(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータの電子サーマルが有する、該巻線の温度を推定するための算出モデルであって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデルと、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含む固定子温度特性モデルと、を含む算出モデルを決定する処理装置であって、
前記巻線の温度を第1温度に上昇させるための第1電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移を取得し、更に、該巻線の温度が該第1温度に収束後、該第1温度より低い第2温度に降下させるための第2電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の下降推移を取得する温度推移取得部と、
前記下降推移に基づいて前記固定子関連パラメータを算出して前記固定子温度特性モデルを決定し、更に前記上昇推移と該決定された該固定子温度特性モデルとに基づいて前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定する、決定部と、
を備える、処理装置。
巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータの電子サーマルが有する、該巻線の温度を推定するための算出モデルであって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデルと、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含む固定子温度特性モデルと、を含む算出モデルを決定する方法であって、
前記巻線の温度を第1温度に上昇させるための第1電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移を取得するステップと、
前記巻線の温度が前記第1温度に収束後、該第1温度より低い第2温度に降下させるための第2電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の下降推移を取得するステップと、
前記下降推移に基づいて前記固定子関連パラメータを算出して前記固定子温度特性モデルを決定するステップと、
前記上昇推移と前記決定された固定子温度特性モデルとに基づいて前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定するステップと、
を含む、巻線温度算出モデルの決定方法。
巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータの電子サーマルが有する、該巻線の温度を推定するための算出モデルであって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデルと、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含む固定子温度特性モデルと、を含む算出モデルを決定するように構成された処理装置に、
前記巻線の温度を第1温度に上昇させるための第1電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移を取得するステップと、
前記巻線の温度が前記第1温度に収束後、該第1温度より低い第2温度に降下させるための第2電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の下降推移を取得するステップと、
前記下降推移に基づいて前記固定子関連パラメータを算出して前記固定子温度特性モデルを決定するステップと、
前記上昇推移と前記決定された固定子温度特性モデルとに基づいて前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定するステップと、
を実行させる、巻線温度算出モデルの決定プログラム。
巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータの電子サーマルが有する、該巻線の温度を推定するための算出モデルであって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデルと、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含む既知の固定子温度特性モデルと、を含む算出モデルを決定する処理装置であって、
前記巻線の温度を第1温度に上昇させるための第1電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度が該第1温度に収束するまでの上昇推移を取得する温度推移取得部と、
前記上昇推移と前記既知の固定子温度特性モデルとに基づいて前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定する、決定部と、
を備える、処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子サーマル技術を用いて巻線の過昇温を回避するためには、当該モータに関連する諸元が明確になっているのが好ましい。すなわち、巻線の温度に関連する巻線の抵抗値やモータの誘起電圧等の物理的なパラメータが明確であれば、巻線の温度をより正確に推定することが可能となる。しかし、ドライバでモータを駆動する場合、そのモータの物理的パラメータが必ずしも明確になっているとは限らない。このような場合には、当該ドライバでそのモータを駆動することができたとしても、電子サーマル技術による巻線の過昇温抑制を正確に実行することが困難となるおそれがある。
【0006】
また、モータは構造上、固定子に巻線が巻かれているため、巻線は固定子からも熱的な影響を受け得る。すなわち、巻線の過昇温を判定するためには、巻線のみの温度推移を推定するだけでは不十分であり、固定子と巻線との相関を考慮して巻線温度を推定した上で、その過昇温を判断するのが好ましいと考えられる。しかし、従来技術では固定子と巻線との熱的相関に関する言及が十分になされていない。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、モータの電子サーマルに関し、巻線の温度推定を正確に行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、上記課題を解決するために、モータに電圧印加を行い巻線温度を上昇させ、その後に異なる電圧印加を行って巻線温度を下降させたときの、その上昇推移と下降推移とに基づいて、モータの電子サーマルのための固定子温度特性モデルと巻線温度特性モデルとを決定する構成を採用した。このように固定子に関連する特性モデルと巻線に関連する特性モデルを決定することで、電子サーマルによりモータ巻線の温度をより正確に推定することができる。
