(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記半導体基板の深さ方向において、前記半導体基板の上面から前記蓄積領域の前記最大部までの距離と、前記蓄積領域のドーピング濃度分布の半値半幅との和が、前記半導体基板の上面からトレンチ部の下端までの距離以下である
請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体装置。
前記蓄積領域の前記ドーピング濃度分布は、前記ドーピング濃度分布の微分値が最大値または最小値を示す領域以外の領域において、前記微分値が極値を示すキンク部を有する
請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体装置。
前記蓄積領域の前記ドーピング濃度分布は、前記ドーピング濃度分布の微分値が最大値または最小値を示す領域以外の領域において、前記微分値の符号が変化する谷部を有する
請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は重力方向、または、半導体装置の実装時における基板等への取り付け方向に限定されない。
【0019】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。本明細書では、半導体基板の上面と平行な面をXY面とし、半導体基板の上面と垂直な深さ方向をZ軸とする。
【0020】
各実施例においては、第1導電型をN型、第2導電型をP型とした例を示しているが、第1導電型をP型、第2導電型をN型としてもよい。この場合、各実施例における基板、層、領域等の導電型は、それぞれ逆の極性となる。また、本明細書においてP+型(またはN+型)と記載した場合、P型(またはN型)よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P−型(またはN−型)と記載した場合、P型(またはN型)よりもドーピング濃度が低いことを意味する。
【0021】
本明細書においてドーピング濃度とは、ドナーまたはアクセプタ化した不純物の濃度を指す。本明細書において、ドナーおよびアクセプタの濃度差(すなわちネットドーピング濃度)をドーピング濃度とする場合がある。この場合、ドーピング濃度はSR法で測定できる。また、ドナーおよびアクセプタの化学濃度をドーピング濃度としてもよい。この場合、ドーピング濃度はSIMS法で測定できる。特に限定していなければ、ドーピング濃度として、上記のいずれを用いてもよい。また、ドーピング領域におけるドーピング濃度分布のピーク値を、当該ドーピング領域におけるドーピング濃度とする場合がある。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る半導体装置100の上面を部分的に示す図である。本例の半導体装置100は、IGBT等のトランジスタを含むトランジスタ部70、および、FWD(Free Wheel Diode)等のダイオードを含むダイオード部80を有する半導体チップである。ダイオード部80は、半導体基板の上面においてトランジスタ部70と所定の配列方向(
図1ではX軸方向)に並んで設けられる。ダイオード部80とトランジスタ部70は、配列方向において交互に配置されてよい。
図1においてはチップ端部周辺のチップ上面を示しており、他の領域を省略している。
【0023】
また、
図1においては半導体装置100における半導体基板の活性領域を示すが、半導体装置100は、活性領域を囲んでエッジ終端構造部を有してよい。活性領域は、半導体装置100をオン状態に制御した場合に、半導体基板の上面および下面の間で電流が流れる領域を指す。エッジ終端構造部は、半導体基板の上面側の電界集中を緩和する。エッジ終端構造部は、例えばガードリング、フィールドプレート、リサーフおよびこれらを組み合わせた構造を有する。
【0024】
本例の半導体装置100は、半導体基板の上面側の内部に設けられたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15を備える。また、本例の半導体装置100は、半導体基板の上面の上方に設けられたエミッタ電極52およびゲート電極50を備える。エミッタ電極52およびゲート電極50は互いに分離して設けられる。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、トレンチ部の一例である。
【0025】
エミッタ電極52およびゲート電極50と、半導体基板の上面との間には層間絶縁膜が設けられるが、
図1では省略している。本例の層間絶縁膜には、コンタクトホール56、コンタクトホール49およびコンタクトホール54が、当該層間絶縁膜を貫通して設けられる。
【0026】
エミッタ電極52は、コンタクトホール54を通って、半導体基板の上面におけるエミッタ領域12、コンタクト領域15およびベース領域14と接触する。また、エミッタ電極52は、コンタクトホール56を通って、ダミートレンチ部30内のダミー導電部と接続される。エミッタ電極52とダミー導電部との間には、不純物がドープされたポリシリコン等の、導電性を有する材料で形成された接続部25が設けられてよい。接続部25は、半導体基板の上面に設けられる。接続部25と半導体基板との間には、熱酸化膜等の絶縁膜が設けられる。
【0027】
ゲート電極50は、コンタクトホール49を通って、ゲート配線48と接触する。ゲート配線48は、不純物がドープされたポリシリコン等で形成される。ゲート配線48と半導体基板との間には、熱酸化膜等の絶縁膜が設けられる。ゲート配線48は、半導体基板の上面において、ゲートトレンチ部40内のゲート導電部と接続される。ゲート配線48は、ダミートレンチ部30内のダミー導電部とは接続されない。本例のゲート配線48は、コンタクトホール49の下方から、ゲートトレンチ部40の先端部41まで設けられる。先端部41は、ゲートトレンチ部40において、最もゲート電極50に近い端部である。ゲートトレンチ部40の先端部41においてゲート導電部は半導体基板の上面に露出しており、ゲート配線48と接触する。
【0028】
エミッタ電極52およびゲート電極50は、金属を含む材料で形成される。例えば、各電極の少なくとも一部の領域はアルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金で形成される。各電極は、アルミニウム等で形成された領域の下層に、チタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。さらにコンタクトホール内において、バリアメタルとアルミニウム等に接するようにタングステン等を埋め込んで形成されたプラグを有してもよい。
【0029】
1以上のゲートトレンチ部40および1以上のダミートレンチ部30は、トランジスタ部70の領域において所定の配列方向に沿って所定の間隔で配列される。
