(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0014】
この実施形態に係る印刷装置は、外部のホストコンピューターから供給された画像データに応じてインクを吐出させることによって、紙などの印刷媒体にインクドット群を形成し、これにより、当該画像データに応じた画像(文字、図形等を含む)を印刷するインクジェットプリンター、すなわち液体吐出装置である。
【0015】
図1は、印刷装置の内部の概略構成を示す斜視図である。
この図に示されるように、印刷装置1は、移動体2を、主走査方向に移動(往復動)させる移動機構3を備える。
移動機構3は、移動体2の駆動源となるキャリッジモーター31と、両端が固定されたキャリッジガイド軸32と、キャリッジガイド軸32とほぼ平行に延在し、キャリッジモーター31により駆動されるタイミングベルト33と、を有している。
移動体2のキャリッジ24は、キャリッジガイド軸32に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト33の一部に固定されている。そのため、キャリッジモーター31によりタイミングベルト33を正逆走行させると、移動体2がキャリッジガイド軸32に案内されて往復動する。
また、移動体2のうち、印刷媒体Pと対向する部分にはヘッドユニット20が設けられる。このヘッドユニット20は、後述するように、多数のノズルからインク滴(液滴)を吐出させるためのものであり、フレキシブルケーブル190を介して各種の制御信号等が供給される構成となっている。
【0016】
印刷装置1は、印刷媒体Pを、副走査方向にプラテン40上で搬送させる搬送機構4を備える。搬送機構4は、駆動源である搬送モーター41と、搬送モーター41により回転して、印刷媒体Pを副走査方向に搬送する搬送ローラー42と、を備える。
印刷媒体Pが搬送機構4によって搬送されたタイミングで、ヘッドユニット20が当該印刷媒体Pにインク滴を吐出することによって、印刷媒体Pの表面に画像が形成される。
【0017】
図2は、印刷装置の電気的な構成を示すブロック図である。
この図に示されるように、印刷装置1では、制御ユニット10とヘッドユニット20とがフレキシブルケーブル190を介して接続される。
制御ユニット10は、制御部100と、キャリッジモーター31と、キャリッジモータードライバー35と、搬送モーター41と、搬送モータードライバー45と、2つの駆動回路50−a、50−bと、を有する。このうち、制御部100は、ホストコンピューターから画像データが供給されたときに、各部を制御するための各種の制御信号等を出力する。
詳細には、第1に、制御部100は、キャリッジモータードライバー35に対して制御信号Ctr1を供給し、キャリッジモータードライバー35は、当該制御信号Ctr1にしたがってキャリッジモーター31を駆動する。これにより、キャリッジ24における主走査方向の移動が制御される。
第2に、制御部100は、搬送モータードライバー45に対して制御信号Ctr2を供給し、搬送モータードライバー45は、当該制御信号Ctr2にしたがって搬送モーター41を駆動する。これにより、搬送機構4による副走査方向の移動が制御される。
第3に、制御部100は、2つの駆動回路50−a、50−bのうち、一方の駆動回路50−aにデジタルのデータdAを供給し、他方の駆動回路50−bにデジタルのデータdBを供給する。ここで、データdAは、ヘッドユニット20に供給する駆動信号のうち、駆動信号COM−Aの波形を規定し、データdBは、駆動信号COM−Bの波形を規定する。
なお、詳細については後述するが、駆動回路50−aは、データdAをアナログ変換した後に、D級増幅した駆動信号COM−Aをヘッドユニット20に供給する。同様に、駆動回路50−bは、データdBをアナログ変換した後に、D級増幅した駆動信号COM−Bをヘッドユニット20に供給する。また、駆動回路50−a、50−bについては、入力するデータ、および、出力する駆動信号が異なるのみであり、後述するように回路的な構成は同一である。このため、駆動回路50−a、50−bについて特に区別する必要がない場合(例えば後述する
図10を説明する場合)には、「−(ハイフン)」以下を省略し、単に符号を「50」として説明する。
第4に、制御部100は、ヘッドユニット20に、クロック信号Sck、データ信号Data、制御信号LAT、CHを供給する。
【0018】
ヘッドユニット20には、選択制御部210と、選択部230および圧電素子(ピエゾ素子)60の複数組とが設けられる。
選択制御部210は、選択部230のそれぞれに対して駆動信号COM−A、COM−Bのいずれかを選択すべきか(または、いずれも非選択とすべきか)を、制御部100から供給される制御信号等によって指示し、選択部230は、選択制御部210の指示にしたがって、駆動信号COM−A、COM−Bを選択し、圧電素子60の一端にそれぞれに駆動信号として供給する。なお、図では、この駆動信号の電圧をVoutと表記している。
圧電素子60のそれぞれにおける他端は、この例では、電圧V
BSが共通に印加されている。
【0019】
圧電素子60は、ヘッドユニット20における複数のノズルのそれぞれに対応して設けられる。そして、圧電素子60は、選択部230により選択された駆動信号の電圧Voutと電圧V
BSとの差に応じて変位してインクを吐出させる。そこで次に、圧電素子60への駆動によってインクを吐出させるための構成について簡単に説明する。
【0020】
図3は、ヘッドユニット20において、ノズル1個分に対応した概略構成を示す図である。
図に示されるように、ヘッドユニット20は、圧電素子60と振動板621とキャビティ(圧力室)631とリザーバー641とノズル651とを含む。このうち、振動板621は、図において上面に設けられた圧電素子60によって変位(屈曲振動)し、インクが充填されるキャビティ631の内部容積を拡大/縮小させるダイヤフラムとして機能する。ノズル651は、ノズルプレート632に設けられるとともに、キャビティ631に連通する開孔部である。
【0021】
この図で示される圧電素子60は、圧電体601を一対の電極611、612で挟んだ構造である。この構造の圧電体601にあっては、電極611、612により印加された電圧に応じて、電極611、612、振動板621とともに図において中央部分が両端部分に対して上下方向に撓む。具体的には、圧電素子60は、駆動信号の電圧Voutが高くなると、上方向に撓む一方、電圧Voutが低くなると、下方向に撓む構成となっている。この構成において、上方向に撓めば、キャビティ631の内部容積が拡大するので、インクがリザーバー641から引き込まれる一方、下方向に撓めば、キャビティ631の内部容積が縮小するので、縮小の程度によっては、インクがノズル651から吐出される。
【0022】
なお、圧電素子60は、図示した構造に限られず、圧電素子60を変形させてインクのような液体を吐出させることができる型であれば良い。また、圧電素子60は、屈曲振動に限られず、いわゆる縦振動を用いる構成でも良い。
また、圧電素子60は、ヘッドユニット20においてキャビティ631とノズル651とに対応して設けられ、当該圧電素子60は、
図1において、選択部230にも対応して設けられる。このため、圧電素子60、キャビティ631、ノズル651および選択部230のセットは、ノズル651毎に設けられることになる。
