特許第6973378号(P6973378)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許6973378強化繊維積層シートおよび繊維強化樹脂成形体ならびに強化繊維積層シートの製造方法
<>
  • 特許6973378-強化繊維積層シートおよび繊維強化樹脂成形体ならびに強化繊維積層シートの製造方法 図000007
  • 特許6973378-強化繊維積層シートおよび繊維強化樹脂成形体ならびに強化繊維積層シートの製造方法 図000008
  • 特許6973378-強化繊維積層シートおよび繊維強化樹脂成形体ならびに強化繊維積層シートの製造方法 図000009
  • 特許6973378-強化繊維積層シートおよび繊維強化樹脂成形体ならびに強化繊維積層シートの製造方法 図000010
  • 特許6973378-強化繊維積層シートおよび繊維強化樹脂成形体ならびに強化繊維積層シートの製造方法 図000011
  • 特許6973378-強化繊維積層シートおよび繊維強化樹脂成形体ならびに強化繊維積層シートの製造方法 図000012
  • 特許6973378-強化繊維積層シートおよび繊維強化樹脂成形体ならびに強化繊維積層シートの製造方法 図000013
  • 特許6973378-強化繊維積層シートおよび繊維強化樹脂成形体ならびに強化繊維積層シートの製造方法 図000014
  • 特許6973378-強化繊維積層シートおよび繊維強化樹脂成形体ならびに強化繊維積層シートの製造方法 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973378
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】強化繊維積層シートおよび繊維強化樹脂成形体ならびに強化繊維積層シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20211111BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20211111BHJP
   B32B 7/14 20060101ALI20211111BHJP
   B32B 37/04 20060101ALI20211111BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B32B5/26
   B32B5/28 Z
   B32B7/14
   B32B37/04
   C08J5/04CFC
【請求項の数】17
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-509335(P2018-509335)
(86)(22)【出願日】2017年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2017012881
(87)【国際公開番号】WO2017170685
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2020年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-70827(P2016-70827)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-70828(P2016-70828)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「高生産性・高信頼性脱オートクレーブCFRP構造部材の知的生産技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三浦 真吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 將之
(72)【発明者】
【氏名】樋野 豊和
【審査官】 塩屋 雅弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−132650(JP,A)
【文献】 特開2007−276453(JP,A)
【文献】 特開2006−192745(JP,A)
【文献】 特開2005−022396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08−15/14
B29C41/00−41/36
41/46−41/52
70/00−70/88
B32B 1/00−43/00
C08J 5/04−5/10
5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に引き揃えられている複数の強化繊維束からなり、同一層内の強化繊維束間に直接的な拘束力のない第1、第2の強化繊維束層が、互いに繊維配向が異なるように配置されてなり、かつ、前記第1、第2の強化繊維束層の層間が固着素子によって互いに固着されていることで、前記第1、第2の強化繊維束層が一体化されてなる強化繊維積層シートであって、以下の条件(i)かつ(ii)を満たし、前記固着素子の平均直径φ(μm)が10μm以上500μm以下である強化繊維積層シート。
(i)前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、複数の固着素子を含む固着部分を有し、前記固着部分の平均面積Sが100mm以下である
(ii)前記固着部分内において、前記固着素子の前記固着部分に対する面積割合が、0.1%以上80%以下である
【請求項2】
さらに以下の条件(iii)を満たす、請求項1に記載の強化繊維積層シート。
(iii)前記固着素子が、粒子状もしくは繊維集合体状の固着材が溶融したものである
【請求項3】
前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、前記固着部分を少なくとも1箇所含む固着領域を有し、前記強化繊維積層シートに対する前記固着領域の面積割合が30%以上100%以下である請求項1または2に記載の強化繊維積層シート。
【請求項4】
固着領域に対する固着部分の面積割合が1%以上50%以下である固着領域を少なくとも一つ有する、請求項1〜3のいずれかに記載の強化繊維積層シート。
【請求項5】
請求項3または4に記載の強化繊維積層シートであって、さらに以下の条件(iv)を満たす、強化繊維積層シート。
(iv)前記固着部分の中心が多角形状の格子状に配置される前記固着領域を有すること
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の強化繊維積層シートであって、さらに以下の条件(v)を満たす、強化繊維積層シート。
(v)前記固着部分の中心が1辺の長さL(mm)の正多角形状の格子状に配置され、前記長さL(mm)が以下の式(1)を満たすこと
1≦L≦50 (1)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の強化繊維積層シートとマトリックス樹脂とからなる繊維強化樹脂成形体。
【請求項8】
以下の工程(a)〜(c)を有する、強化繊維積層シートの製造方法。
(a)複数の強化繊維束をテーブル上に一方向に引き揃えて配置し、同一層内の強化繊維束間に直接的な拘束力のない第1の強化繊維束層を得る、第1の強化繊維束層配置工程
(b)前記第1の強化繊維束層の上に、さらに複数の強化繊維束を前記第1の強化繊維束層の繊維方向とは異なる方向に、一方向に引き揃えて配置し、同一層内の強化繊維束間に直接的な拘束力のない第2の強化繊維束層を得て強化繊維積層体とする、第2の強化繊維束層配置工程
(c)前記強化繊維積層体と接触する面に有する突起を介し、部分的に前記強化繊維積層体を加熱および/または加圧し、前記第1の強化繊維束層と前記第2の強化繊維束層の層間の固着材を溶融させるシート化機構を用いて、以下の条件(i)かつ(ii)を満たし、前記第1、第2の強化繊維束層の層間に存在する固着材のうち、固着に関与するものである固着素子の平均直径φ(μm)が10μm以上500μm以下である強化繊維積層シートを得る、シート化工程
(i)前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、複数の固着素子を含む固着部分を有し、前記固着部分の平均面積Sが100mm以下である
(ii)前記固着部分内において、前記固着素子の前記固着部分に対する面積割合が、0.1%以上80%以下である
【請求項9】
前記(c)における強化繊維積層シートが、さらに以下の条件(iii)を満たす請求項8に記載の強化繊維積層シートの製造方法。
(iii)前記固着素子が、粒子状もしくは繊維集合体状の固着材が溶融したものである。
【請求項10】
前記工程(a)と(b)の間に、以下の工程(a1)を有する、請求項8または9に記載の強化繊維積層シートの製造方法。
(a1)前記第1の強化繊維束層上に固着材を配置する、固着材配置工程
【請求項11】
前記工程(a)および/または前記工程(b)における強化繊維束が、固着材が付着した強化繊維束である、請求項8〜10のいずれかに記載の強化繊維積層シートの製造方法。
【請求項12】
前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、前記固着部分を少なくとも1つ含む固着領域を有し、前記強化繊維積層シートに対する前記固着領域の面積割合が30%以上100%以下である、請求項8〜11のいずれかに記載の強化繊維積層シートの製造方法。
【請求項13】
前記固着領域に対する固着部分の面積割合が1%以上50%以下である固着領域を少なくとも一つ有する、請求項12に記載の強化繊維積層シートの製造方法。
【請求項14】
請求項12または3に記載の強化繊維積層シートの製造方法であって、さらに以下の条件(iv)を満たす、強化繊維積層シートの製造方法。
(iv)前記固着部分の中心が多角形状の格子状に配置される前記固着領域を有すること
【請求項15】
請求項8〜14のいずれかに記載の強化繊維積層シートの製造方法であって、さらに以下の条件(v)を満たす、強化繊維積層シートの製造方法。
(v)前記固着部分の中心が1辺の長さL(mm)の正多角形状の格子状に配置され、前記長さL(mm)が以下の式(1)を満たすこと
1≦L≦50 (1)
【請求項16】
前記工程(c)と同時か、工程(c)の後に、以下の工程(d)を有する、請求項8〜15のいずれかに記載の強化繊維積層シートの製造方法。
