(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
3以上の異なる指向性のマイクアレイを形成可能なマイクアレイ部からの入力信号に基づいて、2パターン以上の前記マイクアレイの組み合わせに基づくエリア収音出力を取得する第1のエリア収音手段と、
前記第1のエリア収音手段が取得した各パターンのエリア収音出力を乗算した結果をエリア収音結果として出力する第2のエリア収音手段と
を有することを特徴とする収音装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(A)主たる実施形態
以下、本発明による収音装置、プログラム及び方法の一実施形態を、図面を参照しながら詳述する。この実施形態では、本発明の収音装置、プログラム及び方法を収音部に適用した例について説明する。
【0016】
まず、この実施形態におけるマイクアレイを用いたエリア収音処理の基本的な原理について
図4〜
図6を用いて説明する。
【0017】
多角形の各頂点の位置にマイクロホンを配置すると、多角形の中心方向に複数のエリア収音を構築することが出来る。
【0018】
例えば、3個のマイクロホンを用いたエリア収音の構成を考えた場合、
図4に示すように、マイクロホンの組み合わせによって最大3個のマイクアレイ(指向性の方向の異なる3個のマイクアレイ)を設定することができる。
図4に示すように、3個のマイクロホンch1〜ch3では、マイクロホンch1、ch2を対とするマイクアレイMA301、マイクロホンch2、ch3を対とするマイクアレイMA302、及びマイクロホンch3、ch1を対とするマイクアレイMA303を設定することができる。
【0019】
さらに、3個のマイクロホンch1〜ch3の構成では、
図5に示すように、3個のマイクアレイMA301、MA302、MA303の組み合わせ(3通りの組み合わせのパターン)に応じたエリア収音が可能となる。
【0020】
図5(a)では、マイクアレイMA301の指向性を一点鎖線で図示し、マイクアレイMA302の指向性を二点鎖線で図示している。また、
図5(b)では、マイクアレイMA302の指向性を一点鎖線で図示し、マイクアレイMA303の指向性を二点鎖線で図示している。さらに、
図5(c)では、マイクアレイMA301の指向性を一点鎖線で図示し、マイクアレイMA303の指向性を二点鎖線で図示している。さらにまた、
図5(a)では、マイクアレイMA301、MA302の組み合わせ(パターン)に応じた収音エリアA301にハッチ(斜線)を付している。また、
図5(b)では、マイクアレイMA302、MA303の組み合わせ(パターン)に応じた収音エリアA302にハッチ(斜線)を付している。さらに、
図5(c)では、マイクアレイMA301、MA303の組み合わせ(パターン)に応じた収音エリアA303にハッチ(斜線)を付している。
【0021】
図5に示すように、3個のマイクロホンch1〜ch3の構成では、いずれのマイクアレイでも、マイクアレイ同士(マイクアレイを構成する2つのマイクロホンの位置を結ぶ線分同士)で角度を有することから、互いの指向性を交差させて、組み合わせ毎に異なるエリア収音(異なる領域のエリア収音)が実現可能である。
【0022】
一方、マイクアレイを用いたエリア収音の収音エリアは、マイクアレイの前方(マイクアレイから遠い方)に拡がる性質がある。以下、その性質について
図6を用いて説明する。
【0023】
図6は、2つのマイクアレイMA400、MA500の指向性を互いに直角を成すように交差させた場合におけるエリア収音の感度の分布(計算上の感度の分布)を示した図である。言い換えると、
図6では、2つのマイクアレイMA400、MA500の指向性が交差する領域及びその周辺におけるエリア収音の感度を図示している。なお、
図6では、マイクアレイMA400、MA500は、それぞれ2つのマイクロホンch1、ch2を備えている。また、