【0023】
図4の(a)は、ノズル651の配列の一例を示す図である。
この図に示されるように、ノズル651は、例えば2列で次のように配列している。詳細には、1列分でみたとき、複数個のノズル651が副走査方向に沿ってピッチPvで配置する一方、2列同士では、主走査方向にピッチPhだけ離間して、かつ、副走査方向にピッチPvの半分だけシフトした関係となっている。
なお、ノズル651は、カラー印刷する場合には、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)などの各色に対応したパターンが例えば主走査方向に沿って設けられるが、以下の説明では、簡略化するために、単色で階調を表現する場合について説明する。
【0024】
図4の(b)は、同図の(a)に示したノズル配列による画像形成の基本解像度を説明するための図である。なお、この図は、説明を簡易化するために、ノズル651からインク滴を1回吐出させて、1つのドットを形成する方法(第1方法)の例であり、黒塗りの丸印がインク滴の着弾により形成されるドットを示している。
【0025】
ヘッドユニット20が、主走査方向に速度vで移動するとき、同図に示されるように、インク滴の着弾によって形成されるドットの(主走査方向の)間隔Dと、当該速度vとは、次のような関係にある。
すなわち、1回のインク滴の吐出で1ドットが形成される場合、ドット間隔Dは、速度vを、インクの吐出周波数fで除した値(=v/f)、換言すれば、インク滴が繰り返し吐出される周期(1/f)においてヘッドユニット20が移動する距離で示される。
なお、
図4の例では、ピッチPhがドット間隔Dに対して係数nで比例する関係にして、2列のノズル651から吐出されるインク滴が、印刷媒体Pにおいて同一列で揃うように着弾させている。このため、(b)に示されるように、副走査方向のドット間隔が、主走査方向のドット間隔の半分となっている。ドットの配列は、図示の例に限られないことは言うまでもない。
【0026】
ところで、高速印刷を実現するためには、単純には、ヘッドユニット20が主走査方向に移動する速度vを高めれば良い。ただし、単に速度vを高めるだけでは、ドットの間隔Dが長くなってしまう。このため、ある程度の解像度を確保した上で、高速印刷を実現するためには、インクの吐出周波数fを高めて、単位時間当たりに形成されるドット数を増やす必要がある。
また、印刷速度とは別に、解像度を高めるためには、単位面積当たりで形成されるドット数を増やせば良い。ただし、ドット数を増やす場合に、インクを少量にしないと、隣り合うドット同士が結合してしまうだけでなく、インクの吐出周波数fを高めないと、印刷速度が低下する。
このように、高速印刷および高解像度印刷を実現するためには、インクの吐出周波数fを高める必要があるのは、上述した通りである。
【0027】
一方、印刷媒体Pにドットを形成する方法としては、インク滴を1回吐出させて、1つのドットを形成する方法のほかに、単位期間にインク滴を2回以上吐出可能として、単位期間において吐出された1以上のインク滴を着弾させ、当該着弾した1以上のインク滴を結合させることで、1つのドットを形成する方法(第2方法)や、これら2以上のインク滴を結合させることなく、2以上のドットを形成する方法(第3方法)がある。以降の説明では、ドットを上記第2方法によって形成する場合について説明する。
【0028】
本実施形態では、第2方法について、次のような例を想定して説明する。すなわち、本実施形態において、1つのドットについては、インクを最多で2回吐出させることで、大ドット、中ドット、小ドットおよび非記録の4階調を表現させる。この4階調を表現するために、本実施形態では、2種類の駆動信号COM−A、COM−Bを用意して、それぞれにおいて、1周期に前半パターンと後半パターンとを持たせている。1周期のうち、前半・後半において駆動信号COM−A、COM−Bを、表現すべき階調に応じた選択して(または選択しないで)、圧電素子60に供給する構成となっている。
そこで、駆動信号COM−A、COM−Bについて説明し、この後、駆動信号COM−A、COM−Bを選択するための構成について説明する。なお、駆動信号COM−A、COM−Bについては、それぞれ駆動回路50によって生成されるが、駆動回路50については、便宜的に、駆動信号COM−A、COM−Bを選択するための構成の後に説明する。
【0029】
図5は、駆動信号COM−A、COM−Bの波形等を示す図である。
図に示されるように、駆動信号COM−Aは、印刷周期Taのうち、制御信号LATが出力されて(立ち上がって)から制御信号CHが出力されるまでの期間T1に配置された台形波形Adp1と、印刷周期Taのうち、制御信号CHが出力されてから次の制御信号LATが出力されるまでの期間T2に配置された台形波形Adp2とを連続させた波形となっている。
【0030】
本実施形態において台形波形Adp1、Adp2とは、互いにほぼ同一の波形であり、仮にそれぞれが圧電素子60の一端に供給されたとしたならば、当該圧電素子60に対応するノズル651から所定量、具体的には中程度の量のインクをそれぞれ吐出させる波形である。
【0031】
駆動信号COM−Bは、期間T1に配置された台形波形Bdp1と、期間T2に配置された台形波形Bdp2とを連続させた波形となっている。本実施形態において台形波形Bdp1、Bdp2とは、互いに異なる波形である。このうち、台形波形Bdp1は、ノズル651の開孔部付近のインクを微振動させてインクの粘度の増大を防止するための波形である。このため、仮に台形波形Bdp1が圧電素子60の一端に供給されたとしても、当該圧電素子60に対応するノズル651からインク滴が吐出されない。また、台形波形Bdp2は、台形波形Adp1(Adp2)とは異なる波形となっている。仮に台形波形Bdp2が圧電素子60の一端に供給されたとしたならば、当該圧電素子60に対応するノズル651から上記所定量よりも少ない量のインクを吐出させる波形である。
【0032】
なお、台形波形Adp1、Adp2、Bdp1、Bdp2の開始タイミングでの電圧と、終了タイミングでの電圧とは、いずれも電圧Vcで共通である。すなわち、台形波形Adp1、Adp2、Bdp1、Bdp2は、それぞれ電圧Vcで開始し、電圧Vcで終了する波形となっている。
【0033】
図6は、
図2における選択制御部210の構成を示す図である。
この図に示されるように、選択制御部210には、クロック信号Sck、データ信号Data、制御信号LAT、CHが制御ユニット10から供給される。選択制御部210では、シフトレジスタ(S/R)212とラッチ回路214とデコーダー216との組が、圧電素子60(ノズル651)のそれぞれに対応して設けられている。
【0034】
データ信号Dataは、画像の1ドットを形成するにあたって、当該ドットのサイズを規定する。本実施形態では、非記録、小ドット、中ドットおよび大ドットの4階調を表現するために、データ信号Dataは、上位ビット(MSB)および下位ビット(LSB)の2ビットで構成される。
データ信号Dataは、クロック信号Sckに同期してノズルごとに、ヘッドユニット20の主走査に合わせて制御部100からシリアルで供給される。シリアルで供給されたデータ信号Dataを、ノズルに対応して2ビット分、一旦保持するための構成がシフトレジスタ212である。