図1における配列方向はX軸方向である。本明細書では、配列方向を短手方向と称する場合もある。トランジスタ部70においては、配列方向に沿って1以上のゲートトレンチ部40と、1以上のダミートレンチ部30とが交互に設けられてよい。
【0030】
本例のゲートトレンチ部40は、配列方向と垂直な延伸方向に沿って延伸する2つの延伸部分39(延伸方向に沿って直線状であるトレンチの部分)と、2つの延伸部分39を接続する先端部41を有してよい。
図1における延伸方向はY軸方向である。本明細書では、延伸方向を長手方向と称する場合もある。先端部41の少なくとも一部は曲線状に設けられることが好ましい。ゲートトレンチ部40の2つの延伸部分39において、延伸方向に沿った直線形状の端である端部どうしを先端部41が接続することで、延伸部分39の端部における電界集中を緩和できる。
【0031】
本例のダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40のそれぞれの延伸部分39の間に設けられる。これらのダミートレンチ部30は、延伸方向に延伸する直線形状を有してよい。
【0032】
トランジスタ部70において、ダイオード部80と接する境界には、表面にエミッタ領域が設けられない中間領域90を備える。また、トランジスタ部70において、中間領域90に接する部分には、複数のダミートレンチ部30が連続して配列されてよい。中間領域90に接する部分に設けられるダミートレンチ部30も、延伸部分29と先端部31とを有してよい。先端部31および延伸部分29は、先端部41および延伸部分39と同様の形状を有する。先端部31を有するダミートレンチ部30と、直線形状のダミートレンチ部30の延伸方向における長さは同一であってよい。
【0033】
図1の例では、ダイオード部80との境界におけるトランジスタ部70(すなわち、中間領域90と、中間領域90に接している部分)では、先端部31および延伸部分29を有するダミートレンチ部30が設けられている。
図1の例では、先端部31を介して接続された2本の延伸部分29が、延伸部分29の延伸方向とは垂直な配列方向に連続して配列されている。これに対して、トランジスタ部70の内側では、ゲートトレンチ部40の延伸部分39および直線形状のダミートレンチ部30が1本ずつ交互に配列されている。
【0034】
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15の上方に設けられる。ウェル領域11は、コンタクトホール54の長手方向の端部から離れて、所定の範囲で設けられる。コンタクトホール54の当該端部は、コンタクトホール54のうち、ゲート電極50に最も近い部分である。ウェル領域11の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の、ゲート電極50側の一部の領域はウェル領域11に設けられる。直線形状のダミートレンチ部30の延伸方向の端、および、ダミートレンチ部30の先端部31の底は、ウェル領域11に覆われていてよい。
【0035】
各トレンチ部に挟まれたメサ部61および60には、ベース領域14が設けられる。メサ部とは、トレンチ部に挟まれた半導体基板の部分において、トレンチ部の最も深い底部よりも上面側の領域である。ベース領域14は、ウェル領域11よりもドーピング濃度の低い第2導電型である。ウェル領域11は第2導電型である。本例のベース領域14はP−型であり、ウェル領域11はP+型である。
【0036】
メサ部61のベース領域14の上面には、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型のコンタクト領域15が設けられる。本例のコンタクト領域15はP+型である。ウェル領域11は、活性領域におけるコンタクト領域15から、ゲート電極50に近づく方向に離れて設けられてよい。当該コンタクト領域15は、トレンチ部の延伸方向で最も端に配置されたコンタクト領域15である。また、トランジスタ部70においては、コンタクト領域15の上面の一部に、半導体基板よりもドーピング濃度が高い第1導電型のエミッタ領域12が選択的に設けられる。本例のエミッタ領域12はN+型である。
【0037】
コンタクト領域15およびエミッタ領域12のそれぞれは、隣り合う一方のトレンチ部から、他方のトレンチ部まで設けられる。トランジスタ部70の1以上のコンタクト領域15および1以上のエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向に沿って交互にメサ部61の上面に露出するように設けられる。
【0038】
他の例においては、トランジスタ部70におけるメサ部61には、コンタクト領域15およびエミッタ領域12が延伸方向に沿ってストライプ状に設けられていてもよい。例えばトレンチ部に接する領域にエミッタ領域12が設けられ、エミッタ領域12に挟まれた領域にコンタクト領域15が設けられる。
【0039】
ダイオード部80のメサ部61には、エミッタ領域12が設けられていなくてよい。また、中間領域90のメサ部61(本明細書では中間メサ部60と称する)の上面には、コンタクト領域15が設けられてよい。中間メサ部60のコンタクト領域15は、トランジスタ部70における少なくとも一つのコンタクト領域15とX軸方向に互いに向き合って配置されていてよい。中間メサ部60のコンタクト領域15と、トランジスタ部70のコンタクト領域15との間には、ダミートレンチ部30が配置されていてよい。中間メサ部60上面には、トランジスタ部70のエミッタ領域12とX軸方向に互いに向き合って配置されたコンタクト領域15を更に有してもよい。この場合、トレンチ延伸方向における中間メサ部60の両端で露出するベース領域14に挟まれて、コンタクト領域15が連続して設けられてよい。
【0040】
トランジスタ部70において、コンタクトホール54は、コンタクト領域15およびエミッタ領域12の各領域の上方に設けられる。コンタクトホール54は、ベース領域14およびウェル領域11の上方には設けられない。
【0041】
ダイオード部80において、コンタクトホール54は、コンタクト領域15およびベース領域14の上方に設けられる。本例のコンタクトホール54は、ダイオード部80のメサ部61における複数のベース領域14のうち、最もゲート電極50に近いベース領域14−eに対しては設けられない。本例においてトランジスタ部70のコンタクトホール54と、ダイオード部80のコンタクトホール54とは、各トレンチ部の延伸方向において同一の長さを有する。
【0042】
ダイオード部80において、半導体基板の下面と接する領域には、N+型のカソード領域82が設けられる。
図1においては、カソード領域82が設けられる領域を点線で示している。半導体基板の下面と接する領域においてカソード領域82が設けられていない領域には、P+型のコレクタ領域が設けられてよい。本明細書では、カソード領域82とZ軸方向において重なる領域を、Y軸方向に活性領域の端まで延長した領域もダイオード部80とする。
