(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガス流路は、前記付与部材および前記燃料電池スタックの間に設けられたカソードガス流路である空間と連通して設けられる、請求項2または3に記載の固体酸化物形燃料電池。
運転時において、前記燃料電池スタックが前記積層方向に沿って線膨張することに伴って前記端部集電板が前記ケーシングに向けて移動することによって、前記ガス流路は封止される、請求項2〜4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。
前記ガスの流通方向に沿って視たときに、前記ケーシングの前記ガス流路に対向する面には凹凸形状が繰り返し構成されている、請求項2〜6のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。
前記ガス流路は、前記ガス流路の出口側において前記ガス流路の入口側よりも高さが高くなるように、前記ガスの流通方向に対して傾斜して設けられる、請求項2〜7のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1〜
図10を参照して、本実施形態に係る燃料電池1について説明する。本実施形態の燃料電池1は、電解質として例えば、安定化ジルコニアなどの酸化物イオン導電体を用いた固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)である。
【0012】
以下の説明の便宜のため、XYZ直交座標系を図中に示す。X軸およびY軸は水平方向、Z軸は上下方向(積層方向に相当)にそれぞれ平行な軸を示す。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池1を示す斜視図である。
図2は、本実施形態に係る燃料電池1を示す概略断面図である。
図3は、セルユニット100の分解斜視図である。
図4は、アノードガスおよびカソードガスの流れを示す図である。
図5は、メタルサポートセルアッセンブリー110の分解斜視図である。
図6は、
図3の6−6線に沿う断面図である。
図7は、燃料電池スタック10の断面図である。
図8は、燃料電池スタック10およびケーシング20を示す斜視図である。
図9は、ケーシング20および上部集電板41の間に設けられる空間部62を説明するための図である。
図10は、ケーシング20および上部集電板41の分解斜視図である。
【0014】
燃料電池1は、概説すると、電解質電極接合体111およびセパレータ120を含むセルユニット100を複数積層して構成される燃料電池スタック10と、燃料電池スタック10のZ方向の上方に配置されるケーシング20と、を有する。燃料電池1は、ケーシング20を介して、燃料電池スタック10に対してZ方向に沿ってスタッキング力Fを付与する付与部材50と、ケーシング20の線膨張による伸びを促進する促進手段60と、を有する。促進手段60は、燃料電池スタック10の最上部に設けられる上部集電板41(端部集電板に相当)およびケーシング20の間に設けられるとともに燃料電池スタック10のZ方向の線膨張を吸収する空間部(ガス流路に相当)62を有する。また、上部集電板41およびケーシング20のそれぞれに、Z方向に対して傾斜した傾斜面41a、20aが設けられ、傾斜面41a、20aにおいて、空間部62を介して上部集電板41およびケーシング20は連結されてなる。以下、本実施形態に係る燃料電池1の構成について詳述する。
【0015】
燃料電池1は、
図1、
図2に示すように、燃料電池スタック10と、ケーシング20と、付与部材50と、促進手段60と、を有する。
【0016】
<燃料電池スタック10>
燃料電池スタック10は、
図1、
図2に示すように、複数のセルユニット100と、セルユニット100の上部に設けられる上部集電板41と、セルユニット100の下部に設けられる下部集電板42と、を有する。
【0017】
セルユニット100は、
図3に示すように、メタルサポートセルアッセンブリー110と、電解質電極接合体111との間にガスが流通するための流路部121を区画形成するセパレータ120と、集電補助層130と、を順に積層して構成される。なお、メタルサポートセルアッセンブリー110と集電補助層130との間に両者を導通接触させる接点材を配置してもよいし、集電補助層130を省く構造としてもよい。
