(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の分離膜エレメントの実施形態について、詳細に説明する。
【0016】
<分離膜エレメントの概要>
分離膜エレメントでは、供給側の水の流路を形成させるために、供給側流路材として、主に高分子製のネットが使用される。また、分離膜としては例えば、積層型の分離膜が用いられる。積層型の分離膜は、供給側から透過側に順に積層された、ポリアミドなどの架橋高分子からなる分離機能層、ポリスルホンなどの高分子からなる多孔性樹脂層(多孔性支持層)、ポリエチレンテレフタレートなどの高分子からなる不織布などの基材を備えている。また、透過側の水の流路を形成させるために、透過側流路材が用いられる。分離膜エレメントは、
図1に示すように、供給側流路材1を分離膜2で挟み込み、透過側流路材3を積層させて一組のユニットとし、集水管4の周囲にスパイラル状に巻囲して分離膜エレメント5としている。
【0017】
分離膜エレメント5は、その第1端および第2端に配置され、かつ孔を有する孔付端板92を備える。すなわち、分離膜エレメント5の第1端から供給される供給水101は、分離膜によって透過水102と濃縮水103とに分けられる。透過水102は、集水管4を通って、分離膜エレメント5の第2端から取り出される。濃縮水103は、第2端の孔付端板92の孔を通って、分離膜エレメント5の外に流出する。
【0018】
また、本発明では、
図2に示すように、供給水の流れが異なる分離膜エレメント5Bの構成をとることができる。一般的な分離膜エレメント5では、供給側流路材により形成される供給側流路が、集水管4の長手方向に平行方向に設けられるのに対し、分離膜エレメント5Bでは少なくとも集水管4の長手方向に対して垂直方向に設けられる。
【0019】
分離膜エレメント5Bの作製方法は、次の通りである。具体的には供給側流路材1を分離膜2で挟み込み、透過側流路材3を積層させて一組のユニットとし、集水管4の周囲にスパイラル状に巻囲する。その後、両端のエッジカットを行い、一端からの供給水流入を防ぐための封止板(第1端板91に相当する)の取り付け、さらに、第2端板93に相当する端板を被覆された巻囲体の他端に取り付け、分離膜エレメントを得ることができる。
【0020】
多孔性部材82としては、供給水を通過させることができる複数の孔を有する部材が用いられる。多孔性部材82に設けられたこれらの孔821は、供給水の供給口と言い換えられてもよい。多孔性部材82は、複数の孔を有していれば、その材質、大きさ、厚み、剛性などは、特に限定されるものではない。多孔性部材82として、比較的厚みの小さい部材を採用することで、分離膜エレメントの単位体積当たりの膜面積を増大させることができる。
【0021】
なお
図2において、多孔性部材82に設けられた孔821はスリット状(直線状)に示されているが、円形や四角形、楕円形や三角形などの孔が複数配列される構造でもよい。
【0022】
多孔性部材82の厚みは、例えば、1mm以下が好ましく、より好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下である。また、多孔性部材82は、巻囲体の外周形状に沿うように変形することができる、柔軟性又は可撓性を有する部材であってもよい。より具体的には、多孔性部材82として、ネット、多孔性フィルムなどが適用可能である。ネットおよび多孔性フィルムは、巻囲体を内部に収容できるように筒状に形成されていてもよいし、長尺状であって、巻囲体の周囲に巻き付けられていてもよい。
【0023】
多孔性部材82は、分離膜エレメント5Bの外周面に配置される。多孔性部材82がこのように設けられることで、孔が分離膜エレメント5Bの外周面に設けられる。「外周面」とは、特に、分離膜エレメント5Bの外周面全体のうち、上述の第1端の面および第2端の面を除く部分であるともいえる。本実施形態では、多孔性部材82は、巻囲体の外周面のほぼ全体を覆うように配置される。
【0024】
分離膜エレメント5Bは、ベッセルに装填して運転する場合、第1端の端板が孔無し端板91なので、第1端の面からは、分離膜エレメント5B内に供給水は流入しない。供給水101はベッセルと分離膜エレメント5Bとの隙間へ流れ込む。そして、供給水101は、分離膜2に対して、分離膜エレメント5Bの外周面から、多孔性部材82を介して集水管の長手方向に対して垂直方向にかけて供給される。こうして供給された供給水101は、分離膜によって透過水102と濃縮水103に分けられる。透過水102は、集水管6を通って、分離膜エレメント5Bの第2端から取り出される。濃縮水103は、第2端の孔付端板93の孔を通って、分離膜エレメント5B外に流出する。
【0025】
分離膜エレメント5Bのように、上記供給側流路材により形成される供給側流路が、少なくとも上記集水管の長手方向に対して垂直方向にかけて設けられる分離膜エレメントは、分離膜エレメントの幅に対して、集水管の長手方向に対して垂直方向の辺の長さが長い分離膜対を用いて作製される場合において、供給側流路が上記集水管の長手方向と平行な方向に設けられる従来のスパイラル型分離膜エレメントに比べて、供給水の流入断面積が狭くなり、分離膜エレメントを通過する供給水の線速が速まるため、分離膜の膜面塩濃度が増加する高回収率運転を行う場合において、濃度分極現象を抑制できる点で優位となる。
【0026】
さらに、本発明では
図3に示すように、供給水の流れが異なる分離膜エレメント5Cの構成をとることもできる。分離膜エレメント5Cでは、分離膜エレメント5Bの第1端における孔無し端板91を孔付端板94に変更し、分離膜エレメント5Bの外周面と第1端の両方から供給水101が流れる構成をとることができる。
【0027】
さらに、孔付端板93の孔の配置については、開孔が大きすぎると供給水が供給側流路に均一に流れず、ショートパスするといった場合があるため、本発明の効果が発現するように集水管の周辺に設けることができる。なお、分離膜エレメント5Cは、孔無し端板91を孔付端板94に変更する以外は、分離膜エレメント5Bと同様の手順で製作することができる。
【0028】