図1では、ダイオード部80の一つのメサ部61を示しているが、ダイオード部80は、X軸方向において複数のメサ部61を有してよい。
【0043】
トランジスタ部70の少なくとも一部の領域には、N+型の蓄積領域16が設けられる。
図1においては、蓄積領域16が設けられる領域を点線で示している。蓄積領域16は、それぞれのメサ部61において、エミッタ領域12またはコンタクト領域15よりも下方に設けられてよい。
【0044】
図2は、
図1におけるa−a'断面の一例を示す図である。a−a'断面は、エミッタ領域12を通過するXZ面である。本例の半導体装置100は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。エミッタ電極52は、半導体基板10および層間絶縁膜38の上面に設けられる。
【0045】
コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23に設けられる。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、金属等の導電材料で設けられる。本明細書において、エミッタ電極52とコレクタ電極24とを結ぶ方向を深さ方向と称する。
【0046】
半導体基板10は、シリコン基板であってよく、炭化シリコン基板であってよく、窒化ガリウム等の窒化物半導体基板等であってもよい。本例の半導体基板10はシリコン基板である。当該断面の半導体基板10の上面21側には、P−型のベース領域14が設けられる。
【0047】
当該断面において、トランジスタ部70における半導体基板10の上面21側には、N+型のエミッタ領域12、P−型のベース領域14およびN+型の蓄積領域16が、半導体基板10の上面21側から順番に設けられる。ただしトランジスタ部70における中間領域90は、他の構造を有していてもよい。本例では、中間領域90の中間メサ部60には、P+型のコンタクト領域15およびP−型のベース領域14が、半導体基板10の上面21側から順番に設けられている。
【0048】
当該断面において、ダイオード部80における半導体基板10の上面21側には、P−型のベース領域14が設けられている。本例のダイオード部80には、蓄積領域16が設けられていない。他の例では、ダイオード部80にも蓄積領域16が設けられてもよい。
【0049】
トランジスタ部70において、蓄積領域16の下にはN−型のドリフト領域18が設けられる。ドリフト領域18とベース領域14との間に、ドリフト領域18よりも高濃度の蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、オン電圧を低減することができる。
【0050】
本例の蓄積領域16は、トランジスタ部70の各メサ部61に設けられる。本例の中間領域90の中間メサ部60においては、蓄積領域16が設けられておらず、ベース領域14に接してドリフト領域18が設けられている。蓄積領域16は、各メサ部61におけるベース領域14の下面全体を覆うように設けられてよい。ダイオード部80において、ベース領域14の下面には、ドリフト領域18が設けられる。トランジスタ部70およびダイオード部80の双方において、ドリフト領域18の下にはN+型のバッファ領域20が設けられる。
【0051】
バッファ領域20は、ドリフト領域18の下側に設けられる。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ベース領域14の下面から広がる空乏層が、P+型のコレクタ領域22およびN+型のカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0052】
一例として、半導体装置100におけるバッファ領域20は、深さ方向におけるドーピング濃度分布において、複数のピーク13を有する。
図2においてはピーク13の位置を点線で示している。ただし、バッファ領域20におけるドーピング濃度分布は、単一のピークを有してよく、全体に渡ってほぼ均一な濃度を有していてもよい。
図2に示す半導体装置100は、バッファ領域20において4つのピークを有している。最も上側に配置されたピーク13−1は、次に上側に配置されたピーク13−2よりも高濃度であってよい。
【0053】
トランジスタ部70において、バッファ領域20の下には、P+型のコレクタ領域22が設けられる。ダイオード部80において、バッファ領域20の下には、N+型のカソード領域82が設けられる。なお、活性領域において、カソード領域82とZ軸方向において重なる投影領域をダイオード部80とする。つまり、半導体基板10の上面21に対して、半導体基板10の下面23と垂直な方向にカソード領域82を投影したときの投影領域をダイオード部80とする。上述したように、投影領域をY軸方向に活性領域の端まで延長した領域もダイオード部80としてよい。また、活性領域において、半導体基板10の上面21に対して、半導体基板10の下面23と垂直な方向にコレクタ領域22を投影したときの投影領域であって、且つ、エミッタ領域12およびコンタクト領域15を含む所定の単位構成が規則的に配置された領域をトランジスタ部70とする。
【0054】
半導体基板10の上面21側には、1以上のゲートトレンチ部40、および、1以上のダミートレンチ部30が設けられる。各トレンチ部は、半導体基板10の上面21から、ベース領域14を貫通して、ドリフト領域18に到達するように設けられている。エミッタ領域12、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられている領域においては、各トレンチ部はこれらの領域も貫通して、ドリフト領域18に到達している。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0055】
蓄積領域16のトレンチ部の延伸方向(本例ではY軸方向)における端は、
図1に示した平面視において、Y軸方向の両端に配置されたコンタクト領域15と重なっていてよい。蓄積領域16のY軸方向における端は、半導体基板10の深さ方向において、コンタクト領域15の下方に位置してよい。さらに、蓄積領域16のY軸方向における端は、エミッタ領域12と、コンタクトホール54のY軸方向における端との間に位置してよい。当該エミッタ領域12は、Y軸方向に周期的に設けられた複数のエミッタ領域12のうち、ゲート電極50に最も近いエミッタ領域12である。
【0056】
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21側に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられる。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に設けられる。つまりゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。
