特許第6973071号(P6973071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973071
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】中空糸膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/08 20060101AFI20211111BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20211111BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20211111BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20211111BHJP
   D01F 6/76 20060101ALI20211111BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B01D69/08
   B01D69/02
   B01D71/44
   B01D71/68
   D01F6/76 D
   C02F1/44 B
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-517388(P2017-517388)
(86)(22)【出願日】2017年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2017010298
(87)【国際公開番号】WO2017164019
(87)【国際公開日】20170928
【審査請求日】2020年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-56695(P2016-56695)
(32)【優先日】2016年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田宮 竜太
(72)【発明者】
【氏名】山田 誠之
(72)【発明者】
【氏名】上野 良之
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−051094(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/031834(WO,A1)
【文献】 特開2014−073487(JP,A)
【文献】 特開2013−076024(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/026779(WO,A1)
【文献】 特開2001−157826(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/029908(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/012024(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 69/00−69/14
B01D 63/02
B01D 71/44
B01D 71/68
D01F 6/18
D01F 6/76
A61M 1/16
C02F 1/28
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜の長手方向に垂直な断面で観察した状態において、孔面積が0.28μm以下の孔のみを有する緻密層を備える中空糸膜であって、
前記緻密層は前記中空糸膜の外表面側または内表面側に配されており、
前記中空糸膜の外径は350μm以下であり、
前記中空糸膜の内径は150μm以上であり、
前記中空糸膜の膜厚は30μm以上90μm以下であり、
前記中空糸膜の前記緻密層が配された側の表面は複数の孔を有しており、前記複数の孔の中空糸膜表面で観察した平均孔径が0.3μm以上0.9μm以下であり、
前記緻密層の厚み(DT)と前記中空糸膜の膜厚(WT)との比(DT/WT)が0.24以上0.27以下であり、
ポリスルホン系ポリマーとポリビニルピロリドンとを含む、中空糸膜。
【請求項2】
前記緻密層が前記中空糸膜の外表面側に配された、請求項1に記載の中空糸膜。
【請求項3】
前記中空糸膜の前記緻密層が配されたの表面の開孔率が15%以上45%以下である、請求項1または2に記載の中空糸膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の中空糸膜を搭載した浄水器用カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜は、逆浸透から精密濾過に至る分野において従来から広く使用されている。用途としては、腎不全患者の血液浄化器などの医療用途や、浄水器用などの水処理用途などに広く用いられている。
【0003】
中空糸膜の素材としては、ポリエチレン、ポリスルホンなどの疎水性高分子が知られており、それらの素材を用いた中空糸膜には親水化処理を施し用いることが知られている。親水化処理には、中空糸膜の製膜後に親水性高分子で被覆する方法や、中空糸膜の紡糸原液とともに、親水性高分子を含む注入液を二重環状の口金から吐出し、親水性を付与する方法などがある。このような親水化処理を施すことにより、中空糸膜の透水性を高めている。
【0004】
また、浄水器用のカートリッジに要求される特性としては、高い水圧への耐性を有すること、高い透水性を有すこと、高い物質除去特性を有すること、長いカートリッジ寿命を有することである。そのために、浄水器用の中空糸膜としては、水圧に耐える強度を持ちつつ、高い透水性能およびシャープな物質分画性能を有する中空糸膜の開発が行われてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、高い水圧に対する耐性を向上させるべく、溶融紡糸法において、100や185という高い紡糸ドラフト率で中空糸膜を紡糸する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、緻密層を設けた非対称構造を持つ中空糸膜において、紡糸ドラフト率を制御することで、膜の細孔構造を制御し、透水性を高める方法が開示されている。
【0007】
また、浄水器用のカートリッジの寿命を長くするためには、中空糸膜の面積を増やすことが有効であることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開平04−018112号公報
