(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0037】
第一の発明は、少なくとも導電性粒子、柔軟性樹脂、及び無機粒子を含有する伸縮性導体シートであり、前記無機粒子がAl、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物によって表面処理されており、当該シートが、直交する2つの方向においていずれも元の長さの40%伸張した際の伸長方向における伸張時の比抵抗の変化率が±10%未満である点に特色がある。
【0038】
また、第二の発明は、少なくとも導電性粒子、柔軟性樹脂、及び無機粒子を含有する伸縮性導体シートであり、前記無機粒子のアスペクト比が1.5未満であり、捻り試験の捻りサイクルを100回繰り返した後のシートの比抵抗が、初期比抵抗の3.0倍以内である点に特色がある。
【0039】
さらに、第三の発明は、少なくとも導電性粒子、及び柔軟性樹脂を含有する伸縮性導体シートであり、空隙率が10体積%以上50体積%以下である点に特色がある。
【0040】
以下、本発明の伸縮性導体シートや伸縮性導体シート形成用ペーストに使用される各成分について説明する。
【0041】
<導電性粒子>
第一〜第三の発明で用いる導電性粒子は共通しており、特に第三の発明では、導電性粒子として、平均粒子径が0.8〜10μmの凝集銀粒子を用いることが好ましい。導電性粒子は、比抵抗が1×10
-1Ωcm以下の物質からなり、粒子径が100μm以下の粒子が好ましい。
【0042】
上記比抵抗が1×10
-1Ωcm以下の物質としては、金属、合金、カーボン、ドーピングされた半導体、導電性高分子などを例示できる。
【0043】
本発明で好ましく用いられる導電性粒子は、銀、金、白金、パラジウム、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、鉛、錫などの金属粒子、黄銅、青銅、白銅、半田などの合金粒子、銀被覆銅のようなハイブリッド粒子、金属メッキした高分子粒子、金属メッキしたガラス粒子、金属被覆したセラミック粒子などを挙げられる。上記導電性粒子は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0044】
中でも、導電性粒子は、高い導電性や価格の観点から、銀粒子とが特に好ましい。
【0045】
銀粒子としては、鱗片状銀粉又は凝集銀粉等を挙げることができ、これら銀粉を導電性粒子において主体として用いることが好ましい。用語「凝集」とは1次粒子が3次元的に凝集していることを意味し、1次粒子の形状は特に限定されず、球状でもよいし、不定形状でもよい。凝集銀粉の形状も特に限定されず、不定形でもよい。なお、本発明において「主体として用いる」とは導電性粒子100質量%中90質量%以上の割合で銀粉を用いることを意味する。銀粒子は、導電性粒子100質量%中、93質量%以上が好ましく、96質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0046】
鱗片状銀粉および凝集銀粉は、球状銀粉などよりも比表面積が大きいことから低充填量でも導電性ネットワークを形成できる点で好ましい。凝集銀粉は、単分散の形態ではなく、粒子同士が物理的に接触していることから導電性ネットワークを形成しやすくなる点でより好ましい。
【0047】
上記鱗片状銀粉の粒子径は特に限定されないが、動的光散乱法により測定した平均粒子径(50%D)は0.5〜20μmが好ましく、より好ましくは0.7〜18μm、さらに好ましくは0.9〜15μm、さらにより好ましくは1.1〜12μmである。上記平均粒子径が20μmを超えると微細配線の形成が困難になり、スクリーン印刷などの場合は目詰まりが生じる。一方、上記平均粒子径が0.5μm未満の場合は、低充填では粒子間で接触できなくなり、導電性が悪化することがある。
【0048】
上記凝集銀粉の粒子径は特に限定されないが、光散乱法により測定した平均粒子径(50%D)は0.8〜20μmが好ましく、より好ましくは1〜20μm、更に好ましくは2〜15μm、特に好ましくは3〜12μmである。上記平均粒子径が20μmを超えると分散性が低下してペースト化が困難になる。一方、上記平均粒子径が0.8μm未満(特に1μm未満)の場合は、凝集粉としての効果が失われ、低充填では良導電性を維持できなくなることがある。
【0049】
上記導電性粒子のアスペクト比は、導電性粒子が非球形である場合、好ましくは1.5未満であり、より好ましくは1.45以下であり、さらに好ましくは1.40以下である。上記導電粒子のアスペクト比が当該範囲より大きいと、伸縮性や耐捻り性が低下する虞がある。
【0050】
上記導電性粒子の配合量は、柔軟性樹脂、無機粒子及び導電性粒子の合計100質量%中、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは55〜90質量%、さらに好ましくは60〜85質量%である。上記配合量が当該範囲より小さいと、導電性を十分確保できない虞がある。一方、上記配合量が当該範囲より大きいと、伸縮性や等方的導電性が低下する虞がある。
【0051】
特に第三の発明では、上記導電性粒子として、平均粒子径が0.8〜10μmの凝集銀粒子を用いることが好ましい。上記凝集銀粒子を用いることにより、特に高い耐圧縮性を実現できる。
【0052】
上記凝集銀粒子は、シートの導電性だけではなく、空隙率も改善できるものであればよく、不定形凝集銀粉等を用いることができる。
【0053】
上記第三の発明において、特に高い耐圧縮性を実現する場合に用いる凝集銀粉の粒子径は特に限定されないが、光散乱法により測定した平均粒子径(50%D)が0.8〜10μmが好ましく、より好ましくは0.9〜9μm、さらに好ましくは1.0〜8μm、さらにより好ましくは1.1〜7μmである。上記平均粒子径が10μmを超えると分散性が低下してペースト化が困難になる。一方、上記平均粒子径が0.8μm未満の場合は、凝集粉としての効果が失われ、低充填では良導電性を維持できなくなることがある。
【0054】
上記凝集銀粒子の配合量は、柔軟性樹脂、無機粒子及び凝集銀粒子の合計100質量%中、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは55〜90質量%、さらに好ましくは60〜85質量%である。上記配合量が当該範囲より小さいと、導電性を十分確保できない虞がある。一方、上記配合量が当該範囲より大きいと、伸縮性や耐圧縮性が低下する虞がある。
【0055】
<無機粒子>
第一の発明では、Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物によって表面処理されている無機粒子を用い、第二の発明では、アスペクト比が1.5未満である無機粒子を用いる。第三の発明では、無機粒子を用いなくてもよく、無機粒子を用いる場合は、アスペクト比が1.5未満であり、平均粒子径が凝集銀粒子の0.5倍以下である無機粒子を用いることが好ましい。
【0056】
第一の発明で用いる無機粒子は、Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物によって表面処理されている。表面処理されているとは、無機粒子の表面に、Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物が形成されていることを意味し、Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物は、無機粒子の表面の少なくとも一部、好ましくは全部に形成されていればよい。かかる無機粒子は、柔軟性樹脂への分散性向上に寄与し、かつ異方向への伸縮時に導電性を等方的に発現することができる。この等方的な導電性は、以下の機序作用により発現すると考えられる。
【0057】
すなわち、樹脂部分が外力によって変形する際に、無機粒子が樹脂変形の要(かなめ)として機能し、外力が除かれて収縮する際に要を局所的中心として樹脂が収縮しようとするため、要が存在しない場合に比較して伸縮前の状態に近い形にまで復元しやすくなり、例えばX方向への伸縮後の復元力がY方向への伸縮後の復元力と等しくなる。よって、洗濯時、あるいは着用時の特定方向への伸縮が加わった場合でも、X方向に伸縮した後のY方向の導電性が下がることはなく、等方的な導電性を示すことができる。
【0058】
上記無機粒子としては、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛等の粒子が挙げられる。中でも、粒径制御や表面処理の観点から、硫酸バリウム、酸化チタンの粒子が好ましい。硫酸バリウム粒子としては、天然の重晶石と呼ばれるバライト鉱物の粉砕品である簸性硫酸バリウムと、化学反応で製造されるいわゆる沈降性硫酸バリウムを使用できる。粒子径の制御が行いやすい沈降性硫酸バリウムを用いることが好ましい。酸化チタンは、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型のいずれであってもよい。