【0009】
詳細には、本開示は、巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータの電子サーマルが有する、該巻線の温度を推定するための算出モデルであって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデルと、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含む固定子温度特性モデルと、を含む算出モデルを決定する処理装置であって、前記巻線の温度を第1温度に上昇させるための第1電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移を取得し、更に、該巻線の温度が該第1温度に収束後、該第1温度より低い第2温度に降下させるための第2電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の下降推移を取得する温度推移取得部と、前記下降推移に基づいて前記固定子関連パラメータを算出して前記固定子温度特性モデルを決定し、更に前記上昇推移と該決定された該固定子温度特性モデルとに基づいて前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定する、決定部と、を備える。
【0010】
本開示の処理装置は、巻線温度を上昇させる第1電圧印加を行った後に、巻線温度を下降させるための第2電圧印加を行う。第2電圧印加は、巻線温度が第2温度へ降下し収束するような電圧印加であればよく、巻線に対する電圧印加を全く行わない形態をも含む。このときの巻線温度の下降推移は、モータの固定子の熱的特性が支配的であることに着目し、当該下降推移に基づいて固定子関連パラメータを算出して、固定子温度特性モデルが決定される。固定子温度特性モデルは、モータにおいて仮想的に巻線の熱的影響を除いたときの、固定子の温度特性を算出するためのモデルである。なお、当該モデルに含まれる固定子関連パラメータとしては、固定子に関する熱抵抗や熱時定数等が例示できる。
【0011】
また、第1電圧印加の際の巻線温度の上昇推移は、モータの固定子と巻線のそれぞれが影響を及ぼしているが、上記の通り先に固定子温度特性モデルは決定されているため、それに基づいて推定される固定子による影響を差し引くことで、巻線関連パラメータを算出して、巻線温度特性モデルが決定される。巻線温度特性モデルは、モータにおいて仮想的に固定子の熱的影響を除いたときの、巻線の温度特性を算出するためのモデルである。なお、当該モデルに含まれる巻線関連パラメータとしては、巻線に関する熱抵抗や熱時定数等が例示できる。このように電子サーマルに関する固定子温度特性モデルと巻線温度特性モデルが決定され、両モデルを用いることで固定子と巻線との熱的相関が十分に考慮された巻線温度の推定が実現される。そして、上記処理装置では、測定された温度推移を利用して電子サーマルのための両モデルを決定しているため、モータの物理的パラメータ値が不明な場合であっても適用でき、以て電子サーマルにおける巻線温度を正確に推定することが可能となる。
【0012】
上記の処理装置において、前記温度推移取得部は、前記巻線の抵抗値に基づいて前記上昇推移及び前記下降推移を取得してもよい。これにより、固定子温度特性モデルと巻線温度特性モデルを決定する際に、巻線温度の推移を測定するための検出装置をモータに配置する必要が無くなる。
【0013】
また、上記の処理装置は、前記巻線への印加電圧を入力とし該巻線を流れる電流を出力したときの、前記モータにおける周波数応答を取得する周波数応答取得部と、前記周波数
応答に基づいて、前記巻線の抵抗値を算出する抵抗算出部と、を更に備えてもよい。このように巻線の電気的特性に着目してその周波数応答を利用することで、巻線の抵抗値検出のために巻線に印加する電圧を可及的に小さくでき、その電圧印加に起因する巻線温度の変動を抑制し、より正確な巻線の抵抗値の測定が可能となる。
【0014】
また、上記の処理装置において、前記第1電圧印加においては第1周期の電圧印加が行われ、且つ、前記第2電圧印加においては第2周期の電圧印加が行われてもよい。その場合、前記抵抗算出部は、前記第1周期の電圧印加を入力したときの前記モータの出力電流に従って前記周波数応答取得部により取得された前記周波数応答に基づき、前記第1電圧印加時の前記巻線の抵抗値を算出し、前記第2周期の電圧印加を入力したときの前記モータの出力電流に従って前記周波数応答取得部により取得された前記周波数応答に基づき、前記第2電圧印加時の前記巻線の抵抗値を算出し、そして、前記温度推移取得部は、前記抵抗算出部により算出された前記巻線の抵抗値に基づいて、前記昇温推移と前記下降推移を取得してもよい。このような構成では、上昇推移のための第1電圧印加は、その上昇推移に関連する巻線の抵抗値を測定するための電圧印加も兼ね、下降推移のための第2電圧印加は、その下降推移に関連する巻線の抵抗値を測定するための電圧印加も兼ねることになる。そのため、上昇推移と下降推移の測定に関し、巻線温度の変動を抑制し、より正確な巻線の抵抗値の測定が可能となる。
【0015】
また、上述までの処理装置において、前記温度推移取得部は、前記回転子が回転しない状態で前記上昇推移及び前記下降推移を取得し、前記決定部は、前記回転子が回転しない状態で取得された前記上昇推移と前記下降推移に基づいて、前記固定子温度特性モデル及び前記巻線温度特性モデルを決定してもよい。そして、前記処理装置は、前記回転子を所定の回転速度で回転させた状態で、前記巻線の温度を上昇させる第3電圧印加を行い、該巻線の温度推移である回転時上昇推移を取得する回転時温度推移取得部と、前記第3電圧印加時の電圧印加条件と、前記決定部により決定された前記固定子温度特性モデル及び前記巻線温度特性モデルとに基づいて、前記回転時上昇推移での前記巻線の収束温度を推定する推定部と、前記取得された回転時上昇推移での前記巻線の収束温度と、前記推定された巻線の収束温度とに基づいて、前記決定部により決定された前記固定子温度特性モデルを新たな固定子温度特性モデルに更新する更新部と、を更に備えてもよい。このような構成により、固定子温度特性モデルに、固定子で発生する鉄損の影響を考慮して巻線の温度推定が可能となる。なお、第3温度は、上記の第1温度と同じ温度であってもよく、また
