特許第6973212号(P6973212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973212
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】液冷ジャケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20211111BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B23K20/12 330
   B23K20/12 360
   B23K20/12 310
   B23K20/12 344
   F28D15/02 106Z
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-49131(P2018-49131)
(22)【出願日】2018年3月16日
(65)【公開番号】特開2019-155455(P2019-155455A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2020年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 伸城
(72)【発明者】
【氏名】堀 久司
【審査官】 山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−131321(JP,A)
【文献】 特開2013−219127(JP,A)
【文献】 特開2016−087650(JP,A)
【文献】 特開2013−219125(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0315367(US,A1)
【文献】 特開2018−006649(JP,A)
【文献】 特開平8−195453(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/119343(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 − 20/26
H01L 23/34 − 23/46
H05K 7/20
F28D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体とで構成され、前記ジャケット本体と前記封止体とを摩擦攪拌で接合する液冷ジャケットの製造であって、
摩擦攪拌で用いる回転ツールの攪拌ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、
前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成し、前記封止体の裏面側に複数のピンフィンを成形するとともに、複数のピンフィンからなるピンフィン群の先端面を前記封止体の中央側が凹形状となるように成形する準備工程と、
前記ジャケット本体に前記封止体を載置することにより、前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記周壁段差部の段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、
回転する前記攪拌ピンのみを前記封止体に挿入し、前記攪拌ピンの外周面を前記周壁段差部の段差側面に接触させた状態で、前記第一突合せ部に沿って前記回転ツールを移動させ、前記開口部周りに一周させて摩擦攪拌を行う本接合工程と、を含むことを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項2】
前記ジャケット本体を第一アルミニウム合金で形成し、前記封止体を第二アルミニウム合金で形成し、前記第一アルミニウム合金は前記第二アルミニウム合金よりも硬度が高い材種であることを特徴とする請求項1に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項3】
前記準備工程において、封止体の表面側を凸形状となるように成形することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項4】
前記本接合工程において、前記攪拌ピンを前記周壁段差部の段差底面に接触させた状態で、前記第一突合せ部に沿って前記回転ツールを移動させて摩擦攪拌を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項5】
底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体とで構成され、前記ジャケット本体と前記封止体とを摩擦攪拌で接合する液冷ジャケットの製造方法であって、
摩擦攪拌で用いる回転ツールの攪拌ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、
前記封止体の裏面に複数のピンフィンを成形するとともに、複数のピンフィンからなるピンフィン群の先端面を前記封止体の中央側が凹形状となるように成形する準備工程と、
前記ジャケット本体に前記封止体を載置することにより、前記周壁部の端面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第三突合せ部を形成する載置工程と、
回転する前記攪拌ピンのみを前記封止体に挿入し、前記攪拌ピンを前記周壁部の端面に接触させた状態で、前記第三突合せ部に沿って前記回転ツールを移動させ前記開口部の周りに一周させて摩擦攪拌を行う本接合工程と、を含むことを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項6】
