特許第6973487号(P6973487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973487
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】充電装置及び充電方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/04 20060101AFI20211118BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20211118BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20211118BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   H02J7/04 F
   H02J7/10 K
   H02J7/10 L
   H02J7/10 H
   H01M10/44 Q
   H01M10/44 A
   H01M10/48 A
   H01M10/48 301
   H01M10/48 P
   H01M10/48 Z
【請求項の数】13
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2019-532630(P2019-532630)
(86)(22)【出願日】2018年7月24日
(86)【国際出願番号】JP2018027666
(87)【国際公開番号】WO2019022065
(87)【国際公開日】20190131
【審査請求日】2019年12月9日
(31)【優先権主張番号】特願2017-146372(P2017-146372)
(32)【優先日】2017年7月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】志村 重輔
【審査官】 坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−236525(JP,A)
【文献】 特開2003−045426(JP,A)
【文献】 特開平06−113474(JP,A)
【文献】 特開2015−126627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/04
H01M 10/44
H01M 10/48
H02J 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池を、定電流−定電圧方式に基づき充電する充電装置であって、
定電流にて充電が完了した後、定電圧にて充電を開始する前にその時点での充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する充電装置。
【請求項2】
中断すること無く充電を行う請求項1に記載の充電装置。
【請求項3】
1<i1/i0≦10 を満足する請求項1に記載の充電装置。
【請求項4】
電流パルスを印加する時間は、0.01秒以上、10秒以下である請求項1に記載の充電装置。
【請求項5】
電流パルスの印加回数は、1回である請求項1に記載の充電装置。
【請求項6】
電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZA、充電終了設定電流値をIcomp-Aとし、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZB、充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、
comp-A=(ZB/ZA)×Icomp-B
を満足する請求項1に記載の充電装置。
【請求項7】
電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定電流値をIcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、Icomp-B<Icomp-A≦5×Icomp-B を満足する請求項1に記載の充電装置。
【請求項8】
電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-Bとしたとき、0.7×tcomp-B≦tcomp-A<tcomp-B を満足する請求項1に記載の充電装置。
【請求項9】
リチウムイオン二次電池には、満充電時の結晶構造と完全放電時の結晶構造とが異なる正極材料が含まれ、該正極材料は、充放電に伴う結晶構造の変化が可逆である請求項1に記載の充電装置。
【請求項10】
リチウムイオン二次電池の正極材料にはLixCoO2が含まれている請求項1に記載の充電装置。
【請求項11】
正極材料にLixCoO2が含まれているリチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式に基づき充電する充電装置であって、
リチウムイオン二次電池の充電中にLixCoO2におけるxの値を算出するx値算出手段、及び、
リチウムイオン二次電池の充電中に正極材料の温度を測定する温度測定手段、
を備えており、
x値算出手段によって算出されたxの値、及び、温度測定手段によって測定された正極材料の温度の値に基づき、正極材料の結晶構造に変化が起きた場合に、電流パルスを印加する直前の充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する充電装置。
【請求項12】
リチウムイオン二次電池を、定電流−定電圧方式に基づき充電する充電方法であって、
定電流にて充電が完了した後、定電圧にて充電を開始する前にその時点での充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する充電方法。
【請求項13】
正極材料にLixCoO2が含まれているリチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式に基づき充電する充電方法であって、
リチウムイオン二次電池の充電中にLixCoO2におけるxの値を算出し、併せて、正極材料の温度を測定し、
算出されたxの値、及び、測定された正極材料の温度の値に基づき、正極材料の結晶構造に変化が起きた場合に、電流パルスを印加する直前の充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する充電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、充電装置及び充電方法に関する。より具体的には、本開示は、リチウムイオン二次電池を充電するための充電装置及び充電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のスマートフォン、ハイブリッド自動車および電気自動車等の拡がりに伴い、リチウムイオン二次電池の急速充電技術に対する需要が、以前にも増して高まってきている。急速充電の方式には幾つかの方式があるが、比較的単純な方式の1つに、充電初期に大電流を流す方式がある。この方式は、充電初期、リチウムイオン二次電池の電圧が低いため、仮に大電流で充電しても、安全性を考慮して設定された所定の上限電圧を超え難いという性質を利用しており、この比較的安全に充電することができる充電初期の内に出来るだけ充電容量を確保するといった発想によるものである。
【0003】
例えば、特開平07−296853号公報(特許文献1)には、初めに定電流で規定の充電電圧まで充電を行った後、充電電流を逐次低減させながら段階的に充電を行う方法が開示されている。また、非特許文献1には、整数線形計画法を用いて最適化された多段ステップの充電によって、所定の上限電圧を上回ることなく、充電時間を21%短縮したという内容が記載されている。どちらの方法も、上限電圧を上回ることがないため、比較的安全に急速充電を行うことができる。
【0004】
しかしながら、充電初期に大電流を流すこれらの方法は、リチウムイオン二次電池の充放電容量を低下させ、寿命を短くしてしまうといった欠点を有する。充電初期、負極活物質として用いられる炭素材料(具体的には、例えば、グラファイト)のステージ構造は、ステージ4からステージ3、ステージ2と多段階で目まぐるしく変化する。かかる変化に伴って、活物質の体積が変化したり、内部応力が生じたり、過電圧が変化したりする。充電電流が大きいとこれらの変化も急激になるため、電極を構成する材料に負荷がかかり、その結果、充放電容量低下に至ると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−296853号公報
【特許文献2】特開2003−109672号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jan N. Reimers ans J. R. Dahn, “Electrochemical and In Situ X-Ray Diffraction Studies of Lithium Intercalation in LixCo02”, J. Electrochem. Soc. 139(8), 1992, pp. 2091-2097
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2003−109672号公報(特許文献2)では、このような充放電容量の低下を抑制するために、充電初期(SOC,State-Of-Charge の値が概ね0.40から0.75まで)の充電電流値を0.4C以下に留め、充電末期において充電電流値を増加させる方法が記載されている。しかしながら、充電末期においてはリチウムイオン二次電池の電圧が高いため上限電圧を越え易く、抑も、大きな電流を流し難いことが問題となる。よって、充電末期に電流値を増加させる方法では、十分な急速化の効果を期待することが難しい。つまり、現状では、急速充電をするために充電電流を増加させようとした場合、充電初期、充電末期のいずれにあっても問題がある。
【0008】
従って、本開示の目的は、充電初期に電流値を増加させること無く、効果的な急速充電の実現を可能とする充電装置及び充電方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る充電装置は、リチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式(CV充電方式、Constant Voltage 充電方式)に基づき充電する充電装置であって、
定電圧にて充電を開始する前に、又は、定電圧にて充電を行っている間に、その時点での充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する。
【0010】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る充電装置は、正極材料にLixCoO2が含まれているリチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式に基づき充電する充電装置であって、
リチウムイオン二次電池の充電中にxの値を算出するx値算出手段、及び、
リチウムイオン二次電池の充電中に正極材料の温度を測定する温度測定手段、
を備えており、
x値算出手段によって算出されたxの値、及び、温度測定手段によって測定された正極材料の温度の値に基づき、電流パルスを印加する直前の充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する時点を決定する。
【0011】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る充電方法は、リチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式に基づき充電する充電方法であって、
定電圧にて充電を開始する前に、又は、定電圧にて充電を行っている間に、その時点での充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する。
【0012】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る充電方法は、正極材料にLixCoO2が含まれているリチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式に基づき充電する充電方法であって、
リチウムイオン二次電池の充電中にxの値を算出し、併せて、正極材料の温度を測定し、
算出されたxの値、及び、測定された正極材料の温度の値に基づき、電流パルスを印加する直前の充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する時点を決定する。
【発明の効果】
【0013】
本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置、本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電方法にあっては、電流パルスを少なくとも1回印加することによって、リチウムイオン二次電池の内部インピーダンスを低下させることができる。その結果、定電圧充電段階における充電電流値を増加させることができ、より短時間でリチウムイオン二次電池を満充電状態にすることができる。尚、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでは無く、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1の充電装置の回路図である。
図2図2は、実施例1における充放電サイクル試験の条件を示す図であり、サイクル記号C1,C2,R,D,Nにおける充放電サイクル試験の条件を示す図である。
図3図3A(最上段)は、実施例1における充放電サイクル試験の条件を示す図であり、サイクル記号CMIDにおける充放電サイクル試験の条件を示す図である。図3B(真ん中段)は、実施例1における充放電サイクル試験の条件を示す図であり、サイクル記号CCIMにおける充放電サイクル試験の条件を示す図である。図3C(最下段)は、実施例1における充放電サイクル試験の条件を示す図であり、サイクル記号NCIMにおける充放電サイクル試験の条件を示す図である。
図4図4Aは、実施例1における実験−1の結果を示すグラフである。図4Bは、実施例1における実験−1において、第nサイクル目における放電容量Cnを、直前・直後のサイクルにおける放電容量Cn-1及びCn+1の平均値と比較した結果を示す図である。
図5図5Aは、実施例1における実験−1において、充放電サイクル、第23サイクル目、第24サイクル目及び第25サイクル目のCV充電部分に注目して解析した結果を示す図である。図5Bは、図5Aの一部拡大図である。
図6図6Aは、実施例1における実験−2の結果を示すグラフである。図6Bは、実施例1における実験−2において、第nサイクル目における放電容量Cnを、直前・直後のサイクルにおける放電容量Cn-1及びCn+1の平均値と比較した結果を示す図である。
図7図7は、実施例1における実験−3の結果を示すグラフである。
図8図8Aは、実施例1における実験−3において、充放電サイクル、第21サイクル目、第22サイクル目及び第23サイクル目のCV充電部分に注目して、正味の充電時間を解析した図である。図8Bは、図8Aの一部拡大図である。
図9図9Aは、実施例1における実験−3において、サイクル記号C1の充放電サイクルとサイクル記号Nの充放電サイクルとにおけるCV充電電流値の差分、及び、サイクル記号CMIDの充放電サイクルとサイクル記号Nの充放電サイクルとにおけるCV充電電流値の差分を示した図である。図9Bは、実施例1における実験−4において、シミュレーションによって得られた、サイクル記号C1の充放電サイクルとサイクル記号Nの充放電サイクルとにおけるCV充電電流値の差分を示す図である。
図10図10は、実施例1における実験−5の結果を示す図である。
図11図11Aは、実施例1における実験−5において、電圧変化量ΔV1’(=V1’−V0’)及びΔV3600’(=V3600’−V0’)を求めた結果を示す図である。図11Bは、図11Aの一部拡大図である。
図12図12Aは、実施例1における実験−5において、サイクル記号CCIMの充放電サイクルとサイクル記号NCIMの充放電サイクルとにおけるCV充電電流値の差分を示す図である。図12Bは、実施例1において得られた、内部インピーダンスのオーム性成分ROhmic及びファラデー性成分RFaradaicのサイクル依存性を示す図である。
図13図13は、実施例1の充電方法のフローチャートである。
図14図14は、実施例1の充電方法の変形例のフローチャートである。
図15図15は、実施例2の充電方法のフローチャートである。
図16図16は、実施例2の充電方法の変形例のフローチャートである。
図17図17は、実施例1の実験−1〜実験−5で観察された現象を書き込んだ状態遷移図である。
図18図18は、実施例3の二次電池の模式的な断面図である。
図19図19は、実施例3の二次電池における捲回電極積層体の模式的な一部断面図である。
図20図20は、実施例4のラミネートフィルム型の角型のリチウムイオン二次電池の模式的な分解斜視図である。
図21図21Aは、図20に示したとは別の状態における、実施例4のラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池の模式的な分解斜視図である。図21Bは、実施例4のラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池における電極構造体の図20図21Aの矢印A−Aに沿った模式的な断面図である。
図22図22は、実施例1〜実施例4における本開示をリチウムイオン二次電池に適用した適用例(電池パック:単電池)の模式的な分解斜視図である。
図23図23A図23B及び図23Cは、それぞれ、実施例5における本開示の適用例(電動車両)の構成を表すブロック図、実施例5における本開示の適用例(電力貯蔵システム)の構成を表すブロック図、及び、実施例5における本開示の適用例(電動工具)の構成を表すブロック図である。
図24図24は、LixCoO2におけるxの値と温度と結晶構造との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本開示を説明する。本開示は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置、並びに、本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電方法、全般に関する説明
2.実施例1(本開示の第1の態様に係る充電装置及び本開示の第1の態様に係る充電方法)
3.実施例2(本開示の第2の態様に係る充電装置及び本開示の第2の態様に係る充電方法)
4.実施例3(実施例1〜実施例2の変形)
5.実施例4(実施例1〜実施例3の変形)
6.実施例5(実施例1〜実施例4の充電装置の応用例)
7.その他
【0016】
〈本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置、並びに、本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電方法、全般に関する説明〉
