(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記底付き判定ステップにおいて、前記測定用ネジが前記測定用ネジ穴に螺合している長さと、底付きが発生していないと判定できる軸力の範囲との関係を示すテーブルを参照して底付きの有無を判定する請求項1に記載の底付き判定基準設定方法。
請求項1に記載の底付き判定基準設定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記パラメータ取得ステップと、前記軸力計測ステップと、前記底付き判定ステップと、前記判定基準設定ステップと、をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている軸力計付きナットランナーは、軸力を計測するためのプローブを備えるため、通常のナットランナーと比較して部品点数およびコストが増大するという問題がある。ナットランナーの部品点数およびコストを増大させることなく底付きの発生有無を判定するためには、軸力計を備えない通常のナットランナーにおいて得られる計測値に基づくパラメータによって底付き検出ができることが好ましい。
【0006】
また、特許文献1に開示されている手法では、振動生成体によりボルトに振動を発生させ、その振動を振動検出体で検出し、その検出信号を制御装置で処理して共振振動数を算出し、ボルト軸力と対応付けることによって軸力を計測している。この場合、間接的に軸力を計測しているので、その計測結果の精度は低く、誤判定する可能性がある。
【0007】
本発明の一態様は、パラメータによる底付き判定基準を信頼性高く設定することができる底付き判定基準設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る底付き判定基準設定方法は、ネジ締めにおける底付きについて判定するための基準を設定する底付き判定基準設定方法であって、所定の深さの測定用ネジ穴を有するネジ穴部材と、前記測定用ネジ穴に螺合された測定用ネジの座面と前記ネジ穴部材との間に印加される圧縮力を計測する軸力計測装置とを備える計測システムを用いて、前記測定用ネジを前記測定用ネジ穴に螺合させる螺合ステップと、前記螺合ステップにおけるパラメータを取得するパラメータ取得ステップと、前記座面と前記ネジ穴部材との間に印加される前記測定用ネジによる軸力を前記軸力計測装置によって計測する軸力計測ステップと、前記軸力に基づいて、底付きの有無を判定する底付き判定ステップと、前記底付き判定ステップにおける判定結果と、前記パラメータ取得ステップで取得したパラメータとを照合することによって、前記パラメータによる底付き判定基準を設定する判定基準設定ステップとを含む。
【0009】
上記の構成によれば、まず、測定用ネジを測定用ネジ穴に螺合させる螺合ステップにおけるパラメータが取得される。また、測定用ネジの座面とネジ穴部材との間に印加される測定用ネジによる軸力に基づいて、底付きの有無が判定される。
【0010】
ここで、軸力は、測定用ネジの座面と前記ネジ穴部材との間に印加される圧縮力を計測することによって測定されるため、精度の高い測定を行うことができる。この精度の高い軸力測定結果に基づいて底付き判定が行われ、この判定結果と、パラメータとを照合することで、パラメータによる底付き判定基準が設定される。このように底付き判定基準が設定されたパラメータによる底付き判定は、信頼性が高いものとして評価することができる。したがって、パラメータによる底付き判定基準を信頼性高く設定することができる。
【0011】
また、本発明の一態様に係る底付き判定基準設定方法は、前記底付き判定ステップにおいて、前記測定用ネジが前記測定用ネジ穴に螺合している長さと、底付きが発生していないと判定できる軸力の範囲との関係を示すテーブルを参照して底付きの有無を判定する。
【0012】
ネジの締結による軸力は、ネジの材質および座面の摩擦係数といった条件が同じである場合、ネジがネジ穴に螺合している長さに応じて変化するものである。これに対して、上記の構成によれば、ネジがネジ穴に螺合している長さに対応した底付き判定を行うことができる。底付きが発生していないと判定できる軸力の範囲を考慮しているので、軸力のばらつきによる、底付きの有無の判定への影響を低減できる。
【0013】
また、本発明の一態様に係るプログラムは、前記パラメータ取得ステップと、前記軸力計測ステップと、前記底付き判定ステップと、前記判定基準設定ステップと、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係る底付き判定基準設定方法によれば、パラメータによる底付き判定基準を信頼性高く設定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。
【0017】
§1 適用例
図2は、被締結物102が締結用ネジ101により締結物103に締結された状態の例を示す図であって、(a)は座面が被締結物102から浮いている状態、(b)は座面が被締結物102に接触している状態を示す図である。
【0018】
ネジ締めにおいて、誤って本来使用するべきネジよりも長いネジを使用した場合、ネジ穴が浅い場合、およびネジ穴に異物が入り込んでいる場合などに、ネジ締めの途中でネジの先端がネジ穴の底に接触する、底付きと称される不良が発生することがある。このような不良が発生すると、ネジの先端がネジ穴の底に到達することで規定のトルクが与えられたにもかかわらず、当該ネジが十分な締結力を発揮しない状態となる。