分離膜エレメント5Cも5Bと同様に、供給側流路材により形成される供給側流路が、上記集水管の長手方向に対して垂直方向にかけて設けられていることから、従来分離膜エレメントと比べて高回収率運転に適した構成とすることができる。
【0029】
<分離膜>
(概要)
分離膜2としては、使用方法、目的などに応じた分離性能を有する膜が用いられる。分離膜2は、単一層であってもよいし、分離機能層と基材とを備える積層型の複合膜であってもよい。また、複合膜においては、分離機能層と基材との間に、さらに多孔性支持層があってもよい。
【0030】
ここで、分離機能層を有する面を供給側の面、分離機能層を有する面とは反対側の面を透過側の面と呼び、供給側の面が互いに向かい合うように形成された状態の分離膜のことを分離膜対と呼ぶ。
【0031】
(分離機能層)
分離機能層は、分離機能および支持機能の両方を有する層であってもよいし、分離機能のみを備えていてもよい。なお、「分離機能層」とは、少なくとも分離機能を備える層を指す。
【0032】
分離機能層が分離機能および支持機能の両方を有する場合、分離機能層としては、セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホンおよびポリスルホンからなる群から選ばれるポリマーを主成分として含有する層が好ましく適用される。
【0033】
一方、分離機能層の成分としては、孔径の制御が容易であり、かつ耐久性に優れるという点で、架橋高分子が好ましく使用される。特に、供給水中の成分の分離性能に優れるという点で、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させて得られるポリアミド分離機能層や、有機無機ハイブリッド機能層などが好適に用いられる。これらの分離機能層は、多孔性支持層上でモノマーを重縮合することによって形成可能である。
【0034】
例えば、ポリアミドを主成分として含有する分離機能層は、公知の方法により、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを界面重縮合することで形成できる。より具体的には、多孔性支持層上に多官能アミン水溶液を塗布し、余分な多官能アミン水溶液をエアーナイフなどで除去した後、多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液を塗布することで、重縮合が起きてポリアミド分離機能層が形成される。
【0035】
上記界面重縮合を、直鎖又は分枝鎖アルキル基からなり、かつ、炭素数が5以上の脂肪族カルボン酸の存在下で行うことで、末端官能基の分布を精密に制御することが可能となり、透水性と除去性とを両立できることができる。このような脂肪族カルボン酸は、上記多官能アミンの水溶液や上記多官能酸ハロゲン化物を含む水と非混和性の有機溶媒溶液に加えたり、多孔性支持膜にあらかじめ含浸させたりすることができる。
【0036】
上記のような脂肪族カルボン酸としては、例えば、直鎖飽和アルキルカルボン酸として、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸又はトリデカン酸が、分岐鎖飽和アルキルカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、イソ酪酸、イソペンタン酸、ブチル酢酸、2−エチルヘプタン酸又は3−メチルノナン酸が、さらに不飽和アルキルカルボン酸としては、例えば、メタクリル酸、trans−3−ヘキセン酸、cis−2−オクテン酸又はtrans−4−ノネン酸が挙げられる。
【0037】
これら脂肪族カルボン酸の総炭素数は、5〜20の範囲内にあることが好ましく、さらに好ましくは8〜15の範囲内である。総炭素数が5未満であると、分離機能膜の透水性を向上させる効果が小さくなる傾向があり、総炭素数が20を超えると、沸点が高くなり、膜から除去しにくくなるため、高透水性を発現させることが困難となりやすい。
【0038】
さらに、これら脂肪族カルボン酸を上記多官能酸ハロゲン化物を含む、水と非混和性の有機溶媒溶液に添加する場合には、HLB値を4以上12以下にすることで、膜の透水性向上と耐汚れ性向上が同時に発現し、さらに、多孔性支持膜上から除去しやすくなることから好ましい。
【0039】
ここでHLB値は、水と非混和性の有機溶媒への親和性の程度を表す値である。HLB値は計算によって決定する方法がいくつか提案されている。グリフィン法によると、HLB値は下記式で定義される。
【0040】
HLB値=20×親水部のHLB値
=20×(親水部の式量の総和)/(分子量)
上記有機溶媒溶液における脂肪族カルボン酸の濃度は、添加する脂肪族カルボン酸によって適宜決定することができるが、具体的には、0.03〜30質量%の範囲内にあると好ましく、0.06〜10質量%の範囲内であるとさらに好ましい。
【0041】
(多孔性支持層)
多孔性支持層は、分離機能層を支持する層であり、材料が樹脂の場合多孔性樹脂層とも言い換えることができる。
【0042】
多孔性支持層に使用される材料や、その形状は特に限定されないが、例えば、多孔性樹脂によって基板上に形成されてもよい。多孔性支持層としては、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂あるいはそれらを混合、積層したものが使用され、化学的、機械的、熱的に安定性が高く、孔径が制御しやすいポリスルホンを使用することが好ましい。
【0043】
多孔性支持層は、例えば、上記ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を、後述する基材(例えば密に織ったポリエステル不織布)の上に一定の厚みに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、製造することができる。
【0044】
多孔性支持層は、“オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って形成できる。なお、所望の形態を得るために、ポリマー濃度、溶媒の温度、貧溶媒は調整可能である。
【0045】
(基材)
