【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、電場非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)を行うための装置であって、
3つ以上のセグメントを含む第1の分割平面電極であって、該第1の分割平面電極のセグメントが第1の平面内に配置され且つ装置の分析軸に平行な方向に延在している、第1の分割平面電極と、
3つ以上のセグメントを含む第2の分割平面電極であって、該第2の分割平面電極のセグメントが第2の平面内に配置され且つ装置の分析軸に平行な方向に延在しており、前記第1の分割平面電極と第2の分割平面電極が互いに分離されていることで両電極間に分析間隙が設けられている、第2の分割平面電極と、
前記分析間隙を通って装置の分析軸に平行な方向に進むようにイオンを押し動かすための推進手段と、
電源と
を備えており、前記装置が、
前記推進手段により前記分析間隙を通るように押し動かされるイオンのFAIMS分析を行うために、前記分析間隙内に非対称な時間依存性電場を生成するように前記電源が第1の電圧波形群を前記第1及び第2の分割平面電極のセグメントに印加するFAIMSモード、及び
前記分析軸の方へイオンを収束させるために前記分析間隙内に閉じ込め電場を生成するように前記電源が第2の電圧波形群を前記第1及び第2の分割平面電極のセグメントに印加する透過モード
で作動するように構成されていることを特徴としている。
【0013】
本発明者らは事実上の透過モードを持つ良好な低圧力のFAIMS分離(LP−FAIMS分離)を提供する上で一対の分割平面電極が特に好適であることを見出した。
【0014】
ここで、特許文献1及び2のいずれも分割平面電極を透過モードで用いることを開示していないことに注意されたい。
【0015】
当該技術で公知の原理によれば、(装置がFAIMSモードで作動しているときに)分析間隙内に生成される非対称な時間依存性電場は高電場(HF)状態と低電場(LF)状態の間で繰り返し振動する(2つの状態を行き来する)ことができ、その非対称な時間依存性電場は所定の周波数fで時間周期T毎に繰り返す。時間依存性電場の時間周期Tの1回目の部分の間はセグメント群に高電場(HF)の電圧群を印加することでHF状態を作り出すことができる。時間依存性電場の時間周期Tの2回目の部分の間はセグメント群に低電場(LF)の電圧群を印加することでLF状態を作り出すことができる。こうして、セグメント毎に、FAIMSモードで該セグメントに印加される(各々の)第1の電圧波形は、HF状態を作り出すように構成されたHF電圧と、LF状態を作り出すように構成されたLF電圧とを含むことができる。各セグメントに印加されるHF電圧とLF電圧はセグメント毎に振幅及び極性が異なっていてもよい。特に、HF電圧をLF電圧より大きな振幅でより短い時間だけ印加することができる。しかし、分析間隙内に生成される非対称な時間依存性電場の形状(電場線)はHF状態及びLF状態のどちらでも同じでなければならない。
【0016】
非対称な時間依存性電場の時間周期Tの間で(HF電圧を各セグメントに印加することによる)HF電場の生成に消費される時間部分(つまり前の段落で言及した「第1の部分」)はデューティ比dとして知られている。非対称な時間依存性電場の時間周期T内で(LF電圧を各セグメントに印加することによる)LF電場の生成に消費される時間と(HF電圧を各セグメントに印加することによる)HF電場の生成に消費される時間との比はf値として知られている。ここで、f値=(1−d)/dである(例えば、d=0.2ならf値は4になる)。
【0017】
当該技術で公知のように、非分割平面電極を用いるFAIMS装置では、HF状態を得るために装置の平面電極に印加される最大振幅の電圧である「分散電圧」(dispersion voltage:DV)が定義されることがある。
【0018】
分割平面電極を用いるFAIMS装置の場合、HF状態を得るために分割平面電極のうち1つのセグメント(典型的には中央のセグメント)に印加される最大振幅の電圧を分散電圧と定義することができる。
【0019】
