(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の板部材の重ね部が、複数の接合部において機械的接合手段または摩擦撹拌点接合手段により点状に接合されており、前記接合部には、少なくとも一方の板部材に、機械的接合手段が挿通される穴、あるいは、摩擦撹拌点接合手段による点接合時に形成された穴が存在している重ね接合構造において、
前記板部材のうち少なくともいずれかの板部材の重ね部には、隣り合う接合部の間に前記重ね部の端部から接合部方向に切欠き凹部が形成されており、
前記切欠き凹部の内側底部は、前記穴の内径をKとしたとき、前記重ね部の端部からK以上深い位置に形成されており、
少なくとも一つの前記切欠き凹部の内側底部は、前記穴の前記重ね部の端部とは反対側の端部を結ぶ線よりも浅い位置に形成されていることを特徴とする重ね接合構造。
前記穴の端部と前記切欠き凹部が形成された板部材の端部との間の距離Lが、前記穴の内径Kに対して、L≧0.8Kの関係を満たすように前記穴が位置していることを特徴とする、請求項1または2に記載の重ね接合構造。
前記切欠き凹部が形成される板部材が、前記接合部を挟んで前記重ね部の端部の反対側に曲げ部が形成され、断面がハット形状のハット形部材であり、前記切欠き凹部は、前記ハット形部材の前記曲げ部より前記端部側の範囲に形成されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の重ね接合構造。
前記機械的接合手段は、ブラインドリベット、セルフピアシングリベット、ドリルネジ、ボルト、レジスタンスエレメントウエルディングのいずれかであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の重ね接合構造。
【発明を実施するための形態】
【0016】
最初に、重ね接合構造として、一方の板部材がハット形部材であり、他方の板部材が板状部材である例を用いて本発明の基本的な実施形態について説明する。
【0017】
重ね接合部材1は、
図1、2に示すように、板状部材10と、ハット形部材20と、非溶融接合手段による複数の接合部(接合部)SPとを備え、板状部材10のフランジ部11とハット形部材20のフランジ部(フランジ片22)が重ね合せられた重ね部を、ブラインドリベットなどの機械的接合手段や摩擦撹拌点接合手段により接合した構成とされている。
【0018】
ハット形部材20のフランジ部には、隣り合う接合部SPと接合部SPの間に、重ね部の外側の端部22Cから切欠き凹部22Uが形成されており、それによって、ハット形部材20のフランジ部は、複数のフランジ片22と、各フランジ片22の間を接続する接続部22Aとを備えていて、隣り合うフランジ片22とフランジ片22の間に、切欠き凹部22Uが形成されている構成になっている。
【0019】
切欠き凹部22Uは、
図1、2の例では、ハット形部材20のフランジ部の端部22Cに開口され、隣接する接合部SPの外周を端部22Cとは反対側で接続して形成される境界線(穴の端部を結ぶ線X)よりも、フランジの内側に入り込んで形成されている。
また、切欠き凹部22Uは、
図3(A)、(B)に示すように、ハット形部材20のフランジ部から立上壁部21側において、曲げ部22Rに移行するコーナRの曲げ起点(他方のフランジ端部)22Bに引っ掛からない範囲に接続部22Aを形成するように設定されている。
【0020】
この重ね接合部材1は、フランジを構成する、板状部材10とハット形部材20のいずれか一方又は双方が、(a)鋼板(例えば、引張強さが590MPa以上の高強度鋼板)を冷間でプレス成形した鋼板部材、又は(b)ホットスタンプ材用鋼板をホットスタンプで成形することでマルテンサイト組織が生じたホットスタンプ材(例えば、引張強さが1200MPa以上の鋼板部材)とされている。
また、一方がアルミニウム材で他方が前記(a)や(b)の鋼板とすること、あるいは両方をアルミニウム材とすることもできる。同様に、一方がCFRP材であったり、両方がCFRP材であってもよい。
【0021】
以上のように、複数の板部材の重ね部が非溶融接合される場合、少なくともいずれかの部材の接合部に機械的接合手段が挿通される穴や摩擦撹拌点接合に伴う穴が存在する。例えば、車両の車体構造部材の鋼板部材の接合に非溶融接合を適用した場合、衝突入力時の荷重負荷により穴の縁にひずみ集中が発生し、破断が起こりやすい。
