(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリイミド層のうちヤング率が最も大きいポリイミド層のヤング率が、ヤング率が最も小さいポリイミド層のヤング率の1.2倍以上である、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
前記ラジカル重合性化合物が(メタ)アクリロイル基を1分子中に2つ以上有する化合物であり、前記カチオン重合性化合物がエポキシ基及びオキセタニル基の少なくとも1種を1分子中に2つ以上有する化合物である、請求項12に記載の積層体。
【発明を実施するための形態】
【0031】
I.ポリイミドフィルム
本開示のポリイミドフィルムは、ヤング率が互いに異なる2層以上のポリイミド層を有し、全体厚みが5μm以上200μm以下であり、JIS K7361−1に準拠して測定する全光線透過率が85%以上である。
【0032】
このような本開示のポリイミドフィルムについて図を参照して説明する。
図1は、本開示のポリイミドフィルムの一例を示す概略断面図である。
図1に示す本開示のポリイミドフィルム10は、ポリイミド層1aとポリイミド層1a’との間にポリイミド層1bを有し、ポリイミド層1aとポリイミド層1a’は互いにヤング率が同一であり、ポリイミド層1bは、ポリイミド層1a及びポリイミド層1a’とはヤング率が異なる。
図2は、本開示のポリイミドフィルムの他の一例を示す概略断面図である。
図2に示す本開示のポリイミドフィルム11は、ポリイミド層1aと、ポリイミド層1bとを有し、ポリイミド層1aとポリイミド層1bとは互いにヤング率が異なる。
【0033】
なお、本開示において、ヤング率は、ポリイミドフィルムを厚さ方向に切断した試験片の断面を用いて、温度25℃で、ISO14577に準拠し、ナノインデンテーション法を用いて測定する。具体的には、測定装置は(株)フィッシャー・インストルメンツ製、PICODENTOR HM500を用い、測定圧子としてビッカース圧子を用いる。試験片断面の各層について、任意の点を8ヶ所測定して数平均して求めた値を各層のヤング率とする。なお、測定条件は、最大押込み深さ:1000nm、加重時間:20秒、クリープ時間:5秒とする。
【0034】
また、本開示において、ポリイミド層のヤング率が互いに異なるとは、ヤング率の差が0.3GPa以上であることをいい、ヤング率の差が0.3GPa未満の場合は、ポリイミド層のヤング率は互いに同一であるとする。
【0035】
また、本開示のポリイミドフィルムは、前記JIS K7361−1に準拠して測定する全光線透過率が85%以上である。このように透過率が高いことから、透明性が良好になり、ガラス代替材料となり得る。前記JIS K7361−1に準拠して測定する全光線透過率は、更に88%以上であることが好ましく、より更に90%以上であることが好ましい。
JIS K7361−1に準拠して測定する全光線透過率は、例えば、ヘイズメーター(例えば村上色彩技術研究所製 HM150)により測定することができる。
【0036】
本開示のポリイミドフィルムにおいて耐衝撃性に優れ、屈曲耐性が良好な理由については、以下のように推定される。
屈曲耐性に優れる樹脂フィルムは、フィルムの厚みを厚くすることにより耐衝撃性を向上することができるが、フィルムの厚みが厚すぎると屈曲耐性が悪化してしまう。それに対し、本開示のポリイミドフィルムは、ヤング率が互いに異なる2層以上のポリイミド層を有することにより、耐衝撃性に優れ、屈曲耐性も良好である。2層以上のポリイミド層のうち、相対的にヤング率が大きいポリイミド層は、比較的変形しにくく、耐衝撃性に優れる。一方で、相対的にヤング率が小さいポリイミド層は、比較的変形しやすく、屈曲耐性に優れる。本開示のポリイミドフィルムにおいては、2層以上のポリイミド層のうち、相対的にヤング率が大きいポリイミド層が耐衝撃性を向上し、相対的にヤング率が小さいポリイミド層が屈曲耐性を向上することにより、耐衝撃性と屈曲耐性とを両立していると考えられる。また、衝撃吸収という観点では、相対的にヤング率の高いポリイミド層は、衝突の力を面で拡散する傾向が強く、相対的にヤング率の低いポリイミド層は、衝突の力を時間で拡散する傾向が強い。本開示のポリイミドフィルムでは、このように衝突の力を拡散する作用が互いに異なるポリイミド層を組み合わせることにより、衝撃力の最大値を適度に拡散し、小さくすることができると推定され、それにより、耐衝撃性を更に向上していると考えられる。
【0037】
以下、本開示のポリイミドフィルムについて詳細に説明する。
本開示のポリイミドフィルムは、ヤング率が互いに異なる2層以上のポリイミド層を有し、全体厚みが5μm以上200μm以下であり、全光線透過率が85%以上である。本開示の効果が損なわれない限り、他の構成を有していても良い。
【0038】
1.ポリイミドフィルムの構成
本開示のポリイミドフィルムは、ヤング率が互いに異なる2層以上のポリイミド層が積層されているものであり、ヤング率が互いに異なる2層以上のポリイミド層を互いに隣接して有するものである。
本開示のポリイミドフィルムは、
図2に示すように、2層のポリイミド層を有するものであっても良いし、
図1に示すように、3層のポリイミド層を有するものであっても良いし、図示はしないが、4層以上のポリイミド層を有するものであっても良い。
【0039】
また、本開示のポリイミドフィルムは、少なくとも2層のポリイミド層が互いにヤング率が異なるものであればよく、ヤング率が互いに同一である2層以上のポリイミド層を含むものであってもよい。中でも、耐衝撃性及び屈曲耐性を向上する点から、互いに隣接するポリイミド層が、ヤング率が互いに異なるポリイミド層であることが好ましく、隣接する層間で相対的にヤング率が大きいポリイミド層と、相対的にヤング率が小さいポリイミド層とが、交互に積層されていることがより好ましい。
【0040】
また、本開示のポリイミドフィルムは、3層以上のポリイミド層を有し、前記ポリイミド層のうちヤング率が最も大きいポリイミド層が、少なくとも一方の表面に位置することが、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から好ましく、中でも、ポリイミド層の層数が3層以上で且つ奇数であり、前記ポリイミド層のうちヤング率が最も大きいポリイミド層が一方の表面に位置し、当該ヤング率が最も大きいポリイミド層のヤング率が、もう一方の表面に位置するポリイミド層のヤング率の1.0倍以上1.2倍未満であることが好ましく、1.0倍以上1.1倍以下であることが、耐衝撃性と屈曲耐性との点、及びフィルムの反りを抑制する点からより好ましい。
また、本開示のポリイミドフィルムは、3層以上のポリイミド層を有し、前記ポリイミド層のうちヤング率が最も小さいポリイミド層が、表面に位置しないことが、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から好ましく、中でも、ポリイミド層の層数が3層以上で且つ奇数であり、前記ポリイミド層のうちヤング率が最も小さいポリイミド層が中央に位置することが好ましい。
一方で、2層のポリイミド層からなる本開示のポリイミドフィルムは、耐衝撃性及び屈曲耐性を向上しながら、薄膜化できる点から好ましい。2層のポリイミド層からなるポリイミドフィルムを表面材に用いる場合は、相対的にヤング率が大きいポリイミド層が表面側となるように用いることが、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から好ましい。2層のポリイミド層からなる本開示のポリイミドフィルムにおいては、耐衝撃性と屈曲耐性との点、及びフィルムの反りを抑制する点から、相対的にヤング率が大きいポリイミド層のヤング率が、相対的にヤング率が小さいポリイミド層のヤング率の1.2倍以上2.0倍以下であることが好ましい。
本開示のポリイミドフィルムは、中でも、耐衝撃性と屈曲耐性を向上する点から、ポリイミド層の層数が3層以上で且つ奇数であり、隣接する層間で相対的にヤング率が大きいポリイミド層と、相対的にヤング率が小さいポリイミド層とが、交互に積層され、表面に位置するポリイミド層が、相対的にヤング率が大きいポリイミド層であることがより好ましく、更に、一方の表面に位置するポリイミド層と、もう一方の表面に位置するポリイミド層とが、前記ポリイミド層のうちヤング率が最も大きいポリイミド層であることがより好ましく、更に、中央に位置するポリイミド層が、ヤング率が最も小さいポリイミド層であることがより更に好ましい。
なお、本開示のポリイミドフィルムが有するポリイミド層の層数は、2層以上であれば特に限定はされないが、ポリイミドフィルムの薄膜化の観点及び製造が容易な点から、5層以下であることが好ましく、2層又は3層であることがより好ましい。中でも、相対的にヤング率が小さいポリイミド層の両面に当該ポリイミド層よりもヤング率が大きい層が位置する3層構成であることが、耐衝撃性の点から特に好ましい。
【0041】
本開示のポリイミドフィルムは、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から、ヤング率が最も大きいポリイミド層のヤング率が、ヤング率が最も小さいポリイミド層のヤング率の1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましい。一方で、特に限定はされないが、ヤング率が最も大きいポリイミド層のヤング率は、ヤング率が最も小さいポリイミド層のヤング率の4.0倍以下であることが好ましく、3.0倍以下であることがより好ましく、2.0倍以下であってもよい。
なお、本開示において、ヤング率が最も小さいポリイミド層のヤング率に対する、ヤング率が最も大きいポリイミド層のヤング率の比は、JIS Z8401:1999の規則Bに従い、小数点以下第1位に丸めた値として求める。
【0042】
本開示のポリイミドフィルムが3層以上のポリイミド層を有する場合は、一方の表面に位置するポリイミド層のヤング率と、もう一方の表面に位置するポリイミド層のヤング率との差が1.0GPa以内であることが、ポリイミドフィルムの反りを抑制する点から好ましく、0.5GPa以内であることがより好ましく、0.3GPa未満であることがより更に好ましい。
【0043】
本開示のポリイミドフィルムが有する各ポリイミド層のヤング率は、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から、各々2.0GPa以上であることが好ましく、3.0GPa以上であることがより好ましく、3.5GPa以上であることがより更に好ましく、一方、10.0GPa以下であることが好ましく、8.0GPa以下であることがより好ましく、7.0GPa以下であることがより更に好ましい。
中でも、ヤング率が最も大きいポリイミド層のヤング率は、3.5GPa以上であることが好ましく、5.0GPa以上であることがより好ましく、6.0GPa以上であることがより更に好ましい。ヤング率が最も小さいポリイミド層のヤング率は、4.5GPa以下であることが好ましく、4.0GPa以下であることがより好ましい。
【0044】
また、本開示のポリイミドフィルムが3層以上のポリイミド層を有する場合は、一方の表面に位置するポリイミド層と、もう一方の表面に位置するポリイミド層との、50℃から250℃の範囲での線熱膨張係数(CTE)の差が、10ppm/℃以内であることが、ポリイミドフィルムの反りを抑制する点から好ましく、5ppm/℃以内であることがより好ましく、2ppm/℃以内であることがより更に好ましい。
なお、各ポリイミド層の50℃から250℃の範囲での線熱膨張係数(CTE)は、各ポリイミド層と同じ材料、同じ条件で作製した単層のポリイミドフィルムを5mm×15mmに切り出した試験片に対して、熱機械分析装置(TMA)により、下記条件で試験片の伸び量を測定し、50℃から250℃の範囲での線熱膨張係数(CTE)を算出することにより求めることができる。
<CTE測定条件>
機種名:TMA−60、(株)島津製作所製
雰囲気ガス:窒素
ガス流量:50ml/min
初期荷重:9g
[温度プログラム]
窒素雰囲気下、30℃で10分間維持した後、加熱速度10℃/minで400℃まで昇温し、400℃のまま1分間維持する。
【0045】
本開示のポリイミドフィルムが有する各ポリイミド層の50℃から250℃の範囲での線熱膨張係数(CTE)は、特に限定はされないが、耐熱性の点から、各々70ppm/℃以下であることが好ましく、60ppm/℃以下であることがより好ましく、50ppm/℃以下であることがより更に好ましい。
【0046】
本開示のポリイミドフィルムは、全体厚みが5μm以上200μm以下であり、屈曲耐性及び耐衝撃性の点から、より好ましくは10μm以上180μm以下であり、より更に好ましくは40μm以上150μm以下であり、より更に好ましくは50μm以上120μm以下である。
【0047】
本開示のポリイミドフィルムが有する各ポリイミド層の厚さは特に限定はされないが、屈曲耐性及び耐衝撃性の点から、前記ポリイミド層のうち最も厚みの厚い層が、ヤング率が最も大きいポリイミド層でないことが好ましい。
【0048】
なお、本開示のポリイミドフィルムにおいて、各ポリイミド層の厚みは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡断面顕微鏡(TEM)、走査透過型電子顕微鏡(STEM)等の電子顕微鏡を用いて観察される厚み方向の断面から測定することができる。
互いに隣接するポリイミド層の境界に、各ポリイミド層の材料が混合したミキシング領域を有して界面が不明瞭な場合、ポリイミド層の厚みを求める際の境界は例えば以下のようにして決定することができる。互いに隣接する2層のポリイミド層に用いられる各材料のうち、最も違いが出やすい元素を選択して、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)等による元素マッピングを行い、元素マッピングにおいて選択した元素の検出量が、前記ミキシング領域でない2つの領域の元素の検出量の平均値となる部分を、ポリイミド層の厚みを求める際の境界とする。前記ミキシング領域でない2つの領域の元素の検出量の平均値となる部分が厚みを有する領域の場合には、当該領域の厚み方向の中央部を、ポリイミド層の厚みを求める際の境界とする。
【0049】
なお、本開示のポリイミドフィルムは、互いに隣接するポリイミド層の間にミキシング領域を有することが、層間密着性に優れ、干渉縞の発生を抑制する点、及び耐衝撃性を向上しやすい点から好ましい。
【0050】
また、本開示のポリイミドフィルムは、屈曲耐性を向上する点から、前記ポリイミド層のうちヤング率が最も大きいポリイミド層の合計厚みが、ポリイミドフィルムの全体厚みの60%以下であることが好ましく、より好ましくは50%以下であり、更に好ましくは40%以下であり、より更に好ましくは30%以下である。前記ポリイミド層のうちヤング率が最も大きいポリイミド層の合計厚みは、耐衝撃性を向上する点から、ポリイミドフィルムの全体厚みの5%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上である。
一方、本開示のポリイミドフィルムは、前記ポリイミド層のうちヤング率が最も大きいポリイミド層の合計厚みが、ポリイミドフィルムの全体厚みの15%以上60%以下であると、屈曲耐性の低下を抑制しながら、耐衝撃性を向上できる点から好ましく、20%以上60%以下としてもよい。
【0051】
また、本開示のポリイミドフィルムは、屈曲耐性を向上する点から、前記ポリイミド層のうちヤング率が最も大きいポリイミド層(高ヤング率層)の合計厚みに対する、ヤング率が最も小さいポリイミド層(低ヤング率層)の合計厚みの比(低ヤング率層の合計厚み/高ヤング率層の合計厚み)が、1.0超過であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。一方で、前記比(低ヤング率層の合計厚み/高ヤング率層の合計厚み)は、耐衝撃性の点から、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。なお、屈曲耐性の低下を抑制する観点からは、前記比(低ヤング率層の合計厚み/高ヤング率層の合計厚み)は、0.6以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることがより更に好ましく、1.0以上であることが特に好ましい。
【0052】
また、本開示のポリイミドフィルムにおいて、前記ポリイミド層のうちヤング率が最も小さいポリイミド層(低ヤング率層)の合計厚みは、特に限定はされないが、20μm以上120μm以下であることが好ましく、中でも、20μm以上70μm未満であると、屈曲耐性の点から好ましい。
【0053】
2.ポリイミド層
本開示のポリイミドフィルムが有する各ポリイミド層は、少なくともポリイミドを含有し、本開示の効果を損なわない範囲において、更に必要に応じて、添加剤やポリイミド以外のその他の樹脂を含有していても良い。
【0054】
(1)ポリイミド
ポリイミドは、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて得られるものである。テトラカルボン酸成分とジアミン成分の重合によってポリアミド酸を得てイミド化することが好ましい。イミド化は、熱イミド化で行っても、化学イミド化で行ってもよい。また、熱イミド化と化学イミド化とを併用した方法で製造することもできる。
【0055】
テトラカルボン酸成分の具体例としては、テトラカルボン酸二無水物が好適に用いられ、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキサン-3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、1,4−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、4,4’−ビス〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,3’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0056】
ジアミン成分の具体例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(2,2−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン)、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、
【0057】
ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、6,6’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2−アミノエチル)エーテル、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、ビス(2−アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(3−アミノプロトキシ)エチル]エーテル、
【0058】
1,4−シクロヘキサンジアミン、trans−1,4−ビスメチレンシクロヘキサンジアミン(trans−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン)、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、また、上記ジアミンの芳香族環上水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、又はトリフルオロメトキシ基から選ばれる置換基で置換したジアミンも使用することができる。
これらのジアミンは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0059】
また、光透過性を向上し、且つ、耐衝撃性を向上する点から、前記2層以上のポリイミド層がそれぞれ、芳香族環を含み、且つ、(i)フッ素原子、(ii)脂肪族環、及び(iii)芳香族環同士をスルホニル基又はフッ素原子で置換されていても良いアルキレン基で連結した構造からなる群から選択される少なくとも1つを含むポリイミドを含有することが好ましい。ポリイミドに芳香族環を含むと配向性が高まり、剛性が向上するため、耐衝撃性が向上するが、芳香族環の吸収波長によって透過率が低下する傾向がある。