(d)前記強化繊維積層シートの端部の少なくとも一部において固着枠を形成する、固着枠形成工程
【請求項17】
前記テーブルが前記強化繊維束を吸着し、保持する手段を有し、前記手段が静電気的引力を用いた機構、および/または、空気の流動によって発生する引力を用いた機構を有する、請求項8〜16のいずれかに記載の強化繊維積層シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維積層シート、および前記強化繊維積層シートとマトリックス樹脂とからなる繊維強化樹脂成形体、さらには強化繊維積層シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂(Fiber Reinforced Plastic:FRP)、その中でも炭素繊維を用いた炭素繊維強化樹脂(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP)は、軽量で強度や剛性などの機械特性に優れる。そのため、その特性を活かして、近年、航空・宇宙や自動車等の輸送用機器、スポーツ用途、産業用途などへの適用が進んでいる。
【0003】
FRPの代表的な製造方法として、オートクレーブ成形法やレジン・トランスファー・モールディング(RTM)法、真空注入成形(VaRTM)法が知られている。これまで、高い信頼性と品質が特に要求される航空機部材の成形には、プリプレグを用いたオートクレーブ成形法が用いられてきた。この方法では、例えば、一方向に配列した強化繊維束群にマトリックス樹脂を予め含浸させたプリプレグを、成形型に積層し、必要に応じてバッグ材で覆って、オートクレーブにて加熱・加圧し、FRPからなる成形体を得る。
【0004】
前記のプリプレグの積層工程では、近年、細幅にスリットされたプリプレグを積層していくオートマチック・テープ・レイアップ(ATL)装置が用いられている。ATL装置を用いることで、特に凹凸が少なく広い面形状の部材に対して、積層工程の自動化・材料歩留まりの向上が図られている。一方、凹凸が多い形状や立体的に複雑な形状では、この装置の適用が困難である。そのため、プリプレグの積層体を目的の形状に合わせた賦形型を用いるなどして変形させる方法が試みられている。しかし、プリプレグは、含浸されたマトリックス樹脂が強化繊維を拘束しているため、細かな凹凸や複雑な立体形状に対して十分な変形性を得られるものではない。これがしわの発生につながり、機械的特性に悪影響を及ぼすこととなる。
【0005】
さらに、このプリプレグを用いた航空機部材の成形においては、一般に、高額なオートクレーブ設備が用いられる。特に、主翼や尾翼などの大型部材の成形では、巨大なオートクレーブが用いられるため、製造コストを抑制することが困難であった。
【0006】
そこで、大型のオートクレーブが不要で、かつ、サイクルタイムの短縮を図ることが可能なRTM成形法、VaRTM成形法を用いることの検討が進められている。これらの成形方法は、マトリックス樹脂が含浸されていないドライな布帛等の基材の積層体、あるいは、積層体をさらに所望の形状に賦形したプリフォームと呼ばれる成形前駆体を、成形型に配置し、型締め後に低粘度の液状マトリックス樹脂を注入することにより、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させて、FRPからなる成形体を得るものである。これらの成形方法に用いられるドライな布帛等の基材として、強化繊維束を平織や綾織などの形態で製織した織物基材、あるいは平行に引き揃えた強化繊維束を、補助糸を用いてステッチングなどの方法で係合し、形態保持させたノンクリンプ基材が用いられてきた。これらの基材はいずれも、予め作製された、布帛面内で隣接する強化繊維束が予め拘束されることで一体化されている、一定の幅および目付で長手方向に連続した形態を有する強化繊維基材であると言える。従って、このような基材は、マトリックス樹脂で強化繊維が強く拘束されるようなことがない。そのため、曲面形状や凹凸形状、複雑な立体形状であっても、プリプレグと比較して所望の形状に変形させることが容易であり、適切に賦形させれば機械的特性に悪影響を及ぼすしわを抑制できるということが特徴を有する。
【0007】
さらに、近年では、RTM成形法、VaRTM成形法においても、強化繊維を必要な場所のみに、必要長さ分ずつ順次配置して強化繊維基材を得る、AFP(Automated Fiber Placement)法が、生産性が高く、かつ、強化繊維の廃棄量を大幅に低減させることが出来る技術として、注目されている。
【0008】
AFP法においては、例えば、ドライの強化繊維束を一方向かつ平面状に引き揃えてひとつの強化繊維束層を形成し、隣り合う強化繊維束を拘束したり、前記層を複数層積層して層間を拘束したりすることにより、シート形態を形成する。シート形態を形成するための強化繊維束(層)の拘束手段としては、樹脂を用いた接着による拘束や、縫合糸を用いた縫合による拘束等が試みられている。
【0009】
例えば、特許文献1では、シート状ベース基材上の所定位置に複数の強化繊維束を一方向に配置し、強化繊維束をベース基材上にランダムに接着することにより、シート形態を形成する技術が開示されている。かかる技術により作製された強化繊維シートは、ベース基材に強化繊維束が接着されることで、強化繊維シートとして一体化することを可能とした。
【0010】
一方、AFP法ではないが、特許文献2が開示するように、一方向強化繊維層と、この層と繊維配向の異なる他の一方向強化繊維層との間に熱可塑性樹脂材料からなる固着材を配置して、これらを熱融着するようにした強化繊維基材が知られている。
【0011】
また、強化繊維層間の拘束手段として、例えば、特許文献3に開示されるように、固着材が付与された強化繊維層間を部分的に固着し、強化繊維積層体の変形性を向上させる技術が知られている。
【0012】
特許文献2または3に開示された技術は、目留め糸や補助糸等によって隣接する強化繊維束が拘束された織物基材を積層したものに有効な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2014−159099号公報
【特許文献2】特開2009−235182号公報
【特許文献3】特開2007−276453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に開示された方法で作製された強化繊維シートは、複雑で大きな曲面を有する3次元形状に対しては、ベース基材にスリットが入っているとはいえ、シートの賦形性が比較的低くなり、しわや強化繊維のヨレを発生させることなく賦形させることが十分にできなかった。また、成形品によっては不必要なベース基材を用いなければいけない点も課題であった。
【0015】
また、特許文献2または3に開示された技術では、AFP法によって配置された、互い直接的に拘束されていない強化繊維束を一体化し、シートとして成立させることには用いることが出来なかった。これらは、織り構造により隣接した繊維同士が互いに拘束されたシート同士の層間を、部分的に固着したに過ぎず、AFP法で得られるシートに特有の「互いに異なる長さで隣接して引き揃えられている強化繊維」同士を固着することについて、何ら解決する手段を示していない。すなわち、AFP法で得られる強化繊維束層間を拘束する場合特有の、未拘束の強化繊維束間を適切な固着力で拘束して、繊維配向を乱さず、かつ、しわや強化繊維のヨレを発生させることなく賦形させるための課題については、解決する手段が開示されておらず、これらの特許文献を参考にしても十分な賦形性を有する強化繊維積層シートを得ることができなかった。
【0016】
上記のとおり、ベース基材等の別基材を用いずに未拘束の強化繊維束間を適切な固着力で拘束して、繊維配向を乱さず、かつ、しわや強化繊維のヨレを発生させることなく賦形するような、十分な賦形性を有する強化繊維積層シートはこれまで得ることができなかった。
【0017】
さらに、賦形性を向上させるために、単に強化繊維束の拘束力を弱めただけでは、強化繊維束が容易にずれたり剥がれたりするため、強化繊維積層シートとしての形態を維持することができなかった。その結果、後工程に強化繊維シートを搬送できなかったり、賦形した際にしわやヨレ、剥がれが発生したりするなどして、強化繊維シートとして用いることが全くできなかった。当然、このような強化繊維シートをRTM法で成形しても、得られる成形体は強化繊維層のしわ等が残されたものであり、所望の力学物性を得ることは到底できないものであった。
【0018】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術の現状に鑑み、直接拘束されていない、隣接する強化繊維束同士を一体化することで、シートとして取り扱うことを可能としつつ、かつ、賦形時にシートとしての形態を保ちながら型の形状に沿って変形することを可能とする強化繊維積層シート、および、この強化繊維積層シートの製造方法を提供することにある。また、前記の強化繊維積層シートを用いて、賦形時に生じたしわ等の欠陥がなく、優れた成形性を有する繊維強化樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
AFP法において、繊維束の層間を拘束する手段に樹脂バインダーを固着材として用いる方法が検討されてきた。しかしながら、シートの賦形性と形態安定性という、相反する特性の両立は、従来技術の組み合わせでは困難であった。
【0020】
そこで、発明者らは鋭意検討を進めた結果、互いに繊維配向が異なるように配置された一方向強化繊維束層の層間に存在する固着素子を特定の形態で固着させることで、賦形性もシートの形態安定性も優れた強化繊維積層シートが得られることを見出した。なお、「固着素子」とは、強化繊維束層の層間に存在する固着材のうち、固着に関与するものをいう。
【0021】
本発明は、前記の課題を解決するために以下の構成を取るものである。すなわち、
(1)一方向に引き揃えられている複数の強化繊維束からなり、同一層内の強化繊維束間に直接的な拘束力のない第1、第2の強化繊維束層が、互いに繊維配向が異なるように配置されてなり、かつ、前記第1、第2の強化繊維束層の層間が固着素子によって互いに固着されていることで、前記第1、第2の強化繊維束層が一体化されてなる強化繊維積層シートであって、以下の条件(i)かつ(ii)を満たす強化繊維積層シート。
(i)前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、固着素子を少なくとも1つ含む固着部分を有し、前記固着部分の平均面積Sが100mm以下である
