特許第6973420号(P6973420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6973420送電装置の制御装置、送電装置、及び非接触電力伝送システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973420
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】送電装置の制御装置、送電装置、及び非接触電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20211111BHJP
   H02J 50/80 20160101ALI20211111BHJP
【FI】
   H02J50/12
   H02J50/80
【請求項の数】9
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2019-3687(P2019-3687)
(22)【出願日】2019年1月11日
(65)【公開番号】特開2020-114110(P2020-114110A)
(43)【公開日】2020年7月27日
【審査請求日】2020年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫
(74)【代理人】
【識別番号】100172236
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 宣憲
(72)【発明者】
【氏名】長岡 真吾
(72)【発明者】
【氏名】三島 大地
(72)【発明者】
【氏名】上松 武
【審査官】 鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−121388(JP,A)
【文献】 特開2016−111873(JP,A)
【文献】 特開2018−196291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/12
H02J 50/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受電コイルを備えた受電装置に電力を非接触で伝送する送電装置の制御装置であって、
前記送電装置は、送電コイルと、前記送電コイルに電磁的に結合した補助コイルと、可変な電圧及び可変な周波数を有する送電電力を発生して前記送電コイルに供給する電源回路とを備え、
前記制御装置は、
前記送電コイルに流れる電流の値と、前記補助コイルに発生する電流又は電圧の値とのうちの少なくとも一方を検出する検出回路と、
前記検出回路によって検出された値に基づいて、前記受電装置の負荷値に対する前記受電装置の出力電圧の依存性が少なくとも局所的に最小化される送電周波数を決定し、前記決定された送電周波数を有する送電電力を発生するときに前記受電装置の出力電圧を予め決められた目標電圧にする前記送電電力の電圧を決定し、前記決定された送電周波数及び電圧を有する送電電力を発生するように前記電源回路を制御する制御回路とを備えた、
送電装置の制御装置。
【請求項2】
前記受電装置は、可変な負荷値を有する第1の負荷装置と、予め決められた負荷値を有する第2の負荷装置と、前記受電装置の出力電圧を前記第1の負荷装置及び前記第2の負荷装置の一方に選択的に供給するスイッチ回路とを有し、
前記制御装置は、前記受電装置に通信可能に接続される通信装置をさらに備え、
前記制御回路は、
通常の送電を行うとき、前記受電装置の出力電圧を前記第1の負荷装置に供給するように前記スイッチ回路を切り換える信号を、前記通信装置を用いて前記受電装置に送信し、
前記送電周波数を決定するとき、前記受電装置の出力電圧を前記第2の負荷装置に供給するように前記スイッチ回路を切り換える信号を、前記通信装置を用いて前記受電装置に送信し、前記検出回路によって検出された値に基づいて前記送電周波数を決定する、
請求項1記載の送電装置の制御装置。
【請求項3】
前記検出回路によって検出された値に基づいて前記送電コイル及び前記受電コイルの結合率を推定し、前記結合率に基づいて、前記送電周波数を決定する結合率推定器をさらに備えた、
請求項1又は2記載の送電装置の制御装置。
【請求項4】
前記検出回路は、前記補助コイルに発生する電流又は電圧の値を検出する第1の検出器と、前記送電コイルに流れる電流を検出する第2の検出器とを備え、
前記結合率推定器は、前記補助コイルに発生する電流又は電圧の値に基づいて前記送電コイル及び前記受電コイルの間の第1の結合率を推定し、前記送電コイルに流れる電流の値に基づいて前記送電コイル及び前記受電コイルの間の第2の結合率を推定し、
前記制御回路は、前記第1及び第2の結合率の差が予め決められたしきい値以下であるとき、前記決定された周波数及び電圧を有する送電電力を発生するように前記電源回路を制御する、
請求項3記載の送電装置の制御装置。
【請求項5】
前記制御回路は、前記第1及び第2の結合率の差が予め決められたしきい値を超えるとき、前記受電装置への電力の伝送を停止するように前記電源回路を制御する、
請求項4記載の送電装置の制御装置。
【請求項6】
送電コイルと、
前記送電コイルに電磁的に結合した補助コイルと、
可変な電圧及び可変な周波数を有する送電電力を発生して前記送電コイルに供給する電源回路と、
請求項1〜5のうちの1つに記載の送電装置の制御装置とを備えた、
送電装置。
【請求項7】
LC共振回路を構成するように前記送電コイルに接続されたキャパシタをさらに備えた、
請求項6記載の送電装置。
【請求項8】
前記送電コイル及び前記補助コイルが巻回された磁性体コアをさらに備え、
前記補助コイルは、前記送電コイルを包囲するように配置された、
請求項6又は7記載の送電装置。
【請求項9】
請求項6〜8のうちの1つに記載の送電装置と、
受電コイルを備えた受電装置とを含む、
非接触電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、受電装置に電力を非接触で伝送する送電装置の制御装置に関する。本開示はまた、そのような制御装置を備えた送電装置に関し、また、そのような送電装置を含む非接触電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
送電装置から受電装置に電力を非接触で伝送する非接触電力伝送システムが知られている。送電装置から受電装置に電力を非接触で伝送するとき、受電装置は送電装置に対して常に決まった位置に配置されるとは限らない。従って、送電装置の送電コイルと受電装置の受電コイルとの間の距離が変化し、送電コイル及び受電コイルの結合率が変化する可能性がある。送電コイル及び受電コイルの結合率が変化すると、受電装置から負荷装置に供給される電圧及び/又は電流も変化する。
【0003】
負荷装置の所望電圧を受電装置から負荷装置に供給するために、例えば、受電装置の出力電圧値及び/又は出力電流値を送電装置にフィードバックし、送電コイルに印加される電圧を制御することが考えられる。また、負荷装置の所望電圧を受電装置から負荷装置に供給するために、例えば、DC/DCコンバータを受電装置に設けることが考えられる。
【0004】
例えば、特許文献1は、車両のバッテリへの出力電圧値及び出力電流値を車両から給電装置にフィードバックし、給電装置の出力電圧及び駆動周波数を制御することで、所望の出力電圧及び出力電流をバッテリへ供給する非接触給電システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6201388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
受電装置の出力電圧値及び/又は出力電流値を送電装置にフィードバックする場合、ある程度の遅延が発生し、受電装置の負荷値(負荷装置に流れる電流の大きさ)の速い変化に追従することは困難である。また、DC/DCコンバータを受電装置に設ける場合、受電装置のサイズ、重量、及びコストが増大する。従って、受電装置から送電装置へのフィードバックに依存せず、かつ、受電装置に余分な回路(DC/DCコンバータなど)を設けることを必要とすることなく、負荷装置にその所望電圧を供給するように送電装置を制御することが求められる。
【0007】
本開示の目的は、負荷装置にその所望電圧を供給するように、送電装置により取得可能な情報のみに基づいて送電装置のみを制御することができる、送電装置の制御装置を提供することにある。
【0008】
本開示の目的はさらに、そのような制御装置を備えた送電装置を提供し、また、そのような送電装置を含む非接触電力伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の側面に係る送電装置の制御装置、送電装置、及び非接触電力伝送システムは、上述した課題を解決するために、以下の構成を有する。
【0010】
本開示の側面に係る送電装置の制御装置は、
受電コイルを備えた受電装置に電力を非接触で伝送する送電装置の制御装置であって、
前記送電装置は、送電コイルと、前記送電コイルに電磁的に結合した補助コイルと、可変な電圧及び可変な周波数を有する送電電力を発生して前記送電コイルに供給する電源回路とを備え、
前記制御装置は、
前記送電コイルに流れる電流の値と、前記補助コイルに発生する電流又は電圧の値とのうちの少なくとも一方を検出する検出回路と、
前記検出回路によって検出された値に基づいて、前記受電装置の負荷値に対する前記受電装置の出力電圧の依存性が少なくとも局所的に最小化される送電周波数を決定し、前記決定された送電周波数を有する送電電力を発生するときに前記受電装置の出力電圧を予め決められた目標電圧にする前記送電電力の電圧を決定し、前記決定された送電周波数及び電圧を有する送電電力を発生するように前記電源回路を制御する制御回路とを備える。
【0011】