本開示の第1の態様に係る充電装置又は本開示の第1の態様に係る充電方法(以下、これらを総称して、『本開示の第1の態様に係る充電装置等』と呼ぶ)にあっては、
リチウムイオン二次電池を、定電流−定電圧方式(CC−CV充電方式、Constant Current-Constant Voltage 充電方式)に基づき充電し、
定電流にて充電が完了した後(CC充電方式が完了した後)、定電圧にて充電を開始する(CV充電方式にて充電を開始する)前に、電流パルスを印加する形態とすることができる。尚、場合によっては、CC充電方式の部分は非特許文献1にあるような多段ステップのCC充電方式を採用してもよい。即ち、単一ステップの定電流での充電に限定するものではない。
【0017】
上記の好ましい形態を含む本開示の第1の態様に係る充電装置等にあっては、あるいは又、本開示の第2の態様に係る充電装置若しくは本開示の第2の態様に係る充電方法(以下、これらを総称して、『本開示の第2の態様に係る充電装置等』と呼ぶ)にあっては、中断すること無く充電を行うことが好ましい。
【0018】
以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置等にあっては、1<i1/i0≦10 を満足する形態とすることができる。
【0019】
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置等において、電流パルスを印加する時間は、0.01秒以上、10秒以下である形態とすることができる。
【0020】
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置等において、電流パルスの印加回数は、1回乃至10回を例示することができるが、1回であることが好ましい。尚、ピーク電流値i1は、電流パルス毎に異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0021】
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置等にあっては、電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZA、充電終了設定電流値をIcomp-Aとし、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZB、充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、Icomp-Aは、
comp-A=(ZB/ZA)×Icomp-B
という式で決定することができる。Icomp-Bの値はリチウムイオン二次電池の仕様書にある充電カット電流値をそのまま用いればよく、ZAの値及びZBの値は、後述する電流遮断法(current interrupt method)等の試験を行い、予め決定しておけばよい。
【0022】
電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスZA、及び、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスZBに関しては、仮に予め試験等によって決定しておかなくとも、ZB/ZAの値は、概ね、1より大きく、5以下の範囲であることが多いことから、Icomp-B<Icomp-A≦5×Icomp-B の範囲でIcomp-Aを決定しておけばよい。
【0023】
あるいは又、電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-Bとしたとき、電流パルスを印加することによる時間短縮は高々30%程度であることから、tcomp-Aの値は、0.7×tcomp-B≦tcomp-A<tcomp-Bの範囲で決定しておけばよい。尚、tcomp-Bの値はリチウムイオン二次電池の仕様書にある充電カット時間をそのまま用いればよい。
【0024】
更には、以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本開示の第1の態様に係る充電装置等において、リチウムイオン二次電池には、満充電時の結晶構造と完全放電時の結晶構造とが異なる正極材料が含まれ、該正極材料は、充放電に伴う結晶構造の変化が可逆である(充放電に伴う相転移が可逆である)構成とすることができる。あるいは又、リチウムイオン二次電池の正極材料には、LixCoO2が含まれている構成とすることができるし、LixNiO2が含まれている構成とすることもできる。尚、リチウムイオン二次電池の正極材料にLixCoO2が含まれている場合、完全放電時には、理論上、LiCoO2(結晶構造:六方晶系。全てのコバルト原子は3価)となり、満充電時には、理論上、Li0.5CoO2(結晶構造:単斜晶系。3価のコバルト原子と4価のコバルト原子が混在)となる。
【0025】
リチウムイオン二次電池にあっては、充電時、例えば、正極材料(正極活物質)からリチウムイオンが放出され、非水系電解液を介して負極活物質に吸蔵される。また、放電時、例えば、負極活物質からリチウムイオンが放出され、非水系電解液を介して正極材料(正極活物質)に吸蔵される。
【0026】
リチウムイオン二次電池において、リチウムイオン二次電池を構成する部材が電極構造体収納部材(電池缶)に格納されている。リチウムイオン二次電池を構成する部材として、正極部材、負極部材、電解質及びセパレータを挙げることができる。例えば、正極部材は、正極集電体及び正極活物質から構成され、例えば、負極部材は、負極集電体及び負極活物質から構成される。正極活物質が正極材料に該当する。また、正極集電体には正極リード部が取り付けられ、負極集電体には負極リード部が取り付けられている。
【0027】
リチウムイオン二次電池において、正極部材、セパレータ及び負極部材によって構成される電極構造体は、正極部材、セパレータ、負極部材及びセパレータが捲回された状態であってもよいし、正極部材、セパレータ、負極部材及びセパレータがスタックされた状態であってもよい。電極構造体あるいは捲回電極構造体は、捲回された状態で電極構造体収納部材に収納されている形態とすることができるし、電極構造体は、スタックされた状態で電極構造体収納部材に収納されている形態とすることができる。これらの場合、電極構造体収納部材の外形形状は、円筒型又は角型(平板型)である形態とすることができる。リチウムイオン二次電池(以下、単に『二次電池』と呼ぶ場合がある)の形状または形態としては、コイン型、ボタン型、円盤型、平板型、角型、円筒型およびラミネート型(ラミネートフィルム型)等を挙げることができる。
【0028】
円筒型の二次電池を構成する電極構造体収納部材(電池缶)の材料として、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)等、あるいは、これらの合金、ステンレス鋼(SUS)等を挙げることができる。電池缶には、二次電池の充放電に伴う電気化学的な腐食を防止するために、例えばニッケル等のメッキが施されていてよい。ラミネート型(ラミネートフィルム型)の二次電池における外装部材は、プラスチック材料層(融着層)、金属層及びプラスチック材料層(表面保護層)の積層構造を有する形態、即ち、ラミネートフィルムである形態とすることが好ましい。ラミネートフィルム型の二次電池とする場合、例えば、融着層同士が電極構造体を介して対向するように外装部材を折り畳んだ後、融着層の外周縁部同士を融着する。但し、外装部材は、2枚のラミネートフィルムが接着剤等を介して貼り合わされたものでもよい。融着層は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンおよび/または変性ポリプロピレン等の重合体等であるオレフィン樹脂のフィルムから成る。金属層は、例えば、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔またはニッケル箔等から成る。表面保護層は、例えば、ナイロンおよび/またはポリエチレンテレフタレート等から成る。中でも、外装部材は、ポリエチレンフィルムと、アルミニウム箔と、ナイロンフィルムとがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムであることが好ましい。但し、外装部材は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレン等の高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。
【0029】
正極部材、負極部材、正極活物質、負極活物質、結着剤、導電剤、セパレータおよび非水系電解液の詳細については、後述する。
【0030】
本開示において、二次電池は、1つであってもよいし、あるいは、複数であってもよい。後者の場合、複数の二次電池を直列に接続してもよいし、あるいは、並列に接続してもよい。さらには、後者の場合、直列に接続された二次電池の組を、複数、並列に接続した組電池としてもよいし、あるいは、並列に接続された二次電池の組を、複数、直列に接続した組電池としてもよい。
【0031】
本開示における二次電池は、ノート型パーソナルコンピュータ、着脱可能な電源としてパーソナルコンピュータ等に用いられる電池パック、各種表示装置、PDA(Personal Digital Assistant、携帯情報端末)を含む携帯情報端末、携帯電話機、スマートフォン、コードレス電話の親機や子機、ビデオムービー(ビデオカメラやカムコーダ)、デジタルスチルカメラ、電子書籍(電子ブック)や電子新聞等の電子ペーパー、電子辞書、音楽プレイヤー、携帯音楽プレイヤー、ラジオ、携帯用ラジオ、ヘッドホン、ヘッドホンステレオ、ゲーム機、ウェアラブル機器(例えば、スマートウォッチ、リストバンド、スマートアイグラス、医療機器、ヘルスケア製品)、ナビゲーションシステム、メモリカード、心臓ペースメーカー、補聴器、電動工具、電気シェーバー、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機、ステレオ、温水器、電子レンジ、食器洗浄器、洗濯機、乾燥機、室内灯等を含む照明機器、各種電気機器(携帯用電子機器を含む)、玩具、医療機器、ロボット、IoT機器やIoT端末、ロードコンディショナー、信号機、鉄道車両、ゴルフカート、電動カート、電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)等の駆動用電源又は補助用電源として使用することができる。また、住宅をはじめとする建築物又は発電設備用の電力貯蔵用電源等に搭載し、あるいは、これらに電力を供給するために使用することができる。電気自動車において、電力を供給することにより電力を駆動力に変換する変換装置は、一般的にはモータである。車両制御に関する情報処理を行う制御装置(制御部)として、二次電池の残量に関する情報に基づき、二次電池残量表示を行う制御装置等が含まれる。また、二次電池を、所謂スマートグリッドにおける蓄電装置において用いることもできる。このような蓄電装置は、電力を供給するだけでなく、他の電力源から電力の供給を受けることにより蓄電することができる。他の電力源として、例えば、火力発電、原子力発電、水力発電、太陽電池、風力発電、地熱発電および/または燃料電池(バイオ燃料電池を含む)等を用いることができる。
【0032】
二次電池、及び、二次電池に関する制御を行う制御手段(制御部)を有する電池パックにおける制御手段には、本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置が備えられている形態とすることができる。また、二次電池から電力の供給を受ける電子機器における二次電池には、本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置が備えられている形態とすることができる。
【0033】
二次電池から電力の供給を受けて車両の駆動力に変換する変換装置、及び、二次電池に関する情報に基づいて車両制御に関する情報処理を行う制御装置(制御部)を有する電動車両における制御装置には、本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置が備えられている形態とすることができる。この電動車両において、変換装置は、典型的には、二次電池から電力の供給を受けてモータを駆動させ、駆動力を発生させる。モータの駆動には、回生エネルギーを利用することもできる。また、制御装置は、例えば、二次電池の電池残量に基づいて車両制御に関する情報処理を行う。この電動車両には、例えば、電気自動車、電動バイク、電動自転車、鉄道車両等の他、所謂ハイブリッド車が含まれる。
【0034】
二次電池を、所謂スマートグリッドにおける蓄電装置において用いることもできる。このような蓄電装置は、電力を供給するだけでなく、他の電力源から電力の供給を受けることにより蓄電することができる。この蓄電装置には、本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置が備えられている形態とすることができる。他の電力源としては、例えば、火力発電、原子力発電、水力発電、太陽電池、風力発電、地熱発電および/または燃料電池(バイオ燃料電池を含む)等を用いることができる。
【0035】
二次電池から電力の供給を受け、及び/又は、電力源から二次電池に電力を供給するように構成された電力貯蔵システム(あるいは電力供給システム)は、二次電池、及び、本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置を備えている形態とすることができる。この電力貯蔵システムは、およそ電力を使用するものである限り、どのような電力貯蔵システムであってもよく、単なる電力装置も含む。この電力貯蔵システムは、例えば、スマートグリッド、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)、車両等を含み、蓄電も可能である。
【0036】
二次電池を有し、電力が供給される電子機器が接続されるように構成された電力貯蔵用電源は、二次電池、及び、本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電装置を備えている形態とすることができる。この電力貯蔵用電源の用途は問わず、基本的にはどのような電力貯蔵システム、電力供給システム又は電力装置にも用いることができるが、例えば、スマートグリッドに用いることができる。
【実施例1】
【0037】
実施例1は、本開示の第1の態様に係る充電装置及び本開示の第1の態様に係る充電方法に関する。
【0038】
実施例1の充電装置は、リチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式(CV充電方式)に基づき充電する充電装置である。また、実施例1の充電方法は、リチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式に基づき充電する充電方法である。
【0039】
実施例1において、リチウムイオン二次電池には、満充電時の結晶構造と完全放電時の結晶構造とが異なる正極材料が含まれる。この正極材料は、充放電に伴う結晶構造の変化が可逆である。即ち、充放電に伴う相転移が可逆である。あるいは又、実施例1のリチウムイオン二次電池の正極材料には、LixCoO2が含まれている。ところで、LixCoO2におけるxの値と温度と結晶構造との関係を図24に示すが、xの値が、約0.45以下あるいは約0.55以上では、LixCoO2の結晶構造は六方晶系となり、約0.45乃至約0.55では、LixCoO2の結晶構造は単斜晶系となる。即ち、LixCoO2の結晶構造は、完全放電時には六方晶系、満充電時には単斜晶系となり、充放電に伴う結晶構造の変化は可逆である。尚、図24において、「I」は「六方晶系I」を意味し、「II」は「六方晶系II」を意味し、「I+II」は「六方晶系I」及び「六方晶系II」が混在していることを意味する。
【0040】
実施例1の充電装置の回路図を図1に示す。この充電装置は、x値算出手段を含み、MPUやCPUを備えた演算処理部41、本開示の第1の態様〜第2の態様に係る充電方法のアルゴリズム等を記憶した記憶部(不揮発性メモリであるEEPROM等から成る)42、電流発生部44、電流発生制御部43A、電圧発生部45、電圧発生制御部43B、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)等の半導体スイッチから成るスイッチ部46、スイッチ制御部43C、電流検出部47A、電圧検出部47B、及び、温度測定手段(温度検出部)47Cから構成されている。ここで、電流発生部44は、リチウムイオン二次電池30を定電流方式(CC充電方式)に基づき充電するために電流を発生させ、また、電流パルスを生成する。電流発生制御部43Aは、演算処理部41の制御下、電流発生部44の作動を制御する。電圧発生部45は、リチウムイオン二次電池30を定電圧方式(CV充電方式)に基づき充電するために電圧を発生させる。電圧発生制御部43Bは、演算処理部41の制御下、電圧発生部45の作動を制御する。スイッチ部46は、定電流方式(CC充電方式)に基づき充電するためにリチウムイオン二次電池30に電流を流し、あるいは又、定電圧方式(CV充電方式)に基づき充電するためにリチウムイオン二次電池30に電圧を印加するための動作を、中断すること無く切り替える。スイッチ制御部43Cは、演算処理部41の制御下、スイッチ部46の作動を制御する。電流検出部47Aは、リチウムイオン二次電池30を流れる電流を検出し、検出結果を演算処理部41に送出する。電圧検出部47Bは、リチウムイオン二次電池30に印加される電圧を検出し、検出結果を演算処理部41に送出する。温度測定手段(温度検出部)47Cは、正極部材の温度[実際には、リチウムイオン二次電池30の温度(例えば、リチウムイオン二次電池30の表面温度)]を測定し、検出結果を演算処理部41に送出する。
【0041】
以下、詳しく説明するが、実施例1の充電装置にあっては、定電圧にて充電を開始する前に、又は、定電圧にて充電を行っている間に、その時点での充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する。また、実施例1の充電方法にあっては、定電圧にて充電を開始する前に、又は、定電圧にて充電を行っている間に、その時点での充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する。具体的には、リチウムイオン二次電池を、定電流−定電圧方式(CC−CV充電方式)に基づき充電し、定電流にて充電が完了した後(CC充電方式が完了した後)、定電圧にて充電を開始する(CV充電方式にて充電を開始する)前に、電流パルスを印加する。また、中断すること無く充電を行う。
【0042】
