(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の前記部材が前記外装材側に配置された2つの前記交差部の間に第2の前記部材が前記外装材側に配置された前記交差部がある請求項1〜4のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
前記第1の前記部材は、板材が折れ曲がった中空構造であり、前記外装材に隣接する第1の面と、前記延在方向に直交する前記第1の面の幅より大きく前記第1の面から離間して配置される第2の面と、を有する、請求項1〜9のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
まず、
図1を参照して、本開示の一実施形態に係る自動車の外装パネルの構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る自動車の外装パネル100を裏側(自動車の内側)から見た状態を示す模式図である。ここでは、外装パネル100としてドアパネルを例示するが、外装パネル100は、フェンダー、ボンネット、ルーフなど、自動車の他の部位のパネルであっても良い。
【0022】
図1に示すように、外装パネル100は、外装材110と補強部材120とから構成される。パネル部材112は、一例として厚さが0.4mm程度の鋼板から構成される。外装材110は、表側(車両外側)が凸面となるように湾曲している。また、湾曲は、上下方向(車高方向)に沿っている。
【0023】
補強部材120は、上下方向に配置された第1の補強部材122と、水平方向(車長方向)に配置された第2の補強部材124とを含む。第1の補強部材122は、外装材110の形状に倣って湾曲していることが望ましい。第2の補強部材124は、ほぼ直線状に延在している。すなわち、湾曲した外装材110に隣接する補強部材は、外装材110の隣接している箇所の湾曲に倣った形状であることが望ましい。第1の補強部材122と第2の補強部材124は、外装材110に倣った形状であれば、外装材110に密着し、好ましくは外装材110に接合(接着)することができるからである。
【0024】
図2は、比較のために従来構造を示す模式図である。
図2において、外装材110の内側にドアインパクトバー300とレインフォース310が配置されている。
図3〜
図7は、本実施形態に係る自動車のドアパネルを外装パネル100として示す図である。
図3〜
図7は、補強部材120の配置の一例を示す模式図である。
図3に示す例では、外装パネル100に上下方向に配置された第1の補強部材122のみを設けた例を示している。
【0025】
また、
図4に示す例では、外装パネル100に水平方向に配置された第2の補強部材124のみを設けた例を示している。また、
図5に示す例では、外装パネル100に上下方向に配置された第1の補強部材122と、水平方向に配置された第2の補強部材124を設けた例を示している。また、
図6に示す例では、外装パネル100に補強部材120を放射状に配置した例を示している。また、
図7に示す例では、外装パネル100に補強部材120を斜めに交差して配置した例を示している。
【0026】
図12は、補強部材120の構成を示す斜視図である。第1の補強部材122と第2の補強部材124の基本的な構成は、同一とすることができる。
図12では、補強部材120の長手方向と直交する断面構成も示している。補強部材120は、中空の矩形(長方形)断面を有している。補強部材120は板材130を折り曲げて製造してもよい。
図12に示す例では、補強部材120は長方形の断面形状であり、その一辺は長辺が16mm程度、短辺が10mm程度である。また、補強部材120を構成する板材130の板厚は、一例として0.8mm程度である。板材130としては、鋼板を用いることができる。
【0027】
図12に示すように、折り曲げられた板材130の端部130aと端部130bの間には所定の隙間が設けられていてもよい。これに限らず、端部130aと端部130bは密着していても良い。また、端部130aと端部130bは、溶接や接着等により接合されても良い。補強部材120は、端部130a,130bが位置する面、あるいは端部130a,130bが位置する面に反対側の面が外装材110と密着するように配置される。好適には、端部130a,130bが位置する面、あるいは端部130a,130bが位置する面に反対側の面が外装材110と接合される。ここで、外装材110と接合されるあるいは隣接する面を底面と称する。また、底面に反対側の面を頂面と称する。底面の両側に稜線を挟んで位置する面を縦壁と称する。補強部材120の断面において、短辺が底面、長辺が縦壁である。端部130a,130bが接合されずに頂面に配置される構成では、外装パネル100の外側(車外)から押されて補強部材120が湾曲した場合に、端部130a,130bから断面が開いて断面形状が崩壊しやすい。しかし、端部130a,130bが接合されていると、断面形状が崩壊することを防ぐことができるため、外装パネル100の剛性をより高めることが可能となる。端部130a,130bが底面に配置され、底面が外装材110に接合されている場合も、外装材110により端部130a,130bが離れて断面形状が崩壊することを防ぐことができる。なお、補強部材120の断面構成は、