前記ジャケット本体を第一アルミニウム合金で形成し、前記封止体を第二アルミニウム合金で形成し、前記第一アルミニウム合金は前記第二アルミニウム合金よりも硬度が高い材種であることを特徴とする請求項5に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項7】
前記準備工程において、前記封止体の表面側を凸形状となるように成形することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項8】
前記攪拌ピンの先端側には平坦面が形成されるとともに、前記平坦面に突出する突起部を備え、
前記本接合工程において、前記攪拌ピンの前記平坦面を前記封止体のみに接触させつつ、前記攪拌ピンの前記突起部を前記周壁部の端面に接触させた状態で、前記第三突合せ部に沿って前記回転ツールを移動させて摩擦攪拌を行うことを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液冷ジャケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジャケット本体と、複数のピンフィンを備えた封止体とで構成された液冷ジャケットが知られている(特許文献1)。液冷ジャケットは、内部に流体を流通させて設置された発熱体を冷却する機器である。封止体は、板状を呈する本体部と、本体部から垂下する複数のピンフィンとで構成されている。ジャケット本体と封止体とは、例えば、回転ツールを用いた摩擦攪拌接合によって接合することができる。当該接合工程では、ジャケット本体と封止体の外周面とが突き合わされて形成された突合せ部に沿って、回転ツールを一周させて、摩擦攪拌接合を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−98439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液冷ジャケットの熱交換効率を考慮すると、複数のピンフィンの先端からジャケット本体の底部までの距離は一定になっていることが好ましい。しかし、ジャケット本体と封止体とを摩擦攪拌で接合すると、回転ツールと封止体との摩擦熱によって封止体が熱収縮によって変形するため、ピンフィンの先端の高さ位置が一定にならないという問題がある。より詳しくは、熱収縮によって封止体の中央側がジャケット本体に近接する方向に変形するため、封止体の中央側のピンフィンは外縁側のピンフィンに比べてジャケット本体までの距離が近くなってしまう。
【0005】
このような観点から、本発明は、複数のピンフィンの先端からジャケット本体までの距離を一定にすることができる液冷ジャケットの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために本発明は、底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体とで構成され、前記ジャケット本体と前記封止体とを摩擦攪拌で接合する液冷ジャケットの製造であって、摩擦攪拌で用いる回転ツールの攪拌ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成し、前記封止体の裏面側に複数のピンフィンを成形するとともに、複数のピンフィンからなるピンフィン群の先端面を前記封止体の中央側が凹形状となるように成形する準備工程と、前記ジャケット本体に前記封止体を載置することにより、前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記周壁段差部の段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、回転する前記攪拌ピンのみを前記封止体に挿入し、前記攪拌ピンの外周面を前記周壁段差部の段差側面に接触させた状態で、前記第一突合せ部に沿って前記回転ツールを移動させ、前記開口部周りに一周させて摩擦攪拌を行う本接合工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体とで構成され、前記ジャケット本体と前記封止体とを摩擦攪拌で接合する液冷ジャケットの製造方法であって、摩擦攪拌で用いる回転ツールの攪拌ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記封止体の裏面に複数のピンフィンを成形するとともに、複数のピンフィンからなるピンフィン群の先端面を前記封止体の中央側が凹形状となるように成形する準備工程と、前記ジャケット本体に前記封止体を載置することにより、前記周壁部の端面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第三突合せ部を形成する載置工程と、回転する前記攪拌ピンのみを前記封止体に挿入し、前記攪拌ピンを前記周壁部の端面に接触させた状態で、前記第三突合せ部に沿って前記回転ツールを移動させ前記開口部の周りに一周させて摩擦攪拌を行う本接合工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
かかる製造方法によれば、摩擦攪拌を行う前に、ピンフィン群の先端面を中央側が凹形状となるように成形しておくことにより、本接合工程後の熱収縮によって封止体が変形し、ピンフィンの先端からジャケット本体までの距離を一定にすることができる。
【0009】
また、前記ジャケット本体を第一アルミニウム合金で形成し、前記封止体を第二アルミニウム合金で形成し、前記第一アルミニウム合金は前記第二アルミニウム合金よりも硬度が高い材種であることが好ましい。
【0010】
