(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態に係る空隙検査装置及び空隙検査方法について、添付の図面に示す好適な実施形態を参照しながら、以下に詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするために挙げた一例にすぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下に説明する実施形態から変更又は改良され得る。また、当然ながら、本発明には、その等価物が含まれる。
【0025】
また、以下の説明において、「モルタル」とは、乾燥前の状態のモルタルを意味し、厳密には、全重量に対する水分の重量の割合(含水率)が10%以上である状態のモルタル、さらに詳しくは、含水率が10〜30%である状態のモルタルを意味する。なお、乾燥後のモルタルについては、乾燥前のモルタルと区別するため、以下では「乾燥モルタル」と呼ぶ。
【0026】
<<本実施形態に係る空隙検査装置の概要>>
本実施形態に係る空隙検査装置の概要について説明する。本実施形態に係る空隙検査装置は、構造物において目地に充填されたモルタル内において空隙の有無を検査するために用いられる。ここで、構造物は、ブロック状の建設資材を鉛直方向及び水平方向にそれぞれ並べて配置することで構成された壁と、その壁によって囲まれた空間(内部空間)と、を有する。目地は、建設資材の隙間のことである。
目地は、水平方向に沿って延びる横目地と、鉛直方向に沿って延びる縦目地とを含むが、以下では、特に断る場合を除き、横目地を単に「目地」と呼ぶ。本発明は、横目地に充填されたモルタル内での空隙の有無だけでなく、縦目地に充填されたモルタル内での空隙の有無を検査する場合にも適用可能である。
【0027】
目地に充填されたモルタルは、目地の両側(分かり易くは、目地の上側及び下側)に位置する建設資材同士を結合するための結合剤として用いられ、以下、「目地モルタル」と呼ぶ。
【0028】
以下では、構造物の一例として炉を挙げ、炉における目地モルタル内での空隙の有無を検査するケースを具体例として説明する。すなわち、以下では、本実施形態に係る空隙検査装置を、建設資材としての煉瓦を並べて構成される炉において、煉瓦間の隙間に充填されたモルタル内での空隙の有無を検査するために用いる場合を想定して説明する。炉としては、コークス炉等の焼成炉、加熱炉、溶錬炉、暖炉、及び焼却炉等が該当する。
【0029】
構造物は、炉に限定されるものではなく、他の構造物(例えば、建物の外壁等)であってもよい。本発明の空隙検査装置は、炉以外の構造物における目地モルタル内での空隙の有無を検査する際にも適用可能である。
【0030】
炉の内部では高温の燃焼ガス(炉内ガス)が流れるが、煉瓦間の隙間(目地)に充填されたモルタルに空隙が存在すると、その空隙を通じて炉内ガスが炉外にリークしてしまう虞がある。また、空隙の存在によって炉の強度が低下することがあり得る。そこで、炉の安全性及び品質を確保する観点から、通常、目地モルタル内での空隙の有無を、炉の建設過程において適宜検査する必要がある。
【0031】
炉における目地モルタル内での空隙の有無の検査(以下、便宜的に「空隙検査」という)は、前述のように炉の建設過程中に実施される。より厳密には、一段分の煉瓦が積まれる(並べられる)ことで新たに目地が形成されると、その都度、その目地に充填されたモルタルに対して空隙検査が実施される。ただし、これに限定されるものではなく、例えば、新たな煉瓦を一個ずつ積み重ねる度に空隙検査を実施してもよい。
【0032】
本実施形態に係る空隙検査では、目地モルタル内での空隙の有無を検査すると共に、空隙の位置、形状及びサイズ等を確認する。そして、空隙検査にて空隙が見つかり、その空隙が所定の条件を満たしている場合には施工不良と判断され、直前に積まれた一段分の煉瓦を剥がし、モルタルの再施工及び煉瓦の積み直しを実施する。
【0033】
ここで、施工不良と判断される空隙の条件については、特に限定されるものではないが、例えば、空隙のサイズ(具体的には面積、あるいは、目地サイズに対する面積率)が所定値を超えたとき、あるいは、空隙が目地モルタルを貫通しているときに施工不良と判断することができる。
【0034】
空隙検査の大まかな手順について説明すると、空隙検査は、
図1に図示した本実施形態に係る空隙検査装置10を用いて実施する。
図1は、空隙検査装置10を用いた空隙検査の様子を示す図である。
図1中のX方向は、目地の延出方向(炉壁の長手方向)であり、Y方向は、目地の奥行方向(炉壁の厚み方向)であり、Z方向は、目地の高さ方向(炉壁の上下方向)である。
【0035】
空隙検査では、その直前に形成された目地(以下、「対象目地2」と呼ぶ)を対象とし、対象目地2の全長(対象目地2の延出方向における対象目地全体の長さ)に亘って目地モルタル4内の空隙の有無をリアルタイムに検査する。
【0036】
具体的に説明すると、
図1に示すように、対象目地2の目地モルタル4に対して、空隙検査装置10が有する第一プローブ11及び第二プローブ12をY方向に差し込む。第一プローブ11及び第二プローブ12の各々の先端部には、
図2に示すように電極が備えられており、両電極間には、空隙検査装置10に内蔵された電源24の電圧が印加される。
図2は、空隙検査装置10の構成についての説明図であり、使用状態にある空隙検査装置10のX−Y断面を模式的に示す図である。
図2中、空隙検査装置10の内部(厳密には、後述する装置本体10Hの内部)は、図示の都合上、簡略化して図示している。
【0037】
