点間領域ΔP(i,i+1)が切込方向へ移動する切込ベクトルL(i)を算出する。ただし、定義点間領域ΔP(i,i+1)の全体が移動する方向は、容易に算出できない。
【0031】
そこで、
図8に示すように、隣り合う2つの定義点P(i),P(i+1)の中点Pc(i,i+1)が切込方向へ移動するベクトルLc(i)を、切込ベクトルL(i)として算出する。このように、中点Pc(i,i+1)を用いることで、容易にかつ確実に当該点の移動するベクトルを算出できる。
【0032】
すくい角算出部130は、切込ベクトルL(i)に基づいて、すくい角α(i)を算出する。すくい角α(i)は、各定義点間領域ΔP(i,i+1)により工作物20を切削する場合のすくい角である。ここで、すくい角算出部130によるすくい角α(i)の算出は、
図2に示すような手順により行われる。
【0033】
以下に、すくい角α(i)の算出について、
図2、
図8〜
図11を参照して説明する。まず、
図2に示すように、定義点間ベクトルB(i)を算出する(
図2の符号131)。定義点間ベクトルB(i)とは、
図8に示すように、隣り合う2つの定義点P(i),P(i+1)を結ぶベクトルである。ここで、中点Pc(i,i+1)は、定義点間ベクトルB(i)の中間位置に位置する。
【0034】
続いて、切込ベクトル算出部120により算出された切込ベクトルL(i)と、定義点間ベクトルB(i)とに基づいて、切込ベクトルL(i)を含み、かつ、定義点間ベクトルB(i)に直交する平面G(i)を算出する(
図2の符号132)。平面G(i)は、
図8に示す通りである。
【0035】
ここで、平面G(i)を定義するために、平面定義用の法線ベクトルC(i)を用いる。つまり、平面定義用の法線ベクトルC(i)は、中点Pc(i,i+1)を通り、切込ベクトルL(i)及び定義点間ベクトルB(i)に直交するベクトルである。従って、平面G(i)は、中点Pc(i,i+1)を通り、切込ベクトルL(i)と平面定義用の法線ベクトルC(i)とを含む平面として定義できる。
【0036】
この平面G(i)を算出する目的は、上述したように2次元切削モデルを用いるためである。つまり、2次元切削モデルを平面G(i)において適用することにより、当該平面G(i)における切削力F
H(i)を算出する。
【0037】
続いて、中点Pc(i,i+1)における工具刃11の法線ベクトルN(i)(以下、「刃面法線ベクトル」と称する)を算出する(
図2の符号133)。ここで、刃面法線ベクトルN(i)は、隣り合う2つの定義点P(i),P(i+1)を把握しただけでは、得ることができない。そこで、
図9に示すように、当該定義点P(i),P(i+1)を含む隣り合う3つ以上の定義点P(k)を用いる。ここでは、3つの定義点P(i−1),P(i),P(i+1)を用いる。
【0038】
図9に示すように、3つの定義点P(i−1),P(i),P(i+1)を通る平面Q(i)が決定される。そして、平面Q(i)上において、中点Pc(i,i+1)を通り、定義点間ベクトルB(i)に直交するベクトルを、刃面法線ベクトルN(i)とする。
【0039】
続いて、平面G(i)及び刃面法線ベクトルN(i)を算出した後には、刃面法線ベクトルN(i)を平面G(i)に投影した投影法線ベクトルNg(i)を算出する(
図2の符号134)。
【0040】
ここで、
図10に示すように、平面G(i)と平面Q(i)とは、同一平面とは限らない。そのため、刃面法線ベクトルN(i)は、平面Q(i)上に位置するが、平面G(i)に位置するとは限らない。そこで、上記の通り、刃面法線ベクトルN(i)を平面G(i)上に投影することにより、平面G(i)上に位置する投影法線ベクトルNg(i)を得る。
【0041】
続いて、平面G(i)において、投影法線ベクトルNg(i)と切込ベクトルL(i)とのなす角度である投影すくい角αg(i)を算出する(
図2の符号135)。投影すくい角αg(i)は、
図11に示す通りである。ここで、投影すくい角αg(i)は、平面G(i)上において算出しているため、実際のすくい角α(i)とは異なる。
【0042】