本発明のいずれの態様においても、電源は、装置がFAIMSモードで作動しているとき、補償電圧(compensation voltage:CV)と呼ばれる追加のDC電圧群を第1の電圧波形群と同時に全てのセグメントに印加するように構成することができる。疑念を避けるために述べておくと、セグメント群に印加されるDC電圧群(CV)はセグメント毎に異なるDC電圧を含んでいてもよい。つまり、各セグメントに印加されるDC電圧は他のセグメントに印加されるDC電圧と同じである必要はない(ただし、例えば収束が必要ない場合等、事例によってはDC電圧が全て同じでもよい)。当該技術で公知のように、補償電圧はどのイオンが分析間隙を通過するようにするかを選択するものであり、時間的に固定したり、非特許文献3で説明されているように、スペクトルを得るために走査したり(時間的に次第に変化させたり)できる。
【0020】
本装置が収束を行うように構成されている場合(後述する本発明の第2及び第3の態様を参照)、全てのセグメントに補償電圧を印加することにより得られる電場は、第1の電圧波形群を第1及び第2の分割平面電極に印加することにより生成される電場と略同一の形状を有する電場となることが好ましい。当業者であれば、このような形状を持つ電場を生成する補償電圧を発生する手段を、例えば独立に制御される複数の電源ユニット又は電圧分割器で容易に実装できるだろう。
【0021】
本装置は分析間隙内のガス圧を制御するためのガス制御部を備えていることが好ましい。
【0022】
ガス制御部は、透過モードにおける分析間隙内のガス圧がFAIMSモードに比べて低くなるように分析間隙内のガス圧を制御するように構成されていることが好ましい。
【0023】
ガス制御部は、FAIMSモードにおいて、分析間隙内のガス圧を1〜200mbarに、より好ましくは5〜100mbarに、更に好ましくは5〜50mbarにするように構成されていることが好ましい。
【0024】
本装置が多価のタンパク質の分離に用いるために構成されている場合、前記ガス制御部は、FAIMSモードにおいて、分析間隙内におけるガス圧を1〜20mbarにするように構成されていてもよい。
【0025】
ガス制御部は、分析間隙内に混合ガスが含まれるように該分析間隙への複数のガスの供給を制御するように構成されていることが好ましい。混合ガスは窒素(N2)、水素(H)及びヘリウム(He)のうち2種類以上を含むものとすることができる。混合ガスはHeとN2、又はHとN2とすることができる。
【0026】
ガス制御部は、透過モードにおいて、分析間隙内のガス圧を20mbar以下、より好ましくは10mbar以下、更に好ましくは5mbar以下にするように構成されていることが好ましい。このガス圧はFAIMSモードに用いられる圧力と違っていてもよく、それより低いことが好ましい。
【0027】
第1の電圧波形群は第1の周波数で繰り返し、第2の電圧波形群は第2の周波数で繰り返すことが好ましい。第1の周波数は第2の周波数よりも低いことが好ましい。
【0028】
前記第1の周波数は5kHz〜5MHzの範囲内、10kHz〜1MHzの範囲内、又は25kHz〜500kHzの範囲内とすることができる。
【0029】
前記第2の周波数は500kHz以上、1MHz以上、2MHz以上、又は3MHz以上とすることができる。
【0030】
第1の電圧波形と第2の電圧波形は略矩形状であることが好ましい。
【0031】
電源はデジタル電源とすることができる。これは第1及び第2の電圧波形が異なる周波数と略矩形状の波形(上記参照)を持つことができるようにする特に簡便な方法である。
【0032】
本装置はFAIMSモードでは0.5より小さい又は大きいデューティ比で作動するように構成されていることが好ましい。
【0033】
電源は、一又は複数のRF電圧波形を生成し、容量分圧器の配列を介して前記RF電圧波形を第1及び第2の分割平面電極のセグメントに印加することにより、第1の電圧波形群を第1及び第2の分割平面電極のセグメントに印加するように構成することができる。
【0034】
電源は、一又は複数のRF電圧波形を生成し、前記RF電圧波形を第1及び第2の分割平面電極のセグメントに前記容量分圧器の配列を用いずに(例えば該セグメントに直接)印加することにより、第2の電圧波形群を第1及び第2の分割平面電極のセグメントに印加するように構成することができる。
