(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記処理部は、前記2次元データの生成および分類を順次行い、前記2次元データの時間変化が所定値以上である前記単位領域の数に基づいて、前記切刃の異常を検知する、請求項1または請求項2に記載の切削システム。
前記処理部は、前記複数の単位領域の前記2次元データに基づく指標値をそれぞれ算出し、前記単位領域ごとの前記指標値と、各前記単位領域の前記指標値の平均値との差分の標準偏差を算出し、算出した前記標準偏差に基づいて、前記切刃の異常を検知する、請求項3に記載の切削システム。
前記処理装置は、前記2次元データの生成および分類を順次行い、前記単位領域ごとの前記2次元データの時間変化を示す情報をさらに表示する処理を行う、請求項11または請求項12に記載の表示システム。
複数のセンサの計測結果であって、2以上の切刃を用いた切削加工を行うフライス加工用の切削工具における、切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量の計測結果を取得する取得部と、
前記取得部により取得された、複数の計測タイミングにおける各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測タイミングごとの2次元データをそれぞれ生成する生成部と、
前記生成部により生成された各前記2次元データを前記平面内における前記切刃の数以上の複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する処理を行う表示処理部とを備える、処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
従来、切削工具にセンサを取り付け、切削加工時のセンサによる計測結果に基づいて、切削工具における切刃の異常を検知する技術が提案されている。
【0015】
[本開示が解決しようとする課題]
このような特許文献1の技術を超えて、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することが可能な技術が望まれる。
【0016】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することが可能な切削システム、表示システム、処理装置、処理方法および処理プログラムを提供することである。
【0017】
[本開示の効果]
本開示によれば、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することができる。
【0018】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0019】
(1)本開示の実施の形態に係る切削システムは、フライス加工用の切削工具と、複数のセンサと、処理部とを備え、前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、前記複数のセンサは、切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量を計測し、前記処理部は、複数の計測タイミングにおける各前記センサの計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測タイミングごとの2次元データをそれぞれ生成し、生成した各前記2次元データを前記平面内における前記切刃の数以上の複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、前記単位領域ごとの前記2次元データに基づいて、前記切刃の異常を検知する。
【0020】
このように、複数のセンサの計測結果に基づいて生成した各2次元データを回転軸と垂直な平面内における複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、単位領域ごとの2次元データに基づいて切刃の異常を検知する構成により、切刃の異常の発生に伴って生じる一部の単位領域のみにおける2次元データの変化を、切削条件の変化に伴って生じるすべての単位領域における2次元データの変化と区別して検知することができるため、切刃の異常を正確に検知することができる。したがって、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することができる。
【0021】
(2)好ましくは、前記処理部は、前記各2次元データを前記切刃の数と同数の前記単位領域のうちのいずれかに分類する。
【0022】
このような構成により、各単位領域における2次元データを用いて各切刃に加わる切削抵抗を解析することができるため、一部の単位領域のみにおける2次元データが変化した場合に当該単位領域に対応する切刃を異常の発生した切刃として特定することができるとともに、各単位領域における2次元データを切刃の異常の検知以外の各種解析に用いることができる。
【0023】
(3)好ましくは、前記処理部は、前記2次元データの生成および分類を順次行い、前記2次元データの時間変化が所定値以上である前記単位領域の数に基づいて、前記切刃の異常を検知する。
【0024】
このような構成により、各単位領域における2次元データの微小な変化をより確実に検知することができるため、切刃の異常をより正確に検知することができる。
【0025】
(4)より好ましくは、前記処理部は、前記複数の単位領域の前記2次元データに基づく指標値をそれぞれ算出し、前記単位領域ごとの前記指標値と、各前記単位領域の前記指標値の平均値との差分の標準偏差を算出し、算出した前記標準偏差に基づいて、前記切刃の異常を検知する。
【0026】
このように、単位領域ごとの指標値と、各単位領域の指標値の平均値との差分の標準偏差に着目することにより、切刃の異常の発生に基づく2次元データの変化をより正確に検知することができるため、切刃の異常をより正確に検知することができる。
【0027】