第一プローブ11の先端部に取り付けられた電極が、第一電極13であり、第二プローブ12の先端部に取り付けられた電極が、第二電極14である。
【0038】
第一プローブ11は、
図2に示すように、空隙検査装置10のアクチュエータ15に取り付けられており、アクチュエータ15によってY方向に進退自在に構成されている。空隙検査装置10は、第一プローブ11の先端部、すなわち第一電極13が目地モルタル4に差し込まれた後、アクチュエータ15により第一プローブ11をY方向に沿ってより奥側に進める。これにより、第一電極13がY方向に沿って直線状に移動し、その差し込み量が変化する。差し込み量とは、第一電極13が目地モルタル4の表面(Y方向における手前側の端面)から移動した距離であり、「差し込み深さ」である。
【0039】
第二プローブ12は、目地モルタル4に差し込まれた後には、その位置で固定される。第二プローブ12の位置は、第二プローブ12の先端部、すなわち第二電極14がY方向において目地モルタル4の表面から5mm程度差し込まれた位置が望ましい。ただし、これに限定されるものではなく、例えば、第二電極14の頂部が目地モルタル4の表面に接する位置であってもよい。ちなみに、検査中における第二プローブ12の姿勢をより安定させる上では、第二電極14が目地モルタル4にある程度(例えば、5mm程度)差し込まれている方が望ましい。
【0040】
目地モルタル4内に差し込まれた状態の第一電極13及び第二電極14がモルタルを介して互いに通電すると、第一電極13と第二電極14との間には、印加電圧に応じた大きさの電流が流れる。モルタルは、水分を含んでいるため導電体として機能し、第一電極13及び第二電極14の双方がモルタルに接触する位置にあると、電極間に介在する仮想抵抗6が比較的小さくなり、第一電極13と第二電極14との間には、比較的大きな一定の電流が流れる。
【0041】
一方、第一電極13が空隙内部に入り込んだときは、上記の仮想抵抗6が著しく高くなり、第一電極13と第二電極14との間に電流がほぼ流れなくなり、両電極の間に流れる電流が規定値以下(具体的には、ゼロ付近)となる。
【0042】
以上のような第一電極13及び第二電極14の間を流れる電流の差、すなわち空隙の有無に応じた電流の変化は、空隙検査装置10の内部に設けられた電流計22によって検知される。そして、空隙検査装置10は、電流計22の検知結果(すなわち、電流の大きさ)に基づき、空隙の有無を判定する。
【0043】
より具体的に説明すると、アクチュエータ15によって第一電極13をY方向に沿ってより奥側に動かして差し込み量を徐々に増やしていくと共に、第一電極13及び第二電極14の間に流れる電流を、電流計22によって逐次検知する。このとき、アクチュエータ15が第一電極13を動かす都度、アクチュエータ15の駆動量が計測され、空隙検査装置10は、その計測結果に基づき、第一電極13の差し込み量を特定(算出)する。
【0044】
そして、電流の大きさが規定値以下(ゼロ付近)となったとき、空隙検査装置10は、その時点での第一電極13の位置に空隙が有ると判定する。このように、空隙検査装置10は、第一電極13の差し込み量と対応付けて電流の変化を検知することにより、第一電極13が存在する位置での空隙の有無(厳密には、Y方向における空隙の有無)を判定することができる。
【0045】
その後、空隙検査装置10は、第一電極13の差し込み位置をX方向(対象目地2の延出方向)における複数の箇所に変更しながら、上記と同様の動作を繰り返す。このとき、後述する機構によってX方向における第一電極13の位置を特定することにより、X方向及びY方向の各々において空隙の有無を検査することができ、さらには空隙の位置、形状及びサイズを特定することが可能となる。
【0046】
空隙Wの位置等を特定する方法について、
図3に図示の空隙Wが目地モルタル4内に存在しているケースを例に挙げて概説する。
図3は、目地モルタル4内に存在する空隙Wの一例を示す図であり、目地モルタル4のX−Y断面である。
【0047】
X方向において
図3の位置A、B及びCの各位置にて第一プローブ11を目地モルタル4に差し込み、それぞれの位置で第一電極13をアクチュエータ15によってY方向に沿って対象目地2の奥側に動かしていくと、第一電極13と第二電極14との間に流れる電流が、それぞれ
図4A、4B及び4Cに示すように変化する。
【0048】
図4A乃至
図4Cは、第一プローブ11を
図3の位置A、B及びCの各位置にて目地モルタル4に差し込んだ場合の電流値を示す図である。
図4A乃至
図4Cの各図において、横軸は、第一電極13の差し込み量(Y方向における目地モルタル4の表面位置からの距離)を示し、縦軸は、電流計22が検知した電流値を示している。
【0049】
図4A乃至
図4Cから分かるように、第一電極13が空隙W内に入り込んだ時点で電流値が急激に減少し、第一電極13が空隙Wを脱して再びモルタル内に入り込むと電流値が増加する。このような傾向を可視化すれば、空隙Wの範囲(すなわち、空隙Wの縁)を特定することができる。
【0050】
より具体的に説明すると、
図3の位置A、B及びCを含め、X方向において一定のピッチΔXで設定した複数の検査位置の各位置において、第一プローブ11を目地モルタル4に差し込む。各検査位置では、上記と同様の手順にて、第一電極13の差し込み量を増やしながら電流変化を検知する。空隙Wの位置等を特定する際の精度は、X方向における検査位置のピッチΔXに依存し、ΔXを小さくするほど精度が向上するが、検査位置の数が増えるため、検査に要する時間が長時間化する。そのため、実際の運用では、必要な空隙検知性能(検知したい空隙の最小サイズ)を予め決めておき、空間検知性能の決定値に応じてΔXを設定するのが望ましい。
