特許第6973503号(P6973503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6973503ΔΣ変調器、送信機、半導体集積回路、及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973503
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】ΔΣ変調器、送信機、半導体集積回路、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H03M 3/02 20060101AFI20211118BHJP
   H03M 7/32 20060101ALI20211118BHJP
【FI】
   H03M3/02
   H03M7/32
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-557997(P2019-557997)
(86)(22)【出願日】2018年8月8日
(86)【国際出願番号】JP2018029746
(87)【国際公開番号】WO2019111446
(87)【国際公開日】20190613
【審査請求日】2021年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2017-236348(P2017-236348)
(32)【優先日】2017年12月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前畠 貴
【審査官】 阿部 弘
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/123250(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/133061(WO,A1)
【文献】 Takashi Maehata, Kazuyuki Totani, Suguru Kameda, Noriharu Suematsu,Concurrent Dual-band 1-bit Digital Transmitter Using Band-Pass Delta-Sigma Modulator,Proceedings of the 8th European Microwave Integrated Circuits Conference,2013年10月,pp.552-555
【文献】 Jiqin He, Wenping Ren, Dongya Shen, Jie Zeng, Xiupu Zhang, Hong Yuan,Dual-band Transmitters Based on Lowpass and Bandpass Delta-Sigma Modulators,Microwave and Millimeter Wave Technology(ICMMT),2016 IEEE International Conference on,2016年06月,pp.590-592
【文献】 SungWon Chung, Rui Ma, Shintaro Shinjo, Koon H. Teo,Inter-band carrier aggregation digital transmitter architecture with concurrent multi-band delta-sig,2015 IEEE MTT-S International Microwave Symposium,IEEE,2015年05月,pp.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 3/02
H03M 7/32
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ΔΣ変調器であって、
周波数が隣り合う第1入力信号と第2入力信号とを加算する第1加算器と、
ループフィルタと、
前記第1加算器の出力と前記ループフィルタの出力とを加算する第2加算器と、
前記第2加算器の出力に基づいて量子化データを生成する量子化器と、
前記量子化器の出力をフィードバックしたフィードバック信号と前記第1加算器の出力との差分を求め、前記差分を前記ループフィルタへ与える差分器と、を備え、
前記ループフィルタは、前記第1入力信号の周波数に対応する第1通過帯域と第2入力信号の周波数に対応する第2通過帯域とを有するとともに、前記ΔΣ変調器の周波数特性において、第1通過帯域に対応する第1雑音阻止帯域と第2通過帯域に対応する第2雑音阻止帯域との間に、極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるフィルタ特性を有する
ΔΣ変調器。
【請求項2】
前記周波数特性は、楕円関数フィルタ又は準楕円関数フィルタとしてのフィルタ特性である
請求項1に記載のΔΣ変調器。
【請求項3】
前記周波数特性を定める雑音伝達関数の絶対値が2以下である
請求項1又は請求項2に記載のΔΣ変調器。
【請求項4】
前記雑音伝達関数の絶対値が1.5以下である
請求項3に記載のΔΣ変調器。
【請求項5】
前記周波数特性は、楕円関数フィルタ又は準楕円関数フィルタとしてのフィルタ特性であり、
前記雑音伝達関数の絶対値が1.5以下である
請求項1に記載のΔΣ変調器。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のΔΣ変調器と、
前記量子化器の出力が与えられる送信部と、を備えている
送信機。
【請求項7】
周波数が隣り合う第1入力信号及び第2入力信号に対してΔΣ変調を行うΔΣ変調器に用いられる半導体集積回路であって、
前記第1入力信号と前記第2入力信号とを加算する第1加算器と、
ループフィルタと、
前記第1加算器の出力と前記ループフィルタの出力とを加算する第2加算器と、
前記第2加算器の出力に基づいて量子化データを生成する量子化器と、
前記量子化器の出力をフィードバックしたフィードバック信号と前記第1加算器の出力との差分を求め、前記差分を前記ループフィルタへ与える差分器と、を備え、
前記ループフィルタは、前記第1入力信号の周波数に対応する第1通過帯域と第2入力信号の周波数に対応する第2通過帯域とを有するとともに、前記ΔΣ変調器の周波数特性において、第1通過帯域に対応する第1雑音阻止帯域と第2通過帯域に対応する第2雑音阻止帯域との間に、極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるフィルタ特性を有する
半導体集積回路。
【請求項8】
周波数が隣り合う第1入力信号及び第2入力信号を表すデータに対して行うΔΣ変調の歪補償処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータに
前記複数の入力信号を加算する第1加算ステップと、
