【文献】
島下昌夫,「化工澱粉について」,澱粉科学,日本,1991年03月31日,第38巻、第1号,p.55〜63,DOI:https://doi.org/10.5458/jag1972.38.55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、単に「総質量」というときは、水等の媒体の質量も含める。また、「固形分換算での総質量」というときは、水等の媒体の質量は含めず、固形分量のみを指す。
【0010】
[木質ボード用接着剤]
本発明の木質ボード用接着剤(以下、単に「接着剤」ともいう。)は、澱粉と、エポキシ樹脂とを含有する。
【0011】
<澱粉>
接着剤に含まれる澱粉は、糊化(α化)していない状態である。
ここで、「糊化」とは、澱粉分子が水素結合や立体的な絡みで凝集した澱粉粒子の内部に水が入り込み、水素結合を遮断して澱粉分子が分散し、水和化してコロイド溶液状態となることを意味する。
【0012】
澱粉としては、コーンスターチ、タピオカ、馬鈴薯澱粉など広く一般に利用されている植物起源の澱粉などが挙げられるが、これらに限定されず、いずれの起源の澱粉でも使用することができる。
【0013】
澱粉は、未加工の澱粉(未加工澱粉)でもよいし、加工された澱粉(加工澱粉)でもよい。糊化開始温度が低く、低水分の状態でも糊化しやすい傾向にある観点から、加工澱粉が好ましい。
加工澱粉としては、澱粉をエステル化処理、エーテル化処理、酸化処理、酸処理、酵素処理等の処理を1種以上施したものが挙げられる。これらの中でも、低水分の状態でも特に糊化しやすい観点から、リン酸モノエステル化澱粉等のエステル化処理された澱粉、カチオン化澱粉等のエーテル化処理された澱粉が好ましい。特に、リン酸モノエステル化澱粉は親水性の高いリン酸基を有している。そのため、木質ボードの製造において発生する水蒸気などの澱粉粒子の周囲に存在する水が澱粉粒子に取り込まれやすい。よって、リン酸モノエステル化澱粉は、より低水分の状態でも糊化しやすいことから好適である。
本発明においては、上記の未加工澱粉あるいは加工澱粉を単独、または二種以上を混合して用いることができる。
【0014】
リン酸モノエステル化澱粉は、澱粉にリン酸(リン酸塩を含む)をエステル化反応させたものであり、リン酸基の結合手の1つが、澱粉のヒドロキシ基にエステル結合している。
リン酸モノエステル化澱粉中の結合リンの割合、すなわち、リン酸モノエステル化澱粉の総質量に対する、ヒドロキシ基とエステル結合したリンの質量は、0.05質量%以上が好ましい。結合リンの割合が0.05質量%以上であれば、低水分の状態かつ低エネルギー(低温度)で、リン酸モノエステル化澱粉が糊化しやすくなる。結合リンの割合が多くなるほど糊化開始温度が低くなり、低水分の状態でも糊化しやすくなる傾向にあるが、結合リンの割合が多すぎるとリン酸部分を除いた澱粉骨格の部分の割合が少なくなるため接着力が低下することがある。よって、結合リンの割合は、リン酸モノエステル化澱粉の総質量に対して5質量%以下が好ましい。
【0015】
結合リンの割合は、以下のようにして求められる。
まず、試料(リン酸モノエステル化澱粉)を水に分散し、濾紙等を使用して濾過し、澱粉に結合していない薬品等の成分を除去する。澱粉成分が水に溶出しやすい場合は、試料を水に分散するに際して、必要に応じてエタノールを水に添加して澱粉成分の溶出を抑制することが好ましい。
薬品等の成分を除去した試料を硫酸・硝酸の混酸および過塩素酸を用いて湿式分解し、分解液を得る。湿式分解後、分解液に水を加えて沸騰浴中で充分に加熱し、分解液中のリン酸成分をオルトリン酸に加水分解する。
得られた分解した試料について、Fiske−Subbarow法によるモリブデン青比色を測定し、結合リンの割合を求める。
【0016】
リン酸モノエステル化澱粉は、例えば澱粉と、リン酸およびリン酸塩の少なくとも一方と、必要に応じて無機酸または有機酸とを混合した後、焙焼することで得られる。このとき、尿素をさらに添加すると、カルバミン酸リン酸モノエステル化澱粉が得られる。
焙焼方法としては、例えば特公昭45−20512号公報に記載されている公知の方法を採用できる。以下、リン酸モノエステル化澱粉の製造方法の一例を示す。