【0018】
また、セルユニット100は、
図3、
図4に示すように、セパレータ120に設けられるアノードガス第1流入口120a、アノードガス第2流入口120b、およびアノードガス第1流出口120cの周囲を封止してガスの流れを制限する複数のシール部160をさらに有する。
【0019】
メタルサポートセルアッセンブリー110は、
図3、
図5に示すように、中央近傍に配置されたメタルサポートセル(Metal−Supported Cell:MSC)110Mと、メタルサポートセル110Mの外周を保持するセルフレーム113と、を有する。
【0020】
メタルサポートセル110Mは、
図5、
図6に示すように、電解質111Eを両側からアノード111Aおよびカソード111Cで挟持してなる電解質電極接合体111と、電解質電極接合体111を上下方向の一方側から支持する金属製のメタルサポート部112と、を有する。メタルサポートセル110Mは、電解質支持型セルや電極支持型セルに比べて機械的強度、急速起動性等に優れる。
【0021】
電解質電極接合体111は、
図5、
図6に示すように、電解質111Eを両側からアノード111Aおよびカソード111Cで挟持して構成される。
【0022】
電解質111Eは、カソード111Cからアノード111Aに向かって酸化物イオンを透過させるものである。電解質111Eは、酸化物イオンを通過させつつ、ガスと電子を通過させない。電解質111Eの形成材料は、例えば、イットリア、酸化ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、スカンジウム等をドープした安定化ジルコニアなどの固体酸化物セラミックスが挙げられる。
【0023】
アノード111Aは、燃料極であって、アノードガス(例えば水素)と酸化物イオンを反応させて、アノードガスの酸化物を生成するとともに電子を取り出す。アノード111Aは、還元雰囲気に耐性を有し、アノードガスを透過させ、電気(電子およびイオン)伝導度が高く、アノードガスを酸化物イオンと反応させる触媒作用を有する。アノード111Aの形成材料は、例えば、ニッケル等の金属、イットリア安定化ジルコニア等の酸化物イオン伝導体を混在させたものが挙げられる。
【0024】
カソード111Cは、酸化剤極であって、カソードガス(例えば空気に含まれる酸素)と電子を反応させて、酸素分子を酸化物イオンに変換する。カソード111Cは、酸化雰囲気に耐性を有し、カソードガスを透過させ、電気(電子およびイオン)伝導度が高く、酸素分子を酸化物イオンに変換する触媒作用を有する。カソード111Cの形成材料は、例えば、ランタン、ストロンチウム、マンガン、コバルト等からなる酸化物が挙げられる。
【0025】
メタルサポート部112は、
図5、
図6に示すように、電解質電極接合体111をアノード111Aの側から支持するものである。メタルサポート部112は、ガス透過性および電子伝導性を有する多孔質の金属である。メタルサポート部112の形成材料は、例えば、ニッケルやクロムを含有する耐食合金や耐食鋼、ステンレス鋼などが挙げられる。
【0026】
セルフレーム113は、
図5、
図6に示すように、メタルサポートセル110Mを周囲から保持するものである。セルフレーム113は、開口部113Hを有する。セルフレーム113の開口部113Hには、メタルサポートセル110Mが配置される。メタルサポートセル110Mの外周は、セルフレーム113の開口部113Hの内縁に接合される。セルフレーム113の形成材料は、例えば、表面に絶縁処理が施された金属が挙げられる。
【0027】
セルフレーム113は、
図3、
図5に示すように、アノードガスが流通するアノードガス第1流入口113a、アノードガス第2流入口113b、およびアノードガス第1流出口113cを有する。また、セルフレーム113の外周には、カソードガスが流通するカソードガス第1流入口113d、カソードガス第1流出口113e、およびカソードガス第2流出口113fが形成されている。カソードガス第1流入口113dは、
図3、
図5に示すように、アノードガス第1流入口113aおよびアノードガス第2流入口113bの間の、セルフレーム113の外周に形成される。また、カソードガス第1流出口113eおよびカソードガス第2流出口113fは、アノードガス第1流出口113cを挟み込むように、セルフレーム113の外周に形成される。
