特許第6973356号(P6973356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973356
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】ベル型塗装装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 5/04 20060101AFI20211111BHJP
   B05B 3/10 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B05B5/04 A
   B05B3/10 B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-215793(P2018-215793)
(22)【出願日】2018年11月16日
(65)【公開番号】特開2020-81921(P2020-81921A)
(43)【公開日】2020年6月4日
【審査請求日】2021年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑山 利毅
(72)【発明者】
【氏名】有地 彰彦
【審査官】 河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−081458(JP,A)
【文献】 特開2002−301405(JP,A)
【文献】 特開2015−080766(JP,A)
【文献】 特開2012−152700(JP,A)
【文献】 特開2002−143727(JP,A)
【文献】 特開2014−079714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B1/00−3/18
5/00−5/16
7/00−9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの塗装を行うベル型塗装装置であって、
回転軸線を中心に回転するベルヘッド部と、
塗料を吐出するための吐出経路部と、
を備え、
上記ベルヘッド部は、第1ベルカップと、上記第1ベルカップに間隙を隔てて配置された第2ベルカップと、を備え、上記第2ベルカップの開口縁部における吐出口径が上記第1ベルカップの開口縁部における吐出口径を上回るように構成されており、
上記吐出経路部は、上記回転軸線に沿って延びる塗料供給管と、上記塗料供給管から上記第1ベルカップの上記開口縁部まで塗料が流れる第1流路と、上記塗料供給管から上記間隙を通じて上記第2ベルカップの上記開口縁部まで塗料が流れる第2流路と、を備える、ベル型塗装装置。
【請求項2】
上記ベルヘッド部は、上記第1ベルカップの径方向の内側に設けられたベルハブを備え、上記塗料供給管は、上記間隙の流入口よりも軸方向の前側に位置し且つ上記ベルハブの裏面に対向するように配置された噴射口を備え、上記第1流路は、上記塗料供給管の上記噴射口から噴射された塗料の一部が上記ベルハブの上記裏面に沿って径方向の外方に流れる流路であり、上記第2流路は、上記塗料供給管の上記噴射口から噴射された塗料の残部が上記第1流路から分岐して上記流入口に向けて軸方向の後方に流れる流路である、請求項1に記載のベル型塗装装置。
【請求項3】
上記ベルヘッド部は、上記第1ベルカップの径方向の内側に設けられたベルハブを備え、上記塗料供給管は、上記間隙の流入口よりも軸方向の前側に位置し且つ上記ベルハブの裏面に対向するように配置された噴射口と、上記噴射口よりも軸方向の後側に上記流入口に対向するように配置された流出口と、を備え、上記第1流路は、上記塗料供給管の上記噴射口から噴射された塗料が上記ベルハブの上記裏面に沿って径方向の外方に流れる流路であり、上記第2流路は、上記塗料供給管の上記流出口から流出した塗料が上記流入口に向けて径方向の外方に流れる流路である、請求項1に記載のベル型塗装装置。
【請求項4】
上記ベルヘッド部は、上記第1ベルカップの上記開口縁部に対して上記第2ベルカップの上記開口縁部が軸方向の後側にオフセットされるように構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のベル型塗装装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベル型塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体を塗装する中塗り、上塗りラインにおいては、高速で回転するベルを備えたベル型塗装装置(以下、単に「塗装装置」ともいう。)が使用されている。この塗装装置は、一般的に、カップ形状を有するベルカップの回転によって塗料を粒化して車体の塗装面に塗着させるように構成されている。