【特許文献2】国際公開第2010/029908号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された製造方法で得られる中空糸膜は、高い水圧に対する耐性には優れるものの、中空糸膜の断面構造が均一、すなわち、中空糸膜の断面に存在する微孔がいずれも緻密なものであるため透水性能に劣るとの課題がある。ここで、この中空糸膜の透水性能を高める手段としては、上記の微孔の孔面積を大きくすることが考えられるが、この場合、分画性能に劣る中空糸膜となるとの課題がある。
【0010】
また、特許文献2に開示された中空糸膜は、緻密層と非緻密層を有し、細孔構造が制御されることで透水性能に優れたものとなってはいるものの、高い水圧に対する耐性に劣るとの課題がある。
【0011】
また、中空糸膜を備える浄水器用カートリッジ(以下、カートリッジと言うことがある。)の製品寿命を長期化すべく、浄水器用カートリッジが備える中空糸膜の膜面積を増やす場合、カートリッジが大型化するとの課題がある。そこで、中空糸膜の膜面積を増やしつつカートリッジの大型化を抑制するためには中空糸膜を細径化することが考えられるが、この場合、この中空糸膜は高い水圧に対する耐性に劣り、透水性能にも劣ったものとなる傾向がある。なお、緻密層を有する中空糸膜を細径化すると、この中空糸膜の高い水圧に対する耐性はより一層劣ったものとなる。
【0012】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑み、高い水圧に対する耐性に優れ、かつ、透水性能にも優れる中空糸膜を提供し、さらに、中空糸膜を搭載する浄水器用カートリッジの長寿命化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は以下の(1)〜(5)を特徴とする。
(1)中空糸膜の長手方向に垂直な断面で観察した状態において、孔面積が0.28μm以下の孔のみを有する緻密層を備える中空糸膜であって、前記緻密層は前記中空糸膜の外表面側または内表面側に配されており、前記中空糸膜の外径は350μm以下であり、前記中空糸膜の内径は150μm以上であり、前記中空糸膜の膜厚は30μm以上90μm以下であり、前記中空糸膜の前記緻密層が配された側の表面は複数の孔を有しており、前記複数の孔の中空糸膜表面で観察した平均孔径が0.3μm以上0.9μm以下であり、前記緻密層の厚み(DT)と前記中空糸膜の膜厚(WT)との比(DT/WT)が0.24以上である、中空糸膜。
(2)前記緻密層が前記中空糸膜の外表面側に配された、前記(1)に記載の中空糸膜。
(3)前記中空糸膜の前記緻密層が配されたの表面の開孔率が15%以上45%以下である、前記(1)または(2)に記載の中空糸膜。
(4)ポリスルホン系ポリマーとポリビニルピロリドンとを含む、前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の中空糸膜。
(5)前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の中空糸膜を搭載した浄水器用カートリッジ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い水圧に対する耐性に優れ、かつ、透水性能にも優れる中空糸膜を提供し、さらに、中空糸膜を搭載する浄水器用カートリッジの長寿命化を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
尚、本明細書において、質量で表される全ての百分率や部は、重量で表される百分率や部と同様である。
【0016】
従来の技術では、緻密層を有する中空糸膜を細径化すると、この中空糸膜の高い水圧に対する耐性は劣ったものとなる(中空糸膜の強度の低下が起きる)とともに、十分な透水性能が得られない。そこで、本発明者らは中空糸の外径、内径および膜厚ならびに緻密層の構造が、上記の中空糸膜の強度向上および透水性に大きく影響することを見出し、中空糸膜の長手方向に垂直な断面で観察した状態において、孔面積が0.28μm以下の孔のみを有する緻密層を備える中空糸膜であって、緻密層が前記中空糸膜の外表面側または内表面側に配されており、中空糸膜の外径が350μm以下であり、中空糸膜の内径が150μm以上であり、中空糸膜の膜厚が30μm以上90μm以下であり、緻密層が配された中空糸膜の表面は複数の孔を有しており、前記複数の孔の中空糸膜表面で観察した平均孔径が0.3μm以上0.9μm以下であり、緻密層の厚み(DT)と中空糸膜の膜厚(WT)との比(DT/WT)が0.24以上である本発明の中空糸膜を創作した。
【0017】
上記のとおり、本発明の中空糸膜はその外径が、350μm以下と細いため、コンパクトな中空糸膜モジュール(以下、モジュールと言うことがある。)や浄水器用カートリッジなどに多数、搭載することができ、そのモジュールやカートリッジの製品寿命を優れたものとすることができる。
【0018】
また、カートリッジの透水性および製品寿命をより優れたものとするとの観点からは、中空糸膜の外径は小さく、内径は大きく、膜厚は薄いほうが好ましい。また、中空糸膜の強度を優れたものとするとの観点からは、中空糸膜の外径が大きく、内径は小さく、膜厚は厚いほうが好ましい。これら相反する条件を両立させるために重要なことは、緻密層の構造を制御することである。緻密層の構造は膜の強度保持および透水性に大きく影響する。以上のことから、中空糸膜の外径は350μm以下であることが重要であり、その下限は190μm以上であることが好ましく、220μm以上であることがより好ましく、260μm以上であることがさらに好ましい。一方で、その上限は、330μm以下であることが好ましく、310μm以下であることがより好ましい。また、中空糸膜の内径は150μm以上であることが重要であり、その下限は155μm以上であることが好ましく、160μm以上であることがより好ましい。一方で、その上限は、220μm以下であることが好ましく、210μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましい。
【0019】
