(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
[実施の形態1]
(通信装置の基本構成)
図1は、本実施の形態1に係るアンテナモジュール100が適用される通信装置10のブロック図の一例である。通信装置10は、たとえば、携帯電話、スマートフォンあるいはタブレットなどの携帯端末や、通信機能を備えたパーソナルコンピュータなどである。本実施の形態に係るアンテナモジュール100に用いられる電波の周波数帯域の一例は、たとえば28GHz、39GHzおよび60GHzを中心周波数とするミリ波帯の電波であるが、上記以外の周波数帯域の電波についても適用可能である。
【0013】
図1を参照して、通信装置10は、アンテナモジュール100と、ベースバンド信号処理回路を構成するBBIC200とを備える。アンテナモジュール100は、給電回路の一例であるRFIC110と、アンテナ装置120とを備える。通信装置10は、BBIC200からアンテナモジュール100へ伝達された信号を高周波信号にアップコンバートしてアンテナ装置120から放射するとともに、アンテナ装置120で受信した高周波信号をダウンコンバートしてBBIC200にて信号を処理する。
【0014】
図1では、説明を容易にするために、アンテナ装置120を構成する複数のアンテナ素子(放射電極)121のうち、4つのアンテナ素子121に対応する構成のみ示され、同様の構成を有する他のアンテナ素子121に対応する構成については省略されている。なお、
図1においては、アンテナ装置120が二次元のアレイ状に配置された複数のアンテナ素子121で形成される例を示しているが、アンテナ素子121は必ずしも複数である必要はなく、1つのアンテナ素子121でアンテナ装置120が形成される場合であってもよい。また、複数のアンテナ素子121が一列に配置された一次元アレイであってもよい。本実施の形態においては、アンテナ素子121は、略正方形の平板形状を有するパッチアンテナである。
【0015】
RFIC110は、スイッチ111A〜111D,113A〜113D,117と、パワーアンプ112AT〜112DTと、ローノイズアンプ112AR〜112DRと、減衰器114A〜114Dと、移相器115A〜115Dと、信号合成/分波器116と、ミキサ118と、増幅回路119とを備える。
【0016】
高周波信号を送信する場合には、スイッチ111A〜111D,113A〜113Dがパワーアンプ112AT〜112DT側へ切換えられるとともに、スイッチ117が増幅回路119の送信側アンプに接続される。高周波信号を受信する場合には、スイッチ111A〜111D,113A〜113Dがローノイズアンプ112AR〜112DR側へ切換えられるとともに、スイッチ117が増幅回路119の受信側アンプに接続される。
【0017】
BBIC200から伝達された信号は、増幅回路119で増幅され、ミキサ118でアップコンバートされる。アップコンバートされた高周波信号である送信信号は、信号合成/分波器116で4分波され、4つの信号経路を通過して、それぞれ異なるアンテナ素子121に給電される。このとき、各信号経路に配置された移相器115A〜115Dの移相度が個別に調整されることにより、アンテナ装置120の指向性を調整することができる。
【0018】
各アンテナ素子121で受信された高周波信号である受信信号は、それぞれ、異なる4つの信号経路を経由し、信号合成/分波器116で合波される。合波された受信信号は、ミキサ118でダウンコンバートされ、増幅回路119で増幅されてBBIC200へ伝達される。
【0019】
RFIC110は、例えば、上記回路構成を含む1チップの集積回路部品として形成される。あるいは、RFIC110における各アンテナ素子121に対応する機器(スイッチ、パワーアンプ、ローノイズアンプ、減衰器、移相器)については、対応するアンテナ素子121毎に1チップの集積回路部品として形成されてもよい。
【0020】
(アンテナモジュールの構成)
図2は、本実施の形態1におけるアンテナモジュール100の構成の詳細を説明するための図であり、上段に平面図が示されており、下段に給電点SP1を通る断面図が示されている。なお、
図2の上段の平面図においては、内部の構成を見やすくするために、誘電体基板130の一部が省略されている。
【0021】
図2を参照して、アンテナモジュール100は、アンテナ素子121およびRFIC110に加えて、誘電体基板130と、給電配線140と、電流遮断素子150と、接地電極GNDとを含む。なお、以降の説明において、各図におけるZ軸の正方向を上面側、負方向を下面側と称する場合がある。
【0022】
誘電体基板130は、たとえば、低温同時焼成セラミックス(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)多層基板、エポキシ、ポリイミドなどの樹脂から構成される樹脂層を複数積層して形成された多層樹脂基板、より低い誘電率を有する液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer:LCP)から構成される樹脂層を複数積層して形成された多層樹脂基板、フッ素系樹脂から構成される樹脂層を複数積層して形成された多層樹脂基板、あるいは、LTCC以外のセラミックス多層基板である。
【0023】
誘電体基板130は矩形の平面形状を有しており、誘電体基板130の内部の層あるいは上面側の表面131に、略正方形のアンテナ素子121が配置される。誘電体基板130において、アンテナ素子121よりも下面側の層に接地電極GNDが配置される。また、誘電体基板130の下面側の裏面132には、はんだバンプ160を介してRFIC110が配置される。
【0024】
RFIC110から供給される高周波信号は、接地電極GNDを貫通する給電配線140を経由して、アンテナ素子121の給電点SP1に伝達される。給電点SP1は、アンテナ素子121の中心(対角線の交点)から、
図2のX軸の負方向にオフセットした位置に配置されている。給電点SP1に高周波信号が供給されることにより、アンテナ素子121からはX軸方向を偏波方向とする電波が放射される。
【0025】
電流遮断素子150は、アンテナ素子121からX軸方向に離間した位置に、偏波方向と交差する方向に延在するように配置されている。より具体的には、電流遮断素子150は、誘電体基板130のX−Y平面に沿って偏波方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)に延在するように配置されている。
図2の例においては、2つの電流遮断素子150が、アンテナ素子121からX軸の正方向および負方向に離間した位置にそれぞれ配置されている。
【0026】
電流遮断素子150は、接地電極GNDに平行な矩形状の平面電極151と、複数のビア152とを含む。電流遮断素子150は、平面電極151の長辺の一方(第1端部)において、複数のビア152を介して接地電極GNDに接続されている。平面電極151の長辺の他方(第2端部)は開放状態であり、