詳細には、圧電素子60(ノズル)に対応した段数のシフトレジスタ212が互いに縦続接続されるとともに、シリアルで供給されたデータ信号Dataが、クロック信号Sckにしたがって順次後段に転送される構成となっている。
なお、圧電素子60の個数をm(mは複数)としたときに、シフトレジスタ212を区別するために、データ信号Dataが供給される上流側から順番に1段、2段、…、m段と表記している。
【0035】
ラッチ回路214は、シフトレジスタ212で保持されたデータ信号Dataを制御信号LATの立ち上がりでラッチする。
デコーダー216は、ラッチ回路214によってラッチされた2ビットのデータ信号Dataをデコードして、制御信号LATと制御信号CHとで規定される期間T1、T2ごとに、選択信号Sa、Sbを出力して、選択部230での選択を規定する。
【0036】
図7は、デコーダー216におけるデコード内容を示す図である。
この図において、ラッチされた2ビットの印刷データDataについては(MSB、LSB)と表記している。デコーダー216は、例えばラッチされた印刷データDataが(0、1)であれば、選択信号Sa、Sbの論理レベルを、期間T1ではそれぞれH、Lレベルとし、期間T2ではそれぞれL、Hレベルとして、出力するということを意味している。
なお、選択信号Sa、Sbの論理レベルについては、クロック信号Sck、印刷データData、制御信号LAT、CHの論理レベルよりも、レベルシフター(図示省略)によって、高振幅論理にレベルシフトされる。
【0037】
図8は、
図2における圧電素子60(ノズル651)の1個分に対応する選択部230の構成を示す図である。
この図に示されるように、選択部230は、インバーター(NOT回路)232a、232bと、トランスファーゲート234a、234bとを有する。
デコーダー216からの選択信号Saは、トランスファーゲート234aにおいて丸印が付されていない正制御端に供給される一方で、インバーター232aによって論理反転されて、トランスファーゲート234aにおいて丸印が付された負制御端に供給される。同様に、選択信号Sbは、トランスファーゲート234bの正制御端に供給される一方で、インバーター232bによって論理反転されて、トランスファーゲート234bの負制御端に供給される。
トランスファーゲート234aの入力端には、駆動信号COM−Aが供給され、トランスファーゲート234bの入力端には、駆動信号COM−Bが供給される。トランスファーゲート234a、234bの出力端同士は、共通接続されるとともに、対応する圧電素子60の一端に接続される。
トランスファーゲート234aは、選択信号SaがHレベルであれば、入力端および出力端の間を導通(オン)させ、選択信号SaがLレベルであれば、入力端と出力端との間を非導通(オフ)させる。トランスファーゲート234bについても同様に選択信号Sbに応じて、入力端および出力端の間をオンオフさせる。
【0038】
次に、選択制御部210と選択部230との動作について
図5を参照して説明する。
【0039】
データ信号Dataが、制御部100からノズル毎に、クロック信号Sckに同期してシリアルで供給されて、ノズルに対応するシフトレジスタ212において順次転送される。そして、制御部100がクロック信号Sckの供給を停止させると、シフトレジスタ212のそれぞれには、ノズルに対応したデータ信号Dataが保持された状態になる。なお、データ信号Dataは、シフトレジスタ222における最終m段、…、2段、1段のノズルに対応した順番で供給される。
ここで、制御信号LATが立ち上がると、ラッチ回路214のそれぞれは、シフトレジスタ212に保持されたデータ信号Dataを一斉にラッチする。
図5において、L1、L2、…、Lmは、データ信号Dataが、1段、2段、…、m段のシフトレジスタ212に対応するラッチ回路214によってラッチされたデータ信号Dataを示している。
【0040】
デコーダー216は、ラッチされたデータ信号Dataで規定されるドットのサイズに応じて、期間T1、T2のそれぞれにおいて、選択信号Sa、Saの論理レベルを
図7に示されるような内容で出力する。
すなわち、第1に、デコーダー216は、当該データ信号Dataが(1、1)であって、大ドットのサイズを規定する場合、選択信号Sa、Sbを、期間T1においてH、Lレベルとし、期間T2においてもH、Lレベルとする。第2に、デコーダー216は、当該データ信号Dataが(0、1)であって、中ドットのサイズを規定する場合、選択信号Sa、Sbを、期間T1においてH、Lレベルとし、期間T2においてL、Hレベルとする。第3に、デコーダー216は、当該データ信号Dataが(1、0)であって、小ドットのサイズを規定する場合、選択信号Sa、Sbを、期間T1においてL、Lレベルとし、期間T2においてL、Hレベルとする。第4に、デコーダー216は、当該データ信号Dataが(0、0)であって、非記録を規定する場合、選択信号Sa、Sbを、期間T1においてL、Hレベルとし、期間T2においてL、Lレベルとする。
【0041】
図9は、データ信号Dataに応じて選択されて、圧電素子60の一端に供給される駆動信号の電圧波形を示す図である。
データ信号Dataが(1、1)であるとき、選択信号Sa、Sbは、期間T1においてH、Lレベルとなるので、トランスファーゲート234aがオンし、トランスファーゲート234bがオフする。このため、期間T1において駆動信号COM−Aの台形波形Adp1が選択される。選択信号Sa、Sbは期間T2においてもH、Lレベルとなるので、選択部230は、駆動信号COM−Aの台形波形Adp2を選択する。
このように期間T1において台形波形Adp1が選択され、期間T2において台形波形Adp2が選択されて、駆動信号として圧電素子60の一端に供給されると、当該圧電素子60に対応したノズル651から、中程度の量のインクが2回にわけて吐出される。このため、印刷媒体Pにはそれぞれのインクが着弾し合体して、結果的に、データ信号Dataで規定される通りの大ドットが形成されることになる。
【0042】
データ信号Dataが(0、1)であるとき、選択信号Sa、Sbは、期間T1においてH、Lレベルとなるので、トランスファーゲート234aがオンし、トランスファーゲート234bはオフする。このため、期間T1において駆動信号COM−Aの台形波形Adp1が選択される。次に、選択信号Sa、Sbは期間T2においてL、Hレベルとなるので、駆動信号COM−Bの台形波形Bdp2が選択される。
したがって、ノズルから、中程度および小程度の量のインクが2回にわけて吐出される。このため、印刷媒体Pには、それぞれのインクが着弾して合体して、結果的に、データ信号Dataで規定された通りの中ドットが形成されることになる。
【0043】
データ信号Dataが(1、0)であるとき、選択信号Sa、Sbは、期間T1においてともにLレベルとなるので、トランスファーゲート234a、234bがオフする。このため、期間T1において台形波形Adp1、Bdp1のいずれも選択されない。トランスファーゲート234a、234bがともにオフする場合、当該トランスファーゲート234a、234bの出力端同士の接続点から圧電素子60の一端までの経路は、電気的にどの部分にも接続されないハイ・インピーダンス状態になる。ただし、圧電素子60は、自己が有する容量性によって、トランスファーゲートがオフする直前の電圧(Vc−V