【0003】
このような塗装装置の一例が下記の特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示の塗装装置は、回転霧化頭を構成するベルカップの回転によって塗料を霧化させるとともに、印加電圧によって帯電した塗料を、接地された被塗装物との間の静電的な力を利用してこの被塗装物に塗着させるように構成されている。また、ベルカップの外周から被塗装物に向けてエアを噴射することによって塗料が遠心方向に広がりすぎるのを抑えて、被塗装物に塗料を均一に塗着させようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−080240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の塗装装置では、塗料の吐出能力及び塗着効率はいずれも、一般的にベルカップの吐出口径に左右されることが知られている。
【0006】
即ち、ベルカップを大径化して吐出口径を大きくするほどに塗料を微粒化できる遠心力が上がるため、塗料の吐出能力を上げることができる。ところが、ベルカップの大径化によって塗料に作用する遠心力が上がると、ベルカップの径方向の外方へ飛散する塗料の量が増えるため、塗料の塗着効率、即ち使用した塗料の量に対する塗着した塗料の量の比率が低下する。
【0007】
一方で、ベルカップを小径化して吐出口径を小さくすると、塗料に作用する遠心力が下がってベルカップの径方向の外方へ飛散する塗料の量が減るため、塗料の塗着効率は高くなる。その反面、塗料に作用する遠心力の低下によって、塗料が所望の高微粒化状態になるまで吐出能力を抑える必要がある。
【0008】
上述のように、塗料の吐出能力を上げるためにはベルカップを大径化して吐出口径を大きくするのが有利であるが、塗料の塗着効率を高めるためにはベルカップを小径化して吐出口径を小さくするのが有利である。
【0009】
そこで、例えば、塗料の塗着効率の高い小径のベルカップを用いて吐出口径を小さくしたうえで、この小径のベルカップを複数備えた塗装装置を使用したり、小径のベルカップを備えた塗装装置の数を増やしたりするという対策も考えられるが、このような対策は、装置の大型化やコストアップの要因に成り得るため好ましくない。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、塗料の吐出能力向上と塗着効率向上を両立できるベル型塗装装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、
ワークの塗装を行うベル型塗装装置であって、
回転軸線を中心に回転するベルヘッド部と、
塗料を吐出するための吐出経路部と、
を備え、
上記ベルヘッド部は、第1ベルカップと、上記第1ベルカップに間隙を隔てて配置された第2ベルカップと、を備え、上記第2ベルカップの開口縁部における吐出口径が上記第1ベルカップの開口縁部における吐出口径を上回るように構成されており、
上記吐出経路部は、上記回転軸線に沿って延びる塗料供給管と、上記塗料供給管から上記第1ベルカップの上記開口縁部まで塗料が流れる第1流路と、上記塗料供給管から上記間隙を通じて上記第2ベルカップの上記開口縁部まで塗料が流れる第2流路と、を備える、ベル型塗装装置、
にある。
【発明の効果】
【0012】
上記のベル型塗装装置によれば、ベルヘッド部が回転軸線を中心に回転した状態で吐出経路部を通じてワークに向けて塗料を供給することができる。このベルヘッド部は、吐出口径が第1ベルカップの吐出口径を上回る第2ベルカップが、第1ベルカップに間隙を隔てて配置された構造であるハイブリッド型の構造を有する。
【0013】
吐出経路部において、第1流路は、塗料供給管から第1ベルカップの開口縁部まで連通している。このため、第1流路を第1ベルカップの開口縁部まで流れた塗料は、この開口縁部から微粒化された状態で吐出される。
【0014】