【0035】
電源は分割平面電極のセグメントに印加されている電圧波形の周波数を第1の周波数値から第2の周波数値へ略即座に変化させるように構成されていることが好ましい。ここで、「略即座に」とは周波数が変化する前の1サイクルの電圧波形のうちに(つまり、第1の周波数値をf1として1/f1のうちに)その変化が生じることを意味するものとすることができる。これは、電源がデジタルで制御されていれば最も簡便に実現できる。電源は、例えばソフトウェアを介したユーザ入力に従って第1の周波数値から第2の周波数値へ周波数を変えるように構成されていてもよい。
【0036】
電源は分割平面電極のセグメントに印加されている電圧波形のf値を第1のf値から第2のf値へ略即座に変化させるように構成されていることが好ましい。ここで、「略即座に」とはf値が変化する前の1サイクルの電圧波形のうちにその変化が生じることを意味するものとすることができる。これは、電源がデジタルで制御されていれば最も簡便に実現できる。電源は、例えばソフトウェアを介したユーザ入力に従って第1のf値から第2のf値へf値を変えるように構成されていてもよい。
【0037】
透過モードにおいて第1及び第2の分割平面電極に印加される第2の電圧波形群は、分析軸の方へイオンを収束させるために、分析間隙内において分析軸に直交する面内に四重極場を生成することが好ましい。閉じ込め場の他の形態は当業者には自明であろう。
【0038】
本装置が透過モードで作動しているときにセグメントに印加される第2の電圧波形のデューティ比は0.5(f値=1)とすることができる。
【0039】
第1及び第2の分割平面電極は互いに分析間隙の反対側に配置されていることが好ましい。第1及び第2の平面は平行であることが好ましい。
【0040】
ここで、分析間隙は、間隙高さ方向、間隙幅方向及び間隙長さ方向の各方向に延在していることが好ましい。第1及び第2の分割平面電極のセグメントは間隙幅方向に分配され、間隙長さ方向に延在していることが好ましい。第1及び第2の分割平面電極は間隙高さ方向に互いに分離されていることが好ましい。間隙長さ方向は分析軸に平行であることが好ましい。
【0041】
間隙高さ方向(d
g)における分析間隙の高さを本明細書では間隙高さ、又は単に「g」と呼ぶことがある。
【0042】
間隙幅方向(d
w)における分析間隙の幅を本明細書では間隙幅、又は単に「w」と呼ぶことがある。
【0043】
間隙長さ方向(d
l)における分析間隙の長さを本明細書では間隙長さ、又は単に「l」と呼ぶことがある。
【0044】
ある実施形態ではw≧3gである。また、ある実施形態ではw≧4gである。
【0045】
第1及び第2の平面が平行である場合、間隙高さ方向は第1及び第2の平面に垂直な方向に延在していることが好ましく、間隙幅方向は第1及び第2の平面の両方に平行で分析軸に垂直な方向に延在していることが好ましく、間隙長さ方向は第1及び第2の平面の両方に平行で分析軸に平行な方向に延在していることが好ましい。従って、間隙高さ方向、間隙幅方向及び間隙長さ方向は互いに直交していることが好ましい。
【0046】
理論的にはセグメントの数はいくつでも構わないが、本装置に含まれるセグメントを好ましくは100個以下、より好ましくは50個以下、更に好ましくは20個以下、更に好ましくは5〜15個とする。少なくとも5個のセグメントがあること好ましいが、数を多くすれば収束力の値(例えば、後述するR2/R1という比でパラメータ化される値)を大きくできる。
【0047】
推進手段は、分析間隙を通って装置の分析軸に平行な方向に進むようにイオンを押し動かすためのガス流を供給するように構成されたガス供給部とすることができる。
【0048】
推進手段は、分析間隙を通って装置の分析軸に平行な方向に進むようにイオンを押し動かすための電場を供給するために、第2の方向wに、本装置の一又は複数の電極(これは例えば第1及び第2の平面電極の分割を含んでいてもよい)に電圧波形を印加するように構成された電源とすることができる。
【0049】
本発明の第2の態様は、電場非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)を行うための装置であって、