ポリイミドに(i)フッ素原子を含むとポリイミド骨格内の電子状態を電荷移動し難くすることができる点から光透過性が向上する。
ポリイミドに(ii)脂肪族環を含むと、ポリイミド骨格内のπ電子の共役を断ち切ることで骨格内の電荷の移動を阻害することができる点から光透過性が向上する。
ポリイミドに(iii)芳香族環同士をスルホニル基又はフッ素原子で置換されていても良いアルキレン基で連結した構造を含むと、ポリイミド骨格内のπ電子の共役を断ち切ることで骨格内の電荷の移動を阻害することができる点からの点から光透過性が向上する。
【0060】
中でも、芳香族環を含み、且つフッ素原子を含むポリイミドが、光透過性を向上し、且つ、耐衝撃性を向上する点から好ましく用いられる。
ポリイミド中のフッ素原子の含有割合は、ポリイミド表面をX線光電子分光法により測定したフッ素原子数(F)と炭素原子数(C)の比率(F/C)が、0.01以上であることが好ましく、更に0.05以上であることが好ましい。一方でフッ素原子の含有割合が高すぎるとポリイミド本来の耐熱性などが低下する恐れがあることから、前記フッ素原子数(F)と炭素原子数(C)の比率(F/C)が1以下であることが好ましく、更に0.8以下であることが好ましい。
ここで、X線光電子分光法(XPS)の測定による上記比率は、X線光電子分光装置(例えば、Thermo Scientific社 Theta Probe)を用いて測定される各原子の原子%の値から求めることができる。
【0061】
また、前記ポリイミドは、耐衝撃性が向上する点から、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の合計を100モル%としたときに、芳香族環を有するテトラカルボン酸残基及び芳香族環を有するジアミン残基の合計が50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、75モル%以上であることがより更に好ましい。
【0062】
なお、本開示において、ポリイミド中の各繰り返し単位の含有割合、各テトラカルボン酸残基や各ジアミン残基の含有割合(モル%)は、ポリイミド製造時には仕込みの分子量から求めることができる。また、ポリイミド中の各テトラカルボン酸残基や各ジアミン残基の含有割合(モル%)は、サンプルを、アルカリ水溶液、又は、超臨界メタノールにより分解して得られるポリイミドの分解物について、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフ質量分析計、NMR、元素分析、XPS/ESCA、TOF−SIMS及び熱分解CG−MSを用いて求めることができる。
【0063】
また、前記ポリイミドは、耐衝撃性と光透過性が向上する点から、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の少なくとも1つが、芳香族環とフッ素原子とを含むことが好ましく、更に、芳香族環とフッ素原子とを含むテトラカルボン酸残基、及び芳香族環とフッ素原子とを含むジアミン残基を有することが好ましい。
前記ポリイミドは、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の合計を100モル%としたときに、芳香族環及びフッ素原子を有するテトラカルボン酸残基及び芳香族環及びフッ素原子を有するジアミン残基の合計が50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、75モル%以上であることがより更に好ましい。
【0064】
また、ポリイミドに含まれる炭素原子に結合する水素原子の50%以上が、芳香族環に直接結合する水素原子であるポリイミドであることが、光透過性を向上し、且つ、剛性を向上する点から好ましく用いられる。ポリイミドに含まれる炭素原子に結合する全水素原子(個数)中の、芳香族環に直接結合する水素原子(個数)の割合は、更に、60%以上であることが好ましく、より更に70%以上であることが好ましい。
ポリイミドに含まれる炭素原子に結合する水素原子の50%以上が、芳香族環に直接結合する水素原子であるポリイミドである場合には、大気中における加熱工程を経ても、例えば200℃以上で延伸を行っても、光学特性、特に全光線透過率や黄色度YI値の変化が少ない点から好ましい。ポリイミドに含まれる炭素原子に結合する水素原子の50%以上が、芳香族環に直接結合する水素原子であるポリイミドである場合には、酸素との反応性が低いため、ポリイミドの化学構造が変化し難いことが推定される。ポリイミドフィルムはその高い耐熱性を利用し、加熱を伴う加工工程が必要なデバイスなどに用いられる場合が多いが、ポリイミドに含まれる炭素原子に結合する水素原子の50%以上が、芳香族環に直接結合する水素原子であるポリイミドである場合には、これら後工程を透明性維持のために不活性雰囲気下で実施する必要が生じないので、設備コストや雰囲気制御にかかる費用を抑制できるというメリットがある。
ここで、ポリイミドに含まれる炭素原子に結合する全水素原子(個数)中の、芳香族環に直接結合する水素原子(個数)の割合は、ポリイミドの分解物を高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフ質量分析計及びNMRを用いて求めることができる。例えば、サンプルを、アルカリ水溶液、又は、超臨界メタノールにより分解し、得られたポリイミドの分解物を、高速液体クロマトグラフィーで分離し、当該分離した各ピークの定性分析をガスクロマトグラフ質量分析計及びNMR等を用いて行い、高速液体クロマトグラフィーを用いて定量することで、ポリイミドに含まれる全水素原子(個数)中の、芳香族環に直接結合する水素原子(個数)の割合を求めることができる。
【0065】
また、本開示に用いられるポリイミドとしては、互いに隣接するポリイミド層同士の密着性、及びポリイミドフィルム上に更にハードコート層等の別の層を積層する場合の層間密着性を向上する観点から、ケイ素原子を含むポリイミドを好ましく用いることができる。また、ケイ素原子を含むポリイミドを含有するポリイミド層は、隣接するポリイミド層との間に前記ミキシング領域を形成しやすいことにより、層間密着性を向上し、干渉縞の発生を抑制する点からも好ましい。また、ポリイミドフィルムがケイ素原子を含むポリイミドを含有するポリイミド層を有すると、耐衝撃性を向上しやすい点からも好ましい。
本開示に用いられるケイ素原子を含むポリイミドとしては、中でも、ケイ素原子を有するジアミン残基を、ジアミン残基の総量100モル%のうち、好ましくは1モル%以上50モル%以下、より好ましくは2.5モル%以上40モル%以下、より更に好ましくは5モル%以上30モル%以下の割合で含むポリイミドが好適に用いられる。
【0066】
ケイ素原子を有するジアミン残基としては、主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミン残基が好ましい。
主鎖にケイ素原子を1個有するジアミンとしては、例えば、下記一般式(A)で表されるジアミンが挙げられる。また、主鎖にケイ素原子を2個有するジアミンとしては、例えば、下記一般式(B)で表されるジアミンが挙げられる。
【0067】
【化4】
(一般式(A)及び一般式(B)において、Lはそれぞれ独立して、直接結合又は−O−結合であり、R
10はそれぞれ独立して、置換基を有していても良く、酸素原子又は窒素原子を含んでいても良い炭素数1以上20以下の1価の炭化水素基を表す。R
11はそれぞれ独立して、置換基を有していても良く、酸素原子又は窒素原子を含んでいても良い炭素数1以上20以下の2価の炭化水素基を表す。)
【0068】
前記一般式(A)及び前記一般式(B)において、複数あるL、R
10、及びR
11はそれぞれ同一でも異なっていても良い。
R
10で表される1価の炭化水素基としては、炭素数1以上20以下のアルキル基、アリール基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐状と環状の組合せであっても良い。
炭素数1以上20以下のアルキル基としては、炭素数1以上10以下のアルキル基であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。前記環状のアルキル基としては、炭素数3以上10以下のシクロアルキル基であることが好ましく、具体的には、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。前記アリール基としては、炭素数6以上12以下のアリール基であることが好ましく、具体的には、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。また、R
10で表される1価の炭化水素基としては、アラルキル基であっても良く、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
酸素原子又は窒素原子を含んでいても良い炭化水素基としては、例えば後述する2価の炭化水素基と前記1価の炭化水素基とをエーテル結合、カルボニル結合、エステル結合、アミド結合、及びイミノ結合(−NH−)の少なくとも1つで結合した基が挙げられる。
R
10で表される1価の炭化水素基が有していても良い置換基としては、本開示の効果が損なわれない範囲で特に限定されず、例えば、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、水酸基等が挙げられる。
【0069】
R
10で表される1価の炭化水素基としては、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から、炭素数1以上3以下のアルキル基、又は炭素数6以上10以下のアリール基であることが好ましく、炭素数1以上3以下のアルキル基であることがより好ましい。炭素数1以上3以下のアルキル基としては、メチル基であることがより好ましく、前記炭素数6以上10以下のアリール基としては、フェニル基であることがより好ましい。
【0070】
R
11で表される2価の炭化水素基としては、炭素数1以上20以下のアルキレン基、アリーレン基、及びこれらの組み合わせの基が挙げられる。アルキレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐状と環状の組合せであっても良い。
炭素数1以上20以下のアルキレン基としては、炭素数1以上10以下のアルキレン基であることが好ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、各種プロピレン基、各種ブチレン基、シクロヘキシレン基等の直鎖状又は分岐状アルキレン基と環状アルキレン基との組合せの基などを挙げることができる。
前記アリーレン基としては、炭素数6以上12以下のアリーレン基であることが好ましく、アリーレン基としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基等が挙げられ、更に後述する芳香族環に対する置換基を有していても良い。
酸素原子又は窒素原子を含んでいても良い2価の炭化水素基としては、前記2価の炭化水素基同士をエーテル結合、カルボニル結合、エステル結合、アミド結合、及びイミノ結合(−NH−)の少なくとも1つで結合した基が挙げられる。
R
11で表される2価の炭化水素基が有していても良い置換基としては、前記R
10で表される1価の炭化水素基が有していても良い置換基と同様であって良い。
【0071】
R
11で表される2価の炭化水素基としては、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から、炭素数1以上6以下のアルキレン基、又は炭素数6以上10以下のアリーレン基であることが好ましく、更に、炭素数2以上4以下のアルキレン基であることがより好ましく、当該アルキレン基は、直鎖状又は分岐状であることが好ましい。
【0072】
主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミンとしては、中でも、ケイ素原子を2個有するジアミンが、光透過性の点、及び耐衝撃性及び屈曲耐性の点から好ましく、更に、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(5−アミノペンチル)テトラメチルジシロキサン等が、入手容易性や光透過性と耐衝撃性の両立の観点から好ましい。
【0073】
耐衝撃性及び屈曲耐性の点から、主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミン残基の分子量は、1000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、500以下であることがより更に好ましく、300以下であることが特に好ましい。
主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミン残基は単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0074】
また、本開示のポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムが有する全てのポリイミド層のうちヤング率が最も大きいポリイミド層が、下記一般式(1)で表される構造を有するポリイミドを含有することが、光透過性と耐衝撃性及び屈曲耐性との点から好ましい。
【0075】
【化5】
(一般式(1)において、R
1は3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物残基、及びピロメリット酸二無水物残基からなる群から選択される少なくとも1種の4価の基、R
2は、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン残基、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン残基、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン残基、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ジフェニルエーテル残基、1,4−ビス[4−アミノ−2−(トリフルオロメチル)フェノキシ]ベンゼン残基、2,2−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン残基、4,4’−ジアミノ−2−(トリフルオロメチル)ジフェニルエーテル残基、及び9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の2価の基を表す。nは繰り返し単位数を表し、1以上である。)
【0076】
前記一般式(1)のR
1は、中でも、ピロメリット酸二無水物残基が、耐衝撃性を向上する点から好ましい。
前記一般式(1)のR
2は、中でも、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン残基、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基、及び、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基から選択される少なくとも1種の2価の基であることが、光透過性と、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から好ましく、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン残基であることがより好ましい。
【0077】
前記一般式(1)で表される構造において、nは繰り返し単位数を表し、1以上である。
ポリイミドにおける繰り返し単位数nは、所望のヤング率を示すように、構造に応じて適宜選択されれば良く、特に限定されないが、通常10以上2000以下であり、更に15以上1000以下であることが好ましい。
なお、各繰り返し単位におけるR
1は各々同一であっても異なっていても良く、各繰り返し単位におけるR
2は各々同一であっても異なっていても良い。
【0078】
前記ヤング率が最も大きいポリイミド層が含有する全てのポリイミドのうち、前記一般式(1)で表される構造を有するポリイミドの含有割合は、光透過性と耐衝撃性及び屈曲耐性との点から、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることがより更に好ましい。
なお、本開示に用いられるポリイミドは、前記一般式(1)で表される構造を有するポリイミドを1種又は2種以上含有することができる。
【0079】
また、本開示のポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムが有する全てのポリイミド層のうちヤング率が最も大きいポリイミド層が前記一般式(1)で表される構造を有するポリイミドを含有し、且つ、下記一般式(2)で表される構造を有するポリイミドを含有するポリイミド層を更に有することが、光透過性と耐衝撃性及び屈曲耐性との点から好ましい。すなわち、ヤング率が最も大きいポリイミド層とは異なるポリイミド層が、下記一般式(2)で表される構造を有するポリイミドを含有することが好ましい。
【0080】
【化6】
(一般式(2)において、R
3は芳香族環又は脂肪族環を有するテトラカルボン酸残基である4価の基、R
4は、ジアミン残基である2価の基を表し、R
4の総量の50モル%以下が、主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミン残基であり、残りのR
4が、ケイ素原子を有さず、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基であり、前記残りのR
4のうちの半分よりも多くが、1,4−シクロヘキサンジアミン残基、trans−1,4−ビスメチレンシクロヘキサンジアミン残基、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン残基、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン残基、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン残基、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン残基、及び下記一般式(3)で表される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種の2価の基を表す。n’は繰り返し単位数を表し、1以上である。)
【0081】
【化7】
(一般式(3)において、R
5及びR
6はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはパーフルオロアルキル基を表す。)
【0082】
前記一般式(2)のR
3は、上述したテトラカルボン酸成分の中から、芳香族環を有するテトラカルボン酸二無水物から酸二無水物構造を除いた残基、又は、脂肪族環を有するテトラカルボン酸二無水物から酸二無水物構造を除いた残基を適宜選択することができ、特に限定はされないが、中でも、光透過性と耐衝撃性の点から、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,3’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、4,4’−オキシジフタル酸無水物残基、及び、3,4’−オキシジフタル酸無水物残基からなる群から選ばれる少なくとも1種の4価の基であることがより好ましく、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基及び3,3’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基なる群から選ばれる少なくとも1種の4価の基であることがより更に好ましい。
【0083】
前記R
