(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、表示装置に求められる特性の一つとして、太陽光が入射する環境等の明所下におけるコントラスト(明所コントラスト)が高いことが挙げられる。表示装置の明所コントラストは、ディスプレイの輝度と、太陽光等の外部から表示面に入射する入射光の強度と、表示面に配置された透明物品の反射率分布とから決定される。そのため、表示装置用の透明物品の明所コントラストに与える影響を評価する場合には、透明物品の反射率分布を測定すればよい。
【0005】
透明物品の反射率分布は、光の入射角度及び反射角度を変数とする関数であるが、光の入射角度及び反射角度の組み合わせの全てを網羅した反射率分布を測定することは非常に困難である。そこで、光の入射角度及び反射角度のうちの一方又は両方を固定した測定条件を予め設定し、上記測定条件にて測定された反射率分布に基づいて透明物品の明所コントラストに与える影響を評価することが考えられる。しかしながら、この場合には、上記測定条件と異なる条件で使用された場合における透明物品の明所コントラストに与える影響を評価することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、表示装置用の透明物品について、測定条件と異なる条件で使用された場合における明所コントラストに与える影響を評価することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する透明物品の評価方法は、表示装置用の透明物品の明所コントラストに与える影響を評価する透明物品の評価方法であって、前記透明物品に対する光源からの入射角度を固定した状態として、反射角度を変数とする前記透明物品の反射率分布を測定し、前記反射率分布に対して、フレネルの式により得られる入射角度に依存する反射率変化の成分を除去する補正を行い、補正された前記反射率分布から任意の入射角度及び反射角度における補正反射率を求め、前記補正反射率に基づいて、前記透明物品の明所コントラストに与える影響を評価する。
【0008】
上記構成によれば、入射角度を固定し、反射角度を所定範囲に設定した一つの測定条件にて測定された反射率分布から、入射角度及び反射角度について一般化された反射率分布(補正された反射率分布)が求められる。そして、補正された反射率分布に、任意の使用条件としての入射角度及び観測角度(反射角度)を当てはめることにより、当該使用条件における反射率に対応した値が得られる。この値は、透明物品の明所コントラストに与える影響の大きさを表す定量的な指標となる。したがって、測定条件と異なる条件で使用された場合における明所コントラストに与える影響を評価できる。
【0009】
上記透明物品の評価方法において、角度分解能0.5°以下で測定可能な変角光度計を用いて前記反射率分布を測定することが好ましい。
上記透明物品の評価方法において、前記光源は、レーザー光を照射する光源であることが好ましい。この場合、上記透明物品上でのビーム径は、5mm以下であることが好ましい。
上記透明物品の評価方法において、前記透明物品は、アンチグレア面を有することが好ましい。
【0010】
上記課題を解決する透明物品の製造方法は、アンチグレア面を有する表示装置用の透明物品の製造方法であって、透明基材の表面に前記アンチグレア面を形成するアンチグレア面形成工程と、前記アンチグレア面が形成された前記透明基材の明所コントラストに与える影響を評価する評価工程と、前記評価工程の評価結果に基づいて、前記アンチグレア面が形成された前記透明基材が良品の透明物品であるか否かを判別する良否判別工程とを有し、前記評価工程として、上記透明物品の評価方法を用いる。
【0011】
上記構成によれば、評価工程において、一つの測定条件にて反射率分布を測定するのみで、測定条件と異なる使用条件における明所コントラストに与える影響も評価できる。そのため、複数の使用条件における明所コントラストに与える影響を評価する場合であっても、測定条件を変更した測定を何度も行う必要がない。また、明所コントラストに与える影響を評価する使用条件が異なる透明物品を製造する場合であっても、使用条件に応じて測定条件を変更する必要がない。したがって、明所コントラストに与える影響が所定の条件を満たす透明物品を製造する際の作業を簡略化できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表示装置用の透明物品について、測定条件と異なる条件で使用された場合における明所コントラストに与える影響を評価できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態の透明物品の評価方法について説明する。
まず、評価対象となる表示装置用の透明物品について説明する。
