(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施する形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の実施の形態に記載されている構成は単なる例示であり、本願発明の技術範囲はそれらには限定されない。
【0018】
なお、以下の各実施形態において説明する解析装置は、専用のハードウェアにより実現されてもよい。解析装置は、当該解析装置を構成する1以上の構成要素が、1以上の物理的あるいは論理的な情報処理装置(物理的なコンピュータや、仮想的なコンピュータ等)を用いて実現されたシステムとして構成されてもよい。
【0019】
以下の説明においては、解析の対象は、水を輸送(配送)する水道管網であるとして説明する。しかしながら、本実施形態を例に説明する本願発明は、これには限定されず、水以外の任意の流体が流れる管網に適用可能である。たとえば、その任意の流体は、水以外の液体でもよく、天然ガスなどの気体でもよい。
【0020】
<<第1の実施形態>>
<構成>
本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る解析装置11の構成を示すブロック図である。
【0021】
解析装置11は、解析モデル20を参照可能に構成される。
【0022】
解析モデル20は、管網を表す情報である。具体的には、管網を表す情報は、たとえば、管網を構成するパイプの接続関係、長さ、直径、材質および粗さ等の情報を含む。パイプの材質および粗さの情報は、例えば流量係数で表現されてもよい。
【0023】
解析モデル20は、管網を表す情報と本質的に同等な情報であればよい。たとえば、解析モデル20は、管網を模した電気回路網を表す情報であってもよい。解析モデル20は、たとえば、図示しない装置により予め作成されてもよいし、ユーザによって作成されてもよい。解析モデル20は、たとえば、図示しない記憶装置等により保持される。解析モデル20は、解析装置11を実装するコンピュータにより保持されていてもよい。
【0024】
解析装置11は、入出力部101と、伝達特性導出部102と、算出部103と、波形比較部105と、判定部106と、修正部107と、導出部108と、を備える。
【0025】
===入出力部101===
入出力部101は、解析装置11に接続される情報処理装置(不図示)とのデータのやりとりを行う。入出力部101は、データを記憶する記憶媒体と接続されていてもよい。入出力部101は、解析装置11のユーザとデータをやりとりしてもよい。入出力部101は、ユーザがデータを書き込んだり、閲覧したりできるインタフェースを有していてもよい。入出力部101は、表示機能を有する出力装置に接続されていてもよい。
【0026】
入出力部101は、たとえば、解析モデル20を記憶する記憶装置から、解析モデル20を取得する。入出力部101は、入出力インタフェースにより、ユーザから解析モデル20の一部または全部を取得してもよい。
【0027】
入出力部101は、解析装置11の各構成要素とのデータのやりとりも行う。
【0028】
入出力部101は、伝達特性導出部102に対して、伝達特性(後述)を導出するために必要な情報を送出する。
【0029】
たとえば、入出力部101は、解析装置11による解析の対象となる管網の情報を伝達特性導出部102に送出する。解析の対象となる管網は、たとえば、解析モデル20で表される管網の一部である。入出力部101は、たとえば、解析モデル20のうちの一部の範囲の情報を、解析の対象となる管網の情報として、伝達特性導出部102に送出する。解析の対象となる管網の情報は、解析の対象となる範囲を規定する点(すなわち、その範囲の管網の端点)の指定を含む。以下、解析の対象となる範囲を規定する点を、「端部の点」と表記する。また、入出力部101は、解析の対象となる管網の範囲内にある内部の点の指定を伝達特性導出部102に送出する。
【0030】
入出力部101は、管網の情報および解析の対象となる範囲と内部の点との指定を、たとえば、解析モデル20を参照可能なユーザによる入力によって取得してもよい。あるいは、入出力部101は、上記の情報および上記の指定を、図示しない記憶装置に保存されたデータを読み取ることにより取得してもよい。
【0031】
図2は、解析の対象となる範囲の管網を概念的に示す図である。この管網では、点1,2,4が端部の点であり、点5が内部の点である。点3は分岐点であり、本説明での種々の演算には直接関与しない。以下、本実施形態の説明では、
図2に示す管網を対象に解析を行うことが想定される。
【0032】
また、入出力部101は、解析の対象となる管網の構造情報を伝達特性導出部102に送出する。管網の構造情報は、伝達特性導出部102による伝達特性の導出において用いられる。管網の構造情報は、たとえば、管網を構成するパイプの接続関係、長さ、外径、および流量係数である。入出力部101は、管網の構造情報を、解析モデル20から抽出し、抽出した情報を伝達特性導出部102に送出すればよい。
【0033】
さらに、伝達特性を導出するために必要な情報は、管網を構成する管の劣化に応じて変化するパラメータの情報を含む。
【0034】
管の劣化は、たとえば、管の肉厚(wall thickness)が変化することである。管の肉厚とは、管を構成する部材の厚さである。すなわち、管の肉厚は、管の外径と内径との差である。管の肉厚が薄くなることは特に、減肉と呼ばれる。減肉は、流体が流れることによる摩耗等によって起こる。
【0035】
したがって、管の劣化に応じて変化するパラメータは、たとえば、管の肉厚に応じて変化するパラメータである。
【0036】
管の肉厚に応じて変化するパラメータは、たとえば、管を流れる流体(本実施形態では、水)の中を伝達する音の速さ(以下、「音速」)である。音速は、別の言葉では、管を流れる流体中の圧力波の伝播速度である。音速を“c”とすると、“c”は、たとえば、次の式(1)で表される。
【0038】
ただし、“ρ”は水の密度、“E
W”は水の体積弾性率(15℃のとき、2.14GN/m
2)、Dは管の内径、“t”は管の肉厚、“E
S”は管の弾性係数、“λ”は管以外の要素(土など)が管の内圧を負担する比率である。なお、式(1)は、たとえば、次の文献<1>の第25頁に記載されている。
文献<1>:藤野 浩一、「水撃圧の代数学的手法による解析と揚水発電所水路系への応用に関する研究」、[online]、2001年10月、[2016年5月16日検索]、インターネット<URL:http://www.edit.ne.jp/~fkoichi/dron/ronbun/ronbun.pdf>
【0039】
管の肉厚が薄くなるほどD/tの値は大きくなるため、式(1)によれば、管の肉厚が薄くなるほど音速の値は小さくなる。
【0040】
