(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記取得することは、操作された音高指定操作子に対応する打弦音および該弦の操作に伴う棚板音のうち少なくとも一方を含む前記楽器音の波形を表す前記原音信号を取得することを含み、
前記抽出することは、前記取得された原音信号から前記下限周波数よりも低い周波数成分として打弦音および棚板音のうち少なくも一方の周波数成分を抽出することを含み、
前記生成することは、前記少なくとも一方の周波数成分の倍音成分を生成することを含む、請求項7記載の音信号発生方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る電子鍵盤楽器について図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
(1)電子鍵盤楽器の構成
図1は、本発明の一実施の形態に係る電子鍵盤楽器の外観を表す模式的平面図である。
図2は、
図1の電子鍵盤楽器の構成を示すブロック図である。
図1の電子鍵盤楽器1は、例えば電子ピアノであり、鍵盤2および表示部6を備える。鍵盤2は、複数の鍵2aを含む。複数の鍵2aには、互いに異なる複数の音高が割り当てられる。使用者が各鍵2aを押下すると、発音指示信号が後述のCPU(中央演算処理装置)11に入力される。発音指示信号は、押下された鍵2aに割り当てられた音高を表す音高情報および押鍵速度を表すベロシティ情報を含む。表示部6は、例えば液晶ディスプレイを含み、演奏または設定に関する各種情報を表示する。
【0021】
図2に示すように、電子鍵盤楽器1は、検出回路3、設定操作子4、検出回路5および表示回路7をさらに備える。鍵盤2(
図1参照)は、検出回路3を介してバス19に接続される。設定操作子4は、オンオフ操作されるスイッチ、回転操作されるロータリエンコーダ、またはスライド操作されるリニアエンコーダ等を含み、検出回路5を介してバス19に接続される。設定操作子4は、音色の切り替え、音量の調整、電源のオンオフおよび各種設定を行うために用いられる。
【0022】
表示部6(
図1参照)は、表示回路7を介してバス19に接続される。表示部6がタッチパネルディスプレイであってもよい。この場合、使用者は、表示部6を操作することにより各種操作を指示することができる。
【0023】
電子鍵盤楽器1は、RAM(ランダムアクセスメモリ)9、ROM(リードオンリメモリ)10、CPU11、タイマ12および記憶装置13をさらに備える。RAM9、ROM10、CPU11および記憶装置13はバス19に接続され、タイマ12はCPU11に接続される。外部記憶装置15等の外部機器が通信I/F(インタフェース)14を介してバス19に接続されてもよい。
【0024】
RAM9は、例えば揮発性メモリからなり、CPU11の作業領域として用いられるとともに、各種データを一時的に記憶する。ROM10は、例えば不揮発性メモリからなり、制御プログラム等のコンピュータプログラムを記憶する。タイマ12は、現在時刻等の時間情報をCPU11に与える。
【0025】
記憶装置13は、ハードディスク、光学ディスク、磁気ディスクまたはメモリカード等の記憶媒体を含む。記憶装置13には、例えば、楽曲を表す楽曲信号が記憶装置13に記憶される。楽曲信号は、オーディオデータであり、音の変化を表す波形信号を所定のサンプリング周期でサンプリングすることにより得られる複数のサンプリング値からなる。鍵盤2の操作によってCPU11に入力された演奏データが記憶装置13に記憶されてもよい。外部記憶装置15は、記憶装置13と同様に、ハードディスク、光学ディスク、磁気ディスクまたはメモリカード等の記憶媒体を含む。オーディオデータまたは演奏データが外部記憶装置15に記憶されてもよい。
【0026】
電子鍵盤楽器1は、音源部16、サウンドシステム17および外部出力端子18をさらに備える。音源部16はバス19に接続される。サウンドシステム17は音源部16およびバス19に接続される。外部出力端子18は、音源部16およびバス19に接続される。音源部16は、鍵盤2の操作に応じて原音信号を生成する。原音信号はサンプリングされたデジタル音信号である。サウンドシステム17は、音源部16から与えられる原音信号をアナログ音信号に変換し、アナログ音信号に基づく楽音(本例ではピアノ音)を発生する。外部出力端子18には、外部スピーカまたはヘッドフォン等の出力装置が接続される。外部出力端子18は、音源部16から与えられる原音信号をそのまま外部出力装置に出力する。
【0027】
