特許第6973073号(P6973073)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973073
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】癌の治療及び/又は予防用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20211111BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20211111BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20211111BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20211111BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211111BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20211111BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20211111BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20211111BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20211111BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20211111BHJP
   A61K 47/56 20170101ALI20211111BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20211111BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20211111BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20211111BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20211111BHJP
【FI】
   A61K31/7105ZNA
   A61K31/711
   A61K31/713
   A61K45/00
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61K9/08
   A61K9/107
   A61K9/127
   A61K9/14
   A61K47/56
   A61K47/30
   A61K47/24
   A61K47/46
   !C12N15/113 110Z
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-524484(P2017-524484)
(86)(22)【出願日】2016年11月2日
(86)【国際出願番号】JP2016082670
(87)【国際公開番号】WO2017078099
(87)【国際公開日】20170511
【審査請求日】2019年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-218358(P2015-218358)
(32)【優先日】2015年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮野 敦子
(72)【発明者】
【氏名】須藤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】高山 愛子
(72)【発明者】
【氏名】荒井 大河
【審査官】 星 功介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−511686(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/133522(WO,A1)
【文献】 医学のあゆみ,2004, Vol.208, No.8,pp.653-658
【文献】 MOTOHIRO KOJIMA, et al.,MicroRNA markers for the diagnosis of pancreatic and biliary-tract cancers,PLoS One,2015年02月23日,10(2),1-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
C12N 15/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1又は2で表される塩基配列の3’末端側に下記の(a)又は(b)の塩基配列:
(a)配列番号3〜6、16のいずれかで表される塩基配列
(b)配列番号3〜6、16のいずれかで表される塩基配列において、1もしくは2個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列
を含むポリヌクレオチド、或いは当該ポリヌクレオチドの塩基配列の全部又は一部の配列中のウラシル(U)がチミン(T)に置き換わったDNA配列を含むポリヌクレオチド、を有効成分として含む、癌の治療及び/又は予防用医薬組成物。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドが配列番号7〜10、12、13のいずれかで表される塩基配列を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドが一本鎖又は二本鎖である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドがRNAである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記癌が固形癌である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記固形癌が、乳癌、腎癌、膵臓癌、大腸癌、肺癌、脳腫瘍、胃癌、子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌、食道癌、肝癌、線維肉腫、肥満細胞腫及びメラノーマからなる群から選択される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記癌が血液癌である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記血液癌が白血病である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記ポリヌクレオチドが、DNAの形態でベクターに発現可能に挿入されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ポリヌクレオチドが、非カチオン性ポリマー担体、リポソーム担体、樹枝状担体、ナノ材料担体、ミクロ粒子担体、生体構造担体、ミセル担体、高分子微粒子及び磁気微粒子からなる群から選択される担体中に内包されている、あるいは、該担体に結合されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬組成物、並びに抗腫瘍剤を有効成分として含む、癌の治療及び/又は予防のための組み合わせ医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロRNA由来のポリヌクレオチドを有効成分とする、癌の治療及び/又は予防用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロRNA(miRNA)は16〜28塩基のタンパク質非翻訳RNAであり、miRBase release 21(http://www.mirbase.org/)によるとヒトには現在2590種類存在することが知られている。近年、miRNAは生体内でさまざまな遺伝子の発現抑制を行う分子として注目されている。ゲノム上には各miRNA遺伝子の領域が存在し、RNAポリメラーゼIIによりヘアピン構造のRNA前駆体として転写され、核内でDrosha、細胞質内でDicerと呼ばれる2種類のRNaseIII切断活性を有するdsRNA切断酵素により切断され、成熟miRNAが形成される。この成熟miRNAはRISCと称するタンパク質複合体に取り込まれ、相補的配列をもつ複数のターゲット遺伝子のmRNAと相互作用し、遺伝子の発現を抑制することが知られている(非特許文献1)。
【0003】
ある種のmiRNAは、癌を含めたヒト疾患との関連が示唆されており、特に癌では、例えばhsa−miR−6893−5p、hsa−miR−4476、hsa−miR−575など多くのmiRNAが血液中の膵臓癌特異的マーカーとなることが知られている(非特許文献1)。
【0004】
