(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態におけるモータシステムの制御方法及びモータシステムの制御装置について説明する。
【0009】
図1は、本実施形態のモータシステム100の概略構成図である。モータシステム100が電動車両に用いられる場合には、モータジェネレータ4が車両の駆動源となる。
【0010】
モータシステム100は、直列に接続されるバッテリ1、コンバータ2、インバータ3、及び、モータジェネレータ4を有する。モータシステム100は、さらに、モータジェネレータ4と接続される出力軸5と、コントローラ6とを備える。
【0011】
バッテリ1は、充放電可能な二次電池である。コンバータ2は、昇圧コンバータであって、バッテリ1から供給される直流電力を昇圧し、昇圧した電力をインバータ3へ供給可能に構成されている。インバータ3は、コンバータ2から供給される直流電力を交流電力へ変換し、変換した交流電力をモータジェネレータ4へ供給する。
【0012】
モータジェネレータ4には、出力軸5が接続されている。モータジェネレータ4は、モータ又はジェネレータのいずれかで機能する。モータジェネレータ4が力行運転される場合には、コンバータ2からインバータ3及びモータジェネレータ4に対して電力が供給される。モータジェネレータ4が回生運転される場合には、モータジェネレータ4にて発生する回生電力はインバータ3及びコンバータ2を介してバッテリ1に充電される。
【0013】
モータジェネレータ4には、ロータの回転角度や回転数などを検出するレゾルバ41が設けられている。なお、モータシステム100が電動車両に用いられる場合には、モータジェネレータ4の回転出力に伴って出力軸5に接続される駆動輪(不図示)が駆動される。
【0014】
コントローラ6は、コンバータ2、及び、インバータ3を制御するとともに、レゾルバ41からモータジェネレータ4の回転角や回転数などを受け付ける。コントローラ6は、所定の処理をプログラムとして記憶しており、プログラムを実行することで、プログラムに対応する処理を実行可能に構成されている。
【0015】
図2は、モータシステム100の回路図である。
【0016】
バッテリ1から供給される直流電力は、コンバータ2において昇圧されてインバータ3へと供給される。コンバータ2のバッテリ1側の端子電圧であるバッテリ側電圧V
1、及び、コンバータ2内を流れる電流I
lは、コンバータ2内に設けられる電圧センサ22、及び、電流センサ26により取得される。また、コンバータ2のインバータ3側の端子電圧であるインバータ側電圧V
2は、コンバータ2の近傍に設けられる電圧センサ28により取得される。
【0017】
コンバータ2からインバータ3へ出力される電力を、インバータ電流I
0と称する。インバータ電流I
0は、コンバータ2からインバータ3へ出力される場合には正であり、コンバータ2に対してインバータ3から入力される場合には負であるものとする。なお、コンバータ2の詳細の構成は、後に、
図3を用いて説明する。
【0018】
インバータ3は、三相インバータであり、複数のスイッチング素子により構成される。インバータ3は、コンバータ2から入力される直流電力を三相の交流電力に変換し、モータジェネレータ4に供給する。また、インバータ3は、モータジェネレータ4における交流の回生電力を、バッテリ1にて充電可能な直流電力に変換する。
【0019】
レゾルバ41は、モータジェネレータ4の回転数Nを検出し、検出した回転数Nをコントローラ6に送信する。電流センサ42は、インバータ3とモータジェネレータ4との間に設けられ、インバータ3とモータジェネレータ4との間のUVW相の電流を検出し、駆動電流I
pをコントローラ6へと送信する。駆動電流I
pは、検出されたUVW相の電流を示す。なお、この図において、モータジェネレータ4と接続される出力軸5は省略されている。
【0020】
コントローラ6は、上位装置にて算出されるモータジェネレータ4に対するトルク指令値T
*、レゾルバ41により検出される回転数N、電流センサ42にて検出される駆動電流I
p、及び、電圧センサ28にて検出されるインバータ側電圧V
2に応じて、スイッチングパターンを生成する。コントローラ6は、生成したスイッチングパターンをゲート信号として、インバータ3へ出力する。このゲート信号に応じてインバータ3が駆動することで、モータジェネレータ4は所望のトルクで回転する。