【0051】
そして、X方向の各検査位置での電流変化において、電流が規定値以下となるときの差し込み量(つまり、Y方向における第一電極13の位置)を記録する。記録した差し込み量を、X−Y平面において、各検査位置と対応付けてプロットし、各プロットを通る曲線を描画すると、
図5に示すように、空隙Wの位置、形状及びサイズをマッピングイメージ(画像の一例)として表すことができる。
図5は、電流変化の検知に基づいて描画された空隙Wのマッピングイメージを示す図である。
図5において互いに直交する3つの軸は、それぞれX方向の位置及びY方向の位置、並びに電流の大きさIを示す軸である。
図5では、
図3の位置A、B及びCの各々における電流変化を示すグラフを実線で、それ以外の検査位置での電流変化を示すグラフを破線で描いている。
【0052】
以上の手順によって得られる空隙Wのマッピングイメージは、空隙検査装置10が有するモニタ16に表示される。空隙検査装置10のユーザである検査者は、モニタ16に表示された空隙Wのマッピングイメージを見ることで、目地モルタル4内における空隙Wの存在に気付き、また、空隙Wの位置、形状及びサイズを把握することができる。
【0053】
モニタ16は、空隙検査装置10の装置本体10H(モニタ16以外の部分)と一体化していてもよく、あるいは、装置本体10Hから分離したモニタ付きの通信端末によって構成されてもよい。後者の場合、通信端末からなるモニタ16は、有線又は無線形式で装置本体10Hに接続されており、装置本体10Hから離れた場所に設置することができる。
【0054】
さらに、空隙検査装置10は、空隙Wのマッピングイメージを解析して空隙Wのおおよその面積を算出し、対象目地2の断面積(厳密には、X−Y断面の面積)に対する空隙Wの面積の比率が閾値を超える場合に、施工不良であると判定する。この場合、空隙検査装置10が、施工不良であるために煉瓦の積み直しが必要である旨を、モニタ16等を通じて検査者及び煉瓦積みを行う作業者等に報知すると好適である。
【0055】
<<空隙検査装置の詳細構成>>
次に、空隙検査装置10の詳細構成について説明する。空隙検査装置10は、
図1に示すように、装置本体10Hとモニタ16とを有する。モニタ16は、
図1に示すように装置本体10Hから分離して設けられている。装置本体10Hには、第一プローブ11及び第二プローブ12が、それぞれの先端部を装置本体10Hの筐体から延出させた状態で設けられている。装置本体10H内には、
図2に示すように、アクチュエータ15と、検知部としての電流計22と、電圧印加部としての電源24とを有する。
【0056】
第一プローブ11及び第二プローブ12の各々は、棒状の部材であり、一般的には、金属を絶縁樹脂によって覆ったもの又はガラス等によって構成されている。第一プローブ11及び第二プローブ12の各々の本数は、少なくとも1本以上であればよく、複数本ずつ設けてもよい。また、各プローブは、
図6の側方断面図(Y−Z断面)に示すように、先端部(すなわち、第一電極13及び第二電極14)を除き、絶縁構造材17によって覆われている。
【0057】
絶縁構造材17の内側には、導電材からなる配線18が配置されており、電源24と電気的に接続されている。
各プローブの外径は、目地幅(Z方向における目地の長さ)よりも短くなっている。プローブの外径は極力小さい方が、プローブを差し込んだ際に目地モルタル4に形成される差し込み孔(開口)が小さくなりプローブを引き抜いた後の養生作業(分かり易くは、孔塞ぎ)を省略又は最小限化することができるので好ましい。
【0058】
第一電極13及び第二電極14は、導電性材料(例えば、金属)からなり、空隙検査時に目地モルタル4に差し込まれる。目地モルタル4に差し込まれた第一電極13及び第二電極14の双方がモルタルに接触していると、電極間に比較的大きな電流が流れる。一方で、目地モルタル4内に差し込まれた第一電極13が目地モルタル4内の空隙の内部に入り込むと、第一電極13とモルタルとの接触が断たれるので、電流の大きさが規定値以下となる。以上のような電流の変化を捉えることで、目地モルタル4内における空隙の有無を検査することができる。
【0059】
また、本実施形態において、第一電極13及び第二電極14の各々の表面には、
図6に示すように、撥水性材料を塗布することで形成された撥水層19が設けられている。これは、電極表面の撥水性が低いと、電極にモルタルが付着し続け、電極が空隙内に入り込んだときに当該電極にモルタルが付着していることで、空隙内に電極があるにもかかわらず、比較的大きな電流が流れて誤検査の原因となるためである。つまり、本実施形態では、各電極の表面が撥水層によって覆われていることで、電極表面の撥水性を向上させることでモルタルの付着を抑え、以て、空隙検査をより精度良く行うことが可能である。
【0060】
撥水層19は、少なくとも第一電極13の表面に設けられていればよく、第二電極14の表面には撥水層19が形成されていない構成であってもよい。
【0061】
また、第一電極13及び第二電極14は、いずれも、
図6に示すようにそれぞれの先端に位置する頂点を有し、頂点に向かうほど細くなった略円錐形状をなしている。電極の先端が平坦面であると、電極先端面にモルタルが付着し易くなり、上述したようにモルタル付着による誤検査を招く原因となる。本実施形態では、各電極の形状を略円錐形状とすることでモルタルの付着を抑え、以て、空隙検査を一段と精度良く行うことが可能である。
【0062】
なお、電極の先端形状は、