【0028】
このように、カソードガスが流通するカソードガス第1流入口113d、カソードガス第1流出口113e、およびカソードガス第2流出口113fは、
図2に示すように、後述する付与部材50の上部ケーシングフード51の内周面および燃料電池スタック10の外周面の間に形成される空間Vに形成される。
【0029】
セパレータ120は、
図7に示すように、Z方向に隣り合うメタルサポートセル110Mの間に配置される。セパレータ120は、メタルサポートセル110Mの電解質電極接合体111と対向する領域に流路部121を有する。流路部121は、電解質電極接合体111との間にガスの流路を区画形成する凹凸形状を有している。セパレータ120の形成材料は、例えば、金属が挙げられる。セパレータ120の流路部121以外の領域には、絶縁処理が施されている。
【0030】
セパレータ120の流路部121は、凹凸形状がY方向に延在するように略直線状に形成されている。これにより、流路部121に沿って流れるガスの流れ方向は、X方向である。
【0031】
セパレータ120は、
図3、
図4に示すように、アノードガスが流通するアノードガス第1流入口120a、アノードガス第2流入口120b、およびアノードガス第1流出口120cを有する。また、セパレータ120の外周には、カソードガスが流通するカソードガス第1流入口120d、カソードガス第1流出口120e、およびカソードガス第2流出口120fが形成されている。カソードガス第1流入口120dは、
図3、
図4に示すように、アノードガス第1流入口120aおよびアノードガス第2流入口120bの間の、セパレータ120の外周に形成される。また、カソードガス第1流出口120eおよびカソードガス第2流出口120fは、アノードガス第1流出口120cを挟み込むように、セパレータ120の外周に形成される。
【0032】
このように、カソードガスが流通するカソードガス第1流入口120d、カソードガス第1流出口120e、およびカソードガス第2流出口120fは、
図2に示すように、後述する付与部材50の上部ケーシングフード51の内周面および燃料電池スタック10の外周面に形成される空間Vに形成される。
【0033】
集電補助層130は、
図7に示すように、メタルサポートセル110Mとセパレータ120との間に配置され、ガスを通す空間を形成しつつ面圧を均等にして、メタルサポートセル110Mとセパレータ120との電気的な接触を補助する。集電補助層130は、金網状のエキスパンドメタルなどがあげられる。また、本特性や機能を他要素で持たせることができる場合、省くことも可能である。
【0034】
シール部160は、耐熱性およびシール性を有する材料から形成される。このような材料としては、例えば、バーミキュライト(蛭石)を主原料とするサーミキュライト(登録商標)が挙げられる。もしくは、ガラス成分からなるシールを用いることも可能である。
【0035】
上部集電板41は、セルユニット100で発電された電力を外部に出力する。
【0036】
上部集電板41は、
図8に示すように、Z方向から視たときに、セルユニット100と同様の外形形状を備える。上部集電板41は、外部の通電部材と接続される端子(不図示)を有する。上部集電板41は、ガスを透過させない導電性材料からなり、セルユニット100の電解質電極接合体111と対向する領域および端子の部分を除いて、絶縁材またはコーティングを用いて絶縁している。絶縁材は例えば、上部集電板41に酸化アルミニウムを固着させて構成する。
【0037】
上部集電板41は、
図9に示すように、Z方向の上方につれて幅が小さくなるように、Z方向に対して傾斜した傾斜面41aを有する。傾斜面41aは、X方向に沿って形成されている。常温時において、傾斜面41aは、ケーシング20に設けられた傾斜面20aに連結(係合)されている。
【0038】
下部集電板42は、セルユニット100で発電された電極を外部に出力する。
【0039】
下部集電板42は、
図8に示すように、Z方向から視たときに、セルユニット100と同様の外形形状を備える。下部集電板42は、外部の通電部材と接続される端子(不図示)を有する。下部集電板42は、ガスを透過させない導電性材料からなり、セルユニット100の電解質電極接合体111と対向する領域および端子の部分を除いて、絶縁材またはコーティングを用いて絶縁している。絶縁材は例えば、下部集電板42に酸化アルミニウムを固着させて構成する。