かかる製造方法によれば、ジャケット本体2の硬度を高めることで強度の高い液冷ジャケットを形成することができる。
【0011】
また、前記準備工程において、封止体の表面側を凸形状となるように成形することが好ましい。
【0012】
かかる製造方法によれば、本接合工程後の封止体の熱収縮によって封止体の表面を平坦にすることができる。
【0013】
また、前記本接合工程において、前記攪拌ピンを前記周壁段差部の段差底面に接触させた状態で、前記第一突合せ部に沿って前記回転ツールを移動させて摩擦攪拌を行うことが好ましい。
【0014】
かかる製造方法によれば、第二突合せ部の接合強度を高めることができる。
【0015】
また、前記攪拌ピンの先端側には平坦面が形成されるとともに、前記平坦面に突出する突起部を備え、前記本接合工程において、前記攪拌ピンの前記平坦面を前記封止体のみに接触させつつ、前記攪拌ピンの前記突起部を前記周壁部の端面に接触させた状態で、前記第三突合せ部に沿って前記回転ツールを移動させて摩擦攪拌を行うことが好ましい。
【0016】
かかる製造方法によれば、突起部で巻き上げられた塑性流動材を平坦面で押さえることができるため、第三突合せ部の酸化被膜を確実に分断することができる。これにより、第三突合せ部の接合強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、複数のピンフィンの先端からジャケット本体までの距離を一定にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第一実施形態に係る液冷ジャケットを示す分解斜視図である。
図2】第一実施形態に係る液冷ジャケットを示す断面図である。
図3】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の切削工程を示す斜視図である。
図4】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の板状フィン形成工程を示す斜視図である。
図5】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の板状フィン形成工程後を示す斜視図である。
図6】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法のピンフィン形成工程を示す斜視図である。
図7】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法のピンフィン形成工程後を示す斜視図である。
図8】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の凹部形成工程を示す斜視図である。
図9】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の凹部形成工程を示す側面図である。
図10】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程を示す断面図である。
図11】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程後を示す断面図である。
図12】第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の載置工程を示す断面図である。
図13】第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程後を示す断面図である。
図14】第三実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の載置工程を示す断面図である。
図15】第三実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第一実施形態]
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。第一実施形態に係る液冷ジャケット1は、図1に示すように、ジャケット本体2と封止体3とで構成されている。液冷ジャケット1は、内部に流体を流通させて、配置される発熱体を冷却する機器である。以下の説明における「表面」とは、「裏面」の反対側の面を意味する。
【0020】
ジャケット本体2は、底部10及び周壁部11で主に構成されている。ジャケット本体2は、摩擦攪拌可能な金属であれば特に制限されないが、本実施形態では第一アルミニウム合金を主に含んで形成されている。第一アルミニウム合金は、例えば、JISH5302 ADC12(Al-Si-Cu系)等のアルミニウム合金鋳造材を用いている。
【0021】
底部10は、矩形を呈する板状部材である。周壁部11は、底部10の周縁部から矩形枠状に立ち上がる壁部である。底部10及び周壁部11で凹部13が形成されている。周壁部11の内周縁には周壁段差部12が形成されている。周壁段差部12は、段差底面12aと、段差底面12aから垂直に立ち上がる段差側面12bとで構成されている。なお、段差側面12bは、段差底面12aから開口部に向かって外側に広がるように傾斜してもよい。
【0022】
なお、本実施形態のジャケット本体2は、周壁部11の一部に枠状のシール部5が形成されている。ジャケット本体2は、ダイキャストで一体形成してもよいし、本実施形態のように枠状部と板状部をシール部5で接合して一体化してもよい。
【0023】
封止体3は、ジャケット本体2の開口部を封止する部材である。封止体3は、矩形板状を呈する本体部21と、複数のピンフィン22で構成されている。封止体3は、摩擦攪拌可能な金属であれば特に制限されないが、本実施形態では第二アルミニウム合金を主に含んで形成されている。第二アルミニウム合金は、第一アルミニウム合金よりも硬度の低い材料である。第二アルミニウム合金は、例えば、JIS A1050,A1100,A6063等のアルミニウム合金展伸材で形成されている。本体部21とピンフィン22とは別体でもよいが、本実施形態では一体形成されている。