本開示の側面に係る送電装置の制御装置によれば、この構成を備えたことにより、送電装置により取得可能な情報のみに基づいて送電装置のみを制御することで、受電装置の負荷値(負荷装置に流れる電流の大きさ)に実質的に依存することなく、負荷装置にその所望電圧を供給することができる。
【0012】
本開示の側面に係る送電装置の制御装置において、
前記受電装置は、可変な負荷値を有する第1の負荷装置と、予め決められた負荷値を有する第2の負荷装置と、前記受電装置の出力電圧を前記第1の負荷装置及び前記第2の負荷装置の一方に選択的に供給するスイッチ回路とを有し、
前記制御装置は、前記受電装置に通信可能に接続される通信装置をさらに備え、
前記制御回路は、
通常の送電を行うとき、前記受電装置の出力電圧を前記第1の負荷装置に供給するように前記スイッチ回路を切り換える信号を、前記通信装置を用いて前記受電装置に送信し、
前記送電周波数を決定するとき、前記受電装置の出力電圧を前記第2の負荷装置に供給するように前記スイッチ回路を切り換える信号を、前記通信装置を用いて前記受電装置に送信し、前記検出回路によって検出された値に基づいて前記送電周波数を決定する。
【0013】
本開示の側面に係る送電装置の制御装置によれば、この構成を備えたことにより、負荷装置が可変な負荷値を有する場合であっても、送電コイル及び受電コイルの間に異物が存在するか否かを正しく判断することができる。
【0014】
本開示の側面に係る送電装置の制御装置において、
前記検出回路によって検出された値に基づいて前記送電コイル及び前記受電コイルの結合率を推定し、前記結合率に基づいて、前記送電周波数を決定する結合率推定器をさらに備える。
【0015】
本開示の側面に係る送電装置の制御装置によれば、この構成を備えたことにより、送電装置により取得可能な情報のみに基づいて送電装置のみを制御することで、受電装置の負荷値に実質的に依存することなく、負荷装置にその所望電圧を供給することができる。
【0016】
本開示の側面に係る送電装置の制御装置において、
前記検出回路は、前記補助コイルに発生する電流又は電圧の値を検出する第1の検出器と、前記送電コイルに流れる電流を検出する第2の検出器とを備え、
前記結合率推定器は、前記補助コイルに発生する電流又は電圧の値に基づいて前記送電コイル及び前記受電コイルの間の第1の結合率を推定し、前記送電コイルに流れる電流の値に基づいて前記送電コイル及び前記受電コイルの間の第2の結合率を推定し、
前記制御回路は、前記第1及び第2の結合率の差が予め決められたしきい値以下であるとき、前記決定された周波数及び電圧を有する送電電力を発生するように前記電源回路を制御する。
【0017】
本開示の側面に係る送電装置の制御装置によれば、この構成を備えたことにより、送電コイル及び受電コイルの間に異物が存在するか否かを誤りなく確実に判断し、異物が存在しない場合に送電を継続することができる。
【0018】
本開示の側面に係る送電装置の制御装置において、
前記制御回路は、前記第1及び第2の結合率の差が予め決められたしきい値を超えるとき、前記受電装置への電力の伝送を停止するように前記電源回路を制御する。
【0019】
本開示の側面に係る送電装置の制御装置によれば、この構成を備えたことにより、送電コイル及び受電コイルの間に異物が存在するか否かを誤りなく確実に判断し、異物が存在する場合に送電を停止することができる。
【0020】
本開示の側面に係る送電装置は、
送電コイルと、
前記送電コイルに電磁的に結合した補助コイルと、
可変な電圧及び可変な周波数を有する送電電力を発生して前記送電コイルに供給する電源回路と、
前記送電装置の制御装置とを備える。
【0021】
本開示の側面に係る送電装置によれば、この構成を備えたことにより、送電装置により取得可能な情報のみに基づいて送電装置のみを制御することで、受電装置の負荷値に実質的に依存することなく、負荷装置にその所望電圧を供給することができる。
【0022】
本開示の側面に係る送電装置は、
LC共振回路を構成するように前記送電コイルに接続されたキャパシタをさらに備える。
【0023】
本開示の側面に係る送電装置によれば、この構成を備えたことにより、受電装置の出力電圧の利得を調整したり、電力伝送の効率を向上したりすることができる。
【0024】
本開示の側面に係る送電装置は、
前記送電コイル及び前記補助コイルが巻回された磁性体コアをさらに備え、
前記補助コイルは、前記送電コイルを包囲するように配置される。
【0025】
本開示の側面に係る送電装置によれば、この構成を備えたことにより、送電コイルの磁束密度を増大させることができ、また、漏洩磁束を低減することができる。
【0026】
本開示の側面に係る非接触電力伝送システムは、
前記送電装置と、
受電コイルを備えた受電装置とを含む。
【0027】
本開示の側面に係る非接触電力伝送システムによれば、この構成を備えたことにより、送電装置により取得可能な情報のみに基づいて送電装置のみを制御することで、受電装置の負荷値に実質的に依存することなく、負荷装置にその所望電圧を供給することができる。
【発明の効果】
【0028】
本開示によれば、送電装置により取得可能な情報のみに基づいて送電装置のみを制御することで、受電装置の負荷値に実質的に依存することなく、負荷装置にその所望電圧を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2図1の磁性体コアF1,F2の構成の一例を示す斜視図である。
図3図1の非接触電力伝送システムの適用例を示す図である。
図4図1の検出器13によって検出される補助コイルL3に発生する電流I3の大きさの変化の一例を示すグラフである。
図5図1の検出器14によって検出される送電コイルL1に流れる電流I1の大きさの変化の一例を示すグラフである。
図6図1の送電コイルL1に流れる電流I1及び補助コイルL3に発生する電流I3に対して計算される送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12の一例を示すテーブルである。
図7図1の制御回路16によって実行される第1の送電処理を示すフローチャートである。
図8】第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムの制御回路16によって実行される第2の送電処理を示すフローチャートである。
図9図1の受電装置20の出力電圧が、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12と、送電装置10の電圧V0とに依存して変化することを説明する例示的なグラフである。
図10図1の受電装置20の出力電圧が、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12と、負荷装置22の負荷値とに依存して変化することを説明する例示的なグラフである。
図11】第2の実施形態の第1の変形例に係る非接触電力伝送システムの制御回路16によって実行される第3の送電処理を示すフローチャートである。
図12】第2の実施形態の第2の変形例に係る非接触電力伝送システムの制御回路16によって実行される第4の送電処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本開示の一側面に係る実施形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。各図面において、同じ符号は同様の構成要素を示す。
【0031】
[第1の実施形態]
図1図7を参照して、第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムについて説明する。
【0032】
[第1の実施形態の適用例]
送電装置から受電装置に電力を非接触で伝送する非接触電力伝送システムにおいて、送電装置及び受電装置の間に挟まれた異物を検出することが求められる。送電装置及び受電装置の間に挟まれた異物を検出するために、例えば、受電装置が、送電装置から通知された電流値に対する、受電装置によって実際に受信された電流の大きさの比率を計算し、この比率が所定値よりも小さい場合、電力の伝送を中止するように送電装置に要求することが考えられる。しかしながら、この場合、受電装置から送電装置へのフィードバックのために、ある程度の遅延が発生する。従って、異物をその発熱の前に検出し、電力の伝送を停止することは困難である。代替として、カメラを用いて異物を検出したり、温度センサを用いて異物に起因する温度の上昇を検出したりすることが考えられる。しかしながら、この場合、送電装置及び/又は受電装置のサイズ、重量、及びコストが増大する。また、送電装置の1つの回路パラメータの変化のみに基づいて異物を検出しようとする場合、異物の影響により発生した変化であるのか、送電コイル及び受電コイルの間の距離が変化して結合率が変化したことにより発生した変化であるのかを区別することが困難である。そのため、異物を検出できず、そのまま給電すると異物が発熱してしまう可能性もある。従って、受電装置から送電装置へのフィードバックに依存せず、カメラ、温度センサなどを含まない簡単な構成で、異物を確実に検出することが求められる。
【0033】
第1の実施形態では、受電装置から送電装置へのフィードバックに依存せず、簡単な構成で、異物を確実に検出することができる非接触電力伝送システムについて説明する。
【0034】
図1は、第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムの構成の一例を示すブロック図である。図1の非接触電力伝送システムは、送電装置10及び受電装置20を含み、送電装置10は受電装置20に電力を非接触で伝送する。
【0035】
送電装置10は、少なくとも、AC/DCコンバータ11、インバータ12、検出器13,14、結合率推定器15、制御回路16、送電コイルL1、及び補助コイルL3を備える。
