特許第6973079号(P6973079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6973079吸湿性に優れた海島型複合繊維、仮撚糸および繊維構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973079
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】吸湿性に優れた海島型複合繊維、仮撚糸および繊維構造体
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/14 20060101AFI20211111BHJP
   D02G 1/02 20060101ALI20211111BHJP
   D03D 15/37 20210101ALI20211111BHJP
【FI】
   D01F8/14 B
   D02G1/02 Z
   D03D15/00 B
【請求項の数】15
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2017-549104(P2017-549104)
(86)(22)【出願日】2017年6月30日
(86)【国際出願番号】JP2017024110
(87)【国際公開番号】WO2018012318
(87)【国際公開日】20180118
【審査請求日】2020年6月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-136660(P2016-136660)
(32)【優先日】2016年7月11日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-19577(P2017-19577)
(32)【優先日】2017年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 秀和
(72)【発明者】
【氏名】▲はま▼中 省吾
(72)【発明者】
【氏名】森岡 英樹
(72)【発明者】
【氏名】堤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】望月 克彦
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第99/049112(WO,A1)
【文献】 特開2014−227633(JP,A)
【文献】 特開2016−069770(JP,A)
【文献】 特開平08−035121(JP,A)
【文献】 特開平04−361615(JP,A)
【文献】 特開平06−287815(JP,A)
【文献】 特開2002−155426(JP,A)
【文献】 特開2004−277911(JP,A)
【文献】 特開平10−046433(JP,A)
【文献】 特開2000−239918(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/060985(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00−8/18
D01D 1/00−13/02
D02G 1/02
D03D 15/00
D04B 1/16
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海成分がポリエステルであり、島成分が吸湿性を有するポリマーであり、吸湿性を有するポリマーが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなるポリエステルに、ポリエーテルを共重合成分とするポリエーテルエステルであり、繊維横断面において、最外層厚みTと繊維直径Rの比(T/R)が0.05〜0.25であり、熱水処理後の吸湿率差(ΔMR)が2.0〜10.0%であることを特徴とする海島型複合繊維。なお、最外層厚みとは、繊維の半径と、最外周に配置された島成分の頂点を結んだ外接円の半径との差であり、最外層に存在する海成分の厚みを表す。
【請求項2】
最外層厚みTが500〜3000nmであることを特徴とする請求項1記載の海島型複合繊維。
【請求項3】
繊維横断面における島成分の直径rが10〜5000nmであることを特徴とする請求項1または2記載の海島型複合繊維。
【請求項4】
繊維横断面において、島成分が2〜100周に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の海島型複合繊維。
【請求項5】
繊維横断面の中心を通るよう配置された島成分の直径r1と、他の島成分の直径r2の比(r1/r2)が1.1〜10.0であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の海島型複合繊維。
【請求項6】
最外周に配置された島成分において、繊維横断面の中心側の形状が非円形であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の海島型複合繊維。
【請求項7】
海成分/島成分の複合比率(重量比)が50/50〜90/10であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の海島型複合繊維。
【請求項8】
ポリエーテルが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールからなる群から選択される少なくとも一つのポリエーテルであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の海島型複合繊維。
【請求項9】
ポリエーテルの数平均分子量が2000〜30000g/molであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の海島型複合繊維。
【請求項10】
ポリエーテルの共重合率が10〜60重量%であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項記載の海島型複合繊維。
【請求項11】
ポリエーテルエステルが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなるポリエステルに、ポリエーテル、および下記一般式(1)で表されるビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物を共重合成分とすることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項記載の海島型複合繊維。
【化1】

(ただし、n、mは2〜20の整数、n+mは4〜30)
【請求項12】
脂肪族ジオールが1,4−ブタンジオールであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項記載の海島型複合繊維。
【請求項13】
海成分がカチオン可染性ポリエステルであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項記載の海島型複合繊維。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の海島型複合繊維を2本以上撚り合わせた仮撚糸。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の海島型複合繊維および/または請求項14に記載の仮撚糸を少なくとも一部に用いることを特徴とする繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、島成分が吸湿性を有するポリマーであり、吸湿性に優れた海島型複合繊維に関する。より詳しくは、染色等の熱水処理において、島成分の吸湿性を有するポリマーの体積膨潤に伴う海成分の割れが抑制されているため、織物や編物などの繊維構造体とした際に染め斑や毛羽の発生が少なく、品位に優れるとともに、吸湿性を有するポリマーの溶出が抑制されているため、染色等の熱水処理後においても吸湿性に優れ、さらには、海成分がポリエステルの場合には、ポリエステル繊維本来のドライ感も併せ持ち、衣料用途に好適に使用できる海島型複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、安価であり、機械的特性やドライ感に優れているため、幅広い用途において用いられている。しかし、吸湿性に乏しいため、夏場の高湿時には蒸れ感の発生、冬場の低湿時には静電気の発生など、着用快適性の観点において解決すべき課題を有している。
【0003】
上記の欠点を改善するため、ポリエステル繊維へ吸湿性を付与する方法について、これまでに種々の提案がなされている。吸湿性を付与するための一般的な方法として、ポリエステルへの親水性化合物の共重合や親水性化合物の添加などが挙げられ、親水性化合物の一例としてポリエチレングリコールが挙げられる。
【0004】
例えば、特許文献1では、ポリエステルに対し、ポリエチレングリコールが共重合されたポリエステルを吸湿性ポリマーとして用いた繊維が提案されている。この提案では、吸湿性ポリマーを単独で繊維化し、ポリエステル繊維へ吸湿性を付与している。
【0005】
特許文献2では、芯にポリエチレングリコールが共重合されたポリエステル、鞘にポリエチレンテレフタレートを配置した芯鞘型複合繊維が提案されている。この提案では、芯に吸湿性ポリマーを配置することにより、ポリエステル繊維へ吸湿性を付与している。
【0006】
特許文献3では、島にポリエチレングリコールが共重合されたポリエステル、海にポリエチレンテレフタレートを配置した海島型複合繊維が提案されている。この提案では、島に吸湿性ポリマーを配置することにより、ポリエステル繊維へ吸湿性を付与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−104379号公報
【特許文献2】特開2001−172374号公報
【特許文献3】特開平8−198954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1記載の方法では、吸湿性ポリマーが繊維表面全体に露出しており、染色等の熱水処理時に吸湿性ポリマーの共重合成分であるポリエチレングリコールが溶出し、熱水処理後に吸湿性が低下するという課題があった。
【0009】
特許文献2記載の方法では、染色等の熱水処理時に芯成分の吸湿性ポリマーが体積膨潤することに伴い、鞘成分が割れ、染め斑や毛羽の発生により品位が低下するという課題があった。さらには、鞘成分が割れた部分を起点として芯成分の吸湿性ポリマーが溶出し、熱水処理後に吸湿性が低下するという課題があった。
【0010】
特許文献3記載の方法では、繊維横断面において、繊維直径に対する最外層の海成分の厚みが小さいため、染色等の熱水処理時に島成分の吸湿性ポリマーが体積膨潤することに伴い、海成分が割れ、特許文献2記載の方法と同様に、染め斑や毛羽の発生により品位が低下するという課題があった。さらには、海成分が割れた部分を起点として島成分の吸湿性ポリマーが溶出し、熱水処理後に吸湿性が低下するという課題があった。