図6では、エリア収音の感度を5段階(0〜−5dB、−5〜−10dB、−10〜−15dB、−15〜−20dB、−20〜−25dB)に分けて、段階ごとに異なるパターン(模様)を付している。
図6に示すように、マイクアレイMA400、MA500から遠い方(すなわち、右下方向)に向けて感度が高い領域が伸びている状態となることが分かる。
【0024】
そのため、1つのエリア収音(1つのパターンのマイクアレイの組み合わせによるエリア収音)では抑圧ゲインが十分に確保できない場合がある。
【0025】
ここで、収音エリアが重なるエリア収音結果を複数掛け合わせることについて検討する。
【0026】
図7は、4方向からのマイクアレイの指向性を用いて実現される4つのエリア収音結果を掛け合わせた場合におけるエリア収音の感度の分布(計算上の感度の分布)を示した図である。
【0027】
図7の例では、四角形S1(正方形;正四角形)を構成する各辺に、それぞれマイクアレイMA601、MA602、MA603、MA604を設置し、マイクアレイMA601、MA602、MA603、MA604の指向性を四角形S1の内側の位置P1に向けて交差させた場合におけるエリア収音の感度の分布(計算上の感度の分布)を示した図である。すなわち、
図7では、4つのマイクアレイMA601〜MA604の指向性が交差する領域及びその周辺におけるエリア収音の感度を図示している。
図7では、マイクアレイMA601〜MA604は、それぞれ2つのマイクロホンch1、ch2を備えている。また、
図7の例では、マイクアレイMA601、MA602の組み合わせによるエリア収音と、マイクアレイMA602、MA603の組み合わせによるエリア収音出力と、マイクアレイMA603、MA604の組み合わせによるエリア収音と、マイクアレイMA604、MA601の組み合わせによるエリア収音が可能である。以上のように、
図7では、上述の4つのエリア収音結果(エリア収音出力)を、さらに掛け合わせた結果(乗算した結果)における各領域の感度の分布(計算上の感度の分布)を示している。なお、
図7では、エリア収音の感度を5段階(0〜5dB、5〜10dB、10〜15dB、15〜20dB、20〜25dB)に分けて、段階ごとに異なるパターン(模様)を付している。
【0028】
図7に示すように、4つのマイクアレイMA601〜MA604を用いた4つのエリア収音出力を掛け合わせることにより、正四角形S1の中心位置P1に強力に尖鋭化された収音エリア(ピンポイントな収音エリア)が出現する。言い換えると、
図7では、多角形(N角形;Nは3以上の整数)の各辺にマイクアレイを配置して、当該多角形の中心点を含む領域を収音エリアとするエリア収音出力を複数掛け合わせることで、当該多角形の中心点の周囲に強力に尖鋭化された収音エリアが出現することがわかる。これは、上述の
図4、
図5に示す3個のマイクロホンを三角形の各頂点に配置した構成においても同様に、三角形の中心付近に強力に尖鋭化された収音エリアが出現することを示している。
【0029】
例えば、
図5(a)の組み合わせ(マイクアレイMA301、MA302の組み合わせ)、
図5(b)の組み合わせ(マイクアレイMA302、MA303の組み合わせ)、
図5(c)の組み合わせ(マイクアレイMA303、MA301の組み合わせ)によるエリア収音の収音エリアは、それぞれマイクアレイの組み合わせ毎に異なるが、多角形の中心部分で3方向からのエリアが重なるエリア(3つの収音エリアが全て重なるエリア)が生じる。したがって、多角形(N角形;Nは3以上の整数)の角頂点の位置に配置されたマイクロホンで形成される複数のマイクアレイのうち、異なる複数のマイクアレイの組み合わせ(組み合わせのパターン)でエリア収音を行い、それぞれのエリア収音結果(エリア収音の出力)を掛け合わせることで、多角形の中心に1つのマイクアレイの組合せで実現したエリア収音よりも、遥かに尖鋭化した収音特性のエリア収音を行うことができる。これにより、この実施形態のエリア収音処理では、結果として大騒音下においても十分な抑圧効果を発揮するエリア収音(より安定的なエリア収音)が可能となる。
【0030】