分離膜の強度、寸法安定性などの観点から、分離膜は基材を有してもよい。基材としては、強度、流体透過性の点で繊維状の基材を用いることが好ましい。
【0046】
基材としては、長繊維不織布および短繊維不織布それぞれを好ましく用いることができる。
【0047】
(分離膜性能)
本発明の分離膜エレメントに充填される分離膜は、47cm
2に切り出し、供給水を濃度200ppmの食塩水、pH6.5のNaCl水溶液とし、運転圧力0.41MPa、温度25℃、回収率1%以下の条件下で15分間運転した後に1分間のサンプリングを行った時に、純水透過係数をA(m/秒/MPa)、溶質透過係数をB(m/秒)とした際に、A
3/B(m
2/秒
2/MPa
3)の値が8.0×10
−8以上を示す分離膜である。これは、分離膜が高性能(高透水かつ高除去)であることを示しており、分離膜が高性能であるほど、供給水量と膜面塩濃度は増加し、それに伴い流路の流動抵抗と膜面ファウリングリスクが増大するが、本発明の分離膜エレメントでは、高性能の分離膜を搭載しても、従来の分離膜エレメントよりも高い性能を安定して発現させることが可能となる。
【0048】
<供給側流路材>
(概要)
分離膜エレメントは、分離膜の供給側の面に対向するように配置された供給側流路材を備えている。供給側流路材は、分離膜2に供給水を供給する流路を形成するように形成されていればよく、供給水の濃度分極を抑制するために、供給水の流れを乱すように設けられていることが好ましい。
【0049】
供給側流路材は、編物、織物、ネットといった連続形状を有している部材が用いられる。中でも、供給水の流路確保、濃度分極抑制の点から、ネットが好ましく用いられる。本願におけるネットとは、互いに交差する複数の繊維状物(構成繊維)同士が熱融着された網目形状を有する構造体であり、押出ダイに設けられた孔から吐出される縦方向の繊維状物と横方向の繊維状物の樹脂同士を溶融状態で接着し、その後冷却固化させることにより製造される。
【0050】
供給側流路材は、
図4に示すように一方向に並んだ複数の繊維状物A11から構成される繊維状列A、および上記繊維状列Aとは異なる方向に並んだ複数の繊維状物B12から構成される繊維状列Bから構成され、上記繊維状物Aは上記繊維状物Bと複数の地点で交差している。
【0051】
(繊維状物の傾斜角)
図4に示した供給側流路材の繊維状物(構成繊維)の傾斜角e又はfは、0°又は180°に近いほど、膜面への供給水流路が狭まるため、60°以上120°以下であることが好ましく、75°以上105°以下がより好ましい。
(厚み)
供給側流路材の厚みとは、
図4においては実質的に繊維状物Aおよび繊維状物Bの交点厚みに相当する。供給側流路材の厚みは、薄くすれば、供給水の線速が大きくなり膜面の流れが乱れるので、濃度分極層が薄くなり、分離膜エレメントの分離性能が向上する。また流路材を薄くするほど分離膜エレメントに充填できる分離膜が増えるため、分離膜エレメントの造水量向上につながる。しかし、あまり供給側流路材の厚みを過度に薄くすると、供給水中の不純物や、微生物などのファウラントが供給側の流路を閉塞する傾向がある。その結果、分離膜エレメントの造水性が低下したり、分離膜エレメントの流動抵抗が大きくなり、供給水を供給するポンプの必要動力が大きくなるため電力費が高くなったり、分離膜エレメントが破損するといった問題が生じるため好ましくない。そこで、供給側流路材の厚みは、0.15mm以上0.50mm以下である必要があり、好ましくは0.28mm以上0.35mm以下である。
【0052】
供給側流路材の厚みは、無作為に選択した30箇所の繊維状物Aおよび繊維状物Bの交点厚みについて、精密厚みゲージなどで測定した値の平均値とする。
【0053】
また、供給側流路材の厚みのばらつきが大きいことは、逆浸透膜の性能を均一に発揮させることができず好ましくないので、繊維状物Aおよび繊維状物Bの交点厚みは、いずれも供給側流路材の平均厚みの0.9倍以上1.1倍以下であることが好ましい。
(繊維状物の構成繊維径)
繊維状物の構成繊維径は、市販のマイクロスコープなどで観察して測定することができる。
図4に示した繊維状物A11の構成繊維径と繊維状物B12の構成繊維径は、それぞれの繊維状物を分離膜の面方向に平行な平面に投影した像の幅c、dをそれぞれ、無作為に選択した30箇所に関して測定を行なった平均値とする。
図4に示した供給側流路材の構成繊維径は、小さいほど供給水が澱む領域が減るが、剛性は低くなる。一方で構成繊維径が大きいと、剛性は高くなるが、供給水が澱む領域が増える。それらのバランスから、供給側流路材の構成繊維径は、0.07mm以上0.25mm以下であることが好ましく、0.14mm以上0.18mm以下がより好ましい。なお繊維状物Aの構成繊維径と繊維状物Bの構成繊維径とは、同じであっても、異なっていても構わない。
(繊維状物の交点間隔)
供給側流路材の交点間隔は、前述した繊維状物Aと繊維状物Bとの構成繊維径がいずれも同一の条件で比較すると、その間隔が広いほど供給水の流速は遅くなり、圧力損失は小さくなる。一方で、交点間隔が狭いほど供給水の流速は速くなり、圧力損失は大きくなる。
【0054】
それらのバランスから、供給側流路材の交点間隔は、0.5mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0055】
特に、供給水のTOC(全有機炭素)が高く、分離膜の造水性が高い場合には、供給側流路材の繊維状物が接触していない膜面に有機ファウリングが付着し易いため、供給側流路材の交点間隔が1.5mm以下であることが、膜面への有機ファウリング付着抑制に効果的である。
【0056】
また、分離膜エレメントの作製において、供給側流路材を分離膜で挟み込み、透過側流路材を積層させて一組のユニットとし、集水管の周囲にスパイラル状に加圧しながら巻囲する際に、供給側流路材の交点間隔が1.5mm以下であることで、ネットの交点部分が分離膜に押しつけられる力を分散でき、分離膜が受けるダメージを低減することができる。
【0057】
