(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レドックス電池用炭素電極材の製造方法において、原料に対して、不活性ガスまたは窒素ガス雰囲気下600〜1250℃で1回目の焼成をしてから、1回目の乾式酸化処理を実施する工程と、さらに、その後、不活性ガスまたは窒素ガス雰囲気下1300〜2300℃で2回目の焼成をしてから、2回目の乾式酸化処理を実施する工程と、を含む製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、電極は電池の性能を左右するものとして重点的に開発されている。電極には、それ自体が活物質とならず、活物質の電気化学的反応を促進させる反応場として働くタイプのものがあり、このタイプには導電性や耐薬品性などから炭素材料がよく用いられる。特に電力貯蔵用に開発が盛んなレドックスフロー電池の電極には、耐薬品性があり、導電性を有し、かつ通液性のある炭素繊維集合体が用いられている。
【0003】
レドックスフロー電池は、正極に鉄の塩酸水溶液、負極にクロムの塩酸水溶液を用いたタイプから、起電力の高いバナジウムの硫酸水溶液を両極に用いるタイプに替わり、高エネルギー密度化されている。そして、さらに高い起電力を有し、安定して安価に供給可能なものとして、たとえば特許文献1のような正極にマンガン、負極にクロム、バナジウム、チタンを用いるタイプの開発もなされており、一段と高エネルギー密度化が進んでいる。
【0004】
レドックスフロー電池の主な構成は、
図1に示すように電解液を貯える外部タンク6、7と電解槽とから構成される。レドックスフロー電池では、ポンプ8、9にて活物質を含む電解液を外部タンク6、7から電解槽に送りながら、電解槽に組み込まれた電極上で電気化学的なエネルギー変換、すなわち充放電が行われる。
【0005】
一般に、充放電の際には、電解液を外部タンクと電解槽との間で循環させるため、電解槽は
図1に示すような液流通型構造をとる。該液流通型電解槽を単セルと称し、これを最小単位として単独または多段積層して用いられる。液流通型電解槽における電気化学反応は、電極表面で起こる不均一相反応であるため、一般的には二次元的な電解反応場を伴うことになる。電解反応場が二次元的であると、電解セルの単位体積当たりの反応量が小さいという難点がある。
【0006】
そこで、単位面積当りの反応量、すなわち電流密度を増すために電気化学反応場の三次元化が行われるようになった。
図2は、三次元電極を有する液流通型電解槽の分解斜視図である。該電解槽では、相対する二枚の集電板1、1間にイオン交換膜3が配設され、イオン交換膜3の両側にスペーサー2によって集電板1、1の内面に沿った電解液の通液路4a、4bが形成されている。該通液路4a、4bの少なくとも一方には炭素繊維集合体等の電極材5が配設されており、このようにして三次元電極が構成されている。 なお、集電板1には、電解液の液流入口10と液流出口11とが設けられている。
【0007】
正極電解液にオキシ硫酸バナジウム、負極電解液に硫酸バナジウムの各々硫酸酸性水溶液を用いたレドックスフロー電池の場合、放電時には、V
2+を含む電解液が負極側の通液路4aに供給され、正極側の通液路4bにはV
5+(実際には酸素を含むイオン)を含む電解液が供給される。負極側の通液路4aでは、三次元電極5内でV
2+が電子を放出しV
3+に酸化される。放出された電子は外部回路を通って正極側の三次元電極内でV
5+をV
4+(実際には酸素を含むイオン)に還元する。この酸化還元反応に伴って負極電解液中のSO
42-が不足し、正極電解液ではSO
42-が過剰になるため、イオン交換膜3を通ってSO
42-が正極側から負極側に移動し電荷バランスが保たれる。あるいは、H+がイオン交換膜を通って負極側から正極側へ移動することによっても電荷バランスを保つことができる。充電時には放電と逆の反応が進行する。
【0008】
レドックスフロー電池用電極材の特性としては、特に以下に示す性能が要求される。
【0009】
(1)目的とする反応以外の副反応を起こさないこと(反応選択性が高いこと)、具体的には電流効率(η
I)が高いこと。(2)電極反応活性が高いこと、具体的にはセル抵抗(R)が小さいこと。すなわち電圧効率(η