(A−1)実施形態の構成
図1は、この実施形態に関連する各装置の構成について示したブロック図である。
【0031】
図1では、この実施形態に係る収音部120を備える通信装置100と、通信装置200とを図示している。また、
図1では、通信装置100、200間は、通信路Pにより通信可能な構成となっている。
【0032】
通信装置100は、第1のユーザU1が発話した音声(音)を収音し、収音した音声の音声データを通信路Pを介して通信装置200に送信するとともに、通信装置200から受信した音声データに基づく音声(第2のユーザU2が発話した音声)を表音出力する装置である。また、通信装置200は、第2のユーザU2が発話した音声(音)を収音し、収音した音声の音声データを通信路Pを介して通信装置100に送信するとともに、通信装置100から受信した音声データに基づく音声(第1のユーザU1が発話した音声)を表音出力する装置である。
【0033】
第1のユーザU1は、例えば、救急車や消防車等の緊急車両に登場する搭乗員等が該当し、第2のユーザU2としては、例えば、遠隔地(例えば、緊急車両を指揮する司令センタ)の司令担当者等が該当する。
【0034】
通信路Pは、有線・無線に限定されず種々の接続手段や接続構成(ネットワーク構成)を適用することができる。
【0035】
次に、通信装置100の構成概要について
図1を用いて説明する。
【0036】
通信装置100は、ハンドセット110、収音部120、通信部130、及び出力部140を有している。
【0037】
ハンドセット110は、3個のマイクロホンMC1〜MC3(3chマイクロホン)により構成されるマイクアレイ部111とスピーカ112とを備えている。
【0038】
通信部130は、通信路Pを介して通信装置200と通信するための通信インタフェースである。
【0039】
収音部120は、マイクアレイ部111で捕捉した音響信号に基づいて第1のユーザU1の発話した音声(音)を収音する。そして、通信部130は、収音部120が収音した音声の音声データを通信装置200側に送信する。
【0040】
出力部140は、通信部130を介して通信装置200から音声データ(第2のユーザU2が発話した音声の音声データ)を取得し、当該音声データに基づく音響信号をスピーカ112に供給し、スピーカ112に当該音響信号を表音出力させる。
【0041】
通信装置100のハードウェア的な構成については限定されないものであるが、この実施形態の例では、
図1に示すように、通信装置100は、ハードウェア的にはハンドセット110を備える電話機の構成となっているものとする。なお、通信装置100は、必ずしもハンドセット110を備える必要はなく、スマートホンのように筐体(シャーシ)全体が、実質的にハンドセットとして機能する構成(例えば、スマートホンの筐体の一部に送話口が設定された構成)としてもよい。
【0042】
次に、通信装置200の構成概要について
図1を用いて説明する。
【0043】
通信装置200は、スピーカ210、マイク220、通信部230、出力部240、及び収音部250を有している。
【0044】
通信部230は、通信路Pを介して通信装置200と通信するための通信インタフェースである。
【0045】
収音部250は、マイク220で捕捉した音響信号に基づいて第2のユーザU2の発話した音声(音)を収音する。そして、通信部230は、収音部250が収音した音声の音声データを通信装置100側に送信する。
【0046】
出力部240は、通信部230を介して通信装置100から音声データ(第1のユーザU1が発話した音声の音声データ)を取得し、当該音声データに基づく音響信号をスピーカ210に供給し、スピーカ210に当該音響信号を表音出力させる。
【0047】
次に、収音部120の詳細構成について
図1を用いて説明する。
【0048】
収音部120は、信号入力部121、周波数変換部122、指向性形成部123、目的エリア音抽出部124及びエリア音乗算部125を有している。
【0049】