一方で、供給水の硬度が高く、分離膜の造水性および除去性が高い場合において、特に高回収率運転時には、主として供給側流路材の交点位置に供給水が澱む領域が発生し、局所的に塩濃度が上昇して無機スケールが付着するため、供給側流路材の交点間隔が8mm以上であることが、膜面への無機スケール付着抑制に効果的である。交点間隔の上限値は、エレメントの巻き硬度の確保、および膜への過度な荷重を低減するため、10mmが好ましい。
【0058】
図4に示すように供給側流路材の1つの空隙に対して、2種類の交点間隔a、bが存在する場合において、そのうち短い方であるaを選択し、無作為に選択した30箇所に対して市販のマイクロスコープなどで観察して測定を行ない、それらの平均値を繊維状物の交点間隔とする。
(交点密度)
交点密度とは、単位面積当たりに存在する供給側流路材を構成する繊維状物Aおよび繊維状物Bの交点数のことである。例えば、供給側流路材を平面方向に対して高さ方向から観察し、無作為に選択した100mm
2当たりに存在する交点数を測定することで求めることができる。
【0059】
例えば、供給側流路材のメッシュ形状が一定である場合、交点密度が高いほど、上記繊維状物の交点間隔は狭くなり、交点密度が低いほど、上記繊維状物の交点間隔は広くなる。
【0060】
交点密度が15個/100mm
2以上210個/100mm
2以下であることで、供給水の流速を緩やかにできる。その結果、分離膜が高造水能を有し、分離膜エレメントに供給される水量が大きい場合でも、供給側流路の抵抗を低減でき、造水性に優れた分離膜エレメントを得ることができる。
【0061】
一方、交点密度が3個/100mm
2以下であることで、特に供給水の硬度が高く、かつ高回収率運転を行う場合においては、供給側流路材の交点位置に供給水が澱む領域が減少し、膜面への無機スケール付着抑制に効果的である。
(繊維状物の断面形状)
供給側流路においては、分離膜表面周辺の乱流の程度を増すことが重要であるため、断面が円形や楕円形でなく、異形の繊維状物を用いることも可能である。「異形」の断面とは、非円形の全ての形状を包含するものであり、例えば多角形の他にY字型、T字型、X時型、星型、歯車型などの断面に凹部を含む形状が挙げられる。繊維状物に凹部が存在することで、供給側流材の周辺で供給水の流れやすい領域と流れにくい領域が混在することになり、その差により流れに渦が発生して乱流へとなる。
【0062】
異形断面を有する繊維状物の成形は当該技術において周知の技術であり、例えば、必要に応じて押出ダイの形状を変えることによって、様々な異形断面を有する繊維状物を成形することが可能である。
(材料)
供給側流路材の材料は特に限定されないが、成形性の観点から熱可塑性樹脂が好ましく、特にポリエチレンおよびポリプロピレンは分離膜の表面を傷つけにくく、また安価であるので好適である。
【0063】
<透過側流路材>
(概要)
本発明の分離膜エレメントには、分離膜の透過側面に透過側流路材が配置される。本発明では、透過側流路材として、フィルムや不織布を凹凸加工して突起物を形成し、流路材機能を付与したシートや、不織布のような多孔性シート上に突起物を配置し固着したシートなどを用いることができる。
【0064】
(横断面積比)
透過側流路材は、透過側流路の流動抵抗を低減し、かつ加圧ろ過下においても流路を安定に形成させる点では、その横断面積比が0.4以上0.75以下であることが好ましい。ここで、透過側流路材の横断面積比について説明する。
図5では一例として、シート状の透過側流路材について示しているが、透過側流路材を分離膜エレメントに充填した際、集水管の長手方向と平行な方向に沿って透過側流路材の凸部を通るように切断し、その断面について、一の凸部の中心と隣接する凸部の中心の距離P(ピッチともいう)と透過側流路材の高さH0の積に対する、一の凸部の中心と隣接する凸部の中心との間に占める透過側流路材の横断面積Sとの比が横断面積比である。
【0065】
また、
図6のように透過側流路材が分離膜の透過側の面に直接固着している場合においても、同様の手法で計算できる。ただし、この場合は透過側流路材が複数存在することになり、凸部の中心と隣接する凸部の中心との間に占める透過側流路材の横断面積は2つ(S1およびS2)存在することになり、横断面積SはS1とS2との和に相当する。
【0066】
具体的な測定方法としては、無作為に選択した30箇所について上述のように透過側流路材を切断し、顕微鏡画像解析装置を用いてそれぞれ測定を行ない、その平均値として算出することができる。
【0067】
横断面積比が0.4以上0.75以下の透過側流路材を本発明の分離膜エレメントに配置することにより、透過側流路の流動抵抗を低減することができ、その結果、単位膜面積当たりの透水性を向上させることができる。単位膜面積当たりの透水性が向上するということは、すなわち分離膜エレメント全体の造水性が向上するということであり、回収率一定で運転する場合に、透過側流動抵抗が大きい流路材を含む分離膜エレメントに比べて供給水の流量および線速が速まる効果が生まれ、膜面乱流効果を増加させることで濃度分極を抑制すると共に、長期間運転時に分離膜や供給側流路材への汚染物付着を抑制することが可能となり、分離膜エレメントの造水性と除去性を長期間維持することができる。
【0068】
(厚み)
図7における透過側流路材の厚みH0は、0.1mm以上1mmであることが好ましい。厚みの測定は、電磁式、超音波式、磁力式、光透過式など様々な方式のフィルム膜厚測定器が市販されているが、非接触のものであればいずれの方式でも構わない。ランダムに10箇所で測定を行いその平均値を透過側流路材の厚みとする。透過側流路材の厚みが0.1mm以上であることで、透過側流路材としての強度を備え、応力が負荷されても透過側流路材の潰れや破れを引き起こすこと無く取り扱うことができる。また、透過側流路材の厚みが1mm以下であることで、集水管への巻囲性を損なうことなく、分離膜エレメント内に充填できる分離膜や透過側流路材の数を増加させることができる。
【0069】
なお、
図6のように透過側流路材が分離膜の透過側の面に直接固着している場合は、透過側流路材の厚みH0は、後述する透過側流路材の凸部の高さH1と同じである。
【0070】
(透過側流路材の凸部の高さ、溝幅および溝長さ)