前記第1加算ステップの出力とループフィルタの出力とを加算する第2加算ステップと、
前記第2加算ステップの出力に基づいて量子化データを生成する量子化データ生成ステップと、
前記量子化データ生成ステップの出力をフィードバックしたフィードバック信号と前記第1加算ステップの出力との差分を求め、前記差分を前記ループフィルタへ出力する差分ステップと、
を含む処理を実行させるコンピュータプログラムであり、
前記ループフィルタは、前記第1入力信号の周波数に対応する第1通過帯域と第2入力信号の周波数に対応する第2通過帯域とを有するとともに、前記ΔΣ変調器の周波数特性において、第1通過帯域に対応する第1雑音阻止帯域と第2通過帯域に対応する第2雑音阻止帯域との間に、極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるフィルタ特性を有する
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ΔΣ変調器、送信機、半導体集積回路、及びコンピュータプログラムに関するものである。
本出願は、2017年12月8日出願の日本出願第2017−236348号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、周波数の異なる複数の信号を含む出力信号を出力することができるΔΣ変調器が記載されている。
このΔΣ変調器は、周波数の異なる複数の入力信号が与えられる複数の入力ポートと、前記複数の入力ポートそれぞれに対応して設けられた複数のループフィルタと、複数の前記ループフィルタの出力を加算する加算器とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−165846号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】和保 孝雄、安田 明 監訳(原著者 Richard Schreier, Gabor C. Temes)、「ΔΣ型アナログ/デジタル変換器入門」、丸善株式会社、2007 第81ページ
【0005】
【非特許文献2】LAWRENCE R.RABINER,NANCY Y.GRAHAM,AND HOWARD D.HELMS, 「 Linear Programming Design of IIR Digital Filters with Arbitrary Magnitude Function 」, IEEE TRANSACTIONS ON ACOUSTICS, SPEECH, AND SIGNAL PROCESSING, VOL. ASSP−22, NO. 2, APRIL 1974 PP.117−123
【発明の概要】
【0006】
一実施形態であるΔΣ変調器は、周波数が隣り合う第1入力信号と第2入力信号とを加算する第1加算器と、ループフィルタと、前記第1加算器の出力と前記ループフィルタの出力とを加算する第2加算器と、前記第2加算器の出力に基づいて量子化データを生成する量子化器と、前記量子化器の出力をフィードバックしたフィードバック信号と前記第1加算器の出力との差分を求め、前記差分を前記ループフィルタへ与える差分器と、を備え、前記ループフィルタは、前記第1入力信号の周波数に対応する第1通過帯域と第2入力信号の周波数に対応する第2通過帯域とを有するとともに、前記ΔΣ変調器の周波数特性において、第1通過帯域に対応する第1雑音阻止帯域と第2通過帯域に対応する第2雑音阻止帯域との間に、極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるフィルタ特性を有する。
【0007】
また、一実施形態である送信機は、上述のΔΣ変調器と、前記量子化器の出力が与えられる送信部と、を備えている。
【0008】
また、一実施形態である半導体集積回路は、周波数が隣り合う第1入力信号及び第2入力信号に対してΔΣ変調を行うΔΣ変調器に用いられる半導体集積回路であって、前記第1入力信号と前記第2入力信号とを加算する第1加算器と、ループフィルタと、前記第1加算器の出力と前記ループフィルタの出力とを加算する第2加算器と、前記第2加算器の出力に基づいて量子化データを生成する量子化器と、前記量子化器の出力をフィードバックしたフィードバック信号と前記第1加算器の出力との差分を求め、前記差分を前記ループフィルタへ与える差分器と、を備え、前記ループフィルタは、前記第1入力信号の周波数に対応する第1通過帯域と第2入力信号の周波数に対応する第2通過帯域とを有するとともに、前記ΔΣ変調器の周波数特性において、第1通過帯域に対応する第1雑音阻止帯域と第2通過帯域に対応する第2雑音阻止帯域との間に、極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるフィルタ特性を有する。
【0009】
また、一実施形態であるコンピュータプログラムは、周波数が隣り合う第1入力信号及び第2入力信号を表すデータに対して行うΔΣ変調の歪補償処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、コンピュータに前記複数の入力信号を加算する第1加算ステップと、前記第1加算ステップの出力とループフィルタの出力とを加算する第2加算ステップと、前記第2加算ステップの出力に基づいて量子化データを生成する量子化データ生成ステップと、前記量子化データ生成ステップの出力をフィードバックしたフィードバック信号と前記第1加算ステップの出力との差分を求め、前記差分を前記ループフィルタへ出力する差分ステップと、を含む処理を実行させるコンピュータプログラムであり、前記ループフィルタは、前記第1入力信号の周波数に対応する第1通過帯域と第2入力信号の周波数に対応する第2通過帯域とを有するとともに、前記ΔΣ変調器の周波数特性において、第1通過帯域に対応する第1雑音阻止帯域と第2通過帯域に対応する第2雑音阻止帯域との間に、極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるフィルタ特性を有するコンピュータプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、送信機の一例を示すブロック図である。
図2図2は、第1実施形態に係るΔΣ変調器の構成を示すブロック図である。
図3図3は、ΔΣ変調器の周波数−振幅特性を示すグラフであり、上限値Fupper(ω)と、下限値Flower(ω)の設定の態様の一例を示している。
図4図4は、本実施形態のΔΣ変調器の雑音伝達関数NTF(z)による周波数−振幅特性の一例を示すグラフである。
図5A図5Aは、本実施形態のΔΣ変調器の雑音伝達関数NTF(z)における極点と零点の配置の一例を示した図である。
図5B図5Bは、第1雑音阻止帯域及び第2雑音阻止帯域を互いに独立して設定したときの雑音伝達関数NTF(z)を求めた場合の極点と零点の配置を比較例として示した図である。