【0017】
まず、リン酸およびリン酸塩の少なくとも一方と、必要に応じて無機酸または有機酸とを水に溶解させたリン酸水溶液に、澱粉を含浸させる。あるいは、澱粉に前記リン酸水溶液をスプレー等で散布する。次いで、リン酸水溶液と澱粉とを均一になるまで撹拌し、澱粉混合物を得る。得られた澱粉混合物を必要に応じて所望の水分になるまで乾燥した後、ベルト・ドライヤー、フラッシュドライヤー、撹拌式乾燥機、静置式乾燥機等の乾式焙焼装置を用いて加熱反応を行う。該反応により、澱粉のヒドロキシ基と、リン酸またはリン酸塩とがエステル結合して、リン酸モノエステル化澱粉が得られる。
リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0018】
なお、前記リン酸水溶液に尿素を添加しておくと、澱粉のリン酸エステル化が低温で進行しやすくなる。尿素は分解して澱粉のヒドロキシ基と反応してカルバミン酸エステルを生成するため、澱粉がリン酸モノエステル化およびカルバミン酸エステル化したリン酸モノエステル化澱粉(カルバミン酸リン酸モノエステル化澱粉)が得られる。
【0019】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂、または該エポキシ基の開環反応により生じた樹脂である。
本発明においては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有していれば、モノマーであっても「エポキシ樹脂」という。
【0020】
エポキシ樹脂の質量平均分子量は5000以下が好ましく、100〜3000がより好ましく、150〜1000がさらに好ましい。エポキシ樹脂の質量平均分子量が、5000以下であれば取り扱い性に優れ、150以上であれば木質ボードに用いた際に接着強度がより向上する。
エポキシ樹脂の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて、ポリスチレン換算によって算出された値である。
【0021】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、1000g/eq以下が好ましく、100〜500g/eqがより好ましい。エポキシ樹脂のエポキシ当量が上記範囲内であれば、木質ボードに用いた際に接着強度がより向上する。
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、JIS K−7236:2009に準拠して測定される値である。
【0022】
エポキシ樹脂としては、例えば芳香族系エポキシ化合物が挙げられ、具体的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂(例えばビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテル等)、ノボラック型エポキシ樹脂(例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等)、ビフェニル型エポキシ樹脂、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、スチレン−ブタジエン共重合体のエポキシ化物、スチレン−イソプレン共重合体のエポキシ化物、末端カルボン酸ポリブタジエンとビスフェノールA型エポキシ樹脂の付加反応物などが挙げられる。
【0023】
また、エポキシ樹脂として、上述した芳香族系エポキシ化合物以外にも、例えばポリアミドエポキシ樹脂を用いてもよい。
ポリアミドエポキシ樹脂としては、ポリアミド樹脂にエピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンを作用して得られる、分子内にエポキシ基を有するものが挙げられ、具体的にはエポキシ環の側鎖を有するポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン樹脂などが挙げられる。
【0024】