しかしながら、重ね接合部材1は、重ね部の非溶融接合手段(接合部)の間に切欠き凹部22Uが形成されているので、該重ね接合部材1に外力が加わって矢印F方向の引張応力が生じたとしても、切欠き凹部が引張荷重による負荷、変形を分散させることができる(すなわち、切欠き凹部が変形を吸収し、破断までの伸びを増やすことができる)ので、穴を起点として接合部材が破断されるのが抑制され、接合部材の性能を充分に発揮できるようになる。
【0022】
そのような切欠き凹部の効果は、詳細は後述の実施例で示すが、以下のような実験によって確認した。
すなわち、
図4に示す引張試験前の試験片(A)、(B)、(C)を準備した。
各試験片には、引張強さが980MPaと590MPaの冷延鋼板よりなり、中央部がくびれた形状の鋼板母材を2枚重ねて用いた。
(A)の試験片は、母材を単に2枚重ねたもの、(B)の試験片は、中央部左寄りの位置でブラインドリベットにより母材を接合したもので、機械的接合による穴が形成されているものであり、(C)の試験片は、(B)の試験片のブラインドリベットの右側に切欠き凹部を設けたものである。
【0023】
試験片(A)〜(C)を用いて引張試験を行った。
図4に、引張試験後の試験片の破断状態を示すとともに、
図5に、試験片にそれぞれ引張荷重を与えた場合の荷重−ひずみ曲線図を示す。
図4に示すように、切欠き凹部を設けていない試験片(B)が、接合部の穴を中心にして破断したのに対し、切欠き凹部が設けられた試験片(C)では、切欠き凹部の角部近傍を起点に破断しており、引張荷重に対して破断の発生するひずみ量も、
図5に示すように、試験片(B)に対して試験片(C)では格段に増加することが確認された。
これは、試験片(C)では、引張荷重が負荷されたときに、ブラインドリベットを通す穴の縁にひずみが集中することが抑制されたため、重ね接合部材が破断する変形量が増大したものである。このような機構により、機械的接合部に設けられた穴の縁が起点となって少ないひずみで破断が起こることが抑制されると考えられる。
【0024】
以上のように、本発明は、複数の板部材を機械的接合手段や摩擦撹拌点接合手段によって重ね接合する際、機械的接合手段や摩擦撹拌点接合手段による接合部の間に切欠き凹部を設けるものであるが、以下、本発明を構成する個々の要件及び好ましい要件についてさらに説明する。
【0025】
<重ね接合部材>
本発明の重ね接合部材は、複数の板部材を重ね合せ、その重ね部で板部材同士を機械的に接合した、あるいは摩擦撹拌点接合手段によって接合した構成になっている。例えば、
図1、2に示すように、板状部材(板部材)10のフランジ部(フランジ相当部)11と、ハット形部材(板部材)20のフランジ部(フランジ片22とその接続部22Aよりなる)とを重ね合わせ、フランジ部11と複数のフランジ片22とを重ね合せた重ね部で機械的接合手段による接合部SPにより金属板部材を接合している。
【0026】
そのような重ね接合部材は、例えば、自動車用車体を構成するモノコックボディやモノコックボディを構成するAピラー、Bピラー等の自動車用部品(Assy部品)をはじめとする種々の構造物の形成に適用される。
【0027】
板部材としては、鋼板やアルミニウム板などの金属板やCFRP板から所定形状に切り出された板状部材が用いられ、さらに、その板状部材から所定形状に成形された成形部材も用いられる。板状部材や成形部材を複数組み合わせて少なくとも一部で重ね合わせ、その重ね部で非溶融接合手段(機械的接合手段や摩擦撹拌点接合手段)により接合される。
板部材の重ね部は、一般的に、板部材の縁に他の板部材との接合代として形成されるフランジ(重ね部)であるが、フランジに限定されるものではなく、フランジと形状部等(フランジ以外の部分)を重ね合せた部分に非溶融接合手段により接合されたものでもよい。
【0028】
重ね合わせる板部材の枚数は、通常は2〜3枚であるがそれ以上の枚数の重ね合わせも可能である。
また、板部材の板厚に制限を設定する必要はないものの、実用的な観点からすると、金属板部材では、下限は0.5mmとすることができ、上限は2.6mmとすることが好適である。CFRPでは、下限は0.3mmとすることができ、上限は4.0mmとすることが好適である。
【0029】
板部材には種々のものが使用できるが、鋼板部材では、冷間プレス成形品や、ホットスタンプ用鋼板をオーステナイト温度以上に加熱し、水冷金型で成形しながら焼入れることで強度を高めた、引張強さが1200MPa以上のホットスタンプ成形品が例示される。また、引張強さが1200MPa以上のホットスタンプ成形品を熱処理して機械的接合を実施する部分の強度を590MPa程度まで低下させることで、貫通穴を開けやすくしたホットスタンプ成形品を用いてもよい。
