特許第6973211号(P6973211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6973211ドクターチャンバーコーター及び塗工物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973211
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】ドクターチャンバーコーター及び塗工物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 1/08 20060101AFI20211111BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20211111BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20211111BHJP
   B41F 31/03 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B05C1/08
   B05C11/10
   B05D1/28
   B41F31/03
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-48319(P2018-48319)
(22)【出願日】2018年3月15日
(65)【公開番号】特開2019-155311(P2019-155311A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2020年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩茂
(72)【発明者】
【氏名】田村 紀智
(72)【発明者】
【氏名】樋口 均
(72)【発明者】
【氏名】杉田 修一
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−147574(JP,A)
【文献】 特開2010−115637(JP,A)
【文献】 特開2008−207454(JP,A)
【文献】 特開昭52−093446(JP,A)
【文献】 特開2004−230248(JP,A)
【文献】 特開2001−277474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C1/00−3/20
7/00−21/00
B05D1/00−7/26
B41F5/00−13/70
31/00−35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶物を含む塗工液を被塗工物に塗工するドクターチャンバーコーターであって、
チャンバー本体、前記チャンバー本体の上部から延出された上部ドクターブレード、前記チャンバー本体の下部から延出された下部ドクターブレード、並びに前記上部ドクターブレード及び下部ドクターブレードの先端間の空隙によって定義される開口部を有するドクターチャンバーと、
前記上部ドクターブレード及び下部ドクターブレードの先端に周面が突き当てられるように配置され、前記周面が前記開口部を通して前記ドクターチャンバーの内部に臨むように配置されたロール体と
を備え、
前記ドクターチャンバーは、前記ドクターチャンバーの内部下側で前記ロール体の軸方向に延在されて、回転駆動されることで前記ドクターチャンバー内の前記塗工液を攪拌するミキシングロッドをさらに有している、
ドクターチャンバーコーター。
【請求項2】
前記ドクターチャンバーは、チャンバー本体と、先端が前記ロール体の周面に突き当てられるように前記チャンバー本体の下部から延出された下部ドクターブレードとを有し、
前記下部ドクターブレードの延在方向と前記ロール体の接線との間の前記ドクターチャンバー内における角度が90°未満とされている、
請求項1記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項3】
前記角度が40°以上かつ60°以下である、
請求項2記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項4】
前記ミキシングロッドは円柱部材である、
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のドクターチャンバーコーター。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のドクターチャンバーコーターを使用して被塗工物に塗工液を塗工することを含む、塗工物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗工物に塗工液を塗工するドクターチャンバーコーター及び塗工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来用いられていたこの種のドクターチャンバーコーターとしては、例えば下記の特許文献1等に示されている構成を挙げることができる。すなわち、従来構成では、インクタンクからインク供給路を通してドクターチャンバーの内部空間にインク(塗工液)を供給し、ドクターチャンバーの内部空間に臨むように配置されたロール体の周面に付着したインクを被塗工物に塗工している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−58069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような従来のドクターチャンバーコーターを用いて、例えば顔料又は骨材等の不溶物を含む塗工液を被塗工物に塗工しようとしたところ、被塗工物の表面に不溶物が不均一に付着することがあった。