図6図6は、図5Aで示した本実施形態のΔΣ変調器の雑音伝達関数NTF(z)の周波数−振幅特性と、図5Bで示した雑音伝達関数NTF(z)の周波数−振幅特性とを比較した図である。
図7図7は、周波数の異なる複数の信号を含む出力信号を出力可能な従来のΔΣ変調器の周波数−振幅特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示が解決しようとする課題]
複数の入力ポートそれぞれに対応して複数のループフィルタを備えることで、周波数の異なる複数の信号を含む出力信号を出力可能なΔΣ変調器を構成することができる。
また、前記複数の入力信号同士を加算した加算信号を一つのループフィルタに与えることで、周波数の異なる複数の信号を含む出力信号を出力可能なΔΣ変調器を構成することも考えられる。
【0012】
複数のループフィルタを用いる場合及び一つのループフィルタを用いる場合のいずれの場合においても、ΔΣ変調器は、複数の入力信号それぞれの周波数に対応して雑音が阻止される帯域を有する周波数特性となるような雑音伝達関数に設定する必要がある。
【0013】
図7は、周波数の異なる複数の信号を含む出力信号を出力可能な従来のΔΣ変調器の周波数−振幅特性の一例を示す図である。
図7において、周波数の異なる2つの入力信号に対応する周波数帯域では、量子化雑音が阻止される帯域(雑音阻止帯域)が存在していることを示している。
【0014】
ここで、ΔΣ変調器ではループフィルタを通過させた量子化雑音を負帰還しているが、雑音阻止帯域以外の帯域における量子化雑音の電力が必要以上に大きくなると、雑音阻止帯域以外の帯域における量子化雑音までもが負帰還されてしまい、発振が生じることがある。このような発振の発生は、ΔΣ変調器の動作に影響を及ぼすことがある。
このため、雑音阻止帯域以外の帯域においては、量子化雑音の電力が必要以上に大きくならないように周波数−振幅特性を設定することが好ましい。
【0015】
例えば、一つの信号だけを含む出力信号を出力するΔΣ変調器の周波数特性には、一つの入力信号に対応する雑音阻止帯域が一つ存在するだけである。このため、一つの信号だけを含む出力信号を出力するΔΣ変調器では、雑音阻止帯域を設定するためのパラメータを調整することにより、雑音阻止帯域以外の帯域の振幅が必要以上に大きくならないように間接的に調整することができる。
【0016】
しかし、周波数の異なる複数の信号を含む出力信号を出力可能なΔΣ変調器の周波数特性には、複数の入力信号に対応する雑音阻止帯域と、量子化雑音が抑圧されない雑音阻止帯域帯域以外の帯域が含まれる。
このため、図7に示すように、雑音阻止帯域以外の帯域には、互いに隣り合って並ぶ2つの雑音阻止帯域の間に位置する帯域Bが含まれる。
【0017】
この2つの雑音阻止帯域の間の帯域Bにおける振幅は、2つの雑音阻止帯域が隣接しているために、両雑音阻止帯域からの影響によって他の帯域よりも比較的大きくなる傾向がある。さらに、2つの雑音阻止帯域が近ければ近いほどその傾向が高まる。その上、両雑音阻止帯域の設定によって両雑音阻止帯域の間の帯域の振幅を間接的に調整しようとしても、両雑音阻止帯域からの影響により、適切に調整することが困難であった。
このため、周波数の異なる複数の信号を含む出力信号を出力可能なΔΣ変調器においては、2つの雑音阻止帯域の間の帯域Bにおける振幅が必要以上に大きくなり、良好な周波数特性を得るのが困難な場合があった。
【0018】
本開示はこのような事情に鑑みてなされたものであり、周波数の異なる複数の信号を含む出力信号を出力可能なΔΣ変調器において、信号の周波数が互いに近い場合であっても良好な周波数−振幅特性を得ることができる技術の提供を目的とする。
【0019】
[本開示の効果]
本開示によれば、周波数の異なる複数の信号を含む出力信号を出力可能なΔΣ変調器において、信号の周波数が互いに近い場合であっても良好な周波数−振幅特性を得ることができる。
【0020】
[実施形態の概要]
最初に実施形態の内容を列記して説明する。
(1)一実施形態であるΔΣ変調器は、周波数が隣り合う第1入力信号と第2入力信号とを加算する第1加算器と、ループフィルタと、前記第1加算器の出力と前記ループフィルタの出力とを加算する第2加算器と、前記第2加算器の出力に基づいて量子化データを生成する量子化器と、前記量子化器の出力をフィードバックしたフィードバック信号と前記第1加算器の出力との差分を求め、前記差分を前記ループフィルタへ与える差分器と、を備え、前記ループフィルタは、前記第1入力信号の周波数に対応する第1通過帯域と第2入力信号の周波数に対応する第2通過帯域とを有するとともに、前記ΔΣ変調器の周波数特性において、第1通過帯域に対応する第1雑音阻止帯域と第2通過帯域に対応する第2雑音阻止帯域との間に、極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるフィルタ特性を有する。
【0021】
上記構成のΔΣ変調器によれば、当該ΔΣ変調器の雑音伝達関数による周波数特性において互いに隣り合う2つの雑音阻止帯域の間に極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるので、この極点又は零点を調整することで、2つの雑音阻止帯域の間の帯域における振幅が必要以上に大きくならないように抑制することができる。この結果、周波数−振幅特性を適切に設定することができる。
【0022】
(2)上記ΔΣ変調器において、前記周波数特性は、楕円関数フィルタ又は準楕円関数フィルタとしてのフィルタ特性であることが好ましい。
この場合、ΔΣ変調器の雑音伝達関数において、互いに隣り合う2つの通過帯域の間の帯域に極点又は零点を適切に設けることができる。
【0023】
(3)また、上記ΔΣ変調器において、発振の発生を抑制するために、前記前記周波数特性を定める雑音伝達関数の絶対値が2以下であることが好ましい。
(4)さらに好ましくは、前記雑音伝達関数の絶対値が1.5以下であることが好ましい。
【0024】
(5)また、上記ΔΣ変調器において、前記周波数特性は、楕円関数フィルタ又は準楕円関数フィルタとしてのフィルタ特性であり、前記雑音伝達関数の絶対値が1.5以下であることが好ましい。
【0025】
(6)また、一実施形態である送信機は、上記(1)に記載のΔΣ変調器と、前記量子化器の出力が与えられる送信部と、を備えている。
【0026】
(7)また、一実施形態である半導体集積回路は、周波数が隣り合う第1入力信号及び第2入力信号に対してΔΣ変調を行うΔΣ変調器に用いられる半導体集積回路であって、前記第1入力信号と前記第2入力信号とを加算する第1加算器と、ループフィルタと、前記第1加算器の出力と前記ループフィルタの出力とを加算する第2加算器と、前記第2加算器の出力に基づいて量子化データを生成する量子化器と、前記量子化器の出力をフィードバックしたフィードバック信号と前記第1加算器の出力との差分を求め、前記差分を前記ループフィルタへ与える差分器と、を備え、前記ループフィルタは、前記第1入力信号の周波数に対応する第1通過帯域と第2入力信号の周波数に対応する第2通過帯域とを有するとともに、前記ΔΣ変調器の周波数特性において、第1通過帯域に対応する第1雑音阻止帯域と第2通過帯域に対応する第2雑音阻止帯域との間に、極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるフィルタ特性を有する。