また、癌細胞の増殖に関与するmiRNAだけでなく、癌細胞を抑制する方向に働くmiRNAの存在が報告されており、miRNAの発現パターンを利用した癌の治療法が示唆されている。具体例として、hsa−Let−7aなど153個のmiRNAを含む活性化血清を投与してmiRNAを上方調節することにより癌などの疾患を治療する方法(特許文献1)、hsa−Let−7aなど多くのmiRNAを含む体液を用いて肺癌を治療する方法(特許文献2)、体内の循環エキソソームに含まれるmiR−1321など多くのmiRNAのアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与して血液癌を治療する方法(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013−504542号公報
【特許文献2】国際公開WO2014/072468
【特許文献3】国際公開WO2014/071205
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kojima M PLoS One.10(2)(2015)“MicroRNA markers for the diagnosis of pancreatic and biliary−tract cancers”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、癌と関連する様々なmiRNAから、様々な癌種に共通して治療及び/又は予防効果を奏するmiRNAを同定し、該miRNAを由来とするポリヌクレオチドを有効成分とする新たな癌の治療及び/又は予防用医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、癌患者の体液もしくは組織中で発現が上昇又は減少しているmiRNAより癌細胞の増殖を抑制する新規のポリヌクレオチドを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(14)の特徴を有する。
(1)配列番号1又は2で表される塩基配列を含むポリヌクレオチドを有効成分として含む、癌の治療及び/又は予防用医薬組成物。
(2)前記ポリヌクレオチドの塩基長が8〜60塩基である、(1)に記載の医薬組成物。
(3)前記ポリヌクレオチドが、前記配列番号1又は2で表される塩基配列の3’末端側に下記の(a)又は(b)の塩基配列を含む、(1)又は(2)に記載の医薬組成物。
(a)配列番号3〜6、16のいずれかで表される塩基配列
(b)配列番号3〜6、16のいずれかで表される塩基配列において、1〜5個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列
(4)前記ポリヌクレオチドが配列番号7〜10、12、13のいずれかで表される塩基配列を含む、(1)〜(3)のいずれかに記載の医薬組成物。
(5)前記ポリヌクレオチドが一本鎖又は二本鎖である、(1)〜(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
(6)前記ポリヌクレオチドがRNAである、(1)〜(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
(7)前記癌が固形癌である、(1)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(8)前記固形癌が、乳癌、腎癌、膵臓癌、大腸癌、肺癌、脳腫瘍、胃癌、子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌、食道癌、肝癌、線維肉腫、肥満細胞腫、メラノーマからなる群から選択される、(7)に記載の医薬組成物。
(9)前記癌が血液癌である、(1)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(10)前記血液癌が白血病である、(9)に記載の医薬組成物。
(11)前記ポリヌクレオチドが、DNAの形態でベクターに発現可能に挿入されている、(1)〜(10)のいずれかに記載の医薬組成物。
(12)前記ポリヌクレオチドが、非カチオン性ポリマー担体、リポソーム担体、樹枝状担体、ナノ材料担体、ミクロ粒子担体、生体構造担体、ミセル担体、高分子微粒子及び磁気微粒子からなる群から選択される担体中に内包されている、あるいは、該担体に結合されている、(1)〜(11)のいずれかに記載の医薬組成物。
(13)(1)〜(12)のいずれかに記載の医薬組成物、並びに抗腫瘍剤を有効成分として含む、癌の治療及び/又は予防のための組み合わせ医薬品。
(14)(1)〜(12)のいずれかに記載の医薬組成物、又は(13)に記載の組み合わせ医薬品を、癌に罹患した、又は癌に罹患したことのある被験体に投与することを含む、前記被験体において癌を治療又は予防する方法。
【0010】
本発明の癌の治療及び/又は予防用医薬組成物は、種々の癌種の癌細胞の増殖を劇的に抑制することから、癌の治療や予防に有用である。
【0011】
本明細書は、本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2015−218358号の開示内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この図は、配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号9で表されるhsa−miR−6808−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA及び配列番号10で表されるhsa−miR−6876−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA導入後の膵癌細胞株Panc−1の細胞生存数の、ネガティブコントロールオリゴの合成RNA導入後の細胞生存数(100%)に対する割合を示す。
図2】この図は、配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号9で表されるhsa−miR−6808−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号10で表されるhsa−miR−6876−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA導入後の乳癌細胞株MCF−7の細胞生存数の、ネガティブコントロールオリゴの合成RNA導入後の細胞生存数(100%)に対する割合を示す。
図3】この図は、配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号9で表されるhsa−miR−6808−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA及び配列番号10で表されるhsa−miR−6876−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA導入後の肺癌細胞株A549の細胞生存数の、ネガティブコントロールオリゴの合成RNA導入後の細胞生存数(100%)に対する割合を示す。
図4】この図は、配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号9で表されるhsa−miR−6808−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA及び配列番号10で表されるhsa−miR−6876−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA導入後の胃癌細胞株NC1−N87の細胞生存数の、ネガティブコントロールオリゴの合成RNA導入後の細胞生存数(100%)に対する割合を示す。
図5】この図は、配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号9で表されるhsa−miR−6808−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA及び配列番号10で表されるhsa−miR−6876−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA導入後の肝癌細胞株HepG2の細胞生存数の、ネガティブコントロールオリゴの合成RNA導入後の細胞生存数(100%)に対する割合を示す。
図6】この図は、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA導入後の白血病細胞株Jurkatの細胞生存数の、ネガティブコントロールオリゴの合成RNA導入後の細胞生存数(100%)に対する割合を示す。
図7】この図は、配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号9で表されるhsa−miR−6808−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA及び配列番号10で表されるhsa−miR−6876−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA導入後の大腸癌細胞株HCT116の細胞生存数の、ネガティブコントロールオリゴの合成RNA導入後の細胞生存数(100%)に対する割合を示す。