V)が高いこと。(3)上記(1)、(2)に関連する電池エネルギー効率(η
E)が高いこと。 η
E=η
I×η
V(4)くりかえし使用に対する劣化が小さいこと(高寿命)、具体的には電池エネルギー効率(η
E)の低下量が小さいこと。 これらが求められる。
【0010】
ここで、特許文献2には、X線広角解析より求めた<002>面間隔が、平均3.70Å以下であり、またc軸方向の結晶子の大きさが平均9.0Å以上の擬黒鉛微結晶を有し、かつ全酸性官能基量が少なくとも0.01meq/gである炭素質材料を、鉄−クロム系レドックスフロー電池の電解槽用電極材として用いることが提案されている。
【0011】
また特許文献3には、ポリアクリロニトリル系繊維を原料とする炭素質繊維で、X線広角解析より求めた<002>面間隔が3.50〜3.60Åの擬黒鉛結晶構造を有し、炭素質材料表面の結合酸素原子数が炭素原子数の10〜25%となるような炭素質材を、鉄−クロム系レドックスフロー電池の電解槽用電極材として用いることが提案されている。
【0012】
さらに特許文献4には、X線広角解析より求めた<002>面間隔が3.43〜3.60Åで、c軸方向の結晶子の大きさが15〜33Åで、a軸方向の結晶子の大きさが30〜75Åである擬黒鉛結晶構造を有し、XPS表面分析より求めた表面酸性官能基量が全表面炭素原子数の0.2〜1.0%であり、表面結合窒素原子数が全表面炭素原子数の3%以下である炭素質材料をバナジウム系レドックスフロー電池の電解槽用電極材として用いることが提案されている。
【0013】
しかしながら、特許文献4にて提案されている炭素質材料では、反応活性点が少なく電池の反応抵抗が増加し、電池エネルギー効率が低下することが確認された。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のレドックス電池用炭素電極材を使用した電解槽は、その一例として
図2に示す構造を有する。前記電解槽は、相対する二枚の集電板1、1間にイオン交換膜3が配設され、イオン交換膜3の両側にスペーサー2によって集電板1、1の内面に沿った電解液の通液路4a、4bが形成されている。該通液路4a、4bの少なくとも一方には本発明のレドックス電池用炭素電極材5が配設されている。このようにして電解槽が構成されている。なお、集電板1には、電解液の液流入口10と液流出口11とが設けられている。
【0021】
本発明のレドックス電池用炭素電極材5は、炭素質材料からなり、その構成組織は特に限定されないが、電極表面積を大きくできるものが好ましい。具体的には、炭素質繊維よりなる紡績糸、フィラメント集束糸、不織布、編物、織物、特殊編織物(例えば、日本国特許公開公報「特開昭63−200467号」参照)、またはこれらの混成組織からなる炭素質繊維集合体、多孔質炭素体、炭素−炭素複合体、粒子状炭素材料等を挙げることができる。これらのうち、炭素質繊維集合体が好ましく、なかでも炭素質繊維よりなるシート状物である炭素質繊維よりなる不織布、編物、織物、特殊織編物、またはこれらの混成組織からなる炭素質繊維集合体が、取り扱いや加工性、製造性等の点からより好ましい。
【0022】
前記炭素質材料の目付量は構成組織にもよるが、
図2の集電板1とイオン交換膜3に挟まれたスペーサー2の厚み(以下、「スペーサー2の厚み」と称する)を0.3〜3mmで使用する場合、50〜1000g/m
2が好ましく、構成組織が編物の場合は50〜1000g/m
2、織物の場合は50〜800g/m
2、不織布の場合は50〜600g/m
2が好ましい。また、炭素質材料として、片面に凹溝加工が施された不織布を使用することも通液性からより好ましい。その場合の溝幅、溝深さは少なくとも0.1mm以上が好ましい。
【0023】
前記炭素質材料の厚みは、スペーサー2の厚みより少なくとも大きいこと、不織布等の密度の低いものの場合はスペーサー2の厚みの1.5〜6.0倍が好ましい。しかしながら、厚みが厚すぎる
とシート状物の圧縮応力によりイオン交換膜3を突き破ってしまうことがあるので、シート状物の圧縮応力を9.8N/cm
2以下のものを使用するのが好ましい。炭素質材料によっては、目付量・厚み・圧縮応力を調整するために、炭素質材料を2層や3層など積層して用いることも可能であり、また別の形態の炭素質材料との組み合わせも可能である。