【0011】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、織物や編物などの繊維構造体とした際に染め斑や毛羽の発生が少なく、品位に優れるとともに、染色等の熱水処理後においても吸湿性に優れ、さらには、海成分がポリエステルの場合には、ポリエステル繊維本来のドライ感も併せ持ち、衣料用途に好適に採用できる海島型複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の本発明の課題は、海成分がポリエステルであり、島成分が吸湿性を有するポリマーであり、吸湿性を有するポリマーが、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなるポリエステルに、ポリエーテルを共重合成分とするポリエーテルエステルであり、繊維横断面において、最外層厚みTと繊維直径Rの比(T/R)が0.05〜0.25であり、熱水処理後の吸湿率差(ΔMR)が2.0〜10.0%であることを特徴とする海島型複合繊維によって解決することができる。なお、最外層厚みとは、繊維の半径と、最外周に配置された島成分の頂点を結んだ外接円の半径との差であり、最外層に存在する海成分の厚みを表す。
【0013】
また、最外層厚みTが500〜3000nmであること、繊維横断面における島成分の直径rが10〜5000nmであることが好ましい。
【0014】
さらには、繊維横断面において、島成分が2〜100周に配置されていること、繊維横断面の中心を通るよう配置された島成分の直径r1と、他の島成分の直径r2の比(r1/r2)が1.1〜10.0であること、最外周に配置された島成分において、繊維横断面の中心側の形状が非円形であること、海成分/島成分の複合比率(重量比)が50/50〜90/10であることが好適に採用できる。
【0015】
前記島成分の吸湿性を有するポリマーは共重合成分としてポリエーテルを含むポリエーテルエステルでる。また、ポリエーテルが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールからなる群から選択される少なくとも一つのポリエーテルであることが好ましく、ポリエーテルの数平均分子量が2000〜30000g/molであること、ポリエーテルの共重合率が10〜60重量%であることが好適に採用できる。
【0016】
前記ポリエーテルエステルは芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを主たる構成成分とし、ポリエーテルを共重合成分とする。ポリエーテルおよび下記一般式(1)で表されるビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物を共重合成分とすることが好ましく、脂肪族ジオールが1,4−ブタンジオールであることが好ましい。
【0017】
【化1】
【0018】
(ただし、m、nは2〜20の整数、m+nは4〜30)。
【0019】
さらには、前記海島型複合繊維の海成分はカチオン可染性ポリエステルであることが好ましい。
【0020】
本発明の仮撚糸は海島型複合繊維を2本以上撚り合わせてなるものであり、前記海島型複合繊維および/または前記仮撚糸を少なくとも一部に用いることを特徴とする繊維構造体に好適に採用できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、染色等の熱水処理において、島成分の吸湿性を有するポリマーの体積膨潤に伴う海成分の割れが抑制されているため、織物や編物などの繊維構造体とした際に染め斑や毛羽の発生が少なく、品位に優れる。また、吸湿性を有するポリマーの溶出が抑制されているため、染色等の熱水処理後においても吸湿性に優れ、さらには、海成分がポリエステルの場合には、ポリエステル繊維本来のドライ感も併せ持つ海島型複合繊維を提供することができるため、特に衣料用途において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、(a)〜(m)が本発明の海島型複合繊維の断面形状の一例を示す図である。
図2図2は、本発明の海島型複合繊維の製造方法で用いる海島複合口金の一例であって、図2(a)は海島複合口金を構成する主要部分の正断面図、図2(b)は分配プレートの一部の横断面図、図2(c)は吐出プレートの横断面図である。
図3図3は、分配プレートの一例の一部である。
図4図4は、分配プレートにおける分配溝および分配孔配置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の海島型複合繊維は、島成分が吸湿性を有するポリマーであり、繊維横断面において、最外層厚みTと繊維直径Rの比(T/R)が0.05〜0.25であり、熱水処理後の吸湿率差(ΔMR)が2.0〜10.0%である。なお、最外層厚みとは、繊維の半径と、最外周に配置された島成分の頂点を結んだ外接円の半径との差であり、最外層に存在する海成分の厚みを表す。
【0024】
一般的に、吸湿性を有するポリマー(以下、単に吸湿性ポリマーと称する場合もある)は、染色等の熱水処理によって体積膨潤しやすく、また、熱水へ溶出しやすいという性質を有している。そのため、吸湿性ポリマーを単独で繊維化した場合には、熱水処理によって吸湿性ポリマーが溶出し、溶出した部分が染め斑や毛羽の原因となり、品位が低下するという課題がある。また、吸湿性ポリマーが、親水性の共重合成分を共重合したポリマーである場合には、熱水処理によって親水性の共重合成分が溶出し、熱水処理後に吸湿性が低下するという課題もある。
【0025】
これに対し、芯に吸湿性ポリマーを配置した芯鞘型複合繊維では、染色等の熱水処理によって芯に配置した吸湿性ポリマーが体積膨潤し、芯成分と鞘成分の界面に応力集中した結果、鞘成分の割れが生じる。この鞘成分の割れが原因となり、染め斑や毛羽が発生し、品位が低下するという課題がある。さらには、鞘成分が割れた部分を起点として、芯に配置した吸湿性ポリマーが溶出し、熱水処理後に吸湿性が低下するという別の課題も引き起こす。
【0026】
島に吸湿性ポリマーを配置した海島型複合繊維においても、芯鞘型複合繊維と同様の課題が生じる。従来の海島型複合繊維は、例えば、特開2007−100243号公報に開示されている従来公知のパイプ型海島複合口金により得ることができるが、最外層の海成分の厚みは150nm程度が技術の限界である。すなわち、芯鞘型複合繊維の鞘成分の厚みと比べ、海島型複合繊維の最外層の海成分の厚みは非常に薄いため、染色等の熱水処理によって島に配置した吸湿性ポリマーの体積膨潤により、容易に海成分の割れが生じる。この海成分の割れが原因で染め斑や毛羽が発生し、品位が低下するとともに、海成分が割れた部分を起点として、島に配置した吸湿性ポリマーが溶出し、熱水処理後に吸湿性が低下する。
【0027】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、吸湿性ポリマーの分散配置により、体積膨潤に伴う応力を分散させ、かつ最外層厚みTと繊維直径Rの比(T/R)を特定の範囲にした場合に初めて、上記課題の全てを解決し、熱水処理後においても高品位かつ高い吸湿性を発現する海島型複合繊維を得ることに成功した。
【0028】
本発明の海島型複合繊維の島成分は、吸湿性を有するポリマーである。本発明において、吸湿性を有するポリマーとは、吸湿率差(ΔMR)が2.0〜30.0%のポリマーである。本発明における吸湿率差(△MR)とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。吸湿性ポリマーのΔMRが2.0%以上であれば、海成分との複合により、吸湿性に優れた海島型複合繊維を得ることができる。吸湿性ポリマーの△MRは5.0%以上であることがより好ましく、7.0%以上であることが更に好ましく、10.0%以上であることが特に好ましい。一方、吸湿性ポリマーの△MRが30.0%以下であれば、工程通過性や取り扱い性が良好であり、海島型複合繊維とした後の使用における耐久性にも優れるので好ましい。
【0029】
本発明の海島型複合繊維の島成分の具体例として、ポリエーテルエステル、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミド、ポリアミド、熱可塑性セルロース誘導体、ポリビニルピロリドンなどの吸湿性ポリマーが挙げられるが、なかでも、共重合成分としてポリエーテルを含むポリエーテルエステル、ポリエーテルアミド、ポリエーテルエステルアミドは吸湿性に優れるため好ましく、特にポリエーテルエステルは耐熱性に優れ、得られる海島型複合繊維の機械的特性や色調が良好であるため好ましい。これらの吸湿性ポリマーは2種以上を併用してもよい。また、これらの吸湿性ポリマーと、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどをブレンドしたものを、吸湿性ポリマーとして用いてもよい。
【0030】
前記吸湿性ポリマーの共重合成分のポリエーテルの具体例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどの単独重合体、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコール−ポリブチレングリコール共重合体などの共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールは、製造時ならびに使用時の取り扱い性が良好であるため好ましく、特にポリエチレングリコールは吸湿性に優れるため好ましい。
【0031】
前記ポリエーテルの数平均分子量は、2000〜30000g/molであることが好ましい。ポリエーテルの数平均分子量が2000g/mol以上であれば、ポリエーテルを共重合することにより得られる吸湿性ポリマーの吸湿性が高く、島成分として用いた場合に吸湿性に優れた海島型複合繊維が得られるため好ましい。ポリエーテルの数平均分子量は3000g/mol以上であることがより好ましく、5000g/mol以上であることが更に好ましい。一方、ポリエーテルの数平均分子量が30000g/mol以下であれば、重縮合反応性が高く、未反応のポリエチレングリコールを低減することができ、染色等の熱水処理時に熱水への島成分の吸湿性ポリマーの溶出が抑制され、熱水処理後においても吸湿性を維持できるため好ましい。ポリエーテルの数平均分子量は25000g/mol以下であることがより好ましく、20000g/mol以下であることが更に好ましい。
【0032】
前記ポリエーテルの共重合率は、10〜60重量%であることが好ましい。ポリエーテルの共重合率が10重量%以上であれば、ポリエーテルを共重合することにより得られる吸湿性ポリマーの吸湿性が高く、島成分として用いた場合に吸湿性に優れた海島型複合繊維が得られるため好ましい。ポリエーテルの共重合率は20重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることが更に好ましい。一方、ポリエーテルの共重合率が60重量%以下であれば、未反応のポリエチレングリコールを低減することができ、染色等の熱水処理時に熱水への島成分の吸湿性ポリマーの溶出が抑制され、熱水処理後においても吸湿性を維持できるため好ましい。ポリエーテルの共重合率は55重量%以下であることがより好ましく、50重量%以下であることが更に好ましい。
【0033】
前記ポリエーテルエステルは、耐熱性および機械的特性の観点から、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを主たる構成成分とし、ポリエーテルを共重合成分とすること、もしくは芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを主たる構成成分とし、ポリエーテルおよび下記一般式(1)で表されるビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物を共重合成分とすることが好ましい。