【0036】
AC/DCコンバータ11は、交流電源1から入力された交流電圧を、所定の大きさを有する直流の電圧V0に変換する。インバータ12は、所定のスイッチング周波数fswで動作し、AC/DCコンバータ11から入力された直流の電圧V0を交流の電圧V1に変換する。電圧V1は送電コイルL1に印加される。ここで、電圧V1の振幅は電圧V0の大きさに等しい。
【0037】
本明細書では、AC/DCコンバータ11及びインバータ12をまとめて「電源回路」ともいう。言い換えると、電源回路は、所定の電圧及び周波数を有する送電電力を発生して送電コイルL1に供給する。
【0038】
送電コイルL1は、送電装置10から受電装置20に電力を伝送するとき、受電装置20の受電コイルL2(後述)に電磁的に結合する。また、補助コイルL3は送電コイルL1に電磁的に結合する。
【0039】
検出器13は、補助コイルL3に発生する電流I3又は電圧V3の値を検出する。検出器14は、送電コイルL1に流れる電流I1の値を検出する。検出器13,14によって検出された値は、制御回路16に通知される。
【0040】
本明細書では、検出器13を「第1の検出器」ともいい、検出器14を「第2の検出器」ともいう。また、本明細書では、検出器13,14をまとめて「検出回路」ともいう。
【0041】
結合率推定器15は、補助コイルL3に発生する電流I3又は電圧V3の値に基づいて、送電コイルL1及び受電コイルL2の間の第1の結合率k12aを推定する。結合率推定器15は、送電コイルL1に流れる電流I1の値に基づいて、送電コイルL1及び受電コイルL2の間の第2の結合率k12bを推定する。
【0042】
制御回路16は、AC/DCコンバータ11及びインバータ12による送電電力の発生の開始及び停止を制御する。
【0043】
受電装置20は、少なくとも受電コイルL2を備える。受電装置20の内部又は外部に負荷装置22が設けられる。負荷装置22は、例えば、バッテリ、モータ、電気回路、及び/又は電子回路などを含む。受電コイルL2を介して送電装置10から受信された電力は、負荷装置22に供給される。
【0044】
本明細書では、負荷装置22に印加される電圧V4を、受電装置20の「出力電圧」ともいう。
【0045】
送電装置10の制御回路16は、第1の結合率k12a及び第2の結合率k12bの差が予め決められたしきい値以下であるとき、受電装置20へ電力を伝送するようにAC/DCコンバータ11及びインバータ12を制御する。制御回路16は、第1の結合率k12a及び第2の結合率k12bの差がしきい値より大きいとき、受電装置20への電力の伝送を停止するようにAC/DCコンバータ11及びインバータ12を制御する。ここで、しきい値の大きさは、第1の結合率k12a及び第2の結合率k12bが実質的に一致しているとみなすことができるように設定される。
【0046】
第1の実施形態では、検出器13,14、結合率推定器15、及び制御回路16をまとめて、送電装置10の「制御装置」ともいう。
【0047】
送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12は、送電コイルL1及び受電コイルL2の間の距離に応じて変化する。距離が近くなると結合率k12が増大し、距離が遠くなると結合率k12が低下する。また、送電コイルL1に流れる電流I1は、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12に応じて、所定の特性で変化する。補助コイルL3に発生する電流I3(及び/又は電圧V3)は、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12に応じて、電流I1とは異なる特性で変化する。結合率推定器15は、電流I1及び結合率k12の関係と、電流I3(又は電圧V3)及び結合率k12の関係とを示すテーブル又は計算式を予め格納している。結合率推定器15は、このテーブル又は計算式を参照することにより、電流I1,I3(又は、電流I1及び電圧V3)の値に基づいて結合率k12a,k12bをそれぞれ推定することができる。送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物が存在しなければ、推定される結合率k12a,k12bは互いに一致すると期待される。一方、送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物が存在すると、電流I1,I3は異物から互いに異なる影響を受け、その結果、推定される結合率k12a,k12bは互いに不一致する。
【0048】
送電装置から受電装置に電力を非接触で伝送するとき、受電装置は送電装置に対して常に決まった位置に配置されるとは限らない。例えば、受電装置がバッテリを備えた電動の車両であり、送電装置が車両のための充電台である場合を考える。この場合、車両が充電台の正面の位置からずれることにより、また、充電台及び車両の間の距離が変化することにより、車両が充電台に停止するごとに、例えば数mm〜数十mmのずれが発生することがある。従って、送電装置の送電コイルと受電装置の受電コイルとの間の距離が変化し、送電コイル及び受電コイルの結合率が変化する可能性がある。送電装置の1つの回路パラメータの変化のみに基づいて異物を検出しようとする場合、異物の影響により発生した変化であるのか、送電コイル及び受電コイルの間の距離が変化して結合率が変化したことにより発生した変化であるのかを区別することが困難である。
【0049】
一方、第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムによれば、前述のように、補助コイルL3に発生する電流I3又は電圧V3の値に基づいて推定された第1の結合率k12aと、送電コイルL1に流れる電流I1の値に基づいて推定された第2の結合率k12bとを比較する。言い換えると、第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムでは、異物を検出するために、送電装置10の2つの回路パラメータが参照される。これにより、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率の変化にかかわらず、送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物が存在するか否かを誤りなく確実に判断することができる。このように、第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムによれば、受電装置20から送電装置10へのフィードバックに依存せず、カメラ、温度センサなどを含まない簡単な構成で、異物を確実に検出することができる。受電装置20から送電装置10へのフィードバックに依存しないことにより、異物をその発熱の前に検出し、電力の伝送を停止しやすくなる。また、カメラ、温度センサなどを含まないことにより、送電装置10及び受電装置20のサイズ、重量、及びコストを削減すること、又は少なくとも、増大しにくくすることができる。
【0050】
第1の実施形態によれば、受電装置20はバッテリを備えた電子機器(例えば、ノートブック型コンピュータ、タブレット型コンピュータ、携帯電話機など)であってもよく、送電装置10はその充電器であってもよい。また、第1の実施形態によれば、受電装置20はバッテリを備えた電動の車両(例えば、電気自動車又は無人搬送車(automated guided vehicle))であってもよく、送電装置10はその充電台であってもよい。また、第1の実施形態によれば、受電装置20は、搬送時に荷物に対して何らかの作業を行うために電源を必要とするパレットであってもよく、送電装置10は、そのようなパレットに電力を供給可能なコンベアなどであってもよい。また、第1の実施形態によれば、送電コイルL1及び受電コイルL2の間の距離が変化しない非接触電力伝送システムにも有効に適用可能である。この場合、例えば、送電装置10及び受電装置20は、ロボットアームの先端などにおける駆動機構に電力を供給するために、ロボットアームの関節などにおいてスリップリングに代えて設けられてもよい。
【0051】
[第1の実施形態の構成例]
図1に示すように、送電装置10は交流電源1から電力供給を受ける。交流電源1は、例えば商用電力である。
【0052】
図1の例では、送電装置10は、AC/DCコンバータ11、インバータ12、検出器13,14、結合率推定器15、制御回路16、通信装置17、キャパシタC1、磁性体コアF1、送電コイルL1、補助コイルL3、及び電流検出抵抗R1を備える。
【0053】
AC/DCコンバータ11は、前述のように、交流電源1から入力された交流電圧を直流の電圧V0に変換する。AC/DCコンバータ11は、交流電源1から入力された交流電圧を、制御回路16の制御下で可変な大きさを有する直流の電圧V0に変換してもよい。AC/DCコンバータ11は力率改善回路を備えてもよい。インバータ12は、前述のように、AC/DCコンバータ11から入力された直流の電圧V0を交流の電圧V1に変換する。インバータ12は、例えば、スイッチング周波数fswを有する矩形波の交流の電圧V1を発生する。インバータ12は、制御回路16の制御下で可変なスイッチング周波数fswで動作してもよい。
【0054】
送電装置10はキャパシタC1を備えてもよい。この場合、キャパシタC1は、LC共振回路を構成するように送電コイルL1に接続される。キャパシタC1を備えることにより、受電装置20の出力電圧の利得を調整したり、電力伝送の効率を向上したりすることができる。
【0055】
送電装置10は磁性体コアF1を備えてもよい。この場合、送電コイルL1及び補助コイルL3は磁性体コアF1に巻回される。送電コイルL1を磁性体コアF1に巻回することにより、送電コイルL1の磁束密度を増大させることができ、また、漏洩磁束を低減することができる。