【0059】
上記表面処理は、従来公知の方法を採用することができ、例えば無機粒子含有溶液スラリーに、Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物となり得る物質を添加し、加熱すればよい。Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物としては、SiO
2、Al
2O
3等の酸化物、Al(OH)
3、Si(OH)
4等の水酸化物等が挙げられる。
【0060】
Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物となり得る物質としては、ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ソーダ等が挙げられる。これらを使用する場合には水溶液として、無機粒子含有溶液スラリーに滴下すればよい。例えば、無機粒子含有溶液スラリーに、Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物となり得る物質の溶液を滴下し、混合物を加熱し(例えば40〜100℃、好ましくは50〜90℃)、酸(例えば希硫酸)にて中和し、乾燥させることにより、無機粒子の表面にAl、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物が付着することとなる。
【0061】
上記無機粒子は、SiO
2及びAl
2O
3から選択される1種以上で表面処理されていることが好ましく、SiO
2及びAl
2O
3で表面処理されていることがより好ましい。
【0062】
上記SiO
2、Al
2O
3の被着量は、無機粒子及び表面処理物質量の合計質量100質量%中、0.2質量%以上5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上4質量%以下がより好ましい。
【0063】
また、Si、Alの被着量は、蛍光X線分析による元素比率にてバリウム元素100に対して0.5〜50が好ましく、2〜30がより好ましい。
【0064】
第一の発明において、上記無機粒子の動的光散乱法によって求められる平均粒子径は、好ましくは0.01〜18μm、より好ましくは0.03〜12μm、さらに好ましくは0.05〜8μm、さらにより好ましくは0.1〜5μm、特に好ましくは0.2〜3μmである。
【0065】
上記無機粒子の平均粒子径は、導電性粒子の平均粒子径より小さいことが好ましい。具体的には、導電性粒子の平均粒子径は、無機粒子の平均粒子径の1.5倍以上が好ましく、2.0倍以上がより好ましく、2.4倍以上がさらに好ましく、4.0倍以上が特に好ましい。導電性粒子の平均粒子径は、無機粒子の平均粒子径の30倍以下であればよい。無機粒子の平均粒子径がこの範囲を超えると得られる塗膜表面の凹凸が大きくなり、伸張した際に塗膜が破断するきっかけとなりやすい。一方、無機粒子の平均粒子径がこの範囲より小さいと、伸縮耐久性改善効果が小さく、またペーストの粘度が高くなり、ペースト製作が困難となる。
【0066】
上記無機粒子の配合量は、導電性粒子と無機粒子の合計100質量%中、2.0〜30質量%が好ましく、2.5〜20質量%がより好ましく、3.0〜15質量%がさらに好ましく、3.4〜10質量%がさらにより好ましい。上記配合量がこの範囲を超えると得られる塗膜表面の導電性が低下し、伸縮性も低下する虞がある。一方、上記配合量がこの範囲より小さいと、等方的導電性が発現しにくくなる。
【0067】
上記無機粒子のアスペクト比は、1.5未満が好ましく、1.4以下がより好ましく、1.3以下がさらに好ましい。上記アスペクト比が1.5以上であると、表面処理された無機粒子による伸縮時の復元力が等方性を示しにくくなり、等方的導電性を示さない虞がある。上記アスペクト比の下限は、例えば1.0程度であればよい。
【0068】
第二の発明で用いる無機粒子は、アスペクト比が1.5未満であり、好ましくは1.45以下であり、より好ましくは1.40以下である。上記アスペクト比が1.5以上であると、捻り時の復元力が低下しやすくなり、比抵抗の変化が大きくなる虞がある。上記アスペクト比の下限は、例えば1.0程度であればよい。
【0069】
上記無機粒子は、Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物によって表面処理されていることが好ましい。かかる無機粒子は、柔軟性樹脂への分散性向上に寄与し、かつ耐捻り性に寄与する。
【0070】
上記無機粒子としては、アスペクト比が上記範囲を満足していればよく、具体的には、上記第一の発明で例示したものを用いることができる。上記無機粒子は、上記第一の発明と同様、Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物によって表面処理されていることが好ましい。
【0071】
第二の発明において、上記無機粒子の動的光散乱法によって求められる平均粒子径は、好ましくは0.01〜12μm、より好ましくは0.03〜10μm、さらに好ましくは0.05〜8μm、さらにより好ましくは0.1〜5μm、特に好ましくは0.2〜3μmである。
【0072】
上記無機粒子の平均粒子径は、上記第一の発明と同様、導電性粒子の平均粒子径より小さいことが好ましい。
【0073】
上記無機粒子の配合量も上記第一の発明と同じ範囲であることが好ましい。上記配合量が上述した範囲より小さいと、耐捻り性も発現しにくくなる。
【0074】
第三の発明では、上記導電性粒子として平均粒子径が0.8〜10μmである凝集銀粒子を用い、且つアスペクト比が1.5未満であり、平均粒子径が凝集銀粒子の0.5倍以下である無機粒子を用いることが好ましい。
【0075】
即ち、第三の発明で用いる無機粒子は、上記第二の発明と同様、アスペクト比が1.5未満が好ましい。
【0076】
そして、第三の発明において、特に高い耐圧縮性を実現する場合には、無機粒子の平均粒子径は、凝集銀粒子の平均粒子径より小さいことが好ましい。具体的には、無機粒子の平均粒子径は、凝集銀粒子の平均粒子径の0.5倍以下が好ましく、0.45倍以下がより好ましく、0.40倍以下が更に好ましく、0.35倍以下が特に好ましい。上記無機粒子の平均粒子径は、凝集銀粒子の平均粒子径の0.10倍以上が好ましい。上記無機粒子の平均粒子径がこの範囲を超えると得られる塗膜表面の凹凸が大きくなり、伸張した際に塗膜が破断するきっかけとなりやすい。一方、上記無機粒子の平均粒子径がこの範囲より小さいと、伸縮耐久性改善効果が小さく、またペーストの粘度が高くなり、ペースト製作が困難となることがある。
【0077】
上記無機粒子の配合量は、上記第一の発明と同じ範囲であることが好ましい。上記配合量が上述した範囲より小さいと、耐圧縮性も発現しにくくなる。
【0078】
<柔軟性樹脂>
第一〜第三の発明で用いる柔軟性樹脂は共通しており、引張弾性率が1MPa以上1000MPa以下の柔軟性樹脂を用いる。
【0079】
本発明における柔軟性樹脂としては、(引張)弾性率が1〜1000MPaの、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴムなどが挙げられる。塗膜(シート)の伸縮性を発現させるためには、ゴムが好ましい。ゴムとしては、例えば、ウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴムや水素化ニトリルゴムなどのニトリル基含有ゴム、イソプレンゴム、硫化ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ化ビニリデンコポリマーなどが挙げられる。この中でも、ニトリル基含有ゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、スチレンブタジエンゴムが好ましく、ニトリル基含有ゴム、スチレンブタジエンゴムが特に好ましい。
【0080】
上記柔軟性樹脂の(引張)弾性率は、好ましくは3〜600MPaであり、より好ましく10〜500MPa、さらに好ましくは15〜300MPa、さらにより好ましくは20〜150MPa、特に好ましくは25〜100MPaである。
【0081】