【0021】
コントローラ6は、モータジェネレータ4のトルク指令値T
*と回転数Nに応じて、インバータ3への印加電圧となるコンバータ2の目標インバータ側電圧V
2*を定める。コントローラ6は、目標インバータ側電圧V
2*に応じたデューティ比Dを生成し、生成したデューティ比Dをゲート信号として、コンバータ2へ出力する。デューティ比Dに応じてスイッチング素子24a、24bが制御されることで、所望のインバータ側電圧V
2を得ることができる。
【0022】
図3は、
図2におけるコンバータ2の近傍の詳細な回路図である。
【0023】
図3に示されるように、コンデンサ21は、バッテリ1からの電源供給線の正極と負極との間に設けられる。コンデンサ21により、バッテリ1からコンバータ2への供給電源に含まれるノイズが抑制される。コンデンサ21の近傍には、電圧センサ22が設けられている。電圧センサ22は、コンデンサ21の電圧を測定することで、バッテリ側電圧V
1を検出すると、検出したバッテリ側電圧V
1をコントローラ6に送信する。
【0024】
リアクトル23(インダクタンス)は、一端がバッテリ1の正極と接続され、他端がスイッチング素子24aの一端及びスイッチング素子24bの一端と接続される。スイッチング素子24aの他端がインバータ3の出力側の正極となり、スイッチング素子24bの他端がインバータ3の出力側の負極となる。スイッチング素子24a、24bは、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などで構成される。
【0025】
スイッチング素子24a、24bのそれぞれと並列に、ダイオード25a、25bが接続される。ダイオード25aは、順方向がスイッチング素子24aの一端から他端へと向かう方向となるように設けられる。ダイオード25bは、順方向がスイッチング素子24bの一端から他端へと向かう方向となるように設けられる。
【0026】
コンバータ2においては、スイッチング素子24a、24bが制御され、ターンオン状態とターンオフ状態と称される状態が繰り返されることで、昇圧が行われる。以下ではこのメカニズムの詳細について説明する。
【0027】
まず、スイッチング素子24aがオフとされ、スイッチング素子24bがオンとされるターンオン状態について検討する。ターンオン状態では、バッテリ1の正極から出力される電流は、リアクトル23、及び、スイッチング素子24bを通り、バッテリ1の負極へと流れる(ルート(a))。そのため、リアクトル23には、バッテリ1からの電気エネルギーが蓄積される。
【0028】
その後、スイッチング素子24aがオンとされ、スイッチング素子24bがオフとされるターンオフ状態となる。ターンオフ状態では、リアクトル23に蓄積された電力が放電され、インバータ電流I
0がスイッチング素子24aを介してインバータ3へと供給される(ルート(b))。この放電により、インバータ3には、バッテリ1の供給電圧よりも高い電圧が印加される。
【0029】
コンバータ2においては、ターンオン状態とターンオフ状態との繰り返し期間に対するターンオン状態の時間の割合であるデューティ比Dを変更することで、インバータ側電圧V
2を制御できる。
【0030】
リアクトル23と、スイッチング素子24a及びスイッチング素子24bとの間には、電流センサ26が設けられる。電流センサ26は、リアクトル23に流れるリアクトル電流I
lを検出し、リアクトル電流I
lをコントローラ6に送信する。
【0031】
コンデンサ27は、コンバータ2のインバータ3側の正極と負極との端子間に設けられる。コンデンサ27によって、スイッチング素子24a、24bのスイッチングによる電圧リップルが抑制される。電圧センサ28は、コンデンサ27の近傍に設けられ、コンデンサ27の電圧を測定することでインバータ側電圧V
2を取得し、インバータ側電圧V
2をコントローラ6へ送信する。
【0032】
コンバータ2は、通過電力の増加などに起因する温度上昇や、以下に示すインバータ側電圧V
2の振動に起因して、性能が低下するおそれがある。そこで、コントローラ6は、コンバータ2の通過電力Pが制限電力P
limを超えないように、モータジェネレータ4の動作点を制御する。
【0033】
コントローラ6は、制限電力P