即ち、フローチャートを図13に示すように、先ず、定電流充電(CC充電)を開始する。即ち、演算処理部41及び電流発生制御部43Aの制御下、電流発生部44は、一定値I0の充電電流を生成し、リチウムイオン二次電池30に流し始める。リチウムイオン二次電池30の電圧Vは上昇する。リチウムイオン二次電池30の電圧Vは電圧検出部47Bによって検出され、検出結果は演算処理部41に送出される。また、リチウムイオン二次電池30を流れる充電電流I0(=i0)は電流検出部47Aによって検出され、検出結果は演算処理部41に送出される。リチウムイオン二次電池30の電圧が所定の値V0(例えば、4.2ボルト)に至ったとき、演算処理部41及び電流発生制御部43Aの制御下、電流発生部44は、電流パルス(ピーク電流値i1、印加時間tpulse)をリチウムイオン二次電池30に印加する。次いで、定電圧充電(CV充電)を開始する。即ち、演算処理部41及びスイッチ制御部43Cの制御下、瞬時、スイッチ部46が切り替えられる。同時に、演算処理部41及び電圧発生制御部43Bの制御下、電圧発生部45は、一定値の充電電圧V0を生成し、リチウムイオン二次電池30に印加する。リチウムイオン二次電池30の電圧(=V0)は電圧検出部47Bによって検出され、検出結果は演算処理部41に送出される。また、リチウムイオン二次電池30を流れる電流は電流検出部47Aによって検出され、検出結果は演算処理部41に送出される。リチウムイオン二次電池30を流れる充電電流値が所定の値(Icomp-A)まで減少したならば、リチウムイオン二次電池の充電を終了する。
【0043】
あるいは又、フローチャートを図14に示すように、CV充電を開始した後、CV充電時間が充電終了設定時間tcomp-Aを超えたならば、リチウムイオン二次電池の充電を終了する。
【0044】
実施例1にあっては、市販のリチウムイオン二次電池LIR2023(公称容量40mAh)に対して、CC−CV充電(先ず、定電流充電を行い、その後、定電圧充電を行う充電方式)に修正を加えた、本開示の第1の態様に係る充電方法に基づく充電実験を行った。具体的には、定電流充電段階から定電圧充電段階に切り換える際に、電流パルスを挿入した。即ち、i0=1C(40ミリアンペア)の定電流充電段階から定電圧充電段階に切り替える際に、i1=1.2C(50ミリアンペア)の電流パルスをtpulse=1秒、流した。その結果、定電圧充電段階での充電に要する時間(以下、『CV充電時間』と呼ぶ)が、電流パルスを印加しない場合と比較して、後述するように、9.6分(576秒)短縮されるという結果を得た。
【0045】
ところで、定電流充電段階の終了後に電流パルスを挿入するということは、その電流パルス分だけ余計に充電をしたことになる。よって、当然のことながら、電流パルスの分だけCV充電時間が短縮される。しかしながら、挿入した電流パルスの充電容量は50ミリアンペア×1秒であり、50mAsである。そして、充電電流値が1ミリアンペアを下回ったときに、定電圧充電段階を終了すると設定している。従って、50mAsに相当するCV充電時間の短縮は、高々50秒程度である。つまり、9.6分間のCV充電時間の短縮を、挿入した電流パルスの充電容量のみで説明することはできない。
【0046】
定電圧充電段階における充電電流の波形を詳しく観察すると、電流パルス挿入によって充電電流値が増加していることが確認できた。定電圧充電を行っているときの充電電流値の増加は、後に詳しく説明するように、リチウムイオン二次電池の内部インピーダンスの低下に起因していると考えられる。つまり、定電流充電段階から定電圧充電段階に切り替える際に電流パルスを挿入することによって、リチウムイオン二次電池の内部インピーダンスが低下し、これによって定電圧充電段階における充電電流値を増加させることができる結果、より短い時間で満充電状態にすることができると考えられる。
【0047】
以下、実施例1の充電方法を詳細に説明する。
【0048】
実施例1にあっては、充放電試験装置として独自に設計したソースメジャーユニットを使用した。尚、このソースメジャーユニットのスペックを表1に示す。電圧と電流の過渡応答の観察にはオシロスコープを用い、より遅い挙動の観察にはデータロガーを用いた。
充放電のシミュレーションには、有限要素法シミュレーションソフトウエアである COMSOL Multiphysics 5.2 を用いた。シミュレーションのモデルは、このソフトウエアの「バッテリー&燃料電池モジュール」に付属の「一次元・等温モデルのニューマン・モデル」(M, Doyle, J. Newman, A. S. Gozdz, C. N. Schmutz and J.-M. Tarascon, J. Electrochem. Soc. 143(6), 1996, 1890-1903 参照)を用いた。
【0049】
〈表1〉ソースメジャーユニットの主なスペック
電圧範囲
−2.5ボルト乃至4.9ボルト
測定分解能:3.5マイクロボルト
設定分解能:120マイクロボルト
電流範囲
−51ミリアンペア乃至51ミリアンペア
測定分解能:49ナノアンペア
設定分解能:1.6マイクロアンペア
時間分解能
50ミリ秒
動作モード
定電流モード(CC)/定電圧モード(CV)/開放モード
【0050】
充放電サイクル試験の条件を、図2図3A図3Bおよび図3Cに示す。CC充電とCV充電との間に、印加時間tpulseおよび電流ipulseの電流パルスを挿入した。サイクル記号を、以下の表2および表3に示す。尚、図2は、サイクル記号C1,C2,R,D,Nにおける充放電サイクル試験の条件を示す図である。また、図3Aは、サイクル記号CMIDにおける充放電サイクル試験の条件を示す図であり、図3Bは、サイクル記号CCIMにおける充放電サイクル試験の条件を示す図であり、図3Cは、サイクル記号NCIMにおける充放電サイクル試験の条件を示す図である。尚、図2図3A図3Bおよび図3Cにおいて、「CC Chg」はCC充電を意味し、「CV Chg」及び「CV Charge」はCV充電を意味し、「Rest」は充放電休止を意味し、「CC Discharge」は定電流での放電を意味する。
【0051】
〈表2〉サイクル記号
pulsepulse
1 1秒 50ミリアンペア
2 2秒 50ミリアンペア
R 1秒 0ミリアンペア
D 1秒 −20ミリアンペア
N 無し 無し
【0052】
〈表3〉サイクル記号(続き)
・サイクル記号CMID:CC充電完了後、CV充電を開始してから2000秒後に50ミリアンペア×1秒の電流パルスを挿入する。
・サイクル記号CCIM:CC充電完了後、CV充電を開始する前に、50ミリアンペア×1秒の電流パルスを挿入する。そして、CV充電を開始してから2000秒後に、一旦、開放状態とし、更に、3600秒経過後、CV充電を再開する。
・サイクル記号NCIM:電流パルスを印加しない点を除き、サイクル記号CCIMと同様の充電を行う。
【0053】
サイクル記号「C1」と「C2」の違いは、挿入される電流パルスが共に充電パルスであるが、C1ではtpulse=1秒、C2ではtpulse=2秒といった電流パルス印加時間の違いである。サイクル記号「R」は、1秒間、充電電流を流すことを中断することを意味している。サイクル記号「D」においては、電流パルスの電流の向きが逆であり、放電パルスである。サイクル記号「N」は、電流パルスを挿入しない通常の充放電サイクルを意味する。
【0054】
以上に説明した各種サイクル記号の充放電サイクルを以下のとおりの組合せとして、充放電サイクル試験を行った。
【0055】
実験−1:{R−N−D−N−R−N−C1−N}を繰り返し単位とする充放電サイクル試験
実験−2:{C1−N−C2−N}を繰り返し単位とする充放電サイクル試験
実験−3:{C1−N−CMID−N}を繰り返し単位とする充放電サイクル試験
実験−4:{C1−N}を繰り返し単位とする充放電サイクル試験のシミュレーション
実験−5:{CCIM−NCIM}を繰り返し単位とする充放電サイクル試験
【0056】
ここで、“実験−1”は、電流パルスを挿入することそれ自体の影響と、電流パルスの電流値依存性を評価するための実験である。“実験−2”は、電流パルスの印加時間依存性を評価するための実験である。“実験−3”は、電流パルスを挿入するタイミングを変えた実験である。“実験−5”は、CV充電中に充電電流の遮断を行う実験である。“実験−4”は、充放電サイクル試験のシミュレーションであり、電流パルスを挿入した効果が、一次元・等温モデルのニューマン・モデルに含まれている物理現象であるかどうかを定性的に調べるための実験である。
【0057】
サイクル記号CCIM及びサイクル記号NCIMにおける充放電サイクルにあっては、開放状態にする直前の電流i0’と電圧V0’、開放状態にしてから1秒経過後の電圧V1’、3600秒経過後の電圧V3600’を計測し、電圧変化量ΔV1’(=V1’−V0’)及びΔV3600’(=V3600’−V0’)を求めた。また、実験−1、実験−2、実験−3および実験−5においては実際のリチウムイオン二次電池を使用したが、実験−4では、上述したCOMSOL Multiphysics 5.2 を用いた有限要素法シミュレーションを行った。
【0058】
[実験−1]
実験−1の結果を図4Aに示す。リチウムイオン二次電池の放電容量Cは、充放電サイクル数nに対して単調減少する傾向にあった。CC充電時間tCCも、充放電サイクル数nに対して、緩やかに単調減少する傾向を示した。CC充電時間tCCの充放電サイクルの種類(N,C1,R,D)による依存性は、殆ど認められなかった。一方、CV充電時間tCVは、サイクルの種類に対して高い依存性を示した。具体的には、電流パルスを印加していないとき(サイクル記号Nを参照)と比較して、電流パルスを充電方向とする場合(サイクル記号C1を参照)にはCV充電時間が増加し、休止(サイクル記号Rを参照)又は放電方向である場合(サイクル記号Dを参照)、CV充電時間は減少した。
【0059】
次に、第nサイクル目における放電容量Cnを、直前・直後のサイクルにおける放電容量Cn-1及びCn+1の平均値と比較した結果(放電容量比)を図4Bに示す。尚、図4B及び図6Bにおける縦軸は、放電容量比を示すが、放電容量比は、以下の式で表される。電流パルスが充電方向(サイクル記号C1を参照)である場合、電流パルスを印加していない場合(サイクル記号Nを参照)よりも放電容量が大きくなり、一方で、休止(サイクル記号Rを参照)又は放電方向(サイクル記号Dを参照)である場合、放電容量が小さくなった。
【0060】
放電容量比=2・Cn/(Cn-1+Cn+1
【0061】
図4A及び図4Bから、CC充電とCV充電との間に電流パルスを印加することによって、CV充電時間のみならず、放電容量も増加していることが分かった。放電容量が電流パルスを印加していない場合(サイクル記号Nを参照)のときよりも大きかったということは、電流パルス印加によって過充電状態になったということである。従って、もしも、過充電状態にならないように、充電容量が電流パルスを印加していない場合(サイクル記号Nを参照)と同じ充電容量になる時点で充電を停止した場合、CV充電時間はどうなるかを、第23サイクル目、第24サイクル目及び第25サイクル目のCV充電部分に注目して解析した(図5A及び図5B参照)。尚、図5Bは、図5Aの一部を拡大したものである。その結果、電流パルスを充電方向とする場合(サイクル記号C1を参照)のCV充電時間は67.2分であり、仮に、電流パルスを印加していないとき(サイクル記号Nを参照)と同じ充電容量(24.45mAh)になった時点でCV充電を止めるとすれば、CV充電時間は51.3分になることが分かった。これは、電流パルスを印加していないとき(サイクル記号Nを参照)のCV充電時間である60.9分よりも9.6分短く、即ち、1秒の電流パルス印加によって9.6分ものCV充電時間が短縮できたということである。
【0062】
[実験−2]
次に、電流パルスの印加時間tpulseの依存性を調べるために、実験−2を行った。その結果を、図6Aに示す。サイクル記号C1での電流パルス印加時間tpulseは1秒であり、サイクル記号C2での電流パルス印加時間tpulseは2秒である。放電容量Cは、実験−1と同様に、充放電サイクル数nが増加するに従い、ほぼ単調減少した。また、CC充電時間tCCの傾向も実験−1の結果と同様であり、充放電サイクルの種類(N,C1,C2)に拘わらず、緩やかに単調減少した。CV充電時間tCVは、電流パルス印加の有無で大きく異なり、具体的には、電流パルスを印加していない場合(サイクル記号Nを参照)と比較して、電流パルスを印加した場合、CV充電時間が増加した。但し、電流パルス印加時間tpulse=1秒とtpulse=2秒との間で、CV充電時間に明確な違いは認められなかった。第nサイクル目における放電容量Cnを、直前・直後のサイクルにおける放電容量Cn-1及びCn+1の平均値と比較した結果(放電容量比)を図6Bに示すが、この結果からも、電流パルス印加時間tpulse=1秒とtpulse=2秒との間で、CV充電時間に明確な違いは認められなかった。
【0063】
[実験−3]
次に、電流パルスを挿入するタイミングの影響を調べるために、実験−3を行った(図7参照)。サイクル記号C1の充放電サイクルでは、CC充電とCV充電との間に電流パルスを挿入しているが、サイクル記号CMIDの充放電サイクルでは、CV充電を開始してから2000秒後に電流パルスを挿入している。実験−3は、この電流パルスの挿入タイミングの違いを見るための実験である。
【0064】
放電容量Cは、実験−1及び実験−2と同様に、サイクル数nに対してほぼ単調減少した。CC充電時間tCCの傾向も同様であり、充放電サイクルの種類(N,C1,CMID)に拘わらず、緩やかに単調減少した。CV充電時間tCVは電流パルス印加の有無で大きく異なり、具体的には、電流パルスを印加していない場合(サイクル記号Nを参照)と比較して、電流パルスを印加した場合、CV充電時間が増加した。但し、サイクル記号C1の充放電サイクルと、サイクル記号CMIDの充放電サイクルとにおいて、CV充電時間tCVに明確な違いは認められなかった。
【0065】
図8A及び図8Bは、第21サイクル目、第22サイクル目及び第23サイクル目のCV充電部分に注目して、正味のCV充電時間を解析した図である。尚、図8Bは、図8Aの一部を拡大したものである。サイクル記号Nの充放電サイクルにおけるCV充電時間は57.4分で、満充電容量は24.64mAhであった。サイクル記号CMIDの充放電サイクルにおいて同じ充電容量に達する時間は56.9分であり、0.5分の短縮を図ることができる。サイクル記号C1の充放電サイクルにおいて同じ充電容量に達する時間は48.2分であり、9.2分の短縮を図ることができた。以上のとおり、電流パルスを挿入するタイミングを遅らすと、その分、CV充電時間短縮の効果が減少することが分かった。
【0066】
図9Aには、サイクル記号C1の充放電サイクルとサイクル記号Nの充放電サイクルとにおけるCV充電電流値の差分、及び、サイクル記号CMIDの充放電サイクルとサイクル記号Nの充放電サイクルとにおけるCV充電電流値の差分を示した。どちら場合にも、電流パルスを印加した直後に負になったが、その後、数分から十数分の時間をかけて徐々に増加し、差分は負から正になり、最終的には+0.15ミリアンペア近辺の値に漸近した。
【0067】
[実験−4]
電流差分の緩和挙動が、一次元・等温モデルのニューマン・モデルを用いて説明することができるかどうかを調べるために、有限要素法を用いて、実験−4の定性的なシミュレーションを行った。シミュレーションによって得られた、サイクル記号C1の充放電サイクルとサイクル記号Nの充放電サイクルとにおけるCV充電電流値の差分を図9Bに示す。図9Bから、電流パルス印加直後に差分が負になる挙動、及び、その後、緩やかに増加する挙動については、実際のリチウムイオン二次電池を用いた実験結果(図9A参照)と矛盾しなかった。しかしながら、シミュレーションにおける電流漸近値は0ミリアンペアであり、実際のリチウムイオン二次電池を用いた実験結果では電流漸近値は約+0.15ミリアンペアであった。即ち、シミュレーションによって、電流パルス印加直後の過渡応答挙動については再現されたが、その後の定常状態については再現されなかった。これは、電流パルス印加後の過渡応答に関しては一次元・等温モデルのニューマン・モデルで説明することができるが、その後の定常状態に関しては、一次元・等温モデルのニューマン・モデルで説明することができないことを示唆しており、つまり、例えば二次元以上の構造による効果や温度変化等の、ニューマン・モデルで無視されている要素に起因する挙動であることを示唆する結果が得られた。
【0068】
[実験−5]
次に、電流パルス印加によってリチウムイオン二次電池の内部インピーダンスが変化するか否かを調べるために、実験−5を行った(図10参照)。サイクル記号CCIM及びNCIMの充放電サイクルでは、電流パルス印加によって生じる過渡応答が一服するCV充電開始から2000秒経過後に3600秒間の電流遮断を行う。そして、電圧変化量ΔV1’(=V1’−V0’)及びΔV3600’(=V3600’−V0’)を求めた(図11A及び図11B参照)。尚、図11Bは、図11Aの一部を拡大したものである。そして、以下の式により内部インピーダンスのオーム性成分ROhmicとファラデー性成分RFaradaicを計算した。尚、これらの内部インピーダンスは、例えば、電流遮断法(current interrupt method)によって算出することができ、K. R. Cooper and M. Smith, "Electrical test methods for on-line fuel cell ohmic resistance measurement", Journal of Power Sources 160(2), 2006, 1088-1095 に詳細が述べられている。
【0069】
Ohmic =ΔV1’/i0
Faradaic=(V3600’/i0’)−ROhmic
【0070】
図10から、放電容量Cについて、これまでの実験結果の挙動とは異なり、充放電サイクル数nに対して緩やかに単調増加した。充電時間の挙動についても、これまでの実験結果の挙動とは異なっており、CC充電時間tCCもCV充電時間tCVも、電流パルス印加の有無によらずほぼ一定であった。
【0071】
図12Aに、サイクル記号CCIMの充放電サイクルとサイクル記号NCIMの充放電サイクルとにおけるCV充電電流値の差分を示す。電流パルスを印加した直後に負になったが、その後、数分から十数分の時間をかけて徐々に増加し、差分は負から正になり、最終的には+0.15ミリアンペア近辺の値に漸近した。ここまでの挙動は、図9Aで見られた、サイクル記号C1の充放電サイクルと、サイクル記号Nの充放電サイクルとにおけるCV充電電流値の差分の挙動と同様であった。しかし、CV充電開始2000秒経過後に3600秒間の電流遮断を行うと、CV充電再開後の充電電流値の差分はほぼゼロになった。即ち、電流パルス印加による効果が消失した。
【0072】
図12Bに、内部インピーダンスのオーム性成分ROhmic及びファラデー性成分RFaradaicのサイクル依存性を示す。図12Bから、電流パルスを印加したサイクル記号CCIMの充放電サイクルにおける内部インピーダンスは、電流パルスを印加していないサイクル記号NCIMの充放電サイクルにおける内部インピーダンスと比較して、オーム性成分ROhmicもファラデー性成分RFaradaicも減少することが分かった。電流パルス印加による内部インピーダンスの減少量を、線形近似のもと、回帰分析によって見積もったところ、電流パルス印加によるオーム性成分の減少量ΔROhmic=91ミリオーム、ファラデー性成分の減少量ΔRFaradaic=375ミリオームとなり、ファラデー性成分の減少量の方が数倍大きいという結果になった。これは、変化の生じた部位が、電解液ではなく、主として電極であったということを示唆する結果であると云える。
【0073】
以上の各種の実験から、1<i1/i0≦10 を満足することが好ましいことが分かった。また、電流パルスを印加する時間は、0.01秒以上、10秒以下であればよい。更には、電流パルスの印加回数は、1回乃至10回とすることができるが、1回であれば十分であることが分かった。