(5)より好ましくは、前記切削システムは、前記切削工具における前記切刃の数と相関の無い数の前記センサを備える。
【0028】
このような構成により、切刃の数に関わらず、多様な切削工具と所定数のセンサとを用いて切削システムを構築することができる。
【0029】
(6)より好ましくは、前記切削システムは、前記切削工具における前記切刃の数よりも少数の前記センサを備える。
【0030】
このような構成により、たとえば切刃の数と同数のセンサを備えるシステムと比べて必要なセンサの数を低減することができるため、より低コストで切削システムを構築することができる。
【0031】
(7)より好ましくは、前記切削工具は、シャンク部を備え、前記複数のセンサは、前記シャンク部に設けられる。
【0032】
このような構成により、各切刃の状態を示す物理量をより正確に測定することができるため、切刃の異常をより正確に検知することができる。
【0033】
(8)本開示の実施の形態に係る処理装置は、複数のセンサの計測結果であって、2以上の切刃を用いた切削加工を行うフライス加工用の切削工具における、切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量の計測結果を取得する取得部と、前記取得部により取得された、複数の計測タイミングにおける各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測タイミングごとの2次元データをそれぞれ生成する生成部と、前記生成部により生成された各前記2次元データを前記平面内における前記切刃の数以上の複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、前記単位領域ごとの前記2次元データに基づいて、前記切刃の異常を検知する検知部とを備える。
【0034】
このように、複数のセンサの計測結果に基づいて生成した各2次元データを回転軸と垂直な平面内における複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、単位領域ごとの2次元データに基づいて切刃の異常を検知する構成により、切刃の異常の発生に伴って生じる一部の単位領域のみにおける2次元データの変化を、切削条件の変化に伴って生じるすべての単位領域における2次元データの変化と区別して検知することができるため、切刃の異常を正確に検知することができる。したがって、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することができる。
【0035】
(9)本開示の実施の形態に係る処理方法は、処理装置における処理方法であって、複数のセンサの計測結果であって、2以上の切刃を用いた切削加工を行うフライス加工用の切削工具における、切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量の計測結果を取得するステップと、取得した複数の計測タイミングにおける各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測タイミングごとの2次元データをそれぞれ生成するステップと、生成した各前記2次元データを前記平面内における前記切刃の数以上の複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、前記単位領域ごとの前記2次元データに基づいて、前記切刃の異常を検知するステップとを含む。
【0036】
このように、複数のセンサの計測結果に基づいて生成した各2次元データを回転軸と垂直な平面内における複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、単位領域ごとの2次元データに基づいて切刃の異常を検知する方法により、切刃の異常の発生に伴って生じる一部の単位領域のみにおける2次元データの変化を、切削条件の変化に伴って生じるすべての単位領域における2次元データの変化と区別して検知することができるため、切刃の異常を正確に検知することができる。したがって、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することができる。
【0037】
(10)本開示の実施の形態に係る処理プログラムは、処理装置において用いられる処理プログラムであって、コンピュータを、複数のセンサの計測結果であって、2以上の切刃を用いた切削加工を行うフライス加工用の切削工具における、切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量の計測結果を取得する取得部と、前記取得部により取得された、複数の計測タイミングにおける各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測タイミングごとの2次元データをそれぞれ生成する生成部と、前記生成部により生成された各前記2次元データを前記平面内における前記切刃の数以上の複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、前記単位領域ごとの前記2次元データに基づいて、前記切刃の異常を検知する検知部、として機能させるためのプログラムである。
【0038】
このように、複数のセンサの計測結果に基づいて生成した各2次元データを回転軸と垂直な平面内における複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、単位領域ごとの2次元データに基づいて切刃の異常を検知する構成により、切刃の異常の発生に伴って生じる一部の単位領域のみにおける2次元データの変化を、切削条件の変化に伴って生じるすべての単位領域における2次元データの変化と区別して検知することができるため、切刃の異常を正確に検知することができる。したがって、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することができる。
【0039】