したがって、入出力部101は、管の劣化に応じて変化するパラメータの情報として、音速の値を、伝達特性導出部102に送出してもよい。なお、複数の種類の管が解析の対象となる管網に含まれる場合、入出力部101は、それぞれの種類の管ごとに音速の初期値を決定してもよい。
【0041】
入出力部101は、パラメータ(本実施形態では、音速)の初期値として、任意の値を伝達特性導出部102に送出してもよい。なお、一般には、液体中の音速は概ね1000〜1500m/sの範囲内の値をとることが知られている。入出力部101は、たとえば、パラメータの値として1200m/sという値を送出してもよい。または、入出力部101は、パラメータの値を解析モデル20から取得してもよいし、ユーザの入力によって取得してもよい。このとき、取得される値は、後述される修正部107によって修正され得るため、正確である必要はない。
【0042】
なお、管の劣化に応じて変化するパラメータは、音速そのものでなくともよい。たとえば、管の劣化に応じて変化するパラメータは、音速の逆数や、音速の定数倍のパラメータ等、音速と本質的に同等なパラメータであってもよい。すなわち、管の劣化に応じて変化するパラメータは、音速に基づくパラメータ(音速そのものを含む)であればよい。
【0043】
上記の他、入出力部101は、伝達特性導出部102に対し、端部の点を流れる流体の水圧に関する情報を送出してもよい。たとえば、入出力部101は、端部の点を流れる流体の水圧が、どのような水圧の範囲で変動するかを示す情報を送出してもよい。この情報は、伝達特性導出部102による後述する伝達特性の導出に際して用いられうる。
【0044】
また、入出力部101は、算出部103に対し、管網の端部の点における水圧の情報を送出する。送出される水圧の情報は、例えば、各端部の点(
図2に示す例では、点1,2,4)における、水圧の波形データである。水圧の波形データとは、水圧の推移の特徴を表すデータである。水圧の推移の特徴とは、管網の状態等に応じて変化し得る、水圧の推移に関する情報である。別の言葉では、水圧の推移の特徴とは、水圧の推移に関する意味のある情報である。水圧の波形データは、たとえば、水圧の経時変化を表すデータである。このデータは、たとえば、センサにより取得される実測値である。
【0045】
図3は、複数の点のそれぞれにおける水圧の経時変化を表すデータの具体例である。
図3において、グラフを指し示す番号は、
図2に示される各点の番号を表す。なお、
図3で示す例では各データがグラフで表されているが、解析装置11が扱うデータは、グラフ化されている必要はない。データは、時刻と水圧とが関連付けられているデータ列でもよい。
【0046】
水圧の波形データは、たとえば、水圧の周波数ごとの振幅の情報、すなわち周波数分布で表されていてもよい。この場合、水圧の波形データは、水圧の周波数ごとの位相の情報を含んでいてもよい。
【0047】
入出力部101は、水圧の波形データを、ユーザからの入力等によって取得し、算出部103に送出すればよい。このとき、入出力部101は、取得した水圧の波形を、周波数分布に変換して算出部103に送出してもよい。たとえば、取得した波形が水圧の経時変化である場合、入出力部101は、波形をフーリエ変換することにより、周波数分布を得ることができる。入出力部101は、得られた周波数分布を、算出部103に送出してもよい。
【0048】
入出力部101は、波形比較部105に対し、内部の点(
図2に示す例では、点5)における水圧の波形データを送出する。以下、入出力部101が送出する内部の点における水圧の波形データを、入力内部波形データとも称す。入力内部波形データは、時間領域の波形でもよいし、周波数分布でもよい。
【0049】
入出力部101は、判定部106に対して、判定基準の情報を送出する。判定基準は、判定部106による判定の基準である。判定基準の情報は、たとえば、許容する不一致度の値の範囲である(不一致度については後述する)。この場合、不一致度が「許容する不一致度の値の範囲」内であるとき、不一致度は判定の基準を満たす、といえる。判定基準の情報は、許容する不一致度の上限、すなわち閾値であってもよい。この場合、後述する判定部106は、不一致度がその閾値以下であるか否かを判定する。
【0050】
入出力部101は、修正部107に対して、解析の範囲内のパイプに関するパラメータの中で、修正の対象となるパラメータの指定を送出してもよい。修正の対象となるパラメータは、たとえば、音速である。入出力部101は、修正部107に対して、修正の対象となるパラメータとして音速が選択されていることを示す情報を与えておけばよい。入出力部101は、管網の一部の区間の音速のみを修正の対象となるパラメータとして指定してもよい。
【0051】
なお、修正の対象となるパラメータは、減肉の量でもよい。たとえば、修正部107は、管網を構成する全ての管における減肉の量が同程度であるという仮定のもとで、全ての管における式(1)のD/tの値を修正してもよい。
【0052】
入出力部101は、後述する導出部108により導出される情報を受け取り、ユーザ等に出力する。
【0053】
===伝達特性導出部102===
伝達特性導出部102は、入出力部101から受け取った管網の情報に基づいて、入出力部101により指定された端部の点および内部の点に関する伝達特性を導出する。伝達特性とは、電気回路網内の、複数の端子における電圧および電流の関係を表す値、または値の組である。すなわち、伝達特性導出部102は、管網を電気回路網でモデル化したときの、指定された端部の点および内部の点に相当する端子に関する伝達特性を導出する。
【0054】
管網を電気回路網でモデル化するとは、管網を流れる流体の流量を電流、圧力を電圧に関連付けて、管網を流れる流体の状態をシミュレートできる、電気回路網のモデルを作る(別の言葉では、想定する)ことである。モデル化された電気回路網における電流と管網を流れる流体の流量は、互いに変換することが可能である。また、電圧と圧力とは、互いに変換することが可能である。
【0055】
伝達特性導出部102は、例えば、電圧の周波数ごとに、端部の点および内部の点に基づく伝達特性として、端部の点に相当する端子および内部の点に相当する端子における電圧と、電流とを、関係づける式の係数を導出する。
【0056】
例として、まず、伝達特性導出部102は、指定された範囲の管網の状態を電気回路網で置き換えてモデル化し、その電気回路の振る舞いをシミュレートする。伝達特性導出部102は、そのシミュレーションに基づいて、電気回路網内の、入出力部101により指定された端部の点に相当する端子(ノード)および内部の点に相当する端子(ノード)間の、電圧と電流の関係を、伝達特性として導出する。
【0057】
伝達特性は、たとえば、次の式におけるY
jk(1≦j≦n、1≦k≦n)の行列によって表される。
【0058】
【数2】
ただし、上式において、I