ただし、平面G(i)における2次元切削モデルを用いるために、投影すくい角αg(i)をすくい角α(i)として推定することとする。このように、すくい角算出部130は、すくい角α(i)(=投影すくい角αg(i))を算出する。
【0043】
ここで、
図12に示すように、一つの歯溝22における一つの工具刃11の歯溝方向(図示矢印方向)の1回の送りでは、例えば図示網線で示す部分23が除去される。すなわち、工具刃11は、送りが進むにつれて回転するが、工具回転角σがσsで切削開始位置(図示二点鎖線で示す位置)に位置し、工具回転角σがσa、σb、σcのときは、除去部分23と図示一点鎖線が重なる部分に位置し、工具回転角σがσeで切削終了位置(図示二点鎖線で示す位置)に位置する。
【0044】
すくい角αg(i)は、一つの歯溝22における一つの工具刃11の切削開始から切削終了までの範囲で求められる。例えば、
図13に示すように、工具回転角σに対するすくい角αg(i)は、切削開始(工具回転角σs)から切削終了(工具回転角σe)までの範囲で、工具刃11の左刃面(図示破線、
図7の定義点P(1)−P(4))、工具刃11の刃先(図示実線、
図7の定義点P(5)−P(9))、工具刃11の右刃面(図示一点鎖線、
図7の定義点P(10)−P(13))の部分別に求めることができる。
【0045】
すくい角αg(i)を表す各線分は、工具刃11の中点P(i,i+1)における値の集合である。なお、工具回転角σが0のときは、工具刃11が歯溝22の歯溝方向中央に達したときである(以下の図においても同様)。求めたすくい角αg(i)が負になる箇所は、切込み厚さが厚くなって切削力が局所的に大きくなるので、すくい角αg(i)が負にならないように工具刃11の諸元を変更する。
【0046】
(b:2次元切削モデル)
次に、2次元切削モデルについて、
図14を参照して説明する。
図14は、上述した平面G(i)における切削モデルを示す。
図14において、加工用工具10の工具刃11によって、工作物20が切削される。
【0047】
ここで、平面G(i)において、工具刃11のすくい面は端面11bであり、逃げ面は側面11a又は径方向外面11cである。そして、すくい角はαg(i)である。また、切込量はd1(i)であり、せん断角はφ(i)である。このとき、工具刃11による切込ベクトルはL(i)であり、工具刃11の法線ベクトルはNg(i)である。そして、工具刃11の当該部位における切削力F
H(i)は、切込ベクトルL(i)の逆向きとなる。
【0048】
このとき、当該部位における切削力F
H(i)は、式(2)のように表される。式(2)において、τ
0は、平均せん断応力であり、予め対象材料などに基づいて得る。b(i)は、隣り合う2つの定義点P(i)、P(i+1)間の距離である。d1(i)は、定義点間領域ΔP(i,i+1)による切込量の平均である。
【0049】
つまり、切込量d1(i)は、定義点P(i)による切込量(径方向深さに相当)と、定義点P(i+1)による切込量との平均に相当する。φ(i)は、せん断角であり、公知の技術情報から得ることからできる。αg(i)は、上述した投影すくい角である。βは、摩擦角であり、経験により決定される。
【0051】
つまり、上記したように、平面G(i)におけるすくい角αg(i)を算出することにより、2次元切削モデルを適用できることが分かる。
【0052】
(c:切込量算出処理)
上記2次元切削モデルにおいて、切込量d1(i)を得ることができれば、切削力F
H(i)を得ることができる。直前における工作物20の形状と、今回切削する際の工作物20の形状とが分かれば、両者の差分により切込量d1(i)を得ることができる。以下に、
図15〜
図18を参照して、詳細に説明する。
【0053】
ここで、切込量算出処理については、
図1における交点算出部140、除去長さ算出部150、最終加工位置抽出部160についての説明となる。
【0054】
交点算出部140は、工具回転角σがσ1からσ2に微増したとき、工具回転角σ2における工作物20の形状を算出する。ここで、工作物20の形状を、