一方で、第2流路は、第1流路と共用の塗料供給管から第1ベルカップと第2ベルカップとの間の間隙を通じて第2ベルカップの開口縁部まで連通している。このため、第2流路を第2ベルカップの開口縁部まで流れた塗料は、第2ベルカップの開口縁部から微粒化された状態で吐出される。
【0015】
ここで、第2ベルカップの開口縁部における吐出口径は、第1ベルカップの開口縁部における吐出口径よりも大きい。即ち、このベルヘッド部は、同軸であり且つ吐出口径が異なる少なくとも2つのベルカップを介して塗料を吐出するように構成されている。
【0016】
これにより、第1ベルカップ側では、吐出口径を相対的に小さくして塗料に作用する遠心力を下げることによって、第1ベルカップの径方向の外方へ飛散する塗料の量を減らすことができる。このため、第1ベルカップは、使用した塗料の量に対する塗着した塗料の量の比率として表される塗着効率を高めることができるという利点を有する。
【0017】
また、第2ベルカップ側では、吐出口径を相対的に大きくして塗料に作用する遠心力を上げることによって、塗料を微粒化できる能力を高めることができる。このため、第2ベルカップは、塗料の吐出能力を上げることができるという利点を有する。
【0018】
従って、上記のベルヘッド部は、第1ベルカップ及び第2ベルカップのそれぞれの利点を併せ持つ。例えば、第1ベルカップに相当するベルカップのみを有する既存の塗装装置と比べた場合には、第2ベルカップを追加したことによって塗料の吐出量を増やすことが可能になる。また、第2ベルカップに相当するベルカップのみを有する既存の塗装装置と比べた場合には、第1ベルカップを追加したことによって塗料の塗着効率を高くすることが可能になる。そして、いずれの既存の塗装装置に対しても、吐出量が同じときには塗料の高微粒子化が可能になるため塗装品質を高めることができる点で有利である。
【0019】
以上のごとく、上記の態様によれば、塗料の吐出能力向上と塗着効率向上を両立できるベル型塗装装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態1のベル型塗装装置の全体構成を示す断面図。
図2図1中のベルヘッド部を矢印A方向から視た図。
図3図1のB領域の拡大図。
図4図1のC領域の拡大図。
図5】実施形態2のベル型塗装装置の全体構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述の態様の好ましい実施形態について説明する。
【0022】
上記のベル型塗装装置において、上記ベルヘッド部は、上記第1ベルカップの径方向の内側に設けられたベルハブを備え、上記塗料供給管は、上記間隙の流入口よりも軸方向の前側に位置し且つ上記ベルハブの裏面に対向するように配置された噴射口を備え、上記第1流路は、上記塗料供給管の上記噴射口から噴射された塗料の一部が上記ベルハブの上記裏面に沿って径方向の外方に流れる流路であり、上記第2流路は、上記塗料供給管の上記噴射口から噴射された塗料の残部が上記第1流路から分岐して上記流入口に向けて軸方向の後方に流れる流路であるのが好ましい。
【0023】
このベル型塗装装置によれば、吐出経路部の第1流路では、塗料供給管の噴射口から噴射された塗料の一部がベルハブの裏面に沿って径方向の外方に流れる。一方で、吐出経路部の第2流路では、塗料供給管の噴射口から噴射された塗料の残部が第1流路から分岐して軸方向の後方に流れて間隙の流入口に流入する。この場合、塗料供給管の噴射口と間隙の流入口との間の相対的な配置関係を利用した簡単な構造によって、共用の塗料供給管から第1流路及び第2流路のそれぞれに塗料を分流させることができる。
【0024】
上記のベル型塗装装置において、上記ベルヘッド部は、上記第1ベルカップの径方向の内側に設けられたベルハブを備え、上記塗料供給管は、上記間隙の流入口よりも軸方向の前側に位置し且つ上記ベルハブの裏面に対向するように配置された噴射口と、上記噴射口よりも軸方向の後側に上記流入口に対向するように配置された流出口と、を備え、上記第1流路は、上記塗料供給管の上記噴射口から噴射された塗料が上記ベルハブの上記裏面に沿って径方向の外方に流れる流路であり、上記第2流路は、上記塗料供給管の上記流出口から流出した塗料が上記流入口に向けて径方向の外方に流れる流路であるのが好ましい。
【0025】