k(1≦k≦n)は、k番目のノード(指定された点に対応する)において、電気回路網の外から流れ込む(または、電気回路網の外に流れ出る)電流、V
kは、k番目のノードにおける電圧である。
【0059】
式(2)における、Y
jk(1≦j≦n、1≦k≦n)から成る行列は、一般に、アドミタンス行列(アドミッタンス行列)と呼ばれる。Y
jkは、アドミタンスパラメータとも呼ばれる。
【0060】
アドミタンス行列は、電気回路網の各ノードにおいて、電気回路網の外から流れ込む(または、電気回路網の外に流れ出る)電流を、各ノードの電圧から求めることを可能とする計算式に用いることができる。
【0061】
アドミタンス行列は、例えばSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)等の電気回路シミュレータによって、モデル化された電気回路網と電磁気学的な諸法則とに基づいて計算されることができる。電気回路シミュレータは、例えば、特性曲線法を用いたシミュレータや、有限要素法、粒子法を用いて電気の流れを計算できる一般的なシミュレータでよい。
【0062】
伝達特性導出部102は、図示しない電気回路シミュレータと協働して、アドミタンス行列を計算してもよい。電気回路シミュレータは、解析装置11の外部にあってもよい。あるいは、伝達特性導出部102が、電気回路シミュレータと同等の機能を含んでいてもよい。伝達特性導出部102は、入出力部101から受け取った管網の情報から、その管網をモデル化した電気回路網と、指定された点とを、電気回路シミュレータに送出し、電気回路シミュレータにアドミタンス行列を計算させる。伝達特性導出部102は、計算されたアドミタンス行列を、伝達特性として取得する。このようにして、伝達特性導出部102は、伝達特性を導出する。
【0063】
伝達特性導出部102は、電気回路シミュレータを備えなくとも、アドミタンス行列を計算するのに必要な機能を備えていればよい。
【0064】
式(2)において、たとえば、1〜n−1番目のノードが端部の点に相当し、n番目のノードが内部の点に相当するとする。その場合、伝達特性導出部102は、n番目のノードの電流に関連する要素、すなわちY
n1〜Y
nnのみを、伝達特性として導出してもよい。
【0065】
なお、上述のように、伝達特性導出部102は、電圧の周波数ごとに、伝達特性を導出する。たとえば、伝達特性導出部102は、電気回路シミュレータに対し、端子に様々な周波数の正弦波を与え、出力される電流を取得することで、周波数ごとに、伝達特性を求めてもよい。伝達特性導出部102は、電気回路シミュレータに対しインパルス波形を与えたときの応答特性から、フーリエ変換によって周波数ごとの伝達特性を求めてもよい。
【0066】
伝達特性導出部102は、導出された伝達特性を、算出部103に送出する。
【0067】
===算出部103===
算出部103は、周波数ごとの伝達特性と、入出力部101から受け取った端部の点における水圧の波形データとに基づいて、内部の点における水圧の波形データを算出する。具体的には、算出部103は、周波数ごとに、伝達特性と、各端部の点における振幅の値とに基づき、内部の点における水圧の振幅を算出する。これにより、算出部103は、周波数ごとの、内部の点における水圧の振幅、すなわち周波数分布を得る。
【0068】
算出部103が内部の点における水圧を算出できる原理を説明する。以下の説明において、水圧の算出の対象となる内部の点はn番目のノードであるとする。
【0069】
式(2)から、次の式(3)が導かれる。
【0071】
式(3)において、n番目のノードは、内部の点に相当する端子であるため、この点において電流が外部に流れ出ることはない。すなわち、I
nは、I
n=0とすることができる。これに従い、式(3)にI
n=0を代入し、V
nについて解くと、次の式(4)が得られる。
【0073】
この式(4)は、n番目のノード以外のノードの電圧から、内部の点であるn番目のノードの電圧を求める式として理解される。すなわち、式(4)に基づけば、算出部103は、Y
n1〜Y
nnの値と、V
1〜V
n−1の値がわかれば、V
nを算出することができる。
【0074】
特に、1〜n−1番目のノードが端部の点に相当する場合、式(4)において、V
1〜V
n−1は、端部の点における水圧から変換できる変数である。したがって、算出部103は、伝達特性(Y
n1〜Y
nn)および端部の点における水圧から、V
nの値を求めることができる。算出部103は、V
nを求め、求めたV
nを、水圧に変換すればよい。変換された値は、内部の点における水圧を表す。このようにして、算出部103は、内部の点における水圧を求めることができる。
【0075】
なお、式(4)は、本実施形態により開示される技術思想を逸脱しない範囲で変形されてよい。たとえば、式(4)は、電圧と水圧との間の関連付けに基づき、端部の点における水圧と内部の点における水圧との関係を表す式へと変形されてもよい。算出部103は、その式によって、端部の点における水圧から、内部の点における水圧を直接求めてもよい。
【0076】
なお、算出部103は、得られた周波数分布を、逆フーリエ変換等によって、経時変化の波形データに変換してもよい。以下、算出部103の算出によって生成された波形データ(周波数分布を表すデータを含む)を、計算内部波形データとも称する。
【0077】
算出部103は、生成した計算内部波形データを、波形比較部105に送出する。
【0078】
===波形比較部105===
波形比較部105は、入出力部101から受け取った入力内部波形データと、算出部103により算出された計算内部波形データとを比較する。比較に用いられる波形データは、周波数分布でもよいし、時間領域の波形でもよい。比較する波形データの種類を統一するため、波形比較部105は、一方の波形の種類を他方の波形データの種類に変換してもよい。たとえば、波形比較部105は、時間領域の波形で2つの波形を比較する場合、周波数分布を、逆フーリエ変換等によって、時間領域の波形に変換してもよい。
【0079】
波形比較部105は、2つの波形の比較として、2つの波形データの間の相違を算出する。相違とは、2つのデータの類似のしていなさの程度を表す情報である。相違とは、別の言葉では、不一致の度合いを表す情報である。2つの波形データの不一致の度合いを表す情報(以下、「不一致度」)は、たとえば、不一致の大きさまたは割合で表されてもよい。2つの波形データの不一致度は、たとえば、2つの波形データのそれぞれの特徴点における数値の差の絶対値の合計で求めてもよい。不一致度の算出方法はこれに限られない。また、波形比較部105は、不一致度ではなく一致の度合い(類似性)を算出してもよい。一致の度合いは、たとえば、それぞれの波形データにおいて抽出される複数の特徴点のうち周波数が一致した数、等により算出されてもよい。
【0080】
