(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
[車両の構造]
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。先ず、
図1を参照して、本発明に係るエンジンの制御方法及び車両システムが適用される車両100の構造について概略的に説明する。本実施形態に係る車両100はFF駆動車であって、駆動源としてエンジン本体1を備える。エンジン本体1は4つの気筒2を有し、SI燃焼及び火花点火制御圧縮着火燃焼が可能な直列4気筒ガソリンエンジンである。
【0026】
車両100は、エンジン本体1を搭載する車体101と、駆動輪及び操舵輪としての前輪102と、従動輪としての後輪103とを含む。エンジン本体1で生成された駆動力は、トランスミッション104を介して前輪102に伝達される。また、車両100には、前輪102を操舵するステアリング105と、ステアリング105の操作を補助するパワーステアリング装置106とが備えられている。さらに車両100には、ドライバーによって操作され、後述のスロットル弁32の開度を調整するアクセル107が備えられている。
【0027】
車両100には、エンジン本体1の電子制御を行うECU60(制御器)が搭載されている。本実施形態に係るECU60は、ドライバーがステアリング105を操作した際に車両姿勢制御を実行可能である。車両姿勢制御では、ドライバーがステアリング105を切り始めた瞬間に、エンジン本体1の生成トルクを、アクセル107の開度などによって定まる要求トルクよりも低減させ、その減速Gにより前輪102への荷重移動を発生させる。これにより、前輪102のタイヤグリップが増加し、コーナリングフォースが高められる。この車両姿勢制御及び上述の火花点火制御圧縮着火燃焼については、後記で詳述する。
【0028】
[エンジンシステム]
続いて、車両100に搭載されるエンジンシステムについて説明する。
図2は、本実施形態に係るエンジンシステムの全体構成を示す図である。エンジンシステムは、4サイクルのガソリン直噴エンジンからなるエンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流させるEGR装置50とを備えている。
【0029】
エンジン本体1は、車両100の駆動源として利用される。本実施形態では、エンジン本体1は、ガソリンを主成分とする燃料の供給を受けて駆動されるエンジンである。なお、燃料は、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。エンジン本体1は、シリンダブロック3、シリンダヘッド4及びピストン5を備える。シリンダブロック3は、上述の4つの気筒を形成するシリンダライナを有する。シリンダヘッド4は、シリンダブロック3の上面に取り付けられ、気筒2の上部開口を塞いでいる。ピストン5は、各気筒2に往復摺動可能に収容されており、コネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。
【0030】
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。燃焼室6には前記燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。そして、供給された燃料と空気との混合気が燃焼室6で燃焼され、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。気筒2の幾何学的圧縮比、つまりピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、後述する火花点火制御圧縮着火燃焼に好適となるように、13以上30以下(例えば20程度)の高圧縮比に設定されている。
【0031】
シリンダブロック3には、クランク角センサSN1及び水温センサSN2が取り付けられている。クランク角センサSN1は、クランク軸7の回転角度(クランク角)及びクランク軸7の回転速度(エンジン回転速度)を検出する。水温センサSN2は、シリンダブロック3及びシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度(エンジン水温)を検出する。
【0032】
シリンダヘッド4には、燃焼室6と連通する吸気ポート9及び排気ポート10が形成されている。シリンダヘッド4の底面は、燃焼室6の天井面となる。この燃焼室天井面には、吸気ポート9の下流端である吸気側開口と、排気ポート10の上流端である排気側開口とが形成されている。シリンダヘッド4には、前記吸気側開口を開閉する吸気弁11と、前記排気側開口を開閉する排気弁12とが組み付けられている。なお、図示は省いているが、エンジン本体1のバルブ形式は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式であって、吸気ポート9及び排気ポート10は、各気筒2につき2つずつ設けられるとともに、吸気弁11及び排気弁12も2つずつ設けられている。
【0033】
シリンダヘッド4には、カムシャフトを含む吸気側動弁機構13及び排気側動弁機構14が配設されている。吸気弁11及び排気弁12は、これら動弁機構13、14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。吸気側動弁機構13には、吸気弁11の少なくとも開時期を変更可能な吸気VVT13aが内蔵されている。同様に、排気側動弁機構14には、排気弁12の少なくとも閉時期を変更可能な排気VVT14aが内蔵されている。これら吸気VVT13a及び排気VVT14aの制御により、吸気弁11及び排気弁12の双方が排気上死点を跨いで開弁するバルブオーバーラップ期間を調整することが可能である。また、このバルブオーバーラップ期間の調整により、燃焼室6に残留する既燃ガス(内部EGRガス)の量を調整することが可能である。
【0034】
シリンダヘッド4には、さらにインジェクタ15(燃料噴射弁)及び点火プラグ16が取り付けられている。インジェクタ15は、気筒2(燃焼室6)内に燃料を噴射(供給)する。インジェクタ15としては、その先端部に複数の噴孔を有し、これらの噴孔から放射状に燃料を噴射することが可能な多噴孔型のインジェクタを用いることができる。インジェクタ15は、その先端部が燃焼室6内に露出し、且つ、ピストン5の冠面の径方向中心部と対向するように配置されている。
【0035】
点火プラグ16は、インジェクタ15に対し吸気側に幾分ずれた位置に配置され、その先端部(電極部)が気筒2内に臨む位置に配置されている。点火プラグ16は、気筒2(燃焼室6)内に形成される燃料と空気との混合気に点火する強制点火源である。
【0036】
シリンダヘッド4には、センシング要素として、筒内圧センサSN3、吸気カム角センサSN12及び排気カム角センサSN13は配設されている。筒内圧センサSN3は、燃焼室6の圧力を検出する。吸気カム角センサSN12は、吸気側動弁機構13のカムシャフトの回転位置を、排気カム角センサSN13は、排気側動弁機構14のカムシャフトの回転位置を、各々検出する。
【0037】
吸気通路30は、
図2に示すように、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30および吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。吸気通路30には、その上流側から順に、エアクリーナ31、スロットル弁32、過給機33、電磁クラッチ34、インタークーラ35及びサージタンク36が配置されている。
【0038】
エアクリーナ31は、吸気中の異物を除去して吸気を清浄化する。スロットル弁32は、アクセル107の踏み込み動作と連動して吸気通路30を開閉し、吸気通路30における吸気の流量を調整する。過給機33は、吸気を圧縮しつつ吸気通路30の下流側へ当該吸気を送り出す。過給機33は、エンジン本体1と機械的に連係されたスーパーチャージャであり、電磁クラッチ34によりエンジン本体1との締結及びその締結解除が切換られる。電磁クラッチ34が締結されると、エンジン本体1から過給機33に駆動力が伝達されて、過給機33による過給が行われる。インタークーラ35は、過給機33により圧縮された吸気を冷却する。サージタンク36は、図略のインテークマニホールドの直上流に配置され、複数の気筒2に吸気を均等に配分するための空間を提供するタンクである。
【0039】
吸気通路30の各部には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN4と、吸気の温度を検出する第1・第2吸気温センサSN5,SN7と、吸気の圧力を検出する第1・第2吸気圧センサSN6,SN8とが設けられている。エアフローセンサSN4及び第1吸気温センサSN5は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部分に配置され、当該部分を通過する吸気の流量、温度を各々検出する。第1吸気圧センサSN6は、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間(後述するEGR通路51の接続口よりも下流側)の部分に設けられ、当該部分を通過する吸気の圧力を検出する。第2吸気温センサSN7は、吸気通路30における過給機33とインタークーラ35との間の部分に設けられ、当該部分を通過する吸気の温度を検出する。第2吸気圧センサSN8は、サージタンク36に設けられ、当該サージタンク36内の吸気の圧力を検出する。