図6に図示のように若干の丸みを有する円錐形状であってもよく、鋭角状に鋭く尖った円錐形状であってもよい。また、少なくとも第一電極13の形状を、頂点に向かうほど細くなった形状とすればよく、第二電極14の先端形状は、上記とは異なる形状、例えば先端が平坦面となった形状であってもよい。
【0063】
アクチュエータ15は、単軸アクチュエータによって構成されており、空隙検査時に、第一電極13を含む第一プローブ11をY方向に沿って直線状に動かして第一電極13の差し込み量を変化させる。本実施形態では、アクチュエータ15は、第一プローブ11をY方向奥側に押し込む際に一定量ずつ断続的に第一プローブ11を押し込む。換言すると、第一電極13の差し込み量は、所定量ずつ断続的に増加する。
【0064】
また、アクチュエータ15は、第一電極13が予め決められた差し込み量まで差し込まれると、第一電極13を引き抜く向き(すなわち、Y方向手前側)に第一プローブ11を動かして後退させる。予め決められた差し込み量(以下、「最大差し込み量」と呼ぶ)は、対象目地2のY方向における厚みよりも僅かに短く、第一電極13が目地モルタル4を貫通する寸前の差し込み量となっている。ただし、最大差し込み量は、対象目地2の厚みよりも大きくなっていてもよく、つまり、第一電極13が最大差し込み量まで差し込まれた時点で目地モルタル4を貫通してもよい。
【0065】
電源24は、空隙検査において、第一電極13及び第二電極14が目地モルタル4に差し込まれた状態で、第一電極13と第二電極14との間に電圧を印加する。なお、本実施形態では、印加電圧が直流電圧及び交流電圧の間で切り替え可能であり、また、交流電圧を印加する際には、その電圧波形が正弦波及び矩形波の間で切り替え可能である。
【0066】
電流計22は、空隙検査において、仮想抵抗6を通じて第一電極13及び第二電極14の間を流れる電流を検知する。電流計22は、アクチュエータ15が第一電極13をY方向に沿って動かした際の電流を検知し、その検知結果(具体的には、電流値の大きさ)に応じた信号を出力する。
【0067】
装置本体10H内には、
図7に示すように、処理装置30が内蔵されている。
図7は、空隙検査装置10における制御系統の構成を示す図である。処理装置30は、マイクロコンピュータ等のプロセッサ又はASIC(Application specific integrated circuit)によって構成されており、空隙検査時に、アクチュエータ15を制御して第一プローブ11をY方向に沿って進退させ、目地モルタル4に対する第一電極13の差し込み量を調整する。
【0068】
処理装置30は、空隙検査において、電流計22により検知された電流に基づき、目地モルタル4内における空隙の有無を判定する。つまり、本実施形態において、処理装置30は、判定部として機能し、電流計22から出力された信号に基づき、空隙の有無を判定する。処理装置30は、第一電極13が目地モルタル4においてY方向の奥側に差し込まれている期間中、電流が規定値以下(ゼロ付近)まで低下した時点での第一電極13の位置に空隙が有ると判定する。
【0069】
処理装置30は、空隙検査において第一電極13と第二電極14との間に印加される電圧を、直流電圧及び交流電圧の間で切り替える。装置本体10Hの筐体には、
図7に図示の操作パネル32が設けられており、検査者は、操作パネル32を通じて電圧の種類を選択する。処理装置30は、印加電圧を直流電圧及び交流電圧のうち、検査者が選択した電圧の種類に設定する。交流電圧の印加は、印加電圧の直流成分のノイズを除去できる点では有利であるが、信号処理が複雑になる点では直流電圧よりも不利となる。
【0070】
処理装置30は、印加電圧が交流電圧であるとき、その交流電圧の波形を変える機能を有する。すなわち、本実施形態において、処理装置30は、波形変更部として機能し、電源24が印加する交流電圧の波形を正弦波及び矩形波のうち、検査者が操作パネル32を通じて選択した波形に変更する。電圧波形を矩形波とすれば、空隙検査において渦電流の影響を抑えることが可能となる。
【0071】
処理装置30は、空隙検査時において、後述する位置特定用の機構と協働して、X方向及びY方向における第一電極13の位置を特定する。すなわち、本実施形態30において、処理装置30は、位置特定部として機能する。処理装置30は、位置特定用の機構(例えば、後述のロータリーエンコーダ付きの車輪41)と連携して、第一プローブ11が目地モルタル4に差し込まれている状態での第一電極13の、X方向における位置を特定する。また、処理装置30は、アクチュエータ15がY方向に沿って第一プローブ11を一定量ずつ断続的に目地モルタル4中に押し込むと、その都度、Y方向における第一電極13の位置(厳密には、目地モルタル4の表面からの移動距離)を特定する。
【0072】
処理装置30は、電流計22の検知結果と、特定した第一電極13の位置とに基づき、上述した手順により空隙のマッピングイメージを作成し、作成したマッピングイメージをモニタ16に表示する。すなわち、本実施形態において、処理装置30は、表示部として機能し、第一電極13と第二電極14との間を流れる電流が規定値以下となった時点での第一電極13の位置を可視化して表示する。処理装置30は、電流が規定値以下となった時点でのX方向及びY方向の各々における第一電極13の位置を示す画像として、上記のマッピングイメージを表示する。
【0073】
処理装置30は、上記のマッピングイメージを解析して対象目地2の断面積に対する空隙の面積率を算出し、その算出値から対象目地2が施工不良であるか否かを判定し、その判定結果を上記のマッピングイメージと共にモニタ16に表示してもよい。
【0074】