図7における透過側流路材の凸部の高さH1は、0.05mm以上0.8mm以下であることが好ましく、溝幅Dは0.02mm以上0.8mm以下であることが好ましい。凸部の高さH1や溝幅Dは、無作為に選択した30箇所について透過側流路材の横断面を市販のマイクロスコープなどで観察することで測定し、その平均値として算出することができる。
【0071】
凸部の高さH1、溝幅Dおよび積層された分離膜とで形成される空間が透過側流路となり、凸部の高さH1や溝幅Dが上記範囲であることで、加圧ろ過時の膜落込みを抑制しつつ、流動抵抗を低減し、耐圧性と造水性に優れた分離膜エレメントを得ることができる。
【0072】
また、凸部がドット状のように、いずれの方向にも凸部が離れて配置されるような場合(
図8参照)は、溝長さEは溝幅Dと同様に設定することができる。
【0073】
(凸部の幅および長さ)
図7における透過側流路材の凸部の幅Wは、好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.3mm以上である。幅Wが0.1mm以上であることで、分離膜エレメントの運転時透過側流路材に圧力がかかっても、凸部の形状を保持することができ透過側流路が安定的に形成される。幅Wは、好ましくは1mm以下であり、より好ましくは0.7mm以下である。幅Wが1mm以下であることで、透過側流路を十分確保することができる。
【0074】
凸部6の幅Wは、次のように測定される。まず、第1方向に垂直な1つの断面において、1つの凸部6の最大幅と最小幅の平均値を算出する。つまり、
図9に示すような上部が細く下部が太い凸部6においては、流路材下部の幅と上部の幅を測定し、その平均値を算出する。このような平均値を少なくとも30箇所の断面において算出し、その相加平均を算出することで、1枚の膜当たりの幅Wを算出することができる。
【0075】
なお、凸部がドット状のように、いずれの方向にも凸部が離れて配置されるような場合(
図8参照)は、透過側流路材の凸部の長さXは幅Wと同様に設定することができる。
【0076】
(材料)
透過側流路材を構成するシートとしては、多孔性フィルムや不織布などを用いることができ、特に不織布の場合では、不織布を構成する繊維同士で形成された流路となる空間が広くなるため、水が流動しやすく、その結果、分離膜エレメントの造水性が向上するため好ましい。
【0077】
また、透過側流路材の材料であるポリマーについては、透過側流路材としての形状を保持し、透過水中への成分の溶出が少ないものであるならば特に限定されず、例えば、ナイロンなどのポリアミド系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリフルオロエチレン系などのポリマーが挙げられるが、特に高圧化に耐えうる強度や親水性を考慮すると、ポリオレフィン系やポリエステル系のポリマーが好ましい。
【0078】
シート物が複数の繊維から構成される場合では、繊維として例えば、ポリプロピレン/ポリエチレン芯鞘構造を有するものを用いても構わない。
【0079】
(透過側流路材による流路)
透過側流路材の両面に分離膜が配置された際、凸部と隣接する凸部の空間は、透過水の流路となる。流路は、透過側流路材自体が波板状、矩形波状、三角波状などに賦形加工されていたり、透過側流路材の一面が平坦で他の表面が凹凸状に加工されていたり、透過側流路材表面に他の部材が凹凸形状に積層されることによって形成されたものであってもよい。
【0080】
(形状)
本発明の分離膜エレメントに適用する透過側流路材は、流路を形成する凸部が、
図8に示すようなドット状でも良い。ドットの配列は千鳥型に配置された場合は、供給水を受圧する時の応力が分散され、陥没の抑制に有利である。なお、
図8には断面(シート平面に対して平行面)が円である円柱状の突起物を記載したが、多角形や楕円など、特に断面形状については限定しない。また、異なる断面の凸部が混在していてもよい。また、
図9に示すような溝が一方向に並んで連続した溝を有する凹凸形状であってもよい。上記溝は、透過水を最短距離で集水管へと導入するために、集水管の長手方向に対して垂直方向に連続していることが好ましい。
【0081】
巻回方向に垂直な方向での断面形状において、幅に変化があるような台形状の壁状物、楕円柱、楕円錐、四角錐あるいは半球のような形状であってもよい。
【0082】
<水処理システム>
本発明の分離膜エレメントは、例えばRO浄水器などの水処理システムに適用することができる。特に、造水能・脱塩能に優れる分離膜を搭載し、かつ回収率(供給水量に対する透過水量の割合)を高く設定して運転する場合、膜面に供給される有機ファウラント量や無機スケール量が上昇し、それに伴うファウリングの発生、浸透圧増加による分離膜エレメント有効圧の低下が起こり、分離膜エレメントの脱塩率と造水性が低下する傾向になる。しかしながら、本発明の分離膜エレメントでは、膜面線速が向上することで濃度分極が低減し、乱流効果が増すため、ファウリングの発生を抑制できるため、回収率を60%以上に設定して運転しても長期にわたり、造水能・脱塩能に優れる。
【実施例】
【0083】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0084】
(供給側流路材の交点間隔)
供給側流路材の1つの空隙に対して、供給側流路材を構成する繊維状物Aと、繊維状物Bの交点とそれと隣り合わない上記交点との距離をキーエンス製高精度形状測定システムKS−1100を用いて測定し、得られた2種類の距離のうち、短い方を測定した。同様の測定を30箇所の空隙に関して実施し、その距離の平均値を繊維状物の交点間隔とした。
【0085】
(供給側流路材の交点密度)
供給側流路材の無作為に選択した部分について平面で100mm
2切り出し、平面上部から観察して繊維状物Aと繊維状物Bが交わる点数を数えた。次に、同じ供給側流路材の別の平面について同様の操作を合計30回実施し、その平均値を交点密度(個/100mm
2)とした。
(繊維状物Aおよび繊維状物Bの構成繊維径)
株式会社ミツトヨ製シックネスゲージ(品番547−315)を用いて繊維状物Aおよび繊維状物Bの厚みを30箇所測定し、その平均値を繊維状物Aおよび繊維状物Bの構成繊維径とした。
【0086】
(供給側流路材の厚み)