は別の温度であってもよい。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本開示を巻線温度算出モデルの決定方法の側面からも捉えることができる。すなわち、本開示は、巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータの電子サーマルが有する、該巻線の温度を推定するための算出モデルであって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデルと、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含む固定子温度特性モデルと、を含む算出モデルを決定する方法である。当該方法は、前記巻線の温度を第1温度に上昇させるための第1電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移を取得するステップと、前記巻線の温度が前記第1温度に収束後、該第1温度より低い第2温度に降下させるための第2電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の下降推移を取得するステップと、前記下降推移に基づいて前記固定子関連パラメータを算出して前記固定子温度特性モデルを決定するステップと、前記上昇推移と前記決定された固定子温度特性モデルとに基づいて前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定するステップと、を含む。また、上述までの処理装置に関し開示された技術思想は、技術的な齟齬が生じない限りにおいて、上記巻線温度算出モデルの決定方法に適用することができる。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本開示を巻線温度算出モデルの決定プログラムの側
面からも捉えることができる。すなわち、本開示は、巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータの電子サーマルが有する、該巻線の温度を推定するための算出モデルであって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデルと、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含む固定子温度特性モデルと、を含む算出モデルを決定するように構成された処理装置に、前記巻線の温度を第1温度に上昇させるための第1電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移を取得するステップと、前記巻線の温度が前記第1温度に収束後、該第1温度より低い第2温度に降下させるための第2電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の下降推移を取得するステップと、前記下降推移に基づいて前記固定子関連パラメータを算出して前記固定子温度特性モデルを決定するステップと、前記上昇推移と前記決定された固定子温度特性モデルとに基づいて前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定するステップと、を実行させる巻線温度算出モデルの決定プログラムである。また、上述までの処理装置に関し開示された技術思想は、技術的な齟齬が生じない限りにおいて、上記巻線温度算出モデルの決定プログラムに適用することができる。
【0018】
また、本開示は、巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータの電子サーマルが有する、該巻線の温度を推定するための算出モデルであって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデルと、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含む既知の固定子温度特性モデルと、を含む算出モデルを決定する処理装置であって、前記巻線の温度を第1温度に上昇させるための第1電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度が該第1温度に収束するまでの上昇推移を取得する温度推移取得部と、前記上昇推移と前記既知の固定子温度特性モデルとに基づいて前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定する、決定部と、を備える。
【発明の効果】
【0019】
モータの電子サーマルに関し、巻線の温度推定を正確に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<適用例>
電子サーマルを有するモータにおいて当該電子サーマルにおいてモータ巻線の温度を推定するためのモデルパラメータの調整を行う処理装置の一例について、
図1及び
図2に基づいて説明する。なお、本開示の実施形態においては、モータは、その固定子に巻線が巻
かれるとともに回転子を有する構成であればよく、その具体的な構成は特定のものに限定されない。ここで、
図1は、モータの電子サーマルが有する、巻線温度を算出するための算出モデル100の概略構造を示している。また、
図2は、
図1に示す算出モデルで使用される算出用パラメータ、すなわち巻線関連パラメータ及び固定子関連パラメータを決定する際に、モータに印加され電圧推移、及びその際の巻線温度の推移を示す図である。
【0022】
図1に基づいて、電子サーマルが有する算出モデル100について説明する。算出モデル100は、モータの電子サーマルにおいて当該モータの巻線温度を算出するプログラムであり、その入力として当該モータにおける熱流が与えられると、当該モータの巻線温度を出力する。なお、当該熱流は、モータの巻線コイルの電気抵抗に起因して生じる、いわゆる銅損とみなすことができ、巻線コイルを流れる電流の二乗に比例する。そして、
図1に示すように、算出モデル100は、自身を構成するサブのモデルとして巻線温度特性モデル101と固定子温度特性モデル102とを含む。巻線温度特性モデル101は、モータにおいて仮想的に固定子の熱的影響を除いたときの、巻線の温度特性を算出するためのモデルであり、固定子温度特性モデル102は、モータにおいて仮想的に巻線の熱的影響を除いたときの、固定子の温度特性を算出するためのモデルである。このように算出モデル100が両モデルを含み、更に
図1に示すように各モデルの出力の和がモータの巻線温度として算出されることで、固定子と巻線との相関が考慮された上でモータの巻線温度が算出される構成となっている。
【0023】
ここで、巻線温度特性モデル101について説明する。巻線温度特性モデル101は、巻線の温度特性に関連するパラメータ(巻線関連パラメータ)である巻線に関する熱抵抗Raや熱時定数Taを含んで、下記の式1で表される。なお、熱抵抗Raは、熱の伝えにくさを表す値で、単位時間で発生する熱量あたりの温度上昇量を意味するパラメータである。本実施形態では、モータの巻線を熱的に均質な物体として捉えたときの熱抵抗が採用される。また、熱時定数Taは、巻線の温度変化に対する応答性の度合いを表すパラメータであり、巻線が初期の熱平衡状態から別の熱平衡状態に遷移する際に、その温度差の63.2%変化するのに要する時間として定義される。
巻線温度特性モデル = Ra/(Ta・s+1) ・・・(式1)
【0024】