図12のような端部130a,130bが向かい合う構成に限定されるものではなく、例えば端部130a,130bが離れた溝型(チャンネル)形状、あるいは
図16に示すハット形状であっても良い。補強部材120の断面が長方形、溝型、ハット形状のいずれの場合においても、補強部材120の延在方向に直交する断面の短辺を「幅(D)」、長辺を「高さ(H)」とみなす。また、
図16に示すようなハット形状で、フランジを外装材110側に配置する場合、フランジと縦壁の間の稜線同士の間隔を「幅(D)」とみなす。短辺と長辺のなす角が直角では無い場合、短辺の垂直方向の長辺の端部との距離を高さとみなす。以上のように「幅」と「高さ」が定義される本開示に係る補強部材において、補強部材の幅より高さは大きい。外装材110に補強部材120を接合するためには、補強部材120の幅が高さより大きい方が望ましいが、本開示ではあえてその様にはしない。そうするのは、補強部材120の曲げに対する断面二次モーメントを高めることを優先するためである。
【0028】
以上のように、本実施形態では、外装材110に隣接して配置される補強部材120は、延在方向に直交する断面において、外装材110に対する直交方向の高さは外装材110に沿う方向の幅よりも大きい。これにより外装パネルの車体外側から内側方向への衝突荷重が負荷される場合に、補強部材120の断面二次モーメントを効果的に向上することができる。補強部材120は、長手方向に対して直交する方向の断面二次モーメントが、15000mm
4以下としても良く、より好ましくは、12000mm
4以下としても良い。この条件を満たすように、補強部材120の板材130の材質、板厚及び断面形状が適宜設定される。この条件を満たすことにより、補強部材120の塑性座屈限界を高め、衝突荷重の入力を受けた際に容易に塑性座屈を起こさず、弾性変形による反力を耐衝突性能に対して有効に活用することができる。なお、弾性変形による反力は相対的に変形に対する反力増分が大きく、塑性変形では変形に対する反力増分は小さい。従って、弾性変形による反力を、耐衝突性能として有効に活用することができる。なお、断面二次モーメントを大きくすると小さな曲げでも塑性座屈を起こしやすくなる。従来構造では、ドアインパクトバーの断面二次モーメントが18000mm
4程度である。すなわち、従来構造では塑性変形による耐衝突性能を発揮させることを前提としている。一方、本実施形態では、補強部材120を弾性変形させて耐衝突機能を発揮させるため、断面二次モーメントの上限値が上記のように設定される。これにより、塑性座屈の発生を抑え、弾性変形により耐衝突機能を発揮させることができる。
【0029】
補強部材120が断面二次モーメントに関する上記条件を満たすことにより、本実施形態に係る外装パネル100は、耐衝突性能を向上することができる。このため、従来の耐衝突部品の簡略化または省略によって、さらなる軽量化効果を得ることができる。また、従来の耐衝突部品を用いる場合は、さらなる衝突安全性能の向上に寄与することができる。
【0030】
また、補強部材120の降伏応力は、500MPa以上としても良い。これにより、補強部材120の塑性座屈限界を高め、弾性変形による反力を更に有効に活用することができるため、効果的に衝突性能を確保して軽量化することができる。また、補強部材120は、マルテンサイト組織を備えるものであっても良い。これにより、耐衝撃性能を更に向上することができる。
【0031】
また、補強部材120がたとえ細い部材から構成されていても、交差させることで実用的な衝撃吸収部材になる。また、従来構造のようにドアインパクトバー300が1本のみであると、衝突荷重が付与される位置によっては、ドアインパクトバー300に衝突荷重が付与されないことがある。すなわち、ドアインパクトバーが空振りする可能性がある。また空振り対策としてドアインパクトバー300を複数本設置すると大幅な重量増加につながる。本実施形態によれば、従来に比べ軽量な補強部材120を外装パネル100の全面に広く配置できるため、重量増加を抑えつつ空振りも回避できる。更に、補強部材120として第1及び第2の補強部材122,124がつながっている。このため、一方の補強部材に加わった衝突荷重が他方の補強部材にも伝播する。すなわち、複数の補強部材が一緒に衝撃を吸収することができる。
【0032】