【0024】
炭素質材料として炭素質繊維を使用する場合、その平均繊維径は0.5〜20μmが好ましく、平均繊維長は30〜100mmが好ましい。
【0025】
前記炭素質材料は、電池の中に圧接されて組み込まれ、その薄い隙間を粘度の高い電解液が流れるため、炭素質材料が脱落しないためには炭素質材料の引張強度を0.49N/cm
2以上にすることが好ましい。また集電板との接触抵抗を良くするために、炭素質材料が不織布組織の場合、密度を0.01g/cm
3以上に、電極面に対する反発力を0.98N/cm
2以上にすることが好ましい。
【0026】
本発明の炭素質材料は、結晶構造がX線広角解析より求めた<002>面間隔が3.43〜3.60Åで、c軸方向の結晶子の大きさが15〜35Åで、a軸方向の結晶子の大きさが30〜75Åである擬黒鉛結晶構造を有する炭素電極材であり、好ましくは、前記<002>面間隔が3.45〜3.53Åで、前記c軸方向の結晶子の大きさが20〜35Åで、前記a軸方向の結晶子の大きさが45〜75Åである擬黒鉛結晶構造を有する炭素質材料である。
【0027】
炭素質材料のX線広角解析より求めた<002>面間隔は、黒鉛の3.35Åから3.70Åを越える不定型炭素までの様々な値をとり、その特性も大きく異なることが広く知られている。
【0028】
本発明の炭素質材料の結晶構造が、X線広角解析より求めた<002>面間隔が3.60Åより大きい、c軸方向の結晶子の大きさが15Åより小さいか、またはa軸方向の結晶子の大きさが30Åより小さい場合、電池内部抵抗(セル抵抗)の内の電極材導電抵抗成分が無視できないようになり、その結果セル抵抗が増加し(電圧効率が低下し)、エネルギー効率が低下する。
【0029】
また、本発明の炭素質材料の結晶構造が、X線広角解析より求めた<002>面間隔が3.43Åよりも小さいか、c軸方向の結晶子の大きさが35Åよりも大きいか、またはa軸方向の結晶子の大きさが75Åよりも大きい場合、a軸方向のベーサル面の成長が大きいため、酸素官能基を導入される反応点が少なく、反応活性が低くなってしまう。
【0030】
本発明の炭素質材料は、XPS(X線光電子分光法)表面分析より求めた炭素質材料表面の結合酸素原子数が全表面炭素原子数の2.5%以上であることが必要である。結合酸素原子数が全表面炭素原子数の2.5%以上の炭素系材料を電極材に用いることにより、電極反応速度、つまり電導度を著しく高め得ることができる。XPS表面分析より求めた炭素質材料表面の結合酸素原子数が全表面炭素原子数の2.5%未満の酸素濃度の低い炭素質材料を用いる場合は放電時の電極反応速度が小さく、電極反応活性を高めることはできない。このように材料表面に酸素原子を多く結合させた炭素質材料を電極材として用いることにより電極反応活性、いいかえれば電圧効率が高められる理由については明らかでないが、炭素質材料と電解液との親和性、電子の授受、錯イオンの炭素材料からの脱離、錯交換反応等に表面の酸素原子が有効に働いているものと考えられる。
【0031】
本発明の炭素質材料は、ラマン分光法より求めた1360cm
-1付近のピーク強度(ID)と1580cm
-1付近のピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)が1.0以上2.5以下であり、1580cm
-1付近のピーク半値幅(ΔνG)が70cm
-1以下であることが好ましい。本発明の炭素質材料は、特許文献4と同じ炭化温度で処理した炭素質材料と比較した場合に、ピーク半値幅ΔνGは小さく、強度比Rが大きくなっている。すなわち、特許文献4に記載の処方に比べ、本発明の炭素材料は酸素官能基導入により炭素結晶の欠陥構造が増加し、反応活性点が増加していると考えている。
【0032】
本発明の炭素質材料は、水銀圧入法によって得られる細孔分布測定結果において細孔径が0.2〜2μmの範囲の細孔をその表面に有する炭素質材料を用いることが必要である。炭素質材料に前記細孔を有することにより、特許文献4に記載の表面が無細孔の炭素質材料よりも外表面積が大きくなるため、電解液中の活物質であるイオンとの反応表面積が増加し反応活性が高まる。
【0033】
