(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極、負極および該正極と該負極との間に配置されたセパレータを含み、かつ平面視において切り欠き部を有する電極組立体および電解質が、平面視において前記電極組立体の平面視形状に対応する形状を有する外装体に収容されている二次電池前駆体を初期充電する初期充電工程を含む二次電池の製造方法であって、
前記二次電池前駆体は、前記初期充電工程での正面視において、高さが異なる2つ以上の構成部分を含み、かつ、各構成部分に、開口部を1つずつ有し、
前記初期充電工程において、
前記二次電池前駆体は鉛直方向で最上位に前記開口部を複数有するように立設され、
前記二次電池前駆体内で発生するガスを、前記複数の開口部から逃がしながら、前記初期充電を行う、二次電池の製造方法。
正極、負極および該正極と該負極との間に配置されたセパレータを含み、かつ平面視において切り欠き部を有する電極組立体および電解質が外装体に収容されている二次電池前駆体を初期充電する初期充電工程を含む、切り欠き部を有する二次電池の製造方法であって、
前記電極組立体の平面視における前記切り欠き部は、前記電極組立体の初期の形状からその一部を最終的に欠損させた部分であり、
前記切り欠き部形成前の電極組立体の前記初期の形状は矩形状であり、
前記外装体は平面視において矩形状を有し、かつ前記切り欠き部形成前の前記電極組立体の前記初期の形状としての矩形状の寸法と同等の寸法を有し、
前記初期充電工程において、
前記二次電池前駆体は鉛直方向で最上位に1つの開口部を有するように立設され、
前記二次電池前駆体内で発生するガスを、前記1つの開口部から逃がしながら、前記初期充電を行う、二次電池の製造方法。
前記二次電池前駆体において前記電極組立体の前記切り欠き部に対応する部分は、前記外装体を構成する2つのフィルムを、前記電解質を介してまたは介することなく、相互に離接可能に有している、請求項6〜8のいずれかに記載の二次電池の製造方法。
前記初期充電工程の後、前記開口部をシールするとともに、平面視において前記二次電池前駆体における前記切り欠き部対応部分と前記電極組立体との境界をシールし、前記二次電池前駆体における前記切り欠き部対応部分を欠落させるシール工程をさらに含む、請求項9に記載の二次電池の製造方法。
前記電極組立体が、前記正極、前記負極および前記セパレータを含む複数の電極ユニットを平面状に積層した平面積層構造を有する、請求項1〜15のいずれかに記載の二次電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[二次電池の製造方法]
本発明は二次電池の製造方法を提供する。本明細書中、「二次電池」という用語は充電および放電の繰り返しが可能な電池のことを指している。従って、「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものではなく、例えば、「蓄電デバイス」なども包含し得る。後述する「二次電池前駆体」とは、初期充電工程前に、電極組立体および電解質を外装体に収容させて得られる、二次電池の中間体または中間構造物のことである。「電極組立体」とは、正極、負極およびセパレータを含む電極構造物のことである。
【0018】
本発明においては、後で詳述するように、二次電池前駆体内において電極組立体で発生するガスを開口部から逃がしながら、初期充電を行う。すなわち、二次電池前駆体内で発生したガスを、いわゆるガスポケットに一旦、捕集することなく、直接的に開口部から周囲雰囲気に逃がしながら、初期充電工程を行う。このため、本発明で発生したガスは流体損失をあまり受けることなく、二次電池前駆体から容易かつ速やかに排出され得る。その結果、二次電池前駆体全体において気泡による充電ムラをより十分に防止することができる。
【0019】
以下、本発明の二次電池の製造方法に使用される二次電池前駆体および当該方法を構成する各工程について、幾つかの実施態様を示す図面を用いて詳しく説明する。本明細書中、図面における各種の要素は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観および寸法比などは実物と異なり得る。本明細書で直接的または間接的に用いる“上下方向”、“左右方向”および“表裏方向”はそれぞれ、特記しない限り、図中における上下方向、左右方向および表裏方向に対応した方向に相当する。同じ符号または記号は、特記しない限り、形状が異なること以外、同じ部材または同じ意味内容を示すものとする。
【0020】
(二次電池前駆体)
本発明において使用される二次電池前駆体は、電極組立体1および電解質(図示せず)が外装体3に収容されている。収容とは、電極組立体および電解質が開放系の雰囲気下で外装体内に挿入されているという意味であり、密封されている封入とは異なる。
【0021】
電極組立体1は、正極、負極およびセパレータを含み、正極と負極とがセパレータを介して交互に配置されている。電極組立体1が有する2つの外部端子5は通常、集電リードを介して電極(正極または負極)に連結され、結果として外装体から外部に導出されている。電極組立体1は、正極、負極および正極と負極との間に配置されたセパレータを含む複数の電極ユニット(電極構成層)を平面状に積層した平面積層構造を有していてもよい。電極組立体の構造は平面積層構造に限定されず、例えば、正極、負極および正極と負極との間に配置されたセパレータを含む電極ユニット(電極構成層)をロール状に巻回したジェリーロール型(「巻回構造」ともいう)を有していてもよい。また例えば、電極組立体は、正極、セパレータ、負極を長いフィルム上に積層してから折りたたんだ、いわゆるスタックアンドフォールディング型構造を有していてもよい。初期充電工程において二次電池前駆体全体における気泡による充電ムラをより十分に防止する観点から、電極組立体1は平面積層構造を有することが好ましい。
【0022】