【0056】
検出器13は、前述のように、補助コイルL3に発生する電流I3又は電圧V3の値を検出する。検出器14は、電流検出抵抗R1を用いて、送電コイルL1に流れる電流I1の値を検出する。
【0057】
結合率推定器15は、前述のように、補助コイルL3に発生する電流I3又は電圧V3の値に基づいて、送電コイルL1及び受電コイルL2の間の第1の結合率k12aを推定する。また、結合率推定器15は、前述のように、送電コイルL1に流れる電流I1の値に基づいて、送電コイルL1及び受電コイルL2の間の第2の結合率k12bを推定する。
【0058】
制御回路16は、前述のように、AC/DCコンバータ11及びインバータ12による送電電力の発生の開始及び停止を制御する。制御回路16は、送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物が存在しないと判断したとき、受電装置20へ電力を伝送するようにAC/DCコンバータ11及びインバータ12を制御する。制御回路16は、送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物が存在すると判断したとき、AC/DCコンバータ11及びインバータ12を停止する。制御回路16は、AC/DCコンバータ11から出力される直流の電圧V0の大きさと、インバータ12のスイッチング周波数fswとを制御してもよい。制御回路16は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を含み、後述する第1の送電処理を実行する。
【0059】
送電装置10は通信装置17を備えてもよい。この場合、通信装置17は、無線(例えば赤外線)又は有線により、受電装置20の通信装置24(後述)と通信可能に接続される。制御回路16は、通信装置17を介して受電装置20から、受電装置20が電力伝送を要求していることを示す信号を受信してもよい。また、制御回路16は、通信装置17を介して受電装置20から、負荷装置22に供給すべき電圧及び/又は電流の値などを示す信号を受信してもよい。また、受電装置20が通常モード及びテストモード(後述)を有する場合、制御回路16は、通信装置17を介して受電装置20に、テストモードへの遷移又は通常モードへの遷移を要求する信号を送信してもよい。
【0060】
図1の例では、受電装置20は、整流回路21、負荷装置22、制御回路23、通信装置24、キャパシタC2、磁性体コアF2、受電コイルL2、負荷素子R2、及びスイッチ回路SWを備える。
【0061】
送電装置10から受電装置20に電力を伝送するとき、受電コイルL2が送電コイルL1に電磁的に結合することにより、受電コイルL2に電流I2及び電圧V2が発生する。
【0062】
受電装置20はキャパシタC2を備えてもよい。この場合、キャパシタC2は、LC共振回路を構成するように受電コイルL2に接続される。キャパシタC2を備えることにより、受電装置20の出力電圧の利得を調整したり、電力伝送の効率を向上したりすることができる。
【0063】
受電装置20は磁性体コアF2を備えてもよい。この場合、受電コイルL2は磁性体コアF2に巻回される。受電コイルL2を磁性体コアF2に巻回することにより、受電コイルL2の磁束密度を増大させることができ、また、漏洩磁束を低減することができる。
【0064】
整流回路21は、受電コイルL2から入力された交流の電圧V2を直流の電圧V4に変換する。整流回路21は平滑化回路及び/又は力率改善回路を備えてもよい。
【0065】
受電装置20は、制御回路23、通信装置24、負荷素子R2、及びスイッチ回路SWを備えてもよい。この場合、整流回路21から出力された電圧V4は、制御回路23の制御下で動作するスイッチ回路SWを介して、負荷装置22又は負荷素子R2に選択的に供給される。例えば負荷装置22がバッテリである場合、負荷装置22は、バッテリの充電率に応じて変動する可変な負荷値を有する。一方、負荷素子R2は、予め決められた負荷値を有する。ここで、負荷値は、例えば、負荷装置22又は負荷素子R2に流れる電流の大きさを示す。負荷素子R2及びスイッチ回路SWは、例えばDC/DCコンバータよりも簡単な構成を有し、負荷装置22への電力伝送の効率に影響しにくいように構成される。負荷素子R2は、負荷装置22の負荷値よりも小さな負荷値を有してもよい。受電装置20は、整流回路21から出力された電圧V4を負荷装置22に供給する通常モードと、整流回路21から出力された電圧V4を負荷素子R2に供給するテストモードとを有する。通信装置24は、前述のように、無線(例えば赤外線)又は有線により、送電装置10の通信装置17と通信可能に接続される。制御回路23は、通信装置24を介して送電装置10から、テストモードへの遷移又は通常モードへの遷移を要求する信号を受信する。
【0066】
送電装置10の制御回路16は、通常の送電を行うとき、通常モードに遷移するように要求する信号(すなわち、受電装置20の出力電圧を負荷装置22に供給するようにスイッチ回路SWを切り換える信号)を、通信装置17を用いて受電装置20に送信する。
【0067】
負荷装置22が可変な負荷値を有する場合、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12が一定であっても、送電コイルL1に流れる電流I1は、負荷装置22の負荷値に応じて、所定の特性で変化する。同様に、補助コイルL3に発生する電流I3(及び/又は電圧V3)もまた、負荷装置22の負荷値に応じて、電流I1とは異なる特性で変化する。従って、負荷装置22の負荷値が変化すると、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12を正しく推定できなくなり、送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物が存在するか否かを正しく判断できなくなる。このため、送電装置10の制御回路16は、テストモードに遷移するように要求する信号(すなわち、受電装置20の出力電圧を負荷素子R2に供給するようにスイッチ回路SWを切り換える信号)を受電装置20に送信し、受電装置20がテストモードにあるときに検出器13,14によって検出された値に基づいて結合率k12a,k12bをそれぞれ推定する。これにより、負荷装置22が可変な負荷値を有する場合であっても、送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物が存在するか否かを正しく判断することができる。
【0068】
本明細書において、負荷装置22を「第1の負荷装置」ともいい、負荷素子R2を「第2の負荷装置」ともいう。
【0069】
受電装置20の制御回路23は、通信装置24を介して送電装置10に、受電装置20が電力伝送を要求していることを示す信号を送信してもよい。また、制御回路23は、通信装置24を介して送電装置10に、負荷装置22に供給すべき電圧及び/又は電流の値などを示す信号を送信してもよい。
【0070】
受電装置20において発生する電圧(整流回路21から出力された電圧V4、など)は、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12に応じて変化する。結合率k12が増大すると電圧も増大し、結合率k12が低下すると電圧も低下する。送電装置10及び受電装置20の各回路パラメータは、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12が最大になり、かつ、電圧V4が最大値又は極大値になる周波数で動作するときであっても、受電装置20において過電圧が発生しないように決定される。
【0071】
図2は、図1の磁性体コアF1,F2の構成の一例を示す斜視図である。前述したように、送電コイルL1及び補助コイルL3は磁性体コアF1に巻回されてもよく、受電コイルL2は磁性体コアF2に巻回されてもよい。送電コイルL1から発生する磁束の一部が補助コイルL3に鎖交することにより、補助コイルL3に電流I3及び電圧V3が発生する。また、図2に示すように、補助コイルL3は、送電コイルL1を包囲するように配置されてもよい。補助コイルL3をこのように配置することにより、送電コイルL1の漏洩磁束を低減することができる。
【0072】
送電コイルL1及び受電コイルL2は結合率k12で互いに電磁的に結合し、送電コイルL1及び補助コイルL3は結合率k13で互いに電磁的に結合し、受電コイルL2及び補助コイルL3は結合率k23で互いに電磁的に結合する。送電コイルL1、受電コイルL2、及び補助コイルL3は、結合率k13,k23は結合率k12よりもずっと小さくなるように構成される。送電コイルL1、受電コイルL2、及び補助コイルL3は、結合率k23が結合率k13よりも小さくなるように構成されてもよい。
【0073】
[第1の実施形態の動作例]
図3は、図1の非接触電力伝送システムの適用例を示す図である。図3は、受電装置20が、バッテリを備えた電動の車両32に組み込まれ、送電装置10が、車両32の受電装置20に対して送電可能であるように路面31に組み込まれる場合を示す。この場合、車両32のバッテリが受電装置20の負荷装置22である。送電装置10及び受電装置20は、距離d1を有して互いに対向する。図3に示すように、送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物33が挟まれることがある。
【0074】