透明物品は、表側に位置する第1主面と、裏側に位置する第2主面とを有するシート状又は板状をなしている。透明物品は、表示装置の表示面に配されて使用される。透明物品は、表示装置の表示面の上に取り付けられる部材であってもよい。すなわち、透明物品は、表示装置に事後的に取り付けられる部材であってもよい。
【0015】
透明物品の材質は特に限定されるものではない。透明物品の材質としては、例えば、ガラス、樹脂等が挙げられる。透明物品の材質は、ガラスであることが好ましく、ガラスとしては、例えば、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、化学強化ガラス等の公知のガラスを用いることができる。なお、公知のガラスのなかでも、アルミノシリケートガラスを用いること、特に、質量%で、SiO
2:50〜80%、Al
2O
3:5〜25%、B
2O
3:0〜15%、Na
2O:1〜20%、K
2O:0〜10%を含有する化学強化ガラスを用いることが好ましい。
【0016】
透明物品は、第1主面に透光性のアンチグレア面を有していることが好ましい。アンチグレア面の構造は特に限定されるものではない。アンチグレア面としては、例えば、コーティング剤を塗布する処理により形成されるアンチグレア面、及びブラスト処理やエッチング処理により形成されるアンチグレア面が挙げられる。また、透明物品は、反射防止層や防汚層等のその他の層を有するものであってもよい。
【0017】
次に、表示装置用の透明物品の明所コントラストに与える影響を評価する評価方法について説明する。
表示装置の明所コントラストは、下記式(1)に示すように、外部から入射する入射光の強度と表示面に配置された透明物品の反射率分布との積と、表示装置の輝度との比として表すことができる。
【0018】
明所コントラスト=表示装置の輝度/(入射光の強度×反射率分布)…(1)
表示装置の輝度は、表示装置のディスプレイ性能に基づく要素である。入射光の強度は、太陽光が入射する環境や室内灯が入射する環境等の明所の種類に基づく要素である。反射率分布は、透明物品の材質や表面形状に応じた光の散乱度合に基づく要素である。表示装置の輝度、入射光の強度、反射率分布のうち、透明物品の特性が影響する要素は、反射率分布のみであり、反射率分布を測定することにより、表示装置用の透明物品の明所コントラストに与える影響を評価することができる。
【0019】
反射率分布は、光の入射角度θ及び反射角度φ(観測者の見る角度)を変数とする関数R(θ,φ)であり、入射角度θ及び反射角度φに依存して変化する。本発明者は、反射率分布の入射角度依存性は、フレネルの式に従って変化するものであることを発見した。そして、入射角度を固定し、反射角度を所定範囲に設定した一つの測定条件において測定された反射率分布に対して、フレネルの式により得られる反射率変化の成分を除去する補正を行うことにより、入射角度及び反射角度について一般化された反射率分布(補正反射率分布)が得られることを見出した。本評価方法は、この補正反射率分布に基づいて、表示装置用の透明物品の明所コントラストに与える影響を評価する。
【0020】
本評価方法は、以下に記載する測定ステップ、補正ステップ、評価ステップを順に経ることにより実施される。
(測定ステップ)
図1に示すように、測定ステップでは、評価対象となる透明物品に対する光源からの入射角度θを規定値θAに固定した状態として、変角光度計を用いて、反射角度φを変数とする透明物品の反射率分布R
θA(φ)を測定する。詳述すると、変角光度計の光源21を、透明物品10に対して入射角度θAとなる位置に固定し、光源21からの入射光(可視光)を透明物品10に入射する。そして、所定の角度範囲の反射光を受光するように、変角光度計の受光部22の位置を移動させながら、それぞれ反射角度φにおける反射率を測定する。
【0021】
変角光度計としては、分解能の高い測定ができる点から、角度分解能0.5°以下で測定可能な変角光度計を使用することが好ましい。
変角光度計の光源は、可視光を照射する光源であれば特に限定されるものではないが、レーザー光を照射する光源であることが好ましい。レーザー光を照射する光源である場合、上記透明物品上でのビーム径は5mm以下であることが好ましい。レーザー光を用いることにより、分解能の高い測定を行うことができる。また、レーザー光は、p波偏光又はs波偏光のレーザー光であることが好ましい。この場合には、続く補正ステップにおける補正を簡略化できる。
【0022】
入射角度θの規定値θAは、例えば、20°〜60°であることが好ましい。
反射率を測定する角度範囲は、例えば、−90°〜90°であることが好ましい。
(補正ステップ)
下記式(2)に基づいて、測定ステップにて得られた反射率分布R