【0057】
ゲート導電部44は、ゲート絶縁膜42を挟んでベース領域14と対向する領域を含む。当該断面におけるゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われる。ゲート導電部44に所定の電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチに接する界面の表層に電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0058】
ダミートレンチ部30は、当該断面において、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21側に設けられたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられる。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に設けられ、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に設けられる。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミー導電部34は、ゲート導電部44と同一の材料で形成されてよい。例えばダミー導電部34は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ダミー導電部34は、深さ方向においてゲート導電部44と同一の長さを有してよい。当該断面におけるダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われる。なお、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40の底部は、下側に凸の曲面状(断面においては曲線状)であってよい。
【0059】
図3は、
図2のb−b'断面におけるドーピング濃度分布の一例を示す図である。b−b'断面は、エミッタ領域12、ベース領域14および蓄積領域16を通過するYZ面である。つまり
図3は、トランジスタ部70におけるエミッタ領域12からドリフト領域18の上端までのドーピング濃度分布を示している。
図3のように、本明細書においてドーピングの濃度を示す図の縦軸は対数軸である。
図3のドーピング濃度は、ネットドーピング濃度である。本明細書においては、半導体基板10の深さ方向におけるドーピング濃度分布を、単にドーピング濃度分布と称する。
【0060】
本例のドリフト領域18は、ほぼ一定のドーピング濃度を有する。ドリフト領域18は、CZ法、MCZ法、FZ法により形成されたインゴットから切り出した半導体基板に形成されていた領域であってよく、エピタキシャル成長等により形成された領域であってもよい。本例のエミッタ領域12、ベース領域14および蓄積領域16のZ軸方向におけるドーピング濃度分布は、最大値となる領域を有し、且つ、最大値となる領域に接してドーピング濃度が減少する領域を有する。エミッタ領域12、ベース領域14および蓄積領域16は、半導体基板10に不純物を注入することで形成されてよい。本例において、ベース領域14および蓄積領域16は接して設けられている。ベース領域14および蓄積領域16が接しているとは、ベース領域14および蓄積領域16の間に、ドリフト領域18と同一のドーピング濃度の領域が設けられていないことを指す。
【0061】
蓄積領域16において、ドーピング濃度が最大値となる領域を最大部102とする。蓄積領域16のドーピング濃度分布は、最大部102からベース領域14に向かう少なくとも一部の領域において、ドーピング濃度が傾斜を有して減少する上側傾斜部104を有する。本例では、最大部102からベース領域14までの全ての領域が上側傾斜部104である。つまり、蓄積領域16のドーピング濃度分布は、最大部102からベース領域14に向かう全ての領域において傾斜を有して減少している。最大部102のドーピング濃度は、ベース領域14のピーク濃度より低くてもよいし高くてもよい。
【0062】
また、蓄積領域16のドーピング濃度分布は、最大部102からドリフト領域18に向かう少なくとも一部の領域において傾斜を有して減少する下側傾斜部106を有する。本例では、最大部102からドリフト領域18までの全ての領域が下側傾斜部106である。つまり、蓄積領域16のドーピング濃度分布は、最大部102からドリフト領域18に向かう全ての領域において傾斜を有して減少している。
【0063】
ドーピング濃度が傾斜を有して減少するとは、深さ位置をZとし、ドーピング濃度をDとした場合に、ドーピング濃度Dを深さ位置Zで微分したdD/dZの絶対値が、0より大きい有限の値を有することを指す。不純物の注入条件、または、注入後の熱処理の条件等を調整することで、当該傾斜の大きさを制御してよい。
【0064】
蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値全幅FWHMは、所定の標準半値全幅の2.2倍以上である。蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値全幅FWHMを大きくすることで、オン電圧とターンオフ損失のトレードオフを改善しながら、ターンオン損失を減らすことができる。
【0065】
標準半値全幅は、半導体基板10の材料および蓄積領域16に含まれる不純物の種類に応じた飛程−半値全幅特性に対して、最大部102の深さ位置Zpを不純物の注入時における飛程とすることで定まる半値全幅である。半導体基板10に対して所定の飛程(つまり、半導体基板10における深さ位置)で不純物を注入すると、深さ方向において一定のばらつきを有して不純物が分布する。不純物が注入される深さ位置のばらつき量(ストラグリング)は、不純物の飛程(つまり、不純物を注入するときの加速エネルギー)に応じて定まる。ただし当該ばらつき量は、半導体基板10の材料と、注入する不純物の種類に依存する。
【0066】
つまり標準半値全幅は、飛程を深さ位置Zpに固定して不純物を注入し、且つ、熱処理を行っていない通常状態での半値全幅に対応する。標準半値全幅は、半導体基板の上面に垂直に不純物を注入したときの、半値全幅であってよい。これに対して半導体装置100においては、標準半値全幅よりも蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値全幅FWHMを十分大きくしている。これにより、後述するオン電圧とターンオフ損失のトレードオフの改善と、ターンオン損失の低減を実現する。なお、蓄積領域16のドーピング濃度分布が、所定の深さ範囲において連続して最大値を示す場合、最大値を示す深さ範囲の中央を最大部102の深さ位置Zpとしてよい。
【0067】