収音部120は、例えば、プロセッサやメモリ等を備えるコンピュータにプログラム(実施形態に係る収音プログラムを含む)を実行させるようにしてもよいが、その場合であっても、機能的には、
図1のように示すことができる。収音部120の各構成要素の処理の詳細については後述する。
【0050】
次に、送受話器としてのハンドセット110の構成について
図2、
図3を用いて説明する。
【0051】
図2は、ハンドセット110が第1のユーザU1の手U1aで把持されている状態について示した斜視図である。
【0052】
図2に示すようにハンドセット110は、第1のユーザU1(手U1a)に把持させるための棒形状の把手部115と、把手部115の一端に設けられた送話口113(送話器)と、把手部115の他端に設けられた受話口114(受話器)とを有している。
【0053】
図3は、ハンドセット110の送話口113の部分を拡大して示した図である。
【0054】
図2、に示すように、受話口114にはスピーカ112が配置されている。また、
図2、
図3に示すように、円形の面を備える送話口113には、マイクアレイ部111(マイクロホンMC1〜MC3)が配置されている。
【0055】
次に、マイクアレイ部111の構成について、
図2、
図3を用いて説明する。
【0056】
この実施形態の例では、マイクアレイ部111は、3個のマイクロホンMC1〜MC3を有する構成であるものとする。
【0057】
図2に示すように、第1のユーザU1が通信装置100を手U1aで把持し、耳にスピーカSPを押し付けた場合に、第1のユーザU1の口元が位置する送話口113の周囲(第1のユーザU1の口元と最も近接する部分の周囲)に3個のマイクロホンMC1〜MC3が配置されている。
【0058】
図2、
図3に示すハンドセット110では、上述の
図4、
図5に示す構成と同様に、マイクアレイ部111を構成する3個のマイクロホンMC1〜MC3の各位置(各マイクロホンの中心位置)が、送話口113の周囲上で、正三角形の頂点となるように配置されている。
図2、
図3では、収音エリアの拡大を等方向とするため、マイクロホンMC1〜MC3による三角形の各辺を同じ距離(マイクロホンMC1〜MC3による三角形が正三角形)としているが、各辺の距離や各角の角度は全て同じでなくてもよい。
【0059】
なお、
図3に示すように、以下では、マイクアレイ部111において、マイクロホンMC1MC2を対とするマイクアレイをMA1、マイクロホンMC2、MC3を対とするマイクアレイをMA2、マイクロホンMC3、MC1を対とするマイクアレイをMA3と呼ぶものとする。
【0060】
(A−2)実施形態の動作
次に、以上のような構成を有するこの実施形態の動作(実施形態に係る収音方法)を説明する。
【0061】
通信装置100では、収音部120が、マイクアレイ部111のマイクロホンMC1〜MC3から供給される音響信号を用いて、目的エリアの目的エリア音を収音する目的エリア音収音処理を行う。
【0062】
以下では、通信装置100を構成する収音部120内部の動作を中心に説明する。
【0063】
信号入力部121は、各マイクロホンMC1〜MC3で収音した音響信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、周波数変換部122に供給する。その後、周波数変換部122では、例えば高速フーリエ変換を用いてマイク信号を時間領域から周波数領域へ変換する。指向性形成部123はBFにより指向性を形成する。
【0064】
ここで、
図8、
図9を用いてBFによる指向性形成について説明する。
【0065】
BFとは、マイクアレイにおいて各マイクロホンに到達する信号の時間差を利用して収音の指向性を形成する技術である(非特許文献1参照)。BFは加算型と減算型の大きく2つの種類に分けられが、ここでは少ないマイクロホン数で指向性を形成できる減算型BFについて説明する。
【0066】
図8は、マイクロホン数が2個(MC1、MC2)の場合の減算型BF600に係る構成を示すブロック図である。
【0067】