【0074】
更には、電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZA、充電終了設定電流値をIcomp-Aとし、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZB、充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、Icomp-Aは、
comp-A=(ZB/ZA)×Icomp-B
を満足することが好ましい。あるいは又、電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定電流値をIcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、Icomp-B<Icomp-A≦5×Icomp-B を満足することが好ましい。あるいは又、電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-Bとしたとき、0.7×tcomp-B≦tcomp-A<tcomp-B を満足することが好ましい。
【0075】
実施例1の充電方法にあっては、1秒間の電流パルス印加によって正味のCV充電時間が9.6分短縮した。ここで、印加する電流パルスの時間tpulseは1秒、ピーク電流値i1は50ミリアンペアであるため、この電流パルスによる充電容量は50mAsである。実施例1にあっては、充電終了設定電流値を1ミリアンペアに設定してある。即ち、CV充電末期の充電電流波形は1ミリアンペアに漸近する波形であり、充電電流値はほぼ1ミリアンペアと見做せる。つまり、電流パルスによって充電された容量(50mAs)に相当する時間は約50秒である。よって、もしも、CV充電時間の短縮量が約50秒である場合、CV充電時間の短縮は、単に、電流パルスによって充電されたからであるということで説明がつく。しかしながら、実際には、9.6分(576秒)もの短縮になっており、実に11倍にも及ぶ。このことから、電流パルスの印加には、電流パルスに起因した充電容量の増加以上の効果が伴うと云える。
【0076】
電流パルス印加によってリチウムイオン二次電池の状態そのものが変化する状態遷移モデルを考える。リチウムイオン二次電池には、通常状態、低インピーダンス状態及び高インピーダンス状態という3つの状態があり、これらの状態は、一定の条件を満たすことによって双方向に遷移し合うというモデルである。実験−1〜実験−5で観察された現象を書き込んだ状態遷移図を図17に示す。図17に示すとおり、通常状態から低インピーダンス状態及び高インピーダンス状態への遷移は、電流パルス印加がトリガーとなって起こる。そして、次のサイクルになるか、CV充電中に3600秒の電流遮断を行うことによって、元の通常状態へと戻る。通常状態に戻った後、次のサイクルで再び電流パルスを印加すれば、再度、低インピーダンス状態又は高インピーダンス状態へと遷移する。即ち、この遷移は可逆的であり、両状態間を何度でも行き来することができる。また、この状態遷移は、一次元・等温モデルのニューマン・モデルには含まれていない要素に起因する状態変化であることが分かった。そして、この状態変化の結果として、内部インピーダンスの、特にファラデー性成分(電解液起因ではなく、電極起因の成分)が変化することが分かった。
【0077】
一次元・等温モデルのニューマン・モデルには含まれていない要素に起因した状態変化であって、しかも、電解液起因ではなく、電極起因のインピーダンス減少を伴う状態変化で、更には、可逆性のある状態変化とは、具体的にはどのような状態変化であるかを考察する。
【0078】
先ず、第1番目の可能性として、「低インピーダンス状態とは、電極温度が僅かに上昇した状態(=高温状態)である」という可能性について考察する。もしも、電流パルスによってリチウムイオン二次電池内部で熱が発生したとすれば、これによってリチウムイオン二次電池内部の温度が上昇し、その結果として内部インピーダンスが減少する。また、このような熱発生や温度変化に伴う内部インピーダンスの変化は、今回使用した等温モデルのニューマン・モデルには含まれていない要素であり、その点でも矛盾はない。更に、状態変化が単なる温度変化であるということになれば、可逆性があることも説明がつく。
しかしながら、この可能性は大変低い。即ち、リチウムイオン二次電池の熱量QTotalは、充放電反応のエントロピー変化に伴う成分QReaction、分極損失による成分QPolarization、及び、ジュール熱成分QJouleの総和であることが既に知られている。そして、これらのうち、QReactionは電流の符号によって発熱したり吸熱したりする奇関数応答を示すが、QPolarization及びQJouleは、充電時にも放電時にも発熱となる偶関数応答を示すことが知られている(Y, Saito, Netsu Sokutei 30(1), 2003, 18-24参照)。
【0079】
Total=QReaction+QPolarization+QJoule
【0080】
充電時間の短縮といった現象は、電流パルスを印加することによって低インピーダンス状態へと遷移し、休止又は放電パルスを印加することによって高インピーダンス状態へと遷移する現象である。従って、充電電流に対して奇関数応答の現象であると云える。つまり、ここで考えるべき成分は、理論的に奇関数応答となるべきQReactionのみということになる。リチウムイオン二次電池の充放電反応に伴うQReactionの挙動については過去に多くの論文があるが、それらの報告によると、QReactionは放電時に正となり発熱し、充電時に負となり吸熱する。これは、即ち、電流パルスによるQReactionの効果は、リチウムイオン二次電池内部の温度を下げる方向に働くということである。温度が下がると内部インピーダンスは上昇するため、低インピーダンス状態に遷移するという結果とは矛盾する。
【0081】
低インピーダンス状態が高温状態であることが否定的である第2番目の理由は、その時定数である。インピーダンス低下は、CV充電中の少なくとも50分間持続している。リチウムイオン二次電池を構成する部材は、銅、アルミニウム、カーボン等、熱伝導率の高いものばかりであり、また外装部材も放熱性の良い金属缶であり、僅か1秒間の電流パルスで生じた温度変化が50分間も持続するということは考え難い。
【0082】
以上の理由により、低インピーダンス状態が高温状態に起因するということは考え難い。
【0083】
先に述べたように、状態遷移によって内部インピーダンスのファラデー性成分が変化したことから、これは、電解液ではなく、電極に生じた変化であると云える。次に、低インピーダンス状態であるといった現象は、一次元・等温モデルのニューマン・モデルには含まれていない物理現象であり、且つ、上述の考察によって温度起因は否定的である。よって、消去法的に考えると、低インピーダンス状態であるといった現象は電極の構造変化か、電極材料そのものの物性変化(例えば相転移等)が関係していると考えられる。しかし、構造変化現象は一般的に可逆性が低い。例えば、活物質層にクラックが生じたり、活物質粒子が破砕したりするような大きな構造変化は、当然のことながら可逆性がない。可逆的な構造変化現象と言えば、結晶構造の相転移等、かなり微視的なものに限られてくる。
以上の議論の演繹的な結論として、低インピーダンス状態であるといった現象は、電極材料の何らかの相転移現象が関係していると推定される。
【0084】
低インピーダンス状態であるといった現象には、更にもう1つの重要な特徴がある。それは、低インピーダンス状態が、3600秒の電流遮断によって元の通常状態へと戻るという特徴である。この挙動に対する1つの解釈として、低インピーダンス状態とは、電流を流し続けないとその状態を維持できない状態であるという解釈があり得る。もしも、この現象が相転移現象と関係していたとすると、「電流を流している間だけとある相に転移し、電流を止めたならば元の相に戻る」という、電流誘起相転移現象であるという結論が1つの可能性として浮上してくる。また、電流誘起相転移現象を支持する1つの傍証として、リチウムイオン二次電池の正極材料として使用されるLixCoO2は、そもそも、相転移現象と大変馴染みの深い材料であることが挙げられる。充放電によってxの値は0.5から1.0までの範囲を行き来するが、x>0.93と、x<0.75とでは異なる格子定数を持つことが知られている。また、x=0.5近傍では六方晶系から単斜晶系へと相転移することが知られている(J. N. Reimers and J. R. Dahn, J. Electrochem. Soc. 139(8), 1992, 2091-2097 参照)。
【0085】
以上のとおり、実施例1あるいは後述する実施例2の充電装置、充電方法にあっては、電流パルスを少なくとも1回印加することによって、リチウムイオン二次電池の内部インピーダンスを低下させることができる結果、定電圧充電段階における充電電流値を増加させることができ、より短時間でリチウムイオン二次電池を満充電状態にすることが可能となる。
【実施例2】
【0086】
実施例2は、本開示の第2の態様に係る充電装置及び本開示の第2の態様に係る充電方法に関する。
【0087】
実施例2の充電装置は、正極材料にLixCoO2が含まれているリチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式に基づき充電する充電装置である。また、実施例2の充電方法は、正極材料にLixCoO2が含まれているリチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式に基づき充電する充電方法である。
【0088】
そして、実施例2の充電装置は、
リチウムイオン二次電池の充電中にxの値を算出するx値算出手段、及び、
リチウムイオン二次電池の充電中に正極材料の温度を測定する温度測定手段、
を備えており、
x値算出手段によって算出されたxの値、及び、温度測定手段によって測定された正極材料の温度の値に基づき、電流パルスを印加する直前の充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する時点を決定する。
【0089】
また、実施例2の充電方法は、
リチウムイオン二次電池の充電中にxの値を算出し、併せて、正極材料の温度を測定し、
算出されたxの値、及び、測定された正極材料の温度の値に基づき、電流パルスを印加する直前の充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する時点を決定する。
【0090】
ここで、LixCoO2におけるxの値は、例えば、Hannah M. Dahn, A. J. Smith, J. C. Burns, D. A. Stevens, and J. R. Dahn,“User-Friendly Differential Voltage Analysis Freeware for the Analysis of Degradation Mechanisms in Li-Ion Batteries”, Journal of The Electrochemical Society 159(9), 2012, A1405-A1409 に記載のdV/dQ解析を応用することによって算出することができる。
【0091】
即ち、リチウムイオン二次電池の充電時、リチウムイオン二次電池の電圧を検出し、電圧を容量で微分することで、リチウムイオン二次電池の電圧変化に発生した一種の段差部を知ることができる。また、そのときの積算充電容量を知ることができる。そして、演算処理部41において、これらのデータに基づきdV/dQ解析を行うことでxの値を得ることができる。尚、dV/dQ解析とは、充放電曲線を容量で微分することによって微細構造を際立たせ、特徴的な微細構造が幾つの容量値において現れるかを調べて、正負極の有効活物質容量をそれぞれ求めたり、正極のSOC(LixCoO2電極の場合には、x=1−SOC/2)と負極のSOC(C6Lix電極の場合には、x=SOC)とをそれぞれ求めたりする手法のことである。
【0092】
また、正極材料の温度を算出するには、例えば、リチウムイオン二次電池の近傍に設置された(あるいは、リチウムイオン二次電池の表面に取り付けられた)サーミスタの抵抗値を読み取ることによってリチウムイオン二次電池の外装温度を算出し、これを、ほぼ正極材料の温度と等しいとして読み替えることができる。あるいは又、その場測定(in-situ 測定)に基づき、電気化学インピーダンス・スペクトル(EIS)を測定し、Cole−Coleプロットの解析を行い、正極材料に相当する円弧の直径から正極材料のインピーダンスを求め、予め用意しておいた「温度対インピーダンス」曲線を用いて、正極材料の温度を算出する。後者の温度算出法は、例えば、Lixia Liao, Pengjian Zuo, Yulin Ma, XinQun Chen, Yongxin An, Yunzhi Gao, Geping Yin, "Effects of temperature on charge/discharge behaviors of LiFePO4 cathode for Li-ion batteries", Electrochimica Acta 60, 2012, 269-273 にその詳細が述べられている。
【0093】
以下、実施例2の充電方法を説明するが、実施例2においても、中断すること無く充電を行う。
【0094】
フローチャートを図15に示すように、先ず、CC充電を開始する。即ち、演算処理部41及び電流発生制御部43Aの制御下、電流発生部44は、一定値I0の充電電流を生成し、リチウムイオン二次電池30に流し始める。リチウムイオン二次電池30の電圧Vは上昇する。温度測定手段(温度検出部)47Cによってリチウムイオン二次電池30の温度が測定され、検出結果は演算処理部41に送出される。また、リチウムイオン二次電池30の電圧Vは電圧検出部47Bによって検出され、検出結果は演算処理部41に送出され、演算処理部41においてxの値が算出される。
【0095】
xの値が所定の値となったならば、演算処理部41及び電流発生制御部43Aの制御下、電流発生部44は、電流パルス(ピーク電流値i1、印加時間tpulse)をリチウムイオン二次電池30に印加する。ここで、xの値が所定の値となったとき、正極材料は六方晶系から単斜晶系の領域に入った状態となる。尚、単斜晶系の領域に入っても、直ちに単斜晶系に変化する訳ではなく、一種、過冷却状態のような準安定状態になると考えられる。
そして、電流パルスを与えることで、正極材料に一種の衝撃が与えられことにより、六方晶系から単斜晶系への相転移が促される。六方晶系から単斜晶系に相転移する過程で、LixCoO2から成る正極材料は、リチウムイオンを放出しなければならない。つまり、正極材料は過電圧が極端に低い状態となる。リチウムイオン二次電池全体でみると、低インピーダンス状態となる。
【0096】
放出されたリチウムイオンを滞りなく受け止められるようにするため、直ちに、CV充電を開始する。即ち、演算処理部41及びスイッチ制御部43Cの制御下、瞬時に、スイッチ部46が切り替えられる。同時に、演算処理部41及び電圧発生制御部43Bの制御下、電圧発生部45は、一定値の充電電圧V0を生成し、リチウムイオン二次電池30に印加する。リチウムイオン二次電池30の電圧(=V0)は電圧検出部47Bによって検出され、検出結果は演算処理部41に送出される。また、リチウムイオン二次電池30を流れる電流は電流検出部47Aによって検出され、検出結果は演算処理部41に送出される。リチウムイオン二次電池30を流れる充電電流値が所定の値(Icomp-A)まで減少したならば、リチウムイオン二次電池の充電を終了する。即ち、充電電流が、或る閾値を下回ったならば定電圧制御を打ち切るが、リチウムイオン二次電池が低インピーダンス状態になっているため、閾値は高めに設定しておく。そうしないと、State-Of-Charge の値が1を超え、リチウムイオン二次電池が劣化し易い状態になってしまう。尚、この点は、実施例1においても同様である。
【0097】
あるいは又、フローチャートを図16に示すように、CV充電を開始した後、CV充電時間が充電終了設定時間tcomp-Aを超えたならば、リチウムイオン二次電池の充電を終了する。
【実施例3】
【0098】
実施例3においては、円筒型のリチウムイオン二次電池から成るリチウムイオン二次電池を説明する。実施例3の円筒型のリチウムイオン二次電池の模式的な断面図を図18に示す。また、実施例3のリチウムイオン二次電池を構成する電極構造体の長手方向に沿った模式的な一部断面図を図19に示す。ここで、図19は、正極リード部及び負極リード部が配されていない部分の模式的な一部断面図であり、図面の簡素化のために電極構造体を平坦に示すが、実際には、電極構造体は捲回されているので、湾曲している。
【0099】
実施例3のリチウムイオン二次電池にあっては、ほぼ中空円柱状の電極構造体収納部材11の内部に、電極構造体21及び一対の絶縁板12,13が収納されている。電極構造体21は、例えば、セパレータ26を介して正極部材22と負極部材24とを積層して電極構造体を得た後、電極構造体を捲回することで作製することができる。
【0100】
電極構造体収納部材(電池缶)11は、一端部が閉鎖され、他端部が開放された中空構造を有しており、鉄(Fe)および/またはアルミニウム(Al)等から作製されている。電極構造体収納部材11の表面にはニッケル(Ni)等がメッキされていてもよい。一対の絶縁板12,13は、電極構造体21を挟むと共に、電極構造体21の捲回周面に対して垂直に延在するように配置されている。電極構造体収納部材11の開放端部には、電池蓋14、安全弁機構15及び熱感抵抗素子(PTC素子、Positive Temperature Coefficient 素子)16がガスケット17を介してかしめられており、これによって、電極構造体収納部材11は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電極構造体収納部材11と同様の材料から作製されている。安全弁機構15及び熱感抵抗素子16は、電池蓋14の内側に設けられており、安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。安全弁機構15にあっては、内部短絡や、外部からの加熱等に起因して内圧が一定以上になると、ディスク板15Aが反転する。そして、これによって、電池蓋14と電極構造体21との電気的接続が切断される。大電流に起因する異常発熱を防止するために、熱感抵抗素子16の抵抗は温度の上昇に応じて増加する。ガスケット17は、例えば、絶縁性材料から作製されている。ガスケット17の表面にはアスファルト等が塗布されていてもよい。
【0101】
電極構造体21の捲回中心には、センターピン18が挿入されている。但し、センターピン18は、捲回中心に挿入されていなくともよい。正極部材22には、アルミニウム等の導電性材料から作製された正極リード部23が接続されている。具体的には、正極リード部23は正極集電体22Aに取り付けられている。負極部材24には、銅等の導電性材料から作製された負極リード部25が接続されている。具体的には、負極リード部25は負極集電体24Aに取り付けられている。負極リード部25は、電極構造体収納部材11に溶接されており、電極構造体収納部材11と電気的に接続されている。正極リード部23は、安全弁機構15に溶接されていると共に、電池蓋14と電気的に接続されている。