さらに、外装材110と補強部材120とが接合されている場合には、衝突変形時に補強部材120の変形が大きい場合の補強部材120の倒れ込み(長手方向を軸に回る回転)を抑制でき、さらに耐衝突性能を向上できる。また、衝突変形時に隣接する補強部材120の間の領域の外装材に張力が発生する点も有効である。外装材110を薄くすると剛性が無くなり、容易に凹んで(たわんで)衝撃吸収の役に立たない。但し、外装材110と補強部材120とを接合すると、外装材110が衝撃吸収に寄与することがある。外装材110と補強部材120を接合して外装材110を拘束することで、補強部材120が変形した場合、変形した箇所の周りの外装材110が面内方向に引っ張られる。外装材110は厚さ方向の剛性が無くても面内方向の引張強さはあるため、引張の変形に抵抗し、衝撃吸収部材の性能を向上することができる。
【0033】
また、補強部材120は、ある程度以上の長さは外装材110に沿って配置されることが望ましい。具体的には、補強部材120は、全長の1/3以上の領域で外装材110に密着している。つまり、本実施形態では、補強部材120と外装材110を密着して接合することで補強部材120の倒れを抑え、更に外装材110の変形時に外装材110に引張力を作用させて耐衝突機能を向上させている。
【0034】
特に、第1の補強部材122は、長手方向が外装材110の湾曲に沿って配置されることが望ましい。すなわち、第1の補強部材122の長手方向が上下方向になるよう配置されていることが望ましい。これにより、第1の補強部材122は自動車の外側に向かって張り出すように配置される。この結果、第1の補強部材の湾曲した凸湾曲部が耐衝突機能を向上させることができる。
【0035】
また、補強部材120は、外装材110を横切る(横断する)ように構成されている。本実施形態では、補強部材120の断面二次モーメントが小さく、降伏応力が高い(弾性変形域が大きい)。このため、外装パネル100の全体で衝突時の荷重や衝撃を部材全体で受け止めるため、補強部材120はできるだけ長くする方が好適である。また、補強部材120が外装材110を横切るように構成することで、衝突荷重を受けた補強部材が反力を得るための支点(従来他部品に対する接触点)の設定自由度を高めることができる。また、補強部材120をできるだけ長くすることで、衝突時に衝撃を受け止めることのできる範囲を広くすることができる。すなわち、補強部材120が空振りすることを避けることができる。
【0036】
以下では、補強部材120を設けたことによる、外装パネル100の耐衝突機能の向上について説明する。
図8は、第1の補強部材122の長手方向が外装材110の上下方向になるように配置され、第2の補強部材124の長手方向が外装材110の水平方向になるように配置された外装パネル100(ドアパネル)を示す模式図であって、
図5の構成を詳細に示している。また、
図9は、
図8の矢印A方向から見た状態を示す模式図である。
図8では、外装パネル100を表側から(自動車の外側から)見た状態を示している。
図8では、外装材110を透視した状態で第1の補強部材122と第2の補強部材124の配置を示している。また、
図8に示す圧子140は、後述する
図13に結果を示す外装パネル100の張り剛性を評価するためのシミュレーションにおいて、外装パネル100を押圧する部材である。
【0037】
図8において、第1の補強部材122は、外装パネル100の上下方向両端に配置された支持部220によって支持されている。また、第2の補強部材124は、外装パネル100の水平方向両端に配置された支持部230によって支持されている。より具体的には、第1の補強部材122は、その両端が外装材110と支持部220に挟まれて支持されている。同様に、第2の補強部材124は、その両端が外装材110と支持部230に挟まれて支持されている。また、
図8において、第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部の内、車両の上下方向外側または前後方向外側の交差部と、支持部220または支持部230によって支持される第1の補強部材122または第2の補強部材124の被支持部との距離は、第1の補強部材122または第2の補強部材124の長さの1/3以内である。これにより、衝突による荷重が補強部材120にかかった場合に、例えば第2の補強部材124にかかった荷重が交差部から第1の補強部材122にかかり、交差部から支持部220によって支持される第1の補強部材122の被支持部までの距離が近いことから、衝突による荷重を効率良く弾性変形により受け止めることができる。
【0038】
図8では、第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部に凹部122a,124aを設けて交差させることで、第1の補強部材122と第2の補強部材124を同一平面に配置した例を示している。なお、
図8において、第1の補強部材122と第2の補強部材124を編み込むように配置し、隣接する交差部において、第1の補強部材122と第2の補強部材124の上下の配置が異なるように構成してもよい。第1及び第2の補強部材122,124を編み込むように配置すると、第1の補強部材122と第2の補強部材124同士の荷重伝達の効率が良くなる。これにより、衝突時に第1及び第2の補強部材122,124により効果的に衝撃吸収機能を確保することが可能である。