図2のようにビア152を通るX軸に平行な断面を見ると、電流遮断素子150は略L字形状を有している。
図2の例においては、電流遮断素子150は、第1端部側がアンテナ素子121に面するように配置されている。
【0027】
アンテナ素子121から放射される電波の波長をλとすると、
図3に示されるように、平面電極151のX軸方向の寸法(すなわち、短辺の寸法)は略λ/4となるように設定される。ここで、本開示において「略λ/4」とは、λ/4に対して±10%の範囲内の寸法を含むことを意味する。
【0028】
また、平面電極151のY軸方向の寸法(すなわち、長辺の寸法)は、平面電極151の長辺に対向するアンテナ素子121の辺よりも長い。一般的には、アンテナ素子121の一辺の長さは、放射される電波の半波長(λ/2)となるように設計されるので、平面電極151の長辺はλ/2よりも長くすることが好ましい。
【0029】
電流遮断素子150は、後述するように、接地電極GNDに流れる電流を遮断する機能を有する。アンテナ特性は、アンテナ素子121と接地電極GNDとの間の電磁界の分布によって定まるため、接地電極GNDに流れる電流の分布を変化させることによって、アンテナ特性を調整することができる。
【0030】
図2において、アンテナ素子、電極、およびビア等を構成する導体は、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、および、これらの合金を主成分とする金属で形成されている。
【0031】
図3は、電流遮断素子150において、接地電極GNDに電流が遮断される原理を説明するための図である。
図3中の矢印AR1のように、接地電極GNDに紙面の左から右に向かって電流が流れる場合を想定する。電流遮断素子150に到達した電流の一部は、ビア152を介して平面電極151に流れる。このとき、平面電極151の第1端部から第2端部までの寸法dがλ/4であるため、平面電極151に流れる電流の位相は共振により反転される。これにより、平面電極151の開放端(第2端部)の部分(
図3中の領域RG1)において、接地電極GNDを流れる電流が平面電極151に流れる電流によってキャンセルされる。結果として、矢印AR2に示す方向には反射電流が流れるが、矢印AR3に示す方向への電流は遮断される。なお、図には示されていないが、
図3において接地電極GNDの紙面の右側から左側に流れる電流についても、電流遮断素子150において遮断される。このように、接地電極GNDに電流遮断素子150を設けることによって、接地電極GNDの電流分布を調整することができる。
【0032】
なお、
図3に示した電流遮断素子150においては平面電極151の第1端部から第2端部までの寸法をλ/4としたが、
図3の平面電極151の部分を、
図4の電流遮断素子150Aの平面電極151Aに示されるように、開放端部が接地電極GNDに接近するような形状とすることで、第1端部から第2端部までの寸法をλ/4未満とすることも可能である。これは開放端部を接地電極GNDに接近させることで、寄生容量Cprが増加して電流遮断素子150Aの共振周波数が変化するためである。電流遮断素子の配置が制限されるような場合には、
図4のような構成を採用することで、アンテナモジュールの小型化を図ることができる。
【0033】
次に
図5〜
図8を用いて、電流遮断素子によるアンテナ特性への影響について説明する。
【0034】
図5は、
図2で示した実施の形態1のアンテナモジュール100(
図5(b))と、電流遮断素子150を設けない比較例であるアンテナモジュール100#(
図5(a))とにおける、接地電極GNDの電流分布を示す図である。
図5および後述する
図7においては、色が濃くなるほど電流の強度は小さくなる。
【0035】
図5に示されるように、比較例のアンテナモジュール100#と、実施の形態1のアンテナモジュール100とでは、接地電極GNDの電流分布が異なっている。より具体的には、比較例のアンテナモジュール100#に比べて、実施の形態1のほうが、電流遮断素子150よりも内側(すなわちアンテナ素子121側)の電流強度が大きくなっており、電流遮断素子150よりも外側の部分(
図5中の領域RG2)における電流強度は小さくなっている。
【0036】
図6は、
図5における実施の形態1の場合と比較例の場合とにおけるゲインを説明するための図である。
図6の上段には、実施の形態1のアンテナモジュール100の平面図が示されており、
図6の下段には、実施の形態1および比較例のゲインが示されている。
図6の下段のグラフにおいて、横軸にはアンテナモジュールの法線方向(Z軸方向)からX軸方向への角度が示されており、縦軸にはピークゲインが示されている。なお、
図6のグラフにおいて、実線L10は実施の形態1のアンテナモジュール100のゲインを示しており、破線L11は比較例のアンテナモジュール100#のゲインを示している。
【0037】
図6を参照して、実施の形態1のアンテナモジュール100と比較例のアンテナモジュール100#とでは、ゲインの全体的な形状(メインローブ,サイドローブの形状)は大きく変わらないが、実施の形態1のアンテナモジュール100の方が比較例に比べて、メインローブ(0°付近)のゲインが大きくなっている。すなわち、電流遮断素子150を配置することによって、指向性が改善されている。
【0038】
図7は、アンテナ素子121の偏波方向に平行な方向に電流遮断素子150Aを配置した場合のアンテナモジュール100A(
図7(b))と、電流遮断素子を設けない比較例であるアンテナモジュール100#A(
図7(a))とにおける、接地電極GNDの電流分布を示す図である。なお、
図7においては、誘電体基板130および接地電極GNDは、Y軸方向に平行な辺を長辺とする矩形形状とされている。
図7(b)においては、電流遮断素子150Aは、アンテナ素子121からY軸方向に離間した位置に配置される。
【0039】
図7の場合においても、電流遮断素子150Aによって接地電極GNDの電流分布が変化していることがわかる。特に、電流遮断素子150Aの外側の部分における接地電極GNDの電流強度が、比較例の場合に比べて小さくなっている(
図7中の領域RG3)。
【0040】
図8は、
図7における電流遮断素子150Aが配置されたアンテナモジュール100Aの場合と比較例のアンテナモジュール100#Aの場合とにおけるゲインを説明するための図である。
図8の上段には、アンテナモジュール100Aの平面図が示されており、
図8の下段には、アンテナモジュール100Aおよびアンテナモジュール100#Aのゲインが示されている。
図8の下段のグラフにおいて、横軸にはアンテナモジュールの法線方向(Z軸方向)からY軸方向への角度が示されており、縦軸にはピークゲインが示されている。なお、
図8のグラフにおいて、実線L20はアンテナモジュール100Aのゲインを示しており、破線L21は比較例のアンテナモジュール100#Aのゲインを示している。
【0041】