θA(φ)の角度座標系をφ座標系からφ´座標系に変換した反射率分布R
θA(φ´)を求める。
図2に示すように、変換角度φ´は、入射光と反射角度φの反射光との間を二分する線Lが入射点Pにおける法線となるように傾いた仮想透明物品10aと、透明物品10との角度差である。
【0023】
【数1】
次に、フレネルの式に基づいて、変換角度φ´におけるエネルギー反射率Fを求める。下記式(3)に示すように、エネルギー反射率Fは、入射光におけるp波の振幅反射率r
p、入射光におけるs波の振幅反射率r
S、入射光におけるp波の割合p、入射光におけるs波の割合sから求めることができる。
【0024】
【数2】
そして、下記(4)に示すフレネルの式に基づいて得られるp波の振幅反射率r
p、及び下記(5)に示すフレネルの式に基づいて得られるs波の振幅反射率r
Sを上記式(3)に代入する。
【0025】
【数3】
図3に示すように、上記式(4)及び式(5)において、「α」は入射光の入射角を示し、「β」は屈折光の屈折角を示す。n
Aは媒質A(空気層)の屈折率を示し、n
Bは媒質B(透明物品10)の屈折率を示す。
【0026】
ここで、入射光の入射角αを変換角度φ´とする。屈折光の屈折角βとして、スネルの法則に基づく下記式(6)を変換して得られる下記式(7)を代入する。屈折率n
A、屈折率n
B、入射光におけるp波の割合p、入射光におけるs波の割合sとして、測定ステップの測定条件から得られる既知の定数を代入する。これにより、エネルギー反射率Fは、変換角度φ´を変数とする関数F(φ´)として表すことができる。
【0027】
【数4】
次に、下記式(8)に示すように、反射率分布R
θA(φ´)をエネルギー反射率F(φ´)で除算することにより、補正反射率分布R´(φ´)を求める。
【0028】
【数5】
変換角度φ´を変数とする関数F(φ´)は、反射率分布R
θA(φ´)に含まれる、透明物品10の入射角度に依存する反射率変化の成分に相当する。したがって、反射率分布R
θA(φ´)をエネルギー反射率F(φ´)で除算して得られる補正反射率分布R´(φ´)は、入射角度及び反射角度について一般化された反射率分布となる。
【0029】
(評価ステップ)
評価対象となる透明物品10が取り付けられる表示装置の使用条件等に基づいて、評価条件となる光の入射角度及び観測角度を設定する。例えば、表示装置がカーナビゲーション装置である場合、太陽光がリアウインドウからナビゲーション装置に入射する角度を入射角度θBとし、運転席に着座した使用者がナビゲーション装置を見る目線に重なる角度を観測角度φBとして評価条件を設定する。
【0030】
次に、観測角度φBを反射角度φBとして、上記式(2)及び入射角度θBに基づいて反射角度φBを変換角度φ´Bに変換し、補正反射率分布R´(φ´)から「φ´=φ´B」である場合の補正反射率R´(φ´B)を求める。補正反射率R´(φ´B)は、入射角度θB及び観測角度φBにおける透明物品10の明所コントラストに与える影響の大きさを表す定量的な指標となる。したがって、透明物品10の補正反射率R´(φ´B)の値に基づいて、評価条件における透明物品10の明所コントラストに与える影響を評価できる。なお、反射率R´(φ´B)が大きいほど、透明物品10の明所コントラストに与える影響が大きいことを示す。
【0031】
また、本評価方法は、アンチグレア面を有する表示装置用の透明物品の製造方法に適用することもできる。
例えば、シート状又は板状のガラスや樹脂等からなる透明基材の表面にアンチグレア面を形成する(アンチグレア面形成工程)。アンチグレア面の形成方法は特に限定されるものではなく、例えば、コーティング剤を塗布する処理、ブラスト処理、エッチング処理等の公知の形成方法を用いることができる。
その後、上述した本評価方法を用いて、アンチグレア面が形成された透明基材の明所コントラストに与える影響を評価する(評価工程)。そして、その評価結果に基づいて、アンチグレア面が形成された透明基材が良品の透明物品であるか否かを判別する(良否判別工程)。
【0032】
次に、本実施形態の作用及び効果について記載する。
(1)表示装置用の透明物品10の明所コントラストに与える影響を評価する評価方法は、透明物品10に対する光源21からの入射角度を固定した状態として、反射角度を変数とする透明物品10の反射率分布を測定する。反射率分布に対して、フレネルの式により得られる入射角度に依存する反射率変化の成分を除去する補正を行う。補正された反射率分布(補正反射率分布)から任意の入射角度及び反射角度における補正反射率を求め、補正反射率に基づいて、透明物品10の明所コントラストに与える影響を評価する。
【0033】