上記の鋼板部材と重ね合せられる鋼板部材は、引張強さが1200MPa以上の高強度鋼板やホットスタンプ材を用いたものでもよいし、引張強さが270MPa〜980MPaの鋼板を用いたものでもよい。なお、鋼板は、冷延鋼板であっても、熱延鋼板であってもよい。
【0030】
また、鋼板の場合には、表面にめっきがされていない非めっき鋼板もしくは合金化溶融亜鉛めっき(GAめっき)、溶融亜鉛めっき(GIめっき)、電気亜鉛めっき(EG)、Zn−Alめっき、Zn−Al−Mgめっきなどの亜鉛系めっきで被覆された鋼板、さらにアルミニウムめっき鋼板などが対象とされてよい。ホットスタンプ材の場合には、非めっき、アルミニウムめっきもしくは鉄とアルミニウムの金属間化合物、もしくは、鉄亜鉛固溶層と酸化亜鉛層により被覆された鋼板部材、鉄亜鉛ニッケルの固溶層と酸化亜鉛層により被覆された鋼板部材が対象とされてよい。
【0031】
機械的接合では、溶接に適合しない材料の接合も可能であり、例えば、アルミ材を複数組み合わせた構造部材やアルミ材と鋼材を組み合わせた構造部材に適用が可能である。さらには、金属部材に代えてCFRP材を用いた構造部材にも適用が可能である。
摩擦撹拌点接合でも、溶接に適合しない材料の接合も可能であり、例えば、アルミ材を複数組み合わせた構造部材やアルミ材と鋼材を組み合わせた構造部材に適用が可能である。
【0032】
<非溶融接合手段>
板部材の重ね接合に用いられる非溶融接合には、機械的接合と摩擦撹拌点接合がある。
機械的接合手段としては、ブラインドリベット、セルフピアシングリベット(自己穿孔リベット)、中空リベット、ドリルネジ、ボルト、EJOWELD(登録商標)、FDS(登録商標)などが用いられる。機械的接合では、ブラインドリベットなどのように重ね合わせた金属板部材を全て貫通する場合と、セルフピアシングリベットなどのように重ね合わせた金属板部材の一部は貫通しない場合があるが、いずれの場合でも本発明が適用できる。
また、機械的接合手段として、レジスタンスエレメントウエルディング(Resistance Element Welding;REW)が用いられてもよい。このREWは、
図6に示すように、板厚方向に貫通する穴215が形成された上板210(例えば、アルミ合金板)と、下板220(例えば、ボロン鋼等の鋼板)とを重ね合わせて板組200を形成するとともに、上板210の穴215に鋼製のフランジ付きリベット250を挿入し、さらに、上側電極230および下側電極240を用いて、板組200のフランジ付きリベット250に対応する部分を挟持しつつ(
図6の(A)を参照)、所定の電流値にて板組200を通電することにより、フランジ付きリベット250の先端部分と下板220との接触部分を溶融してナゲット255を形成する接合手段である(
図6の(B)を参照)。
このように、REWは、部分的に溶融接合手段を利用しているものの、本質的にはフランジ付きリベット250という機械的要素を利用した接合手段であるため、このような接合手段も機械的接合手段として、本発明に好適に用いることができる。
【0033】
摩擦撹拌点接合としては、先端にプローブを有する回転ツールを用いた点接合に適用できる。その場合、プローブの圧入により板厚の80%以上の深さの穴が形成される場合に適用されるのが好ましい。
また、重ね合わせ面に樹脂を介在させて該樹脂による接合を併用する場合、例えば、重ね合わせ面に接着剤(例えば、エポキシ樹脂系接着剤等)を介在させて接着剤による接合を併用する場合や、重ね合わせ面にシール用樹脂(シーラー)を介在させて合わせ目を防水ないし絶縁する場合などにも、本発明を適用することができる。重ね合わせ面に構造用接着剤や耐衝撃型の接着剤を介在させて接着剤による接合を併用することは、本発明の好適な形態である。特に、アルミ材と鋼材を組み合わせた構造部材の場合は、電気的に絶縁できるシール機能を有する樹脂や接着剤の併用が望ましい。
【0034】
<接合部の位置>
接合部の位置は、接合部に形成される穴の位置が板部材の端部に近すぎる場合は、穴で破断する危険性が高くなるので、穴30の端部と切欠き凹部22Uを形成した板部材の端部22Cとの間の最短距離を
図7の(A)、(B)に示すようにLとして、最短距離Lが穴の内径(円相当直径)Kに対して、L≧0.8Kの条件を満たす位置に穴が設けられることが好ましい。なお、後述の
図9、10に示す例のように、複数の重ね合わされる板部材の縁に切欠き凹部が形成される場合には、切欠き凹部が形成される板部材の全てについてL≧0.8Kの条件を満たすようにすることが好ましい。