図8の場合においても、
図6と同様に、アンテナモジュール100Aと比較例のアンテナモジュール100#Aとでは、ゲインの全体形状については大きく変わらないが、アンテナモジュール100Aの方がアンテナモジュール100#Aに比べて、メインローブ(0°付近)のゲインが大きくなっている。すなわち、電流遮断素子150Aを配置することによって、指向性が改善されている。
【0042】
以上のように、実施の形態1に係る平面形状のアンテナ素子を有するアンテナモジュールにおいて、接地電極に電流遮断素子を配置して接地電極に流れる電流分布を調整することによって、放射電極の数を増やすことなくアンテナモジュールの指向性を調整することができる。
【0043】
(電流遮断素子の変形例)
実施の形態1においては、接地電極に平行に配置された平面電極をビアによって接地電極に接続することで電流遮断素子を形成する構成について説明したが、電流遮断素子は他の態様で形成されてもよい。
【0044】
図9の第1の変形例においては、異なる層に平行に配置された2つの接地電極GND1,GND2において、上面側の接地電極GND2にスリット175が形成されており、スリット175の一方の端部がビア170により接地電極GND1と接続され、スリット175の他方の端部からλ/4の位置において接地電極GND1と接地電極GND2とがビア171によって接続される。そのため、接地電極GND2を流れる電流は、矢印AR4のように、ビア170、接地電極GND1、ビア171を経由して接地電極GND2へと至るが、接地電極GND2のスリット175の部分(
図9中の領域RG4)において、対向する電流が打ち消しあって、結果的に接地電極GND2に流れる電流が遮断される。これによって、接地電極の電流分布を調整することができるので、アンテナモジュールの指向性を調整することが可能となる。
【0045】
また、
図10の第2の変形例においては、2つの接地電極GND1,GND2を有するアンテナモジュールにおいて、接地電極GND2の端部からλ/4の位置において、接地電極GND1と接地電極GND2とがビア172によって接続される構成となっている。
【0046】
図10の第2の変形例の構成においては、接地電極GND1および接地電極GND2の端部(
図10中の領域RG5)において、接地電極を流れる電流が打ち消される。これによって、接地電極の電流分布を調整することができるので、アンテナモジュールの指向性を調整することが可能となる。
【0047】
[実施の形態2]
実施の形態1においては、1つのアンテナ素子が形成されたアンテナモジュールにおいて、接地電極に電流遮断素子を形成することによって指向性を調整する構成について説明した。
【0048】
実施の形態2においては、複数のアンテナ素子が形成されたアンテナモジュールにおいて、隣接するアンテナ素子間に電流遮断素子を形成することによって、指向性の調整とともに、アンテナ素子間のアイソレーションを向上させる構成について説明する。
【0049】
図11は、実施の形態2に係るアンテナモジュール100Bの詳細を説明するための平面図(上段)および断面図(下段)である。アンテナモジュール100Bにおいては、4つのアンテナ素子121が2×2のアレイ状に配置されている。説明を容易にするために、
図11の平面図において、紙面の左上のアンテナ素子をP1、左下のアンテナ素子をP2、右上のアンテナ素子をP3、右下のアンテナ素子をP4と称する。
【0050】
アンテナモジュール100Bにおいては、アンテナ素子P1,P3の間、およびアンテナ素子P2,P4の間に、実施の形態1で示したような電流遮断素子150がY軸に沿って配置されている。このような位置に電流遮断素子150を配置することによって、接地電極GNDにおいて、アンテナ素子P1,P2が配置される領域RG10とアンテナ素子P3,P4が配置される領域RG11との間に流れる電流が遮断される。これによって、アンテナモジュール100Bの指向性を調整することができるとともに、領域RG10のアンテナ素子と領域RG11のアンテナ素子との間のアイソレーションを改善することができる。
【0051】
次に、
図12および
図13を用いて、
図11の実施の形態2の電流遮断素子150が配置されたアンテナモジュール100Bと、電流遮断素子150が配置されない比較例との間における指向性およびアンテナ特性の比較について説明する。
【0052】
図12は、実施の形態2および比較例における指向性を比較するための図である。
図12の上段には、実施の形態2および比較例のアンテナモジュールの概略構成が記載されている。
図12の中段および下段には、アンテナ素子P1のみを励振させた場合の、Z軸方向からアンテナモジュールを平面視したときのゲインの分布(中段)およびY−Z平面のゲイン(下段)のシミュレーション結果がそれぞれ示されている。
図12の中段において、ゲインは濃度が濃くなるにつれて大きくなる。また、
図12の下段においては、Z軸上のピークゲインの値が示されている。なお、
図12および
図13のシミュレーションにおいては、放射する電波の周波数帯域が28GHzを中心周波数とする帯域幅(以下、「放射帯域幅」とも称し、たとえば26GHz〜30GHzの範囲)の場合を例として説明する。
【0053】
図12の中段を参照すると、比較例のアンテナモジュールにおいては、強度が最も大きくなる領域(ピーク領域)は、矢印AR6で示される部分であり、アンテナ素子P3の上方となっている。一方で、実施の形態2のアンテナモジュール100Bにおいては、ピーク領域は矢印AR7で示されるアンテナ素子P2の上方となっている。これは、電流遮断素子150によって、接地電極GNDにおいて、アンテナ素子P1側の領域(領域RG10)からアンテナ素子P3側の領域(領域RG11)へと流れる電流が遮断されたことによるものである。
【0054】
また、X−Y平面におけるアンテナモジュール中心からピーク領域までの距離(すなわち、矢印AR6,AR7の長さ)は、実施の形態2のアンテナモジュール100B方が比較例に比べて短くなっており、さらにピーク領域におけるゲインの大きさ(図中の濃度)も大きくなっている。
図12の下段においても、Z軸上でのピークゲインが、2.82dBiから3.22dBiへと向上している。
【0055】
このように、電流遮断素子150を配置することによって、ゲインのピーク領域が、電波の放射方向であるZ軸に近づき、さらにピークゲインも向上するため、アンテナモジュールの指向性が改善される。
【0056】
なお、図には示されていないが、他のアンテナ素子P2〜P4についても同様にピーク領域がZ軸に近づくため、アンテナモジュール全体としても指向性が改善される。
【0057】
図13においては、上段には、アンテナ素子P1とアンテナ素子P3との間のアイソレーション特性が示されている。また、
図13の中段および下段には、全てのアンテナ素子を励振させた場合の、Y−Z平面において電波の放射方向をチルトさせないときのゲイン(中段)、および、Y−Z平面において電波の放射方向を−30°チルト(傾斜)させたときのゲイン(下段)がそれぞれ示されている。