BS)を保持する。
【0044】
次に、選択信号Sa、Sbは期間T2においてL、Hレベルとなるので、駆動信号COM−Bの台形波形Bdp2が選択される。このため、ノズル651から、期間T2においてのみ小程度の量のインクが吐出されるので、印刷媒体Pには、データ信号Dataで規定された通りの小ドットが形成されることになる。
【0045】
データ信号Dataが(0、0)であるとき、選択信号Sa、Sbは、期間T1においてL、Hレベルとなるので、トランスファーゲート234aがオフし、トランスファーゲート234bがオンする。このため、期間T1において駆動信号COM−Bの台形波形Bdp1が選択される。次に、選択信号Sa、Sbは期間T2においてともにLレベルとなるので、台形波形Adp2、Bdp2のいずれも選択されない。
このため、期間T1においてノズル651の開孔部付近のインクが微振動するのみであり、インクは吐出されないので、結果的に、ドットが形成されない、すなわち、データ信号Dataで規定された通りの非記録になる。
【0046】
このように、選択部230は、選択制御部210による指示にしたがって駆動信号COM−A、COM−Bを選択し(または選択しないで)、圧電素子60の一端に供給する。このため、各圧電素子60は、データ信号Dataで規定されるドットのサイズに応じて駆動されることになる。
なお、
図5に示した駆動信号COM−A、COM−Bはあくまでも一例である。実際には、ヘッドユニット20の移動速度や印刷媒体Pの性質などに応じて、予め用意された様々な波形の組み合わせが用いられる。
また、ここでは、圧電素子60が、電圧の上昇に伴って上方向に撓む例で説明したが、電極611、612に供給する電圧を逆転させると、圧電素子60は、電圧の上昇に伴って下方向に撓むことになる。このため、圧電素子60が、電圧の上昇に伴って下方向に撓む構成では、図に例示した駆動信号COM−A、COM−Bが、電圧Vcを基準に反転した波形となる。
【0047】
このように本実施形態において、印刷媒体Pに対して1ドットは単位期間である周期Taを単位として形成される。このため、周期Taにおいて(最多で)2回のインク滴の吐出により1ドットを形成する本実施形態では、インクの吐出周波数fは2/Taとなり、ドット間隔Dは、ヘッドユニットの移動速度vを、インクの吐出周波数f(=2/Ta)で除した値となる。
一般に、単位期間Tにおいてインク滴がQ(Qは2以上の整数)回吐出可能であって、当該Q回のインク滴の吐出で1ドットが形成される場合、インクの吐出周波数fはQ/Tと表すことができる。
本実施形態のように、印刷媒体Pに異なるサイズのドットを形成する場合の方が、1回のインク滴の吐出で1ドットを形成する場合と比較して、1ドットを形成するために要する時間(周期)が同じでも、1回のインク滴を1回吐出するため時間を短くする必要がある。
なお、2以上のインク滴を結合させないで2以上のドットを形成する第3方法については、特段の説明は要しないであろう。
【0048】
続いて、駆動回路50−a、50−bについて説明する。このうち、一方の駆動回路50−aについて概略すると、次のようにして駆動信号COM−Aを生成する。すなわち、駆動回路50−aは、第1に、制御部100から供給されるデータdAをアナログ変換し、第2に、出力の駆動信号COM−Aを帰還するとともに、当該駆動信号COM−Aに基づく信号(減衰信号)と目標信号との偏差を、当該駆動信号COM−Aの高周波成分で補正して、当該補正した信号にしたがって変調信号を生成し、第3に、当該変調信号にしたがってトランジスターをスイッチングすることによって増幅変調信号を生成し、第4に、当該増幅変調信号をローパスフィルターで平滑化(復調)して、当該平滑化した信号を駆動信号COM−Aとして出力する。
他方の駆動回路50−bについても同様な構成であり、データdBから駆動信号COM−Bを出力する点についてのみ異なる。そこで以下の
図10においては、駆動回路50−a、50−bについて区別しないで、駆動回路50として説明する。
ただし、入力されるデータや出力される駆動信号については、dA(dB)、COM−A(COM−B)などと表記して、駆動回路50−aの場合には、データdAを入力して駆動信号COM−Aを出力し、駆動回路50−bの場合には、データdBを入力して駆動信号COM−Bを出力する、ということを表すことにする。
【0049】
図10は、駆動回路50の回路構成を示す図である。
この図に示されるように、駆動回路50は、LSI500や、Nチャネル型のトランジスターM1、M2のほか、抵抗やコンデンサーなどの各種素子から構成される。
【0050】
LSI(Large Scale Integration)500は、制御部100からピンD0〜D9を介して入力した10ビットのデータdA(dB)に基づいて、例えばNチャンネル型のFET(Field Effect Transistor)のトランジスターM1、M2のそれぞれにゲート信号を出力するものである。このようなゲート信号を出力するため、LSI500は、DAC(Digital to Analog Converter)502と、加算器504、510と、減衰器508、遅延器512と、コンパレーター520と、ゲートドライバー530と、を含む。
【0051】
DAC502は、駆動信号COM−A(COM−B)の波形を規定するデータdA(dB)を、アナログ信号Aaに変換し、加算器504の入力端(+)に供給する。なお、このアナログ信号Aaの電圧振幅は、例えば0〜2ボルト程度であり、この電圧を約20倍に増幅したものが、駆動信号COM−A(COM−B)となる。つまり、アナログ信号Aaは、駆動信号COM−Aの増幅前の目標となる信号である。
加算器504の入力端(−)には、ピンVfbを介して入力した端子Outの電圧、すなわち、駆動信号COM−A(COM−B)が供給される。
加算器504は、入力端(−)の電圧を積分・減衰した上で、入力端(+)の電圧と演算する。詳細には、加算器504は、入力端(+)の電圧から、入力端(−)の積分・減衰電圧を差し引いた偏差を求め、当該偏差を示す信号Abを加算器510の入力端の一方に供給する。
なお、DAC502からコンパレーター520までに至る回路の電源電圧は、低振幅の3.3ボルトである。アナログ信号Aaの電圧が最大でも2ボルト程度であるのに対し、駆動信号COM−Aの電圧が最大で40ボルトを超える場合があるので、偏差を求めるにあたって両電圧の振幅範囲を合わせるため、駆動信号COM−A(COM−B)の電圧を減衰させている。
【0052】
減衰器508は、ピンIfbを介して入力した駆動信号COM−A(COM−B)の高周波成分を減衰して、加算器510の入力端の他方に供給する。減衰器508による減衰は、加算器504における入力端(−)と同様に、駆動信号COM−A(COM−B)を帰還するにあたって、電圧振幅を合わせるためである。加算器510は、入力端の一方における電圧と他方における電圧とを加算した電圧の信号Asを、遅延器512に供給する。
加算器510から出力される信号Asの電圧は、目標を示すアナログ信号Aaの電圧からピンVfbに供給された信号の減衰電圧を差し引いた偏差に、ピンIfbに供給された信号の減衰電圧を加算した電圧である。このため、加算器510による信号Asの電圧は、目標であるアナログ信号Aaの電圧から、出力である駆動信号COM−A(COM−B)の減衰電圧を指し引いた偏差を、当該駆動信号COM−A(COM−B)の高周波成分で補正した信号ということができる。