図4は、図1の検出器13によって検出される補助コイルL3に発生する電流I3の大きさの変化の一例を示すグラフである。図5は、図1の検出器14によって検出される送電コイルL1に流れる電流I1の大きさの変化の一例を示すグラフである。前述のように、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12は、送電コイルL1及び受電コイルL2の間の距離d1に応じて変化する。従って、図4及び図5に示す距離d1と電流I1,I3の関係から、等価的に、結合率k12と電流I1,I3の関係がわかる。また、前述のように、送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物33が存在すると、電流I1,I3は異物33から互いに異なる影響を受ける。図4及び図5の例では、異物33が存在すると、異物33が存在しない場合よりも、電流I3は減少し、電流I1は増大する。
【0075】
図6は、図1の送電コイルL1に流れる電流I1及び補助コイルL3に発生する電流I3に対して計算される送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12の一例を示すテーブルである。図6は、受電装置20がテストモードにあり、送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物33が存在しない場合における電流I1,I3及び結合率k12を示す。結合率推定器15は、図6に示すような電流I1,I3及び結合率k12の関係を示すテーブルを予め格納している。結合率推定器15は、電流I3の値に基づいてテーブルを参照することにより、送電コイルL1及び受電コイルL2の間の第1の結合率k12aを推定する。結合率推定器15は、電流I1の値に基づいてテーブルを参照することにより、送電コイルL1及び受電コイルL2の間の第2の結合率k12bを推定する。送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物33が存在しなければ、電流I3の値に基づいて推定された結合率k12aと、電流I1の値に基づいて推定された結合率k12bとは互いに一致すると期待される。一方、送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物33が存在すると、電流I1,I3は異物33から互いに異なる影響を受け、その結果、電流I3の値に基づいて推定された結合率k12aと、電流I1の値に基づいて推定された結合率k12bとは互いに不一致する。従って、結合率k12a,k12bが互いに一致するか否かに基づいて、送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物33が存在するか否かを判断することができる。
【0076】
制御回路16は、推定された結合率k12a,k12bが互いに実質的に一致するとき、すなわち、結合率k12a,k12bの差が予め決められたしきい値以下であるとき、結合率k12a,k12bが互いに一致すると判断してもよい。
【0077】
結合率推定器15は、図6に示すようなテーブルに代えて、電流I1,I3及び結合率k12の関係を示す計算式を予め格納してもよい。例えば、送電コイルL1に流れる電流I1に基づいて結合率k12aを次式のように推定してもよい。
【0078】
k12a=eI1+a
【0079】
ここで、右辺の「a」は定数である。
【0080】
また、電流I1と結合率k12aとは、次式の関係を有してもよい。
【0081】
I1=1+k12a+(k12a)+…+(k12a)
【0082】
この式を結合率k12aについて解くことにより、電流I1に基づいて結合率k12aを推定してもよい。
【0083】
電流I1に基づいて結合率k12aを推定するための計算式は、以上に例示したものに限定されない。
【0084】
補助コイルL3に流れる電流I3に基づいて結合率k12bを推定する場合もまた、電流I1に基づいて結合率k12aを推定する場合と同様に、何らかの計算式を用いて推定可能である。
【0085】
図4及び図6では、補助コイルL3に発生する電流I3の値を検出する場合について説明したが、補助コイルL3に発生する電圧V3の値を検出する場合もまた実質的に同様に、送電コイルL1及び受電コイルL2の間の結合率k12bを推定可能である。
【0086】
図7は、図1の制御回路16によって実行される第1の送電処理を示すフローチャートである。
【0087】
ステップS1において、制御回路16は、通信装置17を介して受電装置20から、受電装置20が電力伝送を要求していることを示す信号を受信する。
【0088】
ステップS2において、制御回路16は、通信装置17を介して受電装置20に、テストモードへの遷移を要求する信号を送信する。受電装置20の制御回路23は、通信装置24を介して送電装置10から、テストモードへの遷移を要求する信号を受信したとき、整流回路21から出力された電圧V4を負荷素子R2に供給するようにスイッチ回路SWを切り換える。ステップS3において、制御回路16は、AC/DCコンバータ11から出力される電圧V0と、インバータ12のスイッチング周波数fswとをテストモードの規定値に設定し、テストモードの送電を開始する。前述のように、受電装置20において発生する電圧は、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12に応じて変化するが、テストモードを完了するまでは結合率k12は不明である。従って、受電装置20において過電圧が発生しないようにするために、制御回路16は、AC/DCコンバータ11から出力される電圧V0を予め決められた非ゼロの最小値に設定し、インバータ12のスイッチング周波数fswを最大値に設定する。電圧V0の最小値は、結合率k12a,k12bを検出可能な電流I1,I3(又は電流I1及び電圧V3)が送電コイルL1及び補助コイルL3に生じるように設定される。電圧V0の最小値及びスイッチング周波数fswの最大値を、テストモードの規定値として使用する。
【0089】
ステップS4において、制御回路16は、検出器13を用いて、補助コイルL3に発生する電流I3又は電圧V3の値を検出する。ステップS5において、制御回路16は、結合率推定器15を用いて、検出された電流I3又は電圧V3の値に基づいて、テーブル又は計算式を参照することにより、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12aを推定する。
【0090】
ステップS6において、制御回路16は、検出器14を用いて、送電コイルL1に流れる電流I1の値を検出する。ステップS7において、制御回路16は、結合率推定器15を用いて、検出された電流I1の値に基づいて、テーブル又は計算式を参照することにより、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12bを推定する。
【0091】
ステップS8において、制御回路16は、推定された結合率k12a,k12bが互いに実質的に一致するか否かを判断し、YESのときはステップS9に進み、NOのときはステップS12に進む。
【0092】
ステップS9において、制御回路16は、AC/DCコンバータ11から出力される電圧V0と、インバータ12のスイッチング周波数fswとを通常モードの規定値に設定する。制御回路16は、AC/DCコンバータ11から出力される電圧V0を、負荷装置22に供給すべき電圧及び/又は電流の値に応じて決まる予め決められた値に設定する。制御回路16は、インバータ12のスイッチング周波数fswを、例えば、第2の実施形態で説明するように、受電装置20の負荷値に対する受電装置20の出力電圧の依存性が少なくとも局所的に最小化される送電周波数に設定する。このような電圧V0及びスイッチング周波数fswの値を、通常モードの規定値として使用する。ステップS10において、制御回路16は、通信装置17を介して受電装置20に、通常モードへの遷移を要求する信号を送信する。受電装置20の制御回路23は、通信装置24を介して送電装置10から、通常モードへの遷移を要求する信号を受信したとき、整流回路21から出力された電圧V4を負荷装置22に供給するようにスイッチ回路SWを切り換える。ステップS11において、制御回路16は、通常モードの送電を開始する。
【0093】
ステップS12において、制御回路16は、異物が存在すると判断する。ステップS13において、制御回路16は、送電を停止する。
【0094】
[第1の実施形態の効果]
第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムによれば、受電装置20から送電装置10へのフィードバックに依存せず、カメラ、温度センサなどを含まない簡単な構成で、異物を確実に検出することができる。
【0095】
第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムによれば、異物を検出して送電を停止することにより、非接触電力伝送システムの安全性を向上することができる。
【0096】
第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムによれば、電流I3又は電圧V3の値に基づいて推定された結合率k12aと、電流I1の値に基づいて推定された結合率k12bとが互いに一致する場合、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12を正しく推定することができる。
【0097】
1つの回路パラメータに基づいて送電コイル及び受電コイルの結合率を推定し、推定された結合率を何らかのしきい値を比較する場合には、結合率が異物の影響により変化したのか、他の要因(送電コイル及び受電コイルの間の距離の変化、など)により変化したのかを区別することが困難である。また、この場合、推定された結合率がしきい値よりも高いか低いかを判断することしかできず、結合率の強弱を考慮することができない。これに対して、第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムによれば、推定された2つの結合率k12a,k12bが互いに実質的に一致するか否か判断することにより、結合率が高い場合にも低い場合にも、異物を確実に検出することができる。
