(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
<構成>
本実施形態の車両用構造部材は、
図1及び
図2に示すように、中空部材1と、中空部材1を補強するテンション部材12とを有する。
中空部材1は、天板部10A、天板部10Aの幅方向両側にそれぞれ連続する一対の側壁部10B、及び天板部10Aに対向配置した底板部11で閉断面形状を構成する。本実施形態の中空部材1は、例えば、
図1及び
図2に示すように、天板部10Aと、天板部10Aの幅方向両側にそれぞれ連続する一対の側壁部10Bとを有するハット断面部材10と、そのハット断面部材10の開口を閉塞する底板部11とで構成される。この例では、底板部11は、天板部10Aに対向配置した状態で、底板部11の幅方向両側がそれぞれ、一対の側壁部10Bの各端部に設けられるフランジ10Cに溶接にて結合されている。
【0012】
なお、天板部10Aや底板部11に、長手方向に向けて延びる1又は2以上のビードが形成されていても良い。長手方向に延びるビードを設けることで、車両用構造部材は、曲げ圧壊方向への荷重入力に対する強度向上と共に、中空部材1の長手方向に沿った軸方向への荷重入力に対する強度も向上する。
中空部材1の板厚及び引張強度は、使用される部位に要求される諸元に応じて設定される。本実施形態では、中空部材1の板厚は、例えば1.0mm以上2.0mm以下とする。また、中空部材1の引張強度は、例えば440MPa以上1470MPa以下とする。
【0013】
また、
図1及び
図2には、実施例における部材の寸法を併記しているが、この寸法は、本発明を何ら限定するものではない。
テンション部材12は、天板部10Aの幅方向に向けて延在し、中空部材1の板厚よりも板厚が薄い金属板からなる。なお、中空部材1とテンション部材12の材料は同じであって良いし異なっていても良い。
また、テンション部材12の板厚及び引張強度は、使用される部位に要求される諸元に応じて設定される。
【0014】
本実施形態では、テンション部材12の板厚は、例えば、中空部材1の板厚未満、0.6mm以上、好ましくは、0.8mm以下0.6mm以上である。また、テンション部材12の板厚は、例えば、ハット断面部材10の板厚の50%以上80%以下に設定することが好ましい。ここで、テンション部材12の板厚を、中空部材1の板厚未満に設定する際に、中空部材1を構成する各部品10,11の板厚が異なる場合には、ハット断面部材10又は底板部11のうち板厚が薄い側の値を用いる。
また、テンション部材12の引張強度は、例えば440MPa以上1470MPa以下とする。
【0015】
テンション部材12は、対向する上記一対の側壁部10Bの内面同士を連結して上記一対の側壁部10B間の開きを拘束する補強部材である。テンション部材12は、曲げ圧壊方向の衝突に対し引張力で一対の側壁部10Bの開きを抑えるため、板厚を薄くすることが可能である。金属板からなるテンション部材12は、天板部10Aの面と平行又は略平行であることが好ましいが、テンション部材12は、天板部10Aの面と平行な仮想平面に対し、天板部10Aの幅方向や長手方向に向けて傾いた状態で設けられていても良い。
図3に、テンション部材12が、天板部10Aの面と平行な仮想平面に対し天板部10Aの幅方向に向けて傾いた状態で設けられた車両用構造部材の例を示す。
図3に示す車両用構造部材は、一対の側壁部10Bの高さが異なる場合を例示している。
【0016】
なお、テンション部材12は、テンション部材12上面と天板部10A内面との間に空間を形成し、天板部10Aと底板部11との間の空間を上下に仕切るように配置される。
テンション部材12の幅方向両側はそれぞれ、対向する側壁部10B内面に対し溶接にて接合(連結)されている。
図2及び
図3では、テンション部材12の幅方向両端部が曲げられてフランジ部12aが形成され、そのフランジ部12aの面を側壁部10B内面に突き当てて溶接することでテンション部材12を取り付けた例である。フランジ部12aの面を側壁部10B内面に溶接することで、テンション部材12はより強固に側壁部10B内面に設けられる。
【0017】