遅延器512は、信号Asを後述する時間だけ遅延させた信号Adを、コンパレーター520に供給する。
【0053】
コンパレーター520は、遅延器512によって遅延させた信号Adに基づいて、次のようにパルス変調した変調信号Msを出力する。詳細には、コンパレーター520は、信号Adが電圧上昇時であれば、電圧閾値Vth1以上になったときにHレベルとなり、信号Adが電圧下降時であれば、電圧閾値Vth2を下回ったときにLレベルとなる変調信号Msを出力する。なお、後述するように、電圧閾値は、
Vth1>Vth2
という関係に設定されている。
【0054】
コンパレーター520による変調信号Msは、ゲートドライバー530に供給される。ゲートドライバー530は、変調信号Msを高論理振幅に変換して、トランジスターM1のゲート電極にピンHdrおよび抵抗R1を介して供給する一方、変調信号Msの論理レベルを反転した信号を高論理振幅に変換して、トランジスターM2のゲート電極にピンLdrおよび抵抗R2を介して供給する。
【0055】
このため、トランジスターM1、M2のゲート電極に供給されるゲート信号の論理レベルは互いに排他的な関係となる。
なお、ゲートドライバー530が出力する2つのゲート信号の論理レベルは、実際には、同時にHレベルとはならないように(すなわち、Nチャネル型のトランジスターM1、M2が同時にオンしないように)、タイミング制御しても良い。このため、ここでいう排他的とは、厳密にいえば、同時にHレベルになることがない(トランジスターM1、M2でいえば、同時にオンすることがない)、という意味である。
【0056】
ところで、ここでいう変調信号は、狭義には変調信号Msであるが、信号Aaに応じてパルス変調して、トランジスターM1、M2を駆動する信号である、と考えれば、トランジスターM1へのゲート信号や、トランジスターM2へのゲート信号も変調信号に含まれる。すなわち、信号Aaに応じてパルス変調した変調信号には、変調信号Msのみならず、当該変調信号Msの論理レベルを反転させたものや、タイミング制御されたものが含まれる。
【0057】
なお、コンパレーター520が変調信号Msを出力するので、当該コンパレーター520に致るまでの回路、すなわち、DAC502と、加算器504、510と、減衰器508と、遅延器512と、コンパレーター520とが変調信号Msを生成する変調回路ということができる。
また、
図10に示した構成では、デジタルのデータdA(dB)をDAC502によってアナログの信号Aaに変換したが、DAC502を介することなく、例えば制御部100による指示にしたがって外部回路から信号Aaの供給を受けても良い。デジタルのデータdA(dB)にしても、アナログの信号Aaにしても、駆動信号COM−A(COM−B)の波形を生成するにあたっての目標値を規定しているので、源信号であることには変わりはない。
【0058】
トランジスターM1、M2のうち、高位側のトランジスターM1(ハイサイドトランジスター)において、ドレイン電極には、電圧Vh(例えば42ボルト)が印加される。低位側のトランジスターM2(ローサイドトランジスター)については、ソース電極が、グラウンドに接地されている。
トランジスターM1、M2のそれぞれは、この例ではNチャンネル型としているので、ゲート信号がHレベルであればオンする。このため、トランジスターM1のソース電極とトランジスターM2のドレイン電極との接続点Sd、すなわちインダクターL1の一端では、変調信号Msを増幅した変調増幅信号が現れることになる。このため、トランジスター対としてのトランジスターM1、M2が、変調信号Msを増幅した変調増幅信号を出力することになる。
【0059】
インダクターL1の他端は、この駆動回路50で出力となる端子Outであり、当該端子Outから駆動信号COM−A(COM−B)が、ヘッドユニット20に、フレキシブルケーブル190(
図1および
図2参照)を介して供給される。
【0060】
また、端子Outは、コンデンサーC1の一端と、コンデンサーC7の一端と、抵抗R4の一端とに、にそれぞれ接続されている。このうち、コンデンサーC1の他端は、グラウンドに接地されている。このため、インダクターL1とコンデンサーC1とは、トランジスターM1、M2の接続点に現れる増幅変調信号を平滑化するLPF(Low Pass Filter)550として機能する。
【0061】
抵抗R4の他端は、ピンVfbおよび抵抗R23の一端に接続され、当該抵抗R23の他端には電圧Vhが印加される。これにより、ピンVfbには、端子Outからの駆動信号COM−A(COM−B)がプルアップされて帰還されることになる。
抵抗R4、R23は、LSI500に対して外付けとなっているが、LSI500に内蔵された構成であっても良い。
【0062】
コンデンサーC7の他端は、抵抗R18の一端と抵抗R10の一端とに接続される。このうち、抵抗R18の他端はグラウンドに接地される。このため、コンデンサーC7と抵抗R18とは、端子Outからの駆動信号COM−A(COM−B)のうち、カットオフ周波数以上の高周波成分を通過させるHPF(High Pass Filter)として機能する。なお、HPFのカットオフ周波数は、例えば約9MHzに設定される。
【0063】
また、抵抗R10の他端は、コンデンサーC5の一端とコンデンサーC8の一端とに接続される。このうち、コンデンサーC8の他端はグラウンドに接地される。このため、抵抗R10とコンデンサーC8とは、上記HPFを通過した信号成分のうち、カットオフ周波数以下の低周波成分を通過させるLPFとして機能する。なお、LPFのカットオフ周波数は、例えば約160MHzに設定される。
上記HPFのカットオフ周波数は、上記LPFのカットオフ周波数よりも低く設定されるので、HPFとLPFとは、駆動信号COM−A(COM−B)のうち、所定の周波数域の周波数成分を通過させるBPF(Band Pass Filter)560として機能する。
【0064】
コンデンサーC5の他端は、LSI500のピンIfbに接続される。これにより、ピンIfbには、上記BPFを通過した駆動信号COM−A(COM−B)の高周波数成分のうち、直流成分がカットされて帰還されることになる。
【0065】
なお、この駆動回路50では、帰還経路として、ピンVfbを介した経路とピンIfbを介した経路との2経路を有する。このうち、自励発振の周波数を規定する経路として支配的となるのは、ピンIfbを介した経路である。このため、帰還回路という場合、ピンIfbを介する経路に関与する回路を意味し、具体的には、LPF550、BPF560をいう。
【0066】
端子Outから出力される駆動信号COM−A(COM−B)は、トランジスターM1、M2の接続点Sdにおける増幅変調信号を、LPF550によって平滑化した信号である。この駆動信号COM−A(COM−B)は、ピンVfbを介して、加算器504に帰還されて、目標である信号Aaとの偏差である信号Abとして出力される。