【0039】
一方、後述するように、第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部を接合した場合は、耐衝突性能を大幅に向上できる。従って、第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部を接合した場合は、第1の補強部材122と第2の補強部材124を編み込むように配置しなくても良い。これにより、編み込みのための工程が不要になり、製造コストを低減できる。但し、編み込みと交差部の接合を併用することで、耐衝突性能を最も高くすることが可能である。
【0040】
また、第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部を接合することで、製造コストを低減できる。第1の補強部材122と第2の補強部材124のそれぞれを外装材110に取り付けるのは工程が煩雑である。接合された第1の補強部材122及び第2の補強部材124をまとめて外装材110に取り付ける方が製造は容易である。すなわち、製造コストを低減できる。
【0041】
図10及び
図11は、
図8における第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部を詳細に示す斜視図である。
図10は
図8に示す交差部C1に対応し、
図11は
図8に示す交差部C2に対応している。交差部C1では第2の補強部材124が第1の補強部材122に対して車両の外側方向(外装材110側)に位置している。これにより、第1及び第2の補強部材122,124を編み込むように配置することができる。第1の補強部材122に凹部122aが設けられ、第2の補強部材124に凹部124aが設けられることで、第1の補強部材122と第2の補強部材124が同一平面に配置される。また、交差部C2では第1の補強部材122が第2の補強部材124に対して車両の外側方向に位置している。交差部C2においても、第1の補強部材122に凹部122aが設けられ、第2の補強部材124に凹部124aが設けられることで、第1の補強部材122と第2の補強部材124が同一平面に配置される。
【0042】
なお、図示は省略するが、第1及び第2の補強部材122,124は必ずしも編み込むように配置する必要は無く、外装パネル100への組み付け時の施工上の理由などにより第1の補強部材122の全てを第2の補強部材124の全てに対して外装パネル側へ配置してもよく、また逆に第2の補強部材124の全てを第1の補強部材122の全てに対して外装パネル側へ配置してもよい。
【0043】
第1の補強部材122の全てを第2の補強部材124の全てに対して外装パネル側へ配置した場合、または第2の補強部材124の全てを第1の補強部材122の全てに対して外装パネル側へ配置した場合は、第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部において、接着剤又は溶接(レーザー溶接)により、第1の補強部材122と第2の補強部材124を接合する。交差部の接合は接着剤と溶接を併用してもよい。第1の補強部材122と第2の補強部材124とを互い違いに外装材110側に配置した、編み込むような配置の場合においても、同様に第1の補強部材122と第2の補強部材124を接合してもよい。これにより、後述するように、衝突時の耐力を2倍程度まで向上することが可能である。第1の補強部材122と第2の補強部材124の接合は、例えば、
図10、
図11に示す凹部122aと凹部124aを密着させ、接着剤又は溶接により行う。
【0044】
このように、第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部において、両者を接合することで、それぞれの補強部材の衝突時の回転を抑制できる。その結果、耐衝突性能を大きく向上できる。
【0045】
本開示の実施形態では、第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部において、第1の補強部材122と第2の補強部材124を接合することは、耐衝突性能の向上を目的として行われる。換言すれば、第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部における、第1の補強部材122と第2の補強部材124との接合は、外装板の振動抑制や外装板の張り剛性向上を目的としたものではない。外装板の振動抑制や外装板の張り剛性向上を目的とする場合は、平板の補強部材を外装板に隣接して設けることで、その目的を十分に達成できる。これに対し、本開示の実施形態では、耐衝突性能を向上するために、第1の補強部材122と第2の補強部材124を交差させ、交差部で第1の補強部材122と第2の補強部材124を敢えて接着する。このような構成とすることにより、外装パネル100の耐衝突性能を大幅に向上することが可能となる。