電極組立体1は、平面視において、切り欠き部10を有する。平面視とは、対象物(例えば、電極組立体、二次電池前駆体または二次電池)を載置してその厚み(高さ)方向の真上から見たときの状態のことであり、平面図と同意である。切り欠き部10は、電極組立体および二次電池から認識され得る部分であって、平面視において電極組立体1の初期の形状(以下、単に「電極組立体1の初期形状」という)からその一部を最終的に欠損させた部分のことである。切り欠き部10は切り欠き部形成前の初期の形状から電極組立体の異形状を差し引いて残る部分である。切り欠き部形成前の初期の形状は通常、電極組立体が有する異形状を含む最小の矩形状である。矩形状は通常、長方形状および正方形状を包含する。切り欠き部の平面視形状は、
図1A〜
図6Aにおいて、矩形状(特に長方形状)を有しているが、特に限定されず、例えば、矩形状(正方形状)、三角形状、扇形形状、半円形状、円形状等であってもよい。
図1A〜
図6Aは、本発明の二次電池の製造方法において使用される二次電池前駆体50の一例の模式的平面図であって、後述の初期充電工程における当該二次電池前駆体の模式的正面図も同時に示す。
図1A〜
図6Aは、「
図1A、
図2A、
図3A、・・・、および
図6A」を包含する。例えば、「
図1A〜
図3A」は
図1A、
図2Aおよび
図3Aを包含する。
【0023】
電極組立体1が平面視において切り欠き部10を有することにより、当該電極組立体1の全体形状(異形状)が反映されて、最終製品としての二次電池100もまた、
図1B〜
図6Bに示すように、平面視において切り欠き部10を有するようになる。例えば、電極組立体1および二次電池100のいずれにおいても、切り欠き部10は、文字通り、切り欠かれているため、何も存在しない部分である。
図1B〜
図6Bは、「
図1B、
図2B、
図3B、・・・、および
図6B」を包含する。
図1B〜
図6Bは、それぞれ
図1A〜
図6Aの二次電池前駆体を用いて得られる二次電池100の模式的平面図であって、後述の初期充電工程後のシール工程を説明するための二次電池の模式的平面図にも対応する。
【0024】
本発明において二次電池前駆体50は、当該二次電池前駆体を構成する外装体3の形状に基づいて第1実施態様および第2実施態様を包含する。初期充電工程における充電ムラのさらなる防止の観点から、第1実施態様に係る二次電池前駆体が好ましい。第1実施態様において電極組立体1で発生したガスが開口部6に至るまでの排出距離は、第2実施態様における当該距離よりも、相対的に短い。このため、第1実施態様において当該ガスが周囲雰囲気に排出される際に受ける流体損失は、第2実施態様における流体損失よりも、より一層、低減される。さらに、第1実施態様において初期充電工程における外装体3内での電極組立体1の安定性は、第2実施態様における安定性よりも高い。これらの結果、第1実施態様において、ガスがより一層、排出され易く、充電ムラのさらなる防止が達成される。
【0025】
本発明においては、異物の混入防止の観点からも、第1実施態様の二次電池前駆体50が好ましい。二次電池への異物の混入は発火等の異常発熱市場事故の原因になるため、二次電池はクリーン且つドライなルーム内の極めて清浄な環境下で製造される。しかし、現実には、クリーン且つドライなルーム内の異物数を0に近づけることはできても、皆無にすることは不可能である。後述のように、第1実施態様の二次電池前駆体50は、平面視(初期充電工程での正面視)において二次電池前駆体の外縁を構成する辺のうち、後述の初期充電工程の鉛直方向に対して、垂直な辺(全ての辺)の全長にわたって、複数の開口部が提供される。他方、第2実施態様の二次電池前駆体は、平面視において二次電池前駆体の外縁を構成する辺のうち、後述の初期充電工程の鉛直方向に対して、垂直な辺(全ての辺)の全長にわたって、1つの開口部が提供される。従って、当該全長が同等の場合、相対的に小さい直径の複数の開口部を有する第1実施態様の二次電池前駆体における開口面積(合計)の方が、相対的に大きい直径の1つの開口部しか有さない第2実施態様の二次電池前駆体における開口面積よりも小さくなる。このため、第1実施態様の二次電池前駆体は、第2実施態様の二次電池前駆体よりも、異物の混入可能性が低いために好ましい。初期充電工程での正面視とは、初期充電工程で二次電池前駆体を立設し、二次電池前駆体を正面からみたときの状態であり、正面図(特に二次電池前駆体の厚み方向からみたときの正面図)のことである。本明細書中、初期充電工程での正面視は、対象物を載置してその厚み(高さ)方向の真上から見たときの平面視とよく対応する。
【0026】
(1)第1実施態様
第1実施態様に係る二次電池前駆体50の外装体3は平面視において、例えば
図1A〜
図3Aに示すように、電極組立体1が有する平面視形状に対応する形状を有している。すなわち、第1実施態様に係る二次電池前駆体の外装体3は、例えば
図1A〜
図3Aに示すように、その外縁にシール部を有すること以外、電極組立体1が有する平面視形状と略同等の平面視形状を有している。また第1実施態様に係る二次電池前駆体の外装体3は平面視において、その外縁にシール部を有すること以外、電極組立体1が有する寸法と略同等の寸法も有している。本実施態様に係る二次電池前駆体において、外装体3は電極組立体1が有する平面視形状に対応する形状を有するため、切り欠き部10は何も存在しない部分である。
【0027】
本実施態様に係る二次電池前駆体50は、電極組立体1が有する平面視形状に対応する形状を有するため、平面視(初期充電工程での正面視)において、高さが異なる2つ以上の構成部分を含む。例えば、
図1A〜
図3Aに示すように、当該二次電池前駆体50は、最大の高さを提供する少なくとも1つの高さ最大部50aおよび当該高さ最大部50aよりも高さが低い少なくとも1つの非高さ最大部(50b、50b')を含む。高さが異なるとは、隣接する構成部分間で高さが異なるという意味である。二次電池前駆体が平面視において高さが異なる2つ以上の構成部分を含むとは、詳しくは以下の意味である:
平面視において当該二次電池前駆体の外縁を構成する辺のうち、全ての構成部分の1辺を共通して構成(規定)する1つの直線形状を有する辺を底辺として当該二次電池前駆体を立設したとき、高さが異なる構成部分が2つ以上存在する。
【0028】
本実施態様に係る二次電池前駆体50は、各構成部分に、開口部6を1つずつ有しており、詳しくは、各構成部分における上記高さ方向について最上位に、開口部を1つずつ有している。このため、当該二次電池前駆体は、平面視において二次電池前駆体の外縁を構成する辺のうち、後述の初期充電工程の鉛直方向に対して、垂直な辺(全ての辺)の全長にわたって、複数の開口部が提供される。その結果、本実施態様の二次電池前駆体は、後述の初期充電工程において、鉛直方向で最上位に開口部を有するように立設され得る。