【0034】
【化1】
【0035】
(ただし、m、nは2〜20の整数、m+nは4〜30)。
【0036】
上記芳香族ジカルボン酸の具体例として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、5−(テトラアルキル)ホスホニウムスルホイソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
上記脂肪族ジオールの具体例として、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールは、製造時ならびに使用時の取り扱い性が良好であるため好ましく、耐熱性および機械的特性の観点においてはエチレングリコールが好適に採用でき、結晶性の観点においては1,4−ブタンジオールが好適に採用できる。
【0038】
前記ポリエーテルエステルが、ポリエーテルおよび上記一般式(1)で表されるビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物を共重合成分とする場合、ポリエーテルエステルの成形加工性が良好となり、得られる海島型複合繊維の機械的特性が高く、かつ繊度斑の発生を抑制でき、染め斑や毛羽が少なく、品位が良好となるため好ましい。
【0039】
上記一般式(1)で表されるビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物は、m+nが4〜30であることが好ましい。m+nが4以上であれば、ポリエーテルエステルの成形加工性が良好となり、得られる海島型複合繊維の繊度斑の発生を抑制でき、染め斑や毛羽が少なく、品位が良好となるため好ましい。一方、m+nが30以下であれば、ポリエーテルエステルの耐熱性や色調が良好であり、得られる海島型複合繊維の機械的特性や色調が良好であるため好ましい。m+nは20以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましい。
【0040】
上記一般式(1)で表されるビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物の具体例として、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物は、製造時ならびに使用時の取り扱い性が良好であるため好ましく、耐熱性および機械的特性の観点においても好適に採用できる。
【0041】
ポリエーテルおよび上記一般式(1)で表されるビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物を共重合成分とする場合、ポリエーテルの共重合率は10〜45重量%であり、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物の共重合率は10〜30重量%であることが好ましい。ポリエーテルの共重合率が10重量%以上であれば、ポリエーテルを共重合することにより得られる吸湿性ポリマーの吸湿性が高く、島成分として用いた場合に吸湿性に優れた海島型複合繊維が得られるため好ましい。ポリエーテルの共重合率は20重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることが更に好ましい。一方、ポリエーテルの共重合率が45重量%以下であれば、未反応のポリエチレングリコールを低減することができ、染色等の熱水処理時に熱水への島成分の吸湿性ポリマーの溶出が抑制され、熱水処理後においても吸湿性を維持できるため好ましい。ポリエーテルの共重合率は40重量%以下であることがより好ましく、35重量%以下であることが更に好ましい。また、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物の共重合率が10重量%以上であれば、ポリエーテルエステルの成形加工性が良好となり、得られる海島型複合繊維の繊度斑の発生を抑制でき、染め斑や毛羽が少なく、品位が良好となるため好ましい。ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物の共重合率は12重量%以上であることがより好ましく、14重量%以上であることが更に好ましい。一方、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物の共重合率が30重量%以下であれば、ポリエーテルエステルの耐熱性や色調が良好であり、得られる海島型複合繊維の機械的特性や色調が良好であるため好ましい。ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物の共重合率は25重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることが更に好ましい。
【0042】
本発明の海島型複合繊維の島成分は、結晶性を有するポリマーであることが好ましい。島成分が結晶性を有していれば、実施例記載の方法による補外融解開始温度の測定において、結晶の融解に伴う融解ピークが観測される。島成分が結晶性を有していれば、染色等の熱水処理時に熱水への島成分の吸湿性ポリマーの溶出が抑制されるため、熱水処理後においても吸湿性を維持できるため好ましい。
【0043】
本発明の海島型複合繊維の海成分は、結晶性を有していることが好ましい。海成分が結晶性を有していれば、実施例記載の方法による補外融解開始温度の測定において、結晶の融解に伴う融解ピークが観測される。海成分が結晶性を有していれば、延伸や仮撚工程における加熱ローラーや加熱ヒーターとの接触に伴う繊維同士の融着が抑制されるため、加熱ローラーや加熱ヒーター、ガイド上の堆積物や糸切れ、毛羽の発生が少なく、工程通過性が良好であるとともに、織物や編物などの繊維構造体とした際に染め斑や毛羽の発生が少なく、品位に優れるため好ましい。また、染色等の熱水処理時に熱水への海成分の溶出が抑制されるため好ましい。
【0044】
本発明の海島型複合繊維の海成分の具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、ポリエステルは、機械的特性や耐久性に優れるため好ましい。また、海成分がポリエステルやポリオレフィンなどの疎水性ポリマーの場合には、島成分の吸湿性ポリマーによる吸湿性と、海成分の疎水性ポリマーによるドライ感を両立でき、着用快適性に優れた繊維構造体を得られるため好ましい。
【0045】
本発明の海島型複合繊維の海成分に関する前記ポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステルなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートは、機械的特性や耐久性に優れ、製造時ならびに使用時の取り扱い性が良好であるため好ましい。また、ポリエチレンテレフタレートはポリエステル繊維特有のハリ、コシ感が得られるため好ましく、ポリブチレンテレフタレートは結晶性が高いため好ましい。
【0046】
本発明の海島型複合繊維の海成分は、カチオン可染性ポリエステルであることが好ましい。ポリエステルがスルホン酸基などのアニオン部位を有していれば、カチオン部位を有するカチオン染料との相互作用により、カチオン可染性を有する。海成分がカチオン可染性ポリエステルであれば、鮮明な発色性を示すとともに、ポリウレタン繊維との混用において染料汚染を防止できるため好ましい。カチオン可染性ポリエステルの共重合成分の具体例として、5−スルホイソフタル酸金属塩があり、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、リチウム塩、ナトリウム塩が好ましく、特にナトリウム塩が結晶性に優れるため、好適に採用できる。
【0047】
本発明の海島型複合繊維は、海成分および/または島成分に副次的添加物を加えて種々の改質が行われたものであってもよい。副次的添加剤の具体例として、相溶化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、離型剤、抗菌剤、核形成剤、熱安定剤、帯電防止剤、着色防止剤、調整剤、艶消し剤、消泡剤、防腐剤、ゲル化剤、ラテックス、フィラー、インク、着色料、染料、顔料、香料などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの副次的添加物は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
【0048】
本発明の海島型複合繊維の補外融解開始温度は、150〜300℃であることが好ましい。本発明における海島型複合繊維の補外融解開始温度とは、実施例記載の方法で算出される値を指す。なお、融解ピークが複数観測された場合には、最も低温側の融解ピークから補外融解開始温度を算出した。海島型複合繊維の補外融解開始温度が150℃以上であれば、延伸や仮撚工程における加熱ローラーや加熱ヒーターとの接触に伴う繊維同士の融着が抑制されるため、加熱ローラーや加熱ヒーター、ガイド上の堆積物や糸切れ、毛羽の発生が少なく、工程通過性が良好であるとともに、織物や編物などの繊維構造体とした際に染め斑や毛羽の発生が少なく、品位に優れるため好ましい。海島型複合繊維の補外融解開始温度は170℃以上であることがより好ましく、190℃以上であることが更に好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。一方、海島型複合繊維の補外融解開始温度が300℃以下であれば、溶融紡糸工程において、熱劣化に伴う黄変が抑制され、色調が良好な海島型複合繊維が得られるため好ましい。
【0049】
本発明の海島型複合繊維は、繊維横断面において、最外層厚みTと繊維直径Rの比(T/R)が0.05〜0.25である。本発明における最外層厚みとは、繊維の半径と、最外周に配置された島成分の頂点を結んだ外接円の半径との差であり、最外層に存在する海成分の厚みを表す。本発明における最外層厚みTと繊維直径Rの比(T/R)とは、実施例記載の方法で算出される値を指す。海島型複合繊維のT/Rが0.05以上であれば、繊維直径に対する最外層の厚みが十分確保されるため、染色等の熱水処理によって、島に配置した吸湿性ポリマーの体積膨潤に伴う海成分の割れを抑制することができ、海成分の割れに起因した染め斑や毛羽の発生が少なく、品位に優れ、かつ吸湿性ポリマーの溶出が抑制され、熱水処理後においても高い吸湿性を発現する。また、海成分の染色により、十分な発色性を得ることができ、発色性の点においても、高品位の繊維ならびに繊維構造体を得ることができる。海島型複合繊維のT/Rは0.07以上であることがより好ましく、0.09以上であることが更に好ましく、0.10以上であることが特に好ましい。一方、海島型複合繊維のT/Rが0.25以下であれば、繊維直径に対する最外層の厚みによって、島に配置した吸湿性ポリマーの体積膨潤が損なわれず、吸湿性ポリマーによる吸湿性が発現し、吸湿性の高い繊維ならびに繊維構造体を得ることができる。海島型複合繊維のT/Rは0.22以下であることがより好ましく、0.20以下であることが更に好ましい。
【0050】