ニトリル基を含有するゴムは、ニトリル基を含有するゴムやエラストマーであれば特に限定されないが、ニトリルゴムと水素化ニトリルゴムが好ましい。ニトリルゴムはブタジエンとアクリロニトリルの共重合体であり、結合アクリロニトリル量が多いと金属との親和性が増加するが、伸縮性に寄与するゴム弾性は逆に減少する。従って、結合アクリロニトリル量は、ニトリル含有ゴム(例えばアクリロニトリルブタジエン共重合体ゴム)100質量%中、18〜50質量%が好ましく、30〜50質量%がより好ましく、40〜50質量%が特に好ましい。
【0082】
スチレンブタジエンゴムにおいて、スチレンとブタジエンの含有量比(スチレン/ブタジエン)は、質量基準で、好ましくは70/30〜30/70であり、より好ましくは60/40〜40/60である。
【0083】
また、上記柔軟性樹脂のアルカリ金属含有量は、4000ppm以下が好ましく、2000ppm以下がより好ましく、1000ppm以下がさらに好ましく、500ppm以下がさらにより好ましく、100ppm以下が特に好ましい。アルカリ金属含有量を低減させることで導電性粒子ペースト(特に凝集銀粒子ペースト)の擬似的架橋による経時的な粘度上昇が抑制され、長期保存安定性が向上する。また、金属イオン源の低減から導電性塗膜とした場合の耐マイグレーション性も改善される。導電性粒子(特に凝集銀粒子)と親和性に優れるニトリル基が優先的に導電性粒子(特に凝集銀粒子)表面に吸着することで塗膜内の導電性粒子(特に凝集銀粒子)とニトリル基を含有するゴムが完全な均一分散状態にならず、海島構造のような偏在化、不均一化が生じる。このため、導電性粒子(特に凝集銀粒子)が低充填量であるにもかかわらず、導電性ネットワークが形成されやすくなる。導電性粒子(特に凝集銀粒子)の低充填量化によるゴム成分の増加で良好な伸長性、繰返し伸縮性を発現できる。
【0084】
上記柔軟性樹脂の配合量は、導電性粒子(特に凝集銀粒子)と無機粒子と柔軟性樹脂の合計100質量%中、好ましくは7〜35質量%であり、より好ましくは8〜30質量%、さらに好ましくは9〜25質量%、さらにより好ましくは10〜22質量%である。柔軟性樹脂の配合量が少ないと、導体シートの伸縮性が低下し、伸縮耐久性が低下する虞がある。柔軟性樹脂の配合量が多いと、導電性が低下し、等方的導電性および耐圧縮性も低下する虞がある。
【0085】
本発明の伸縮性導体シートの製造方法として、伸縮性導体シートを構成する組成物(溶剤を含まない)を、柔軟性樹脂成分が十分に軟化する温度にて溶融混練してコンパウンド化し、溶融押出機にて成膜する方法を例示できる。本方法は高い生産性を要求される場合に使用することが好ましい。
【0086】
本発明の伸縮性導体シートの製造方法として、伸縮性導体シートを構成する材料に、さらに柔軟性樹脂成分を溶解分散することの出来る溶剤とを配合し、スラリー状、ないしペーストに加工した後、支持体に塗布乾燥することでシート化する製造方法を例示できる。
【0087】
第一の発明の態様の一つは、伸縮性導体シートを製造するために使用される伸縮性導体シート形成用ペーストであって、少なくとも導電性粒子、Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物によって表面処理されている無機粒子、引張弾性率が1MPa以上1000MPa以下の柔軟性樹脂、及び溶剤、を含有し、前記無機粒子の配合量が、前記導電性粒子と前記無機粒子の合計100質量%中、2.0〜30質量%であり、前記柔軟性樹脂の配合量が、前記導電性粒子と前記無機粒子と前記柔軟性樹脂の合計100質量%中、7〜35質量%であることを特徴とする伸縮性導体シート形成用ペーストを包含する。
【0088】
第二の発明の態様の一つは、伸縮性導体シートを製造するために使用される伸縮性導体シート形成用ペーストであって、少なくとも導電性粒子、アスペクト比が1.5未満である無機粒子、引張弾性率が1MPa以上1000MPa以下の柔軟性樹脂、及び溶剤、を含有し、前記無機粒子の配合量が、前記導電性粒子と前記無機粒子の合計100質量%中、2.0〜30質量%であり、前記柔軟性樹脂の配合量が、前記導電性粒子と前記無機粒子と前記柔軟性樹脂の合計100質量%中、7〜35質量%であることを特徴とする伸縮性導体シート形成用ペーストを包含する。
【0089】
第三の発明の態様の一つは、伸縮性導体シートを製造するために使用される伸縮性導体シート形成用ペーストであって、少なくとも導電性粒子、および引張弾性率が1MPa以上1000MPa以下の柔軟性樹脂、及び溶剤、を含有し、前記柔軟性樹脂の配合量が、前記凝集銀粒子と前記柔軟性樹脂の合計100質量%中、7〜35質量%であることを特徴とする伸縮性導体シート形成用ペーストを包含する。特に、伸縮性導体シートを製造するために使用される伸縮性導体シート形成用ペーストであって、少なくとも平均粒子径が0.8〜10μmである凝集銀粒子、アスペクト比が1.5未満であり、平均粒子径が凝集銀粒子の0.5倍以下である無機粒子、引張弾性率が1MPa以上1000MPa以下の柔軟性樹脂、及び溶剤、を含有し、前記無機粒子の配合量が、前記凝集銀粒子と前記無機粒子の合計100質量%中、2.0〜30質量%であり、前記柔軟性樹脂の配合量が、前記凝集銀粒子と前記無機粒子と前記柔軟性樹脂の合計100質量%中、7〜35質量%であることを特徴とする伸縮性導体シート形成用ペーストが好ましい。
【0090】
導電性粒子(特に凝集銀粒子)の配合量は、伸縮性導体シート形成用ペースト100質量%中、30〜80質量%が好ましく、より好ましくは35〜75質量%、さらに好ましくは40〜70質量%である。上記導電性粒子(特に凝集銀粒子)含有率が30質量%未満である場合、十分な導電性が確保できない虞がある。一方、上記導電性粒子(特に凝集銀粒子)含有率が80質量%超である場合、伸縮性や耐捻り性を確保できにくくなる。無機粒子の配合量や柔軟性樹脂の配合量は、上述と同様であることが好ましい。
【0091】
本発明の伸縮性導体シート形成用ペーストは、溶剤を含有する。本発明における溶剤は、水または有機溶剤が好ましい。
【0092】
溶剤の含有量は、ペーストに求められる粘性によって適宜調整されるべきであるため、特に限定はされないが、導電性粒子(特に凝集銀粒子)、無機粒子、柔軟性樹脂と溶剤の合計質量を100%とした場合に20〜60質量%が好ましく、22〜50質量%がより好ましく、24〜40質量%がさらに好ましい。
【0093】
有機溶剤の沸点は、100℃以上、300℃未満が好ましく、より好ましくは沸点が130℃以上、280℃未満である。有機溶剤の沸点が低すぎると、ペースト製造工程やペースト使用時に溶剤が揮発し、ペーストを構成する成分比が変化しやすい懸念がある。一方、有機溶剤の沸点が高すぎると、乾燥硬化塗膜中の残溶剤量が多くなり、塗膜の信頼性低下を引き起こす懸念がある。
【0094】
有機溶剤としては、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、エーテルエステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられる。
【0095】
エステル系溶剤としては、γ−ブチロラクトン、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート等が挙げられる。
【0096】
エーテル系溶剤としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコール、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0097】
エーテルエステル系溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルグリコールアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、トリエチレングリコールジアセテート等が挙げられる。
【0098】
ケトン系溶剤としては、シクロヘキサノン、イソホロン等が挙げられる。
【0099】
アルコール系溶剤としては、ベンジルアルコール、ターピオネール、n−ドデカノール等が挙げられる。
【0100】
芳香族炭化水素系溶剤としては、トルエン、キシレン、エクソン化学製のソルベッソ100,150,200、ジアミルベンゼン、トリアミルベンゼン等が挙げられる。
【0101】
また、石油系炭化水素類としては、新日本石油社製のAFソルベント4号(沸点:240〜265℃)、5号(沸点:275〜306℃)、6号(沸点:296〜317℃)、7号(沸点:259〜282℃)、および0号ソルベントH(沸点:245〜265℃)なども挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上が含まれてもよい。
【0102】
このような有機溶剤は、伸縮性導体シート形成用ペーストが印刷などに適した粘度となるように適宜含有される。中でも、ペーストの調製時に有機溶剤が揮発しにくく、ペーストの塗工時に有機溶媒を十分に揮発させる観点から、イソホロンが好ましい。