記憶装置13または外部記憶装置15に記憶された楽曲信号がサウンドシステム17または外部出力端子18に与えられてもよい。この場合、楽曲信号に基づく楽音(以下、楽曲音と呼ぶ。)がサウンドシステム17または外部出力装置から出力される。ユーザは、出力された楽曲音に合わせて鍵盤2による演奏を行うことができる。なお、図示しない外部入力端子から入力された楽曲信号がサウンドシステム17または外部出力端子18に与えられてもよい。
【0028】
(2)音源部およびサウンドシステムの構成
図3は、音源部16およびサウンドシステム17の主要部の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、音源部16は、原音信号生成部161、波形データ記憶部162および音響効果部163を含む。
【0029】
波形データ記憶部162は、例えばプログラマブルROMからなり、
図1の複数の鍵2aに割り当てられた複数の音高にそれぞれ対応する複数のピアノ波形データを記憶する。各ピアノ波形データは、対応する音高を有するピアノ音の波形を表す。なお、ピアノ波形データに加えて、他の音色を表す波形データを波形データ記憶部162に記憶してもよい。
【0030】
原音信号生成部161には、
図2のCPU11から発音指示信号SGが与えられる。上記のように、発音指示信号SGは、音高情報およびベロシティ情報を含む。原音信号生成部161は、音高情報およびベロシティ情報に基づいて、波形データ記憶部162に記憶されたピアノ波形データからデジタル音信号である原音信号D0を生成する。具体的には、原音信号生成部161は、音高情報に対応するピアノ波形データを波形データ記憶部162から取得し、音高情報に応じた周波数およびベロシティ情報に基づいたエンベロープ等でそのピアノ波形データから原音信号D0を生成する。原音信号生成部161は取得部の一例である。
【0031】
音響効果部163には、CPU11から複数の音響効果パラメータのパラメータ値EFが与えられる。音響効果部163は、パラメータ値EFに基づいて原音信号D0に音響効果を付与し、デジタルの原音信号D1を出力する。音響効果は、例えば、リバーブ(Reverb)、ディレイ(Delay)、ブリリアンス(Brilliance)、エンハンス(Enhance)等である。
【0032】
音源部16とサウンドシステム17との間でかつ音源部16と外部出力端子18との間に分岐部164が設けられる。分岐部164には、CPU11から指定情報DDが与えられる。指定情報DDは、サウンドシステム17および外部出力端子18の一方を指定する。分岐部164は、音響効果部163から出力された原音信号D1を、サウンドシステム17および外部出力端子18のうち指定情報DDにより指定された一方に与える。
【0033】
例えば、外部出力端子18に外部出力装置が接続されていない場合、CPU11は、サウンドシステム17を指定する指定情報DDを分岐部164に与える。この場合、原音信号D1がサウンドシステム17に与えられる。一方、外部出力端子18に外部出力装置が接続されている場合、CPU11は、外部出力端子18を指定する指定情報DDを分岐部164に与える。この場合、原音信号D1が外部出力端子18に与えられる。ユーザによってサウンドシステム17および外部出力端子18のうちの一方が予め選択され、選択された一方に原音信号D1が与えられてもよい。分岐部164は、予め記憶された楽曲信号ASまたは外部から入力された楽曲信号ASをサウンドシステム17または外部出力端子18のうち指定情報DDにより指定された一方に与えてもよい。
【0034】
サウンドシステム17は、信号補正部170、イコライザ171、設定値記憶部171a、D/A(デジタル/アナログ)変換器172、増幅器173およびスピーカ174を含む。信号補正部170は、原音信号D1に含まれる周波数成分のうち予め定められた下限周波数より低い周波数成分の倍音成分を生成し、生成した倍音成分を原音信号D1に付加することによって出力音信号D2を生成する。信号補正部170は、楽曲信号ASに対して原音信号D1と同様の処理を行うことによって出力音信号D2を生成してもよい。本実施の形態において、原音信号生成部161および信号補正部170が音信号発生装置200を構成する。
【0035】