【0040】
<ケーシング20>
ケーシング20は、
図8に示すように、燃料電池スタック10のZ方向の上方に配置される。ケーシング20は、ガスを透過させない導電性材料からなる。ケーシング20は例えば金属からなる。
【0041】
ケーシング20は、
図9、
図10に示すように、XY平面に設けられる平面部21と、平面部21のY方向の両端部からZ方向下向きに延在する第1延在部22、第2延在部23と、第1延在部22および第2延在部23間に設けられる溝部24と、を有する。
【0042】
ケーシング20の第1延在部22および第2延在部23のY方向の内方には、
図9、
図10に示すように、Z方向の上方に連れて幅が小さくなるように、Z方向に対して傾斜した傾斜面20aが設けられる。
【0043】
溝部24は、常温時において、
図9に示すように、ケーシング20および上部集電板41の間に空間部62が形成されるように構成されている。また、溝部24は、燃料電池1の加熱時において、ケーシング20および上部集電板41の間の空間部62が封止されるように構成されている(
図11、
図12参照)。
【0044】
ケーシング20の線膨張率は、上部集電板41の線膨張率よりも大きいことが好ましい。この構成によれば、加熱時において、上部集電板41よりもケーシング20がY方向に伸張するため、燃料電池スタック10のZ方向の線膨張に伴ってケーシング20および上部集電板41の間の空間部62が封止される。このため、電解質電極接合体111に過大な圧縮荷重が作用することを好適に防止できる。このような材料として、ケーシング20はオーステナイト系SUSを用いることができ、上部集電板41はフェライト系SUSを用いることができる。
【0045】
<付与部材50>
付与部材50は、燃料電池スタック10に対してZ方向に沿ってスタッキング力Fを付与する(
図2参照)。付与部材50は、
図1、
図2に示すように、上部ケーシングフード51と、下部ケーシングフード52と、締結手段53と、を有する。
【0046】
上部ケーシングフード51は、
図2に示すように、燃料電池スタック10との間において、カソードガス流路である空間Vを形成する。
【0047】
上部ケーシングフード51は、
図1、
図2に示すように、燃料電池スタック10およびケーシング20を上方から覆う。上部ケーシングフード51は、箱形状からなり、下部が開口している。また、上部ケーシングフード51は、Z方向の下側にXY平面の外方に向けて延在する鍔部511を有する。鍔部511には、締結手段53が挿通する挿通孔(不図示)がZ方向に沿って形成されている。
【0048】
上部ケーシングフード51は、例えば金属からなり、内側面を絶縁材またはコーティングを用いて絶縁している。絶縁材は、例えば上部ケーシングフード51に酸化アルミニウムを固着させて構成する。
【0049】
下部ケーシングフード52は、
図2に示すように、外部から複数のセルユニット100にカソードガスを供給および排出するために設けられる。下部ケーシングフード52は、カソードガスが流入するカソードガス流入孔52aおよびカソードガスが流出するカソードガス流出孔52bを有する。
【0050】
下部ケーシングフード52は、
図2に示すように、下部集電板42の下方に設けられる。下部ケーシングフード52は、Z方向から視たときに上部ケーシングフード51の鍔部511と同様の形状を備える。
【0051】
下部ケーシングフード52は、鍔部511に形成された挿通孔と対応する位置に、Z方向に沿って挿通孔が形成されている。
【0052】
締結手段53は、上部ケーシングフード51の鍔部511に設けられた挿通孔および下部ケーシングフード52に設けられた挿通孔に挿通されて、上部ケーシングフード51および下部ケーシングフード52を締結する。締結手段53は、ボルトおよびナットである。
【0053】
<促進手段60>
促進手段60は、ケーシング20の線膨張による伸びを促進する。促進手段60は、
図9に示すように、カソードガスを加熱する加熱手段61と、加熱手段61によって加熱されたカソードガスが流通するガス流路62と、を有する。また、促進手段60は、加熱手段61によって加熱されたカソードガスを上部ケーシングフード51および燃料電池スタック10の間に形成される空間Vに供給するブロワー63と、を有する。
【0054】