図9は、2個のマイクロホンMC1、MC2を用いた減算型BF600により形成される指向特性を示す図である。
【0068】
減算型BF600は、まず遅延器610により目的とする方向に存在する音(以下、「目的音」と呼ぶ)が各マイクロホンMC1、MC2に到来する信号の時間差を算出し、遅延を加えることにより目的音の位相を合わせる。時間差は(1)式により算出される。ここで、dはマイクロホンMC1、MC2間の距離、cは音速、τ
iは遅延量を示している。またθ
Lは、マイクロホンMC1、M2の位置を結んだ直線に対する垂直方向から目的方向への角度を示している。
【0069】
ここで、死角がマイクロホンMC1とマイクロホンMC2の中心に対し、マイクロホンMC1の方向に存在する場合、遅延器610は、マイクロホンMC1の入力信号x
1(t)に対し遅延処理を行う。その後、減算器620が、(2)式に従い減算処理を行う。減算器620では、この減算処理は周波数領域でも同様に行うことができ、その場合(2)式は(3)式のように変更される。
【数1】
【0070】
ここでθ
L=±π/2の場合、形成される指向性は
図9(a)に示すように、カージオイド型の単一指向性となり、θ
L=0,πの場合は、
図9(b)のような8の字型の双指向性となる。また、減算器620では、スペクトル減算法(Spectral Subtraction)の処理(以下、単に「SS」とも呼ぶ)を用いることで、双指向性の死角に強い指向性を形成することもできる。SSによる指向性は、(4)式に従い全周波数、もしくは指定した周波数帯域で形成される。(4)式では、マイクロホンMC1の入力信号X
1を用いているが、マイクロホンMC2の入力信号X
2でも同様の効果を得ることができる。ここで、nはフレーム番号、βはSSの強度を調節するための係数を示している。減算器620では、減算時に値がマイナスなった場合は、0または元の値を小さくした値に置き換えるフロアリング処理を行うようにしてもよい。この方式では、双指向性の特性によって目的方向以外に存在する音(以下、「非目的音」と呼ぶ)を抽出し、抽出した非目的音の振幅スペクトルを入力信号の振幅スペクトルから減算することで、目的音を強調することができる。
【数2】
【0071】
ところで、ある特定の目的エリア内に存在する目的エリア音だけを収音したい場合、減算型BFを用いるだけでは、そのエリアと同一方向の線上に存在する音源(以下、「非目的エリア音」と呼ぶ)も収音してしまう。
【0072】
そこで、指向性形成部123では、特許文献1で提案されているエリア収音処理(複数のマイクアレイを用い、それぞれ別々の方向から目的エリアへ指向性を向け、指向性を目的エリアで交差させることで目的エリア音を収音する処理)を行うものとして説明する。具体的には、指向性形成部123は、以下のような処理によりエリア収音処理を行うようにしてもよい。
【0073】
指向性形成部123は、マイクアレイMA1〜MA3のそれぞれについて、三角形(マイクロホンMC1〜MC3により形成される三角形)の内側に向かってBFによって指向性を形成する。そして、指向性形成部123は、マイクアレイMA1、MA2、MA3の各BF出力Y
1(n)、Y
2(n)、Y
3(n)を、目的エリア音抽出部124に供給する。
【0074】
目的エリア音抽出部124は、指向性形成部123で形成したマイクアレイMA1、MA2、MA3のBF出力Y
1(n)、Y
2(n)、Y
3(n)を用いてエリア音を抽出する。上述の通り、各BF出力(Y
1(n)、Y
2(n)、Y
3(n))は、3角形(マイクロホンMC1〜MC3により形成される三角形)の各辺から中心(三角形の内側方向)に向かう指向性を成したものである。したがって、各BF出力は、そのいずれの2つの組み合せ(組み合わせのパターン)においても2つの指向性が3角形の中心付近で交差するため、目的エリア音抽出部124は、以下に記すエリア収音方法によって、互いの指向性が交差したエリアの音を抽出することが出来る。ここでは、代表として、マイクアレイMA1のBF出力Y
1(n)と、マイクアレイMA2のBF出力Y