中空糸膜の膜厚は30μm以上90μm以下であることが重要であり、その下限は40μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。一方で、その上限は80μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明の中空糸膜は緻密層を有し、この緻密層は中空糸膜の外表面側または内表面側に配されている。また、本発明の中空糸膜は、緻密層が配された中空糸膜の表面は複数の孔を有しており、複数の孔の中空糸膜表面で観察した平均孔径が0.3μm以上であるため、中空糸膜の透水性能は極めて優れたものとなる。また、一方で、上記の孔の中空糸膜表面で観察した平均孔径が0.9μm以下であるため、中空糸膜の強度を優れたものとでき、かつ細菌や微粒子などの濁質の除去性能を高めることができる。上記の観点から、複数の孔の平均孔径の下限は0.35μm以上が好ましく、0.40μm以上がより好ましい。一方で、複数の孔の平均孔径の上限は0.85μm以下が好ましく、0.80μm以下がより好ましい。ここで、緻密層とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で中空糸膜の長手方向に垂直な断面を観察したときに、孔面積が0.28μmを超える孔の存在が認められない、すなわち、孔面積が0.28μm以下の孔のみを有する層をいう。また、本発明の中空糸膜においては、膜断面にマクロボイドやフィンガーボイドが形成されていないことが好ましい。
【0021】
また、本発明の中空糸膜は、緻密層の厚み(DT)と、中空糸膜の膜厚(WT)の比(DT/WT)が0.24以上であるため、中空糸膜の強度を十分に保つことができ、中空糸膜の高い水圧への耐性のみならず、モジュール化に必要な加工性や取り扱い性も優れたものとすることができる。緻密層の厚みについては、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0022】
また、中空糸膜の緻密層は被処理水が接触する中空糸膜の表面に配置させることが好ましい。例えば、中空糸膜の外表面側から内表面側へ被処理水を透過させる場合には、中空糸膜の外表面側に緻密層を配置させることが好ましい。その理由としては、被処理水に含まれる濁質が中空糸膜の内部に入り込むことを防ぐことができるため、孔の閉塞による濾過抵抗の悪化を抑制し、膜の透水性低下を抑制することができるためである。
【0023】
また、本発明の中空糸膜は、緻密層が配された中空糸膜の表面に複数の孔を有しており、この表面における開孔率は15%以上45%以下であることが好ましい。中空糸膜の緻密層側の表面における開孔率が15%以上であると、その透水性能が優れたものとなるため好ましい。一方で、中空糸膜の緻密層側の表面における開孔率が45%以下であると、その強度と除去性能を十分に保つことができる。上記の観点から、その開孔率の下限は18%以上であることがより好ましく、21%以上であることがさらに好ましい。また、その開孔率の上限は42%以下であることがより好ましく、39%以下であることがさらに好ましい。また、中空糸膜の緻密層側の表面における開孔率を上記の範囲とする手段としては、中空糸膜の製造方法において、乾式部雰囲気を調整し、ポリマーの相分離速度を制御することや親水性高分子の含有量を調整することが挙げられる。
【0024】
また、本発明の中空糸膜には親水性高分子が含まれることが好ましい。その理由としては、膜表面に親水性を付与することで、透水性能の向上および濁質が膜へ付着することも抑制できるためである。一方で、親水性高分子の含有量が多いと、親水性高分子自体が水を保持するため、逆に透過抵抗となり透水性が低下する。そのため、親水性高分子の含有量の上限は、中空糸膜全体の質量に対して20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。一方で、その下限は、3質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。また、中空糸膜の膜表面においても、架橋した親水性高分子が多く存在した場合、透水性の低下が認められる傾向にある。したがって、緻密層が存在する中空糸膜の表面の親水性高分子と疎水性高分子との比(親水性高分子/疎水性高分子)は、0.80以下が好ましく、さらには0.70以下が好ましい。さらに、上記の観点から、緻密層が存在する中空糸膜の表面と反対側の表面の親水性高分子と疎水性高分子との比(親水性高分子/疎水性高分子)も、0.80以下が好ましく、さらには0.70以下が好ましい。
【0025】
ここで、親水性高分子とは、水溶性の高分子化合物または非水溶性であっても静電相互作用や水素結合により水分子と相互作用する高分子化合物をいう。具体的には、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイドのようなポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(以下、PVPと言うことがある。)、ポリ酢酸ビニル、ポリジメチルメトキシアクリレート、ポリジメチルアクリルアミド、ビニルピロリドンとアクリル酸とのコポリマー、酢酸ビニルとビニルピロリドンとのコポリマーなどのノニオン性親水性高分子、ポリアクリル酸、ポリビニル硫酸、カルボキシメチルセルロースなどのアニオン性親水性高分子、ポリアリルアミン、ポリリジン、キトサン、ポリ[メタクリル酸{2(ジメチルアミノ)エチル}]などのカチオン性親水性高分子を、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリメタクリロイルオキシエチルジメチルアンモニオプロピオナートなどの双イオン性親水性高分子を挙げることができる。なお、中空糸膜に含まれる親水性高分子は2種類以上であっても構わない。特に濁質の付着抑制という観点からは、ノニオン性親水性高分子、双イオン性親水性高分子が好適に用いられる。
【0026】
中空糸膜の基材を構成する素材(成分)としては、疎水性高分子が好ましく、この疎水性高分子としては、ポリスルホン(以下、PSFと言うことがある。)、ポリエーテルスルホン、ポリアリレートなどのポリスルホン系ポリマー、ポリビニリデンフルオリドなどのフッ素性樹脂、セルローストリアセテート、セルロースジアセテートなどのセルロース系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアミドなどが好適に用いられるが、なかでも、中空糸膜の強度、透水性の観点からポリスルホン系ポリマーが好適に用いられる。ポリスルホン系ポリマーからなる紡糸原液にPVPを添加することは、本発明の膜構造を制御しやすいという観点から、特に好ましい。
【0027】
中空糸膜の組成比率は質量比率(%)でポリスルホン系ポリマーが中空糸膜の全構成成分に対し5〜20%であることが好ましい。