【0046】
また、第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部において、第1の補強部材122と第2の補強部材を確実に接合することで、耐衝突性能を高めることができる。第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部における、第1の補強部材122と第2の補強部材124との接合は、上述したように、接着剤及び/又はレーザー溶接による接合が好適である。一方、例えばマスチック接着剤などを用いた接着の場合、大きな強度を確保することができず、耐衝突性能を高めることができない。外装パネル100には、自動車が衝突する場合もあり、マスチック接着剤などを用いた接着では、自動車の衝突時に第1の補強部材122と第2の補強部材124との接着が簡単に破壊されてしまい、外装パネルを耐衝突部材として使用するのは困難である。
【0047】
また、第1の補強部材122と第2の補強部材124の交差部において、第1の補強部材122と第2の補強部材を接合することで、
図12に示したような長方形の断面形状を有する補強部材であっても、補強部材の倒れを抑制できる。従って、補強部材の断面形状を
図12に示すような長方形形状とした場合に、倒れが抑制されることによって、耐衝突性能を高めることが可能である。
【0048】
第1の補強部材122と第2の補強部材を接合する際に用いる構造用接着剤に必要な接着強度は、構造材の形状にも依存するが、引張せん断強度が20MPa以上あることが望ましい。その様な構造用接着剤であれば、補強部材の回転(倒れ)を抑制できる。構造用接着剤の種類としては、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系フェノール系等を挙げることができる。
【0049】
また、交差部から伸びる補強部材120の補強部材120の長手方向に対して直交する断面の車外方向からの荷重に対する断面二次モーメントは15000mm
4以下とされている。交差部を設けることにより、衝突荷重の入力時に補強部材120に付与される曲げ変形の支点と作用点の距離を短くできるため、変形に対する反力増分をさらに高めることができる。従って、交差部を設けたことにより、衝突性能が向上する。
【0050】
また、交差部を2箇所以上としたことにより、衝突荷重の入力時に補強部材120に付与される曲げ変形の支点と作用点の距離をさらに短くできる。このため、補強部材120の変形に対する反力増分をより一層高めることができる。また、衝撃荷重を他の複数の補強部材120に伝播させて受け止めることができるため、さらに高い反力を得ることができる。これにより、衝突性能がより一層向上する。
【0051】
また、交差部において、第1及び第2の補強部材122,124に凹部122a,124aを設けたことにより、第1の補強部材122と第2の補強部材124の外装材110に対する直交方向の厚さが減少する。これにより、交差部を含む近傍の領域においても第1及び第2の補強部材122,124と外装材110を密着させて接合することができ、衝突性能を効果的に向上することができる。
【0052】
更に、交差部を設けたことにより、交差部において第1の補強部材122と第2の補強部材124が互いに拘束することになる。これにより、例えば補強部材120の断面が長方形であり、短辺側が外装材110に密着している場合に、衝突を受けた際に補強部材120に倒れが生じて長辺側が外装材110に接近することを抑止できる。また、第1及び第2の補強部材122,124を編み込むように配置することにより、衝突を受けた際に補強部材120に倒れが生じて長辺側が外装材110に接近することを抑止できる。交差部の間隔を短くすれば、短い間隔で回転抑止の拘束が成されるため、第1及び第2の補強部材122,124がより倒れにくくなる。これにより、補強部材120の倒れに起因する断面二次モーメントの低下を抑止することができ、耐衝突性能の低下を抑止できる。
【0053】
衝撃吸収部材としては、衝撃吸収部材が荷重入力方向に対して剛体移動しないように、何かに支持されて衝撃荷重を受け止める必要がある。荷重は外装材110から入力されるため、衝撃荷重を受け止める支持部220,230は補強部材120の外装材110と反対側に設けられる。その際、補強部材120への荷重入力点(交差部)と支持部220,230が近い方が、少ない変形で高い反力を得ることが可能である。なお、支持部220,230は、外装パネル100がドアパネルの場合、ドアインナーパネル、フロントピラー、センターピラー、サイドシル等に当接する部位が該当する。また、ドア以外の外装パネル100の場合、他のボディ構造材へ支持部220,230を当接して支持してもよい。例えばルーフのパネルであれば、ルーフサイドレール、フロントルーフレール、リアルーフレール等に当接する部位が支持部220,230に相当する。また、これらボディ構造材への支持部220,230の当接は、別の支持部品を設けてこの支持部品を介して当接し、支持しても良い。