この原因を調査したところ、ドクターチャンバーの内部に不溶物が沈降し、その沈降した不溶物が舞い上がった際にロール体に付着することが原因であることが分かった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、被塗工物の表面に不溶物が不均一に付着する虞を低減できるドクターチャンバーコーター及び塗工物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るドクターチャンバーコーターは、不溶物を含む塗工液を被塗工物に塗工するドクターチャンバーコーターであって、チャンバー本体、チャンバー本体の上部から延出された上部ドクターブレード、チャンバー本体の下部から延出された下部ドクターブレード、並びに上部ドクターブレード及び下部ドクターブレードの先端間の空隙によって定義される開口部を有するドクターチャンバーと、上部ドクターブレード及び下部ドクターブレードの先端に周面が突き当てられるように配置され、周面が開口部を通してドクターチャンバーの内部に臨むように配置されたロール体とを備え、ドクターチャンバーは、ドクターチャンバーの内部下側でロール体の軸方向に延在されて、回転駆動されることでドクターチャンバー内の塗工液を攪拌するミキシングロッドをさらに有している。
【0007】
また、本発明に係る塗工物の製造方法は、上述のドクターチャンバーコーターを使用して被塗工物に塗工液を塗工することを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明のドクターチャンバーコーター及び塗工物の製造方法によれば、ドクターチャンバーの内部下側でロール体の軸方向に延在されたミキシングロッドが回転駆動されることでドクターチャンバー内の塗工液が攪拌されるので、被塗工物の表面に不溶物が不均一に付着する虞を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態によるドクターチャンバーコーターを示す構成図である。
図2図1のドクターチャンバーを示す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態
図1は、本発明の実施の形態によるドクターチャンバーコーター1を示す構成図であり、図2の線A−Aに沿うドクターチャンバー2の断面図である。図2は、図1のドクターチャンバー2を示す背面図である。図1に示すドクターチャンバーコーター1は、不溶物を含む塗工液1aを被塗工物に塗工するための設備である。不溶物とは、例えば顔料又は骨材等、溶剤に溶けずに分散されているものである。被塗工物としては、例えば紙、プラスチック又は金属等の素材からなる帯状部材を挙げることができる。
【0011】
図1及び図2に示すように、ドクターチャンバーコーター1には、ドクターチャンバー2とロール体3とが含まれている。
【0012】
ドクターチャンバー2は、内部に塗工液1aが溜められる容器体である。ドクターチャンバー2の前部には、開口部2aが形成されている。ロール体3は、周面が開口部2aを通してドクターチャンバー2の内部に臨むように配置されている。ロール体3が回転駆動されることで、ドクターチャンバー2内の塗工液1aがロール体3の周面に順次付着する。ロール体3の周面に付着した塗工液1aが被塗工物に塗工される。ロール体3と被塗工物との間に他のロールが介在されてもよいし、ロール体3から被塗工物に直接的に塗工液1aの塗工が行われてもよい。
【0013】
ドクターチャンバー2には、チャンバー本体20、上流側ドクターブレード21、下流側ドクターブレード22及びミキシングロッド23が含まれている。
【0014】
チャンバー本体20は、断面略C字状の部材である。チャンバー本体20には、供給路4及び排出路5が取り付けられている。図2に特に表れているように、供給路4は、チャンバー本体20の幅方向20w(ロール体3の軸方向)に係る中央下部に配置されている。排出路5は、チャンバー本体20の幅方向20wに係る両側上部に配置されている。供給路4からドクターチャンバー2の内部に塗工液1aが供給され、ドクターチャンバー2の内部で排出路5の高さまで溜まった塗工液1aが排出路5から排出される。
【0015】
上流側ドクターブレード21は、ロール体3の回転方向に係る開口部2aの上流側に配置された長手状部材である。同様に、下流側ドクターブレード22は、ロール体3の回転方向に係る開口部2aの下流側に配置された長手状部材である。ドクターチャンバー2の開口部2aは、上流側ドクターブレード21及び下流側ドクターブレード22の先端間の空隙によって定義できる。
【0016】
上流側ドクターブレード21は、先端がロール体3の周面に突き当てられるようにチャンバー本体20の上部から延出された上部ドクターブレードを構成している。同様に、下流側ドクターブレード22は、先端がロール体3の周面に突き当てられるようにチャンバー本体20の下部から延出された下部ドクターブレードを構成している。下部ドクターブレードとは、後述のように不溶物が沈降する側に配置されたドクターブレードである。各ブレード21,22の先端がロール体3の周面に突き当てられていることで、チャンバー本体20の内部は周囲が全体として囲われた空間とされている。
【0017】