(ii)前記固着部分内において、前記固着素子の前記固着部分に対する面積割合が、0.1%以上80%以下である
(2)一方向に引き揃えられている複数の強化繊維束からなり、同一層内の強化繊維束間に直接的な拘束力のない第1、第2の強化繊維束層が、互いに繊維配向が異なるように配置されてなり、かつ、前記第1、第2の強化繊維束層の層間が固着素子によって互いに固着されていることで、前記第1、第2の強化繊維束層が一体化されてなる強化繊維積層シートであって、以下の条件(i)かつ(iii)を満たす強化繊維積層シート。
(i)前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、固着素子を少なくとも1つ含む固着部分を有し、前記固着部分の平均面積Sが100mm以下である
(iii)前記固着素子が、粒子状もしくは繊維集合体状の固着材が溶融したものである
(3)前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、前記固着部分を少なくとも1箇所含む固着領域を有し、前記強化繊維積層シートに対する前記固着領域の面積割合が30%以上100%以下である上記(1)または(2)に記載の強化繊維積層シート。
(4)固着領域に対する固着部分の面積割合が1%以上50%以下である固着領域を少なくとも一つ有する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の強化繊維積層シート。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の強化繊維積層シートであって、さらに以下の条件(iv)を満たす、強化繊維積層シート。
(iv)前記固着部分の中心が多角形状の格子状に配置される前記固着領域を有すること
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の強化繊維積層シートであって、さらに以下の条件(v)を満たす、強化繊維積層シート。
(v)前記固着部分の中心が1辺の長さL(mm)の正多角形状の格子状に配置され、前記長さL(mm)が以下の式(1)を満たすこと
1≦L≦50 (1)
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の強化繊維積層シートとマトリックス樹脂とからなる繊維強化樹脂成形体。
(8)以下の工程(a)〜(c)を有する、強化繊維積層シートの製造方法。
(a)複数の強化繊維束をテーブル上に一方向に引き揃えて配置し、同一層内の強化繊維束間に直接的な拘束力のない第1の強化繊維束層を得る、第1の強化繊維束層配置工程
(b)前記第1の強化繊維束層の上に、さらに複数の強化繊維束を前記第1の強化繊維束層の繊維方向とは異なる方向に、一方向に引き揃えて配置し、同一層内の強化繊維束間に直接的な拘束力のない第2の強化繊維束層を得て強化繊維積層体とする、第2の強化繊維束層配置工程
(c)前記強化繊維積層体と接触する面に有する突起を介し、部分的に前記強化繊維積層体を加熱および/または加圧し、前記第1の強化繊維束層と前記第2の強化繊維束層の層間の固着材を溶融させるシート化機構を用いて、以下の条件(i)かつ(ii)を満たす強化繊維積層シートを得る、シート化工程
(i)前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、固着素子を少なくとも1つ含む固着部分を有し、前記固着部分の平均面積Sが100mm以下である
(ii)前記固着部分内において、前記固着素子の前記固着部分に対する面積割合が、0.1%以上80%以下である
(9)以下の工程(a)〜(c)を有する、強化繊維積層シートの製造方法。
(a)複数の強化繊維束をテーブル上に一方向に引き揃えて配置し、同一層内の強化繊維束間に直接的な拘束力のない第1の強化繊維束層を得る、第1の強化繊維束層配置工程
(b)前記第1の強化繊維束層の上に、さらに複数の強化繊維束を前記第1の強化繊維束層の繊維方向とは異なる方向に、一方向に引き揃えて配置し、同一層内の強化繊維束間に直接的な拘束力のない第2の強化繊維束層を得て強化繊維積層体とする、第2の強化繊維束層配置工程
(c)前記強化繊維積層体と接触する面に有する突起を介し、部分的に前記強化繊維積層体を加熱および/または加圧し、前記第1の強化繊維束層と前記第2の強化繊維束層の層間の固着材を溶融させるシート化機構を用いて、以下の条件(i)かつ(iii)を満たす強化繊維積層シートを得る、シート化工程
(i)前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、固着素子を少なくとも1つ含む固着部分を有し、前記固着部分の平均面積Sが100mm以下である。
(iii)前記固着素子が、粒子状もしくは繊維集合体状の固着材が溶融したものである。
(10)前記工程(a)と(b)の間に、以下の工程(a1)を有する、上記(8)または(9)に記載の強化繊維積層シートの製造方法。
(a1)前記第1の強化繊維束層上に固着材を配置する、固着材配置工程
(11)前記工程(a)および/または前記工程(b)における強化繊維束が、固着材が付着した強化繊維束である、上記(8)〜(10)のいずれかに記載の強化繊維積層シートの製造方法。
(12)前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、前記固着部分を少なくとも1つ含む固着領域を有し、前記強化繊維積層シートに対する前記固着領域の面積割合が30%以上100%以下である、上記(8)〜(11)のいずれかに記載の強化繊維積層シートの製造方法。
(13)前記固着領域に対する固着部分の面積割合が1%以上50%以下である固着領域を少なくとも一つ有する、上記(12)に記載の強化繊維積層シートの製造方法。
(14)上記(8)〜(12)のいずれかに記載の強化繊維積層シートの製造方法であって、さらに以下の条件(iv)を満たす、強化繊維積層シートの製造方法。
(iv)前記固着部分の中心が多角形状の格子状に配置される前記固着領域を有すること
(15)上記(8)〜(14)のいずれかに記載の強化繊維積層シートの製造方法であって、さらに以下の条件(v)を満たす、強化繊維積層シートの製造方法。
(v)前記固着部分の中心が1辺の長さL(mm)の正多角形状の格子状に配置され、前記長さL(mm)が以下の式(1)を満たすこと
1≦L≦50 (1)
(16)前記工程(c)と同時か、工程(c)の後に、以下の工程(d)を有する、上記(8)〜(15)のいずれかに記載の強化繊維積層シートの製造方法。
(d)前記強化繊維積層シートの端部の少なくとも一部において固着枠を形成する、固着枠形成工程
(17)前記テーブルが前記強化繊維束を吸着し、保持する手段を有し、前記手段が静電気的引力を用いた機構、および/または、空気の流動によって発生する引力を用いた機構を有する、上記(8)〜(16)のいずれかに記載の強化繊維積層シートの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の強化繊維積層シートは、従来の織物基材と同等の形態安定性を示しながらも、高い賦形性を発揮する。
【0023】
また、本発明の強化繊維積層シートの製造方法によれば、本発明の強化繊維積層シートを得ることができる。
【0024】
また、本発明の繊維強化樹脂成形体は、賦形時のしわによって生じる欠陥等がなく、優れた成形性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明における強化繊維積層シートの一例を示す模式図である。
図2】本発明における固着部分に係る格子の一例を示す模式図である。
図3】本発明における強化繊維積層シートの一例を示す模式図である。
図4】本発明に係る強化繊維積層シートの製造方法の一実施態様を示す、フローチャート図である。
図5】本発明に係る固着素子、固着部分、固着領域の関係を説明する模式図を示す。
図6】本発明に係る強化繊維積層シートの製造方法の別の実施態様を示す、フローチャート図である。
図7】本発明に係る強化繊維積層シートの賦形性の評価に用いた単純要素型の概略斜視図である。
図8】本発明に係る強化繊維積層シートの賦形性および繊維強化樹脂成形体の成形性の評価に用いたモデル形状型1の斜視図である。
図9】本発明に係る強化繊維積層シートの賦形性および繊維強化樹脂成形体の成形性の評価に用いたモデル形状型2の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の強化繊維積層シートは、一方向に引き揃えられている複数の強化繊維束からなり、同一層内の強化繊維束間に直接的な拘束力のない第1、第2の強化繊維束層が、互いに繊維配向が異なるように配置されてなり、かつ、前記第1、第2の強化繊維束層の層間が固着素子によって互いに固着されていることで、前記第1、第2の強化繊維束層が一体化されてなる強化繊維積層シートであって、以下の条件(i)かつ(ii)、もしくは(i)かつ(iii)を満たす。
(i)前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、固着素子を少なくとも1つ含む固着部分を有し、前記固着部分の平均面積Sが100mm以下である
(ii)前記固着部分内において、前記固着素子の前記固着部分に対する面積割合が、0.1%以上80%以下である
(iii)前記固着素子が、粒子状もしくは繊維集合体状の固着材が溶融したものである。
【0027】
本発明において、固着材とは、強化繊維束に付着している、加熱により軟化する樹脂を指す。また、固着素子とは、前記第1、第2の強化繊維束層の層間に存在する固着材のうち、固着に関与するものを指す。ここで、固着材のうち固着に関与している固着素子と関与していない固着材は、以下のような方法により判別される。まず、固着材を付与していない強化繊維束層をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製 VHX−1000)で観察し、比較用とする。その後、強化繊維積層シートを構成する2層の強化繊維束層同士を剥がし、強化繊維束層に付着している固着材をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製 VHX−1000)で観察する。上記方法で取得した固着材の画像から、配向の異なる強化繊維束層に付着した痕跡が認められる場合とそうでない場合を分け、前者の固着材は固着素子と判断される。その判断基準としては、固着材を固着面に付与した形態が保存されている場合、付着した痕跡が認められないとする。一方で、固着材に強化繊維束の配向方向の筋状の痕跡が残っていたりする場合などを、配向の異なる強化繊維束層に付着した痕跡が認められるとする。