本発明の海島型複合繊維の最外層厚みTは、500〜3000nmであることが好ましい。本発明における最外層厚みTとは、実施例記載の方法で算出される値を指す。海島型複合繊維の最外層厚みTが500nm以上であれば、最外層の厚みが十分確保されるため、染色等の熱水処理によって、島に配置した吸湿性ポリマーの体積膨潤に伴う海成分の割れを抑制することができ、海成分の割れに起因した染め斑や毛羽の発生が少なく、品位に優れ、かつ吸湿性ポリマーの溶出が抑制され、熱水処理後においても高い吸湿性を発現するため好ましい。また、海成分の染色により、十分な発色性を得ることができ、発色性の点においても、高品位の繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。海島型複合繊維の最外層厚みTは700nm以上であることがより好ましく、800nm以上であることが更に好ましく、1000nm以上であることが特に好ましい。一方、海島型複合繊維の最外層厚みTが3000nm以下であれば、繊維直径に対する最外層の厚みによって、島に配置した吸湿性ポリマーの体積膨潤が損なわれず、吸湿性ポリマーによる吸湿性が発現し、吸湿性の高い繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。海島型複合繊維の最外層厚みTは2500nm以下であることがより好ましく、2000nm以下であることが更に好ましい。
【0051】
本発明の海島型複合繊維の島数は、3〜10000個であることが好ましい。海島型複合繊維の島数が3個以上であれば、島成分である吸湿性ポリマーの分散配置により、染色等の熱水処理において吸湿性ポリマーの体積膨潤により発生する応力を分散する効果が発現するため、従来の芯鞘型複合繊維の課題であった応力集中に起因した鞘成分の割れを抑制できるため好ましい。海島型複合繊維の島数は6個以上であることがより好ましく、12個以上であることが更に好ましく、20個以上であることが特に好ましい。一方、海島型複合繊維の島数が10000個以下であれば、繊維横断面において島成分の配置を精密に制御することができ、風合いや発色性の観点から高品位の繊維ならびに繊維構造体を得ることができるため好ましい。海島型複合繊維の島数は5000個以下であることがより好ましく、1000個以下であることが更に好ましい。
【0052】
本発明の海島型複合繊維は、繊維横断面における島成分の直径rが10〜5000nmであることが好ましい。本発明における島成分の直径rとは、実施例記載の方法で算出される値を指す。繊維横断面における島成分の直径rが10nm以上であれば、繊維横断面へ分散配置した島成分の吸湿性ポリマーによる吸湿性が発現するため好ましい。海島型複合繊維の繊維横断面における島成分の直径rは100nm以上であることがより好ましく、500nm以上であることが更に好ましい。一方、繊維横断面における島成分の直径rが5000nm以下であれば、染色等の熱水処理によって、島に配置した吸湿性ポリマーの体積膨潤により発生する応力を低減することができ、海成分の割れを抑制することができるため好ましい。海島型複合繊維の繊維横断面における島成分の直径rは3000nm以下であることがより好ましく、2000nm以下であることが更に好ましい。
【0053】
本発明の海島型複合繊維は、繊維横断面において、島成分が2〜100周に配置されていることが好ましい。本発明では、繊維横断面において同心円状に配置されている島成分を1周と定義し、直径の異なる同心円の数が周数となる。なお、繊維横断面の中心に1つの島成分が配置されている場合には、中心に配置された1つの島成分で1周と定義する。図1(a)〜(m)は本発明の海島型複合繊維の断面形状の一例であり、それぞれ島成分が、図1(b)、(c)では1周、図1(a)、(d)、(h)、(i)、(j)、(k)、(m)では2周、図1(e)、(g)、(l)では3周、図1(f)では7周に配置されている。当業者らは、染色等の熱水処理において吸湿性ポリマーの体積膨潤により発生する応力について、繊維横断面における応力分布の詳細な解析により、芯鞘型複合繊維では芯成分と鞘成分との界面で応力が最大となり、図1(b)、(c)のように島成分を1周に配置した海島型複合繊維では、島成分の繊維表層側と海成分との界面で応力が最大となる結果を得た。すなわち、芯鞘型複合繊維では、芯成分の吸湿性ポリマーの体積膨潤に伴い、応力が最大となる芯成分と鞘成分の界面に亀裂が生じ、この亀裂が繊維表層まで伝播することで、鞘成分の割れが生じることがわかった。同様に、島成分を1周に配置した海島型複合繊維では、島成分の吸湿性ポリマーの体積膨潤に伴い、応力が最大となる島成分の繊維表層側と海成分の界面に亀裂が生じ、この亀裂が繊維表層まで伝播することで、海成分の割れが引き起こされる。これに対し、繊維横断面において、島成分を2周以上に配置した海島型複合繊維では、最外周に配置した島成分の繊維内層側と、最外周より1周内側に配置した島成分の繊維表層側との間で応力が最大となり、繊維表層への亀裂の伝播が遮断され、海成分の割れが抑制されるため好ましい。海島型複合繊維の繊維横断面において、島成分が3周以上に配置されていることがより好ましく、4周以上に配置されていることが更に好ましい。一方、島成分が100周以下に配置されていれば、隣接する島成分と島成分の間に間隔を設けることができるため、吸湿に伴い、島成分の吸湿ポリマーが体積膨潤することができ、吸湿性に優れる海島型複合繊維が得られるため好ましい。
【0054】
本発明の海島型複合繊維は、繊維横断面の中心を通るよう配置された島成分の直径r1と、他の島成分の直径r2の比(r1/r2)が1.1〜10.0であることが好ましい。本発明における繊維横断面の中心を通るよう配置された島成分の直径r1と、他の島成分の直径r2の比(r1/r2)とは、実施例記載の方法で算出される値を指す。繊維横断面の中心を通るよう配置された島成分の直径r1よりも、他の島成分の直径r2の方が小さい場合、r1/r2は1.0より大きくなり、この場合の海島型複合繊維の断面形状の一例として図1(k)〜(m)が挙げられる。海島型複合繊維のr1/r2が1.1以上であれば、繊維横断面の中心を通るよう配置された島成分の直径r1よりも、他の島成分の直径r2の方が小さいため、繊維表層に近い島成分の吸湿性ポリマーの体積膨潤により発生する応力を低減することができ、海成分の割れを抑制できるため好ましい。海島型複合繊維のr1/r2は1.2以上であることがより好ましく、1.5以上であることが更に好ましい。一方、海島型複合繊維のr1/r2が10.0以下であれば、繊維横断面の中心を通るよう配置された島成分の吸湿性ポリマーの体積膨潤により発生する応力を、他の島成分が吸収することができ、繊維表層への亀裂の伝播が遮断され、海成分の割れを抑制できるため好ましい。海島型複合繊維のr1/r2は7.0以下であることがより好ましく、5.0以下であることが更に好ましい。
【0055】
本発明の海島型複合繊維は、繊維横断面における島成分の形状に関して特に制限がなく、真円状の円形断面であってもよく、非円形断面であってもよい。非円形断面の具体例として、多葉形、多角形、扁平形、楕円形などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、島成分が真円状の円形断面の場合、島に配置した吸湿性ポリマーが体積膨潤する際に、円周上に均等に応力が発生し、応力集中しないため、海成分の割れを抑制できるため好ましい。また、最外周に配置された島成分において、繊維横断面の中心側の形状が非円形であることが好ましい。この場合、最外周に配置された島成分において、繊維の表層側ではなく、繊維の中心側の非円形の部分に応力が集中するため、繊維表層への海成分の割れが抑制できるため好ましい。
【0056】
本発明の海島型複合繊維の海成分/島成分の複合比率(重量比)は、50/50〜90/10であることが好ましい。本発明における海島型複合繊維の海成分/島成分の複合比率(重量比)とは、実施例記載の方法で算出される値を指す。海島型複合繊維の海成分の複合比率が50重量%以上であれば、海成分によるハリ、コシ感やドライな感触が得られるため好ましい。また、延伸時や仮撚時の外力による海成分の割れや、吸湿時や吸水時の島成分の吸湿性ポリマーの体積膨潤に伴う海成分の割れが抑制されるため、染め斑や毛羽の発生による品位の低下や、染色等の熱水処理時に熱水への島成分の吸湿性を有するポリマーの溶出による吸湿性の低下が抑制されるため好ましい。海島型複合繊維の海成分の複合比率は55重量%以上であることがより好ましく、60重量%以上であることが更に好ましい。一方、海島型複合繊維の海成分の複合比率が90重量%以下、すなわち島成分の複合比率が10重量%以上であれば、島成分の吸湿性ポリマーによる吸湿性が発現し、吸湿性に優れた海島型複合繊維が得られるため好ましい。海島型複合繊維の海成分の複合比率は85重量%以下であることがより好ましく、80重量%以下であることが更に好ましい。
【0057】
本発明の海島型複合繊維のマルチフィラメントとしての繊度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、10〜500dtexであることが好ましい。本発明における繊度とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。海島型複合繊維の繊度が10dtex以上であれば、糸切れが少なく、工程通過性が良好であることに加え、使用時に毛羽の発生が少なく、耐久性に優れるため好ましい。海島型複合繊維の繊度は30dtex以上であることがより好ましく、50dtex以上であることが更に好ましい。一方、海島型複合繊維の繊度が500dtex以下であれば、繊維ならびに繊維構造体の柔軟性を損なうことがないため好ましい。海島型複合繊維の繊度は400dtex以下であることがより好ましく、300dtex以下であることが更に好ましい。
【0058】
本発明の海島型複合繊維の単糸繊度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、0.5〜4.0dtexであることが好ましい。本発明における単糸繊度とは、実施例記載の方法で測定される繊度を単糸数で除した値を指す。海島型複合繊維の単糸繊度が0.5dtex以上であれば、糸切れが少なく、工程通過性が良好であることに加え、使用時に毛羽の発生が少なく、耐久性に優れるため好ましい。海島型複合繊維の単糸繊度は0.6dtex以上であることがより好ましく、0.8dtex以上であることが更に好ましい。一方、海島型複合繊維の単糸繊度が4.0dtex以下であれば、繊維ならびに繊維構造体の柔軟性を損なうことがないため好ましい。海島型複合繊維の単糸繊度は2.0dtex以下であることがより好ましく、1.5dtex以下であることが更に好ましい。
【0059】
本発明の海島型複合繊維の強度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、機械的特性の観点から2.0〜5.0cN/dtexであることが好ましい。本発明における強度とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。海島型複合繊維の強度が2.0cN/dtex以上であれば、使用時に毛羽の発生が少なく、耐久性に優れるため好ましい。海島型複合繊維の強度は2.5cN/dtex以上であることがより好ましく、3.0cN/dtex以上であることが更に好ましい。一方、海島型複合繊維の強度が5.0cN/dtex以下であれば、繊維ならびに繊維構造体の柔軟性を損なうことがないため好ましい。
【0060】