limに応じて、コンバータ2の受け持つ電力P(以下では、コンバータ2の通過電力Pと称する)を制限する。コンバータ2の通過電力Pの制限電力P
limは、モータジェネレータ4が力行運転する場合と、モータジェネレータ4が回生運転している場合とで算出方法が異なる。
【0034】
まず、モータジェネレータ4が力行運転する場合、すなわち、コンバータ2の通過電力Pが正である場合について検討する。この場合には、コントローラ6は、制限電力P
limとして出力制限電力P
outを算出する。
【0035】
本実施形態では、コンバータ2からインバータ3に対して一定の電力が供給されることで、モータジェネレータ4は一定電力で力行運転している。モータジェネレータ4が一定電力で制御される場合には、モータジェネレータ4のインピーダンスの抵抗成分R
0は負性抵抗特性を示し、この負性抵抗特性がインバータ側電圧V
2の振動の原因になりえる。そこで、以下では、この負性抵抗特性に起因する振動の抑制条件について説明する。
【0036】
図4は、インバータ側電圧V
2とインバータ電流I
0との関係を示すグラフである。
【0037】
モータジェネレータ4に供給される電力は、コンバータ2の通過電力Pと略等しい。この通過電力Pは、インバータ側電圧V
2とインバータ電流I
0との積で求められる。モータジェネレータ4は定電力制御されており通過電力Pが一定のため、インバータ側電圧V
2とインバータ電流I
0とは反比例の関係となる。
【0038】
グラフに示されるように、インバータ側電圧V
2が大きくなるほどインバータ電流I
0が小さくなる。この特性は負性抵抗特性と称され、一般的な印加電圧に応じて電流が大きくなる特性とは逆の特性を示す。
【0039】
ある動作点においてインバータ側電圧V
2とインバータ電流I
0との関係を線形近似すると、次式が求められる。なお、モータジェネレータ4のインピーダンスの抵抗成分R
0は、コンバータ2の通過電力Pが正の場合には正である。
【0041】
ただし、I
ofsは線形近似の直線のI
0軸の切片とする。例えば、モータジェネレータ4のある動作点において、インバータ側電圧V
2がV
10であり、インバータ電流I
0がI
10である場合には、モータジェネレータ4の抵抗成分R
0は、次式のように示される。
【0043】
この抵抗成分R
0などを用いて、バッテリ側電圧V
1からインバータ側電圧V
2までの伝達特性を示せば、次式となる。
【0045】
ただし、L[H]はリアクトル23のインダクタンスとし、C[F]はコンデンサ27の容量とし、R[Ω]はターンオン状態のコンバータ2の抵抗成分とし、Dはデューティ比とする。
【0046】
ここで、インバータ側電圧V
2が発散せずに安定するためには、式(3)前半の分母において支配的なパラメータである「s」の係数の「R/L−1/R
0C」が正となる必要がある。そのため、抵抗成分R
0は、次式の条件を満たすように設定される。
【0048】
また、モータジェネレータ4において、印加されるインバータ側電圧V
2、流れるインバータ電流I
0、抵抗成分R
0、及び、電力P(コンバータ2の通過電力Pと等しい)について、次式の関係が知られている。
【0050】
式(4)と式(5)とから、次式が求められる。
【0052】
これにより、インバータ側電圧V
2が発散せずに安定するための出力制限電力P
outは次式で示される。
【0054】
なお、コンバータ2におけるバッテリ側電圧V
1からインバータ側電圧V
2までの伝達特性は、式(3)以外の式でも示すことができる。インバータ側電圧V
2を入力としインバータ3へと流れるインバータ電流I
0を出力とする応答特性Gを考慮して、伝達特性を求めてもよい。なお、この応答特性Gは、コンバータ2が受け持つ電力Pがインバータ3に印加される場合にインバータ3に流れ込むインバータ電流I
0の応答特性Gとも表現できる。応答特性Gを考慮して伝達特性を算出することで、インバータ側電圧V
2の振動が抑制される出力制限電力P
outをより正確に算出できる。
【0055】
なお、式(7)においては、モータジェネレータ4の負性抵抗特性の影響のみが考慮され、インバータ3の応答特性Gが考慮されていない。応答特性Gの遅れが小さいほど、負性抵抗特性の影響は強くなる。そのため、応答特性Gの遅れを考慮すると、負性抵抗特性の影響が小さくなり、振動抑制の基準が緩くなる。したがって、出力制限電力P