次に、処理装置30と連携して第一電極13のX方向における位置を特定する機構について説明する。本実施形態では、装置本体10Hに、ロータリーエンコーダを搭載した車輪41が取り付けられている。この車輪41は、ロータリーエンコーダ付きの回転体であり、
図1に示すように、装置本体10Hの筐体のうち、空隙検査時には炉壁と対向する面(以下、「対向面」と呼ぶ)と隣り合う位置に回転自在に設けられている。
【0075】
また、車輪41は、第一電極13及び第二電極14が目地モルタル4内に差し込まれている期間中、対向面から離間している。他方、第一電極13及び第二電極14を目地モルタル4から引き抜いて装置本体10HをX方向に搬送する際、車輪41は、その外周面を炉壁に接しながら炉壁上を転がるように回転する。このとき、車輪41に搭載されたロータリーエンコーダは、車輪41の回転量に応じて信号を出力し、具体的には、車輪41が所定量回転する度にパルス信号を出力する。
【0076】
そして、装置本体10HがX方向において前回の検査位置から次回の検査位置まで搬送されると、搬送後の位置にて第一電極13及び第二電極14が再び目地モルタル4に差し込まれる。すると、処理装置30は、装置本体10Hの搬送中にロータリーエンコーダが出力した信号に基づき、X方向における第一電極13の位置(すなわち、搬送後の位置)を特定する。
【0077】
以上のように、
図1に図示のケースでは、処理装置30とロータリーエンコーダ付きの車輪41が協働して位置特定部を構成しており、換言すると、
図1のケースでは、位置特定部がロータリーエンコーダ付きの車輪41を有する。そして、装置本体10HがX方向において搬送される都度、X方向における搬送後の第一電極13の位置が特定される。
【0078】
各目地を対象目地2として空隙検査を実施する際、先ず、X方向において装置本体10Hが対象目地2に対して予め決められた位置にセットされ、その位置にて、第一電極13及び第二電極14が目地モルタル4に差し込まれる。このときの第一電極13の位置が最初の検査位置に相当する。
【0079】
最初の検査位置にて、第一電極13がアクチュエータ15によって最大差し込み量まで目地モルタル4に差し込まれると、第一電極13が目地モルタル4から引き抜かれ、その後に、第一電極13を含む装置本体10H全体がX方向に沿って搬送される。この間、X方向における第一電極13の搬送に付随して車輪41が炉壁上を転がりながら回転し、車輪41に搭載されたロータリーエンコーダが車輪41の回転量に応じて信号を出力する。
【0080】
第一電極13は、次の検査位置に到達すると、その検査位置にて再び目地モルタル4に差し込まれる。また、処理装置30は、第一電極13の搬送中にロータリーエンコーダが出力した信号に基づき、X方向における第一電極13の搬送量を算出し、算出した搬送量だけ最初の検査位置から離れた位置を、搬送後の第一電極13の位置(検査位置)として特定する。
【0081】
以降、第一電極13がX方向において前回の検査位置から次の検査位置まで搬送されると、その度に、上記の手順によってX方向における第一電極13の、搬送後の位置が特定される。
【0082】
X方向における第一電極13の位置を特定する機構については、上述した機構に限定されるものではなく、他の機構も考えられる。第一電極13の位置を特定する他の機構としては、例えば、
図8に図示の機構(以下、第一変形例に係る位置特定機構)が考えられる。
図8は、第一変形例に係る位置特定機構の説明図である。
【0083】
第一変形例に係る位置特定機構について説明すると、
図8に図示の構成(第一変形例)では、位置特定機構として、屋内用のGPS(iGPS:indoor Global Positioning System)を利用している。より具体的に説明すると、第一変形例では、装置本体10HにiGPS用の位置センサ42が搭載されている。この位置センサ42は、空隙検査装置10が利用される空間内(換言すると、空隙検査が行われる空間内)における位置センサ42自身の三次元位置に応じた信号を出力する。
【0084】
位置センサ42は、不図示のアンテナを備えており、定期的に基地局43から発信される信号(電波信号)を受信する。位置センサ42は、基地局43からの電波信号を受信すると、その受信信号に基づき、自身の三次元位置を特定し、特定した三次元位置に応じた信号を出力する。処理装置30は、位置センサ42の出力信号に基づいて装置本体10Hの三次元位置(すなわち、XYZの各方向における位置)を特定し、その特定結果を利用してX方向における第一電極13の位置を特定する。
【0085】
以上のように、第一変形例では、処理装置30と位置センサ42が位置特定部を構成している。変形例では、位置特定部が位置センサ42を有し、iGPSにより、X方向における第一電極13の位置を適宜特定することができる。
【0086】
第一電極13の位置を特定する機構の第二変形例としては、例えば、
図9及び
図10に図示の機構(以下、第二変形例に係る位置特定機構)が考えられる。
図9及び
図10は、第二変形例に係る位置特定機構の説明図であり、
図9は、
図1と対応する図であり、
図10は、
図2と対応する図である。
【0087】
第二変形例では、
図9及び
図10に示すように、第一プローブ11がX方向において等間隔で複数配置されている。また、第二変形例では、
図10に示すように、第一電極13が複数の第一プローブ11の各々の先端部に備えられた可動電極13aよって構成されている。つまり、第二変形例に係る第一電極13は、X方向に沿って並ぶ複数の可動電極13aを有しており、X方向において可動電極13aの間隔が等間隔となるように配置されている。
【0088】
第二変形例では、
図9及び