エポキシ樹脂は、例えばエピハロヒドリンのようにエポキシ基を有する化合物(A)と、官能性の水素を有する化合物(B)とを反応させることで得られる。化合物(B)として、例えば4,4’−ジヒドロキシ−2,2’−ジフェニルプロパンを用いた場合、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が得られる。
【0025】
エポキシ樹脂は、室温(25℃)で液体であってもよいし、固体であってもよい。
また、エポキシ樹脂は、水性媒体に溶解もしくは分散していてもよい。水性媒体としては、水、水と水溶性有機溶媒との混合物などが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。
なお、エポキシ樹脂として、室温で液体のエポキシ樹脂、または水性媒体に溶解もしくは分散したエポキシ樹脂を用いる場合、接着剤中の澱粉の一部または全部は、エポキシ樹脂または水性媒体に分散していてもよい。
【0026】
<水>
本発明の接着剤は、木質ボードの製造に用いた際に澱粉の糊化を進行させやすくする観点から、水を含有してもよい。
なお、澱粉が水分を含む場合、澱粉中の水分は溶媒に含まれる。また、エポキシ樹脂として水に溶解または分散したものを用いる場合、エポキシ樹脂を溶解または分散させている水も溶媒に含まれる。
【0027】
<任意成分>
本発明の接着剤は、澱粉、エポキシ樹脂および水以外の成分(任意成分)を含有してもよい。
任意成分としては、エポキシ樹脂以外の樹脂(他の樹脂)、水以外の溶媒、添加剤などが挙げられる。
他の樹脂としては、例えばユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。
溶媒としては、エポキシ樹脂の説明において先に例示した水溶性有機溶媒が挙げられる。
添加剤としては、木質ボード用の接着剤に配合される公知の添加剤が挙げられ、具体的には、難燃剤、相溶化剤、可塑剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、ドリップ防止剤、帯電防止剤、耐加水分解防止剤、充填剤、補強剤(例えばガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミナ、ボロンナイトライド等)などが挙げられる。
【0028】
なお、ホルムアルデヒドの放散を低減する観点から、接着剤はホルムアルデヒドを放散する物質を実質的に含まないことが好ましい。ホルムアルデヒドを放散する物質としては、例えばユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂等のホルムアルデヒド系樹脂などが挙げられる。
ここで、「実質的に含まない」とは、ホルムアルデヒドを放散する物質の含有量が、接着剤の総質量に対して0.1質量%未満であることを意味する。
本発明の接着剤は澱粉とエポキシ樹脂とを含有するので、ホルムアルデヒド系樹脂を接着剤に含む場合、少量でも充分な接着性を発現できる。よって、ホルムアルデヒド系樹脂の使用量を減らすことができる。
【0029】
<割合>
接着剤中の澱粉とエポキシ樹脂との質量比は固形分換算で、澱粉:エポキシ樹脂=4:1〜50:1が好ましく、8:1〜40:1がより好ましく、10:1〜30:1がさらに好ましい。澱粉とエポキシ樹脂との質量比が上記範囲内であれば、木質ボードに用いた際に接着強度がより向上する。
【0030】
接着剤中の澱粉とエポキシ樹脂との含有量の合計は固形分換算で、接着剤の総質量に対して50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。澱粉とエポキシ樹脂との含有量の合計が50質量%以上であれば、木質ボードに用いた際に接着強度がより向上する。
接着剤中の澱粉とエポキシ樹脂との含有量の合計は、固形分換算で、接着剤の総質量に対して95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。
【0031】
本発明では接着剤に含まれる澱粉として、リン酸モノエステル化澱粉を含有することが好適であり、接着剤に含まれる澱粉の総質量に対するリン酸モノエステル化澱粉の割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0032】