【0058】
図13においては、いずれも実線LN31、LN33,LN35が実施の形態2のアンテナモジュール100Bの場合を示しており、破線LN32、LN34,LN36が比較例のアンテナモジュールの場合を示している。
【0059】
図13の上段においては、アンテナ素子P1とアンテナ素子P3との間のアイソレーションが示されているが、対象となる放射帯域幅(26GHz〜30GHz)においては、実施の形態2の電流遮断素子150を配置した構成の方がアイソレーションが大きくなっており、アンテナ素子P1とアンテナ素子P3との間のアイソレーション特性が改善されていることがわかる。
【0060】
図13の中段の、チルトなしの場合のゲインについては、角度が0°のビームの放射方向(すなわち、Z軸方向)は、実施の形態2のアンテナモジュール100Bの方が比較例よりも大きくなっている。一方で、サイドローブのゲインについては、実施の形態2のアンテナモジュール100Bの方が比較例よりも小さくなっている。
【0061】
同様に、ビームの放射方向を−30°チルトさせた場合(
図13の下段)についても、チルト角が−30°におけるゲインは実施の形態2のアンテナモジュール100Bの方が比較例よりも大きくなっており、サイドローブのゲインは実施の形態2のアンテナモジュール100Bの方が比較例よりも小さくなっている。
【0062】
このように、アンテナ素子間に電流遮断素子150を配置することによって、チルトの有無にかかわらず、指向性およびアンテナ特性を改善することができる。
【0063】
なお、
図11においては、4つのアンテナ素子が2×2のアレイ状に配置されるアンテナモジュールの例について説明したが、さらに多くのアンテナ素子を有するアンテナモジュールにおいても当該構成を適用してもよい。
【0064】
(変形例1)
図11で示した実施の形態2のアンテナモジュール100Bにおいては、アンテナ素子P1,P2が配置される領域RG10と、アンテナ素子P3,P4が配置される領域RG11との間に電流遮断素子150を配置する構成について説明した。
【0065】
実施の形態2の変形例1においては、領域RG10のアンテナ素子P1,P2の間、および領域RG11のアンテナ素子P3、P4の間に電流遮断素子をさらに配置することによって、アンテナ素子P1とアンテナ素子P2との間、およびアンテナ素子P3とアンテナ素子P4との間のアイソレーション特性を改善する構成について説明する。
【0066】
図14は、実施の形態2の変形例1に従うアンテナモジュール100Cの平面図である。アンテナモジュール100Cにおいては、
図11で説明したアンテナモジュール100Bに、電流遮断素子155がさらに追加された構成となっている。アンテナモジュール100Cにおいて、
図11のアンテナモジュール100Bと重複する要素の説明は繰り返さない。
【0067】
図14を参照して、電流遮断素子155は、アンテナ素子P1とアンテナ素子P2との間、およびアンテナ素子P3とアンテナ素子P4との間に、X軸に沿って配置される。
図14には断面図が示されていないが、電流遮断素子155は、電流遮断素子150と同様に、接地電極GNDに平行な平面電極と、当該平面電極と接地電極GNDとを接続する複数のビアで形成されている。
【0068】
言い換えると、アンテナモジュール100Cにおいては、各アンテナ素子について、X軸方向(第1方向)に隣接して配置されたアンテナ素子との間に電流遮断素子150(第1電流遮断素子)が配置され、X軸方向に直交するY軸方向(第2方向)に隣接して配置されたアンテナ素子との間に電流遮断素子155(第2電流遮断素子)が配置される。
【0069】
なお、アンテナ素子121から放射される電波の波長をλとすると、電流遮断素子155の平面電極のY軸方向の寸法はλ/4となるように設定される。また、電流遮断素子155の平面電極の開放端は、アンテナ素子P1,P3に対向するように配置されてもよいし、アンテナ素子P2,P4に対向するように配置されてもよい。
【0070】
図15は、アンテナ素子P1とアンテナ素子P2との間に電流遮断素子155を配置した変形例1のアンテナモジュール100Cと、電流遮断素子155のない比較例のアンテナモジュールにおけるアイソレーション特性を比較するための図である。なお、比較例の構成は、
図11のアンテナモジュール100Bに対応する。
図15において、横軸には周波数が示されており、縦軸にはアンテナ素子P1とアンテナ素子P2との間のアイソレーション特性が示されている。実線LN40は変形例1におけるアイソレーションを示しており、破線LN41は比較例におけるアイソレーションを示している。
【0071】
図15に示されるように、アンテナ素子から放射される電波の放射帯域幅(26GHz〜30GHz)においては、変形例1の方が比較例よりもアイソレーションが大きくなっており、アンテナ素子P1とアンテナ素子P2との間のアイソレーション特性が向上していることがわかる。
【0072】
このように、アレイ状に配列された複数のアンテナ素子の各々について、直交する2つの方向に隣接する他のアンテナ素子との間に電流遮断素子を配置することによって、放射電極の数を増やすことなく放射される電波の指向性を改善することができ、さらにアンテナ素子間におけるアイソレーション特性を改善することができる。
【0073】
上記の変形例1の構成は、1つのアンテナ素子から異なる偏波方向の2つの電波を放射することが可能な、いわゆるデュアル偏波型のアンテナモジュールにより適している。なお、変形例1の構成についても、4つより多くのアンテナ素子を有するアンテナモジュールに適用してもよい。
【0074】
(変形例2)
次に、実施の形態2の変形例2として、電流遮断素子の構成のバリエーションについて
図16〜
図20を用いて説明する。なお、以下の変形例2の説明においては、説明を容易にするために、2つのアンテナ素子を有する一次元アレイのアンテナモジュールの場合を例として説明するが、
図11に示したような2×2の二次元アレイのアンテナモジュールであってもよいし、さらに多くのアンテナ素子を有する二次元アレイのアンテナモジュールであってもよい。また、二次元アレイの場合には、
図14の変形例1のように、第1方向に隣接するアンテナ素子との間、および第2方向に隣接するアンテナ素子との間の双方に電流遮断素子を配置してもよい。
【0075】
(a)第1例
図16は、実施の形態2における電流遮断素子の第1例を説明するための平面図(上段)および断面図(下図)である。
図16のアンテナモジュール100Dにおいては、X軸方向に隣接する2つのアンテナ素子P1A,P2Aの間に、2つの電流遮断素子150B1,150B2が配置されている。電流遮断素子150B1および電流遮断素子150B2は、実施の形態1の電流遮断素子150と同様に、第1端部と第2端部との間の長さがλ/4である平面電極151B1,151B2と、当該平面電極を接地電極GNDに接続するための複数のビア152とを含み、略L字形状の断面を有している。