(11)本開示の実施の形態に係る表示システムは、フライス加工用の切削工具と、複数のセンサと、処理装置とを備え、前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、前記複数のセンサは、切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量を計測し、前記処理装置は、複数の計測タイミングにおける各前記センサの計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測タイミングごとの2次元データをそれぞれ生成し、生成した各前記2次元データを前記平面内における前記切刃の数以上の複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する処理を行う。
【0040】
このように、複数のセンサの計測結果に基づいて生成した各2次元データを回転軸と垂直な平面内における複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する構成により、たとえば、各切刃の状態を単位領域ごとの2次元データとして表示することができるため、切刃ごとの状態をユーザに認識させることができる。したがって、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することができる。
【0041】
(12)好ましくは、前記処理装置は、前記分類の結果として、前記2次元データを前記単位領域ごとに異なる態様で表示する処理を行う。
【0042】
このような構成により、2次元データの分類結果をより視認し易い態様で表示することができる。
【0043】
(13)好ましくは、前記処理装置は、前記2次元データの生成および分類を順次行い、前記単位領域ごとの前記2次元データの時間変化を示す情報をさらに表示する処理を行う。
【0044】
このような構成により、たとえば切刃の状態の時間変化を単位領域ごとの2次元データの時間変化としてユーザに認識させることができる。
【0045】
(14)本開示の実施の形態に係る処理装置は、複数のセンサの計測結果であって、2以上の切刃を用いた切削加工を行うフライス加工用の切削工具における、切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量の計測結果を取得する取得部と、前記取得部により取得された、複数の計測タイミングにおける各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測タイミングごとの2次元データをそれぞれ生成する生成部と、前記生成部により生成された各前記2次元データを前記平面内における前記切刃の数以上の複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する処理を行う表示処理部とを備える。
【0046】
このように、複数のセンサの計測結果に基づいて生成した各2次元データを回転軸と垂直な平面内における複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する構成により、たとえば、各切刃の状態を単位領域ごとの2次元データとして表示することができるため、切刃ごとの状態をユーザに認識させることができる。したがって、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することができる。
【0047】
(15)本開示の実施の形態に係る処理方法は、処理装置における処理方法であって、複数のセンサの計測結果であって、2以上の切刃を用いた切削加工を行うフライス加工用の切削工具における、切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量の計測結果を取得するステップと、取得した複数の計測タイミングにおける各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測タイミングごとの2次元データをそれぞれ生成するステップと、生成した各前記2次元データを前記平面内における前記切刃の数以上の複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する処理を行うステップとを含む。
【0048】
このように、複数のセンサの計測結果に基づいて生成した各2次元データを回転軸と垂直な平面内における複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する方法により、たとえば、各切刃の状態を単位領域ごとの2次元データとして表示することができるため、切刃ごとの状態をユーザに認識させることができる。したがって、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することができる。
【0049】
(16)本開示の実施の形態に係る処理プログラムは、処理装置において用いられる処理プログラムであって、コンピュータを、複数のセンサの計測結果であって、2以上の切刃を用いた切削加工を行うフライス加工用の切削工具における、切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量の計測結果を取得する取得部と、前記取得部により取得された、複数の計測タイミングにおける各前記センサの前記計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測タイミングごとの2次元データをそれぞれ生成する生成部と、前記生成部により生成された各前記2次元データを前記平面内における前記切刃の数以上の複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する処理を行う表示処理部、として機能させるためのプログラムである。
【0050】