3としては、ピロメリット酸二無水物残基、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基、及び、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物残基からなる群から選択される少なくとも一種のような剛直性を向上するのに適したテトラカルボン酸残基群(グループA)と、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物残基、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物残基、ジシクロヘキサン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物残基、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物残基、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、3,3’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、4,4’−オキシジフタル酸無水物残基、及び、3,4’−オキシジフタル酸無水物残基からなる群から選択される少なくとも一種のような光透過性を向上するのに適したテトラカルボン酸残基群(グループB)とを混合して用いることも好ましい。この場合、前記剛直性を向上するのに適したテトラカルボン酸残基群(グループA)と、光透過性を向上するのに適したテトラカルボン酸残基群(グループB)との含有比率は、光透過性を向上するのに適したテトラカルボン酸残基群(グループB)1モルに対して、前記剛直性を向上するのに適したテトラカルボン酸残基群(グループA)が0.05モル以上9モル以下であることが好ましく、更に0.1モル以上5モル以下であることが好ましく、より更に0.3モル以上4モル以下であることが好ましい。
中でも、前記グループBとしては、フッ素原子を含む、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基、及び3,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物残基の少なくとも一種を用いることが、耐衝撃性と光透過性の向上の点から好ましい。
前記R
3が、前記グループAのテトラカルボン酸残基を含む場合は、前記一般式(2)のR
4が、主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミン残基を含むことが、屈曲耐性の点から好ましい。
前記R
3において、これらの好適な残基を合計で、50モル%以上含むことが好ましく、更に70モル%以上含むことが好ましく、より更に90モル%以上含むことが好ましい。
【0084】
前記一般式(2)のR
4において、主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミン残基の含有割合は、R
4の総量の50モル%以下であれば特に限定はされず、含有しなくてもよいが、層間密着性を向上し、干渉縞の発生を抑制する点、及び耐衝撃性を向上しやすい点から、主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミン残基を1モル%以上50モル%以下含有することが好ましく、2.5モル%以上40モル%以下含有することがより好ましい。
主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミン残基としては、例えば、上述した主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミンから2つのアミノ基を除いた残基を挙げることができる。中でも、ケイ素原子を2個有するジアミン残基であることが、光透過性の点、及び耐衝撃性及び屈曲耐性の点から好ましく、更に、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン残基、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン残基、1,3−ビス(5−アミノペンチル)テトラメチルジシロキサン残基等が、入手容易性や光透過性と耐衝撃性の両立の観点から好ましい。
【0085】
前記R
4は、R
4の総量のうち、前記主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミン残基を除いた残りのR
4が、ケイ素原子を有さず、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基であり、前記残りのR
4のうちの半分よりも多くが、1,4−シクロヘキサンジアミン残基、trans−1,4−ビスメチレンシクロヘキサンジアミン残基(trans−1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン残基)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン残基、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン残基、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン残基、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン残基、及び前記一般式(3)で表される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種の2価の基(以下「前記群から選ばれる少なくとも1種の2価の基」という場合がある)である。
すなわち、R
4の総量(100モル%)のうち、前記主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミン残基をxモル%(0≦x≦50)とすると、R
4の(100−x)モル%である50モル%以上100モル%以下が、ケイ素原子を有さず、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基であり、R
4の{(100−x)/2}モル%超過が、前記群から選ばれる少なくとも1種の2価の基である。中でも、前記残りのR
4のうちの前記群から選ばれる少なくとも1種の2価の基の割合、すなわち、前記ケイ素原子を有さず、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基の総量を100モル%としたときの前記群から選ばれる少なくとも1種の2価の基の割合は、表面硬度と耐衝撃性の点及び光透過性の点から、70モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがより更に好ましい。なお、R
4は、前記群から選ばれる少なくとも1種の2価の基とは異なる、ケイ素原子を有さず、芳香族環又は脂肪族環を有する他のジアミン残基を含有していても良い。
ここで、ケイ素原子を有さず芳香族環を有するジアミン残基は、ケイ素原子を有さず芳香族環を有するジアミンから2つのアミノ基を除いた残基とすることができ、ケイ素原子を有さず脂肪族環を有するジアミン残基は、ケイ素原子を有さず脂肪族環を有するジアミンから2つのアミノ基を除いた残基とすることができる。前記R
4が含んでいても良い、前記群から選ばれる少なくとも1種の2価の基とは異なる、ケイ素原子を有さず、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基に用いられるジアミンとしては、例えば、上述したジアミンの中から、ケイ素原子を有さず、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミンを適宜選択して用いることができ、特に限定はされない。
【0086】
前記群から選ばれる少なくとも1種の2価の基としては、中でも、耐衝撃性と光透過性の点から、trans−1,4−ビスメチレンシクロヘキサンジアミン残基、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン残基、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン残基、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン残基、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン残基、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン残基、及び前記一般式(3)で表される2価の基からなる群から選ばれる少なくとも1種の2価の基であることが好ましく、前記一般式(3)で表される2価の基であることがより好ましい。前記一般式(3)で表される2価の基としては、中でも、R
5及びR
6がパーフルオロアルキル基であることがより好ましく、中でも、炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基又はパーフルオロエチル基であることがより好ましい。また、前記一般式(3)中のR
5及びR
6におけるアルキル基としては、炭素数1以上3以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【0087】
また、本開示のポリイミドフィルムの耐衝撃性を向上し、光透過性を向上する点から、前記群から選ばれる少なくとも1種の2価の基は、R
4の総量のうち、50モル%以上であることが好ましく、特に、R
4の総量のうち前記主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミン残基を除いた残りのR
4全てが前記群から選ばれる少なくとも1種の2価の基であることが好ましい。
【0088】
前記R
4が、前記群から選ばれる少なくとも1種の2価の基とは異なる、ケイ素原子を有さず、芳香族環又は脂肪族環を有するジアミン残基を含有する場合、その含有割合は、特に限定はされないが、耐衝撃性及び光透過性の点から、R
4の総量(100モル%)のうち、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがより更に好ましい。
【0089】
前記一般式(2)で表される構造において、n’は繰り返し単位数を表し、1以上である。
ポリイミドにおける繰り返し単位数n’は、所望のヤング率を示すように、構造に応じて適宜選択されれば良く、特に限定されないが、通常10以上2000以下であり、更に15以上1000以下であることが好ましい。
なお、各繰り返し単位におけるR
3は各々同一であっても異なっていても良く、各繰り返し単位におけるR
4は各々同一でも異なっていても良い。
【0090】
前記一般式(2)で表される構造を有するポリイミドを含有するポリイミド層において、当該ポリイミドの含有割合は、光透過性と耐衝撃性及び屈曲耐性との点から、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることがより更に好ましい。
なお、本開示に用いられるポリイミドは、前記一般式(2)で表される構造を有するポリイミドを1種又は2種以上含有することができる。
【0091】
また、本開示のポリイミドフィルムは、前記一般式(2)で表される構造を有するポリイミドを含有するポリイミド層を有することが、光透過性及び屈曲耐性の点から好ましく、耐衝撃性の点からも好ましい。耐衝撃性をより向上する観点からは、本開示のポリイミドフィルムは、ヤング率が最も大きいポリイミド層が、前記一般式(1)で表される構造を有するポリイミドを含有し、前記一般式(2)で表される構造を有するポリイミドを含有しないことにより、耐衝撃性を更に向上することができるが、ヤング率が最も大きいポリイミド層が、前記一般式(2)で表される構造を有するポリイミドを含有するポリイミド層であってもよく、ポリイミドフィルムが有する全てのポリイミド層が、前記一般式(2)で表される構造を有するポリイミドを含有するポリイミド層であってもよい。
【0092】
ポリイミドフィルムが有する全てのポリイミド層のうち、ヤング率が最も大きいポリイミド層が前記一般式(1)で表される構造を有するポリイミドを含有し、且つ、前記一般式(2)で表される構造を有するポリイミドを含有するポリイミド層を更に有するポリイミドフィルムにおいては、ヤング率が最も大きいポリイミド層の合計厚みが、ポリイミドフィルムの全体厚みの5%以上60%以下であることが、屈曲耐性及び耐衝撃性の点から好ましい。
ポリイミドフィルムが有する全てのポリイミド層が、前記一般式(2)で表される構造を有するポリイミドを含有するポリイミド層であるポリイミドフィルムにおいては、ヤング率が最も大きいポリイミド層の合計厚みが、ポリイミドフィルムの全体厚みの5%以上30%以下であることが、屈曲耐性及び耐衝撃性の点から好ましく、5%以上20%以下であることがより好ましく、5%以上15%以下であることがより更に好ましい。
【0093】
また、ポリイミドフィルムが有する全てのポリイミド層のうち、ヤング率が最も大きいポリイミド層が前記一般式(1)で表される構造を有するポリイミドを含有し、且つ、前記一般式(2)で表される構造を有するポリイミドを含有するポリイミド層を更に有するポリイミドフィルムにおいては、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から、ヤング率が最も大きいポリイミド層のヤング率が、ヤング率が最も小さいポリイミド層のヤング率の1.5倍以上であることが好ましく、特に耐衝撃性の点から、1.7倍以上であることがより好ましく、1.8倍以上であることがより更に好ましい。
ポリイミドフィルムが有する全てのポリイミド層が、前記一般式(2)で表される構造を有するポリイミドを含有するポリイミド層であるポリイミドフィルムにおいては、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から、ヤング率が最も大きいポリイミド層のヤング率が、ヤング率が最も小さいポリイミド層のヤング率の1.2倍以上であることが好ましく、2.0倍以下であってもよく、1.8倍以下であってもよい。
【0094】
また、本開示に用いられるポリイミドは、本開示の効果が損なわれない限り、その一部にポリアミド構造を含んでいても良い。含んでいても良いポリアミド構造としては、例えば、トリメリット酸無水物のようなトリカルボン酸残基を含むポリアミドイミド構造や、テレフタル酸のようなジカルボン酸残基を含むポリアミド構造が挙げられる。
【0095】
本開示に用いられるポリイミドは、耐熱性の点から、ガラス転移温度が200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、更に、270℃以上であることが好ましい。一方、ベーク温度低減の点から、ガラス転移温度が400℃以下であることが好ましく、380℃以下であることがより好ましい。
本開示に用いられるポリイミドのガラス転移温度は、動的粘弾性測定によって得られる温度−tanδ(tanδ=損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’))曲線のピーク温度から求められるものである。ポリイミドのガラス転移温度は、tanδ曲線のピークが複数存在する場合、ピークの極大値が最大であるピークの温度をいう。動的粘弾性測定としては、例えば、動的粘弾性測定装置 RSA III(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株))によって、測定範囲を−150℃〜400℃として、周波数1Hz、昇温速度5℃/minにより行うことができる。また、サンプル幅を5mm、チャック間距離を20mmとして測定することができる。
本開示において、tanδ曲線のピークとは、極大値である変曲点を有し、且つ、ピークの谷と谷の間であるピーク幅が3℃以上であるものをいい、ノイズ等測定由来の細かい上下変動については、前記ピークと解釈しない。
【0096】
(2)添加剤
本開示に係るポリイミドフィルムが有する各ポリイミド層は、前記ポリイミドの他に、必要に応じて更に添加剤を含有していてもよい。前記添加剤としては、例えば、巻き取りを円滑にするためのシリカフィラーや、製膜性や脱泡性を向上させる界面活性剤等が挙げられる。
【0097】
また、本開示に係るポリイミドフィルムが有する各ポリイミド層は、本開示の効果を損なわない範囲において、ポリイミド以外のその他の樹脂を含有していても良い。前記その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ガラス−エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリノルボルネン等のポリシクロオレフィン等が挙げられる。
ポリイミド層がポリイミド以外のその他の樹脂を含有する場合、当該その他の樹脂の含有量は、ポリイミド層全量に対して、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることが特に好ましい。
【0098】
3.ポリイミドフィルムの特性
本開示のポリイミドフィルムにおけるヤング率、全光線透過率及び線熱膨張係数については、前述したのでここでの記載を省略する。
【0099】
本開示のポリイミドフィルムは、屈曲耐性に優れる点から、下記静的屈曲試験方法に従って、静的屈曲試験を行った場合に、試験片の内角が90°以上であることが好ましく、100°以上であることがより好ましく、110°以上であることがより更に好ましい。なお、一方の表面のポリイミド層のヤング率と、もう一方の表面のポリイミド層のヤング率が互いに異なる場合は、相対的にヤング率が大きいポリイミド層の表面が内側になるように屈曲させたときに、下記静的屈曲試験方法に従って静的屈曲試験を行った場合の試験片の内角が、前記下限値以上であることが好ましい。
[静的屈曲試験方法]
15mm×40mmに切り出したポリイミドフィルムの試験片を、長辺の半分の位置で折り曲げ、当該試験片の長辺の両端部が厚み6mmの金属片(100mm×30mm×6mm)を上下面から挟むようにして配置し、当該試験片の両端部と金属片との上下面での重なりしろが各々10mmずつになるようにテープで固定した状態で、上下からガラス板(100mm×100mm×0.7mm)で挟み、当該試験片を内径6mmで屈曲した状態で固定する。その際に、金属片とガラス板の間で当該試験片がない部分には、ダミーの試験片を挟み込み、ガラス板が平行になるようにテープで固定する。このようにして屈曲した状態で固定した当該試験片を、60℃、90%相対湿度(RH)の環境下で24時間静置した後、ガラス板と固定用のテープを外し、当該試験片にかかる力を解放する。その後、当該試験片の一方の端部を固定し、試験片にかかる力を解放してから30分後の試験片の内角を測定する。
【0100】
本開示のポリイミドフィルムは、15mm×40mmの試験片をJIS K7127に準拠し、引張り速度を10mm/分、チャック間距離を20mmとして測定する25℃における引張弾性率が0.5GPa以上であることが、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から好ましく、0.8GPa以上であることがより好ましく、1.0GPa以上であることがより更に好ましく、更に、1.5GPa以上であることが好ましく、2.0GPa以上であることが最も好ましい。前記引張弾性率の上限は、特に限定はされないが、屈曲耐性の点から、5.2GPa以下とすることができ、5.0GPa以下としてもよく、4.5GPa以下としてもよく、4.0GPa以下としてもよい。
前記引張弾性率は、引張り試験機(例えば島津製作所製:オートグラフAG−X 1N、ロードセル:SBL−1KN)を用い、幅15mm×長さ40mmの試験片をポリイミドフィルムから切り出して、25℃で、引張り速度10mm/min、チャック間距離は20mmとして測定することができる。
【0101】
本開示のポリイミドフィルムは、耐衝撃性の点から、鉛筆硬度は2B以上であることが好ましく、B以上であることがより好ましく、HB以上であることがより更に好ましく、H以上であることが特に好ましい。
前記ポリイミドフィルムの鉛筆硬度は、測定サンプルを温度25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、JIS−S−6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS K5600−5−4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(0.98N荷重)をフィルム表面に行い、傷がつかない最も高い鉛筆硬度を評価することにより行うことができる。例えば東洋精機(株)製 鉛筆引っかき塗膜硬さ試験機を用いることができる。
前記ポリイミドフィルムの鉛筆硬度は、相対的にヤング率が大きいポリイミド層の表面において達成できることが好ましい。
【0102】