図8】この図は、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA(本発明)、配列番号12で表される塩基配列を有する合成RNA(本発明)、配列番号13で表される塩基配列を有する合成RNA(本発明)、配列番号11で表されるhsa−miR−4454と同じ塩基配列を有する合成RNA(比較例)導入後の大腸癌細胞株HCT116の細胞生存数の、ネガティブコントロールオリゴの合成RNA導入後の細胞生存数(100%)に対する割合を示す。
図9】この図は、配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA(本発明)、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA(本発明)、配列番号14で表されるhsa−miR−575と同じ塩基配列を有する合成RNA(比較例)及び配列番号15で表されるhsa−miR−1321と同じ塩基配列を有する合成RNA(比較例)導入後の大腸癌細胞株HCT116の細胞生存数の、ネガティブコントロールオリゴの合成RNA導入後の細胞生存数(100%)に対する割合を示す。
図10】この図は、配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA及び配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA(各3nM)を導入後の、乳癌細胞株MCF−7の細胞生存数の、ネガティブコントロールオリゴの合成RNA導入後の細胞生存数(100%)に対する割合(A)と、正常細胞である乳腺上皮細胞株184B5の細胞生存数の、ネガティブコントロールオリゴの合成RNA導入後の細胞生存数(100%)に対する割合(B)、及び正常細胞である肺微小血管内皮細胞株HMVEC−Lの細胞生存数の、ネガティブコントロールオリゴの合成RNA導入後の細胞生存数(100%)に対する割合(C)を示す。
図11】この図は、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA及びネガティブコントロールオリゴの合成RNAを担癌マウスに投与後13日間の腫瘍体積の変化(B)と13日目の腫瘍体積比率(A)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
<有効成分となるポリヌクレオチド>
本発明の癌の治療及び/又は予防用医薬組成物は、CAGGCAGG(配列番号1)又はCAGGAAGG(配列番号2)で表される塩基配列を含むポリヌクレオチドを有効成分とすることを特徴とする。以下、有効成分となるポリヌクレオチドについて説明する。
【0015】
配列番号1で表される塩基配列は、ヒトのmiRNAであるhsa−miR−6893−5p(miRBase Accession No.MIMAT0027686)の5’末端側の部分配列として同定された塩基配列である。また、配列番号2で表される塩基配列は、ヒトのmiRNAであるhsa−miR−4476(miRBase Accession No.MIMAT0019003)の5’末端側の部分配列として同定された塩基配列である。これらmiRNAは膵臓癌の特異的マーカーとなるmiRNAの一部であることが知られているが(Kojima M PLoS One.10(2)(2015)“MicroRNA markers for the diagnosis of pancreatic and biliary−tract cancers”)、膵臓癌やそれ以外の癌細胞の増殖を抑制すること、これらmiRNAの部分配列である配列番号1又は2で表される塩基配列のポリヌクレオチドが癌細胞の増殖抑制に重要な役割を果たしていることについては本発明者が新規に見出した知見である。
【0016】
従って、前記ポリヌクレオチドは、配列番号1又は2で表される塩基配列を含んでいれば特に制限はない。すなわち、配列番号1又は2で表される塩基配列のポリヌクレオチドそのものであってもよいし、あるいは、配列番号1又は2で表される塩基配列の5’末端側又は3’末端側に別の塩基配列が付加されていてもよいが、好ましくは、配列番号1又は2で表される塩基配列の3’末端側に別の塩基配列が付加されているポリヌクレオチドである。また、ポリヌクレオチドの塩基配列の塩基長は、好ましくは8〜60塩基であり、より好ましくは16〜28塩基である。
【0017】
配列番号1又は2で表される塩基配列の3’末端側に付加される塩基配列としては、好ましくは以下の(a)又は(b)を部分配列として含む塩基配列であり、より好ましくは以下の(a)又は(b)を5’末端側に含む塩基配列であり、さらに好ましくは以下の(a)又は(b)からなる塩基配列である。
(a)配列番号3〜6、16のいずれかで表される塩基配列。
(b)配列番号3〜6、16のいずれかで表される塩基配列において、1〜5個、好ましくは1〜4個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、特に好ましくは1個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列。
【0018】
前記配列番号1又は2で表される塩基配列の3’末端側に別の塩基配列が付加されているポリヌクレオチドの好ましい具体例としては、配列番号7〜10、12、13のいずれかで表される塩基配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。なお、これら6種のポリヌクレオチドのうち、配列番号7〜10のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチドに関しては、既にヒトで同定されているmiRNAとして知られている。これらmiRNAの名称とmiRBase Accession No.(登録番号)は表1に記載の通りである。
【表1】
【0019】
配列番号7で表される塩基配列を有するmiRNAであるhsa−miR−6893−5pは、5’末端から8番目が配列番号1で表される塩基配列と、9番目以降が配列番号3で表される塩基配列で構成される。前述の通り、膵臓癌の特異的マーカーであると知られているが、これまでに遺伝子又はその転写産物の配列を用いた化合物が腫瘍細胞を抑制しうるという報告は知られていない。
【0020】
配列番号8で表される塩基配列を有するmiRNAであるhsa−miR−4476は、5’末端から8番目の塩基配列が配列番号2で表される塩基配列と、9番目以降が配列番号4で表される塩基配列で構成される。Jima DDら、2010年、Blood.,116号、p118−127に記載される方法によって同定されたものである。また、hsa−miR−4476は、その前駆体としてヘアピン様構造をとるhsa−mir−4476(miRBase Accession No.MI0016828)が知られているが、これまでに遺伝子又はその転写産物の配列を用いた化合物が腫瘍細胞を抑制しうるという報告は知られていない。
【0021】
配列番号9で表される塩基配列を有するmiRNAであるhsa−miR−6808−5pは、5’末端から8番目の塩基配列が配列番号1で表される塩基配列と、9番目以降が配列番号5で表される塩基配列で構成される。Ladewig Eら、2012年、Genome Res.、22号、p1634−1645に記載される方法によって同定されたものである。また、hsa−miR−6808−5pは、その前駆体としてヘアピン様構造をとるhsa−mir−6808−5p(miRBase Accession No.MI0022653)が知られているが、これまでに遺伝子又はその転写産物の配列を用いた化合物が腫瘍細胞を抑制しうるという報告は知られていない。
【0022】
配列番号10で表される塩基配列を有するmiRNAであるhsa−miR−6876−5pは、5’末端から8番目の塩基配列が配列番号2で表される塩基配列と、9番目以降が配列番号6で表される塩基配列で構成される。Ladewig Eら、2012年、Genome Res.、22号、p1634−1645に記載される方法によって同定されたものである。また、hsa−miR−6876−5pは、その前駆体としてヘアピン様構造をとるhsa−mir−6876−5p(miRBase Accession No.MI0022723)が知られているが、これまでに遺伝子又はその転写産物の配列を用いた化合物が腫瘍細胞を抑制しうるという報告は知られていない。
【0023】
一方、配列番号12で表される塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号2で表される塩基配列の3’末端側に、癌マーカーとして公知ではあるが腫瘍細胞を抑制することの報告は知られていない配列番号11で表される塩基配列を有するmiRNAであるhsa−miR−4454(Kojima M PLoS One.10(2)(2015)“MicroRNA markers for the diagnosis of pancreatic and biliary−tract cancers”)の5’末端側から9番目以降の塩基配列(配列番号16)をフュージョン(融合)させた人工ポリヌクレオチドである。同様に、配列番号13で表される塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号2で表される塩基配列の3’末端側に、前記hsa−miR−6893−5p(配列番号7)の5’末端側から9番目以降の塩基配列(配列番号3)をフュージョンさせた人工ポリヌクレオチドである。
【0024】