【0103】
また、本発明の伸縮性導体シート形成用ペーストにはエポキシ樹脂を配合できる。本発明で好ましいエポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂ないしはフェノールノボラック型エポキシ樹脂である。
【0104】
エポキシ樹脂を配合する場合、エポキシ樹脂の硬化剤を配合できる。硬化剤としては公知のアミン化合物、ポリアミン化合物などを用いればよい。硬化剤の配合量はエポキシ樹脂100質量部に対して1〜30質量部が好ましく、2〜15質量部がより好ましい。またエポキシ樹脂と硬化剤の配合量は、柔軟性樹脂100質量部に対して好ましくは0.5〜30質量部、より好ましくは1.0〜20質量部、さらに好ましくは1.5〜15質量部である。
【0105】
本発明の伸縮性導体シート形成用ペーストには、発明の内容を損なわない範囲で、印刷適性の付与、色調の調整の観点から、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの公知の有機、無機の添加剤を配合することができる。
【0106】
導電性粒子(特に凝集銀粒子)、無機粒子、柔軟性樹脂に、さらに溶剤を配合し、ディゾルバー、三本ロールミル、自公転型混合機、アトライター、ボールミル、サンドミルなどの分散機により混合分散することにより組成物をペースト化し、伸縮性導体シート形成用ペーストを調製できる。
【0107】
本発明の態様の一例として、以上のようにして得られる伸縮性導体シート形成用ペーストを、ダイコーター、スキージコーター、アプリケーター、コンマコーター、スクリーン印刷などの手法により(好ましくはアプリケーター、コンマコーターにより)、好ましくは離型性を有する基材に塗布・乾燥してシート化する溶液成膜法を用いて伸縮性導体シートを得ることができる。この方法は、少量でも生産できることはもちろんであるが、比較的薄い膜厚のシートが必要な場合には好ましい方法である。
【0108】
前記ペーストを基材に塗布し、溶剤を揮散させ、乾燥させるには、例えば大気下、真空雰囲気下、不活性ガス雰囲気下、還元性ガス雰囲気下等で加熱を所定時間行えばよい。加熱温度は、例えば100〜150℃であり、好ましくは110〜130℃である。加熱時間は、例えば10〜40分であり、好ましくは20〜30分程度である。
【0109】
第一および第二の発明において、ペースト状態を介して得られる伸縮性導体シートの厚さは、3〜800μmであり、好ましくは8〜500μmであり、より好ましくは12〜300μmであり、さらに好ましくは20〜180μmである。第三の発明において、ペースト状態を介して得られる伸縮性導体シートの厚さは、好ましくは3〜800μmであり、より好ましくは8〜500μmであり、更に好ましくは12〜300μmであり、特に好ましくは20〜180μmである。前記シートの厚さが3μm未満であると、伸縮に対する耐久性が低下し、導電性が低下する虞もある。前記シートの厚さが800μm超であると、十分な伸縮性が得られにくく、布帛に使用した際に十分なフィット感が得られない虞がある。
【0110】
本発明の伸縮性導体シートは、伸縮性導体シート形成用ペースト単体でシート化し(導電層を形成し)、必要に応じて少なくとも一方の面に絶縁層を有する形でシート化することができる。絶縁層は伸縮性導体シートと同様に伸縮性を有することが好ましい。絶縁層の材料としては、伸縮性導体シート形成用ペーストを構成する柔軟性樹脂と同様に、低弾性率の高分子材料が好ましい。かかる絶縁層は、伸縮性導体シートが電気配線として用いられる場合、伸縮性導体シートと基材との間に絶縁層ないし基材との接着層としての働きを有する。また電気配線と用いられる場合の基材とは逆側、すなわち表面側に設けられる場合には絶縁コート層(絶縁部)として機能する。
【0111】
絶縁層を形成する樹脂としては、絶縁性を示す樹脂であれば、特に限定されるものではなく、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。中でも、ポリウレタン系樹脂が、導電層との接着性の観点から好ましい。
【0112】
ポリウレタン系樹脂は、例えばポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂等が好ましく、塗膜の伸縮性の観点から、ポリエステル系ポリウレタン樹脂がより好ましい。
【0113】
絶縁層は、樹脂を溶剤(好ましくは水)に溶解乃至分散させて、基材や布生地上に塗布又は印刷して塗膜を形成し、次いで塗膜に含まれる溶剤を揮散させ乾燥させることにより、調製してもよい。この際、樹脂溶液の粘度は、400mPa・s以下であってもよく、粘度調節剤として、アクリル系重合物等の増粘剤を使用してもよい。
【0114】
絶縁層の膜厚は、例えば5〜200μmであり、好ましくは8〜150μmであり、より好ましくは14〜90μmであり、さらに好ましくは20〜70μmである。絶縁層が薄すぎると、絶縁効果が不十分になり、絶縁層が厚すぎると、布帛等の伸縮性が阻害されたり、着心地が阻害される虞がある。
【0115】
布生地上に形成される絶縁層は、通常一部が布生地に含浸するが、上記膜厚は、この布生地に含浸した部分を含めた厚さであればよい。含浸部分を除いた絶縁層の膜厚は、例えば5〜200μmであり、好ましくは8〜150μmであり、より好ましくは14〜90μmであり、さらに好ましくは20〜70μmである。
【0116】
本発明の伸縮性導体シートは、必要に応じて少なくとも一方の面にカーボンを導電フィラーとする別の導体層を有する形でシート化することができる。かかる形態は特に伸縮性導体シート形成用ペーストに用いられる導電性粒子が金属粒子であるときに好ましい。カーボンを導電フィラーとする導体組成物を構成する樹脂材料も、同様に低弾性率の高分子材料が好ましい。かかるカーボンを導電フィラーとする導体組成物層は伸縮性導体シート形成用ペーストを電極部として用いる場合に接点材料として機能する。
【0117】
絶縁層およびまたはカーボンを導電フィラーとする導体組成物の層を伸縮性導体シートの片面ないし両面に形成する方法を以下に説明する。
【0118】
シートを作製する方法として溶融成形法を用いる場合には、順次シートを重ねて溶融成形を繰り返せば良い。あるいは二層ダイ、ないし三層ダイを用いて、同時に複数層を押し出してシート化することも可能である。
【0119】
溶液成膜法を用いる場合にも同様に溶液塗布・乾燥硬化を順次シートを重ねて行えば良い。例えば溶融押出法で作製したシートに溶液成膜法でシートを重ねることも可能であるし、逆に溶液成膜法で作製したシートに溶融押出法でシートを重ねても良い。溶液成膜法での特殊な場合として、スクリーン印刷法などにより、順次重ね印刷を行って多層構成のシートを得ることもできる。
【0120】
本発明において、溶融押出法ないし溶液成膜法で製作したシートに、絶縁層、およびまたはカーボンを導電フィラーとする導体組成物の層をスクリーン印刷、ステンシル印刷、インクジェット印刷などの方法により所定のパターン形状として形成することもできる。この場合、絶縁層が接着層として機能することもある。
【0121】
また、本発明では各々単独にシート化した伸縮性導体シート、絶縁層シート、接着シート、カーボンを導電フィラーとする導体組成物シート等を貼り合わせて使用できる。貼り合わせには公知の接着剤、ホットメルト樹脂を用いれば良い。また各々のシートが熱可塑性を維持している場合にはシートどうしを融着させて貼り合わせることもできる。
【0122】
さらに本発明では伸縮性導体樹脂シートを単独で、好ましくは少なくとも片面に絶縁層およびまたはカーボンを導電フィラーとする伸縮性導体組成物の層を伴ったシートを所定の形状に加工し、衣服ないし衣服の原反となる布帛に貼り付けて電気配線を形成してもよい。
【0123】
シートの布帛への貼り付けには公知の接着剤やホットメルト型樹脂を用いれば良い。接着に用いる材料は柔軟性を有することが好ましい。また、絶縁層シートを半乾燥、半硬化状態であるBステージ状にしておいて、絶縁層シートそのものをホットメルト素材として使うこともできる。また伸縮性導体シートをBステージとして加熱・加圧により布帛に接着することも可能である。
【0124】
本発明では、伸縮性導体シート形成用ペーストを用いて電気配線パターンを直接布帛に印刷することにより伸縮性導体シートからなる電気配線を有する布帛を製造できる(
図1参照)。当該製造方法は、仮支持体2を準備する工程(A)、仮支持体2上に布帛1を固定する工程(B)、布帛1上に伸縮性導体シート形成用ペースト3を印刷し、伸縮性導体シート3を形成する工程(C)、伸縮性導体シート3上に伸縮性カバー4(絶縁部)を形成し、部分的に伸縮性導体シート3を露出させる工程(D)、露出した伸縮性導体シート3上に伸縮性カーボン5(電極部)を形成する工程(E)、仮支持体2からこれら積層体を分離させる工程(F)を含んでいてもよい。