outは、式(7)を用いて算出する場合よりも大きくなる。このように、応答特性Gの遅れが考慮されずに算出される式(7)は比較的厳しい基準であるため、式(7)を用いて出力制限電力P
outを設定すれば、インバータ側電圧V
2の振動を抑制できる。
【0056】
次に、モータジェネレータ4が回生運転する場合、すなわち、コンバータ2の通過電力Pが負である場合について検討する。この場合には、コントローラ6は、制限電力P
limとして、入力制限電力P
inが算出される。
【0057】
なお、インバータ3からコンバータ2に向かって流れるインバータ電流I
0は、負で示される。そのため、モータジェネレータ4の抵抗成分R
0は負となる。これは、抵抗成分R
0が、インバータ側電圧V
2とインバータ電流I
0とにより算出されるためである。同様に、コンバータ2の通過電力Pは、インバータ側電圧V
2とインバータ電流I
0とにより算出されるため、負となる。
【0058】
コントローラ6は、コンバータ2の通過電力Pが入力制限電力P
inを下回らないように、モータジェネレータ4の動作点を制御する。
【0059】
上述のインバータ3におけるインバータ電流I
0の応答特性Gには遅れが含まれて、この応答特性Gの遅れに起因して、インバータ側電圧V
2が振動するおそれがある。この応答特性Gは、次式の2次遅れ系で示すことができる。
【0061】
ただし、ζ
2は2次遅れ系の減衰係数であり、f
2は2次遅れ系における固有振動周波数である。ζ
2及びf
2は、ともにモータジェネレータ4の動作点により定まる。なお、固有振動周波数f
2が低い(固有振動周波数f
2と対応する振動周波数ω
2が高い)ほど応答特性Gは遅れが小さく、固有周波振動数f
2が高い(振動周波数ω
2が低い)ほど応答特性Gは遅れが大きい。
【0062】
(8)式の応答特性Gを考慮すれば、コンバータ2におけるバッテリ側電圧V
1からインバータ側電圧V
2までの伝達特性は、次式のように示される。
【0064】
バッテリ側電圧V
1からインバータ側電圧V
2までの伝達特性の振動を抑制するためには、式(9)の分母の多項式(特性方程式)がゼロとなる解の実部が負となる必要がある。これにより、次式の条件が求められる。
【0066】
ただし、抵抗成分R
0は負であるため、R
0maxは、式(9)から求められる負の最大値である。
【0067】
式(10)を、式(5)を用いて整理すると次式の条件が得られる。
【0069】
従って、インバータ側電圧V
2が発散せずに安定するための入力制限電力P
inは次式で求められる。
【0071】
コントローラ6は、コンバータ2の通過電力Pが入力制限電力P
inを下回らないように、モータジェネレータ4の動作点を制御する。
【0072】
次に、コントローラ6により行われる制限制御について説明する。
【0073】
図5は、制限制御を示すフローチャートである。
【0074】
ステップS1において、コントローラ6は、電圧センサ22により取得されるバッテリ側電圧V
1、電圧センサ28により取得されるインバータ側電圧V
2、レゾルバ41により取得されるモータジェネレータ4の回転数Nなどの、モータシステム100において検出されるパラメータを読み込む。
【0075】
ステップS2において、コントローラ6は、式(8)に示される応答特性Gなどの算出に必要なパラメータを決定する。具体的には、コントローラ6は、モータジェネレータ4の動作点に応じて減衰係数ζ
2を定める。コントローラ6は、モータジェネレータ4の回転数Nに応じた振動周波数ω
2を求める。回転数Nと振動周波数ω
2とは、
図6に示される相関関係がある。そのため、コントローラ6は、この相関関係と回転数Nとから振動周波数ω
2を求めてもよい。コントローラ6は、振動周波数ω
2に応じて固有振動周波数f
2を求める。
【0076】
ステップS3においては、コントローラ6は、制限電力P
limを求める。ステップS3には、ステップS31とS32との処理が含まれる。
【0077】
まず、ステップS31においては、コントローラ6は、通過電力Pが負である場合の入力制限電力P
inを、式(9)により算出されるR
0maxに基づいて式(12)を用いて求める。
【0078】
具体的には、コントローラ6は、ステップS1にて取得されるバッテリ側電圧V
1、及び、インバータ側電圧V
2や、ステップS2にて算出される減衰係数ζ
2、及び、固有振動周波数f