【0028】
本発明において、固着部分とは、以下の手順により定められる部分を指す。
1)ある固着素子と他の固着素子との距離が1mm以下の場合、それらの固着素子は互いに連続しているとする。
2)互いに直接的または間接的に連続する固着素子の集合を固着素子グループとする。ただし、他のどの固着素子とも連続しない固着素子については、その固着素子一つで一つの固着素子グループとする。
3)一つの固着素子グループに属する固着素子をすべて含む最小の円で囲われた部分を固着部分とする。また、固着部分と定義した円の面積を各々算出し、強化繊維シートに含まれる全ての固着部分の平均面積をSとする。
【0029】
本発明において、固着領域とは、以下の手順により定められる領域を指す。
1)ある固着部分と他の固着部分との距離が100mm以下の場合、それらの固着部分は互いに連続しているとする。
2)互いに直接的または間接的に連続する固着部分の集合を固着部分グループとする。二つ以下の固着部分からなる固着部分の集合、または、二つ以上の固着部分からなるが、すべての固着部分が一直線上に並ぶような固着部分の集合は、固着部分グループではないものとする。
3)一つの固着部分グループに属する固着部分の中心を直線で結んで得られる多角形であって、前記固着部分グループに属するすべての固着部分をその内側または周上に含む多角形のうち、最大の面積を有するものを固着領域とする。また、強化繊維積層シートに含まれる全ての固着領域の平均面積をSとする。
【0030】
本発明において、賦形性とは、強化繊維積層シートが、三次元形状の型にシートのしわや繊維のヨレなく沿いやすい性質を指す。形態安定性とは、賦形時にも強化繊維束同士が拘束されたまま剥がれず、シートとしての一体性を保持できる性質を指す。賦形性、形態安定性はいずれも後述の方法により評価する。
【0031】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明が図面に記載された発明に限定されるものではない。
【0032】
図1は、本発明に係る強化繊維積層シートの一実施態様を示した模式図である。図1の強化繊維積層シート101は、一方向に引き揃えられた複数の強化繊維束からなり、同一層内の強化繊維束間に直接的な拘束力のない強化繊維束層102、103が互いに繊維配向が異なるように配置された強化繊維積層シートである。図1においては、強化繊維束の繊維配向が±45°(第1の強化繊維束層102の繊維配向θ=+45°、第2の強化繊維束層103の繊維配向θ=−45°)となるように積層された例が示されている。
【0033】
さらに、固着部分104に存在する固着素子105によって、強化繊維束層102、103の層間は固着されている。
【0034】
また、図1においては、固着部分104が正方形格子の交点に位置するように配置され、長方形の強化繊維積層シート101に対し、5つの固着領域106が設けられている例が示されている。なお、強化繊維束層の層間に存在するが、固着に関与していない固着材107は、固着素子ではなく強化繊維同士を拘束していない。
【0035】
本発明の強化繊維積層シートの第一の態様は、以下の条件(i)かつ(ii)を満たす。
(i)前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、固着素子を少なくとも1つ含む固着部分の平均面積Sが100mm以下である
(ii)前記固着部分内において、前記固着素子の前記固着部分に対する面積割合が、0.1%以上80%以下である
前記の(i)について、平均面積Sが100mm以下、好ましくは80mm以下、更に好ましくは60mm以下であることにより、強化繊維束が拘束されている部分が少なくなり、シートが変形しやすくなり、賦形性が向上する。平均面積Sの下限に特に制限はないが、固着部分が極端に小さく、固着部分内部に含まれる固着素子が少ない場合、固着素子による固着面における強化繊維の拘束力が弱まることがあるため、固着部分は検出しうる最小の固着素子サイズである0.01mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。
【0036】
また、(ii)について、前記固着部分内において、前記固着素子の前記固着部分に対する面積割合が、0.1%以上80%以下であることが好ましく、0.1%以上50%以下であることがより好ましい。このようにすることによって、強化繊維束を全て拘束することを避けることができることから、強化繊維積層シートの変形時に強化繊維束に生じる歪を、強化繊維束の断面形状を自在に変形させて解消することができ、強化繊維積層シートの賦形性をさらに向上させることができる。なお、本発明において、固着素子の面積とは、固着素子を強化繊維積層シートの表面に、当該表面に垂直な方向から投影した場合の面積を指す。
【0037】
固着素子の面積は、強化繊維積層シートを構成する強化繊維束層を剥がし、強化繊維に付着している固着素子をデジタルマイクロスコープで撮影し、取得した画像を2値化することで、その面積を算出することができる。また、固着部分および固着領域の面積は、以下の測定方法により測定される。すなわち、強化繊維積層シートを構成する、互いに配向の異なる強化繊維束層を剥がし、上述の方法により固着素子を判別し、固着素子の位置を決定する。得られた固着素子の位置から、上述の固着部分、固着領域を定義に基づいて、固着部分、固着素子の面積を算出する。
【0038】
本発明の強化繊維積層シートの第二の態様は、以下の条件(i)かつ(iii)を満たす。
(i)前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、固着素子を少なくとも1つ含む固着部分の平均面積Sが100mm以下である
(iii)前記固着素子が、粒子状もしくは繊維集合体状の樹脂が溶融したものである。
【0039】
(i)については、上述のとおりである。
【0040】
(iii)について、前記固着素子が、粒子状もしくは繊維集合体状の樹脂が溶融したものであることにより、溶融された樹脂である固着素子を介して、強化繊維束層同士を拘束することができ、シートとしての取り扱いが可能となり、形態安定性が向上する。なお、本発明において、繊維集合体状の樹脂とは、一本以上の繊維状の樹脂の集合体を指す。すなわち、一本のみの繊維状の樹脂も繊維集合体状の樹脂に含む。さらに、溶融性を有する樹脂を用いることで、例えば突起上の圧子を用いた部分的な加熱により、固着部分でのみ強化繊維束を拘束することが可能となる。
【0041】
なお、本発明の強化繊維積層シートにおいて、固着素子は、例えば、強化繊維束層を構成する強化繊維束に付着していた固着材に由来する場合や、強化繊維束層を形成した後に付与したり配置したりした固着材に由来する場合等が挙げられる。いずれの場合においても、複数の強化繊維束層が互いに繊維配向が異なるように配置された後に、後述する特定の位置を少なくとも加熱することによって、複数の強化繊維束層の層間に存在する固着材が溶融して、固着素子が固着部分内に後述する特定の形態で少なくとも1つ配置された状態とすることができる。
【0042】
本発明の強化繊維積層シートは、前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、前記固着部分を少なくとも1箇所含む固着領域を有し、前記強化繊維積層シートに対する前記固着領域の面積割合が30%以上100%以下であることが好ましい。このようにすることによって、特に強化繊維積層シートの形態安定性やハンドリング性が向上しやすくなる。ここで固着領域の面積とは、強化繊維積層シートに含まれるすべての固着領域の合計面積を指す。
【0043】
本発明の強化繊維積層シートは、前記固着領域の平均面積Sが10000mm以上であることが好ましい。前記固着領域の平均面積Sが10000mm以上であることにより、特に強化繊維積層シートの形態安定性やハンドリング性が向上しやすくなる。
【0044】
本発明の強化繊維積層シートは、固着領域に対する固着部分の面積割合が1%以上50%以下である固着領域を少なくとも一つ有することが好ましい。前記固着領域に対する固着部分の面積割合は、1%以上25%以下であることがより好ましく、5%以上20%以下であることがさらに好ましい。前記固着領域に対する固着部分の面積割合が1%以上であると強化繊維束同士、あるいは、強化繊維束層同士の拘束力が強くなり、強化繊維積層シートの形態安定性が向上する。一方で、50%以下であると、強化繊維束層同士の拘束力が弱くなり、強化繊維積層シートの賦形性が向上する。強化繊維積層シートが二つ以上の固着領域を有する場合、前記固着領域に対する固着部分の面積割合とは、それぞれの固着領域の面積に対する、その固着領域の内部に存在する固着部分の合計面積の比率を指す。
【0045】
本発明の強化繊維積層シートは、さらに以下の条件(iv)を満たすことが好ましい。
(iv)前記固着部分の中心が多角形状の格子状に配置される前記固着領域を有すること
固着部分の中心が多角形状の格子状に配置されることにより、強化繊維積層シートの賦形時、互いに隣りあった強化繊維の配向が均一な位置関係を保った状態で変形しやすくなるため、シワやヨレが起きにくくなり、賦形性が向上する。固着部分の中心が多角形状の格子状に配置される固着領域が、賦形時の前記強化繊維積層シートにおいてしわが生じやすい位置などに、部分的に存在することでも、賦形性が向上する。
【0046】
ここで、固着部分の中心が多角形状の格子状に配置されるとは、例えば、図2に示すように、固着部分204が格子208状に配置されていることを指し、正方形格子(図2a)や正三角形格子(図2b)、正六角形格子(図2c)の他、長方形格子(図2d)、三角形格子(図2e)、六角形格子(図2f)の形態もとることができる。本発明における格子には、これらを回転させた格子(例えば、図2g)の形態も含まれる。本発明において、格子状に配置されるとは、固着領域内の50%以上の領域において格子状に配置されていればよく、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%であり、一部に欠点等を含んでもよい。
【0047】
本発明の強化繊維積層シートは、さらに以下の条件(v)を満たすことが好ましい。
(v)前記固着部分の中心が1辺の長さL(mm)の正多角形状の格子状に配置され、前記長さL(mm)が以下の式(1)を満たすこと
