(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(b)エチレン性不飽和基含有単量体が、エチレン、プロピレン、塩素含有エチレン不飽和単量体、芳香族ビニル単量体、カルボン酸ビニル単量体、共役ジエン系単量体、エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸エステル、エチレン性不飽和モノカルボン酸、エチレン性不飽和ジカルボン酸、アルコール性水酸基含有エチレン性不飽和単量体、エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体、アルコキシ基含有エチレン性不飽和単量体、ニトリル基含有エチレン性不飽和単量体類、アミド基含有エチレン性不飽和単量体類、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体類、及びエチレン性不飽和基を2個以上有する単量体の群から選ばれる1種又は2種以上のエチレン性不飽和基含有単量体である請求項1又は2記載のエマルジョン。
(b)エチレン性不飽和基含有単量体が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、及びメタクリル酸アルキルエステルの群から選ばれる1種又は2種以上の不飽和基含有単量体である請求項1又は2記載のエマルジョン。
(c)成分が、アシルアミノ酸塩、アシルタウリン塩、脂肪酸石けん、及びアルキルリン酸塩の群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜4のいずれか1項記載のエマルジョン。
【背景技術】
【0002】
水性エマルジョン組成物よりなるコーティング剤は、昨今のVOC規制による溶剤排出規制や、環境への負荷が少ないことから、塗料分野、紙加工分野、繊維処理分野などの広範な用途において使用されている。
【0003】
従来より、コーティング剤に撥水性能を持たせるためには、シリコーン系やフッ素系のエマルジョンが用いられているが、シリコーン系やフッ素系のエマルジョンでは撥水性能は得られるが、コスト的に高価であり、また基材への密着性が劣ることが課題となっている。
【0004】
そこで、密着性の高いアクリル系やウレタン系のエマルジョンに、撥水性能を高めるシリコーン系やフッ素系エマルジョンを混合したり、共重合させることで、密着性にも撥水性にも優れたエマルジョンを開発する試みがなされている。
【0005】
例えば、特開平11−172197号公報では硬化性シリコーン水性エマルジョン及び硬化性ポリウレタン水性エマルジョンを含む混合物を紙やフィルムに被覆した例、特開2001−131461号公報ではシリコーンアクリルエマルジョン共重合体とアクリル樹脂エマルジョンを特に金属へのコーティングに使用した例が開示されている。しかしながら、やはり記載のシリコーン水性エマルジョンでは必ずしも十分な性能が得られなかった。
【0006】
さらに、特開2013−067787号公報では、皮膜形成能を有する樹脂エマルジョンとシリコーンエマルジョン組成物を混合したコーティング剤用組成物が開示されている。しかし、これらの方法では、エマルジョン乾燥後の塗膜が透明ではないため、使用する基材が限られてきたり、配合する着色料等の種類も限られてくるといった不具合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記を鑑みてなされたもので、乾燥後の皮膜が透明性を保持したまま撥水性を付与できるエマルジョン及び該エマルジョンを含有するコーティング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体とエチレン性不飽和基含有単量体とを含有する混合物を重合することによって得られるエマルジョンが、透明性及び撥水性の両特性を持つ皮膜を形成することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記のエマルジョン及びその製造方法並びにコーティング剤を提供する。
1.(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体:0.1〜
20質量%、
(b)エチレン性不飽和基含有単量体:
80〜99.9質量%
の混合物(但し、(a)、(b)両成分の合計100質量%)のエマルジョンであって、
(c)アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及びポリビニルアルコールから選ばれる1種又は2種以上の乳化安定剤
の存在下に得られることを特徴とするエマルジョン。
2.(a)長鎖アルキル変性アクリルシリコーングラフト共重合体の長鎖アルキルが、炭素数12以上のアルキル基である上記1記載のエマルジョン。
3.(b)エチレン性不飽和基含有単量体が、エチレン、プロピレン、塩素含有エチレン不飽和単量体、芳香族ビニル単量体、カルボン酸ビニル単量体、共役ジエン系単量体、エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸エステル、エチレン性不飽和モノカルボン酸、エチレン性不飽和ジカルボン酸、アルコール性水酸基含有エチレン性不飽和単量体、エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体、アルコキシ基含有エチレン性不飽和単量体、ニトリル基含有エチレン性不飽和単量体類、アミド基含有エチレン性不飽和単量体類、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体類、及びエチレン性不飽和基を2個以上有する単量体の群から選ばれる1種又は2種以上のエチレン性不飽和基含有単量体である上記1又は2記載のエマルジョン。