3つ以上のセグメントを含む第1の分割平面電極であって、該第1の分割平面電極のセグメントが第1の平面内に配置され且つ装置の分析軸に平行な方向に延在している、第1の分割平面電極と、
3つ以上のセグメントを含む第2の分割平面電極であって、該第2の分割平面電極のセグメントが第2の平面内に配置され且つ装置の分析軸に平行な方向に延在しており、前記第1の分割平面電極と第2の分割平面電極が互いに分離されていることで両電極間に分析間隙が設けられている、第2の分割平面電極と、
前記分析間隙を通って装置の分析軸に平行な方向に進むようにイオンを押し動かすための推進手段と、
電源と
を備えており、
前記装置が、前記推進手段により前記分析間隙を通るように押し動かされるイオンのFAIMS分析を行うために、前記分析間隙内に非対称な時間依存性電場を生成するように前記電源が一組の電圧波形群を前記第1及び第2の分割平面電極のセグメントに印加するFAIMSモードで作動するように構成され、
微分移動度の異なるイオンを異なる空間領域に向けて収束させるために、前記電圧波形群が、前記分析軸に垂直な面内で見たときに前記非対称な時間依存性電場が曲がった等電場強度線を持つように、構成され、各空間領域は前記分析軸に垂直な面内で見たときにそれぞれ曲がった等電場強度線に沿って延在しており、
前記装置は、前記非対称な時間依存性電場による収束の力を変化させるために前記等電場強度線の曲率を変えることをユーザに許可するように構成された収束制御部を備えることを特徴としている。
【0050】
このように、非対称な時間依存性電場による収束の力(収束力)をユーザが制御することで、装置により運ばれるイオンの割合と装置による分解能とのバランスをとることができる。従来技術の全ての装置と同様に、装置により運ばれるイオンの割合が高いほど分解能は低くなり、逆も然りである。
【0051】
当業者であれば、ここでの開示から、各等電場強度線が電場強度の等しい位置を結んでいること、そして異なる線は異なる電場強度を表していることが分かるだろう。
【0052】
ここで「収束の力」(収束力)とは、FAIMS分離の際に生じるイオン損失がどの程度低減又は防止されるかを表すものと理解することができる。イオン損失の原因には、1)拡散と、2)空間電荷斥力が考えられる。収束は分析間隙gの方向に作用することが好ましい。拡散は(温度が一定の場合)1/√Pで増大し、且つ移動度kに比例するため、収束はLP−FAIMSにおいて特に有益である。これは、収束力が大きいほどイオンがより狭い領域に収束されるからである。収束能力を持つ装置は収束能力のない装置よりも透過率が高くなる。収束能力が可変の装置は、FAIMS分離の分解能に関する与えられた要件に対して透過率を最適化することができる。FAIMSには高い分解能を必要としない用途もあるため、収束能力が可変であればより高い透過率を得ることができる。
【0053】
ここで「微分移動度」とは、適用される2つの異なるE/N値の間のイオンの移動度kの差と理解することができる。装置のFAIMSモードでは一般に、非対称な時間依存性波形の間に(1)非対称な時間依存性波形の高電場電圧部分にわたるE/Nの値(E
D/N)と(2)低電場電圧部分にわたるE/Nの値という2つのE/N値が存在する。DMSの場合、K(E/N)が非線形の依存性を持つようにE
D/Nの値を十分に大きくした方がよい。従って、差K(E/N)はDMSにおける選択又は分離の基準となる。
【0054】
疑念を避けるために述べておくと、FAIMSモードが装置の唯一の作動モードである必要はない。
【0055】
前記曲がった等電場強度線は、内側円筒電極の外半径がR1、外側円筒電極の内半径がR2である2つの同軸円筒電極の間の空間内に生成される電場に対応していることが好ましい。
【0056】