1≦L≦50 (1)
1≦L1を満たすことにより、隣接して配置された固着部分どうしが距離を取って配置されるため、賦形時に、隣接する強化繊維が均一に位置や配向を変えやすくなり、シワやヨレが生じにくくなり、賦形性が向上しやすくなる。また、L1≦50を満たすことにより、固着部分どうしが離れすぎず、拘束されていない強化繊維を支えやすくなるため、強化繊維積層シートの形態安定性が向上しやすくなる。
【0048】
本発明の強化繊維積層シートは、前記固着部分の半径r(mm)が以下の式(3)を満たすことがより好ましい。
0.5≦r≦L/3 (3)
0.5≦rを満たすことにより、固着面において固着部分による強化繊維の拘束力が発揮されやすくなり、強化繊維積層シートの形態安定性が向上しやすくなる。また、r≦L/3を満たすことにより、大きすぎない固着部分が離散的に強化繊維を拘束し、賦形時に、隣接する強化繊維が均一に位置や配向を変えやすくなり、賦形時のシワやヨレが生じにくくなり、賦形性が向上しやすくなる。
【0049】
次に、本発明の強化繊維積層シートの構成要素について説明する。
【0050】
本発明の強化繊維積層シートは、一方向に引き揃えられている複数の強化繊維束からなり、同一層間の強化繊維束間に直接的な拘束力のない第1、第2の強化繊維束層が、互いに繊維配向が異なるように配置されてなり、かつ、前記第1、第2の強化繊維束層の層間が固着素子によって互いに固着されていることで、前記第1、第2の強化繊維束層が一体化されてなる強化繊維積層シートである。『一方向に引き揃えられている複数の強化繊維束からなり、同一層内の強化繊維束間に直接的な拘束力のない強化繊維束層』とは、織り構造や編み構造によって、同一層内の強化繊維束の形態が保持されていないことを指す。言い換えると、第1もしくは第2の層内の強化繊維束が、第2もしくは第1の層に配置された強化繊維束と固着されることで形態が保持されている。
このような構成をとることでAFP法によって基材を得ることができ、賦形性と形態安定性を両立しハンドリング可能な基材となる。
【0051】
本発明において、強化繊維束層とは、一方向に引き揃えられており、強化繊維束間に直接的な拘束力のない複数の強化繊維束からなるものである。言い換えると、単一強化繊維束層のみでは、シートとしての形態が成立せず、取り扱いすることができないものである。この一例として例えば、AFP法によって強化繊維束をテーブル上に平行に配列させてなるものを指す。ただし、強化繊維束同士を拘束するように補助糸や目留め糸を、例えば強化繊維束と直交方向に配置するものは、賦形性の改善やコスト削減などといった本発明の効果を弱めるため、補助糸や目留め糸を用いないことが好ましい。
【0052】
また、第1、第2の強化繊維束層が、互いに繊維配向が異なるとは、第1の強化繊維束層内の繊維配向と第2の強化繊維束層内の繊維配向がなす角度が5度以上であることをいう。前記角度は、好ましくは10度以上であり、より好ましくは20度以上である。これらの角度は、基材あるいは成形品の断面観察によって測定する。成形品を破壊することができない場合には、X線CTスキャンなどによる透過観察で測定することができる。
【0053】
本発明に用いる強化繊維束は、例えば強化繊維が有機繊維、有機化合物や無機化合物と混合されていたり、樹脂成分が付着したものであったりしてもよい。
【0054】
本発明に用いられる強化繊維としては、特に制限はなく、例えば炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維、天然繊維、鉱物繊維等が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、成形体の比強度、比剛性が高く軽量化の観点から、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維が好ましく用いられる。また、得られる成形品の経済性を高める観点から、ガラス繊維が好ましく用いることができる。さらに、得られる成形品の衝撃吸収性や賦形性を高める観点から、アラミド繊維を好ましく用いることができる。また、得られる成形体の導電性を高める観点から、ニッケルや銅、イッテルビウム等の金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0055】
本発明に用いられる固着素子には、加熱によって粘度が低下する加熱溶融性樹脂を用いることができる。例えば、「ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド等のポリアリーレンスルフィド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、液晶ポリマー」等の結晶性熱可塑性樹脂、「スチレン樹脂の他、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート」等の非晶性熱可塑性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、さらに、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、およびこれら樹脂を2種類以上ブレンドした樹脂等を用いることができる。また、所望の用途に応じて樹脂成分に充填材や導電性付与材、難燃剤、難燃助剤等の添加剤や層間強化粒子を混合したものを用いることもできる。
【0056】
本発明の強化繊維積層シートは、前記固着素子が、加熱溶融性の樹脂であり、そのガラス転移点温度T(℃)または融点T(℃)が40℃以上200℃以下であることが好ましい。このような樹脂を用いることによって、加熱により粘度が低下した後、冷却する等して常温に戻った状態のときに、強化繊維束層同士を固着し、一定のシート形態を保持することがより確実になる。
【0057】
前記の通り、本発明に用いられる固着素子は、例えば、(A)強化繊維束層を構成する強化繊維束に付着していた固着材によるもの、あるいは、(B)強化繊維束層を形成した後に付与したり配置したりした固着材によるもの等が挙げられる。(A)の場合、前記の強化繊維束に対し、前記の樹脂を粒子状、線状、帯状等にしたものを付着させる、あるいは、コーティングさせて、固着材の付着した強化繊維束を得ることができる。(B)の場合、少なくとも一方の強化繊維束層上に、前記の樹脂を粒子状、線状、帯状等にしたものを散布する等して付着させるか、前記の樹脂からなる不織布やフィルム、編物、織物、ネット状物を配置することによって、固着材の付与あるいは配置された強化繊維束層を得ることができる。
【0058】
本発明の強化繊維積層シートは、前記固着素子の平均直径φ(μm)が10μm以上500μm以下であることが好ましい。前記平均直径φ(μm)は、100μm以上300μm以下であることがより好ましい。このようにすることによって、本発明の強化繊維積層シートの変形性をさらに高めながらも、強化繊維積層シートの形態安定性を維持することができる。
【0059】
本発明の強化繊維積層シートは、前記固着部分において、前記強化繊維束の厚みt(mm)と、前記固着素子の厚みt(mm)が以下の式(2)を満たすことが好ましい。
0.01≦t/t≦0.8 (2)
上記の式(2)を満たすことによっても、強化繊維束を全て拘束することを避けることができることから、強化繊維積層シートの変形時に強化繊維束に生じる歪を、強化繊維束の断面形状を自在に変形させて解消することができ、強化繊維積層シートの賦形性をさらに向上させることができる。なお、ここで、強化繊維束、固着素子の「厚み」とは、強化繊維積層シートの表面に対して垂直な方向における強化繊維束、固着素子の長さを指す。
【0060】
本発明において、t、tは、以下のように測定する。デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製 VHX−1000)を用いて前記した方法で、強化繊維積層シート内における固着素子を判別し、更に、デジタルマイクロスコープの焦点距離を変えることで強化繊維積層シートを構成する10本以上の強化繊維束の厚みを測定し、その平均値をt、さらに、その測定箇所に存在する固着素子の厚みを測定し、その平均値をtとする。
【0061】
さらに、図3に本発明に係る強化繊維積層シート301の別の実施態様を示す。
【0062】
本実施態様においては、強化繊維積層シート301の端部において、固着素子305を含む固着部分304を含む固着領域306を囲むように、強化繊維束層302、303が帯状に固定されてなる枠状の固着領域307を有することを特徴とする。このようにすることによって、AFP法によって得られる基材の課題である、強化繊維積層シート端部における強化繊維束のほつれや乱れをさらに抑制することができる。
【0063】
次に、本発明の繊維強化樹脂成形体について説明する。
【0064】
本発明の繊維強化樹脂成形体は、本発明の強化繊維積層シートとマトリックス樹脂とからなる。かかる繊維強化樹脂成形体は、例えば、本発明の強化繊維積層シートにマトリックス樹脂を含浸させて作製することができる。
【0065】
このマトリックス樹脂を含浸させる方法としては、RTM法を用いることができる。すなわち、成形型の上型と下型によって形成されたキャビティ内に、キャビティ形状に賦形した強化繊維積層シートを配置して型締めし、その後成形型を加圧し、キャビティ内を略真空とした後にマトリックス樹脂を注入し、さらに加熱する等してマトリックス樹脂を固化させ、成形体を得る方法である。
【0066】
本発明の繊維強化樹脂成形体に用いるマトリックス樹脂としては、いわゆる熱可塑性樹脂も用いることができるが、好ましくは熱硬化性樹脂であり、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール系樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂の他、これらの共重合体、変性体、およびこれらの樹脂を2種類以上ブレンドしたものも用いることができる。中でも、得られる成形体の力学物性の観点からエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0067】
続いて、本発明に係る強化繊維積層シートの製造方法について、説明する。
【0068】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、以下の工程(a)〜(c)を有する。