図4は、半導体装置100のターンオン時におけるコレクタ電流Icの波形例を示す図である。波形93は、蓄積領域16のドーピング濃度分布が標準半値全幅を有する比較例のコレクタ電流Icを示している。蓄積領域16を設けることでゲート−コレクタ間における過渡容量が増加する。このため、ターンオン時のコレクタ電流Icのdi/dtが増加する。この場合、蓄積領域16を設けることで、オン電圧とターンオフ損失のトレードオフを改善することができるが、ターンオン時のdi/dtが増大する。ターンオン時のdi/dtを所望の範囲に調整すべくゲート抵抗を大きくしてdi/dtの増加を抑制すると、ターンオン損失が増大してしまう。
【0068】
波形92は、蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値全幅が、標準半値全幅の2.2倍以上である場合のコレクタ電流Icを示している。幅の大きい蓄積領域16を設けることで、ゲート−コレクタ間における過渡容量の増加を抑制できる。このため、ターンオン時のコレクタ電流Icのdi/dtの増加を抑制できる。従って、オン電圧とターンオフ損失のトレードオフを改善しつつ、ターンオン損失を低減できる。
【0069】
図5は、蓄積領域16のドーピング濃度分布が標準半値全幅を有する比較例における、メサ部61近傍の電子電流および変位電流が流れる経路の一例を示す図である。
図5においては、ターンオン時の電流経路を示している。ターンオン時には、ゲート導電部44の電圧が、0[V]から徐々に立上る。これにより、ベース領域14のゲートトレンチ部40近傍には負電荷が誘起することでチャネルが形成される。
【0070】
ターンオン時の初期における電流の主体は、正孔電流ではなく電子電流である。初期とは、ゲート電圧Vgeが、閾値電圧に達する直前から、ほぼ閾値電圧の値でVgeが一定となるミラー期間に入る前までの期間である。Vgeが閾値電圧に近くなると、チャネルが開きかけ、電子のドリフト領域への注入が始まる。
【0071】
図5の比較例において、チャネルから下方に向かう電子は、蓄積領域16において一旦配列方向(X軸方向、または、ゲートトレンチ部40の近傍からメサ部61中央に向かう方向)に流れる可能性がある。ただし、蓄積領域16よりも下方のドリフト領域18においては、ゲートトレンチ部40近傍は、電子の蓄積層が既に形成されているため(N型領域の電子の蓄積層が形成される閾値電圧は、P型領域の反転層の閾値電圧よりはるかに小さい)、ドリフト領域18よりも低インピーダンスである。そのため、電子電流はゲートトレンチ部40近傍を主として流れる。
【0072】
電子が裏面のコレクタ領域22に達すると、コレクタ領域22からバッファ領域20およびドリフト領域18にかけて、正孔の注入が開始する。これにより、トレンチ部の下端近傍に正孔が蓄積される。一例として、ゲートトレンチ部40の下端近傍から、蓄積領域16よりも下方のダミートレンチ部30の側部にかけて、正孔が1×10
16[cm
−3]のオーダーで存在する。
【0073】
正孔は、ゲートトレンチ部40の下端と、ダミートレンチ部30の下端に集まる。特にダミー導電部34はエミッタ電極52と同電位であるため、ダミートレンチ部30の側壁には正孔の反転層が形成されやすい。コレクタ領域22から注入された正孔は、この正孔の反転層の近傍に集まる。正孔は、ダミートレンチ部30からゲートトレンチ部40の下端にかけて連続的に分布する。この正孔分布に起因して、ターンオン時に、ゲートトレンチ部40の下端近傍へ、大きな変位電流が流れる。
【0074】
正孔の蓄積に起因する変位電流は、ゲート絶縁膜42を挟んで対向するゲート導電部44の充電を生じさせる。このゲート導電部44の充電が、ゲート電
圧Vgeの瞬間的な増加を引き起こす。当該変位電流が大きいほど、ゲート導電部44が充電されるため、ゲート導電部44の電位がよりすばやく上昇する。その結果、ゲート導電部44の電位がゲート閾値を瞬間的に超える。
【0075】
これにより、電子と正孔の大量の注入が始まり、コレクタ・エミッタ間電流が増加する。コレクタ・エミッタ間電流の増加による電流変化率に応じて、コレクタ・エミッタ間電圧の電圧減少率(dV/dt)が増加する。変位電流が大きいほど、dV/dtが大きくなる。特に、蓄積された正孔がエミッタ電極52に流れない程、変位電流は大きく、ゲート導電部44の電位の瞬間的な増加は大きくなる。それゆえ、
図5の比較例においては、dV/dtが比較的大きくなり、電磁ノイズもまた比較的に大きくなる。
【0076】
図6は、蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値全幅が、標準半値全幅の2.2倍以上である半導体装置100における、ターンオン時の電子電流および変位電流を示す図である。本例においても、チャネルを通過した電子は、蓄積領域16において配列方向(X軸方向)に行きかける。ただし本例においては、深さ方向において広い範囲に蓄積領域16が設けられている。
【0077】
本例において、電子電流にとってのインピーダンスは、蓄積領域16の中央近傍からゲートトレンチ部40近傍に戻る経路よりも、蓄積領域16の中央近傍を真下の方向に直接流れる経路の方が低い。このため、電子電流がメサ部61中央近傍を流れやすくなる。
【0078】
上述したように、本例の電子電流のうち少なくとも一部は、ゲートトレンチ部40近傍に戻ることなく、ゲートトレンチ部40とダミートレンチ部30に挟まれたメサ部61の中央付近を下方に進む。つまり、本例の電子電流の少なくとも一部は、ゲートトレンチ部40近傍ではなくメサ部61の中央付近を流れる。
【0079】
電子電流がメサ部61の中央付近を流れると、メサ部61の底部近傍における正孔分布は、メサ部61中央付近で分断される。このため電子電流の経路よりもダミートレンチ部30側の正孔は、ゲートトレンチ部40側には流れない。このメサ部61中央部における正孔分布の分断が、ゲートトレンチ部40の下端における正孔の蓄積を抑制する。その結果、
図5の例と比べて、
図6の例においては、変位電流を小さくできる。変位電流を小さくできるので、ゲート導電部44の充電も小さくなり、ゲート電
圧Vgeの瞬間的な増加も抑制される。これにより、コレクタ・エミッタ間電圧の電圧減少率(dV/dt)も抑制できる。
【0080】
正孔がゲートトレンチ部40の下端ならびにダミートレンチ部30の下端および側部に主として分布し、メサ部61の中央部にはほとんど分布しないことを、本件の発明者はシミュレーションにより確認した。一例としてゲートトレンチ部40の下端近傍およびダミートレンチ部30の下端近傍において正孔が1×10
13[cm
−3]のオーダーで存在し、
図5の比較例における1×10
16[cm
−3]よりも十分に低い。
【0081】
以下の理由に限定されるものではないが、