テンション部材12は、衝突時における一対の側壁部10Bの開きに対しより大きな引張力が得られるように、テンション部材12とその端部に形成されるフランジ部12aとの間の曲げ部の曲率半径(曲げR)は小さい方が好ましい。フランジ部12aの成形可能性を考慮し且つ上記曲げ部の曲率半径をより小さくするためには、テンション部材12の板厚は薄い方が好ましい。また、テンション部材12の引張強度は高い方が好ましい。ただし、例えば上記の曲げ部の曲率半径を0.3mm以下と小さく設定する場合、その曲げ部での成形を実現するためには、テンション部材12の板厚にもよるが、テンション部材12の引張強度を、例えば590MPa級以下と低く設定する必要がある。ここで、テンション部材12は、主として引張力を負担するためのものである。すなわち、テンション部材12の板厚は余り引張力に寄与しないので、軽量化の観点から、テンション部材12の板厚は薄い方が好ましい。したがって、テンション部材12の強度を落としてでも、上記の曲げ部の曲率半径を小さくすることが好ましい。
【0018】
ここで、テンション部材12は、中空部材1の長手方向全面に亘って連続して設ける必要はない。テンション部材12を、中空部材1の長手方向に沿って部分的に設けても良い。この場合、テンション部材12は、少なくとも衝突荷重が負荷される可能性が高いと推定される位置を含む箇所に設けることが好ましい。
曲げ圧壊方向の衝突荷重が負荷される可能性が高いと推定される天板部10A又は底板部11における面位置は、例えば、その構造部材を配置する車両位置に基づき、過去の事故情報などから、車両の側面衝突によって、対象とする構造部材のどの部分に衝突荷重が入力され易いかなどによって推定する。
また、変形領域の特定は、例えば、FEMシミュレーション解析によって、曲げ圧壊方向の衝突荷重に対する部材の変形位置を解析して求める。予め設定した衝突荷重は、構造部材を使用する位置で曲げ圧壊方向の衝突形態に対する耐衝突性能として要求される許容の衝突荷重を採用する。
【0019】
次に、金属板からなるテンション部材12の好適な配置位置(高さ方向の位置)について説明する。
ここで、
図2に示すように、中空部材1の内面で形成される閉断面形状の幅をw、高さをhとする。また、天板部10Aからテンション部材12までの高さ方向の距離を補強位置pとする。
テンション部材は、対向する側壁部10B間が広がろうとする際に、引張力を負担するために設けられる。このため、補強位置pは、対向する側壁部10B間が広がろうとする際に、テンション部材12が引張力を負荷する位置である。すなわち、テンション部材12が平板の場合、補強位置pは、例えば、テンション部材12の厚さ方向中央位置での値とする。また、テンション部材12の面が傾いた状態で配置される場合には、補強位置pは、例えば、平面視におけるテンション部材12の中央位置やテンション部材12の重心位置での値とする。
【0020】
例えば、幅wは、対向する側壁部10B内面に沿う直線と底板部11上面との交点間の水平距離とする。また、高さhは、天板部10Aと底面部との間の垂直距離(対向距離)とする。
ここで、
図3に示すように、天板部10Aと底板部11とが互いに平行でない場合には、高さhは、次のようにして決定する。すなわち、高さhは、
図3に示すように、天板部10Aの幅方向両端における、各稜線の天板部10A側のR止まり部の水平面h1及びh2の中立面hmと底板部11との間の垂直距離とする。
また、テンション部材12と底板部11とが平行でない場合の補強位置pは、
図3に示すように、テンション部材12の幅方向両端における、各稜線のテンション部材12側のR止まり部の水平面p1及びp2の中立面pmと上記中立面hmとの間の垂直距離とする。
【0021】
また、閉断面形状における幅wに対する高さhの比(h/w)を部材アスペクト比xと記載する。高さhに対する補強位置pの比(p/h)を補強高さ比yと記載する。
このとき、下記(1)式を満足するように、テンション部材12の高さ位置を設定することが好ましい(実施例参照)。
(1)式を満足することで、より効率良く耐衝突性能の向上が出来るようになる。
y≦0.2x+0.6 ・・・(1)
また、更なる耐衝突性能の向上のためは、(2)式を満たす範囲にテンション部材12を設けることがより好ましい。
y≦0.2x+0.4 ・・・(2)
更に好ましくは、下記(3)式及び(4)式を満足することが好ましい。
y≦0.2x+0.25 ・・・(3)
y≧0.2x ・・・・(4)
【0022】
ここで、
図4や
図5のように、天板部10Aに長手方向に延びるビードを設けられて、天板部10Aに幅方向に沿って1又は2以上の凹部10Abが形成されている場合には、高さhは、底板部11と天板部10Aの凹部10Ab以外の部分10Aaとの上下距離とする。
図4や