【0029】
(2)第2実施態様
第2実施態様に係る二次電池前駆体の外装体3は平面視において、例えば
図4A〜
図6Aに示すように、矩形状を有し、かつ切り欠き部形成前の電極組立体1の初期形状としての矩形状の寸法と略同等の寸法を有している。すなわち、第2実施態様に係る二次電池前駆体の外装体3は、平面視において、
図4A〜
図6Aに示すように、その外縁に形成されるシール部の幅を考慮しなかった場合に、幅方向および縦方向の両方向の寸法が、電極組立体1の初期形状と略同等である。本実施態様に係る二次電池前駆体において、電極組立体1が異形状を有するにもかかわらず、外装体3は矩形状を有するため、二次電池前駆体50において電極組立体1の切り欠き部10に対応する部分10aは、当該外装体3を構成する2つのフィルムからなっていてもよい。本実施態様の二次電池前駆体50において、電極組立体1の切り欠き部10に対応する部分10aを構成する2つのフィルムは、電解質を介してまたは介することなく、相互に離接可能な状態にあってもよい。相互に離接可能な状態とは、当該2つのフィルムは相互に接触することもできるし、または離れることもできる程度の柔軟性を有している状態のことである。
【0030】
本実施態様に係る二次電池前駆体は矩形状を有するため、平面視において、高さが異なる2つ以上の構成部分は有さない。すなわち、当該二次電池前駆体は、
図4A〜
図6Aに示すように、高さが略均一である。
【0031】
本実施態様に係る二次電池前駆体は、1つの開口部を有しており、詳しくは、平面視における当該二次電池前駆体の矩形状の1辺の全長にわたって、1つの開口部を有している。このため、当該二次電池前駆体は、平面視において二次電池前駆体の外縁を構成する辺のうち、後述の初期充電工程の鉛直方向に対して、垂直な辺(全ての辺)の全長にわたって、1つの開口部が提供される。その結果、本実施態様の二次電池前駆体は、後述の初期充電工程において、鉛直方向で最上位に開口部を有するように立設され得る。
【0032】
(3)第1実施態様および第2実施態様に共通
第1実施態様および第2実施態様に係る二次電池前駆体は、
電極組立体を外装体に収容させ、当該外装体の外縁領域を、開口部を残してシールする収容工程;および
電極組立体が収容された外装体に開口部から電解質を注入する注入工程
により製造することができる。
【0033】
・電極組立体の外装体への収容工程
収容工程においては、例えば
図1A〜
図6Aに示すように、電極組立体1を外装体3に収容させ、外装体3の外縁領域を、開口部6を残してシールする。本工程でシールにより形成されるシール部は電解質成分を含有することはなく、このように電解質成分を含有しないシール部を「第1シール部」と呼ぶものとし、図中、符号「1a」で示す。第1シール部1aは、電解質成分を含有する後述の「第2シール部1b」および「第3シール部1c」とは異なる。なお、
図1A〜
図6Aは、上記したように、本発明の二次電池の製造方法において使用される二次電池前駆体の一例の模式的平面図であるが、電解質を含まないものと仮定したとき、収容工程で得られた構造体(電極組立体を含む外装体)40の模式的平面図にも対応する。
【0034】
図1A〜
図6Aにおいて外装体3は分離された2つのフィルムからなっているが、当該2つのフィルムは連続していてもよい。外装体3を構成する2つのフィルムが連続し、当該フィルムを折り返して外装体を構成する場合、外装体における当該フィルムが折り返された一方の外周領域での第1シール部1aの形成は省略されてもよい。外部端子5はいずれの第1シール部1aから導出されてもよい。
【0035】
収容工程におけるシール方法は、形成されたシール部から電解質が漏出しない限り特に限定されない。例えば、外装体が後述のフレキシブルパウチである場合、シールはヒートシール法により達成されてよい。また例えば、外装体が後述のハードケースである場合、シールはレーザー溶接法により達成されてよい。
【0036】
・電解質の外装体への注入工程
注入工程においては、例えば
図1A〜
図6Aに示すように、電極組立体1が収容された外装体3に開口部6から電解質を注入し、二次電池前駆体を得ることができる。
【0037】
注入方法は、電解質の外装体への注入および電解質の電極組立体への含浸が達成される限り特に限定されない。例えば、1本以上のノズル等を用いて電解質を外装体内へ誘導する方法等が挙げられる。
【0038】
電解質の電極組立体への含浸は、減圧後、常圧に戻すことにより、達成してもよい。
【0039】
減圧時の気圧は通常、「大気圧−90kPa」以上「大気圧−1kPa」以下の範囲であり、且つ電解液が沸騰しない様、電解液の蒸気圧曲線以下の気圧の範囲に設定する。
【0040】
二次電池前駆体50は側面視において段差部を有していていもよい。段差部とは、側面視において互いに高さの異なる2つの上面により構成され、当該2つの上面の間でそれらの高さが局所的に変化する、上面の不連続部分のことである。側面視とは、特記しない限り、対象物(例えば、二次電池前駆体)を載置してその厚み(高さ)方向の真横から見たときの状態のことであり、側面図と同意である。
【0041】
(初期充電工程)
本発明の二次電池の製造方法においては、まず、上記した二次電池前駆体を用いて初期充電工程を行う。
初期充電工程は、負極表面にSEI被膜を形成することをひとつの目的として行われる二次電池前駆体の最初の充電工程であり、初期充電工程、コンディショニング工程またはフォーメーション工程とも呼ばれる。SEI被膜は、本工程において電解質の一部や、電解質に含まれる添加剤が負極表面で還元分解することにより形成され、二次電池としての使用時における負極表面での当該添加剤のさらなる分解を防止する。SEI被膜は通常、LiF、Li
2CO
3、LiOHおよびLiOCOOR(Rは1価有機基、例えば、アルキル基を示す)からなる群から選択される1種以上の物質を含む。このようなSEI被膜が負極表面により均一に形成されることにより、二次電池において電解質成分の分解が防止され、二次電池の容量安定化および長寿命化を達成することができる。
【0042】