尚、図18に示した例では、負極リード部25は1箇所(捲回された電極構造体の最外周部)であるが、2箇所(捲回された電極構造体の最外周部及び最内周部)に設けられている場合もある。
【0102】
電極構造体21は、正極集電体22A上に(具体的には、正極集電体22Aの両面に)正極活物質層22Bが形成された正極部材22と、負極集電体24A上に(具体的には、負極集電体24Aの両面に)負極活物質層24Bが形成された負極部材24とが、セパレータ26を介して積層されて成る。正極リード部23を取り付ける正極集電体22Aの領域には、正極活物質層22Bは形成されていないし、負極リード部25を取り付ける負極集電体24Aの領域には、負極活物質層24Bは形成されていない。
【0103】
実施例1のリチウムイオン二次電池の仕様を以下の表4に例示する。
【0104】
〈表4〉
正極集電体22A : 厚さ20μmのアルミニウム箔
正極活物質層22B: 片面当たり厚さ50μm
正極リード部23 : 厚さ100μmのアルミニウム(Al)箔
負極集電体24A : 厚さ20μmの銅箔
負極活物質層24B: 片面当たり厚さ50μm
負極リード部25 : 厚さ100μmのニッケル(Ni)箔
【0105】
正極部材22を作製する場合、先ず、正極活物質(LixCoO2)91質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、正極導電剤(黒鉛、グラファイト)6質量部とを混合して、正極合剤とする。次いで、正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン)と混合して、ペースト状の正極合剤スラリーとする。次いで、コーティング装置を用いて帯状の正極集電体22A(厚さ20μmのアルミニウム箔)の両面に正極合剤スラリーを塗布した後、正極合剤スラリーを乾燥させて、正極活物質層22Bを形成する。
そして、ロールプレス機を用いて正極活物質層22Bを圧縮成型する。
【0106】
負極部材24を作製する場合、先ず、負極活物質(黒鉛(グラファイト)、あるいは、黒鉛とシリコンとの混合材料)97質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部とを混合して、負極合剤とする。黒鉛の平均粒径d50を20μmとする。次いで、負極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン)と混合して、ペースト状の負極合剤スラリーとする。次いで、コーティング装置を用いて帯状の負極集電体24A(厚さ20μmの銅箔)の両面に負極合剤スラリーを塗布した後、負極合剤スラリーを乾燥させて、負極活物質層24Bを形成する。そして、ロールプレス機を用いて負極活物質層24Bを圧縮成型する。
【0107】
セパレータ26は、厚さ20μmの微多孔性ポリエチレンフィルムから成る。また以下の表5あるいは表6に示す組成を有する非水系の電解液が、電極構造体21に含浸されている。尚、非水系電解液の溶媒とは、液状の材料だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0108】
〈表5〉
有機溶媒 :EC/PC 質量比で1/1
非水系電解液を構成するリチウム塩:LiPF6 1.0モル/リットル
【0109】
〈表6〉
有機溶媒 :EC/DMC 質量比で3/5
非水系電解液を構成するリチウム塩:LiPF6 1.0モル/リットル
【0110】
非水系電解液を調製する場合、第1化合物、第2化合物、第3化合物、及び、他の材料を混合、撹拌する。第1化合物としては、例えば、ビスフルオロスルホニルイミドリチウム(LiFSI)又はビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiTFSI)を用いる。また、第2化合物としては、例えば、非酸素含有モノニトリル化合物であるアセトニトリル(AN)、プロピオニトリル(PN)若しくはブチロニトリル(BN)、又は、酸素含有モノニトリル化合物であるメトキシアセトニトリル(MAN)を用いる。更には、第3化合物としては、例えば、不飽和環状炭酸エステルである炭酸ビニレン(VC)、炭酸ビニルエチレン(VEC)若しくは炭酸メチレンエチレン(MEC)、又は、ハロゲン化炭酸エステルである4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)若しくは炭酸ビス(フルオロメチル)(DFDMC)、又は、ポリニトリル化合物であるスクシノニトリル(SN)を用いる。更には、他の材料としては、例えば、環状炭酸エステルである炭酸エチレン(EC)、鎖状炭酸エステルである炭酸ジメチル(DMC)、電解質塩である六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)および/または四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)を用いる。但し、電解液は、このような組成に限定するものではない。
【0111】
リチウムイオン二次電池は、例えば、以下の手順に基づき製造することができる。
【0112】
先ず、上述したように、正極集電体22Aの両面に正極活物質層22Bを形成し、負極集電体24Aの両面に負極活物質層24Bを形成する。
【0113】
その後、溶接法等を用いて、正極集電体22Aに正極リード部23を取り付ける。また、溶接法等を用いて、負極集電体24Aに負極リード部25を取り付ける。次に、厚さ20μmの微多孔性ポリエチレンフィルムから成るセパレータ26を介して正極部材22と負極部材24とを積層し、捲回して、(より具体的には、正極部材22/セパレータ26/負極部材24/セパレータ26の電極構造体(積層構造体)を捲回して)、電極構造体21を作製した後、最外周部に保護テープ(図示せず)を貼り付ける。その後、電極構造体21の中心にセンターピン18を挿入する。次いで、一対の絶縁板12,13で電極構造体21を挟みながら、電極構造体21を電極構造体収納部材(電池缶)11の内部に収納する。この場合、溶接法等を用いて、正極リード部23の先端部を安全弁機構15に取り付けると共に、負極リード部25の先端部を電極構造体収納部材11に取り付ける。その後、減圧方式に基づき有機電解液あるいは非水系電解液を注入して、有機電解液あるいは非水系電解液をセパレータ26に含浸させる。次いで、ガスケット17を介して電極構造体収納部材11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15及び熱感抵抗素子16をかしめる。
【実施例4】
【0114】
実施例4において、リチウムイオン二次電池は平板型のラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池から成り、正極部材、セパレータ及び負極部材が捲回されている。実施例4の二次電池の模式的な分解斜視図を図20及び図21Aに示し、図21Aに示す電極構造体(積層構造体)の矢印A−Aに沿った模式的な拡大断面図(YZ平面に沿った模式的な拡大断面図)を図21Bに示す。更には、図21Bに示す電極構造体の一部を拡大した模式的な一部断面図(XY平面に沿った模式的な一部断面図)は、図19に示したと同様である。
【0115】
実施例4の二次電池にあっては、ラミネートフィルムから成る外装部材50の内部に、基本的に実施例1と同様の電極構造体21が収納されている。電極構造体21は、セパレータ26及び電解質層28を介して正極部材22と負極部材24とを積層した後、この積層構造体を捲回することで作製することができる。正極部材22には正極リード部23が取り付けられており、負極部材24には負極リード部25が取り付けられている。電極構造体21の最外周部は、保護テープ29によって保護されている。
【0116】
正極リード部23及び負極リード部25は、外装部材50の内部から外部に向かって同一方向に突出している。正極リード部23は、アルミニウム等の導電性材料から形成されている。負極リード部25は、銅、ニッケルおよび/またはステンレス鋼等の導電性材料から形成されている。これらの導電性材料は、例えば、薄板状又は網目状である。
【0117】
外装部材50は、図20に示す矢印Rの方向に折り畳み可能な1枚のフィルムであり、外装部材50の一部には、電極構造体21を収納するための窪み(エンボス)が設けられている。外装部材50は、例えば、融着層と、金属層と、表面保護層とがこの順に積層されたラミネートフィルムである。リチウムイオン二次電池の製造工程では、融着層同士が電極構造体21を介して対向するように外装部材50を折り畳んだ後、融着層の外周縁部同士を融着する。但し、外装部材50は、2枚のラミネートフィルムが接着剤等を介して貼り合わされたものでもよい。融着層は、例えば、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレン等のフィルムから成る。金属層は、例えば、アルミニウム箔等から成る。表面保護層は、例えば、ナイロンおよび/またはポリエチレンテレフタレート等から成る。中でも、外装部材50は、ポリエチレンフィルムと、アルミニウム箔と、ナイロンフィルムとがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムであることが好ましい。但し、外装部材50は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレン等の高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。具体的には、ナイロンフィルム(厚さ30μm)と、アルミニウム箔(厚さ40μm)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ30μm)とが外側からこの順に積層された耐湿性のアルミラミネートフィルム(総厚100μm)から成る。
【0118】
外気の侵入を防止するために、外装部材50と正極リード部23との間、及び、外装部材50と負極リード部25との間には、密着フィルム51が挿入されている。密着フィルム51は、正極リード部23及び負極リード部25に対して密着性を有する材料、例えば、ポリオレフィン樹脂等、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンおよび/または変性ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂から成る。
【0119】
図21Bに示すように、正極部材22は、正極集電体22Aの片面又は両面に正極活物質層22Bを有している。また、負極部材24は、負極集電体24Aの片面又は両面に負極活物質層24Bを有している。
【実施例5】
【0120】
実施例5においては、本開示の適用例について説明する。
【0121】
実施例1〜実施例4において説明した本開示の第1の態様〜第2の態様に係る本開示の充電装置及び充電方法は、二次電池を駆動用・作動用の電源又は電力蓄積用の電力貯蔵源として利用可能な機械、機器、器具、装置、システム(複数の機器等の集合体)に使用されるリチウムイオン二次電池に対して、特に限定されることなく、適用することができる。電源として使用されるリチウムイオン二次電池は、主電源(優先的に使用される電源)であってもよいし、補助電源(主電源に代えて、又は、主電源から切り換えて使用される電源)であってもよい。リチウムイオン二次電池を補助電源として使用する場合、主電源はリチウムイオン二次電池に限られない。
【0122】
リチウムイオン二次電池の用途として、具体的には、ビデオカメラやカムコーダ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、パーソナルコンピュータ、テレビジョン受像機、各種表示装置、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、音楽プレーヤ、携帯用ラジオ、電子ブックや電子新聞等の電子ペーパー、PDAを含む携帯情報端末といった各種電子機器、電気機器(携帯用電子機器を含む);玩具;電気シェーバ等の携帯用生活器具;室内灯等の照明器具;ペースメーカや補聴器等の医療用電子機器;メモリカード等の記憶用装置;着脱可能な電源としてパーソナルコンピュータ等に用いられる電池パック;電動ドリルや電動鋸等の電動工具;非常時等に備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステム等の電力貯蔵システムやホームエネルギーサーバ(家庭用蓄電装置)、電力供給システム;蓄電ユニットやバックアップ電源;電動自動車、電動バイク、電動自転車、セグウェイ(登録商標)等の電動車両;航空機や船舶の電力駆動力変換装置(具体的には、例えば、動力用モータ)の駆動を例示することができるが、これらの用途に限定するものではない。
【0123】
中でも、本開示におけるリチウムイオン二次電池は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電力供給システム、電動工具、電子機器、電気機器等に適用されることが有効である。優れた電池特性が要求されるため、本開示をリチウムイオン二次電池に適用することで、有効に性能向上を図ることができる。電池パックは、リチウムイオン二次電池を用いた電源であり、所謂組電池等である。電動車両は、リチウムイオン二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、二次電池以外の駆動源を併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車等)であってもよい。電力貯蔵システム(電力供給システム)は、リチウムイオン二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システム(電力供給システム)では、電力貯蔵源であるリチウムイオン二次電池に電力が蓄積されているため、電力を利用して家庭用の電気製品等が使用可能となる。電動工具は、リチウムイオン二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリル等)が可動する工具である。電子機器や電気機器は、リチウムイオン二次電池を作動用の電源(電力供給源)として各種機能を発揮する機器である。
【0124】
以下、リチウムイオン二次電池の幾つかの適用例について具体的に説明する。尚、以下で説明する各適用例の構成は、あくまで一例であり、構成は適宜変更可能である。
【0125】
電池パックは、1つのリチウムイオン二次電池を用いた簡易型の電池パック(所謂ソフトパック)であり、例えば、スマートフォンに代表される電子機器等に搭載される。あるいは又、2並列3直列となるように接続された6つのリチウムイオン二次電池から構成された組電池を備えている。尚、リチウムイオン二次電池の接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。
【0126】
単電池を用いた電池パックを分解した模式的な斜視図を図22に示す。電池パックは、1つのリチウムイオン二次電池を用いた簡易型の電池パック(所謂ソフトパック)であり、例えば、スマートフォンに代表される電子機器等に搭載される。電池パックは、例えば、実施例4において説明したリチウムイオン二次電池から成る電源61、及び、電源61に接続された回路基板63を備えている。電源61には、正極リード部23及び負極リード部25が取り付けられている。
【0127】
電源61の両側面には、一対の粘着テープ65が貼り付けられている。回路基板63には、保護回路(PCM:Protection Circuit Module)が設けられている。回路基板63は、タブ62Aを介して正極リード部23に接続され、タブ62Bを介して負極リード部25に接続されている。また、回路基板63には、外部接続用のコネクタ付きリード線64が接続されている。回路基板63が電源61に接続された状態において、回路基板63は、ラベル66及び絶縁シート67によって上下から保護されている。ラベル66を貼り付けることで、回路基板63及び絶縁シート67は固定される。回路基板63には、実施例1〜実施例2において説明した充電装置が実装されている。あるいは又、場合によっては、スマートフォンに実装されているパワーマネージメント集積回路を、実施例1〜実施例2において説明した充電装置としても機能させることが可能である。即ち、実施例1〜実施例2において説明した充電装置として機能させることができるソフトウェアによってパワーマネージメント集積回路を動作させればよい。
【0128】
次に、電動車両の一例であるハイブリッド自動車といった電動車両の構成を表すブロック図を図23Aに示す。電動車両は、例えば、金属製の筐体100の内部に、制御部101、各種センサ102、電源103、エンジン111、発電機112、インバータ113,114、駆動用のモータ115、差動装置116、トランスミッション117及びクラッチ118を備えている。その他、電動車両は、例えば、差動装置116やトランスミッション117に接続された前輪駆動軸121、前輪122、後輪駆動軸123、後輪124を備えている。
【0129】
電動車両は、例えば、エンジン111又はモータ115のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン111は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジン等である。エンジン111を動力源とする場合、エンジン111の駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置116、トランスミッション117及びクラッチ118を介して前輪122又は後輪124に伝達される。エンジン111の回転力は発電機112にも伝達され、回転力を利用して発電機112が交流電力を発生させ、交流電力はインバータ114を介して直流電力に変換され、電源103に蓄積される。一方、変換部であるモータ115を動力源とする場合、電源103から供給された電力(直流電力)がインバータ113を介して交流電力に変換され、交流電力を利用してモータ115を駆動する。モータ115によって電力から変換された駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置116、トランスミッション117及びクラッチ118を介して前輪122又は後輪124に伝達される。
【0130】
図示しない制動機構を介して電動車両が減速すると、減速時の抵抗力がモータ115に回転力として伝達され、その回転力を利用してモータ115が交流電力を発生させるようにしてもよい。交流電力はインバータ113を介して直流電力に変換され、直流回生電力は電源103に蓄積される。
【0131】
制御部101は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPU等を備えており、また、実施例1〜実施例2において説明した充電装置を備えている。電源103は、実施例3や実施例4において説明した1又は2以上のリチウムイオン二次電池(図示せず)を備えている。電源103は、外部電源と接続され、外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積する構成とすることもできる。各種センサ102は、例えば、エンジン111の回転数を制御すると共に、図示しないスロットルバルブの開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。各種センサ102は、例えば、速度センサ、加速度センサ、エンジン回転数センサ等を備えている。