【0098】
[第2の実施形態]
図8図12を参照して、第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムについて説明する。
【0099】
[第2の実施形態の適用例]
前述したように、送電装置から受電装置に電力を非接触で伝送するとき、受電装置は送電装置に対して常に決まった位置に配置されるとは限らない。従って、送電装置の送電コイルと受電装置の受電コイルとの間の距離が変化し、送電コイル及び受電コイルの結合率が変化する可能性がある。送電コイル及び受電コイルの結合率が変化すると、受電装置から負荷装置に供給される電圧及び/又は電流も変化する。
【0100】
負荷装置の所望電圧を受電装置から負荷装置に供給するために、例えば、受電装置の出力電圧値及び/又は出力電流値を送電装置にフィードバックし、送電コイルに印加される電圧を制御することが考えられる。しかしながら、この場合、受電装置の出力電圧値及び/又は出力電流値を送電装置にフィードバックするために、ある程度の遅延が発生し、負荷値の速い変化に追従することは困難である。また、負荷装置の所望電圧を受電装置から負荷装置に供給するために、例えば、DC/DCコンバータを受電装置に設けることが考えられる。しかしながら、この場合、受電装置のサイズ、重量、及びコストが増大する。従って、受電装置から送電装置へのフィードバックに依存せず、かつ、受電装置に余分な回路(DC/DCコンバータなど)を設けることを必要とすることなく、負荷装置にその所望電圧を供給するように送電装置を制御することが求められる。
【0101】
第2の実施形態では、負荷装置にその所望電圧を供給するように、送電装置により取得可能な情報のみに基づいて送電装置のみを制御することができる非接触電力伝送システムについて説明する。
【0102】
第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムは、第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムと実質的に同様に構成される。以下、図1を参照して、第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムについて説明する。
【0103】
第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムは、送電装置10及び受電装置20を含み、送電装置10は受電装置20に電力を非接触で伝送する。
【0104】
送電装置10は、少なくとも、AC/DCコンバータ11、インバータ12、検出器13,14、制御回路16、送電コイルL1、及び補助コイルL3を備える。
【0105】
AC/DCコンバータ11は、交流電源1から入力された交流電圧を、制御回路16の制御下で可変な大きさを有する直流の電圧V0に変換する。インバータ12は、制御回路16の制御下で可変なスイッチング周波数fswで動作し、AC/DCコンバータ11から入力された直流の電圧V0を交流の電圧V1に変換する。電圧V1は送電コイルL1に印加される。ここで、電圧V1の振幅は電圧V0の大きさに等しい。言い換えると、AC/DCコンバータ11及びインバータ12(電源回路)は、可変な電圧及び可変な周波数を有する送電電力を発生して送電コイルL1に供給する。
【0106】
第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムの送電コイルL1及び補助コイルL3は、第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムの送電コイルL1及び補助コイルL3とそれぞれ同様に構成される。
【0107】
検出器13,14(検出回路)は、送電コイルL1に流れる電流の値と、補助コイルL3に発生する電流又は電圧の値のうちの少なくとも一方を検出する。検出器13,14によって検出された値は、制御回路16に通知される。
【0108】
制御回路16は、AC/DCコンバータ11から出力される電圧V0の大きさと、インバータ12のスイッチング周波数fswとを制御する。
【0109】
第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムの受電装置20は、第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムの受電装置20と同様に構成される。
【0110】
送電装置10の制御回路16は、検出器13,14(検出回路)によって検出された値に基づいて、受電装置20の負荷値に対する受電装置20の出力電圧の依存性が少なくとも局所的に最小化される送電周波数を決定する。本明細書では、このような周波数を「負荷非依存の送電周波数」ともいう。制御回路16は、決定された周波数を有する送電電力を発生するときに受電装置20の出力電圧を予め決められた目標電圧にする送電電力の電圧を決定する。制御回路16は、決定された周波数及び電圧を有する送電電力を発生するようにAC/DCコンバータ11及びインバータ12(電源回路)を制御する。
【0111】
第2の実施形態では、検出器13,14、及び制御回路16をまとめて、送電装置10の「制御装置」ともいう。
【0112】
負荷装置22に印加される電圧V4(受電装置20の出力電圧)は、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12に応じて変化する。負荷装置22に印加される電圧V4は、さらに、負荷装置22の負荷値に応じて変化する。負荷値が増大すると電圧V4が低下し、負荷値が低下すると電圧V4が増大する。このような条件下であっても、負荷装置22にその所望電圧を供給するように送電装置10を制御することが求められる。
【0113】
第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムによれば、前述のように、検出器13,14によって検出された値に基づいて、受電装置20の負荷値に対する受電装置20の出力電圧の依存性が少なくとも局所的に最小化される送電周波数を決定する。また、第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムによれば、前述のように、決定された周波数を有する送電電力を発生するときに受電装置20の出力電圧を予め決められた目標電圧(すなわち、負荷装置22の所望電圧)にする送電電力の電圧を決定する。ここで、「送電電力の電圧」は、送電電力の振幅を示す。また、第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムによれば、前述のように、決定された周波数及び電圧を有する送電電力を発生するようにAC/DCコンバータ11及びインバータ12を制御する。このように、送電装置10により取得可能な情報のみに基づいて送電装置10のみを制御することで、受電装置20の負荷値(負荷装置22に流れる電流の大きさ)に実質的に依存することなく、負荷装置22にその所望電圧を供給することができる。受電装置20の負荷値の変動をモニタリングする必要がないので、受電装置20から送電装置10へのフィードバックも不要になり、従って、負荷値の速い変化に追従しやすくなる。また、受電装置に余分な回路(DC/DCコンバータなど)を設けることを必要としないことにより、受電装置20のサイズ、重量、及びコストを削減すること、又は少なくとも、増大しにくくすることができる。
【0114】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、受電装置20はバッテリを備えた電子機器であってもよく、送電装置10はその充電器であってもよい。また、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、受電装置20はバッテリを備えた電動の車両であってもよく、送電装置10はその充電台であってもよい。また、第2の実施形態によれば、受電装置20は、第1の実施形態と同様に、電源を必要とするパレットであってもよく、送電装置10は、そのようなパレットに電力を供給可能なコンベアなどであってもよい。また、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、送電装置10及び受電装置20は、ロボットアームの関節などにおいてスリップリングに代えて設けられてもよい。
【0115】
[第2の実施形態の構成例]
前述のように、第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムは、第1の実施形態に係る非接触電力伝送システムと実質的に同様に構成される。ただし、送電装置10の制御回路16は、図7の第1の送電処理に代えて、図8を参照して後述する第2の送電処理を実行するように構成される。このため、制御回路16は、以下に説明するようなテーブル又は計算式を予め格納している。
【0116】
制御回路16は、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12と、負荷非依存の送電周波数との関係を示すテーブル又は計算式を予め格納する。代替として、結合率推定器15を省略して検出器13,14によって検出された値を制御回路16に直接に入力してもよい。この場合、制御回路16は、送電コイルL1に流れる電流の値と、補助コイルL3に発生する電流又は電圧の値のうちの少なくとも一方と、負荷非依存の送電周波数との関係を示すテーブル又は計算式を予め格納してもよい。制御回路16は、このテーブル又は計算式を参照することにより、受電装置20の負荷値に対する受電装置20の出力電圧の依存性が少なくとも局所的に最小化される送電周波数(すなわち、インバータ12のスイッチング周波数fsw)を決定することができる。
【0117】