次に、固定子温度特性モデル102について説明する。固定子温度特性モデル102は、固定子の温度特性に関連するパラメータ(固定子関連パラメータ)である固定子に関する熱抵抗Rbや熱時定数Tbを含んで、下記の式2で表される。なお、熱抵抗Rbの定義は上記の熱抵抗Raの定義と同じであり、本実施形態では、モータの固定子を熱的に均質な物体として捉えたときの熱抵抗が採用される。また、熱時定数Tbは、固定子の温度変化に対する応答性の度合いを表すパラメータであり、上記の熱時定数Taの定義と同じである。
固定子温度特性モデル = Rb/(Tb・s+1) ・・・(式2)
【0025】
そして、算出モデル100においては、入力(モータにおける熱流)が、巻線温度特性モデル101及び固定子温度特性モデル102に引き渡される。そして、各モデルの出力が加算されて、算出モデルの出力、すなわちモータ巻線の推定温度とされる。なお、各モデルの出力の加算の際に、各モデルの出力に対して所定のゲインを乗じた値を加算するようにしてもよい。このように算出モデル100が構成されることで、モータの巻線温度が固定子と巻線との相関を考慮して推定されることになる。
【0026】
次に、
図2に基づいて、巻線温度特性モデル101で使用される熱抵抗Ra及び熱時定数Taの算出、及び固定子温度特性モデル102で使用される熱抵抗Rb及び熱時定数Tbの算出について説明する。なお、これらのパラメータRa、Rb、Ta、Tbを総じてモデルパラメータとも称する。
図2の上段に示す印加電圧の推移では、時刻T1〜T2の
期間においては、巻線温度を初期の平衡状態の温度t0から第1温度t1となる平衡状態まで上昇させるための、モータへの電圧印加である第1電圧印加が行われている。この時刻T1〜T2の期間ではモータの巻線温度が
図2の下段に示すように上昇するため、当該期間の巻線温度推移を「上昇推移」と称する。第1電圧印加時にはモータの回転子が回転しないようにd軸のみに電流が流れるように、電圧V1が印加される。このときの印加電圧V1は、上記モデルパラメータの算出に好適となるようにモータ温度を上昇させる印加電圧であればよく、例えば、モータの定格電力に対応する電圧とすることができる。
【0027】
更に、
図2の上段に示す印加電圧の推移において、巻線温度が第1温度に収束した時刻T2以降の、時刻T2〜T3の期間においては、巻線温度を第1温度t1の平衡状態から第2温度t2となる平衡状態まで下降させるための、モータへの電圧印加である第2電圧印加が行われている。この時刻T2〜T3の期間ではモータの巻線温度が
図2の下段に示すように下降するため、当該期間の巻線温度推移を「下降推移」と称する。
図2に示す実施形態での第2電圧印加時の電圧はV2とされ、モータ2の巻線温度を顕著に降下させる観点から電圧V2は可及的に小さい方がよい。また、第2電圧印加では、モータへの電圧印加が実質的に行われていなくてもよい、すなわち電圧V2が0Vでもよい。このように電圧印加を行わない形態、換言すれば印加電圧を0Vとする電圧印加の形態も、第2電圧印加には含まれる。第2電圧印加時にもモータの回転子が回転しないように電圧印加が行われる。
【0028】
そして、Ra、Rb、Ta、Tbのモデルパラメータは、時刻T1〜T2の上昇推移及び時刻T2〜T3の下降推移に基づいて算出される。モータにおいて巻線の熱容量は固定子の熱容量よりも十分に小さいと考えることができるため、モータへの投入電力が比較的少ない下降推移では巻線の熱的影響は無視することができる。そのため、当該下降推移では、固定子の熱的影響が支配的であると考えることが妥当である。そこで、下降推移に基づいて固定子の温度特性に関連する熱抵抗Rb及び熱時定数Tbが算出される。具体的には、巻線温度がT1から温度差T2−T1の63.2%分下降するのに要した時間を熱時定数Tbとする。また、温度差T2−T1、及びそのときの投入電力等に基づいて熱抵抗Rbが算出される。
【0029】
ここで、上昇推移では巻線の温度推移は、巻線自身の熱的特性と固定子の熱的特性とが相関し合った結果に形成されたものと考えることができる。そこで、上昇推移に基づいて固定子と巻線を一体としてみなした場合の温度特性に関連する熱抵抗R’及び熱時定数T’が算出され、それぞれから既に算出されている固定子に関連する熱抵抗Rb、熱時定数Tbの影響分が除かれることで、巻線の温度特性に関連する熱抵抗Ra及び熱時定数Taが算出される。
【0030】
このように算出されたモデルパラメータを用いて巻線温度特性モデル101と固定子温度特性モデル102とを形成し、そして両モデルを含む算出モデル100を決定する。このように決定された算出モデル100を用いることで、モータの巻線温度をその固定子と巻線との相関を考慮して推定することが可能となる。
【0031】
<第1の実施例>
図3は、本実施形態の処理装置としても作動するサーボドライバ4を含む制御システムの概略構成図である。当該制御システムは、ネットワーク1と、モータ2と、負荷装置3と、サーボドライバ4と、標準PLC(Programmable Logic Controller)5とを備える。
当該制御システムは、モータ2とともに負荷装置3を駆動制御するためのシステムである。そして、モータ2及び負荷装置3が、当該制御システムによって制御される制御対象6とされる。ここで、負荷装置3としては、各種の機械装置(例えば、産業用ロボットのアームや搬送装置)が例示できる。また、モータ2はその負荷装置3を駆動するアクチュエ
ータとして負荷装置3内に組み込まれている。例えば、モータ2は、巻線が巻かれた固定子(ステータ)と回転子を有するACサーボモータである。なお、モータ2には図示しないエンコーダが取り付けられており、当該エンコーダによりモータ2の動作に関するパラメータ信号がサーボドライバ4にフィードバック送信されている。このフィードバック送信されるパラメータ信号(以下、フィードバック信号という)は、たとえばモータ2の回転軸の回転位置(角度)についての位置情報、その回転軸の回転速度の情報等を含む。
【0032】
サーボドライバ4は、ネットワーク1を介して標準PLC5からモータ2の動作(モーション)に関する動作指令信号を受けるとともに、モータ2に接続されているエンコーダから出力されたフィードバック信号を受ける。サーボドライバ4は、標準PLC5からの動作指令信号およびエンコーダからのフィードバック信号に基づいて、モータ2の駆動に関するサーボ制御、すなわち、モータ2の動作に関する指令値を算出するとともに、モータ2の動作がその指令値に追従するように、モータ2に駆動電流を供給する。なお、この供給電流は、交流電源7からサーボドライバ4に対して送られる交流電力が利用される。本実施例では、サーボドライバ4は三相交流を受けるタイプのものであるが、単相交流を受けるタイプのものでもよい。なお、サーボドライバ4によるサーボ制御については、サーボドライバ4が有する位置制御器41、速度制御器42、電流制御器43を利用したフィードバック制御であり、その詳細については
図2に基づいて後述する。
【0033】
ここで、
図3に示すように、サーボドライバ4は、位置制御器41、速度制御器42、電流制御器43を備え、これらの処理により上記サーボ制御が実行される。また、サーボドライバ4は、モータ2を過負荷による損傷から保護するために電子サーマル部150(