【0132】
尚、電動車両がハイブリッド自動車である場合について説明したが、電動車両は、エンジン111を用いずに電源103及びモータ115だけを用いて作動する車両(電気自動車)でもよい。
【0133】
次に、電力貯蔵システム(電力供給システム)の構成を表すブロック図を図23Bに示す。電力貯蔵システムは、例えば、一般住宅及び商業用ビル等の家屋130の内部に、制御部131、電源132、スマートメータ133、及び、パワーハブ134を備えている。
【0134】
電源132は、例えば、家屋130の内部に設置された電気機器(電子機器)135に接続されていると共に、家屋130の外部に停車している電動車両137に接続可能である。また、電源132は、例えば、家屋130に設置された自家発電機136にパワーハブ134を介して接続されていると共に、スマートメータ133及びパワーハブ134を介して外部の集中型電力系統138に接続可能である。電気機器(電子機器)135は、例えば、1又は2以上の家電製品を含んでいる。家電製品として、例えば、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機、給湯器等を挙げることができる。自家発電機136は、例えば、太陽光発電機や風力発電機等から構成されている。電動車両137として、例えば、電動自動車、ハイブリッド自動車、電動オートバイ、電動自転車、セグウェイ(登録商標)等を挙げることができる。集中型電力系統138として、商用電源、発電装置、送電網、スマートグリッド(次世代送電網)を挙げることができるし、また、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所、風力発電所等を挙げることもできるし、集中型電力系統138に備えられた発電装置として、種々の太陽電池、燃料電池、風力発電装置、マイクロ水力発電装置、地熱発電装置等を例示することができるが、これらに限定するものではない。
【0135】
制御部131は、電力貯蔵システム全体の動作(電源132の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えており、また、実施例1〜実施例2において説明した充電装置を備えている。電源132は、実施例3や実施例4において説明した1又は2以上のリチウムイオン二次電池(図示せず)を備えている。スマートメータ133は、例えば、電力需要側の家屋130に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能である。そして、スマートメータ133は、例えば、外部と通信しながら、家屋130における需要・供給のバランスを制御することで、効率的で安定したエネルギー供給が可能となる。
【0136】
この電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統138からスマートメータ133及びパワーハブ134を介して電源132に電力が蓄積されると共に、独立電源である自家発電機136からパワーハブ134を介して電源132に電力が蓄積される。電源132に蓄積された電力は、制御部131の指示に応じて電気機器(電子機器)135及び電動車両137に供給されるため、電気機器(電子機器)135の作動が可能になると共に、電動車両137が充電可能になる。即ち、電力貯蔵システムは、電源132を用いて、家屋130内における電力の蓄積及び供給を可能にするシステムである。
【0137】
電源132に蓄積された電力は、任意に利用可能である。そのため、例えば、電気料金が安価な深夜に集中型電力系統138から電源132に電力を蓄積しておき、電源132に蓄積しておいた電力を電気料金が高い日中に用いることができる。
【0138】
以上に説明した電力貯蔵システムは、1戸(1世帯)毎に設置されていてもよいし、複数戸(複数世帯)毎に設置されていてもよい。
【0139】
次に、電動工具の構成を表すブロック図を図23Cに示す。電動工具は、例えば、電動ドリルであり、プラスチック材料等から作製された工具本体140の内部に、制御部141及び電源142を備えている。工具本体140には、例えば、可動部であるドリル部143が回動可能に取り付けられている。制御部141は、電動工具全体の動作(電源142の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えており、また、実施例1〜実施例2において説明した充電装置を備えている。電源142は、実施例3や実施例4において説明した1又は2以上のリチウムイオン二次電池(図示せず)を備えている。制御部141は、図示しない動作スイッチの操作に応じて、電源142からドリル部143に電力を供給する。
【0140】
以上、本開示を好ましい実施例に基づき説明したが、本開示はこれらの実施例に限定するものではなく、種々の変形が可能である。実施例において説明した充電装置、充電方法は例示であり、適宜、変更することができる。電極構造体は、捲回された状態の他、スタックされた状態であってもよい。
【0141】
以下、リチウムイオン二次電池を構成する正極部材、負極部材、正極活物質、負極活物質、結着剤、導電剤、セパレータ、非水系電解液について説明する。
【0142】
電解質層28は、非水系電解液及び保持用高分子化合物を含んでおり、非水系電解液は、保持用高分子化合物によって保持されている構成とすることもできる。このような電解質層28は、ゲル状電解質であり、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に、非水系電解液の漏液が防止される。電解質層28は、更に、添加剤等の他の材料を含んでいてもよい。
【0143】
非水系電解液の組成として、以下の表7を例示することができる。
【0144】
〈表7〉
有機溶媒 :EC/PC 質量比で1/1
非水系電解液を構成するリチウム塩:LiPF6 1.0モル/リットル
その他の添加剤 :炭酸ビニレン(VC) 1質量%
【0145】
尚、ゲル状の電解質である電解質層28において、非水系電解液の溶媒とは、液状の材料だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。よって、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、高分子化合物も溶媒に含まれる。ゲル状の電解質層28に代えて、非水系電解液をそのまま用いてもよい。この場合、非水系電解液が電極構造体21に含浸される。
【0146】
具体的には、電解質層28を形成する場合、先ず、非水系電解液を調製する。そして、非水系電解液と、保持用高分子化合物と、有機溶剤(炭酸ジメチル)とを混合して、ゾル状の前駆体溶液を調製する。保持用高分子化合物として、ヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとの共重合体(ヘキサフルオロプロピレンの共重合量=6.9質量%)を用いる。次いで、正極部材22及び負極部材24に前駆体溶液を塗布した後、前駆体溶液を乾燥させて、ゲル状の電解質層28を形成する。
【0147】
ゲル状の電解質層28を備えたリチウムイオン二次電池は、例えば、以下の3種類の手順に基づき製造することができる。
【0148】
第1の手順にあっては、先ず、正極集電体22Aの両面に正極活物質層22Bを形成し、負極集電体24Aの両面に負極活物質層24Bを形成する。一方、非水系電解液、保持用高分子化合物及び有機溶剤を混合して、ゾル状の前駆体溶液を調製する。そして、正極部材22及び負極部材24に前駆体溶液を塗布した後、前駆体溶液を乾燥させて、ゲル状の電解質層28を形成する。その後、溶接法等を用いて、正極集電体22Aに正極リード部23を取り付け、負極集電体24Aに負極リード部25を取り付ける。次に、厚さ26μmの微孔性プリプロピレンフィルムから成るセパレータ26を介して正極部材22と負極部材24とを積層し、捲回して、電極構造体21を作製した後、最外周部に保護テープ29を貼り付ける。その後、電極構造体21を挟むように外装部材50を折り畳んだ後、熱融着法等を用いて外装部材50の外周縁部同士を接着させて、外装部材50の内部に電極構造体21を封入する。尚、正極リード部23及び負極リード部25と外装部材50との間に密着フィルム(厚さ50μmの酸変性プロピレンフィルム)51を挿入しておく。
【0149】
あるいは又、第2の手順にあっては、先ず、正極部材22及び負極部材24を作製する。そして、正極部材22に正極リード部23を取り付け、負極部材24に負極リード部25を取り付ける。その後、セパレータ26を介して正極部材22と負極部材24とを積層し、捲回して、電極構造体21の前駆体である捲回体を作製した後、捲回体の最外周部に保護テープ29を貼り付ける。次いで、捲回体を挟むように外装部材50を折り畳んだ後、熱融着法等を用いて外装部材50の内の一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着し、袋状の外装部材50の内部に捲回体を収納する。一方、非水系電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤等の他の材料とを混合して、電解質用組成物を調製する。そして、袋状の外装部材50の内部に電解質用組成物を注入した後、熱融着法等を用いて外装部材50を密封する。その後、モノマーを熱重合させて、高分子化合物を形成する。これによって、ゲル状の電解質層28が形成される。
【0150】
あるいは又、第3の手順にあっては、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ26を用いることを除き、第2の手順と同様にして、捲回体を作製して袋状の外装部材50の内部に収納する。セパレータ26に塗布される高分子化合物は、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体又は多元共重合体)等である。具体的には、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体や、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン及びクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体等である。フッ化ビニリデンを成分とする重合体と共に、他の1種類又は2種類以上の高分子化合物を用いてもよい。その後、非水系電解液を調製して外装部材50の内部に注入した後、熱融着法等を用いて外装部材50の開口部を密封する。次いで、外装部材50に荷重を加えながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ26を正極部材22及び負極部材24に密着させる。これによって、非水系電解液が高分子化合物に含浸すると共に、高分子化合物がゲル化し、電解質層28が形成される。
【0151】
第3の手順では、第1の手順よりもリチウムイオン二次電池の膨れが抑制される。また、第3の手順では、第2の手順と比較して、溶媒及び高分子化合物の原料であるモノマー等が電解質層28中に殆ど残存しないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。そのため、正極部材22、負極部材24及びセパレータ26と電解質層28とが十分に密着する。
【0152】
正極部材22を、以下の方法に基づき作製することもできる。即ち、先ず、炭酸リチウム(Li2CO3)と炭酸コバルト(CoCO3)とを混合した後、混合物を空気中において焼成(900゜C×5時間)して、リチウム含有複合酸化物(LiCoO2)を得る。
この場合、混合比をモル比で、例えば、Li2CO3:CoO3=0.5:1とする。そして、正極活物質(LiCoO2)91質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、正極導電剤(黒鉛)6質量部とを混合して、正極合剤とする。そして、正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン)と混合して、ペースト状の正極合剤スラリーとする。その後、コーティング装置を用いて帯状の正極集電体22Aの両面に正極合剤スラリーを塗布した後、正極合剤スラリーを乾燥させて、正極活物質層22Bを形成する。そして、ロールプレス機を用いて正極活物質層22Bを圧縮成型する。
【0153】
以下の方法に基づき、負極部材24を作製することもできる。先ず、負極活物質(黒鉛、グラファイト)97質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部とを混合して、負極合剤とする。黒鉛の平均粒径d50を20μmとする。また、負極結着剤として、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体のアクリル変性体1.5質量部と、カルボキシメチルセルロース1.5質量部との混合物を用いる。そして、負極合剤を水と混合して、ペースト状の負極合剤スラリーとする。その後、コーティング装置を用いて帯状の負極集電体24Aの両面に負極合剤スラリーを塗布した後、負極合剤スラリーを乾燥させて、負極活物質層24Bを形成する。そして、ロールプレス機を用いて負極活物質層24Bを圧縮成型する。
【0154】
あるいは又、負極活物質(ケイ素)と負極結着剤の前駆体(ポリアミック酸)とを混合して、負極合剤とすることもできる。この場合、混合比を乾燥質量比でケイ素:ポリアミック酸=80:20とする。ケイ素の平均粒径d50を1μmとする。ポリアミック酸の溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン及びN,N−ジメチルアセトアミドを用いる。また、圧縮成型の後、真空雰囲気中において負極合剤スラリーを、100゜Cおよび12時間といった条件で加熱する。これによって、負極結着剤であるポリイミドが形成される。
【0155】
正極部材において、正極集電体の片面又は両面には、正極活物質層が形成されている。
正極集電体を構成する材料として、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)および/またはパラジウム(Pd)等、又は、これらの何れかを含む合金や、ステンレス鋼等の導電材料を例示することができる。正極活物質層は、正極活物質として上述した正極材料を含んでいる。正極活物質層は、更に、正極結着剤および/または正極導電剤等を含んでいてもよい。正極集電体あるいは次に述べる負極集電体の形態としては、箔状材料、不織布状材料、網目状材料または多孔体シート状材料を例示することができる。
【0156】
負極部材において、負極集電体の片面又は両面には、負極活物質層が形成されている。
負極集電体を構成する材料として、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)および/またはパラジウム(Pd)等、又は、これらの何れかを含む合金や、ステンレス鋼等の導電材料を例示することができる。負極集電体の表面は、所謂アンカー効果に基づき負極集電体に対する負極活物質層の密着性を向上させるといった観点から、粗面化されていることが好ましい。この場合、少なくとも負極活物質層を形成すべき負極集電体の領域の表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法として、例えば、電解処理を利用して微粒子を形成する方法を挙げることができる。電解処理とは、電解槽中において電解法を用いて負極集電体の表面に微粒子を形成することで負極集電体の表面に凹凸を設ける方法である。あるいは又、負極部材をリチウム箔、リチウムシートまたはリチウム板から構成することもできる。負極活物質層は、負極活物質として、リチウムを吸蔵・放出可能である負極材料を含んでいる。負極活物質層は、更に、負極結着剤および/または負極導電剤等を含んでいてもよい。負極結着剤及び負極導電剤は、正極結着剤及び正極導電剤と同様とすることができる。
【0157】
負極活物質層を構成する材料として、例えば、炭素材料を挙げることができる。炭素材料は、リチウムの吸蔵・放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度が安定して得られる。また、炭素材料は負極導電剤としても機能するため、負極活物質層の導電性が向上する。炭素材料として、例えば、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、黒鉛(グラファイト)および/または結晶構造が発達した高結晶性炭素材料を挙げることができる。但し、難黒鉛化性炭素における(002)面の面間隔は0.37nm以上であることが好ましいし、黒鉛における(002)面の面間隔は0.34nm以下であることが好ましい。より具体的には、炭素材料として、例えば、熱分解炭素類;ピッチコークス、ニードルコークスおよび/または石油コークスといったコークス類;黒鉛類;ガラス状炭素繊維;フェノール樹脂および/またはフラン樹脂等の高分子化合物を適当な温度で焼成(炭素化)することで得ることができる有機高分子化合物焼成体;炭素繊維;活性炭;カーボンブラック類;ポリアセチレン等のポリマー等を挙げることができる。また、炭素材料として、その他、約1000゜C以下の温度で熱処理された低結晶性炭素を挙げることもできるし、非晶質炭素とすることもできる。炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状および/または鱗片状であってもよい。
【0158】
あるいは又、負極活物質層を構成する材料として、例えば、金属元素、半金属元素のいずれかを、1種類又は2種類以上、構成元素として含む材料(以下、『金属系材料』と呼ぶ)を挙げることができ、これによって、高いエネルギー密度を得ることができる。金属系材料は、単体、合金、化合物のいずれであってもよいし、これらの2種類以上から構成された材料でもよいし、これらの1種類又は2種類以上の相を少なくとも一部に有する材料であってもよい。合金には、2種類以上の金属元素から成る材料の他、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを含む材料も含まれる。また、合金は、非金属元素を含んでいてもよい。金属系材料の組織として、例えば、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、及び、これらの2種類以上の共存物を挙げることができる。
【0159】
金属元素、半金属元素として、例えば、リチウムと合金を形成可能である金属元素、半金属元素を挙げることができる。具体的には、例えば、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)および/または白金(Pt)を例示することができる。中でも、ケイ素(Si)および/またはスズ(Sn)が、リチウムを吸蔵・放出する能力が優れており、著しく高いエネルギー密度が得られるといった観点から、好ましい。
【0160】