また、穴30の端部とフランジ片22の端部(切欠き凹部22Uの端部)との最短距離M(
図7の(A)を参照)も、0.8K以上であることが好ましく、さらに好ましくは、1.5K以上である。
接合部のピッチ(隣り合う接合部間の間隔)は、通常、20mm〜100mm程度であるが、これに限定されるものではなく、対象とされる構造物やその部位に応じて適宜設定すればよい。
なお、本発明において、接合部に形成される上記穴は、当該穴が形成される板部材を貫通しない非貫通穴でも、少なくとも一方の板部材を貫通する貫通穴であってもよい。
【0035】
<切欠き凹部>
[切欠き凹部の基本態様]
切欠き凹部22Uは、重ね部を構成するフランジ部などの縁部に開口され、例えばハット形部材では、切欠き凹部22Uは、フランジ部を厚さ方向に貫通して形成されていて、フランジ部の端部から隣接配置された機械的接合手段による接合部SP同士の間に位置する領域のフランジ幅方向の一部、もしくはハット形部材の曲げ部の起点(
図2などにおいて一点鎖線部で示す曲げ起点22B)近傍(曲げ部22Rに移行するコーナRのかかり)まで伸びた構成とされている。また、切欠き凹部22Uとハット形部材の曲げ部との間には、接続部22Aが形成されている。
【0036】
切欠き凹部は、
図1、2の例のように、隣り合う接合部間ごとに形成するが、接合部を多数設ける場合(接合部の間隔が狭い場合)などにおいては、
図8の例のように切欠き凹部が形成されていない箇所を設ける(すなわち、長手方向に隣り合う切欠き凹部の間に、2つ以上の接合部を設ける)ことができる。
【0037】
図8の例では、フランジ片271及びフランジ片272は、重ね接合部材1Eの長手方向に沿って交互に複数形成されていて、隣接配置されたフランジ片271及びフランジ片272の間には、切欠き凹部27Uが形成されている。
フランジ片271は、長手方向の両側に切欠き凹部27Uが形成されていて、一つの接合部SPが形成可能な大きさとされている。フランジ片272は、長手方向の両側に切欠き凹部27Uが形成されていて、二つ(複数)の接合部SPが形成可能な大きさとされている。
【0038】
[切欠き凹部の形成箇所]
また、切欠き凹部は、重ね合わされる板部材の少なくとも1つの板部材に形成する。
図9、10の例のように、重ね部のすべての板部材に設けることもできる。
3枚重ねの部材においては、切欠き凹部を1枚の板部材または2枚の板部材について形成してもよいし、3枚の板部材について形成してもよい。セルフピアシングリベットの場合は、貫通穴が形成されていない板部材を含む重ね合わせた全ての板部材に切欠き凹部を形成しても、接合時に貫通穴が形成された板部材のみに切欠き凹部を形成しても、貫通穴が形成された板部材のうち、引張強さ×板厚が高い板部材のみに切欠き凹部を形成してもよい。
なお、本発明の効果がより確実に得られる点から、切欠き凹部は、少なくとも上記穴が存在する板部材に形成されていることが好ましい。
【0039】
図9、10の例では、重ね接合部材7は、第1ハット形部材(板部材)710と、第2ハット形部材(板部材)720と、機械的接合手段による接合部(接合部)SPとを備え、第1ハット形部材710のフランジ部と、第2ハット形部材720のフランジ部が重ね合せられた重ね部を機械的接合手段MJにより接合した構成とされている。
【0040】
第1ハット形部材710のフランジ部には、フランジ片712と、隣接配置されたフランジ片712同士を接続する接続部712Aとを備えていて、隣り合うフランジ片712とフランジ片712の間には、切欠き凹部712Uが形成されている。また、第2ハット形部材720のフランジ部にも同様に、接続部722Aと、隣り合うフランジ片722とフランジ片722の間の切欠き凹部722Uが形成されている。そして、重ね部において、切欠き凹部712Uと切欠き凹部722Uとは重なるように形成されている。
【0041】
なお、この例では、第1ハット形部材710の立上壁部711と、第2ハット形部材720の立上壁部721は、
図11の(A)、(B)に示すように、立上壁部711が立上壁部721よりも内方に位置されて、ずれた配置とされている。
そして、切欠き凹部712Uは、第1ハット形部材710のフランジ部から立上壁部711側において、曲げ部711Rに移行するコーナRの曲げ起点712Bに引っ掛からない範囲において、フランジ部の接続部712Aが形成されるように設定されている。また、切欠き凹部722Uも同様に、第2ハット形部材720のフランジ部から立上壁部721側において、曲げ部722Rに移行するコーナRの曲げ起点722Bに引っ掛からない範囲において、フランジ部の接続部722Aが形成されるように設定されている。