このような炭素質材料は、以下の製法により得ることができる。 緊張下200〜300℃の初期空気酸化を経たポリアクリロニトリル、等方性ピッチ、メソフェーズピッチ、セルロース、フェノール、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)などを原料にして、不活性ガス(または窒素ガス)雰囲気下600〜1250℃で1回目の焼成(炭化)をして擬黒鉛結晶構造を有する炭素材料を得た後、酸素濃度1〜10%のガス雰囲気下で重量収率にして45〜95%、好ましくは50〜90%の範囲になるように1回目の乾式酸化処理を実施する。1回目の乾式酸化処理温度は350〜900℃が好ましく、450〜750℃がより好ましい。さらに不活性ガス(または窒素ガス)雰囲気下1300〜2300℃で2回目の焼成(炭化)をした後、酸素濃度1〜10%のガス雰囲気下で重量収率にして80〜99%、好ましくは93〜99%の範囲になるように2回目の乾式酸化処理を実施する。2回目の乾式酸化処理温度は500〜900℃が好ましく、650〜750℃がさらに好ましい。しかし酸化処理の方法は乾式酸化に限定されるものではなく、例えば電解酸化をおこなっても同様な効果が得られる。2回目の焼成をする際、特にアルゴン等の不活性ガス濃度が、処理物近傍においても90%以上となる雰囲気下で焼成することで、炭素の結晶構造の成長が促進されることを見出した。この反応機構については現在解明中であるが、昇温時にHCN、NH
3、COなどの反応性の高い分解ガスが発生することから、その分解ガスによる表面改質が抑制されるためではないかと推測している。不活性ガス濃度が処理物近傍においても90%以上となる雰囲気は、例えば不活性ガスを絶えず1g当たり1cc/min以上吹き付けることで得られる。
【0034】
特許文献4では、不活性ガス(または窒素ガス)雰囲気下1000〜1800℃で焼成(炭化)して擬黒鉛結晶構造を有する炭素材料を得た後、これを乾式酸化処理することにより炭素質材料を得ているが、この処理方法では炭素質材料表面は無細孔になる。本発明の炭素質材料においては1300℃を超える温度域での2回目の焼成前に600〜1250℃で1回目の焼成および1回目の乾式酸化処理を実施することにより、炭素質材料表面を高結晶化する前に表面上に細孔が形成され、不活性ガス(または窒素ガス)雰囲気下1300〜2300℃での2回目の焼成後においても細孔を保持することができる。
【0035】
本発明では、1300℃を超える温度域での2回目の焼成前に、600〜1250℃で1回目の焼成をし、低度に発達した結晶子がランダムに存在する状態をつくり、次に1回目の乾式酸化処理を実施することで、低度に発達した結晶子を覆っている非晶質炭素の一部をガス化させ、表面に細孔を有するまで荒らすことにより、低度に発達した結晶子が繊維表面に露出した炭素質材料を得る。その後、低度に発達した結晶子が繊維表面に露出した状態にて1300℃を超える温度域で2回目の焼成をしても、結晶子の露出した状態は維持され、その後の2回目の乾式酸化処理にて露出した結晶子部分に積極的に酸素官能基が導入されることにより、電解液中の活物質との反応活性が高められた炭素質材料が得られたものと考えている。一方、特許文献4のような炭素質材料では、無細孔であり結晶子の露出が少ないため、導入される酸素官能基量もさほど多くなく、活物質との反応活性が本発明の炭素質材料よりも劣ると考えられる。
【0036】
上記の製造方法において、<002>面間隔、並びにa軸方向及びc軸方向の結晶子の大きさは、主に2回目の焼成(炭化)時の温度、昇温速度、時間等を調製することで制御できる。また、表面の結合酸素原子数は、擬黒鉛結晶構造の結晶性(結晶成長度)にもよるが、主に1回目および2回目の乾式酸化処理の酸素濃度、温度等を調製することで制御できる。
【0037】
本発明において採用される<002>面間隔(d002)、c軸方向の結晶子の大きさ(Lc)、a軸方向の結晶子の大きさ(La)、XPS表面分析、水銀圧入法、電流効率、電圧効率(セル抵抗R)、エネルギー効率および充放電サイクルの経時変化の各測定法について説明する。
【0038】
(1)<002>面間隔(d002)、結晶子の大きさ(Lc)、a軸方向の結晶子の大きさ(La) 電極材料をメノウ乳鉢で、粒径10μm程度になるまで粉砕し、試料に対して約5重量%のX線標準用高純度シリコン粉末を内部標準物質として混合し、試料セルに詰め、CuKα線を線源として、ディフラクトメーター法によって広角X線を測定する。