図15に示すように、基準平面上に指定長さのピン26を指定間隔毎に立てて、その先端に三角パッチ27を作成することにより表す。ただし、これでは、工作物20が平面形状となるため、基準平面を内側に折り曲げるようにすることで、工作物20の形状を定義する。
【0055】
続いて、
図16に示すように、工具刃11が工作物20に対して相対移動する場合を考える。ここで、工具刃11の形状についてもモデル化する必要がある。そこで、工具刃11の表面を三角パッチで表した工具包絡面により定義する。そして、工具刃11を相対移動することにより、工作物20を表す各ピン26と工具刃11を表す工具包絡面との交点を算出する。
【0056】
そして、交点算出部140にて交点がある場合には、除去長さ算出部150が、
図17に示すように、工作物20を表す各ピン26の長さを変更する。つまり、工具回転角σがσ1からσ2に微増したときの工具刃11による切削により、工作物20の一部が切削され、切削後の形状として記憶しておく。このとき、除去長さ算出部150は、各ピン26の除去長さを記憶しておく。このピン26の除去長さが、工具回転角σがσ1からσ2に微増したときの切込量に相当する。
【0057】
最終加工位置抽出部160は、工具回転角σがσ1からσ2に微増する間において、工具刃11を表す各定義点P(k)による最終加工位置を抽出する。ここで、
図18には、それぞれの定義点P(k)が、工具回転角σがσ1からσ2に微増する間に移動した点をプロットしている。そして、白抜き丸印は、各定義点P(k)による最終加工位置を示し、黒丸印は、各定義点P(k)による最終加工位置以外における位置を示す。
【0058】
つまり、各定義点P(k)による最終加工位置とは、工具回転角σ2における各定義点P(k)の位置に相当する。これらの位置が分かれば、当該最終加工位置と、直前の工作物20の形状とから、各定義点P(k)における切込量を算出できる。つまり、工具回転角σがσ1からσ2に微増する間に、工作物20の形状変化を把握できる。
【0059】
そして、2次元切削モデルにおける切込量d1(i)は、定義点P(i)による切込量(径方向深さに相当)と、定義点P(i+1)による切込量との平均に相当する。つまり、各定義点P(k)における切込量を得ることができるので、中点Pc(i,i+1)における切込量d1(i)を算出することができる。
【0060】
このように、最終加工位置抽出部160は、各定義点P(k)による最終加工位置を算出するとともに、各定義点P(k)における切込量を算出し、さらに中点Pc(i,i+1)における切込量d1(i)を算出する。交点算出部140は、一つの工具刃11による一つの歯溝22の切削開始から切削終了までの範囲で工作物20を表す各ピン26と工具刃11を表す工具包絡面との交点を算出する。そしては、一つの工具刃11による一つの歯溝22の切削開始から切削終了までを繰り返し実行する度に、工作物20の形状を更新して工作物20を表す各ピン26と工具刃11を表す工具包絡面との交点を算出する。
【0061】
(d:切り取り厚さ算出処理)
次に、切込量d1(i)を用いて、切り取り厚さの算出について説明する。
図1における切り取り厚さ算出部190は、
図19に示すように、最終加工位置抽出部160で算出した最終加工位置、すなわち工具回転角σがσ2のときの工作物20の歯溝22の形状(図示実線で示す)と、工具回転角σがσ1のときの工作物20の歯溝22の形状(図示破線で示す)とから、歯溝22を形成する歯側面22aの法線方向の厚みttを切り取り厚さとして算出する。
【0062】
切り取り厚さttは、一つの歯溝22における一つの工具刃11の切削開始から切削終了までの範囲で求められる。例えば、
図12に示す除去部分23における切り取り厚さttは、
図20に示すように、Xw軸を横軸に取ったとき、切削開始(工具回転角σs)から工具回転角σa、σb、σcを経て切削終了(工具回転角σe)までの範囲で、工具刃11の左刃面(定義点P(1)−P(4))、工具刃11の刃先(定義点P(5)−P(9))、工具刃11の右刃面(定義点P(10)−P(13))の部分別に求めることができる。
【0063】