【0042】
曲げ起点722Bは、曲げ起点712Bよりもフランジ部の幅方向外方に位置されていて、
図10において、一点鎖線で示した位置に形成されている。また、切欠き凹部712Uは、曲げ起点712Bよりもフランジ部の幅方向外方の範囲に形成されている。
【0043】
[切欠き凹部の形状]
切欠き凹部は、
図1では、重ね部における板部材端部の開口側が長く、板部材内部の底部側が短い台形状に形成されているが、本発明においてはこのような形状に限定されず、切欠き凹部は、重ね部における板部材端部の開口側が短く、板部材内部の底部側が長い逆台形状に形成されていてもよく、また、
図12に示すような側辺が平行のコの字状(矩形状)に形成されていてもよい。
切欠き凹部の各コーナは、曲線で形成されているのが好ましい。また、切欠き凹部の内側底部には、重ね部の端部22Cに対して平行方向の平行部を持つことが好ましい。平行部の長さは、接合部の穴の内径をKとしたとき、Kの0.5倍以上の長さに設定することができ、好ましくはKの1倍以上であり、より好ましくはKの2倍以上であり、さらに好ましくは3倍以上、より最適には4倍以上である。
【0044】
[切欠き凹部の形成深さ]
切欠き凹部22Uの内側底部の位置(凹部の深さ)については、適用する板部材の構造や想定している負荷応力などに応じて適宜設定できるが、穴の内径Kに対して、少なくとも重ね部の外側の端部22CからK以上端部とは反対側(内側)に形成される必要がある。より好ましくは、1.2K以上であり、さらに好ましくは、底部が穴の端部より内側となる1.5K以上である。
【0045】
また、最大深さは、少なくとも重ね部の一方がフランジの場合は、フランジの曲げ部の起点(一点鎖線で示す曲げ起点22B)までの深さとすることができる。
切欠き凹部が、例えば、板部材のフランジ幅に対して1/2以上の範囲まで入り込んで形成されている場合は、接合部同士間の領域は端部側から1/2以上の幅においては引張応力が分散されて、接合部同土間で伝達される引張応力が1/2以下となることが期待され、さらに切欠き凹部が形成されていない接続された領域(接続部22A)が分散された引張応力に対する耐力を提供する。切欠き凹部が、フランジの幅方向のすべてを含んで形成されている場合は、接合部同士間に引張応力が作用することはなくなる。
重ね部がフランジ部分ではない場合や、重ね接合部材全体の幅が狭い場合は、切欠き凹部の形成深さは、切欠き凹部を設けることによる重ね接合部材全体の強度に対する影響を考慮して決める必要がある。
【0046】
切欠き凹部の形成深さの一例を、
図13の(A)〜(D)に示す。
図13の(A)は、切欠き凹部24Uの内側底部が、接合部SPに形成された穴の内側の端部を結ぶ線Xを超えた深さに位置する場合の重ね接合部材1Aを示し、
図13の(B)は、前記内側底部が、接合部SPに形成された穴の中心を結ぶ線Yに一致する深さに位置する場合の重ね接合部材1Bを示している。
図13の(C)は、切欠き凹部24Uの内側底部が、前記線Yと接合部SPに形成された穴の外側の端部を結ぶ線Zとの中間に位置する場合の重ね接合部材1Cを示し、
図13の(D)は、重ね接合部材全体の幅(引張応力が発生する方向(矢印F)に対して直角方向の部材の幅)が十分でなく、前記内側底部が、前記線Zよりもフランジ端部24C寄りに位置する場合の重ね接合部材1Dを示している。
【0047】
図13の例では、隣り合う切欠き凹部の深さがすべて同じ場合を示しているが、隣り合う切欠き凹部の深さが異なるように形成することもできる。
切欠き凹部の深さが異なる一例を、
図14の(A)〜(C)に示す。
【0048】
図14の(A)は、上記
図13の(A)の切欠き凹部と(B)の切欠き凹部とが混在している場合の重ね接合部材1Eを示している。すなわち、フランジ片25は、重ね接合部材1Eの長手方向に沿って複数形成されていて、隣接配置されたフランジ片25とフランジ片25との間には、上記
図13の(A)に該当する切欠き凹部251Uと
図13の(B)に該当する切欠き凹部252Uとが交互に形成されている。
【0049】
図14の(B)は、上記
図13の(A)と(B)の切欠き凹部の中間の深さの切欠き凹部と、上記
図13の(B)の切欠き凹部とが混在している場合の重ね接合部材1Fを示している。すなわち、フランジ片26は、重ね接合部材1Fの長手方向に沿って複数形成されていて、隣接配置されたフランジ片26とフランジ片26との間には、線Xに一致する深さの切欠き凹部261Uと上記