本開示のポリイミドフィルムは、下記密着性試験方法に従って、密着性試験を行った場合に、表面のポリイミド層が剥離する面積が、全体の20%以下であることが、ポリイミド層間の密着性の点及び表面硬度の点から好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがより更に好ましい。
<密着性試験>
JIS K5400の碁盤目試験に準拠して、表面のポリイミド層にカッターナイフを用いて1mm間隔で碁盤目状に切れ込みを入れ、100マスの格子を形成する。次いで、当該格子上にセロハンテープ(ニチバン(株))を貼り付けた後剥離し、これを5回繰り返した後、表面のポリイミド層の剥離を観察する。
【0103】
また、本開示のポリイミドフィルムは、前記JIS K7373−2006に準拠して算出される黄色度(YI値)が、30.0以下であることが好ましく、20.0以下であることがより好ましく、17.0以下であることが更に好ましく、16.0以下であることがより更に好ましい。
前記JIS K7373−2006に準拠して算出される黄色度(YI値)は、中でも11.0以下であることが好ましく、10.0以下であることがより好ましく、5.0以下であることが更に好ましく、3.0以下であることがより更に好ましく、2.0以下であることが特に好ましい。
前記黄色度(YI値)が前記上限値以下であることにより、本開示のポリイミドフィルムは、黄色味の着色が抑制され、光透過性が向上し、ガラス代替材料となり得る。
なお、黄色度(YI値)は、前記JIS K7373−2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計(例えば、日本分光(株) V−7100)を用い、分光測色方法により、補助イルミナントC、2度視野を用いて、250nm以上800nm以下の範囲を1nm間隔で測定される透過率をもとに、XYZ表色系における三刺激値X,Y,Zを求め、そのX,Y,Zの値から以下の式より算出することができる。
YI=100(1.2769X−1.0592Z)/Y
【0104】
また、本開示のポリイミドフィルムは、黄色味の着色が抑制され、光透過性が向上し、ガラス代替材料として好適に用いることができる点から、前記JIS K7373−2006に準拠して算出される黄色度(YI値)を膜厚(μm)で割った値(YI値/膜厚(μm))が0.330以下であることが好ましく、0.150以下であることがより好ましく、0.100以下であることがより更に好ましく、0.030以下であることが特に好ましい。
なお、本開示において、前記黄色度(YI値)を膜厚(μm)で割った値(YI値/膜厚(μm))は、JIS Z8401:1999の規則Bに従い、小数点以下第3位に丸めた値とする。
【0105】
本開示のポリイミドフィルムのヘイズ値は、光透過性の点から、10以下であることが好ましく、5以下であることが更に好ましく、1.5以下であることがより更に好ましい。
前記ヘイズ値は、JIS K−7105に準拠した方法で測定することができ、例えば村上色彩技術研究所製のヘイズメーターHM150により測定することができる。
【0106】
また、本開示のポリイミドフィルムは、波長590nmにおける厚み方向の複屈折率が、0.040以下であることが好ましく、0.025以下であることがより好ましく、0.020以下であることがより更に好ましく、0.015以下であることが特に好ましい。複屈折率が前記上限値以下であると、ポリイミドフィルムの光学的歪みが低減し、ポリイミドフィルムをディスプレイ用表面材として用いた場合に、ディスプレイの表示品質の低下を抑制することができる。波長590nmにおける厚み方向の複屈折率が大きいフィルムをディスプレイ表面に設置して、偏光サングラスをかけてディスプレイを見た場合、虹ムラが発生し、視認性が低下する場合がある。偏光サングラスをかけてディスプレイを見た時の虹ムラの発生が抑制される点からは、ディスプレイ表面に設置するフィルムの前記厚み方向の複屈折率が0.040以下であることが好ましい。さらに、ディスプレイ表面に設置したフィルムの前記厚み方向の複屈折率が0.025以下であれば、ディスプレイを斜めから見たときの色再現性が向上する。ディスプレイを斜めから見たときの色再現性を向上する点からは、ディスプレイ表面に設置したフィルムの前記厚み方向の複屈折率は、0.020以下であることがより好ましい。
なお、本開示のポリイミドフィルムの前記波長590nmにおける厚み方向の複屈折率は、以下のように求めることができる。
まず、位相差測定装置(例えば、王子計測機器株式会社製、製品名「KOBRA−WR」)を用いて、23℃、波長590nmの光で、ポリイミドフィルムの厚み方向位相差値(Rth)を測定する。厚み方向位相差値(Rth)は、0度入射の位相差値と、斜め40度入射の位相差値を測定し、これらの位相差値から厚み方向位相差値Rthを算出する。前記斜め40度入射の位相差値は、位相差フィルムの法線から40度傾けた方向から、波長590nmの光を位相差フィルムに入射させて測定する。
ポリイミドフィルムの厚み方向の複屈折率は、式:Rth/dに代入して求めることができる。前記dは、ポリイミドフィルムの膜厚(nm)を表す。
なお、厚み方向位相差値は、フィルムの面内方向における遅相軸方向(フィルム面内方向における屈折率が最大となる方向)の屈折率をnx、フィルム面内における進相軸方向(フィルム面内方向における屈折率が最小となる方向)の屈折率をny、及びフィルムの厚み方向の屈折率をnzとしたときに、Rth[nm]={(nx+ny)/2−nz}×dと表すことができる。
【0107】
また、本開示のポリイミドフィルムの好ましい一形態としては、ポリイミドフィルムのX線光電子分光法により測定した、少なくとも一方のフィルム表面のフッ素原子数(F)と炭素原子数(C)の比率(F/C)が、0.01以上1以下であることが好ましく、更に0.05以上0.8以下であることが好ましい。
また、ポリイミドフィルムのX線光電子分光法により測定した、少なくとも一方のフィルム表面のフッ素原子数(F)と窒素原子数(N)の比率(F/N)が、0.1以上20以下であることが好ましく、更に0.5以上15以下であることが好ましい。
ここで、X線光電子分光法(XPS)の測定による上記比率は、X線光電子分光装置(例えば、Thermo Scientific社 Theta Probe)を用いて測定される各原子の原子%の値から求めることができる。
【0108】
4.ポリイミドフィルムの製造方法
本開示のポリイミドフィルムの製造方法は、上述した本開示のポリイミドフィルムを得ることができる製造方法であれば良く、特に限定はされないが、例えば、第1の製造方法として、
ポリイミド成形体を準備する工程と、
ポリイミド前駆体と、有機溶剤とを含むポリイミド前駆体樹脂組成物を調製する工程と、
前記ポリイミド成形体の少なくとも一方の面に、前記ポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布して、ポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程と、
加熱をすることにより、前記ポリイミド前駆体をイミド化する工程と、を含む製造方法が挙げられる。
前記第1の製造方法において、3層以上のポリイミド層を有するポリイミドフィルムを製造する方法としては、例えば、ポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布して、ポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程を、所望の層数になるまで行った後、前記イミド化する工程により、各ポリイミド前駆体樹脂塗膜が含有する各ポリイミド前駆体をイミド化する方法が挙げられる。なお、2層以上のポリイミド前駆体樹脂塗膜は、ポリイミド成形体の一方の面のみに形成しても良いし、一方の面ともう一方の面の両面に形成しても良い。
前記第1の製造方法により、3層のポリイミド層を有するポリイミドフィルムを製造する方法としては、例えば、
ポリイミド成形体を準備する工程と、
ポリイミド前駆体と、有機溶剤とを含む第1のポリイミド前駆体樹脂組成物、及びポリイミド前駆体と、有機溶剤とを含む第2のポリイミド前駆体樹脂組成物を調製する工程と、
前記ポリイミド成形体の一方の面に、前記第1のポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布して、第1のポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程と、
前記ポリイミド成形体のもう一方の面に、前記第2のポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布して、第2のポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程と、
加熱をすることにより、前記第1のポリイミド前駆体樹脂塗膜が含むポリイミド前駆体及び第2のポリイミド前駆体樹脂塗膜が含むポリイミド前駆体をイミド化する工程と、を含み、前記第1のポリイミド前駆体樹脂組成物と前記第2のポリイミド前駆体樹脂組成物とは同じ組成であっても良い、製造方法が挙げられる。
前記第1の製造方法においては、前記ポリイミド成形体、及び所望の層数となるように形成された各ポリイミド前駆体樹脂塗膜が、それぞれポリイミド層となる。
前記第1の製造方法は、ポリイミドフィルムの複屈折率を低減しやすい点から好ましい。前記第1の製造方法によれば、波長590nmにおける厚み方向の複屈折率が0.035以下、より好ましくは0.030以下、より好ましくは0.025以下、より好ましくは0.020以下であるポリイミドフィルムを好適に形成可能である。
【0109】
前記第1の製造方法において、前記ポリイミド成形体の一方の面に、2層以上のポリイミド層を形成する場合は、当該2層以上のポリイミド層の形成に用いられる各ポリイミド前駆体樹脂塗膜を全て形成した後に、前記イミド化する工程を行うことが、当該2層以上のポリイミド層において、互いに隣接するポリイミド層の境界に前記ミキシング領域を形成し得るため、層間密着性を向上し、干渉縞の発生を抑制する点から好ましい。
【0110】
以下、前記第1の製造方法における、ポリイミド成形体を準備する工程(以下、ポリイミド成形体準備工程という)、ポリイミド前駆体樹脂組成物を調製する工程(以下、ポリイミド前駆体樹脂組成物調製工程という)、ポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布してポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程(以下、ポリイミド前駆体樹脂塗膜形成工程という)、及びポリイミド前駆体樹脂組成物が含有するポリイミド前駆体をイミド化する工程(以下、イミド化工程という)について、詳細に説明する。
【0111】
(1)ポリイミド成形体準備工程
前記第1の製造方法に用いられるポリイミド成形体としては、例えば、以下の製造方法により作製されたフィルム状のポリイミド成形体を用いることができる。
フィルム状のポリイミド成形体の製造方法としては、例えば、製造方法Aとして、
ポリイミド前駆体と、有機溶剤とを含むポリイミド前駆体樹脂組成物を調製する工程と、
前記ポリイミド前駆体樹脂組成物を支持体に塗布して、ポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程と、
加熱をすることにより、前記ポリイミド前駆体をイミド化する工程と、を含む製造方法が挙げられる。
前記製造方法Aは、ポリイミドフィルムの複屈折率を低減しやすい点から好ましく、波長590nmにおける厚み方向の複屈折率が0.025以下、より好ましくは0.020以下であるポリイミドフィルムを好適に形成可能である。前記第1の製造方法において、ポリイミド成形体の製造方法として、前記製造方法Aを用いると、ポリイミドフィルムの複屈折率を低減する効果が高い点で更に好ましく、波長590nmにおける厚み方向の複屈折率が0.025以下、より好ましくは0.020以下であるポリイミドフィルムを好適に形成可能である。
前記製造方法Aにおいて、ポリイミド前駆体樹脂組成物としては、後述する「ポリイミド前駆体樹脂組成物調製工程」で得られるポリイミド前駆体樹脂組成物と同様のものを用いることができ、ポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する方法、及びイミド化する方法としては、それぞれ後述する「ポリイミド前駆体樹脂塗膜形成工程」及び「イミド化工程」と同様とすることができる。
前記製造方法Aにおいて、支持体としては、例えば、後述する第2の製造方法に用いられる支持体と同様のものが挙げられる。
また、前記製造方法Aは、更に前記ポリイミド前駆体樹脂塗膜、及び、前記ポリイミド前駆体樹脂塗膜をイミド化したイミド化後塗膜の少なくとも一方を延伸する延伸工程を有していてもよい。延伸工程は、後述する第2の製造方法の延伸工程と同様とすることができる。
【0112】
また、フィルム状のポリイミド成形体の別の製造方法としては、例えば、製造方法Bとして、
ポリイミドと、有機溶剤とを含むポリイミド樹脂組成物を調製する工程と、
前記ポリイミド樹脂組成物を支持体に塗布して、ポリイミド樹脂塗膜を形成する工程と、を含む製造方法が挙げられる。
前記製造方法Bは、使用するポリイミドが25℃で有機溶剤に5質量%以上溶解するような溶剤溶解性を有する場合に好適に用いることができる。
前記製造方法Bは、ポリイミドフィルムの黄色度(YI値)を低減しやすい点から好ましく、前記JIS K7373−2006に準拠して算出される黄色度(YI値)を膜厚(μm)で割った値(YI値/膜厚(μm))が0.330以下、より好ましくは0.200以下、より更に好ましくは0.150以下のポリイミドフィルムを好適に形成可能である。
前記製造方法Bにおいて、ポリイミド樹脂組成物としては、後述する第3の製造方法のポリイミド樹脂組成物と同様のものを用いることができ、ポリイミド樹脂塗膜を形成する方法としては、後述する第3の製造方法のポリイミド樹脂塗膜形成工程と同様とすることができる。
また、前記製造方法Bにおいて、支持体としては、例えば、後述する第2の製造方法に用いられる支持体と同様のものが挙げられる。
【0113】
(2)ポリイミド前駆体樹脂組成物調製工程
前記第1の製造方法において調製するポリイミド前駆体樹脂組成物は、ポリイミド前駆体と、有機溶剤とを含有し、必要に応じて添加剤等を含有していてもよい。
ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との重合によって得られるポリアミド酸である。前記第1の製造方法において、ポリイミド前駆体に用いられるテトラカルボン酸成分及びジアミン成分は特に限定はされず、例えば、上述したポリイミドのテトラカルボン酸残基となるテトラカルボン酸二無水物、及びジアミン残基となるジアミンをそれぞれ挙げることができる。
【0114】
ポリイミド前駆体の数平均分子量は、フィルムとした際の強度の点から、2000以上であることが好ましく、更に4000以上であることが好ましい。一方、数平均分子量が大きすぎると、高粘度となり作業性が低下の恐れがある点から、1000000以下であることが好ましく、更に500000以下であることが好ましい。
ポリイミド前駆体の数平均分子量は、NMR(例えば、BRUKER製、AVANCEIII)により求めることができる。例えば、ポリイミド前駆体溶液をガラス板に塗布して100℃で5分乾燥後、固形分10mgをジメチルスルホキシド−d6溶媒7.5mlに溶解し、NMR測定を行い、芳香族環に結合している水素原子のピーク強度比から数平均分子量を算出することができる。
【0115】
また、ポリイミド前駆体は、フィルムとした際の強度の点から、重量平均分子量が、2000以上であることが好ましく、4000以上であることがより好ましい。一方、重量平均分子量が大きすぎると、高粘度となり、ろ過などの作業性が低下の恐れがある点から、1000000以下であることが好ましく、更に500000以下であることが好ましい。
ポリイミド前駆体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定できる。具体的には、ポリイミド前駆体を0.5重量%の濃度のN−メチルピロリドン(NMP)溶液とし、展開溶媒は、含水量500ppm以下の10mmol%LiBr−NMP溶液を用い、東ソー製GPC装置(HLC−8120、使用カラム:SHODEX製GPC LF−804)を用い、サンプル打ち込み量50μL、溶媒流量0.5mL/分、40℃の条件で測定を行う。重量平均分子量は、サンプルと同濃度のポリスチレン標準サンプルを基準に求める。
【0116】
前記ポリイミド前駆体溶液は、上述のテトラカルボン酸二無水物と、上述のジアミンとを、溶剤中で反応させて得られる。ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の合成に用いる溶剤としては、上述のテトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解可能であれば特に制限はなく、例えば非プロトン性極性溶剤または水溶性アルコール系溶剤等を用い得る。本開示においては、中でも、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の窒素原子を含む有機溶剤;γ−ブチロラクトン等を用いることが好ましい。中でも、窒素原子を含む有機溶剤を用いることが好ましく、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンもしくはこれらの組み合わせを用いることがより好ましい。なお、有機溶剤とは、炭素原子を含む溶剤である。
【0117】
また、前記ポリイミド前駆体溶液を、2種以上のジアミンを組み合わせて調製する場合、2種以上のジアミンの混合溶液に酸二無水物を添加し、ポリアミド酸を合成してもよいし、2種以上のジアミン成分を適切なモル比で段階を踏んで反応液に添加し、ある程度、各原料が高分子鎖へ組み込まれるシーケンスをコントロールしてもよい。
主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミンを用いる場合は、たとえば、主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミンが溶解された反応液に、主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミンの0.5等量のモル比の酸二無水物を投入し反応させることで、酸二無水物の両端に主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミンが反応したアミド酸を合成し、そこへ、残りのジアミンを全部、又は一部投入し、酸二無水物を加えてポリアミド酸を重合しても良い。この方法で重合すると、主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するジアミンが1つの酸二無水物を介して、連結した形でポリアミド酸の中に導入される。このような方法でポリアミド酸を重合することは、主鎖にケイ素原子を1個又は2個有するアミド酸の位置関係がある程度特定され、耐衝撃性及び屈曲耐性の優れた膜を得易い点から好ましい。
【0118】
前記ポリイミド前駆体溶液(ポリアミド酸溶液)中のジアミンのモル数をX、テトラカルボン酸二無水物のモル数をYとしたとき、Y/Xを0.9以上1.1以下とすることが好ましく、0.95以上1.05以下とすることがより好ましく、0.97以上1.03以下とすることがさらに好ましく、0.99以上1.01以下とすることが特に好ましい。このような範囲とすることにより得られるポリアミド酸の分子量(重合度)を適度に調整することができる。
重合反応の手順は、公知の方法を適宜選択して用いることができ、特に限定されない。
また、合成反応により得られたポリイミド前駆体溶液をそのまま用い、そこに必要に応じて他の成分を混合しても良いし、ポリイミド前駆体溶液の溶剤を乾燥させ、別の溶剤に溶解して用いても良い。
【0119】
前記ポリイミド前駆体溶液の25℃での粘度は、均一な塗膜及びポリイミド層を形成する点から、500cps以上100000cps以下であることが好ましい。
ポリイミド前駆体溶液の粘度は、粘度計(例えば、TVE−22HT、東機産業株式会社)を用いて、25℃で、サンプル量0.8mlとして測定することができる。
【0120】