このような電場をここでは「円筒電場」と呼ぶこともある。このような電場は適切にスケーリングされた非対称なRF及びDC電圧を第1及び第2の分割平面電極のセグメントに印加することにより生成することができる。実施形態によっては、例えば囲まれた矩形領域を形成するために、後述のように第3及び第4の分割平面電極が存在することもある。どんな円筒電場もそれに関連付けられたR2/R1値を持つ。なお、R1とR2は電場と同等のもの作り出す電極に関連しているということ、つまり数学的にはFAIMS装置の分析間隙を用いて形成(再現)される電場と区別がつかないということを理解すべきである。明確化のために述べておくと、R2/R1という比は収束の力を直接決定する。前述した2つの同軸円筒電極の配置の場合、内側円筒電極における電場をE1、外側円筒電極における電場をE2とすると、間隙を横断する電場の変動はE1/E2=R2/R1である(ただし、分割平面FAIMS装置に関しては内側及び外側の円筒電極は仮想的なものである)。収束力に関してはR1とR2の絶対値は重要ではなく、装置の規模に影響するにすぎない。本発明はいかなる実際的な規模にも適用される。
【0057】
収束制御部は、例えばソフトウェアを介してFAIMS装置の分析間隙内での円筒電場の比R2/R1を変えることをユーザに許可するように構成されていることが好ましい。
【0058】
第1及び第2の分割平面電極は互いに分析間隙の反対側に配置されていることが好ましい。
【0059】
好ましくは、前記装置が、
2つ以上のセグメントを含む第3の分割平面電極であって、該第3の分割平面電極のセグメントが第3の平面内に配置され、装置の分析軸に平行な方向に延在している、第3の分割平面電極と、
2つ以上のセグメントを含む第4の分割平面電極であって、該第4の分割平面電極のセグメントが第4の平面内に配置され、装置の分析軸に平行な方向に延在している、第4の分割平面電極と
を更に備え、
第1及び第2の分割平面電極が互いに前記分析間隙の反対側に配置され、前記分析軸に垂直な間隙幅方向に互いに分離されており、
第3及び第4の分割平面電極が互いに前記分析間隙の反対側に配置され、前記分析軸と前記間隙幅方向に垂直な間隙高さ方向に互いに分離されている。
【0060】
第3及び第4の分割平面電極の使用は、特にw<約8gである装置において、円筒電場を作り出す簡便な方法の1つである。ただし、2つの分割平面電極だけでも、例えばそれらが十分に細長く、例えばw>8gである装置においては、円筒電場を実現することは可能である。
【0061】
第1及び第2の平面は互いに平行であってもよい。第3及び第4の平面は互いに平行であってもよい。
【0062】
好ましくは、前記装置が分析間隙内のガス圧を制御するためのガス制御部を備えており、更に任意選択で、FAIMS装置の分割平面電極が入ったチャンバを備えている。
【0063】
ガス制御部は前記ガス圧を所望の圧力に維持するように構成されていることが好ましい。
【0064】
ガス制御部は、FAIMSモードにおいて、分析間隙内のガス圧を1〜200mbarに、より好ましくは5〜100mbarに、更に好ましくは5〜50mbarにするように構成されていることが好ましい。
【0065】
前記装置が出口スリットを有する障壁を備えており、推進手段が該障壁に向けてイオンを押し動かすように該障壁が分析軸上に位置しており、該障壁が、出口スリットを通過しないイオンを装置の検出器に到達させないように構成されていてもよい。疑念を避けるために述べておくと、障壁と出口スリットは分析間隙より向こう側、つまり例えば間隙長さ方向における電極平面の範囲を超えた位置にあってもよく。更に、任意選択で(もしあれば)クランプ電極より向こう側でもよい。
【0066】
障壁は物理的な障壁とすることもできるし、電気的な障壁(例えば、当該技術で公知である、2つ以上のブラッドベリ・ニールセン・ゲートから成るもの)でもよい。
【0067】
出口スリットは(間隙高さ方向に)幅w
slitを有するものとすることができる。
【0068】
障壁は取り外しできるように構成することができる(例えば装置が透過モードで用いられる場合、例えば装置が本発明の第1の態様に従って構成される場合)。障壁が物理的な障壁である場合、それは例えば、モータ(例えばリニアモータ)等を用いて障壁を物理的に取り外しできるように構成された機構により実現できる。障壁が電気的な障壁である場合、それは例えば、オフに切り替わるように該電気的な障壁を構成することにより実現できる。
【0069】