【0040】
吸気通路30には、過給機33をバイパスして吸気を燃焼室6に送るためのバイパス通路38が設けられている。バイパス通路38は、サージタンク36と後述するEGR通路51の下流端付近とを互いに接続している。バイパス通路38には、当該バイパス通路38を開閉可能なバイパス弁39が設けられている。
【0041】
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。燃焼室6で生成された既燃ガス(排気ガス)は、排気ポート10及び排気通路40を通して車両100の外部に排出される。排気通路40には触媒コンバータ41が設けられている。触媒コンバータ41には、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒41aと、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)41bとが内蔵されている。
【0042】
EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52およびEGR弁53とを備える。EGR通路51は、排気通路40における触媒コンバータ41よりも下流側の部分と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部分とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(外部EGRガス)を熱交換により冷却する。EGR弁53は、EGRクーラ52よりも下流側のEGR通路51に開閉可能に設けられ、EGR通路51を流通する排気ガスの流量を調整する。なお、EGR通路51には、EGR弁53の上流側の圧力と下流側の圧力との差を検出するための差圧センサSN9が設けられている。
【0043】
アクセル107には、そのアクセル開度を検出するアクセル開度センサSN10(運転状態センサの一つ)が付設されている。アクセル開度センサSN10は、アクセル107のペダル踏み込み具合を検出するセンサであり、ドライバーの加減速を検出するセンサでもある。ステアリング105には、操舵角センサSN11(舵角センサ)が付設されている。操舵角センサSN11は、ステアリング105による前輪102の操舵角を検出する。なお、前輪102の舵角を検出可能な他の舵角センサを適用しても良い。
【0044】
[制御構成]
図3は、前記エンジンシステムの制御構成を示すブロック図である。本実施形態のエンジンシステムは、ECU(エンジン・コントロール・モジュール)60によって統括的に制御される。ECU60は、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
【0045】
ECU60には車両100に搭載された各種センサからの検出信号が入力される。ECU60は、上述したクランク角センサSN1、水温センサSN2、筒内圧センサSN3、エアフローセンサSN4、第1・第2吸気温センサSN5,SN7、第1・第2吸気圧センサSN6,SN8、差圧センサSN9、アクセル開度センサSN10、操舵角センサSN11、吸気カム角センサSN12及び排気カム角センサSN13と電気的に接続されている。これらのセンサSN1〜SN13によって検出された情報、すなわち、クランク角、エンジン回転速度、エンジン水温、筒内圧力、吸気流量、吸気温、吸気圧、EGR弁53の前後差圧、アクセル開度、操舵角、吸気・排気カム角等の情報がECU60に逐次入力される。
【0046】
ECU60は、上記各センサSN1〜SN13他からの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、ECU60は、吸気VVT13a、排気VVT14a、インジェクタ15、点火プラグ16、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39及びEGR弁53等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0047】
ECU60は、機能的に燃焼制御部61、車両姿勢制御部62及び判定部63を備えている。燃焼制御部61は、インジェクタ15による燃料噴射動作及び点火プラグ16の点火動作を制御する。例えば燃焼制御部61は、クランク角センサSN1により検出されるエンジン回転速度と、アクセル開度センサSN10により検出されるアクセル107の開度から特定されるエンジン負荷(要求トルク)と、エアフローセンサSN4により検出される吸気流量とに基づいて、インジェクタ15からの燃料の噴射量及び噴射タイミングと、点火プラグ16の点火タイミングとを決定し、それらの決定に従ってインジェクタ15及び点火プラグ16を駆動する。この際、燃焼制御部61は、予め定められた運転マップを参照(
図4に一例を示す)し、燃焼モードを選択する。後記で詳述するが、前記燃焼モードには、気筒2内の混合気が所定時期に自己着火するようにインジェクタ15及び点火プラグ16が駆動される燃焼モード(火花点火制御圧縮着火燃焼)が含まれる。
【0048】
車両姿勢制御部62は、ステアリング105による前輪102の操舵角に応じて、エンジン本体1の生成トルクを変化させる車両姿勢制御を実行する(低減トルク設定工程)。車両姿勢制御部62は、例えば操舵角センサSN11の検出値を参照し、操舵角が所定時間内に所定量増大した場合に、車両100が旋回(コーナリング)走行状態であると判定し、生成トルクを低下させる制御を行う。トルク低下の手法は特に限定はないが、本実施形態では点火プラグ16の点火(駆動)タイミングのリタード制御、又は、気筒2内へ供給する燃料を減量させる減量制御のいずれかが、運転モード等に応じて採用される。なお、車両姿勢制御部62は、車両姿勢制御によるトルク低減量が大きい程、点火タイミングが遅角するように、若しくは燃料噴射量が減量されるように、各々制御を行う。
【0049】
判定部63は、燃焼室6において燃焼が安定しない状態若しくは失火の恐れが有る状態(燃焼不安定状態)に至り得るか否かを判定する。本実施形態では、燃焼制御部61による火花点火制御圧縮着火燃焼を含む燃焼制御と、車両姿勢制御部62による車両姿勢制御とが重畳的に実行される。ある条件下で両制御が重畳実行されると、上記の燃焼不安定状態が招来され得る。判定部63は、さらに、上記の燃焼不安定状態に至り得ると判定した場合に、前記燃焼制御又は前記車両姿勢制御の制御態様を変更させる制御を行う。
【0050】
後記で詳述するが、本実施形態では運転状態に応じて火花点火制御圧縮着火燃焼を、理論空燃比よりもリーンとする第1空燃比モード(λ>1)と、理論空燃比若しくは理論空燃比よりもリッチとする第2空燃比モード(λ≦1)との間で空燃比モードを切換させる(空燃比モード設定工程及び切換工程)。ここで、車両姿勢制御の実行時には、エンジントルクの低減及び要求トルクへの復帰のサイクルが繰り返される一方、火花点火制御圧縮着火燃焼の上記モード切換は、専らエンジン負荷や回転数に依存して行われる。このため、車両姿勢制御の実行によって、火花点火制御圧縮着火燃焼のモード切換が頻繁に行われるハンチングが発生する懸念がある。この点に鑑み、判定部63は、車両姿勢制御が実行されている状態では、火花点火制御圧縮着火燃焼の前記空燃比モード切換のための条件が成立していても、前記空燃比モード切換を抑制する指示を、燃焼制御部61又は車両姿勢制御部62に与える(抑制工程)。
【0051】
[燃焼制御]
続いて、燃焼制御部61が実行する燃焼制御について詳述する。
図4は、エンジンの回転数及び負荷に応じた燃焼制御の相違を説明するための簡易的な運転マップである。この運転マップには、4つの運転領域;第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3及び第4領域A4が示されている。第1領域A1は、エンジン回転数が低速・中速の領域におけるエンジン負荷が低い(無負荷を含む)低負荷の領域と、エンジン回転数が高速の領域における中負荷・高負荷の領域である。第2領域A2は、低速・中速の領域における、第1領域A1よりも負荷が高い領域(低速・中速/中負荷領域)である。第3領域A3は、低速・中速の領域における、第2領域A2よりも負荷が高い領域(低速・中速/高負荷領域)である。第4領域A4は、低速の領域における、全開ラインに近い領域である。
【0052】
第1領域A1及び第4領域A4では、SI燃焼(第1燃焼モード)が実行される。SI燃焼は、点火プラグ16を用いた火花点火により燃焼室6内の混合気に点火し、その点火点から周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により、混合気を強制的に燃焼させる燃焼形態である。つまり、気筒2内の混合気の全てが、点火プラグ16が生成した火炎の伝搬により燃焼する燃焼モードである。
【0053】
第2領域A2及び第3領域A3では、火花点火制御圧縮着火燃焼(第2燃焼モード)が実行される。火花点火制御圧縮着火燃焼は、上記のSI燃焼と、CI燃焼とをミックスした燃焼である。CI燃焼は、ピストン5の圧縮により高温・高圧化された環境下で混合気を自己着火により燃焼させる燃焼形態である。火花点火制御圧縮着火燃焼は、混合気が自己着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、当該SI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の残りの混合気を自己着火によりCI燃焼させる、という燃焼形態である。つまり、気筒2内の混合気の少なくとも一部が、自己着火により燃焼する燃焼モードである。