加熱手段61は、上部ケーシングフード51および燃料電池スタック10の間に形成される空間Vに流入するカソードガスを加熱する。加熱手段61としては、一般的な燃料電池システムに含まれる熱交換器を用いることができる。
【0055】
ガス流路62は、
図8、
図9に示すように、ケーシング20および上部集電板41の間に設けられる。ガス流路62は、X方向に沿って形成される。ガス流路62は、上部ケーシングフード51および燃料電池スタック10の間に形成される空間Vと連通して設けられる。
【0056】
次に、
図11〜
図15を参照して、本実施形態に係る燃料電池1の作用効果について説明する。
図11は、ケーシング20の溝部24がY方向に伸張する前(左図)と後(右図)の様子を示す図である。
図12は、ケーシング20の溝部24がY方向に伸張する前(上図)と後(下図)の様子を示す部分拡大図である。
図13は、ケーシング20の溝部24のY方向に沿う伸張長さの、X方向に沿う分布を説明するための図である。
図14は、常温時(左のグラフ)および加熱時(右のグラフ)におけるケーシング20の温度分布を示すグラフである。
図15は、常温時(左図)および加熱時(右図)における燃料電池1の側面図である。
【0057】
まず、加熱手段61によって加熱されたカソードガスを、上部ケーシングフード51および燃料電池スタック10の間に形成される空間Vに供給する(
図2参照)。そして、空間Vに供給されたカソードガスは、空間Vと連通するガス流路62および燃料電池スタック10の流路部121に流入する。
【0058】
燃料電池スタック10に流入する高温のカソードガスに起因して、電解質電極接合体111はZ方向に線膨張する。また、ガス流路62に流入する高温のカソードガスに起因して、ケーシング20の溝部24はY方向に伸張する。この結果、
図11、
図12に示すように、上部集電板41の傾斜面41aがケーシング20の傾斜面20aに沿うように、上部集電板41がケーシング20に向けて移動する(
図9参照)。したがって、電解質電極接合体111のZ方向の線膨張による伸びが吸収されるため、電解質電極接合体111に過大な圧縮荷重が作用することを好適に抑制することができる。
【0059】
次に、ケーシング20の溝部24のY方向への線膨張の、X方向に沿う分布について説明する。
【0060】
ガス流路62に流入するカソードガスは、ガス流路62の入口側(
図13の左下側)から、ガス流路62の出口側(
図13の右上側)に連れて、徐々に温度が低下する。このため、
図14に示すように、常温時(
図14の左側)では入口から出口にかけてケーシング20の温度が均一であるのに対して、加熱時(
図14の右側)ではケーシング20の温度が全体的に上昇するとともに入口から出口にかけて温度が徐々に低下する。したがって、
図13において白抜きの矢印で示すように、ガス流路62の入口側の方が、ガス流路62の出口側に対して、ケーシング20の溝部24のY方向に伸張する長さが長くなる。
【0061】
一方、燃料電池スタック10の流路部121に流入するカソードガスも、ガス流路62に流入するカソードガスと同様に、入口側(
図13の左下側)から出口側(
図13の右上側)に連れて、徐々に温度が低下する。このため、
図15に示すように、加熱時において、入口側(
図15の各図の左側)の方が出口側(
図15の各図の右側)に対して、電解質電極接合体111がZ方向に線膨張する長さが大きくなる。
【0062】
以上のように加熱時において、ケーシング20のXY平面内の面内温度分布は、電解質電極接合体111の面内温度分布と同様となる。すなわち、電解質電極接合体111のZ方向の伸張が大きい箇所は、ケーシング20のY方向に伸張する長さが長い箇所に相当する。したがって、XY平面の全領域において、電解質電極接合体111に過大な圧縮荷重が作用することを防止できる。
【0063】
本実施形態では加熱時において、
図11に示すように、燃料電池スタック10がZ方向に沿って線膨張することに伴って、上部集電板41がケーシング20に向けて移動してガス流路62は封止される。例えば、上部集電板41がケーシング20に向けて移動した際にガス流路62が封止されない構成である場合、加熱後の発電運転中においてガス流路62に流入するガスによって、燃料電池スタックが意図せず冷却されて、燃料電池の性能が低下する可能性がある。これに対して、本実施形態に係る燃料電池1によれば、加熱時において、ガス流路62は封止されるため、燃料電池スタック10が意図せず冷却されることを防止できる。なお、上部集電板41がケーシング20に向けて移動した際にガス流路62が封止されない構成も、本発明に含まれるものとする。