接着剤中の任意成分の含有量は、接着剤の総質量に対して35質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
ただし、接着剤に含まれる澱粉およびエポキシ樹脂の固形分換算での含有量と、水の含有量と、任意成分の含有量との合計が、接着剤の総質量に対して100質量%を超えないものとする。
【0033】
<製造方法>
本発明の接着剤は、澱粉と、エポキシ樹脂と、必要に応じて任意成分とを混合することで得られる。この際、水をさらに添加してもよい。
また、接着剤の使用直前まで、少なくとも澱粉とエポキシ樹脂とを非接触状態で保管しておいてもよい。本発明において、少なくとも澱粉とエポキシ樹脂とを別々に収容した容器の集合体を「木質ボード用接着剤キット」ともいう。
【0034】
<作用効果>
上述したように、パーティクルボードや中密度繊維板等の木質ボードは、通常、乾式フォーミングで製造されるため、木質ボードの製造過程において澱粉は水分が少ない状態で加熱される。そのため、澱粉は糊化しにくく、充分な接着強度が得られにくい。
しかし、本発明の接着剤であれば、澱粉に加えてエポキシ樹脂を含有するので、木質ボードの製造過程において低水分の状態で接着剤を用いても、充分な接着強度を発現できる。特に、澱粉として加工澱粉(好ましくはリン酸モノエステル化澱粉)を用いれば、低水分の状態でも澱粉が糊化しやすくなり、接着強度がより高まる傾向にある。よって、本発明の接着剤を用いれば、充分な強度を有する木質ボードが得られる。
また、本発明の接着剤はエポキシ樹脂を含んでいるので、耐水性にも優れる木質ボードが得られる。エポキシ樹脂はホルムアルデヒドを含んでいないので、本発明の接着剤であれば、ホルムアルデヒドの放散も低減できる。また、本発明の接着剤は澱粉とエポキシ樹脂とを含有するので、ホルムアルデヒド系樹脂を併用する場合、少量でも充分な接着性を発現できる。よって、ホルムアルデヒド系樹脂の使用量を減らすことができるので、ホルムアルデヒドの放散を低減できる。
なお、接着剤が澱粉を含まない場合、エポキシ樹脂だけでは接着性は発現されにくく、充分な強度の木質ボードは得られない。
【0035】
<用途>
本発明の接着剤は、低水分の状態で使用しても充分な接着強度を発現しやすいことから、乾式フォーミングで製造される木質ボード(例えば、パーティクルボード、中密度繊維板)の製造に用いる接着剤として好適である。
【0036】
[木質ボード]
本発明の木質ボードは、木質原料と、澱粉と、エポキシ樹脂とを含有する。
【0037】
<木質原料>
木質原料の形態としては、チップ、フレーク、ウェハー、ストランド等の小片状;繊維状などが挙げられる。例えば、チップ状の木質原料を「木質チップ」といい、繊維状の木質原料を「木質繊維」という。
木質原料として、製材時の残廃材、建築解体材、間伐材などを用いることができる。これらの木材を用いれば、環境負荷を軽減でき、低コストで製造できる。
【0038】
<澱粉>
木質ボードに含まれる澱粉は、糊化(α化)した状態である。
澱粉としては、本発明の木質ボード用接着剤の説明において先に例示した澱粉が挙げられる。中でも、加工澱粉が好ましく、その中でも特にリン酸モノエステル化澱粉がより好ましい。
【0039】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂としては、本発明の木質ボード用接着剤の説明において先に例示したエポキシ樹脂が挙げられる。
【0040】
<水>
木質ボードは、通常、水分を含んでいる。
木質ボードの水分としては、木質原料由来の水、澱粉由来の水などが挙げられる。また、エポキシ樹脂として水に溶解または分散したものを用いる場合、エポキシ樹脂由来の水も木質ボードの水分に含まれる。さらに、詳しくは後述するが木質ボードの製造において水を使用する場合、この水の一部も木質ボードの水分に含まれる。
【0041】
<任意成分>
本発明の接着剤は、澱粉、エポキシ樹脂および水以外の成分(任意成分)を含有してもよい。
任意成分としては、本発明の木質ボード用接着剤の説明において先に例示した任意成分(他の樹脂、水以外の溶媒、添加剤)などが挙げられる。