本発明の海島型複合繊維の伸度は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、耐久性の観点から10〜60%であることが好ましい。本発明における伸度とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。海島型複合繊維の伸度が10%以上であれば、繊維ならびに繊維構造体の耐摩耗性が良好となり、使用時に毛羽の発生が少なく、耐久性が良好となるため好ましい。海島型複合繊維の伸度は15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましい。一方、海島型複合繊維の伸度が60%以下であれば、繊維ならびに繊維構造体の寸法安定性が良好となるため好ましい。海島型複合繊維の伸度は55%以下であることがより好ましく、50%以下であることが更に好ましい。
【0061】
本発明の海島型複合繊維の熱水処理後の吸湿率差(△MR)は、2.0〜10.0%である。本発明における熱水処理後の吸湿率差(△MR)とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。△MRとは、軽い運動後の衣服内温湿度を想定した温度30℃、湿度90%RHにおける吸湿率と、外気温湿度として温度20℃、湿度65%RHにおける吸湿率の差である。すなわち、△MRは吸湿性の指標であり、△MRの値が高いほど着用快適性が向上する。本発明の吸湿率差(ΔMR)は熱水処理後の値であり、染色等の熱水処理後においても吸湿性が発現していることを表す点で非常に重要である。海島型複合繊維の熱水処理後の△MRが2.0%以上であれば、衣服内の蒸れ感が少なく、着用快適性が発現する。海島型複合繊維の熱水処理後の△MRは2.5%以上であることがより好ましく、3.0%以上であることが更に好ましく、4.0%以上であることが特に好ましい。一方、海島型複合繊維の熱水処理後の△MRが10.0%以下であれば、工程通過性や取り扱い性が良好であり、使用時の耐久性にも優れる。
【0062】
本発明の海島型複合繊維は、繊維の断面形状に関して特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができ、真円状の円形断面であってもよく、非円形断面であってもよい。非円形断面の具体例として、多葉形、多角形、扁平形、楕円形などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明の海島型複合繊維は、繊維の形態に関して特に制限がなく、モノフィラメント、マルチフィラメント、ステープルなどのいずれの形態であってもよい。
【0064】
本発明の海島型複合繊維は、一般の繊維と同様に仮撚や撚糸などの加工が可能であり、製織や製編についても一般の繊維と同様に扱うことができる。
【0065】
本発明の海島型複合繊維および/または仮撚糸からなる繊維構造体の形態は、特に制限がなく、公知の方法に従い、織物、編物、パイル布帛、不織布や紡績糸、詰め綿などにすることができる。また、本発明の海島型複合繊維および/または仮撚糸からなる繊維構造体は、いかなる織組織または編組織であってもよく、平織、綾織、朱子織あるいはこれらの変化織や、経編、緯編、丸編、レース編あるいはこれらの変化編などが好適に採用できる。
【0066】
本発明の海島型複合繊維は、繊維構造体にする際に交織や交編などによって他の繊維と組み合わせてもよいし、他の繊維との混繊糸とした後に繊維構造体としてもよい。
【0067】
次に、本発明の海島型複合繊維の製造方法を以下に示す。
【0068】
本発明の海島型複合繊維の製造方法として、公知の溶融紡糸方法、延伸方法、仮撚などの捲縮加工方法を用いることができる。
【0069】
本発明では溶融紡糸を行う前に、海成分、島成分を乾燥させ、含水率を300ppm以下としておくことが好ましい。含水率が300ppm以下であれば、溶融紡糸の際に加水分解による分子量低下や水分による発泡が抑制され、安定して紡糸を行うことができるため好ましい。含水率は100ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが更に好ましい。
【0070】
本発明では、事前に乾燥したチップをエクストルーダー型やプレッシャーメルター型などの溶融紡糸機へ供給して、海成分と島成分を別々に溶融し、計量ポンプで計量する。その後、紡糸ブロックにおいて加温した紡糸パックへ導入して、紡糸パック内で溶融ポリマーを濾過した後、後述する海島複合口金で海成分と島成分を合流させて海島構造として、紡糸口金から吐出して繊維糸条とする。
【0071】
本発明では、海島複合口金として、例えば、特開2007−100243号公報に開示されているパイプ群が配置された従来公知のパイプ型海島複合口金を用いて製造してもよい。しかしながら、従来のパイプ型海島複合口金では、最外層の海成分の厚みは150nm程度が技術の限界であり、本発明の必須要件である繊維横断面における最外層厚みTと繊維直径Rの比(T/R)を満たすことが困難である。そのため、本発明では、特開2011−174215号公報に記載の海島複合口金を用いた方法が好適に用いられる。
【0072】
本発明に用いる海島複合口金の一例として、図2〜4に示す部材で構成される海島複合口金について説明する。図2(a)〜(c)は、本発明に用いる海島複合口金の一例を模式的に説明するための説明図であって、図2(a)は海島複合口金を構成する主要部分の正断面図、図2(b)は分配プレートの一部の横断面図、図2(c)は吐出プレートの一部の横断面図である。図2(b)および図2(c)は図2(a)を構成する分配プレートおよび吐出プレートであって、図3は分配プレートの平面図、図4は本発明における分配プレートの一部の拡大図であり、それぞれが一つの吐出孔に関わる溝および孔として記載したものである。
【0073】
以下、複合ポリマー流が計量プレート、分配プレートを経て形成され、吐出プレートの吐出孔から吐出されるまでの過程を説明する。紡糸パック上流からポリマーA(島成分)とポリマーB(海成分)が、図2の計量プレートのポリマーA用計量孔(10−(a))およびポリマーB用計量孔(10−(b))に流入し、下端に穿設された孔絞りによって計量された後、分配プレートに流入される。分配プレートでは、計量孔10から流入したポリマーを合流するための分配溝11(図3:11−(a)、11−(b))とこの分配溝の下面にはポリマーを下流に流すための分配孔12(図4:12−(a)、12−(b))が穿設されている。また、複合ポリマー流の最外層に海成分であるポリマーBから構成される層を形成するため、図3に示すような分配孔を底面に穿設した環状溝16が設置される。
【0074】
この分配プレートから吐出されたポリマーAおよびポリマーBによって構成された複合ポリマー流は、吐出導入孔13から吐出プレート9に流入される。次に、複合ポリマー流は、所望の径を有した吐出孔に導入する間に縮小孔14によって、ポリマー流に沿って断面方向に縮小され、分配プレートで形成された断面形態を維持して、吐出孔15から吐出される。
【0075】
海島複合口金から吐出された繊維糸条は、冷却装置によって冷却固化し、第1ゴデットローラーで引き取り、第2ゴデットローラーを介してワインダーで巻き取り、巻取糸とする。なお、紡糸操業性、生産性、繊維の機械的特性を向上させるために、必要に応じて紡糸口金下部に2〜20cmの長さの加熱筒や保温筒を設置してもよい。また、給油装置を用いて繊維糸条へ給油してもよく、交絡装置を用いて繊維糸条へ交絡を付与してもよい。
【0076】
溶融紡糸における紡糸温度は、海成分、島成分の融点や耐熱性などに応じて適宜選択することができるが、240〜320℃であることが好ましい。紡糸温度が240℃以上であれば、紡糸口金より吐出された繊維糸条の伸長粘度が十分に低下するため吐出が安定し、さらには、紡糸張力が過度に高くならず、糸切れを抑制することができるため好ましい。紡糸温度は250℃以上であることがより好ましく、260℃以上であることが更に好ましい。一方、紡糸温度が320℃以下であれば、紡糸時の熱分解を抑制することができ、繊維の機械的特性の低下や着色を抑制できるため好ましい。紡糸温度は310℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることが更に好ましい。
【0077】
溶融紡糸における紡糸速度は、海成分、島成分の組成、紡糸温度などに応じて適宜選択することができる。一旦溶融紡糸を行って巻き取った後、別途、延伸または仮撚を行う二工程法の場合の紡糸速度は、500〜6000m/分であることが好ましい。紡糸速度が500m/分以上であれば、走行糸条が安定し、糸切れを抑制することができるため好ましい。二工程法の場合の紡糸速度は1000m/分以上であることがより好ましく、1500m/分以上であることが更に好ましい。一方、紡糸速度が6000m/分以下であれば、紡糸張力の抑制により糸切れなく、安定した紡糸を行うことができるため好ましい。二工程法の場合の紡糸速度は4500m/分以下であることがより好ましく、4000m/分以下であることが更に好ましい。また、一旦巻き取ることなく紡糸と延伸を同時に行う一工程法の場合の紡糸速度は、低速ローラーを500〜5000m/分、高速ローラーを2500〜6000m/分とすることが好ましい。低速ローラーおよび高速ローラーが上記の範囲内であれば、走行糸条が安定するとともに、糸切れを抑制することができ、安定した紡糸を行うことができるため好ましい。一工程法の場合の紡糸速度は低速ローラーを1000〜4500m/分、高速ローラーを3500〜5500m/分とすることがより好ましく、低速ローラーを1500〜4000m/分、高速ローラーを4000〜5000m/分とすることが更に好ましい。
【0078】
一工程法または二工程法により延伸を行う場合には、一段延伸法または二段以上の多段延伸法のいずれの方法によってもよい。延伸における加熱方法としては、走行糸条を直接的あるいは間接的に加熱できる装置であれば、特に限定されない。加熱方法の具体例として、加熱ローラー、熱ピン、熱板、温水、熱水などの液体浴、熱空、スチームなどの気体浴、レーザーなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらの加熱方法は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。加熱方法としては、加熱温度の制御、走行糸条への均一な加熱、装置が複雑にならない観点から、加熱ローラーとの接触、熱ピンとの接触、熱板との接触、液体浴への浸漬を好適に採用できる。
【0079】
延伸を行う場合の延伸温度は、海成分、島成分のポリマーの補外融解開始温度や、延伸後の繊維の強度、伸度などに応じて適宜選択することができるが、50〜150℃であることが好ましい。延伸温度が50℃以上であれば、延伸に供給される糸条の予熱が充分に行われ、延伸時の熱変形が均一となり、繊度斑の発生を抑制でき、染め斑や毛羽が少なく、品位が良好となるため好ましい。延伸温度は60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることが更に好ましい。一方、延伸温度が150℃以下であれば、加熱ローラーとの接触に伴う繊維同士の融着や熱分解を抑制することができ、工程通過性や品位が良好であるため好ましい。また、延伸ローラーに対する繊維の滑り性が良好となるため、糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。延伸温度は145℃以下であることがより好ましく、140℃以下であることが更に好ましい。また、必要に応じて60〜150℃の熱セットを行ってもよい。
【0080】