切り取り厚さttを表す各領域は、工具刃11の中点P(i,i+1)における値の集合である。これにより、工具刃11のどの部位が摩耗するかを把握できるため、加工用工具10の寿命を推定することができる。
【0064】
(e:切削力及びトルクの算出処理)
次に、2次元切削モデルを用いて、各領域ΔP(i,i+1)による切削力F
H(i)の算出、トルクの算出について説明する。
【0065】
図1における切削力算出部170は、
図14にて示した2次元切削モデルを用いて、各領域ΔP(i,i+1)による切削力F
H(i)を算出する。この切削力F
H(i)は、上述した式(2)により導き出すことができる。
【0066】
ここで、
図21に示すように、一つの歯溝22の形成工程は、工具刃11の1回目の送りによる切込から始まって、最終的にn回目の送りによる切込で終了する。従来は、
図22の破線で示すように、n回目の送りのときの工具回転角σに対する切削力F
H(i)は、n−1回目の送りのときの工具回転角σに対する切削力F
H(i)を加味して算出していたため、過大な値を示していた。しかし、本実施形態では、
図22の実線で示すように、n回目の送りのときの工具回転角σに対する切削力F
H(i)のみを算出しているので、適正な値を示している。
【0067】
切削力F
H(i)は、一つの歯溝22における一つの工具刃11の切削開始から切削終了までの範囲で求められる。例えば、
図12に示す除去部分23における工具回転角σに対する切削力F
H(i)は、
図23に示すように、切削開始(工具回転角σs)から工具回転角σa、σb、σcを経て切削終了(工具回転角σe)までの範囲で、工具刃11の左刃面(定義点P(1)−P(4))、工具刃11の刃先(定義点P(5)−P(9))、工具刃11の右刃面(定義点P(10)−P(13))の部分別、及び全刃面で求めることができる。
【0068】
このように、各領域ΔP(i,i+1)による切削力F
H(i)を用いることにより、工具刃11のどの部位にどれだけの切削力F
H(i)が作用しているかを把握することができる。その結果、例えば切込量、送り速度などの加工条件の決定に利用することができる。また、工具刃11のどの部位が摩耗するかを把握できるため、加工用工具10の寿命を推定することもできる。
【0069】
続いて、
図1におけるトルク算出部180は、切削力算出部170で算出した一つの歯溝22における一つの工具刃11の切削力F
H(i)を基準として、その切削時に同時に切削される他の歯溝22における他の工具刃11の切削力F
H(i)を算出する。例えば、本例では、
図24に示すように、同時に互いに隣接する4つの工具刃11p,11q,11r,11s(1ピッチずつずれた工具刃11p,11q,11r,11s)が切削に関与するとする。
【0070】
そして、
図25に示すように、切削力算出部170が、基準となる工具刃11pの工具回転角σに対する切削力F
H(i)を算出した場合、トルク算出部180は、他の工具刃11q,11r,11sの切削力F
H(i)は、基準となる切削力F
H(i)を1ピッチずつずらすことで算出する。そして、
図26に示すように、トルク算出部180は、4つの切削力F
H(i)を工具回転角σにおいて加算することで、全切削力FA
H(i)を算出する。(
図25は、歯溝の形成工程の送り回数が少ない始めの加工で歯溝が浅く切削力の変化が
図23より少ない。)
【0071】
トルク算出部180は、各領域ΔP(i,i+1)による全切削力FA
H(i)と、各領域ΔP(i,i+1)における切込ベクトルL(i)とに基づいて、工作物20に生じるトルクTw又は加工用工具10に生じるトルクTtを算出する。
【0072】
まず、工作物20に生じるトルクTwの算出について、
図27及び
図28を参照して説明する。
図27及び
図28に示すように、工作物20に生じるトルクTwは、工作物20の中心軸線Zwに対する接線方向の全切削力と、当該全切削力が生じる加工点と中心軸線Zwとの距離とにより算出することができる。
【0073】
そこで、各領域ΔP(i,i+1)による全切削力FA