このように、複数のセンサの計測結果に基づいて生成した各2次元データを回転軸と垂直な平面内における複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する構成により、たとえば、各切刃の状態を単位領域ごとの2次元データとして表示することができるため、切刃ごとの状態をユーザに認識させることができる。したがって、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することができる。
【0051】
以下、本開示の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。また、以下に記載する実施の形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0052】
[切削システム]
図1は、本開示の実施の形態に係る切削システムの構成を示す図である。
【0053】
図1を参照して、切削システム301は、フライス加工用の切削工具101と、複数のひずみセンサ20と、処理装置201とを備える。切削システム301は、表示システムの一例である。処理装置201は、切削システム301における処理部の一例である。
【0054】
[切削工具]
切削工具101は、2以上の切刃を用いた切削加工を行う。切削工具101は、たとえば、フライス盤等の工作機械において使用されるエンドミルであり、金属等からなる切削対象物の転削加工に用いられる。切削工具101は、たとえば刃先交換式のエンドミルである。切削工具101は、アーバ等の工具ホルダ210に保持された状態で使用される。
【0055】
工具ホルダ210は、工作機械の主軸220に取り付けられる。主軸220は、柱状であり、工具ホルダ210に回転力を与える。工具ホルダ210は、主軸220の延長線上に配置される柱状の部材である。具体的には、工具ホルダ210の上端部が、主軸220に保持される。また、工具ホルダ210の下端部が、切削工具101を保持する。
【0056】
切削工具101は、シャンク部11と、ハウジング24と、電池22と、無線通信装置23と、刃取付部12とを備える。
図1では、ハウジング24を想像線である二点鎖線により示している。
【0057】
刃取付部12は、切削工具101におけるシャンク部11よりも先端側に設けられる。
刃取付部12は、たとえば4つの刃固定部13を含む。各刃固定部13には、切刃14が取り付けられる。
【0058】
たとえば、ひずみセンサ20は、切削工具101におけるシャンク部11に設けられる。より詳細には、ひずみセンサ20は、たとえば接着剤または粘着剤を介してシャンク部11の周面に取り付けられる。
【0059】
ハウジング24は、シャンク部11に取り付けられたひずみセンサ20を格納する。具体的には、ハウジング24は、図示しない底板部および側壁部を含む。ハウジング24は、ひずみセンサ20を下方および側方から覆う。
【0060】
電池22および無線通信装置23は、ハウジング24に格納される。たとえば、電池22および無線通信装置23は、ハウジング24の底板部または側壁部に固定される。無線通信装置23は、たとえば通信用IC(Integrated Circuit)等の通信回路を含む。
【0061】
電池22は、図示しない電力線を介して、ひずみセンサ20および無線通信装置23と接続されている。電池22は、電力線を介して、ひずみセンサ20および無線通信装置23へ電力を供給する。電力線には、電力供給のオンおよびオフを切り替えるスイッチが設けられている。
【0062】
たとえば、切削システム301は、切削工具101における切刃14の数と相関の無い数のひずみセンサ20を備える。また、たとえば、切削システム301は、切削工具101における切刃14の数よりも少数のひずみセンサ20を備える。より詳細には、切削システム301は、たとえば3つのひずみセンサ20を備える。
【0063】
図2は、本開示の実施の形態に係る切削工具の構成を示す断面図である。
図2は、
図1におけるII−II線矢視断面図である。
【0064】
図2を参照して、ひずみセンサ20として、ひずみセンサ20A,20B,20Cがシャンク部11に設けられる。ひずみセンサ20Bは、シャンク部11の周方向においてひずみセンサ20Cが設けられた位置から90°ずれた位置に設けられる。ひずみセンサ20Aは、シャンク部11の周方向においてひずみセンサ20Bが設けられた位置から90°ずれた位置に設けられる。ひずみセンサ20A,20Cは、シャンク部11の回転軸17を介して点対称となる位置に設けられる。ひずみセンサ20A,20B,20Cは、たとえば、シャンク部11の回転軸17に沿う方向において、同じ位置に設けられてもよいし、互いに異なる位置に設けられてもよい。
【0065】
なお、ひずみセンサ20A,20B,20Cは、刃取付部12の位置に関わらず、たとえば上述のようにシャンク部11の周面にそれぞれ設けられればよい。すなわち、ひずみセンサ20A,20B,20Cは、シャンク部11の周面において、刃固定部13から回転軸17に沿った位置に設けられる必要はない。
【0066】
以下では、説明のため、回転軸17に直交する平面において、回転軸17からひずみセンサ20Aが設けられた位置への方向をX方向と称し、回転軸17からひずみセンサ20Bが設けられた位置への方向をY方向と称する。
【0067】
図3は、本開示の実施の形態に係る切削工具の構成を示す矢視図である。
図3は、
図1におけるIII方向から見た矢視図である。
【0068】
図3を参照して、刃取付部12は、刃固定部13として、刃固定部13A,13B,13C,13Dを含む。刃固定部13A,13B,13C,13Dは、この順に、刃取付部12の周方向において時計回りに90°ずつずれた位置にそれぞれ設けられる。
【0069】
刃固定部13A,13B,13C,13Dには、切刃14として、切刃14A,14B,14C,14Dがそれぞれ取り付けられる。
【0070】
切刃14は、たとえばスローアウェイチップである。切刃14は、たとえばネジ止めにより刃固定部13に取り付けられる。なお、切刃14は、ネジ止め以外の手段により刃固定部13に固定されてもよい。また、切削工具101は、刃取付部12の代わりに、シャンク部11と一体となった切刃14を備える、いわゆるソリッドエンドミルであってもよい。