2などにより、式(9)を用いて、R
0maxを算出する。そして、コントローラ6は、算出されたR
0maxとインバータ側電圧V
2とから、式(12)に基づいて入力制限電力P
inを求める。コントローラ6は、減衰係数ζ
2、固有振動周波数f
2、バッテリ側電圧V
1、及び、インバータ側電圧V
2と、入力制限電力P
inとの対応関係を示すマップを記憶しておき、各パラメータとマップとを用いて入力制限電力P
inを決定してもよい。
【0079】
次に、ステップS32においては、コントローラ6は、通過電力Pが正である場合の出力制限電力P
outを求める。ステップS32には、ステップS321とS322との処理が含まれる。
【0080】
ステップS321においては、コントローラ6は、予め定められたR、L、Cの値と、ステップS1にて取得したインバータ側電圧V
2とを用いて、式(7)より出力制限電力P
out*を算出する。
【0081】
ステップS322においては、コントローラ6は、応答特性Gの遅れを考慮するために、出力制限電力P
outを補正して出力制限電力P
out_finを算出する。
図7に示されるように、応答特性Gの遅れdが大きいほど、補正量Δがプラスに大きくなる。コントローラ6は、
図6を用いて遅れdに応じた補正量Δを求め、出力制限電力P
outに補正量Δを加算することで出力制限電力P
out_finを算出する。なお、出力制限電力P
outには、応答特性Gの遅れが考慮されていることを示すために、「
_fin」がサフィックスとして付されている。
【0082】
なお、上述の説明では、ステップS321において、式(7)を用いて出力制限電力P
outを求めたがこれに限らない。入力制限電力P
inと同様に、式(8)に示される応答特性Gに基づき、式(9)から求められるR
0maxを用いて、式(11)のように出力制限電力P
outを求めてもよい。
【0083】
ステップS4においては、コントローラ6は、コンバータ2の通過電力Pが制限電力P
limを超えないように、モータジェネレータ4の動作点を決定する。具体的には、コントローラ6は、コンバータ2の通過電力Pが正の場合には、通過電力Pが出力制限電力P
outを正の側に超えないように、モータジェネレータ4の動作点を定める。コントローラ6は、通過電力Pが負の場合には、通過電力Pが入力制限電力P
inを負の側に超えないように、モータジェネレータ4の動作点を定める。このように、通過電力Pが、制限電力P
limにより定まる振動抑制基準を満たすように、モータジェネレータ4の動作点が制御される。
【0084】
図8は、出力制限電力P
out及び入力制限電力P
inとインバータ側電圧V
2との関係を示す特性図である。この図によれば、出力制限電力P
out及び入力制限電力P
inは、ともにインバータ側電圧V
2が高くなると絶対値が大きくなる。これは式(7)、(12)に示される。
【0085】
また、応答特性Gにおける遅れに応じても、出力制限電力P
out及び入力制限電力P
inは変更されうる。
【0086】
通過電力Pが正の場合には、応答特性Gの遅れは小さくなるほど、負性抵抗特性の影響は強くなるので、振動抑制基準が厳しくなり、出力制限電力P
outは正の方向において小さくなる。
【0087】
一方、通過電力Pが負の場合には、応答特性Gの遅れが大きいほどシステムは不安定になる。従って、入力制限電力P
inは小さくなる。
【0088】
なお、応答特性Gが既知の場合には、通過電力P及び応答特性Gに基づいて、出力制限電力P
out及び入力制限電力P
inが算出される。なお、出力制限電力P
out及び入力制限電力P
inは、ばらつきを考慮して、例えば10%程度のマージンを持つように厳しく設定されてもよい。
【0089】
次に、
図9A、9B、10A、10Bを参照し、コンバータ2の通過電力が正の場合において、目標インバータ側電圧V
2*に従ってインバータ側電圧V
2を減少させる際のタイムチャートを示す。
【0090】
図9A、9Bは、比較例におけるタイムチャートである。
図9Aにおいては縦軸がインバータ側電圧V
2を示し、
図9Bにおいては縦軸が通過電力Pを示す。
【0091】
図10A、10Bは、本実施形態におけるタイムチャートである。
図10Aにおいては縦軸がインバータ側電圧V
2を示し、
図10Bにおいては縦軸が通過電力Pを示す。
【0092】