図4を参照)を有している。この電子サーマル部150は、モータ2の巻線温度を推定し、その推定温度に基づいてモータ2の過負荷状態を判断する。そこで、
図4に示す、サーボドライバ4に形成される制御構造に基づいて、サーボドライバ4による上記サーボ制御及び電子サーマル部150によるモータ2の保護制御の説明を行う。当該制御構造は、所定の演算装置及び記メモリ等を有するサーボドライバ4において所定の制御プログラムが実行されることで形成される。
【0034】
位置制御器41は、例えば、比例制御(P制御)を行う。具体的には、標準PLC5から通知された位置指令と検出位置との偏差である位置偏差に、位置比例ゲインKppを乗ずることにより速度指令を算出する。なお、位置制御器41は、予め制御パラメータとして、位置比例ゲインKppを有している。次に、速度制御器42は、例えば、比例積分制御(PI制御)を行う。具体的には、位置制御器41により算出された速度指令と検出速度との偏差である速度偏差の積分量に速度積分ゲインKviを乗じ、その算出結果と当該速度偏差の和に速度比例ゲインKvpを乗ずることにより、トルク指令を算出する。なお、速度制御器42は、予め制御パラメータとして、速度積分ゲインKviと速度比例ゲインKvpを有している。また、速度制御器42はPI制御に代えてP制御を行ってもよい。この場合には、速度制御器42は、予め制御パラメータとして、速度比例ゲインKvpを有することになる。次に、電流制御器43は、速度制御器42により算出されたトルク指令に基づいてアンプ44を駆動するための指令電圧を生成する。生成された指令電圧に応じてアンプ44がモータ2を駆動するための駆動電流を出力し、それによりモータ2が駆動制御される。電流制御器43は、トルク指令に関するフィルタ(1次のローパスフィルタ)や一又は複数のノッチフィルタを含み、制御パラメータとして、これらのフィルタの性能に関するカットオフ周波数等を有している。
【0035】
そして、サーボドライバ4の制御構造は、速度制御器42、電流制御器43、制御対象6を前向き要素とする速度フィードバック系を含み、更に、当該速度フィードバック系と位置制御器41を前向き要素とする位置フィードバック系を含んでいる。このように構成される制御構造によって、サーボドライバ4は標準PLC5から供給される位置指令に追
従するようにモータ2をサーボ制御することが可能となる。
【0036】
このようにモータ2がサーボ制御される際に、モータ2に対して過大な負荷(例えば、モータ2の定格負荷を超える負荷)が比較的長時間掛けられると、モータ2の巻線に対して過大な電流が長時間流れることになるため、巻線温度が過度に上昇し、その焼損を招く恐れがある。このようなモータ2の過負荷状態での駆動を回避するために、サーボドライバ4は電子サーマル部150を有している。具体的には、電子サーマル部150は、
図1に示す算出モデル100と、過負荷判定部110を有している。上記の通り、算出モデル100は、巻線温度特性モデル101と固定子温度特性モデル102を含み、モータ2における熱流が入力として与えられると、その結果モータ2の巻線が収束し得る巻線温度を出力する。そして、過負荷判定部110は、算出モデル100の出力である巻線温度に基づいて、モータ2が過負荷状態に至る可能性があるか、換言するとモータ2の巻線が過度に昇温するおそれがあるかについて判定を行う。なお、過負荷判定部110によりモータ2が過負荷状態に置かれていると判定された場合には、サーボドライバ4は、モータ2を保護するためにその駆動を停止することができる。
【0037】
ここで、電子サーマル部150が有する算出モデル100をサーボドライバ4の制御対象とされるモータ2に適合させるための制御構造について、
図5に基づいて説明する。サーボドライバ4は、算出モデル100のモータ2への適合のためにモデル適合部200を有する。モデル適合部200は、モータ2に対応する算出モデル100のモデルパラメータ、すなわちモータ2に対応する、巻線温度特性モデル101の熱抵抗Ra及び熱時定数Taと、固定子温度特性モデル102の熱抵抗Rb及び熱時定数Tbとを算出し、それらを用いて算出モデル100をモータ2に適合させる。なお、算出モデル100の適合時には、
図4に示した電流制御器43及びアンプ44は利用されるが位置制御器41及び速度制御器42は利用されないため、
図5においては位置制御器41及び速度制御器42の記載は省略している。
【0038】
ここで、モデル適合部200は、印加制御部210、温度推移取得部220、決定部230を有している。印加制御部210は、算出モデル100のモデルパラメータを算出するための電圧印加、すなわち
図2の上段に示した第1電圧印加及び第2電圧印加を行うた
めの指令を電流制御器43に対して出力する。なお、印加制御部210による電圧印加は、後述する温度推移取得部220により取得されるモータ2の巻線温度やその他のパラメータを利用することで、モデルパラメータの算出に適するように制御される。
【0039】
温度推移取得部220は、モータ2の巻線抵抗値に基づいて、算出モデル100の適合時における巻線温度の推移、すなわち
図3の下段に示した上昇推移及び下降推移を取得する。当該巻線温度の取得は、下記の式3に従って行われる。
巻線温度θ2=R2/R1・(234.5+θ1)−234.5 ・・・(式3)
R1は、電圧印加開始時(
図2における時刻T1)の巻線抵抗値である。
θ1は、電圧印加開始時の巻線温度である。例えば、モータ2の周囲環境の大気温度(サーボドライバ4で取得可能な場合)やモータ2に取り付けられているエンコーダが有する温度センサの検出値を、θ1として利用できる。
R2は、電圧印加時における巻線抵抗値である。なお、巻線抵抗値R2の取得については、後述する。
温度推移取得部220は、印加制御部210による電圧印加と同時に、式3に従ってその際のモータ2の巻線温度を随時取得していく。
【0040】
決定部230は、温度推移取得部220により取得された上昇推移及び下降推移に基づいて、モータ2に対応する、巻線温度特性モデル101の熱抵抗Ra及び熱時定数Taと、固定子温度特性モデル102の熱抵抗Rb及び熱時定数Tbとを算出する。これらのモ
デルパラメータの算出については、上述の通りである。更に、決定部230は、算出されたモデルパラメータを、算出モデル100の巻線温度特性モデル101と固定子温度特性モデル102に適用し各モデルを決定する。この結果、
図1に示した電子サーマル部150のための算出モデル100は、サーボドライバ4によって制御されるモータ2そのものに適合されることになる。
【0041】
ここで、モデル適合部200による算出モデル100の適合方法について、
図6に基づいて説明する。
図6は、モデル適合部200による算出モデル100の適合方法の流れを示すフローチャートである。先ず、S101では、印加制御部210による第1電圧印加を開始する直前に、モータ2の巻線抵抗値(式3におけるR1)とその巻線温度(式3におけるθ1)を取得する初期化処理を行う。巻線抵抗値は、モータの端子間に測定用の電圧を印加しその際の電流値に基づいて算出される。また、この初期化処理における巻線温度は、モータ2が周囲環境に十分に長く置かれていることをもって、その巻線温度は外気温度と同程度と考えることができる。そこで、外気温度やモータ2に設置されているエンコーダ内の温度センサの検出温度が、初期化処理における巻線温度として取得される。