図13の(B)に該当する切欠き凹部262Uとが交互に形成されている。
【0050】
図14の(C)は、上記
図14の(A)と(B)を合わせた場合の重ね接合部材1Gを示している。すなわち、フランジ片は、重ね接合部材1Gの長手方向に沿って複数形成されていて、隣接配置されたフランジ片281とフランジ片282の間には、上記
図13の(A)に該当する切欠き凹部281Uが形成され、隣接配置されたフランジ片282とフランジ片283の間には、線Xに一致する深さの切欠き凹部282Uが形成され、フランジ片283とフランジ片284の間には、上記
図13の(B)に該当する切欠き凹部283Uが形成されている。
【0051】
<自動車車体構造への適用>
以下、
図15〜
図18を参照して、以上説明した本発明の(複数の金属板部材よりなる)重ね接合構造を、自動車用車体を構成するモノコックボディの、側面衝突が発生した場合にキャビン内の乗員を保護する重要部材(自動車用部品)に適用する例を説明する。
【0052】
[第1の適用例]
この例は、本発明の重ね接合構造を自動車車体構造のBピラー3に適用した例であり、
図15の(A)はBピラーを示す斜視図であり、
図15の(B)は、(A)において二点鎖線Bで示した範囲を拡大した図を示している。なお、
図15の(B)では、外側に配置されるアウターパネルを省略した形で示している。
【0053】
Bピラー(重ね接合部材)3は、
図15の(A)に示すように、例えば、車体の高さ方向に延在されたインナーリンフォース(第1構造部材)310と、略ハット形断面を有するアウターリンフォース(第2構造部材)320とを備え、その外側にアウターパネル(図示しない)を備え、さらに、インナーリンフォース310のフランジ部311に、アウターリンフォース320とアウターパネルが、例えば、セルフピアシングリベットなどの機械的接合手段による接合部SPによって、3枚重ねて連結されている。また、アウターパネルとアウターリンフォースの重ね面、およびアウターリンフォースとインナーリンフォースの接合においては、ひずみ分散のために接着剤を併用してもよい。特にアウターパネルがアルミの場合は、接着剤の併用が好ましい。
アウターリンフォース320は、
図15の(B)に示すように、複数のフランジ片322と、隣接するフランジ片322を接続する接続部322Aとを備え、隣接するフランジ片322の間には切欠き凹部322Uが形成されている。切欠き凹部322Uの内側底部は、接合部SPよりも内部の位置まで形成される。
【0054】
また、インナーリンフォース310と、アウターリンフォース320のいずれか一方又は双方は、例えば、高強度鋼板(例えば、引張強さが590MPa以上の高強度鋼板)を冷間でプレス成形した鋼板部材、又はホットスタンプ材用鋼板をホットスタンプで成形することでマルテンサイト組織が生じたホットスタンプ材(例えば、引張強さが1200MPa以上の鋼板部材)とされている。また、アウターリンフォースの外側に設けられるアウターパネルは、同様の鋼板もしくはアルミ板が成形された部材となっている。
なお、
図15における矢印Fは、Bピラー3が衝突等によって外力を受けた場合に発生する引張応力(想定引張応力)の方向を示している。自動車用構造部材(自動車用部品)が衝突により曲げ方向の外力を受ける部材の場合、衝突によって生じる応力は、自動車用構造部材(自動車用部品)に対してキャビンの内側と外側を結ぶ方向に作用し、引張応力は、概ね長手方向に沿った方向に生じる。
【0055】
<第2の適用例>
この例は、本発明の重ね接合構造を、ルーフレール4を含む自動車構造部材(自動車部品)に適用した例であり、
図16の(A)はルーフレール4を示す斜視図であり、
図16の(B)は、
図16の(A)において二点鎖線Bで示した範囲を拡大した図を、アウターパネルを透視して示し、
図16の(C)は、
図16の(A)において二点鎖線Cで示した範囲を拡大した図を示している。
【0056】
ルーフレール(重ね接合部材)4は、
図16の(A)に示すように、例えば、車体の長さ方向に沿って延在して、Aピラーに接続されるとともに、長さ方向中央から高さ方向に延在して、Bピラーに接続されている。
ルーフレール(重ね接合部材)4は、インナーリンフォース(第1構造部材)410と、略ハット形断面を有するアウターリンフォース(第2構造部材)420と、その外側のアウターパネル(図示しない)とを備え、さらに、インナーリンフォース410のフランジ部411に、アウターリンフォース420とアウターパネルが、例えば、機械的接合手段による接合部SPによって連結されている。また、アウターパネルとアウターリンフォースの重ね面、およびアウターリンフォースとインナーリンフォースの接合においては、接着剤を併用してもよい。特にアウターパネルがアルミの場合は、接着剤の併用が好ましい。