図示しないが、ロール体3の周面には凹部が形成されている。下流側ドクターブレード22は、凹部内の塗工液1aを残すように、ロール体3の周面に付着した塗工液1aを掻きとる。これにより、一定量の塗工液1aがロール体3の周面に残るようにされている。
【0018】
下流側ドクターブレード22の延在方向とロール体3の接線との間のドクターチャンバー2内における角度θは90°未満とされている。この角度θを90°未満とすることで、下流側ドクターブレード22の先端がロール体3の周面に押し付けられる力(ドクター圧)が大きくなり、下流側ドクターブレード22による塗工液1aの掻きとりをより確実に行うことができる。後述のように、下流側ドクターブレード22の延在方向とロール体3の接線との間のドクターチャンバー2内における角度θを40°以上かつ60°以下とすることが好ましい。
【0019】
ミキシングロッド23は、ドクターチャンバー2の内部下側でロール体3の軸方向(チャンバー本体20の幅方向20w)に延在された長手状の部材である。このミキシングロッド23には、図示しないアクチュエータが接続されており、アクチュエータの駆動力により回転駆動される。ミキシングロッド23が回転駆動されることにより、ドクターチャンバー2内の塗工液1aが攪拌される。
【0020】
上述のように、塗工液1aは不溶物を含んでいる。この不溶物は、ドクターチャンバー2内に沈降する場合がある。不溶物の沈降は、例えばロール体3の回転速度が遅いとき又は供給路4からの塗工液1aの供給量が少ないとき等のドクターチャンバー2内での塗工液1aの流動が小さいときに起こり得る。ミキシングロッド23による塗工液1aの攪拌により、不溶物の沈降が抑えられて、被塗工物の表面に不溶物が不均一に付着する虞を低減できる。ミキシングロッド23は、常時回転駆動されてもよいし、ロール体3の回転速度又は供給路4からの塗工液1aの供給量が所定値よりも小さいときに回転駆動されてもよい。
【0021】
また上述のように、本実施の形態では、下流側ドクターブレード22の延在方向とロール体3の接線との間のドクターチャンバー2内における角度θが90°未満とされている。このため、角度θが90°以上とされる場合と比較して、ドクターチャンバー2の内部下側の空間が広くされており、不溶物の沈降が起こりやすい構成となっている。ミキシングロッド23による塗工液1aの攪拌は、角度θが90°未満とされる構成に特に有用である。
【0022】
なお、本実施の形態のミキシングロッド23は、断面円形の円柱部材によって構成されている。換言すると、ミキシングロッド23の外周面には突出部が形成されていない。ミキシングロッド23が円柱部材とされていることで、塗工液1aが過剰に攪拌されてドクターチャンバー2内に泡が発生することを抑えている。泡の発生は、塗工不良の原因となり得る。ミキシングロッド23が円柱部材とされていることで、隙間や凹み部に塗工液が残存することを低減でき、ミキシングロッドをより容易に洗浄できる。しかしながら、必要とされる特性に応じてミキシングロッド23の外形を変更することができ、ミキシングロッド23は、例えば円柱部材の外面から径方向及び軸方向に延びる複数の羽板が形成された部材等、他の構成を採ることもできる。
【0023】
本実施の形態の塗工物の製造方法は、上述のドクターチャンバーコーター1を使用して被塗工物に塗工液1aを塗工することを含む。
【0024】
次に、実施例を挙げる。本発明者は、図1及び図2に示すドクターチャンバーコーター1において、下流側ドクターブレード22の延在方向とロール体3の接線との間のドクターチャンバー2内における角度θを変更して液漏れ及び塗工液1aの掻き取り不良の発生の有無を調査した。塗工液1aとしては、140s(#4フォードカップ粘度)程度の高粘度の液剤を使用した。その結果を以下の表に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
上述の角度θが40°未満の場合、下流側ドクターブレード22による塗工液1aの掻き取り不良が発生した。掻き取り不良が発生すると、ロール体3(グラビアロール)の表面に形成されたセル外にも塗工液1aが付着するため、塗工液1aの塗布量コントロールが困難となる。一方で、角度θが60°超の場合、下流側ドクターブレード22の裏側(塗工液1aが接触していない面)に塗料が付着し、その付着塗料を基点としてロール体3と下流側ドクターブレード22との間で液漏れが発生する。これらの結果から、下流側ドクターブレード22の延在方向とロール体3の接線との間のドクターチャンバー2内における角度θを40°以上かつ60°以下とすることが好ましいことが分かった。
【0027】
このようなドクターチャンバーコーター1及び塗工物の製造方法は、ドクターチャンバー2の内部下側でロール体3の軸方向に延在されたミキシングロッド23が回転駆動されることでドクターチャンバー2内の塗工液1aが攪拌されるので、被塗工物の表面に不溶物が不均一に付着する虞を低減できる。この構成は、下流側ドクターブレード22の延在方向とロール体3の接線との間のドクターチャンバー2内における角度θが90°未満とされている構成に特に有用である。
【0028】
また、ミキシングロッド23が円柱部材であるので、塗工液1aの攪拌を適度に行うことができ、ドクターチャンバー2内に泡が発生することを抑えることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 ドクターチャンバーコーター
1a 塗工液
2 ドクターチャンバー
2a 開口部
3 ロール体
22 下流側ドクターブレード(下部ドクターブレード)
23 ミキシングロッド
図1
図2