なお、ホルムアルデヒドの放散を低減する観点から、木質ボードはホルムアルデヒドを放散する物質を実質的に含まないことが好ましい。
ここで、「実質的に含まない」とは、ホルムアルデヒドを放散する物質の含有量が、木質ボードの総質量に対して0.1質量%未満であることを意味する。
【0042】
<割合>
木質ボード中の木質原料の含有量は固形分換算で、木質ボードの固形分換算での総質量に対して70質量%以上が好ましく、79質量%以上がより好ましく、84質量%以上がさらに好ましい。また、木質ボード中の木質原料の含有量は固形分換算で、木質ボードの総質量に対して95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。木質原料の含有量が上記範囲内であれば、木質ボードの風合いを維持しつつ、木質原料同士が充分に接着した木質ボードが得られる。
【0043】
木質ボード中の澱粉の含有量は固形分換算で、木質ボードの固形分換算での総質量に対して1質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、9質量%以上がさらに好ましい。また、木質ボード中の澱粉の含有量は固形分換算で、木質ボードの固形分換算での総質量に対して25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。澱粉の含有量が上記範囲内であれば、充分な強度を有する木質ボードが得られる。
【0044】
木質ボード中のエポキシ樹脂の含有量は固形分換算で、木質ボードの固形分換算での総質量に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。エポキシ樹脂の含有量が0.1質量%以上であれば、充分な強度および耐水性を有する木質ボードが得られる。木質ボードの強度および耐水性の向上効果は、エポキシ樹脂の含有量が増えるに連れて高まる傾向にあるが、エポキシ樹脂の含有量が多すぎても頭打ちとなる。木質ボードの強度および耐水性と製造コストとのバランスを考慮すると、木質ボード中のエポキシ樹脂の含有量は固形分換算で、木質ボードの固形分換算での総質量に対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
ただし、木質ボードに含まれる木質原料、澱粉およびエポキシ樹脂の固形分換算での含有量の合計が、木質ボードの固形分換算での総質量に対して100質量%を超えないものとする。
【0045】
また、木質ボード中の澱粉とエポキシ樹脂との質量比は固形分換算で、澱粉:エポキシ樹脂=4:1〜50:1が好ましく、8:1〜40:1がより好ましく、10:1〜30:1がさらに好ましい。澱粉とエポキシ樹脂との質量比が上記範囲内であれば、木質ボードに用いた際に接着強度がより向上する。
【0046】
木質ボード中の木質原料と澱粉とエポキシ樹脂との含有量の合計は固形分換算で、木質ボードの総質量に対して75質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましい。木質原料と澱粉とエポキシ樹脂との含有量の合計が75質量%以上であれば、木質ボードの風合いを維持しつつ、木質原料同士が充分に接着した木質ボードが得られる。
木質ボード中の木質原料と澱粉とエポキシ樹脂との含有量の合計は、固形分換算で、木質ボードの総質量に対して95質量%以下が好ましい。
【0047】
本発明では木質ボードに含まれる澱粉として、リン酸モノエステル化澱粉を含有することが好適であり、木質ボードに含まれる澱粉の総質量に対するリン酸モノエステル化澱粉の割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0048】
木質ボード中の水の含有量(水分量)は、木質ボードの総質量に対して5〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましく、5〜10質量%がさらに好ましい。
ただし、木質ボードに含まれる木質原料、澱粉およびエポキシ樹脂の固形分換算での含有量と、水の含有量との合計が、木質ボードの総質量に対して100質量%を超えないものとする。
【0049】