【0064】
また例えば、先行技術文献に開示されているように弾性体が設けられている場合、弾性体が設けられる位置に対応する電解質電極接合体111に対して、弾性体からの反力によって応力が集中する可能性がある。これに対して、本実施形態に係る燃料電池1によれば、ガス流路62に上部集電板41が移動するため、電解質電極接合体111に対して応力が集中することを防止できる。
【0065】
次に、
図16を参照して、燃料電池システム200の構成について説明する。
図16は、燃料電池システム200を示す概略構成図である。
【0066】
アノードガスは、
図16に示すように、燃料電池スタック10に供給される。カソードガスは、加熱手段61を介して、燃料電池スタック10に供給される。燃料電池スタック10には、第1温度計220が設置されており、燃料電池スタック10内の温度が計測される。燃料電池スタック10から排出されたアノードガスおよびカソードガスは、排気熱交換器240を介して、排出される。燃料電池スタック10および排気熱交換器240の間のカソードガスが流通する配管には第2温度計230が設置され、配管内のカソードガスの温度が計測される。加熱手段61の制御、第1温度計220および第2温度計230の測定等は、制御部210によって行われる。
【0067】
次に、
図17を参照して、燃料電池システム200の使用方法について説明する。
図17は、燃料電池システム200の使用方法を示すフローチャートである。
【0068】
まず、燃料電池スタック10の加熱が必要か判断される(ステップS01)。ステップS01において、NOと判断された場合は、ステップS05に移行する。ステップS05については後述する。一方、ステップS01において、YESと判断された場合は、ステップS02に移行する。
【0069】
ステップS02では、カソードガスが供給される。次に、制御部210によって、加熱手段61が起動される。
【0070】
次に、燃料電池スタック10のカソードガス流出口の温度が所定の温度Ts以上であるかが判断される(ステップS04)。ステップS04において、NOと判断された場合は、制御が終了する。一方、ステップS04において、YESと判断された場合は、ステップS05に移行する。
【0071】
ステップS05では、燃料電池スタック10を発電する操作が行われる。以上の工程の後に、燃料電池システム200の制御が終了する。
【0072】
以上説明したように、本実施形態に係る燃料電池1は、電解質電極接合体111およびセパレータ120を含むセルユニット100を複数積層して構成される燃料電池スタック10を有する。また、燃料電池1は、燃料電池スタック10のZ方向の上方側に配置されるケーシング20と、ケーシング20を介して燃料電池スタック10に対してZ方向に沿ってスタッキング力Fを付与する付与部材50と、を有する。また、燃料電池1は、ケーシング20の線膨張による伸びを促進する促進手段60を有する。また、促進手段60は、燃料電池スタック10の最上部に設けられる上部集電板41およびケーシング20の間に設けられるとともに燃料電池スタック10のZ方向の線膨張を吸収する空間部62を有する。また、上部集電板41およびケーシング20のそれぞれに、Z方向に対して傾斜した傾斜面20a、41aが設けられる。当該傾斜面20a、41aにおいて、空間部62を介して上部集電板41およびケーシング20は連結されてなる。このように構成された燃料電池1によれば、加熱時において促進手段60によって、ケーシング20の線膨張による伸びが促進される。これによって、燃料電池スタック10のZ方向の線膨張に伴って、上部集電板41の傾斜面41aがケーシング20の傾斜面20aに沿うように、上部集電板41が空間部62に入り込む。したがって、電解質電極接合体111のZ方向の線膨張による伸びが吸収されるため、電解質電極接合体111に過大な圧縮荷重が作用することを好適に抑制することができる。
【0073】