【0076】
電流遮断素子150B1および電流遮断素子150B2は、
図16のY軸に沿って互いに平行に配置されている。電流遮断素子150B1は電流遮断素子150B2よりもアンテナ素子P1A側に配置されており、電流遮断素子150B2は電流遮断素子150B1よりもアンテナ素子P2A側に配置されている。
【0077】
電流遮断素子150B1は、平面電極151B1の開放端(第2端部)がアンテナ素子P2Aに向くように配置される。一方、電流遮断素子150B2は、平面電極151B2の開放端(第2端部)がアンテナ素子P1Aに向くように配置される。すなわち、電流遮断素子150B1および電流遮断素子150B2は、平面電極の開放端が互いに対向するように配置される。そして、電流遮断素子150B1および電流遮断素子150B2の互いに対向する2つの開放端は、部分的に
平面電極153を介して電気的に接続されている。
【0078】
このように、2つの電流遮断素子における開放端同士を対向させることによって開放端間に容量成分が生じ、かつその一部を電気的に結合させることによって誘導成分が生じる。これによって、oddモードおよびevenモードの2つの共振モードで共振することができるので、より広い周波数帯域において電流遮断効果が実現できる。
【0079】
なお、電流遮断素子150B1および電流遮断素子150B2の互いに対向する2つの開放端は、必ずしも部分的に接続することは必須ではない。たとえば、誘電体基板130の誘電率が異なれば、2つの開放端を接続しなくとも、電流遮断素子150B1および電流遮断素子150B2が2つの共振モードで共振する状態となる場合もある。
【0080】
図17は、
図16のアンテナモジュール100Dにおけるアイソレーション特性を説明するための図である。
図17においては、
図11で示した電流遮断素子150を用いたアンテナモジュール100Bを比較例として用いる。
図17において、横軸には周波数が示されており、縦軸にはアンテナ素子P1Aとアンテナ素子P2Aとの間のアイソレーション特性が示されている。実線LN50はアンテナモジュール100Dにおけるアイソレーションを示しており、破線LN51は比較例におけるアイソレーションを示している。
【0081】
図17に示されるように、アンテナ素子から放射される電波の放射帯域幅(26GHz〜30GHz)においては、アンテナモジュール100Dの方が比較例よりもアイソレーションが大きくなっており、アンテナ素子P1Aとアンテナ素子P2Aとの間のアイソレーション特性がより一層向上していることがわかる。
【0082】
(b)第2例
図18は、実施の形態2における電流遮断素子の第2例を説明するための平面図である。
図18のアンテナモジュール100Eにおいては、隣接する2つのアンテナ素子P1A,P2Aの間に、Y軸方向に2つに分割された電流遮断素子150C1,150C2が配置されている。電流遮断素子150C1,150C2は、Y軸に沿って交互に配置されている。
【0083】
電流遮断素子150C1,150C2の各々の構成は、基本的には実施の形態1で説明した電流遮断素子150と同様であり、X軸方向の寸法がλ/4の平面電極とビアとを含んで構成される。ただし、電流遮断素子150C1については開放端(第2端部)がアンテナ素子P2Aに向くように配置されており、電流遮断素子150C2については開放端(第2端部)がアンテナ素子P1Aに向くように配置されている。
【0084】
なお、
図18においては、アンテナ素子P1Aとアンテナ素子P2Aとの間に2つに分割された電流遮断素子150C1,150C2が配置された例を示しているが、分割数は2より大きくてもよい。たとえば、4つの電流遮断素子について、Y軸に沿って開放端が交互になるように配置される構成であってもよい。
【0085】
図19は、
図18のアンテナモジュール100Eにおけるアイソレーション特性を説明するための図である。
図19においても、第1例の場合と同様に、
図11で示した電流遮断素子150を用いたアンテナモジュール100Bを比較例として用いる。
図19において、横軸には周波数が示されており、縦軸にはアンテナ素子P1Aとアンテナ素子P2Aとの間のアイソレーション特性が示されている。実線LN60はアンテナモジュール100Eにおけるアイソレーションを示しており、破線LN61は比較例におけるアイソレーションを示している。
【0086】
図19に示されるように、アンテナ素子から放射される電波の放射帯域幅(26GHz〜30GHz)においては、アンテナモジュール100Eの方が比較例よりもアイソレーションが大きくなっており、アンテナ素子P1Aとアンテナ素子P2Aとの間のアイソレーション特性がより一層向上していることがわかる。
【0087】
(c)第3例
図20は、実施の形態2における電流遮断素子の
第3例を説明するための平面図である。
図20のアンテナモジュール100Fにおいては、隣接する2つのアンテナ素子P1A,P2Aの間に、開放端(第2端部)が互いに対向するように配置された2つの電流遮断素子150D1,150D2が配置されている。電流遮断素子150D1,150D2の各々は、開放端が櫛歯形状を有しており、一方の櫛歯の凹部と他方の櫛歯の凸部とが互い対向するように組み合わされている。各電流遮断素子において、櫛歯の凸部の寸法がλ/4に設定される。
【0088】
このような構成においても、電流遮断素子150D1,150D2によって、アンテナ素子P1Aとアンテナ素子P2Aとのアイソレーション特性を改善することができる。
【0089】
(d)第4例
図21は、実施の形態2における電流遮断素子の第4例を説明するための図である。
図21のアンテナモジュール100Gにおいては、Y軸方向に隣接する2つのアンテナ素子P1B,P3Bの間に、4つの電流遮断素子155A1,155A2−1,155A2−2,155A3が、X軸方向に沿って並置されている。電流遮断素子155A1,155A2−1,155A2−2,155A3は、X軸方向に沿った辺の長さがそれぞれλ/4の矩形状の平面電極を有している。なお
図21の例においては、電流遮断素子155A2−1および電流遮断素子155A2−2が結合されて、X軸方向に沿った辺の長さがλ/2の矩形状の平面電極を有する電流遮断素子155A2を構成している。
【0090】
電流遮断素子155A2は、X軸方向に沿った辺の中点を通りY軸方向に沿って配置された複数のビアによって、接地電極GNDに接続されている。電流遮断素子155A2のX軸方向の両端部は開放端となっている。すなわち、電流遮断素子155A2は、2つの電流遮断素子155A2−1,155A2−2がビアを共有して背面接続された構成と等価である。電流遮断素子155A2と接地電極GNDとを接続するビアから、両開放端までの距離はλ/4である。
【0091】