【0039】
曲線の補正には、いわゆるローレンツ因子、偏光因子、吸収因子、原子散乱因子等に関する補正を行わず、次の簡便法を用いる。すなわち、<002>回折に相当するピークのベースラインからの実質強度をプロットし直して<002>補正強度曲線を得る。この曲線のピーク高さの2/3の高さに引いた角度軸に平行な線が補正強度曲線と交わる線分の中点を求め、中点の角度を内部標準で補正し、これを回折角の2倍とし、CuKαの波長λとから数式1のBraggの式によって<002>面間隔を求める。
【0040】
【数1】
ここで、波長λ=1.5418Å、θは<002>回折角を示す。
【0041】
さらに、ピーク高さの1/2の高さに引いた角度軸に平行な線が、補正強度曲線と交わる線分の長さ(半値幅β)から、数式2によってc軸方向の結晶子の大きさLcを求める。
【0042】
【数2】
ここで、波長λ=1.5418Å、構造係数k1=0.9、θは<002>回折角を、βは<002>回折ピークの半値幅を示す。
【0043】
また<10>回折に相当するピークのベースラインからの実質強度をプロットし直して<10>補正強度曲線を得る。ピーク高さの1/2の高さに引いた角度軸に平行な線が補正強度曲線と交わる線分の長さ(半値幅β)から数式3によってa軸方向の結晶子の大きさLaを求める。
【0044】
【数3】
ここで、波長λ=1.5418Å、構造係数k2=1.84、θは<10>回折角を、βは<10>回折ピークの半値幅を示す。
【0045】
(2)XPS表面分析 ESCAまたはXPSと略称されているX線光電子分光法の測定に用いた装置はアルバック・ファイ5801MCを用いる。 試料をサンプルホルダー上にMo板で固定し、予備排気室にて十分に排気後、測定室のチャンバーに投入した。線源にはモノクロ化AlKα線を用い、出力は14kV、12mA、装置内真空度は10
-8torrとする。 全元素スキャンを行い表面元素の構成を調べ、検出された元素ならびに予想される元素についてナロースキャンを実施し、存在比率を評価する。 全表面炭素原子数に対する表面結合酸素原子数の比を百分率(%)で算出する。
【0046】
(3)水銀圧入法 細孔径分布は、水銀圧入法での細孔径分布測定によって得られる。水銀圧入法による測定は、Quantachrome社製ポアマスターを用いる。水銀圧入法は、多孔質粒子等の試料が有する細孔に圧力を加えながら水銀を圧入させ、その圧力と圧入された水銀量との関係から、比表面積や細孔径分布等の情報を得る手法である。具体的には、先ず、試料の入った容器内を真空排気してから、容器内に水銀を
満たす。 水銀は表面張力が高いため、そのままでは試料表面の細孔には水銀は圧入しない。しかし、水銀に圧力をかけ、徐々に昇圧していくと、径の大きい細孔から順に径の小さい孔へと、徐々に細孔の中に水銀が圧入していく。圧力を連続的に増加させながら水銀液面の変化を検出していけば、水銀に加えた圧力と水銀圧入量との関係を表す水銀圧入曲線が得られる。
【0047】
ここで、細孔の形状を円筒状と仮定し、その直径をD(nm)、水銀の表面張力をσ(dyn/cm)、水銀の試料に対する接触角をθ(°)、圧力をPとすると、細孔から水銀を押し出す方向への大きさは、Washburnの数式である数式4で表される。
【0049】
水銀の場合、表面張力δ=480dyn/cm程度、水銀の試料に対する接触角を接触角θ=140°程度の値が一般的に用いられる。そこで後段で説明する実施例1〜3および比較例1〜3では、表面張力δ=480dyn/cm、水銀の試料に対する接触角を接触角θ=140°を用いた。得られた水銀圧入曲線に基づいて、試料の細孔径の大きさとその体積との関係を表す細孔分布曲線を得ることができる。 また、水銀圧入法より得られた細孔径分布データから細孔径0.2〜2μmの範囲の細孔の合計の容積を算出した。
【0050】
(4)ラマン分光測定 ラマン分光測定は、ナノフォトン株式会社製 Raman−11を使用し、対物レンズは100倍(NA=0.9)を使用し、600gr/mmのグレーティング、励起レーザー波長は532nmとした。NDフィルターを用いてレーザー強度を弱め、レーザー照射によりカーボンの構造変化が生じない条件で測定を実施する。1580cm