繊維状物Aおよび繊維状物Bからなる網目状の供給側流路材(ネット)の交点の厚みを、株式会社ミツトヨ製シックネスゲージ(品番547−315)を用いて30箇所測定し、その平均値を供給側流路材の厚みとした。
【0087】
(繊維状物A間の距離および繊維状物Bの間の距離)
網目状の供給側流路材を構成する、無作為に選択した30本の繊維状物Aと、その隣接する繊維状物A間の距離をキーエンス製高精度形状測定システムKS−1100を用いて測定し、その平均値を繊維状物A間の距離とした。
【0088】
同様の測定を繊維状物Bについても実施し、繊維状物B間距離を算出した。なお、本実施例における、繊維状物Aと繊維状物Bが構成する格子形状(表中にはメッシュ形状と記載)は、いずれも正方形であるため、繊維状物A間距離と繊維状物B間距離は同じであるため、表中には繊維状物間の距離として片方のみを示した。
(分離膜aの作製)
ポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布(繊度:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1cc/cm
2/sec、密度0.80g/cm
3)上にポリスルホンの17.0質量%のDMF溶液を180μmの厚みで室温(25℃)にてキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置し、80℃の温水で1分間浸漬することによって繊維補強ポリスルホン支持膜からなる、多孔性支持層(厚み130μm)ロールを作製した。
【0089】
その後、多孔性支持膜のポリスルホンからなる層の表面をm−PDAの2.2質量%水溶液中に2分間浸漬してから、垂直方向にゆっくりと引き上げた。さらに、エアーノズルから窒素を吹き付けることで、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。
【0090】
その後、トリメシン酸クロリド0.08質量%を含むn−デカン溶液を、膜の表面が完全に濡れるように塗布してから、1分間静置した。その後、膜から余分な溶液をエアブローで除去し、80℃の熱水で1分間洗浄して、複合分離膜ロールを得た。この分離膜を分離膜aとした。
(分離膜bの作製)
ポリエステル不織布(通気度0.5〜1cc/cm2/sec)上にポリスルホンの15.7質量%DMF溶液を200μmの厚みで、室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜(厚さ210〜215μm)を作製した。
得られた微多孔性支持膜を、m−PDAの1.8質量%水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、TMC0.065質量%、およびウンデカン酸0.1質量%を含む25℃のn−デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布してから1分間静置した。次に、膜から余分な溶液を除去するために膜を1分間垂直に保持して液切りした。その後、80℃の熱水で2分間洗浄して複合分離膜ロールを得た。この分離膜を分離膜bとした。
(分離膜cの作製)
ポリエステル不織布(通気度0.5〜1cc/cm2/sec)上にポリスルホンの15.7質量%DMF溶液を200μmの厚みで、室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜(厚み210〜215μm)を作製した。
得られた微多孔性支持膜を、m−PDAの1.8質量%水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、TMC0.065質量%、およびウンデカン酸0.1質量%を含む25℃のn−デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布してさらに10秒後に、ジエチレングリコールジメチルエーテル1質量%n−デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。次に、膜から余分な溶液を除去するために膜を1分間垂直に保持して液切りした。その後、80℃の熱水で2分間洗浄して複合分離膜ロールを得た。この分離膜を分離膜cとした。
(分離膜dの作製)
ポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布(繊度:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1cc/cm
2/sec、密度0.80g/cm
3)上にポリスルホンの17.0質量%のDMF溶液を180μmの厚みで室温(25℃)にてキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置し、80℃の温水で1分間浸漬することによって繊維補強ポリスルホン支持膜からなる、多孔性支持層(厚み130μm)ロールを作製した。
【0091】
その後、多孔性支持膜のポリスルホンからなる層の表面をm−PDAの3.0質量%水溶液中に2分間浸漬してから、垂直方向にゆっくりと引き上げた。さらに、エアーノズルから窒素を吹き付けることで、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。
【0092】
その後、トリメシン酸クロリド0.1質量%を含むn−デカン溶液を、膜の表面が完全に濡れるように塗布してから、1分間静置した。その後、膜から余分な溶液をエアブローで除去し、80℃の熱水で1分間洗浄して、複合分離膜ロールを得た。この分離膜を分離膜dとした。
(分離膜e、f、g、hの作製)
抄紙法で製造されたポリエステル繊維からなる不織布(通気度1.0cc/cm
2/sec)上に、ポリスルホンの15質量%DMF溶液を室温(25℃)で、かつ塗布厚み180μmでキャストした後、ただちに純水中に5分間浸漬することによって基材上に多孔性支持層を形成し、多孔性支持膜を作製した。
【0093】