延伸を行う場合の延伸倍率は、延伸前の繊維の伸度や、延伸後の繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができるが、1.02〜7.0倍であることが好ましい。延伸倍率が1.02倍以上であれば、延伸によって繊維の強度や伸度などの機械的特性を向上させることができるため好ましい。延伸倍率は、1.2倍以上であることがより好ましく、1.5倍以上であることが更に好ましい。一方、延伸倍率が7.0倍以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。延伸倍率は6.0倍以下であることがより好ましく、5.0倍以下であることが更に好ましい。
【0081】
延伸を行う場合の延伸速度は、延伸方法が一工程法または二工程法のいずれであるかなどに応じて適宜選択することができる。一工程法の場合には、上記紡糸速度の高速ローラーの速度が延伸速度に相当する。二工程法により延伸を行う場合の延伸速度は、30〜1000m/分であることが好ましい。延伸速度が30m/分以上であれば、走行糸条が安定し、糸切れが抑制できるため好ましい。二工程法により延伸を行う場合の延伸速度は50m/分以上であることがより好ましく、100m/分以上であることが更に好ましい。一方、延伸速度が1000m/分以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。二工程法により延伸を行う場合の延伸速度は900m/分以下であることがより好ましく、800m/分以下であることが更に好ましい。
【0082】
仮撚加工を行う場合には、1段ヒーターのみ使用する、いわゆるウーリー加工以外に、1段ヒーターと2段ヒーターの両方を使用する、いわゆるブレリア加工を適宜選択することができる。ヒーターの加熱方法は、接触式、非接触式のいずれであってもよい。仮撚加工機の具体例として、フリクションディスク式、ベルトニップ式、ピン式などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
仮撚加工を行う場合のヒーター温度は、海成分、島成分のポリマーの補外融解開始温度などに応じて適宜選択することができるが、120〜210℃であることが好ましい。ヒーター温度が120℃以上であれば、仮撚加工に供給される糸条の予熱が充分に行われ、延伸に伴う熱変形が均一となり、繊度斑の発生を抑制でき、染め斑や毛羽が少なく、品位が良好となるため好ましい。ヒーター温度は140℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることが更に好ましい。一方、ヒーター温度が210℃以下であれば、加熱ヒーターとの接触に伴う繊維同士の融着や熱分解が抑制されるため、糸切れや加熱ヒーター等の汚れが少なく、工程通過性や品位が良好であるため好ましい。ヒーター温度は200℃以下であることがより好ましく、190℃以下であることが更に好ましい。
【0084】
仮撚加工を行う場合の延伸倍率は、仮撚加工前の繊維の伸度や、仮撚加工後の繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができるが、1.01〜2.5倍であることが好ましい。延伸倍率が1.01倍以上であれば、延伸によって繊維の強度や伸度などの機械的特性を向上させることができるため好ましい。延伸倍率は、1.2倍以上であることがより好ましく、1.5倍以上であることが更に好ましい。一方、延伸倍率が2.5倍以下であれば、仮撚加工時の糸切れが抑制され、安定した仮撚加工を行うことができるため好ましい。延伸倍率は2.2倍以下であることがより好ましく、2.0倍以下であることが更に好ましい。
【0085】
仮撚加工を行う場合の加工速度は、適宜選択することができるが、200〜1000m/分であることが好ましい。加工速度が200m/分以上であれば、走行糸条が安定し、糸切れが抑制できるため好ましい。加工速度は300m/分以上であることがより好ましく、400m/分以上であることが更に好ましい。一方、加工速度が1000m/分以下であれば、仮撚加工時の糸切れが抑制され、安定した仮撚加工を行うことができるため好ましい。加工速度は900m/分以下であることがより好ましく、800m/分以下であることが更に好ましい。
【0086】
本発明では、必要に応じて、繊維または繊維構造体のいずれの状態において染色してもよい。本発明では、染料として分散染料を好適に採用することができる。
【0087】
本発明における染色方法は、特に制限がなく、公知の方法に従い、チーズ染色機、液流染色機、ドラム染色機、ビーム染色機、ジッガー、高圧ジッガーなどを好適に採用することができる。
【0088】
本発明では、染料濃度や染色温度に関して特に制限がなく、公知の方法を好適に採用できる。また、必要に応じて、染色加工前に精練を行ってもよく、染色加工後に還元洗浄を行ってもよい。
【0089】
本発明の海島型複合繊維およびそれからなる仮撚糸、繊維構造体は、吸湿性に優れるものである。そのため、快適性や品位が要求される用途において好適に用いることができる。例えば、一般衣料用途、スポーツ衣料用途、寝具用途、インテリア用途、資材用途などが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は、以下の方法で求めた。
【0091】
A.海成分、島成分の吸湿率差(△MR)
海成分または島成分のポリマーを試料とし、始めに60℃で30分熱風乾燥した後、温度20℃、湿度65%RHに調湿されたエスペック製恒温恒湿機LHU−123内に24時間静置し、ポリマーの重量(W1)を測定後、温度30℃、湿度90%RHに調湿された恒温恒湿機内に24時間静置し、ポリマーの重量(W2)を測定した。その後、105℃で2時間熱風乾燥し、絶乾後のポリマーの重量(W3)を測定した。ポリマーの重量W1、W3を用いて下記式により絶乾状態から温度20℃、湿度65%RH雰囲気下に24時間静置したときの吸湿率MR1(%)を算出し、ポリマーの重量W2、W3を用いて下記式により絶乾状態から温度30℃、湿度90%RH雰囲気下に24時間静置したときの吸湿率MR2(%)を算出した後、下記式によって吸湿率差(△MR)を算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を吸湿率差(△MR)とした。
【0092】
MR1(%)={(W1−W3)/W3}×100
MR2(%)={(W2−W3)/W3}×100
吸湿率差(△MR)(%)=MR2−MR1 。
【0093】
B.補外融解開始温度
海成分、島成分のポリマーおよび実施例によって得られた繊維を試料とし、TAインスツルメント製示差走査熱量計(DSC)Q2000型を用いて、補外融解開始温度を測定した。始めに、窒素雰囲気下で試料約5mgを0℃から280℃まで昇温速度50℃/分で昇温後、280℃で5分間保持して試料の熱履歴を取り除いた。その後、280℃から0℃まで急冷した後、再度0℃から280℃まで昇温速度3℃/分、温度変調振幅±1℃、温度変調周期60秒で昇温し、TMDSC測定を行った。JIS K7121:1987(プラスチックの転移温度測定方法)9.1に準じて、2回目の昇温過程中に観測された融解ピークより補外融解開始温度を算出した。測定は1試料につき3回行い、その平均値を補外融解開始温度とした。なお、融解ピークが複数観測された場合には、最も低温側の融解ピークから補外融解開始温度を算出した。
【0094】
C.海/島複合比率
海島型複合繊維の原料として用いた海成分の重量と島成分の重量から、海/島複合比率(重量比)を算出した。
【0095】
D.繊度
温度20℃、湿度65%RHの環境下において、INTEC製電動検尺機を用いて、実施例によって得られた繊維100mをかせ取りした。得られたかせの重量を測定し、下記式を用いて繊度(dtex)を算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を繊度とした。
【0096】
繊度(dtex)=繊維100mの重量(g)×100 。
【0097】
E.強度、伸度
強度および伸度は、実施例によって得られた繊維を試料とし、JIS L1013:2010(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.5.1に準じて算出した。温度20℃、湿度65%RHの環境下において、オリエンテック社製テンシロンUTM−III−100型を用いて、初期試料長20cm、引張速度20cm/分の条件で引張試験を行った。最大荷重を示す点の応力(cN)を繊度(dtex)で除して強度(cN/dtex)を算出し、最大荷重を示す点の伸び(L1)と初期試料長(L0)を用いて下記式によって伸度(%)を算出した。なお、測定は1試料につき10回行い、その平均値を強度および伸度とした。
【0098】
伸度(%)={(L1−L0)/L0}×100 。
【0099】
F.繊維直径R
実施例によって得られた繊維をエポキシ樹脂で包埋し、Reichert製FC・4E型クライオセクショニングシステムで凍結し、ダイヤモンドナイフを具備したReichert−Nissei ultracut N(ウルトラミクロトーム)で切削した。その後、切削面すなわち繊維横断面を、日立製作所製透過型電子顕微鏡(TEM)H−7100FA型を用いて1000倍で観察し、繊維横断面の顕微鏡写真を撮影した。得られた写真から無作為に単糸10本を抽出し、画像処理ソフト(三谷商事製WINROOF)を用いて、抽出した全ての単糸の繊維直径を測定し、その平均値を繊維直径R(nm)とした。繊維横断面は必ずしも真円とは限らないため、真円ではない場合には、繊維横断面の外接円の直径を繊維直径として採用した。
【0100】
G.最外層厚みT
上記Fに記載の繊維直径と同様の方法で繊維横断面を観察し、単糸の全体像が観察できる最も高い倍率で顕微鏡写真を撮影した。得られた写真において、画像処理ソフト(三谷商事製WINROOF)を用いて、繊維横断面の輪郭に2点以上で接する真円の半径を繊維の半径として求め、さらに図1中の4のように海島構造の外周に配置された島成分と2個以上接するように外接する真円(外接円)の半径を求めた。得られた写真から無作為に単糸10本を抽出し、繊維の半径および海島構造部分の外接円の半径を同様に求め、それぞれの単糸において繊維の半径と海島構造部分の外接円の半径の差を算出し、その平均値を最外層厚みT(nm)とした。
【0101】
H.T/R
T/Rは、上記Gで算出した最外層厚みT(nm)を、上記Fで算出した繊維直径R(nm)で除して算出した。
【0102】
I.島成分の直径r、r1、r2
上記Fに記載の繊維直径と同様の方法で繊維横断面を観察し、単糸の全体像が観察できる最も高い倍率で顕微鏡写真を撮影した。得られた写真において、画像処理ソフト(三谷商事製WINROOF)を用いて、繊維横断面における全ての島成分の直径を測定した。島成分は必ずしも真円とは限らないため、真円ではない場合には、島成分の外接円の直径を島成分の直径として採用した。繊維横断面において、
全ての島成分の直径の平均値をr、中心を通る島成分の直径をr1、中心を通る島成分を除く全ての島成分の直径の平均値をr2として算出した。得られた写真から無作為に単糸10本を抽出し、それぞれの単糸においてr、r1、r2を同様に求め、その平均値をr(nm)、r1(nm)、r2(nm)とした。
【0103】
J.r1/r2
r1/r2は、上記Iで算出したr1(nm)を、上記Iで算出したr2(nm)で除して算出した。
【0104】
K.精練後、熱水処理後の吸湿率差(△MR)