-1付近の最大ピークは、黒鉛結晶質構造に由来するピークであり、1360cm
-1付近の最大ピークは、構造欠陥により対称性の低下した炭素原子に由来するピークである。1360cm
-1付近のピーク強度(ID)」とは、1360cm
-1付近に出現するDバンドのピーク強度であり、「1580cm
-1付近のピーク強度(IG)」とは、1580cm
-1付近に出現するGバンドのピーク強度である。強度比R(ID/IG)は、Dバンドのピーク強度をGバンドのピーク強度で除した値である。1580cm
-1付近のピーク半値幅(ΔνG)は、上記のラマン分光測定により得られたピークを1360cm
-1付近のDバンド、1580cm
-1付近のGバンド、1620cm
-1付近のD´バンドおよびその他2つのピークにピーク分離しローレンツ関数を用いてフィッティングを行う。ピーク分離より得られたGバンドピークより半値幅を算出する。
【0051】
(5)電極特性 特許文献4を参考に上下方向(通液方向)に1cm、幅方向に10cmの電極面積10cm
2を有する小型のセルを作り、定電流密度で充放電を繰り返し、電極性能のテストを行う。 電解液は、バナジウム系電解液を用いる。 バナジウム系電解液では、特許文献4を参考に正極電解液と負極電解液に2.0mol/lオキシ硫酸バナジウム、3mol/l硫酸水溶液を混合したものを用いる。 電解液量はセル、配管に対して大過剰とする。液流量は毎分6.2mlとし、30℃で測定を行う。
【0052】
(a)電流効率:η
I 充電に始まり放電で終わる1サイクルのテストにおいて、電流密度を電極幾何面積当たり100mA/cm
2(1000mA)として、1.5Vまでの充電に要した電気量をQ
1、1.0Vまでの定電圧放電で取りだした電気量をそれぞれQ
2とし、数式5で電流効率η
Iを求める。
【0054】
(b)セル抵抗:R 負極液中のバナジウム系電解液のV
3+をV
2+に完全に還元するのに必要な理論電気量Q
thに対して、放電により取りだした電気量の比を充電率とし、数式6で充電率を求める。
【0056】
充電率が50%のときの電気量に対応する充電電圧V
C50、放電電圧V
D50を電気量−電圧曲線からそれぞれ求め、数式7より電極幾何面積に対するセル抵抗R(Ω・cm
2)を求める。
【0057】
【数7】
ここで、Iは定電流充放電における電流値1Aである。
【0058】
(c)電圧効率:η
V 上記の方法で求めたセル抵抗(R)を用いて数式8の簡便法により電圧効率η
Vを求める。ここで、Iは定電流充放電における電流値0.4Aである。
【0059】
【数8】
ここで、Eは充電率50%のときのセル開回路電圧1.432V(実測値)である。
【0060】
(d)エネルギー効率:η
E 前述の電流効率η
Iと電圧効率η
Vを用いて、数式9によりエネルギー効率η
Eを求める。
【0062】
電流効率、電圧効率が高くなる程、エネルギー効率は高くなり、従って充放電におけるエネルギーロスが小さく、優れた電極であると判断される。
【実施例】
【0063】
(実施例1) 平均繊維径16μmのポリアクリロニトリル繊維を空気中200〜300℃で耐炎化した。その後、該耐炎化繊維の短繊維(長さ約80mm)を用いてフェルト針SB#40(Foster Needle社)、パンチング密度250本/cm
2でフェルト化して目付量300g/m
2、厚み3.2mmの不織布を作製した。該不織布を、210±10℃で45kgf/cm
2のプレス圧にて厚みを0.9±0.1mmに調整後、窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で950±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持し炭化を行って冷却し、さらに空気中550±50℃で質量収率50〜95%になるまで乾式酸化処理し炭素質繊維不織布Aを得た。得られた炭素質繊維不織布Aを窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で1500±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持し炭化を行って冷却し、さらに空気中700±50℃で質量収率90〜95%になるまで乾式酸化処理し、目付101g/m