ここで説明の便宜上、ピンIfbを介した帰還と、遅延器512による遅延とを除外した構成を想定したとき、駆動信号COM−A(COM−B)は、ピンVfbを介して積分・減衰された上で、加算器504に帰還されるので、変調信号Msは、当該帰還経路、すなわちLPF550と加算器504とを経由する経路の伝達関数で定まる周波数で自励発振することになる。
ただし、ピンVfbを介した帰還経路の遅延量が大であるために、当該ピンVfbを介した帰還のみでは、自励発振の周波数を、駆動信号COM−A(COM−B)の波形精度を十分に確保できるほど高くすることができない。
【0067】
そこで、本実施形態では、ピンVfbを介した経路とは別に、ピンIfbを介して、駆動信号COM−A(COM−B)の高周波成分を帰還する経路を設けることによって、回路全体でみたときの遅延を小さくしている。このため、信号Abに、駆動信号COM−A(COM−B)の高周波成分を加算した信号Asの周波数は、ピンIfbを介した経路が存在しない場合と比較して高くなり(すなわち、自励発振の周波数が高くなり)、駆動信号COM−A(COM−B)においてリプル成分を少なくして、波形の精度を高めている。
なお、遅延器512における遅延量については後述する。
【0068】
図11は、アナログ信号Aaの波形に対して、信号Asと変調信号Msとの理想的な関係を示す図である。
この図に示されるように、信号Asは三角波であり、その発振周波数は、アナログ信号Aaの電圧(入力電圧)に応じて変動する。具体的には、入力電圧が中間値である場合に最も高くなり、入力電圧が中間値から高くなるにつれて、または、低くなるにつれて、低くなる。なお、信号As(Ad)が自励発振信号である。
【0069】
また、信号Asにおいて三角波の傾斜は、入力電圧が中間値付近であれば、上り(電圧の上昇)と下り(電圧の下降)とでほぼ等しくなる。このため、信号Asをコンパレーター520によって電圧閾値Vth1、Vth2と比較した結果である変調信号Msのデューティー比は、ほぼ50%となる。入力電圧が中間値から高くなると、信号Asの下りの傾斜が緩くなる。このため、変調信号MsがHレベルとなる期間が相対的に長くなって、デューティー比が大きくなる。一方、入力電圧が中間値から低くなるにつれて、信号Asの上りの傾斜が緩くなる。このため、変調信号MsがLレベルとなる期間が相対的に短くなって、デューティー比が小さくなる。
このため、変調信号Msは、次のようなパルス密度変調信号となる。すなわち、変調信号Msのデューティー比は、入力電圧の中間値でほぼ50%であり、入力電圧が中間値よりも高くなるにつれて大きくなり、入力電圧が中間値よりも低くなるにつれて小さくなる。
【0070】
ゲートドライバー530は、上述したように変調信号Msに基づいてトランジスターM1、M2をオン/オフさせる。すなわち、ゲートドライバー530は、変調信号MsがHレベルであれば、トランジスターM1をオンさせるとともに、トランジスターM2をオフさせる一方、変調信号MsがLレベルであれば、トランジスターM1をオフさせるとともに、トランジスターM2をオンさせる。
したがって、トランジスターM1、M2の接続点Sdにおける増幅変調信号を、インダクターL1およびコンデンサーC1で平滑化した駆動信号COM−A(COM−B)の電圧は、変調信号Msのデューティー比が大きくなるにつれて高くなり、デューティー比が小さくなるにつれて低くなるので、結果的に、駆動信号COM−A(COM−B)は、アナログ信号Aaの電圧を拡大した信号となるように制御されて、出力されることになる。
【0071】
この駆動回路50は、パルス密度変調を用いているので、変調周波数が固定のパルス幅変調と比較して、デューティー比の変化幅を大きく取れる、という利点がある。
すなわち、回路全体で扱うことができる最小の正パルス幅と負パルス幅はその回路特性で制約されるので、周波数固定のパルス幅変調では、デューティー比の変化幅として所定の範囲(例えば10%から90%までの範囲)しか確保できない。これに対し、パルス密度変調では、入力電圧が中間値から離れるにつれて、発振周波数が低くなるため、入力電圧が高い領域においては、デューティー比をより大きくすることができ、また、入力電圧が低い領域においては、デューティー比をより小さくすることができる。このため、自励発振型パルス密度変調では、デューティー比の変化幅として、より広い範囲(例えば5%から95%までの範囲)を確保することができるのである。
【0072】
また、駆動回路50は、自励発振であり、他励発振のように高い周波数の搬送波を生成する回路が不要である。このため、高電圧を扱う回路以外の、すなわちLSI500が担う機能の、集積化が容易である、という利点がある。
【0073】
しかしながら、実際の駆動回路50では、自励発振の安定性が悪い、という問題が指摘されている。
【0074】
図12は、自励発振の周波数安定性を説明するための図である。ここで、(a)は、DAC502の入力値に対する自励発振の周波数特性の一例を示す図であり、(b)は、当該入力値に対する自励発振の周波数分散(ばらつき)特性の一例を示す図である。なお、図においてDAC502の入力値は、10ビットのデータdA(dB)を十進値で表記している。
【0075】
図11で説明したように、自励発振の周波数は、信号Aaの電圧が中間値、すなわちデータdA(dB)の入力値が十進表記で「500」付近で最も高くなり、入力電圧が中間値から離れるにつれて、低くなるのが理想的である。しかしながら、実際には、
図12の(a)に示されるように、中間値を含む範囲で自励発振の周波数が落ち込む現象がみられる。
また、周波数が落ち込む境界付近では、同図の(b)に示されるように、周波数分散もピークとなる。すなわち、この付近で自励発振の周波数がばらつき、安定性に欠ける、ということになる。
そこで次に、自励発振の周波数が安定しない理由について検討する。
【0076】
図13は、変調信号Msの位相と、当該変調信号Msに基づきトランジスターM1、M2を駆動して生成した変調増幅信号を、LPF550、BPF560を介して帰還させた信号Adの位相と、差(位相差)の特性を示す図である。なお、ここでは説明のために、遅延器512における遅延量をゼロとしている。
この図の破線丸印で示されるように、自励発振の周波数が6〜8MHz付近で、位相差が極小点となる。さらに、この極小点における位相差は、1周期遅れとなる−360度付近の値となっている。
この特性から言えることは、位相差が−360度付近となる周波数が2つ近接している、ということ、詳細には、自励発振の周波数が6〜8MHz付近においては、位相差が極小点に対して低周波数側の(a)側、または、高周波数側の(b)側のどちらかに転んで、2状態のいずれかに定まりにくい、ということである。
【0077】
したがって、自励発振の周波数を安定させるには、自励発振で用いる周波数領域に、位相差が−360度付近となる周波数が2つ近接しないようにすれば良いことになる。
【0078】
図14は、LPF550の等価回路を示す図である。
LPF550を構成するインダクターL1には、本来のインダクタンスLrのみならず、電極や巻線などにおける抵抗R51や、巻線同士で形成されるなどにおけるキャパシタンスC51が寄生する。LPF550を構成するコンデンサーC1においても、本来のキャパシタンスCrのみならず、電極等における抵抗R52や、インダクタンスL52が寄生する。
【0079】
図15は、実際のインダクターL1のインピーダンス特性を示す図である。