このベル型塗装装置によれば、吐出経路部の第1流路では、塗料供給管の噴射口から噴射された塗料がベルハブの裏面に沿って径方向の外方に流れる。一方で、吐出経路部の第2流路では、塗料供給管の流出口から流出した塗料が径方向の外方に流れて流入口に流入する。この場合、塗料供給管に設けた噴射口及び流出口を利用することによって、共用の塗料供給管から第1流路及び第2流路のそれぞれに塗料を分流させることができる。
【0026】
上記のベル型塗装装置において、上記ベルヘッド部は、上記第1ベルカップの上記開口縁部に対して上記第2ベルカップの上記開口縁部が軸方向の後側にオフセットされるように構成されているのが好ましい。
【0027】
このベル型塗装装置によれば、第1ベルカップと第2ベルカップとの間のオフセット寸法が0(ゼロ)である場合や所定の閾値を下回る場合に比べて、第1ベルカップの開口縁部で一旦微粒化した塗料と、第2ベルカップの開口縁部で一旦微粒化した塗料が互いに衝突しにくくなる。これにより、少なくとも2箇所の吐出口から吐出された塗料が再結合して粒径が大きくなったり、これらの塗料に気泡が混入したりするような不具合が発生するのを防ぐことができる。
【0028】
以下、ベル型塗装装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
なお、このベル型塗装装置の説明のための図面において、ベルヘッド部の軸方向を矢印Xで示し、ベルヘッド部の径方向を矢印Yで示している。また、ベルヘッド部が軸方向についてワークに向かう方向を「前方」とし、その逆方向を「後方」とする。
【0030】
(実施形態1)
図1に示されるように、ベル型塗装装置(以下、単に「塗装装置」という。)1は、塗装対象であるワークWの塗装を行うための装置である。このワークWとして、例えば、中塗り、上塗りラインにおいて塗装ブースに搬入されて塗装される車体が挙げられる。塗装装置1は、塗装ロボットのロボットアームに取付けられ、塗装作業時にロボットアームが予め教示された移動軌跡にしたがって動くことによってワークWの被塗装面Waに向けて配置される。
【0031】
塗装装置1は、軸方向Xに延びる回転軸線Lを中心に回転するベルヘッド部10と、このベルヘッド部10にワークWに向けて塗料Pを吐出可能に設けられた吐出経路部20と、を備えている。
【0032】
ベルヘッド部10は、このベルヘッド部10を回転駆動するエアモータ5等の駆動部とともにハウジング2に収容されている。このベルヘッド部10は、回転によって塗料Pを霧化(或いは、「微粒化」ともいう。)する機能を有するものであり、「回転霧化頭」とも称呼される。このベルヘッド部10には、外部電源に接続された電気ケーブル9を通じて通電が行われる。
【0033】
ハウジング2の外表面に近い部位には、エア供給源3に連通するエア供給路4が設けられている。このエア供給路4の流入口4aから流入したエアはエア吹出口4bから吹き出すエア、所謂「シェーピングエア」に使用される。このシェーピングエアは、塗料が遠心方向に広がりすぎるのを抑える機能を果たす。エア供給路4のエア吹出口4bは、ハウジング2の周方向に沿って等間隔で複数設けられている。
【0034】
なお、エアモータ5のスラスト方向の空気軸受、及びラジアル方向の空気軸受に使用される軸受用エアや、エアモータ5を駆動するための駆動用エアは、エア供給路4とは別の経路を通じて供給されるようになっている。
【0035】
エアモータ5は、エア駆動式のモータであり、ベルヘッド部10を回転駆動するアクチュエータとして構成されている。このエアモータ5は、回転軸線Lに沿って延びる駆動軸5aを有し、この駆動軸5aがエアモータ5の回転中心部を構成している。このエアモータ5の起動及び停止、運転時の回転数が制御部30によって制御される。
【0036】
エアモータ5の駆動軸5aは、ベルヘッド部10に固定され且つタービン6と一体化されている。このタービン6の外周面には、周方向に互いに等間隔で配置された複数の羽根6aが設けられている。このため、タービン6の複数の羽根6aにエアが供給されることによってエアモータ5の駆動軸5aが回転し、これによりベルヘッド部10が回転軸線Lを中心に回転する。
【0037】
なお、エアモータ5を構成するタービン6の詳細については、例えば実開昭60−151555号公報に開示の「タービン5」が参照される。従って、本明細書では、この公報を援用することにより、タービン6の更なる詳細な説明を省略する。
【0038】