前記ポリヌクレオチドは、癌の治療及び/又は予防の効果を発揮しうる限りにおいてはいかなる構造をとってもよく、例えば、一本鎖、二本鎖、又は三本以上の多重構造をとってもよいが、好ましくは一本鎖又は二本鎖構造であり、より好ましくは一本鎖構造である。
【0025】
前記ポリヌクレオチドは、癌の治療及び/又は予防の効果を発揮しうる限りにおいては、RNA、DNAあるいはRNA/DNA(キメラ)であってもよいが(なお、前記ポリヌクレオチドについて、配列表に記載の塩基配列に該当する塩基配列の全部又は一部がDNAに相当する場合、配列表のU(ウラシル)はT(チミン)に読み替えるものとする。)、好ましくはRNAである。RNAである場合の形態としては、腫瘍細胞の抑制に関与する遺伝子制御の観点から、前述のmiRNAの他、mRNA、rRNA、non−coding RNA、siRNA、shRNA、snoRNA、snRNA、nkRNA(登録商標)、PnkRNA(商標)等の形態が挙げられるが、好ましくはmiRNAである。なお、miRNAには天然由来のmiRNAの他、いわゆるミミックと呼ばれる合成miRNAも包含される。
【0026】
本発明で使用可能なポリヌクレオチドは、少なくとも1つの修飾ヌクレオチド類似体を含むことができる。ヌクレオチド類似体は、例えば、RNA分子の5’末端、3’末端及び/又は分子内部に配置することができる。特に、修飾ヌクレオチド類似体を組み込むことにより、安定化させることができる。
【0027】
好ましいヌクレオチド類似体としては、糖又は骨格鎖修飾リボヌクレオチドであり、さらに好ましくは核酸塩基が修飾されたリボヌクレオチド、すなわち、天然に存在しない核酸塩基を含むリボヌクレオチドである。すなわち、天然に存在しない核酸塩基としては、5位で修飾されたウリジン、又はシチジン、例えば、5−メチルウリジン、5−(2−アミノ)プロピルウリジン、5−メチル−2−チオウリジン、あるいは5−ブロモウリジン、6−アゾウリジン、8位で修飾されたアデノシン及びグアノシン、例えば、8−ブロモグアノシン、デアザヌクレオチド、7−デアザーアデノシン;O−及びN−アルキル化ヌクレオチド、N6−メチルアデノシン、ユニバーサル塩基などである。
【0028】
好ましい糖修飾リボヌクレオチドとしては、H、OR、ハロ、SH、SR、NH、NHR、NR、CNからなる群より選択される基で2’OH基を置換、あるいは2’−O、4’−Cメチレン架橋やエチレン架橋を含有(例えば、LNAやENAなど)してもよい。ここで、Rは、C1〜C6アルキル、アルケニル又はアルキニルであり、ハロは、F、Cl、Br又はIである。また糖部分は、マンノース、アラビノース、グルコピラノース、ガラクトピラノース、4’−チオリボース及び他の糖、ヘテロ環又は炭素環であってもよい。
【0029】
好ましい骨格鎖修飾リボヌクレオチドとしては、隣接するリボヌクレオチドを結合するホスホエステル基を、例えば、ホスホチオエート基の修飾基やボラノホスフェート、3’−(又は5’ −)デオキシ−3’−(又は5’ −)アミノホスホルアミデート、水素ホスホネート、ボラノリン酸エステル、ホスホルアミデート、アルキル又はアリールホスホネート及びホスホトリエステル又はリン結合で置換する。前述した修飾を組み合わせてもよい。
【0030】
<有効成分であるポリヌクレオチドに付加する担体>
本発明の癌の治療及び/又は予防用医薬組成物は、前記ポリヌクレオチドに加えて薬学的に許容しうる担体を含んでいてもよい。薬学的に許容しうる担体とは、標的癌細胞又は癌組織への前記ポリヌクレオチドの選択的輸送を容易にする物質であって、生物体を刺激せず、また、前記ポリヌクレオチドの活性及び特性を阻害しないものが好ましく、また、それ自体が組成物を投与された個体に有害な抗体の生産を誘導することがないことが好ましい。担体のサイズについて、正常な血管壁を透過しないが、癌組織内の新生血管壁を透過することができるサイズが好ましい。担体が略球状体であるとした場合、好ましくは、担体の直径を例えば約1nm以上1000nm未満のナノサイズとしうる。
【0031】
前記担体は、前記ポリヌクレオチドを内包していてもよく、可動的に結合していてもよい。「可動的に結合している」とは、担体と1又は2以上の剤との間の電子的相互作用を指す。かかる相互作用は、限定されずに、共有結合、極性共有結合、イオン結合、静電結合、配位共有結合、芳香族結合、水素結合、双極子又はファンデルワールス相互作用を含む化学結合の形をとってもよい。
【0032】
前記ポリヌクレオチドと担体の結合部分としては、好ましくは5’末端側又は3’末端側であり、より好ましくは5’末端側である。
【0033】
前記担体の具体例としては、非カチオン性ポリマー担体、リポソーム担体、樹枝状担体、ナノ材料(ナノマテリアル)担体、ミクロ粒子担体、生体構造(バイオストラクチュアル)担体、ミセル担体、高分子微粒子及び磁気微粒子が挙げられる。
【0034】
非カチオン性ポリマー担体は、1又は2以上の剤を内包し得る、及び/又は可動的に結合し得る、例えば、アニオン性(すなわち、負に荷電した)ポリマー又は電子的に中性の綿状あるいは分枝したポリマーとしうる。形態はミクロ粒子であってもナノ粒子であってもよく、水溶性あるいは水不溶性であってもよく、生分解性あるいは非生分解性であってもよい。好適な非カチオン性ポリマー担体は当業者に知られている。例えば、ポリ−L−グルタミン酸(PGA)、ポリ−(γ−L−グルタミルグルタミン)(PGGA)、ポリ−(γ−L−アスパルチルグルタミン)(PGAA)、ポリ−(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)を含んでもよく、少なくとも2種のポリマーの混合物を含んでもよい。
【0035】
リポソーム担体は、水性媒体中で、1又は2以上の剤を内包し得る、及び/又は可動的に結合し得る実質的に閉鎖された構造を形成する、極性の親水性基に付着した脂質を含む、脂質二重層構造を表し、単一の脂質二重層(すなわちユニラメラ)を含んでもよく、あるいは、2層又は3層以上の同心の脂質二重層(すなわち、マルチラメラ)を含んでもよい。リポソーム担体は、略球状又は略楕円状の形状であってもよい。好適なリポソーム担体は当業者に知られており、種々の特性、例えば脂質二重層の剛性、脂質二重層の電子電荷及び/又は剤の一方もしくは両方とリポソーム担体との適合性などに基づいて選択することができる。例えば、天然リン脂質、例えば卵ホスファチジルコリン、卵ホスファチジルエタノールアミン、大豆ホスファチジルコリン、レシチン及びスフィンゴミエリン、合成ホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド、2,3−ジオレキシオロキシ−N−[2−(スペルミンカルボキシアミド)エチル] −N,N−ジメチル−1−プロパンアンモニウムトリフルオロアセトアミド、ホスファチジルセリン及びこれらの誘導体、PEG化リン脂質などである。
【0036】
樹枝状担体は、1種又は2種以上の剤を内包し得る、及び/又は可動的に結合し得る、例えば、デンドリマー、デンドロン又はこれらの誘導体としうる。デンドリマーは、コアを有し、かつ、コアから広がる分枝構造の複数のシェルを有する巨大分子である。デンドロンは、焦点から広がる分枝を有するタイプのデンドリマーである。樹枝状担体は商業的に入手可能であるか、又は当業者に既知の方法によって合成することができる。樹枝状担体の少なくとも一部分は疎水性であってもよく、親水性であってもよい。樹枝状担体はカチオン性であってもよく、電子的に中性であってもアニオン性であってもよい。コア分子を含んでもよく、例えば、エチレンジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン及び1,12−ジアミノデカンなどのアルキルジアミン、アンモニアなどのアミン、シスタミン、ポリエチレンイミン(PEI)などのアルキルイミン、シクロトリホスファゼン及びチオホスホリルなどの塩素化リン分子を含んでもよい。また、ポリプロピレンイミン(PPI)、DAB−Am−16などのポリアルキルイミン、ポリアミドアミン(PAMAM)などの第三級アミン、ポリリジンなどのポリアミノ酸、及びフェノキシメチル(メチルヒドラゾノ)(PMMH)を含んでもよい。
【0037】
ナノ材料担体は、例えば約1nm〜約100nmの範囲の最長寸法を有し、1又は2以上の剤を内包し得る、及び/又は可動的に結合し得る材料としうる。好適なナノ材料担体は、当業者に知られており、ナノ粒子、ナノパウダー、ナノクラスター、ナノ結晶、ナノスフェア、ナノファイバー、ナノチューブ、ナノクラスター、ナノ結晶、ナノスフェア、ナノファイバー、ナノチューブ、ナノゲル及びナノロッドを含んでもよい。また、ナノ材料担体を構成する物質としては、ポリ−(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリアルキルシアノアクリレート(PACA)、ポリイプシロン−カプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ−N−ビニルカプロラクタムアクリル酸ナトリウム、ポリ−N−イロプロピルアクリルアミド、ポリ酢酸ビニルなどが例示される。また、一部の態様においてナノ材料担体はフラーレンであってもよく、球状フラーレン(例えばC60)、カーボンナノチューブ、フラーレン誘導体を含んでもよい。
【0038】