インダクターL1のインピーダンスZは、周波数が高くなるにつれて、大きくなるが、ある周波数findにおいて、本来のインダクタンスLrとキャパシタンスC51とが共振現象を発生させる。さらに、周波数が高くなると、キャパシタンスC51が支配的となり、インピーダンスZが低くなる。
なお、このようなインピーダンスZの特性において、変極(極大)点となる周波数findを、インダクター自己共振周波数と呼ぶ。自己共振周波数findよりも高い周波数では、インダクターがインダクターとして機能しない。
【0080】
図16は、実際のコンデンサーC1のインピーダンス特性を示す図である。
コンデンサーC1のインピーダンスZは、周波数が高くなるにつれて、低くくなるが、ある周波数fcapにおいて、本来のキャパシタンスCrとインダクタンスL52とが共振現象を発生させる。さらに、周波数が高くなると、インダクタンスL52が支配的となり、インピーダンスZが高くなる。
このようなインピーダンスZの特性において、変極(極小)点となる周波数fcapを、コンデンサーの自己共振周波数と呼ぶ。なお、自己共振周波数fcapよりも高い周波数では、コンデンサーがコンデンサーとして機能しない。
【0081】
ここで留意すべきは、次の点にある。すなわち、
図13における極小点の周波数は、
図15におけるインダクターL1の自己共振周波数findの影響をほとんど受けず、
図16におけるコンデンサーC1の自己共振周波数fcapとほぼ一致している点である。すなわち、
図13において、位相差特性の極小点の周波数、すなわち自励発振が不安定となりやすい周波数を決定している要素の1つは、コンデンサーC1の自己共振周波数fcapであり、インダクターL1の自己共振周波数flは、自励発振の周波数fmにほとんど影響を与えない、という点である。したがって、コンデンサーC1の自己共振周波数fcapを、自励発振の周波数fm(の最高値)よりも高くすること、すなわち、
fcap>fm …(1)、
にすると、自励発振の周波数が安定化しやすい。
【0082】
なお、自励発振の周波数fmが自己共振周波数fcapに近接すると、自励発振が不安となる場合があるので、
fcap≧1.5fm …(2)、
すなわち、コンデンサーC1の自己共振周波数fcapを、自励発振の周波数fmの1.5倍以上高くすることが望ましい。
【0083】
コンデンサーC1のキャパシタンスCrを上げたとき、当該コンデンサーC1のインピーダンス特性は、
図17に示されるようなものとなって、自己共振周波数fcapが低下する。逆にいえば、コンデンサーC1の自己共振周波数fcapを高くするには、キャパシタンスCrを下げることが効果的である、といえる。
【0084】
また、一般に、コンデンサーのキャパシタンスを小さくすると、素子全体が電極等を含めて小型になるので、寄生インダクタンスが小さくなることが期待できる。ただし、そのままでは、所定のキャパシタンスを確保できない。そこで例えば、
図18に示されるように、所定値のキャパシタンスを有するコンデンサー素子を2つ並列接続して、この合成容量をコンデンサーC1として使用する構成が好ましい。
このような並列接続した構成によれば、寄生インダクタンスが小さくなることによって、コンデンサーC1でみたときの自己共振周波数を高くすることができる。なお、並列接続するコンデンサーの素子数は「2」に限られず、「3」以上であっても良い。
【0085】
さて、本実施形態では、上述したように、ピンVfbを介した経路とは別に、ピンIfbを介して駆動信号COM−A(COM−B)の高周波成分を帰還する経路によって、回路全体でみたときの遅延を小さくして、自励発振の周波数を高めている。逆にいえば、このときの遅延量を適切に設定することにより、上記不等式(1)または(2)の条件を充足して、自励発振の安定性を高めることができる。
【0086】
ここで、駆動信号COM−A(COM−B)の高周波成分を帰還する経路とは、
図10において、接続点Sd→LPF550→BPF560→減衰器508→加算器510→遅延器512→コンパレーター520→ゲートドライバー530→抵抗R1、R2→トランジスターM1、M2→(接続点Sd)である。このうち、LPF550、BPF560および遅延器512において、遅延量を比較的容易に設定することができる。
【0087】
すなわち、LPF550については、カットオフ周波数によって遅延量を設定することができる。BPF560は、上述したようにHPFとLPFとの組み合わせであるから、同様にカットオフ周波数によって遅延量を設定することができる。遅延器512については、詳細な構成については言及していないが、例えばデジタルフィルタのLPFとして、同様にカットオフ周波数によって遅延量を設定することができる。また、遅延器512については、単純に論理回路(NOT回路)を縦続する接続数を切り替える構成によって遅延量を設定しても良い。
【0088】
また、減衰器508については、例えば積分回路を付加することによって遅延要素を持たせることができ、コンパレーター520については、例えば電圧閾値Vth1、Vth2などによって、遅延要素を持たせることができる。ゲートドライバー530については、論理振幅を変換する際に遅延要素を持たせても良い。トランジスターM1、M2については、オンオフのスイッチング時に遅延要素を持つことになる。さらにトランジスターM1(M2)のゲートの抵抗R1(R2)や、当該ゲートに寄生する容量成分についても遅延要素となり得る。
このように、上記帰還経路に存在する回路のうち、少なくとも1つに遅延要素を持たせるとともに、その遅延量を適切に設定して、自励発振の周波数fmを低下させれば良い。すなわち、上記帰還経路による遅延量が長くなるにつれて、自励発振の周波数fmが低くなるので、当該周波数fmを、コンデンサーC1の自己共振周波数fcapよりも下回るようにすることで、当該自励発振を安定化させることができる。
【0089】
ところで、駆動回路50は、LSIや、コンデンサー、抵抗などの各種の素子が回路基板に実装された構成である。そこで次に、駆動回路50を構成する素子が、どのような回路基板において、どのように配置、実装されるかについて説明する。
【0090】
図19は、回路基板を平面視したときに、当該回路基板の配線パターンを示す図であり、
図20は、当該回路基板に実装される素子の配置を、
図19に示した配線パターンとの関係で示す図である。
図20に示されるように、回路基板には、駆動回路50を構成するLSI500、トランジスターM1、M2、インダクターL1、コンデンサーC1、C5、C7、C8、抵抗R4、R10、R18、R23が実装される。
【0091】
図19および
図20において、LSI500のピンHdrから出力されるゲート信号は、トランジスターM1のゲート電極に抵抗R1(
図19、
図20では省略)を介して供給される。ピンLdrから出力されるゲート信号についても、同様であり、トランジスターM2のゲート電極に抵抗R2(
図19、
図20では省略)を介して供給される。
コンデンサーC1の他端に接続される端子X1、トランジスターM2のソース電極に接続される端子X2、抵抗R18の他端に接続される端子X3、および、コンデンサーC8の他端に接続される端子X4は、それぞれグラウンドパターンに接続される構成となっている。
【0092】