【0042】
次に、S102では、印加制御部210により第1電圧印加を行いながら、温度推移取得部220によりモータ2の巻線温度の上昇推移を取得する。ここで、第1電圧印加によって巻線温度が上昇している際に、別途、抵抗値算出のための電圧印加を行おうとすると、第1電圧印加による昇温制御が阻害されることになる。第1電圧印加では、モータ2の巻線温度を第1温度t1まで上昇させる必要があるため、抵抗値算出の度にその昇温が乱されてしまうと、モデルパラメータ(熱抵抗や熱時定数)を好適に算出しにくくなる。そこで、本実施形態では、第1電圧印加においては周期的な電圧印加を行いその電圧印加により巻線温度を上昇させると同時に、その電圧印加をモータ2への入力としその巻線を流れる電流を出力としたときに、当該電圧印加に対する電流の周波数応答を利用してモータ2の巻線抵抗値の算出を行う。
【0043】
具体的には、
図7の上段に示すように第1電圧印加では、印加期間(T1〜T2)において周期的な正弦波電圧を印加する。このとき、当該正弦波電圧の実効値(二乗平均値)が、
図2に示した電圧V1となる。このように第1電圧印加として周期的な正弦波電圧を印加することで、モータ2の巻線温度を第1温度t1に上昇させることができる。ここで、周期的な電圧印加が行われているときに、その印加電圧値と、モータ2の巻線に流れる電流値とが温度推移取得部220によって、それぞれ入力値、出力値として取得される。この入力値に対する出力値の周波数応答は、下記の式4で示すモータ2の電気的特性を反映するものである。
モータ2の電気的特性:(1/R)・(1/(Ts+1)) ・・・(式4)
ただし、Rはモータ2の巻線抵抗、Tはモータ2の電気的時定数である。
【0044】
そこで、温度推移取得部220は、上記出力値の周波数応答を算出し、それに基づいて得られるゲインG(ω)及び位相P(ω)を利用して、更にモータ2の巻線抵抗Rを下記の式5に従って算出する。
【数1】
・・・(式5)
更に、温度推移取得部220は、式5で算出された巻線抵抗Rを式3におけるR2に代
入して、周波数応答を取得した時点での巻線温度(式3におけるθ2)を算出する。
【0045】
このように温度推移取得部220は、第1電圧印加時のモータ2の巻線を流れる電流の周波数応答を利用することで、モータ2の昇温処理(第1温度t1まで巻線温度を上昇させる処理)を阻害することなく、その巻線抵抗値を利用して巻線温度の上昇推移を取得することができる。なお、温度推移取得部220による巻線温度の上昇推移の取得タイミング、すなわち上記周波数応答の取得タイミングは、モデルパラメータを算出可能な程度に上昇推移が取得できる範囲で適宜設定されればよい。
【0046】
なお、
図7の上段に示す例では、印加期間において連続的に正弦波電圧を印加しているが、モータ2の巻線温度が第1温度t1の平衡状態に収束できれば正弦波電圧を断続的に印加するようにしてもよい。このとき、印加期間における断続的な正弦波電圧の二乗平均値が電圧V1となる。また、第1電圧印加での印加電圧の周期は、巻線抵抗値を算出するために適切な周波数応答が取得限りにおいて適宜決定すればよい。印加電圧の周期が長くなり過ぎると電圧印加により巻線温度が急変しやすくなり、一方で、印加電圧の周期が短くなり過ぎるとモータ2の電気的特性を周波数応答に好適に反映することが難しくなる。そこで、印加する正弦波電圧の周波数を、例えば、モータ2の電気的時定数の逆数に相当する周波数の1/3〜3倍、好ましくは1/2〜2倍、より好ましくは等倍の周波数に設定する。これによりモータ2の温度調整と温度取得とをバランスよく実現できる。
【0047】
次にS103では温度推移取得部220によって取得されたモータ2の巻線温度が第1温度t1に収束したか否かが判定される。例えば、当該モータ2の巻線温度の上昇変化率が所定の閾値以下となったときに、その上昇が収束したと判定されてもよい。上昇変化率は、単位時間当たりの巻線温度の上昇量と定義できる。また、当該閾値は、予め決められた固定値であってもよく、別法として、第1電圧印加開始直後の巻線温度の上昇変化率、すなわち印加期間において最も上昇変化率が高くなると考えられるときの上昇変化率を基準として決定してもよく、例えばその最大と想定される上昇変化率の1/10の値を当該
閾値として利用してもよい。S103で肯定判定されればS104へ進み、否定判定されれば巻線温度は第1温度t1に収束していないことから第1電圧印加を継続すべく、S102以降の処理が繰り返される。
【0048】
次に、S104では、印加制御部210により第2電圧印加を行いながら、温度推移取得部220によりモータ2の巻線温度の下降推移を取得する。なお、第2電圧印加においても、第1電圧印加の場合と同じように、巻線温度の取得の観点から、周期的な電圧印加を行いその結果として巻線温度を下降させる。具体的には、
図7の下段に示すように第2電圧印加では、印加期間(T2〜T3)において周期的な正弦波電圧を断続的に印加する。このとき、印加期間における断続的な正弦波電圧の二乗平均値が電圧V2となる。そして、このような正弦波電圧が印加されているときの印加電圧値と、モータ2の巻線に流れる電流値とを利用して、上記S102の処理と同様に、温度推移取得部220は、電流値の周波数応答を算出する。更に、温度推移取得部220は、周波数応答から得られるゲインG(ω)及び位相P(ω)を利用して、上記式5に従ってモータ2の巻線抵抗Rを算出し、最終的には上記式3に従って第2電圧印加時の巻線温度を算出する。
【0049】
巻線抵抗値を検出するためにモータ巻線に電圧印加を行おうとすると、その印加時間が長くなると不要な巻線温度の上昇を招き、巻線温度の好適な下降推移が阻害されてしまう。しかし、上記のように周波数応答を利用することで、抵抗値取得のための電圧印加時間を短くし、巻線に投入されるエネルギー量を抑えることができるため、モータ2の下降処理(第2温度t2まで巻線温度を下降させる処理)を阻害することなく、その巻線抵抗値を利用して巻線温度の下降推移を取得することができる。また、第2電圧印加時には巻線温度を第2温度まで下降、収束させることを考慮すると、第2電圧印加では最小限の電圧
印加とすることが好ましい。すなわち、第2電圧印加時には、周波数応答に基づいた巻線温度の算出が担保される限りにおいて電圧印加を行えばよい。これによりモータ2での消費電力を可及的に抑制できる。
【0050】
次に、S105では、温度推移取得部220によって取得されたモータ2の巻線温度が第2温度t2に収束したか否かが判定される。例えば、当該モータ2の巻線温度の下降変化率が所定の閾値以下となったときに、その下降が収束したと判定されてもよい。下降変化率は、単位時間当たりの巻線温度の下降量と定義できる。また、当該閾値は、予め決められた固定値であってもよく、別法として、第2電圧印加開始直後の巻線温度の下降変化率、すなわち印加期間において最も下降変化率が高くなると考えられるときの下降変化率を基準として決定してもよく、例えばその最大と想定される下降変化率の1/10の値を