イコライザ171は複数の周波数帯域を有する。設定値記憶部171aは、イコライザ171の複数の周波数帯域の利得の設定値を記憶する。設定値記憶部171aに記憶される設定値は、例えばアコースティックピアノの音色に適するようにそれぞれ予め設定される。イコライザ171の各周波数帯域の利得は、設定値記憶部171aから与えられる設定値STに設定される。イコライザ171は、設定値STに基づいて出力音信号D2の周波数特性を調整し、調整された出力音信号D3を出力する。設定値記憶部171aに記憶される設定値STは、変更可能であってもよい。この場合、イコライザ171の各周波数帯域の設定値STを変更することが可能となる。
【0036】
イコライザ171から出力されるデジタルの出力音信号D3はD/A変換器172に与えられる。D/A変換器172は、デジタルの出力音信号D3をアナログの出力音信号A0に変換する。増幅器173は、出力音信号A0を増幅し、増幅されたアナログの出力音信号A1を出力する。スピーカ174は、出力音信号A1に基づいて楽音(ピアノ音または楽曲音)を発生する。
【0037】
本実施の形態において、スピーカ174は、一定の下限周波数以上の再生可能帯域を有する。この場合、スピーカ174は、再生可能帯域においてほぼ一定値の周波数応答(音圧レベル)[dB]を有する。再生可能帯域よりも低い周波数帯域では、音圧レベルが低下する。それにより、スピーカ174は、再生可能帯域よりも低い周波数を基音とする楽音の基音部分を十分な音圧レベルで発生することができない。そこで、信号補正部170においては、スピーカ174の再生可能帯域よりも低い周波数を基音とする楽音の倍音成分を生成し、原音信号D1に付加する。この場合、基音部分の周波数の音は十分出力されていないが、聴覚錯覚によって再生可能帯域より低い周波数を基音とする楽音をユーザに知覚させることができる。
【0038】
(3)ピアノ音
アコースティックピアノが発生するピアノ音について説明する。アコースティックピアノが発生するピアノ音は、鍵の位置に応じた音高を有する基音、その基音の種々の倍音、および種々の付属音を含む。このような多くの音の組み合わせによって豊かな響きのピアノ音が実現される。基音は、押下された鍵に割り当てられた弦の振動による音高を有する音であり、アコースティックピアノの基本となる音である。
【0039】
アコースティックピアノは、筐体、棚板、複数の鍵、複数の弦、響板および複数のハンマ等を有する。棚板は筐体の前部から略水平に延設され、複数の鍵は棚板の上方に配置される。複数の弦は、複数の鍵にそれぞれ対応する。各弦の振動は、ブリッジを介して響板に伝達される。
【0040】
各弦には、ブリッジを含む複数の駒が押し当てられる。各弦は、ブリッジと他の1つの駒との間に設定される有効部を含む。各鍵が押下されると、その鍵に対応する弦の有効部をハンマが打撃する。以下、ハンマにより打撃された弦を対象弦と呼び、他の弦を非対象弦と呼ぶ。対象弦の有効部の振動により、基音が発生する。また、非対象弦の有効部が共振することにより、基音の倍音である弦共鳴音が発生する。
【0041】
また、一部のアコースティックピアノにおいては、弦の一部に共鳴部が設定される。すなわち、一本の弦の両端を支える2つの駒の間の部分が有効部を形成し、それらの駒の外側の部分が共鳴部を形成する。あるいは、一部の弦に有効部が設定されることなく共鳴部のみが設定される。対象弦の有効部の振動に伴って共鳴部が共振することにより、基音の倍音であるアリコート音が発生する。さらに、基音の倍音として、筐体の共振による筐体音、またはねじ等の共振による金属音が発生することがある。
【0042】
一方、鍵の押下によって鍵が棚板に衝突する。それにより、付属音として鍵と棚板との衝突音である棚板音が発生する。また、ハンマによる打弦によって付属音としてハンマと弦との衝突音である打弦音が発生する。
【0043】
図4は、アコースティックピアノの音に含まれる種々の周波数成分について説明するための図である。
図4において、横軸は周波数を表す。
図4には、
図3のスピーカ174の再生可能帯域FG1が示される。再生可能帯域FG1の下限周波数および上限周波数は、それぞれLF1およびHF1である。また、
図3の波形データ記憶部162に記憶されたピアノ波形データは、予め定められた帯域(以下、波形データ帯域と呼ぶ)内の周波数成分を含む。
図4には、波形データ帯域FG2が示される。波形データ帯域FG2の下限周波数および上限周波数は、それぞれLF2およびHF2である。本例において、下限周波数LF2は下限周波数LF1よりも低く、上限周波数HF2は下限周波数LF1よりも高くかつ上限周波数HF1よりも低い。以下の説明では、下限周波数LF2以上であって下限周波数LF1よりも低い周波数帯域を低帯域と呼び、下限周波数LF1以上であって上限周波数HF2よりも低い周波数帯域を中帯域と呼び、上限周波数HF2以上であって上限周波数HF1以下の周波数帯域を高帯域と呼ぶ。