2(n)を用いた場合について説明する。目的エリア音抽出部124は、Y
1(n)、Y
2(n)を(5)、もしくは(6)式に従いSSし、目的エリア方向に存在する非目的エリア音N
1−1(n)、N
1−2(n)を抽出する。ここでα
1、α
2は、目的エリアと各マイクアレイの距離の違いによって生じる信号レベルの差を補正する補正係数であり、所定の処理によって逐一計算されるべきものであり、その手法は特許文献1にも記載されているが、ここでは簡単のため、目的エリアと各マイクアレイまでの距離は同一(α
1(n)=α
2(n)=1)とし、(5)、(6)式を(7)、(8)式に代える。
【数3】
【0075】
その後、目的エリア音抽出部124は、(9)、(10)式に従い、各BF出力から非目的エリア音をSSして目的エリア音を抽出する。ここで、γ
1(n)、γ
2(n)はSS時の強度を変更するための係数である。
【数4】
【0076】
目的エリア音抽出部124において、強調音Z
1−1(n)、Z
1−2(n)のうちいずれを出力としても構わないが、ここではZ
1−1(n)をマイクアレイMA1−マイクアレイMA2の組み合せ(組み合わせのパターン)によるエリア収音出力Z
1(n)として用いることとする。
【0077】
同様にして目的エリア音抽出部124は、マイクアレイMA2−マイクアレイMA3の組み合せによるエリア収音出力Z
2(n)、及びマイクアレイMA3−マイクアレイMA1の組み合せによるエリア収音出力Z
3(n)を抽出し、エリア音乗算部125へ供給する。
【0078】
上述の
図6に示すように、エリア収音による収音エリアは、2つのマイクアレイの遠方方向に拡がる特性があることが判っている。このように1つの組み合せによるエリア収音では、収音エリアは1方向に偏りを生じてしまうが、異なる3方向からのエリア収音Z
1(n)、Z
2(n)、Z
3(n)を組み合せることで、収音エリアの均等性が確保できる。
【0079】
エリア音乗算部125は、例えば、(11)式に示すように3つのエリア収音の出力Z
1(n)、Z
2(n)、Z
3(n)を掛け合わせ(同一周波数成分同士を乗算処理し)、最終出力W(n)として出力する。ここでαはゲイン調整のための係数である。
【数5】
【0080】
エリア音乗算部125による乗算処理(例えば、(11)式の処理)は、エリア成分が大きいところ(エリア収音の感度が高い成分)が強調される周波数特性を有したフィルタとして機能することになる。そのため、上述の乗算処理によりエリア収音出力同士を乗ずることで、各エリア収音で既に強調されたエリア音が、収音エリアが重なる部分(各エリア収音で重なるエリア)に対して、さらに強調された状態となる。言い換えると、多角形の各頂点にマイクロホンを配置した構成では、目的エリアが重複した複数のエリア収音出力を複数掛け合わせれば(乗算すれば)、多角形の中心に強力に尖鋭化された収音エリアが出現することになる。
【0081】
以上のように、収音部120は、拡大されたエリアから収音された目的音声として最終出力W(n)を出力する。このとき、収音部120は、W(n)を周波数−時間変換した音声データとして出力するようにしてもよい。
【0082】
そして、通信部130は、最終出力W(n)に基づく音声データを、通信路Pを介して通信装置200に送信する。
【0083】
そして、通信装置200の通信部230は、通信装置100から受信した音声データ(W(n)に基づく音声データ)を出力部140に供給する。出力部140は、受信した音声データに基づく音響信号をスピーカ210に供給して表音出力(第2のユーザU2に向けて表音出力)させる。
【0084】
(A−3)実施形態の効果
この実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0085】
この実施形態の収音部120では、別々の方向からエリア収音を行い、それらを掛け合わせることで、従来の1組のマイクアレイを用いたエリア収音よりも、外部騒音に対して強力な抑圧特性を持った収音エリアを形成することができる。これにより、この実施形態の収音部120では、そのため緊急車両に搭載されるハンドセットのような苛烈な騒音環境に対しても実用的な収音が可能になる。