前記装置は障壁により設けられる出口スリットの幅の調節を許すように構成することができる。障壁が物理的な障壁である場合、それは例えば、出口スリットの幅が異なる多数の交換使用可能な障壁を備える機構により実現できる。障壁が電気的な障壁である場合、それは例えば、該電気的な障壁により設けられる出口スリットの幅の調節を許すように該電気的な障壁を構成すること(例えば、2つ以上のブラッドベリ・ニールセン・ゲートにより形成された電気的な障壁に異なる電圧を供給すること)により実現できる。
【0070】
本発明の本態様において、出口スリットは、分析軸に垂直な面内で見たときに、非対称な時間依存性電場の1本の曲がった等電場強度線の曲率と一致する曲率を有していることが好ましい。
【0071】
前記装置は障壁により設けられる出口スリットの曲率の調節を許すように構成することができる。障壁が物理的な障壁である場合、それは例えば、出口スリットの曲率が異なる多数の交換使用可能な障壁を備える機構により実現できる。障壁が電気的な障壁である場合、それは例えば、該電気的な障壁により設けられる出口スリットの曲率の調節を許すように該電気的な障壁を構成すること(例えば、2つ以上のブラッドベリ・ニールセン・ゲートにより形成された電気的な障壁に異なる電圧を供給すること)により実現できる。
【0072】
前記機構は、非対称な時間依存性電場の1本の曲がった等電場強度線の曲率が収束制御部を用いて変更された後、障壁により設けられる出口スリットの曲率が分析軸に垂直な面内で見たときに前記等電場強度線の曲率と一致するように、該出口スリットの曲率の調節を許すように構成することができる。
【0073】
疑念を避けるために述べておくと、収束制御部はソフトウェア又はハードウェアに実装することができる。
【0074】
本発明の本態様の装置は本発明の第1の態様との関係で説明したいずれの特徴又はいずれの特徴の組み合わせも持つことができる。
【0075】
電源は、装置がFAIMSモードで動作しているとき、分析間隙内に非対称な時間依存性電場を生成するために、第1及び第2の分割平面電極の各セグメントに前記電圧波形群からそれぞれの電圧波形を印加するように構成されていることが好ましい。
【0076】
電源は、装置がFAIMSモードで動作しているとき、分析間隙内に非対称な時間依存性電場を生成するために、第1及び第2の分割平面電極の各セグメントに前記電圧波形群からそれぞれの電圧波形を印加するように構成された2つの電源ユニットを含むことが好ましい。
【0077】
この場合、2つの電源ユニットのうち第1のユニットが分散電圧(例えば、後でV
D/2及び−V
D/2と呼ぶ電圧)を供給するように構成され、第2のユニットが収束電圧(例えば、後でV
fp及びV
fnと呼ぶ電圧)を供給するように構成され、(例えば、特定の形状のために必要なとき)異なる電圧が異なるセグメントに印加されるように装置が一又は複数の容量分圧器を含むものとすることができる。このようにすれば必要な電圧波形を効率良く供給できる。後で
図3Aを参照しながら例を説明する。
【0078】
電源は補償電圧(compensation voltage:CV)と呼ばれる追加のDC電圧群を第1及び第2の電圧波形群と同時に全てのセグメントに印加するように構成することができる。
【0079】
補償電圧は、所定の微分移動度を有するイオンが出口スリット(例えば先に言及したもの)を通って出て行くように構成された所定の値を持つものとすることができる。
【0080】
前記装置は、例えば微分イオン移動度スペクトルを出力するために、異なる所定の微分移動度を有するイオンが異なる時点において出口スリットを通って出て行くように補償電圧を走査するように構成することができる。
【0081】
電源が第1及び第2の分割平面電極のセグメントへの前記電圧波形群の印加と同時に全てのセグメントに補償電圧を印加するように構成されている場合、補償電圧を全てのセグメントに印加することにより生成される電場が、前記電圧波形群を第1及び第2の分割平面電極のセグメントに印加することにより生成される電場と略同一の形状を有する電場となることが好ましい。
【0082】
本発明のいずれの態様においても、前記装置は、該装置の分析軸に平行な方向に分析間隙を通り抜けたイオンを検出するように構成された検出器を含むことができる。
【0083】
本発明の第3の態様は、電場非対称波形イオン移動度分光分析(FAIMS)を行うための装置であって、