2の炭素質繊維不織布Bを得た。 得られた炭素質繊維不織布Bの面間隔、結晶子サイズ、XPS表面分析結果、ラマン分光測定結果、水銀圧入法測定結果、電極性能を表1に示す。 なお、水銀圧入法測定で使用した圧力は0.9〜25,000psiaであった。以下の実施例2,3および比較例1〜3も同じである。電極性能評価において、スペーサー厚は0.6mmに設定し、炭素質繊維不織布Bを単層にてV系電解液を用いて評価した。また、水銀圧入法より得られた細孔径の分布を示す細孔径分布曲線を
図3に示す。水銀圧入法より得られた細孔径分布データから、細孔径0.2〜2μmの範囲の細孔の合計の容積を算出したところ、0.0044cc/gであった。
【0064】
(実施例2) 平均繊維径16μmのポリアクリロニトリル繊維を空気中200〜300℃で耐炎化した。その後、該耐炎化繊維の短繊維(長さ約80mm)を用いてフェルト針SB#40(Foster Needle社)、パンチング密度250本/cm
2でフェルト化して目付量300g/m
2、厚み3.2mmの不織布を作製した。該不織布を、210±10℃で45kgf/cm
2のプレス圧にて厚みを0.9±0.1mmに調整後、窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で950±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持し炭化を行って冷却し、さらに空気中550±50℃で質量収率50〜95%になるまで乾式酸化処理し炭素質繊維不織布Aを得た。得られた炭素質繊維不織布Aを窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で1800±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持し炭化を行って冷却し、さらに空気中700±50℃で質量収率90〜95%になるまで乾式酸化処理し、目付98g/m
2の炭素質繊維不織布Cを得た。 得られた炭素質繊維不織布Cの面間隔、結晶子サイズ、XPS表面分析結果、ラマン分光測定結果、水銀圧入法測定結果、電極性能を表1に示す。電極性能評価において、スペーサー厚は0.6mmに設定し、炭素質繊維不織布Cを単層にてV系電解液を用いて評価した。また、水銀圧入法より得られた細孔径の分布を示す細孔径分布曲線を
図4に示す。水銀圧入法より得られた細孔径分布データから、細孔径0.2〜2μmの範囲の細孔の合計の容積を算出したところ、0.0039cc/gであった。
【0065】
(実施例3) 平均繊維径16μmのポリアクリロニトリル繊維を空気中200〜300℃で耐炎化した。その後、該耐炎化繊維の短繊維(長さ約80mm)を用いてフェルト針SB#40(Foster Needle社)、パンチング密度250本/cm
2でフェルト化して目付量300g/m
2、厚み3.2mmの不織布を作製した。該不織布を、210±10℃で45kgf/cm
2のプレス圧にて厚みを0.9±0.1mmに調整後、窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で950±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持し炭化を行って冷却し、さらに空気中550±50℃で質量収率50〜95%になるまで乾式酸化処理し炭素質繊維不織布Aを得た。得られた炭素質繊維不織布Aを窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で2000±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持し炭化を行って冷却し、さらに空気中700±50℃で質量収率90〜95%になるまで乾式酸化処理し、目付100g/m
2の炭素質繊維不織布Dを得た。 得られた炭素質繊維不織布Dの面間隔、結晶子サイズ、XPS表面分析結果、ラマン分光測定結果、水銀圧入法測定結果、電極性能を表1に示す。電極性能評価において、スペーサー厚は0.6mmに設定し、炭素質繊維不織布Dを単層にてV系電解液を用いて評価した。また、水銀圧入法より得られた細孔径の分布を示す細孔径分布曲線を