前記ポリイミド前駆体樹脂組成物は、必要に応じて添加剤を含有していてもよい。前記添加剤としては、例えば、巻き取りを円滑にするためのシリカフィラーや、製膜性や脱泡性を向上させる界面活性剤等が挙げられ、前述のポリイミド層において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0121】
前記ポリイミド前駆体樹脂組成物に用いられる有機溶剤は、前記ポリイミド前駆体が溶解可能であれば特に制限はない。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の窒素原子を含む有機溶剤;γ−ブチロラクトン等を用いることができるが、中でも、窒素原子を含む有機溶剤を用いることが好ましい。
【0122】
前記ポリイミド前駆体樹脂組成物中の前記ポリイミド前駆体の含有量は、均一な塗膜及びハンドリング可能な強度を有するポリイミド層を形成する点から、樹脂組成物の固形分中に50質量%以上であることが好ましく、更に60質量%以上であることが好ましく、上限は含有成分により適宜調整されればよい。
前記ポリイミド前駆体樹脂組成物中の有機溶剤は、均一な塗膜及びポリイミド層を形成する点から、樹脂組成物中に40質量%以上であることが好ましく、更に50質量%以上であることが好ましく、また99質量%以下であることが好ましい。
【0123】
また、前記ポリイミド前駆体樹脂組成物は、含有水分量が1000ppm以下であることが、ポリイミド前駆体樹脂組成物の保存安定性が良好になり、生産性を向上することができる点から好ましい。ポリイミド前駆体樹脂組成物中に水分を多く含むと、ポリイミド前駆体が分解しやすくなる恐れがある。
なお、ポリイミド前駆体樹脂組成物の含有水分量は、カールフィッシャー水分計(例えば、三菱化学株式会社製、微量水分測定装置CA−200型)を用いて求めることができる。
【0124】
(3)ポリイミド前駆体樹脂塗膜形成工程
前記ポリイミド成形体の少なくとも一方の面に、前記ポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布して、ポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程において、前記塗布手段は、目的とする膜厚で塗布可能な方法であれば特に制限はなく、例えばダイコータ、コンマコータ、ロールコータ、グラビアコータ、カーテンコータ、スプレーコータ、リップコータ等の公知のものを用いることができる。
塗布は、枚葉式の塗布装置により行ってもよく、ロールtoロール方式の塗布装置により行ってもよい。
【0125】
ポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布した後は、塗膜がタックフリーとなるまで、150℃以下の温度、好ましくは30℃以上120℃以下で前記ポリイミド前駆体樹脂組成物中の溶剤を乾燥する。溶剤の乾燥温度を150℃以下とすることにより、ポリアミド酸のイミド化を抑制することができる。
【0126】
乾燥時間は、ポリイミド前駆体樹脂塗膜の膜厚や、溶剤の種類、乾燥温度等に応じて適宜調整されれば良いが、通常1分〜60分、好ましくは2分〜30分とすることが好ましい。上限値を超える場合には、ポリイミドフィルムの作製効率の面から好ましくない。一方、下限値を下回る場合には、急激な溶剤の乾燥によって、得られるポリイミドフィルムの外観等に影響を与える恐れがある。
【0127】
溶剤の乾燥方法は、上記温度で溶剤の乾燥が可能であれば特に制限はなく、例えばオーブンや、乾燥炉、ホットプレート、赤外線加熱等を用いることが可能である。
光学特性の高度な管理が必要な場合、溶剤の乾燥時の雰囲気は、不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。不活性ガス雰囲気下としては、窒素雰囲気下であることが好ましく、酸素濃度が100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。大気下で熱処理を行うと、フィルムが酸化され、着色したり、性能が低下する可能性がある。
【0128】
(4)イミド化工程
前記第1の製造方法においては、加熱をすることにより、前記ポリイミド前駆体をイミド化する。
イミド化の温度は、ポリイミド前駆体の構造に合わせて適宜選択されれば良い。
通常、昇温開始温度を30℃以上とすることが好ましく、100℃以上とすることがより好ましい。一方、昇温終了温度は250℃以上とすることが好ましい。
【0129】
昇温速度は、得られるポリイミド層の膜厚によって適宜選択することが好ましく、ポリイミド層の膜厚が厚い場合には、昇温速度を遅くすることが好ましい。
ポリイミドフィルムの製造効率の点から、5℃/分以上とすることが好ましく、10℃/分以上とすることが更に好ましい。一方、昇温速度の上限は、通常50℃/分とされ、好ましくは40℃/分以下、さらに好ましくは30℃/分以下である。上記昇温速度とすることが、フィルムの外観不良や強度低下の抑制、イミド化反応に伴う白化をコントロールでき、光透過性が向上する点から好ましい。
【0130】
昇温は、連続的でも段階的でもよいが、連続的とすることが、フィルムの外観不良や強度低下の抑制、イミド化反応に伴う白化のコントロールの面から好ましい。また、上述の全温度範囲において、昇温速度を一定としてもよく、また途中で変化させてもよい。
【0131】
イミド化の昇温時の雰囲気は、不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。不活性ガス雰囲気下としては、窒素雰囲気下であることが好ましく、酸素濃度が100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。大気下で熱処理を行うと、フィルムが酸化され、着色したり、性能が低下する可能性がある。
ただし、ポリイミドに含まれる炭素原子に結合する水素原子の50%以上が、芳香族環に直接結合する水素原子である場合は、光学特性に対する酸素の影響が少なく、不活性ガス雰囲気を用いなくても光透過性の高いポリイミドが得られる。
【0132】
イミド化のための加熱方法は、上記温度で昇温が可能であれば特に制限はなく、例えばオーブンや、加熱炉、赤外線加熱、電磁誘導加熱等を用いることが可能である。
【0133】
最終的なポリイミドフィルムを得るには、イミド化を90%以上、さらには95%以上、さらには100%まで反応を進行させることが好ましい。
イミド化を90%以上、さらには100%まで反応を進行させるには、昇温終了温度で一定時間保持することが好ましく、当該保持時間は、通常1分〜180分、更に、5分〜150分とすることが好ましい。
なお、イミド化率の測定は、赤外測定(IR)によるスペクトルの分析等により行うことができる。
【0134】
本開示のポリイミドフィルムの第2の製造方法としては、例えば、
ポリイミド前駆体と、有機溶剤とを含む第1のポリイミド前駆体樹脂組成物、及びポリイミド前駆体と、有機溶剤とを含む第2のポリイミド前駆体樹脂組成物をそれぞれ調製する工程と、
前記第1のポリイミド前駆体樹脂組成物を支持体に塗布して、第1のポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程と、
前記第1のポリイミド前駆体樹脂塗膜上に、前記第2のポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布して、第2のポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程と、
加熱をすることにより、前記第1のポリイミド前駆体樹脂組成物が含有するポリイミド前駆体及び前記第2のポリイミド前駆体樹脂組成物が含有するポリイミド前駆体をイミド化する工程と、を含む製造方法が挙げられる。
前記第2の製造方法において、3層以上のポリイミド層を有するポリイミドフィルムを製造する方法としては、例えば、ポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布して、ポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程を、所望の層数になるまで行った後、前記イミド化する工程により、各ポリイミド前駆体樹脂塗膜が含有する各ポリイミド前駆体をイミド化する方法が挙げられる。
前記第2の製造方法により、3層のポリイミド層を有するポリイミドフィルムを製造する方法としては、例えば、
ポリイミド前駆体と、有機溶剤とを含む第1のポリイミド前駆体樹脂組成物、ポリイミド前駆体と、有機溶剤とを含む第2のポリイミド前駆体樹脂組成物、及びポリイミド前駆体と、有機溶剤とを含む第3のポリイミド前駆体樹脂組成物を調製する工程と、
前記第1のポリイミド前駆体樹脂組成物を支持体に塗布して、第1のポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程と、
前記第1のポリイミド前駆体樹脂塗膜上に、前記第2のポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布して、第2のポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程と、
前記第2のポリイミド前駆体樹脂塗膜上に、前記第3のポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布して、第3のポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程と、
加熱をすることにより、前記第1のポリイミド前駆体樹脂組成物が含有するポリイミド前駆体、前記第2のポリイミド前駆体樹脂組成物が含有するポリイミド前駆体及び前記第3のポリイミド前駆体樹脂組成物が含有するポリイミド前駆体をイミド化する工程と、を含み、前記第1のポリイミド前駆体樹脂組成物と前記第3のポリイミド前駆体樹脂組成物とは同じ組成であっても良い、製造方法が挙げられる。
前記第2の製造方法においては、所望の層数となるように形成された各ポリイミド前駆体樹脂塗膜が、それぞれポリイミド層となる。
前記第2の製造方法は、ポリイミドフィルムの複屈折率を低減しやすい点から好ましい。前記第2の製造方法によれば、波長590nmにおける厚み方向の複屈折率が0.025以下、より好ましくは0.020以下であるポリイミドフィルムを好適に形成可能である。
【0135】
前記第2の製造方法において、ポリイミド前駆体樹脂組成物を調製する工程、ポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布してポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成する工程、及びポリイミド前駆体樹脂組成物が含有するポリイミド前駆体をイミド化する工程は、前記第1の製造方法と同様とすることができる。
【0136】
前記第2の製造方法においては、各ポリイミド前駆体樹脂塗膜を全て形成した後に、前記イミド化する工程を行うことが、互いに隣接するポリイミド層の境界に前記ミキシング領域を形成し得るため、層間密着性を向上し、干渉縞の発生を抑制する点から好ましい。
【0137】
前記第2の製造方法において用いられる支持体としては、表面が平滑で耐熱性および耐溶剤性のある材料であれば特に制限はない。例えばガラス板などの無機材料、表面を鏡面処理した金属板等が挙げられる。また支持体の形状は塗布方式によって選択され、例えば板状であってもよく、またドラム状やベルト状、ロールに巻き取り可能なシート状等であってもよい。
【0138】
また、前記第2の製造方法は、全てのポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成した後であって、前記イミド化する工程の前のポリイミド前駆体樹脂塗膜の積層体、及び、前記イミド化する工程の後のイミド化後塗膜の積層体の少なくとも一方を延伸する工程(以下、延伸工程という)を更に有していても良い。
【0139】
当該製造方法において、延伸工程を有する場合、イミド化工程は、延伸工程前の前記ポリイミド前駆体樹脂塗膜中のポリイミド前駆体に対して行っても良いし、延伸工程後の前記ポリイミド前駆体樹脂塗膜中のポリイミド前駆体に対して行っても良いし、延伸工程前の前記ポリイミド前駆体樹脂塗膜中のポリイミド前駆体及び延伸工程後の膜中に存在するポリイミド前駆体の両方に対して行っても良い。
【0140】
前記第2の製造方法において、延伸工程を行う場合、前記イミド化する工程では、中でも、延伸工程前に、ポリイミド前駆体のイミド化率を50%以上とすることがより好ましい。延伸工程前にイミド化率を50%以上とすることにより、当該工程後に延伸を行い、その後さらに高い温度で一定時間加熱を行い、イミド化を行った場合であっても、フィルムの外観不良や白化が抑制される。中でもポリイミドフィルムの耐衝撃性が向上する点から、延伸工程前に、当該イミド化工程において、イミド化率を80%以上とすることが好ましく、90%以上、さらには100%まで反応を進行させることが好ましい。イミド化後に延伸することにより、剛直な高分子鎖が配向しやすいことから、表面硬度が向上して、耐衝撃性が向上すると推定される。
【0141】
前記第2の製造方法において延伸工程を有する場合は、中でも、イミド化後塗膜の積層体を延伸する工程を含むことが、ポリイミドフィルムの耐衝撃性が向上する点から好ましい。
【0142】
前記第2の製造方法が延伸工程を有する場合は、延伸を実施する前の初期の寸法を100%とした時に101%以上10000%以下延伸する工程を、80℃以上で加熱しながら行うことが好ましい。
延伸時の加熱温度は、ポリイミド乃至ポリイミド前駆体のガラス転移温度±50℃の範囲内であることが好ましく、ガラス転移温度±40℃の範囲内であることが好ましい。延伸温度が低すぎるとフィルムが変形せず充分に配向を誘起できない恐れがある。一方で、延伸温度が高すぎると延伸によって得られた配向が温度で緩和し、充分な配向が得られない恐れがある。
延伸工程は、イミド化工程と同時に行っても良い。イミド化率80%以上、更に90%以上、より更に95%以上、特に実質的に100%イミド化を行った後のイミド化後塗膜を延伸することが、ポリイミドフィルムの耐衝撃性を向上する点から好ましい。
【0143】
ポリイミドフィルムの延伸倍率は、好ましくは101%以上10000%以下であり、さらに好ましくは101%以上500%以下である。上記範囲で延伸を行うことにより、得られるポリイミドフィルムの耐衝撃性をより向上することができる。
【0144】
延伸時におけるポリイミドフィルムの固定方法は、特に制限はなく、延伸装置の種類等に合わせて選択される。また、延伸方法は特に制限はなく、例えばテンター等の搬送装置を有する延伸装置を用い、加熱炉を通しながら延伸することが可能である。ポリイミドフィルムは、一方向のみに延伸(縦延伸または横延伸)してもよく、また同時2軸延伸、もしくは逐次2軸延伸、斜め延伸等によって、二方向に延伸処理を行ってもよい。
【0145】
本開示のポリイミドフィルムの製造方法としては、更に、第3の製造方法として、
ポリイミド成形体を準備する工程と、
ポリイミドと、有機溶剤とを含むポリイミド樹脂組成物を調製する工程と、
前記ポリイミド成形体の少なくとも一方の面に、前記ポリイミド樹脂組成物を塗布して、ポリイミド樹脂塗膜を形成する工程と、を含む製造方法が挙げられる。
また、本開示のポリイミドフィルムの製造方法としては、第4の製造方法として、
ポリイミドと、有機溶剤とを含む第1のポリイミド樹脂組成物、及びポリイミドと、有機溶剤とを含む第2のポリイミド樹脂組成物をそれぞれ調製する工程と、
前記第1のポリイミド樹脂組成物を支持体に塗布して、第1のポリイミド樹脂塗膜を形成する工程と、
前記第1のポリイミド樹脂塗膜上に、前記第2のポリイミド樹脂組成物を塗布して、第2のポリイミド樹脂塗膜を形成する工程と、を含む製造方法が挙げられる。
前記第3の製造方法及び前記第4の製造方法において、3層以上のポリイミド層を有するポリイミドフィルムを製造する方法としては、例えば、ポリイミド樹脂塗膜を形成する工程を、所望の層数になるまで行う方法が挙げられる。
【0146】
前記第3の製造方法及び前記第4の製造方法は、使用するポリイミドが、25℃で有機溶剤に5質量%以上溶解するような溶剤溶解性を有する場合に、好適に用いることができる。
前記第3の製造方法及び前記第4の製造方法は、ポリイミドフィルムの黄色度(YI値)を低減しやすい点から好ましく、前記JIS K7373−2006に準拠して算出される黄色度(YI値)を膜厚(μm)で割った値(YI値/膜厚(μm))が0.330以下、より好ましくは0.200以下、より更に好ましくは0.150以下のポリイミドフィルムを好適に形成可能である。
【0147】
前記第3の製造方法において、ポリイミド成形体を準備する工程は、前記第1の製造方法のポリイミド成形体準備工程と同様とすることができる。中でも、前記第3の製造方法においては、ポリイミド成形体の製造方法として、前記製造方法Bを用いることが、ポリイミドフィルムの黄色度(YI値)を低減する効果が高い点で好ましく、前記JIS K7373−2006に準拠して算出される黄色度(YI値)を膜厚(μm)で割った値(YI値/膜厚(μm))が0.030以下、より好ましくは0.025以下のポリイミドフィルムを好適に形成可能である。前記第4の製造方法によっても、前記JIS K7373−2006に準拠して算出される黄色度(YI値)を膜厚(μm)で割った値(YI値/膜厚(μm))が0.030以下、より好ましくは0.025以下のポリイミドフィルムを好適に形成可能である。
前記第4の製造方法に用いられる支持体としては、前記第2の製造方法に用いられる支持体と同様のものが挙げられる。
以下、前記第3の製造方法及び前記第4の製造方法における、ポリイミド樹脂組成物を調製する工程(以下、ポリイミド樹脂組成物調製工程という)、及びポリイミド樹脂塗膜を形成する工程(以下、ポリイミド樹脂塗膜形成工程という)について、詳細に説明する。
【0148】
前記第3の製造方法及び前記第4の製造方法のポリイミド樹脂組成物調製工程において用いられるポリイミドは、前記ポリイミド層において説明したのと同様のポリイミドの中から、前述した溶剤溶解性を有するポリイミドを選択して用いることができる。イミド化する方法としては、ポリイミド前駆体の脱水閉環反応について、加熱脱水の代わりに、化学イミド化剤を用いて行う化学イミド化を用いることが好ましい。化学イミド化を行う場合は、脱水触媒としてピリジンやβ―ピコリン酸等のアミン、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのカルボジイミド、無水酢酸等の酸無水物等、公知の化合物を用いても良い。酸無水物としては無水酢酸に限らず、プロピオン酸無水物、n−酪酸無水物、安息香酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物等が挙げられるが特に限定されない。また、その際にピリジンやβ―ピコリン酸等の3級アミンを併用してもよい。ただし、これらアミン類は、フィルム中に残存すると光学特性、特に黄色度(YI値)を低下させるため、前駆体からポリイミドへと反応させた反応液をそのままキャストして製膜するのではなく、再沈殿などにより精製し、ポリイミド以外の成分をそれぞれ、ポリイミド全重量の100ppm以下まで除去してから製膜することが好ましい。
【0149】
前記第3の製造方法及び前記第4の製造方法のポリイミド樹脂組成物調製工程において、ポリイミド前駆体の化学イミド化を行う反応液に用いられる有機溶剤としては、例えば、前記第1の製造方法における前記ポリイミド前駆体樹脂組成物調製工程において説明したものと同様のものを用いることができる。ポリイミド樹脂組成物調製工程において、反応液から精製したポリイミドを再溶解させる際に用いられる有機溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−ノルマル−ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、オルト−ジクロルベンゼン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソペンチル、酢酸ノルマル−ブチル、酢酸ノルマル−プロピル、酢酸ノルマル−ペンチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、1.4−ジオキサン、テトラクロルエチレン、トルエン、メチルイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチル−ノルマル−ブチルケトン、ジクロロメタン、ジクロロエタン及びこれらの混合溶剤等が挙げられ、中でも、ジクロロメタン、酢酸ノルマル−ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びこれらの混合溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を好ましく用いることができる。