【0024】
本体部21は、平面視矩形を呈し、周壁段差部12に概ね隙間なく配置される形状になっている。複数のピンフィン22は、本体部21の裏面21bから垂下している。ピンフィン22は、一定の隙間をあけて配置されている。ピンフィン22は、本実施形態では四角柱を呈するが、円柱等他の形状であってもよい。
【0025】
図2に示すように、ジャケット本体2と封止体3とは摩擦攪拌によって接合されている。各ピンフィン22の先端面22aと、底部10の表面10aとの距離は、一定になっている。また、封止体3の本体部21の表面21a及び周壁端面11aは概ね平坦になっている。
【0026】
次に、本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法では、準備工程と、載置工程と、本接合工程とを行う。
【0027】
準備工程は、ジャケット本体2及び封止体3を準備する工程である。ジャケット本体2及び封止体3は、製造方法については特に制限されないが、ジャケット本体2は、例えば、ダイキャストで成形する。一方、封止体3は、本実施形態では、素形材から一体成形するため、切削工程と、板状フィン形成工程と、ピンフィン形成工程と、凹部形成工程と、本体部形成工程と、を行う。
【0028】
切削工程は、図3に示すように、第二アルミニウム合金で形成された直方体の素形材を切削し、本体部21及びブロック部31を形成する工程である。切削工程では、素形材の周囲を切削して、本体部21よりも一回り小さい直方体のブロック部31を形成する。
【0029】
板状フィン形成工程は、図4に示すように、マルチカッターMを用いてブロック部31を切削して、複数の板状フィン32(図5参照)を形成する工程である。マルチカッターMは、部材を切削する回転工具である。マルチカッターMは、軸部M1と、軸部M1に間をあけて並設された複数の円盤カッターM2とで構成されている。円盤カッターM2の外周縁には切削刃(図示省略)が形成されている。円盤カッターM2の板厚及び間隔を調節することにより、板状フィン32の間隔及び板厚を適宜設定することができる。
【0030】
板状フィン形成工程では、ブロック部31の一方の辺部31aとマルチカッターMの軸部M1とが平行となるように配置して、回転させたマルチカッターMの円盤カッターM2をブロック部31に挿入する。円盤カッターM2が所定の深さに達したら、辺部31aと対向する他方の辺部31bまでマルチカッターMを平行移動させる。軸部M1が辺部31bに達したらマルチカッターMをブロック部31から離間する方向に相対移動させる。
【0031】
マルチカッターMの挿入深さは、適宜設定すればよいが、本実施形態では、円盤カッターM2が本体部21に達しないように、つまり、ブロック部31に未切削領域が形成されるように調節してもよい。以上の工程によって、図5に示すように、本体部21の裏面21bに一定の間隔をあけて並設された複数の板状フィン32が形成される。
【0032】
ピンフィン形成工程は、図6に示すように、マルチカッターMを用いて板状フィン32を切削して、複数のピンフィン22(図7参照)を形成する工程である。ピンフィン形成工程では、板状フィン32の一方の辺部32aとマルチカッターMの軸部M1とが平行となるように配置して、板状フィン形成工程と同じ要領で他方の辺部32bまでマルチカッターMを移動させる。以上の工程によって、図7に示すように、本体部21の裏面21bに一定の間隔をあけて一体形成された複数のピンフィン22が形成される。
【0033】
凹部形成工程は、図8及び図9に示すように、複数のピンフィン22が集まったピンフィン群の中央部が凹形状となるように形成する工程である。凹部形成工程では、例えば、フライス加工によって、ピンフィン群の中央部が凹形状となるようにピンフィン22の先端を切削して凹部を形成する。つまり、ピンフィン群の中央部分が最も低くなり、外側にむかうにつれて徐々に高くなるように形成する。凹部の深さは、後記する接合工程を行った後の熱収縮によって、ピンフィン22の先端22aから底部10の表面10aまでの距離が一定になるように適宜設定する。
【0034】
本体部形成工程は、本体部21の表面21aが、ピンフィン22から離間するにつれて中央部が凸形状となるように形成する。本実施形態では、本体部21の表面21aの周囲を、例えば、フライス加工によって切削し、周囲よりも中央部が凸形状となるようにする。凸形状の高さは、後記する接合工程を行った後の熱収縮によって、本体部21の表面21aが平坦になるように適宜設定する。以上の工程によって、本実施形態で用いる封止体3が形成される。なお、ピンフィン22のピンフィン群の凹形状の曲率と、本体部21の表面21aの凸形状の曲率は同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
載置工程は、図10に示すように、ジャケット本体2に封止体3を載置する工程である。載置工程によって、本体部21の外周側面21cと段差側面12bとが突き合わされて第一突合せ部J1が形成される。第一突合せ部J1は、封止体3の周囲に沿って平面視矩形状に形成される。また、段差底面12aと、本体部21の裏面21bとが突き合わされて第二突合せ部J2が形成される。図10に示すように、ジャケット本体2に封止体3を載置した状態では、ピンフィン22の先端22aと底部10の表面10aの距離は一定ではなく、ピンフィン群の中央部の当該距離は、周囲の当該距離よりも長くなっている。また、本体部21の表面21aは、ジャケット本体2から離間する方向に凸状になっている。