【0125】
印刷手法としては、スクリーン印刷法、平版オフセット印刷法、ペーストジェット法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、スタンピング法、ステンシル法などを用いることができるが、本発明ではスクリーン印刷法、ステンシル法を用いることが好ましい。またディスペンサ等を用いて配線を直接描画する手法も広義の印刷と解釈して良い。
【0126】
印刷は、衣服や繊維製品の原反となる、織物、編物、不織布、合成皮革などの布帛上に所定のパターン印刷を行い、その後に裁断・縫製して衣服などの繊維製品を得る方法、あるいは、縫製を終えた繊維製品、ないし縫製中間体の状態で印刷することも可能である。
【0127】
また、あらかじめ布帛上にポリウレタン樹脂、ゴムなどの柔軟性のある樹脂材料を下地として全体に、あるいは部分的に塗布した後に伸縮性導体シート形成用ペーストを印刷することもできる。また布帛を水溶性の樹脂などで仮に固めてハンドリングしやすくして印刷しても良い。またさらに硬質な板材に仮固定して印刷しても良い。布帛に直接伸縮性導体シート形成用ペーストを印刷して得られる配線付き衣服は、下地およびまたは伸縮性導体部が基材である布帛の繊維と部分的に相互侵入状態となり、強固な接着を実現できる。また下地層を介して印刷する場合においても、下地層に伸縮性導体シート形成用ペーストと接着性の良い材料を適宜選択できるため、良好な接着性を有する電気配線層のある衣服を得ることができる。
【0128】
本発明の伸縮性導体シートからなる配線には、必要に応じて伸縮性を有する絶縁カバーコートを印刷法、あるいはラミネート法にて設けることができる。また、人体表面と接触することを意図した電極表面には、導電性粒子として、カーボン粒子を導電フィラーの主体に用いた組成物からなる表面層を設けることができる。かかるカーボン粒子を導電フィラーの主体に用いた組成物は、本発明の伸縮性導体シートと同じ柔軟性樹脂をバインダーに用いたカーボンペーストによるものが好ましい。また、ディスクリート部品との電気的接点として用いる部分には金、あるいは錫などをメッキすることもできる。
【0129】
本発明では、以上述べてきた伸縮性導体シート形成用ペーストを用いて電気配線パターンを中間媒体に印刷した後に布帛に転写することにより伸縮性配線を有する布帛を製造できる(
図2参照)。当該製造方法は、離型支持体6を準備する工程(A)、離型支持体6上に部分的に伸縮性カーボン5(電極部)を形成する工程(B)、離型支持体6上であって伸縮性カーボン5(電極部)以外の部分に伸縮性カバー4(絶縁部)を形成する工程(C)、伸縮性カーボン5(電極部)及び伸縮性カバー4(絶縁部)上に伸縮性導体シート形成用ペースト3を印刷し、伸縮性導体シート3を形成する工程(D)、伸縮性導体シート3上及び伸縮性カバー4(絶縁部)端部上に接着剤7を塗布する工程(E)、得られた積層体を布帛1に転写する工程(F)、及び離型支持体6を除去する工程(G)を含んでいてもよい。
【0130】
この場合にも直接印刷と同様の印刷手法を適宜選択することができる。また同様にカバーコート層、カーボン粒子を導電フィラーの主体に用いた組成物層などを設けることもできる。転写法を用いる場合には、本発明の伸縮性導体シートは熱可塑性を有するため、布帛に熱圧着することにより転写が可能である。またさらに易転写性を求める場合には下地層としてホットメルト層をあらかじめ中間媒体上に印刷された配線パターンの上に形成した後、布帛に転写することができる。さらに布帛側にホットメルト層を受像層としてあらかじめ設けておいてもよい。かかるホットメルト層には熱可塑性のウレタン樹脂、あるいは本発明の伸縮性導体シート形成用ペーストのバインダー成分と同様の柔軟性樹脂を用いることができる。
【0131】
この場合の中間媒体には離型層を表面に有する高分子フィルム、紙などのいわゆる離型シートを用いても良い。またフッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミドなどの難接着な素材からなる表面を有するフィルム、シート、板などを用いることができる。またステンレススチール、硬質クロムメッキした鋼板、アルミニウム板などの金属板を用いることも可能である。
【0132】
伸縮性カバーを構成する成分は、伸縮性導体シートと同様な伸縮性を示す点から、例えば柔軟性樹脂、エポキシ樹脂、硬化剤、溶剤を含むことが好ましい。かかる伸縮性カバーは、伸縮性導体シートに対する絶縁部を構成する。
【0133】
伸縮性カーボンを構成する成分は、伸縮性導体シートや伸縮性カバーと同様な伸縮性を示す点から、柔軟性樹脂、導電性カーボン、溶剤を含むことが好ましい。導電性カーボンとしては、ケッチェンカーボンやナノカーボンチューブ等が挙げられる。かかる伸縮性カーボンは、伸縮性導体シートの電極部を構成する。
【0134】
第一の発明の伸縮性導体シートの等方的導電性は、以下の通りに評価できる。すなわち、伸縮性導体シート形成用ペーストの塗布方向をAとし、塗布方向に対して直角の方向をBとし、得られた伸縮性導体シートとして所定の試料(幅20mm、長さ50mm)にカットした試験片を用い、伸長率40%時の比抵抗を測定し、塗布方向(A)と塗布方向に対して直角方向(B)の試験片での比抵抗の変化率(本願明細書において等方性、または40%伸長時比抵抗変化率ともいう)を以下の式により求めればよい。
等方性(%)={(塗布方向の比抵抗/塗布方向に対して直角方向の比抵抗)−1}×100
【0135】
伸縮性導体シートの伸長率は以下の式により算出できる。L0は試験片の標線間距離、ΔL0は試験片の標線間距離の増加分を示す。なお、伸長時のシート抵抗は、所定の伸長度に達してから30秒後の値を読み取った。
伸長率(%)=(ΔL0/L0)×100
【0136】
伸縮性導体シートの比抵抗は、以下の通りにして測定すればよい。膜厚はシックネスゲージ SMD−565L(TECLOCK社製)を用い、シート抵抗はLoresta−GP MCP−T610(三菱化学アナリテック社製)を用いて試験片4枚について測定し、その平均値を用い、比抵抗を以下の式により算出できる。Rsは各条件で測定されたシート抵抗、tは測定された膜厚を示す。
比抵抗(Ωcm)=Rs(Ω
□)×t(cm)
【0137】
第一の発明では塗布方向40%伸張時の比抵抗と、塗布方向に対して垂直方向40%伸張時の比抵抗により、等方性を評価する。すなわち、直交する2つの方向において、いずれも元の長さの40%伸張した際の伸長方向における伸張時の比抵抗の変化率は、±10%未満であり、±9.0%以下が好ましく、±8.0%以下がより好ましく、±7.5%以下がさらに好ましい。
【0138】
第二の発明の伸縮性導体シートの耐捻り性は、捻り試験の捻りサイクルを100回繰り返した後の比抵抗の変化に基づいて評価できる。捻り試験は、試料として幅10mm、長さ100mm(試料の長手方向の片端固定、他の片端の回転による捻り)を用い、捻りサイクルは、正方向10回転(3600°)捻り、初期状態への戻り、負方向10回転(−3600°)捻り、初期状態への戻り、とした。
【0139】
伸縮性導体シートの比抵抗は、上記第一の発明と同じ条件で算出できる。
【0140】
第二の発明において、上記捻り試験の捻りサイクルを100回繰り返した後の伸縮性導体シートの比抵抗(以下、捻り試験後比抵抗変化ということがある)は、初期比抵抗の3.0倍以内であり、好ましくは2.8倍以内であり、より好ましくは2.6倍以内であり、さらに好ましくは2.4倍以内であり、さらにより好ましくは2.2倍以内であり、特に好ましくは2.0倍以内である。
【0141】
第三の発明は、伸縮性導体シートの空隙率が、10体積%以上50体積%以下であり、好ましくは15体積%以上50体積%以下、より好ましくは15体積%以上48体積%以下、さらに好ましくは16体積%以上46体積%以下である。上記空隙率が小さいと、洗濯耐久性が低下する虞がある。一方、上記空隙率が大きいと伸縮性や導電性が低下する虞がある。
【0142】
上記伸縮性導体シートの空隙率は、見かけ比重と仕込み比から求められる実比重とから算出できる。
【0143】
第三の発明の伸縮性導体シートの耐圧縮性は、10%圧縮を100回繰り返した後の比抵抗の変化(以下、圧縮試験後比抵抗変化ということがある)に基づいて評価できる。
比抵抗変化(倍)=10%圧縮を100回繰り返した後の伸縮性導体シートの比抵抗/初期状態の伸縮性導体シートの比抵抗
【0144】
伸縮性導体シートの比抵抗は、上記第一の発明と同じ条件で算出できる。
【0145】