【0071】
ひずみセンサ20は、切削加工時の切削工具101の負荷に関する状態を示す物理量を計測する。より詳細には、ひずみセンサ20は、切削加工時の切削工具101の負荷に関する状態を示す物理量として、回転軸17に平行な方向におけるシャンク部11のひずみεを計測する。
【0072】
図4〜
図7は、本開示の実施の形態に係る処理装置における無線通信部により取得されるひずみセンサの計測結果の一例を示す図である。
図4は、ひずみセンサ20Aによるひずみεの計測結果を示す時系列データであり、
図5は、
図4における領域Aの拡大図である。
図6は、ひずみセンサ20Bによるひずみεの計測結果を示す時系列データであり、
図7は、
図6における領域Bの拡大図である。
図4〜
図7において、横軸は時間[秒]であり、縦軸はひずみである[με]である。
【0073】
図4〜
図7を参照して、ひずみセンサ20は、たとえば、切削加工の開始時刻である時刻tsから終了時刻である時刻teまでの期間においてひずみεを計測し、たとえばひずみεに応じたレベルのアナログ信号を図示しない信号線経由で無線通信装置23へ送信する。
【0074】
無線通信装置23は、ひずみセンサ20から受信したアナログ信号を所定のサンプリング周期でAD(Analog Digital)変換し、変換後のデジタル値であるセンサ計測値を生成する。より詳細には、無線通信装置23は、ひずみセンサ20Aから受けるひずみεのアナログ信号をAD変換することによりセンサ計測値sxを生成し、ひずみセンサ20Bから受けるひずみεのアナログ信号をAD変換することによりセンサ計測値syを生成し、ひずみセンサ20Cから受けるひずみεのアナログ信号をAD変換することによりセンサ計測値srを生成する。
【0075】
無線通信装置23は、生成したセンサ計測値sx,sy,srにサンプリングタイミングを示すタイムスタンプを付与し、タイムスタンプが付与されたセンサ計測値sx,sy,srを図示しない記憶部に保存する。
【0076】
無線通信装置23は、たとえば所定周期で、当該記憶部から1または複数組のセンサ計測値sx,sy,srを取得し、取得したセンサ計測値sx,sy,srおよび対応のひずみセンサ20の識別情報を含む無線信号を生成し、生成した無線信号を処理装置201へ送信する。
【0077】
[処理装置]
図8は、本開示の実施の形態に係る切削システムにおける処理装置の構成を示す図である。
【0078】
図8を参照して、処理装置201は、無線通信部110と、生成部120と、処理部130と、記憶部140と、表示部150とを備える。無線通信部110は、取得部の一例である。処理部130は、検知部の一例であり、かつ表示処理部の一例である。
【0079】
無線通信部110は、たとえば通信用IC等の通信回路により実現される。生成部120および処理部130は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)およびDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサによって実現される。記憶部140は、たとえば不揮発性メモリである。表示部150は、たとえばディスプレイである。なお、表示部150は、処理装置201の外部に設けられてもよい。
【0080】
(無線通信部)
無線通信部110は、切削工具101の切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量を計測するひずみセンサ20による計測結果を取得する。
【0081】
より詳細には、無線通信部110は、切削工具101における無線通信装置23と無線による通信を行う。無線通信装置23および無線通信部110は、たとえば、IEEE 802.15.4に準拠したZigBee、IEEE 802.15.1に準拠したBluetooth(登録商標)およびIEEE802.15.3aに準拠したUWB(Ultra Wide Band)等の通信プロトコルを用いた無線による通信を行う。なお、無線通信装置23と無線通信部110との間において、上記以外の通信プロトコルが用いられてもよい。
【0082】
無線通信部110は、切削工具101における無線通信装置23から受信した無線信号からセンサ計測値sx,sy,srおよび識別情報を取得する。そして、無線通信部110は、当該センサ計測値sx,sy,srを当該識別情報に対応付けて記憶部140に保存する。
【0083】
(生成部)
生成部120は、無線通信部110により取得された、複数の計測タイミングにおける各ひずみセンサ20による計測結果に基づいて、切削工具101におけるシャンク部11の回転軸17と垂直な平面内における2方向の負荷に関する、計測タイミングごとの2次元データDをそれぞれ生成する。
【0084】
生成部120は、無線通信部110によりセンサ計測値sx,sy,srが記憶部140に保存されると、記憶部140に保存されたセンサ計測値sx,sy,srに基づいて2次元データDを生成する。
【0085】
図9は、本開示の実施の形態に係る切削工具を模式的に示す斜視図である。
【0086】
図9を参照して、切削工具101による切削加工を行う際に、切削対象物から切刃14に荷重、すなわち切削抵抗F[N]が加わる。
【0087】
たとえば、生成部120は、センサ計測値sx,sy,srに基づいて、シャンク部11の回転軸17と垂直な平面であって、切刃14を通る平面である切削抵抗作用面18内において、X方向の負荷により生じるモーメントMxおよびY方向の負荷により生じるモーメントMyを示す2次元データDを生成する。
【0088】
より詳細には、記憶部140は、センサ計測値sx,sy,srをモーメントMx,Myに変換するための変換式を記憶している。たとえば、当該変換式は、特許文献5および6等に記載の技術を用いて予め作成される。より詳細には、当該変換式は、切削工具101に既知の荷重を加えたときに得られるセンサ計測値sx,sy,srに基づいて予め作成される変換行列である。