【0028】
また、中空糸膜は、ポリスルホン系ポリマーの他にもポリビニルピロリドンを含むことが好ましい。また、ポリビニルピロリドンは種々の分子量のものを用いることが可能であるが、K90(商品名、ISP社製、重量平均分子量130万),K60(商品名、東京化成工業株式会社製、重量平均分子量16万),K30(商品名、BASF社製、重量平均分子量4万),K17(商品名、ISP社製、重量平均分子量1万)など市販されているものを使うと簡便である。これらの混合や、上記以外の分子量領域のものを重合して用いてもよい。
【0029】
また、中空糸膜の製造過程においては、ポリスルホン系ポリマーやPVPなどの中空糸膜の構成成分を溶媒に溶かして紡糸原液とする。ここで、溶媒としてはジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略す。)やN−メチルピロリドンのような高沸点極性溶媒が好ましいが、均一に溶解させることができればその他の組み合わせでも使用可能である。
【0030】
本発明の中空糸膜の透水性としては、30ml/Pa/hr/m以上であることが好ましく、さらには35ml/Pa/hr/m以上であることがより好ましく、40ml/Pa/hr/m以上であることがさらに好ましい。また、中空糸膜の透水性の上限については特に限定はしないが、透水性が高すぎると、分画性能が低下するおそれがあることから、中空糸膜の透水性の上限は120ml/Pa/hr/m以下であることが好ましく、さらには110ml/Pa/hr/m以下であることが好ましく、100ml/Pa/hr/m以下であることがより好ましい。
【0031】
中空糸膜の分画性能としては、粒子径0.2μmのラテックスビーズ粒子の除去率が80%以上であることが好ましく、さらには90%以上であることが好ましい。
【0032】
本発明の中空糸膜は、紡糸原液の組成および注入液組成、口金から紡糸原液を吐出させる際の吐出線速度と注入液吐出線速度、吐出後の乾式部の冷風の露点・温度、冷風速度、紡糸原液吐出時のドラフト比、凝固浴温度、水洗条件などを制御することにより得られる。
【0033】
続いて、本発明の中空糸膜の製造方法について説明する。本発明の中空糸膜は、特に限定しないが、オリフィス型二重環口金を用いて、中空糸膜の材料となる高分子を含む紡糸原液を外側の環状スリットから、注入液体を内側の中心パイプから、それぞれ吐出し、乾式部を通過させた後に凝固溶液中で凝固させて、さらに温水洗浄をすることで非対称構造の中空糸膜を製膜することができる。
【0034】
本発明の中空糸膜を製造する際の紡糸ドラフト率は2以上6以下であることが好ましい。ここで、紡糸ドラフト率とは、二重環口金の外周スリット部からの製膜組成物の吐出線速度と、中空糸膜の巻き取り速度との比であり、巻き取り速度を製膜組成物の吐出線速度で割った値を示す。なお吐出線速度とは、二重環口金の外周スリットから製膜組成物が吐出されるときの線速度で、吐出流量を外周スリット断面積で割った値である。
【0035】
紡糸ドラフト率を2以上とすることで、中空糸膜の透水性能が向上する。一方で、紡糸ドラフト率を6以下とすることで、紡糸安定性が向上し、糸切れ頻度を低減することができる。特に、中空糸膜の糸径(外径)が細い場合に、紡糸ドラフト率が高くなると、注入液体が非凝固性を有するときには、中空糸膜の外表面が紡糸ドラフトの影響を受け、外表面の平滑性が失われ、プリーツ構造が形成され、緻密層の厚みが薄くなる傾向がある。緻密層の厚みが薄くなると、中空糸膜の分画性能が低下し、かつ中空糸膜の高い水圧に対する耐性(以下、耐圧性と言うことがある。)が低下し、場合によっては糸切れを起こす懸念がある。
【0036】
中空糸膜の紡糸にオリフィス型二重環口金などの二重環口金を用いる場合、紡糸原液の粘度は、2Pa・s以上11Pa・s以下であることが好ましい。紡糸原液の粘度を2Pa・s以上とすることで中空糸膜の曳糸性が向上する。一方で、紡糸原液の粘度を11Pa・s以下とすることで二重環口金における圧力を抑制することができ、安定した紡糸原液の吐出状態を維持することができる。また、緻密層の厚みを制御する観点においても、紡糸原液の粘度が低すぎると、ポリマーの相分離速度が速まり、緻密層の厚みが薄くなりすぎることからも、紡糸原液の粘度は2Pa・s以上が好ましい。
【0037】
一方、二重環口金の中心パイプに注入される液体は、所望する中空糸膜の形態に合わせて、凝固性であるもの、もしくは非凝固性であるものを適宜選択することができる。注入液体の凝固性の指標として、凝固価がある。この凝固価とは、膜を構成する主ポリマー1質量%溶液50gに対し、注入液を少量ずつ添加し、系内が白濁した時点の、注入液体の添加質量を表す。この凝固価の値が小さい程、注入液体の凝固性が高いことを示す。過去の経験則から、凝固価が40g以上(元の液量の8割以上)であれば、緻密層が形成される膜表面に、凝集ポリマーの粒子構造が見られなくなることから、非凝固性を有すると判断している。
【0038】
かかる注入液体に凝固性の液体を用いる場合、内表面から凝固が始まるため、中空糸膜の内表面側に緻密層が形成されることになる。一方、非凝固性の液体を用いる場合には、下流側に設けられる凝固浴によって外表面から凝固が始まるため、中空糸膜の外表面側に緻密層が形成される。そのため、中空糸膜の外表面側から内表面側に濾過する流れで用いられる浄水器用途の場合には、非凝固性の液体が特に好適に用いられる。
【0039】
特に、紡糸原液と注入液体の吐出線速度の絶対値および、両者の相対値が緻密層の構造形成に大きく影響を及ぼす。吐出線速度によりポリマーの配向性が決定されるためと推測される。
【0040】
紡糸原液の吐出線速度の絶対値が高すぎると、得られる中空糸膜の透水性能が低くなり、吐出線速度の絶対値が低すぎると、得られる中空糸膜の外表面の平滑性が失われ、プリーツ構造が形成され、緻密層の厚みが薄くなる傾向がある。いずれも中空糸膜の分画性能が低下し、かつ中空糸膜の高い水圧に対する耐性が低下し、場合によっては糸切れを引き起こすため好ましくない。そのため、紡糸原液の吐出線速度の絶対値としては、0.05m/s以上であることが好ましく、0.1m/s以上であることがより好ましい。一方で、0.3m/s以下であることが好ましく、0.25m/s以下であることがより好ましい。
【0041】