【0044】
基音および弦共鳴音の周波数成分は、押下される鍵に依存する。具体的には、押下された鍵に割り当てられた音高が高いほど、発生される基音および弦共鳴音の周波数成分は高い。
図4の例において、基音および弦共鳴音の周波数成分の下限値は、低帯域内である。また、基音および弦共鳴音の周波数成分の上限値は、中帯域内である。
【0045】
棚板音および打弦音は、主に低帯域内の周波数成分を含む。一方、アリコート音および金属音は、主に高帯域内の周波数成分を含む。筐体音は、主に中帯域内の周波数成分を含む。
【0046】
このように、アコースティックピアノの音は、低帯域、中帯域および高帯域内に広く分布する種々の周波数成分を含む。本実施の形態では、
図3の波形データ記憶部162に記憶されるピアノ波形データが、波形データ帯域FG2内の周波数成分として、各鍵2aに割り当てられた音高に対応する基音、弦共鳴音および筐体音の周波数成分を含むとともに、各鍵2aに対応する打弦音および各鍵2aの操作に伴う棚板音の周波数成分を含む。ピアノ波形データは、例えば、アコースティックピアノの各音高の音を所定の周期でサンプリングすることによって取得される。
【0047】
(4)信号補正部
図5は、信号補正部170の具体的な構成例について説明するための図である。
図5の信号補正部170は、入力端子21、第1の抽出部22、第2の抽出部23、第1の倍音成分生成部24、第2の倍音成分生成部25、音信号生成部27および出力端子28を含む。以下、信号補正部170による原音信号D1の処理について説明する。
【0048】
図3の音響効果部163から与えられる原音信号D1が、入力端子21に入力される。本例において、原音信号D1に含まれる周波数成分は、ピアノ波形データに含まれる周波数成分と実質的に同じであり、基音、弦共鳴音、筐体音、打弦音および棚板音の周波数成分を含む。
【0049】
第1の抽出部22は、入力された原音信号D1から
図4の低帯域内の周波数成分を第1の周波数成分FC1として抽出する。第1の倍音成分生成部24は、抽出された第1の周波数成分FC1の倍音成分を第1の倍音成分HC1として生成する。第1の倍音成分HC1は、第1の周波数成分FC1の整数倍の周波数であって、
図4の下限周波数LF1以上の周波数を有する。第1の倍音成分HC1は、打弦音および棚板音の周波数成分の倍音成分を含む。また、原音信号D1における基音および弦共鳴音の周波数成分が低帯域内にある場合、第1の倍音成分HC1は、基音および弦共鳴音の周波数成分の倍音成分を含む。第1の倍音成分HC1は、第1の周波数成分FC1の一の整数倍(例えば、n倍)の周波数のみを有してもよく、第1の周波数成分FC1の複数の整数倍(例えば、n倍、n+1倍、・・・)の周波数を有してもよい。ここで、nは、2以上の整数である。
【0050】
第2の抽出部23は、入力された原音信号D1から
図4の下限周波数LF1以上の周波数成分を第2の周波数成分FC2として抽出する。第2の抽出部23は、下限周波数LF1以上の周波数成分のうち、予め定められた一定帯域内の周波数成分のみを第2の周波数成分FC2として抽出してもよい。第2の倍音成分生成部25は、抽出された第2の周波数成分FC2の倍音成分を第2の倍音成分HC2として生成する。第2の倍音成分HC2は、第2の周波数成分FC2の整数倍の周波数であって、
図4の上限周波数HF2以上の周波数を有する。第2の倍音成分HC2は、第2の周波数成分FC2の一の整数倍(例えば、n倍)の周波数のみを有してもよく、第2の周波数成分FC2の複数の整数倍(例えば、n倍、n+1倍、・・・)の周波数を有してもよい。
【0051】
音信号生成部27は、生成された第1および第2の倍音成分HC1,HC2を原音信号D1に付加することにより、原音信号D1の周波数成分と倍音成分HC1,HC2とを含む出力音信号D2を生成する。出力端子28は、生成された出力音信号D2を出力する。
【0052】
出力音信号D2は、
図3のイコライザ171、D/A変換器172および増幅器173を介してアナログの出力音信号A1としてスピーカ174に与えられる。これにより、スピーカ174がピアノ音を出力する。スピーカ174が出力するピアノ音は、低帯域内の周波数成分をほぼ含まない。本例では、低帯域以外の帯域について、スピーカ174が出力するピアノ音の周波数成分は、信号補正部170から出力される出力音信号D2の周波数成分と実質的に同じである。すなわち、スピーカ174が出力するピアノ音は、原音信号D1における中帯域内の周波数成分、ならびに第1および第2の倍音成分HC1,HC2を含む。