上記構成によれば、入射角度を固定し、反射角度を所定範囲に設定した一つの測定条件にて測定された反射率分布から、入射角度及び反射角度について一般化された反射率分布(補正された反射率分布)が求められる。そして、補正された反射率分布に、任意の使用条件としての入射角度及び観測角度(反射角度)を当てはめることにより、当該使用条件における反射率に対応した値が得られる。この値は、透明物品10の明所コントラストに与える影響の大きさを表す定量的な指標となる。
【0034】
したがって、測定条件と異なる条件で使用された場合における明所コントラストに与える影響を評価できる。また、補正反射率分布を求めるために必要となる測定データは、一つの測定条件にて測定された反射率分布のみであるため、測定作業にかかる手間が少ない。
【0035】
(2)角度分解能0.5°以下で測定可能な変角光度計を用いて反射率分布を測定する。
上記構成によれば、測定により得らえた反射率分布に含まれる、入射角度に依存する反射率変化の成分と、フレネルの式により得られる入射角度に依存する反射率変化の成分とがより高い精度で一致し、本評価方法による評価の精度が向上する。
【0036】
(3)光源21は、レーザー光を照射する光源である。この場合、上記透明物品上でのビーム径は、好ましくは5mm以下である。
上記構成によれば、分解能の高い測定を行うことができる。これにより、測定により得らえた反射率分布に含まれる、入射角度に依存する反射率変化の成分と、フレネルの式により得られる入射角度に依存する反射率変化の成分とがより高い精度で一致し、本評価方法による評価の精度が向上する。
【0037】
(4)光源21は、p波偏光又はs波偏光のレーザー光を照射する光源である。
上記構成によれば、上記式(3)における「p・r
p2」又は「s・r
s2」を「0」とする、又は「0」と見なすことができる。これにより、補正ステップにおける補正を簡略化できる。
【0038】
(5)透明物品10は、アンチグレア面を有する。
アンチグレア面は、透明物品10に入射した光を散乱させる特性を有することから、アンチグレア面を有する透明物品10は、アンチグレア面のない透明物品と比較して、表示装置の明所コントラストに与える影響が大きくなりやすく、また、アンチグレア面の形状に応じて上記影響の大きさが変化しやすい。そのため、透明物品10の明所コントラストに与える影響を定量的に評価できる本評価方法は、アンチグレア面を有する透明物品10を対象とする場合に特に適している。
【0039】
(6)アンチグレア面を有する表示装置用の透明物品の製造方法は、透明基材の表面にアンチグレア面を形成するアンチグレア面形成工程と、アンチグレア面が形成された透明基材の明所コントラストに与える影響を評価する評価工程と、評価工程の評価結果に基づいて、アンチグレア面が形成された透明基材が良品の透明物品であるか否かを判別する良否判別工程とを有する。評価工程として、上記の透明物品の評価方法を用いる。
【0040】
上記構成によれば、評価工程において、一つの測定条件にて反射率分布を測定するのみで、測定条件と異なる使用条件における明所コントラストに与える影響も評価できる。そのため、複数の使用条件における明所コントラストに与える影響を評価する場合であっても、測定条件を変更した測定を何度も行う必要がない。また、明所コントラストに与える影響を評価する使用条件が異なる透明物品を製造する場合であっても、使用条件に応じて測定条件を変更する必要がない。したがって、明所コントラストに与える影響が所定の条件を満たす透明物品を製造する際の作業を簡略化できる。
【0041】
次に、上記実施形態から把握できる別の技術的思想について以下に追記する。
(イ)前記補正は、測定された前記反射率分布の角度座標系を上記式(2)に基づいて変換し、変換した前記反射率分布を、フレネルの式から求められる入射変換角度φ´におけるエネルギー反射率で除算する補正である前記透明物品の評価方法。上記式(2)において、θAは入射光の入射角度を示し、φは反射角度を示す。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げ、上記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
表面形状の異なる6種類の透明物品A〜Fを用意し、上記実施形態の評価方法(以下、本評価方法と記載する。)に基づいて、透明物品A〜Fの明所コントラストに与える影響を評価した。また、透明物品A〜Fを取り付けた表示装置の明所コントラストについて、人の視覚に基づく官能評価を行い、官能評価の結果と本評価方法に基づく評価結果とを比較した。参考として、透明物品A〜Fの表面を撮影した画像に基づいて明所コントラストに与える影響を評価した。
【0043】
(透明物品A〜C)
厚さ1mmのシート状のガラス基材(日本電気硝子社製:T2X−1)の表面に対して、スプレーコーティング装置を用いて、スプレーコート法によりSiO