図10に示すように、可動電極13aが8個並べられているが、可動電極13aの数(換言すると、第一プローブ11の本数)については、特に限定されず、少なくとも2個以上であればよい。
【0089】
また、第二変形例では、複数の可動電極13aの各々は、
図10に示すように、同時に目地モルタル4に差し込まれ、アクチュエータ15によって各可動電極13aの差し込み量が調整される。ちなみに、
図10に図示の構成では、第一プローブ11毎(換言すると、可動電極13a毎)にアクチュエータ15が設けられており、各可動電極13aの差し込み量を個別に調整することが可能である。ただし、これに限定されるものではなく、単一のアクチュエータ15が設けられており、このアクチュエータ15によって複数の可動電極13aすべてを同時に動かしてもよい。
【0090】
第二変形例では、複数の可動電極13aの各々が、第二電極14との間で個別の回路を形成しており、個々の回路は、
図10に示すように並列的に連結している。つまり、第二変形例では、電源24が各可動電極13aと第二電極14との間に等電圧を印加し、各可動電極13aと第二電極14との間には電流が流れ、それぞれの電流の変化を、可動電極13a毎に設けられた電流計22によって検知する。これにより、第二変形例では、X方向における複数の可動電極13aのそれぞれの配置位置にて、空洞の有無を複数且つ同時に検査することができる。
【0091】
第二変形例では、X方向において可動電極13aが等間隔に並んでいるので、可動電極13a間の間隔に基づき、X方向における各可動電極13aの位置を特定することができる。
【0092】
第二変形例において、処理装置30は、可動電極13a間の間隔を記憶している。また、第二変形例では、空隙検査を実施するに際して、複数の可動電極13aのうち、X方向において最も第二電極14から離れた可動電極13aが最初の検査位置に配置されるように装置本体10Hをセットする。これにより、それぞれの可動電極13aの、最初の検査位置からの距離が特定されるため、X方向における各可動電極13aの位置を特定することが可能となる。
【0093】
以上までに、第一電極13の位置を特定する機構について3つの例を挙げて説明したが、それぞれの例は、あくまでも位置特定機構の一例に過ぎない。すなわち、X方向における第一電極13の位置を特定可能な機構であれば、自由に利用可能である。例えば、光学的手法を用いて第一電極13の位置を特定してもよく、具体的には、発光装置を装置本体10Hに搭載し、X方向に延びたセンサアレイを炉壁側に取り付け、センサアレイにおいて発光装置からの照射光を受光した箇所を特定することで、第一電極13のX方向における位置を特定してもよい。
【0094】
第一プローブ11は、
図6に示すように第一プローブ11の先端部に第一電極13を一つのみ備えているが、
図11に示すように、第一プローブ11の先端部に複数の第一電極13を互いに分離して設けてもよい。
図11は、第一プローブ11の先端部の変形例を示す図である。
【0095】
図11に図示の構成では、複数の第一電極13の各々が、Z方向において互いに異なる位置にて目地モルタル4に差し込まれる。
図11に図示の構成では、第一プローブ11の中央部に芯材21が配置されており、芯材21回りに4個の第一電極13が配置されている。そして、第一プローブ11を目地モルタル4に差し込むと、上記4個の第一電極13が、それぞれZ方向において互いに異なる位置にて目地モルタル4に差し込まれる。
【0096】
また、第一プローブ11(厳密には、第一電極13を除く部分)の内部では、配線が第一電極13毎に分かれて設けられている。このような構成であれば、Z方向において第一プローブ11が存する範囲内で空隙の有無を複数箇所で検査することができ、Z方向における分解能(検査分解能)が向上し、空隙の有無を三次元(X、Y、及びZ方向のそれぞれ)で検査することが可能となる。
【0097】
ところで、第一プローブ11及び第二プローブ12は、空隙検査の実施に際して目地モルタル4に所定量だけ差し込まれる。つまり、第一電極13及び第二電極14は、検査開始時に、Y方向において目地モルタル4に幾分差し込まれた位置に配置される。このときの第一電極13のY方向における位置は、第一電極13の初期位置に該当する。初期位置とは、Y方向において目地モルタル4の表面位置を基準にして設定された位置であり、具体的には、表面位置から所定距離だけ奥側にある位置である。
【0098】
装置本体10Hの対向面に
図12に図示の位置決め部26が設けられていれば、検査開始時に第一電極13を初期位置に位置決めすることができる。
図12は、位置決め部26を示す図であり、位置決め部26を備えた装置本体10HのX−Y断面図である。なお、
図12において、装置本体10Hの内部は、図示の都合上、幾分簡略化して図示している。
【0099】
位置決め部26は、装置本体10Hの対向面から外側に張り出した部分であり、その長さは、初期位置(つまり、検査開始時での第一電極13の目地モルタル4への差し込み量)に応じた長さに設計されている。
【0100】
本実施形態では、
図12に示すように、位置決め部26が左右一対設けられている。一方の位置決め部26は、第一プローブ11とは反対側で第二プローブ12と隣り合う位置に設けられ、他方の位置決め部26は、第二プローブ12とは反対側で第一プローブ11と隣り合う位置に設けられている。位置決め部26の個数については特に制限はなく、少なくとも1つ設けられるとよい。
【0101】
そして、上記一対の位置決め部26を備えた装置本体10Hを検査開始時の位置にセットする際、各々の位置決め部26の延出方向先端面を炉壁(厳密には、その時点で積み上げられた煉瓦8の表面)に当接させる。これにより、