また、インダクターL1の他端に接続される端子X5と、コンデンサーC1の一端に接続される端子X6とを含むパターン(出力、端子Out)には、スルーホールN1が設けられている。一方、コンデンサーC7の一端に接続される端子X7と、抵抗R4の一端に接続される端子X8とを含むパターンには、スルーホールN2が設けられている。
図10の回路図では、端子Outから2系統に分かれて、LSI500のピンVfb、Ifbに帰還されているが、実際には、
図19に示されるように、端子Outを含むパターンに設けられたスルーホールN1から、内挿の配線パターン(図示省略)と、スルーホールN2と、を順次介して、抵抗R4の一端とコンデンサーC7の一端とに分岐する構成となっている。このうち、抵抗R4側の経路がピンVfbに帰還され、コンデンサーC7側の経路がピンIfbに帰還される。
ここでいう内挿の配線パターンとは、
図19に示した配線パターンを第1層としたときに、当該第1層以外で構成される配線パターンをいう。
【0093】
トランジスターM1のドレイン電極に接続される端子X10を含むパターンには、スルーホールN3が設けられている。また、抵抗R23の他端に接続される端子X11を含むパターンには、スルーホールN4が設けられている。これらのスルーホールN3、N4には、図示省略した内挿パターンに接続されて、それぞれ電圧Vhが印加される。
トランジスターM1のソース電極に接続される端子X12と、トランジスターM2のドレイン電極に接続される端子X13とを含むパターン(
図10の接続点Sd)には、スルーホールN6が設けられている。インダクターL1の一端に接続される端子X14を含むパターンには、スルーホールN7が設けられている。スルーホールN6と、スルーホールN7とは、内挿の配線パターン(図示省略)を介して、互いに電気的に接続されている。
【0094】
このように本実施形態では、回路基板に各種の素子を実装して駆動回路50が構成されている。ここで、LPF550については、出力である端子Outに近接して配置させている。
【0095】
図21は、このような配置を説明するための図である。
この図に示されるように、LPF550を構成するコンデンサーC1は、トランジスターM1よりも、トランジスターM2の側に近接するように配置されている。詳細には、コンデンサーC1からトランジスターM2までの最短距離Q2は、コンデンサーC1からトランジスターM1までの最短距離Q1よりも短くなるように配置されている。
なお、素子間の最短距離については、例えば、素子を平面視したときの(対角)中心点から、相手方の素子を平面視したときの中心点までの距離をいう。
【0096】
このような配置となっている理由について説明すると、コンデンサーC1の端子に接続されるパターンの配線インダクタンスが、
図14におけるインダクタンスL52(寄生成分)に加わるので、このインダクタンスの和による影響を抑えるためである。そこで次に、この影響について説明する。
【0097】
図22は、次の2点間でのインダクタンスを考慮したコンデンサーC1の自己共振周波数fcapを示す図である。
なお、
図22では、改善後(すなわち
図19に示したグラウンドパターンに対して、
図20、
図21に示されるようにトランジスターM1、M2およびコンデンサーC1を実装した構成)と、改善前(グラウンドパターンや部品配置を考慮しない構成)とを比較して示している。
また、ここでいう2点間とは、
(1)コンデンサーC1の素子単体(実装状態での端子X1−X6の間とほぼ同等)、
(2)コンデンサーC1を回路基板に実装した状態でのテストピンTp−端子X6の間、および、
(3)コンデンサーC1を回路基板に実装した状態での端子X2−X6の間、
である。
【0098】
端子X2は、駆動回路50の各種素子においてグラウンドに接地される端子のうち、端子X1に最も近い端子であって、端子X1との2点間が、他の端子との間の影響と比較して支配的になると考えられる。
【0099】
図22から判ることは、コンデンサーC1の素子単体の性能が良好であっても(寄生インダクタンスが小さくても)、実際に回路基板に実装されたときに配線インダクタンスが加わるので、グラウンドパターンの形状等や素子の配置が不適切であれば、コンデンサーC1の自己共振周波数fcapを悪化させる、ということである。
このため、コンデンサーC1の自己共振周波数fcapを高くするには、単体での寄生インダクタンスのみならず、回路基板での配線インダクタンスを小さくする必要がある。
なお、実施形態のように改善後であれば、回路基板に実装した状態であっても、素子単体の状態におけるコンデンサーC1の自己共振周波数fcapを、改善前と比較して悪化させないで済む。
【0100】
図23は、
図22と同じ2点間でのインダクタンスを測定した結果を示す図である。
図22の改善後のようにコンデンサーC1の自己共振周波数fcapを悪化させないためには、次のようにインダクタンスが設定されれれば良いことが
図23から判る。すなわち、当該コンデンサーC1の一端が接続される端子X6からトランジスターM2のソース電極が接続される端子X2までのインダクタンスが、換言すれば、当該コンデンサーC1の寄生インダクタンスと、当該コンデンサーC1の他端である端子X1から端子X2までの配線インダクタンスとを含むインダクタンスが、1nH以下であれば良いことが判る。
【0101】
図24は、
図13と同様に位相差特性を示す図である。
ここでは、コンデンサーC1の寄生インダクタンスと、端子X1から端子X2までの配線インダクタンスとを含むインダクタンスを、0.6nH、0.8nH、1.0nH、1.2nHに変化させたときのシミュレーションの結果を示している。
この図に示されるように、上記インダクタンスが1.0nHよりも高いと、位相差が−360度付近となる2つの周波数が近接して、自励発振の安定性に欠けてしまうことが判る。逆にいえば、上記インダクタンスが1.0nH以下であれば、位相差が−360度付近となる2つの周波数が十分に離間する結果、自励発振が安定化することになる。
【0102】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば次に述べるような各種の変形、応用が可能である。なお、次に述べる変形、応用の態様は、任意に選択された一または複数を適宜に組み合わせることもできる。
【0103】
また、
図2に示した実施形態では、説明の便宜のために、ノズルの個数を比較的少数として、2個の駆動回路50−a、50−bでそれぞれ駆動信号COM−A、COM−Bを出力する構成としたが、さらに駆動信号COM−C、COM−D、…を出力する駆動回路を設けても良い。すなわち、駆動回路の個数は「2」に限られない。
印刷装置1については、複数のノズル651を有するヘッドユニットを、主走査方向に往復動させながらインクを吐出する形式ではなく、ノズルを副走査方向に対して直交または斜めとなる方向に配列させたヘッドユニットを複数個備えて、ヘッドユニットを筐体に対して固定させた、いわゆるラインプリンタであっても良い。
【0104】
実施形態では、駆動回路50の駆動対象として、インクを吐出する圧電素子60を例にとって説明したが、駆動対象としては、圧電素子60に限られず、例えば超音波モーターや、タッチパネル、平面スピーカー、液晶などのディスプレイなどの容量性負荷であっても良い。すなわち、駆動回路50は、このような容量性負荷を駆動する容量性負荷駆動回路であれば良い。