エアモータ5の駆動軸5aには、ベルヘッド部10の回転軸線Lに沿って延びる塗料供給管8が内蔵されている。この塗料供給管8は、ベルヘッド部10を貫通して、その噴射口8aが第1ベルカップ11とベルハブ13の裏面13aとの間の対向空間Sに向かうように配置されている。具体的には、塗料供給管8は、軸方向Xの前端部が第2ベルカップ12の中央部の貫通穴12cを貫通し、且つ第1ベルカップ11の中央部の貫通穴11cに挿入されている。このため、塗料供給源管7から供給された塗料Pが、塗料供給管8の管内を軸方向Xの前方へと流れた後に、噴射口8aから対向空間Sに向けて噴射されるようになっている。
【0039】
図1及び図2に示されるように、ベルヘッド部10は、第1ベルカップ11と、第2ベルカップ12と、ベルハブ13と、を備えている。第1ベルカップ11及び第2ベルカップ12は、いずれもカップのようなカップ状(「凹状」或いは「椀状」ともいう。)のものである。第2ベルカップ12が第1ベルカップ11に被せられ、互いに一体化されている。そして、第1ベルカップ11と第2ベルカップ12との間に径方向Yの間隙Gが形成されている。
【0040】
ここで、間隙Gは、塗料Pが流通可能な空間であり、本実施形態では、第1ベルカップ11と第2ベルカップ12との間に周方向に等間隔で配置された複数の流通孔によって構成されている。
【0041】
第1ベルカップ11は、開口縁部11aを有し、軸方向Xの前方に向かうにつれて内径が漸増して開口縁部11aで内径が最大となるように構成されている。この第2ベルカップ12は、第1ベルカップ11と同様に、開口縁部12aを有し、軸方向Xの前方に向かうにつれて内径が漸増して開口縁部12aで内径が最大となるように構成されている。
【0042】
ベルヘッド部10において、第2ベルカップ12が第1ベルカップ11よりも大径のベルカップとなるように構成されている。即ち、第2ベルカップ12の開口縁部12aにおける吐出口径(図2中の吐出口径d2)が第1ベルカップ11の開口縁部11aにおける吐出口径(図2中の吐出口径d1)を上回るようになっている。
【0043】
なお、本実施形態では、ベルカップ11,12の軸方向Xの最前端部に開口縁部11a,12aが設けられているが、これに代えて、ベルカップ11,12の軸方向Xの最前端部以外に開口縁部11a,12aに相当する部位を設けることもできる。即ち、ベルカップ11,12の開口縁部11a,12aは、最終的に塗料Pを微粒化して吐出できる部位であればよく、開口縁部11a,12aを設ける位置はベルカップ11,12の軸方向Xの最前端部のみに限定されるものではない。
【0044】
ベルヘッド部10では、第1ベルカップ11が第2ベルカップ12の内側に配置され、第2ベルカップ12が第1ベルカップ11の外側に配置されている。このため、第1ベルカップ11を「インナベルカップ」或いは「インナベル」といい、第2ベルカップ12を「アウタベルカップ」或いは「アウタベル」ということもできる。
【0045】
ベルハブ13は、円板状のものであり、第1ベルカップ11の径方向Yの内側に設けられてこの第1ベルカップ11に固定されている。このベルハブ13の軸方向Xの後側の裏面13aは、中心部から外外周部まで凹んだ湾曲面になっている。このベルハブ13の外周部には、ベルハブ13を軸方向Xに貫通する複数の貫通孔13bが環状に設けられている。これら複数の貫通孔13bは、ベルハブ13の裏面13a側からワークW側へと塗料Pを誘導可能な出口開口14を構成している。
【0046】
図2に示されるように、第1ベルカップ11の開口縁部11aと第2ベルカップ12の開口縁部12aとの間には、円環状の吐出開口15が設けられている。この吐出開口15は、第1ベルカップ11と第2ベルカップ12との間の間隙Gの出口開口になっている。
【0047】
図1に示されるように、吐出経路部20は、塗料Pを吐出するためのものであり、上記の塗料供給管8と、塗料供給管8から第1ベルカップ11の開口縁部11aまで塗料Pが流れる第1流路21と、塗料供給管8から間隙Gを通じて第2ベルカップ12の開口縁部12aまで塗料Pが流れる第2流路22と、を備えている。
【0048】
第1流路21は、第1ベルカップ11とベルハブ13の裏面13aとの間の対向空間Sを利用した流路である。第2流路22は、第1ベルカップ11と第2ベルカップ12との間に形成された複数の流通孔からなる間隙Gによって構成されている。
【0049】