4.(b)エチレン性不飽和基含有単量体が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、及びメタクリル酸アルキルエステルの群から選ばれる1種又は2種以上の不飽和基含有単量体である上記1又は2記載のエマルジョン。
5.(c)成分が、アシルアミノ酸塩、アシルタウリン塩、脂肪酸石けん、及びアルキルリン酸塩の群から選ばれる1種又は2種以上である上記1〜4のいずれかに記載のエマルジョン。
6.コーティング剤用組成物に用いられる上記1〜5のいずれかに記載のエマルジョン。
7.(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体:0.1〜
20質量%を、
(b)エチレン性不飽和基含有単量体の1種又は2種以上:
80〜99.9質量%
に溶解した混合物(但し、(a)、(b)両成分の合計100質量%)100質量部に、
(c)アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及びポリビニルアルコールから選ばれる1種又は2種以上の乳化安定剤:0.1〜20質量部
を加えて乳化重合することを特徴とするエマルジョンの製造方法。
8.上記1〜6のいずれかに記載のエマルジョンをコーティング剤用組成物全体に対し、固形分量で1〜60質量%の範囲で含むことを特徴とするコーティング剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエマルジョンは、特に、コーティング剤として配合した場合、乾燥後の皮膜が透明性を維持したまま耐水性を付与することができ、コーティング剤として使用するのに有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のエマルジョンは、(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体、(b)エチレン性不飽和基含有単量体と(c)乳化安定剤の上記(a)〜(c)成分を含有する混合物を乳化重合して得られる。
【0013】
本発明に用いられる成分(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体は、製造方法は特に限定はされず、従来公知のラジカル重合等により得ることができる。例えば、(a1)炭素数12以上の高級アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルと、(a2)分子鎖の片末端にラジカル重合性基を有するジメチルポリシロキサン化合物とを主体とするラジカル重合性モノマーをラジカル重合することにより合成することができる。
【0014】
本発明の成分(a)の共重合体において、これを構成する(a1)炭素数12以上の高級アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルの含有率は30〜95モル%が好ましい。また、(a1)炭素数12以上の高級アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルにおいて、高級アルコールの炭素数は12以上であれば特に制限はないが、特に炭素数16〜22の直鎖アルキル基を含有する高級アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましい。炭素数16〜22の直鎖アルキル基を含有する高級アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルであれば、安定性が良好であり、また、ラジカル重合反応時の反応性も良い。
【0015】
上記の高級アルコールとしては、上記炭素数の範囲であればよいが、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、ヘキサデカノール、1−ヘプタデカノール、ノナデシルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられる。
【0016】
上記の(a2)分子鎖の片末端にラジカル重合性基を有するジメチルポリシロキサン化合物としては、例えば次の一般式(1)
【化1】
(但し、Xは3〜300の整数である。)
で表されるものが挙げられる。(a2)成分の含有率は、(a)成分の共重合体中、5〜70モル%であることが好ましい。
【0017】
(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体には、本発明の効果を妨げない範囲内において、上記(a1)炭素数12以上の高級アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルと、(a2)分子鎖の片末端にラジカル重合性基を有するジメチルポリシロキサン化合物とを主体とするラジカル重合性モノマーの2成分の他に、必要に応じて他のラジカル重合性モノマー、例えばスチレン、置換スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、上記(a1)以外の( メタ) アクリル酸エステル、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、アクリロニトリル等を共重合させることができる。
【0018】
(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体を製造する場合、ラジカル重合はベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等、通常のラジカル重合開始剤の存在下で行ない、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合のいずれの方法を用いても良い。本発明において、これらの重合方法の中でも、共重合体の分子量を最適範囲に調整するためには溶液重合が好ましい。
【0019】