【0019】
図2の(a)に示すように、締結用ネジ101の座面が被締結物102に接触していない状態であれば、座面と被締結物Wとの間の距離dを測定可能である。このように、距離dが測定可能であれば、底付きが発生していることを判定できる。一方で、
図2の(b)に示すように、締結用ネジS0の座面が被締結物Wに接触していない状態であっても、底付きが発生していることがある。しかしながら、
図2に示す状態では、距離dによっては底付きの有無を判定できない。
【0020】
図3の(a)および(b)は、本実施形態に係る底付き判定基準設定方法の概略を説明するための図である。本実施形態では、
図3の(a)に示すように、締結用ネジ101が締結物103に対して長さLだけ螺合し、締結物103に被締結物102を締結させた状態における、締結用ネジ101の軸力を測定する。しかしながら、実際に締結用ネジ101が締結物103に被締結物102を締結させた状態では、軸力を測定するために超音波センサなどの高価な装置を用いる必要がある。また、超音波センサは軸力を直接測定するものではないため、測定精度が低くなる虞がある。
【0021】
本実施形態では、
図3の(b)に示すように、測定用ネジ11によりネジ穴部材13に被締結物102を締結させた状態における軸力を、被締結物102とネジ穴部材13との間に配したロードセル14(軸力計測装置)により測定する。ネジ穴部材13は、所定の深さの測定用ネジ穴13aを有する。ロードセル14は、測定用ネジ穴13aに螺合された測定用ネジ11の座面11aとネジ穴部材13との間に印加される圧縮力を計測する。
図3の(b)に示す方法によれば、測定用ネジ11の座面11aとネジ穴部材13との間に印加される圧縮力、すなわち軸力を直接測定できるため、精度の高い測定を行うことができる。
【0022】
図4は、4通りのネジについて、ロードセル14により軸力を測定した結果を示すグラフである。
図4に示すグラフにおいては、縦軸が軸力を示し、横幅が複数回測定した時の分布(確率密度)を示す。
図4には、左から順に以下の軸力が示されている。
【0023】
(A)十分な締結力を有することが既知である、サンプルとしての測定用ネジ11の軸力
(B)ネジ締めの結果、座面が被締結物に接触しているネジの軸力(1)
(C)ネジ締めの結果、座面が被締結物に接触しているネジの軸力(2)
(D)ネジ締めの結果、座面が被締結物に接触していないネジの軸力
本実施形態に係る底付き判定基準設定方法では、
図4に示した4種類のグラフのうち、(A)または(B)のグラフのような軸力を有するネジの軸力については底付き無しと判定する。一方、(C)または(D)のグラフのような軸力を有するネジの軸力については底付き有りと判定する。
【0024】
(B)および(C)のネジの軸力はいずれも、座面が被締結物に接触しているため、座面と被締結物との距離dによって底付きの有無を判定することはできない。しかしながら、軸力によって底付きの有無を判定することで、上述したとおり、(B)の軸力を有するネジには底付きが無く、(C)の軸力を有するネジには底付きが有ることを判定できる。
【0025】
本実施形態に係る底付き判定基準設定方法では、ネジ締めにおけるパラメータと軸力に基づいて判定される底付きの有無とを照合することによって、当該パラメータによる底付き判定基準を設定できるか否かによって、当該パラメータが底付きの有無について判定するためのパラメータとして適切であるか否かを判定するものである。
【0026】
§2 構成例
図1は、本実施形態に係る底付き判定基準設定方法を実行するための、基準設定システム1の一例を示す図である。
図1に示すように、基準設定システム1は、測定用ネジ11、被締結物102、計測システム2およびつば付きワッシャ15を備える。また、基準設定システム1は、パラメータについて基準を設定する基準設定装置(不図示)、および測定用ネジ11のネジ締めを行うネジ締め装置(不図示)をさらに備える。計測システム2は、上述したネジ穴部材13およびロードセル14を備える。
【0027】
つば付きワッシャ15は、測定用ネジ11を囲む状態で、ロードセル14の上下に配される環状の部材である。したがって、ロードセル14は、上側に配されたつば付きワッシャ15を介して被締結物102に当接し、下側に配されたつば付きワッシャ15を介してネジ穴部材13と当接する。
【0028】
測定用ネジ11は、締結用ネジ101と比較して、ロードセル14およびつば付きワッシャ15の厚さの分だけ長い。また、測定用ネジ11がネジ穴部材13に螺合する長さLは、締結用ネジ101が締結物103に螺合する長さLと等しい。したがって、測定用ネジ11のネジ締めの工程におけるパラメータ、およびネジ締め完了時の軸力は、締結用ネジ101のネジ締めの工程におけるパラメータ、およびネジ締め完了時の軸力とそれぞれ等しくなる。
【0029】
ネジ締め装置は、測定用ネジ11を測定用ネジ穴13aへ螺合させるネジ締めを行う。ネジ締め装置は、基準設定装置によって制御される。基準設定装置は、ネジ締めにおける底付きについて判定するための基準を設定する底付き判定基準設定方法を実行する。
【0030】
§3 動作例
図5は、本実施形態に係る底付き判定基準設定方法により底付き判定基準の設定を行う例を示すグラフである。
図5に示す例では、ドライバーの軸方向における位置の最大値を、基準を設定するパラメータとしている。