【0054】
補強部材120において、支持部220,230に支持される被支持部は補強部材120の端部である。このように、補強部材120の端部を支持することで、補強部材120の全体を衝撃吸収に活用できる。また、被支持部を外装材以外の他部品に接合することで、被支持部を荷重入力方向以外の方向にも拘束することができ、衝突性能を向上するとともに補強部材120の倒れ込み防止等にも寄与することができる。また、被支持部は補強部材120の端部以外に設けられても良い。
【0055】
図12は、
図8の構成において、第1及び第2の補強部材122,124の長手方向と直交する方向の断面構成を示す模式図である。
図12に示すように、第1及び第2の補強部材122,124は長方形の断面形状を有しており、一例として縦16mm程度、横10mm程度である。
【0056】
図12に示す構成において、長方形の断面形状の短辺側が外装材110に密着される。これにより、所望の断面二次モーメントを確保するために、最も効率の良い断面形状を有する補強部材120を構成することができる。一方、断面二次モーメントを確保するために長辺側を長くすると、衝撃を受けた際に補強部材120が軸方向に回転して倒れ込みやすくなる。補強部材120が倒れ込むと断面二次モーメントが低下するが、補強部材120を外装材110に接合することで、補強部材120の倒れ込み(回転)を抑止することができる。
【0057】
図16は、
図12に示す構成に対し、板材130の端部130aと端部130bのそれぞれを反対側に折り曲げた例を示す模式図である。
図16の形状をハット形状と言う。
【0058】
図16に示す構成においても、長方形の断面形状の短辺側が外装材110に密着される。この際、端部130a,130bを有するフランジ側を底面として外装材110に密着しても良いし、端部130a,103bを有するフランジ側と反対側を底面として外装材110に密着しても良い。これにより、所望の断面二次モーメントを確保するために、最も効率の良い断面形状を有する補強部材120を構成することができる。また、補強部材120を外装材110に接合することで、補強部材120の倒れ込み(回転)を抑止することができる。
【0059】
次に、
図14及び
図15に基づいて、本実施形態に係る外装パネル100について、衝突時を考慮して曲げ強度を評価した結果について説明する。
図14は、
図8の構成において、自動車の側面の衝突(側突)を想定し、荷重付与部材300で外装パネル100に負荷荷重を与えた状態を示す模式図である。
【0060】
図15は、
図8の構成において、荷重付与部材300によって荷重を加えた場合のストロークと荷重との関係を示す特性図である。
図15では、耐衝突機能を評価するため、
図13よりも大きな荷重をかけ、衝突時に相当するストロークを生じさせた場合を示している。
図15において、破線で示す特性は、比較のため
図2に示した従来構造を同じ条件で評価した場合の特性を示している。また、実線で示す特性は第1の補強部材122と第2の補強部材124を外装材110に接合しない参考例1に対応し、二点鎖線で示す特性は第1の補強部材122と第2の補強部材124を外装材110に接合した参考例2に対応している。
【0061】
図15に示すように、参考例1の構成では、特にストロークが50mm以上の場合に、従来構造よりも荷重が高くなっている。すなわち、参考例1は従来構造よりも高い衝撃吸収性能を得ることができた。また、参考例2の構成では、ストロークのほぼ全域において従来構造よりも荷重が高くなっている。すなわち、参考例2は参考例1よりも更に高い衝撃吸収性能を得ることができた。上述のように従来構造では、ドアインパクトバー300などの耐衝撃部材を塑性変形させることを前提としているため、ストロークが大きくなるにつれて塑性変形が生じる。このため、従来構造ではストロークの増加に伴う荷重の増加率が参考例1、参考例2に比べて低くなっている。一方、参考例1、参考例2では、弾性変形の範囲で衝撃吸収するため、ストロークの増加に伴う荷重の増加率が従来構造よりもより大きくなっている。従って、
図8の構成例によれば、例えば電柱などがドアパネルに衝突するポール側突が発生した場合であっても、大きな衝撃吸収性能を得ることが可能である。
【0062】
シミュレーションの結果、
図8の構成によれば、参考例1、参考例2のいずれにおいても、75mm程度までストロークさせても塑性座屈は発生しなかった。従って、本実施形態によれば、補強部材120を弾性部材として衝突の衝撃を吸収することが可能である。なお、参考例1では、ストローク65mm程度で一時的に荷重が低下しているが、これは、補強部材120を外装材110に接合しなかったことにより、補強部材120の一部に倒れが生じたためである。しかしながら、このような補強部材120の倒れは、参考例2のように補強部材120と外装材110を接合することにより抑制可能である。他にも、上述のように補強部材120に交差部を設けたり、方向の異なる補強部材120を編み込むように配置したりすることでも補強部材120の倒れは抑制可能である。