【0027】
(8)また、一実施形態であるコンピュータプログラムは、周波数が隣り合う第1入力信号及び第2入力信号を表すデータに対して行うΔΣ変調の歪補償処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、コンピュータに前記複数の入力信号を加算する第1加算ステップと、前記第1加算ステップの出力とループフィルタの出力とを加算する第2加算ステップと、前記第2加算ステップの出力に基づいて量子化データを生成する量子化データ生成ステップと、前記量子化データ生成ステップの出力をフィードバックしたフィードバック信号と前記第1加算ステップの出力との差分を求め、前記差分を前記ループフィルタへ出力する差分ステップと、を含む処理を実行させるコンピュータプログラムであり、前記ループフィルタは、前記第1入力信号の周波数に対応する第1通過帯域と第2入力信号の周波数に対応する第2通過帯域とを有するとともに、前記ΔΣ変調器の周波数特性において、第1通過帯域に対応する第1雑音阻止帯域と第2通過帯域に対応する第2雑音阻止帯域との間に、極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるフィルタ特性を有するコンピュータプログラムである。
【0028】
[実施形態の詳細]
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、以下に記載する各実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
〔送信機の構成〕
図1は、送信機の一例を示すブロック図である。
図1中、送信機100は、複数の直交変調部(一次変調器)102,103と、ΔΣ変調器(二次変調器)1とを備えている。
【0029】
複数の直交変調部102,103は、それぞれ、デジタルデータとされたベースバンド信号に対して、デジタル信号処理で直交変調を行うデジタル直交変調器として構成されている。直交変調部102,103は、ベースバンド信号I,Q,I,Qに対して、一次変調として直交変調を行う。
直交変調部102,103は、ベースバンド信号に対して直交変調及びアップコンバート等を行い、RF(Radio Frequency)信号をデジタルデータとして出力する。
RF信号は、無線波として空間に放射される信号であり、例えば、移動体通信や放送サービスに用いられる信号である。
【0030】
直交変調部102,103は、互いに異なる無線周波数のRF信号U,Uを出力するように構成されている。複数のRF信号U,Uは、ΔΣ変調器1への入力信号となる。
【0031】
ΔΣ変調器1は、複数のRF信号(入力信号)U,Uに対して、二次変調としてΔΣ変調を行い、複数のRF信号U,Uを含むパルス信号(量子化データ)を出力することができる。
ΔΣ変調器1が出力するパルス信号は、当該パルス信号の周波数帯域のうち複数のRF信号U,Uそれぞれの周波数に対応する周波数帯域にアナログ信号としてのRF信号U,Uを周波数成分として含んでいる。
【0032】
ΔΣ変調器1の出力信号は、伝送路104を介して、アナログフィルタである第1バンドバスフィルタ105、及び第2バンドパスフィルタ106に与えられる。
本実施形態の送信機100は、ΔΣ変調器1の出力信号であるパルス信号を送信信号として送信する。
【0033】
バンドパスフィルタ105,106は、両RF信号U,Uに対応して設けられている。第1バンドパスフィルタ105は、RF信号Uを通過させる通過帯域を持つ。また、第2バンドパスフィルタ106は、RF信号Uを通過させる通過帯域を持つ。
【0034】
ΔΣ変調器1が出力するパルス信号が第1バンドパスフィルタ105に与えられると、第1バンドパスフィルタ105は、パルス信号からRF信号Uの帯域外の周波数成分(雑音成分等)が除去された信号を出力する。よって、第1バンドパスフィルタ105は、RF信号Uを出力する。
ΔΣ変調器1が出力するパルス信号が第2バンドパスフィルタ106に与えられると、第2バンドパスフィルタ106は、パルス信号からRF信号Uの帯域外の周波数成分が除去された信号を出力する。よって、第2バンドパスフィルタ106は、RF信号Uを出力する。
これらRF信号U及びRF信号Uは、増幅器等に与えられ、無線波として空間に放射されたり、伝送路を介して送信されたりする。
【0035】
送信機100の出力であるパルス信号はデジタル信号であるため、RF信号U,Uをデジタル信号として、光ファイバーなどの高速伝送路で遠方まで伝送することが可能である。
また、一つのデータストリーム中に複数のRF信号を含めることができるため、複数のRF信号を一本の伝送路で送信することができる。
【0036】
〔ΔΣ変調器の構成〕
図2は、第1実施形態に係るΔΣ変調器1の構成を示すブロック図である。図2に示すように、ΔΣ変調器1は、周波数の異なる2つのRF信号(入力信号)U,Uが入力される入力ポート2a,2bを備えている。ΔΣ変調器1は、受け付けた2つのRF信号U,Uを含む単一の出力信号V(ΔΣ変調信号:量子化データ)を出力ポート4から出力する。
【0037】
ΔΣ変調器1は、RF信号U,U(第1入力信号及び第2入力信号)を加算する第1加算器5と、ループフィルタ6と、第1加算器5の出力とループフィルタ6の出力とを加算する第2加算器7と、第2加算器7の出力に基づいて量子化データを生成する量子化器8と、量子化器8の出力をフィードバックした信号と、第1加算器5の出力との差分を求め、ループフィルタ6へ与える差分器9とを備えている。
【0038】
第1加算器5は、入力ポート2a,2bによって受け付けられたRF信号U,Uを加算する。第1加算器5の出力は、第2加算器7及び差分器9のそれぞれに与えられる。
差分器9には、第1加算器5の出力が与えられるとともに、量子化器8から出力される出力信号Vがフィードバック信号として与えられる。フィードバック信号として差分器9に与えられる出力信号Vは、量子化器8の出力端と差分器9とを接続する経路10を介してフィードバックされる。以下、経路10を介して差分器9にフィードバックされる出力信号Vをフィードバック信号ともいう。
【0039】
差分器9は、フィードバック信号と第1加算器5の出力との差分を求め、ループフィルタ6へ出力する。
ループフィルタ6は、第1フィルタ回路15と、第2フィルタ回路16と、第3加算器18とを備えている。
第1フィルタ回路15と、第2フィルタ回路16とは、差分器9及び第3加算器18に対して互いに並列に接続されている。差分器9の出力は、分岐部20により分岐され、第1フィルタ回路15と第2フィルタ回路16へ与えられる。