(a)複数の強化繊維束をテーブル上に一方向に引き揃えて配置し、強化繊維束間に直接的な拘束力のない第1の強化繊維束層を得る、第1の強化繊維束層配置工程
(b)前記第1の強化繊維束層の上に、さらに複数の強化繊維束を前記第1の強化繊維束層の繊維方向とは異なる方向に、一方向に引き揃えて配置し、強化繊維束間に直接的な拘束力のない第2の強化繊維束層を得て強化繊維積層体とする、第2の強化繊維束層配置工程
(c)前記強化繊維積層体と接触する面に有する突起を介し、部分的に前記強化繊維積層体を加熱および/または加圧し、前記第1の強化繊維束層と前記第2の強化繊維束層の層間の固着材を溶融させるシート化機構を用いて、以下の条件(i)かつ(ii)、もしくは(i)かつ(iii)を満たす強化繊維積層シートを得る、シート化工程
(i)前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、固着素子を少なくとも1つ含む固着部分を有し、前記固着部分の平均面積Sが100mm以下である
(ii)前記固着部分内において、前記固着素子の前記固着部分に対する面積割合が、0.1%以上80%以下である
(iii)前記固着素子が、粒子状もしくは繊維集合体状の固着材が溶融したものである。
【0069】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明が図面に記載された発明に限定されるものではない。
【0070】
図4は、本発明における強化繊維積層シートの製造方法の一実施態様を示す、フローチャート図である。
【0071】
図4の実施態様においては、第1の工程として、強化繊維束をテーブル上に引き揃えて配置し、第1の強化繊維束層を得る、第1の強化繊維束層配置工程(401)を行う。
【0072】
続いて、第2の工程として、第1の強化繊維束層の上に、さらに第2の強化繊維束層を配置して強化繊維積層体を得る、第2の強化繊維束層配置工程(402)を行う。
【0073】
さらに、第3の工程として、強化繊維積層体と接触する面に有する突起を介し、部分的に前記強化繊維積層体を加熱および/または加圧し、固着材を溶融させるシート化機構を用いて、上述の条件(i)かつ(ii)、もしくは(i)かつ(iii)を満たす強化繊維積層シートを得る、シート化工程(403)を行う。
【0074】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、(a)複数の強化繊維束をテーブル上に一方向に引き揃えて配置し、強化繊維束間に直接的な拘束力のない第1の強化繊維束層を得る、第1の強化繊維束層配置工程、を有する。前記第1の強化繊維束層配置工程においては、前記のように、AFP法によって強化繊維束をテーブル上に平行に配列させる方法を用いることが好ましい。
【0075】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、(b)前記第1の強化繊維束層の上に、さらに複数の強化繊維束を前記第1の強化繊維束層の繊維方向とは異なる方向に、一方向に引き揃えて配置し、強化繊維束間に直接的な拘束力のない第2の強化繊維束層を得て強化繊維積層体とする、第2の強化繊維束層配置工程、を有する。前記第2の強化繊維束層配置工程では、例えば、第1の強化繊維束層の上に強化繊維束を一方向に引き揃え、第2の強化繊維束層を形成してもよいし、別のテーブルで予め形成した強化繊維束層を搬送し、第1の強化繊維束層の上に配置してもよい。
【0076】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、(c)前記強化繊維積層体と接触する面に有する突起を介し、部分的に前記強化繊維積層体を加熱および/または加圧し、前記第1の強化繊維束層と前記第2の強化繊維束層の層間の固着材を溶融させるシート化機構を用いて、上述の条件(i)かつ(ii)、もしくは(i)かつ(iii)を満たす強化繊維積層シートを得る、シート化工程、を有する。
【0077】
このようにすることによって、強化繊維束を全て拘束することを避けることができることから、強化繊維積層シートの変形時に強化繊維束に生じる歪を、強化繊維束の断面形状を自在に変形させて解消することができ、強化繊維積層シートの賦形性をさらに向上させることができる。
【0078】
続いて、本発明に係る強化繊維積層シートの製造方法の構成要素について説明する。
【0079】
本発明に用いるテーブルは、少なくとも配置した強化繊維束が動かない程度に維持できるものであればよい。好ましくは、前記テーブルが前記強化繊維束を吸着し、保持する手段を有し、前記手段が静電気的引力を用いた機構、および/または、空気の流動によって発生する引力を用いた機構を有するものが好ましい。このようなテーブルを用いることで、配置した直接的な拘束力のない強化繊維束がずれてしまうことなく、より確実に強化繊維束を保持することができる。
【0080】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、工程(c)において、前記強化繊維積層体と接触する面に有する突起を介し、部分的に強化繊維積層体を加熱および/または加圧し、固着材を溶融させるシート化機構を用いる。
【0081】
前記シート化機構の具体例として、突起を有する平板状の圧子やローラーを用いて加熱および/または加圧する機構が挙げられる。このシート化機構を用いることによって、複数の強化繊維束層の層間に存在する固着材が溶融して、固着素子が固着部分内に後述する特定の形態で少なくとも1つ配置された状態となる。そして、シート化機構を強化繊維束層に当てた部分が固着領域となり、実際に強化繊維束層と接触した突起の部分が基本的に固着部分となることができる。
【0082】
図5に本発明に係る強化繊維積層シートの製造方法の観点から見た固着素子、固着部分、固着領域の関係を説明する模式図を示す。第1の強化繊維束層505上に固着材504が配置されており、その上に配置されている図示されていない第2の強化繊維束層の上から、シート化機構で強化繊維積層体を加熱および/または加圧する。このとき、シート化機構で加熱および/または加圧した場所が固着領域503、シート化機構の突起が強化繊維積層体に接触した場所が固着部分502となる。さらに、固着部分502の固着材504は、溶融して層間固着に寄与する固着素子501となる。
【0083】
なお、本発明において、賦形性とは、強化繊維積層シートが、三次元形状の型にシートのしわや繊維のヨレなく沿いやすい性質を指す。形態安定性とは、賦形時にも強化繊維束同士が拘束されたまま剥がれず、シートとしての一体性を保持できる性質を指す。賦形性、形態安定性は、いずれも後述の方法によって評価する。
【0084】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、前記第1、第2の強化繊維束層の固着面において、前記固着部分を少なくとも1つ含む固着領域を有し、前記強化繊維積層シートに対する前記固着領域の面積割合が30%以上100%以下とすることが好ましい。このようにすることによって、特に強化繊維積層シートの形態安定性やハンドリング性が向上しやすくなる。
【0085】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法においては、前記固着領域の平均面積Sが10000mm以上とすることが好ましい。前記固着領域の平均面積Sが10000mm以上とすることにより、特に強化繊維積層シートの形態安定性やハンドリング性が向上しやすくなる。
【0086】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、前記固着領域に対する固着部分の面積割合が1%以上50%以下である固着領域を少なくとも一つ有させることが好ましい。前記固着領域に対する固着部分の面積割合は、1%以上25%以下とすることがより好ましく、5%以上20%以下とすることがさらに好ましい。前記固着領域に対する固着部分の面積割合が1%以上であると強化繊維束同士、あるいは、強化繊維束層同士の拘束力が強くなり、強化繊維積層シートの形態安定性が向上する。一方で、50%以下であると、強化繊維束層同士の拘束力が弱くなり、強化繊維積層シートの賦形性が向上する。なお、強化繊維積層シートが2つ以上の固着領域を有する場合において、前記固着領域に対する固着部分の面積割合とは、それぞれの固着領域に対する、その内部に存在する固着部分の合計面積の割合を指す。
【0087】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、前記の通り、さらに以下の条件(iv)を満たすことが好ましい。
(iv)前記固着部分の中心が多角形状の格子状に配置される前記固着領域を有させること。
【0088】
固着部分の中心が多角形状の格子状に配置されることにより、前記の通り、強化繊維積層シートの賦形時、互いに隣りあった強化繊維の配向が均一な位置関係を保った状態で変形しやすくなるため、シワやヨレが起きにくくなり、賦形性が向上する。固着部分の中心が多角形状の格子状に配置される固着領域が、賦形時の前記強化繊維積層シートにおいてしわが生じやすい位置などに、部分的に存在することでも、賦形性が向上する。
【0089】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、さらに以下の条件(v)を満たすことが好ましい。
(v)前記固着部分の中心を1辺のL(mm)の正多角形状の格子状に配置させ、前記長さL(mm)が以下の式(1)を満たさせること
1≦L≦50 (1)
前記の通り、前記長さL(mm)が1mm以上であると強化繊維束層同士の拘束力が弱くすることができ、強化繊維積層シートの賦形性が向上しやすくなる。一方で、50mm以下であると、強化繊維束同士、あるいは、強化繊維束層同士の拘束力が強くすることができ、強化繊維積層シートの形態安定性が向上しやすくなる。
【0090】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、前記半径r(mm)が以下の式(3)を満たさせることがより好ましい。
0.5≦r≦L/3 (3)
前記半径rが0.5以上とすることにより、固着面において固着部分による強化繊維の拘束力が発揮されやすくなり、強化繊維積層シートの形態安定性が向上しやすくなる。また、前記半径rがL/3以下とすることにより、大きすぎない固着部分が離散的に強化繊維を拘束し、賦形時に、隣接する強化繊維が均一に位置や配向を変えやすくなり、賦形時のシワやヨレが生じにくくなり、賦形性が向上しやすくなる。