ケイ素を構成元素として含む材料として、ケイ素の単体、ケイ素合金またはケイ素化合物を挙げることができるし、これらの2種類以上から構成された材料であってもよいし、これらの1種類又は2種類以上の相を少なくとも一部に有する材料であってもよい。スズを構成元素として含む材料として、スズの単体、スズ合金またはスズ化合物を挙げることができるし、これらの2種類以上から構成された材料であってもよいし、これらの1種類又は2種類以上の相を少なくとも一部に有する材料であってもよい。単体とは、あくまで一般的な意味合いでの単体を意味しており、微量の不純物を含んでいてもよく、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
【0161】
ケイ素合金あるいはケイ素化合物を構成するケイ素以外の元素として、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)および/またはクロム(Cr)を挙げることができるし、炭素(C)および/または酸素(O)を挙げることもできる。
【0162】
ケイ素合金あるいはケイ素化合物として、具体的には、SiB4、SiB6、Mg2Si、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si34、Si22O、SiOv(0<v≦2、好ましくは、0.2<v<1.4)および/またはLiSiO等を例示することができる。
【0163】
スズ合金あるいはスズ化合物を構成するスズ以外の元素として、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)および/またはクロム(Cr)を挙げることができるし、炭素(C)および/または酸素(O)を挙げることもできる。スズ合金あるいはスズ化合物として、具体的には、SnOw(0<w≦2)、SnSiO3、LiSnOおよび/またはMg2Snを例示することができる。特に、スズを構成元素として含む材料は、例えば、スズ(第1構成元素)と共に第2構成元素及び第3構成元素を含む材料(以下、『Sn含有材料』と呼ぶ)であることが好ましい。第2構成元素として、例えば、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、インジウム(In)、セシウム(Ce)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)および/またはケイ素(Si)を挙げることができる。また、第3構成元素として、例えば、ホウ素(B)、炭素(C)、アルミニウム(Al)および/またはリン(P)を挙げることができる。Sn含有材料が第2構成元素及び第3構成元素を含んでいると、高い電池容量及び優れたサイクル特性等が得られる。
【0164】
中でも、Sn含有材料は、スズ(Sn)、コバルト(Co)及び炭素(C)を構成元素として含む材料(『SnCoC含有材料』と呼ぶ)であることが好ましい。SnCoC含有材料にあっては、例えば、炭素の含有量が9.9質量%乃至29.7質量%、スズ及びコバルトの含有量の割合{Co/(Sn+Co)}が20質量%乃至70質量%である。
高いエネルギー密度が得られるからである。SnCoC含有材料は、スズ、コバルト及び炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性又は非晶質であることが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な反応相であるため、その反応相の存在により優れた特性が得られる。この反応相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅(回折角2θ)は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1度/分とした場合、1度以上であることが好ましい。リチウムがより円滑に吸蔵・放出されると共に、非水系電解液との反応性が低減するからである。SnCoC含有材料は、低結晶性又は非晶質の相に加えて、各構成元素の単体又は一部が含まれている相を含んでいる場合もある。
【0165】
X線回折により得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較すれば容易に判断することができる。例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応するものである。この場合、例えば、低結晶性又は非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20度乃至50度の間に見られる。このような反応相は、例えば、上記の各構成元素を含んでおり、主に、炭素の存在に起因して低結晶化又は非晶質化しているものと考えられる。
【0166】
SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が金属元素又は半金属元素と結合していることが好ましい。スズ等の凝集、結晶化が抑制されるからである。元素の結合状態に関しては、例えば、軟X線源としてAl−Kα線又はMg−Kα線等を用いたX線光電子分光法(XPS)を用いて確認可能である。炭素の少なくとも一部が金属元素又は半金属元素等と結合している場合、炭素の1s軌道(C1s)の合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる。尚、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるように、エネルギー較正されているものとする。この際、通常、物質表面に表面汚染炭素が存在しているため、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとして、そのピークをエネルギー基準とする。XPS測定において、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形で得られる。そのため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析して、両者のピークを分離すればよい。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0167】
SnCoC含有材料は、構成元素がスズ、コバルト及び炭素だけである材料(SnCoC)に限られない。SnCoC含有材料は、例えば、スズ、コバルト及び炭素に加えて、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、インジウム(In)、ニオブ(Nb)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、リン(P)、ガリウム(Ga)および/またはビスマス(Bi)等のいずれか1種類又は2種類以上を構成元素として含んでいてもよい。
【0168】
SnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄及び炭素を構成元素として含む材料(以下、『SnCoFeC含有材料』と呼ぶ)も好ましい材料である。SnCoFeC含有材料の組成は任意である。一例を挙げると、鉄の含有量を少なめに設定する場合、炭素の含有量が9.9質量%乃至29.7質量%、鉄の含有量が0.3質量%乃至5.9質量%、スズ及びコバルトの含有量の割合{Co/(Sn+Co)}が30質量%乃至70質量%である。また、鉄の含有量を多めに設定する場合、炭素の含有量が11.9質量%乃至29.7質量%、スズ、コバルト及び鉄の含有量の割合{(Co+Fe)/(Sn+Co+Fe)}が26.4質量%乃至48.5質量%、コバルト及び鉄の含有量の割合{Co/(Co+Fe)}が9.9質量%乃至79.5質量%である。このような組成範囲において、高いエネルギー密度が得られるからである。SnCoFeC含有材料の物性(半値幅等)は、上記のSnCoC含有材料の物性と同様である。
【0169】
あるいは又、その他、負極活物質層を構成する材料として、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムおよび/または酸化モリブデンといった金属酸化物;ポリアセチレン、ポリアニリンおよび/またはポリピロールといった高分子化合物を挙げることができる。
【0170】
中でも、負極活物質層を構成する材料は、以下の理由により、炭素材料及び金属系材料の双方を含んでいることが好ましい。即ち、金属系材料、特に、ケイ素及びスズの少なくとも一方を構成元素として含む材料は、理論容量が高いという利点を有する反面、充放電時において激しく膨張・収縮し易い。一方、炭素材料は、理論容量が低い反面、充放電時において膨張・収縮し難いという利点を有する。よって、炭素材料及び金属系材料の双方を用いることで、高い理論容量(云い換えれば、電池容量)を得つつ、充放電時の膨張・収縮が抑制される。
【0171】
正極活物質層および/または負極活物質層は、例えば、塗布法に基づき形成することができる。即ち、粒子(粉末)状の正極活物質あるいは負極活物質を正極結着剤や負極結着剤等と混合した後、混合物を有機溶剤等の溶媒に分散させ、正極集電体や負極集電体に塗布する方法(例えば、スプレーを用いた塗布法)に基づき形成することができる。但し、塗布法はこのような方法に限定するものではなく、更には、塗布法に限定するものでもなく、例えば、負極活物質を成型することで負極部材を得ることができるし、正極活物質を成型することで正極部材を得ることができる。成型には、例えば、プレス機を用いればよい。あるいは又、気相法、液相法、溶射法および/または焼成法(焼結法)に基づき形成することができる。気相法とは、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法および/またはレーザーアブレーション法といったPVD法(物理的気相成長法)や、プラズマCVD法を含む各種CVD法(化学的気相成長法)である。液相法として、電解メッキ法や無電解メッキ法を挙げることができる。溶射法とは、溶融状態又は半溶融状態の正極活物質あるいは負極活物質を正極集電体あるいは負極集電体に噴き付ける方法である。焼成法とは、例えば、塗布法を用いて溶媒に分散された混合物を負極集電体に塗布した後、負極結着剤等の融点よりも高い温度で熱処理する方法であり、雰囲気焼成法、反応焼成法、ホットプレス焼成法を挙げることができる。
【0172】
正極結着剤及び負極結着剤として、具体的には、スチレンブタジエンゴム(SBR)といったスチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムおよび/またはエチレンプロピレンジエンといった合成ゴム;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニル、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)および/またはエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等のフッ素系樹脂やこれらのフッ素系樹脂の共重合体、変性物;ポリエチレンおよび/またはポリプロピレンといったポリオレフィン系樹脂;ポリアクリロニトリル(PAN)および/またはポリアクリル酸エステル等のアクリル系樹脂;カルボキシメチルセルロース(CMC)といった高分子材料等を例示することができるし、これら樹脂材料を主体とする共重合体等から選択される少なくとも1種類を例示することもできる。ポリフッ化ビニリデンの共重合体として、より具体的には、例えばポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体および/またはポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体を挙げることができる。また、正極結着剤及び負極結着剤として導電性高分子を用いてもよい。導電性高分子として、例えば、置換又は無置換のポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、及び、これらから選ばれた1種類又は2種類から成る(共)重合体等を用いることができる。
【0173】
正極導電剤及び負極導電剤として、例えば、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、気相成長カーボンファイバー(Vapor Growth Carbon Fiber:VGCF)、アセチレンブラック(AB)および/またはケッチェンブラック(KB)等の炭素材料を挙げることができるし、これらのうちの1種類又は2種類以上を混合して用いることができる。カーボンナノチューブとして、例えば、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、ダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)等のマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)等を挙げることができる。また、導電性を有する材料であれば金属材料あるいは導電性高分子材料等を用いてもよい。
【0174】
充電途中に意図せずにリチウムが負極部材に析出することを防止するために、負極部材の充電可能な容量は、正極部材の放電容量よりも大きいことが好ましい。即ち、リチウムを吸蔵・放出可能である負極材料の電気化学当量は、正極材料の電気化学当量よりも大きいことが好ましい。尚、負極部材に析出するリチウムとは、例えば、電極反応物質がリチウムである場合にはリチウム金属である。
【0175】
正極リード部は、スポット溶接又は超音波溶接に基づき、正極集電体に取り付けることができる。正極リード部は金属箔、網目状のものが望ましいが、電気化学的及び化学的に安定であり、導通がとれるものであれば金属でなくともよい。正極リード部の材料として、例えば、アルミニウム(Al)および/またはニッケル(Ni)等を挙げることができる。負極リード部は、スポット溶接又は超音波溶接に基づき、負極集電体に取り付けることができる。
負極リード部は金属箔、網目状のものが望ましいが、電気化学的及び化学的に安定であり、導通がとれるものであれば金属でなくともよい。負極リード部の材料として、例えば、銅(Cu)および/またはニッケル(Ni)等を挙げることができる。正極リード部や負極リード部は、正極集電体や負極集電体から正極集電体や負極集電体の一部が突出した突出部から構成することもできる。
【0176】
セパレータは、正極部材と負極部材とを隔離して、正極部材と負極部材の接触に起因する電流の短絡を防止しながら、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータは、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂)、ポリイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂および/または芳香族ポリアミドといった合成樹脂から成る多孔質膜;セラミック等の多孔質膜;ガラス繊維(例えば、ガラスフィルターを含む);液晶ポリエステル繊維や芳香族ポリアミド繊維および/もしくはセルロース系繊維から成る不織布、または、セラミック製の不織布等から構成されているが、中でも、ポリプロピレンおよび/またはポリエチレンの多孔質フィルムが好ましい。あるいは又、セパレータを2種類以上の多孔質膜が積層された積層膜から構成することもできるし、無機物層が塗布されたセパレータや、無機物含有セパレータとすることもできる。中でも、ポリオレフィン系樹脂から成る多孔質膜は短絡防止効果に優れ、且つ、シャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。ポリエチレン樹脂は、100゜C以上、160゜C以下の範囲内においてシャットダウン効果を得ることができ、且つ、電気化学的安定性にも優れているので、セパレータを構成する材料として特に好ましい。他にも、化学的安定性を備えた樹脂を、ポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合又はブレンド化した材料を用いることができる。あるいは、多孔質膜は、例えば、ポリプロピレン樹脂層と、ポリエチレン樹脂層と、ポリプロピレン樹脂層とを順次に積層した3層以上の構造を有していてもよい。セパレータの厚さは、5μm以上、50μm以下であることが好ましく、7μm以上、30μm以下であることがより好ましい。セパレータは、厚すぎると活物質の充填量が低下して電池容量が低下すると共に、イオン伝導性が低下して電流特性が低下する。逆に薄すぎると、セパレータの機械的強度が低下する。
【0177】
また、セパレータは、基材である多孔質膜の片面又は両面に樹脂層が設けられた構造を有していてもよい。樹脂層として、無機物が担持された多孔性のマトリックス樹脂層を挙げることができる。このような構造を採用することで耐酸化性を得ることができ、セパレータの劣化を抑制することができる。マトリックス樹脂層を構成する材料として、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)および/またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を挙げることができ、また、これらの共重合体を用いることも可能である。無機物として、金属、半導体、又は、これらの酸化物、窒化物を挙げることができる。例えば、金属としてアルミニウム(Al)および/またはチタン(Ti)等、半導体としてケイ素(Si)および/またはホウ素(B)等を挙げることができる。また、無機物は、実質的に導電性が無く、熱容量の大きいものが好ましい。熱容量が大きいと、電流発熱時のヒートシンクとして有用であり、電池の熱暴走を一層効果的に抑制することが可能となる。このような無機物として、アルミナ(Al23)、ベーマイト(アルミナの一水和物)、タルク、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、二酸化チタン(TiO2)および/もしくは酸化ケイ素等の酸化物ならびに/または窒化物を挙げることができる。無機物の粒径として、1nm乃至10μmを挙げることができる。1nmより小さいと入手が困難であり、また、入手できたとしてもコスト的に見合わない。10μmより大きいと電極間距離が大きくなり、限られたスペースで活物質充填量が十分得られず、電池容量が低くなる。無機物は、基材としての多孔質膜に含まれていてもよい。樹脂層は、例えば、マトリックス樹脂、溶媒及び無機物から成るスラリーを基材(多孔質膜)上に塗布し、マトリックス樹脂の貧溶媒、且つ、溶媒の親溶媒浴中を通過させて相分離させ、その後、乾燥させることで得ることができる。
【0178】
セパレータの突き刺し強度として、100gf乃至1kgf、好ましくは100gf乃至480gfを挙げることができる。突き刺し強度が低いと短絡が発生する虞があり、高いとイオン伝導性が低下する虞がある。セパレータの透気度として、30秒/100cc乃至1000秒/100cc、好ましくは30秒/100cc乃至680秒/100ccを挙げることができる。透気度が低すぎると短絡が発生する虞があり、高すぎるとイオン伝導性が低下する虞がある。
【0179】