【0053】
スピーカ174から出力されるピアノ音は、中帯域内の周波数成分を有する筐体音を含む。また、基音および弦共鳴音が中帯域内の周波数成分を有する場合、スピーカ174から出力されるピアノ音は、基音および弦共鳴音を含む。さらに、基音および弦共鳴音が低帯域内の周波数成分を含む場合であっても、第1の倍音成分HC1が基音および弦共鳴音の周波数成分の倍音成分を含むので、ユーザは、聴覚錯覚によって低帯域内の基音および弦共鳴音を知覚することができる。また、第1の倍音成分HC1は打弦音および棚板音の周波数成分の倍音成分を含むので、ユーザは、聴覚錯覚によって打弦音および棚板音を知覚することができる。
【0054】
一方、アリコート音および金属音の周波数成分は高帯域内にあるので、原音信号D0,D1に含まれない。しかしながら、中帯域内の周波数成分の倍音成分である第2の倍音成分HC2は、高帯域内の周波数成分を含む。そのため、基音の周波数成分が中帯域内にある場合、その基音の倍音成分が第2の倍音成分HC2として出力音信号D2に含まれる。アリコート音および金属音は基音の倍音であるので、ユーザは、第2の倍音成分HC2によってアリコート音および金属音を知覚することができる。
【0055】
このようにして、ユーザは、基音、弦共鳴音、筐体音、棚板音、打弦音、アリコート音および金属音をピアノ音として知覚することができる。したがって、ユーザは、アコースティックピアノと同様に豊かな響きのピアノ音を知覚することができる。
【0056】
仮に、信号補正部170によって第1の倍音成分HCが原音信号D1に付加されない場合には、聴覚錯覚が生じないので、ユーザは低帯域の音を知覚することができない。その場合、イコライザ171によって低帯域内の周波数成分を強調するための調整を行うことが考えられる。具体的には、低帯域内の周波数成分の中帯域の倍音成分が強調されるように、イコライザ171によって中帯域内の所定の周波数領域の利得が上げられる。この場合、低帯域内の周波数成分が強調されたようにユーザに錯覚させることができる。しかしながら、本来的に中帯域内にある周波数成分も強調されるので、結果的にピアノ音の響きが不自然になる。本例では、このようなイコライザ171の調整を行うことなく、聴覚錯覚によって低帯域をユーザに知覚させることができる。それにより、自然な響きのピアノ音をユーザに知覚させることができる。
【0057】
また、原音信号D1が
図3の分岐部164から外部出力端子18に与えられる場合、信号補正部170(
図3および
図5)を経由しない原音信号D1が外部出力端子18から外部出力装置に出力される。そのため、低帯域の音を出力可能なスピーカまたはヘッドフォンを外部出力装置として用いた場合、原音信号D1に基づいて高音質のピアノ音を忠実に再現することができる。信号補正部170を経由しない楽曲信号ASが外部出力端子18に与えられる場合にも同様に、楽曲信号ASに基づいて外部出力装置から高音質の楽曲音を出力することができる。したがって、電子鍵盤楽器1が備えるサウンドシステム17を用いることによって低コストでかつ簡単にユーザに低帯域の音を知覚させることができる一方で、高性能な外部出力装置を用いることによって低帯域の音を出力することができる。
【0058】
信号補正部170を経由しない原音信号D1が演奏データとして記憶装置13または外部記憶装置15に記憶されてもよい。この場合、演奏データから再生された原音信号D1がサウンドシステム17または外部出力端子18に選択的に与えられることにより、打弦音および棚板音を含むピアノ音が再現される。
【0059】
(5)出力動作
図6は、電子鍵盤楽器1におけるピアノ音の出力動作を示すフローチャートである。
図6の出力動作において、ステップS2,S3,S7〜S11が音信号発生方法に相当する。
【0060】
図6に示すように、CPU11は、鍵盤2(
図1)の操作が検出されたか否かを判定する(ステップS1)。検出回路5(
図2)によって鍵盤2の操作が検出されるまでCPU11はステップS1を繰り返す。検出回路5によって鍵盤2の操作が検出されると、CPU11は、操作された鍵2aに割り当てられたピアノ音を発生するための発音指示信号SGを原音信号生成部161に与える。原音信号生成部161は、発音指示信号SGに基づいて、波形データ記憶部162(
図2)からピアノ波形データを取得するとともに(ステップS2)、取得したピアノ波形データから原音信号D0を生成する(ステップS3)。続いて、音響効果部163が、生成された原音信号D0に音響効果を付与し、原音信号D1を出力する(ステップS4)。