以下の説明では、波形比較部105は、2つの波形の不一致度を算出するとする。この不一致度の値は、不一致の度合いが大きいほど大きいとする。なお、不一致度は伝達特性導出部102で用いられる管網モデルに応じて変化するので、不一致度は管網モデルの精度を表す指標の1つということができる。管網モデルの精度とは、すなわち、管網モデルの生成において用いられた管網の情報(音速等)の正しさである。
【0081】
===判定部106===
判定部106は、管網モデルの精度が、所定の条件を満たすかを判定する。本実施形態では、判定部106は、波形比較部105により算出された不一致度が、入出力部101からの受け取った判定基準を満たすか否かを判定する。たとえば、判定部106は、入出力部101から「許容する不一致度の上限の値」、すなわち閾値、を受け取っている場合、不一致度がその閾値以下であるか否かを判定する。このとき、判定部106は、不一致度がその閾値以下である場合は不一致度が判定基準を満たしているとし、不一致度がその閾値を超える場合は不一致度が判定基準を満たしていない、と判定する。
【0082】
不一致度が判定基準を満たしていない場合は、解析装置11は、修正部107による後述の処理を実行する。不一致度が判定基準を満たしている場合は、解析装置11は、導出部108による後述の処理を実行する。この場合、判定部106は、修正されたパラメータの最終的な値を導出部108に送信してもよい。
【0083】
===修正部107===
修正部107は、解析モデル20における、入出力部101から指定されたパラメータの値を修正する。本説明においては、修正されるパラメータは、管網を構成する管のうち1つ以上の管における音速である。修正部107は、たとえば、パラメータの値を、不一致度の値に基づいて修正すればよい。修正においては、判定部106による判定と修正とを繰り返すことによってパラメータの値が最適な値に近づくようなアルゴリズムを用いる。修正部107は、たとえば、Nelder−Mead法や、遺伝的アルゴリズムに基づく方法により、上述の修正を行えばよい。修正方法は、カルマンフィルタを用いる方法であってもよい。
【0084】
修正部107は、修正した値、すなわち修正値を、たとえば、入出力部101に送信する。入出力部101は、受け取った修正値を反映させた管網の情報を、伝達特性導出部102に送出する。これにより、修正値が反映された管網の情報に基づいて、伝達特性導出部102が再び伝達特性を計算する。
【0085】
===導出部108===
導出部108は、修正されたパラメータの値に基づいて、管の劣化に関する情報を導出する。
【0086】
劣化に関する情報は、たとえば、劣化の程度、すなわち劣化の進行具合を表す情報である。
【0087】
本実施形態で修正されたパラメータである音速の値は、管の肉厚に依存して変化する値であるため、劣化の程度を表す情報である。したがって、導出部108は、修正された音速の値そのものを、管の劣化に関する情報として扱ってもよい。
【0088】
導出部108は、音速の値が基準値と比較して減少した度合いを算出してもよい。このときの基準値は、たとえば、設計値に基づいて算出される音速の値でもよいし、過去に同一の管網を対象にして行われた解析によって同一の判定基準のもとで算出された音速の値でもよい。基準値が過去に同一の管網を対象にして行われた解析で同一の判定基準を満たした管網モデルにおける音速の値に基づく場合は、その過去の時点から管がどの程度劣化したのかが明らかになる。
【0089】
管の肉厚の値は、管の劣化に関する情報の1つである。導出部108は、音速の値と式(1)とに基づいて、管の肉厚の値を導出してもよい。導出部108は、さらに、導出した肉厚の値の、基準値(設計値等)に対する割合を導出してもよい。
【0090】
導出部108は、基準値を記憶するデータベース(不図示)を参照できるように構成されていてもよい。導出部108は、データベースが含む情報に基づいて、劣化に関する情報を導出してもよい。
【0091】
劣化に関する情報は、「劣化している」または「劣化していない」のいずれかを示す文章、記号および信号の、いずれかまたはそれらの組み合わせでもよい。たとえば、導出部108は、音速の値が、所定の基準(たとえば、予め設定されていた範囲)から外れていた場合に、「管が劣化している」ということを意味する情報を出力してもよい。この所定の基準は、ユーザまたは解析装置11の設計者によって入出力部101等を介して設定されていればよい。この所定の基準が、過去に同一の管網を対象にして行われた解析で同一の判定基準を満たした管網モデルにおける音速の値に基づく場合は、その過去の時点からの劣化具合についての知見を得ることができる。
【0092】
劣化に関する情報は、劣化のレベルを多段階で評価する文章、記号および信号のいずれかまたはそれらの組み合わせでもよい。
【0093】
導出部108は、導出された情報を、たとえば、入出力部101に送出する。
【0094】
<動作>
第1の実施形態に係る解析装置11の動作を、具体的な例を示しながら説明する。
図4は、本実施形態に係る解析装置11の動作の流れを示すフローチャートである。
【0095】
まず、入出力部101が、伝達特性導出部102に、解析に必要な情報を送出する(ステップS41)。解析に必要な情報は、たとえば、管網の構造情報(端部の点および内部の点の指定を含む)と、管の肉厚に応じて変化するパラメータの情報とを含む。
【0096】
具体的には、入出力部101は、
図2に例示する管網の情報を伝達特性導出部102に送出する場合、点1,2,3,4,5の接続関係と、各点間のパイプに関するパラメータとを送出する。例として、入出力部101は、点1−点5間の管長を100m、管の直径を30mm、流量係数を100、点5−点3間の管長を20m、管の直径を30mm、流量係数を100、点3−点2間の管長を80m、管の直径を25mm、流量係数を80、点3−点4間の管長を120m、管の直径を30mm、流量係数を100として、管網の情報を伝達特性導出部102に送出したとする。また、入出力部101は、たとえば、管の肉厚に応じて変化するパラメータの情報として、各点間の音速の値を送出する。例として、入出力部101は、点1−点4間の音速として1200m/sを、点3−点2間の音速として1150m/sを、伝達特性導出部102に送出したとする。
【0097】
また、入出力部101は、算出部103に、端部の点(
図2に示される例では、点1,2,4)における水圧の波形データを送出する。
【0098】
また、入出力部101は、波形比較部105に対し、内部の点(
図2に示す例では、点5)における水圧の波形データを送出する。
【0099】
また、入出力部101は、判定部106に対し、判定基準の情報を送出する。たとえば、入出力部101が、判定基準の情報として、「0.1」という数値を判定部106に送出する。判定部106は、この情報に基づき、判定基準を「不一致度が0.1以下であること」として後述のステップS46の判定を行う。
【0100】