本発明においては、二次電池前駆体内において電極組立体で発生するガスを開口部から逃がしながら、初期充電を行う。すなわち、二次電池前駆体内で発生したガスを、いわゆるガスポケットに一旦、捕集することなく、直接的に開口部から周囲雰囲気に逃がしながら、初期充電工程を行う。このため、本発明における初期充電工程は、ガス抜き初期充電工程と呼ぶこともできる。本発明においては、発生したガスは流体損失をあまり受けることなく、二次電池前駆体から容易かつ速やかに排出され得る。本明細書中、流体損失とは、発生したガスが排出されるに際して受ける抵抗という意味である。本発明においてガスが開口部で排出されるまでに受ける流体損失は、ガスポケットにガスが捕集されるまでに受ける流体損失よりも小さいものと考えられる。例えば、本発明において二次電池前駆体は周囲雰囲気に開口する開口部を有するので、その内部は物質の移動が起こり易い開放系となる。他方、ガスポケットを有する二次電池前駆体は通常、全ての外縁部がシールされた真空密閉系であって、物質の移動は起こらないまたは起こり難い閉鎖系となる。これに伴い、その内部は大気圧により拘束される。このような系の種類の相違および当該相違に伴う拘束力の相違に基づいて、ガスが受ける流体損失の大きさも相違し、本発明においてガスは、ガスポケットに捕集されるガスよりも、速やかに移動し易く、積極的に外部に排出され易い。その結果、二次電池および当該二次電池に含まれる電極組立体が切り欠き部を有する場合であっても、ガス溜まりが生じ難く、二次電池前駆体全体において気泡による充電ムラをより十分に防止しながら初期充電を行うことができる。
【0043】
本工程において、二次電池前駆体50は、
図1A〜
図6Aに示すように、鉛直方向で最上位に開口部6を有するように立設されて、初期充電を行う。二次電池前駆体50が鉛直方向で最上位に開口部6を有するとは、特に第1実施態様の二次電池前駆体を用いる場合、当該二次電池前駆体は、各構成部分において、鉛直方向で最上位に開口部6を有するという意味である。立設とは、立った状態に設置することである。二次電池前駆体は、必ずしも鉛直方向に立った状態に設置される必要はなく、水平面に対して傾斜した状態に設置されてもよい。初期充電工程における充電ムラのさらなる防止の観点から、二次電池前駆体は、鉛直方向に立った状態に設置されることが好ましい。二次電池前駆体が開口部を最上位に有さない場合、例えば、鉛直方向で中位に有する場合、当該開口部から電解質が漏れ出す。
【0044】
二次電池前駆体50は通常、本工程において、電極組立体1の切り欠き部が電極組立体1の他の部分よりも相対的に上位になるように立設される。すなわち、二次電池前駆体50は、本工程において、電極組立体1の切り欠き部が立設時に底辺(底部)を構成しないように、立設される。
【0045】
初期充電は、二次電池前駆体内において電極組立体で発生するガスを、当該開口部から逃がしながら行う。第1実施態様の二次電池前駆体においては、複数の開口部からガスを逃がしながら初期充電を行う。第2実施態様の二次電池前駆体においては、1つの開口部からガスを逃がしながら初期充電を行う。このため、上記したように、本発明で発生したガスは流体損失をあまり受けることなく、二次電池前駆体から容易かつ速やかに排出され得る。
【0046】
本発明においては、
図7Aに示すように、二次電池前駆体50を密閉カセット60の中に配置させて、初期充電を行うことが好ましい。本工程で発生するガスが有毒ガスであっても、当該有毒ガスを密閉カセット内に捕集しながら、安全に初期充電工程を行うことができるためである。有毒ガスとしては、サルファ系(−S)化合物ガス、およびシアン系(−CN)化合物ガスが挙げられる。このような有毒ガスを発生させ得る二次電池材料として、例えば、液体状、ゲル状、または固体状の電解質を構成する溶媒及び溶質のうち、硫黄原子含有化合物、窒素原子含有化合物、シアノ基含有化合物が挙げられる。後述する液体状、固体状またはゲル状の電解質を構成する溶媒および溶質のうち、硫黄原子含有化合物、窒素原子含有化合物、シアノ基含有化合物等が挙げられる。なお、本発明は電解質が固体状の場合でも有効である。固体でも初期充電時に水を多少含有し、水の分解物(水素)および加水分解物を含んだガス分解物が発生するためである。
【0047】
密閉カセット60には、
図7Aに示すように、電流端子61が備わっており、その内部で二次電池前駆体50の外部端子と電気的に接続することにより、密閉カセット60の外部から充電設備を提供することができる。
【0048】
1つの密閉カセット60の中には1つの二次電池前駆体50を配置させてもよいし、または2つ以上の二次電池前駆体50を配置させてもよい。1つの密閉カセット60の中には2つ以上の二次電池前駆体50を配置させて、初期充電を行うことにより、二次電池の製造効率が向上する。
【0049】
密閉カセット60を用いることにより、二次電池前駆体50の周囲雰囲気を簡便に減圧することができる。すなわち、密閉カセット60の内部を減圧するだけで、二次電池前駆体50の周囲雰囲気を減圧することができる。二次電池前駆体50の周囲雰囲気を減圧することにより、内部で発生したガスは、より一層、積極的に外部に排出され易くなる。その結果、二次電池前駆体全体において気泡による充電ムラをより一層、十分に防止しながら初期充電を行うことができる。
【0050】
本発明において初期充電は通常、二次電池前駆体を拘束しながら行うことが好ましい。拘束は、二次電池前駆体にとって、圧力による外界からの締め付けであり、換言すれば、二次電池前駆体表面への加圧であるので、広義には、“締め付け”または“加圧”と言うこともできる。
【0051】
二次電池前駆体の拘束方法により、通常は、二次電池前駆体内の電極組立体の積層方向(厚み方向)での加圧が達成される。例えば、
図7Bに示すように拘束治具を用いる。詳しくは、
図7Bに示すように、拘束治具200により、二次電池前駆体50における電極の厚み方向Zで拘束力を付与することにより二次電池前駆体50を拘束しながら、初期充電を行う。このような方法によれば、二次電池前駆体50の電極表面において気泡の付着がより一層、防止され、均一な厚みのSEI被膜の形成が促進される。拘束治具200は、ボルト201の回転により、Z方向の拘束力を可動板202と固定板203との間で、拘束板205を介して、1以上の二次電池前駆体50に対して付与するようになっている。