図5に示す。水銀圧入法より得られた細孔径分布データから、細孔径0.2〜2μmの範囲の細孔の合計の容積を算出したところ、0.004cc/gであった。
【0066】
(比較例1) 平均繊維径16μmのポリアクリロニトリル繊維を空気中200〜300℃で耐炎化した。その後、該耐炎化繊維の短繊維(長さ約80mm)を用いてフェルト針SB#40(Foster Needle社)、パンチング密度250本/cm
2でフェルト化して目付量300g/m
2、厚み3.2mmの不織布を作製した。該不織布を、210±10℃で45kgf/cm
2のプレス圧にて厚みを0.9±0.1mmに調整後、窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で1500±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持し炭化を行って冷却し、さらに空気中700±50℃で質量収率90〜95%になるまで乾式酸化処理し、目付161g/m
2の炭素質繊維不織布Eを得た。 得られた炭素質繊維不織布Eの面間隔、結晶子サイズ、XPS表面分析結果、ラマン分光測定結果、水銀圧入法測定結果、電極性能を表1に示す。電極性能評価において、スペーサー厚は0.6mmに設定し、炭素質繊維不織布Eを単層にてV系電解液を用いて評価した。また、水銀圧入法より得られた細孔径の分布を示す細孔径分布曲線を
図3に示す。水銀圧入法より得られた細孔径分布データでは、細孔径0.2〜2μmの範囲の細孔は無かった(合計の容積は0.0000cc/g)。
【0067】
(比較例2) 平均繊維径16μmのポリアクリロニトリル繊維を空気中200〜300℃で耐炎化した。その後、該耐炎化繊維の短繊維(長さ約80mm)を用いてフェルト針SB#40(Foster Needle社)、パンチング密度250本/cm
2でフェルト化して目付量300g/m
2、厚み3.2mmの不織布を作製した。該不織布を、210±10℃で45kgf/cm
2のプレス圧にて厚みを0.9±0.1mmに調整後、窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で1800±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持し炭化を行って冷却し、さらに空気中700±50℃で質量収率90〜95%になるまで乾式酸化処理し、目付153g/m
2の炭素質繊維不織布Fを得た。 得られた炭素質繊維不織布Fの面間隔、結晶子サイズ、XPS表面分析結果、ラマン分光測定結果、水銀圧入法測定結果、電極性能を表1に示す。電極性能評価において、スペーサー厚は0.6mmに設定し、炭素質繊維不織布Fを単層にてV系電解液を用いて評価した。また、水銀圧入法より得られた細孔径の分布を示す細孔径分布曲線を
図4に示す。水銀圧入法より得られた細孔径分布データでは、細孔径0.2〜2μmの範囲の細孔は無かった(合計の容積は0.0000cc/g)。
【0068】
(比較例3) 平均繊維径16μmのポリアクリロニトリル繊維を空気中200〜300℃で耐炎化した。その後、該耐炎化繊維の短繊維(長さ約80mm)を用いてフェルト針SB#40(Foster Needle社)、パンチング密度250本/cm
2でフェルト化して目付量300g/m
2、厚み3.2mmの不織布を作製した。該不織布を、210±10℃で45kgf/cm
2のプレス圧にて厚みを0.9±0.1mmに調整後、窒素ガス中で5℃/分の昇温速度で2000±50℃まで昇温し、この温度で1時間保持し炭化を行って冷却し、さらに空気中700±50℃で質量収率90〜95%になるまで乾式酸化処理し、目付157g/m
2の炭素質繊維不織布Gを得た。 得られた炭素質繊維不織布Gの面間隔、結晶子サイズ、XPS表面分析結果、ラマン分光測定結果、水銀圧入法測定結果、電極性能を表1に示す。電極性能評価において、スペーサー厚は0.6mmに設定し、炭素質繊維不織布Gを単層にてV系電解液を用いて評価した。また、水銀圧入法より得られた細孔径の分布を示す細孔径分布曲線を
図5に示す。水銀圧入法より得られた細孔径分布データでは、細孔径0.2〜2μmの範囲の細孔は無かった(合計の容積は0.0000cc/g)。
【0069】
【表1】