H(i)を、Xw,Yw,Zwの3方向に分割する。まず、全切削力FA
H(i)は、各軸方向に分割した場合には、式(3)のように表される。
【0075】
ここで、単位ベクトルを式(4)のように定義する。
【0077】
そうすると、全切削力の各成分ベクトルFAx
w(i),FAy
w(i),FAz
w(i)は、式(5)のように表される。また、全切削力の各成分ベクトルFAx
w(i),FAy
w(i),FAz
w(i)は、
図27及び
図28に示す。
【0079】
全切削力の各成分ベクトルFAx
w(i),FAy
w(i),FAz
w(i)を用いて、工作物20の中心軸線Zwを基準とした場合の接線力FA
Tw(i)を、式(6)に従って算出する。
【0081】
各領域ΔP(i,i+1)における接線力FA
Tw(i)と、当該領域ΔP(i,i+1)の中点Pc(i,i+1)の中心軸線Zwからの距離r
w(i)とに基づいて、式(7)に従って、工作物20に生じるトルクTwを算出できる。
【0083】
次に、加工用工具10に生じるトルクTtの算出について、
図29及び
図30を参照して説明する。
図29及び
図30に示すように、加工用工具10に生じるトルクTtは、加工用工具10の中心軸線Ztに対する接線方向の全切削力と、当該全切削力が生じる加工点と中心軸線Ztとの距離とにより算出することができる。
【0084】
そこで、各領域ΔP(i,i+1)による全切削力FA
H(i)を、Xt,Yt,Ztの3方向に分割する。まず、全切削力FA
H(i)は、各軸方向に分割した場合には、式(8)のように表される。
【0086】
全切削力の各成分ベクトルFAx
t(i),FAy
t(i),FAz
t(i)は、式(9)のように表される。また、全切削力の各成分ベクトルFAx
t(i),FAy
t(i),FAz
t(i)は、
図29及び
図30に示す。
【0088】
全切削力の各成分ベクトルFAx
t(i),FAy
t(i),FAz
t(i)を用いて、加工用工具10の中心軸線Ztを基準とした場合の接線力FA
Tt(i)を、式(10)に従って算出する。
【0090】
各領域ΔP(i,i+1)における接線力F
Tt(i)と、当該領域ΔP(i,i+1)の中点Pc(i,i+1)の中心軸線Ztからの距離r
t(i)とに基づいて、式(11)に従って、加工用工具10に生じるトルクTtを算出できる。
【0092】
これにより、例えば、工作物20を回転駆動するためのモータや、加工用工具10を回転駆動するためのモータの選定に用いることができる。また、新規にモータを選定する場合の他に、既に存在するモータを用いる場合がある。例えば既存の機械を利用する場合などが該当する。このような場合には、上記本実施形態を適用することにより、加工用工具10及び工作物20を回転駆動するモータの回転速度や、工作物20や加工用工具10をモータにより相対的に送り駆動する送り速度を適切に設定することに利用できる。
【0093】
ギヤスカイビング加工は、加工用工具10の回転軸線と工作物20の回転軸線が垂直でなく、加工用工具10と工作物20との回転を同期させながら加工することで、各工具刃11は、
図6に示すように切削開始から切削終了までの間で状態(除去状態、すくい角、切り取り厚さ、切削力など)が変化するので(
図12,13,20,23参照)、この状態を把握して、この状態を小さくしたり、大きくしたりするように工具設計することで、切削抵抗を低くしたり、工具寿命などを向上することができる。
【0094】
また、形成工程における送り回数によっても各工具刃11の状態(除去状態、すくい角、切り取り厚さ、切削力など)が変化するので、この状態を把握して、この状態を小さくしたり、大きくしたりするように工具設計することで、切削抵抗を低くしたり、工具寿命などを向上することができる。
【0095】
さらに、加工用工具10の複数の工具刃11の状態(除去状態、すくい角、切り取り厚さ、切削力など)を把握して、加工用工具10の複数の工具刃11の状態を小さくしたり、大きくしたりするように工具設計することで、加工用工具10の全体的な切削抵抗を低くしたり、工具寿命などを向上することができる。