2からなるアンチグレア面を形成することにより表面形状の異なる3種類の透明物品A〜Cを作製した。コーティング剤としては、水を含む液状媒体にアンチグレア膜の前駆体(テトラエトキシシラン)を溶解することで調製したコーティング剤を用いた。透明物品A〜Cは、その製造過程におけるスプレー時間、焼成温度、及び焼成時間がそれぞれ異なっている。
【0044】
(透明物品D〜F)
エッチング法により形成されたアンチグレア面を有する、表面形状の異なる3種類のガラス物品をそれぞれ透明物品D〜Fとして用いた。
【0045】
(本評価方法による評価)
角度分解能0.5°以下で測定可能な変角光度計を用いて、以下の測定条件にて、透明物品Aの表面(アンチグレア面)に光源からの光を入射させて、透明物品Aの反射率分布R
20°(φ)を測定した。透明物品Aの反射率分布R
20°(φ)を表すグラフを
図4に示す。
光源:波長520nm、s波偏光のレーザー光
入射角度:40°
反射角度範囲(測定範囲):−90°〜90°
【0046】
次に、上記式(2)〜(8)を用いて、反射率分布R
40°(φ)に対して、フレネルの式により得られる入射角度に依存する反射率変化の成分を除去する補正を行い、補正反射率分布R´(φ´)を求めた。透明物品Aの補正反射率分布R´(φ´)を表すグラフを
図5に示す。なお、入射角度θAを「40°」、媒質A(空気層)の屈折率n
Aを「1.00」、媒質B(ガラス層)の屈折率n
Bを「1.45」、入射光におけるp波の割合pを「0」、入射光におけるs波の割合sを「1」とした。
【0047】
評価条件は、入射角度60°、観測角度20°とした。
次に、評価条件の観測角度20°を反射角度として、φ´座標系に変換する。入射角度60°である場合、反射角度20°は、上記式(2)から変換角度−20°となる。そして、補正反射率分布R´(φ´)から変換角度−20°である場合の補正反射率R´(−20°)を求める。得られた補正反射率R´(−20°)の対数値(常用対数値)を表1の「logR´」欄に示す。
【0048】
また、透明物品B〜Fについても同様にして補正反射率R´(−20°)を求めた。透明物品B〜Fの補正反射率R´(−20°)の対数値を表1の「logR´」欄に示す。一例として、透明物品Dの反射率分布R
20°(φ)を表すグラフを
図4に示すとともに、透明物品Dの補正反射率分布R´(φ´)を表すグラフを
図5に示す。
【0049】
(参考評価)
透明物品Aの表面(アンチグレア面)に光源からの光を入射角度60°にて入射させた状態として、撮像装置SMS−1000(Display−Messtechnik&Systeme社製)を用いて、反射角度20°となる方向から透明物品Aの表面を撮影した。そして、得られた画像から透明物品Aの表面の輝度を求めた。
【0050】
また、透明物品Aを、アンチグレア面を設けていない素ガラス(日本電気硝子社製:T2X−1)に変更して同様の操作を行い、素ガラスの表面の輝度を求めた。そして、透明物品Aの表面の輝度を素ガラスの表面の輝度で除算した輝度比を算出した。透明物品Aの輝度比を表1の「輝度比」欄に示す。
【0051】
また、透明物品B〜Fについても、同様にして輝度比を求めた。透明物品B〜Fの輝度比を表1の「輝度比」欄に示す。
(官能評価)
表示装置(ファーウェイ社製スマートフォン:H1512)の表示面に、アンチグレア面が形成されている側を上側にして各透明物品を配置した。表示装置の表示面に対して入射角度60°となる方向から太陽光を入射させた状態として、10人のパネラーに観測角度20°となる方向から表示装置の映像を観察させて、白ボケを感じるか否かを評価させた。その結果を表1の「官能評価」欄に示す。なお、「官能評価」欄においては、白ボケを感じたと評価した人数が3人以下のものを「◎」、5人以下のものを「○」、6人以上のものを「△」で示している。
【0052】
【表1】
表1に示すように、透明物品A〜Fにおける補正反射率R´の数値の大小関係は、官能評価の結果と一致した。具体的には、官能評価において「△」と評価された透明物品C、Fは、logR´の対数値が相対的に高い値(−6.6以上)を示し、「〇」と評価された透明物品A、B、Eは、logR´の対数値が相対的に低い値(−7以上)を示し、「◎」と評価された透明物品Dは、logR´の対数値が相対的にさらに低い値(−7未満)を示した。この結果から、補正反射率分布R´を用いることにより、実際に測定していない評価条件(入射角度及び反射角度)であっても、透明物品の明所コントラストに与える影響を定量的に評価できることが分かる。
【0053】
一方、透明物品A〜Fにおける輝度比の数値の大小関係は、官能評価の結果と一致しなかった。この結果から、補正反射率分布R´を用いることにより、透明物品の明所コントラストに与える影響に関して、精度の高い評価ができることが分かる。