第3加算器18は、第1フィルタ回路15の出力と第2フィルタ回路16の出力とを加算する。第3加算器18の出力は、ループフィルタ6の出力として第2加算器7へ与えられる。
【0040】
第2加算器7は、第1加算器5の出力と、ループフィルタ6の出力とを加算する。
第2加算器7の出力は、量子化器8へ与えられる。量子化器8は2レベル量子化器であり、1bitのパルス列を出力信号Vとして出力する。なお、上述したように、量子化器8の出力信号Vは、フィードバック信号として経路10を介してループフィルタ6に与えられる。
量子化器8による出力信号Vは、出力ポート4に与えられ出力される。
【0041】
また、ΔΣ変調器1は、第1フィルタ回路15及び第2フィルタ回路16を制御するための制御部19を備えている。制御部19は、第1フィルタ回路15及び第2フィルタ回路16それぞれのフィルタ特性を定める設定パラメータを複数記憶することができる。制御部19は、記憶している複数の設定パラメータを選択的に第1フィルタ回路15及び第2フィルタ回路16に与えることで、第1フィルタ回路15及び第2フィルタ回路16のフィルタ特性を制御する機能を有している。
【0042】
ループフィルタ6の伝達関数L(z)は、第1フィルタ回路15の伝達関数と、第2フィルタ回路16の伝達関数との和によって表される。
ループフィルタ6の伝達関数L(z)は、後述するように、伝達関数L(z)よりも低次の多項式の和として表すことができる。
本実施形態では、ループフィルタ6の伝達関数L(z)を2項の和として表し、これら2項に対応する特性が、第1フィルタ回路15及び第2フィルタ回路16の特性として設定される。
【0043】
これにより、ループフィルタ6の伝達関数L(z)(ΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z))を、伝達関数L(z)よりも低次の伝達関数のフィルタ回路で構成することができる。
【0044】
本実施形態のΔΣ変調器1は、CPUや記憶部等の含んだコンピュータによって構成することもできる。この場合、コンピュータは、前記記憶部に記憶されたコンピュータプログラム等を読み出して実行することによってΔΣ変調器1が有する各機能部を実現することができる。ΔΣ変調器1をコンピュータによって構成した場合、ΔΣ変調器1は、各信号(入力信号や出力信号等)を表すデータの処理を行う。
【0045】
また、本実施形態のΔΣ変調器1は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の半導体集積回路によって構成することができる。ΔΣ変調器1を半導体集積回路で構成した場合、ΔΣ変調器1が有するループフィルタ6や、量子化器8等の各機能部は、半導体集積回路に含まれている各種半導体素子を用いて構成される。
【0046】
さらに、ΔΣ変調器1は、プログラム可能な集積回路であるFPGAと、このFPGAの回路構成に関する回路構成情報をFPGAに与え、前記回路構成情報に従ってFPGAに回路を構成させる機能を有するコンピュータとを備えたシステムによって構成することもできる。
この場合、コンピュータの記憶部には、回路構成情報をFPGAに与えるための処理を前記コンピュータに実行させるためのプログラムや、1又は複数の回路構成情報が記憶されている。
前記コンピュータは、前記記憶部に記憶された回路構成情報をFPGAに与える。回路構成情報が与えられたFPGAは、与えられた回路構成情報に従った回路を構成する。
前記コンピュータの記憶部には、ΔΣ変調器1をFPGAに構成させるための回路構成を示す回路構成情報が記憶されている。
前記コンピュータは、ΔΣ変調器1を構成するための回路構成情報をFPGAに与えることで、FPGAにΔΣ変調器1を構成させることができる。
【0047】
〔ΔΣ変調器の雑音伝達関数について〕
ΔΣ変調器1の出力信号Vは、下記式(1)のようにz領域における関数で表される。
V(z)=E(z)+U(z)+U(z)+
L(z)(U(z)+U(z)−V(z))・・・(1)
V(z)=U(z)+U(z)+(1/(1+L(z)))E(z)
=U(z)+U(z)+NTF(z)E(z) ・・・(2)
【0048】
上記式(1)及び式(2)中、V(z)は出力信号、U(z)及びU(z)はRF信号、L(z)はループフィルタ6の伝達関数L(z)、NTF(z)はΔΣ変調器1の雑音伝達関数、E(z)はΔΣ変調器1の量子化雑音である。
【0049】
上記式(2)より、差分器9の出力は、下記式(3)のように表される。
(z)+U(z)−V(z)=U(z)+U(z)−
(U(z)+U(z)+NTF(z)E(z))
=−NTF(z)E(z) ・・・(3)
【0050】
式(3)より、差分器9の出力は、出力信号V(z)に含まれる雑音成分の逆特性となる。
本実施形態のループフィルタ6は、RF信号Uの周波数帯域を含む第1通過帯域と、RF信号Uの周波数帯域を含む第2通過帯域とを有し、第1通過帯域及び第2通過帯域以外の帯域においては信号の通過を阻止するフィルタ特性となるように設定されている。
【0051】
よって、ループフィルタ6は、RF信号Uの周波数帯域を含む第1通過帯域、及びRF信号Uの周波数帯域を含む第2通過帯域における雑音成分の逆特性を有する信号を出力し、第2加算器7に与える。前記逆特性を有する信号は、第2加算器7によって第1加算器5の出力(RF信号U,Uを加算した信号)に加算される。前記逆特性を有する信号が加算された第1加算器5の出力は量子化器8によって量子化され、その出力信号Vはループフィルタ6にフィードバックされる。
【0052】
本実施形態のループフィルタ6は、差分器9から出力が与えられると、第1通過帯域及び第2通過帯域における雑音成分の逆特性を有する信号を出力する。ループフィルタ6の出力は、第1加算器5の出力に対して繰り返し加算される。これにより、出力信号Vにおける第1通過帯域及び第2通過帯域の雑音が抑圧される。
よって、本実施形態のΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)は、ループフィルタ6によって、第1通過帯域及び第2通過帯域の2箇所に雑音阻止帯域(第1雑音阻止帯域及び第2雑音阻止帯域)を有する周波数−振幅特性(周波数−量子化雑音特性)となるように設定される。
つまり、ΔΣ変調器1の周波数−振幅特性を定める雑音伝達関数NTF(z)は、ループフィルタ6のフィルタ特性によって設定される。
【0053】
ループフィルタ6のフィルタ特性(伝達関数L(z))は、雑音伝達関数NTF(z)を求めてから、その求めた雑音伝達関数NTF(z)に基づいて設定される。
以下、雑音伝達関数NTF(z)の設定方法について説明する。
ΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)は、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタとしての構成を取る。よって、雑音伝達関数NTF(z)は、下記式(4)のように表される。
【0054】
【数1】
【0055】
式(4)中、z,pは、各iの値に対応するパラメータである。
式(4)から、雑音伝達関数NTF(z)は、下記式(5)のように、分母多項式D(z)及び分子多項式N(z)によって分数として表すことができる。
【0056】
【数2】
【0057】
ここで、リーの基準(Lee criterion:「和保 孝雄、安田 明 監訳(原著者 Richard Schreier, Gabor C. Temes)、「ΔΣ型アナログ/デジタル変換器入門」、丸善株式会社、2007 第81ページ」)によれば、雑音伝達関数NTF(z)の絶対値が1.5より小さければ、安定である可能性が高いとされている。
つまり、下記式(6)のように、雑音伝達関数NTF(z)の絶対値が、許容値G(例えば1.5)以下であればよい。
【0058】
なお、この許容値Gは、1.5よりも大きい場合、例えば、許容値Gを2に設定したとしても実質的に安定動作が得られることがある。よって、許容値Gを2に設定してもよい。この場合、雑音伝達関数NTF(z)を求める上での自由度を高めることができる。
しかし、安定動作を重視する場合、許容値Gは1.5以下に設定することがより好ましい。
【0059】
【数3】
【0060】
式(6)の両辺を2乗すると、下記式(7)のように変形することができる。
【0061】
【数4】
【0062】
なお、m=0,1,2,・・・nである。
ここで、式(5)中のパラメータa,bを求めれば、雑音伝達関数NTF(z)が定まる。
そこで、式(5)中のパラメータa,bを求めるために、式(7)中のパラメータc,dを求める。
【0063】
cos(ωt)=(ejωt+e−jωt)×(1/2)であるので、上記式(7)は、下記式(8)のように表すことができる。なお、ωは周波数、tは時間である。
【0064】
【数5】
【0065】
式(8)中、分母多項式D(z)を2乗したもの(以下、D(z)^とも表す)及び分子多項式N(z)を2乗したもの(以下、N(z)^とも表す)は、当然、下記式(9)及び式(10)を満たす。
【0066】
【数6】
【0067】
また、式(11)に示すように、雑音伝達関数NTF(z)を2乗したものに対して、上限値Fupper(ω)(許容値Gの2乗)、及び下限値Flower(ω)を設定する。
【0068】
【数7】
【0069】
式(11)中の上限値Fupper(ω)、及び下限値Flower(ω)を周波数ωに応じて適切な値に設定した上で、当該式(11)に基づいて、上限値Fupper(ω)に関するD(z)^及びN(z)^の制約条件、及び下限値Flower(ω)に関するD(z)^及びN(z)^の制約条件を求める。
また、式(9)及び式(10)も、D(z)^及びN(z)^の制約条件である。
これら式(9)、式(10)、及び式(11)より得られるD(z)^及びN(z)^の制約条件に基づいて、パラメータc,dを含む関数を求め、この関数の値を集束させることで、式(7)におけるパラメータc,dを求める。
なお、パラメータc,dを求めるために、シンプレックス法等を用いることができる。
【0070】
求めたパラメータc,dを上記式(7)に代入することで、式(5)中のパラメータa,bを求めることができる。
これにより、設定した上限値Fupper(ω)、及び下限値Flower(ω)によって制限される条件を満たした雑音伝達関数NTF(z)を求めることができる。
【0071】
本実施形態では、ΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)であって、複数(2つ)の雑音阻止帯域を有する周波数特性とされた雑音伝達関数NTF(z)を求める必要がある。
このため、本実施形態では、上限値Fupper(ω)、及び下限値Flower(ω)を、2つの雑音阻止帯域、及び雑音阻止帯域外の帯域に応じて適切に設定した上で、雑音伝達関数NTF(z)を求める。
【0072】
上記式(11)より、上限値Fupper(ω)に関するD(z)^及びN(z)^の制約条件は、下記式(12)のように表される。
【0073】
【数8】
【0074】
ここで、本実施形態では、式(12)に示すように、周波数ωが第1雑音阻止帯域内及び第2雑音阻止帯域内(第1通過帯域内及び第2通過帯域内)の値である場合、上限値Fupper(ω)は、係数αの2乗(α)に設定される。また、周波数ωが両雑音阻止帯域外の値である場合、上限値Fupper(ω)は、1.5に設定される。
【0075】
また、下限値Flower(ω)に関するD(z)^及びN(z)^の制約条件は、下記式(13)のように表される。
さらに、下限値Flower(ω)は、式(14)に示すように、上限値Fupper(ω)に、係数β(ω)の2乗(β(ω))を乗算することで求められる。つまり、下限値Flower(ω)は、上限値Fupper(ω)を基準に設定される。
【0076】
【数9】
【0077】
図3は、ΔΣ変調器1の周波数−振幅特性を示すグラフであり、上限値Fupper(ω)と、下限値Flower(ω)の設定の態様の一例を示している。図中、縦軸は振幅を2乗したものの対数を示している。
【0078】
上限値Fupper(ω)及び下限値Flower(ω)は、離散的に設定された周波数それぞれに設定されている。
図3中、丸印は、上限値Fupper(ω)が設定されている点、ばつ印は、下限値Flower(ω)が設定されている点を示している。
図3中、破線は、ΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)を2乗したものの対数を示す線図である。
また、図3中、周波数f1はRF信号Uの中心周波数であり、周波数f1を含む第1雑音阻止帯域が示されている。また、周波数f2はRF信号Uの中心周波数であり、周波数f2を含む第2雑音阻止帯域が示されている。
【0079】
図3に示すように、第1雑音阻止帯域内及び第2雑音阻止帯域内の周波数における上限値Fupper(ω)は、αに設定されている。よって、図3における上限値Fupper(ω)の値は、10log10αとなっている。なお、αは、0.01から0.05の間の値に設定される。
【0080】
両雑音阻止帯域外の周波数における上限値Fupper(ω)は、1.5に設定されている。よって、図3における上限値Fupper(ω)の値は、10log101.5となっている。
【0081】
また、両雑音阻止帯域内の周波数及び両雑音阻止帯域外の周波数における下限値Flower(ω)は、上限値Fupper(ω)に、β(ω)を乗算した値に設定されている。よって、図3における下限値Flower(ω)の値は、上限値Fupper(ω)の値から10log10β(ω)だけ下がった値となっている。なお、β(ω)は、1から10の間の値に設定される。