木質ボード中の任意成分の含有量は、木質ボードの総質量に対して20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
ただし、木質ボードに含まれる木質原料、澱粉およびエポキシ樹脂の固形分換算での含有量と、水の含有量と、任意成分の含有量との合計が、木質ボードの総質量に対して100質量%を超えないものとする。
【0050】
<木質ボードの形態>
木質ボードとしては、パーティクルボード、繊維板、配向性ストランドボードなどが挙げられる。木質ボードの種類に応じて、各種強度、接着剤の種類、ホルムアルデヒド放散量、難燃性等の基準が、日本工業標準調査会のJISによって定められている。例えば、パーティクルボードについては、JIS A 5908:2015に各種基準が設定されている。繊維板については、JIS A 5905:2014に各種基準が設定されている。
【0051】
パーティクルボードは、木材などの小片を主な原料として、接着剤を用いて成形熱圧した板である。パーティクルボードとしては、素地パーティクルボード、パーティクルボードを基材として両面に単板を張った単板張りパーティクルボード、パーティクルボードの両面または片面に化粧紙等を接着した化粧パーティクルボード、構造用パーティクルボードなどが挙げられる。
【0052】
繊維板は、木材などの繊維を主な原料として、接着剤を用いて成形熱圧した板である。
繊維板は、密度と製法によって概ね3種類に区分され、具体的には、密度が0.35g/cm
3未満であるインシュレーションファイバーボード(軟質繊維板)、密度が0.35g/cm
3以上であるミディアムデンシティファイバーボード(中密度繊維板)、密度が0.80g/cm
3以上であるハードファイバーボード(硬質繊維板)が挙げられる。
本発明においては、乾式フォーミングで製造されるパーティクルボード、中密度繊維板が好適である。
【0053】
<製造方法>
木質ボードは、乾式フォーミングにより製造できる。具体的には、上述した本発明の接着剤と木質原料とを混合し、得られた原料混合物を加熱加圧成形することで得られる。原料混合物を加熱加圧することで、原料混合物中の木質原料同士が澱粉およびエポキシ樹脂で結着される。
【0054】
本発明の接着剤と木質原料とを混合する際には、必要に応じて水をさらに添加してもよい。水を添加することで澱粉の糊化がより進行しやすくなる。
また、木質原料と澱粉とを混合し、これにエポキシ樹脂と必要に応じて任意成分との水溶液を噴霧した後、充分に撹拌して原料混合物を調製してもよい。
なお、原料混合物中の水の割合が多すぎると、加熱加圧成形時に大量の水蒸気が発生し、パンクが起こる場合がある。原料混合物中の水の含有量は、原料混合物の総質量に対して、10〜25質量%が好ましく、15〜25質量%がより好ましく、18〜25質量%がさらに好ましい。
【0055】
加熱加圧成形としては公知の方法を採用でき、例えばプレス成形が挙げられる。また、型枠に原料混合物を充填し、仮成形された成形材料(マット)をホットプレスによって本成形してもよい。さらに、原料混合物を仮成形せずに、原料混合物を所定の形状とした後に加熱し、予備的に圧縮などした後、さらにプレス成形してもよい。
加熱加圧成形時の条件は特に制限されないが、例えば温度は120〜250℃が好ましく、圧力は0.5〜15MPaが好ましく、成形時間は1〜20分が好ましい。
【0056】
<作用効果>
以上説明した本発明の木質ボードは、木質原料同士が糊化した澱粉とエポキシ樹脂とで結着されているので、充分な強度を有する。また、本発明の木質ボードはエポキシ樹脂を含んでいるので、耐水性にも優れる。エポキシ樹脂はホルムアルデヒドを含んでいないので、本発明の木質ボードであれば、ホルムアルデヒドの放散も低減できる。なお、木質ボードが澱粉を含まない場合、エポキシ樹脂だけでは接着性は発現されにくいので、充分な強度は得られない。また、本発明の木質ボードは木質原料同士が糊化した澱粉とエポキシ樹脂とで結着されているので、ホルムアルデヒド系樹脂を併用する場合、少量でも充分な強度を有する。よって、ホルムアルデヒド系樹脂の使用量を減らすことができるので、ホルムアルデヒドの放散を低減できる。