また、入出力部101は、修正部107に対し、解析モデル20において修正の対象となるパラメータの指定を送出する。本説明では、入出力部101は、点1−点4間の音速を、修正の対象となるパラメータとして指定する。
【0101】
伝達特性導出部102は、管網の情報に基づいて、伝達特性を導出する(ステップS42)。伝達特性導出部102は、
図2に例示する管網の情報を受け取った場合は、たとえば、その管網をモデル化した電気回路網における、点1,2,4,5に相当するノードにおける電圧と電流との関係を表すアドミタンス行列を算出する。
【0102】
上述のアドミタンス行列を算出するにあたり、伝達特性導出部102は、入出力部101から受け取った管網の情報に基づいて、管網を電気回路網にモデル化する。具体的には、伝達特性導出部102は、管網を模した電気回路網をシミュレートするためのデータを生成する。
【0103】
伝達特性導出部102は、管網を構成する要素(パイプ等)を、回路素子の組み合わせによってモデル化してもよい。例えば、管網を構成するパイプ301は、
図5に例示するように、コイル311とコンデンサ312と抵抗313とで構成される電気回路302と関連付けられてもよい。したがって、伝達特性導出部102は、たとえば、
図2で示される点間をつなぐパイプ301を、それぞれ電気回路302でモデル化してもよい。このとき、電気回路302における、コイル311のインダクタンスL、コンデンサ312のキャパシタンスC、抵抗313の抵抗値Rは、それぞれ次の式(5)によって求められる。
【0105】
伝達特性導出部102は、たとえば、管網の各点間のパイプを
図5に示すようなコイル311とコンデンサ312と抵抗313とで構成される電気回路302で置き換えることにより生成する電気回路網を、仮想的に構築する。具体的には、たとえば、伝達特性導出部102は、各点間のパイプを電気回路302でモデル化した電気回路網を作成するためのデータを生成し、そのデータを電気回路シミュレータに送出する。これにより、管網に基づいた電気回路網が仮想的に生成される。なお、以下、管網に基づいて生成するモデルを「管網モデル」と称する。
【0106】
図2に示される管網の各パイプを上記の電気回路302でモデル化することで作成される電気回路網は、
図6に示される通りである。
図6において、数字が付された破線は、
図2に示される管網の各点に相当する端子の位置を表す。
【0107】
伝達特性導出部102は、抵抗313の代わりに、抵抗313によって損失する圧力の大きさ(圧力損失)をモデル化する回路素子を用いてもよい。圧力損失をPとすると、Pは、たとえば、ヘーゼン・ウィリアムスの式に基づく次の式(6)で表されうる。
【0109】
式(6)において、流量係数とは、ヘーゼン・ウィリアムスの式において、管内の流体の流れやすさを表す定数である。流量係数は、例えば、使用年数に応じて決定され得る。
【0110】
式(6)は管網を流れる流体が水である場合の例であり、圧力損失を表す式は、流体の種類や様々な条件に応じて適切な式が用いられうる。
【0111】
伝達特性導出部102は、たとえば、式(6)で示されるような圧力損失を表す回路素子を、電気回路網に用いてもよい。たとえば、伝達特性導出部102は、電流に依存して出力電圧が変化する非線形電圧源を用いて、抵抗313をモデル化してもよい。
【0112】
伝達特性導出部102は、電気回路シミュレータに、上記のようにしてモデル化されることで作成される電気回路網をシミュレートするためのデータを送出する。そして、伝達特性導出部102は、電気回路シミュレータに、その電気回路網に基づいた、端部の点に相当するノードおよび内部の点に相当するノード(
図2に示す例では、点1,2,4,5)に関するアドミタンス行列を計算させる。
【0113】
伝達特性導出部102は、電気回路シミュレータによって、たとえば、小信号解析と呼ばれる、振幅の小さい入力信号を用いた解析を行うことで、アドミタンス行列を計算する。小信号解析は、入力信号の振幅が小さいことを仮定することで電気回路中の非線形な素子を線形な素子とみなすことができる解析手法である。小信号解析では、入力信号の振幅が小さいという仮定のもと、線型な素子で構成された小信号モデルが想定され、指定された周波数の電圧に対する出力を算出することができる。すなわち、小信号解析によれば、電気回路が、上述のような、電圧と電流との間の非線形な関係を表す回路素子を含む場合でも、アドミタンス行列を近似的に数値計算することができる。
【0114】
伝達特性導出部102は、計算により得られたアドミタンス行列を、伝達特性として取得する。伝達特性導出部102は、たとえば、
図2に示す例における点1,2,4,5に関するアドミタンス行列を計算した場合、式(2)のアドミタンス行列の各要素に相当する、Y
11、Y
12、Y
14、Y
15、Y
21、Y
22、Y
24、Y
25、Y
41、Y
42、Y
44、Y
45、Y
51、Y
52、Y
54、およびY
55の値を、伝達特性として導出する。伝達特性導出部102は、点5に関する要素の値のみを求めてもよい。すなわち、伝達特性導出部102は、式(3)におけるY
n1〜Y
nnに相当する、Y
51、Y
52、Y
54、およびY
55を、伝達特性として求めればよい。伝達特性導出部102は、導出した伝達特性を、算出部103に送信する。
【0115】
算出部103は、伝達特性と、入出力部101から受け取った、端部の点(
図2に示す例では、点1,2,4)における水圧とに基づいて、内部の点(
図2に示す例では、点5)における波形データである計算内部波形データを算出する(ステップS43)。具体的に、
図2に示す例に従って説明すると、まず、算出部103は、V
1〜V
4(式(4)におけるV
1〜V
n−1に相当する)の値を、端部の点における水圧の値を電圧の値に変換することにより、算出する。そして、算出部103は、式(4)に、V
1〜V
4およびY
51〜Y
55の値を代入し、V
5(式(4)におけるV
nに相当する)の値を求める。算出部103は、求められたV
5を、水圧の値に変換し、変換した値を内部の点における水圧の値として算出する。
【0116】
ステップS44にて、波形比較部105は、算出部103が算出した計算内部波形データと、入出力部101が送出した入力内部波形データとを、比較する。具体的には、波形比較部105は、算出部103が求めた計算内部波形データと、入出力部101が送出した入力内部波形データとの間の不一致度を算出する。
【0117】
図7は、点1−点4間の音速を1200m/sとした場合の計算内部波形のグラフ(グラフ701)と、入力内部波形のグラフ(グラフ601)の例である。
【0118】
本説明では、波形比較部105は、周波数分布で表された上記2つの波形データの間の不一致度を算出する。例として、波形比較部105は、1/6Hzから10Hzまでの1/6Hzごとの周波数の水圧の差の絶対値をそれぞれ求め、それらの値を合計する。波形比較部105は、合計した値を不一致度の値として算出する。例として、波形比較部105が算出した不一致度の値は0.29であったとする。