図9Bに示されるように、比較例においては、コンバータ2の通過電力Pは制限されておらず一定である。そして、
図9Aに示されるように、コンバータ2の通過電力Pが正であるため、実線で示されるように目標インバータ側電圧V
2*を小さくなるように制御しても、モータジェネレータ4の負性抵抗特性によって、点線で示されるようにインバータ側電圧V
2は振動してしまう。
【0093】
図10Bに示されるように、本実施形態においては、コンバータ2の通過電力Pが正であるため、コンバータ2の通過電力Pは出力制限電力P
outにより制限される。そのため、
図10Aに示されるように、目標インバータ側電圧V
2*が制限されて小さくなることによって、負性抵抗特性に起因するインバータ側電圧V
2の振動が抑制される。このように、通過電力Pが制限されることで、インバータ側電圧V
2の振動を抑制できる。
【0094】
第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0095】
第1実施形態のモータシステム100の制御方法は、モータジェネレータ4の動作点に応じて制限電力P
lim(入力制限電力P
in及び出力制限電力P
out)を求める制限電力算出ステップ(S3)と、モータジェネレータ4の動作点を制御することで、コンバータ2の通過電力Pが制限電力P
limを超えないように制限する制御ステップ(S4)とを有する。換言すれば、S4においては、コントローラ6は、通過電力Pが、制限電力P
limと示される振動が抑制される電力基準を満たすように、モータジェネレータ4の動作点を制御する。
【0096】
モータジェネレータ4の動作点によっては、インバータ側電圧V
2が振動してしまうことがある。このような動作点を回避するように、コンバータ2の通過電力Pが制限電力P
limを超えないように、モータジェネレータ4の動作点を制御することで、インバータ側電圧V
2の振動を抑制できる。このようにして、モータシステム100においてインバータ側電圧V
2の過電圧、インバータ電流I
0の過電流や、モータジェネレータ4のトルク振動の発生を防ぐことができる。
【0097】
第1実施形態のモータシステム100の制御方法によれば、制限電力算出ステップ(S3)では、コンバータ2の制限電力P
limは、コンバータ2のインバータ側電圧V
2が高いほど、絶対値が大きくなるように設定される。
【0098】
式(12)によれば、インバータ側電圧V
2が高いほど、入力制限電力P
inの絶対値は大きくなる。式(7)によれば、インバータ側電圧V
2が高いほど、出力制限電力P
outの絶対値は大きくなる。
【0099】
このように、インバータ側電圧V
2が高いほど、モータシステム100の安定性が高まり、インバータ側電圧V
2が安定する。そのため、制限電力P
lim(入力制限電力P
in及び出力制限電力P
out)の絶対値を大きく設定しても、インバータ側電圧V
2の振動を抑制できる。
【0100】
第1実施形態のモータシステム100の制御方法によれば、制限電力算出ステップ(S3)では、制限電力P
limは、インバータ側電圧V
2を入力としインバータ3へと流れるインバータ電流I
0を出力とする応答特性Gに応じて変更される。
【0101】
通過電力Pが負である場合の入力制限電力P
inの算出では、ステップS31において、応答特性Gに基づく式(12)が用いられる。通過電力Pが正である場合の出力制限電力P
outの算出では、ステップS322において、応答特性Gの遅れdに応じた補正量Δによる補正が行われる。
【0102】
応答特性Gの遅れは、モータシステム100の安定性に影響を与える。そのため、この応答特性の遅れに応じてコンバータ2の制限電力P
limの算出や補正などをすることで、インバータ側電圧V
2の振動を抑制できる。
【0103】
第1実施形態のモータシステム100の制御方法において、コンバータ2の通過電力Pが正である場合には、ステップS322において、応答特性の遅れdに応じて大きくなる補正量Δが加算されて補正が行われる。
【0104】
コンバータ2の通過電力Pが正である場合には、モータジェネレータ4の定電力制御に起因する抵抗成分R
0の負性抵抗特性の影響で、モータシステム100の安定性が低下する。応答特性の遅れが小さいほど、負性抵抗特性の影響が強くなる。そのため、正の方向の補正量Δが小さくなり、出力制限電力P