【0091】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、前記工程(a)と(b)の間に、以下の工程(a1)を有することが好ましい。
(a1)前記第1の強化繊維束層上に固着材を配置する、固着材配置工程。
【0092】
図6は、前記工程(a1)を有する、本発明の強化繊維積層シートの製造方法の別の実施態様を示す、フローチャート図である。
【0093】
本実施形態においては、第1の強化繊維束層配置工程(601)と第2の強化繊維束層配置工程(603)の間に第1の強化繊維束層上に固着材を配置する、固着材配置工程(602)を行う。
【0094】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、前記工程(a)と(b)の間に、前記工程(a1)を有することで、より適切な量の固着材を配置することができ、より確実に設計通りの機能を発揮することができるようになる。
【0095】
前記工程(a1)を有する場合、第1の強化繊維束層上あるいは第2の強化繊維束層の第1の強化繊維束層と接触する面に、上述の加熱溶融性の樹脂を粒子状、線状、帯状等の形態にしたものを散布する等して付着させるか、上述の加熱溶融性の樹脂からなる不織布やフィルム、編物、織物、ネット状物を配置することで固着材を配置することができる。
【0096】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、前記工程(a)および/または前記工程(b)における強化繊維束が、固着材が付着した強化繊維束であることが好ましい。強化繊維束が、固着材が付着した強化繊維束であることにより、強化繊維束がより剛直になり、配置時の形態変化が抑制され、強化繊維束層の均一性が向上する。固着材が付着した強化繊維束は、例えば、上述のとおり、強化繊維束に対し、前記の樹脂を粒子状、線状、帯状等にしたものを付着させる、あるいは、コーティングさせて得ることができる。
【0097】
本発明の強化繊維積層シートの製造方法は、前記工程(c)と同時か、工程(c)の後に、以下の工程(d)を有することが好ましい。
(d)前記強化繊維積層シートの端部の少なくとも一部において固着枠を形成する、固着枠形成工程
前記工程(c)より先に前記工程(d)を有すると、工程(d)により形成された固着枠が、工程(c)の際にずれてしまう場合があることから、前記工程(c)と同時か、工程(c)の後に、前記工程(d)を有することが好ましい。また、前記工程(d)を有することにより、本発明に係る強化繊維積層シートの端部に線状または帯状に固定されてなる固着枠が形成され、AFP法によって得られる基材の課題である、強化繊維積層シート端部における強化繊維束のほつれや乱れをさらに抑制することができる。
【実施例】
【0098】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらに制限されるものではない。
【0099】
まず、強化繊維積層シートの賦形性、形態安定性、繊維強化樹脂成形体の評価について示す。
【0100】
強化繊維積層シートの賦形性については、楕円球形状を水平方向に切り取った形状である単純要素型(図7)への賦形と、航空機のスキン・ストリンガー構造に用いられるZ型ストリンガーの形状を模したモデル形状型1(図8)への賦形、さらに自動車のトランクリッドの形状を模したモデル形状型2(図9)への賦形の3つで評価した。以下に、強化繊維積層シートの賦形性評価基準を示す。
AA: しわなし
A: 面外方向のしわが4箇所以内である
B: 面外方向のしわが5箇所以上10箇所以内である
C: 面外方向のしわが10箇所以上である
また、以下に強化繊維積層シートの形態安定性評価基準を示す。
AA: 剥がれなし
A: 剥がれた部分の強化繊維束間の隙間が最大3mm未満である
B: 剥がれた部分の強化繊維束間の隙間が最大3mm以上5mm未満である
C: 剥がれた部分の強化繊維束間の隙間が最大5mm以上である
一方、繊維強化樹脂成形体の評価については、モデル形状型1、モデル形状型2で得られたプリフォームを用い、RTM法にて成形して得た繊維強化樹脂成形体を、成形体中の強化繊維束層のしわ等の不良の発生の度合いを目視で確認することにより評価した。以下に、繊維強化樹脂成形体の評価基準を示す。
AA: しわ等の不良なし
A: しわ等の不良が4箇所以内である
B: しわ等の不良が5箇所以上10箇所以内である
C: しわ等の不良が10箇所以上である
[参考例1]強化繊維束1
東レ株式会社製炭素繊維“トレカ”T700SC(単糸数:24000本)を、開繊ローラーを有する開繊機にて幅25mmとなるように開繊した。続いて、平均粒子径150μmのビスフェノールA型エポキシ樹脂(ハンツマン社製 XB3366、T:80℃)からなる固着材が、炭素繊維重量に対して4wt%の重量で付着させた。さらに、固着材を付着させた炭素繊維を加熱装置内において200℃で加熱することで固着材の一部を溶融させ、後工程で固着材が取れないようにし、強化繊維束1を得た。
[参考例2]マトリックス樹脂
マトリックス樹脂として、2液性エポキシ樹脂(主剤:三菱化学株式会社製 jER828、硬化剤:東レ株式会社製 酸無水物系硬化剤)を用いた。
[参考例3]圧子板1
1辺の長さ(L)が20mm(L/3=6.7mm)の正方形格子の各頂点位置に、半径(r)が2.5mmの円形状で高さ1mmの突起部が配置された、銅製の圧子板である。
[参考例4]圧子板2
1辺の長さ(L)が20mm(L/3=6.7mm)の正方形格子の各頂点位置に、1辺の長さが7.07mmの正方形形状で高さ1mmの突起部が配置された、銅製の圧子板である。この圧子板において、半径(r)は5.0mmとなる。
[参考例5]圧子板3
1辺の長さ(L)が5mm(L/3=1.7mm)の正方形格子の各頂点位置に、半径(r)が1.25mm、高さ1mmの円形状の突起部が配置された、銅製の圧子板である。
[参考例6]圧子板4
1辺の長さ(L)が20mm(L/3=6.7mm)の正三角形格子の各頂点位置に、半径(r)が2.5mm、高さ1mmの円形状の突起部が配置された、銅製の圧子板である。
[参考例7]圧子板5
1辺の長さ(L)が20mm(L/3=6.7mm)の正六角形格子の各頂点位置に、半径(r)が2.5mm、高さ1mmの円形状の突起部が配置された、銅製の圧子板である。
[参考例8]圧子板6
ランダムな位置に、半径(r)が2.5mm、高さ1mmの円形状の突起部が配置された、銅製の圧子板である。
[参考例9]圧子板7
1辺の長さ(L)が5mm(L/3=1.7mm)の正方形格子の各頂点位置に、半径(r)が2.5mm、高さ1mmの円形状の突起部が配置された、銅製の圧子板である。
[参考例10]平板1
圧子板1〜7のように突起を有さない、銅製の平板である。
[実施例1]
参考例1で得られた強化繊維束1を、AFP装置によって静電気的引力を用いた機構によって強化繊維束を吸着、保持することができるテーブル上に一方向に引き揃えて配置させ、強化繊維束層(強化繊維束層1〜8)を作製した。それぞれの形状について、製作した強化繊維束層を表1に示す。単純要素型での強化繊維積層シートの賦形性の評価に用いたものは、300mm×300mmの強化繊維束層1および2、モデル形状型1での強化繊維積層シートの賦形性の評価に用いたものは、500mm×200mmの強化繊維束層3および4、モデル形状型2での強化繊維積層シートの賦形性の評価に用いたものは、モデル形状型2に対応した1.8m×1.3mの強化繊維束層5〜8である。
【0101】
【表1】
【0102】
(単純要素型での強化繊維積層シートの賦形性の評価)
前記の強化繊維束層1を1層テーブル上に配置した後、1層目の強化繊維束の繊維配向角と90°をなすように配置させた2層目の強化繊維束層2を配置した。
【0103】
続いて、150℃に加熱した圧子板1(固着部分の固着領域に対する面積割合:5%)を突起部分の圧力が120kPaとなるように3秒間押圧することで、格子状に配列させた突起部分のみを固着させて固着部分を形成し、強化繊維積層シート(1A)を得た。なお、圧子板1によって押圧した部分、すなわち固着領域は、強化繊維積層シートのうち面積割合で100%とした
【0104】
強化繊維積層シートの賦形性および形態安定性の評価結果を表2、表3に示す。賦形後の強化繊維積層シートにしわや剥がれは見られなかった。
(モデル形状型1での強化繊維積層シートの賦形性の評価)
前記の強化繊維束層3を1層テーブル上に配置した後、1層目の強化繊維束の繊維配向角と90°をなすように配置させた2層目の強化繊維束層4を配置した。
【0105】
続いて、150℃に加熱した圧子板1(固着部分の固着領域に対する面積割合:5%)を突起部分の圧力が120kPaとなるように3秒間押圧することで、格子状に配列させた突起部分のみを固着させて固着部分を形成し、強化繊維積層シート(1B)を得た。なお、圧子板1によって押圧した部分、すなわち固着領域は、強化繊維積層シートのうち面積割合で100%とした。
【0106】
強化繊維積層シートの賦形性および形態安定性の評価結果を表2、表3に示す。賦形後の強化繊維積層シートにしわや剥がれは見られなかった。
(モデル形状型1での繊維強化樹脂成形体の成形性の評価)
モデル形状型1上に強化繊維積層シート(1B)を4枚積層し、賦形してプリフォームを得た。そして、得られたプリフォームを130℃に加熱した型に配置し、型締めした後に、4MPaで型を加圧し、キャビティ内を略真空とした後に、参考例3のマトリックス樹脂を0.1MPaの注入圧力で注入した。注入後は、型の温度と圧力を保持し、マトリックス樹脂を十分に硬化させて、型を開き、成形体を脱型して繊維強化樹脂成形体(1C)を得た。
【0107】
繊維強化樹脂成形体の評価結果を表2、表3に示す。目視確認したところ、成形体に強化繊維束層のしわは見られず、非常に良好な成形体が得られた。
(モデル形状型2での強化繊維積層シートの賦形性の評価)
前記の強化繊維束層5を1層テーブル上に配置した後、1層目の強化繊維束の繊維配向角と90°をなすように配置させた2層目の強化繊維束層6を配置した。
【0108】
続いて、150℃に加熱した圧子板1(固着部分の固着領域に対する面積割合:5%)を突起部分の圧力が120kPaとなるように3秒間押圧することで、格子状に配列させた突起部分のみを固着させて固着部分を形成し、強化繊維積層シート(1D)を得た。なお、圧子板1によって押圧した部分、すなわち固着領域は、強化繊維積層シートのうち面積割合で100%とした。
【0109】