【0057】
アウターリンフォース420は、
図16の(B)、(C)に示すように、ルーフレール4に沿って形成された複数のフランジ片422と、隣接するフランジ片422を接続する接続部422Aと、Bピラーに沿って形成された複数のフランジ片424と、隣接するフランジ片424を接続する接続部424Aとを備えており、隣接するフランジ片422の間には切欠き凹部422Uが形成され、隣接するフランジ片424の間には切欠き凹部424Uが形成されている。
【0058】
また、インナーリンフォース410と、アウターリンフォース420のいずれか一方又は双方は、第1の適用例と同様の鋼板部材、又はホットスタンプ材とされている。また、アウターパネルは、鋼板もしくはアルミ板が成形された部材となっている。
なお、
図16の(B)における矢印Fは、ルーフレール4が側面衝突等によって外力を受けた場合に発生する引張応力(想定引張応力)の方向を、
図16の(C)における矢印Fは、Bピラーが衝突等によって外力を受けた場合に発生する引張応力(想定引張応力)の方向を示している。
【0059】
<第3の適用例>
この例は、本発明の重ね接合構造をバンパ(自動車構造部材、自動車部品)5に適用した例であり、
図17の(A)はバンパを示す斜視図であり、
図17の(B)は、
図17の(B)において二点鎖線Bで示した範囲を拡大した図を示している。
【0060】
バンパ(重ね接合部材)5は、
図17の(A)に示すように、例えば、車体の幅方向に沿って延在して形成されており、バンパーインナーリインフォース(第1構造部材)510と、切欠き凹部が形成されたハット形断面を有するバンパーアウターリインフォース(第2構造部材)520とを備え、さらに、バンパーインナーリインフォース510のフランジ511にバンパーアウターリインフォース520が、例えば、機械的接合手段による接合部SPによって連結されている。
【0061】
バンパーアウターリインフォース520は、
図17の(B)に示すように、バンパーインナーリインフォース510のフランジ511に沿って形成された複数のフランジ片522と、隣接するフランジ片522を接続する接続部522Aとを備えており、隣接するフランジ片522の間には切欠き凹部522Uが形成されている。
【0062】
バンパーインナーリインフォース510と、バンパーアウターリインフォース520のいずれか一方又は双方は、第1の適用例と同様の鋼板部材、又はホットスタンプ材とされている。
なお、
図17の(B)における矢印Fは、バンパ5が衝突等によって外力を受けた場合に発生する引張応力(想定引張応力)の方向を示している。
【0063】
<第4の適用例>
この例は、本発明の重ね接合構造を自動車のBピラーアウターリンフォース6に適用した例を示しており、
図18の(A)はBピラーアウターリンフォースを示す斜視図であり、
図18の(B)は、
図18(A)において矢視XVIB−XVIBで示した縦断面図であり、
図18の(C)は、同じく矢視XVIC−XVICで示した縦断面図である。
【0064】
ハット形断面を有するBピラーアウターリンフォース610の内側に、みぞ形断面を有する補強部材620が配置され、両者の壁面が例えば機械的接合手段による接合部SPによって連結されている。補強部材620の側壁621の端部は、Bピラーアウターリンフォース610の立ち上がり壁611の途中に位置している。
補強部材620の側壁621には、切欠き凹部622Uが設けられ、複数の側壁片622と、隣接する側壁片622を接続する接続部622Aとを備えており、隣接する側壁片622の間には切欠き凹部622Uが形成されている。
【0065】
Bピラーアウターリンフォース610と補強部材620のいずれか一方又は双方は、第1の適用例と同様の鋼板部材、又はホットスタンプ材とされている。
なお、
図18の(A)における矢印Fは、Bピラーが衝突等によって外力を受けた場合に発生する引張応力(想定引張応力)の方向を示している。
【0066】
図15〜
図18に示すようなキャビンの周囲に配置される自動車用構造部材(自動車用部品)に、本発明の重ね接合構造を適用することにより、これらの構造部材が機械的接合手段による接合部SPの穴に起因する破断を抑制することができ、側面衝突に対する安全性を高めることができる。
【0067】