【0063】
図17は、
図8に示す構成において、交差部で第1の補強部材122と第2の補強部材124を接合し、荷重付与部材300によって荷重を加えた場合の、外装パネル100の荷重(縦軸)と時間(横軸)との関係を示す特性図である。なお、試験対象は第1の補強部材122と第2の補強部材124を編み込むように配置していない。
図17では、交差部における第1の補強部材122と第2の補強部材124の接合による耐衝突性能を評価するため、交差部で接合をした場合(実線(実施例))と、交差部で接着をしなかった場合(一点鎖線(参考例))の特性をそれぞれ示している。
【0064】
図17に示すように、荷重を加えてから初期の段階では、交差部で接合をした場合(実線)と、交差部で接合をしなかった場合(一点鎖線)の特性に大きな差は生じていないが、外装パネル100に変形が生じた後期では、交差部で接合をした場合(実線)と、交差部で接合をしなかった場合(一点鎖線)の特性に大きな差が生じている。時刻t=12の時点では、交差部で接着をした場合(実線)は、交差部で接着をしなかった場合(一点鎖線)に比べて、2倍程度の荷重が生じている。従って、交差部で第1の補強部材122と第2の補強部材124を接着することで、耐衝突性能を大幅に向上することが可能である。
【0065】
なお、第1の補強部材122と第2の補強部材124は別々の部材でなくても良く、例えば1枚の鋼板を格子状かつ断面が薄型のプレス成型品に加工し、第1及び第2の補強部材122,124を一体化しても良い。この場合、枝分かれしている箇所が交差部となる。
【0066】
また、外装材110及び補強部材120は鋼材に限定されるものではなく、例えばアルミニウムなどの非鉄金属などで構成されても良い。さらに、例えばCFRPで外装材110を形成し、外装材110の裏側に第1及び第2の補強部材122,124に相当するリブを配置しても良い。この場合に、第1及び第2の補強部材122,124に相当するリブは一体成型されても良い。この場合、枝分かれしている箇所(十字状の箇所)を交差部とみなす。更に、第1及び第2の補強部材122,124に相当するリブは外装材110と一体成形されても良く、この場合に第1及び第2の補強部材122,124に相当するリブは外装材110に接合されているものとみなす。
【0067】
以上説明したように、本実施形態の補強部材120によれば、外装材110の耐衝撃性能を確実に向上することができる。更に、補強部材120によれば、外装材110の張り剛性をも向上することができる。以下では、補強部材120による張り剛性の向上について説明する。
【0068】
上述したように、外装材110に第1及び第2の補強部材122,124が接触している。これにより、第1及び第2の補強部材122,124、および外装材110の輪郭により囲まれた各々の領域の面積は、外装材110全体の面積より小さくなるため、外装材110に外力が作用した場合に早期に張力が生じやすくなるため、外装材110の張り剛性を大幅に高めることが可能となる。さらに、外装材110と補強部材120を接合することがより好ましく、外装材110が変形した際に隣接する補強部材120の間の領域の外装材110により早期に張力が発生し、張り剛性をより一層向上することができる。
【0069】
また、上述のように補強部材120の降伏応力を500MPa以上とすることで、補強部材120に外力が作用した場合でも塑性変形が生じることを防ぐことができるため、効果的に張り剛性を確保して軽量化することができる。
【0070】
また、補強部材120は、ある程度以上の長さは外装材110に沿って配置される。具体的に、補強部材120は、全長の1/3以上の領域で外装材110に密着している。補強部材120を外装材110に密着配置することで、外装材110の薄肉化の程度が大きい場合(例えば元厚0.7mmから0.5mm以下への薄肉化)でも、外装パネル100の張り剛性を向上することができる。さらに好ましくは、補強部材120と外装材110を密着して接合することで、外装材110の変形時に外装材110に引張力を作用させて、外装パネル100の張り剛性をより高めることができる。
【0071】
特に、第1の補強部材122は、外装材110の曲率の方向に沿って上下方向に配置されている。これにより、自動車の外側に向かって張り出すように湾曲した凸湾曲部の張り剛性を向上させることができる。また、外装材110は自動車の外側からみて内側に向かって張り出すように湾曲した凹湾曲部を有し、凹湾曲部と重なる補強部材120は外装材110に密着している。凸湾曲部に比べ凹湾曲部は自動車の外側からの荷重に対する張り剛性が劣るため、当該部位に補強部材120を密着配置することで、効果的に外装パネル全体の張り剛性を向上できる。