【0052】
拘束力(すなわち二次電池前駆体表面への圧力)は、本工程で発生するガスの負極表面への付着が防止される限り特に限定されず、通常は大気圧よりも高い圧力である。詳しくは、拘束力は、ガスの負極表面への付着の更なる防止の観点から、通常、0.1MPa以上2MPa以下の範囲内である。
【0053】
本工程において二次電池前駆体は、ガスの負極表面への付着のさらなる防止の観点から25℃以上100℃以下の範囲内の温度に維持されることが好ましく、より好ましくは35℃以上90℃以下の範囲内、さらに好ましくは40℃以上85℃以下の温度に維持される。詳しくは、本工程で二次電池前駆体が配置される周囲(雰囲気)の温度が上記範囲内に維持されればよい。
【0054】
本発明において、初期充電工程では、充電を少なくとも1回行えばよい。通常は1回以上の充放電を行う。1回の充放電は、1回の充電およびその後の1回の放電を含む。充放電を2回以上行う場合、充電−放電を当該回数だけ繰り返す。発生ガスを逃がしながら行う初期充電は少なくとも1回目の充電の間中、行えばよく、好ましくは全ての充放電の間中、行う。
【0055】
充電方法は、定電流充電方法または定電圧充電方法であっても、またはこれらの組み合わせであってもよい。例えば、一度の充電の間に定電流電圧と定電圧充電を繰り返してもよい。充電条件は、SEI被膜が形成される限り特に限定されない。SEI被膜の厚みの均一性のさらなる向上の観点からは、定電流充電を行った後、定電圧充電を行うことが好ましい。定電流充電を行った後、定電圧充電を行う場合、SEI被膜厚みの均一性のさらなる向上の観点から、以下の充電条件を採用することが好ましい。なお、充電時の温度は、上記した二次電池前駆体の温度と同様の範囲内であればよい。
【0056】
定電流充電方法:
0.01CA以上3CA以下、特に0.05CA以上2CA以下の一定の電流値で1V以上6V以下、特に3V以上5V以下の電圧値になるまで定電流充電を行う。ここで、1CAとはその二次電池の定格容量を1時間で放電する時の電流値のことである。
定電圧充電方法:
定電流充電により達成された電圧値で、定電流充電時の一定の電流値よりも小さい所定の値になるまで、または一定時間が経過するまで定電圧充電を行う。
【0057】
放電方法は通常、定電流放電方法または定電圧放電方法であっても、またはこれらの組み合わせであってもよい。放電条件は、SEI被膜が形成される限り特に限定されない。SEI被膜の厚みの均一性のさらなる向上の観点からは、定電流放電を行うことが好ましい。定電流放電を行う場合、SEI被膜厚みの均一性のさらなる向上の観点から、以下の放電条件を採用することが好ましい。なお、放電時の温度は、上記した二次電池前駆体の温度と同様の範囲内であってもよいし、充電時よりも低い温度であってもよい。
【0058】
定電流放電方法:
0.1CA以上3CA以下、特に0.2CA以上2CA以下の一定の電流値で1V以上4V以下、特に2V以上3.5V以下の電圧値になるまで定電流放電を行う。
【0059】
これらの充放電は2つの外部端子5を用いて行えばよい。
【0060】
(シール工程)
初期充電工程の後は、シール工程を行う。シール工程は、第1実施態様の二次電池前駆体と、第2実施態様の二次電池前駆体とで異なる。
【0061】
(1)第1実施態様
第1実施態様に係る二次電池前駆体50を初期充電工程に供した後は、
図1B〜
図3Bに示すように、開口部6をシールするシール工程を行う。本実施態様のシール工程におけるシール方法は収容工程におけるシール方法と同様であってもよい。開口部6は初期充電工程を経ており、当該開口部6において外装体3を構成する2枚のシートの内側表面には電解質が付着しているため、開口部6のシールにより形成されるシール部は電解質成分が含まれる。このように開口部6で形成される、電解質成分を含有するシール部を「第2シール部」と呼ぶものとし、図中、符号「1b」で示す。
【0062】
本実施態様において、開口部6のシールは外装体内部を減圧状態に維持しながら行い、シール部1bを形成することが好ましい。外装体内部からの空気の除去が促進されるためである。シール時における外装体内部の気圧は通常、「大気圧−90kPa」以上「大気圧−1kPa」以下の範囲であり、且つ電解液が沸騰しない様、電解液の蒸気圧曲線以下の気圧の範囲に設定する。
【0063】
(2)第2実施態様
第2実施態様に係る二次電池前駆体50を初期充電工程に供した後は、
図4B〜
図6Bに示すように、開口部6をシールするとともに、平面視において二次電池前駆体50における切り欠き部対応部分10aと電極組立体1との境界をシールし、二次電池前駆体における切り欠き部対応部分10aを欠落させるシール工程を行う。本実施態様のシール工程においても、シール方法は収容工程におけるシール方法と同様であってもよい。
【0064】
本実施態様においても、開口部6は初期充電工程を経ており、当該開口部6において外装体3を構成する2枚のシートの内側表面には電解質が付着しているため、開口部6のシールにより形成されるシール部は、電解質成分が含まれる第2シール部1bである。
【0065】
本実施態様においても、第1実施態様の二次電池前駆体を用いる場合と同様の方法により、開口部6のシールは外装体内部を減圧状態に維持しながら行い、シール部1bを形成することが好ましい。
【0066】
本実施態様において、開口部6とは別にシールを行う切り欠き部対応部分10aと電極組立体1との境界およびその近傍は通常、外装体3を構成する2枚のシートおよび当該2枚のシート間にある電解質を含む。このため、当該境界のシールにより形成されるシール部は、電解質成分が含まれる。このように切り欠き部対応部分10aと電極組立体1との境界で形成される、電解質成分を含有するシール部を「第3シール部」と呼ぶものとし、図中、符号「1c」で示す。
【0067】
本実施態様のシール工程におけるシール方法もまた、収容工程におけるシール方法と同様であってもよい。本実施態様において、本工程は、切り欠き部対応部分10aと電極組立体1との境界をシールした後、開口部6のシールを行い、最後に切り欠き部対応部分10aの欠落を行うことが好ましい。
【0068】