【0036】
本接合工程は、図10及び図11に示すように、ジャケット本体2と封止体3とを本接合用回転ツール(回転ツール)Fで接合する工程である。本接合用回転ツールFは、連結部F1と、攪拌ピンF2とで構成されている。本接合用回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、摩擦攪拌装置(図示省略)の回転軸に連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈し、ボルトが締結されるネジ孔(図示省略)が形成されている。
【0037】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の先端は平坦面になっている。
【0038】
攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝が刻設されている。本実施形態では、本接合用回転ツールFを右回転させるため、螺旋溝は、基端から先端に向かうにつれて左回りに形成されている。言い換えると、螺旋溝は、螺旋溝を基端から先端に向けてなぞると上から見て左回りに形成されている。
【0039】
なお、本接合用回転ツールFを左回転させる場合は、螺旋溝を基端から先端に向かうにつれて右回りに形成することが好ましい。言い換えると、この場合の螺旋溝は、螺旋溝を基端から先端に向けてなぞると上から見て右回りに形成されている。螺旋溝をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝によって攪拌ピンF2の先端側に導かれる。これにより、被接合金属部材(ジャケット本体2及び封止体3)の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。
【0040】
本接合工程では、本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2を第一突合せ部J1に沿って移動させる。本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2のみをジャケット本体2及び封止体3に接触させた状態で摩擦攪拌を行う。言い換えると、攪拌ピンF2の基端側は露出した状態で摩擦攪拌接合を行う。攪拌ピンF2の挿入深さは適宜設定すればよいが、本実施形態では、攪拌ピンF2が段差底面12aに達するように設定している。封止体3の周りで本接合用回転ツールFを一周させたら、塑性化領域Wの始端と終端とを重複させる。
【0041】
<作用効果について>
ここで、一般的に、摩擦攪拌接合を行うと、熱収縮によって封止体3の中央部がジャケット本体2に近接する方向に変形する。特に、本実施形態のように、封止体3が、ジャケット本体2よりも硬度の低い材料で形成されている場合はその変形率が大きくなる。本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、図11に示すように、本接合工程後は、熱収縮によって封止体3の本体部21の中央部がジャケット本体2側に近接するように変形する。これにより、ピンフィン22の先端22aから底部10の表面10aまでの距離が概ね一定にすることができる。つまり、封止体3のピンフィン群の中央部を予め凹形状となるように形成することにより、熱収縮を利用してピンフィン22の先端22aから底部10の表面10aまでの距離を概ね一定にすることができる。
【0042】
また、本接合工程では、攪拌ピンF2のみをジャケット本体2及び封止体3に挿入するため、回転ツールのショルダ部を挿入する場合に比べて摩擦攪拌装置にかかる負荷を軽減することができる。
【0043】
また、本接合工程の前に、封止体3の本体部21の表面21aを凸形状とすることにより、熱収縮を利用して、表面21aを平坦にすることができる。また、本接合工程において、攪拌ピンF2の先端を段差底面12aに接触させた状態で摩擦攪拌を行うことにより、第二突合せ部J2の接合強度を高めることができる。
【0044】
また、ジャケット本体2を硬度の高い材料にすることにより、液冷ジャケット1の強度を高めることができる。また、封止体3の硬度を低い材料にすることにより、成形性を高めることができる。また、本実施形態では、本体部21と複数のピンフィン22とを一体形成するため、熱交換効率を高めることができる。
【0045】
なお、本接合工程を行う前に、溶接又は摩擦攪拌によって第一突合せ部J1に仮接合を行う仮接合工程を行ってもよい。仮接合工程によれば、本接合工程の際の第一突合せ部J1の目開きを防ぐことができる。また、本実施形態では、予め本体部21の表面21aを凸形状としたが、表面21aが平坦の状態で本接合工程を行ってもよい。
【0046】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法では、封止体3の製造方法が第一実施形態と異なる。本実施形態では、第一実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0047】
本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法では、準備工程と、載置工程と、本接合工程を行う。準備工程では、図12に示すように、封止体3Aを用意する。封止体3Aは、板状の本体部21と、本体部21の裏面21bから垂下する複数のピンフィン22とで構成されている。封止体3Aは、本実施形態ではダイキャストによって一体成形されている。封止体3の板状の本体部21は、中央部がジャケット本体2から離間する方向に凸形状となるように湾曲している。表面21aから裏面21bまでの距離は概ね一定になっている。また、複数のピンフィン22からなるピンフィン群は、中央部が凹形状となるように(本体部21に向かって凹むように)形成されている。