なお、第2流路22を構成する間隙Gを、複数の流通孔によって形成する代わりに、第1ベルカップ11の外周面と第2ベルカップ12の内周面12bとによって区画された円錐筒体形状の隙間空間によって形成してもよい。この場合、間隙Gがほぼ全周にわたって開口するようになるため、塗料Pが流れるときの抵抗を低く抑えることが可能になる。
【0050】
塗装装置1の運転時に電気ケーブル9を通じてベルヘッド部10に通電がなされると、吐出経路部20の第1流路21及び第2流路22を流れる塗料Pが印加電圧によって帯電する。帯電した塗料Pは、第1流路21に連通する出口開口14と、第2流路22に連通する吐出開口15と、のそれぞれから吐出される。
【0051】
第1流路21において出口開口14から吐出された塗料Pは、第1ベルカップ11の内周面11bに沿って液膜を形成し、第1ベルカップ11の開口縁部11aで所望の微粒化状態となって吐出される。一方で、第2流路22において第2ベルカップ12の内周面12bに沿って液膜を形成した塗料Pは、吐出開口15から吐出されるときに第2ベルカップ12の開口縁部12aで所望の微粒化状態となる。なお、第2流路22を構成する間隙Gの径方向Yの寸法は、第2ベルカップ12の内周面12bに沿って形成される液膜の厚みに所定の隙間を加算した値に設定されるのが好ましい。
【0052】
そして、微粒化した塗料Pは、接地されたワークWとの間の静電気力とエア供給路4のエア吹出口4bから吹き出すシェーピングエアとによって、一定のパターンで車体Wの塗装面Waに向けて噴射されて塗着する。
【0053】
ここで、吐出経路部20の第1流路21及び第2流路22のそれぞれにおける塗料の流れについて図1及び図3を参照しつつ説明する。
【0054】
図3に示されるように、吐出経路部20において、塗料供給管8は、間隙Gの流入口22aよりも軸方向Xの前側に位置し且つベルハブ13の裏面13aに対向するように配置された噴射口8aを備えている。このとき、塗料供給管8の噴射口8aは、第1ベルカップ11とベルハブ13の裏面13aとの間の対向空間Sに向けて配置されている。
【0055】
ここで、吐出経路部20の第1流路21は、塗料供給管8の噴射口8aから噴射された塗料Pの一部が、対向空間Sをベルハブ13の裏面13aに沿って複数の貫通孔13bに向けて径方向Yの外方に流れる流路である。このため、塗料Pの一部が複数の貫通孔13bに向けて流れる。このとき、塗料供給管8がベルヘッド部10を軸方向Xに貫通しているため、この塗料供給管8の噴射口8aから噴射された塗料Pをベルハブ13の裏面13aに沿って遠心方向(径方向Yの外方)へバランス良く流すことができる。その後、複数の貫通孔13bのそれぞれを通過した塗料Pは、第1ベルカップ11を内周面11bに沿って開口縁部11a(図1参照)まで流れる。図3では、第1流路21における塗料Pの流れを「Fa」で示している。
【0056】
一方で、吐出経路部20の第2流路22は、塗料供給管8の噴射口8aから噴射された塗料Pの残部がオーバーフローによって対向空間Sを流入口22aに向けて軸方向Xの後方に流れる流路である。このとき、塗料Pの残部は、第1流路21から分岐して塗料供給管8の外表面と第1ベルカップ11の貫通穴11cとの間の隙間を流入口22aに向けて軸方向Xの後方に流れる。このため、塗料Pの残部が隙間Gの流入口22aに流入する。その後、流入口22aから間隙Gに流入した塗料Pは、第2ベルカップ12を内周面12bに沿って開口縁部12a(図1参照)まで流れる。図3では、第2流路22における塗料Pの流れを「Fb」で示している。
【0057】
対向空間Sにおいて、複数の貫通孔13bに向けて流れることができない塗料Pのオーバーフロー分は、ベルハブ13の裏面13aにおいて噴射口8aにおける流入方向とは逆向きに反射して流れる。このため、塗料供給管8を流れる塗料Pの流量が増えると、これに伴って第2流路22に流入する塗料Pの流量も増える。
【0058】
この場合、塗料供給管8の噴射口8aと間隙Gの流入口22aとの間の相対的な配置関係を利用した簡単な構造によって、共用の塗料供給管8から第1流路21及び第2流路22のそれぞれに塗料Pを分流させることができる。
【0059】