【0054】
本実施形態では、この火花点火制御圧縮着火燃焼において、燃焼室6に形成される混合気が、理論空燃比よりもリーンとする第1空燃比モード(λ>1)と、理論空燃比若しくは理論空燃比よりもリッチとする第2空燃比モード(λ≦1)とを有する。詳しくは、前記第1空燃比モードは、燃焼室6内の空気(新気)と燃料との重量比である空燃比(A/F)を、理論空燃比(14.7)よりも大きい値に設定しつつ火花点火制御圧縮着火燃焼を行うモードである。一方、前記第2空燃比モードは、空燃比を理論空燃比(λ=1)若しくはその近傍(λ<1)に設定しつつ火花点火制御圧縮着火燃焼を行うモードである。本実施形態では、前記第1空燃比モードにおいて形成される混合気の空燃比A/Fは、25〜30/1程度の範囲(第1空燃比範囲)に設定される。前記第2空燃比モードの空燃比A/Fは、言うまでもなくλ=1の14.7/1(第2空燃比範囲)である。火花点火制御圧縮着火燃焼時において、上記の第1空燃比モード(λ>1)又は第2空燃比モード(λ≦1)のいずれかが、エンジンの運転状態に基づいて選択される(空燃比モード設定工程)。
【0055】
図5は、
図4の運転マップの各領域A1〜A4で実行される燃焼制御を概略的に説明するためのタイムチャートである。
図5のチャート(a)は、
図4に示す第2領域A2に含まれる運転ポイントP1でエンジンが運転されているときの、燃料噴射タイミング、点火タイミング及び燃焼の態様(熱発生率の波形)を示している。第2領域A2では、火花点火制御圧縮着火燃焼のうち、上記第1空燃比モード(λ>1)での燃焼が実行される。
【0056】
この運転ポイントP1において燃焼制御部61が実行する燃焼する燃焼制御は次の通りである。インジェクタ15には、チャート(a)に示すように、圧縮行程の中期から後期にかけて、燃料噴射(1回目)及び燃料噴射(2回目)の2回に分けて燃料を噴射させる。点火プラグ16には、圧縮上死点の近傍であってやや進角側のタイミングで混合気に点火させる。この点火をきっかけに火花点火制御圧縮着火燃焼が開始され、燃焼室6内の一部の混合気が火炎伝播により燃焼(SI燃焼)し、その後に残りの混合気が自着火により燃焼(CI燃焼)する。
【0057】
図6を参照して、火花点火制御圧縮着火燃焼の利点を説明する。
図6は、火花点火制御圧縮着火燃焼の実行時における熱発生率を示すグラフである。火花点火制御圧縮着火燃焼では、SI燃焼が発現しているときよりもCI燃焼が発現しているときの方が、熱発生が急峻になるという性質がある。すなわち、
図6に示すように、SI燃焼に対応する燃焼初期の立ち上がりの傾きが、その後のCI燃焼に対応して生じる立ち上がりの傾きよりも小さくなる。SI燃焼によって、燃焼室6内の温度および圧力が高まると、これに伴い未燃混合気が自己着火し、CI燃焼が開始される。このCI燃焼が開始するタイミング(
図6の変曲点X=クランク角θci)で、熱発生率の波形の傾きが小から大へと変化する。また、このような熱発生率の傾向に対応して、火花点火制御圧縮着火燃焼では、SI燃焼時に生じる燃焼室6内の圧力上昇率(dp/dθ)がCI燃焼時のそれよりも小さくなる。
【0058】
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも混合気の燃焼速度が速いため、熱発生率は相対的に大きくなる。ただし、CI燃焼は、圧縮上死点の後に発現するため、熱発生率の波形の傾きが過大になることはない。すなわち、圧縮上死点を過ぎるとピストン5の下降によりモータリング圧力が低下するので、このことが熱発生率の上昇を抑制する結果、CI燃焼時のdp/dθが過大になることが回避される。このように、火花点火制御圧縮着火燃焼では、SI燃焼の後にCI燃焼が行われるという性質上、燃焼騒音の指標となるdp/dθが過大になり難く、単純なCI燃焼(全ての燃料をCI燃焼させた場合)に比べて燃焼騒音を抑制することができる。
【0059】
CI燃焼の終了に伴い火花点火制御圧縮着火燃焼も終了する。CI燃焼はSI燃焼に比べて燃焼速度が速いので、単純なSI燃焼(全ての燃料をSI燃焼させた場合)に比べて燃焼終了時期を早めることができる。言い換えると、火花点火制御圧縮着火燃焼では、燃焼終了時期を膨張行程内において圧縮上死点に近づけることができる。これにより、火花点火制御圧縮着火燃焼では、単純なSI燃焼に比べて燃費性能を向上させることができる。
【0060】
図5に戻って、チャート(b)は、
図4に示す第3領域A3に含まれる運転ポイントP2(第3領域A3において比較的負荷が低い領域内のポイント)でエンジンが運転されているときの、燃焼制御部61による燃焼制御の態様を示している。第3領域A3内の低負荷領域では、火花点火制御圧縮着火燃焼のうち、上記第2空燃比モード(λ≦1)の範疇であってλ=1に調製された混合気の燃焼が実行される。
【0061】
運転ポイントP2において燃焼制御部61は、インジェクタ15には、比較的多量の燃料を噴射する1回目の燃料噴射を吸気行程中に実行させ、次いで当該1回目の燃料噴射よりも少量の燃料を噴射する2回目の燃料噴射を圧縮行程中に実行させる。また、燃焼制御部61は、点火プラグ16には、圧縮上死点よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火させる。この点火をきっかけに火花点火制御圧縮着火燃焼が開始される点は、上記の運転ポイントP1と同様である。
【0062】
図5のチャート(c)は、第3領域A3に含まれる運転ポイントP3(第3領域A3において比較的負荷が高い領域内のポイント)でエンジンが運転されているときの、燃焼制御部61による燃焼制御の態様を示している。第3領域A3の高負荷領域では、火花点火制御圧縮着火燃焼のうち、燃焼室6内の空燃比が理論空燃比よりもややリッチ(λ≦1)とされた混合気を火花点火制御圧縮着火燃焼させる制御が実行される。
【0063】
運転ポイントP3において燃焼制御部61は、インジェクタ15には、1サイクル中に噴射すべき燃料の全部または大半を吸気行程中に噴射させる。例えば、チャート(c)のように、吸気行程の後半から圧縮行程の初期にかけた一連の期間にわたって燃料を噴射させる。また、燃焼制御部61は、点火プラグ16には、圧縮上死点の近傍であってやや遅角側のタイミングで混合気に点火させる。この点火をきっかけに火花点火制御圧縮着火燃焼が開始される点は、上記の運転ポイントP1、P2と同様である。
【0064】
ここでは、第3領域A3において、混合気を理論空燃比のλ=1で形成させる場合と、理論空燃比よりもややリッチなλ≦1で形成させる場合とを、負荷に応じて使い分ける例を示している。これに代えて、第3領域A3の全域において、混合気を理論空燃比のλ=1で形成させるようにしても良い。後述の実施形態では、第3領域A3で実行される上記第2空燃比モードが、λ=1の混合気を火花点火制御圧縮着火燃焼させる態様について説明している。
【0065】
図5のチャート(d)は、低回転高負荷の第4領域A4に含まれる運転ポイントP4でエンジンが運転されているときの、燃焼制御部61による燃焼制御の態様を示している。第4領域A4では、火花点火制御圧縮着火燃焼ではなく、点火タイミングをリタードさせたSI燃焼(リタード_SI)が実行される。
【0066】
運転ポイントP4において燃焼制御部61は、インジェクタ15には、比較的多量の燃料を噴射する1回目の燃料噴射を吸気行程中に実行させ、続いて当該1回目の燃料噴射よりも少量の燃料を噴射する2回目の燃料噴射を圧縮行程の後期(圧縮上死点の直前)に実行させる。また、燃焼制御部61は、点火プラグ16にはリタード点火を実行させる。混合気への点火タイミングは、例えば圧縮上死点から5〜20°CA程度経過した比較的遅めのタイミングとされる。この点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。なお、第4領域A4での点火時期が上記のように遅角されるのは、ノッキングやプリイグニッション等の異常燃焼を防止するためである。
【0067】
図5のチャート(e)は、第1領域A1における高負荷高回転領域に含まれる運転ポイントP5でエンジンが運転されているときの、燃焼制御部61による燃焼制御の態様を示している。第1領域A1では、火花点火制御圧縮着火燃焼ではなく、オーソドックスなSI燃焼(吸気_SI)が実行される。
【0068】
運転ポイントP5において燃焼制御部61は、インジェクタ15には、吸気行程から圧縮行程にかけた一連の期間にわたって燃料を噴射させる。なお、運転ポイントP5は、高負荷高回転の条件であるため、1サイクル中に噴射すべき燃料の量がそもそも多い上に、所要量の燃料を噴射するのに要するクランク角期間が長期化する。なお、第1領域A1における中・低負荷領域では、燃料噴射量はチャート(e)よりも低減される。また、燃焼制御部61は、点火プラグ16には圧縮上死点よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火させる。この点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。
【0069】
[車両姿勢制御]
続いて、車両姿勢制御部62が実行する車両姿勢制御について詳述する。
図7は、本実施形態に係る車両姿勢制御の制御態様を概略的に示すタイムチャートである。
図7には、ステアリング105による前輪102の操舵角と、車両姿勢制御による車両100の減速度及びその減速を実現する生成トルクとの関係が示されている。
【0070】