なお、この発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更をすることが可能である。
例えば、上記実施の形態においては、本発明を自動車用部品に適用する場合について説明したが、例えば、建築用の建具、梁、リンク部材や、簡易倉庫、家具、什器等において、重ね部を機械的接合手段により接合する種々の重ね接合部材に適用可能である。
【0068】
また、例えば、上記実施の形態においては、主に、引張強さが590MPa以上の高強度鋼板を対象とする場合について説明したが、例えば、引張強さが590MPa未満の鋼板に対しても適用することができる。さらに、アルミ材同士を接合した部材やアルミ材と鉄材を接合した部材にも、同様に適用可能である。
【0069】
上記実施の形態においては、2枚もしくは3枚の板部材を重ね合せた重ね部に接合部を形成して重ね接合構造を構成する場合について説明したが、4枚以上の板部材を重ね合せた重ね接合構造に適用してもよい。
【0070】
また、上記実施の形態においては、2枚もしくは3枚の板部材のうち1枚の板部材又は2枚の板部材に切欠き凹部が形成される場合について説明したが、例えば、4枚以上(複数)の板部材を重ね合せた重ね部に接合部を形成して、重ね接合構造を構成してもよく、かかる場合、切欠き凹部が形成された板部材をいくつ設けるかは、任意に設定することができる。
【0071】
また、本発明の重ね接合構造は、3枚以上(複数)の板部材を重ね合せた重ね部に接合部を形成して重ね接合構造を構成する場合(例えば、3枚の板部材を重ね合せた重ね部に接合部を形成して重ね接合構造を構成する場合)、板厚方向における中央側の1枚の板部材に切欠き凹部を形成してもよいし、前記中央側の1枚の板部材には切欠き凹部を形成せずに板厚方向における両側(外側)の板部材に切欠き凹部を形成する構成としてもよい。また、本発明の重ね接合構造は、4枚以上の板部材の場合に適用してもよいことはいうまでもない。
【0072】
また、本発明において、板部材を重ね合せて形成する重ね部には、フランジ部を用いることなく、部分補強等を目的として、板部材同士をフランジによらずに重ね合せて接合する場合やフランジがプレス成形された形状部に接合する場合が含まれることはいうまでもない。
【実施例1】
【0073】
図19の試験No.1〜5に示す引張試験前の引張試験片を準備した。
各引張試験片には、引張強さが980MPaの鋼板よりなり且つ中央部がくびれた形状の板Aと、引張強さが590MPaの鋼板よりなり且つ板Aと同形状の板Bを用いた。
試験No.1〜3は、ブラインドリベットを用いて接合した例であり、試験No.1は板Aと板Bに切欠き凹部を設けないで重ねて接合した例であり、試験No.2は、両方の板の同一位置に切欠き凹部を設けて接合した例であり、試験No.3は、高強度の鋼板よりなる板A(上側の鋼板)にのみ切欠き凹部を設けて接合した例である。
試験No.4、5は、セルフピアシングリベット(SPR)を用いて板Aと板Bを接合した形態を模擬し、1枚の鋼板にのみ穴が開いている例であり、試験No.4は切欠き凹部を設けない例、試験No.5は、穴が開いている上側の板Aに切欠き凹部を設けた例である。
各試験片の引張試験前の状態を
図19に示し、表1に、試験条件をまとめて示す。なお、リベットによる穴径は4mmであり、穴の端部から試験片の端部までの最短距離は8mmであった。
【0074】
次に、各試験片を引張試験機にかけて、破断までのひずみ(破断歪(%))を測定した。引張試験では、評点間距離を50mmとし、引張速度を3mm/minの一定とした。
試験片の破断の状態を
図4に示し、表1に試験結果を示す。
試験片に切欠き凹部を設けた本発明例では、切欠き凹部の角部近傍を起点として破断していたのに対し、試験片に切欠き凹部を設けていない比較例では、穴の端縁を起点として破断しており、本発明例の破断ひずみが、比較例に対して大きく向上した結果が得られた。
【0075】
【表1】
【実施例2】
【0076】
引張試験片用に、実施例1と同様に、引張強さが980MPaの鋼板を用い、一部に切欠き凹部を有する板Cと、強度:275MPaのAl板または590MPaの鋼板を用いた板Dを準備し、板Cと板Dを表2に示す組み合わせで重ね合わせて、引張試験片を作製した。
試験No.6、7は、実施例1と同様にセルフピアシングリベット(SPR)を模擬した形態で接合した例、試験No.8、9は摩擦撹拌点接合により板Cと板Dを接合した例である。
各試験片を実施例1と同様に引張試験した結果を表2に示すが、試験片における切欠き凹部の有無に応じて、実施例1と同様の結果が得られた。
【0077】
【表2】