電流遮断素子155A1は、X軸の負方向の端部においてY軸方向に沿って配置された複数のビアによって、接地電極GNDに接続されている。そして、電流遮断素子155A1は、電流遮断素子155A1のX軸の正方向の端部(開放端)が、電流遮断素子155A2のX軸の負方向の開放端と対向するように配置されている。電流遮断素子155A3は、X軸の正方向の端部においてY軸方向に沿って配置された複数のビアによって、接地電極GNDに接続されている。そして、電流遮断素子155A3は、電流遮断素子155A3のX軸の負方向の端部(開放端)が電流遮断素子155A2のX軸の正方向の開放端と対向するように配置されている。すなわち、アンテナモジュール100Gにおいては、アンテナ素子P1B,P3Bの間において、アンテナ素子P1B,P3Bから放射される電波の偏波方向(X軸方向)に、2組の対向型の電流遮断素子が形成されている。
【0092】
なお、誘電体基板130のX軸方向の寸法が大きい場合には、3組以上の対向型の電流遮断素子が形成されてもよい。また、電流遮断素子は、必ずしも対向型である必要はなく、開放端が同じ方向(たとえば、X軸の正方向)に向くように複数の同じ形状の電流遮断素子が配置された構成であってもよい。
【0093】
このような電流遮断素子の配置とすることによって、接地電極GNDを流れるX軸方向の電流を遮断することができるので、接地電極GNDを流れる電流分布を調整することができる。
【0094】
図22は、
図21のアンテナモジュール100Gにおけるアイソレーション特性を説明するための図である。
図22においては、電流遮断素子を有しないアンテナモジュールを比較例として用いる。
図22において、横軸には周波数が示されており、縦軸にはアンテナ素子P1Bとアンテナ素子P3Bとの間のアイソレーション特性が示されている。実線LN70はアンテナモジュール
100Gにおけるアイソレーションを示しており、破線LN71は比較例におけるアイソレーションを示している。
【0095】
図22に示されるように、アンテナ素子から放射される電波の放射帯域幅(26GHz〜30GHz)においては、アンテナモジュール100Gの方が比較例よりもアイソレーションが大きくなっており、アンテナ素子P1Bとアンテナ素子
P3Bとの間のアイソレーション特性が向上していることがわかる。
【0096】
(XPDへの影響)
複数のアンテナ素子をアレイ状に配列したアンテナモジュールにおいては、各アンテナ素子から放射される電波の位相を調整することによってビームの放射方向を調整するビームフォーミングが可能である。一般的に、アンテナ素子から電波が放射される場合には、所望の偏波方向に交差する交差偏波が少なからず発生することが知られている。ビームフォーミングの際には、隣接する他のアンテナ素子から放射される交差偏波の影響が生じ、交差偏波識別度(Cross Polarization Discrimination:XPD)が低下し得る。以下に、本実施の形態の電流遮断素子によるXPDへの影響について説明する。
【0097】
図23および
図24は、4×4のアンテナアレイに電流遮断素子を適用した場合のアンテナモジュールの例の平面図である。
図23および
図24の例においては、各アンテナ素子間にY軸に沿って電流遮断素子が配置されている。
図23のアンテナモジュール
100Hは、
図11で示した電流遮断素子150が配置された場合の例であり、
図24のアンテナモジュール100Jは、
図16で示した電流遮断素子150Bが配置された場合の例である。XPDは、主偏波のピークゲインと交差偏波のピークゲインとの差で表されるので、XPDの値(dB値)が大きくなるほど交差偏波の影響が小さくなる。なお、一般的には、XPDの目標は20dB前後とされる場合が多い。
【0098】
ここで、
図25を用いてアンテナアレイにおける指向性の傾斜方向を説明する。上述のように、各アンテナ素子に供給される高周波信号の位相を調整することによって、放射される電波のビーム方向(指向性)を傾斜させることができる。
図25のように、X軸方向を水平方向、Y軸方向を鉛直方向とした場合、Z軸方向から水平方向(アジマス方向)へのビームの傾斜角度をθで表し、Z軸方向から鉛直方向(エレベーション方向)へのビームの傾斜角度をφで表す。
【0099】
図26は、上記の
図23および
図24のアンテナアレイにおいて、アジマス方向およびエレベーション方向にビームを傾斜させたときのXPDのシミュレーション結果を示したグラフである。
図26においては、エレベーションφ=0°とした状態でアジマスθを変化させた場合のXPDをグラフの左側に示し、アジマスθ=0°とした状態でエレベーションφを変化させた場合のXPDをグラフの右側に示している。なお、
図26中において、線LN80,LN90は
図23のアンテナモジュール100HのXPDを示しており、線LN81,LN91は
図24のアンテナモジュール100JのXPDを示している。
【0100】
図26を参照して、アジマス方向に傾斜させた場合には、アンテナモジュール100Hおよびアンテナモジュール100Jのいずれも、どの角度においても60dBを超える高いXPDが達成されている。これは、電流遮断素子によって、隣接するアンテナ素子による影響が低減されているためであると推測される。
【0101】
一方、エレベーション方向に傾斜させた場合には、アンテナモジュール100Hおよびアンテナモジュール100Jのいずれも、推奨される20dB以上のXPDが実現できてはいるものの、アンテナモジュール100H(線LN90)はアンテナモジュール100J(線LN91)に比べると、XPDの数値としてはやや劣る結果となっている。
【0102】
アンテナモジュール100Hおよびアンテナモジュール100Jのいずれも、Y軸方向に隣接したアンテナ素子間には電流遮断素子が配置されていない。そのため、エレベーション方向に傾斜させた場合については、アジマス方向に傾斜させた場合のような電流遮断素子の効果は基本的には発揮されにくい。しかしながら、アンテナモジュール100Jに用いられる電流遮断素子150Bのような構成では、アンテナモジュール100Hに比べて電流遮断素子の配置の対称性が向上することによって、接地電極GNDにおける電流分布の対称性も改善されるため、エレベーション方向の傾斜に対しても高いXPDが実現できている。このように、電流遮断素子の構成を工夫することによって接地電極GNDの電流分布を調整することで、アンテナモジュール全体のXPDを改善することが期待できる。
【0103】
なお、
図14で説明したアンテナモジュール100Cのように、Y軸方向に隣接するアンテナ素子間についても電流遮断素子を配置する構成としてもよく、そのような構成とすることで、さらにXPDを改善することが可能となる。
【0104】
上記の4×4のアンテナアレイの構成を有するアンテナモジュールは、
図23および
図24のように1つの誘電体基板で形成する場合に限られない。たとえば、4つの2×2のアンテナアレイを組み合わせることによって、4×4のアンテナアレイを形成してもよい。
【0105】
図27は、4×4のアンテナアレイを2×2のサブモジュールを用いて形成した場合のアンテナモジュール100Kの平面図である。