【0086】
(B)他の実施形態
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に例示するような変形実施形態も挙げることができる。
【0087】
(B−1)上記の各実施形態では、収音部120は通信装置100の一部を構成するものとして説明したが、独立した装置として構成するようにしてもよい。また、上記の各実施形態では、収音部120にマイクアレイ部1は含まない構成として説明したが、収音部120とマイクアレイ部1を一体とした装置として構成するようにしてもよい。
【0088】
(B−2)上記の各実施形態では、本発明の収音装置(収音部120)をハンドセット等の手持ち型の送話器(送受話器)を備える装置等に適用する例について説明したが、本発明の収音装置は、ヘッドセットやウェアラブルデバイス(例えば、マイクロホン付きのヘッドマウントディスプレイ、マイクロホン付きのネックバンド型ヘッドホン等)に適用し、第1のユーザU1による装着時に第1のユーザU1の口元が位置する領域を目的エリアとし、その周囲(送話口)の多角形(N角形)の各頂点にマイクロホンを設置し、上記の実施形態と同様にエリア収音処理するようにしてもよい。
【0089】
(B−3)上記の実施形態では、3個のマイクロホンMC1〜MC3を用いたエリア収音の例について示したが、マイクアレイ部111に設置するマイクロホンの数(マイクロホンを配置する多角形の辺(角)の数)は限定されないものでる。例えば、3方向あるいは4方向からエリア収音を行なってもマイクロホンの数の増加は僅かであり、結果的に処理量の増加も限定的である。具体的には、例えば、上記の実施形態において、4つのマイクロホンを四角形の角頂点に配置した場合、4エリアのエリア収音を行なっているにも係らず、マイク数は従来のエリア収音の最小構成である2マイクアレイ×2と同じ4つのマイクロホンで実現できるため、簡素な構成で処理量も少なくハンドセット110という限られたスペースの機器にも容易に実装できる。
【0090】
以上のように、マイクアレイ部111に設置するマイクロホンの数(マイクロホンの位置により形成される多角形の角数)が増せば、指向性の方向(BF出力の指向性の方向)が多様化し、発話者(第1のユーザU1)の口元の変動(ハンドセット110の送話口113と第1のユーザU1の口元との相対的な位置の変動)に対して安定性がさらに向上する。
【0091】
図10は、マイクアレイ部111のマイクロホンの数を4つとした場合の構成について示した説明図である。
【0092】
図10では、4つのマイクロホンMC1〜MC4が四角形(正方形)の角頂点の位置に配置されている。4つのマイクロホンMC1〜MC4は互いに隣り合うマイクロホン同士と組み合わされて、マイクロホンMC1、MC2の対により形成されるマイクアレイMA701と、マイクロホンMC2、MC3の対により形成されるマイクアレイMA702と、マイクロホンMC3、MC4の対により形成されるマイクアレイMA703と、マイクロホンMC4、MC1の対により形成されるマイクアレイMA704の4つが形成される。さらにこれらのマイクロアレイは隣り合うマイクアレイとの組み合わせ(一部のマイクロホンを共有するマイクアレイの組み合わせ)により4つのエリア収音が可能となる。例えば、マイクアレイ部111に、4つのマイクロホンMC1〜MC4の構成を適用した場合、収音部120では、マイクアレイMA701、MA702の組み合わせによるエリア収音と、マイクアレイMA702、MA703の組み合わせによるエリア収音と、マイクアレイMA703、MA704の組み合わせによるエリア収音と、マイクアレイMA704、MA701の組み合わせによるエリア収音の各出力(4つのエリア収音の出力)を取得することができる。そして、収音部120では、上述の4つのエリア収音の出力を掛け合わせた結果(乗算した結果)を取得することができる。