(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体を溶液重合する際の合成溶媒としては特に限定はされないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0020】
(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体を重合する際の重合温度は、特に限定されないが、上記成分(a1)の炭素数12以上の高級アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルの融点以上である50℃〜180℃で行なうことが好ましく、更に60℃〜130℃が好ましい。この範囲であれば、ラジカル重合反応をよりスムーズに行なうことができる。
【0021】
(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体としては、長鎖アルキル基としてステアリル基を含有するKP−561Pや、ベヘニル基を含有するKP−562P(信越化学工業社製)等の市販品を使用することもできる。
【0022】
なお、(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体は、融点が15℃〜60℃であることが好ましい。
【0023】
(b)エチレン性不飽和基含有単量体としては、エチレン、プロピレン、塩化ビニル,塩化ビニリデン等の塩素含有単量体類、酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニル単量体類、スチレン,α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体類、1,3−ブタジエン,2−メチル−1,3−ブタジエン等の共役ジエン系単量体類、アクリル酸メチル,アクリル酸エチル,アクリル酸ブチル,アクリル酸2−エチルヘキシル,メタクリル酸メチル等のエチレン性不飽和モノカルボン酸エステル類、イタコン酸ジメチル,マレイン酸ジエチル,マレイン酸モノブチル,フマル酸モノエチル,フマル酸ジブチル等のエチレン性不飽和ジカルボン酸エステル類、アクリル酸,メタクリル酸,クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸類、イタコン酸,マレイン酸,フマル酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸類、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有単量体類、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアルコール性水酸基含有単量体類、メトキシエチルアクリレート等のアルコキシ基含有単量体類、アクリロニトリル等のニトリル基含有単量体類、アクリルアミド等のアミド基含有単量体類、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有単量体類、ジビニルベンゼン,アリルメタクリレート等の1分子中にエチレン性不飽和基を2個以上有する単量体等が挙げられる。
【0024】
好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、クロルスチレン等のスチレン系モノマー;t−ブチルアクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミド;並びにアクリロニトリル、メタクリロニトリルの1種又は2種以上から選択されるエチレン性不飽和基含有単量体である。より好ましくは、アクリル酸・メタクリル酸・アクリル酸アルキルエステル・メタクリル酸アルキルエステルから選ばれる1種又は2種以上の不飽和基含有単量体である。
この場合のアルキルは、炭素数1〜12のアルキルが好ましい。
【0025】
(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体と(b)エチレン性不飽和基含有単量体との配合量は、(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体:0.1〜30質量%、(b)エチレン性不飽和基含有単量体:70〜99.9質量%であり、好ましくは(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体:0.1〜20質量%、(b)エチレン性不飽和基含有単量体:80〜99.9質量%である。(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体が0.1質量%より少ないと撥水性が乾燥後の皮膜に現れず、30質量%を超えると乾燥後の皮膜が白色不透明となってコーティング剤として適さなくなる。なお、(a)、(b)成分の合計は100質量%である。
【0026】
(c)乳化安定剤は、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及びポリビニルアルコール(以下、PVAということがある。)から選ばれる1種又は2種以上である。