強化繊維積層シートの賦形性および形態安定性の評価結果を表2、表3に示す。賦形後の強化繊維積層シートにしわや剥がれは見られなかった。
(モデル形状型2での繊維強化樹脂成形体の成形性の評価)
強化繊維積層シート(1D)と同様に、前記の強化繊維束層7を1層テーブル上に配置した後、1層目の強化繊維束の繊維配向角と90°をなすように配置させた2層目の強化繊維束8を配置した点のみが異なる強化繊維積層シート(1D−2)を製作し、実形状モデル型2上に強化繊維積層シート(1D、1D−2)を対称積層となるように4枚積層し、賦形してプリフォームを得た。そして、得られたプリフォームを130℃に加熱した型に配置し、型締めした後に、4MPaで型を加圧し、キャビティ内を略真空とした後に、参考例3のマトリックス樹脂を0.1MPaの注入圧力で注入した。注入後は、型の温度と圧力を保持し、マトリックス樹脂を十分に硬化させて、型を開き、成形体を脱型して繊維強化樹脂成形体(1E)を得た。
【0110】
繊維強化樹脂成形体の評価結果を表2、表3に示す。目視確認したところ、成形体に強化繊維束層のしわは見られず、非常に良好な成形体が得られた。
[実施例2]
強化繊維束層の固着に用いる圧子板を圧子板2(固着部分の固着領域に対する面積割合:10.7%)に変えた以外は、実施例1と同様にして強化繊維積層シート(2A)、(2B)、(2D)、および、繊維強化樹脂成形体(2C)、(2E)を得た。
【0111】
強化繊維積層シートの評価結果、および、繊維強化樹脂成形体の評価結果を表2に示す。賦形性および形態安定性については、単純要素型(2A)ではしわが1箇所、モデル形状型1(2B)では、しわが1箇所、モデル形状型2(2C)ではしわが1箇所、端部において最大2mmの繊維束の剥がれが見られたが、問題となるようなしわや剥がれは見られなかった。また、成形体を目視確認したところ、モデル形状型1(2D)では強化繊維束のしわが2箇所、モデル形状型2(2E)では強化繊維束のしわが2箇所見られたが、良好な成形体が得られた。
[実施例3]
強化繊維束層の固着に用いる圧子板を圧子板3(固着部分の固着領域に対する面積割合:20%)に変えた以外は、実施例1と同様にして強化繊維積層シート(3A)、(3B)、(3D)、および、繊維強化樹脂成形体(3C)、(3E)を得た。
【0112】
強化繊維積層シートの評価結果、および、繊維強化樹脂成形体の評価結果を表2、表3に示す。賦形性および形態安定性については、単純要素型(3A)ではしわが2箇所、モデル形状型1(3B)では、しわが2箇所、モデル形状型2(3C)ではしわが2箇所、端部において最大2mmの繊維束の剥がれが見られたが、問題となるようなしわや剥がれは見られなかった。また、成形体を目視確認したところ、モデル形状型1(3D)では強化繊維束層のしわが3箇所、モデル形状型2(3E)では強化繊維束層のしわが3箇所見られたが、良好な成形体が得られた。
[実施例4]
強化繊維束層の固着に用いる圧子板を圧子板4(固着部分の固着領域に対する面積割合:6%)に変えた以外は、実施例1と同様にして強化繊維積層シート(4A)、(4B)、(4D)、および、繊維強化樹脂成形体(4C)、(4E)を得た。
【0113】
強化繊維積層シートの評価結果、および、繊維強化樹脂成形体の評価結果を表2、表3に示す。賦形性および形態安定性については、単純要素型(4A)ではしわが5箇所、モデル形状型1(4B)では、しわが6箇所、端部において最大3mmの繊維束の剥がれが見られ、モデル形状型2(4C)ではしわが6箇所、端部において最大4mmの繊維束の剥がれが見られたが、問題となるようなしわや剥がれは見られなかった。また、成形体を目視確認したところ、モデル形状型1(4D)では強化繊維束層のしわが5箇所、モデル形状型2(4E)では強化繊維束層のしわが6箇所見られたが、良好な成形体が得られた。
[実施例5]
強化繊維束層の固着に用いる圧子板を圧子板5(固着部分の固着領域に対する面積割合:4%)に変えた以外は、実施例1と同様にして強化繊維積層シート(5A)、(5B)、(5D)、および、繊維強化樹脂成形体(5C)、(5E)を得た。
【0114】
強化繊維積層シートの評価結果、および、繊維強化樹脂成形体の評価結果を表2、表3に示す。賦形性および形態安定性については、単純要素型(5A)ではしわが2箇所、モデル形状型1(5B)では、しわが3箇所、端部において最大2mmの繊維束の剥がれが見られ、モデル形状型2(5C)ではしわが3箇所、端部において最大2mmの繊維束の剥がれが見られたが、問題となるようなしわや剥がれは見られなかった。また、成形体を目視確認したところ、モデル形状型1(5D)では強化繊維束層のしわが3箇所、モデル形状型2(5E)では強化繊維束層のしわが3箇所見られたが、良好な成形体が得られた。
[実施例6]
強化繊維束層の固着に用いる圧子板を圧子板6(固着部分の固着領域に対する面積割合:5%)に変えた以外は、実施例1と同様にして強化繊維積層シート(6A)、(6B)、(6D)、および、繊維強化樹脂成形体(6C)、(6E)を得た。
【0115】
強化繊維積層シートの評価結果、および、繊維強化樹脂成形体の評価結果を表2、表3に示す。賦形性および形態安定性については、単純要素型(6A)では強化繊維積層シートの端部を中心に、強化繊維束の剥がれが多く発生し、最大4mmの剥がれが発生した。モデル形状型1(6B)、モデル形状型2(6C)でも同様の剥がれが発生し、最大4mmの剥がれが発生した上、面外方向へのしわが5箇所発生した。また、成形体を目視確認したところ、モデル形状型1(6D)では強化繊維束層のしわが8箇所、モデル形状型2(6E)では強化繊維束層のしわが9箇所見られたが、いずれも端部の製品外領域であったため、使用には問題のない成形体が得られた。
[実施例7]
固着領域を以下の(R1)、(R2)の2箇所となるようにした以外は、実施例1と同様にして強化繊維積層シート(7A)を得た。
(R1)強化繊維積層シートの外周から20mm以内の範囲
(R2)強化繊維積層シートの中心と、100mm×100mmの正方形の重心が一致する場所に配置されており、かつ、各辺が強化繊維積層シートの外周と平行になるような、正方形の範囲
なお、この場合の固着領域に対する面積割合は、36%である。
【0116】
強化繊維積層シートの評価結果を表4、表5に示す。賦形性および形態安定性について、単純要素型(7A)ではしわは見られなかったが、最大4mmの繊維束の剥がれが見られた。
[比較例1]
強化繊維束層の固着に用いる圧子板を平板1(固着部分:シート全体(面積はシート面積と同じ(いずれも100mm以上))固着部分の固着領域に対する面積割合:100%)に変えた以外は、実施例1と同様にして強化繊維積層シート(8A)、(8B)、(8D)を得た。
【0117】
強化繊維積層シートの評価結果を表4、表5に示す。賦形性および形態安定性について、単純要素型(8A)では、繊維束の剥がれは見られなかったものの、強化繊維積層シートの一部が面外方向へ座屈したような状態で、折り重なったしわが発生した。モデル形状型1(8B)、モデル形状型2(8C)でも、繊維束の剥がれは見られなかったものの、同様のしわが発生し、繊維強化樹脂成形体の成形に用いることができなかった。
[比較例2]
強化繊維束層の固着に用いる圧子板を圧子板7(固着部分の固着領域に対する面積割合:79%)に変えた以外は、実施例1と同様にして強化繊維積層シート(9A)、(9B)、(9D)を得た。
【0118】
強化繊維積層シートの評価結果を表4、表5に示す。賦形性および形態安定性について、単純要素型(9A)では、繊維束の剥がれは見られなかったものの、強化繊維積層シートの一部が面外方向へ座屈したような状態で、折り重なったしわが発生した。モデル形状型1(9B)、モデル形状型2(9C)でも、繊維束の剥がれは見られなかったものの、同様のしわが発生し、繊維強化樹脂成形体の成形に用いることができなかった。
[比較例3]
固着領域を以下の(R1)の1箇所となるようにした以外は、実施例1と同様にして強化繊維積層シート(10A)を得た。
(R1)強化繊維積層シートの外周から20mm以内の範囲
なお、この場合の固着領域に対する面積割合は、25%である。
【0119】
強化繊維積層シートの評価結果を表4、表5に示す。賦形性および形態安定性について、単純要素型(10A)では、しわが4箇所発生し、強化繊維積層シートの未固着領域では、強化繊維束の剥がれが多く発生し、最大10mmの剥がれが5箇所以上発生した。
[比較例4]
実施例1における固着材の付与工程において、付与量を2倍に変え、固着素子の固着部分に対する面積割合を85%に変えた以外は、実施例1と同様にして強化繊維積層シート(11A)、(11B)、(11D)を得た。
【0120】
強化繊維積層シートの評価結果を表4、表5に示す。賦形性および形態安定性について、単純要素型(11A)では、繊維束の剥がれは見られなかったものの、強化繊維積層シートの一部が面外方向へ座屈したような状態で、折り重なったしわが発生した。モデル形状型1(11B)、モデル形状型2(11C)でも、繊維束の剥がれは見られなかったものの、同様のしわが発生し、繊維強化樹脂成形体の成形に用いることができなかった。
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
【表4】
【0124】
【表5】
【符号の説明】
【0125】
101、301 強化繊維積層シート
102、103、302、303 強化繊維束層
104、204、304、502 固着部分
105、305、501 固着素子
106、306、503 固着領域
107、504 固着材
307 枠状の固着領域
208 格子
401、601 第1の強化繊維束層配置工程
402、603 第2の強化繊維束層配置工程
403、604 シート化工程
505 第1の強化繊維束層
602 固着材配置工程
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明に係る強化繊維積層シートの製造方法は、特に繊維強化プラスチック成形体が複雑な曲面を有する形状であっても、好適に用いることができる強化繊維積層シートを得ることができるものである。
【0127】
さらに、本発明に係る強化繊維積層シートを用いて成形される繊維強化樹脂成形体は、例えば、航空機部材、自動車部材、自動二輪車部材などの輸送用機器における一次構造部材、二次構造部材、外装部品や内装部品、あるいは、風車ブレード、ロボットアームやX線天板といった医療機器等の一般産業用途の部材にも好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9