注入液体の吐出線速度の絶対値が高すぎると、二重環口金の中心パイプの圧力損失が高くなり、得られる中空糸膜の外径ばらつきが大きくなる。また、吐出線速度の絶対値が低すぎると、得られる中空糸膜の内表面にプリーツ構造が形成され、中空糸膜の高い水圧に対する耐性が低下し、場合によっては糸切れを引き起こすため好ましくない。そのため、注入液体の吐出線速度の絶対値としては、0.05m/s以上であることが好ましく、0.1m/s以上であることがより好ましい。一方で、0.5m/s以下であることが好ましく、0.3m/s以下であることがより好ましい。
【0042】
紡糸原液と注入液体の吐出線速度の相対値が高すぎると、得られる中空糸膜の外表面にプリーツ構造が形成され、緻密層の厚みが薄くなる傾向がある。緻密層の厚みが薄くなると、中空糸膜の分画性能が低下し、かつ中空糸膜の高い水圧に対する耐性が低下し、場合によっては糸切れを引き起こすため好ましくない。また、紡糸原液と注入液体の吐出線速度の相対値が小さすぎると、得られる中空糸膜の透水性能が低くなるため好ましくない。ここで紡糸原液と注入液体の吐出線速度の相対値とは、注入液体の吐出線速度を紡糸原液の吐出線速度で割った値のことである。そのため、紡糸原液と注入液体の吐出線速度の相対値としては、0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。一方で、2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。
【0043】
中空糸膜の糸径を細くしていくと、外径ばらつきは大きくなりやすく、中空糸膜構造が乱れ、耐圧性、透水性能、分画性能といった品質に問題が生じる。そのため、中空糸膜の外径ばらつきとしては、15%以下が好ましく、さらには10%以下が好ましい。外径ばらつきは、実施例に記載の方法で評価した。中空糸膜の外径ばらつきを上記の範囲とする手段としては、二重環口金の環状スリットの寸法または、二重環口金の中心パイプの圧力損失を制御することが挙げられる。
【0044】
中空糸膜の紡糸工程で、熱で中空糸膜の相分離を誘起する場合には、乾式部で冷却した後に凝固浴で急冷して固化させる。中空糸膜の紡糸工程で、貧溶媒で中空糸膜の相分離を誘起する場合には、紡糸原液に貧溶媒を含有する凝固液と接触させて吐出し、貧溶媒からなる凝固浴で固化させる。また、貧溶媒で中空糸膜の相分離を誘起する方法では、貧溶媒は拡散によって中空糸膜の内部に供給されるため、中空糸膜の膜厚方向で貧溶媒の供給量が変化する。よって、中空糸膜の膜厚方向断面の孔径が中空糸膜の一方の表面から他方の表面に向けて大きくなる構造となる。そのため、貧溶媒を含有する凝固液と紡糸原液とを吐出直後に接触させることが好ましい。凝固液を貧溶媒と良溶媒の混合液として濃度を調整すれば、凝固性が変わり、凝固液と接触する側の表面の孔の短径と緻密層の厚みを制御できる。
【0045】
また、上記の凝固液と紡糸原液が接触した側は相分離が誘起されて固化の進行が速く、孔径の小さい緻密な構造となる。また、凝固液と紡糸原液が接触した側の反対方向に向けて孔径は連続的に大きくなる。ここで、乾式部の通過時間が充分に長いと、凝固液と接触しない側の孔径が大きく成長してしまう。そこで、乾式部の通過時間を短くして凝固浴に速やかに浸漬することで、凝固浴の貧溶媒との接触によって、凝固液と接触しない側の固化が進行して孔径の小さい緻密な構造を形成できる。
【0046】
紡糸原液の組成や温度などの相分離の進行に影響する条件にもよるが、乾式部の通過時間は0.02秒以上が好ましく、0.14秒以上がより好ましい。一方で、0.40秒以下が好ましく、0.35秒以下がより好ましい。
【0047】
凝固浴での貧溶媒濃度は凝固液全体に対し30質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、80質量部以上がさらに好ましい。
【0048】
凝固浴の温度は、凝固浴の温度が高いことで凝固浴中での溶媒交換が起こりやすく、中空糸膜の残存溶媒量を低減できることから、凝固浴温度は50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましい。
【0049】
凝固浴の温度が高い場合、口金面に結露が形成され、それにより糸切れが発生する懸念が考えられる。そのため、口金面の結露が防止できることから、紡糸原液の吐出温度は、25℃以上が好ましい。また、紡糸原液の吐出温度が高すぎると、紡糸性が不安定になりやすいことから、紡糸原液の吐出温度は、70℃以下が好ましく、55℃以下がより好ましい。
【0050】
凝固浴濃度は、紡糸原液や凝固液からの溶媒の供給によって経時的に変化する。そのため、凝固浴の液量を増やして濃度変化を抑制することや、濃度をモニタリングして随時、濃度調整を行うことが好ましい。
【0051】
また、乾式部では、温度と湿度をより積極的に調湿した走行区間を設けることも中空糸膜の開孔の制御に対して有効であり、得られる中空糸膜の性能のばらつきを少なくできることから好ましい。
【0052】
さらに、乾式部において、特に限定はされないが、乾式部雰囲気をより積極的に調湿するために、二重環口金から吐出された紡糸原液の両側に冷風筒を設けることや二重環口金から吐出された紡糸原液の周囲を環状型冷風筒で囲むことなどが考えられる。二重環口金から吐出された紡糸原液の両側に冷風筒を設ける場合には、冷風筒の片側から冷風を給気し、もう片側から冷風を排気する方法や、両側から冷風を給気する方法が、乾式部雰囲気をより積極的に調湿できることから好ましい。また、二重環口金から吐出された紡糸原液の周囲を環状型冷風筒で囲む場合についても、乾式部が外気の影響を受けにくくなり、得られる中空糸膜の性能ばらつきを低減できることから好ましい。
【0053】
乾式部では、冷風の露点および風速が大きいほど、貧溶媒である水分の供給量が増えるため、外表面の孔の孔径を大きくし、開孔率を高くしたい場合に有効である。乾式部の露点は、18℃以上が好ましく、21℃以上がより好ましい。また、乾式部における冷風の風速は、0.1m/s以上が好ましく、0.5m/s以上がより好ましい。一方で、冷風の風速を低くすることで吐出下での紡糸原液の表面の乱れや吐出下での揺れを抑制できるため、乾式部の風速は10m/s以下が好ましく、5m/s以下がより好ましい。
【0054】
また、乾式部の長さは、中空糸膜の表面の孔径を好適なものにする一方で、製膜中の糸揺れを防ぐために、10〜200mmが好ましい。
【0055】
貧溶媒とは、製膜温度において、主として中空糸膜の構造体となる高分子を溶解しない溶媒である。
【0056】
貧溶媒は、高分子の種類に応じて適宜選択すればよいが、水が好適に用いられる。良溶媒は、高分子の種類に応じて適宜選択すればよいが、中空糸膜の構造体となる高分子がポリスルホン系高分子の場合、N,N−ジメチルアセトアミドが好適に用いられる。