図4に示されるように、ベルヘッド部10は、第1ベルカップ11の開口縁部11aに対して第2ベルカップ12の開口縁部12aが軸方向Xの後側にオフセットされるように構成されている。即ち、第2ベルカップ12が第1ベルカップ11に対して軸方向Xの後側のオフセット位置に配置されている。本構成を、「第2ベルカップ12の開口縁部12aに対して第1ベルカップ11の開口縁部11aが軸方向Xの前側にオフセットされる。」ということもできる。図4では、第1ベルカップ11と第2ベルカップ12との間のオフセット寸法を「d3」で示している。
【0060】
本構成によれば、オフセット寸法d3が0(ゼロ)である場合や所定の閾値を下回る場合に比べて、第1ベルカップ11の開口縁部11aで一旦微粒化した塗料P(図4中の塗料P1)と、第2ベルカップ12の開口縁部12aで一旦微粒化した塗料P(図4中の塗料P2)が互いに衝突しにくくなる。これにより、2箇所の吐出口から吐出された塗料P1,P2が再結合して粒径が大きくなったり、これらの塗料P1,P2に気泡が混入したりするような不具合が発生するのを防ぐことができる。
【0061】
上述の実施形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0062】
上記の塗装装置1によれば、ベルヘッド部10が回転軸線Lを中心に回転した状態で吐出経路部20を通じてワークWに向けて塗料を供給することができる。このベルヘッド部10は、吐出口径d2が第1ベルカップ11の吐出口径d1を上回る第2ベルカップ12が、第1ベルカップ11に間隙Gを隔てて配置された構造であるハイブリッド型の構造を有する。
【0063】
吐出経路部20において、第1流路21は、塗料供給管8から第1ベルカップ11の開口縁部11aまで連通している。このため、第1流路21を第1ベルカップ11の開口縁部11aまで流れた塗料Pは、この開口縁部11aから微粒化された状態で吐出される。
【0064】
一方で、第2流路22は、第1流路21と共用の塗料供給管8から第1ベルカップ11と第2ベルカップ12との間の間隙Gを通じて第2ベルカップ12の開口縁部12aまで連通している。このため、第2流路22を第2ベルカップ12の開口縁部12aまで流れた塗料Pは、第2ベルカップ12の開口縁部12aから微粒化された状態で吐出される。
【0065】
ここで、第2ベルカップ12の開口縁部12aにおける吐出口径d2は、第1ベルカップ11の開口縁部11aにおける吐出口径d1よりも大きくなる。即ち、このベルヘッド部10は、同軸であり且つ吐出口径が異なる2つのベルカップ11,12を介して塗料Pを吐出するように構成されている。
【0066】
これにより、第1ベルカップ11側では、吐出口径を相対的に小さくして塗料Pに作用する遠心力を下げることによって、第1ベルカップ11の径方向Y外方へ飛散する塗料Pの量を減らすことができる。このため、第1ベルカップ11は、塗着効率を高めることができるという利点を有する。
【0067】
ここでいう「塗着効率」とは、塗装に使用した塗料の量E1と、実際にワークWの被塗装面Waに塗着した塗料の量E2と、の比率(=E2/E1)を示す。従って、塗料の量E2が相対的に小さい場合に塗着効率が低く、塗料の量E2が相対的に大きい場合に塗着効率が高い。
【0068】
また、第2ベルカップ12側では、吐出口径を相対的に大きくして塗料Pに作用する遠心力を上げることによって、塗料Pを微粒化できる能力を高めることができる。このため、第2ベルカップ12は、塗料Pの吐出能力を上げることができるという利点を有する。
【0069】
従って、上記のベルヘッド部は、第1ベルカップ11及び第2ベルカップ12のそれぞれの利点を併せ持つ。例えば、第1ベルカップ11に相当するベルカップのみを有する既存の塗装装置と比べた場合には、第2ベルカップ12を追加したことによって塗料Pの吐出量を増やすことが可能になる。また、第2ベルカップ12に相当するベルカップのみを有する既存の塗装装置と比べた場合には、第1ベルカップ11を追加したことによって塗料Pの塗着効率を高くすることが可能になる。そして、いずれの既存の塗装装置に対しても、吐出量が同じときには塗料Pの高微粒子化が可能になるため塗装品質を高めることができる点で有利である。
【0070】
上述の実施形態1によれば、塗料Pの吐出能力向上と塗着効率向上を両立できる塗装装置1を提供できる。
【0071】
上述の実施形態1に特に関連する変更例として、塗料供給管8の噴射口8aから噴射された塗料の一部が第2流路22を流れる一方で、塗料供給管8の噴射口8aから噴射された塗料の残部が第2流路22から分岐して第1流路21を流れるような構造を採用することもできる。