第三の発明において、10%圧縮を100回繰り返した後の伸縮性導体シートの比抵抗は、初期比抵抗の2.4倍以内が好ましく、より好ましくは2.2倍以内であり、更に好ましくは2.0倍以内であり、特に好ましくは1.8倍以内である。本発明の伸縮性導体シートが、この様な圧縮後の比抵抗変化に収まれば、耐圧縮性を十分備えているといえる。
【0146】
第三の発明の伸縮性導体シートが洗濯に供される場合、伸縮性導体シートにおける洗濯後の比抵抗の変化が小さく、洗濯耐久性にも優れる。洗濯耐久性は、例えば、洗濯条件としてJIS L0844を用い、洗濯後の伸縮性導体シートの比抵抗と、伸縮性導体シートの初期比抵抗を算出し、その比(伸縮性導体シートの洗濯後の比抵抗/伸縮性導体シートの初期の比抵抗)により評価できる。すなわち、機械洗濯器、洗濯ネットを用い、5回連続洗濯後、1回陰干を1サイクルとしてこれを10サイクル繰り返した後の伸縮性導体シートの比抵抗と、洗濯前の初期状態の伸縮性導体シートの比抵抗との比(以下、洗濯耐久性比抵抗変化ということがある)を指標にして洗濯耐久性を評価すればよい。
【0147】
第三の発明において、5回連続洗濯及び1回陰干を10サイクル繰り返した後の伸縮性導体シートの比抵抗は、好ましくは初期比抵抗の4.0倍以内、より好ましくは3.5倍以内、さらに好ましくは3.0倍以内、さらにより好ましくは2.5倍以内である。本発明の伸縮性導体シートが、この様な洗濯後の比抵抗変化に収まれば、洗濯耐久性を十分備えているといえる。
【0148】
本願は、2016年3月9日に出願された日本国特許出願第2016−46136号、日本国特許出願第2016−46137号、および日本国特許出願第2016−46138号に基づく優先権の利益を主張するものである。上記日本国特許出願第2016−46136号、日本国特許出願第2016−46137号、および日本国特許出願第2016−46138号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0149】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細かつ具体的に説明する。なお実施例中の評価結果などは以下の方法にて測定した。
【0150】
<ニトリル量>
得られた柔軟性樹脂をNMR分析して得られた組成比から、モノマーの質量比による質量%に換算した。
【0151】
<ムーニー粘度>
島津製作所製のSMV−300RT「ムーニービスコメータ」を用いてムーニー粘度を測定した。
【0152】
<アルカリ金属量>
樹脂を灰化処理し、得られた灰分を塩酸抽出し、原子吸光法にてナトリウム、カリウムの含有量を求め、両者を合計した。
【0153】
<弾性率>
柔軟性樹脂を厚さ200±20μmのシート状に加熱圧縮成形し、次いでISO 527−2−1Aにて規定されるダンベル型に打ち抜き、試験片とした。ISO 527−1に規定された方法で引っ張り試験を行って弾性率を求めた。
【0154】
<平均粒子径>
堀場製作所製の光散乱式粒径分布測定装置LB−500を用いて平均粒子径を測定した。
【0155】
<無機粒子の組成分析>
無機粒子の組成分析を蛍光X線分析装置(蛍光X線分析装置システム3270、理学電機株式会社製)を使用し、Al成分、Si成分量を測定した。なお、Al成分、Si成分の被着量は、検出されたAl成分、およびSi成分の金属化合物を酸化物換算(即ち、Al成分はAl
2O
3、Si成分はSiO
2として換算)して表す。
【0156】
[比抵抗の評価]
伸縮性導体シートを幅10mm、長さ140mmにカットして試験片を作製した。自然状態(伸長率0%)の伸縮性導体シート試験片のシート抵抗と膜厚を測定し、比抵抗を算出した。膜厚はシックネスゲージ SMD−565L(TECLOCK社製)を用い、シート抵抗はLoresta−GP MCP−T610(三菱化学アナリテック社製)を用いて試験片4枚について測定し、その平均値を用いた。比抵抗は以下の式により算出した。ここで、Rsは各条件で測定されたシート抵抗、tは各条件で測定された膜厚を示す。比抵抗(Ωcm)=Rs(Ω
□)×t(cm)
【0157】
そして自然状態(伸長率0%)と同様にして、万能試験機(島津製作所製、オートグラフAG−IS)を用いて、40%に伸長した時(伸長速度60mm/分)の比抵抗を測定した。また、参考データとして、20%に伸長した時(伸長速度60mm/分)の比抵抗も測定した。
【0158】
伸長率は以下の式により算出した。L0は試験片の標線間距離、ΔL0は試験片の標線間距離の増加分を示す。なお、伸長時のシート抵抗は、所定の伸長度に達してから30秒後の値を読み取った。
伸長率(%)=(ΔL0/L0)×100
【0159】
なお、導電性膜の伸長評価は、導電性ペーストを塗布した方向を試験片の伸長方向としたもの(表では、塗布方向伸長時比抵抗と表記)と、該塗布方向に対して直交する方向を試験片の伸長方向としたもの(表では、塗布方向垂直伸長時比抵抗と表記)との2つの伸長方向にて実施した。
【0160】
[等方性の評価]
伸縮性導体シート形成用ペーストの塗布方向と、塗布方向に対して直角の方向にそれぞれ幅20mm、長さ50mmにカットして試料片を作製した。それぞれの試験片を用いて、伸長率40%時の比抵抗を測定した。塗布方向と、塗布方向に対して直角方向の試験片での比抵抗の変化率(表では、40%伸長時比抵抗変化率と表記)を比較して等方性の評価とした。
等方性(%)={(塗布方向の比抵抗/塗布方向に対して直角方向の比抵抗)−1}×100
【0161】
[捻り性の評価]
初期状態の伸縮性導体シートの比抵抗と、捻り試験の捻りサイクルを100回繰り返した後の伸縮性導体シートの比抵抗とを算出し、以下の式により比抵抗の変化(表では、捻り試験後比抵抗変化と表記)を算出した。捻り試験は、試料として幅10mm、試験長さ100mm(試料の長手方向の片端を固定し、片端を回転させることにより捻りを加える。)の試験片を用い、捻りサイクルは正方向に10回転(3600°)捻り、初期状態に戻し、負方向に10回転(−3600°)捻り、初期状態に戻すサイクルとした。
比抵抗の変化(倍)=100回捻りサイクルを繰り返した後の伸縮性導体シートの比抵抗/初期状態の伸縮性導体シートの比抵抗
【0162】
[空隙率]
伸縮性導体シートの空隙率は、見かけ比重と仕込み比から求められる実比重とから算出した。下記表4−3に示した実施例31を厚さ方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡で1000倍で撮影した写真を
図3に示す。
【0163】
[耐圧縮性の評価]
離型PETフィルムに伸縮性導体シート形成用ペーストをスキージコーティングし、所定の条件で乾燥硬化させて厚さ100μmの伸縮性導体シートを得た。得られた伸縮性導体シートを、直径50mmの円形に打ち抜き、10枚重ね、これを試料とした。各試験片の中央部にて10枚の試料の比抵抗を測定し、平均値を求めた。これを試験前の比抵抗(初期比抵抗)ρiとした。
【0164】
次に、以下の圧縮操作を行った。圧縮操作は、島津製作所製の万能試験機を用い、下側を固定式厚盤とし、厚盤上に試料を置き、その上に底面を平坦にした直径20mm、高さ10mmの金属製円筒を置き、上部から球座式厚盤をあてがい、厚さ方向に10%の圧縮、および解放するサイクルを100回(1サイクル/秒)繰り返した。圧縮操作終了後の試料の各シート(10枚)の中央部の比抵抗を測定し、平均値を求めた。これを圧縮試験100回後の比抵抗ρeとした。
【0165】
上記ρiおよびρeに基づいて、下記式から圧縮試験後の比抵抗変化を求め、耐圧縮性を評価した。
比抵抗変化(倍)=ρe/ρi
【0166】
[洗濯耐久性]
洗濯の条件は、JIS L0844に準拠して行った。具体的には、機械洗濯器、洗濯ネット、洗剤(花王株式会社製アタック)を用い、5回連続洗濯後、1回陰干を1サイクルとして10サイクル繰り返した。50回洗濯後の伸縮性導体シートの比抵抗を測定し、初期比抵抗との変化(洗濯後の比抵抗/初期比抵抗)を求め、洗濯耐久性を評価した。
【0167】
本実施例では、柔軟性樹脂として、下記表1に示したR1〜R3を用いた。
[製造例]
<柔軟性樹脂(合成ゴム材料)の重合>
攪拌機、水冷ジャケットを備えたステンレス鋼製の反応容器に、ブタジエンを54質量部、アクリロニトリルを46質量部、脱イオン水を270質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.5質量部、ナフタレンスルホン酸ナトリウム縮合物を2.5質量部、t−ドデシルメルカプタンを0.3質量部、トリエタノールアミンを0.2質量部、炭酸ナトリウムを0.1質量部仕込んだ。窒素を流しながら浴温度を15℃に保ち、静かに攪拌した。次いで過硫酸カリウム0.3質量部を脱イオン水19.7質量部に溶解した水溶液を30分間かけて滴下し、さらに20時間反応を継続した後、ハイドロキノン0.5質量部を脱イオン水19.5質量部に溶解した水溶液を加えて重合停止操作を行った。なお、重合温度は15℃であった。