ミクロ粒子担体は、例えば約100〜約1000nmの範囲の最長寸法を有する粒子としうる。ミクロ粒子は、あらゆる形状及びあらゆる形態を有してもよい。ミクロ粒子担体を構成する物質としては、ポリ−(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリアルキルシアノアクリレート(PACA)、ポリイプシロン−カプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、PLGA、ポリエチレングリコール(PEG)などが例示される。
【0039】
生体構造担体は、生体構造担体の多数の単位がアミノ酸及び/又はサッカリドであり、かつ、1又は2以上の剤を内包し得る、及び/又は可動的に結合しているポリマー又は化合物を指す。好適な生体構造担体は当業者に知られており、糖、単糖、オリゴ糖、多糖、環状多糖、非環状多糖、線状多糖、分枝多糖、アミノ酸、タンパク質及びペプチド、ならびにこれらの半合成誘導体を含んでもよく、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、メチルβ−シクロデキストリン、ジメチル−β−シクロデキストリン、カルボキシメチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、スルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、トリ−O−メチル−β−シクロデキストリン、グルコシル−β−シクロデキストリン、β1,3Dグルカン、β1,6グルカン、C反応性タンパク質、コンアルブミン、ラクトアルブミン、オボアルブミン、パルブアルブミン、血清アルブミン、テクネチウムTC99m凝集アルブミン、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)、グルコース(デキストロース)、フルクトース、ガラクトース、キシロース、リボース、スクロース、セルロース、シクロデキストリン、デンプンなどを含んでいてもよい。
【0040】
ミセル担体は、脂質、任意の脂溶性(すなわち、親油性)分子、油、ワックス、ステロール、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、リン脂質等がミセル構造をとったものである。ポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキレングリコール、ポリアスパラギン酸及びポリグルタミン酸(PGA)などのポリアミノ酸、ポリ−(γ−L−グルタミルグルタミン)(PGGA)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ジブロックコポリマーなどを含んでもよい。
【0041】
また、担体は、コンジュゲートであってもよく、核酸のセンス領域とアンチセンス領域とを連結する、ヌクレオチドリンカー、非ヌクレオチドリンカー、又はヌクレオチド/非ヌクレオチド複合リンカー、ポリエチレングリコール、ヒト血清アルブミン又は細胞取り込みを誘導することができる細胞レセプターに対するリガンドなどを含んでもよい。また、ヌクレオチドリンカーは、長さが2ヌクレオチド以上のリンカーであってもよく、核酸アプタマーであってもよい。
【0042】
前記ポリヌクレオチドは、薬学的に許容し得る賦形剤、医薬担体及び希釈剤から選択される少なくとも1つをさらに含んでいてもよく、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤、あるいは、それらの混合物を付加的に添加して注射用剤形などの非経口用剤型、口腔、直腸、鼻腔、局所、皮下、膣又は非経口投与に適した形態、又は、丸薬、カプセル、顆粒又は錠剤などの経口用剤型に、又は吸入若しくは注入による投与に適した形態を含む剤形で製剤化することができる。
【0043】
前記ポリヌクレオチドを液状製剤として使用する場合、担体は滅菌及び生体に適したものが好ましく、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加してもよい。好ましくは、大きく、ゆっくりと代謝される巨大分子、例えばタンパク質、多糖、ポリ乳糖、ポリグリコール酸、ポリマー状アミノ酸、アミノ酸コポリマー、脂質凝集体、ハイドロジェル及び不活性ウイルス粒子、コラーゲン類である。また、水、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール及びエタノールのような液体を含んでいてもよく、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝化物質等の補助物質も含んでいてもよい。
【0044】
投与とは、いずれの適切な方法で患者に前記ポリヌクレオチドを有効成分とする癌治療用医薬組成物を導入することを意味し、前記ポリヌクレオチドのウイルス性又は非ウイルス性技術による運搬、あるいは前記ポリヌクレオチドを発現する細胞の移植を含む。
【0045】
投与経路は、目的組織に到達することができる限り、経口又は非経口の多様な経路を介して投与できる。例えば、経口、直腸内、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、経皮、鼻腔内、吸入、眼球内又は皮内経路によって投与できる。
【0046】
投与量は、投与の目的、投与方法、腫瘍の種類、大きさ、投与対象者(すなわち、被験体)の状況(性別、年齢、体重など)によって異なる。典型的には、投薬量はより低いレベルで投与され、所望の効果が達成されるまで増量する。前記ポリヌクレオチドの好適な投与量は、例えば、体重1キログラムにつき1pmolから100nmolの範囲にあってもよく、体重1キログラムにつき0.001から0.25mgの範囲、体重1kgにつき0.01から20μgの範囲、体重1kgにつき0.10から5μgの範囲にあってもよいが、これらに限定されない。かかる投与量は、1〜10回、より好ましくは5〜10回投与することが好ましい。
【0047】
<ポリヌクレオチドによる癌の抑制>
前記ポリヌクレオチドは細胞に導入された形態で提供してもよい。「細胞に導入させる」とは、形質感染(transfection)又は形質導入(transduction)によって外来のポリヌクレオチドを細胞に流入させることを意味する。形質感染は、例えば、リン酸カルシウム−DNA共沈法、DEAE−デキストラン−媒介形質感染法、ポリブレン媒介形質感染法、エレクトロポレーション法、微細注射法、リポソーム融合法、リポフェクタミントランスフェクション、及び原形質体融合法などを意味し、また、形質導入は、感染(infection)を手段としてウイルス又はウイルスベクター粒子(例えばアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、センダイウイルス、レトロウイルス(レンチウイルスなど)などのベクター)を用いて、あるいはプラスミドベクターを用いて、他の細胞内に遺伝子を伝達させることを意味する。ベクターは、本発明における前記ポリヌクレオチドを発現可能とするために必要な要素(例えばプロモーターなど)を含むことができるし、公知の手法で作製可能である(例えば、Sambrook and Russell, Molecular Cloning A Laboratory Manual (4th Ed., 2001), Cold Spring Harbor Laboratory Press、特開2016−153403号公報、特開2016−025853号公報など)。このような方法によって前記ポリヌクレオチドを導入された細胞は、該塩基配列を高い水準に発現することができるため、このような細胞を癌組織に移植することにより癌の増殖を抑制させる細胞治療剤として利用することができる。
【0048】
<癌の種類>
本発明において腫瘍及び癌は、悪性新生物を意味し、互換的に使用される。対象となる癌としては特に制限はないが、固形癌の具体例として膀胱、骨、骨髄、脳、乳房、結腸・直腸、食道、消化管、歯肉、頭部、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、頚部、卵巣、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、血液、又は子宮における癌及び癌細胞を含む。好ましくは、乳癌、腎癌、膵臓癌、大腸癌、肺癌、脳腫瘍、胃癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌、食道癌、肝癌、線維肉腫、肥満細胞腫及びメラノーマが挙げられる。なお、これらの特定の癌には、例えば、乳腺癌、複合型乳腺癌、乳腺悪性混合腫瘍、乳管内乳頭状腺癌、肺腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、大細胞癌、神経上皮組織性腫瘍である神経膠腫、脳質上衣腫、神経細胞性腫瘍、胎児型神経外胚葉性腫瘍、神経鞘腫、神経線維腫、髄膜腫、慢性型リンパ球性白血病、リンパ腫、消化管型リンパ腫、消化器型リンパ腫、小〜中細胞型リンパ腫、盲腸癌、上行結腸癌、下行結腸癌、横行結腸癌、S状結腸癌、直腸癌、卵巣上皮癌、胚細胞腫瘍、間質細胞腫瘍、膵管癌、浸潤性膵管癌、膵臓癌の腺癌、腺房細胞癌、腺扁平上皮癌、巨細胞腫、膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液性嚢胞腺癌、膵芽腫、漿液性嚢胞腺癌、固体乳頭状癌、ガストリノーマ、グルカゴノーマ、インスリノーマ、多発性内分泌腺腫症、非機能性島細胞腫、ソマトスタチノーマ、VIP産生腫瘍が包含されるが、これらに限定されない。また、血液癌の具体例として白血病が挙げられる。