また、本発明の木質ボードの製造方法であれば、木質原料の接着剤として、澱粉とエポキシ樹脂とを含有する本発明の接着剤を用いるので、ホルムアルデヒドの放散が低減され、かつ充分な強度を有する木質ボードを製造できる。
【0057】
<用途>
本発明の木質ボードは、例えば屋根下地、床用下地、壁等の建築用部材;床材、家具類、家電製品等の内装材、キッチン用品、収納庫等の住宅用設備部材;自動車の内装材などに用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
各例で測定、評価に使用した方法、およびリン酸モノエステル化澱粉の製造方法を以下に示す。
なお、例1〜3、10、13〜15は実施例であり、例4〜9、11、12は比較例である。
【0059】
[測定・評価方法]
<結合リンの測定>
試料(リン酸モノエステル化澱粉)を水とエタノールの混合溶媒に分散し、濾紙で濾過し、澱粉に結合していない薬品等の成分を除去した。
薬品等の成分を除去した試料を硫酸・硝酸の混酸および過塩素酸を用いて湿式分解し、分解液を得た。湿式分解後、分解液に水を加えて沸騰浴中で充分に加熱し、分解液中のリン酸成分をオルトリン酸に加水分解した。
得られた分解した試料について、Fiske−Subbarow法によるモリブデン青比色を測定し、結合リンの割合を求めた。
【0060】
<密度の測定>
パーティクルボードの密度は、JIS A 5908:2015に準拠して測定した。
【0061】
<曲げ強度の測定>
パーティクルボードの曲げ強度は、JIS A 5908:2015に準拠して測定した。
なお、曲げ強度は密度に影響される。例えば、後述の例1と同様にして製造したパーティクルボードの密度は0.82g/cm
3であり、曲げ強度は13.4N/mm
2であった。別途、密度が0.68g/cm
3または0.75g/cm
3となるように加熱加圧成形の条件を変更した以外は、例1と同様にして製造したパーティクルボードの曲げ強度は、密度が0.68g/cm
3の場合で9.9N/mm
2であり、密度が0.75g/cm
3の場合で11.2N/mm
2であった。パーティクルボードの密度と曲げ強度の結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
パーティクルボードの密度を横軸(x軸)に、パーティクルボードの曲げ強度を縦軸(y軸)にプロットして回帰直線を求めたところ、y=25x−7.25であり、このときの回帰直線の決定係数(R
2)は0.9784であった。このように、パーティクルボードの密度と曲げ強度は比例関係にあった。
各例において、パーティクルボードの密度が一致するようにパーティクルボードを製造することは困難である。よって、各例のパーティクルボードの曲げ強度が、個々の密度の影響を受けないようにするため、実測値を密度が0.82g/cm
3の場合に換算して、パーティクルボードの曲げ強度を求めた。具体的には、下記式より曲げ強度(換算値)を求めた。
曲げ強度(換算値)=曲げ強度(実測値)+(0.82−密度(実測値))×25
【0064】
<ホルムアルデヒド放散量の測定>
木質ボードからのホルムアルデヒド放散量は、JIS A 1460:2015に準拠して測定した。
なお、検出限界以下(0.05mg/L以下)の場合は、「N.D」とする。
【0065】
[リン酸モノエステル化澱粉の製造方法]
水に尿素10.2質量部と正リン酸2.7質量部とを溶解したリン酸水溶液に、コーンスターチ100質量部を含浸させ、均一になるまで撹拌し、澱粉混合物を得た。得られた澱粉混合物の総質量に対する水の含有量が10質量%以下になるまで水を留去した後、撹拌式乾燥機を用い、140℃で25分間加熱反応(焙焼)を行い、澱粉がリン酸モノエステル化およびカルバミン酸エステル化したリン酸モノエステル化澱粉(カルバミン酸リン酸モノエステル化澱粉)を得た。
得られたリン酸モノエステル化澱粉の総質量に対する結合リンの割合は0.55質量%であり、水分量は9.3質量%であった。また、リン酸モノエステル化澱粉の糊化開始温度は44℃であった。
【0066】
[例1]