【0168】
次いで、未反応モノマーを留去させるために、まず反応容器内を減圧し、さらにスチームを導入して未反応モノマーを回収し、NBRからなる合成ゴムラテックス(L1)を得た。得られたラテックスに食塩と希硫酸を加えて凝集・濾過し、樹脂に対する体積比20倍量の脱イオン水を5回に分けて樹脂を脱イオン水に再分散、濾過を繰り返すことで洗浄し、空気中にて乾燥して柔軟性樹脂(合成ゴム樹脂)(R1)を得た。
【0169】
得られた柔軟性樹脂(合成ゴム樹脂)(R1)の評価結果を表1に示す。以下仕込み原料、重合条件、洗浄条件などを変えて同様に操作を行い、表1に示す柔軟性樹脂(R2)及び(R3)を得た。なお、表中の略号は以下の通りである。
NBR:アクロニトリルブタジエンゴム
SBR:スチレンブタジエンゴム(スチレン/ブタジエン=50/50質量%)
【0170】
【表1】
【0171】
本実施例では、無機粒子として、下記表2に示したP1〜P4を用いた。
<無機粒子P1(硫酸バリウム粒子)>
無機粒子P1として、SiO
2およびAl
2O
3によって表面処理されている硫酸バリウム粒子を次の手順で調製した。吸込口径40mm、吐出口径25mm、内容積850mL、インペラー回転数2380rpmのワーマンポンプを反応槽として用い、このポンプに濃度110g/L(1.1mol/L)、温度30℃の硫酸水溶液を700L/hの一定流量にて吸い込ませると共に、120g/L(0.71mol/L)、温度50℃の硫化バリウム水溶液を600L/hの一定流量にて吸い込ませることで調製した水スラリー(固形分95g/L)1000mLを60℃に昇温した。SiO
2として4.0g相当量の珪酸ナトリウムを純水100mLで希釈して20分で滴下し、次いで、Al
2O
3として2.0g相当量のアルミン酸ソーダを純水100mLで希釈し、20分で滴下した。さらに反応系を70℃に昇温し、30分撹拌後、希硫酸を用いて30分かけてpH8に中和した。10分撹拌してから、ろ過し、充分に水洗してから乾燥して、乾燥チップを得て、粗砕した後、気流式粉砕機で粉砕した。得られた粉体では、基材となる硫酸バリウム粒子と被着物の合計100質量%中、SiO
2として3.5質量%、Al
2O
3として1.7質量%が被着していた。動的光散乱法によって測定される平均粒子径は0.3μmであった。アスペクト比は1.3であった。
【0172】
<無機粒子P2(酸化チタン粒子)>
無機粒子P2として、堺化学工業製酸化チタン粒子R−62Nを用いた。平均粒子径は0.3μmであった。当該酸化チタン粒子は、SiO
2及びAl
2O
3で表面処理されていた。SiO
2及びAl
2O
3含有量は0.1質量%超であった。アスペクト比は1.4であった。
【0173】
<無機粒子P3(硫酸バリウム粒子)>
無機粒子P3として、竹原化学工業株式会社製の沈降性硫酸バリウムTS−1を用いた。無機粒子P1と同様に分析した結果、SiO
2の含有量は0.1質量%以下、Al
2O
3の含有量は0.1質量%以下で、実質的に含有しないものと判断した。同様の方法で求めた平均粒子径は0.6μmであった。アスペクト比は1.5であった。
【0174】
<無機粒子P4(硫酸バリウム粒子)>
無機粒子P4として、堺化学工業株式会社製の板状硫酸バリウムHFを用いた。無機粒子P1と同様に分析した結果SiO
2の含有量は0.1質量%以下、Al
2O
3の含有量は0.1質量%以下で、実質的に含有しないものと判断した。同様の方法で求めた平均粒子径は4.0μmであった。アスペクト比は13.3であった。
【0175】
【表2】
【0176】
本実施例では、導電性粒子(銀粒子)として、下記表3に示したD1〜D4を用いた。
<導電性粒子D1>
導電性粒子D1として鱗片状銀粉(DOWAエレクトロニクス社製のFA−D−3、平均粒子径1.3μm)を用いた。
【0177】
<導電性粒子D2>
導電性粒子D2として不定形凝集銀粉(DOWAエレクトロニクス社製のG−35、平均粒子径6.0μm)を用いた。
【0178】
<導電性粒子D3>
導電性粒子D3(凝集銀粒子D3)として導電性粒子D2(DOWAエレクトロニクス社製のG−35)を湿式分級した不定形凝集銀粉を用いた。平均粒子径は2.1μmであった。
【0179】
<導電性粒子D4>
導電性粒子D4(球状銀粒子D4)として球状銀粉(DOWAエレクトロニクス社製のAG2−1、平均粒子径1.3μm)を用いた。
【0180】
また、上記表2に示した無機粒子の平均粒子径と、下記表3に示した導電性粒子の平均粒子径との比(無機粒子の平均粒子径/導電性粒子の平均粒子径)を算出し、結果を上記表2に併せて示す。
【0181】
【表3】
【0182】
下記実験1では、第一の発明に係る伸縮性導体シートを調製し、シートの等方性を評価し、評価結果を下記表4−1に示した。下記実験2では、第二の発明に係る伸縮性導体シートを調製し、シートの捻り性を評価し、評価結果を下記表4−2に示した。下記実験3では、第三の発明に係る伸縮性導体シートを調製し、シートの耐圧縮性および洗濯耐久性を評価し、評価結果を下記表4−3に示した。
【0183】
(実験1)
[伸縮性導体シート形成用ペースト]
表4−1の通りに、各成分を配合した後、3本ロールミルにて混練し実施例11〜17及び比較例11〜13の伸縮性導体シート形成用ペーストを調製した。
【0184】
[伸縮性導体シート]
表4−1に示した実施例11〜17及び比較例11〜13の伸縮性導体シート形成用ペーストをテフロン(登録商標)シート上にアプリケーターによりコーティングして製膜し(塗布方向(A))、120℃で20分間乾燥し、厚さ50μmの伸縮性導体シートを形成した。得られた伸縮性導体シートについて、上述した方法にて、自然状態(伸長率0%)の比抵抗を測定した。また、塗布方向(A)における40%伸張時及び塗布方向(A)に対して垂直方向(B)における40%伸張時の比抵抗をそれぞれ測定し、比抵抗の変化率(40%伸長時比抵抗変化率)を算出した。結果を下記表4−1に示す。下記表4−1には、参考データとして、20%に伸長したときの比抵抗を測定した結果も併せて示した。
【0185】
下記表4−1から明らかなように、実施例11〜17は、第一の発明で規定する要件を満足するため、得られた伸縮性導電体シートの等方性は良好であった。一方、比較例11で用いたペーストは、第一の発明で規定する要件を満足しないため、等方性は改善されなかった。比較例12は、無機粒子を含有しないため、等方性を改善できなかった。比較例13は、無機粒子に、Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物が表面処理されていないため、等方性は改善されなかった。
【0186】
【表4-1】
【0187】
(実験2)
[伸縮性導体シート形成用ペースト]
表4−2の通りに、各成分を配合した後、3本ロールミルにて混練し実施例21〜27及び比較例21〜23の伸縮性導体シート形成用ペーストを調製した。
【0188】
[伸縮性導体シート]
実施例21〜27及び比較例21〜23の伸縮性導体シート形成用ペーストをテフロン(登録商標)シート上にアプリケーターによりコーティングして製膜し、120℃で20分間乾燥し、厚さ50μmの伸縮性導体シートを形成した。得られた伸縮性導体シートについて、上述した方法にて、初期状態の伸縮性導体シートの比抵抗と、捻り試験の捻りサイクルを100回繰り返した伸縮性導体シートの比抵抗をそれぞれ測定し、比抵抗の変化(捻り試験の捻りサイクルを100回繰り返した伸縮性導体シートの比抵抗/初期状態の伸縮性導体シートの比抵抗)を算出した。以下、各成分とその量、比抵抗、比抵抗変化を表4−2に示す。
【0189】
下記表4−2から明らかなように、実施例21〜27は、第二の発明で規定する要件を満足するため、得られた伸縮性導電体シートの捻り性は良好であった。一方、比較例21で用いたペーストは、第二の発明で規定する要件を満足しないため、捻り性は改善されなかった。比較例22は、無機粒子を含有しないため、捻り性を改善できなかった。比較例23は、無機粒子のアスペクト比が1.5以上であったため、捻り性を改善できなかった。
【0190】
【表4-2】
【0191】
(実験3)
[伸縮性導体シート形成用ペースト]
表4−3の通りに、各成分を配合した後、3本ロールミルにて混練し実施例31〜39及び比較例31、32の伸縮性導体シート形成用ペーストを調製した。
【0192】
[伸縮性導体シート]