【0061】
CPU11は、原音信号D1を外部出力すべきか否かを判定する(ステップS5)。例えば、外部出力端子18(
図3)に外部出力装置が接続されている場合には、CPU11は原音信号D1を外部出力すべきであると判定し、外部出力端子18を指定する指定情報DDを分岐部164(
図3)に与える。それにより、分岐部164が原音信号D1を外部出力端子18に与え、外部出力端子18が外部出力装置に原音信号D1を出力する(ステップS6)。その後、CPU11がステップS1に戻る。
【0062】
一方、外部出力端子18に外部出力装置が接続されていない場合、CPU11は原音信号D1を外部出力すべきでないと判定し、サウンドシステム17を指定する指定情報DDを分岐部164に与える。それにより、分岐部164が原音信号D1を信号補正部170の入力端子21(
図5)に与える。第1の抽出部22(
図5)は、入力された原音信号D1から第1の周波数成分FC1を抽出する(ステップS7)。第1の倍音成分生成部24(
図5)は、抽出された第1の周波数成分FC1から第1の倍音成分HC1を生成する(ステップS8)。第2の抽出部23(
図5)は、入力された原音信号D1から第2の周波数成分FC2を抽出する(ステップS9)。第2の倍音成分生成部25(
図5)は、抽出された第2の周波数成分FC2から第2の倍音成分HC2を生成する(ステップS10)。音信号生成部27は、入力された原音信号D1ならびに生成された第1および第2の倍音成分HC1,HC2を含む出力音信号D2を生成する(ステップS11)。
【0063】
イコライザ171(
図2)は、生成された出力音信号D2の周波数特性を調整し、出力音信号D3を出力する(ステップS12)。D/A変換器172および増幅器173によって出力音信号D3がアナログ音信号に変換されるとともに増幅され、出力音信号A1がスピーカ174に与えられる。スピーカ174は、出力音信号A1に基づいてピアノ音を出力する(ステップS13)。ステップS1〜S13が繰り返されることにより、ユーザによる鍵盤2の操作に応じてピアノ音が順次発生される。
【0064】
(6)実施の形態の効果
本実施の形態によれば、基音を含む原音信号D1からスピーカ174の再生可能帯域FG1よりも低い周波数成分が抽出され、抽出された周波数成分の倍音成分が生成される。生成された倍音成分を含むピアノ音がスピーカ174から出力される。これにより、ユーザは、スピーカ174の再生可能帯域FG1よりも低い周波数成分を有する音を聴覚錯覚によって知覚することができる。この場合、原音信号D1から倍音成分が抽出されるのではなく、再生可能帯域FG1よりも低い周波数成分の倍音成分が生成される。そのため、原音信号D1に含まれる倍音成分が不明瞭である場合でも、明瞭な倍音成分を生成することができる。それにより、原音信号D1に含まれる倍音成分が不明瞭な場合でも、ユーザは、再生可能帯域FG1よりも低い周波数成分を有する音を聴覚錯覚によって明瞭に知覚することができる。
【0065】
これに対して、音声信号から基音の倍音成分を抽出する信号処理方法では、入力された音声信号に再生可能帯域よりも低い周波数成分を有する基音の倍音成分が明瞭に含まれない場合に、再生不能帯域内にある音を明瞭にユーザに知覚させることができない。
【0066】
また、本実施の形態によれば、打弦音および棚板音を含む原音信号D1からスピーカ174の再生可能帯域FG1よりも低い周波数成分が抽出され、抽出された周波数成分の倍音成分を含むピアノ音がスピーカ174から出力される。この場合、再生可能帯域FG1よりも低い周波数成分を有する打弦音および棚板音の倍音成分が生成される。これにより、ユーザは、スピーカ174の再生可能帯域FG1よりも低い周波数成分を有する打弦音および棚板音を聴覚錯覚によって知覚することができる。
【0067】
これに対して、音声信号から基音の倍音成分を抽出する信号処理方法では、スピーカ174の再生可能帯域FG1よりも低い周波数成分を有する打弦音および棚板音をユーザに知覚させることはできない。
【0068】
また、本実施の形態では、原音信号D1に含まれる周波数成分から原音信号D1の上限周波数HF2よりも高い周波数を有する倍音成分が生成され、その倍音成分を含むピアノ音がスピーカ174から出力される。これにより、ユーザは、原音信号D1に含まれない周波数成分を有するアリコート音および金属音を知覚することができる。
【0069】
これらにより、ユーザは、アコースティックピアノと同様に豊かな響きのピアノ音を知覚することができ、その豊かな響きのピアノ音を用いた演奏を行うことができる。