図6の例における正孔分布は、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30間の正孔分布が電子電流により分断されたことに起因すると考えられる。また、当該正孔分布に起因して、ターンオン時には、ダミートレンチ部30の下端近傍からゲートトレンチ部40の下端近傍へ、
図5の比較例よりも小さな変位電流が流れる。
【0082】
それゆえ、本例においては、
図5の比較例に比べて変位電流が小さいので、
図5の比較例に比べてdV/dtが小さくなり、電磁ノイズもまた小さくすることができる。また、本例においては、ゲート導電部44の電位がすばやく上昇することを抑えることを目的とした付加的なゲート抵抗Rgをゲート導電部44に接続しなくてもよい。または、小さいゲート抵抗Rgをゲート導電部44に接続すれば、ゲート導電部44の電位の急峻な上昇を抑制できる。従って、
図5の比較例に比べてターンオン時の電力損失を低減することができる。
【0083】
なお、蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値全幅FWHMは、標準半値全幅の3倍以上であってよく、4倍以上であってよく、5倍以上であってもよい。蓄積領域16の幅を大きくすることで、上述した効果はより顕著になる。ただし、蓄積領域16は、ゲートトレンチ部40の下端よりも浅い領域に設けられることが好ましい。半導体基板10の深さ方向において、半導体基板10の上面21から蓄積領域16の最大部102までの距離(
図3における深さ位置0からZpまでの距離)と、蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値半幅(
図3における深さ位置ZhとZpとの距離)との和が、半導体基板10の上面21からゲートトレンチ部40の下端までの距離(
図3における深さ位置0からZtまでの距離)以下であってよい。また、蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値全幅FWHMは、標準半値全幅の30倍以下であってよく、20倍以下であってよく、10倍以下であってよく、8倍以下であってよく、6倍以下であってもよい。
【0084】
図7は、蓄積領域16の形成工程の一例を説明する図である。
図7においては、蓄積領域16の一部の領域におけるドーピング濃度分布を実線で示している。半値全幅の大きい蓄積領域16は、異なる複数種類の飛程で、半導体基板10に不純物を注入することで形成できる。
図7の例では、3つの飛程Rp1、Rp2、Rp3で不純物を注入している。それぞれの飛程に対応する不純物の分布108を点線で示している。不純物を注入した後に、所定の温度や時間で適切にアニール等の熱処理を行うことで、実線で示すようなドーピング濃度分布を有する蓄積領域16を形成できる。ただし、蓄積領域16の形成方法は、
図7に示す方法に限定されない。蓄積領域16の形成工程では、半導体基板10の上面21に対して斜めに不純物を注入してよく、垂直に不純物を注入してもよい。
【0085】
また、蓄積領域16を形成する不純物(ドーパント)の化学濃度分布19が最大値を示す位置126は、蓄積領域16の内部に配置されてよい。
図7の例では、不純物(ドーパント)であるリンの化学濃度分布19における位置126は、蓄積領域16のドーピング濃度分布の深さ方向における両端(ベース領域14との境界と、ドリフト領域18との境界)の内部に位置している。位置126は、蓄積領域16において、ドーピング濃度がドーピング濃度分布における最大値の1/10以上である範囲に配置されていてよい。
【0086】
また、複数の飛程Rpで不純物を注入して蓄積領域16を形成することで、それぞれの飛程Rpにおけるドーズ量を抑制しつつ、蓄積領域16全体における不純物の積分濃度を維持できる。このため、ベース領域14に近接する飛程でのドーズ量が抑制できる。従って、ベース領域14にN型不純物が多く拡散することを抑制し、ベース領域14が深さ方向に短くなることを抑制できる。
【0087】
図8は、飛程−半値全幅特性の一例を示す図である。
図8においては、半導体基板10はシリコン基板であり、蓄積領域16を形成するために注入される不純物はリンである。それぞれの飛程における標準半値全幅は、半導体基板に当該飛程で不純物を注入して、熱処理を行わない状態で不純物の分布を測定することで得られる。一例としてシリコン基板にリンを注入した場合の飛程−半値全幅特性は、下式で近似できる。
【数1】
ただし、xは飛程Rp(μm)の常用対数(log
10(Rp))であり、yは半値全幅FWHM(μm)の常用対数(log
10(FWHM))である。他の基板材料および不純物についても、上述したように飛程−半値全幅特性を実測することができる。また,ある飛程における標準半値全幅は、当該飛程よりも大きい飛程で形成した蓄積領域16において測定された標準半値全幅と、当該飛程よりも小さい飛程で形成した蓄積領域16において測定された標準半値全幅との間を直線で近似することで算出してもよい。
【0088】
図8において数1に対応する曲線110を示す。曲線112は、曲線110の半値全幅を2.2倍した曲線である。蓄積領域16のドーピング濃度分布は、曲線112における飛程として最大部102の深さ位置Zpを用いた場合に定まる半値全幅以上の半値全幅を有する。曲線114は、曲線110の半値全幅を10倍した曲線である。曲線113は、曲線110の半値全幅を30倍した曲線である。蓄積領域16のドーピング濃度分布は、曲線114における飛程として最大部102の深さ位置Zpを用いた場合に定まる半値全幅以下の半値全幅を有してよい。前述のように、蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値全幅FWHMは、標準半値全幅の2.2倍以上であってよい。また、蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値全幅FWHMは、標準半値全幅の30倍以下であってよく、20倍以下であってよく、10倍以下であってよく、8倍以下であってよく、6倍以下であってもよい。
【0089】
図9は、蓄積領域16のドーピング濃度分布の一例を部分的に示す図である。蓄積領域16のドーピング濃度分布において、最大部102のドーピング濃度Dpに対して1/4のドーピング濃度(Dp/4)になる深さ位置と、1/40のドーピング濃度(Dp/40)になる深さ位置との距離ΔZが、0.1μm以上、1.0μm以下であることが好ましい。上側傾斜部104が当該距離ΔZの条件を満たしてよく、上側傾斜部104および下側傾斜部106の両方が当該距離ΔZの条件を満たしてよい。
【0090】
距離ΔZが0.1μmより小さいと、蓄積領域16においてドーピング濃度分布の傾斜が急峻になりすぎてしまい、蓄積領域16の当該傾斜部に電界が集中する場合がある。これに対して距離ΔZを0.1μm以上とすることで、当該傾斜における電界集中を緩和できる。距離ΔZは、0.2μm以上であってよく、0.3μm以上であってもよい。
【0091】