【0072】
また、補強部材120は、長手方向に対して直交する方向の断面二次モーメントが15000mm
4以下としてもよい。補強部材120が断面二次モーメントに関する上記条件を満たすことにより、補強部材120を小さな断面形状とすることができ、張り剛性を高めるために第1及び第2の補強部材122,124を複数本配置した場合でも大きな重量増加を招くことなく、効率的に張り剛性を向上することが可能となる。
図8に示したような交差部から伸びる補強部材120についても、同様に、長手方向に対して直交する方向の断面二次モーメントは15000mm
4以下にしてもよい。交差部があると、交差部から伸びる補強部材120に挟まれた外装材の領域の面積は外装パネル全面の面積より狭くなり、補強部材120に挟まれた面積に対する板厚の比率が相対的に増すため、張り剛性をより向上することができる。従って、交差部を設けたことにより、張り剛性を効果的に向上することが可能である。
【0073】
また、交差部を2箇所以上とすると、外装材110の隣接する補強部材120に挟まれる個々の領域がさらに狭くなる。その結果、個々の領域の面積に対する板厚の比率が相対的に増すため、張り剛性をさらに向上できる。これにより、張り剛性を効果的に向上することが可能である。
【0074】
また、交差部において、第1及び第2の補強部材122,124に凹部122a,124aを設けたことにより、第1の補強部材122と第2の補強部材124の外装材110に対する直交方向の厚さが減少する。これにより、交差部を含む近傍の領域においても第1及び第2の補強部材122,124と外装材110を密着または接合することができ、張り剛性を効果的に向上することができる。
【0075】
図13は、
図8及び
図9について、張り剛性を評価するため、シミュレーションにより得た圧子140の負荷荷重と変位量との関係を示す特性図である。
図13に示すシミュレーション結果では、外装材110の厚さが0.4mmで第1の補強部材122と第2の補強部材124を外装材110に接合しない場合(参考例1、実線で示す特性)と、第1の補強部材122と第2の補強部材124を外装材110に接合した場合(参考例2、二点鎖線で示す特性)を示している。また、
図13に示すシミュレーション結果では、比較のため、外装材110の厚さが0.7mmで補強部材が無い場合の特性(一点鎖線)、外装材110の厚さが0.4mmで補強部材が無い場合の特性(破線)も示している。
【0076】
現在用いられている一般的な自動車の外装材、すなわち外装パネルの厚さは0.7mm程度であり、一点鎖線の特性に相当する。
図13に示すように、第1の補強部材122と第2の補強部材124を外装材110に接合した参考例2(二点鎖線)は、外装材110の厚さが0.7mmで補強部材が無い場合の特性(一点鎖線)と比較すると、負荷荷重に対する変位量が同等以上の結果が得られた。特に、参考例2では、荷重が80[N]を超えると、負荷荷重に対する変位量が一点鎖線の特性よりも大きく低下している。また、第1の補強部材122と第2の補強部材124を外装材110に接合しない参考例1の特性(実線)は、負荷荷重に対する変位量は一点鎖線の特性よりもやや大きいが、負荷荷重が200[N]程度になると一点鎖線の特性と同等であった。従って、本実施形態によれば、外装材110の厚さを0.4mmとして現状よりも大幅に薄くした場合であっても、張り剛性が低下してしまうことを確実に抑止することが可能である。これにより、外装材110の厚さを例えば0.4mm程度まで低下させることができ、外装パネル100を大幅に軽量化することが可能である。
【0077】
また、
図13中に破線の特性で示すように、外装材110の厚さが0.4mmで補強部材が無い場合の特性は、負荷荷重に対する変位量が他の特性に比べて著しく増大している。これは、外装パネルを押すと外装材110が大きく変形してしまうことを示している。従って、厚さが0.4mmで補強部材が無い場合は、自動車の外装パネルとして用いることは困難である。
【0078】
以上説明したように本実施形態によれば、複数の第1の補強部材122と複数の第2の補強部材124を格子状に配置して外装材110に密着させ、衝突荷重を弾性変形主体で吸収するようにしたことにより、耐衝突性能を大幅に向上することができる。従って、軽量化を達成するとともに、耐衝突性能に優れた自動車の外装パネルを提供することが可能となる。
【0079】
また、0.4mm程度の薄板から構成される外装材110に対して、補強部材120を配置して外装材110に密着したことにより、張り剛性を大幅に高めることができる。これにより、薄板から構成される外装パネル100にユーザが触れたり、外装パネル100をユーザが押したりした場合であっても、外装パネル100の変形を確実に抑止することができる。
【0080】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。