実施例31〜39及び比較例31、32の伸縮性導体シート形成用ペーストをテフロン(登録商標)シート上にアプリケーターによりコーティングして製膜し、120℃で20分間乾燥し、厚さ50μmの伸縮性導体シートを形成した。得られた伸縮性導体シートについて、上述した方法にて、初期比抵抗及び10%圧縮時の比抵抗をそれぞれ測定し、比抵抗の比を算出した。また、洗濯後の比抵抗(洗濯耐久性)、洗濯耐久性比抵抗変化(洗濯後の比抵抗/初期比抵抗)を評価した。以下、各成分とその量、空隙率、比抵抗、比抵抗変化、洗濯後の比抵抗(洗濯耐久性)、洗濯耐久性比抵抗変化(洗濯後の比抵抗/初期比抵抗)を表4−3に示す。
【0193】
下記表4−3から明らかなように、実施例31〜39は、第三の発明で規定する要件を満足するため、得られた伸縮性導電体シートの耐圧縮性および洗濯耐性は良好であった。一方、比較例31、32で用いたペーストは、第三の発明で規定する要件を満足しないため、耐圧縮性および洗濯耐性は改善されなかった。
【0194】
【表4-3】
【0195】
[応用例1(配線の作製)]
上記実験1〜実験3で得られた伸縮性導体シート形成用ペーストを導電層に用い、当該シートの両面に第1絶縁層及び第2絶縁層を設けた積層体を作製し、これを馬蹄形状に切断して馬蹄配線(波形配線)を作製した。
【0196】
(絶縁層形成用樹脂)
ポリウレタン樹脂(荒川化学工業社製「ユリアーノ(登録商標)W600」(ポリエステル系アニオン性水性ポリウレタン、ウレタン樹脂含有量35質量%、イソプロピルアルコール5質量%、粘度300〜30mPa・s(25℃))9質量部に、増粘剤(センカ社製「アクトゲルAP200」、アクリル酸系重合物)1質量部と水10質量部との混合液4質量部を混合して、絶縁層形成用樹脂とした。
【0197】
絶縁層形成用樹脂を、第一絶縁層の膜厚(乾燥膜厚)が35μmとなるように離型シートに塗布し、100℃の熱風乾燥オーブンで20分以上乾燥することにより、第一絶縁層を形成した。
【0198】
次に、実施例12、実施例22、または実施例31で調製した伸縮性導体シート形成用ペーストを離型シートの上に乾燥膜厚60μmとなるように塗布し、120℃の熱風乾燥オーブンで30分以上乾燥することにより、シート状の離型シート付き導電層を作製した。この離型シートに付き導電層を長さ15cm、幅1cmに切り出して、離型シートを剥がし、上記第1絶縁層の上に、導電層を積層した。
【0199】
次に、積層した導電層を覆うような長さ10cm、幅3cmの領域に、上記第1絶縁層を形成したものと同じ絶縁層形成用樹脂を、乾燥膜厚35μmとなるように塗布し、100℃の熱風乾燥オーブンで20分以上乾燥することにより、第2絶縁層を形成し、導電性積層体を得た。この積層体を馬蹄形状に切断し、馬蹄形配線を作製した(
図7参照)。得られた馬蹄形配線は、いずれも伸縮特性を示した。
【0200】
[応用例2]
ニット製スポーツウェア(シャツ)の前側の裾から襟部まで50mm、長さ450mmの矩形パターンに、水分散性ウレタン樹脂を乾燥目付で50mg/cm
2となるようにコーティングし、乾燥硬化させてウレタン下地層を形成した。次いでウレタン樹層上に幅10mm、長さ430mmの配線2本をウレタン下地層の端からの距離がおおむね10mmとなるように配置して、乾燥膜厚が28μmとなるように、実施例11、実施例21、または実施例32で得られた伸縮性導体シート形成用ペーストを用いて、スクリーン印刷により形成し、ドライオーブンにて120℃30分間、乾燥硬化し、配線付きスポーツシャツを得た。得られた配線の各々裾部15mm、襟部15mmをマスキングテープで覆い、水分散性ウレタンをコーティングし、さらに乾燥することにより、配線部の絶縁を施した。さらにマスキングテープを剥がし、マスキングテープで覆われていた部分を覆うようにスクリーン印刷法にて伸縮性カーボンペーストC17(柔軟性樹脂(R1)24質量部、ケッチェンブラック4質量部、イソホロン30質量部を予備撹拌した後に、三本ロールミルにて混練分散したもの)を乾燥膜厚15μmとなるように印刷し、120℃20分間乾燥硬化し、その部分を電極部とした。
【0201】
得られた配線付きスポーツシャツの電極裾部と襟部に、ステンレス鋼製ホックを、縫い糸と導電糸を併用して縫い付け、さらに裾部と襟部の双方のホックを用いて着脱可能なミニピンジャックを取り付けた。該ミニピンジャック付きスポーツシャツを介して、ヘッドホンステレオを接続したところ、静止時およびジョギング中ともに良好な音質で再生した音楽を鑑賞することができた。
【0202】
[応用例3]
5mm厚のプラスチック板で作られた平面状の手形に、合成皮革製の手袋を、皺が出ないように履かせ、スクリーン印刷機を用いて、実施例11、実施例21、または実施例32で得られた伸縮性導体シート形成用ペーストを、
図4に示す導電パターン状に印刷した。次いで、100℃にて120分間乾燥し、配線付き手袋を得た。得られた配線付き手袋の手首相当部分の電極に導電性接着剤を用いてリード線を取り付け、各関節の屈曲に応じた配線の抵抗変化が多チャンネルの抵抗測定器により読み取れるように構成した。
【0203】
得られた装置構成を用いて、まず、右手に手袋型入力装置を装着し、手を開いた状態:じゃんけんの「パー」状態での各関節相当部の抵抗値を初期値、握り拳状態:じゃんけんの「グー」状態での抵抗値を限界値として設定し、その間の各関節の抵抗変化幅を64階調に分け、各関節の屈伸状態と対応させ、ソフトウエアにてCG合成した手指の三次元画像を動作させた。得られたCG手指の動作は自然で滑らかで良好であった。また「じゃんけん」や、指文字のような複雑な動作についても再現可能であった。
【0204】
[応用例4]
厚さ125μmの離型PETフィルムに、まずカバーコート層となる伸縮性絶縁樹脂インク(C18)(エポキシ樹脂7.5質量部、柔軟性樹脂(R2)30質量部、硬化剤0.5質量部をイソホロン30質量部に混合溶解したもの)を所定のパターンに印刷し、乾燥硬化した。パターンは電極部の周囲をリング状にカバーするランド部と伸縮性導体から成る電気配線部をカバーする絶縁コート部に相当する。ランド部は後述する電極パターンの外周3mmを覆い、リングの幅は5mmである。絶縁コート部は幅16mmであり、幅10mmとなる伸縮性導体をカバーする。カバーコート層の乾燥厚さは20μmとなるように調製した。
【0205】
次いで電極部分となる箇所に伸縮性カーボンペースト(C17)(柔軟性樹脂(R1)24質量部、ケッチェンブラック4質量部、イソホロン30質量部を予備撹拌した後に、三本ロールミルにて混練分散したもの)を印刷し、乾燥硬化した。電極部は先に印刷されたカバーコート層のリングと同心円的に配置された直径50mmの円である。伸縮性カーボンペースト層の乾燥膜厚は15μmとした。
【0206】
次いで、伸縮性導体となる実施例12、実施例22、または実施例31にて得られた伸縮性導体シート形成用ペーストを用いて電極部と電気配線部を印刷した。電極部は直径50mmのドーナツ形であり、リング状ランド部と同心円的に配置される。電気配線部は幅10mmである。伸縮性導体部分の厚さは印刷〜乾燥を繰り返し、乾燥厚さを50μmとした(
図5参照)。
【0207】
さらにカバーコート層に用いた伸縮性絶縁樹脂インクを、カバーコート層を含め印刷されている全てのパターンと重なるように印刷し、溶剤を意図的に残し、タック性が残るように60℃10分間の弱い乾燥操作を行い、転写性の印刷電極配線シートを得た。ついで、以上の工程により得られた転写性の印刷電極配線を裏返したスポーツシャツの所定部分に重ね、ホットプレスして印刷物を離型PETフィルムからスポーツシャツに転写し、さらに115℃にて30分間乾燥し、電気配線付きスポーツシャツを得た(
図6参照)。
【0208】
得られた電気配線付きスポーツシャツは、左右の後腋窩線上と第7肋骨との交差点に直径50mmの円形電極があり、さらに円形電極から胸部中央までの幅10mmの伸縮性導体組成物による電気配線が内側に形成されている。なお左右の電極から胸部中央に伸びる配線は、頸部背面中央にて5mmのギャップを持ち、両者は短絡されていない(
図6参照)。
【0209】
続いて、左右の配線部のカバーコート層が無い頸部背面中央のスポーツシャツの表面側にステンレススチール製のホックを取り付け、裏側の配線部と電気的導通を確保するために金属細線を撚り込んだ導電糸を用いて伸縮性導体組成物層とステンレススチール製ホックとを電気的に接続した。
【0210】
ステンレススチール製ホックを介して、ユニオンツール社製の心拍センサWHS−2を接続し、同心拍センサWHS−2専用のアプリ「myBeat」を組み込んだアップル社製スマートホンで心拍データを受信し、画面表示できるように設定した。以上のようにして心拍計測機能を組み込んだスポーツシャツを作製した。本シャツを被験者に着用させ、安静時、歩行時、ランニング時、自転車走行時、自動車運転時、睡眠時、について心電データを取得した。得られた心電データはノイズが少なく、高解像度で、心電図としてメンタルな状態、体調、疲労度、眠気、緊張度合いなどを心拍間隔の変化、心電波形などから解析可能な品位を有していた。