距離ΔZが1.0μmより大きいと、ベース領域14側にN型不純物が拡散して、ベース領域14の深さ方向の長さ(すなわちチャネルの長さ)が小さくなってしまう。チャネルの長さが小さくなると、飽和電流のばらつきが大きくなってしまう。これに対して距離ΔZを1.0μmより小さくすることで、チャネルの長さを維持しやすくなる。距離ΔZは、0.9μm以下であってよく、0.8μm以下であってもよい。
【0092】
図10は、蓄積領域16のドーピング濃度分布の他の例を示す図である。本例のドーピング濃度分布は、実質的に平坦な最大部102を有する。つまりドーピング濃度分布は、所定の深さ範囲Wpに渡って、蓄積領域16の最大のドーピング濃度Dpと実質的に同一のドーピング濃度を有する。ドーピング濃度Dpと実質的に同一のドーピング濃度とは、例えば、0.9×Dp以上のドーピング濃度である。ドーピング濃度Dpと実質的に同一のドーピング濃度とは、0.95×Dp以上のドーピング濃度であってもよい。範囲Wpの長さは、0.3μm以上であってよく、0.5μm以上であってよく、1μm以上であってもよい。
蓄積領域16のドーピング濃度分布は、さらにベース領域14に向かう少なくとも一部の領域において、ドーピング濃度が傾斜を有して減少する上側傾斜部104と、ドリフト領域18に向かう少なくとも一部の領域において傾斜を有して減少する下側傾斜部106を有する。この場合、最大部102が設けられた所定の深さ範囲の中央を、最大部102の深さ位置Zpとして用いてよい。最大部102を所定の深さ範囲に渡って設けることで、半値全幅FWHMを容易に大きくできる。
【0093】
図11は、蓄積領域16のドーピング濃度分布の他の例を示す図である。本例のドーピング濃度分布は、ドーピング濃度分布の微分値が最大値または最小値を示す領域以外の領域において、微分値が極値124を示すキンク部122を有する。ドーピング濃度分布の微分値とは、ドーピング濃度分布を深さ位置Zで微分した値を指す。本例では、上側傾斜部104内の所定の深さ位置Zmaxにおいて微分値が最大値となり、下側傾斜部106内の所定の深さ位置Zminにおいて微分値が最小値となる。深さ位置ZmaxおよびZminの間の所定の位置Zkにおいて微分値が極値を有する。
【0094】
キンク部122を設けることで、ドーピング濃度分布の傾斜部の傾きが部分的に緩和されるので、半値全幅FWHMを容易に大きくできる。キンク部122は、上側傾斜部104および下側傾斜部106の一方に設けられてよく、両方に設けられてもよい。一例としてキンク部122は、
図7に示した各飛程Rpの間の距離を所定以上にすることで形成できる。
【0095】
蓄積領域16の深さ方向における中央位置Zcよりも上側の領域に、最大部102およびキンク部122の一方が配置され、蓄積領域16の深さ方向における中央よりも下側の領域に、最大部102およびキンク部122の他方が配置されていてよい。本例では、蓄積領域16とベース領域14との境界位置Zb1と、蓄積領域16とドリフト領域18との境界位置Zb2との中央を、蓄積領域16の中央位置Zcとする。本例では、中央位置Zcから境界位置Zb1までの上側領域に最大部102が配置され、中央位置Zcから境界位置Zb2までの下側領域にキンク部122が配置されている。このような構造によっても、半値全幅FWHMを容易に大きくできる。
【0096】
また、キンク部122におけるドーピング濃度Dkは、最大部102におけるドーピング濃度Dpの1/10以上であってよい。キンク部122のドーピング濃度Dkを、最大部102のドーピング濃度Dpに比較的に近い濃度とすることで、ドーピング濃度が高い領域を広げることができる。ドーピング濃度Dkは、ドーピング濃度Dpの1/5以上であってよく、1/2以上であってもよい。
【0097】
図12は、蓄積領域16に対する不純物の注入条件を変化させた場合の、蓄積領域16の化学濃度分布の一例を示す図である。本例の半導体基板10はシリコン基板であり、不純物はリンである。蓄積領域16−1の化学濃度分布は、不純物の加速エネルギーを、2.6MeVと、3.0MeVとして2回注入した例である。蓄積領域16−2の化学濃度分布は、不純物の加速エネルギーを、2.6MeVと、3.0MeVと、3.4MeVとして3回注入した例である。蓄積領域16−3の化学濃度分布は、不純物の加速エネルギーを、2.6MeVと、3.4MeVと、3.9MeVとして3回イオン注入した例である。なお1回の注入において、6×10
12/cm
2のドープ量の不純物を注入した。それぞれの例において、全ての不純物を注入した後に1000℃30分の熱処理を行っている。なお、それぞれの蓄積領域16−1、16−2、16−3の化学濃度分布におけるキンク部122−1、122−2、122−3を矢印で示す。
【0098】
図12に示すように、不純物の注入条件を変化させることで、蓄積領域16の化学濃度分布の半値全幅を調整できる。蓄積領域16−1の例において、最大部102の深さ位置は2.1μmであり、半値全幅は標準半値全幅の3.2倍であった。蓄積領域16−2の例において、最大部102の深さ位置は2.3μmであり、半値全幅は標準半値全幅の3.9倍であった。蓄積領域16−3の例において、最大部102の深さ位置は2.5μmであり、半値全幅は、標準半値全幅の4.8倍であった。
【0099】
なお、複数回のイオン注入において、加速エネルギーの高い注入を、加速エネルギーの低い注入よりも先に行ってよい。あるいは、加速エネルギーの低い注入を先に行ってもよい。また、異なる加速エネルギーのイオン注入の順番を調整することで、キンク部の位置や濃度を調整してもよい。
【0100】
図12の分布160は、他の例に係る蓄積領域16のドーパントの化学濃度分布である。分布160は、ピーク濃度の1/100における全幅が半導体装置100の場合と比べて1.3倍かそれ以上に広がっている。一例として、分布160は、1回のイオン注入で、1100℃30分の熱処理を行って蓄積領域16を形成した例であるが、製造方法はこれに限定されない。なお分布160における半値全幅を、蓄積領域16−1と同等の幅にしている。
【0101】
化学濃度分布のピーク濃度の1/100における全幅を1パーセント全幅(FW1%M)とすると、分布160の1パーセント全幅に対する半値全幅の比(FWHM/FW1%M)は、0.26である。また、最大部102の深さ位置Zp(不図示)に対して、1パーセント全幅FW1%Mの半導体基板10の上面21側の幅が、下面23側の幅より広い。このため、ベース領域14の幅が狭くなり、耐圧低下や閾値に影響が出やすい。
【0102】
一方、本例の蓄積領域16−1、16−2および16−3の場合、半値全幅FWHMに対する1パーセント全幅は相対的に広がっていない。例えば蓄積領域16−2では、1パーセント全幅に対する半値全幅の比は、0.35である。また、蓄積領域16−1〜16−3のそれぞれの化学濃度分布で、最大部102の深さ位置Zpに対して、1パーセント全幅の半導体基板10の上面21側の幅と下面23側の幅は略等しいか、または下面23側の幅の方が広くなっている。これにより、ベース領域14の幅への影響は小さく、耐圧低下や閾値変動への影響も出難い。