図5において、横軸は測定用ネジ11の座面の、被締結物102からの浮き、縦軸はネジ締め工程におけるドライバーの軸方向における位置の最大値を示す。以下の説明では、測定用ネジ11の座面の、被締結物102からの浮きについて、単に「座面の浮き」と記すことがある。また、
図5に示すグラフでは、データ点の存在する領域は、領域R1とR2とに区分されている。さらに、領域R1は領域R11とR12とに区分されている。
【0031】
領域R2は、座面の浮きが0mmよりも大きいデータ点を全て含む領域である。データ点が領域R2に含まれるネジでは、いずれも底付きが発生していた。
【0032】
領域R1は、座面の浮きが0mmであるデータ点を全て含む領域である。データ点が領域R1に含まれるネジのうち、データ点が領域R11に含まれるネジでは、いずれも底付きが発生していなかった。一方、データ点が領域R12に含まれるネジでは、いずれも底付きが発生していた。
【0033】
領域R11とR12とは、ドライバーの軸方向における位置の最大値について、閾値THを境界として区分されている。また、領域R2に含まれるデータ点も、ドライバーの軸方向における位置の最大値は全て閾値TH未満である。このため、ドライバーの軸方向における位置の最大値が閾値TH以上であるか否かによって、ネジが締結力を有するか否かを判定することができる。すなわち、基準設定装置は、ドライバーの軸方向における位置の最大値について、閾値THを底付き判定基準として設定することができる。
【0034】
基準設定装置は、ドライバーの軸方向における位置の最大値の他、当該位置の平均値または最小値についても、ネジ締めにおける軸力について判定するためのパラメータとして、本実施形態に係る底付き判定基準設定方法により底付き判定基準を設定してよい。また、基準設定装置は、ドライバーの軸方向における移動速度、回転速度または回転量の、平均値、最大値または最小値についても、ネジ締めにおける軸力について判定するためのパラメータとして底付き判定基準を設定してもよい。
【0035】
なお、パラメータの種類によっては、閾値THのような底付き判定基準を設定できない場合もある。その場合には、基準設定装置は、当該パラメータについて、ネジの底付きの有無を判定するためのパラメータとして適切でないと評価する。
【0036】
図6は、本実施形態に係る底付き判定基準設定方法における処理を示すフローチャートである。まず、基準設定装置は、ネジ締め装置により、測定用ネジ11を測定用ネジ穴13aへ螺合させる(S1、螺合ステップ)。次に、基準設定装置は、ネジ締めの工程におけるパラメータを取得する(S2、パラメータ取得ステップ)。続けて、基準設定装置は、測定用ネジ11の座面とネジ穴部材13との間に印加される、測定用ネジ11による軸力を、ロードセル14によって計測する(S3、軸力計測ステップ)。さらに、基準設定装置は、計測した軸力に基づいて、底付きの有無を判定する(S4、底付き判定ステップ)。
【0037】
その後、基準設定装置は、パラメータの取得および底付きの測定を、所定の数のネジについて実行したか否か判定する(S5)。パラメータの取得および底付きの測定を、所定の数のネジについて実行した場合(S5でYES)、基準設定装置は、底付き判定ステップにおける判定結果と、パラメータとを照合することによって、パラメータによる底付き判定基準を設定する(S6、判定基準設定ステップ)。一方、パラメータの取得および底付きの測定を、所定の数のネジについて実行していない場合(S5でNO)、基準設定装置は、別のネジについて再度ステップS1〜S4を実行する。所定の数については、基準設定装置のユーザによって、判定基準を設定する上で妥当な数を適宜設定されればよく、例えば35としてよい。
【0038】
本実施形態に係る底付き判定基準設定方法によれば、基準設定装置は、パラメータによる底付き判定基準を信頼性高く設定することができる。
【0039】
図7は、基準設定装置が参照するテーブルの例を示す図である。基準設定装置は、上述した底付き判定ステップにおいて、測定用ネジ11が測定用ネジ穴13aに螺合している長さと、底付きが発生していないと判定する軸力の範囲との関係を示すテーブルを参照して底付きの有無を判定してもよい。
図7には、測定用ネジ11が測定用ネジ穴13aに螺合している長さがL1である場合に、底付きが発生していないと判定する軸力の下限がF1であること、すなわち底付きが発生していないと判定する軸力の範囲がF1以上であることが示されている。同様に、測定用ネジ11が測定用ネジ穴13aに螺合している長さがL2である場合に、底付きが発生していないと判定する軸力の下限がF2であること、すなわち底付きが発生していないと判定する軸力の範囲がF2以上であることが示されている。
【0040】
ネジの締結による軸力は、ネジがネジ穴に螺合している長さに応じて変化する。基準設定装置は、
図7に示すようなテーブルを参照して底付きの有無を判定することで、ネジがネジ穴に螺合している長さに対応した底付き判定を行うことができる。当該テーブルにおいては、底付きが発生していないと判定できる軸力の範囲を考慮しているので、軸力のばらつきによる底付きの有無の判定への影響を低減できる。
【0041】
§4 変形例
基準設定システム1の基準設定装置は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0042】
後者の場合、基準設定システム1は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0043】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。