車両姿勢制御部62は、操舵角センサSN11で検出されたステアリング105の操舵角の変化量が予め設定された基準変化量以上になると(操舵速度が所定値以上となると)、車両100がコーナリング中であるとみなして、減速度を徐々に増加させる。既述の通り本実施形態では、点火プラグ16の点火タイミングのリタード制御若しくは気筒2内へ供給する燃料の減量制御によってエンジン本体1が生成するトルクを低減し、これによって車両100の駆動力を低下させて減速度を増加させる。
【0071】
具体的には、車両姿勢制御部62は、通常運転時の要求エンジントルクであって、クランク角センサSN1により検出される車速とアクセル開度センサSN10により検出されるアクセル107の開度とに基づいて決定される目標基本エンジントルクに対して、エンジントルクを低減する。また、車両姿勢制御部62は、操舵速度が所定値未満となると、減速度を徐々に低下させる。このようにすれば、コーナリング時に、前輪102のコーナリングフォースを高めることができ、車両100を円滑に旋回させることができる。
【0072】
図8に示すフローチャートを参照して、車両姿勢制御の具体的な制御例を説明する。
図8では、目標基本エンジントルクに対するトルク低減によって減速度を付加するという意味合いにおいて、車両姿勢制御を「付加減速度設定処理」と称している。付加減速度設定処理が開始されると、車両姿勢制御部62は、操舵角センサSN11の検出結果より取得された操舵角の絶対値が増大中か否かを判定する(ステップ#1)。操舵角の絶対値が増大中である場合(ステップ#1でYES)、車両姿勢制御部62は、前記取得された操舵角より操舵速度を算出する(ステップ#2)。
【0073】
続いて車両姿勢制御部62は、ステップ#2で求めた操舵速度の絶対値が減少しているか否かを判定する(ステップ#3)。操舵速度の絶対値が減少していない場合(ステップ#3でYES)、すなわち操舵速度の絶対値が増大している、若しくは、操舵速度の絶対値が変化していない場合、車両姿勢制御部62は、操舵速度に基づき目標付加減速度を設定する(ステップ#4)。この目標付加減速度は、ドライバーが意図したステアリング105の操作に応じて車両100に付加すべき減速度である。
【0074】
具体的には、車両姿勢制御部62は、
図9のマップに示された目標付加減速度と操舵速度との関係に基づき、ステップ#2で算出された操舵速度に対応する目標付加減速度を取得する。
図9を参照して、操舵速度が所定の閾値Ts以下である場合、対応する目標付加減速度は0である。すなわち、車両姿勢制御部62は、操舵速度が閾値Ts以下である場合には、ステアリング105の切り込み操作があっても、車両100に減速度を付加するためにエンジントルクを低減する制御(車両姿勢制御)を実行しない。一方、操舵速度が閾値Tsを超過する場合には、その操舵速度が増大するに従って、当該操舵速度に対応する目標付加減速度は、所定の上限値Dmax(例えば1m/s
2)に漸近する。すなわち、操舵速度が増大するほど目標付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。
【0075】
次に車両姿勢制御部62は、今回の処理において車両100に減速度を付加する際の、付加減速度の閾値である最大増大率Rmaxを決定する。そして、車両姿勢制御部62は、付加減速度の増大率が最大増大率Rmax以下となる範囲で、今回の処理における付加減速度を決定する(ステップ#5)。
【0076】
具体的には、車両姿勢制御部62は、前回の処理において決定した付加減速度から今回の処理のステップ#4において設定した目標付加減速度への増大率が、上記最大増大率Rmax以下である場合には、ステップ#4において決定した目標付加減速度を今回の処理における付加減速度として決定する。一方、前回の付加減速度から今回の処理のステップ#4において決定した目標付加減速度への増大率がRmaxより大きい場合、車両姿勢制御部62は、前回決定の付加減速度を増大率=Rmaxで増大させた値を、今回の処理における付加減速度として決定する。
【0077】
上記ステップ#3において、操舵速度の絶対値が減少している場合(ステップ#3でYES)、車両姿勢制御部62は、前回の処理において決定した付加減速度を今回の処理における付加減速度として決定する(ステップ#6)。すなわち、操舵速度の絶対値が減少している場合、操舵速度の最大時における付加減速度(付加減速度の最大値)が保持される。
【0078】
上記ステップ#1において、操舵角の絶対値が増大中ではない場合(ステップ#1でNO)、車両姿勢制御部62は、前回の処理において決定した付加減速度を今回の処理において減少させる量(減速度減少量)を設定する(ステップ#7)。この減速度減少量は、予めECU60が備えるメモリ等に記憶されている一定の減少率(例えば0.3m/s
3)に基づき算出される。或いは減速度減少量は、各種センサから得られる車両100の運転状態、又はステップ#2で算出された操舵速度に応じて決定された減少率等に基づき算出される。そして、車両姿勢制御部62は、前回の処理において決定した付加減速度からステップ#7で設定した減速度減少量を減算することにより、今回の処理における付加減速度を決定する(ステップ#8)。
【0079】
しかる後、車両姿勢制御部62は、ステップ#5、#6又は#8において決定した今回の付加減速度に基づき、トルク低減量を決定する(ステップ#9;低減トルク設定工程)。具体的には、車両姿勢制御部62は、今回の付加減速度を実現するために必要となるトルク低減量を、現在の車速、ギア段、路面勾配等に基づき決定する。そして、車両姿勢制御部62は、決定されたトルク低減量に相当する分だけエンジントルクを低減させるよう、燃焼制御部61を介して、点火プラグ16の点火タイミングのリタード制御、又は気筒2内へ供給する燃料の減量制御を実行させるものである。
【0080】
[トルク低減の実行方法の切換制御]
上述の通り、本実施形態のエンジン本体1は、操舵角の単位時間当たりの変化量が予め設定された基準変化量以上になると(ここでは「第1条件の成立」という)、エンジン本体1の生成トルクを低下させる車両姿勢制御が実行される。他方、エンジン本体1は、燃焼室6における混合気の燃焼形態として、SI燃焼(第1燃焼モード)だけでなく、火花点火制御圧縮着火燃焼(第2燃焼モード)も実行する。すなわち、アクセル開度及び車速で定まる要求トルクが、
図4に示した第2領域A2及び第3領域A3の範疇に入る場合(ここでは「第2条件の成立」という)では、混合気を所定時期に自己着火させる火花点火制御圧縮着火燃焼が実行される。これらSI燃焼又は火花点火制御圧縮着火燃焼のいずれかが、エンジンの運転状態に応じて選択される(燃焼モード設定工程)。
【0081】
車両姿勢制御部62は、上記第1条件の成立を判定したとき、車両姿勢制御を実行する(
図8参照)。また、燃焼制御部61は、上記第2条件の成立を判定したとき、火花点火制御圧縮着火燃焼が発現するよう、インジェクタ15の燃料噴射タイミング及び点火プラグ16の駆動(点火)タイミングを制御する(
図5参照)。さらに、火花点火制御圧縮着火燃焼では、混合気が理論空燃比よりもリーンに形成される第1空燃比モード(λ>1)と、混合気が理論空燃比若しくは理論空燃よりもリッチに形成される第2空燃比モード(λ≦1)との間でのモード切換が行われることになる(切換工程;
図5のチャート(b)(c)参照)。
【0082】
上記の第1条件及び第2条件が同時に成立した場合、車両姿勢制御と火花点火制御圧縮着火燃焼とが重畳的に実行されることになる。つまり、火花点火制御圧縮着火燃焼が行われている状態において、車両姿勢制御の実行のためにエンジントルクの低減が行われる場合がある。トルク低減の手法として最も簡易であるのが、点火プラグ16の点火タイミングの遅角(点火リタード)である。しかし、火花点火制御圧縮着火燃焼が行われている状態において、車両姿勢制御の実行のために点火リタードが実行されると、燃焼が不安定化する恐れがある。すなわち、点火リタードによって火花点火制御圧縮着火燃焼におけるSI燃焼の開始タイミングが遅角すると、燃焼室6内の筒内圧力が燃焼後半のCI燃焼のために必要な筒内圧力まで上昇しないことが起こり得る。この場合、燃焼室6において燃焼が安定しない状態若しくは失火の恐れが有る状態(燃焼不安定状態)が発生することがある。
【0083】
上記の点に鑑みて本実施形態では、判定部63が、上記燃焼不安定状態に至り得る運転状態であるか否かを判定する。具体的には、上記の第1条件及び第2条件が同時に成立しているかが判定される。そして、判定部63は、燃焼不安定状態に至り得ると判定した場合に、車両姿勢制御の実行のためのエンジントルク低減手法を、点火リタードから気筒2内へ供給する燃料を減量させる減量制御に切り換える。要求トルクに対して設定される燃料噴射量よりも減量させれば、点火リタードを行わずとも、自ずとエンジントルクは低下する。一方で、点火プラグ16による混合気への強制点火のタイミングは、火花点火制御圧縮着火燃焼用に設定されたタイミングに維持されるので、SI燃焼はレギュラータイミングで開始される。従って、所定の火花点火制御圧縮着火燃焼を発現させることができる。
【0084】
判定部63による上記のトルク低減手段の切換制御について、
図10A及び
図10Bに示すフローチャートを参照して説明する。
図10Aの制御例は、火花点火制御圧縮着火燃焼が実行されているか否か、つまり
図4の運転マップの第2領域A2又は第3領域A3でエンジンが運転されているか否かに応じて、車両姿勢制御の実行のためのエンジントルク低減の手法を切り換える例である。
【0085】
エンジンの制御処理が開始されると、ECU60(