【0103】
本例の蓄積領域16のFWHM/FW1%Mは、0.26より大きくてよく、0.27以上かそれより大きくてよく、0.3以上かそれより大きくてよく、0.4以上かそれより大きくてよい。また、FWHM/FW1%Mは、1よりは小さい。さらにFWHM/FW1%Mは0.9以下かそれより小さくてよく、0.8以下かそれより小さくてよい。
【0104】
図13は、逆回復時におけるdV/dtと、オン損失Eonとの関係を示す図である。
図13では、蓄積領域16−1または16−3を有する例と、ドーピング濃度分布の半値全幅が標準半値全幅の2.1倍である比較例200とを示している。蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値全幅を大きくすることで、dV/dtと、オン損失Eonとのトレードオフが改善している。
【0105】
最大部102、上側傾斜部104および下側傾斜部106を備えた蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値全幅FWHMを、標準半値全幅の2.2倍以上とする意義は、下記の通りである。標準半値全幅の曲線110(
図8参照)に対応する半導体装置に対して熱アニールを行うと、ドーピング濃度分布におけるピーク濃度が減少して半値全幅が広がる。例えば一回のイオン注入だけで決まる標準半値全幅に対して、様々な熱アニールによる検証の結果、逆回復時におけるdV/dtと、オン損失Eonとの関係で最も良好な条件は、ドーピング濃度分布の半値全幅が標準半値全幅の2.1倍である蓄積領域を備える、比較例200であった。つまり、一回のイオン注入と熱アニールで得られる蓄積領域16では、比較例200より良好な電気的特性を得ることが難しくなる。
【0106】
例えば一回のイオン注入工程でドーパントのドーズ量を高くしたり、熱アニールの工程で温度や時間を大きくして蓄積領域の半値全幅を広げるには、サーマルバジェットが大きくなるために初期の工程段階で処理する必要がある。そのため、各層構成やセルピッチ等の微細化が難しくなる。また、一回のイオン注入で半値全幅を広げるには、加速エネルギーを高くする必要もあるが、トレンチ部やベース領域に与えるダメージ(ディスオーダ)が大きくなり、閾値制御も比較的に難しくなる。
【0107】
これに対して、最大部102、上側傾斜部104および下側傾斜部106を備え、標準半値全幅の2.2倍以上の半値全幅を有する蓄積領域16を備えた半導体装置100は、逆回復時におけるdV/dtと、オン損失Eonとの関係の劇的な改善が得られる。すなわち、標準半値全幅の2.2倍以上の半値全幅を有する蓄積領域16を備えた半導体装置100は、比較例200等の他の半導体装置に比べて顕著な効果を奏する半導体装置である。すなわち、標準半値全幅の2.2倍以上の半値全幅を有する蓄積領域16を備えた半導体装置100にとって、2.2倍という境界値は重要かつ臨界的な意義を備えた境界を意味する値である。なお、蓄積領域16は、複数回のイオン注入で形成されることが好ましいが、1回のイオン注入で形成されていてもよい。
【0108】
図14は、半導体装置100の他の例を示す図である。本例における半導体装置100は、中間メサ部60において蓄積領域17を有する。他の構造は、
図1から
図13において説明したいずれかの態様の半導体装置100と同一である。
【0109】
蓄積領域17は、ベース領域14とドリフト領域18との間に設けられる。蓄積領域17は、蓄積領域16と同一のドーピング濃度分布を有してよく、蓄積領域16のドーピング濃度分布の半値全幅よりも小さい半値全幅を有していてもよい。一例として蓄積領域17のドーピング濃度分布の半値全幅は、標準半値全幅の2.2倍より小さい。このような構造により、X軸方向における蓄積領域の深さ方向の長さを徐々に変化させることができる。このため、電界集中を緩和できる。また、中間メサ部60の蓄積領域17を浅く設けることで、中間メサ部60における正孔の引き抜きが阻害されることを防げる。
【0110】
図15は、蓄積領域16のドーピング濃度分布の他の例を示す図である。
図1から
図14において説明した蓄積領域16は、ドーピング濃度分布に谷部128を有していないが、
図15に示す蓄積領域16は、ドーピング濃度分布に谷部128を有している。谷部128は、
図1から
図15において説明したいずれの態様のドーピング濃度分布に設けられていてもよい。
図15に示す例では、
図11に示したドーピング濃度分布において、キンク部122に代えて谷部128が設けられている。
【0111】
谷部128は、ベース領域14からドリフト領域18に向かう方向に蓄積領域16のドーピング濃度分布を観察したときに、ドーピング濃度分布の傾き(微分値)の符号が負から正に変化する領域を指す。本例では、深さ位置ZmaxおよびZminの間の所定の位置において、微分値が負の極値124−1と、微分値の正の極値124−2とを有する。谷部128は、極値124−1と、極値124−2との間において、微分値が0と交差する領域を指してよい。
【0112】
谷部128を設けることで、ドーピング濃度分布の傾斜部の傾きが部分的に緩和されるので、半値全幅FWHMを容易に大きくできる。谷部128は、上側傾斜部104および下側傾斜部106の一方に設けられてよく、両方に設けられてもよい。また、谷部128とキンク部122の両方が設けられていてもよい。一例として谷部128は、
図7に示した各飛程Rpの間の距離を所定以上にすることで形成できる。
【0113】
蓄積領域16の深さ方向における中央位置Zcよりも上側の領域に、最大部102および谷部128の一方が配置され、蓄積領域16の深さ方向における中央よりも下側の領域に、最大部102および谷部128の他方が配置されていてよい。本例では、境界位置Zb1と、境界位置Zb2との中央を、蓄積領域16の中央位置Zcとする。境界位置Zb1は、蓄積領域16とベース領域14との境界位置である。境界位置Zb2は、蓄積領域16とドリフト領域18との境界位置である。本例では、中央位置Zcから境界位置Zb1までの上側領域に最大部102が配置され、中央位置Zcから境界位置Zb2までの下側領域に谷部128が配置されている。このような構造によっても、半値全幅FWHMを容易に大きくできる。
【0114】
また、谷部128におけるドーピング濃度Dvは、最大部102におけるドーピング濃度Dpの1/10以上であってよい。谷部128のドーピング濃度Dvを、最大部102のドーピング濃度Dpに比較的に近い濃度とすることで、ドーピング濃度が高い領域を広げることができる。ドーピング濃度Dvは、ドーピング濃度Dpの1/5以上であってよく、1/2以上であってもよい。
【0115】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。