本実施態様の本工程においてシールを行った後は通常、二次電池前駆体50における切り欠き部対応部分10aを欠落させて、二次電池100を得る。欠落方法は、得られる二次電池100からの電解質の漏出が起こらない限り特に限定されず、例えば、カッター等によりカットする方法が挙げられる。
【0069】
本実施態様において、本工程は、切り欠き部対応部分10aと電極組立体1との境界をシールした後、開口部6のシールを行い、最後に切り欠き部対応部分10aの欠落を行うことが好ましい。
【0070】
(エージング工程)
エージング工程を行ってもよい。エージング工程の実施時期はシール工程の後であってもよい。好ましくは初期充電工程を行った後、シール工程およびエージング工程をこの順序で行う。エージング工程は初期充電工程後の二次電池を開回路状態で放置することでSEI被膜を安定化させる工程である。エージング工程は熟成工程とも呼ばれる。
【0071】
エージング工程において二次電池の温度は特に限定されず、例えば15℃以上80℃以下の範囲内に維持されてもよい。二次電池は、SEI被膜のさらなる安定化の観点から20℃以上70℃以下の範囲内の温度に維持されることが好ましく、より好ましくは25℃以上60℃以下の温度に維持される。詳しくは、二次電池を一定温度に設定された空間に放置することで温度を上記範囲内に維持することができる。
【0072】
エージング工程において放置時間はSEI被膜の安定化が促進される限り特に限定されず、通常は0.5時間以上30日以下であり、上記SEI被膜のさらなる安定化の観点から好ましくは1時間以上14日以下の範囲内であり、より好ましくは2時間以上7日以下の範囲内である。さらに、エージング工程は、1度だけでなく、2回以上にわけて実施しても良い。
【0073】
二次電池100においては、上記したように、第2シール部1bおよび第3シール部1cは電解質成分を含有し、第1シール部1aは電解質成分を含有しない。第2シール部1bおよび第3シール部1cは電解質成分を含有するとは、第2シール部1bおよび第3シール部1cを構成する2つの外装体シートの間に電解質成分が含有および挟持されているという意味である。第2シール部1bおよび第3シール部1cにおいては、例えば、2つの外装体シート間にある封止(接着)のための溶融成分(接着成分)(フレキシブルパウチの場合)または溶融(金属)成分(ハードケースの場合)中に電解質成分が含有されている。第1シール部1aは電解質成分を含有しないとは、第1シール部1aを構成する2つの外装体シートの間に電解質成分が含有されていないという意味であるが、厳密に含有されていないというわけではなく、第2シール部1bおよび第3シール部1cと比較すると、相対的にほとんど含有されていないという意味である。
【0074】
電解質成分の含有状態は、シール部の溶融成分を元素分析に供することにより確認できる。例えば、融着成分(接着成分)中における全原子の量(数)に対する電解質成分由来の原子(例えば、Li原子、F原子、P原子およびB原子)の合計量(合計数)の割合Rを求める。例えば、第1シール部1aにおける当該割合Rは通常、第2シール部1bおよび第3シール部1cにおける当該割合Rの5分の1以下、特に10分の1以下である。
【0075】
[二次電池の構成部材および構成材料]
正極は少なくとも正極材層および正極集電体(箔)から構成されており、正極集電体の少なくとも片面に正極材層が設けられていればよい。例えば、正極は、正極集電体の両面に正極材層が設けられていてもよいし、または正極集電体の片面に正極材層が設けられていてもよい。二次電池のさらなる高容量化の観点から好ましい正極は正極集電体の両面に正極材層が設けられている。正極材層には正極活物質が含まれている。
【0076】
負極は少なくとも負極材層および負極集電体(箔)から構成されており、負極集電体の少なくとも片面に負極材層が設けられていればよい。例えば、負極は、負極集電体の両面に負極材層が設けられていてもよいし、または負極集電体の片面に負極材層が設けられていてもよい。二次電池のさらなる高容量化の観点から好ましい負極は負極集電体の両面に負極材層が設けられている。負極材層には負極活物質が含まれている。
【0077】
正極材層に含まれる正極活物質および負極材層に含まれる負極活物質は、二次電池において電子の受け渡しに直接関与する物質であり、充放電、すなわち電池反応を担う正負極の主物質である。より具体的には、「正極材層に含まれる正極活物質」および「負極材層に含まれる負極活物質」に起因して電解質にイオンがもたらされ、かかるイオンが正極と負極との間で移動して電子の受け渡しが行われて充放電がなされる。後述でも触れるが、正極材層および負極材層は特にリチウムイオンを吸蔵放出可能な層であることが好ましい。つまり、電解質を介してリチウムイオンが正極と負極との間で移動して電池の充放電が行われる二次電池が好ましい。充放電にリチウムイオンが関与する場合、本発明に係る二次電池は、いわゆる“リチウムイオン電池”に相当する。
【0078】
正極材層の正極活物質は例えば粒状体から成るところ、粒子同士の十分な接触と形状保持のためにバインダーが正極材層に含まれていることが好ましい。更には、電池反応を推進する電子の伝達を円滑にするために導電助剤が正極材層に含まれていることも好ましい。同様にして、負極材層の負極活物質は例えば粒状体から成るところ、粒子同士の十分な接触と形状保持のためにバインダーが含まれることが好ましく、電池反応を推進する電子の伝達を円滑にするために導電助剤が負極材層に含まれていてもよい。このように、複数の成分が含有されて成る形態ゆえ、正極材層および負極材層はそれぞれ“正極合材層”および“負極合材層”などと称すこともできる。
【0079】
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵放出に資する物質であることが好ましい。かかる観点でいえば、正極活物質は例えばリチウム含有複合酸化物であることが好ましい。より具体的には、正極活物質は、リチウムと、コバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄から成る群から選択される少なくとも1種の遷移金属とを含むリチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましい。つまり、本発明に係る二次電池の正極材層においては、そのようなリチウム遷移金属複合酸化物が正極活物質として好ましくは含まれている。例えば、正極活物質はコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、または、それらの遷移金属の一部を別の金属で置き換えたものであってよい。このような正極活物質は、単独種として含まれてよいものの、二種以上が組み合わされて含まれていてもよい。より好適な態様では正極材層に含まれる正極活物質がコバルト酸リチウムとなっている。