【0150】
前記ポリイミド樹脂組成物は、必要に応じて添加剤を含有していてもよい。前記添加剤としては、前記第1の製造方法における前記ポリイミド前駆体樹脂組成物調製工程において説明したものと同様のものを用いることができる。
また、前記第3の製造方法及び前記第4の製造方法において、前記ポリイミド樹脂組成物の含有水分量1000ppm以下とする方法としては、前記第1の製造方法における前記ポリイミド前駆体樹脂組成物調製工程において説明した方法と同様の方法を用いることができる。
【0151】
また、前記第3の製造方法及び前記第4の製造方法におけるポリイミド樹脂塗膜形成工程において、塗布方法は、前記第1の製造方法のポリイミド前駆体樹脂塗膜形成工程において説明したものと同様のものを用いることができる。
前記第3の製造方法及び前記第4の製造方法におけるポリイミド樹脂塗膜形成工程においては、前記ポリイミド樹脂組成物を塗布した後、必要に応じて溶剤を乾燥する。乾燥温度としては、常圧下では80℃以上150℃以下とすることが好ましい。減圧下では10℃以上100℃以下の範囲とすることが好ましい。前記第3の製造方法及び前記第4の製造方法においては、150℃以下で溶剤を乾燥した後、150℃超過300℃以下で更に乾燥しても良い。
【0152】
また、前記第4の製造方法は、全てのポリイミド樹脂塗膜を形成した後、ポリイミド樹脂塗膜の積層体を延伸する延伸工程を有していてもよい。当該延伸工程は、前記第2の製造方法における延伸工程と同様にすることができる。
【0153】
5.ポリイミドフィルムの用途
本開示のポリイミドフィルムの用途は特に限定されるものではなく、従来薄い板ガラス等ガラス製品が用いられていた基材や表面材等の部材として用いることができる。本開示のポリイミドフィルムは、耐衝撃性と屈曲耐性が向上したものであるため、中でも、曲面に対応できるディスプレイ用の基材や表面材等の部材として好適に用いることができる。
本開示のポリイミドフィルムは、具体的には例えば、薄くて曲げられるフレキシブルタイプの有機ELディスプレイや、スマートフォンや腕時計型端末などの携帯端末、自動車内部の表示装置、腕時計などに使用するフレキシブルパネル等に好適に用いることができる。また、本開示のポリイミドフィルムは、液晶表示装置、有機EL表示装置等の画像表示装置用部材や、タッチパネル用部材、フレキシブルプリント基板、表面保護膜や基板材料等の太陽電池パネル用部材、光導波路用部材、その他半導体関連部材等に適用することもできる。
【0154】
II.積層体
本開示の積層体は、前述した本開示のポリイミドフィルムと、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物を含有するハードコート層とを有する積層体である。
【0155】
本開示の積層体は、前述した本開示のポリイミドフィルムを用いたものであるため、耐衝撃性と屈曲耐性が向上したものであり、更にハードコート層を有するため、表面硬度が向上し、更に耐衝撃性がより向上したものである。
【0156】
1.ポリイミドフィルム
本開示の積層体に用いられるポリイミドフィルムとしては、前述した本開示のポリイミドフィルムを用いることができるので、ここでの説明を省略する。
【0157】
2.ハードコート層
本開示の積層体に用いられるハードコート層は、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物を含有する。
【0158】
(1)ラジカル重合性化合物
ラジカル重合性化合物とは、ラジカル重合性基を有する化合物である。前記ラジカル重合性化合物が有するラジカル重合性基としては、ラジカル重合反応を生じ得る官能基であればよく、特に限定されないが、例えば、炭素−炭素不飽和二重結合を含む基などが挙げられ、具体的には、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などが挙げられる。なお、前記ラジカル重合性化合物が2個以上のラジカル重合性基を有する場合、これらのラジカル重合性基はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0159】
前記ラジカル重合性化合物が1分子中に有するラジカル重合性基の数は、ハードコート層の硬度を向上する点から、2つ以上であることが好ましく、更に3つ以上であることが好ましい。
前記ラジカル重合性化合物としては、反応性の高さの点から、中でも(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく、更に、密着性の点、並びに光透過性と表面硬度及び耐衝撃性の点から、(メタ)アクリロイル基を1分子中に2つ以上有する化合物が好ましい。例えば、1分子中に2〜6個の(メタ)アクリロイル基を有する多官能アクリレートモノマーと称される化合物やウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートと称される分子内に数個の(メタ)アクリロイル基を有する分子量が数百から数千のオリゴマーを好ましく使用できる。
なお、本明細書において、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル及びメタクリロイルの各々を表し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの各々を表す。
【0160】
前記ラジカル重合性化合物としては、具体的には、例えば、ジビニルベンゼンなどのビニル化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエポキシジ(メタ)アクリレート、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(例えば、エトキシ化(エチレンオキサイド変性)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートなど)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールポリアクリレート類、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのジアクリレート、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのジアクリレート等のエポキシアクリレート類、ポリイソシナネートとヒドロキシエチルアクリレート等の水酸基含有アクリレートの反応によって得られるウレタンアクリレート等を挙げることができる。
【0161】
(2)カチオン重合性化合物
カチオン重合性化合物とは、カチオン重合性基を有する化合物である。前記カチオン重合性化合物が有するカチオン重合性基としては、カチオン重合反応を生じ得る官能基であればよく、特に限定されないが、例えば、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基などが挙げられる。なお、前記カチオン重合性化合物が2個以上のカチオン重合性基を有する場合、これらのカチオン重合性基はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0162】
前記カチオン重合性化合物が1分子中に有するカチオン重合性基の数は、ハードコート層の硬度を向上する点から、2つ以上であることが好ましく、更に3つ以上であることが好ましい。
また、前記カチオン重合性化合物としては、中でも、カチオン重合性基としてエポキシ基及びオキセタニル基の少なくとも1種を有する化合物が好ましく、密着性の点、並びに光透過性と表面硬度及び耐衝撃性の点から、エポキシ基及びオキセタニル基の少なくとも1種を1分子中に2つ以上有する化合物がより好ましい。エポキシ基、オキセタニル基等の環状エーテル基は、重合反応に伴う収縮が小さいという点から好ましい。また、環状エーテル基のうちエポキシ基を有する化合物は多様な構造の化合物が入手し易く、得られたハードコート層の耐久性に悪影響を与えず、ラジカル重合性化合物との相溶性もコントロールし易いという利点がある。また、環状エーテル基のうちオキセタニル基は、エポキシ基と比較して重合度が高い、低毒性であり、得られたハードコート層をエポキシ基を有する化合物と組み合わせた際に塗膜中でのカチオン重合性化合物から得られるネットワーク形成速度を早め、ラジカル重合性化合物と混在する領域でも未反応のモノマーを膜中に残さずに独立したネットワークを形成する等の利点がある。
【0163】
エポキシ基を有するカチオン重合性化合物としては、例えば、脂環族環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル又は、シクロヘキセン環、シクロペンテン環含有化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化する事によって得られる脂環族エポキシ樹脂;脂肪族多価アルコール、又はそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステル、グリシジル(メタ)アクリレートのホモポリマー、コポリマーなどの脂肪族エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールFや水添ビスフェノールA等のビスフェノール類、又はそれらのアルキレンオキサイド付加体、カプロラクトン付加体等の誘導体と、エピクロルヒドリンとの反応によって製造されるグリシジルエーテル、及びノボラックエポキシ樹脂等でありビスフェノール類から誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0164】
上記脂環族エポキシ樹脂としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(UVR−6105、UVR−6107、UVR−6110)、ビス−3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアディペート(UVR−6128)(以上、カッコ内は商品名で、ダウ・ケミカル製である。)が挙げられる。
【0165】
また、上記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、ソルビトールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−611、デナコールEX−612、デナコールEX−614、デナコールEX−614B、デナコールEX−622)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−512、デナコールEX−521)、ペンタエリスリトルポリグリシジルエーテル(デナコールEX−411)、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−421)、グリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−313、デナコールEX−314)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(デナコールEX−321)、レソルチノールジグリシジルエーテル(デナコールEX−201)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−211)、1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(デナコールEX―212)、ヒドロジビスフェノールAジグリシジルエーテル(デナコールEX−252)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−810、デナコールEX−811)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX―850、デナコールEX―851、デナコールEX―821)、プロピレングリコールグリシジルエーテル(デナコールEX―911)、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル(デナコールEX―941、デナコールEX−920)、アリルグリシジルエーテル(デナコールEX−111)、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル(デナコールEX−121)、フェニルグリシジルエーテル(デナコールEX−141)、フェノールグリシジルエーテル(デナコールEX−145)、ブチルフェニルグリシジルエーテル(デナコールEX−146)、ジグリシジルフタレート(デナコールEX−721)、ヒドロキノンジグリシジルエーテル(デナコールEX−203)、ジグリシジルテレフタレート(デナコールEX−711)、グリシジルフタルイミド(デナコールEX−731)、ジブロモフェニルグリシジルエーテル(デナコールEX−147)、ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−221) (以上、カッコ内は商品名で、ナガセケムテックス製である。)が挙げられる。
【0166】
また、その他の市販品のエポキシ樹脂としては、商品名エピコート825、エピコート827、エピコート828、エピコート828EL、エピコート828XA、エピコート834、エピコート801、エピコート801P、エピコート802、エピコート815、エピコート815XA、エピコート816A、エピコート819、エピコート834X90、エピコート1001B80、エピコート1001X70、エピコート1001X75、エピコート1001T75、エピコート806、エピコート806P、エピコート807、エピコート152、エピコート154、エピコート871、エピコート191P、エピコートYX310、エピコートDX255、エピコートYX8000、エピコートYX8034等(以上商品名、ジャパンエポキシレジン製)が挙げられる。
【0167】
オキセタニル基を有するカチオン重合性化合物としては、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(OXT−101)、1,4−ビス−3−エチルオキセタン−3−イルメトキシメチルベンゼン(OXT−121)、ビス−1−エチル−3−オキセタニルメチルエーテル(OXT−221)、3−エチル−3−2−エチルへキシロキシメチルオキセタン(OXT−212)、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン(OXT−211)(以上、カッコ内は商品名で東亜合成製である。)や、商品名エタナコールEHO、エタナコールOXBP、エタナコールOXTP、エタナコールOXMA(以上商品名、宇部興産製)が挙げられる。
【0168】
(3)重合開始剤
本開示に用いられるハードコート層が含有する前記ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物は、例えば、前記ラジカル重合性化合物及び前記カチオン重合性化合物の少なくとも1種に、必要に応じて重合開始剤を添加して、公知の方法で重合反応させることにより得ることができる。
【0169】
前記重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、ラジカル及びカチオン重合開始剤等を適宜選択して用いることができる。これらの重合開始剤は、光照射及び加熱の少なくとも一種により分解されて、ラジカルもしくはカチオンを発生してラジカル重合とカチオン重合を進行させるものである。
【0170】
ラジカル重合開始剤は、光照射及び加熱の少なくともいずれかによりラジカル重合を開始させる物質を放出することが可能であれば良い。例えば、光ラジカル重合開始剤としては、イミダゾール誘導体、ビスイミダゾール誘導体、N−アリールグリシン誘導体、有機アジド化合物、チタノセン類、アルミナート錯体、有機過酸化物、N−アルコキシピリジニウム塩、チオキサントン誘導体等が挙げられ、更に具体的には、1,3−ジ(tert−ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラキス(tert−ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3−フェニル−5−イソオキサゾロン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ビス(2,4,5−トリフェニル)イミダゾール、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(商品名イルガキュア651、チバ・ジャパン(株)製)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(商品名イルガキュア184、チバ・ジャパン(株)製)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン(商品名イルガキュア369、チバ・ジャパン(株)製)、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)(商品名イルガキュア784、チバ・ジャパン(株)製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0171】
上記以外にも、市販品が使用でき、具体的には、チバ・ジャパン(株)製のイルガキュア907、イルガキュア379、イルガキュア819、イルガキュア127、イルガキュア500、イルガキュア754、イルガキュア250、イルガキュア1800、イルガキュア1870、イルガキュアOXE01、DAROCUR TPO、DAROCUR1173、日本シイベルヘグナー(株)製のSpeedcureMBB、SpeedcurePBZ、SpeedcureITX、SpeedcureCTX、SpeedcureEDB、Esacure ONE、Esacure KIP150、Esacure KTO46、日本化薬(株)製のKAYACURE DETX−S、KAYACURE CTX、KAYACURE BMS、KAYACURE DMBI等が挙げられる。
【0172】
また、カチオン重合開始剤は、光照射及び加熱の少なくともいずれかによりカチオン重合を開始させる物質を放出することが可能であれば良い。カチオン重合開始剤としては、スルホン酸エステル、イミドスルホネート、ジアルキル−4−ヒドロキシスルホニウム塩、アリールスルホン酸−p−ニトロベンジルエステル、シラノール−アルミニウム錯体、(η
6−ベンゼン)(η
5−シクロペンタジエニル)鉄(II)等が例示され、さらに具体的には、ベンゾイントシレート、2,5−ジニトロベンジルトシレート、N−トシフタル酸イミド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0173】
ラジカル重合開始剤としても、カチオン重合開始剤としても用いられるものとしては、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ホスホニウム塩、トリアジン化合物、鉄アレーン錯体等が例示され、更に具体的には、ジフェニルヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム等のヨードニウムのクロリド、ブロミド、ホウフッ化塩、ヘキサフルオロホスフェート塩、ヘキサフルオロアンチモネート塩等のヨードニウム塩、トリフェニルスルホニウム、4−tert−ブチルトリフェニルスルホニウム、トリス(4−メチルフェニル)スルホニウム等のスルホニウムのクロリド、ブロミド、ホウフッ化塩、ヘキサフルオロホスフェート塩、ヘキサフルオロアンチモネート塩等のスルホニウム塩、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン等の2,4,6−置換−1,3,5トリアジン化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0174】
(4)添加剤
本開示に用いられるハードコート層は、前記重合物の他に、必要に応じて、帯電防止剤、防眩剤、防汚剤、硬度を向上させるための無機又は有機微粒子、レべリング剤、各種増感剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0175】