アニオン系界面活性剤として、具体的には、ステアリン酸ナトリウムやパルミチン酸トリエタノールアミン等の脂肪酸石けん、アルキルエーテルカルボン酸及びその塩、アミノ酸と脂肪酸の縮合等のカルボン酸塩、アルキルスルホン酸、アルケンスルホン酸塩、脂肪酸エステルのスルホン酸塩、脂肪酸アミドのスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩とそのホルマリン縮合物のスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、第二級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキル及びアリルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸エステル硫酸エステル塩、脂肪酸アルキロールアミドの硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、ロート油等の硫酸エステル塩類、アルキルリン酸塩、エーテルリン酸塩、アルキルアリルエーテルリン酸塩、アミドリン酸塩、N−アシルアミノ酸系活性剤等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、プロピレングリコール脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ソルビタン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ソルビトールの脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、グリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラノリンのアルキレングリコール付加物等が挙げられる。ポリビニルアルコールとしては、500〜4,000の平均重合度を有するPVA、及び70〜98モル%、好ましくは80〜95モル%のケン化度を有するPVAが含まれる。
【0027】
好ましい乳化安定剤は、アシルアミノ酸塩、アシルタウリン塩、脂肪酸石けん及びアルキルリン酸塩、ポリビニルアルコールであり、特に好ましくは、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウム、ポリビニルアルコールである。
【0028】
(c)乳化安定剤の使用量としては、(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体と(b)エチレン性不飽和基含有単量体との混合物100質量部に対して0.1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量部である。乳化安定剤は、少なすぎると乳化ができない場合があり、あるいは極端に不安定になる場合があり、多すぎると十分に反応しない可能性がある。
【0029】
(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体、(b)エチレン性不飽和基含有単量体、及び(c)乳化安定剤を含有する混合物の重合には、公知のあらゆる乳化重合法を採用することができる。上記(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体、(b)エチレン性不飽和基含有単量体、(c)乳化安定剤及びその他の重合助剤(例えば、重合開始剤、メルカプタン類等の連鎖移動剤、炭酸ソーダ等のpH調整剤、各種消泡剤等)を初期に一括添加してもよいし、連続に添加してもよいし、その一部を重合中に連続又は分割して添加してもよい。好ましくは、(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体を、(b)エチレン性不飽和基含有単量体に溶解し、(c)乳化安定剤及びその他の重合助剤(例えば、重合開始剤、メルカプタン類等の連鎖移動剤、炭酸ソーダ等のpH調整剤、各種消泡剤等)を添加し、乳化重合する方法である。
【0030】
上記重合に用いられる重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、2,2’−ジアミジノ−2,2’−アゾプロパンジ塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物等が挙げられる。また、公知のレドックス系開始剤、例えば過硫酸カリウムと亜硫酸水素ナトリウム、過酸化水素とL−アスコルビン酸(ビタミンC)等も挙げられる。重合開始剤の使用量は、(a)長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体と(b)エチレン性不飽和基含有単量体との混合物100質量部に対して、通常は0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜2質量部である。
【0031】
上記乳化重合を行う際の重合温度は、通常50〜95℃、好ましくは60〜85℃であり、重合時間は、通常1〜40時間、好ましくは4〜10時間である。この重合は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気中で行うことが好ましい。
【0032】
得られた反応物中の固形分としては、1〜60質量%程度が好ましく、より好ましくは10〜60質量%程度であり、更に好ましくは20〜50質量%程度である。固形分が少なすぎると効果が現れず、多すぎるとエマルジョンの不安定化を招く。固形分量は水や有機溶剤によって適宜調整することができる。
【0033】
エマルジョンの粘度としては、23℃において10〜5,000mPa・sのものが好ましく、50〜1,000mPa・sのものがより好ましい。ここで、粘度はB型粘度計にて、No.1ローター、6rpmの条件にて、1分間測定したときの粘度値である。
【0034】
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定した平均粒子径は、1μm以下が好ましく、より好ましくは100〜600nmである。pHは、6〜8であることが好ましい。ガラス転移点(以下、Tgということがある。)は−50℃〜30℃付近が望ましく、より好ましくは−20℃〜0℃付近である。
【0035】
このようにして得られたエマルジョンは、乾燥後の皮膜に透明性及び撥水性を持たせることができる。このため、コーティング剤への活用が期待できる。コーティング剤として使用する際には、本発明のエマルジョンの効果を損なわない範囲で必要に応じて他の成分を含有してもよい。他の成分としては、特に限定されるものではないが、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、増粘剤、界面活性剤、造膜助剤などの有機溶剤、樹脂等が挙げられる。コーティング剤用組成物全体に対し、本発明のエマルジョンは固形分量で1〜60質量%の範囲で含むことが好ましい。