【0072】
以下、上述の実施形態1に関連する他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。他の実施形態において、実施形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明を省略する。
【0073】
(実施形態2)
図5に示されるように、実施形態2の塗装装置101は、ベルヘッド部110の構造が実施形態1の塗装装置1のベルヘッド部10のものと相違している。このベルヘッド部110の塗料供給管8は、噴射口8aに加えて、噴射口8aよりも軸方向Xの後側に流入口22aに対向するように配置された流出口8bを備えている。この流出口8bは、塗料供給管8の周方向に複数設けられている。
【0074】
この塗装装置101において、吐出経路部20の第1流路21は、塗料供給管8の噴射口8aから噴射された塗料Pがベルハブ13の裏面13aに沿って径方向Yの外方に流れる流路である。また、吐出経路部20の第2流路22は、塗料供給管8の複数の流出口8bから流出した塗料Pが流入口22aに向けて径方向Yの外方に流れる流路である。
【0075】
その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0076】
この塗装装置101によれば、吐出経路部20の第1流路21では、塗料供給管8の噴射口8aから噴射された塗料Pがベルハブ13の裏面13aに沿って径方向Yの外方に流れる。一方で、吐出経路部20の第2流路22では、塗料供給管8の複数の流出口8bから流出した塗料Pが径方向Yの外方に流れて流入口22aに流入する。
【0077】
これにより、塗料供給管8の管内を流れる塗料Pは、噴射口8aから噴射される塗料Pと複数の流出口8bから流出する塗料Pと、に分かれる。このため、噴射口8aの面積と複数の流出口8bを合わせた面積との面積比率を適宜に選択することによって、噴射口8aから噴射される塗料Pと複数の流出口8bから噴射される塗料Pとの流量バランスを変更することが可能になる。
【0078】
この場合、塗料供給管8に設けた噴射口8a及び流出口8bを利用することによって、共用の塗料供給管8から第1流路21及び第2流路22のそれぞれに塗料Pを分流させることができる。
【0079】
その他、実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0080】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、上述の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0081】
上述の実施形態では、ベルヘッド部10,110に吐出口径が異なる2つのベルカップ11,12を設ける場合について例示したが、これに代えて、2つのベルカップ11,12に1又は複数の別のベルカップが追加された構造を採用することもできる。即ち、ベルカップの数を2つ以上に設定することができる。この場合、別のベルカップは2つのベルカップ11,12と同軸であれば、開口縁部における吐出口径は2つのベルカップ11,12のものと同一であってもよいし或いは相違していてもよい。
【0082】
上述の実施形態では、ベルヘッド部10において第1ベルカップ11の開口縁部11aに対して第2ベルカップ12の開口縁部12aが軸方向Xの後側にオフセットされる場合について例示したが、ワークWに塗着する塗料Pの粒径を所望の範囲内に抑えることが可能であれば、このようなオフセット構造を省略することもできる。
【0083】
上述の実施形態では、ワークWとしての車体を塗装するための塗装装置1,101について例示したが、これらの塗装装置1,101を必要に応じて車体以外のワークWの塗装に使用することもできる。
【符号の説明】
【0084】
1,101 ベル型塗装装置(塗装装置)
8 塗料供給管
8a 噴射口
8b 流出口
10,110 ベルヘッド部
11 第1ベルカップ
11a 開口縁部
12 第2ベルカップ
12a 開口縁部
13 ベルハブ
13a 裏面
20 吐出経路部
21 第1流路
22 第2流路
22a 流入口
d1,d2 吐出口径
G 間隙
L 回転軸線
P,P1,P2 塗料
W ワーク
X 軸方向
Y 径方向
図1
図2
図3
図4
図5