【0057】
上記の製造方法によれば、中空糸膜は湿潤状態で得られるが、このままでは中空糸膜の透水性が不安定であることから、水分の乾燥と親水性高分子(PVPなど)の架橋反応が必要となる。前述の通り、親水性高分子(PVPなど)を含有すると中空糸膜中に親水性を付与でき、透水性能の向上および濁質が膜へ付着することも抑制できる。しかし、膜中に残存する親水性高分子がわずかに溶出することがある。これはメディカル用途、食品工業用途においては望ましくない。不溶化のための架橋反応としては、ビニル系の親水性高分子ではγ線照射が有効である。また、特に親水性高分子がポリビニルピロリドンの場合には、加熱することでも架橋をさせることができる。乾燥温度としては、水を蒸発させることから100℃以上が好ましい。架橋するための熱処理温度は、170℃では5時間程度、180℃では2.5時間程度、190℃でも1.5時間程度とすることが好ましい。さらに温度を上げるとそれだけ処理時間は短縮される。150℃以下においては、処理時間が長すぎ、実用的ではない。
【0058】
中空糸膜の乾燥を行う際に、中空糸膜中の親水性高分子が多く含まれている状態で乾燥を行うと、中空糸膜の表面に親水性高分子が偏在し、それにより中空糸膜の透水性能やモジュール化したときの濾過流量が低下することから前処理として、得られた中空糸膜を温水で洗浄することが好ましい。温水の温度としては、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。また99℃以下であることが好ましい。温水洗浄後の親水性高分子の質量は、膜全体の質量に対して、3質量部以上20質量部以下であることが好ましく、さらには5質量部以上10質量部以下が好ましい。
【0059】
本発明の中空糸膜は浄水器用カートリッジに好適に用いることができるのは上記の通りである。また、中空糸膜を搭載する浄水器用カートリッジの製造方法は従来から用いられている方法を採用することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0061】
(分析方法および評価方法)
(1)粘度測定:
JIS K7117(1999年)に示されるB型粘度計を用いて測定し、n=3の平均値を測定値とした。
【0062】
(2)透水性能の測定
両端に還流液用の孔を備えたケースに中空糸膜を挿入し、両端をコニシ株式会社製エポキシ樹脂系接着剤“クイックメンダー”(登録商標)でポッティングし、ケース両端部からはみ出た中空糸膜およびポッティング剤をカットすることで有効長12cmの小型モジュールを作製した。恒温水槽で37℃に保って中空糸膜の内側に水圧をかけて中空糸膜を透過して中空糸膜の外側へ一定時間内に通過する水の量、有効膜面積および膜間圧力差から算出する方法で透水性能を測定した。すなわち、中空糸膜の透水性能(UFRS)は下記の式で算出した。
UFRS(mL/hr/Pa/m)=Qw/T/P/A
Qw:(通過)濾過量(mL)
T:流出時間(hr)
P:圧力(Pa)
A:中空糸膜の膜面積(m
【0063】
(3)中空糸膜の表面の開孔率および中空糸膜の有する孔の孔径の測定
SEM(S−5500、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)にて中空糸膜外表面の5000倍画像を撮影し、コンピュータに取り込んだ。次に画像処理ソフトにて解析処理を行った。SEM画像を二値化処理し、孔部分を黒、構造高分子部分を白く反転させた画像を得た。孔の総面積Sを読み取り、次式で画像1枚あたりの開孔率(%)を算出した。
開孔率(%)=S(μm)/画像サイズ(μm)×100
また、平均孔径についても、同様に画像処理ソフトにて解析処理を行った。SEM像を二値化処理し、孔が黒、構造高分子部分が白となった画像を得た。孔の総面積S(μm)および黒い孔の個数(以下、総開孔数)を読み取り、次式で平均孔面積(μm)を算出した。さらに平均孔面積(μm)から平均孔径(μm)を算出した。また、今回の計算は、孔形状が真円であるとみなして行った。
平均孔面積(μm)=S(μm)/総開孔数
平均孔径(μm)=2×√(平均孔面積/π)
上記操作を異なる中空糸膜5本について行い、その算術平均を結果とした。
【0064】
(4)緻密層の厚み(DT)の測定
中空糸膜を水に5分間浸けて濡らした後に液体窒素で凍結して速やかに折り、断面の観察試料とした中空糸膜の長手方向に垂直な断面をSEM(S−5500、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)にて3000倍で観察し、構造体部分が密になっている方の表面側を画像の左側、構造体部分が粗くなっている方の表面側が画像の右側に配するように画像をコンピュータに取り込んだ。なお、以下の説明では便宜的に、外表面側で構造体部分が密になっており、内表面側で構造体部分が粗くなっている中空糸膜を例として説明をしている。内表面側で構造体部分が密になっており、外表面側で構造体部分が粗くなっている中空糸の場合は、以下の説明の外表面を内表面と、内表面を外表面と読み替えればよい。
取り込んだ画像のサイズは640ピクセル×480ピクセルだった。SEMで観察して、断面における中空糸膜の中空部分が閉塞している場合は試料作製をやりなおした。中空部分の閉塞は、切断処理時に応力方向に中空糸膜が変形しておこる場合がある。また、測定倍率の観察視野で緻密層がおさまらない場合は、緻密層がおさまるように2枚以上のSEM像を合成した。二値化処理により、孔部分を黒、構造体部分を白とした画像を得た。画像内のコントラストの差によって、構造体部分とそれ以外の部分を分けられない場合、コントラストが同じ部分で画像を切り分けてそれぞれ二値化処理をした後に、元のとおりに繋ぎ合わせて一枚の画像に戻した。または、構造体部分以外を黒で塗りつぶして画像解析をしてもよい。孔が深さ方向に二重に観察された場合は、浅い方の孔で測定した。なお、孔面積は、上記の画像の二値化処理により黒で表示される部分、すなわち孔部分の単体の面積を画像処理ソフトにより解析することで得た。
画像内で既知の長さを示しているスケールバーのピクセル数を計測し、1ピクセル数あたりの長さ(μm)を算出した。取り込んだ画像のサイズは横42.38μm×縦31.79μmであった。
【0065】