3.積層体の構成
本開示の積層体は、前記ポリイミドフィルムと、前記ハードコート層とを有するものであれば特に限定はされず、前記ポリイミドフィルムの一方の面側に前記ハードコート層が積層されたものであってもよいし、前記ポリイミドフィルムの両面に前記ハードコート層が積層されたものであってもよい。また、本開示の積層体は、本開示の効果を損なわない範囲で、前記ポリイミドフィルム及び前記ハードコート層の他に、例えば、前記ポリイミドフィルムと前記ハードコート層との密着性を向上させるためのプライマー層等の他の層を有するものであってもよい。また、本開示の積層体は、前記ポリイミドフィルムと、前記ハードコート層とが隣接して位置するものであってもよい。
本開示の積層体に用いられるポリイミドフィルムの最表面に位置する2つのポリイミド層のヤング率が互いに異なり、当該ポリイミドフィルムの一方の面に前記ハードコート層が積層された積層体である場合、当該2つのポリイミド層のうち、相対的にヤング率の大きいポリイミド層側にハードコート層が位置することが、耐衝撃性が向上する点から好ましい。
【0176】
本開示の積層体の全体厚さは、用途により適宜選択されれば良いが、強度及び耐衝撃性の点から、10μm以上であることが好ましく、更に40μm以上であることが好ましい。一方、屈曲耐性の点から、300μm以下であることが好ましく、更に250μm以下であることが好ましい。
また、本開示の積層体において、各ハードコート層の厚さは、2μm以上80μm以下であることが好ましく、3μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0177】
4.積層体の特性
本開示の積層体は、鉛筆硬度がHB以上であることが好ましく、F以上であることがより好ましく、H以上であることがより更に好ましく、2H以上であることが特に好ましい。
本開示の積層体の鉛筆硬度は、前記ポリイミドフィルムの鉛筆硬度の測定方法において、荷重を9.8Nとする以外は同様にして測定することができる。
【0178】
本開示の積層体は、JIS K7361−1に準拠して測定する全光線透過率が、85%以上であることが好ましく、更に88%以上であることが好ましく、より更に90%以上であることが好ましい。このように透過率が高いことから、透明性が良好になり、ガラス代替材料となり得る。
本開示の積層体の前記全光線透過率は、前記ポリイミドフィルムのJIS K7361−1に準拠して測定する全光線透過率と同様にして測定することができる。
【0179】
本開示の積層体は、前記JIS K7373−2006に準拠して算出される黄色度(YI値)が、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、16以下であることが更に好ましい。
本開示の積層体の前記黄色度(YI値)は、前記ポリイミドフィルムの前記JIS K7373−2006に準拠して算出される黄色度(YI値)と同様にして測定することができる。
【0180】
本開示の積層体のヘイズ値は、光透過性の点から、10以下であることが好ましく、8以下であることが更に好ましく、5以下であることがより更に好ましい。
本開示の積層体のヘイズ値は、前記ポリイミドフィルムのヘイズ値と同様にして測定することができる。
【0181】
本開示の積層体の波長590nmにおける厚み方向の複屈折率は、0.040以下であることが好ましく、0.025以下であることがより好ましく、0.020以下であることがより更に好ましく、0.015以下であることが特に好ましい。
本開示の積層体の前記複屈折率は、前記ポリイミドフィルムの波長590nmにおける厚み方向の複屈折率と同様にして測定することができる。
【0182】
5.積層体の用途
本開示の積層体の用途は特に限定されるものではなく、例えば、前述した本開示のポリイミドフィルムの用途と同様の用途に用いることができる。
【0183】
6.積層体の製造方法
本開示の積層体の製造方法としては、例えば、
前記本開示のポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種を含有するハードコート層形成用組成物の塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を硬化する工程と、を含む製造方法が挙げられる。
【0184】
前記ハードコート層形成用組成物は、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種を含有し、必要に応じて更に重合開始剤、溶剤及び添加剤等を含有していてもよい。
ここで、前記ハードコート層形成用組成物が含有するラジカル重合性化合物、カチオン重合性化合物、重合開始剤及び添加剤については、前記ハードコート層において説明したものと同様のものを用いることができ、溶剤は、公知の溶剤から適宜選択して用いることができる。
【0185】
ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に、前記ハードコート層形成用組成物の塗膜を形成する方法としては、例えば、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に、前記ハードコート層形成用組成物を、公知の塗布手段により塗布する方法が挙げられる。
前記塗布手段は、目的とする膜厚で塗布可能な方法であれば特に制限はなく、例えば、前記ポリイミド前駆体樹脂組成物を支持体に塗布する手段と同様のものが挙げられる。
また、ハードコート層用硬化性樹脂組成物の塗工量としては、得られる積層体が要求される性能により異なるものであるが、乾燥後の膜厚が3μm以上25μm以下になるように適宜調節することが好ましく、塗工量が3g/m
2以上30g/m
2以下の範囲内、特に5g/m
2以上25g/m
2以下の範囲内であることが好ましい。
【0186】
前記ハードコート層用硬化性樹脂組成物の塗膜は必要に応じて乾燥することにより溶剤を除去する。乾燥方法としては、例えば、減圧乾燥又は加熱乾燥、更にはこれらを組み合わせる方法等が挙げられる。また、常圧で乾燥する場合は、30℃以上110℃以下で乾燥することが好ましい。
【0187】
前記ハードコート層用硬化性樹脂組成物を塗布、必要に応じて乾燥させた塗膜に対し、当該硬化性樹脂組成物に含まれるラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の重合性基に応じて、光照射及び加熱の少なくともいずれかにより塗膜を硬化させることにより、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物の少なくとも1種の重合物を含有するハードコート層を形成することができる。
【0188】
光照射には、主に、紫外線、可視光、電子線、電離放射線等が使用される。紫外線硬化の場合には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等を使用する。エネルギー線源の照射量は、紫外線波長365nmでの積算露光量として、50〜5000mJ/cm
2程度である。
加熱をする場合は、通常40℃以上120℃以下の温度にて処理する。また、室温(25℃)で24時間以上放置することにより反応を行っても良い。
【0189】
III.ディスプレイ用表面材
本開示のディスプレイ用表面材は、前述した本開示のポリイミドフィルム又は前述した本開示の積層体である。
【0190】
本開示のディスプレイ用表面材は、各種ディスプレイの表面に位置するように配置して用いられる。本開示のディスプレイ用表面材は、前述した本開示のポリイミドフィルム及び本開示の積層体と同様に、耐衝撃性と屈曲耐性が向上したものであるため、フレキシブルディスプレイ用として特に好適に用いることができる。
【0191】
本開示のディスプレイ用表面材は、公知の各種ディスプレイに用いることができ、特に限定はされないが、例えば、前記本開示のポリイミドフィルムの用途で説明したディスプレイ等に用いることができる。
【0192】
なお、本開示のディスプレイ用表面材が前記本開示の積層体である場合、ディスプレイの表面に配置した後の最表面となる面は、ポリイミドフィルム側の表面であってもよいし、ハードコート層側の表面であってもよい。中でも、ハードコート層側の表面が、より表側の面となるように本開示のディスプレイ用表面材を配置することが、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から好ましい。本開示のディスプレイ用表面材が前記本開示のポリイミドフィルムであり、当該ポリイミドフィルムの最表面に位置する2つのポリイミド層のヤング率が互いに異なる場合は、相対的にヤング率の大きいポリイミド層側の表面が、より表側の面となるように本開示のディスプレイ用表面材を配置することが、耐衝撃性及び屈曲耐性の点から好ましい。また、本開示のディスプレイ用表面材は、最表面に指紋付着防止層を有するものであっても良い。
【0193】
また、本開示のディスプレイ用表面材をディスプレイの表面に配置する方法としては、特に限定はされないが、例えば、接着層を介する方法等が挙げられる。前記接着層としては、ディスプレイ用表面材の接着に用いることができる従来公知の接着層を用いることができる。
【実施例】
【0194】
[評価方法]
以下、特に断りがない場合は、25℃で測定又は評価を行った。
<ポリイミド前駆体の重量平均分子量>
ポリイミド前駆体の重量平均分子量は、ポリイミド前駆体を0.5重量%の濃度のN−メチルピロリドン(NMP)溶液とし、その溶液をシリンジフィルター(孔径:0.45μm)に通じて濾過させ、展開溶媒として、含水量500ppm以下の10mmol%LiBr−NMP溶液を用い、GPC装置(東ソー製、HLC−8120、使用カラム:SHODEX製GPC LF−804)を用い、サンプル打ち込み量50μL、溶媒流量0.5mL/分、40℃の条件で測定を行った。ポリイミド前駆体の重量平均分子量は、サンプルと同濃度のポリスチレン標準サンプル(重量平均分子量:364,700、204,000、103,500、44,360,27,500、13,030、6,300、3,070)を基準に測定した標準ポリスチレンに対する換算値とした。溶出時間を検量線と比較し、重量平均分子量を求めた。
<ポリイミド前駆体溶液の粘度>
ポリイミド前駆体溶液の粘度は、粘度計(例えば、TVE−22HT、東機産業株式会社)を用いて、25℃で、サンプル量0.8mlとして測定した。
【0195】
<ポリイミドの重量平均分子量>
ポリイミド粉体15mgを、15000mgのN−メチルピロリドン(NMP)に浸漬し、ウォーターバスで60℃に加熱しながら、スターラーを用いて回転速度200rpmで、目視で溶解を確認するまで3〜60時間撹拌することにより、0.1重量%の濃度のNMP溶液を得た。その溶液をシリンジフィルター(孔径:0.45μm)に通じて濾過させ、展開溶媒として、含水量500ppm以下の30mmol%LiBr−NMP溶液を用い、GPC装置(東ソー製、HLC−8120、検出器:示差屈折率(RID)検出器、使用カラム:SHODEX製GPC LF−804を2本直列に接続)を用い、サンプル打ち込み量50μL、溶媒流量0.4mL/分、カラム温度37℃、検出器温度37℃の条件で測定を行った。ポリイミドの重量平均分子量は、サンプルと同濃度のポリスチレン標準サンプル(重量平均分子量:364,700、204,000、103,500、44,360,27,500、13,030、6,300、3,070)を基準に測定した標準ポリスチレンに対する換算値とした。溶出時間を検量線と比較し、重量平均分子量を求めた。
<ポリイミド溶液の粘度>
ポリイミド溶液の粘度は、粘度計(例えば、TVE−22HT、東機産業株式会社)を用いて、25℃で、サンプル量0.8mlとして測定した。
【0196】
<膜厚>
各実施例のポリイミドフィルムが有する各ポリイミド層の膜厚、及び各比較例の単層ポリイミドフィルムの膜厚は、10cm×10cmの大きさに切りだしたポリイミドフィルムを厚み方向に切断した試験片の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、ポリイミドフィルムの幅方向の両端から等間隔に位置する5点について、各ポリイミド層の膜厚を測定し、その平均値とした。
実施例7〜
10及び参考例11、12のポリイミドフィルムは、互いに隣接するポリイミド層の境界に、各ポリイミド層の材料が混合したミキシング領域を有していたため、ポリイミドフィルムを厚み方向に切断した試験片の断面について、飛行時間型二次イオン質量分析(ION−TOF社製、型番TOF.SIMS5)を用いて、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)による元素マッピングを行い、ケイ素原子の検出量がミキシング領域でない2つの領域のケイ素原子の検出量の平均値となる部分を、ポリイミド層間の境界として、各ポリイミド層の膜厚を測定した。なお、前記ミキシング領域でない2つの領域のケイ素原子の検出量の平均値となる部分が厚みを有する領域の場合には、当該領域の厚み方向の中央部をポリイミド層間の境界として、各ポリイミド層の膜厚を測定した。
【0197】
<ヤング率>
ポリイミドフィルムを厚み方向に切断した試験片の断面を用いて、温度25℃で、ISO14577に準拠し、ナノインデンテーション法を用いて測定した。具体的には、測定装置は(株)フィッシャー・インストルメンツ製、PICODENTOR HM500を用い、測定圧子としてビッカース圧子を用いた。試験片断面の各層について、任意の点を8ヶ所測定して数平均して求めた値を各層のヤング率とした。なお、測定条件は、最大押込み深さ:1000nm、加重時間:20秒、クリープ時間:5秒とした。
【0198】
<線熱膨張係数(CTE)>
単層のポリイミドフィルムを5mm×15mmに切り出した試験片に対して、熱機械分析装置(TMA)により、下記条件で試験片の伸び量を測定し、50℃から250℃の範囲での線熱膨張係数(CTE)を算出した。
<CTE測定条件>
機種名:TMA−60、(株)島津製作所製
雰囲気ガス:窒素
ガス流量:50ml/min
初期荷重:9g
[温度プログラム]
窒素雰囲気下、30℃で10分間維持した後、加熱速度10℃/minで400℃まで昇温し、400℃のまま1分間維持した。
【0199】
<引張弾性率>
ポリイミドフィルムを15mm×40mmに切り出した試験片を、温度25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、JIS K7127に準拠し、引張り速度を8mm/分、チャック間距離を20mmとして、25℃における引張弾性率を測定した。引張り試験機は(島津製作所製:オートグラフAG−X 1N、ロードセル:SBL−1KN)を用いた。
【0200】
<全光線透過率>
JIS K7361−1に準拠して、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製 HM150)により測定した。
【0201】
<ヘイズ値>
JIS K−7105に準拠して、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製 HM150)により測定した。
【0202】
<YI値(黄色度)>
YI値は、JIS K7373−2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株) V−7100)を用い、分光測色方法により、補助イルミナントC、2度視野を用いて、250nm以上800nm以下の範囲を1nm間隔で測定した透過率をもとに、XYZ表色系における三刺激値X,Y,Zを求め、そのX,Y,Zの値から以下の式より算出した。
YI=100(1.2769X−1.0592Z)/Y
更に、YI値をポリイミドフィルムの全体膜厚(μm)で割った値(YI/膜厚(μm))を求めた。
【0203】
<複屈折率>
位相差測定装置(王子計測機器株式会社製、製品名「KOBRA−WR」)を用いて、23℃、波長590nmの光で、ポリイミドフィルムの厚み方向位相差値(Rth)を測定した。厚み方向位相差値(Rth)は、0度入射の位相差値と、斜め40度入射の位相差値を測定し、これらの位相差値から厚み方向位相差値Rthを算出した。前記斜め40度入射の位相差値は、位相差フィルムの法線から40度傾けた方向から、波長590nmの光を位相差フィルムに入射させて測定した。
ポリイミドフィルムの複屈折率は、式:Rth/d(ポリイミドフィルムの膜厚(nm))に代入して求めた。
【0204】
<静的屈曲試験>
以下、静的屈曲試験の方法について、
図3を参照して説明する。
15mm×40mmに切り出したポリイミドフィルムの試験片10を、長辺の半分の位置で折り曲げ、当該試験片10の長辺の両端部が厚み6mmの金属片2(100mm×30mm×6mm)を上下面から挟むようにして配置し、当該試験片10の両端部と金属片2との上下面での重なりしろが各々10mmずつになるようにテープで固定した状態で、上下からガラス板(100mm×100mm×0.7mm)3a、3bで挟み、当該試験片10を内径6mmで屈曲した状態で固定した。その際に、金属片2とガラス板3a、3bの間で当該試験片10がない部分には、ダミーの試験片4a、4bを挟み込み、ガラス板3a、3bが平行になるようにテープで固定した。このようにして屈曲した状態で固定した当該試験片10を、60℃、90%相対湿度(RH)の環境下で24時間静置した後、ガラス板と固定用のテープを外し、当該試験片10にかかる力を解放した。その後、当該試験片10の一方の端部を固定し、試験片10にかかる力を解放してから30分後の試験片の内角を測定した。
なお、
参考例11のポリイミドフィルムは、相対的にヤング率が大きいポリイミド層が内側になるように屈曲させた。
当該静的屈曲試験によってフィルムが影響を受けずに完全に元に戻った場合は、前記内角は180°となる。
【0205】
<鉛筆硬度>
ポリイミドフィルムの鉛筆硬度は、測定サンプルを温度25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、JIS−S−6006が規定する試験用鉛筆を用い、東洋精機(株)製 鉛筆引っかき塗膜硬さ試験機を用いて、JIS K5600−5−4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(0.98N荷重)をフィルム表面に行い、傷がつかない最も高い鉛筆硬度を評価することにより行った。なお、
参考例11のポリイミドフィルムは、相対的にヤング率が大きいポリイミド層の表面に鉛筆硬度試験を行った。
【0206】
<耐衝撃性>
以下、耐衝撃性の評価方法について、
図4を参照して説明する。
鉄製の土台5の上に、厚さ100μmのアルミ箔6を10枚積層し、その上に15mm×40mmに切り出したポリイミドフィルムの試験片10を置いた。ボールペン7(BiC製、0.7mm)を高さ(試験片10とポールペン先端の間隔)90mmに設置し、試験片10上面にボールペン7を落下させて、ボールペン7の先端によって形成されたアルミ箔6の凹みの深さを光学顕微鏡(焦点深度)で測定することで評価した。凹みの深さを表2及び表4に示す。凹みの深さが小さいほど耐衝撃性に優れる。なお、
参考例11のポリイミドフィルムは、相対的にヤング率が大きいポリイミド層の表面を上面として、耐衝撃性を評価した。
【0207】
(合成例1)
5Lのセパラブルフラスコに、脱水されたジメチルアセトアミド3081g、及び、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)322g(1.00mol)を入れ、TFMBを溶解させた溶液の液温が30℃に制御されたところへ、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)443g(1.00mol)を温度上昇が2℃以下になるように数回に分けて徐々に投入し、ポリイミド前駆体1が溶解したポリイミド前駆体溶液1(固形分20重量%)を合成した。ポリイミド前駆体溶液1(固形分20重量%)の25℃における粘度は34920cpsであり、GPCによって測定したポリイミド前駆体1の重量平均分子量は408500であった。
【0208】
(合成例2〜3)
前記合成例1の手順で、表1に記載の原料、固形分濃度になるように反応を実施し、ポリイミド前駆体溶液2〜3とした。
【0209】
(合成例4)