実施例によって得られた繊維を試料とし、英光産業製丸編機NCR−BL(釜径3インチ半(8.9cm)、27ゲージ)を用いて筒編み約2gを作製した後、炭酸ナトリウム1g/L、日華化学製界面活性剤サンモールBK−80を含む水溶液中、80℃で20分間精練後、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥し、精練後の筒編みとした。また、精練後の筒編みを浴比1:100、処理温度130℃、処理時間60分の条件で熱水処理した後、60℃の熱風乾燥機内で60分間乾燥し、熱水処理後の筒編みとした。
【0105】
吸湿率(%)は、精練後および熱水処理後の筒編みを試料とし、JIS L1096:2010(織物及び編物の生地試験方法)8.10の水分率に準じて算出した。始めに、筒編みを60℃で30分熱風乾燥した後、温度20℃、湿度65%RHに調湿されたエスペック製恒温恒湿機LHU−123内に筒編みを24時間静置し、筒編みの重量(W1)を測定後、温度30℃、湿度90%RHに調湿された恒温恒湿機内に筒編みを24時間静置し、筒編みの重量(W2)を測定した。その後、筒編みを105℃で2時間熱風乾燥し、絶乾後の筒編みの重量(W3)を測定した。筒編みの重量W1、W3を用いて下記式により絶乾状態から温度20℃、湿度65%RH雰囲気下に24時間静置したときの吸湿率MR1(%)を算出し、筒編みの重量W2、W3を用いて下記式により絶乾状態から温度30℃、湿度90%RH雰囲気下に24時間静置したときの吸湿率MR2(%)を算出した後、下記式によって吸湿率差(△MR)を算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を吸湿率差(△MR)とした。
【0106】
MR1(%)={(W1−W3)/W3}×100
MR2(%)={(W2−W3)/W3}×100
吸湿率差(△MR)(%)=MR2−MR1 。
【0107】
L.海成分の割れ
上記Kで作製した熱水処理後の筒編みを白金−パラジウム合金で蒸着し、日立製走査型電子顕微鏡(SEM)S−4000型を用いて1000倍で観察し、無作為に10視野の顕微鏡写真を撮影した。得られた10枚の写真において、海成分が割れている箇所の合計を海成分の割れ(箇所)とした。
【0108】
M.L
上記Kと同様に作製した精練後の筒編みを160℃で2分間乾熱セットし、乾熱セット後の筒編みに対して、分散染料として日本化薬製Kayalon Polyester Blue UT−YAを1.3重量%加え、pHを5.0に調整した染色液中、浴比1:100、染色温度130℃、染色時間60分の条件で染色した。なお、海成分としてカチオン可染性ポリエステルを用いた場合には、カチオン染料として日本化薬製Kayacryl Blue 2RL−EDを1.0重量%加え、pHを4.0に調整した染色液中、浴比1:100、染色温度130℃、染色時間60分の条件で染色した。
【0109】
染色後の筒編みを試料とし、ミノルタ製分光測色計CM−3700d型を用いてD65光源、視野角度10°、光学条件をSCE(正反射光除去法)としてL値を測定した。なお、測定は1試料につき3回行い、その平均値をL値とした。
【0110】
N.均染性
上記Mで作製した染色後の筒編みについて、5年以上の品位判定の経験を有する検査員5名の合議によって、「非常に均一に染色されており、全く染め斑が認められない」をS、「ほぼ均一に染色されており、ほとんど染め斑が認められない」をA、「ほとんど均一に染色されておらず、うっすらと染め斑が認められる」をB、「均一に染色されておらず、はっきりと染め斑が認められる」をCとし、A、Sを合格とした。
【0111】
O.品位
上記Mで作製した染色後の筒編みについて、5年以上の品位判定の経験を有する検査員5名の合議によって、「毛羽が全くなく、品位に極めて優れる」をS、「毛羽がほとんどなく、品位に優れる」をA、「毛羽があり、品位に劣る」をB、「毛羽が多数あり、品位に極めて劣る」をCとし、A、Sを合格とした。
【0112】
P.ドライ感
上記Mで作製した染色後の筒編みについて、5年以上の品位判定の経験を有する検査員5名の合議によって、「ぬめりやべとつきが全くなく、ドライ感に極めて優れる」をS、「ぬめりやべとつきがほとんどなく、ドライ感に優れる」をA、「ぬめりやべとつきがあり、ドライ感に劣る」をB、「ぬめりやべとつきが極めて強く、ドライ感に極めて劣る」をCとし、A、Sを合格とした。
【0113】
(実施例1)
数平均分子量8300g/molのポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG6000S)を30重量%共重合したポリエチレンテレフタレートを島成分とし、ポリエチレンテレフタレート(IV=0.66)を海成分とし、それぞれを150℃で12時間真空乾燥した後、島成分を30重量%、海成分を70重量%の配合比でエクストルーダー型複合紡糸機へ供給して別々に溶融させ、紡糸温度285℃において、図2(a)に示した海島複合口金を組み込んだ紡糸パックに流入させ、吐出孔から複合ポリマー流を吐出量25g/分で吐出させて紡出糸条を得た。なお、吐出プレート直上の分配プレートには、島成分用として1つの吐出孔当たり18の分配孔が穿設されており、図3の16に示される海成分用の環状溝には円周方向1°毎に分配孔が穿設されたものを使用した。また、吐出導入孔長は5mm、縮小孔の角度は60°、吐出孔径0.18mm、吐出孔長/吐出孔径は2.2、吐出孔数は72のものである。この紡出糸条を風温20℃、風速20m/分の冷却風で冷却し、給油装置で油剤を付与して収束させ、2700m/分で回転する第1ゴデットローラーで引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、ワインダーで巻き取って92dtex−72fの未延伸糸を得た。その後、延伸仮撚機(加撚部:フリクションディスク式、ヒーター部:接触式)を用いて、得られた未延伸糸をヒーター温度140℃、倍率1.4倍の条件で延伸仮撚し、66dtex−72fの仮撚糸を得た。
【0114】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表1に示す。海成分の割れはわずかにあるものの、熱水処理による吸湿性の低下はほとんどなく、熱水処理後も吸湿性が良好であった。また、発色性も良好であり、均染性、品位、ドライ感の全てについて合格レベルであった。
【0115】
(実施例2〜5)、(比較例1)
最外層厚みTと繊維直径Rの比(T/R)を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様に仮撚糸を作製した。
【0116】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表1に示す。実施例2〜5ではT/Rが大きくなるにつれ、海成分の割れは少なくなり、発色性は向上する。一方で、熱水処理後の吸湿性は低くなるものの、吸湿性は良好であった。また、いずれの場合も均染性、品位、ドライ感の全てについて合格レベルであった。一方、比較例1は発色性、均染性、品位、ドライ感は良好であるものの、T/Rが大きいため、島成分の吸湿性ポリマーの体積膨潤が抑制された結果、精練後、熱水処理後ともに吸湿性が低いものであった。
【0117】
(比較例2)
特開2007−100243号公報に記載の従来公知のパイプ型海島複合口金(1つの吐出孔当たりの島数18個)を用いた以外は、実施例1と同様に仮撚糸を作製した。
【0118】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表1に示す。従来公知のパイプ型海島複合口金を用いた場合には、得られた繊維において最外層の厚みが薄いため、熱水処理における島成分の吸湿性ポリマーの体積膨潤に伴う海成分の割れが極めて多いものであった。この海成分の割れにより、熱水処理時に島成分の吸湿性ポリマーが溶出し、熱水処理後に吸湿性が大きく低下し、吸湿性に劣るものであった。また、海成分の割れに起因する染め斑や毛羽が多数見られ、均染性、品位に極めて劣るものであった。さらには、海成分の割れにより、島成分の吸湿性ポリマーの一部が表面に露出し、ぬめりやべとつきがあり、ドライ感にも劣るものであった。
【0119】
(比較例3)
芯鞘複合口金を用いた以外は、実施例1と同様に仮撚糸を作製した。比較例3においては、表1に記載の海成分、島成分はそれぞれ、鞘成分、芯成分に相当する。
【0120】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表1に示す。熱水処理における芯成分の吸湿性ポリマーの体積膨潤に伴う鞘成分の割れが極めて多いものであった。この鞘成分の割れにより、熱水処理時に芯成分の吸湿性ポリマーが溶出し、熱水処理後に吸湿性が大きく低下し、吸湿性に劣るものであった。また、鞘成分の割れに起因する染め斑や毛羽が多数見られ、均染性、品位に極めて劣るものであった。さらには、鞘成分の割れにより、芯成分の吸湿性ポリマーの一部が表面に露出し、ぬめりやべとつきがあり、ドライ感にも劣るものであった。
【0121】
(実施例6〜11)
実施例1に記載の海島複合口金の分配プレートにおいて、島成分の数および配置を表2に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様に仮撚糸を作製した。
【0122】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表2に示す。島成分の数、配置を変更した場合も、海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性は良好であった。また、発色性も良好であり、均染性、品位、ドライ感の全てについて合格レベルであった。
【0123】
(実施例12〜15)
海/島複合比率を表3に示すとおり変更した以外は、実施例9と同様に仮撚糸を作製した。
【0124】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表3に示す。いずれの海/島複合比率においても、海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性、発色性、均染性、品位、ドライ感の全てについて良好であった。
【0125】
(実施例16〜18)
実施例1に記載の海島複合口金の分配プレートにおいて、島成分の形状を実施例16では図1(h)のように六角形、実施例17では図1(i)のように三葉形、実施例18では図1(j)のように最外周に配置された島成分において、繊維横断面の中心側の形状を非円形に変更した以外は、実施例1と同様に仮撚糸を作製した。
【0126】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表3に示す。島成分の形状を変更した場合も、
海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性、発色性、均染性、品位、ドライ感の全てについて良好であった。なかでも、実施例18では、最外周に配置された島成分において、繊維表層側ではなく、繊維内層側が非円形であるため、この非円形部分に応力が集中し、繊維表層への亀裂の伝播が遮断され、海成分の割れの抑制効果に優れるものであった。
【0127】
(実施例19〜23)
実施例1に記載の海島複合口金の分配プレートにおいて、島成分の数および配置を変更し、繊維横断面の中心を通るよう配置された島成分の直径r1と、他の島成分の直径r2の比(r1/r2)を表4に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様に仮撚糸を作製した。