【0082】
また、β(ω)は、周波数ωが両雑音阻止帯域内の周波数である場合と、両雑音阻止帯域外の周波数である場合とで、異なる値に設定される。周波数ωが両雑音阻止帯域内の周波数である場合のβ(ω)は、両雑音阻止帯域外の周波数である場合よりも小さい値に設定される。これにより、周波数ωが両雑音阻止帯域内の周波数である場合における上限値Fupper(ω)と、下限値Flower(ω)との差が、両雑音阻止帯域外の周波数である場合よりも小さく設定される。
【0083】
なお、本実施形態では、上限値Fupper(ω)を基準として下限値Flower(ω)を求めた場合を示したが、下限値Flower(ω)は、上限値Fupper(ω)に対して独立した値に設定してもよい。
【0084】
上記のように上限値Fupper(ω)と、下限値Flower(ω)とを設定することで、図3に示すように、ΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)(を2乗したもの)は、第1雑音阻止帯域及び第2雑音阻止帯域を有するとともに、両雑音阻止帯域外の帯域の振幅が必要以上に大きくならないように抑制された周波数−振幅特性となる。
【0085】
なお、図3に示すように、両雑音阻止帯域、及び両雑音阻止帯域外の帯域に上限値及び下限値を設けることで、得られる雑音伝達関数NTF(z)による周波数特性において、両雑音阻止帯域、及び両雑音阻止帯域外の帯域に零点及び極点が設けられる。
【0086】
特に、本実施形態では、両雑音阻止帯域外の帯域に零点及び極点が設けられており、このため、互いに隣り合う2つの雑音阻止帯域(第1雑音阻止帯域及び第2雑音阻止帯域)の間の帯域に極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられる。
【0087】
上記のように設定した上限値Fupper(ω)及び下限値Flower(ω)それぞれに関するD(z)^及びN(z)^の制約条件と、式(9)及び式(10)によるD(z)^及びN(z)^の制約条件とに基づいて、式(7)におけるパラメータc,dを求め、さらに、式(5)中のパラメータa,bを求めることで、上限値Fupper(ω)、及び下限値Flower(ω)によって制限される条件を満たした雑音伝達関数NTF(z)が求められる。
なお、本実施形態において求められるΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)の周波数特性は、楕円関数フィルタとしてのフィルタ特性を有する。
【0088】
なお、D(z)^及びN(z)^の制約条件に基づいて、雑音伝達関数NTF(z)を求める方法は、例えば、「LAWRENCE R.RABINER,NANCY Y.GRAHAM,AND HOWARD D.HELMS, 「 Linear Programming Design of IIR Digital Filters with Arbitrary Magnitude Function 」, IEEE TRANSACTIONS ON ACOUSTICS, SPEECH, AND SIGNAL PROCESSING, VOL. ASSP−22, NO. 2, APRIL 1974 PP.117−123」に記載された方法に準じている。
上記文献には、一つの通過帯域を有する一般的なローパスフィルタを楕円関数フィルタとして設計する設計方法について記載されている。
本実施形態では、上記文献に記載のフィルタ設計手法を、ΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)に適用した。
【0089】
上記方法によって雑音伝達関数NTF(z)が求められると、上記式(2)に基づいて、雑音伝達関数NTF(z)から、ループフィルタ6の伝達関数L(z)が求められる。
この伝達関数L(z)とされたループフィルタ6は、RF信号Uの周波数f1に対応する第1通過帯域及びRF信号Uの周波数f2に対応する第2通過帯域を有するとともに、ΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)による周波数特性における帯域であって両通過帯域に対応する両雑音阻止帯域間の帯域に極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるフィルタ特性を有する。
【0090】
さらに、この伝達関数L(z)を2項の和に分解することで得られる各項が、第1フィルタ回路15及び第2フィルタ回路16の伝達関数となる。求められた第1フィルタ回路15及び第2フィルタ回路16の伝達関数は、制御部19(図2)によって、第1フィルタ回路15及び第2フィルタ回路16に反映される。
これにより、ΔΣ変調器1は、上記方法によって求めた雑音伝達関数NTF(z)による周波数−振幅特性となる。
【0091】
本実施形態のΔΣ変調器1によれば、当該ΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)による周波数特性において、互いに隣り合う両雑音阻止帯域間の帯域に極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるので、この極点又は零点を調整することで、両雑音阻止帯域の間の帯域における振幅が必要以上に大きくならないように抑制することができる。この結果、周波数−振幅特性を適切に設定することができ、両雑音阻止帯域外の量子化雑音が負帰還されてしまうのを抑制できる。これにより、ΔΣ変調器1を安定して動作させることができる。
【0092】
すなわち、周波数の異なる2つのRF信号を含む出力信号を出力可能なΔΣ変調器1の周波数特性には、2つの雑音阻止帯域と、量子化雑音が抑圧されない雑音阻止帯域帯域以外の帯域が含まれる。さらに、雑音阻止帯域帯域以外の帯域には、両雑音阻止帯域の間に位置する帯域が含まれる。
両雑音阻止帯域間の帯域における振幅は、両雑音阻止帯域が隣接しているために、両雑音阻止帯域からの影響によって他の帯域よりも比較的大きくなる傾向がある。さらに、両雑音阻止帯域が近ければ近いほどその傾向が高まる。
このため、周波数の異なる複数の信号を含む出力信号を出力可能なΔΣ変調器においては、2つの雑音阻止帯域の間の帯域における振幅が必要以上に大きくなることがあり、良好な周波数−振幅特性を得るのが困難な場合があった。
【0093】
特に第5世代移動体通信システムにおいては、3.5GHzや、4.5GHzといった周波数帯の使用が考えられており、これらを用いてキャリアアグリゲーションによる高速化を図る場合、使用周波数帯域が1GHz程度の間隔で隣接する場合がある。
このような、第5世代移動体通信システムにおいて、周波数の異なる複数の信号を含む出力信号を出力するように構成されたΔΣ変調器を用いてキャリアアグリゲーションを行う場合、2つの使用周波数帯域が1GHz程度の間隔で隣接することで、両使用周波数帯域(両雑音阻止帯域)の間の帯域における振幅が他の帯域よりも比較的大きくなってしまうことがある。