図3)は、車両100の運転状態に関する各種のセンサ信号を読み込む(ステップ#11)。具体的にはECU60は、クランク角センサSN1の検出値から得られる車速、アクセル開度センサSN10によって検出されるアクセル107の開度、操舵角センサSN11によって検出されるステアリング105の操舵角、車両100の変速機に現在設定されているギア段等を含む、各種の情報を取得する。
【0086】
次に、判定部63は、付加減速度の要求が有るか否か、つまり、車両姿勢制御の実行のためのトルク低減の要求が存在するか否か(第1条件が成立しているか否か)を判定する(ステップ#12)。操舵角の増大量が基準増大量を超過している場合、車両姿勢制御部62は付加減速度の要求を出す(ステップ#12でYES)。この場合、判定部63は、さらに燃焼制御部61が火花点火制御圧縮着火燃焼を実行中であるか否か(第2条件が成立しているか否か)を判定する(ステップ#13)。なお、付加減速度の要求が無い場合(ステップ#12でNO)は、判定部63は処理を終える(ステップ#11へリターン)。
【0087】
火花点火制御圧縮着火燃焼が実行されている場合(ステップ#13でYES)、判定部63は、車両姿勢制御部62において、インジェクタ15の燃料噴射量を減量させる減量制御にて、車両姿勢制御のためのトルク低減が行われるよう設定する(低減トルク設定工程;ステップ#14)。つまり、上記第1条件及び第2条件が成立している場合、判定部63は、エンジン本体1の生成トルクを低下させるために、気筒2内に供給する燃料を減量させる減量制御を実行させる。なお、トルク低減量が大きい程、燃料噴射量の減量度合いが大きく設定される。
【0088】
これに対し、火花点火制御圧縮着火燃焼が実行されていない場合(ステップ#13でNO)、すなわち
図4の運転マップの第1領域A1又は第4領域A4でエンジンが運転されている場合、判定部63は、車両姿勢制御部62において、点火プラグ16による混合気への点火タイミングをリタードさせる点火リタード制御にて、車両姿勢制御のためのトルク低減が行われるよう設定する(ステップ#15)。つまり、前記第1条件が成立する一方で前記第2条件が不成立の場合、判定部63は、エンジン本体1の生成トルクを低下させるために、点火プラグ16の駆動のタイミングをリタードさせる。なお、トルク低減量が大きい程、点火タイミングのリタード度合いが大きく設定される。ステップ#14又は#15の実行後、判定部63は処理を終える(ステップ#11へリターン)。
【0089】
以上の通り、
図10Aの制御例では、判定部63が前記第1条件及び前記第2条件の成立を判定したときには、点火リタードではなく、燃料を減量させる減量制御によってエンジンの生成トルクを低下させる。つまり、火花点火制御圧縮着火燃焼時には、車両姿勢制御を点火リタードではなく燃料の減量制御によって実行させる。このため、火花点火制御圧縮着火燃焼におけるSI燃焼の開始タイミングが遅角されないので、当該SI燃焼によって発生する熱によって筒内温度及び圧力が十分に高められ、失火を発生させることなく燃焼後半のCI燃焼を良好に発生させることができる。一方、火花点火制御圧縮着火燃焼ではなくSI燃焼が実行されている場合、失火の問題は実質的に生じない。このようなケースでは、車両姿勢制御が点火リタードによって実行されるので、制御を簡素化することができる。
【0090】
図10Bの制御例は、火花点火制御圧縮着火燃焼が実行され、且つ、当該火花点火制御圧縮着火燃焼が空燃比リーンの混合気で実行される第1空燃比モード(λ>1)にて実行されているか否か、つまり
図4の運転マップの第2領域A2でエンジンが運転されているか否かに応じて、車両姿勢制御の実行のためのエンジントルク低減の手法を切り換える例である。
【0091】
ステップ#21及び#22の処理は、上述のステップ#11及び#12と同様であるので説明を省く。車両姿勢制御部62が付加減速度の要求を出している場合(ステップ#22でYES)、判定部63は、燃焼制御部61が前記第1空燃比モード(λ>1)の火花点火制御圧縮着火燃焼を実行中であるか否か(第2条件が成立し且つ第1モードが実行されているか否か)を判定する(ステップ#23)。
【0092】
前記第1空燃比モードの火花点火制御圧縮着火燃焼が実行されている場合(ステップ#23でYES)、判定部63は、車両姿勢制御部62において、インジェクタ15の燃料噴射量を減量させる減量制御にて、車両姿勢制御のためのトルク低減が行われるよう設定する(ステップ#24)。つまり、上記第1条件及び第2条件が成立し、且つ、第1空燃比モード(λ>1)が実行されている場合、判定部63は、エンジン本体1の生成トルクを低下させるために、気筒2内に供給する燃料を減量させる減量制御を実行させる。
【0093】
これに対し、前記第1モードの火花点火制御圧縮着火燃焼が実行されていない場合(ステップ#23でNO)、すなわち
図4の運転マップの第1領域A1又は第4領域A4のSI燃焼、若しくは第3領域A3における第2空燃比モード(λ≦1)の火花点火制御圧縮着火燃焼でエンジンが運転されている場合、判定部63は、車両姿勢制御部62において、点火プラグ16による混合気への点火タイミングをリタードさせる点火リタード制御にて、車両姿勢制御のためのトルク低減が行われるよう設定する(ステップ#25)。つまり、前記第1条件が成立する一方で前記第2条件が不成立の場合、及び、前記第1条件及び前記第2条件が成立し、且つ、前記第2モードが実行されている場合に、判定部63は、エンジン本体1の生成トルクを低下させるために、点火プラグ16の駆動のタイミングをリタードさせる。
【0094】
以上の通り、
図10Bの制御例では、判定部63が上記第1条件及び第2条件の成立を判定し、且つ、第1空燃比モード(λ>1)が実行されていると判定したときには、点火リタードではなく、燃料を減量させる減量制御によってエンジンの生成トルクを低下させる。つまり、空燃比リーンの混合気を用いる火花点火制御圧縮着火燃焼時には、車両姿勢制御を点火リタードではなく燃料の減量制御によって実行させる。第1空燃比モード(λ>1)で燃焼中において点火リタードを行うと、混合気がリーンであることから自己着火が起こり難くなり、失火の可能性が一層高くなる。しかし、上記制御例によれば、第1空燃比モード(λ>1)での火花点火制御圧縮着火燃焼が実行されている状況で車両姿勢制御を実行する場合においては燃料の減量制御が実行されるので、失火を効果的に抑止することができる。
【0095】
一方、混合気が空燃比リーンである場合に失火の可能性が高くなる裏返しとして、混合気が理論空燃比以上に形成される第2空燃比モードでは、上記点火リタードを行っても相対的に失火の可能性が低くなる。上記制御例によれば、第2空燃比モードでの火花点火制御圧縮着火燃焼が実行されている状況で車両姿勢制御を実行する場合には、点火リタードによるトルク低減が採用される。従って、点火プラグ16の駆動タイミング(点火タイミング)の制御という比較的簡易な制御によって、車両姿勢制御を実行させることができる。
【0096】
[ハンチング抑止制御]
次に、車両姿勢制御と火花点火制御圧縮着火燃焼のモード変換とが重畳する場合の処理について説明する。本実施形態では、火花点火制御圧縮着火燃焼が第1空燃比モード(λ>1)又は第2空燃比モード(λ≦1)にて実行される。例えば前記第1空燃比モードは、空燃比リーンとしてエンジンの熱効率を高める目的で採用され、前記第2空燃比モードは、燃焼安定性を優先させたいシーン等で採用される。ここで、車両姿勢制御の実行時には、
図7に示したように、エンジンの発生トルクを一時的に低減して前輪102のタイヤグリップが増加させ、その後、本来の要求トルクへ復帰させるというサイクルが繰り返される。一方、火花点火制御圧縮着火燃焼の上記空燃比モードの切換は、
図4の運転マップに示した通り、専らエンジン負荷や回転数に依存して行われる。このため、車両姿勢制御の実行によってエンジントルク(負荷)が揺動し、火花点火制御圧縮着火燃焼のモード切換が頻繁に行われるハンチングが発生する懸念がある。つまり、
図4に示した第2領域A2と第3領域A3との境界を、短時間に何回も跨いで負荷が変動し、これに応じて前記空燃比モードの切換要求が多数回発報されるケースが生じ得る。
【0097】
前記モード変換を瞬時に行い難いという事情もある。先述の通り、火花点火制御圧縮着火燃焼が第1空燃比モードで実行される場合、空燃比A/Fは25〜30/1程度(第1空燃比範囲)のリーンに設定され、第2空燃比モードでは空燃比A/F=14.7/1(第2空燃比範囲)に設定される。このため、両空燃比モード間には、第1空燃比範囲及び第2空燃比範囲のいずれにも属さない第3空燃比範囲が存在する。この第3空燃比範囲は、NOxを発生させるリーン燃焼の範囲となるので、使用が回避される。しかし、当該第3空燃比範囲が存在する場合、空燃比調整のための吸気量及び燃料噴射量の変更を伴う第1、第2空燃比モード間のモード切換は瞬間的には行えず、一定の時間を要する。また、空燃比モードの切換が実行される際には、各空燃比モードに合致する空燃比に移行するよう気筒内への吸気量又は燃料噴射量などが変化する不安定な状態となる。このような状態において車両姿勢制御のためのトルク低減制御が重畳されると、燃焼が不安定化したり失火が生じたりする不具合が生じ得る。上記のハンチング状態が発生すればなおさらである。
【0098】
上記の点に鑑みて本実施形態では、車両姿勢制御とSPCCI燃焼における空燃比モードの切換とが重畳する状況が発生する場合には、両者の重畳が回避できるような制御を実行させる。具体的には、判定部63は、車両姿勢制御の実行が必要と判定されている場合には、空燃比モードの切換の要求が生じる状況であっても、当該モード変換を抑制(禁止)する制御を実行させる(抑制制御)。