図5では、天板部10Aの幅方向中央部に一つの凹部10Abがある場合を例示している。
【0023】
また、天板部10Aに、幅方向に沿って1又は2以上の凹部10Abが形成されている構造部材にテンション部材12を設ける際に、テンション部材12を天板部10Aに対し、凹部10Abの深さ未満に近づけて配置する場合について説明する。すなわち、補強位置p<凹部の深さとなるようにテンション部材12を設ける場合について説明する。
この場合、例えば
図4に示すように、テンション部材12における、凹部10Abの底部分と上下で対向する部分を凹部10Abの底部分の下面に沿った形状に変形させておくことで、補強位置p<凹部の深さの位置にテンション部材12を配置する。この場合、テンション部材12は、各側壁部10Bの内面に溶接によって取り付ける。テンション部材12と底部との当接部についても溶接や接着によって固定させても良い。
【0024】
又は、
図5に示すように、テンション部材12を、天板部10A内面との間に空間を有する状態で、側壁部10B内面と、該側壁部10B内面と対向する凹部10Abの立上り部10Ab1内面とをそれぞれ連結するように配置する。
図5の場合には、天板部10Aの幅方向に沿って、2枚のテンション部材12が配置される構成となる。
なお、
図4及び
図5では、凹部10Abが一つの場合を例示しているが、凹部は2以上形成されていても良い。
【0025】
<動作その他>
発明者は、FEM解析により、
図1及び
図2に示すような寸法のハット断面部材10と底板部11とから閉断面を構成する構造部材(中空部材1で、テンション部材12は無い)に対し、三点曲げ圧壊試験での部材変形の挙動を詳細に解析した。三点曲げの解析条件は、
図6に示すように、構造部材における長手方向に離れた下面の2点を支持部材20で支持し、天板部10Aの長手方向中央部に対し、パンチによって上側から下方に向けて荷重を負荷するという条件である。
【0026】
三点曲げ圧壊試験による部材変形の挙動は、部材中央の断面形状を表す
図7に示すように、パンチのストローク量が増えるにつれて、
図7(a)→
図7(b)のように、部材が下方への変形しながら左右の側壁部10Bが外側に開くように変形する。この変形により、部材の長手方向中央部(荷重入力位置)がV字状に折れ曲がった。
図8に、荷重と変形ストローク量(荷重入力位置での下方への変形量)の関係を示す。この
図8のように、荷重は、曲げ圧壊方向の荷重に対し、構造部材がV字状の折れ曲がり始める辺りから低下する。そして、発明者は、荷重の最大荷重を耐衝突性能としたとき、その最大荷重を増加させるためには、対向する側壁部10Bの開きを抑えることが有効であるとの知見を得た。
【0027】
そして、本実施形態では、対向する側壁部10B間をテンション部材12で連結することで、例えば天板部に荷重が入力するような衝突による、部材変形時に対向する側壁部10B間の距離が大きくなることを抑えることで、耐衝突性能を向上させている。
すなわち、本実施形態では、上記のようにテンション部材12を設けることで、特に、曲げ変形する衝突形態について、構造部材の耐衝突性能を向上させることができる。本実施形態のテンション部材12は、幅方向で対向する一対の側壁部10Bが離れる方向に変位することを、テンション(引張力)によって拘束する。この結果、天板部10A又は底板部11への衝突荷重の入力に対し、対向する一対の側壁部10Bの面外方向への膨らみ(座屈)を抑制する。すなわち、本実施形態に基づくテンション部材12を設けることで、衝突時の部材断面変形を効果的に抑制し、特に曲げ変形における最大荷重を向上させることが可能となる。
【0028】
また、金属板からなるテンション部材12は、衝突荷重に対して、引張力を負担し、必ずしも圧縮力について負担する必要がないため、薄板の金属板でも効果を有する。すなわち、耐衝突性能を向上させるために、テンション部材12を設けても、従来に比べて荷重増加を抑制することが可能である。すなわち、金属板からなるテンション部材12を補強部材として設けても、それによる質量増大を小さく抑えることができる。
【0029】
また、
図7から分かるように、側壁部10Bにおける、外方に一番大きく変形(膨らみ)する位置は、側壁部10Bの高さ方向中央部よりも、天板部10A側位置である。このため、曲げ圧壊の衝突形態については、テンション部材12を設ける位置は、底板部11側よりも天板部10A側に近づけて設けることが好ましい。