3つ以上のセグメントを含む第1の分割平面電極であって、該第1の分割平面電極のセグメントが第1の平面内に配置され且つ装置の分析軸に平行な方向に延在している、第1の分割平面電極と、
3つ以上のセグメントを含む第2の分割平面電極であって、該第2の分割平面電極のセグメントが第2の平面内に配置され且つ装置の分析軸に平行な方向に延在しており、前記第1の分割平面電極と第2の分割平面電極が互いに分離されていることで両電極間に分析間隙が設けられている、第2の分割平面電極と、
前記分析間隙を通って装置の分析軸に平行な方向に進むようにイオンを押し動かすための推進手段と、
電源と
を備えており、
前記装置が、前記推進手段により前記分析間隙を通るように押し動かされるイオンのFAIMS分析を行うために、前記分析間隙内に非対称な時間依存性電場を生成するように前記電源が第1の電圧波形群を前記第1及び第2の分割平面電極のセグメントに印加するFAIMSモードで作動するように構成され、
微分移動度の異なるイオンを異なる空間領域に向けて収束させるために、前記電圧波形群が、前記分析軸に垂直な面内で見たときに前記非対称な時間依存性電場が略直線状の等電場強度線を持つように、構成され、各空間領域は前記分析軸に垂直な面内で見たときにそれぞれ略直線状の等電場強度線に沿って延在していることを特徴としている。
【0084】
この場合、本発明者らは、装置に後述のような障壁を設ければ高い透過率と高い分解能が同時に得られることを見出した。
【0085】
前記装置は、非対称な時間依存性電場による収束の力(例えば分析間隙内の所定の箇所で計算される)を変化させるために等電場強度線の勾配(例えば前記所定の箇所で計算される)を変えることをユーザに許可するように構成された収束制御部を備えることが好ましい。なお、一般に、分析間隙内のある1箇所における等電場強度線の勾配を変化させれば、分析間隙内の他の箇所においても同様に等電場強度線の勾配が変化することになる。
【0086】
この場合、装置に後述の障壁を設ければ、装置により運ばれるイオンの割合と装置による分解能とのトレードオフを必要とすることなく、非対称な時間依存性電場による収束の力(収束力)をユーザに制御させることができる。一般に、装置により運ばれるイオンの割合が高いほど分解能は低くなり、逆も然りである。
【0087】
分析間隙内の一定の箇所において、等電場強度線の勾配は間隙高さ方向における距離に対する電場の微分であると近似できる。これは、2本の等電場強度線上にある極めて近い2点における電場強度の差を間隙高さ方向におけるそれら2点間の距離で割ったものに相当する。
【0088】
前記装置が出口スリットを有する障壁を備えており、推進手段が該障壁に向けてイオンを押し動かすように該障壁が分析軸上に位置しており、該障壁が、出口スリットを通過しないイオンを装置の検出器に到達させないように構成されていてもよい。疑念を避けるために述べておくと、障壁と出口スリットは分析間隙より向こう側、つまり例えば間隙長さ方向における電極平面の範囲を超えた位置にあってもよく。更に、任意選択で(もしあれば)クランプ電極より向こう側でもよい。
【0089】
障壁は物理的な障壁とすることもできるし、電気的な障壁(例えば、当該技術で公知である、2つ以上のブラッドベリ・ニールセン・ゲートから成るもの)でもよい。
【0090】
出口スリットは(間隙高さ方向に)幅w
slitを有するものとすることができる。
【0091】
障壁は取り外しできるように構成することができる(例えば装置が透過モードで用いられる場合、例えば装置が本発明の第1の態様に従って構成される場合)。障壁が物理的な障壁である場合、それは例えば、モータ(例えばリニアモータ)等を用いて障壁を物理的に取り外しできるように構成された機構により実現できる。障壁が電気的な障壁である場合、それは例えば、オフに切り替わるように該電気的な障壁を構成することにより実現できる。
【0092】
前記装置は障壁により設けられる出口スリットの幅の調節を許すように構成することができる。障壁が物理的な障壁である場合、それは例えば、出口スリットの幅が異なる多数の交換使用可能な障壁を備える機構により実現できる。障壁が電気的な障壁である場合、それは例えば、該電気的な障壁により設けられる出口スリットの幅の調節を許すように該電気的な障壁を構成すること(例えば、2つ以上のブラッドベリ・ニールセン・ゲートにより形成された電気的な障壁に異なる電圧を供給すること)により実現できる。