【0099】
図10Cは、実質的に上記の抑制制御を実行させることができる動作を簡易的に示すフローチャートである。ECU60は、車両100が備える各種センサ信号の読み込む(ステップ#31)。その後、判定部63は、車両姿勢制御のためのトルク低減が為されていない本来的な要求トルクにて、第1空燃比モード(λ>1)と第2空燃比モード(λ≦1)との間で空燃比モードを切り換えるモード切換要求が有るか否かを判定する(ステップ#32)。つまり、空燃比モードの切換判定は、車両姿勢制御によるトルク低減が行われる前の目標トルクを基準として判定される。
【0100】
前記目標トルクを基準とした空燃比モードの切換要求がある場合(ステップ#32でYES)、判定部63は、そのモード切換の実施を許容する。この場合、燃焼制御部61は、所要のモード切換を実施する(ステップ#33)。これに対し、前記空燃比モードの切換要求がない場合(ステップ#32でNO)、判定部63はステップ#33をスキップさせる。すなわち、車両姿勢制御によるトルク低減を考慮しない要求トルクにてモード切換の要否が判定されるので、トルク低減を考慮した場合には上述したモード切換のハンチングが生じるような場合でも、これを未然に防止することができる。
【0101】
以上の通り、
図10Cの制御例では、車両姿勢制御によるトルク低減を考慮した場合には、前記第1モードと前記第2モードとの間でモード切換を実行する条件が成立している場合でも、そのモード切換の実行を抑制(禁止)することができる。車両姿勢制御の実行時には、エンジントルクの低減及び要求トルクへの復帰のサイクルが繰り返される(
図7参照)。一方、火花点火制御圧縮着火燃焼の上記モード切換は、専らエンジン負荷(トルク)や回転数に依存して行われる(
図4参照)。このため、車両姿勢制御の実行によってエンジントルクが揺動し、その揺動に従って火花点火制御圧縮着火燃焼のモード切換が頻繁に行われてしまうハンチングが発生する懸念がある。しかし、
図10Cの制御例を採用することで、実質的に車両姿勢制御が実行されている状態では前記モード切換が抑制されるので、前記ハンチングの発生を抑制し、燃焼の不安定化を防止することができる。
【0102】
[エンジンの制御方法の具体例]
続いて、本発明に係るエンジンの制御方法が適用された、運転制御の具体的実施形態を説明する。
図11は、本実施形態に係るエンジン制御方法の基本動作を示すフローチャートである。処理が開始されると、ECU60(
図3)は、各種のセンサSN1〜SN13が出力する車両100の運転状態に関するセンサ信号を読み込む(ステップS1)。次にECU60(車両姿勢制御部62)は、ステップS1で読み込まれたセンサ信号から得られる車速(クランク角センサSN1)、アクセル開度(アクセル開度センサSN10)、操舵角(操舵角センサSN11)、車両100の変速機に現在設定されているギア段等を参照して、車両姿勢制御のための付加減速度(トルク低減量)を設定する処理を行う(ステップS2;低減トルク設定工程)。この付加減速度設定処理の具体例は、先に
図8のフローチャートに基づき説明した通りである。次にECU60は、ステップS2で設定された付加減速度を加味して、エンジン制御処理を実行する(ステップS3)。以下、
図12〜
図15に示すフローチャートを参照して、ステップS3のエンジン制御処理を詳述する。
【0103】
<燃焼動作の制御目標値の設定>
図12は、エンジン制御処理の詳細を示すフローチャートであって、主に燃焼動作の制御目標値の設定するステップを示している。制御処理が開始されると、ECU60(燃焼制御部61)は、
図11のステップS1で取得された車速及びアクセル開度、現状の変速機ギア段等を参照して、車両100の目標加速度(目標G)を設定する(ステップS11)。次にECU60は、設定された目標加速度を実現するための、目標基本エンジントルクを設定する(ステップS12)。この目標基本エンジントルクは、GVCによるトルク低減を考慮する前の、ドライバーによるアクセル107の踏み込み量に基づいて算出される要求トルクである。
【0104】
続いてECU60は、上記目標基本エンジントルクと、クランク角センサSN1が検出するエンジン回転数とから、目標燃焼モードを設定する(ステップS13;燃焼モード設定工程)。この目標燃焼モードの設定には、エンジン回転数と負荷との関係で予め定められている、例えば
図4に示す運転マップが参照される。すなわちECU60は、現状のエンジン回転数及びステップS12で設定された目標基本エンジントルク(負荷)が、前記運転マップの第1領域A1〜第4領域A4のいずれに属するかを判定し、
図5のチャート(a)〜(e)に示したいずれかの燃焼モードを、目標燃焼モードとして設定する。
【0105】
そして、ECU60(判定部63)は、ステップS13で設定された目標燃焼モードに応じて、車両姿勢制御におけるトルク低減の実行方法を設定する(ステップS14)。上述の通り本実施形態では、トルク低減の実行方法として、インジェクタ15から噴射させる燃料噴射量の減量、又は、点火プラグ16の駆動のタイミングをリタードさせる点火リタードのいずれかが採用される。これらのいずれを選択するかの制御例は、先に
図10A及び
図10Bのフローチャートに例示した通りである。例えば、
図10Bに示した制御例を採用する場合、目標燃焼モードとトルク低減の実行方法との関係は、下記の表1の通りとなる。
【0107】
次にECU60(判定部63)は、火花点火制御圧縮着火燃焼において、第1空燃比モード(λ>1)と、第2空燃比モード(λ=1)との間で切り換えの要求が有るか否かを判定する(ステップS15)。なお、第1空燃比モード(λ>1)と第2空燃比モード(λ=1)との切換判定は、ステップS12で設定された、車両姿勢制御によるトルク低減量を減算する前の目標基本エンジントルクに基づいて実行される。目標基本エンジントルクに基づき切換判定を行うことで、トルク低減量を考慮した場合には空燃比モードの切換のハンチングが生じるような場合でも、前記ハンチングを未然に防止することができる。
【0108】
ステップS15の判定ステップを介入させるのは、次の理由による。火花点火制御圧縮着火燃焼が第1空燃比モードで実行される場合、空燃比A/Fは25〜30/1程度のリーンに設定され、第2空燃比モードでは空燃比A/F=14.7/1(λ=1)に設定される。このような第1空燃比モードと第2空燃比モードとの間のモード切換が実行される際には、各モードに合致する空燃比に移行するよう気筒内への吸気量又は燃料噴射量などが変化する不安定な状態となる。このような状態において車両姿勢制御のためのトルク低減制御が重畳されると、燃焼が不安定化したり失火が生じたりする不具合が生じ得る。この点に鑑み、判定部63は、前記モード切換の要求が無い場合(ステップS15でYES)には、車両姿勢制御のためのトルク低減制御を実行させるが(次述のステップS16〜S18)、前記モード切換の要求が有る場合(ステップS15でNO)には、車両姿勢制御のためのトルク低減制御を禁止する。後者の場合、前記モード切換をトルク変動なしに実行させる等トルクモード切換制御(後述の
図14又は
図15の制御)が実行される。
【0109】
ECU60(燃焼制御部61)は、前記モード切換の要求が無い場合、ステップS12で設定した目標基本エンジントルクと、
図11のステップS2(
図8のステップ#9)で設定されたトルク低減量とから、目標最終エンジントルクを設定する(ステップS16)。この目標最終エンジントルクは、要求トルクから車両姿勢制御によるトルク低減分を差し引いたトルクである。もちろん、車両姿勢制御の実行要求が存在しない場合は、差し引くトルク低減分はゼロである。そして、ECU60は、目標最終エンジントルクに基づいて、燃焼室6内における目標燃焼圧を設定する(ステップS17)。
【0110】
しかる後、ECU60は、ステップS17で設定した目標燃焼圧及びステップS13で設定した目標燃焼モードから、燃焼動作の制御目標値を設定する(ステップS18)。具体的には、燃焼室6に供給する目標空気量、CI燃焼を発現させる目標自己着火時期、目標SI率、目標空燃比、点火プラグ16による混合気の目標点火時期などを設定する。
【0111】
なお、上記のSI率は、火花点火制御圧縮着火燃焼による全熱発生量に対するSI燃焼による熱発生量の割合である。
図6を参照して、図中の変曲点Xは、燃焼形態がSI燃焼からCI燃焼に切り替わる時点である。この変曲点Xに対応するクランク角θciよりも進角側に位置する熱発生率の波形の面積R1をSI燃焼による熱発生量とし、θciよりも遅角側に位置する熱発生率の波形の面積R2をCI燃焼による熱発生率とする。SI率は、上記各面積R1,R2を用いて、SI率=R1/(R1+R2)で表すことができる。
【0112】
図16は、ステップS14のトルク低減の実行方法の設定において、
図10Bに示した制御例を採用した場合の、目標燃焼モードと、総燃料噴射量及び点火時期との関係示す表形式の図である。車両姿勢制御のための「トルク低減無し」の場合、火花点火制御圧縮着火燃焼の第1空燃比モード71A(λ>1)、SPCCI燃焼の第2空燃比モード72A(λ=1)及びSI燃焼モード73Aでは、それぞれ所定の総燃料噴射量f1、f2、f3に設定され、点火時期も所定のクランク角CA1に設定される。
【0113】