【0070】
(7)他の実施の形態
音源部16およびサウンドシステム17の構成は上記の例に限らない。例えば、信号補正部170が音源部16に設けられてもよい。また、信号補正部170が原音信号生成部161と音響効果部163との間に設けられてもよい。あるいは、音響効果部163が、サウンドシステム17に設けられてもよい。
【0071】
上記実施の形態では、波形データ記憶部162に記憶されたピアノ波形データに基づいて原音信号生成部161により原音信号D0が生成されるが、例えば図示しない外部入力端子から原音信号が電子鍵盤楽器1に入力されてもよい。この場合、入力された原音信号がサウンドシステム17または外部出力端子18に直接的に与えられてもよい。
【0072】
上記実施の形態では、信号補正部170において第1および第2の倍音成分HC1,HC2がそれぞれ原音信号D1に付加されるが、第1および第2の倍音成分HC1,HC2の一方のみが原音信号D1に付加されてもよい。例えば、スピーカ174の再生可能帯域が
図4の低帯域を含む場合には、第1の倍音成分HC1が原音信号D1に付加されなくても、スピーカ174から打弦音および棚板音を含むピアノ音が出力される。一方、ピアノ波形データ(原音信号D0,D1)が
図4の高帯域を含む場合には、第2の倍音信号CHが原音信号D1に付加されなくても、スピーカ174からアリコート音および金属音を含むピアノ音が出力される。
【0073】
上記実施の形態では、第1の抽出部22が原音信号DIから第1の周波数成分FC1として打弦音および棚板音の周波数成分を抽出し、第1の倍音成分生成部24が抽出された打弦音および棚板音の周波数成分の倍音成分を第1の倍音成分HC1として生成するが、本発明はこれに限定されない。第1の抽出部22は、原音信号DIから第1の周波数成分FC1として打弦音および棚板音のうち一方の周波数成分を抽出してもよい。この場合、第1の倍音成分生成部24は、抽出された一方の周波数成分FC1の倍音成分を第1の倍音成分HC1として生成してもよい。あるいは、第1の抽出部22は、原音信号DIから第1の周波数成分FC1として打弦音および棚板音の周波数成分を抽出し、第1の倍音成分生成部24は、抽出された打弦音および棚板音の周波数成分のうちいずれか一方の周波数成分の倍音成分を第1の倍音成分HC1として生成してもよい。
【0074】
上記実施の形態では、第2の倍音成分生成部25は、アリコート音および金属音を表す第2の倍音成分HC2を生成するが、本発明はこれに限定されない。第2の倍音成分生成部25は、アリコート音または金属音のいずれか一方を表す第2の倍音成分HC2を生成してもよい。
【0075】
上記実施の形態では、基音および弦共鳴音の周波数成分の下限値がスピーカ174の再生可能帯域FG1よりも低い周波数帯域にあるが、基音および弦共鳴音の周波数成分の下限値がスピーカ174の再生可能帯域FG1にあってもよい。この場合、聴覚錯覚を利用することなく、各鍵2aに対応する基音および弦共鳴音をユーザに知覚させることができる。また、筐体音、打弦音および棚板音のうちの少なくとも1つの周波数成分が、全てのピアノ波形データに含まれるのではなく、一部の鍵2aに対応するピアノ波形データにのみ含まれてもよい。
【0076】
上記実施の形態では、音信号発生装置および音信号発生方法が電子鍵盤楽器に適用されているが、音信号発生装置および音信号発生方法が他の電子楽器に適用可能であってもよい。
【0077】
上記実施の形態では、音高指定操作子が鍵であり、楽器音がピアノ音であるが、音高指定操作子がパッド等の他の音高指定操作子であってもよく、楽器音が他の楽器音であってもよい。
【0078】
図3の原音信号生成部161、音響効果部163、分岐部164、信号補正部170およびイコライザ171は、電子回路等のハードウエアによって実現されてもよく、CPU11等のハードウエアおよび制御プログラム等のソフトウエアにより実現されてもよい。例えば、
図3の音信号発生装置200がCPU11またはDSP(デジタルシグナルプロセッサ)等のプロセッサおよび音信号発生プログラムにより実現されてもよい。この場合、音信号発生プログラムは、ROM10、記憶装置13または外部記憶装置15等の記憶媒体(記録媒体)に記憶されてもよい。
(8)参考形態
本参考形態の一局面に従う電子鍵盤楽器は、複数の鍵を含む鍵盤と、各鍵の操作に応じて該鍵に対応する基音を含むピアノ音の波形を表す原音信号を取得する取得部と、取得された原音信号から予め定められた下限周波数よりも低い周波数成分を抽出する抽出部と、抽出された周波数成分の倍音成分であって下限周波数以上の周波数を有する倍音成分を生成する倍音成分生成部と、取得された原音信号および生成された倍音成分を含む出力音信号を生成する音信号生成部と、下限周波数以上の再生可能帯域を有し、生成された出力音信号に基づくピアノ音を出力する音出力部とを備える。