【0089】
生成部120は、記憶部140におけるセンサ計測値sx,sy,srおよび変換行列に基づいて、モーメントMx,Myを示す2次元データDを生成する。
【0090】
生成部120は、2次元データDの生成を順次行う。より詳細には、生成部120は、無線通信部110によりセンサ計測値sx,sy,srが記憶部140に保存されるたびに2次元データDを生成し、生成した2次元データDを処理部130へ出力する。
【0091】
なお、生成部120は、変換行列を用いることなく、センサ計測値sx,sy,srに基づいて、ひずみセンサ20Aが設けられた位置におけるひずみε、およびひずみセンサ20Bが設けられた位置におけるひずみεを示す2次元データDを生成する構成であってもよい。
【0092】
(処理部)
図10は、本開示の実施の形態に係る処理装置における生成部により生成される2次元データの一例を示す図である。
図10は、切刃14に異常が発生する前の期間におけるセンサ計測値sx,sy,srに基づいて生成された約8000個の2次元データDを、縦軸がモーメントMx[Nm]であり、かつ横軸がモーメントMy[Nm]である2次元座標C(C1)上にプロットしたものである。
【0093】
図11は、本開示の実施の形態に係る処理装置における生成部により生成される2次元データの他の例を示す図である。
図11は、ある切刃14が欠損した後の期間におけるセンサ計測値sx,sy,srに基づいて生成された約8000個の2次元データDを、縦軸がモーメントMx[Nm]であり、かつ横軸がモーメントMy[Nm]である2次元座標C(C2)上にプロットしたものである。
【0094】
図10および
図11を参照して、切刃14が欠損する前後において、生成部120により生成される2次元データDに微小な変化が生じる。処理部130は、生成部120により生成された2次元データDを解析することにより、切刃14の欠損等の異常を検知する。
【0095】
より詳細には、処理部130は、生成部120により生成された各2次元データDを回転軸17と垂直な平面内における切刃14の数以上の複数の単位領域Aのうちのいずれかに分類する処理である分類処理を行う。たとえば、処理部130は、分類処理として、各2次元データDを2次元座標C1における複数の単位領域Aのうちのいずれかに分類する。そして、処理部130は、単位領域ごとの2次元データDに基づいて、切刃14の異常を検知する処理である検知処理を行う。
【0096】
単位領域Aは、360度をn分割したときの各々の領域である。ここで、nは、切刃14の数以上の整数であるとする。たとえば、単位領域Aは、回転軸17と垂直な平面を、当該平面上の直線であって回転軸17を通る複数の直線により回転軸17まわりにn等分したときの各々の領域である。あるいは、単位領域Aは、2次元座標C1を、原点を通る複数の直線により原点まわりにn等分したときの各々の領域である。
【0097】
(分類処理)
図12は、本開示の実施の形態に係る処理装置における処理部による2次元データの分類の結果の一例を示す図である。
【0098】
図12を参照して、生成部120により生成される2次元データDは、2次元座標C上において略十字形状を有し、原点から延びる4つのデータ群に分類することができる。ここで、各データ群は、切削工具101の各切刃14が受ける切削抵抗Fに対応する。
【0099】
そこで、たとえば、処理部130は、生成部120から受けた複数の2次元データDを切刃14の数と同数の単位領域Aのうちのいずれかに分類する。すなわち、処理部130は、各2次元データDを2次元座標Cにおける4つの単位領域Aである単位領域A1,A2,A3,A4のうちのいずれかに分類する。単位領域A1,A2,A3,A4は、2次元座標C1を、2次元座標C1の原点を通る2本の直線により原点まわりに4等分したときの各々の領域である。
【0100】
より詳細には、単位領域A1,A2,A3,A4は、2次元座標Cにおいて、2次元座標Cにおける原点を通る、互いに直交する2本の直線である境界線L1,L2により区分けされた領域である。
【0101】
たとえば、記憶部140は、境界線L1を示す2次関数F1と、境界線L2を示す2次関数F2とを記憶している。たとえば、処理部130は、予め、生成部120から受けた複数の2次元データDに基づいて2次関数F1,F2を生成し、生成した2次関数F1,F2を記憶部140に保存する。2次関数F1,F2を生成する処理については後述する。
【0102】
また、たとえば、記憶部140は、各単位領域Aと、各切刃14との対応関係を示す対応情報Rを記憶している。たとえば、当該対応情報Rは、テスト用の切刃14を用いた切削加工時に処理装置201において取得したセンサ計測値sx,sy,srに基づいて生成される2次元データDに基づいて予め生成される。以下では、単位領域A1が切刃14Aに対応し、単位領域A2が切刃14Bに対応し、単位領域A3が切刃14Cに対応し、単位領域A4が切刃14Dに対応するものとする。
【0103】
処理部130は、生成部120から2次元データDを受けると、受けた2次元データDが示すモーメントMx,Myと、記憶部140における2次関数F1,F2とに基づいて、当該モーメントMx,Myが属する単位領域Aを判定し、判定した単位領域Aに当該2次元データDを分類する。
【0104】
たとえば、処理部130は、生成部120から受けた2次元データDの分類を順次行う。より詳細には、処理部130は、生成部120から2次元データDを受けるたびに、受けた2次元データDをいずれかの単位領域Aに分類する。処理部130は、2次元データDをいずれかの単位領域Aに分類すると、分類先の単位領域Aを示す分類情報を当該2次元データDに付与し、分類情報が付与された当該2次元データDを記憶部140に保存する。
【0105】
以下では、単位領域A1に分類された2次元データDを「2次元データD1」と称し、単位領域A2に分類された2次元データDを「2次元データD2」と称し、単位領域A3に分類された2次元データDを「2次元データD3」と称し、単位領域A4に分類された2次元データDを「2次元データD4」と称する。