これに対し、車両姿勢制御のための「トルク低減有り」の場合、火花点火制御圧縮着火燃焼の第1空燃比モード71B(λ>1)では、総燃料噴射量が「トルク低減無し」の場合f1よりも所定量だけ減量されたf4に変更される。一方、目標点火時期はクランク角CA1のタイミングに維持され、点火リタードは行われない。火花点火制御圧縮着火燃焼の第2空燃比モード72B(λ=1)では、「トルク低減有り」の場合、総燃料噴射量はf2に維持される一方で、目標点火時期をクランク角CA1からCA2へ遅角させる点火リタードが行われる。同様に、SI燃焼モード73Bでも、「トルク低減有り」の場合、総燃料噴射量はf3に維持される一方で、目標点火時期をクランク角CA1からCA2へ遅角させる点火リタードが行われる。
【0114】
<火花点火制御圧縮着火燃焼制御の詳細>
図13は、エンジン制御処理の詳細を示すフローチャートであって、主に火花点火制御圧縮着火燃焼の詳細制御に関わるステップを示している。
図12のステップS18に続いて、ECU60は、上述のSI率が100%未満であるか否か、つまり、目標燃焼モードが火花点火制御圧縮着火燃焼(SI率=100%はSI燃焼)であるか否かを判定する(ステップS20)。
【0115】
目標燃焼モードが火花点火制御圧縮着火燃焼(第2燃焼モード)である場合(ステップS20でYES)、先ずはインジェクタ15及び点火プラグ16以外のアクチュエータの制御値を設定する処理が為される(ステップS21〜S24)。具体的には、ECU60(燃焼制御部61)は、ステップS18で設定した目標空気量と、目標自己着火時期に想定される筒内温度とから、目標EGR率を設定する(ステップS21)。本実施形態ではEGRとして、吸気弁11及び排気弁12(
図2参照)の開閉タイミング操作(吸気弁11の早開け又は排気弁12の遅閉じ)により実行される内部EGRと、EGR通路51を通して排気ガスを還流させる外部EGRとが実行される。このため、ステップS21では、目標内部EGR率と、目標外部EGR率とが設定される。そして、目標内部EGR率を実現するための吸気弁11の開閉タイミングである目標吸気弁開閉時期及び排気弁12の開閉タイミングである目標排気弁開閉時期と、目標外部EGR率を実現するためのEGR弁53の開度である目標EGR弁開度とが設定される(ステップS22)。
【0116】
次にECU60は、上記目標空気量を実現するためのスロットル弁32の開度である目標スロットル開度、バイパス通路38のバイパス弁39の開度である目標バイパス弁開度、及び、過給機33の電磁クラッチ34の締結の程度である目標クラッチ締結度合を設定する(ステップS23)。そして、ECU60は、上掲の目標スロットル開度、目標吸気弁開閉時期、目標排気弁開閉時期、目標バイパス弁開度、目標EGR弁開度及び目標クラッチ締結度合の各目標を達成するよう、制御対象の各々が備えるアクチュエータに対して動作指令を発信する(ステップS24)。つまり、ステップS18で設定された火花点火制御圧縮着火燃焼を達成する目標値に応じて、各アクチュエータを動作させる。
【0117】
続いて、上記目標値に対する実際の燃焼応答性に応じて、インジェクタ15による燃焼噴射量及び噴射時期、並びに、点火プラグ16の点火時期の補正処理が実行される(ステップS25〜S29)。アクチュエータで駆動される弁等は、目標値通りに即時には動かない、応答性が比較的悪いデバイスである。これらデバイスの動作遅延は、例えば目標空燃比の達成に影響を及ぼす。ECU60は、前記動作遅延に起因する、目標燃焼状態に対する実際の燃焼状態の乖離度合いを把握し、その乖離を是正するべく応答性に優れるインジェクタ15の燃焼噴射量及び噴射時期と、同じく応答性に優れる点火プラグ16の点火時期とを、燃焼室6で実際に形成されている内部ガスの状態に応じて補正する。
【0118】
具体的には、ECU60は、実際の吸気閉弁時点での気筒2の筒内温度、吸気充填量、筒内の酸素濃度を算出する(ステップS25)。この算出には、エアフローセンサSN4の検出値、第1、第2吸気温センサSN5、SN7及び外部EGR率等により求められる実際の吸気ガスの状態量、吸気カム角センサSN12及び排気カム角センサSN13の検出値等により求められる実際の気筒2内の内部ガスの状態量と、前回の燃焼結果とが参照される。前回の燃焼結果としては、筒内圧センサSN3が検出値から導出される実際の筒内圧の波形から得られる自己着火時期等が用いられる。
【0119】
次にECU60は、ステップS25で求めた吸気充填量及び筒内の酸素濃度に基づき、ステップS18で設定された目標空燃比となるように、インジェクタ15の目標燃焼噴射量及び目標噴射時期を設定する(ステップS26)。
図5のチャート(a)、(b)に例示したように、火花点火制御圧縮着火燃焼の第1空燃比モード(λ>1)及び第2空燃比モード(λ=1)では、2回に分けて燃料噴射が実行される。従って、ECU60は、目標空燃比が得られるように、1回目及び2回目の燃焼噴射の噴射量及び噴射時期をそれぞれ決定する。そしてECU60は、目標燃焼噴射量及び目標噴射時期を達成するよう、インジェクタ15に指令を発信する(ステップS27)。
【0120】
続いてECU60は、実際の吸気閉弁時点での気筒2の筒内温度に基づいて、点火プラグ16の目標点火時期を設定する(ステップS28)。この目標点火時期は、ステップS18で設定された目標自己着火時期にCI燃焼が開始されるように、同じくステップS18で設定された目標点火時期が補正されたものとなる。そしてECU60は、補正された目標点火時期に混合気に点火するよう、点火プラグ16を駆動する(ステップS29)。
【0121】
以上に対し、ステップS20でSI率が100%未満ではないと判定された場合、つまり目標燃焼モードがSI燃焼(第1燃焼モード)である場合(ステップS20でNO)、ECU60は、ステップS18で設定された目標空気量に応じて、目標スロットル弁開度、目標吸気弁開閉時期、目標排気弁開閉時期、目標バイパス弁開度、目標クラッチ締結度合及び目標EGR弁開度等を設定する(ステップS30)。続いてECU60は、上記目標空気量と、同じくステップS18で設定された目標燃焼圧との基づき、インジェクタ15のための目標燃料噴射量及び目標噴射時期と、点火プラグ16の目標点火時期とを設定する(ステップS31)。そしてECU60は、上掲の目標値を達成するよう、各アクチュエータと、インジェクタ15及び点火プラグ16とを駆動する(ステップS32)。
【0122】
<モード切換制御_λ=1からリーンへの切換>
次に、ステップS15において、火花点火制御圧縮着火燃焼における第1空燃比モード(λ>1)と、第2空燃比モード(λ=1)との間のモード切換要求が有る場合に実行される、等トルクモード切換制御(空燃比モード設定工程)について説明する。
図14は、第2空燃比モードから第1空燃比モードへのモード切換要求が有る場合のモード切換制御を示すフローチャート、
図17は、前記モード切換と、吸気量、燃料量、点火時期、エンジントルク及び空燃比との関係を示すタイムチャートである。
【0123】
図12に示すステップS15でモード切換要求が有る場合(ステップS15でNO)、処理は
図14のステップS41に移行する。ECU60(判定部63)は、前記モード切換要求が第2空燃比モードから第1空燃比モードへのモード切換要求であるか否か、つまり火花点火制御圧縮着火燃焼をλ=1からリーンに変更するモード切換要求であるか否かを判定する(ステップS41)。第2空燃比モードから第1空燃比モードへのモード切換要求である場合(ステップS41でYES)、判定部63は燃焼制御部61に、エミッションを悪化させることなく、空燃比A/Fをλ=1からリーンへ移行させ、且つ、モード切換の間のエンジントルクを一定に維持する制御を実行するよう指示を与える。
【0124】
具体的にはECU60(燃焼制御部61)は、スロットル弁32の開度を調整して吸気量を増大させ(ステップS42)、インジェクタ15からの燃料噴射量を増大させる(ステップS43)。
図17を参照すると、時刻T0〜T1が第2モードの実行期間、時刻T1〜T2間が第2空燃比モードから第1空燃比モードへのモード切換の期間である。ECU60は、第1空燃比モード(λ=1)を達成している時刻T0〜T1の吸気量及び燃料量を、時刻T1〜T2間のチャートに示すように、比例的に増大させる(吸気量増大工程及び燃料増大工程)。吸気量を徐々に増大させてリーンを指向させながら、この間に燃料量も徐々に増大させるのは、NOxが発生する空燃比状態が形成されないようにするためである。
【0125】
これらと並行してECU60は、時刻T1〜T2間に点火プラグ16の点火時期をリタードさせる(ステップS44)。これは、時刻T1〜T2間に燃料量が増加することで、エンジントルクも増加側に変動してしまうことを抑止するためである(第1リタード工程)。点火時期のリタードは、燃料量が徐々に増加するに伴い、点火時期が徐々に遅角側にシフトするように実行される。このような点火リタードによりエンジントルクが低減するので、燃料量の増大分を相殺でき、時刻T1〜T2間を等トルクに維持することができる。
【0126】
ECU60は、吸気量が第1空燃比モード(λ>1)用に設定された吸気量の目標値に到達したか否かを確認する(ステップS45)。この吸気量目標値は、NOxを実質的に発生させない空燃比を形成可能な吸気量である。本実施形態では、空燃比A/F=25/1が、第1モードのリーン燃焼におけるNOxを発生させないリッチ限界とされ、空燃比A/F=30/1が第1空燃比モードの所定の空燃比とされている。従って、ステップS45では、空燃比=25に到達したか否かを判定し、未達の場合(ステップS45でNO)には、ステップS42〜S44がリピートされる。すなわち、吸気量及び燃料量がさらに増量され、点火時期がさらにリタードされる。
【0127】