【0036】
このようにして得られた本発明のエマルジョンをコーティング剤用組成物に使用することが好適である。即ち、上記コーティング剤用組成物を基材、例えば、プラスチック(PET、PI等)、硝子(汎用ガラス、SiO
2等)、金属(Si、Cu、Fe、Ni、Co、Au、Ag、Ti、Al、Zn、Sn、Zr、それらの合金等)、木材、繊維(布、糸等)、紙、セラミック(酸化物、炭化物、窒化物等の焼成物など)などの基材の片面又は両面に塗布又は浸漬、乾燥(室温〜150℃)すると、透明性を維持し、基材の外観を損なわずに撥水性を付与することができる。
【0037】
ここで、プラスチック基材としては、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマー、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂等が使用される。プラスチック加工品としては、自動車内装材や有機ガラス、電材や建材、建築物の外装材、液晶ディスプレイ等に使用する光学フィルム、光拡散フィルム、携帯電話、家電製品等がある。乾燥させる方法としては、室温下で1〜10日間放置する方法が挙げられるが、硬化を迅速に進行させる観点から、20〜150℃の温度で、1秒〜10時間加熱する方法が好ましい。また、上記プラスチック基材が加熱によって変形や変色を引き起こしやすい材質からなるものである場合には、20〜100℃の比較的低温下で乾燥することが好ましい。
【0038】
ガラス基材としては、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等が使用される。ガラス加工品としては、建築用板ガラス、自動車等車両用ガラス、レンズ用ガラス、鏡用ガラス、ディスプレイパネル用ガラス、太陽電池モジュール用ガラス等がある。乾燥させる方法としては、室温で1〜10日程度放置したり、20〜150℃、特に60〜150℃の温度で、1秒〜10時間加熱する方法が好ましい。
木材基材としては、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、モクセイ科等の木材が使用される。木材加工品としては、木そのものを原料とする加工及び成形品、合板及び集成材及びそれらの加工及び成形品、及びそれらの組み合わせから選択されるものであってよく、例えば、建物の外装及び内装用資材を包含する住建築用資材、机などの家具類、木のおもちゃ、楽器等がある。20〜150℃、特に50〜150℃で0.5〜5時間熱風乾燥させる方法が好ましい。また、乾燥温度は120℃以下にすれば塗膜の変色を避けることができる。
【0039】
繊維基材としては、木綿、麻、リンネル、羊毛、絹、カシミヤ、石綿等の天然繊維及び、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、炭素等の化学繊維が例示される。繊維加工品としては、すべての種類の織物、編物、不織布、あるいはフィルム、紙等がある。乾燥させる方法としては、室温で10分〜数十時間放置したり、20〜150℃の温度で、0.5分〜5時間乾燥させる方法が好ましい。
【0040】
最終的に得られた組成物の粘度(23℃)は10mPa・s以上3,000mPa・s以下が好ましく、更に好ましくは20mPa・s以上2,500mPa・s以下が好ましい。なお、この粘度はB型粘度計(23±0.5℃)による値である。
また、該組成物は、pHを塩基又は酸性化合物を配合させて、pH2〜12まで、アルカリ、酸の両方の環境においても有効に活用することが可能である。
【0041】
また、基材へのコーティング方法は特に限定されないが、直接浸漬、スプレー塗装、バーコータ、ロールコータ等の方法が挙げられ、乾燥後の膜厚は透明性も考慮し、0.5〜50μm程度、更に1〜20μmが好ましい。また、浸漬により膜成形の場合には、10秒〜30分浸漬し、適宜調整しながら室温〜150℃で1秒〜10日間程度乾燥させて所望の厚さ、好ましくは0.01〜5kg/m
2になるように処理する。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0043】
[実施例1]
撹拌機、コンデンサー、温度計及び窒素ガス導入口を備えた重合容器に、脱イオン水480部を仕込み、撹拌しながら窒素置換した後、60℃に昇温した。乳化槽でメタクリル酸メチル142部、アクリル酸−2−エチルへキシル188部、メタクリル酸12部に長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体KP−561P(信越化学工業社製 アクリル酸/アクリル酸ステアリル/メタクリル酸ジメチコンコポリマー)0.68部を溶解させた。これにNIKKOL LMT(日光ケミカルズ社製 ラウロイルメチルタウリンナトリウム)1部とレオドールTWL−120(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)3部を105部の純水で溶解したものを加えホモミキサーで乳化し、乳化液を作成した。この乳化液と、ビタミンC 0.42部、硫酸第一鉄0.0006部、過酸化水素水(成分約30%)0.53部を60部の純水で溶解したものを、内温60℃に保持しながら撹拌下に5〜6時間かけて重合容器に均一に添加し、60℃で1時間反応させた。更にビタミンC 0.10部、過酸化水素水(成分約30%)0.12部を10部の純水で溶解したものを加え60℃で1時間反応させて重合を終了した。得られたエマルジョンを10%の2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール水で中性付近へ調整した。得られたエマルジョンの固形分濃度は34.1%、pH6.9であった。