さらに、制御回路16は、送電コイルL1及び受電コイルL2のさまざまな結合率k12について、AC/DCコンバータ11から出力される電圧V0と、受電装置20の出力電圧との関係を示すテーブル又は計算式を予め格納している。制御回路16は、このテーブル又は計算式を参照することにより、受電装置20の出力電圧を予め決められた目標電圧にする送電電力の電圧を決定することができる。
【0118】
制御回路16は、これらのテーブル又は計算式を参照して、後述する第2の送電処理(又は、第3もしくは第4の送電処理)を実行する。
【0119】
また、制御回路16は、通信装置17を用いて、テストモードに遷移するように要求する信号を受電装置20に送信してもよい。制御回路16は、受電装置20がテストモードにあるときに検出器13,14によって検出された値に基づいて、負荷非依存の送電周波数を決定してもよい。これにより、負荷装置22が可変な負荷値を有する場合であっても、負荷非依存の送電周波数を正しく決定することができる。その後、送電装置10により取得可能な情報のみに基づいて送電装置10のみを制御することで、受電装置20の負荷値(負荷装置22に流れる電流の大きさ)に実質的に依存することなく、負荷装置22にその所望電圧を供給することができる。
【0120】
制御回路16は、結合率推定器15によって推定された送電コイルL1及び受電コイルL2の間の結合率k12に基づいて、負荷非依存の送電周波数を決定してもよい。
【0121】
結合率推定器15は、補助コイルL3に発生する電流又は電圧の値に基づいて送電コイルL1及び受電コイルL2の間の第1の結合率k12aを推定し、送電コイルL1に流れる電流の値に基づいて送電コイルL1及び受電コイルL2の間の第2の結合率k12bを推定してもよい。制御回路16は、第1の結合率k12a及び第2の結合率k12bが互いに実質的に一致したとき、決定された周波数及び電圧を有する送電電力を発生するようにAC/DCコンバータ11及びインバータ12を制御してもよい。また、制御回路16は、第1の結合率k12a及び第2の結合率k12bが互いに不一致したとき、受電装置20への電力の伝送を停止するようにAC/DCコンバータ11及びインバータ12を制御してもよい。これにより、制御回路16は、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率の変化にかかわらず、送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物が存在するか否かを誤りなく確実に判断することができる。
【0122】
[第2の実施形態の動作例]
図8は、第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムの制御回路16によって実行される第2の送電処理を示すフローチャートである。図8の第2の送電処理では、制御回路16は、図7のステップS9に代えて、ステップS21〜S22を実行する。
【0123】
ステップS21において、制御回路16は、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12(=k12a=k12b)に基づいて、インバータ12のスイッチング周波数fswを設定する。ステップS22において、制御回路16は、負荷装置22に印加すべき電圧V4に基づいて、AC/DCコンバータ11から出力さえる電圧V0を設定する。
【0124】
図9は、図1の受電装置20の出力電圧が、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12と、送電装置10の電圧V0とに依存して変化することを説明する例示的なグラフである。送電コイルL1及び受電コイルL2の間の距離d1が大きく、結合率k12が小さい場合、スイッチング周波数fswがf1になるときに電圧V4が極大値になる。送電コイルL1及び受電コイルL2の間の距離d1が小さく、結合率k12が大きい場合、スイッチング周波数fswがf2になるときに電圧V4が極大値になる。ここで、距離d1及び結合率k12の大小は、相対的な大きさを意味する。制御回路16は、負荷非依存の送電周波数に合わせてインバータ12のスイッチング周波数fswを設定する。負荷装置22に印加される電圧V4が目標電圧に満たない場合には、制御回路16は、AC/DCコンバータ11から出力される電圧V0を増大させることにより、電圧V4を目標電圧まで増大させる。負荷装置22に印加される電圧V4が目標電圧を超える場合には、制御回路16は、AC/DCコンバータ11から出力される電圧V0を低下させることにより、電圧V4を目標電圧まで低下させる。
【0125】
図10は、図1の受電装置20の出力電圧が、送電コイルL1及び受電コイルL2の結合率k12と、負荷装置22の負荷値とに依存して変化することを説明する例示的なグラフである。図10は、AC/DCコンバータ11から出力される電圧V0が一定である場合を示す。例えば負荷装置22がバッテリである場合、負荷装置22は、バッテリの充電率に応じて変動する可変な負荷値を有する。前述のように、負荷装置22に印加される電圧V4は、負荷装置22の負荷値に応じて変化する。ただし、図10に示すように、あるスイッチング周波数fswにおいて送電しているとき、負荷値に対する電圧V4の依存性が少なくとも局所的に最小化され、電圧V4は、負荷装置22の負荷値にかかわらず実質的に一定になる。負荷非依存の送電周波数は、電圧V4が最大化されるスイッチング周波数fswに一致することもあり、一致しないこともある。従って、このような負荷非依存の送電周波数に合わせてインバータ12のスイッチング周波数fswを設定することにより、負荷装置22の負荷値に応じて送電装置10及び/又は受電装置20を制御することが不要になる。これにより、負荷装置22の負荷値をモニタリングして受電装置20から送電装置10にフィードバックすることが不要になり、また、負荷装置22にその所望電圧を供給するために受電装置20に余分な回路(DC/DCコンバータなど)を設けることが不要になる。
【0126】
[第2の実施形態の第1の変形例]
図11は、第2の実施形態の第1の変形例に係る非接触電力伝送システムの制御回路16によって実行される第3の送電処理を示すフローチャートである。送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物が存在しないと考えられる場合、図8のステップS6〜S8、S12〜S13を省略してもよい。この場合、図1の電流検出抵抗R1及び検出器14を除去してもよい。これにより、送電装置10の構成及び動作を、図1及び図8の場合よりも簡単化することができる。
【0127】
[第2の実施形態の第2の変形例]
図12は、第2の実施形態の第2の変形例に係る非接触電力伝送システムの制御回路16によって実行される第4の送電処理を示すフローチャートである。送電コイルL1及び受電コイルL2の間に異物が存在しないと考えられる場合、図8のステップS4〜S5、S8、S12〜S13を省略してもよい。この場合、図1の補助コイルL3及び検出器13を除去してもよい。これにより、送電装置10の構成及び動作を、図1及び図8の場合よりも簡単化することができる。
【0128】
[第2の実施形態の効果]
第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムによれば、送電装置10により取得可能な情報のみに基づいて送電装置10のみを制御することで、受電装置20の負荷値に実質的に依存することなく、負荷装置22にその所望電圧を供給することができる。
【0129】
第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムによれば、受電装置20から送電装置10へのフィードバックに依存せず、カメラ、温度センサなどを含まない簡単な構成で、異物を確実に検出することもできる。
【0130】
第2の実施形態に係る非接触電力伝送システムによれば、異物を検出して送電を停止することにより、非接触電力伝送システムの安全性を向上することもできる。
【0131】
[他の変形例]
以上、本開示の実施形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本開示の例示に過ぎない。本開示の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。
【0132】
上述した各実施形態及び各変形例は、任意の組み合わされてもよい。
【0133】
本明細書で説明した実施形態は、あらゆる点において本開示の例示に過ぎない。本開示の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本開示の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0134】
送電装置は、交流電源に代えて直流電源を用いてもよい。この場合、送電装置は、AC/DCコンバータに代えて、DC/DCコンバータを備えてもよい。
【0135】
送電装置は、通信装置以外の何らかのセンサ又はスイッチにより受電装置を検出してもよい。
【0136】
図1では、送電コイルL1及びキャパシタC1が互いに直列に接続され、受電コイルL2及びキャパシタC2が互いに直列に接続される場合を示したが、これらの少なくとも一方が互いに並列に接続されてもよい。
【0137】
送電コイル、受電コイル、及び補助コイルは、図2に示すリング形状以外の他の形状を有してもよい。
【0138】
送電コイルL1に流れる電流I1を検出するために、電流検出抵抗R1に代えて、例えば、シャント抵抗、電流トランス、などを用いてもよい。
【0139】
負荷装置は、図1に示すように受電装置の内部に一体化されてもよく、受電装置の外部に接続されてもよい。
【0140】
負荷装置22は、可変な負荷値に代えて、予め決められた負荷値を有してもよい。
【0141】