outは小さくなる。このように、応答特性の遅れが小さいほど、より小さな出力制限電力P
outでもインバータ側電圧V
2の振動を防止できる。
【0105】
第1実施形態のモータシステム100の制御方法において、コンバータ2の通過電力Pが負である場合には、ステップS31において、式(8)で示される応答特性Gが考慮されてより算出される。
【0106】
コンバータ2の通過電力Pが負である場合には、応答特性Gの遅れがインバータ側電圧V
2の振動の支配的な原因である。そのため、応答特性Gの遅れが小さいほどシステムが安定するので、負の値である入力制限電力P
inの絶対値は小さくく設定できる。このように、応答特性Gの遅れが小さいほど、入力制限電力P
inが大きくても、インバータ側電圧V
2の振動を防止できる。
【0107】
(変形例)
上述の実施形態においては、モータシステム100に、1つのモータジェネレータ4が設けられる例について説明したが、これに限らない。本変形例においては、モータシステム100に、2つの第1モータジェネレータ4A、及び、第2モータジェネレータ4Bが設けられる例について説明する。
【0108】
図11は、変形例のモータシステム100の構成を示す図である。たとえば、モータシステム100は、ハイブリッド車両などに用いられる。本変形例のモータシステム100は、
図1に示されるモータシステム100と同様に出力軸5の駆動に用いられる第1インバータ3A、及び、第1モータジェネレータ4Aを有する。
【0109】
モータシステム100は、さらに、第2インバータ3B、及び、第2モータジェネレータ4Bを有する。第2インバータ3Bは、コンバータ2から供給される電圧を昇圧し、第2モータジェネレータ4Bへと供給する。第2モータジェネレータ4Bは、エンジン7のスタータとして機能する。なお、エンジン7と出力軸5との間にトルク伝達装置を備え、エンジン7の出力トルクが出力軸5へと伝達されてもよい。なお、第2モータジェネレータ4Bにはレゾルバ41Bが設けられている。エンジン7には、クランクシャフトの回転角度あるいは回転数を検出するレゾルバ71が設けられている。
【0110】
コントローラ6は、コンバータ2、第1インバータ3A、第2インバータ3Bを制御可能に構成されるとともに、レゾルバ41Aから第1モータジェネレータ4Aの回転数、レゾルバ41Bから第2モータジェネレータ4Bの回転数、及び、レゾルバ71からエンジン7の回転数を受け付ける。
【0111】
図12は、モータシステム100の回路図である。コントローラ6には、上位装置にて算出される第1モータジェネレータ4Aに対するトルク指令値T
a*及び第2モータジェネレータ4Bに対するトルク指令値T
b*、レゾルバ41A、41Bにより検出される回転数N
a、N
b、電流センサ42A、42Bに基づいて検出される駆動電流I
pa、I
pb、及び、電圧センサ28にて検出されるインバータ側電圧V
2などが入力される。コントローラ6は、これらの入力に基づいて、コンバータ2、第1インバータ3A、及び、第2インバータ3Bなどを制御する。
【0112】
第1モータジェネレータ4Aに対する要求電力をP
a、第2モータジェネレータ4Bに対する要求電力P
bとすると、コンバータ2の通過電力PはP
aとP
bとの和で示される。
【0113】
例えば、第1モータジェネレータ4A、及び、第2モータジェネレータ4Bがそれぞれ力行運転をする場合には、P
a及びP
bは、共に正となる(P
a>0、P
b>0)。第1モータジェネレータ4A、及び、第2モータジェネレータ4Bがそれぞれ回生運転をする場合には、P
a及びP
bは、共に負となる(P
a<0、P
b<0)。
【0114】
コントローラ6は、コンバータ2の通過電力Pに対して、
図5に示される制限制御を行う。ステップS4においては、コントローラ6は、P
aとP
bとの和が制限電力P
limに示される基準を満たすように、第1モータジェネレータ4A、及び、第2モータジェネレータ4Bを制御する。
【0115】
例えば、通過電力Pが負の場合には、第1モータジェネレータ4A、及び、第2モータジェネレータ4Bのいずれか一方を力行運転させることで、P
aとP
bとの和である通過電力Pが入力制限電力P
inを下回らないようにしてもよい。
【0116】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。