【0044】
[実施例2〜4]
実施例1と同様の方法で、表1に示す組成でエマルジョンを作成した。
【0045】
[実施例5]
撹拌機、コンデンサー、温度計及び窒素ガス導入口を備えた重合容器に、脱イオン水480部を仕込み、撹拌しながら窒素置換した後、60℃に昇温した。乳化槽でメタクリル酸メチル142部、アクリル酸−2−エチルへキシル188部、メタクリル酸12部に長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体KP−562P(信越化学工業社製、アクリル酸/アクリル酸ベヘニル/メタクリル酸ジメチコンコポリマー)3部を60℃で溶解させた。これにNIKKOL LMT(日光ケミカルズ社製 ラウロイルメチルタウリンナトリウム)1部とレオドールTWL−120(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)3部を105部の純水で溶解したものを加えホモミキサーで乳化し、乳化液を作成した。この乳化液と、ビタミンC 0.42部、硫酸第一鉄0.0006部、過酸化水素水(成分約30%)0.53部を60部の純水で溶解したものを、内温60℃に保持しながら撹拌下に5〜6時間かけて重合容器に均一に添加し、60℃で1時間反応させた。更に、ビタミンC 0.10部、過酸化水素水(成分約30%)0.12部を10部の純水で溶解したものを加え60℃で1時間反応させて重合を終了した。得られたエマルジョンを10%の2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール水で中性付近へ調整した。得られたエマルジョンの固形分濃度は34.3%、pH6.9であった。
【0046】
[実施例6]
実施例5と同様の方法で、表1に示す組成でエマルジョンを作成した。
【0047】
[比較例1]
実施例1の長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体KP−561PをシリコーンレジンX−21−5037(信越化学工業社製)に変えた以外は実施例1と同様の方法でエマルジョンを作成した。
【0048】
[比較例2]
実施例1の長鎖アルキル変性アクリル−シリコーングラフト共重合体KP−561Pを加えなかった以外は実施例1と同様の方法でエマルジョンを作成した。
【0049】
[比較例3]
実施例1と同様の方法で、表1に示す組成でエマルジョンを作成した。
【0050】
[比較例4]
実施例1のNIKKOL LMTとレオドールTWL−120を加えなかった以外は実施例1と同様の方法で、反応を試みたが、重合反応しなかった。
【0051】
各実施例及び比較例で得られたエマルジョンの特性を表1に示す。なお、各測定は下記のように行った。
【0052】
〔蒸発残分(固形分濃度)測定〕
試料約1gをアルミ箔製の皿に量り取り、105〜110℃に保った乾燥器に入れ、1時間加熱後、乾燥器から取り出してデシケーターの中にて放冷し、試料の乾燥後の重さを量り、次式により蒸発残分を算出した。
【数1】
R : 蒸発残分(%)
W : 乾燥前の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
L : アルミ箔皿の質量(g)
T : 乾燥後の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
アルミ箔皿の寸法:70φ×12h(mm)
【0053】
〔B型計粘度測定方法〕
試料の液温を23±0.5℃に保持し、BM型粘度計(No.1ローター、6rpm)にて測定した。
【0054】
〔平均粒子径測定〕
試料を0.01g計量し、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA−950V2)を使用して、循環流量2、撹拌速度2の条件での平均粒子径(粒度累積分布の50%に相当する粒子径の値)を測定した。
[測定条件]
測定温度:25±1℃
溶媒:イオン交換水
【0055】
〔透明性〕
試料をガラス板に塗布し、乾燥機(40℃)で5分間乾燥(膜厚約20μm)を行った。透明性を目視にて評価した。
・評価基準 (◎:極めて良好、○:良好、△:不良、×:極めて不良)
【0056】
〔水接触角A〕
試料をガラス板に塗布し、乾燥機(40℃)で5分間乾燥(膜厚約20μm)を行い、水接触角A測定用試験片とした。
接触角は、温度23℃、湿度45%の雰囲気下で、自動接触角計CA−V(協和界面科学社製)を使用し、イオン交換水1.8μLの液滴を接触させ、接触後30秒後の接触角を測定値とした。
【0057】
〔水接触角B〕
試料をガラス板に塗布し、乾燥機(40℃)で5分間乾燥(膜厚約20μm)を行った。その後純水に1時間浸漬して界面活性剤を溶出させ、再度乾燥機(40℃)で5分間乾燥を行い、水接触角B測定用試験片とした。
接触角は、水接触角Aと同様の方法にて測定を行った。
撥水性があるためには接触角は、80°以上が好ましく、更に好ましくは85°以上がよい。
【0058】
【表1】
【0059】
上記表中の各成分の詳細は、下記のとおりである。
a−1:KP−561P(信越化学工業社製、アクリル酸/アクリル酸ステアリル/メタクリル酸ジメチコンコポリマー,アクリル系:シリコーン系〔質量比〕=55:45)
a−2:KP−562P(信越化学工業社製、アクリル酸/アクリル酸ベヘニル/メタクリル酸ジメチコンコポリマー,アクリル系:シリコーン系〔質量比〕=50:50)
a’−3:X−21−5037(信越化学工業社製、シリコーンレジン)
b−1:メタクリル酸メチル
b−2:アクリル酸−2−エチルへキシル
b−3:メタクリル酸
c−1:レオドールTWL−120(花王社製 ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)
c−2:NIKKOL LMT(日光ケミカルズ社製 ラウロイルメチルタウリンナトリウム)