当該閾値として利用してもよい。S105で肯定判定されればS106へ進み、否定判定されれば巻線温度は第2温度t2に収束していないことから第2電圧印加を継続すべく、S104以降の処理が繰り返される。
【0051】
そして、S106では、
図1及び
図2に基づいて説明したように、S104で取得された下降推移に基づいて、固定子温度特性モデル102のモデルパラメータである熱抵抗Rbと熱時定数Tbが算出され、同モデルが決定される。更に、S107では、同じく
図1及び
図2に基づいて説明したように、S102で取得された上昇推移と、S106で算出されたモデルパラメータとに基づいて、巻線温度特性モデル101のモデルパラメータである熱抵抗Raと熱時定数Taが算出され、同モデルが決定される。
【0052】
このように
図6に示す算出モデルの適合方法によれば、サーボドライバ4によって駆動されるモータ2に適合された、好適な算出モデル100を準備することができる。これにより、モータ2が駆動される際に、電子サーマル部150によってその巻線温度が精度よく算出でき、モータ2を過負荷から好適に保護することができる。
【0053】
<変形例>
図6に示す算出モデルの適合方法では、取得された上昇推移と下降推移とに基づいて、巻線温度特性モデル101と固定子温度特性モデル102とが決定された。ところで、モータ2に関し、固定子温度特性モデル102が既知の場合には、上述した上昇推移と下降推移を取得する必要はない。このような場合には、
図6に示す算出モデルの適合方法におけるS101−S103の処理によって上昇推移を取得し、その取得された上昇推移と既知である固定子温度特性モデル102とに基づいて、巻線温度特性モデル101を決定することができる。すなわち、この場合においては、S104−S105により下降推移を取得する必要はない。なお、既知の固定子温度特性モデル102は、電子サーマル部150が保持していればよく、巻線温度特性モデル101の決定時に、保持されている既知の固定子温度特性モデル102の情報が利用される。
【0054】
<第2の実施例>
図8及び
図9に基づいて、算出モデル100の第2の適合方法について説明する。モータ2の固定子では、回転子の回転に起因する磁力の変化によって渦電流が生じることで固定子そのものが発熱する「鉄損」が顕著となる場合がある。この鉄損は、回転子の回転速度が高くなるほど大きくなり、モータ2の巻線温度に無視できない影響を及ぼす場合がある。
【0055】
そこで、本実施例では、電子サーマル部150が有する算出モデルを
図8に示す算出モデル100’とする。算出モデル100’は、
図9に示すように巻線温度特性モデル101と固定子温度特性モデル102とを含むが、その固定子温度特性モデル102の構成が、
図1に示す算出モデル100と異なる。算出モデル100’における固定子温度特性モ
デル102は、基準モデル102’と、モータ2の回転子の回転速度(rpm)を引数とする鉄損係数Krとを含む。基準モデル102’は、算出モデル100の固定子温度特性モデル102と実質的に同一のものである。鉄損係数Krは、回転子の回転速度に応じてその数値が変動し得る。算出モデル100’の固定子温度特性モデル102では、入力の熱流に(1+Kr)が乗じられたものが基準モデル102’に入力されて、固定子温度特性モデル102の出力が算出されることになる。算出モデル100’がこのような固定子温度特性モデル102を有することで、固定子の温度特性に回転子の回転に起因する鉄損を反映させることができ、過負荷保護のためのモータ2の巻線温度の推定をより好適に実現することができる。
【0056】
そこで、
図9に基づいて、算出モデル100’のモデルパラメータをモータ2に適合させるための方法について説明する。なお、
図9のフローチャートの処理のうち
図6のフローチャートの処理と実質的に同一のものについては、同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
図9のS101〜S105は、
図6のS101〜S105と同一である。そこで、本実施例ではS201以降の処理について説明する。
【0057】
S201では、第1の実施例で説明したように、S104で取得された下降推移に基づいて、固定子温度特性モデル102のモデルパラメータである熱抵抗Rbと熱時定数Tbが算出され、同モデルが暫定的に決定される。なお、ここで「暫定的な決定」とするのは、後述のS206で鉄損係数Krを決定し最終的に固定子温度特性モデル102を決定することに依る。したがって、S201の時点では、鉄損係数Krは「0」とされる。続いて、S202は、第1の実施例のS107と実質的に同一の処理である。すなわち、S202では、S102で取得された上昇推移と、S201で算出されたモデルパラメータとに基づいて、巻線温度特性モデル101のモデルパラメータである熱抵抗Raと熱時定数Taが算出され、同モデルが決定される。巻線温度特性モデル101については、固定子温度特性モデル102と異なり後に更新処理されないため、暫定的な決定ではなく最終的な決定となる。
【0058】
次に、S203では、印加制御部210により第3電圧印加を行いながら、温度推移取得部220によりモータ2の巻線温度の上昇推移を取得する。この第3電圧印加においても、第1電圧印加と同じように周期的な電圧印加を行いその電圧印加により巻線温度を上昇させる。なお、第3電圧印加では、d軸だけではなくq軸にも駆動電流が流されることで、モータ2の回転子は所定の回転速度で回転した状態、すなわち回転昇温状態となる。したがって、第3電圧印加時には、モータ2の巻線温度が上昇されるとともに固定子も鉄損によって昇温していき、このときの巻線温度の推移は、回転時上昇推移とされる。また、第3電圧印加での印加電圧は、第1電圧印加での印加電圧V1と同じ電圧であってもよく、または異なる電圧であってもよい。更に、第3電圧印加時には、第1電圧印加時と同じように、電圧印加をモータ2への入力としその巻線を流れる電流を出力としたときに、当該電圧印加に対する電流の周波数応答を利用してモータ2の巻線抵抗値の算出を行う。
【0059】
次に、S204では、第3電圧印加時において温度推移取得部220によって取得されたモータ2の巻線温度が第3温度t3に収束したか否かが判定される。例えば、当該モータ2の巻線温度の上昇変化率が所定の閾値以下となったときに、その上昇が収束したと判定されてもよい。S204で肯定判定されるとS205へ進み、否定判定されるとS203以降の処理が繰り返される。
【0060】
S205では、S201で暫定的に決定された固定子温度特性モデルとS202で決定された巻線温度特性モデルとを含んで形成される暫定的な算出モデルに基づいて、第3電圧印加が行われることで到達し収束すると想定されるモータ2の巻線温度が推定される。具体的には第3電圧印加時の印加電流に基づきその際の熱流を算出し、その熱流を暫定的