図12に示すように、第一プローブ11が目地モルタル4に差し込まれて第一電極13が初期位置に配置されるようになる。また、このとき、第二プローブ12も目地モルタル4に差し込まれ、第二電極14が目地モルタル4に対して規定量(例えば、5mm程度)だけ差し込まれた位置に配置される。
【0102】
以上のように位置決め部26による位置決めを行うことで、Y方向において第一電極13を適切に初期位置に位置決めすることができる。このように検査開始時に正規の位置(初期位置)に第一電極13を位置決めすることができるので、それ以降、Y方向において第一電極13を適切に変位させることが可能となる。この結果、第一電極13の位置を正確に把握しながら、第一電極13の位置における空隙の有無を検査することができるので、空隙検査の精度が向上する。
【0103】
<<空隙検査装置の動作例>>
次に、以上までに説明してきた空隙検査装置10の動作例として、空隙検査装置10を用いて行われる空隙検査の手順について、
図13A乃至
図13Dを参照しながら説明する。
図13A乃至
図13Dは、空隙検査の手順を示す図であり、空隙検査装置10を上方から見た図である。ちなみに、検査中の様子は、
図13A、
図13B、
図13C及び
図13Dの順で遷移する。
【0104】
なお、以下に説明する空隙検査の手順では、本発明の空隙検査方法を採用しており、換言すれば、以下に説明する空隙検査の内容は、本発明の空隙検査方法の一例に関する説明に相当する。ちなみに、以下では、空隙検査装置10が、X方向における第一電極13の位置を特定するための機構として、上述したロータリーエンコーダ付きの車輪41を備えているケースを例に挙げて説明することとする。また、以下の説明では、第一プローブ11の先端部に第一電極13が一つ設けられていることとする。
【0105】
炉壁の建設過程において、X方向に沿って1段分の煉瓦8をその直下に位置する煉瓦8(厳密には、一つ下の段をなす煉瓦8の列)上に積べる(並べる)と、新たな目地が形成されるので、その目地を対象目地2として空隙検査を実施する。空隙検査を実施するにあたり、検査者は、空隙検査装置10の装置本体10Hを持ち、X方向及びZ方向において装置本体10Hを所定位置にセットする。装置本体10Hが所定位置にセットされることで、第一プローブ11及び第二プローブ12がZ方向において対象目地2と同じ高さに位置し、且つ、第一プローブ11の先端部がX方向において最初の検査位置に配置されるようになる。
【0106】
その後、検査者は、装置本体10HをY方向において対象目地2に近付け、第一プローブ11及び第二プローブ12の各々の先端部を対象目地2の目地モルタル4に差し込む。これにより、
図13Aに示すように、第一プローブ11の先端部にある第一電極13が初期位置に配置されるようになる。なお、このとき、装置本体10Hに前述の位置決め部26が設けられていれば、位置決め部26の先端を煉瓦8の表面に当接させることにより、第一電極13を初期位置に容易且つ適切に位置決めることができる。
【0107】
以上までの事前準備が完了した時点で、検査者が操作パネル32にて不図示の検査開始を指示すると、空隙検査が開始される。なお、検査開始時点での第一電極13の、X方向及びY方向の各々における位置は、処理装置30によって記憶されている。
【0108】
空隙検査が開始されると、処理装置30がアクチュエータ15を制御し、アクチュエータ15が、Y方向奥側に第一プローブ11を所定量ずつ断続的に動かす。これにより、
図13Bに示すように、目地モルタル4での第一電極13の差し込み量が一定量ずつ増加する。このとき、処理装置30は、アクチュエータ15の動作量からY方向における第一電極13の移動量を算出し、算出した移動量に基づき、移動後の第一電極13の位置(Y方向における位置)を特定する。
【0109】
また、アクチュエータ15の動作が中断している間に(換言すると、第一電極13が静止している間に)、電源24によって、目地モルタル4に差し込まれた状態の第一電極13及び第二電極14の間に電圧を印加する。このとき、直流電圧及び交流電圧のうち、検査者が操作パネル32を通じて選択した電圧が印加される。交流電圧が選択された場合には、正弦波及び矩形波のうち、検査者が操作パネル32を通じて選択した波形にて交流電圧が印加される。
【0110】
また、第一電極13と第二電極14との間を流れる電流を電流計22によって検知する。第一電極13がY方向奥側に差し込まれている間、第一電極13がモルタルと接している箇所では、電流が比較的大きくなり、他方、第一電極13が空隙内に在る箇所では、電流が規定値以下となる。このような空隙の有無に応じた電流の変化を、電流計22によって検知する。
【0111】
電流計22は、電流を検知したとき、その検知結果に応じて信号を出力し、処理装置30は、電流計22からの出力信号を受信する。そして、処理装置30は、その受信信号(換言すると、電流計22により検知された電流)に基づき、空隙の有無を判定する。具体的には、第一電極13がY方向奥側に変位しているときに電流が規定値以下(ゼロ付近)まで低下すると、処理装置30は、その時点でのY方向における第一電極13の位置に空隙が有ると判定する。
【0112】
以上の要領で、アクチュエータ15によって第一電極13の差し込み量を増加させながら、それぞれの時点(換言すると、差し込み量)で、第一電極13の位置での空隙の有無を逐次判定する。そして、第一電極13が最大差し込み量まで差し込まれると、処理装置30は、第一電極13を引き抜く向きに第一プローブ11を動かすようにアクチュエータ15を制御する。