【0119】
波形比較部105は、算出した不一致度の値を波形比較部105に送出する。
【0120】
次に、判定部106が、不一致度が判定基準を満たしているかを判定する(ステップS45)。波形比較部105により算出された不一致度が、判定基準を満たさない場合(ステップS45においてNO)、解析装置11の処理は、繰り返し処理を抜けずに、ステップS46に進む。
【0121】
本動作例の説明での判定基準は、「不一致度が0.1以下であること」である。不一致度が0.29である場合は判定基準を満たさないため、解析装置11の処理はステップS46へと進む。
【0122】
なお、不一致度が判定基準を満たす場合(ステップS45においてYES)は、解析装置11の処理はステップS47へと進む。
【0123】
ステップS46において、修正部107は、パラメータの値の修正を行う。修正部107は、修正した値を入出力部101に送出する。入出力部101は、受け取った修正値を伝達特性導出部102に送出する。
【0124】
解析装置11は、修正部107により修正された値を用いて、再びステップS42〜ステップS45の動作を行う。解析装置11は、この処理を、不一致度の値が判定基準を満たすまで繰り返す。これにより、パラメータの、判定基準を満たす値が求められる。
【0125】
なお、判定部106は、上記繰り返し処理において、所定回数または所定時間の経過後になお不一致度が判定基準を満たさない場合や、不一致度が改善されない場合には、繰り返し処理を終了するよう、構成されてもよい。
【0126】
点1−点4間の音速の値が1000m/sに修正された時に、不一致度の値が0.08となったとする。この値は判定基準を満たしているので、解析装置11の処理は、繰り返し処理を抜け、ステップS47に進む。
【0127】
ステップS47において、導出部108は、求められた音速の値に基づき、劣化に関する情報を導出する。たとえば、導出部108は、音速の値が1050〜1200m/sの範囲内であれば「正常」を示す信号を出力し、音速の値が1050〜1200m/sの範囲外であれば「劣化」を示す信号を出力するとする。この場合で、求められた音速の値が1000m/sであれば、導出部108は、「劣化」を示す信号を出力する。導出部108は、あるいは、求められた音速の値と、過去に算出された音速の値との比の値を計算してもよい。以前に算出された音速の値が1200m/sであれば、83%という値を出力してもよい。
【0128】
導出部108は、導出された情報を入出力部101に送出してもよい。
【0129】
入出力部101は、導出部108から受け取った情報を、例えばユーザに出力する(ステップS48)。こうして、ユーザは、解析装置11によって導出された、管の肉厚に関する情報を取得する。
【0130】
入出力部101は、出力において、修正値を用いて算出された計算内部波形データのグラフと、入力内部波形データのグラフとを、重ねて表示してもよい。
図8は、上記2つの波形データのグラフを重ねて表示した例である。
図8において、グラフ601は入力内部波形データのグラフであり、グラフ702は、音速の値を1000m/sとしたときの計算内部波形データのグラフである。このような表示により、出力先(たとえばユーザ)は、解析装置11によって解析された管網モデルの精度を直感的に理解することができる。
【0131】
<効果>
本実施形態によれば、出力先(たとえばユーザ)は、解析の対象の管の劣化に関する情報を得ることができる。その理由は、管の劣化に応じて値が変化するパラメータを含む情報に基づく管網モデルの精度が所定の条件を満たす場合に、そのパラメータの値に基づいた劣化に関する情報が導出されるからである。
【0132】
解析装置11が用いるデータは、管網の構造情報と、解析範囲の端部の点における波形データと、内部の点における波形データである。空気抜き弁や消火栓など、配管にあるアクセス可能な地点を端部の点として設定すれば、ユーザは、波形データを容易に取得できる。したがって、解析装置11は、簡易な方法で取得可能な情報に基づいて管の劣化に関する情報を取得することができる。
【0133】
修正部107が、不一致度が判定基準を満たすまでパラメータの値を修正することにより、解析装置11は、劣化に関する情報を、ユーザが所望する精度で導出することができる。
【0134】
また、解析装置11は、音速のみを変化させて解析モデルを修正することにより、管の内径と肉厚に関する情報の変化が抽出できる。
【0135】
<<変形例>>
図9は、第1の実施形態の変形例である解析装置12の構成を表すブロック図である。
【0136】
解析装置12は、修正部107を備えなくともよい。
【0137】
この解析装置12においては、判定部106は、不一致度が判定基準を満たすか満たさないかを判定した結果を、導出部108に伝える。
【0138】
導出部108は、判定された結果に応じて異なる情報を導出する。導出部108は、たとえば、不一致度が判定基準を満たす場合は「精度が許容範囲内である」ことを示す信号を出力し、不一致度が判定基準を満たさない場合は「精度が許容範囲内でない」ことを示す信号を出力すればよい。
【0139】
このようにして導出された情報は、判定の結果に応じて変化する情報であるから、パラメータの値に基づいた、管の肉厚に関する情報の1つである。
【0140】
出力先は、導出された情報によって、入出力部101から受け取ったパラメータの値が精度の許容範囲内であるか否かを知ることができる。すなわち、出力先は、管の劣化に関する情報を取得することができる。
【0141】
<主要な構成>
本発明の一実施態様に係る解析装置の主要構成について説明する。
図10は、本発明の一実施態様に係る解析装置10の構成を示すブロック図である。
【0142】
解析装置10は、判定部106と導出部108とを備える。
【0143】
判定部106は、管網を構成する管の劣化に応じて値が変化するパラメータを含む情報に基づく管網モデルの精度が、所定の条件を満たすかを判定する。
【0144】
なお、管網モデルは、図示しない機能構成によって、管の構成と管の特徴と端部の点における波形データと、内部の点における波形データと、上記のパラメータとに基づいて生成可能である。
【0145】
導出部108は、管網モデルの精度が所定の条件を満たす場合に、パラメータに基づいた、管の劣化に関する情報を導出する。
【0146】
図11は、解析装置10の各構成要素の動作の流れを示すフローチャートである。
【0147】
ステップS111にて、判定部106は、管網を構成する管の劣化に応じて値が変化するパラメータを含む情報に基づく管網モデルの精度が所定の条件を満たすかを判定する。
【0148】