【0048】
図12に示すように、載置工程では、段差側面12bと、本体部21の外周側面21cとが突き合わされて第一突合せ部J1が形成されている。本実施形態では、封止体3Aが湾曲形成されているため、第一突合せ部J1の段差側面12bと本体部21の外周側面21cとは断面三角形状の隙間をあけて離間している。本接合工程は、第一実施形態と同じ要領で行う。
【0049】
図13に示すように、第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法によっても、第一実施形態と同様に、熱収縮によって封止体3が変形することにより、各ピンフィン22の先端22aと底部10の表面10aとの距離を一定にすることができる。
【0050】
また、予め封止体3の本体部21の表面21aを、ジャケット本体2から離間する方向に凸形状としているため、熱収縮によって表面21aを平坦にすることができる。また、封止体3はダイキャストによって容易に成形することができる。
【0051】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。本実施形態では、図14に示すように、ジャケット本体2と封止体3とを重ね合わせる点、本接合用回転ツールFAを用いる点で第一実施形態と相違する。本実施形態では、第一実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0052】
ジャケット本体2は、矩形状の底部10と、底部10の周縁から立ち上がる矩形枠状の周壁部11とで構成されている。周壁部11の周壁端面11aは平坦になっている。封止体3は、矩形板状の本体部21と、本体部21の裏面21bから垂下する複数のピンフィン22とで構成されている。封止体3は、第一実施形態と同じ工程で形成されている。
【0053】
載置工程では、周壁部11の周壁端面11aに封止体3の本体部21の裏面21bを載置する。周壁端面11aと裏面21bとが重ね合わされて第三突合せ部J3が形成される。
【0054】
本接合工程では、図15に示すように、本接合用回転ツールFAを用いて第三突合せ部J3に対して摩擦攪拌接合を行う。本接合用回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、摩擦攪拌装置(図示省略)の回転軸に連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈し、ボルトが締結されるネジ孔(図示省略)が形成されている。
【0055】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の先端には、回転中心軸Cに対して垂直であり、かつ、平坦な平坦面F3が形成されている。さらに平坦面F3には下方に突出する突起部F4が形成されている。突起部F4は、平坦面F3の中心部から下方に突出する部位である。突起部F4の形状は特に制限されないが、本実施形態では、円柱状になっている。突起部F4の側面と、平坦面F3とで段差部が形成されている。つまり、攪拌ピンF2の外面は、先細りとなる外周面と、先端に形成された平坦面F3と、突起部F4の外周面および先端面とで構成されている。突起部F4の外周面には、螺旋溝を刻設してもよい。
【0056】
本接合工程では、攪拌ピンF2を本体部21の表面21aから挿入し、第三突合せ部J3に沿って本接合用回転ツールFを移動させる。攪拌ピンF2の挿入深さは特に制限されないが、本実施形態では、平坦面F3は封止体3に接触させつつ、突起部F4が周壁端面11aに接触するように設定する。本接合工程では、第三突合せ部J3の周りに本接合用回転ツールFを一周させたら塑性化領域Wの始端と終端とを重複させる。
【0057】
以上説明した本実施形態であっても第一実施形態と概ね同じ効果を奏することができる。また、本実施形態の本接合工程によれば、突起部F4の周りで巻き上げられた塑性流動材は平坦面F3で押さえられるため、第三突合せ部J3の酸化被膜を確実に分断することができる。これにより、第三突合せ部J3の接合強度を高めることができる。
【0058】
なお、本実施形態では、突起部F4を周壁部11に接触させたが、攪拌ピンF2及び突起部F4と周壁部11とを接触させない状態で、第三突合せ部J3を接合してもよい。この場合は、本体部21と攪拌ピンF2との摩擦熱によって塑性流動材が攪拌されて第三突合せ部J3が接合される。また、第一実施形態で用いた本接合用回転ツールFを用いて第三実施形態の本接合工程を行ってもよい。この場合も、本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2のみを封止体3のみに接触させた状態で、第三突合せ部J3を摩擦攪拌接合してもよい。また、本接合用回転ツールFAを用いて、第一実施形態又は第二実施形態の本接合工程を行ってもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 液冷ジャケット
2 ジャケット本体
3 封止体
21 本体部
22 ピンフィン
F 本接合用回転ツール(回転ツール)
F2 攪拌ピン
F3 平坦部
F4 突起部
J1 第一突合せ部
J2 第二突合せ部
J3 第三突合せ部
W 塑性化領域
図1
図2
図3
図4
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図9
図10
図11
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図13
図14
図15