エポキシ樹脂として、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製、商品名「WS4030」、水分量75質量%)25.3gと、水67.5gとを混合し、エポキシ樹脂の水溶液を調製した。
木質原料として木材チップ(水分量13.6質量%)678.4gと、澱粉としてリン酸モノエステル化澱粉(水分量9.3質量%)72.6gとを混合し、これにエポキシ樹脂の水溶液を噴霧した後、充分に撹拌して原料混合物843.8gを得た。得られた原料混合物の固形分量は78質量%(658.2g)であり、水分量は22質量%(185.6g)であった。また、原料混合物の固形分換算での総質量に対する、木質原料の含有量(固形分換算)は89質量%であり、澱粉の含有量(固形分換算)は10質量%であり、エポキシ樹脂の含有量(固形分換算)は1質量%であった。
ついで、原料混合物を型枠(300×300mm)に充填し、仮成形された成形材料(マット)をホットプレスによって本成形した。プレス成形は、150℃に加温した2枚の鉄板で成形材料を型枠ごと挟み、2枚の鉄板間の距離が10mmになるまで10分間保持して加熱加圧成形した。10分間の加熱加圧成形の後、型枠を取り外し、室温(25℃)で12時間放置し、パーティクルボードを得た。
パーティクルボードの水分量は、パーティクルボードの総質量に対して、5質量%であった。なお、パーティクルボードの固形分換算での総質量に対する、木質原料、澱粉およびエポキシ樹脂の固形分換算での含有量は、原料混合物と同じである。
得られたパーティクルボードについて、密度、曲げ強度およびホルムアルデヒド放散量を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0067】
[例2〜15]
澱粉および樹脂の種類と、パーティクルボードの固形分換算での総質量に対する、木質原料、澱粉および樹脂の固形分換算での含有量を表2に示すように変更した以外は、例1と同様にしてパーティクルボードを製造し、各種測定を行った。結果を表2に示す。なお、得られたパーティクルボードの水分量は、パーティクルボードの総質量に対して、5〜11質量%であった。
【0068】
【表2】
【0069】
表2の結果から明らかなように、例1〜3、10、13〜15のパーティクルボードは、曲げ強度が高く、かつホルムアルデヒドの放散量が検出限界以下であった。特に、澱粉としてリン酸モノエステル化澱粉またはカチオン化澱粉を用いた例1〜3、13のパーティクルボードは、曲げ強度がより高かった。
【0070】
対して、澱粉およびエポキシ樹脂を用いなかった例4のパーティクルボードは、曲げ強度が低かった。
リン酸モノエステル化澱粉を用い、エポキシ樹脂を用いなかった例5のパーティクルボードは、リン酸モノエステル化澱粉とエポキシ樹脂を用いた例1のパーティクルボードと比べて曲げ強度が低かった。
エポキシ樹脂を用い、澱粉を用いなかった例6、7のパーティクルボードは、澱粉とエポキシ樹脂を用いた例1〜3、10、13〜15のパーティクルボードと比べて曲げ強度が低かった。
澱粉を用いず、エポキシ樹脂の代わりにユリア樹脂を用いた例8、9のパーティクルボードは、ホルムアルデヒドを放散しやすかった。また、例8のパーティクルボードは曲げ強度も低かった。
未加工澱粉を用い、エポキシ樹脂を用いなかった例11のパーティクルボードは、未加工澱粉とエポキシ樹脂を用いた例10のパーティクルボードと比べて曲げ強度が低かった。
リン酸モノエステル化澱粉を用い、エポキシ樹脂の代わりにユリア樹脂を用いた例12のパーティクルボードは、ホルムアルデヒドを放散しやすかった。
【0071】
なお、例9、12のパーティクルボードは、ホルムアルデヒドを放散しやすいものの、曲げ強度は高く、例えば例1〜3、13のパーティクルボードと同程度であった。パーティクルボードの固形分換算での総質量に対する、ユリア樹脂の固形分換算での含有量は、例9の場合が10質量%であり、例12の場合が5質量%である。一方、パーティクルボードの固形分換算での総質量に対する、エポキシ樹脂の固形分換算での含有量は、例1〜3、13の場合でいずれも1質量%である。
このように、本発明であれば、ユリア樹脂を用いる場合に比べて少量のエポキシ樹脂でも、高い曲げ強度を発現しつつ、ホルムアルデヒドの放散を低減できる。