図27を参照して、アンテナモジュール100Kは、4つのサブモジュール105−1〜105−4を組み合わせることによって形成されている。アンテナモジュール100Kにおいては、隣接する2つのサブモジュールの間には隙間が形成されている。
【0106】
各サブモジュールは、いずれも同じ構造をしており、
図11あるいは
図14で示したアンテナモジュールのように、略正方形の誘電体基板130に、4つのアンテナ素子121が2×2のアレイ状に配置されている。各サブモジュールには、
図14に示したアンテナモジュール100Cのように、電流遮断素子150E1がX軸方向に隣接するアンテナ素子の間にY軸に沿って配置されており、電流遮断素子155E1がY軸方向に隣接するアンテナ素子の間にX軸に沿って配置されている。
【0107】
電流遮断素子150E1および電流遮断素子155E1は、
図16のアンテナモジュール100Dのように、延在方向に並置される2つの電流遮断素子で構成されている。なお、電流遮断素子150E1および電流遮断素子155E1においては、双方の平面電極の開放端(第2端部)が対向するように配置されてもよいし、平面電極の他方の端部(第1端部)が対向するように配置されていてもよい。
【0108】
また、各サブモジュールにおいては、誘電体基板130におけるY軸に沿った一方の辺、および、X軸に沿った一方の辺には、電流遮断素子150E2および電流遮断素子155E2がそれぞれ配置される。電流遮断素子150E2および電流遮断素子155E2は、電流遮断素子150E1および電流遮断素子155E1とは異なり、1つの電流遮断素子で構成されている。隣接する2つのサブモジュールに形成される隙間によって、サブモジュール間のアイソレーションがある程度改善される。そのため、隣接するサブモジュールの対向する辺の一方のみに電流遮断素子を配置する構成であっても、十分なアイソレーションを確保することができる。
【0109】
なお、たとえばサブモジュール105−3,105−4におけるX軸に沿った辺、および、サブモジュール105−2,105−4におけるY軸に沿った辺については、当該辺に対向するサブモジュールがないため、必ずしも電流遮断素子150E2,155E2を配置する必要はない。しかしながら、すべてのサブモジュールを同一構造とすることによって、1種類のサブモジュールを用いて大きなアンテナアレイを形成することができるという利点がある。たとえば、9個のサブモジュールを用いることで6×6のアンテナアレイを形成することができ、16個のサブモジュールを用いることで8×8のアンテナアレイを形成することができる。
【0110】
[実施の形態3]
上述の実施の形態1および実施の形態2においては、アンテナ素子が配置されるアンテナモジュールに含まれる接地電極に電流遮断素子を配置する構成について説明した。
【0111】
一方で、アンテナモジュールの指向性は、アンテナモジュール以外の構成によっても影響を受ける場合がある。たとえば、アンテナモジュールに含まれる接地電極は、最終的にはアンテナモジュールが搭載される実装基板に含まれる接地電極と接続される。そのため、実装基板側の接地電極の電流分布の状態によっては、アンテナモジュールの指向性が変化し得る。
【0112】
そこで、実施の形態3においては、アンテナモジュールが搭載される実装基板に含まれる接地電極に電流遮断素子を配置することによって、アンテナモジュールの指向性を調整する構成について説明する。
【0113】
図28は、実施の形態3に従う通信モジュール50を説明するための図である。通信モジュール50は、アンテナモジュール100と、当該アンテナモジュール100が搭載される実装基板52と、アンテナモジュール100を取り囲むように配置された複数の電流遮断素子150Fとを含む。実装基板52には、
図1で説明したBBIC200および他の機能を有する回路が形成あるいは実装される。
【0114】
このように実装基板には多くの機器あるいは回路が形成されるため、アンテナモジュールは、必ずしも実装基板の中央部分に配置されるとは限らない。また、実装基板上の各機器および回路における消費電力が異なるため、実装基板に含まれる接地電極の電流分布は、実装基板全体にわたって必ずしも一様とはならない。そのため、実装基板上におけるアンテナモジュールの位置、および、実装基板上の他の機器の動作状態等によって、実装基板の接地電極における電流分布が変化する。そうすると、それに伴ってアンテナモジュールの接地電極の電流分布も変化するため、結果としてアンテナモジュールの指向性に影響が及ぼされることになり得る。
【0115】
実施の形態3の通信モジュール50においては、アンテナモジュール100の周囲を取り囲むように電流遮断素子150Fが配置されている。このような構成とすることによって、実装基板52の接地電極において、アンテナモジュール100が配置される電流遮断素子150Fの内側の電流が電流遮断素子150Fの外側へ漏洩することが抑制されるとともに、電流遮断素子150Fの外側を流れる電流が電流遮断素子150Fの内側に進入することが抑制される。
【0116】
したがって、
図28のように、接地電極の電流分布が不安定となりやすい実装基板52の端部にアンテナモジュール100が配置されるような場合であっても、電流遮断素子150Fでアンテナモジュール100を取り囲むことによって、アンテナモジュール100が配置される部分(電流遮断素子150Fの内部)の電流分布を安定化することが可能となる。これによって、アンテナモジュールの指向性への影響を低減し、アンテナ特性を改善することができる。
【0117】
なお、実施の形態3における電流遮断素子についても、実施の形態1,2において説明した変形例の構成を、矛盾が生じない範囲で適宜採用することが可能である。
【0118】
[実施の形態4]
実施の形態4においては、2つの異なる周波数帯域の電波を放射することが可能なデュアルバンドタイプのアンテナモジュールに対して、本開示の電流遮断素子を適用した場合の例について説明する。
【0119】
図29は、実施の形態4に係るアンテナモジュール100Lの平面図(上段)および断面図(下段)である。
図29を参照して、アンテナモジュール100Lにおいては、実施の形態1の
図2で示したアンテナモジュール100の構成に加えて、アンテナ素子122と、当該アンテナ素子122に高周波信号を供給するための給電配線145と、電流遮断素子250とがさらに備えられている。
【0120】
アンテナ素子122は、アンテナ素子121と同様に、略正方形の平板形状を有するパッチアンテナである。アンテナ素子122は、誘電体基板130の内部の層あるいは上面側の表面131に配置される。アンテナ素子121は、アンテナ素子122と接地電極GNDとの間の層に配置される。誘電体基板130の法線方向から平面視した場合に、アンテナ素子121とアンテナ素子122とは重なっている。
【0121】
アンテナ素子122には、給電配線145によりRFIC110からの高周波信号が伝達される。給電配線145は、RFIC110に接続されたはんだバンプ160から、接地電極GNDおよびアンテナ素子121を貫通して、アンテナ素子122の給電点SP2に接続される。給電点SP2は、アンテナ素子122の中心からX軸の正方向にオフセットした位置に配置されている。給電点SP2に高周波信号が供給されることにより、アンテナ素子122からX軸方向を偏波方向とする電波が放射される。