より好ましくは、上記の(1)式を満たす位置である。この場合、テンション部材12が構造部材のアスペクト比に応じた好適な位置に設けられることにより、部材質量当たりの耐衝突性能を効果的に向上させた車両用構造部材を提供することが可能となる(実施例を参照)。すなわち、構造部材のアスペクト比ごとに異なる効果的な補強位置にテンション部材12を設けることができ、本実施形態では、補強位置を特定することで、より効果的に耐衝突性能を向上させることが出来る。
【実施例】
【0030】
次に、本発明に基づく実施例について説明する。
下記の条件にて、三点曲げ圧壊試験での部材変形のFEM解析を行って、テンション部材12を設けることによる耐衝突性能の向上について検討した。
実施例の車両用構造部材は、
図1及び
図2に示す構成とした。
中空部材1を構成するハット断面部材10と底板部11、及びテンション部材12の強度や板厚を表1のように設定した。なお、強度の単位は[Mpa]である。なお、テンション部材12のフランジ部12aの曲げ部の曲げRは0.3mmとした。
【0031】
【表1】
【0032】
また、各実施例及び比較例について、表2のような諸元に設定して解析を行った、表2には、そのときの構造部材の質量当たりの最大荷重を併記した。
【0033】
【表2】
【0034】
また、横軸を、補強位置pの比(p/h)を補強高さ比yとし、縦軸を構造部材の質量当たりの最大荷重として纏めた。その結果を
図9に示す。
なお、実施例5は、質量当たりの最大荷重では、比較例1と同等の最大荷重となっているが、実施例5は、最大荷重の絶対値では、比較例1の場合よりも大きい。
更に、中空部材1のアスペクト比を変えて解析を実施した。その結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
そして、横軸をアスペクト比x、縦軸を補強高さ比yとして整理すると、
図10のようになった。
図10中、「×」は、同じアスペクト比xにおける比較例に比べて、質量当たりの最大荷重が大きくなる場合の実施例であって、実施例10,15,20が対応する。もっとも、実施例10,15,20であっても、最大荷重の絶対値では、同じアスペクト比xの比較例に比べて大きくなっている。
【0037】
以上のように、テンション部材12を設けることで、テンション部材12を設けない場合よりも構造部材の最大荷重の絶対値が増大した。
また、上記の(1)式を満足するように、テンション部材12の高さを決定すると、質量当たりの最大荷重も、テンション部材12を設けない場合に比べて大きくなることが分かった。
また、曲げ圧壊方向の荷重に対する、テンション部材12のフランジ部12aの曲げ部の曲げ半径(曲げR)、板厚、および引用強度の関係について評価を実行した、具体的には、テンション部材12の引張強度、板厚及びテンション部材12とその端部に形成されるフランジ部12aとの間の曲げ部の曲率半径(曲げR)を変えたときの質量当たりの最大荷重を求めた。
その評価結果を表4に示す。
【0038】
【表4】
【0039】
テンション部材12は、衝突時における一対の側壁部10Bの開きに対しより大きな引張力が得られるようにするためのものである。
表4から分かるように、実施例2と実施例Bに示すように、テンション部材12の引張強度及び板厚が等しい場合、曲げ部の曲率半径は小さい方が好ましいことが分かった。
また、テンション部材12の板厚及び曲げ部の曲率半径が等しい場合、表4の実施例2と実施例Aに示すように、テンション部材12の引張強度は高い方が高い対衝突性能が得られることが分かった。ただし、上記の通り上記曲率半径は小さい方が好ましく、実施例Aと実施例Bに示すように、テンション部材12の引張強度を例えば590MPa級以下と低く設定することで、1470MPa級材から590MPa級材に強度を落としてでも、上記曲率半径を0.3mmと小さくする方が好ましいことが分かった。
【0040】
また、テンション部材12の引張強度及び曲げ部の曲率半径が等しい場合、実施例B及び実施例Cに示すように、テンション部材12の板厚は、厚い方が高い耐衝突性能を得られることが分かった。ただし、上記の通り上記曲率半径は小さい方が好ましい。例えば上記曲率半径を0.3mm以下と小さく設定する場合、その曲げ部での成形を実現するためには、テンション部材12の板厚は薄い方が好ましく、実施例2及び実施例Cに示すように、テンション部材12の板厚は例えば、0.8mm程度に薄い方が好ましい。したがって、一般的なテンション部材12の板厚は、例えばハット断面部材10の板厚の50%以上60%以下とするのが好ましい。