次に、2−エチルピペラジンが2.0質量%、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムが100ppm、リン酸3ナトリウム1.0質量%になるように溶解した水溶液に10秒間浸漬した後、エアーノズルから窒素を吹き付けて余分な水溶液を除去した。このときのアミン水溶液のpHは、12.0であった。続いて70℃に加温した0.2質量%のトリメシン酸クロリドを含むn−デカン溶液を多孔性支持層の表面に均一塗布し、60℃の膜面温度で3秒間保持した後に、膜面温度を10℃まで冷却し、この温度を維持したまま空気雰囲気下で1分間放置し、分離機能層を形成した後、膜を垂直に保持して液切りした。得られた膜を60℃の純水で2分間洗浄して分離膜ロールを得た。この分離膜を分離膜eとした。
分離膜作製時のアミンとトリメシン酸クロリドとの接触時の膜面温度を40℃、界面重合時の膜面温度を10℃と変更した分離膜を分離膜f、分離膜作製時のアミンとトリメシン酸クロリドとの接触時の膜面温度を70℃、界面重合時の膜面温度を10℃と変更した分離膜を分離膜g、分離膜作製時のアミンとトリメシン酸クロリドとの接触時の膜面温度を60℃、界面重合時の膜面温度を10℃と変更した分離膜を分離膜hとして作製した。
(分離膜のフラックス)
分離膜を47cm
2に切り出し、膜評価セルにて、供給水として、濃度200ppmの食塩水、pH6.5のNaCl水溶液を用い、運転圧力0.41MPa、温度25℃、回収率1%以下の条件下で15分間運転した後に1分間のサンプリングを行い、1日当たりの透水量を、分離膜フラックス(m
3/m
2/日)とした。
【0094】
(分離膜の純水透過係数および溶質透過係数)
純水透過係数は以下の方法によって計算した。
【0095】
純水透過係数(m
3/m
2/sec/Pa)=(溶液の膜透過流束)/(膜両側の圧力差−膜両側の浸透圧差×溶質反射係数)・・・(a)
尚、溶質反射係数は以下の方法で求めることができる。まず、非平衡熱力学に基づいた逆浸透法の輸送方程式として、以下の式が知られている。
Jv=Lp(ΔP−σ・Δπ) ・・・(b)
Js=P(Cm−Cp)+(1−σ)C・Jv ・・・(c)
ここで、Jvは溶液の膜透過流束(m
3/m
2/s)、Lpは純水透過係数(m
3/m
2/s/Pa)、ΔPは膜両側の圧力差(Pa)、σは溶質反射係数、Δπは膜両側の浸透圧差(Pa)、Jsは溶質の膜透過流束(mol/m
2/s)、Pは溶質透過係数(m/s)、Cmは溶質の膜面濃度(mol/m
3)、Cpは透過液濃度(mol/m
3)、Cは膜両側の濃度(mol/m
3)、である。膜両側の平均濃度Cは、逆浸透膜のように両側の濃度差が非常に大きな場合には実質的な意味を持たない。そこで、式(a)を膜厚について積分した次式がよく用いられる。
R=σ(1−F)/(1−σF) ・・・(d)
ただし、
F=exp{−(1−σ)Jv/P} ・・・(e)
であり、Rは真の阻止率で、
R=1−Cp/Cm ・・・(f)
で定義される。ΔPを種々変化させることにより(b)式からLpを算出でき、またJvを種々変化させてRを測定し、Rと1/Jvをプロットしたものに対して(d)、(e)式をカーブフィッティングすることにより、Pとσとを同時に求めることができる。
【0096】
なお、Pと分離膜の脱塩率Rについて、以下の式(g)の関係が成り立つ。
R=100×Jv/(Jv+P)・・・(g)
(分離膜エレメントの造水量)
以下に示す3種の評価条件に基づき、分離膜エレメントの評価を実施した。
(条件1)供給水として、濃度200ppmの食塩水、pH6.5のNaCl水溶液を用い、運転圧力0.41MPa、温度25℃の条件下で15分間運転した後に1分間のサンプリングを行い、1日当たりの透水量を造水量(GPD(ガロン/日))として表した。
(条件2)供給水として、NaCl、CaCl
2、Na
2SO
4が含まれる塩濃度200ppm、pH6.5の水溶液を用い、運転圧力0.41MPa、温度25℃の条件下で30分間運転した後に1分間のサンプリングを行い、1日当たりの透水量を造水量(m
3/日)として示した。また、分離膜エレメントの総造水量が3000Lに達したときにも1分間のサンプリングを行い、1日当たりの透水量を造水量(m
3/日)として示した。
(条件3)供給水として、全炭素(TC)35ppm、全有機炭素(TOC)3.8ppm、TDS濃度350ppm、pH7.3の中国上海市水道水を用い、運転圧力0.41MPa、温度25℃の条件下で30分間運転した後に1分間のサンプリングを行い、1日当たりの透水量を造水量(m
3/日)として示した。また、分離膜エレメントの総造水量が3000Lに達したときにも1分間のサンプリングを行い、1日当たりの透水量を造水量(m
3/日)として示した。また、分離膜エレメントの総造水量が3000Lに達したときにも1分間のサンプリングを行い、1日当たりの透水量を造水量(m
3/日)として示した。
(回収率)
造水量の測定において、所定の時間に供給した供給水流量V
Fと、同時間での透過水量V
Pの比率を回収率とし、V
P/V
F×100から算出した。
(脱塩率(TDS除去率))
分離膜エレメントの造水量の測定における1分間の運転で用いた供給水およびサンプリングした透過水について、TDS濃度を伝導率測定により求め、下記式から脱塩率を算出した。
【0097】
脱塩率(%)=100×{1−(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
(緯編物による透過側流路材トリコットの作製)
緯編物は、ポリエチレンテレフタレートフィラメント(融点:255℃)にポリエチレンテレフタレート系低融点ポリエステルフィラメント(融点:235℃)を混繊してなるマルチフィラメント糸(48フィラメント、110デシテックス)を編糸として、天竺編の緯編組織(ゲージ(編機の単位長間にあるニードルの本数))を編成し、それを245℃で熱セット処理した後にカレンダ加工を施して透過側流路材トリコット作製した。
【0098】
なお、表2中には本透過側流路材を、透過側流路材Aと示した。
(不織布上に突起物を有する透過側流路材の作製)