【0049】
また、本発明において対象となる好ましい被験体は、哺乳動物であり、例えばヒトなどの霊長類、牛、豚、羊、馬などの家畜類、犬、猫などのペット動物、動物園で飼育される哺乳動物などを含み、好ましくはヒトである。
【0050】
<抗腫瘍剤の種類>
本発明において、前記ポリヌクレオチドを有効成分とする癌の治療及び/又は予防用医薬組成物と、別の抗腫瘍剤(すなわち、別の抗腫瘍剤を含む医薬組成物)とを組み合わせた医薬品(「組み合わせ医薬品」という)を被験体に併用投与して抗腫瘍効果を増大させることができる。本発明の癌の治療及び/又は予防用医薬組成物と別の抗腫瘍剤(すなわち、別の抗腫瘍剤を含む医薬組成物)は、同時に、又は、別々に被験者に投与されうる。別々に投与する場合には、いずれの医薬組成物が先であっても又は後であってもよく、それらの投与間隔、投与量、投与経路及び投与回数は専門医によって適宜選択されうる。同時に投与する別の医薬剤型には、例えば、前記癌の治療及び/又は予防用医薬組成物と別の抗腫瘍剤を、薬学的に許容される担体(又は媒体)中で混合し製剤化して得られる医薬組成物(「混合医薬品」ともいう)も包含されるものとする。
【0051】
抗腫瘍剤とは、文献等で公知の下記の抗腫瘍剤が挙げられる。
【0052】
チオテパやシクロスファミドのようなアルキル化剤として、ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファンのような(すなわち、「などの」)アルキルスルホネート;ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ、及びウレドーパのようなアジリジン;アルトレタアミン、トリエチレンアミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド及びトリメチロールアミン等のエチレンイミン;ブラタシン及びブラタシノンのようなアセトゲニン;カンプトテシン;ブリオスタチン;カリスタチン;クリプトフィシン1、クリプトフィシン8;ドラスタチン;ドゥオカルマイシン;エロイスロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチン;スポンジスタチン;クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド、エストラムスチンのようなナイトロジェンマスタード;イホスファミド、メクロルエタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、テモゾロミド、ノベンビシン;フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ベンダムスチン、カルムスチン、クロロゾトシン、ストレプトゾシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン及びラニンヌスチンのようなニトロソウレア類などが挙げられる。
【0053】
抗癌性抗生物質として、カリケアマイシン、ダイネマイシン、クロドロネート、エスペラマイシン、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、ブレオマイシン、アクラルビシン、アムルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マーセロマイシン、マイトマイシンC、マイコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシンなどが挙げられる。
【0054】
代謝拮抗物質として例えば、デノプテリン、プテロプテリン、メソトレキサート、トリメトレキセート、ペメトレキセドのような葉酸類似体;フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン、クラドリビン、クロファラビンのようなプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジン、トリフルリジン、カペシタビン、5−FU、ゲムシタビン、S−1、テガフールのようなピリミジン類似体;ヒドロキシカルバミド、ネララビンなどが挙げられる。
【0055】
ホルモン製剤として例えば、アナストロゾール、ビカルタミド、デガレリクス、エストラムスチン、エキセメスタン、フルタミド、フルベストラント、ゴセレリン、レトロゾール、リュープリン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタン、オクトレオチド、タモキシフェン、トレミフェンがあり、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン、エンザルタミドのようなアンドロゲン製剤;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンのような抗副腎性製剤;フロリン酸、アセグラトン、アルドホスファミドグリコシド、アミノレブリン酸、エニルウラシル、アムサクリン、ベストラブシル、ビサントレン、エダトラキセート、デフォファミン、デメコルシン、ジアジクオン、エルフォルミチン 、酢酸エリプチニウム、エポチロン、エトグルシド、レンチナン、ロニダミン、メイタンシン、アンサミトシン、アビラテロン、ミトグアゾン、ミトキサントロン、モピダンモール、ニトラエリン、ペントスタチン、フェナメット、ピラルビシン、ロソキサントロン、ポドフィリン酸、2−エチルヒドラジド、プロカルバジン、ラゾキサン、リゾキシン、シゾフィラン、スピロゲルマニウム、テニュアゾン酸、トリアジコン、ロリジンA、アングイジン、ウレタン、ビンデシン、ダカーバジン、マンノムスチン、ミトブロニトール、ミトラクトール、ピポブロマン、ガシトシン、アラビノシド、BCG、クレスチン、ピシバニールなどが挙げられる。
【0056】
植物由来などその他の抗癌剤として、例えばドセタキセル、エトポシド、テニポシド、イリノテカン、ノギテカン、パクリタキセル、カバジタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、カルボプラチン、シスプラチン、ダカルバジン、エリブリン、L−アスパラキナーゼ、ミリプラチン、ミトキサントロン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ペントスタチン、プロカルバジン、三酸化ヒ素、ソブゾキサン、タミバロテン、マイトキサントロン、ノバントロン、エダトレキセート、イバンドロナート、トポイソメラーゼインヒビター、ジフルオロメチロールニチン(DMFO)、レチノイン酸などが挙げられる。
【0057】
分子標的薬として、例えば、アファチニブ、アキシチニブ、アレクチニブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、クリゾチニブ、エルロチニブ、エベロリムス、ゲフィチニブ、ラパチニブ、ラムシルマブ、パニツムマブ、パゾパニブ、ペルツズマブ、ニボルマブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、テミシロリムス、トラスツズマブなど、並びにそれらの薬学的に許容可能な塩又は誘導体が挙げられる。
【0058】
さらには、文献等で公知の、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、175Lu、176Lu、89Sr、223Ra、161Tb、などの放射性同位体であってもよい。なお、放射性同位体は、腫瘍の治療や診断のために有効なものが好ましく、このような放射性同位体も、本発明における癌の治療及び/又は予防用医薬組成物に含まれてもよい。
【0059】
<治療及び予防法>
さらにまた本発明は、前記の本発明の癌の治療及び/又は予防用医薬組成物、あるいは、前記の医薬組成物と前記の別の抗腫瘍剤とを含む組み合わせ医薬品を、癌に罹患した(又は癌に罹患したことのある)被験体に投与することを含む、被験体において癌を治療及び/又は予防する方法も提供する。
【0060】
本明細書における「予防」なる用語は、外科手術、化学療法、放射線療法、免疫療法などの癌療法における癌処置後の再発のリスクを低減するための癌再発の予防を含む。
【0061】
上記の医薬組成物、組み合わせ医薬品、有効成分であるポリヌクレオチド、用量、用法、製剤形態、対象となる癌の種類などについては、上で説明した内容をこの節でも同様に適用する。
【実施例】
【0062】
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。しかし、本発明の範囲は、この実施例によって制限されないものとする。
【0063】
<実施例1>合成RNAの膵癌細胞に対する有効性
配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号9で表されるhsa−miR−6808−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、及び配列番号10で表されるhsa−miR−6876−5pと同じ塩基配列を有する合成RNAのそれぞれの、膵癌細胞に対する有効性を評価した。
【0064】