[まとめ]
本開示の各側面に係る送電装置の制御装置、送電装置、及び非接触電力伝送システムは、以下のように表現されてもよい。
【0142】
本開示の第1の側面に係る送電装置(10)の制御装置は、
受電コイル(L2)を備えた受電装置(20)に電力を非接触で伝送する送電装置(10)の制御装置であって、
前記送電装置(10)は、送電コイル(L1)と、前記送電コイル(L1)に電磁的に結合した補助コイル(L3)と、所定の電圧及び周波数を有する送電電力を発生して前記送電コイル(L1)に供給する電源回路(11,12)とを備え、
前記制御装置は、
前記補助コイル(L3)に発生する電流又は電圧の値を検出する第1の検出器(13)と、
前記送電コイル(L1)に流れる電流の値を検出する第2の検出器(14)と、
前記補助コイル(L3)に発生する電流又は電圧の値に基づいて前記送電コイル(L1)及び前記受電コイル(L2)の間の第1の結合率を推定し、前記送電コイル(L1)に流れる電流の値に基づいて前記送電コイル(L1)及び前記受電コイル(L2)の間の第2の結合率を推定する結合率推定器(15)と、
前記第1及び第2の結合率の差が予め決められたしきい値以下であるときには前記受電装置(20)へ電力を伝送するように、かつ、前記第1及び第2の結合率の差が前記しきい値より大きいときには前記受電装置(20)への電力の伝送を停止するように前記電源回路(11,12)を制御する制御回路(16)とを備える。
【0143】
本開示の第2の側面に係る送電装置(10)の制御装置は、第1の側面に係る送電装置(10)の制御装置において、
前記受電装置(20)は、可変な負荷値を有する第1の負荷装置(22)と、予め決められた負荷値を有する第2の負荷装置(R2)と、前記受電装置(20)の出力電圧を前記第1の負荷装置(22)及び前記第2の負荷装置(R2)の一方に選択的に供給するスイッチ回路(SW)とを有し、
前記制御装置は、前記受電装置(20)に通信可能に接続される通信装置(17)をさらに備え、
前記制御回路(16)は、
通常の送電を行うとき、前記受電装置(20)の出力電圧を前記第1の負荷装置(22)に供給するように前記スイッチ回路(SW)を切り換える信号を、前記通信装置(17)を用いて前記受電装置(20)に送信し、
前記第1及び第2の結合率を推定するとき、前記受電装置(20)の出力電圧を前記第2の負荷装置(R2)に供給するように前記スイッチ回路(SW)を切り換える信号を、前記通信装置(17)を用いて前記受電装置(20)に送信し、前記第1及び第2の検出器(13,14)によって検出された値に基づいて前記第1及び第2の結合率を推定する。
【0144】
本開示の第3の側面に係る送電装置(10)は、
送電コイル(L1)と、
前記送電コイル(L1)に電磁的に結合した補助コイル(L3)と、
所定の電圧及び周波数を有する送電電力を発生して前記送電コイル(L1)に供給する電源回路(11,12)と、
第1又は第2の側面に係る送電装置(10)の制御装置とを備える。
【0145】
本開示の第4の側面に係る送電装置(10)は、第3の側面に係る送電装置(10)において、
LC共振回路を構成するように前記送電コイル(L1)に接続されたキャパシタ(C1)をさらに備える。
【0146】
本開示の第5の側面に係る送電装置(10)は、第3又は第4の側面に係る送電装置(10)において、
前記送電コイル(L1)及び前記補助コイル(L3)が巻回された磁性体コア(F1)をさらに備え、
前記補助コイル(L3)は、前記送電コイル(L1)を包囲するように配置される。
【0147】
本開示の第6の側面に係る非接触電力伝送システムは、
第3〜第5の側面のうちの1つに係る送電装置(10)と、
受電コイル(L2)を備えた受電装置(20)とを含む。
【0148】
本開示の第7の側面に係る送電装置(10)の制御装置は、
受電コイル(L2)を備えた受電装置(20)に電力を非接触で伝送する送電装置(10)の制御装置であって、
前記送電装置(10)は、送電コイル(L1)と、前記送電コイル(L1)に電磁的に結合した補助コイル(L3)と、可変な電圧及び可変な周波数を有する送電電力を発生して前記送電コイル(L1)に供給する電源回路(11,12)とを備え、
前記制御装置は、
前記送電コイル(L1)に流れる電流の値と、前記補助コイル(L3)に発生する電流又は電圧の値とのうちの少なくとも一方を検出する検出回路(13,14)と、
前記検出回路(13,14)によって検出された値に基づいて、前記受電装置(20)の負荷値に対する前記受電装置(20)の出力電圧の依存性が少なくとも局所的に最小化される送電周波数を決定し、前記決定された送電周波数を有する送電電力を発生するときに前記受電装置(20)の出力電圧を予め決められた目標電圧にする前記送電電力の電圧を決定し、前記決定された送電周波数及び電圧を有する送電電力を発生するように前記電源回路(11,12)を制御する制御回路(16)とを備える。
【0149】
本開示の第8の側面に係る送電装置(10)の制御装置は、第7の側面に係る送電装置(10)の制御装置において、
前記受電装置(20)は、可変な負荷値を有する第1の負荷装置(22)と、予め決められた負荷値を有する第2の負荷装置(R2)と、前記受電装置(20)の出力電圧を前記第1の負荷装置(22)及び前記第2の負荷装置(R2)の一方に選択的に供給するスイッチ回路(SW)とを有し、
前記制御装置は、前記受電装置(20)に通信可能に接続される通信装置(17)をさらに備え、
前記制御回路(16)は、
通常の送電を行うとき、前記受電装置(20)の出力電圧を前記第1の負荷装置(22)に供給するように前記スイッチ回路(SW)を切り換える信号を、前記通信装置(17)を用いて前記受電装置(20)に送信し、
前記送電周波数を決定するとき、前記受電装置(20)の出力電圧を前記第2の負荷装置(R2)に供給するように前記スイッチ回路(SW)を切り換える信号を、前記通信装置(17)を用いて前記受電装置(20)に送信し、前記検出回路(13,14)によって検出された値に基づいて前記送電周波数を決定する。
【0150】
本開示の第9の側面に係る送電装置(10)の制御装置は、第7又は第8の側面に係る送電装置(10)の制御装置において、
前記検出回路(13,14)によって検出された値に基づいて前記送電コイル(L1)及び前記受電コイル(L2)の結合率を推定し、前記結合率に基づいて、前記送電周波数を決定する結合率推定器(15)をさらに備える。
【0151】
本開示の第10の側面に係る送電装置(10)の制御装置は、第9の側面に係る送電装置(10)の制御装置において、
前記検出回路(13,14)は、前記補助コイル(L3)に発生する電流又は電圧の値を検出する第1の検出器(13)と、前記送電コイル(L1)に流れる電流を検出する第2の検出器(14)とを備え、
前記結合率推定器(15)は、前記補助コイル(L3)に発生する電流又は電圧の値に基づいて前記送電コイル(L1)及び前記受電コイル(L2)の間の第1の結合率を推定し、前記送電コイル(L1)に流れる電流の値に基づいて前記送電コイル(L1)及び前記受電コイル(L2)の間の第2の結合率を推定し、
前記制御回路(16)は、前記第1及び第2の結合率の差が予め決められたしきい値以下であるとき、前記決定された周波数及び電圧を有する送電電力を発生するように前記電源回路(11,12)を制御する。
【0152】
本開示の第11の側面に係る送電装置(10)の制御装置は、第10の側面に係る送電装置(10)の制御装置において、
前記制御回路(16)は、前記第1及び第2の結合率の差が予め決められたしきい値を超えるとき、前記受電装置(20)への電力の伝送を停止するように前記電源回路(11,12)を制御する。
【0153】
本開示の第12の側面に係る送電装置(10)は、
送電コイル(L1)と、
前記送電コイル(L1)に電磁的に結合した補助コイル(L3)と、
可変な電圧及び可変な周波数を有する送電電力を発生して前記送電コイル(L1)に供給する電源回路(11,12)と、
第7〜第11の側面のうちの1つに係る送電装置(10)の制御装置とを備える。
【0154】
本開示の第13の側面に係る送電装置(10)は、第12の側面に係る送電装置(10)において、
LC共振回路を構成するように前記送電コイル(L1)に接続されたキャパシタ(C1)をさらに備える。
【0155】
本開示の第14の側面に係る送電装置(10)は、第12又は13の側面に係る送電装置(10)において、
前記送電コイル(L1)及び前記補助コイル(L3)が巻回された磁性体コア(F1)をさらに備え、
前記補助コイル(L3)は、前記送電コイル(L1)を包囲するように配置される。
【0156】
本開示の第15の側面に係る非接触電力伝送システムは、
第12〜第14の側面のうちの1つに係る送電装置(10)と、
受電コイル(L2)を備えた受電装置(20)とを含む。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本開示は、磁界方式で電力を伝送し、かつ、送電コイル及び受電コイルの結合率が変化する可能性がある非接触電力伝送システムに適用可能である。本開示は、磁界方式で電力を伝送し、かつ、送電コイル及び受電コイルの結合率が変化しない非接触電力伝送システムにも適用可能である。
【符号の説明】
【0158】
1…交流電源、
10…送電装置、
11…AC/DCコンバータ、
12…インバータ、
13,14…検出器、
15…結合率推定器、
16…制御回路、
17…通信装置、
20…受電装置、
21…整流回路、
22…負荷装置、
23…制御回路、
24…通信装置、
31…路面、
32…車両、
33…異物、
C1,C2…キャパシタ、
F1,F2…磁性体コア、
L1…送電コイル、
L2…受電コイル、
L3…補助コイル、
R1…電流検出抵抗、
R2…負荷素子、
SW…スイッチ回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12