な算出モデルに入力することで、当該推定が行われる。
【0061】
このようにS205で推定された巻線温度は、固定子での鉄損を考慮しない算出モデルに従って算出された巻線温度と言うことができる。一方で、第3電圧印加によって上昇した巻線の収束温度(第3温度)は、固定子での鉄損が反映された巻線温度と言うことができる。したがって、S205で推定された巻線温度と第3温度との差は、固定子の鉄損による巻線への影響と考えることができる。そこで、S206では、S205で推定された巻線温度と第3温度との差をΔTとしたときに、鉄損係数Krを下記の式6に従って算出する。
Kr = ΔT/(ω・Rb) ・・・(式6)
ただし、ωは、第3電圧印加時の所定の回転速度である。
【0062】
このように式6に従って鉄損係数Krが算出され、その鉄損係数Krが
図8に示す算出モデル100’の固定子温度特性モデル102に反映されることで、S210で暫定的に決定されていた固定子温度特性モデル102が更新される。この結果、固定子温度特性モデル102に固定子の鉄損が反映されることになり、以て、モータ2の巻線温度をより好適に推定し、電子サーマル部150によるモータ2の過負荷保護を好適に実現できる。
【0063】
なお、モータ2の固定子における鉄損は回転子の回転速度に依存するが、その依存の程度は固定子の積層電磁鋼板の諸元や回転子の磁力等により大きく変動する。回転子の回転範囲において鉄損がその回転速度に対して大きく変動する場合には、複数の回転速度に応じてS203〜S206の処理を行い、各回転速度に応じた複数の鉄損係数Krを含むように固定子温度特性モデル102を更新してもよい。この場合、固定子温度特性モデル102に入力される回転速度に基づいて鉄損係数Krの値が変動するように、鉄損係数Krは回転速度の関数として構成される。
【0064】
<その他の実施例>
上述までの実施例においては、モデル適合部200はサーボドライバ4に形成されているが、その態様に代えて、サーボドライバ4に対して電気的に接続可能な処理装置(例えば、PC(パーソナルコンピュータ)等)内に形成されてもよい。当該処理装置は、算出モデルをモータ2に適合させるための装置であり、適合用のソフトウェア(プログラム)が搭載されている。具体的には、当該処理装置は、演算装置やメモリ等を有するコンピュータであり、そこで実行可能なプログラムがインストールされ、それが実行されることで
図6や
図9に記載の算出モデルの適合方法が実現される。
【0065】
上述した本実施形態に記載されている構成の寸法、材質、形状、その相対配置や記載の方法に含まれる各処理の順序等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0066】
<付記>
巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータ(2)の電子サーマル(150)が有する、該巻線の温度を推定するための算出モデル(100)であって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデル(101)と、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含む固定子温度特性モデル(102)と、を含む算出モデル(100)を決定する処理装置(4)であって、
前記巻線の温度を第1温度に上昇させるための第1電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移を取得し(S102)、更に、該巻線の温度が該第1温度に収束後、該第1温度より低い第2温度に降下させるための第2電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の下降推移を取得する(S104)温度推移取得部(220)と、
前記下降推移に基づいて前記固定子関連パラメータを算出して前記固定子温度特性モデ
ルを決定し(S106)、更に前記上昇推移と該決定された該固定子温度特性モデルとに基づいて前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定する(S107)、決定部(230)と、
を備える、処理装置。
【0067】
巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータ(2)の電子サーマル(150)が有する、該巻線の温度を推定するための算出モデル(100)であって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデル(101)と、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含む固定子温度特性モデル(102)と、を含む算出モデル(100)を決定する方法であって、
前記巻線の温度を第1温度に上昇させるための第1電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移を取得するステップ(S102)と、
前記巻線の温度が前記第1温度に収束後、該第1温度より低い第2温度に降下させるための第2電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の下降推移を取得するステップ(S104)と、
前記下降推移に基づいて前記固定子関連パラメータを算出して前記固定子温度特性モデルを決定するステップ(S106)と、
前記上昇推移と前記決定された固定子温度特性モデルとに基づいて前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定するステップ(S107)と、
を含む、巻線温度算出モデルの決定方法。
【0068】
巻線が巻かれた固定子及び回転子を有するモータ(2)の電子サーマル(150)が有する、該巻線の温度を推定するための算出モデル(100)であって、該巻線の温度特性に関連する巻線関連パラメータを含む巻線温度特性モデル(101)と、前記固定子の温度特性に関連する固定子関連パラメータを含む固定子温度特性モデル(102)と、を含む算出モデル(100)を決定するように構成された処理装置(4)に、
前記巻線の温度を第1温度に上昇させるための第1電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の上昇推移を取得するステップ(S102)と、
前記巻線の温度が前記第1温度に収束後、該第1温度より低い第2温度に降下させるための第2電圧印加を行っている状態で、該巻線の温度の下降推移を取得するステップ(S105)と、
前記下降推移に基づいて前記固定子関連パラメータを算出して前記固定子温度特性モデルを決定するステップ(S106)と、
前記上昇推移と前記決定された固定子温度特性モデルとに基づいて前記巻線関連パラメータを算出して前記巻線温度特性モデルを決定するステップ(S107)と、
を実行させる、巻線温度算出モデルの決定プログラム。