【0122】
図29に示されるように、アンテナ素子122はアンテナ素子121よりもサイズが小さく、アンテナ素子122の共振周波数はアンテナ素子
121の共振周波数よりも高い。したがって、アンテナ素子122から放射される電波の周波数帯域は、アンテナ素子121から放射される電波の周波数帯域よりも高い。たとえば、アンテナ素子121からは28GHz帯の電波が放射され、アンテナ素子122からは39GHz帯の電波が放射される。
【0123】
電流遮断素子250は、アンテナ素子122からX軸の正方向および負方向に離間した位置に、Y軸方向に延在するように配置されている。
図29の例においては、電流遮断素子250は、誘電体基板130において、電流遮断素子150よりも外側に配置されている。すなわち、アンテナモジュール100Lを平面視した場合に、アンテナ素子121,122と電流遮断素子250との間に電流遮断素子150が位置するような配置となっている。
【0124】
電流遮断素子250は、電流遮断素子150と同様に、接地電極GNDに平行な矩形状の平面電極251と、複数のビア252とを含む。電流遮断素子250は、平面電極251の長辺の一方(第1端部)において、複数のビア252を介して接地電極GNDに接続されている。平面電極251の長辺の他方(第2端部)は開放状態であり、ビア252を通るX軸に平行な断面を見ると、電流遮断素子250は略L字形状を有している。
【0125】
また、電流遮断素子150は、平面電極251の開放端部(第2端部)が、平面電極151の開放端部(第2端部)と対向するように配置されている。
【0126】
平面電極251のX軸方向の寸法(すなわち、短辺の寸法)は、アンテナ素子122から放射される電波の波長の略1/4となるように設定される。上述のように、アンテナ素子122から放射される電波の周波数帯域は、アンテナ素子121から放射される電波の周波数帯域よりも高い。言い換えれば、アンテナ素子122から放射される電波の波長は、アンテナ素子121から放射される電波の波長よりも短い。したがって、平面電極251のX軸方向の寸法は、平面電極151のX軸方向の寸法よりも短い。
【0127】
このように、異なるサイズのアンテナ素子を誘電体基板の積層方向に対向させて配置した、スタック型のデュアルバンドタイプのアンテナモジュールにおいて、放射される電波の周波数帯域に対応した電流遮断素子を個別に配置することによって、接地電極に流れる電流の分布を変化させて、各周波数帯域についてのアンテナ特性を調整することができる。
【0128】
(変形例)
上記の実施の形態4では、スタック型のデュアルバンドタイプのアンテナモジュールにおいて、高周波数側のアンテナ素子から放射される電波の偏波方向が、低周波数側のアンテナ素子から放射される電波の偏波方向と同じ場合について説明した。
【0129】
実施の形態4の変形例においては、高周波数側のアンテナ素子から放射される電波の偏波方向と、低周波数側のアンテナ素子から放射される電波の偏波方向とが異なる場合について説明する。
【0130】
図30は、実施の形態4の変形例に係るアンテナモジュール100Mの平面図である。
図30を参照して、アンテナモジュール100Mは、
図29のアンテナモジュール100Lと同様に、積層方向に対向して配置されたアンテナ素子121およびアンテナ素子122とを含んでいる。すなわち、アンテナモジュール100Mは、スタック型のデュアルバンドタイプのアンテナモジュールである。
【0131】
アンテナモジュール100Mにおいては、低周波数側のアンテナ素子121の給電点SP1は、アンテナ素子121の中心からX軸の負方向にオフセットした位置に配置されており、高周波数側のアンテナ素子122の給電点SP2は、アンテナ素子122の中心からY軸の正方向にオフセットした位置に配置されている。すなわち、アンテナ素子121からはX軸方向を偏波方向とする電波が放射され、アンテナ素子122からはY軸方向の偏波とする電波が放射される。
【0132】
そして、アンテナモジュール100Mにおいては、アンテナ素子122から放射される電波に対する特性を調整するために、アンテナ素子122からY軸の正方向および負方向に離間した位置に、X軸方向に延在して電流遮断素子250Aが配置される。すなわち、電流遮断素子250Aは、アンテナ素子122から放射される電波の偏波方向に直交する方向に配置される。
【0133】
電流遮断素子250Aは、電流遮断素子150と同様に、接地電極GNDに平行な矩形状の平面電極251Aと、複数のビア252Aとを含む。電流遮断素子250Aは、平面電極251Aの長辺の一方(第1端部)において、複数のビア252Aを介して接地電極GNDに接続されている。平面電極251Aの長辺の他方(第2端部)は開放状態であり、ビア252Aを通るY軸に平行な断面を見ると、電流遮断素子250Aは略L字形状を有している。
【0134】
平面電極251AのY軸方向の寸法(すなわち、短辺の寸法)は、アンテナ素子122から放射される電波の波長の略1/4となるように設定される。上述のように、アンテナ素子122から放射される電波の周波数帯域は、アンテナ素子121から放射される電波の周波数帯域よりも高い。言い換えれば、アンテナ素子122から放射される電波の波長は、アンテナ素子121から放射される電波の波長よりも短い。したがって、平面電極251AのY軸方向の寸法は、平面電極151のY軸方向の寸法よりも短い。
【0135】
このように、スタック型のデュアルバンドタイプのアンテナモジュールにおいて、高周波数側の電波の偏波方向と、低周波数側の電波の偏波方向とが異なる場合には、放射される各電波の偏波方向に直交する方向に、周波数帯域に対応した電流遮断素子を配置することによって、各周波数帯域についてのアンテナ特性を調整することができる。
【0136】
なお、
図29および
図30に示したデュアルバンドタイプの構成は、実施の形態2に示したようなアンテナアレイにも適用可能である。また、実施の形態4および変形例における電流遮断素子についても、実施の形態1,2において説明した変形例の構成を、矛盾が生じない範囲で適宜採用することが可能である。
【0137】
また、上記の実施の形態においては、アンテナモジュールに対して接地電極に電流遮断素子を設けることによって、アンテナモジュールの指向性を調整する例について説明したが、このような電流遮断素子は、アンテナモジュール以外の高周波デバイスに用いてもよい。たとえば、2つのフィルタ装置の間の接地電極、あるいは、2つの高周波モジュールの間の接地電極に電流遮断素子を配置することによって、フィルタ間および高周波モジュール間のアイソレーションを改善するようにしてもよい。
【0138】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。