5Lのセパラブルフラスコに、脱水されたジメチルアセトアミド(2265g)、及び、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(AprTMOS)(24.9g)を溶解させた溶液を入れ、液温30℃に制御されたところへ、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)(22.2g)を、温度上昇が2℃以下になるように徐々に投入し、メカニカルスターラーで30分撹拌した。そこへ、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)(288g)を添加し、完全に溶解したことを確認後、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)(420g)を温度上昇が2℃以下になるように数回に分けて徐々に投入し、ポリイミド前駆体4が溶解したポリイミド前駆体溶液4(固形分25質量%)を合成した。なお、ポリイミド前駆体溶液4において、TFMBとAprTMOSのモル比(TFMB:AprTMOS)は90:10であり、TFMBとAprTMOSの合計モルが、合成例1のTFMBのモルと同じになるようにした。
【0210】
以下において、各表中の略称はそれぞれ以下のとおりである。
TFMB:2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
BAPS:ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン
AprTMOS:1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン
6FDA:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
【0211】
【表1】
【0212】
(実施例1)
ポリイミド前駆体溶液1を用い、下記(1)〜(3)の手順で得られた膜厚50μmの単層ポリイミドフィルムを、ポリイミド成形体Aとして準備した。
(1)ポリイミド前駆体溶液1をガラス板上に塗布し、120℃の循環オーブンで10分乾燥した。
(2)窒素気流下(酸素濃度100ppm以下)、昇温速度10℃/分で、350℃まで昇温し、1時間保持後、室温まで冷却した。
(3)ガラス板より剥離し、ポリイミドフィルムを得た。
前記ポリイミド成形体Aの表裏両面に、ポリイミド前駆体溶液2を、イミド化後の膜厚がそれぞれ3μmとなるように塗布し、120℃の循環オーブンで10分乾燥してポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成した後、窒素気流下(酸素濃度100ppm以下)、昇温速度10℃/分で、350℃まで昇温し、1時間保持後、室温まで冷却してポリイミド前駆体をイミド化することにより、実施例1のポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムは、相対的にヤング率が小さいポリイミド層(以下、低ヤング率層という)の両面に、相対的にヤング率が大きいポリイミド層(以下、高ヤング率層という)がそれぞれ積層された層構成を有する多層のポリイミドフィルムであった。
【0213】
(実施例2、3)
実施例1において、高ヤング率層の厚さを表2のようにした以外は、実施例1と同様にして、実施例2、3のポリイミドフィルムを得た。
【0214】
(実施例4〜6)
実施例1において、ポリイミド成形体Aに代えて、ポリイミド前駆体溶液1の塗布量を変えて作製した膜厚80μmの単層ポリイミドフィルムであるポリイミド成形体Bを用い、高ヤング率層の厚さを表2のようにした以外は、実施例1と同様にして、実施例4〜6のポリイミドフィルムを得た。
【0215】
(実施例7)
実施例1のポリイミド成形体Aの作製において、ポリイミド前駆体溶液1に代えて、ポリイミド前駆体溶液4を用いた以外は同様にして、膜厚51μmの単層ポリイミドフィルムを得て、ポリイミド成形体Cとした。実施例1のポリイミドフィルムの作製において、ポリイミド成形体Aに代えて、ポリイミド成形体Cを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例7のポリイミドフィルムを得た。
【0216】
(比較例1)
ポリイミド前駆体溶液1を用いて、実施例1の前記(1)〜(3)と同様の手順で得られた膜厚48μmの単層ポリイミドフィルムを、比較例1のポリイミドフィルムとした。
【0217】
(比較例2)
ポリイミド前駆体溶液2を用いて、実施例1の前記(1)〜(3)と同様の手順で得られた膜厚49μmの単層ポリイミドフィルムを、比較例2のポリイミドフィルムとした。
【0218】
(比較例3)
ポリイミド前駆体溶液3を用いて、実施例1の前記(1)〜(3)と同様の手順で得られた膜厚49μmの単層ポリイミドフィルムを、比較例3のポリイミドフィルムとした。
【0219】
(比較例4)
ポリイミド前駆体溶液4を用いて、実施例1の前記(1)〜(3)と同様の手順で得られた膜厚52μmの単層ポリイミドフィルムを、比較例4のポリイミドフィルムとした。
【0220】
(比較例5)
ポリイミド前駆体溶液1を用いて、実施例1の前記(1)〜(3)と同様の手順で得られた膜厚80μmの単層ポリイミドフィルムを、比較例5のポリイミドフィルムとした。
【0221】
実施例1〜7及び比較例1〜5のポリイミドフィルムについて、前記評価方法を用いて評価した。評価結果を表2に示す。
なお、表2及び表4に示す層構成において、「高」とは高ヤング率層を表し、「低」とは低ヤング率層を表す。また、表2及び表4に示す膜厚、ヤング率及び線熱膨張係数(CTE)は、各ポリイミド層の測定結果であり、その他の評価結果については、ポリイミドフィルム全体についての評価結果を示す。表2及び表4のポリイミド種の番号1〜6は、各々ポリイミド前駆体溶液乃至ポリイミド溶液1〜6を用いて得られるポリイミドに対応する。表2及び表4のヤング率比(高/低)は、最もヤング率の高いポリイミド層のヤング率の値を、最もヤング率の低いポリイミド層のヤング率の値で割った値である。表2及び表4の高ヤング率層の厚み割合(%)は、ポリイミドフィルムの合計厚みを100%としたときの、ヤング率が最も大きいポリイミド層の合計厚みの割合(%)である。
【0222】
【表2】
【0223】
表2より、膜厚50μmの低ヤング率層の両面に高ヤング率層を有する実施例1〜3のポリイミドフィルムは、膜厚50μm程度の低ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例1と同程度の良好な屈曲耐性を有しながら、耐衝撃性が向上しており、さらに、高ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例2に比べ、屈曲耐性が向上しており、実施例2、3については、耐衝撃性も向上していた。また、膜厚80μmの低ヤング率層の両面に高ヤング率層を有する実施例4〜6のポリイミドフィルムは、膜厚80μmの低ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例5と同程度の良好な屈曲耐性を有しながら、耐衝撃性が向上しており、さらに、高ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例2に比べて、耐衝撃性と屈曲耐性が向上していた。ケイ素原子を含有する低ヤング率層の両面に高ヤング率層を有する実施例7のポリイミドフィルムは、ケイ素原子を含有する低ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例4と同程度の良好な屈曲耐性を有しながら、耐衝撃性が向上しており、さらに、高ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例2に比べて、耐衝撃性と屈曲耐性が向上していた。
また、比較例3、4の単層ポリイミドフィルムは、実施例1〜7のポリイミドフィルムに比べ、耐衝撃性に劣っていた。
【0224】
(合成例5)
5Lのセパラブルフラスコに、脱水されたジメチルアセトアミド(2903g)、及び、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン(AprTMOS)(15.9g)を溶解させた溶液を入れ、液温30℃に制御されたところへ、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)(14.6g)を、温度上昇が2℃以下になるように徐々に投入し、メカニカルスターラーで30分撹拌した。そこへ、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)(387g)を添加し、完全に溶解したことを確認後、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)(548g)を温度上昇が2℃以下になるように数回に分けて徐々に投入し、ポリイミド前駆体5が溶解したポリイミド前駆体溶液5(固形分25質量%)を合成した。
窒素雰囲気下で、5Lのセパラブルフラスコに、室温に下げた上記ポリイミド前駆体溶液5(400g)を加えた。そこへ、脱水されたジメチルアセトアミド(109g)を加え均一になるまで撹拌した。次に触媒であるピリジン(41.4g)と無水酢酸(53.4g)を加え24時間室温で撹拌し、ポリイミド溶液を合成した。得られたポリイミド溶液に酢酸ブチル(406g)を加え均一になるまで撹拌し、次にメタノール(3000g)を徐々に加え白色スラリーを得た。上記スラリーをろ過し、5回メタノールで洗浄し、ポリイミド5を得た。GPCによって測定したポリイミドの重量平均分子量は175000であった。
ポリイミド5を溶剤(ジクロロメタン)に溶かし、固形分15質量%のポリイミド溶液5を作製した。ポリイミド溶液5(固形分15質量%)の25℃における粘度は4174cpsであった。
【0225】
(合成例6)
前記合成例5の手順で、ポリイミド前駆体溶液5に代えて、合成例4で得たポリイミド前駆体溶液4を用いた以外は、前記合成例5と同様にして、ポリイミド6を得た。GPCによって測定したポリイミド6の重量平均分子量を表3に示す。また、前記合成例5において、ポリイミド5に代えて、ポリイミド6を用いた以外は、前記合成例5と同様にして、表3に示すポリイミド溶液6を得た。ポリイミド溶液6(固形分15質量%)の25℃における粘度を表3に示す。
【0226】
【表3】
【0227】
(実施例8)
ポリイミド溶液6を用い、下記(i)〜(iii)の手順で得られた膜厚47μmの単層ポリイミドフィルムを、ポリイミド成形体Dとして準備した。
(i)ポリイミド溶液6をガラス板上に塗布し、自然乾燥後、フィルムをガラス板より剥離した。
(ii)フィルムを50℃の循環オーブンで10分乾燥した。
(iii)フィルムを、窒素気流下(酸素濃度100ppm以下)、昇温速度10℃/分で、200℃まで昇温し、200℃で1時間保持後、室温まで冷却し、ポリイミドフィルムを得た。
前記ポリイミド成形体Dの表裏両面に、ポリイミド溶液5を、乾燥後の膜厚がそれぞれ3μmとなるように塗布し、自然乾燥後、50℃の循環オーブンで10分乾燥し、次いで、窒素気流下(酸素濃度100ppm以下)、昇温速度10℃/分で、200℃まで昇温し、200℃で1時間保持後、室温まで冷却することにより、実施例8のポリイミドフィルムを得た。
【0228】
(実施例9)
実施例8の前記(i)〜(iii)の手順において、ポリイミド溶液6に代えてポリイミド溶液5を用いた以外は、前記(i)〜(iii)の手順と同様にして、膜厚55μmの単層ポリイミドフィルムを得て、ポリイミド成形体Eとした。
前記ポリイミド成形体Eの表裏両面に、ポリイミド前駆体溶液2を、イミド化後の膜厚がそれぞれ3μmとなるように塗布し、120℃の循環オーブンで10分乾燥してポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成した後、窒素気流下(酸素濃度100ppm以下)、昇温速度10℃/分で、350℃まで昇温し、1時間保持後、室温まで冷却してポリイミド前駆体をイミド化することにより、実施例9のポリイミドフィルムを得た。
【0229】
(実施例10)
実施例8の前記(i)〜(iii)の手順において、ポリイミド溶液6に代えてポリイミド溶液5を用い、乾燥後の膜厚が20μmとなるように塗布量を調整した以外は、前記(i)〜(iii)の手順と同様にして、膜厚20μmの単層ポリイミドフィルムを得て、ポリイミド成形体Fとした。
前記ポリイミド成形体Fの表裏両面に、ポリイミド前駆体溶液2を、イミド化後の膜厚がそれぞれ15μmとなるように塗布し、120℃の循環オーブンで10分乾燥してポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成した後、窒素気流下(酸素濃度100ppm以下)、昇温速度10℃/分で、350℃まで昇温し、1時間保持後、室温まで冷却してポリイミド前駆体をイミド化することにより、実施例10のポリイミドフィルムを得た。
【0230】
(
参考例11)
実施例8の前記(i)〜(iii)の手順において、ポリイミド溶液6に代えてポリイミド溶液5を用いた以外は、前記(i)〜(iii)の手順と同様にして、膜厚48μmの単層ポリイミドフィルムを得て、ポリイミド成形体Gとした。
前記ポリイミド成形体Gの一方の面に、ポリイミド前駆体溶液2を、イミド化後の膜厚が3μmとなるように塗布し、120℃の循環オーブンで10分乾燥してポリイミド前駆体樹脂塗膜を形成した後、窒素気流下(酸素濃度100ppm以下)、昇温速度10℃/分で、350℃まで昇温し、1時間保持後、室温まで冷却してポリイミド前駆体をイミド化することにより、
参考例11のポリイミドフィルムを得た。
【0231】
(
参考例12)
実施例1の前記(1)〜(3)の手順において、ポリイミド前駆体溶液1に代えてポリイミド前駆体溶液2を用いた以外は、前記(1)〜(3)の手順と同様にして、膜厚10μmの単層ポリイミドフィルムを得て、ポリイミド成形体Hとした。
前記ポリイミド成形体Hの表裏両面に、ポリイミド溶液5を、乾燥後の膜厚がそれぞれ20μmとなるように塗布し、自然乾燥後、50℃の循環オーブンで10分乾燥し、次いで、窒素気流下(酸素濃度100ppm以下)、昇温速度10℃/分で、200℃まで昇温し、200℃で1時間保持後、室温まで冷却することにより、
参考例12のポリイミドフィルムを得た。
【0232】
(比較例6)
ポリイミド溶液5を用いて、実施例8の前記(i)〜(iii)と同様の手順で得られた膜厚55μmの単層ポリイミドフィルムを、比較例6のポリイミドフィルムとした。
【0233】
(比較例7)
ポリイミド溶液6を用いて、実施例8の前記(i)〜(iii)と同様の手順で得られた膜厚47μmの単層ポリイミドフィルムを、比較例7のポリイミドフィルムとした。
【0234】
実施例8〜
10、参考例11、12及び比較例6、7のポリイミドフィルムについて、前記評価方法を用いて評価した。評価結果を表4に示す。
【0235】
【表4】
【0236】
表4より、実施例8のポリイミドフィルムは、ケイ素原子を含有する低ヤング率層の両面に、ケイ素原子を含有する高ヤング率層を有しており、ケイ素原子を含有する低ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例7と同程度の良好な屈曲耐性を有しながら、耐衝撃性が向上しており、さらに、高ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例6に比べて、屈曲耐性が向上しており、耐衝撃性も向上していた。
実施例9、10のポリイミドフィルムは、ケイ素原子を含有する低ヤング率層の両面に、ケイ素原子を含有しない高ヤング率層を有しており、ケイ素原子を含有する低ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例6と同程度の良好な屈曲耐性を有しながら、耐衝撃性が顕著に向上しており、さらに、高ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例2に比べて、屈曲耐性が向上しており、耐衝撃性が顕著に向上していた。
参考例11のポリイミドフィルムは、ケイ素原子を含有する低ヤング率層の一方の面に、ケイ素原子を含有しない高ヤング率層を有しており、ケイ素原子を含有する低ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例6と同程度の良好な屈曲耐性を有しながら、耐衝撃性が向上しており、さらに、高ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例2に比べて、屈曲耐性が向上しており、耐衝撃性が向上していた。
参考例12のポリイミドフィルムは、ケイ素原子を含有しない高ヤング率層の両面に、ケイ素原子を含有する低ヤング率層を有しており、ケイ素原子を含有する低ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例6と比べて、耐衝撃性が向上しており、高ヤング率層単層のポリイミドフィルムである比較例2に比べて、屈曲耐性が向上していた。
【0237】
また、実施例7〜
10及び参考例11、12のポリイミドフィルムを厚み方向に切断し、走査型電子顕微鏡(SEM)で断面を観察したところ、互いに隣接するポリイミド層の境界に、各ポリイミド層の材料が混合したミキシング領域を有していた。
また、実施例1〜
10及び参考例11、12のポリイミドフィルムについて、干渉縞の有無を検査した。具体的には、ポリイミドフィルムの一方の面を黒インキで塗りつぶし、もう一方の面に干渉縞検査ランプをあて、目視にて反射観察を行った。その結果、いずれのポリイミドフィルムも実用可能なレベルであったが、実施例1〜6のポリイミドフィルムに比べ、実施例7〜
10及び参考例11、12のポリイミドフィルムは、干渉縞が抑制されていた。
【0238】
また、実施例1〜
10及び参考例11、12のポリイミドフィルムについて、下記密着性試験方法に従って、表面のポリイミド層の密着性試験を行った。その結果、表面のポリイミド層が剥離した面積の割合は、いずれも20%以下であった。なお、
参考例11においては、高ヤング率層側の表面について密着性試験を行い、
参考例11以外の各実施例
及び参考例においては、両面について密着性試験を行った。
<密着性試験>
JIS K5400の碁盤目試験に準拠して、表面のポリイミド層にカッターナイフを用いて1mm間隔で碁盤目状に切れ込みを入れ、100マスの格子を形成した。次いで、当該格子上にセロハンテープ(ニチバン(株))を貼り付けた後剥離し、これを5回繰り返した後、表面のポリイミド層の剥離を観察した。
【0239】
(実施例13)
ペンタエリスリトールトリアクリレートの40質量%メチルイソブチルケトン溶液に、ペンタエリスリトールトリアクリレート100質量部に対して10質量部の1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(BASF製、イルガキュア184)を添加して、ハードコート層用樹脂組成物を調製した。
実施例1のポリイミドフィルムを10cm×10cmに切り出し、一方の面に前記ハードコート層用樹脂組成物を塗布し、紫外線を窒素気流下200mJ/cm
2の露光量で照射し硬化させ、10μm膜厚の硬化膜であるハードコート層を形成し、積層体を作製した。
【0240】
(実施例14〜
22及び参考例23、24)
実施例13において、実施例1のポリイミドフィルムに代えて、実施例2〜
10又は参考例11、12のポリイミドフィルムを各々用いた以外は、実施例13と同様にして、実施例14〜
22及び参考例23、24の積層体を作製した。なお、
参考例11のポリイミドフィルムを用いた
参考例23においては、ポリイミドフィルムの高ヤング率層側の面に、ハードコート層を形成して、積層体を作製した。
【0241】
<鉛筆硬度>
実施例13〜
22及び参考例23、24で得られた積層体を、温度25℃、相対湿度60%の条件で2時間調湿した後、JIS−S−6006が規定する試験用鉛筆を用い、東洋精機(株)製 鉛筆引っかき塗膜硬さ試験機を用いて、JIS K5600−5−4(1999)に規定する鉛筆硬度試験(9.8N荷重)を、ハードコート層側の表面に行い、傷がつかない最も高い鉛筆硬度を評価することにより、各積層体の鉛筆硬度を求めた。実施例13〜
22及び参考例23、24で得られた積層体の鉛筆硬度は、すべて2Hであった。
【0242】
また、実施例13〜
22及び参考例23、24で得られた積層体の中でも、ケイ素原子を含有するポリイミド層がハードコート層と隣接して位置する実施例20、
参考例24の積層体は、ポリイミドフィルムとハードコート層との密着性がより優れていた。