取得部は、操作された鍵に対応する打弦音および該弦の操作に伴う棚板音のうち少なくとも一方を含むピアノ音の波形を表す原音信号を取得し、抽出部は、取得された原音信号から下限周波数よりも低い周波数成分として打弦音および棚板音のうち少なくも一方の周波数成分を抽出し、少なくとも一方の周波数成分の倍音成分を生成してもよい。
本参考形態の他の局面に従う電子鍵盤楽器は、複数の鍵を含む鍵盤と、各鍵の操作に応じて該鍵に対応する基音を含みかつ予め定められた上限周波数以上の周波数成分を含まないピアノ音の波形を表す原音信号を取得する取得部と、取得された原音信号から予め定められた下限周波数よりも高い周波数成分を抽出する抽出部と、抽出された周波数成分の倍音成分であって上限周波数以上の周波数を有する倍音成分を生成する倍音成分生成部と、取得された原音信号および生成された倍音成分を含む出力音信号を生成する音信号生成部と、下限周波数以上の再生可能帯域を有し、生成された出力音信号に基づくピアノ音を出力する音出力部とを備える。
上限周波数以上の周波数を有する倍音成分は、アリコート音を表してもよい。電子鍵盤楽器は、生成された出力音信号の周波数特性を調整するイコライザをさらに備えてもよい。電子鍵盤楽器は、取得部により取得されかつ倍音成分生成部を経由しない原音信号を外部に出力する外部出力端子をさらに備えてもよい。
本参考形態のさらに他の局面に従う音信号発生装置は、操作された音高指定操作子に対応する基音を含む楽器音の波形を表す原音信号を取得し、取得された原音信号から予め定められた下限周波数よりも低い周波数成分を抽出し、抽出された周波数成分の倍音成分であって下限周波数以上の周波数を有する倍音成分を生成し、取得された原音信号および生成された倍音成分を含む出力音信号を生成するように構成されたプロセッサを備える。
プロセッサは、操作された音高指定操作子に対応する打弦音および該弦の操作に伴う棚板音のうち少なくとも一方を含む楽器音の波形を表す原音信号を取得し、取得された原音信号から下限周波数よりも低い周波数成分として打弦音および棚板音のうち少なくも一方の周波数成分を抽出し、少なくとも一方の周波数成分の倍音成分を生成するように構成されてもよい。
本参考形態のさらに他の局面に従う音信号発生装置は、操作された音高指定操作子に対応する基音を含みかつ予め定められた上限周波数以上の周波数成分を含まない楽器音の波形を表す原音信号を取得し、取得された原音信号から予め定められた下限周波数よりも高い周波数成分を抽出し、抽出された周波数成分の倍音成分であって上限周波数以上の周波数を有する倍音成分を生成し、取得された原音信号および生成された倍音成分を含む出力音信号を生成するにように構成されたプロセッサを備える。
上限周波数以上の周波数を有する倍音成分は、アリコート音を表してもよい。
本参考形態のさらに他の局面に従う音信号発生方法は、操作された音高指定操作子に対応する基音を含む楽器音の波形を表す原音信号を取得することと、取得された原音信号から予め定められた下限周波数よりも低い周波数成分を抽出することと、抽出された周波数成分の倍音成分であって下限周波数以上の周波数を有する倍音成分を生成することと、取得された原音信号および生成された倍音成分を含む出力音信号を生成することとを含む。
取得することは、操作された音高指定操作子に対応する打弦音および該弦の操作に伴う棚板音のうち少なくとも一方を含む楽器音の波形を表す原音信号を取得することを含み、抽出することは、取得された原音信号から下限周波数よりも低い周波数成分として打弦音および棚板音のうち少なくも一方の周波数成分を抽出することを含み、生成することは、少なくとも一方の周波数成分の倍音成分を生成することを含んでもよい。
本参考形態のさらに他の局面に従う音信号発生方法は、操作された音高指定操作子に対応する基音を含みかつ予め定められた上限周波数以上の周波数成分を含まない楽器音の波形を表す原音信号を取得することと、取得された原音信号から予め定められた下限周波数よりも高い周波数成分を抽出することと、抽出された周波数成分の倍音成分であって上限周波数以上の周波数を有する倍音成分を生成することと、取得された原音信号および生成された倍音成分を含む出力音信号を生成することとを含む。
上限周波数以上の周波数を有する倍音成分は、アリコート音を表してもよい。