【0080】
正極材層に含まれる得るバインダーとしては、特に制限されるわけではないが、ポリフッ化ビリニデン、ビリニデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビリニデンフルオライド−テトラフルオロチレン共重合体およびポリテトラフルオロチレンなどから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。正極材層に含まれる得る導電助剤としては、特に制限されるわけではないが、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブおよび気相成長炭素繊維等の炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀等の金属粉末、ならびに、ポリフェニレン誘導体などから選択される少なくとも1種を挙げることができる。より好適な態様では正極材層のバインダーはポリフッ化ビニリデンであり、また、別のより好適な態様では正極材層の導電助剤はカーボンブラックである。さらに好適な態様では、正極材層のバインダーおよび導電助剤が、ポリフッ化ビニリデンとカーボンブラックとの組合せとなっている。
【0081】
負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵放出に資する物質であることが好ましい。かかる観点でいえば、負極活物質は例えば各種の炭素材料、酸化物、または、リチウム合金などであることが好ましい。
【0082】
負極活物質の各種の炭素材料としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、ハードカーボン、ソフトカーボン、ダイヤモンド状炭素などを挙げることができる。特に、黒鉛は電子伝導性が高く、負極集電体との接着性が優れる点などで好ましい。負極活物質の酸化物としては、酸化シリコン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化リチウムなどから成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。負極活物質のリチウム合金は、リチウムと合金形成され得る金属であればよく、例えば、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、Laなどの金属とリチウムとの2元、3元またはそれ以上の合金であってよい。このような酸化物は、その構造形態としてアモルファスとなっていることが好ましい。結晶粒界または欠陥といった不均一性に起因する劣化が引き起こされにくくなるからである。より好適な態様では負極材層の負極活物質が人造黒鉛となっている。
【0083】
負極材層に含まれる得るバインダーとしては、特に制限されるわけではないが、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド系樹脂およびポリアミドイミド系樹脂から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。より好適な実施態様では負極材層に含まれるバインダーはスチレンブタジエンゴムとなっている。負極材層に含まれる得る導電助剤としては、特に制限されるわけではないが、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブおよび気相成長炭素繊維等の炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウムおよび銀等の金属粉末、ならびに、ポリフェニレン誘導体などから選択される少なくとも1種を挙げることができる。なお、負極材層には、電池製造時に使用された増粘剤成分(例えばカルボキシルメチルセルロース)に起因する成分が含まれていてもよい。
【0084】
さらに好適な態様では、負極材層における負極活物質およびバインダーが人造黒鉛とスチレンブタジエンゴムとの組合せとなっている。
【0085】
正極および/または負極が水分等の揮発成分を比較的多く含む場合において、本発明は有効である。本発明においては、上記したように、初期充電工程で二次電池前駆体内に発生したガス(揮発分)を容易かつ速やかに排出できるためである。このような場合として、水系バインダーを用いた電極の場合がある。更には、活物質の一次粒子径が100nm以下といったナノ材料を用いた場合は、粒子の表面積が大きくなり水分吸着量が多くなる。具体的な活物質として、正極材料ではオリビン型構造であるLiMPO
4(M=Fe,Mn,Co等)や、負極材料では非晶質カーボンであるハードカーボン、ソフトカーボン、スピネル型のリチウムチタン酸化物(Li
4Ti
5O
12)が挙げられる。
【0086】
正極および負極に用いられる正極集電体および負極集電体は電池反応に起因して活物質で発生した電子を集めたり供給したりするのに資する部材である。このような集電体は、シート状の金属部材であってよく、多孔または穿孔の形態を有していてよい。例えば、集電体は金属箔、パンチングメタル、網またはエキスパンドメタル等であってよい。正極に用いられる正極集電体は、アルミニウム、ステンレスおよびニッケル等から成る群から選択される少なくとも1種を含んだ金属箔から成るものが好ましく、例えばアルミニウム箔であってよい。一方、負極に用いられる負極集電体は、銅、ステンレスおよびニッケル等から成る群から選択される少なくとも1種を含んだ金属箔から成るものが好ましく、例えば銅箔であってよい。
【0087】