リチウムイオン二次電池において使用に適した非水系電解液を構成するリチウム塩として、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiTaF6、LiNbF6、LiSiF6、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiCH3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiC49SO3、Li(FSO22N、Li(CF3SO22N、Li(C25SO22N、Li(CF3SO23C、LiBF3(C25)、LiB(C242、LiB(C654、LiPF3(C253、1/2Li21212、Li2SiF6、LiCl、LiBr、LiI、ジフルオロ[オキソラト−O,O’]ホウ酸リチウムおよび/またはリチウムビスオキサレートボレートを挙げることができるが、これらに限定するものではない。
【0180】
また、有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)および/またはブチレンカーボネート(BC)といった環状炭酸エステルを用いることができ、炭酸エチレン及び炭酸プロピレンの内の一方を用いることが好ましく、あるいは又、両方を混合して用いることが一層好ましく、これによって、サイクル特性の向上を図ることができる。また、溶媒として、高いイオン伝導性を得るといった観点から、これらの環状炭酸エステルと、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸メチルプロピル等の鎖状の炭酸エステルとを混合して用いることもできる。あるいは又、溶媒に、2,4−ジフルオロアニソールおよび/または炭酸ビニレンが含まれていてもよい。2,4−ジフルオロアニソールは放電容量を向上させることができ、また、炭酸ビニレンはサイクル特性を向上させることができる。よって、これらを混合して用いれば、放電容量及びサイクル特性を向上させることができるので好ましい。
【0181】
あるいは又、有機溶媒として、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、プロピルメチルカーボネート(PMC)、プロピルエチルカーボネート(PEC)および/またはフルオロエチレンカーボネート(FEC)といった鎖状炭酸エステル;テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2−MeTHF)、1,3−ジオキソラン(DOL)および/または4−メチル−1,3−ジオキソラン(4−MeDOL)といった環状エーテル;1,2−ジメトキシエタン(DME)および/または1,2−ジエトキシエタン(DEE)といった鎖状エーテル;γ−ブチロラクトン(GBL)および/またはγ−バレロラクトン(GVL)といった環状エステル;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、酪酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルおよび/またはプロピオン酸プロピルといった鎖状エステルを挙げることができる。あるいは又、有機溶媒として、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチルピロリジノン(NMP)、N−メチルオキサゾリジノン(NMO)、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トリメチルホスフェート(TMP)、ニトロメタン(NM)、ニトロエタン(NE)、スルホラン(SL)、メチルスルホラン、アセトニトリル(AN)、アニソール、プロピオニトリル、グルタロニトリル(GLN)、アジポニトリル(ADN)、メトキシアセトニトリル(MAN)、3−メトキシプロピオニトリル(MPN)、ジエチルエーテル、炭酸ブチレン、3−メトキシプロピロニトリル、N,N−ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシドおよび/またはリン酸トリメチルを挙げることができる。あるいは又、イオン液体を用いることもできる。イオン液体として、公知のものを用いることができ、必要に応じて選択すればよい。
【0182】
非水系電解液及び保持用高分子化合物によって電解質層を構成することもできる。非水系電解液は、例えば、保持用高分子化合物によって保持されている。このような形態における電解質層は、ゲル状電解質あるいは固体状電解質であり、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に、非水系電解液の漏液が防止される。電解質は、液系電解質とすることもできるし、ゲル状電解質あるいは固体状電解質とすることもできる。
【0183】
保持用高分子化合物として、具体的には、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネートおよび/または塩化ビニルを例示することができる。これらは、単独で用いてもよいし、あるいは、混合して用いてもよい。また、保持用高分子化合物は共重合体であってもよい。共重合体として、具体的には、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等を例示することができるが、中でも、電気化学的な安定性といった観点から、単独重合体としてポリフッ化ビニリデンが好ましく、共重合体としてポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体が好ましい。また、フィラーとして、Al23、SiO2、TiO2および/またはBN(窒化ホウ素)等の耐熱性の高い化合物を含んでいてもよい。
【0184】
尚、本開示は、以下のような構成を取ることもできる。
[A01]《充電装置:第1の態様》
リチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式に基づき充電する充電装置であって、
定電圧にて充電を開始する前に、又は、定電圧にて充電を行っている間に、その時点での充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する充電装置。
[A02]リチウムイオン二次電池を、定電流−定電圧方式に基づき充電し、
定電流にて充電が完了した後、定電圧にて充電を開始する前に、電流パルスを印加する[A01]に記載の充電装置。
[A03]中断すること無く充電を行う[A01]又は[A02]に記載の充電装置。
[A04]1<i1/i0≦10 を満足する[A01]乃至[A03]のいずれか1項に記載の充電装置。
[A05]電流パルスを印加する時間は、0.01秒以上、10秒以下である[A01]乃至[A04]のいずれか1項に記載の充電装置。
[A06]電流パルスの印加回数は、1回である[A01]乃至[A05]のいずれか1項に記載の充電装置。
[A07]電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZA、充電終了設定電流値をIcomp-Aとし、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZB、充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、
comp-A=(ZB/ZA)×Icomp-B
を満足する[A01]乃至[A06]のいずれか1項に記載の充電装置。
[A08]電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定電流値をIcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、Icomp-B<Icomp-A≦5×Icomp-B を満足する[A01]乃至[A06]のいずれか1項に記載の充電装置。
[A09]電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-Bとしたとき、0.7×tcomp-B≦tcomp-A<tcomp-B を満足する[A01]乃至[A06]のいずれか1項に記載の充電装置。
[A10]リチウムイオン二次電池には、満充電時の結晶構造と完全放電時の結晶構造とが異なる正極材料が含まれ、該正極材料は、充放電に伴う結晶構造の変化が可逆である[A01]乃至[A09]のいずれか1項に記載の充電装置。
[A11]リチウムイオン二次電池の正極材料にはLixCoO2が含まれている[A01]乃至[A09]のいずれか1項に記載の充電装置。
[B01]《充電装置:第2の態様》
正極材料にLixCoO2が含まれているリチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式に基づき充電する充電装置であって、
リチウムイオン二次電池の充電中にxの値を算出するx値算出手段、及び、
リチウムイオン二次電池の充電中に正極材料の温度を測定する温度測定手段、
を備えており、
x値算出手段によって算出されたxの値、及び、温度測定手段によって測定された正極材料の温度の値に基づき、電流パルスを印加する直前の充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する時点を決定する充電装置。
[B02]中断すること無く充電を行う[B01]に記載の充電装置。
[B03]1<i1/i0≦10 を満足する[B01]又は[B02]に記載の充電装置。
[B04]電流パルスを印加する時間は、0.01秒以上、10秒以下である[B01]乃至[B03]のいずれか1項に記載の充電装置。
[B05]電流パルスの印加回数は、1回である[B01]乃至[B04]のいずれか1項に記載の充電装置。
[B06]電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZA、充電終了設定電流値をIcomp-Aとし、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZB、充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、
comp-A=(ZB/ZA)×Icomp-B
を満足する[B01]乃至[B05]のいずれか1項に記載の充電装置。
[B07]電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定電流値をIcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、Icomp-B<Icomp-A≦5×Icomp-B を満足する[B01]乃至[B05]のいずれか1項に記載の充電装置。
[B08]電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-Bとしたとき、0.7×tcomp-B≦tcomp-A<tcomp-B を満足する[B01]乃至[B05]のいずれか1項に記載の充電装置。
[C01]《充電方法:第1の態様》
リチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式に基づき充電する充電方法であって、
定電圧にて充電を開始する前に、又は、定電圧にて充電を行っている間に、その時点での充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する充電方法。
[C02]リチウムイオン二次電池を、定電流−定電圧方式に基づき充電し、
定電流にて充電が完了した後、定電圧にて充電を開始する前に、電流パルスを印加する[C01]に記載の充電方法。
[C03]中断すること無く充電を行う[C01]又は[C02]に記載の充電方法。
[C04]1<i1/i0≦10 を満足する[C01]乃至[C03]のいずれか1項に記載の充電方法。
[C05]電流パルスを印加する時間は、0.01秒以上、10秒以下である[C01]乃至[C04]のいずれか1項に記載の充電方法。
[C06]電流パルスの印加回数は、1回である[C01]乃至[C05]のいずれか1項に記載の充電方法。
[C07]電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZA、充電終了設定電流値をIcomp-Aとし、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZB、充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、
comp-A=(ZB/ZA)×Icomp-B
を満足する[C01]乃至[C06]のいずれか1項に記載の充電方法。
[C08]電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定電流値をIcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、Icomp-B<Icomp-A≦5×Icomp-B を満足する[C01]乃至[C06]のいずれか1項に記載の充電方法。
[C09]電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-Bとしたとき、0.7×tcomp-B≦tcomp-A<tcomp-B を満足する[C01]乃至[C06]のいずれか1項に記載の充電方法。
[C10]リチウムイオン二次電池には、満充電時の結晶構造と完全放電時の結晶構造とが異なる正極材料が含まれ、該正極材料は、充放電に伴う結晶構造の変化が可逆である[C01]乃至[C09]のいずれか1項に記載の充電方法。
[C11]リチウムイオン二次電池の正極材料にはLixCoO2が含まれている[C01]乃至[C09]のいずれか1項に記載の充電方法。
[D01]《充電方法:第2の態様》
正極材料にLixCoO2が含まれているリチウムイオン二次電池を、少なくとも定電圧方式に基づき充電する充電方法であって、
リチウムイオン二次電池の充電中にxの値を算出し、併せて、正極材料の温度を測定し、
算出されたxの値、及び、測定された正極材料の温度の値に基づき、電流パルスを印加する直前の充電電流値i0よりも大きなピーク電流値i1を有する電流パルスを、少なくとも1回、印加する時点を決定する充電方法。
[D02]中断すること無く充電を行う[D01]に記載の充電方法。
[D03]1<i1/i0≦10 を満足する[D01]又は[D02]に記載の充電方法。
[D04]電流パルスを印加する時間は、0.01秒以上、10秒以下である[D01]乃至[D03]のいずれか1項に記載の充電方法。
[D05]電流パルスの印加回数は、1回である[D01]乃至[D04]のいずれか1項に記載の充電方法。
[D06]電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZA、充電終了設定電流値をIcomp-Aとし、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときのリチウムイオン二次電池のインピーダンスをZB、充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、
comp-A=(ZB/ZA)×Icomp-B
を満足する[D01]乃至[D05]のいずれか1項に記載の充電方法。
[D07]電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定電流値をIcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定電流値をIcomp-Bとしたとき、Icomp-B<Icomp-A≦5×Icomp-B を満足する[D01]乃至[D05]のいずれか1項に記載の充電方法。
[D08]電流パルスを印加した後、定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-A、電流パルスを印加しない場合における定電圧にて充電を終了するときの充電終了設定時間をtcomp-Bとしたとき、0.7×tcomp-B≦tcomp-A<tcomp-B を満足する[D01]乃至[D05]のいずれか1項に記載の充電方法。
[E01]《電池パック》
リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池に関する制御を行う制御手段、及び、リチウムイオン二次電池を内包する外装部材を有する電池パックであって、
制御手段には、[A01]乃至[B08]のいずれか1項に記載の充電装置が備えられている電池パック。
[E02]《電動車両》
リチウムイオン二次電池から電力の供給を受けて車両の駆動力に変換する変換装置、及び、リチウムイオン二次電池に関する情報に基づいて車両制御に関する情報処理を行う制御装置を有する電動車両であって、
制御装置には、[A01]乃至[B08]のいずれか1項に記載の充電装置が備えられている電動車両。
[E03]《電力貯蔵システム》
リチウムイオン二次電池、及び、
[A01]乃至[B08]のいずれか1項に記載の充電装置、
を備えている電力貯蔵システム。
[E04]《電動工具》
リチウムイオン二次電池、
リチウムイオン二次電池から電力を供給される可動部、及び、
[A01]乃至[B08]のいずれか1項に記載の充電装置、
を備えている電動工具。
[E05]《電子機器》
リチウムイオン二次電池、及び、
[A01]乃至[B08]のいずれか1項に記載の充電装置、
を備えている電子機器。
【符号の説明】
【0185】
11・・・電極構造体収納部材(電池缶)、12,13・・・絶縁板、14・・・電池蓋、15・・・安全弁機構、15A・・・ディスク板、16・・・熱感抵抗素子(PTC素子、Positive Temperature Coefficient 素子)、17・・・ガスケット、18・・・センターピン、21・・・電極構造体、22・・・正極部材、22A・・・正極集電体、22B・・・正極活物質層、23・・・正極リード部、24・・・負極部材、24A・・・負極集電体、24B・・・負極活物質層、25・・・負極リード部、26・・・セパレータ、28・・・電解質層、29・・・保護テープ、30・・・リチウムイオン二次電池、41・・・x値算出手段を含む演算処理部、42・・・記憶部、43A・・・電流発生制御部、43B・・・電圧発生制御部、43C・・・スイッチ制御部、44・・・電流発生部、45・・・電圧発生部、46・・・スイッチ部、47A・・・電流検出部、47B・・・電圧検出部、47C・・・温度測定手段(温度検出部)、50・・・外装部材、51・・・密着フィルム、61・・・電源、62A,62B・・・タブ、63・・・回路基板、64・・・コネクタ付きリード線、65・・・粘着テープ、66・・・ラベル、67・・・絶縁シート、100・・・筐体、101・・・制御部、102・・・各種センサ、103・・・電源、111・・・エンジン、112・・・発電機、113,114・・・インバータ、115・・・モータ、116・・・差動装置、117・・・トランスミッション、118・・・クラッチ、121・・・前輪駆動軸、122・・・前輪、123・・・後輪駆動軸、124・・・後輪、130・・・家屋、131・・・制御部、132・・・電源、133・・・スマートメータ、134・・・パワーハブ、135・・・電気機器(電子機器)、136・・・自家発電機、137・・・電動車両、138・・・集中型電力系統、140・・・工具本体、141・・・制御部、142・・・電源、143・・・ドリル部
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