また、促進手段60は、ガスを加熱する加熱手段61をさらに有する。また、空間部62は、加熱手段61によって加熱されたガスが流通するガス流路62である。このように構成された燃料電池1によれば、加熱されたガスがガス流路62を流通することによって、ケーシング20の線膨張による伸びが促進される。これによって、燃料電池スタック10のZ方向の線膨張に伴って、上部集電板41が空間部62に入り込む。したがって、電解質電極接合体111のZ方向の線膨張による伸びが吸収されるため、電解質電極接合体111に過大な圧縮荷重が作用することを好適に抑制することができる。
【0074】
また、ガス流路62を流通するガスは、燃料電池スタック10の起動時に燃料電池スタック10内を流通する加熱ガスである。このように構成された燃料電池1によれば、燃料電池スタック10起動用の加熱ガスが、ガス流路62を流通する。このため、上述したように、加熱時においてケーシング20のXY平面内の面内温度分布は、電解質電極接合体111の面内温度分布と同様となる。したがって、XY平面の全領域において、電解質電極接合体111に過大な圧縮荷重が作用することを防止できる。
【0075】
また、ガス流路62は、付与部材50および燃料電池スタック10の間に設けられたカソードガス流路である空間Vと連通して設けられる。このように構成された燃料電池1によれば、簡便な構造で加熱されたガスがガス流路62に流入する。
【0076】
また、運転時において、燃料電池スタック10がZ方向に沿って線膨張することに伴って、上部集電板41がケーシング20に向けて移動することによって、ガス流路62は封止される。このように構成された燃料電池1によれば、運転中に上部集電板41がカソードガスにより意図せず冷却されることを防止できる。
【0077】
また、ケーシング20の線膨張率は、上部集電板41の線膨張率よりも大きい。このように構成された燃料電池1によれば、加熱時において、上部集電板41よりもケーシング20がY方向に伸張する。このため、より確実に上部集電板41がケーシング20に向けて移動することができる。したがって、電解質電極接合体111に過大な圧縮荷重が作用することを好適に防止できる。
【0078】
以上、実施形態を通じて、本発明に係る燃料電池1を説明したが、本発明は実施形態において説明した内容のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0079】
例えば、上述した実施形態では、ケーシング20の溝部24は、
図10に示すように、入口から出口にかけて同じ高さとなるように構成された。しかしながら、ケーシング320の溝部324は、
図18に示すように、入口に対して出口が高くなるようにX方向(流通方向)に対して傾斜して構成されてもよい。この構成によれば、出口側では入口側よりも高温まで、燃料電池スタック10のZ方向の線膨張を吸収できる。したがって、
図20に示すように、入口側よりも出口側での温度が高くなる運転時において、好適に燃料電池スタック10のZ方向の線膨張を吸収できる。このとき、
図19に示すように、運転時において、出口側(
図19の各図の右側)の方が入口側(
図19の各図の左側)に対して、電解質電極接合体111がZ方向に線膨張する長さが大きくなる。
【0080】
また、上述した実施形態では、
図10に示すように、ケーシング20のガス流路62に対向する面は平面形状を備えていた。しかしながら、
図21、
図22に示すように、ケーシング420のガス流路462に対向する面420aには、凹凸形状が繰り返し構成されていてもよい。この構成によれば、実施形態に係るケーシング20と比較してケーシング420の伝熱面積が大きいため、ケーシング420の線膨張による伸びがより促進される。
【0081】
また、上述した実施形態では、燃料電池スタック10はオープンカソード型の構造であったが、カソードガス流路を内部マニホールド型とした構造であってもよい。
【0082】
また、上述した実施形態では、ガス流路62は上部集電板41の上方にのみ形成されていたが、これに加えてまたは替えて、ガス流路は下部集電板42の下方に形成されていてもよい。
【0083】
また、上述した実施形態では、傾斜面20a、41aは、連続的にテーパ形状に設けられた。しかしながら、傾斜面は階段状に構成されていてもよい。
【0084】
また、上述した実施形態では、起動時においてカソードガスをガス流路62に供給することによって、ケーシング20をY方向に線膨張させた。しかしながら、
図23に示すように、燃料電池システム200から独立した別の加熱ガスを供給することによって、ケーシング20をY方向に熱膨張させてもよい。