【0106】
(検知処理)
たとえば、処理部130は、2次元データDの時間変化が所定値以上である単位領域Aの数に基づいて、検知処理を行う。
【0107】
たとえば、処理部130は、複数の単位領域Aの2次元データDに基づく指標値をそれぞれ算出する。そして、処理部130は、算出した指標値の時間変化に基づいて検知処理を行う。
【0108】
より詳細には、処理部130は、生成部120から受けた2次元データDを分類すると、単位領域Aごとの指標値として、各単位領域Aにおける2次元データDの原点からの距離Rの移動標準偏差msを算出する。具体的には、処理部130は、2次元データD1の距離R1の移動標準偏差ms1、2次元データD2の距離R2の移動標準偏差ms2、2次元データD3の距離R3の移動標準偏差ms3、および2次元データD4の距離R4の移動標準偏差ms4を算出する。
【0109】
図13は、本開示の実施の形態に係る処理装置における処理部により算出される移動標準偏差msの一例を示す図である。
図13は、横軸が時間[秒]であり、縦軸が移動標準偏差ms[Nm]であるグラフG1を示している。
図13において、実線は移動標準偏差ms1を示しており、破線は移動標準偏差ms2を示しており、一点鎖線は移動標準偏差ms3を示しており、二点鎖線は移動標準偏差ms4を示している。
【0110】
図13を参照して、処理部130は、算出した移動標準偏差msの時間変化に基づいて検知処理を行う。
【0111】
ここで、各移動標準偏差msは、切削工具101における各切刃14が受ける切削抵抗Fに対応する値である。そして、切り込み量等の切削条件が変化すると、切削条件の変化に伴ってすべての切刃14が受ける切削抵抗Fが変化することにより、すべての単位領域Aにおける移動標準偏差msが変化する一方で、一部の切刃14において異常が発生すると、異常が発生した当該切刃14が受ける切削抵抗Fが変化することにより、当該切刃14に対応する単位領域Aにおける移動標準偏差msのみが変化する。
【0112】
そこで、処理部130は、各移動標準偏差msの変化をモニタし、すべての移動標準偏差msが所定値以上変化した場合、当該移動標準偏差msの変化は切刃14の異常によるものではないと判断する一方で、一部の移動標準偏差msが所定値以上変化したことを検知すると、切刃14に異常が発生したと判断する。
【0113】
ただし、切刃14に異常が発生したことによる移動標準偏差msの変化は微小であり、容易に検知することができない場合がある。そこで、たとえば、処理部130は、単位領域Aごとの移動標準偏差msと、各単位領域Aの移動標準偏差msの平均値Amsとの差分Dmsの移動標準偏差MSを算出する。
【0114】
より詳細には、処理部130は、移動標準偏差ms1〜ms4の平均値Amsを算出する。そして、処理部130は、各移動標準偏差msと、移動標準偏差msの平均値Amsとの差分Dmsの移動標準偏差MSを算出する。具体的には、処理部130は、移動標準偏差ms1と平均値Amsとの差分Dms1の移動標準偏差MS1、移動標準偏差ms2と平均値Amsとの差分Dms2の移動標準偏差MS2、移動標準偏差ms3と平均値Amsとの差分Dms3の移動標準偏差MS3、および移動標準偏差ms4と平均値Amsとの差分Dms4の移動標準偏差MS4を算出する。
【0115】
図14は、本開示の実施の形態に係る処理装置における処理部により算出される平均値Amsの一例を示す図である。
図14は、横軸が時間(秒)であり、縦軸が平均値Ams(Nm)であるグラフG2を示している。
【0116】
図15は、本開示の実施の形態に係る処理装置における処理部により算出される差分Dmsの一例を示す図である。
図15は、横軸が時間(秒)であり、縦軸が差分Dms(Nm)であるグラフG3を示している。
図15において、実線は差分Dms1を示しており、破線は差分Dms2を示しており、一点鎖線は差分Dms3を示しており、二点鎖線は差分Dms4を示している。
【0117】
図16は、本開示の実施の形態に係る処理装置における処理部により算出される移動標準偏差MSの一例を示す図である。
図16は、横軸が時間(秒)であり、縦軸が移動標準偏差MS(Nm)であるグラフG4を示している。
図16において、実線は移動標準偏差MS1を示しており、破線は移動標準偏差MS2を示しており、一点鎖線は移動標準偏差MS3を示しており、二点鎖線は移動標準偏差MS4を示している。
【0118】
図16を参照して、たとえば、処理部130は、算出した移動標準偏差MSに基づいて、切刃14の異常を検知する。より詳細には、処理部130は、各移動標準偏差MSの変化をモニタし、すべての移動標準偏差MSが上昇した場合、当該移動標準偏差MSの上昇は切刃14の異常によるものではないと判断する一方で、一部の移動標準偏差MSが上昇したことを検知すると、切刃14に異常が発生したと判断する。
【0119】
具体的には、処理部130は、切削加工の開始時刻である時刻tsおよび終了時刻である時刻teにおいて各移動標準偏差MSが一斉に上昇するが、当該移動標準偏差MSの上昇は切刃14の異常によるものではないと判断する。一方、処理部130は、時刻t1および時刻t2において、移動標準偏差MS2,MS3のみが上昇したことを検知すると、記憶部140における対応情報Rに基づいて、単位領域A2,A3にそれぞれ対応する切刃14B,14Cの少なくともいずれか一方において異常が発生したと判断する。
【0120】
ここで、ある切刃14が欠損すると、当該切刃14の切削量が低減することにより、当該切刃14の次に切削対象物に接触する切刃14における切削抵抗Fが増大する。具体的には、切刃14Aが欠損すると、切刃14Aの次に切削対象物に接触する切刃14Bにおける切削抵抗Fが増大する。その結果、欠損した切刃14Aに対応する移動標準偏差MS1だけでなく、切刃14Aが切削対象物に接触した直後に切削対象物に接触する切刃14Bに対応する移動標準偏差MS2も上昇する場合がある。
【0121】