画像処理により、孔面積が0.28μmを超える孔を蛍光色に塗りつぶし、孔面積が0.28μmを超える孔がない層を緻密層として、中空糸膜の外表面から内表面の方向に緻密層の厚みを測定した。ただし、中空糸膜の製膜方法の影響で、緻密層表面近傍に孔面積が0.28μmを超える孔が確認される場合がある。また、画像の焦点が合っていない影響などによっても、緻密層表面近傍において孔面積が0.28μm以下の複数の孔が1個の孔として認識され、孔面積が0.28μmを超える孔として蛍光色に塗りつぶされてしまう場合がある。このようなことがあると、正確な緻密層厚みを測定できなくなる。そのため、中空糸膜の外表面から膜厚に対して10%以内(膜厚60μmの場合は6μm)の位置に孔面積が0.28μmを超える孔が存在した場合は、ノイズとして無視することとした。
具体的には以下のようにして緻密層の厚みを測定した。まず、中空糸膜の厚み方向、すなわち、中空糸膜の外表面から内表面の方向に、外表面に垂直な直線を引いた。この直線上に存在する孔の中から、外表面に最も近い孔面積が0.28μmを超える孔を探した。この孔と前記直線との交点のうちの外表面に近い側の交点を選び、この交点と外表面との距離を緻密層の厚みとした。
【0066】
取り込んだ画像(横42.38μm×縦31.79μm)について、上記の画像を縦方向に三分割し、横42.38μm×縦10.6μmの視野の画像を3つ得た。次に、各視野の縦の中間点における緻密層の厚みを上述のとおり、測定した。
三分割した各視野の画像からそれぞれ緻密層の厚みを求め、同様の測定を20枚の取り込んだ画像から行い、計60個の緻密層の厚みの測定データを得た。60個の測定データの平均値を算出し、孔面積が0.28μm以下の孔のみを有する緻密層の厚み(DT)と定義した。
【0067】
(5)中空糸膜の表面における親水性高分子/疎水性高分子
親水性高分子および疎水性高分子を含む中空糸膜の測定サンプルを試料ホルダにセットし、試料ホルダをプレートに設置し、つまみを回して、プリズムと中空糸膜の測定対象となる表面(外表面または内表面)とを密着させた。次に、赤外ATR測定装置(日本分光株式会社製、赤外分光光度計:FT/IR−6000、赤外顕微鏡:IRT−3000)を用いて中空糸膜の測定対象となる表面を分析し、この表面に含まれる親水性高分子と疎水性高分子との比(親水性高分子/疎水性高分子)を得た。以下に、親水性高分子としてPVP、疎水性高分子としてPSFを用いた場合を例示し、本測定方法を具体的に説明する。
赤外ATR測定装置による分析によって得られた赤外吸収スペクトルから、1580cm−1付近のPSFのベンゼン環C=C由来の吸収ピークの面積(Acc)と、1650cm−1付近のPVPのアミド結合由来の吸収ピークの面積(Aco)とを計算し、そのピーク面積の比(Aco)/(Acc)を求めた。中空糸膜30本について、同様の方法でピーク面積比を求め、計30の測定データの平均値を算出し、中空糸膜の測定対象となる表面のPVPとPSFの比(PVP/PSF)とした。
【0068】
(6)0.2μm粒子除去率の測定
上記(2)と同様にして小型モジュールを作製した。中空糸膜外側から200ppmの濃度のポリスチレン製ラテックスビーズ懸濁液(invitrogen社製、Sulfate latex)を供給し、中空糸膜を通して内側に透過してきた懸濁液の濃度を測定した。供給側濃度200ppmと透過側濃度の値を用いて阻止率を下記式により求めた。ラテックスビーズの粒子径は0.2μm(実測値0.203μm)のものを使用した。
阻止率=1−Cp/Cf
Cp:透過側濃度
Cf:供給側濃度
260nmの吸光度とラテックスビーズ濃度の関係をあらかじめ測定しておき、透過側の懸濁液の吸光度を測定することで濃度を求めた。吸光度の測定は分光光度計(株式会社日立製作所製、U−5100)を用いて求めた。
【0069】
(7)中空糸膜の内径および膜厚の測定
中空糸膜を膜厚方向に片刃で切断し、マイクロウォッチャー(KEYENCE社製、VH−Z100)にセットした。切断により中空糸断面が潰れてしまった場合には、略真円になるまで切断をやり直した。中空糸膜断面を1000倍レンズで観察し、断面を投影させたモニター画面上で中空糸膜の膜厚幅を範囲指定し、モニター画面上に表示された数値を読み取った。また、中空糸膜内径は中空部幅を範囲指定することで、モニター画面上に数値が表示される。中空糸膜30本について同じ測定を行い、計30の測定データの平均値を算出し、中空糸膜の内径(ID)および膜厚(WT)とした。
【0070】
(8)緻密層の厚み(DT)と膜厚(WT)との比(DT/WT)
上記(4)で算出した緻密層の厚み(DT)と上記(7)で算出した中空糸膜の膜厚(WT)より、緻密層の厚み(DT)と中空糸膜の膜厚(WT)との比(DT/WT)を算出した。
【0071】
(9)中空糸膜の外径および外径ばらつきの測定
長手方向に30cmに切断した中空糸膜を外径測定器(KEYENCE社製、コントローラ部:LS−5500、センサヘッド部:LS−5040)にセットし、両端部から10cmの位置の中空糸膜の外径をそれぞれ測定した。
中空糸膜20本について同じ測定を行い、計40の測定データの平均値を算出し、中空糸膜の外径(OD)を求めた。さらに計40の測定データの中で最も外径の大きい値(MAX)および、最も外径の小さい値(MIN)を選択し、外径ばらつき(ROD)を下式により算出した。
ROD(%)=(MAX−MIN)/OD×100
【0072】
(10)耐圧性能
アクリルパイプに中空糸膜を挿入し、両端をコニシ株式会社製エポキシ樹脂系接着剤“クイックメンダー”(登録商標)でポッティングし、ケース両端部からはみ出た中空糸膜およびポッティング剤をカットすることで小型モジュールを作製した。
水槽内で小型モジュールを、空気ボンベ、圧力調節計、圧力測定計、ダイヤルゲージおよび開閉コックが連結した回路に継手を用いて接続した。
ダイヤルゲージを徐々に開き、小型モジュール内の中空糸膜に亀裂が入り、圧力が急激に低下した時の圧力値を耐圧性能とした。途中で空気漏れした場合は、最初からやり直した。
【0073】
(11)中空糸膜モジュール濾過流量
中空糸膜モジュールの非開口側に原水供給可能となるようにチューブを接続し、20℃の水を0.1MPaで供給し、中空糸膜を透過して流出してくる単位時間あたりの水の量を測定し、単位時間あたりの中空糸膜モジュール濾過流量(L/min)を算出した。
【0074】
(12)浄水器カートリッジ濁り濾過能力
作製した中空糸膜モジュール上流側に活性炭を配し、カートリッジ化した後、JIS S 3201:2004(家庭用浄水器試験方法)に示される方法に沿って実施した。初期流量は2.0L/minと設定した。
【0075】
(実施例1)