【0093】
本発明の本態様において、出口スリットは直線状であって、分析軸に垂直な面内で見たときに、非対称な時間依存性電場の1本の直線状の等電場強度線と一致する方向に延在していることが好ましい。
【0094】
分析軸に垂直な平面で見たときに非対称な時間依存性電場が略直線状の等電場強度線を有し、該等電場強度線が直線状の出口スリットに対して平行に組み合わされる(straight combined with)ように構成された分割平面FAIMS装置は、従来から全てのFAIMS及びDMS装置が抱えていた分解能と透過率の間のトレードオフの問題を解消する。従って、高い透過率とともにより高い分解能を達成できる。最も高い分解能が最も高い収束力において達成できる。
【0095】
また、略直線状の等電場強度線はスリットの形状が収束力と無関係であることを意味する。
【0096】
略直線状の等電場強度線はかなりの距離(例えばw/4以上の距離)にわたって略直線状であることが好ましい。完全に直線状の等電場強度線を得ることが困難であることは当業者なら理解できるであろう。
【0097】
電源は補償電圧(compensation voltage:CV)と呼ばれる追加のDC電圧群を第1及び第2の電圧波形群と同時に全てのセグメントに印加するように構成することができる。
【0098】
補償電圧は、所定の微分移動度を有するイオンが出口スリット(例えば先に言及したもの)を通って出て行くように構成された所定の値を持つものとすることができる。
【0099】
前記装置は、例えば微分イオン移動度スペクトルを出力するために、異なる所定の微分移動度を有するイオンが異なる時点において出口スリットを通って出て行くように補償電圧を走査するように構成することができる。
【0100】
電源が第1及び第2の分割平面電極のセグメントへの前記電圧波形群の印加と同時に全てのセグメントに補償電圧を印加するように構成されている場合、補償電圧を全てのセグメントに印加することにより生成される電場が、前記電圧波形群を第1及び第2の分割平面電極のセグメントに印加することにより生成される電場と略同一の形状を有する電場となることが好ましい。
【0101】
間隙高さ方向における分析間隙の高さを本明細書では間隙高さ、又は単に「g」と呼ぶことがある。
【0102】
間隙高さに対する間隙幅の比(w/g)は2〜6の範囲内、より好ましくは3〜5の範囲内、更に好ましくは3.5〜4.5の範囲内とすることができ、特に4程度とすることができる。この限定は、装置が(他の箇所で説明した)第3及び第4の分割平面電極を含んでいる場合に好ましいが、第3及び第4の分割平面電極が装置に含まれていない場合にはこの選択は当てはまらない。
【0103】
本発明の本態様の装置は本発明の第1の態様との関係で説明したいずれの特徴又はいずれの特徴の組み合わせも持つことができる。
【0104】
本発明の本態様の装置は本発明の第2の態様との関係で説明したいずれの特徴又はいずれの特徴の組み合わせも持つことができる。
【0105】
本発明の更に別の態様は、
本発明の前記いずれかの態様に係る、FAIMSを行うための装置と、
質量分析を行うための装置と、
を含む分析装置であって、
前記質量分析を行うための装置が前記FAIMSを行うための装置の分析間隙を通過したイオンを分析するように構成されている(この場合、本分析装置を「FAIMS/MS装置」と呼ぶことができる)、又は、前記FAIMSを行うための装置が前記質量分析を行うための装置により選択されたイオンを分析するように構成されている(この場合、本分析装置を「MS/FAIMS装置」と呼ぶことができる)ことを特徴としている。
【0106】
本発明の更に別の態様は、本発明の前記いずれかの態様に係る、FAIMSを行うための装置を操作する方法を提供する。
【0107】
記載された態様及び好ましい特徴の組み合わせは、そのような組み合わせが明らかに不可能であるか明示的に回避されている場合を除き、本発明に含まれる。
【0108】
本発明の原理を説明する実施形態及び実験について添付図面を参照しながら以下に議論する。