導出部108は、管網モデルの精度が所定の条件を満たす場合に、パラメータに基づいた、管の劣化に関する情報を導出する(ステップS113)。
【0149】
本構成によれば、簡易な方法で取得可能な情報に基づいて管の劣化に関する情報を取得することができる。
【0150】
<<ハードウェアおよびソフトウェア・プログラム(コンピュータ・プログラム)の構成>>
以下、上記説明した各実施形態を実現可能なハードウェア構成について説明する。
【0151】
上記各実施形態において説明した解析装置の一部または全部は、専用のハードウェアにより構成されてもよい。その場合、各構成要素の一部又は全部は、統合されたハードウェア(処理を実行するロジックを実装した集積回路等)として実現されてもよい。
【0152】
例えば、各構成要素をハードウェアにより実現する場合、各構成要素は、それぞれの機能を提供可能な回路が集積したSoC(System on a Chip)等として実装されてもよい。この場合、例えば、各構成要素が保持するデータは、SoCとして統合されたRAM(Random Access Memory)の記憶領域やフラッシュメモリの記憶領域に記憶されてもよい。
【0153】
また、この場合、各構成要素を接続する通信回線としては、周知の通信バスを採用してもよい。また、各構成要素を接続する通信回線はバス接続に限られない。それぞれの構成要素間はピアツーピアで接続されてもよい。
【0154】
また、上述した解析装置、あるいは、当解析装置の構成要素は、
図12に例示するようなハードウェアの一部または全部と、そのハードウェアによって実行される各種ソフトウェア・プログラム(コンピュータ・プログラム)との可能な組み合わせによって実現されてもよい。
【0155】
ハードウェア装置1500の各構成要素は、バス1511によって互いに通信可能である。
【0156】
演算装置1501は、汎用のCPUやマイクロプロセッサ等の演算処理装置である。演算装置1501は、例えば後述する不揮発性記憶装置1502に記憶された各種ソフトウェア・プログラムを記憶装置1503に読み出し、読み出したソフトウェア・プログラムに従って処理を実行してもよい。各実施形態における伝達特性導出部102、算出部103、波形比較部105、判定部106、修正部107、および導出部108のいずれかまたは全部は、演算装置1501を用いて、それぞれの演算処理を実行してもよい。
【0157】
記憶装置1503は、演算装置1501から参照可能な、RAM等のメモリ装置であり、ソフトウェア・プログラムや各種データ等を記憶する。なお、記憶装置1503は、揮発性のメモリ装置であってもよい。
【0158】
不揮発性記憶装置1502は、例えば磁気ディスクドライブや、フラッシュメモリによる半導体記憶装置のような、不揮発性の記憶装置である。不揮発性記憶装置1502は、ソフトウェア・プログラムやデータ等を記憶可能である。管網の構成要素と、当該管網の構成要素をモデル化する電気回路網の構成要素とを関連付けた変換情報は、ファイルやデータベース等の形式により、不揮発性記憶装置1502に保存されてもよい。
【0159】
通信インタフェース1508は、通信ネットワーク1509に接続するインタフェース装置である。通信インタフェース1508は、例えば有線および無線のLAN(Local Area Network)接続用インタフェース装置等でもよい。各実施形態における入出力部101は、通信インタフェース1508を介して、図示しない他のシステム等から、解析モデル20、端部および内部の波形データ、修正の対象のパラメータ等の入力を受け付けてもよい。
【0160】
ドライブ装置1507は、例えば、後述する記録媒体1506に対するデータの読み込みや書き込みを処理する装置である。
【0161】
記録媒体1506は、例えば光ディスク、光磁気ディスク、半導体フラッシュメモリ等、データを記録可能な記録媒体である。
【0162】
入出力インタフェース1510は、外部装置との間の入出力を制御する装置である。例えば、解析装置のユーザは、入出力インタフェース1510を介して解析装置に接続された入出力装置(例えば、キーボード、マウス、ディスプレイ装置、プリンタ等)を用いて、解析装置に対して、管網の情報、解析の範囲および内部の点の指定、波形データ、あるいは、各種の指示等を送出してもよい。なお、各実施形態における入出力部101は、入出力インタフェース1510に接続された入出力装置を用いて実現されてもよい。
【0163】
上述した各実施形態では、例えば、
図12に例示したハードウェア装置1500により解析装置が実現されてもよい。具体的には、解析装置は、ハードウェア装置1500に対して、各実施形態において説明した機能を実現可能なソフトウェア・プログラムを供給することにより実現されてもよい。この場合、ハードウェア装置1500に対して供給したソフトウェア・プログラムを、演算装置1501が実行することによって、各実施形態が実現されてもよい。
【0164】
上述した各実施形態において、
図1、
図9、および
図10に示した各部は、上述したハードウェアにより実行されるソフトウェア・プログラムの機能(処理)単位である、ソフトウェアモジュールとして実現することができる。ただし、これらの図面に示した各ソフトウェアモジュールの区分けは、説明の便宜上の構成である。ソフトウェアモジュールの実装に際しては、様々な構成が想定され得る。
【0165】
例えば、
図1、
図9、および
図10に例示した各部をソフトウェアモジュールとして実現する場合、これらのソフトウェアモジュールを不揮発性記憶装置1502が記憶していてもよい。演算装置1501は、それぞれの処理を実行する際に、これらのソフトウェアモジュールを記憶装置1503に読み出すよう構成されていてもよい。
【0166】
また、これらのソフトウェアモジュール間は、共有メモリやプロセス間通信等の適宜の方法により、相互に各種データを伝達できるように構成されていてもよい。このような構成により、これらのソフトウェアモジュール間は、相互に通信可能に接続可能である。
【0167】
更に、上記各ソフトウェア・プログラムは記録媒体1506に記録されてもよい。上記通信装置等の出荷段階、あるいは運用段階等において、適宜ドライブ装置1507を通じて、当該ソフトウェア・プログラムは不揮発性記憶装置1502に格納されてもよい。
【0168】
なお、上記の場合において、上記解析装置への各種ソフトウェア・プログラムの供給方法として、出荷前の製造段階、あるいは出荷後のメンテナンス段階等において、適当なジグを利用して当該装置内にインストールする方法が採用されてもよい。また、各種ソフトウェア・プログラムの供給方法として、インターネット等の通信回線を介して外部からダウンロードする方法等のように、現在では一般的な手順が採用されてもよい。
【0169】
そして、このような場合において、各実施形態の解析装置は、ソフトウェア・プログラムを構成するコードが記録された、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体によって構成されると捉えることができる。