疎水性高分子(PSF(ソルベイ社製ユーデルポリスルホン(登録商標)P−3500))15質量部と親水性高分子(PVP(ISP社製K90))7質量部とN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)75質量部と水3.0質量部を溶解攪拌し、紡糸原液を調製した。この紡糸原液の37℃における粘度は5.0Pa・sであった。この紡糸原液を二重環口金の環状スリットから吐出した。注入液体としてDMAc55質量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30、重量平均分子量4万)30質量部およびグリセリン15質量部からなる非凝固性液体を中心パイプより吐出した。口金は37℃に保温した。注入液体と紡糸原液の吐出線速度の相対比は、注入液吐出線速度/紡糸原液吐出線速度=0.8であった。
【0076】
乾式部に冷風筒を設置し、紡糸原液の両側から冷風気体を流しながら所定の乾式長を通過させた。紡糸中の乾式部露点は表1に示す通りであった。乾式部を通過した紡糸原液を90部の水及び10部のDMAcからなる混合溶液を入れた80℃の凝固浴に浸漬して凝固させ、さらに80℃の温浴で温水洗浄してからかせ枠に巻き取り、湿潤状態の中空糸膜を得た。巻き取られた中空糸膜は、外径300μm、内径180μm、膜厚60μmであった。得られた中空糸膜を長手方向に30cmに切断し、90℃で3時間熱水洗浄した。乾熱乾燥器内において中空糸膜を乾燥し、160℃以上で熱処理することで乾燥状態の中空糸膜を得た。
【0077】
乾燥状態の上記中空糸膜1994本をU字状に折り、筒状ケース(内径26mm、長さ45mm)内に挿入し、ポリウレタン樹脂で開口部を固定し、中空糸膜モジュールとした。
【0078】
得られた中空糸膜の構成や各種性能、中空糸膜モジュール濾過流量、浄水器カートリッジ濁り濾過能力等について表1および2に示す。
【0079】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、湿潤状態の中空糸膜を得た。得られた中空糸膜を長手方向に30cmに切断し、乾熱乾燥器内において中空糸膜を乾燥し、160℃以上で熱処理することで乾燥状態の中空糸膜を得た。
【0080】
乾燥状態の上記中空糸膜1994本をU字状に折り、筒状ケース(内径26mm、長さ45mm)内に挿入し、ポリウレタン樹脂で開口部を固定し、中空糸膜モジュールとした。
【0081】
得られた中空糸膜の構成や各種性能、中空糸膜モジュール濾過流量、浄水器カートリッジ濁り濾過能力等について表1および2に示す。
【0082】
(実施例3)
実施例1と同様の方法により、湿潤状態の中空糸膜を得た。得られた中空糸膜を長手方向に30cmに切断し、90℃で3時間熱水洗浄した。ガンマ線照射(25kGy)により中空糸膜中の親水性高分子を架橋させた。
【0083】
ガンマ線照射後の上記中空糸膜1994本をU字状に折り、筒状ケース(内径26mm、長さ45mm)内に挿入し、ポリウレタン樹脂で開口部を固定し、中空糸膜モジュールとした。
【0084】
得られた中空糸膜の構成や各種性能、中空糸膜モジュール濾過流量、浄水器カートリッジ濁り濾過能力等について表1および2に示す。
【0085】
(比較例1)
二重環口金の環状スリットから紡糸原液を吐出線速度0.003m/sで、注入液パイプから注入液体を吐出線速度0.04m/sで吐出したこと以外は、実施例1と同様の方法により、乾燥状態の中空糸膜を得た。中空糸膜の糸径は、外径300μm、内径180μm、膜厚60μmであった。紡糸原液と注入液体の吐出線速度の相対比は、注入液吐出線速度/紡糸原液吐出線速度=13.3であった。
【0086】
乾燥状態の上記中空糸膜1994本をU字状に折り、筒状ケース(内径26mm、長さ45mm)内に挿入し、ポリウレタン樹脂で開口部を固定し、中空糸膜モジュールとした。
【0087】
得られた中空糸膜の構成や各種性能、中空糸膜モジュール濾過流量、浄水器カートリッジ濁り濾過能力等について表1および2に示す。中空糸膜の外表面について、SEM(S−5500、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で観察したところ、外表面の膜構造が長手方向に引き伸ばされ、プリーツ構造が形成されていた。そのため、中空糸膜における緻密層厚みが小さくなり、耐圧性の低い中空糸膜となった。
【0088】
(比較例2)
紡糸原液の粘度を1.5Pa・sとして二重環口金の環状スリットから吐出したこと以外は、実施例1と同様の操作により、中空糸膜をかせ枠に巻き取ろうとしたが、二重環口金から凝固浴間での糸切れが繰り返し発生し、困難となった。中空糸膜の評価結果などを表1および2に示す。一部採取できた中空糸膜は、緻密層厚みが薄く、RODが27%と非常に大きかった。RODが大きいため、中空糸膜の性能が不安定なものとなり、中空糸膜の品位が悪化した。なお、比較例2の中空糸膜の品位は劣悪であり、この中空糸膜を束としU字化することはできなかった。よって、モジュール濾過流量を評価するため中空糸膜モジュールを作製することが出来ず、比較例2の中空糸膜においては、中空糸膜モジュール濾過流量および浄水器カートリッジ濁り濾過能力の評価を行うことが出来なかった。
【0089】
(比較例3)
二重環口金の環状スリットから紡糸原液を吐出線速度0.28m/sで、注入液パイプから注入液体を吐出線速度0.22m/sで吐出したこと以外は、実施例1と同様の方法により、乾燥状態の中空糸膜を得た。中空糸膜の糸径は、外径360μm、内径220μm、膜厚70μmであった。紡糸原液と注入液体の吐出線速度の相対比は、注入液吐出線速度/紡糸原液吐出線速度=0.79であった。
【0090】
乾燥状態の上記中空糸膜1384本をU字状に折り、筒状ケース(内径26mm、長さ45mm)内に挿入し、ポリウレタン樹脂で開口部を固定し、中空糸膜モジュールとした。
【0091】
得られた中空糸膜の構成や各種性能、中空糸膜モジュール濾過流量、浄水器カートリッジ濁り濾過能力等について表1および2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2016年3月22日出願の日本特許出願(特願2016−056695)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、水処理分野において、中空糸膜モジュール、もしくは浄水器用カートリッジに適用可能な中空糸膜として用いることができる。また、浄水器以外にも血漿分離膜などの医療用途にも用いることができる。