【0128】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表4に示す。r1/r2が大きくなるにつれ、海成分の割れは少なくなり、発色性は向上する一方で、熱水処理後の吸湿性は低くなるものの、吸湿性は良好であった。また、いずれの場合も均染性、品位、ドライ感の全てについて合格レベルであった。
【0129】
(実施例24〜26)、(比較例4、5)
島成分の共重合成分であるポリエチレングリコールの数平均分子量、共重合率を表5に示すとおり変更した以外は、実施例9と同様に仮撚糸を作製した。
【0130】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表5に示す。実施例24〜26においては、ポリエチレングリコールの数平均分子量、共重合率を変更した場合も、海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性、発色性、均染性、品位、ドライ感の全てについて良好であった。一方、比較例4、5では、海成分の割れはなく、発色性、均染性、ドライ感は良好であるものの、島成分の吸湿性ポリマーの吸湿性が低いため、精練後、熱水処理後ともに吸湿性が低く、吸湿性に極めて劣るものであった。
【0131】
(実施例27、28)
島成分を、ポリエチレングリコールの数平均分子量、共重合率を表6に示すとおりに共重合したポリブチレンテレフタレートに変更した以外は、実施例9と同様に仮撚糸を作製した。
【0132】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表6に示す。ポリエチレングリコールを共重合したポリブチレンテレフタレートを島成分に用いた場合も、海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性、発色性、均染性、品位、ドライ感の全てについて良好であった。
【0133】
(実施例29(参考例)、30(参考例)
島成分を、実施例29(参考例)では数平均分子量3400g/molのポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG4000S)を30重量%共重合したナイロン6、実施例30(参考例)ではアルケマ製“PEBAX MH1657”に変更した以外は、実施例9と同様に仮撚糸を作製した。
【0134】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表6に示す。ポリエーテルアミドを島成分に用いた場合も、海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性、発色性、均染性、品位、ドライ感の全てについて良好であった。
【0135】
(実施例31(参考例)
島成分を東レ製“PAS−40N”に変更した以外は、実施例9と同様に仮撚糸を作製した。
【0136】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表6に示す。ポリエーテルエステルアミドを島成分に用いた場合も、海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性、発色性、均染性、品位、ドライ感の全てについて良好であった。
【0137】
(実施例32、33)
海成分を、実施例32では5−スルホイソフタル酸ナトリウム塩を1.5mol%および数平均分子量1000g/molのポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG1000)1.0重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート(IV=0.66)、実施例33ではポリブチレンテレフタレート(IV=0.66)に変更した以外は、実施例19と同様に仮撚糸を作製した。
【0138】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表7に示す。海成分として、実施例32のようにカチオン可染性ポリエステルを用いた場合や、実施例33のようにポリブチレンテレフタレートを用いた場合も、海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性、発色性、均染性、品位、ドライ感の全てについて良好であった。
【0139】
(実施例34〜37)
実施例34では吐出量を32g/分、海島複合口金の吐出孔数を24、実施例35では吐出量を32g/分、海島複合口金の吐出孔数を48、実施例36では吐出量を32g/分、実施例37では吐出量を38g/分に変更した以外は、実施例19と同様に仮撚糸を作製した。実施例34では84dtex−24f、実施例35では84dtex−48f、実施例36では84dtex−72f、実施例37では100dtex−72fの仮撚糸を得た。
【0140】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表7に示す。繊度や単糸繊度を変更した場合も、海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性、発色性、均染性、品位、ドライ感の全てについて良好であった。
【0141】
(比較例6)
単成分用紡糸口金(孔数:72、丸孔)に変更し、吸湿性ポリマーのみを用いて紡糸、延伸仮撚を行った以外は、実施例1と同様に仮撚糸を作製した。
【0142】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表8に示す。吸湿性ポリマーのみからなる繊維のため、熱水処理後の吸湿性は高いものであった。しかしながら、紡糸口金からの吐出が不安定であり、得られた繊維は太細が多く、強度も低く、染め斑や毛羽が多数見られ、均染性、品位に極めて劣るものであった。さらには、吸湿性ポリマーが繊維表面に露出しているため、ぬめりやべとつきがあり、ドライ感にも極めて劣るものであった。
【0143】
(比較例7)
実施例19において、海成分と島成分を入れ替えて海/島複合比率を30/70に変更した以外は、実施例19と同様に仮撚糸を作製した。
【0144】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表8に示す。海成分の割れはなく、熱水処理後の吸湿性や発色性は良好であるものの、海成分の吸湿性ポリマーが繊維表面に露出しているため、ぬめりやべとつきがあり、ドライ感に極めて劣るものであった。また、均染性、品位も合格レベルに至らなかった。
【0145】
(比較例8)
島成分をポリエチレンテレフタレート(IV=0.66)に変更した以外は、実施例32と同様に仮撚糸を作製した。
【0146】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表8に示す。海成分の割れはなく、発色性、均染性、品位、ドライ感は良好であるものの、海成分、島成分ともに吸湿性ポリマーではないため、吸湿性に極めて劣るものであった。
【0147】
(実施例38)
島成分を数平均分子量8300g/molのポリエチレングリコール(三洋化成工業製PEG6000S)を35重量%およびビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物[m+n=4](三洋化成工業製ニューポールBPE−40)を19重量%共重合したポリエチレンテレフタレートに変更した以外は、実施例9と同様に仮撚糸を作製した。
【0148】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表9に示す。ポリエチレングリコールおよびビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物を共重合したポリエチレンテレフタレートを島成分に用いた場合も、海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性、発色性、均染性、品位、ドライ感の全てについて良好であった。
【0149】
(実施例39〜41)
実施例38において、島成分の共重合成分であるビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物の「m+n」および共重合率を表9に示すとおり変更した以外は、実施例38と同様に仮撚糸を作製した。
【0150】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表9に示す。ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物の「m+n」および共重合率を変更した場合も、海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性、発色性、均染性、品位、ドライ感の全てについて良好であった。
【0151】
(実施例42、43)
実施例40において、島成分の共重合成分であるポリエチレングリコールの共重合率を表10に示すとおり変更した以外は、実施例40と同様に仮撚糸を作製した。
【0152】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表10に示す。ポリエチレングリコールの共重合率を変更した場合も、海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性、発色性、均染性、品位、ドライ感の全てについて良好であった。
【0153】
(実施例44、45)
実施例38において、島成分の共重合成分であるポリエチレングリコールの数平均分子量を表10に示すとおり変更した以外は、実施例38と同様に仮撚糸を作製した。
【0154】
得られた繊維の繊維特性および布帛特性の評価結果を表10に示す。ポリエチレングリコールの数平均分子量を変更した場合も、海成分の割れは少なく、熱水処理後の吸湿性、発色性、均染性、品位、ドライ感の全てについて良好であった。
【0155】
【表1】
【0156】
【表2】
【0157】
【表3】
【0158】
【表4】
【0159】
【表5】
【0160】
【表6】





【0161】
【表7】
【0162】
【表8】
【0163】
【表9】
【0164】
【表10】
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明の海島型複合繊維は、染色等の熱水処理において、島成分の吸湿性を有するポリマーの体積膨潤に伴う海成分の割れが抑制されているため、織物や編物などの繊維構造体とした際に染め斑や毛羽の発生が少なく、品位に優れる。また、吸湿性を有するポリマーの溶出が抑制されているため、熱水処理後においても吸湿性に優れ、さらには、海成分がポリエステルの場合には、ポリエステル繊維本来のドライ感も併せ持つ。そのため、衣料用の織編物や不織布などの繊維構造体として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0166】
1.海成分
2.島成分
3.繊維直径
4.最外周に配置された島成分の頂点を結んだ外接円
5.最外層厚み
6.島成分の直径
7.計量プレート
8.分配プレート
9.吐出プレート
10−(a).計量孔1
10−(b).計量孔2
11−(a).分配溝1
11−(b).分配溝2
12−(a).分配孔1
12−(b).分配孔2
13.吐出導入孔
14.縮小孔
15.吐出孔
16.環状溝
図1
図2
図3
図4