セパレータは、正負極の接触による短絡防止および電解質保持などの観点から設けられる部材である。換言すれば、セパレータは、正極と負極との間の電子的接触を防止しつつイオンを通過させる部材であるといえる。好ましくは、セパレータは多孔性または微多孔性の絶縁性部材であり、その小さい厚みに起因して膜形態を有している。あくまでも例示にすぎないが、ポリオレフィン製の微多孔膜がセパレータとして用いられてよい。この点、セパレータとして用いられる微多孔膜は、例えば、ポリオレフィンとしてポリエチレン(PE)のみ又はポリプロピレン(PP)のみを含んだものであってよい。更にいえば、セパレータは、“PE製の微多孔膜”と“PP製の微多孔膜”とから構成される積層体であってもよい。セパレータの表面は無機粒子コート層および/または接着層等により覆われていてもよい。セパレータの表面は接着性を有していてもよい。
【0088】
電解質は電極(正極・負極)から放出された金属イオンの移動を助力する。電解質は有機電解質および有機溶媒などの“非水系”の電解質であっても、または水を含む“水系”の電解質であってもよい。本発明の二次電池は、電解質として“非水系”の溶媒と、溶質とを含む電解質が用いられた非水電解質二次電池が好ましい。電解質は液体状、固体状またはゲル状などの形態を有し得る(なお、本明細書において“液体状”の非水電解質は「非水電解質液」とも称される)。
【0089】
具体的な非水電解質の溶媒としては、少なくともカーボネートを含んで成るものが好ましい。かかるカーボネートは、環状カーボネート類および/または鎖状カーボネート類であってもよい。特に制限されるわけではないが、環状カーボネート類としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)およびビニレンカーボネート(VC)から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。鎖状カーボネート類としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジプロピルカーボネート(DPC)から成る群から選択される少なくも1種を挙げることができる。本発明の1つの好適な実施態様では、非水電解質として環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組合せが用いられ、例えばエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物が用いられる。非水電解質の溶媒はまた、MP(プロピオン酸メチル)、EP(プロピオン酸エチル)、PP(プロピオン酸プロピル)等のカルボン酸エステルを含んでもよい。
【0090】
具体的な非水電解質の溶質としては、例えば、LiPF
6およびLiBF
4などのLi塩が好ましく用いられる。
【0091】
電解質(特に、非水電解質)には、ビニレンカーボネート、1,3−プロパンスルトン、フッ化エチレンカーボネート等の添加剤が含有される。電解質(特に、非水電解質)へのこれら添加剤の含有により、初期充電時にSEI被膜が形成される。
【0092】
電解質の溶媒が揮発し易い場合において、本発明は有効である。本発明においては、上記したように、初期充電工程で二次電池前駆体内に発生したガス(揮発分)を容易かつ速やかに排出できるためである。このような場合として、常温25℃付近で蒸気圧が1mmHg以上の低沸点溶媒を用いる場合がある。具体的には、鎖状カーボネートのDMC(ジメチルカーボネート)、DEC(ジエチルカーボネート)、EMC(エチルメチルカーボネート)や、カルボン酸エステルのMP(プロピオン酸メチル)、EP(プロピオン酸エチル)、PP(プロピオン酸プロピル)が挙げられる。
【0093】
集電リードとしては、二次電池の分野で使用されているあらゆる集電リードが使用可能である。そのような集電リードは、電子の移動が達成され得る材料から構成されればよく、通常はアルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレスなどの導電性材料から構成される。集電リードの形態は特に限定されず、例えば、線状であってもよいし、または板状であってもよい。
【0094】
外部端子5としては、二次電池の分野で使用されているあらゆる外部端子が使用可能である。そのような外部端子は、電子の移動が達成され得る材料から構成されればよく、通常はアルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレスなどの導電性材料から構成される。外部端子5の形態は特に限定されず、通常は板状である。外部端子5は、基板と電気的かつ直接的に接続されてもよいし、または他のデバイスを介して基板と電気的かつ間接的に接続されてもよい。また、前記集電リードを外部端子として用いることも可能である。
【0095】
外装体はフレキシブルパウチ(軟質袋体)であることが好ましいが、ハードケース(硬質筐体)であってもよい。外装体がフレキシブルパウチである場合、フレキシブルパウチは通常、ラミネートフィルムから形成され、周縁部をヒートシールすることにより、封止が達成される。ラミネートフィルムとしては、金属箔とポリマーフィルムを積層したフィルムが一般的であり、具体的には、外層ポリマーフィルム/金属箔/内層ポリマーフィルムから成る3層構成のものが例示される。外層ポリマーフィルムは水分等の透過および接触等による金属箔の損傷を防止するためのものであり、ポリアミドおよびポリエステル等のポリマーが好適に使用できる。金属箔は水分およびガスの透過を防止するためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。内層ポリマーフィルムは、内部に収納する電解質から金属箔を保護するとともに、ヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィンまたは酸変性ポリオレフィンが好適に使用できる。ラミネートフィルムの厚さは特に限定されず、例えば、1μm以上1mm以下が好ましい。
【0096】
外装体がハードケースである場合、ハードケースは通常、金属板から形成され、周縁部をレーザー照射することにより、封止が達成される。金属板としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレスなどからなる金属材料が一般的である。金属板の厚さは特に限定されず、例えば、1μm以上1mm以下が好ましい。