スリット幅0.5mm、ピッチ0.9mmの櫛形シムを装填したアプリケーターを用いて、バックアップロールを20℃に温度調節しながら、分離膜エレメントとした場合に集水管の長手方向に対して垂直かつ封筒状膜とした場合に巻回方向の内側端部から外側端部まで集水管の長手方向に対して垂直になるよう直線状もしくは不連続状に、高結晶性PP(MFR1000g/10分、融点161℃)60質量%と低結晶性α−オレフィン系ポリマー(出光興産株式会社製;低立体規則性ポリプロピレン「L−MODU・S400」(商品名))40質量%からなる組成物ペレットを樹脂温度205℃、走行速度10m/分で直線状に不織布上に塗布した。不織布は厚み0.07mm、目付量が35g/m
2、エンボス柄(φ1mmの円形、ピッチ5mmの格子状)であった。
【0099】
なお、表2中には本透過側流路材を、透過側流路材Bと示した。
(貫通孔を有するフィルムによる透過側流路材の作製)
無延伸ポリプロピレンフィルム(東レ製 トレファン(登録商標))にインプリント加工およびCO2レーザ加工を施し、貫通孔を有する透過側流路材を得た。具体的には切削加工により溝を形成した金属金型で無延伸ポリプロピレンフィルムを挟み込み、140℃/2分間/15MPaで保圧し、40℃で冷却後に金型から取り出した。
【0100】
続いて、3D−Axis CO2レーザマーカ MLZ9500を用いて、凹凸インプリントシートの非凹凸面から、凹凸における凹部対してレーザ加工し貫通孔を得た。なお、貫通孔は、各溝にピッチ2mmで設けた。
【0101】
なお、表2中には本透過側流路材を、透過側流路材Cと示した。
(無機スケール付着量)
(条件3)にて評価を実施した、総造水量3000Lに達した分離膜エレメントを解体し、膜面付着物を1wt%の硝酸水溶液で抽出し、日立株式会社製P−4010型ICP(高周波誘導結合プラズマ発光分析)装置を用いて、無機成分(カルシウム、マグネシウム、バリウム)の合計吸着量(g)を測定し、分離膜エレメントの膜面積から無機スケール付着量(g/m
2)を算出した。
(総付着物量)
(条件3)にて評価を実施した、総造水量3000Lに達した分離膜エレメントを解体し、膜面に付着した付着物をゴム製のスクレーパーで収集した後、120℃で2時間乾燥させて質量を測定し分離膜エレメントの膜面積から総付着物量(g/m
2)を算出した。
(有機ファウリング付着量)
上記総付着物量と上記無機スケール付着量の差を、有機ファウリング付着量(g/m
2)として算出した。
(透過側流路材の厚みおよび凸部の高さ)
透過側流路材の厚みと凸部の高さはキーエンス社製高精度形状測定システムKS−1100で測定した。具体的には、キーエンス社製高精度形状測定システムKS−1100を用い、5cm×5cmの測定結果から平均の高低差を解析した。10μm以上の高低差のある30箇所を測定し、その平均値を凸部の高さとした。
(透過側流路材の凸部の幅および長さ、凹部の溝幅および溝長さ)
キーエンス社製高精度形状測定システムKS−1100を用い、上記の透過側流路材の厚みおよび凸部の高さと同様の手法で測定した。
(透過側流路材の凸部のピッチ)
キーエンス社製高精度形状測定システムKS−1100を用い、分離膜の透過側における流路材の頂点から、隣の流路材の頂点までの水平距離を200箇所について測定し、その平均値を凸部のピッチとした。
(透過側流路材の横断面積比)
透過側流路材を分離膜エレメントに充填した際、集水管の長手方向と平行な方向に沿って透過側流路材の凸部を通るように切断し、その断面について、顕微鏡画像解析装置を用いて凸部の中心と隣接する凸部の中心の距離(ピッチとも言う)と透過側流路材の高さを測定し、それらの積に対する、凸部の中心と隣接する凸部の中心との間に占める透過側流路材の横断面積の割合(横断面積比)を算出した。同様の測定を30箇所に関して実施し、その距離の平均値を表2中に示した。
(実施例1)
上述の製法で得られた分離膜aを断裁加工し、表2に示すポリプロピレン製ネット(厚み:300μm、交点間隔:8mm、繊維径:0.15mm、傾斜角:90°)を供給側流路材として挟んで折り畳み、リーフを作製した。
【0102】
得られたリーフの透過側面に透過側流路材として表2に示す透過側流路材B(横断面積比:0.43)を積層し、リーフ接着剤を塗布した。分離膜エレメントの幅に対して、集水管の長手方向に対して垂直方向の辺の長さが長くなるように、分離膜対を配置し、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)製集水管(幅:298mm、径:17mm、孔数8個×直線状2列)にスパイラル状に巻き付け、巻囲体の外周面を、筒状に連続押し出し成形されたネット(厚み:0.7mm、ピッチ:5mm×5mm、繊維径:350μm、投影面積比:0.13)で被覆した。被覆された巻囲体の両端を長さが254mmになるようにカットした後、一端からの供給水流入を防ぐための封止板(第1端板91に相当する)の取り付けを行った。こうして、供給水供給口を分離膜エレメントの外周面のみに設けた。さらに、第2端板92に相当する端板を被覆された巻囲体の他端に取り付け、濃縮流体出口を分離膜エレメントの他端に設けた直径が1.8インチの分離膜エレメントを作製した。得られた分離膜エレメントを圧力容器に入れて、上述の各条件にて性能を評価した。(条件3)にて評価後の分離膜エレメントを解体し、無機スケール付着量、総付着物量、有機ファウリング付着量を測定したところ、結果は表3の通りであった。なお、表1中の有効膜面積とは、分離膜リーフにおいて、リーフ接着剤により分離機能が失活していない領域のことである。
【0103】
【表1-1】
【0104】
【表1-2】
【0105】
【表2-1】
【0106】
【表2-2】
【0107】
【表3-1】
【0108】
【表3-2】
【0109】
(実施例2〜55)
表1〜3の通りに分離膜エレメント径、分離膜、供給側流路材、透過側流路材、原水供給部の位置、回収率を変更し、分離膜エレメントを作製した。
【0110】
分離膜エレメントを圧力容器に入れて、実施例1と同条件で各性能を評価したところ、結果は表3の通りであった。
(比較例1〜13)
表1〜3の通りに分離膜エレメント径、分離膜、供給側流路材、透過側流路材、原水供給部の位置、回収率を変更し、分離膜エレメントを作製した。
【0111】
分離膜エレメントを圧力容器に入れて、実施例1と同条件で各性能を評価したところ、結果は表3の通りであった。