膵癌細胞としてPanc−1細胞株(ATCC)を、10%FBSを含んだDMEM培地(ナカライテスク社、日本)に蒔いて37℃、5%CO条件下で培養を行った。96ウェルプレートに1ウェルあたり6×10個の細胞を蒔いて、それぞれ30nMの濃度で配列番号7、8、9及び10で表される塩基配列を有するRNA合成品(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimics)あるいはネガティブコントロールオリゴ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimic,Negative Control)をリポフェクタミンRNAiMAX(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて遺伝子導入した。24時間後に培養液を交換し、細胞数を5日間カウントした。細胞数の測定は、Celtiter−glo(プロメガ社)試薬を用いてATP活性を測定し生存細胞数とした。n=3で行い、グラフには平均±標準偏差で示す。
【0065】
その結果、配列番号7、8、9及び10で表される塩基配列を有するRNA合成品のそれぞれを遺伝子導入した膵癌細胞では、ネガティブコントロールオリゴを導入した膵癌細胞に比べて細胞生存比率はそれぞれ50%、51%、39%及び50%であった。結果を図1に示す。
【0066】
<実施例2>合成RNAの乳癌細胞に対する有効性
配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号9で表されるhsa−miR−6808−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、及び配列番号10で表されるhsa−miR−6876−5pと同じ塩基配列を有する合成RNAのそれぞれの、乳癌細胞に対する有効性を評価した。
【0067】
乳癌細胞としてMCF−7細胞株(ATCC)を、10%FBSを含んだRPMI培地(ナカライテスク社、日本)に蒔いて37℃、5%CO条件下で培養を行った。96ウェルプレートに1ウェルあたり6×10個の細胞を蒔いて、それぞれ30nMの濃度で配列番号7、8、9及び10で表される塩基配列を有するRNA合成品(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimics)あるいはネガティブコントロールオリゴ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimic,Negative Control)をリポフェクタミンRNAiMAX(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて遺伝子導入した。24時間後に培養液を交換し、細胞数を5日間カウントした。細胞数の測定は、Celtiter−glo(プロメガ社)試薬を用いてATP活性を測定し生存細胞数とした。n=3で行い、グラフには平均±標準偏差で示す。
【0068】
その結果、配列番号7、8、9及び10で表される塩基配列を有するRNA合成品のそれぞれを遺伝子導入した乳癌細胞では、ネガティブコントロールオリゴを導入した乳癌細胞に比べて細胞生存比率はそれぞれ52%、52%、39%及び64%であった。結果を図2に示す。
【0069】
<実施例3>合成RNAの肺癌細胞に対する有効性
配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号9で表されるhsa−miR−6808−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、及び配列番号10で表されるhsa−miR−6876−5pと同じ塩基配列を有する合成RNAのそれぞれの、肺癌細胞に対する有効性を評価した。
【0070】
肺癌細胞としてA549細胞株(ATCC)を、10%FBSを含んだRPMI培地(ナカライテスク社、日本)に蒔いて37℃、5%CO条件下で培養を行った。96ウェルプレートに1ウェルあたり3×10個の細胞を蒔いて、それぞれ30nMの濃度で配列番号7、8、9及び10で表される塩基配列を有するRNA合成品(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimics)あるいはネガティブコントロールオリゴ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimic,Negative Control)をリポフェクタミンRNAiMAX(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて遺伝子導入した。24時間後に培養液を交換し、細胞数を5日間カウントした。細胞数の測定は、Celtiter−glo(プロメガ社)試薬を用いてATP活性を測定し生存細胞数とした。n=3で行い、グラフには平均±標準偏差で示す。
【0071】
その結果、配列番号7、8、9及び10で表される塩基配列を有するRNA合成品のそれぞれを遺伝子導入した肺癌細胞では、ネガティブコントロールオリゴを導入した肺癌細胞に比べて細胞生存比率はそれぞれ44%、9%、23%及び22%であった。結果を図3に示す。
【0072】
<実施例4>合成RNAの胃癌細胞に対する有効性
配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号9で表されるhsa−miR−6808−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、及び配列番号10で表されるhsa−miR−6876−5pと同じ塩基配列を有する合成RNAの胃癌細胞に対する有効性を評価した。
【0073】
胃癌細胞としてNC1−N87細胞株(ATCC)を、10%FBSを含んだRPMI培地(ナカライテスク社)に蒔いて37℃、5%CO条件下で培養を行った。96ウェルプレートに1ウェルあたり3×10個の細胞を蒔いて、それぞれ30nMの濃度で配列番号7、8、9及び10で表される塩基配列を有するRNA合成品(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimics)あるいはネガティブコントロールオリゴ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimic,Negative Control)をリポフェクタミンRNAiMAX(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて遺伝子導入した。24時間後に培養液を交換し、細胞数を5日間カウントした。細胞数の測定は、Celtiter−glo(プロメガ社)試薬を用いてATP活性を測定し生存細胞数とした。n=3で行い、グラフには平均±標準偏差で示す。
【0074】
その結果、配列番号7、8、9及び10で表される塩基配列を有するRNA合成品をそれぞれ遺伝子導入した胃癌細胞の細胞生存比率は、それぞれ38%、36%、34%及び42%であった。結果を図4に示す。
【0075】
<実施例5>合成RNAの肝癌細胞に対する有効性
配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号9で表されるhsa−miR−6808−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、及び配列番号10で表されるhsa−miR−6876−5pと同じ塩基配列を有する合成RNAの肝癌細胞への有効性を評価した。
【0076】
肝癌細胞としてHEPG2細胞株(ATCC)を、10%FBSを含んだRPMI培地(ナカライテスク社)に蒔いて37℃、5%CO条件下で培養を行った。96ウェルプレートに1ウェルあたり6×10個の細胞を蒔いて、それぞれ30nMの濃度で配列番号7、8、9及び10で表される塩基配列を有するRNA合成品(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimics)あるいはネガティブコントロールオリゴ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimic,Negative Control)をリポフェクタミンRNAiMAX(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて遺伝子導入した。24時間後に培養液を交換し、細胞数を5日間カウントした。細胞数の測定は、Celtiter−glo(プロメガ社)試薬を用いてATP活性を測定し生存細胞数とした。n=3で行い、グラフには平均±標準偏差で示す。
【0077】
その結果、配列番号7、8、9及び10で表される塩基配列を有するRNA合成品をそれぞれ遺伝子導入した肝癌細胞の細胞生存比率は、それぞれ75%、42%、52%及び25%であった。結果を図5に示す。
【0078】
<実施例6>合成RNAの白血病細胞に対する有効性
配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNAの白血病細胞に対する有効性を評価した。
【0079】