【0094】
このため、第5世代移動体通信システムにおいてキャリアアグリゲーションを行うために、周波数の異なる複数の信号を含む出力信号を出力するように構成されたΔΣ変調器を用いる場合に、良好な周波数−振幅特性を得るのが特に困難になると考えられる。
【0095】
これに対して本実施形態のΔΣ変調器1によれば、両雑音阻止帯域の間の帯域に極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられるので、この極点又は零点を調整することで、周波数−振幅特性を適切に設定することができる。
これにより、本実施形態のΔΣ変調器1を第5世代移動体通信システムにおいてキャリアアグリゲーションを行うために用いたとしても、周波数−振幅特性を適切に設定することができ、安定動作させることができる。
【0096】
図4は、本実施形態のΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)による周波数−振幅特性の一例を示すグラフである。また、図5Aは、本実施形態のΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)における極点と零点の配置の一例を示した図である。また、図5Bは、第1雑音阻止帯域及び第2雑音阻止帯域を互いに独立して設定したときの雑音伝達関数NTF(z)を求めた場合の極点と零点の配置を比較例として示しており、図7で示した雑音伝達関数NTF(z)における極点と零点の配置を示した図である。
【0097】
図4中、雑音伝達関数NTF(z)を示す線図の紙面上側に示されている印は、極点及び零点が配置されている周波数を示している印であり、丸印は零点が配置されている周波数を示している。また、ばつ印は極点が配置されている周波数を示している。
【0098】
図4に示すように、ΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)による周波数特性において、第1雑音阻止帯域及び第2雑音阻止帯域に零点が設けられている他、両雑音阻止帯域外においても極点及び零点が配置されている。
特に、第1雑音阻止帯域及び第2雑音阻止帯域の間の帯域Aには、極点が2つ設けられている。
【0099】
また、図5Bに示すように、第1雑音阻止帯域及び第2雑音阻止帯域を互いに独立して設定した場合では、両雑音阻止帯域のみに極点を設けたことで、各極点は円周上の特定の部分に集中して配置されている。
一方、本実施形態では、図5Aに示すように、極点及び零点は円周上及び円周内に点在して配置されており、ΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)による周波数−振幅特性は、楕円関数フィルタとしてのフィルタ特性が表れている。
【0100】
図6は、図5Aで示した本実施形態のΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)の周波数−振幅特性と、図5Bで示した雑音伝達関数NTF(z)の周波数−振幅特性とを比較した図である。
図6中、実線は、図5Aで示した本実施形態のΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)を示す線図、破線は、図5Bで示した雑音伝達関数NTF(z)を示す線図である。
【0101】
図6に示すように、図5Bで示した雑音伝達関数NTF(z)による周波数−振幅特性では、第1雑音阻止帯域と第2雑音阻止帯域との間の帯域Aにおける振幅は5dBを超える値となっている。
一方、本実施形態のΔΣ変調器1の周波数−振幅特性では、帯域Aにおける振幅は0dB近傍値となっており、必要以上に大きくならないように抑制されていることが判る。
【0102】
以上のように、本実施形態のΔΣ変調器1によれば、雑音伝達関数NTF(z)による周波数−振幅特性において、第1雑音阻止帯域及び第2雑音阻止帯域の間の帯域Aに極点が2つ設けられており、この極点を適切に調整することで、帯域Aにおける振幅が必要以上に大きくならないように抑制することができ、良好な周波数−振幅特性を得ることができる。
【0103】
〔その他〕
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
上記実施形態では、周波数の異なる(周波数が隣り合う)2つのRF信号U,Uを含む出力信号を出力可能なΔΣ変調器1を示したが、周波数が異なるより多数の入力信号を含む出力信号を出力可能なΔΣ変調器であっても同様であり、良好な周波数−振幅特性を得ることができる。
つまり、第1加算器5が3つ以上の入力信号を加算可能であり、ΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)が、ループフィルタ6によって、各入力信号の周波数に対応する雑音阻止帯域を有する周波数−振幅特性となるように設定された場合においても、互いに隣り合う雑音阻止帯域の間に極点を設ければ、良好な周波数−振幅特性を得ることができる。
【0104】
上記実施形態では、ΔΣ変調器1の雑音伝達関数NTF(z)による周波数特性において、第1雑音阻止帯域及び第2雑音阻止帯域の間の帯域A(図4)に極点が2つ設けられた場合を例示したが、帯域Aに設けられる極点は1つであってもよい。また、1つ以上の零点が帯域Aに設けられていてもよい。さらに、極点と零点の両方が帯域Aに設けられていてもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、ΔΣ変調器1の周波数特性は、楕円関数フィルタとしてのフィルタ特性としたが、準楕円関数フィルタとしてのフィルタ特性としてもよい。
この場合においても、第1雑音阻止帯域及び第2雑音阻止帯域の間の帯域に、極点及び零点の少なくともいずれか一方が1つ以上設けられ、これにより、良好な周波数−振幅特性を得ることができる。
【0106】
上記実施形態では、ループフィルタ6を2つのフィルタ回路を並列に接続して構成した場合を例示したが、より多数のフィルタ回路を用いて構成してもよい。また、複数のフィルタ回路を直列に接続してループフィルタ6を構成してもよい。
【0107】
本発明の範囲は、上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0108】
1 ΔΣ変調器
2a,2b 入力ポート
4 出力ポート
5 第1加算器
6 ループフィルタ
7 第2加算器
8 量子化器
9 差分器
10 経路
15 第1フィルタ回路
16 第2フィルタ回路
18 第3加算器
19 制御部
20 分岐部
100 送信機
102,103 直交変調部
104 伝送路
105 第1バンドパスフィルタ
106 第2バンドパスフィルタ
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7