一方、空燃比=25を形成できる吸気量に到達すると(ステップS45でYES)、ECU60は、燃料量を第1空燃比モードのリーンの混合気の形成に必要とされる量まで急降下させる(ステップS46)。
図17のタイムチャートの時刻T2が、その急降下の時点である。これにより、第1空燃比モード(λ>1)であって、NOxを発生させない空燃比の混合気が燃焼室6に形成されるようになる。この時点でトルク低減の操作は不必要になるので、ECU60は、点火リタードを終了させる(ステップS47)。なお、吸気量は時刻T2を過ぎても増量される。すなわち、所定の空燃比=30を形成可能な吸気量に到達する時刻T2Aまで、吸気量が増量される。
【0128】
<モード切換制御_リーンからλ=1への切換>
次に、
図15及び
図17を参照して、第1空燃比モード(λ>1)から第2空燃比モード(λ=1)への切換要求が有る場合に実行される、等トルクモード切換制御について説明する。
図15は、第1空燃比モードから第2空燃比モードへのモード切換要求が有る場合のモード切換制御を示すフローチャートである。
【0129】
図14のステップS41において、第2空燃比モードから第1空燃比モードへのモード切換要求ではない場合(ステップS41でNO)、処理を
図15のステップS51へ移行させる。この場合、ECU60の判定部63は燃焼制御部61に、エミッションを悪化させることなく、空燃比A/Fをリーンからλ=1へ移行させ、且つ、モード切換の間のエンジントルクを一定に維持する制御を実行するよう指示を与える。
【0130】
具体的にはECU60(燃焼制御部61)は、スロットル弁32の開度を調整して吸気量を減少させる(吸気量減少工程;ステップS51)。一方、インジェクタ15からの燃料噴射量は維持される(ステップS52)。
図17を参照すると、時刻T2〜T3が第1モードの実行期間、時刻T3〜T5間が第1空燃比モードから第2空燃比モードへのモード切換の期間である。ECU60は、第1空燃比モード(λ>1)を達成している時刻T2A〜T3の吸気量を、時刻T3〜T4間のチャートに示すように減少させる。一方、時刻T3〜T4間の燃料噴射量は、時刻T2A〜T3と同じである。
【0131】
続いてECU60は、吸気量が所定の減量吸気量(空燃比)まで到達したか否かを確認する(ステップS53)。この減量吸気量は、第1空燃比モードのリーン燃焼においてNOxを発生させないリッチ限界である空燃比A/F=25/1を達成する吸気量である。空燃比=25に到達しない場合(ステップS53でNO)、ステップS51に戻ってさらに吸気量が減量される。
【0132】
これに対し、空燃比=25に到達する時刻T4に至ると(ステップS53でYES)、NOxの発生を防止する制御が実行される。具体的には、ECU60は、吸気量の減少を継続しながら(ステップS54)、その時刻T4時点の吸気量にて空燃比=14.7(λ=1)の混合気が形成されるように、インジェクタ15の燃料噴射量を急激に増大させる(ステップS55)。λ=1を維持するために、時刻T4以降は、吸気量の減少に合わせて燃料噴射量も減少される。これにより、NOxが発生する空燃比状態の形成を回避することができる。さらにECU60は、上述のステップS44と同様に、燃料量の増大によるエンジントルクの増加を相殺するために、点火プラグ16の点火時期を時刻T4における吸気量及び燃料噴射量に応じて急激にリタード(第2リタード工程)させる(ステップS56)。これにより、時刻T4前後でのトルク変動を防止することができる。
【0133】
ECU60は、吸気量が第2空燃比モード(λ=1)用に設定された吸気量の目標値に到達したか否かを確認する(ステップS57)。つまり、時刻T4の時点で空燃比=14.7に低下しているが、吸気量が第2空燃比モードを実行できる量まで低下したか否かが確認される。未達の場合(ステップS57でNO)には、ステップS54〜S56がリピートされる。すなわち、吸気量及び燃料量がさらに減量され、一方で点火時期のリタードが徐々に復元される。これにより、時刻T4〜T5間を等トルクに維持することができる。
【0134】
一方、第2空燃比モード(λ=1)用の吸気量に到達すると(ステップS57でYES)、ECU60は、吸気量及び燃料噴射量のさらなる減量を停止させる(ステップS58)。
図17のタイムチャートの時刻T5が、その停止の時点である。これにより、第2空燃比モード用の吸気量を満たしたλ=1の混合気が燃焼室6に形成されるようになる。またECU60は、時刻T5で点火リタードを終了させる(ステップS59)。なお、時刻T5の直前の時点で、点火リタードによるトルク低減は自ずと極小に至っている。以上説明した
図14のステップS47又は
図15のステップS59を終えたら、処理は
図13の「リターン」、つまり
図12のステップS11に戻り、同様な処理が繰り返される。
【0135】
[変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を採ることができる。
【0136】
(1)上記実施形態では、車両の例としてFF駆動車からなる車両100を例示した。本発明に係るエンジンの制御方法及び車両システムは、FR駆動車、4輪駆動車、さらにはバッテリー又はキャパシターから供給される電力により駆動されるモータとエンジンとを駆動源とするハイブリッド車両にも適用することができる。
【0137】
(2)
図10Cに示した車両姿勢制御を優先させる制御では、車両姿勢制御が実行されている状態では火花点火制御圧縮着火燃焼の第1空燃比モードと第2空燃比モードとの間の空燃比モードの切換を禁止する例を示した。これに代えて、単位時間当たりの前記モード切換の回数が所定回数を超過した場合に、前記モード切換を抑制(禁止)するようにしても良い(切換回数判定工程)。換言すると、空燃比モード切換のハンチングに至らない程度、つまり燃焼不安定化を招来しない程度に少ない範囲であれば、車両姿勢制御が実行されている状態でも、前記空燃比モードの切換を実行させても良い。
【0138】
図18は、火花点火制御圧縮着火燃焼における空燃比モード切換実行可否判定の一例を説明するためのグラフである。図中のt1〜t7は、単位時間当たりの火花点火制御圧縮着火燃焼における空燃比モード切換の回数を各々示している。また、符号nの横ラインは、前記空燃比モード切換の実行と禁止を区別する閾値を示すラインである。この場合、判定部63が行う判定は、モード切換要求が閾値nを下回る単位時間t3、t4、t5については、車両姿勢制御が実行されている状態でも前記モード切換を許容する判定となる。一方、モード切換要求が閾値nを上回る単位時間t1、t2、t6、t7については、閾値n以上の前記モード切換は禁止されることになる。
【0139】
燃焼の不安定化を招来するのは、ハンチングに相当するような頻繁な空燃比モードの切換であって、ハンチングに至らない程度の空燃比モード切換は許容できる。上記の変形例によれば、空燃比モード切換抑制(禁止)の実行を、真に必要なときにのみ行われるよう制限することができ、空燃比モード切換の利点の減殺を抑制することができる。なお、空燃比モード切換回数の閾値nは、例えば1分間に数回〜10回程度に設定することができる。
【0140】
(3)また、
図10Cに示した車両姿勢制御を優先させる制御において、モード切換を完全に禁止するのではなく、例えば車両姿勢制御の終了後、或いは車両姿勢制御の合間のタイミングまで前記モード切換を遅延させるような、前記モード切換を抑制する制御を採用しても良い。
【0141】
(4)
図17のタイムチャートでは、前記モード切換の期間(
図17の時刻T1〜T2及び時刻T3〜T5)にエンジントルクが一定の「等トルク」に維持される例を示した。この「等トルク」は、微細なトルク変動すら許容しない状態を指すものではなく、事実上トルクが一定と扱うことができる範囲において、トルク変動が生じていても良い。
【0142】
(5)上記実施形態では、火花点火制御圧縮着火燃焼時(
図10(A)の例)、又は第1モードの火花点火制御圧縮着火燃焼時(
図10(B)及び
図12〜
図15の例)には、車両姿勢制御のためのトルク低減を、点火リタードではなく燃料の減量制御に完全に切り換える例を示した。これに代えて、車両姿勢制御のために必要なトルク低減の一部を点火リタード(点火リタードの程度を抑制する制御)に担わせ、残部を燃料の減量制御に担わせるようにしても良い。
【0143】
(6)
図10C及び
図12では、車両姿勢制御のためのトルク低減が行われる前の目標基本エンジントルクに基づき空燃比モードの切換判定を行うことによって、結果的に空燃比モード切換のハンチングを防止する例を示した。その変形例として、車両姿勢制御のためのトルク低減が行われた後の目標最終エンジントルク(
図12のステップS16)をベースとした制御を行うようにしても良い。
図19は、この変形例を概略的に示すフローチャートである。
【0144】
ECU60は、車両100が備える各種センサ信号の読み込む(ステップS61)。その後、判定部63は、目標最終エンジントルクに基づいて判定した場合に、第1空燃比モード(λ>1)と第2空燃比モード(λ≦1)との間で空燃比モードを切り換える状態(モード切換要求が発生する状態)であるか否かを判定する(ステップS62)。次いで判定部63は、車両姿勢制御によるトルク低減量の設定が有るか否かを判定する(ステップS63)。トルク低減量の設定が有る場合(ステップS63でYES;低減トルク設定工程において前記トルク低減量が設定されているとき)、判定部63は、空燃比モードの切り換えを抑制(禁止)する(ステップS64)。一方、トルク低減量の設定がない場合(ステップS63でNO)、判定部63は、空燃比モードの切り換えを実施させる(ステップS65)。