【0170】
また、上述した解析装置、あるいは、当解析装置の構成要素は、
図12に例示するハードウェア装置1500を仮想化した仮想化環境と、当該仮想化環境において実行される各種ソフトウェア・プログラム(コンピュータ・プログラム)とによって実現されてもよい。この場合、
図12に例示するハードウェア装置1500の構成要素は、当該仮想化環境における仮想デバイスとして提供される。なお、この場合も、
図12に例示するハードウェア装置1500を物理的な装置として構成した場合と同様の構成にて、各実施形態の解析装置を実現可能である。
【0171】
以上、本発明を、上述した実施形態に適用した例として説明した。しかしながら、本発明の技術的範囲は、上述した各実施形態に記載した範囲には限定されない。当業者には、上述した各実施形態に対して多様な変更又は改良を加えることが可能であることは明らかである。そのような場合、変更又は改良を加えた新たな実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれ得る。更に、上述した各実施形態、あるいは、変更又は改良を加えた新たな実施形態を組み合わせた実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれ得る。そしてこのことは、請求の範囲に記載した事項から明らかである。
【0172】
本出願は、2016年5月17日に出願された日本出願特願2016−098441を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0173】
上記実施形態の一部または全部は以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0174】
<<付記>>
[付記1]
管の劣化に応じて値が変化するパラメータを含む情報に基づく管網モデルの精度が、所定の条件を満たすかを判定する判定手段と、
前記精度が前記所定の条件を満たす場合に、前記パラメータに基づいた、前記管の劣化に関する情報を導出する導出手段と、
を備える解析装置。
[付記2]
前記管網モデルの精度が前記所定の条件を満たさない場合に、前記パラメータの値の修正を行う修正手段をさらに備え、
前記修正手段は、前記判定手段が、前記修正が反映された前記管網モデルの精度が前記所定の条件を満たすと判定するまで、前記修正を繰り返す、
付記1に記載の解析装置。
[付記3]
前記パラメータは、前記管を流れる流体における音速に基づくパラメータである、
付記1または2に記載の解析装置。
[付記4]
前記管の劣化に関する情報は、前記管の肉厚に関する情報である、
付記1から3のいずれか一項に記載の解析装置。
[付記5]
前記導出手段は、前記パラメータの値が所定の基準を満たさない場合に、前記管が劣化していることを示す情報を出力する、
付記1から4のいずれか一項に記載の解析装置。
[付記6]
前記所定の基準は、過去に前記所定の条件を満たした前記管網モデルの前記パラメータに基づく基準である、
付記5に記載の解析装置。
[付記7]
前記判定手段は、前記管網モデルの精度を、前記管を流れる流体の、前記管の端部における圧力の推移の特徴から導出される前記管の内部の点における圧力の推移の特徴である第1の推移の特徴と、前記管を流れる流体の前記内部の点における圧力の推移の特徴として入力された第2の推移の特徴と、の比較に基づいて算出する、
付記1から6のいずれか一項に記載の解析装置。
[付記8]
管の劣化に応じて値が変化するパラメータを含む情報に基づく管網モデルの精度が、所定の条件を満たすかを判定し、
前記精度が前記所定の条件を満たす場合に、前記パラメータに基づいた、前記管の劣化に関する情報を導出する、
解析方法。
[付記9]
前記管網モデルの精度が前記所定の条件を満たさない場合に、前記パラメータの値の修正を行い、
前記修正が反映された前記管網モデルの精度が前記所定の条件を満たすまで、前記修正を繰り返す、
付記8に記載の解析方法。
[付記10]
前記パラメータは、前記管を流れる流体における音速に基づくパラメータである、
付記8または9に記載の解析方法。
[付記11]
前記管の劣化に関する情報は、前記管の肉厚に関する情報である、
付記8から10のいずれか一項に記載の解析方法。
[付記12]
前記パラメータの値が所定の基準を満たさない場合に、前記管が劣化していることを示す情報を出力する、
付記8から11のいずれか一項に記載の解析方法。
[付記13]
前記所定の基準は、過去に前記所定の条件を満たした前記管網モデルの前記パラメータに基づく基準である、
付記12に記載の解析方法。
[付記14]
前記管網モデルの精度を、前記管を流れる流体の、前記管の端部における圧力の推移の特徴から導出される前記管の内部の点における圧力の推移の特徴である第1の推移の特徴と、前記管を流れる流体の前記内部の点における圧力の推移の特徴として入力された第2の推移の特徴と、の比較に基づいて算出する、
付記8から13のいずれか一項に記載の解析方法。
[付記15]
コンピュータに、
管の劣化に応じて値が変化するパラメータを含む情報に基づく管網モデルの精度が、所定の条件を満たすかを判定する判定処理と、
前記精度が前記所定の条件を満たす場合に、前記パラメータに基づいた、前記管の劣化に関する情報を導出する導出処理と、
を実行させるプログラム。
[付記16]
コンピュータに、前記管網モデルの精度が前記所定の条件を満たさない場合に、前記パラメータの値の修正を行う修正処理をさらに実行させ、
前記修正処理は、前記判定処理が、前記修正が反映された前記管網モデルの精度が前記所定の条件を満たすと判定するまで、前記修正を繰り返す、
付記15に記載のプログラム。
[付記17]
前記パラメータは、前記管を流れる流体における音速に基づくパラメータである、
付記15または16に記載のプログラム。
[付記18]
前記管の劣化に関する情報は、前記管の肉厚に関する情報である、
付記15から17のいずれか一項に記載のプログラム。
[付記19]
前記導出処理は、前記パラメータの値が、所定の基準を満たさない場合に、前記管が劣化していることを示す情報を出力する、
付記15から18のいずれか一項に記載のプログラム。
[付記20]
前記所定の基準は、過去に前記所定の条件を満たした前記管網モデルの前記パラメータに基づく基準である、
付記19に記載のプログラム。
[付記21]
前記判定処理は、前記管網モデルの精度を、前記管を流れる流体の、前記管の端部における圧力の推移の特徴から導出される前記管の内部の点における圧力の推移の特徴である第1の推移の特徴と、前記管を流れる流体の前記内部の点における圧力の推移の特徴として入力された第2の推移の特徴と、の比較に基づいて算出する、
付記15から20のいずれか一項に記載のプログラム。