【0113】
第一プローブ11の後退により第一電極13がY方向において初期位置まで戻ると、検査者は、装置本体10Hを持ち、
図13Cの矢印方向に装置本体10Hを動かす。これにより、それまで目地モルタル4に差し込まれていた第一プローブ11及び第二プローブ12が目地モルタル4から引き抜かれる。その後、装置本体10Hに取り付けられたロータリーエンコーダ付きの車輪41の外周面を、炉壁(厳密には、その時点で積み重ねられた煉瓦8の表面)に当接させる。
【0114】
検査者は、車輪41を炉壁上で転がしながら装置本体10HをX方向に沿って搬送する。この間、車輪41は、装置本体10Hの搬送に付随して回転し、車輪41が所定量回転する度に、車輪41に搭載されたロータリーエンコーダが信号を出力する。
【0115】
装置本体10HがX方向において最初の検査位置から次の検査位置まで搬送されると、その位置にて装置本体10Hの姿勢を元に戻し、装置本体10Hの対向面を炉壁に対向させる(厳密には、炉壁に対して平行にする)。そして、
図13Dに示すように、搬送後の位置にて第一プローブ11及び第二プローブ12が目地モルタル4に差し込まれる。これにより、第一電極13及び第二電極14は、それぞれY方向において位置決めされ、第一電極13は、初期位置に配置されるようになる。また、処理装置30は、装置本体10Hの搬送中にロータリーエンコーダが出力した信号に基づき、X方向における第一電極13の位置(すなわち、搬送後の位置)を特定する。処理装置30は、ロータリーエンコーダからの出力信号に基づいて、X方向における装置本体10Hの搬送量を算出し、算出した搬送量だけ最初の検査位置から離れた位置を、搬送後の第一電極13の位置(検査位置)として特定する。
【0116】
そして、搬送後の位置にて第一プローブ11を目地モルタル4に差し込み、上述した手順と同様の手順にて、目地モルタル4内の空隙の有無を検査する。つまり、次の検査位置にて、第一電極13の位置(Y方向における位置)を特定しながら、第一電極13と第二電極14との間に電圧を印加し、両電極間に流れる電流の変化を検知することで、Y方向の各位置での目地モルタル4内の空隙の有無を判定する。かかる動作は、第一電極13の差し込み量が最大差し込み量に達するまで繰り返される。
【0117】
以降、上述した一連のステップ(すなわち、装置本体10Hの搬送、プローブの差し込み、第一電極13の位置特定、電圧の印加、電流変化の検知、及び空隙の有無の判定)は、X方向において一定のピッチΔX毎に繰り返される。これにより、対象目地2全域に亘って目地モルタル4内の空隙の有無が検査される。
【0118】
その後、処理装置30が、X方向における各検査位置において、電流が規定値以下となった時点の第一電極13のY方向における位置を、X−Y平面にプロットし、各プロットを通る曲線を描いて空隙のマッピングイメージを作成する。処理装置30は、上記のマッピングイメージをモニタ16に表示する。このとき、マッピングイメージを解析して得られる空隙の、対象目地2の断面積に対する面積率、及び、その面積率から判定した対象目地2の施工の良否を上記のマッピングイメージと共にモニタ16に表示すると好適である。
【0119】
検査者は、モニタ16に表示されたマッピングイメージ等を見ることで、炉の利用に影響を及ぼし得る空隙が対象目地2の目地モルタル4内に存在しているかどうかを確認する。
以上までの工程が完了した時点で、一つの目地(対象目地2)に対する空隙検査が終了する。
【0120】
以上までに説明してきた空隙検査装置、及び、当該装置を用いた空隙検査方法によれば、目地モルタル4内における空隙の有無を、比較的簡単に且つ適切に検査することができる。上記の実施形態では、目地モルタル4に第一電極13及び第二電極14を差し込んだ状態で電極間に流れる電流を検知する。ここで、電流は、空隙の有無に応じて変化するので、電流を検知すれば、目地モルタル4内での空隙の有無を適切に検査することが可能である。
【0121】
そして、上記の実施形態に係る空隙検査は、特許文献1に記載の方法のように中性子線を用いて空隙の有無を検査する方法に比して容易であり、目地モルタル4中の水分の時間変化が検査結果に及ぼす影響も小さいので、精度よく空隙の有無を検査することができる。
【0122】
また、上記の実施形態に係る空隙検査は、特許文献2に記載の方法のように超音波を用いて空隙の有無を検査するものではないので、煉瓦等の建設資材に超音波を入射した際の信号強度が劣ることが原因で目地モルタル4内の空隙が検出され難くなるという問題が生じ難い。上記の検査方法であれば、特許文献2に記載の検査方法に比して、より適切に空隙の有無を検査することができる。
【0123】
以上のように、上記の実施形態に係る空隙検査によれば、炉の建設過程において目地モルタル4内の空隙の有無を適切に検査することができる。そのため、仮に空隙が発生したとしても、当該空隙の存在を把握して煉瓦の積み直し等の適切な対応を行うことができるので、空隙を消滅させて大規模なガスリークの発生を抑制することが可能となる。また、空隙による構造強度の低下等の問題が生じ得るリスクを抑えることができるので、煉瓦積みの構造物の施工品質を向上させることが可能となる。
【0124】
なお、上記の実施形態では、装置本体10Hを搬送する際には検査者(すなわち、人手)によって搬送することとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、ロボット又は自走機構によって搬送してもよい。また、ドローンのような無人航空機に装置本体10Hを搭載し、無人航空機を遠隔操作することで装置本体10Hを搬送してもよい。