白血病細胞としてJURKAT細胞株(ATCC)を、10%FBSを含んだRPMI培地(ナカライテスク社)に蒔いて37℃、5%CO条件下で培養を行った。96ウェルプレートに1ウェルあたり4×10個の細胞を蒔いて、30nMの濃度で、アンチセンスRNA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Inhibitors)あるいはネガティブコントロールオリゴ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Inhibitor,Negative Control)をヴァイロマー(Lipocalyx社)を用いて遺伝子導入した。細胞数を5日間カウントした。細胞数の測定は、Celtiter−glo(プロメガ社)試薬を用いてATP活性を測定し生存細胞数とした。n=3で行い、グラフには平均±標準偏差で示す。
【0080】
その結果、配列番号8で表される合成RNAを遺伝子導入した白血病細胞の細胞生存比率は45%であった。結果を図6に示す。
【0081】
<実施例7>合成RNAの大腸癌細胞に対する有効性(1)
配列番号7で表されるhsa−miR−6893−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号9で表されるhsa−miR−6808−5pと同じ塩基配列を有する合成RNA、及び配列番号10で表されるhsa−miR−6876−5pと同じ塩基配列を有する合成RNAのそれぞれの、大腸癌細胞に対する有効性を評価した。
【0082】
大腸癌細胞としてHCT116細胞株(ATCC)を、10%FBSを含んだMcCoy’s培地(ナカライテスク社)に蒔いて37℃、5%CO条件下で培養を行った。96ウェルプレートに1ウェルあたり6×10個の細胞を蒔いて、それぞれ30nMの濃度で配列番号7、8、9及び10で表される塩基配列を有するRNA合成品(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimics)あるいはネガティブコントロールオリゴ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimic,Negative Control)をリポフェクタミンRNAiMAX(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて遺伝子導入した。24時間後に培養液を交換し、細胞数を5日間カウントした。細胞数の測定は、Celtiter−glo(プロメガ社)試薬を用いてATP活性を測定し生存細胞数とした。n=3で行い、グラフには平均±標準偏差で示す。
【0083】
その結果、配列番号7、8、9及び10で表される塩基配列を有するRNA合成品のそれぞれを遺伝子導入した大腸癌細胞では、ネガティブコントロールオリゴを導入した大腸癌細胞に比べて細胞生存比率は、それぞれ4%、8%、2%及び12%であった。結果を図7に示す。
【0084】
<実施例8>合成RNAの大腸癌細胞に対する有効性(2)
癌マーカーとして公知である配列番号11で表されるhsa−miR−4454と同じ塩基配列を有する合成RNA、配列番号12で表される塩基配列(配列番号2の3’末端側、すなわち配列番号8の5’末端側から1〜8番目の塩基配列に、配列番号11で表されるhsa−miR−4454の5’末端側から9〜20番目の塩基配列(配列番号16)を付加した塩基配列)を有する合成RNA及び配列番号13で表される塩基配列(配列番号2の3’末端側に、配列番号3すなわち配列番号7の5’末端側から9〜21番目の塩基配列を付加した塩基配列)を有する合成RNA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimics)の大腸癌への有効性を実施例7に記載の方法に準じて評価した。
【0085】
その結果、配列番号8、12及び13で表される塩基配列を有するRNA合成品をそれぞれ遺伝子導入した大腸癌細胞では、細胞生存比率は10%以下であったのに対して、配列番号11で表される塩基配列を有するRNA合成品を遺伝子導入した大腸癌細胞の細胞生存比率は103%であり、ほとんど有効でなかった。結果を図8に示す。
【0086】
<比較例1>合成RNAの大腸癌細胞に対する有効性
癌マーカーとして公知である配列番号14で表されるhsa−miR−575と同じ塩基配列を有する合成RNA、及び血液癌治療に関与することが知られている配列番号15で表されるhsa−miR−1321と同じ塩基配列(5’末端側から1〜8番目の塩基配列と、配列番号1及び2で表される塩基配列との配列同一性が87.5%である)を有する合成RNA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimics)の大腸癌に対する有効性を実施例7に記載の方法に準じて評価した。
【0087】
その結果、配列番号7及び8で表される塩基配列を有するRNA合成品をそれぞれ遺伝子導入した大腸癌細胞では、細胞生存比率は10%以下であったのに対して、配列番号14及び15で表される塩基配列を有するRNA合成品をそれぞれ遺伝子導入した大腸癌細胞の細胞生存比率は、それぞれ96%及び93%であり、ほとんど有効でなかった。結果を図9に示す。
【0088】
<比較例2>合成RNAの正常細胞に対する有効性
配列番号7及び配列番号8で表される塩基配列を有する合成RNA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimics)の、正常細胞である乳腺上皮細胞及び肺微小血管内皮細胞に対する有効性を評価した。
【0089】
乳腺上皮細胞として184B5(ATCC)を、BPE、hydrocortisone、hEGF、insulinを含んだMEBM培地(ロンザ社)に蒔いて37℃、5%CO条件下で培養を行った。96ウェルプレートに1ウェルあたり6×10個の細胞を蒔いて、それぞれ3nMの濃度で配列番号7及び配列番号8で表される塩基配列を有するRNA合成品あるいはネガティブコントロールオリゴ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、mirVanaTM miRNA Mimic,Negative Control)をリポフェクタミンRNAiMAX(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて遺伝子導入した。24時間後に培養液を交換し、細胞数を5日間カウントした。細胞数の測定は、Celtiter−glo(プロメガ社)試薬を用いてATP活性を測定し生存細胞数とした。n=3で行い、グラフには平均±標準偏差で示す。
【0090】
その結果、配列番号7及び配列番号8で表される塩基配列を有するRNA合成品(それぞれ3nM)を遺伝子導入した乳癌細胞MCF−7では、細胞生存比率がそれぞれ71%、64%(図10A)であったのに対して、乳腺上皮細胞の細胞生存比率はそれぞれ99%、105%であり、正常細胞に対する影響は認められなかった(図10B)。
【0091】
また、肺微小血管内皮細胞としてHMVEC−L(ATCC)を、EGM−2MV SingleQuots(ロンザ社)を含んだEGM−2倍地(ロンザ社)に蒔いて37℃、5%CO条件下で培養を行った。96ウェルプレートに1ウェルあたり6×10個の細胞を蒔いて、それぞれ3nMの濃度で配列番号7及び配列番号8で表される塩基配列を有するRNA合成品あるいはネガティブコントロールオリゴをリポフェクタミンRNAiMAXを用いて遺伝子導入した。24時間後に培養液を交換し、細胞数を5日間カウントした。細胞数の測定は、Celtiter−glo試薬を用いてATP活性を測定し生存細胞数とした。n=3で行い、グラフには平均±標準偏差で示す。
【0092】
その結果、肺微小血管内皮細胞の細胞生存比率はそれぞれ91%、109%であり、正常細胞に対する影響は認められなかった(図10C)。
【0093】
<実施例9>合成RNAの担癌マウスモデルに対する有効性
ヒト由来の癌細胞株を移植した担癌マウスを用いて、配列番号8で表されるhsa−miR−4476と同じ塩基配列を有する合成RNAの抗腫瘍効果を検討した。
【0094】
6匹のBalb/cヌードマウス(日本チャールスリバー社製)の背部皮下に、1匹あたり5×10個のヒト大腸癌細胞株HCT116細胞株(ATCC)を移植し、腫瘍が直径5mm程度の大きさになるまで成長させた。前記担癌マウス各6匹に配列番号8と同じ塩基配列を有する合成RNA及びネガティブコントロールを1匹あたり2nmolと0.5%アテロコラーゲン50μl(高研社)の混合溶液を、腫瘍周辺の皮下に投与した。その後、2日おきに計3回、各合成RNAと0.5%アテロコラーゲン混合溶液を同量ずつ各担癌マウスの腫瘍周辺の皮下に投与し、腫瘍の大きさを2日に1回計測した。なお、腫瘍の大きさは、0.5×(長径×短径×短径)の計算式を用いて体積を算出した。
【0095】
その結果、最初の投与から13日後の配列番号8と同じ塩基配列を有する合成RNAを投与した検討群の腫瘍体積比率は、コントロール群を100%としたとき40%であった(図11A)。また、合成RNAを担癌マウスに投与後13日間の腫瘍体積の変化を図11Bに示した。その結果から、配列番号8と同じ塩基配列を有する合成RNAは、大腸癌細胞に対して、生体内で抗腫瘍効果を発揮することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の癌治療用医薬組成物は、癌の治療及び/又は予防のため有用である。
【0097】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]