そこで、処理部130は、隣り合う複数の単位領域A2,A3における移動標準偏差MS2,MS3が上昇した場合、移動標準偏差MS2,MS3に対応する、連続して切削対象物に接触する切刃14B,14Cのうちの最初に切削対象物に接触する切刃14Bが欠損したと判断する。
【0122】
図13および
図15から明らかなように、単位領域Aごとの移動標準偏差MSの変化量の差は、単位領域Aごとの移動標準偏差msの変化量の差と比べて大きい。したがって、移動標準偏差MSを用いて検知処理を行うことにより、切刃14における異常をより容易に検知することができる。
【0123】
(移動標準偏差MSについて)
以下、移動標準偏差msと平均値Amsとの差分Dmsの移動標準偏差MSを算出する意義について、詳細に説明する。
【0124】
切削工具101を用いた切削加工の開始後、n番目に切削対象物に切り込む切刃14に加わる切削抵抗Fnは、以下の式(1)により表される。
【数1】
【0125】
ここで、Kは、比切削抵抗である。apは、切刃14の回転軸17方向における切込み量である。hnは、n番目に切削対象物に切り込む切刃14の回転軸17方向における位置ずれである。fzは、一刃あたりの送り量である。rnは、n番目に切削対象物に切り込む切刃14の、シャンク部11の半径方向における位置ずれである。なお、切込み量apおよび送り量fzは、切削条件として設定された設定値である。
【0126】
式(1)において、rn−r(n−1)をΔrnとし、式(1)を展開すると、切削抵抗Fnは、以下の式(2)の通りである。
【数2】
【0127】
式(2)において、hn×Δrnの項は無視できる程小さい値であるので、切削抵抗Fnは、以下の式(3)により表すことができる。
【数3】
【0128】
式(3)において、たとえば、ap×Δrnの項はhn×fzの項の3倍程度の値であり、ap×fzの項はap×Δrnの項の10倍程度の値である。apおよびfzは、加工条件における設定値に応じて定まる値である。一方、hnおよびΔrnは、切刃14を刃固定部13へ取り付ける際の取り付け位置のずれ、または切刃14の欠損によって生じる値であるので、hnおよびΔrnに着目することにより、切刃14の欠損をより正確に検知することができる。
【0129】
図17および
図18は、本開示の実施の形態に係る切削工具における切刃の切削抵抗の算出結果を示す度数分布である。より詳細には、
図17および
図18は、切刃14を刃固定部13へ取り付ける際の取り付け位置のずれを考慮して切刃14の切削抵抗のばらつきを数値計算することにより得られる度数分布を示している。
図17および
図18において、横軸は、切込み量apと送り量fzとの積apfzに対する切削抵抗Fの割合P[%]であり、縦軸は度数である。
図17は、切削工具101に取り付けられた4つの切刃14のうちの1つの切刃14の切削抵抗Fの割合Pである割合Psを示しており、
図18は、切削工具101に取り付けられた4つの切刃14の切削抵抗Fの平均値Fmeanの割合Pである割合Pmを示している。
【0130】
図17を参照して、1つの切刃14の切削抵抗Fの割合Psのばらつきは、切刃14を刃固定部13へ取り付ける際の取り付け位置のずれに起因するものと考えられる。一方、
図18を参照して、各切刃14の切削抵抗Fの平均値Fmeanの割合Pmは、割合Psと比べてばらつきが小さく、割合Pmは100%とみなすことができる。すなわち、平均値Fmeanは、切削条件として設定された設定値である切込み量apおよび送り量fzに基づいて定まる値とほぼ等しい値であると仮定することができ、具体的には以下の式(4)により表すことができる。
【数4】
【0131】
式(3)および式(4)より、切削抵抗Fnと平均値Fmeanとの差分DFは、以下の式(5)により表すことができる。
【数5】
【0132】
式(5)に示すように、差分DFは、式(3)からap×fzの項を消去したものであり、hnまたはΔrnを含む項のみによって表される。したがって、切削抵抗Fnと平均値Fmeanとの差分DFに着目することにより、正確な検知処理を行うことができる。
【0133】
ここで、上述したように、移動標準偏差msは、切削工具101における各切刃14が受ける切削抵抗Fに対応する値である。一方、移動標準偏差ms1〜ms4の平均値Amsは、すべての切刃14が受ける切削抵抗Fの平均値Fmeanに対応する値である。したがって、移動標準偏差msの平均値Amsとの差分Dmsを算出し、差分Dmsの移動標準偏差MSに着目することにより、切刃14の異常の発生に基づく2次元データDの変化すなわち切削抵抗Fの変化をより正確に検知することができ、より正確な検知処理を行うことができる。
【0134】
なお、処理部130は、移動標準偏差MSに基づいて切刃14の異常を検知する構成に限定されず、たとえば自己回帰モデル(ARモデル)、自己回帰移動平均モデル(ARMAモデル)およびBayesian Online Changepoint Detection等の他の手法を用いて切刃14の異常を検知する構成であってもよい。
【0135】
(表示処理)
処理部130は、分類処理を行うと、分類の結果を表示部150に表示する処理である表示処理を行う。
【0136】
図19は、本開示の実施の形態に係る処理装置における表示部に表示される表示画面の一例を示す図である。
【0137】
図19を参照して、たとえば、処理部130は、分類の結果として、2次元データDのプロットおよび単位領域Aが図示された2次元座標Cを含む表示画面DSを表示部150に表示する処理を行う。
【0138】
たとえば、処理部130は、2次元データDを単位領域Aごとに異なる態様で表示する処理を行う。より詳細には、たとえば、処理部130は、単位領域Aごとに異なる色のプロットが図示された2次元座標Cを含む表示画面DSを表示部150に表示する処理を行う。あるいは、処理部130は、単位領域Aごとに異なる形状のプロットが図示された2次元座標Cを含む表示画面DSを表示部150に表示する処理を行う。あるいは、処理部130は、単位領域Aごとに異なる色および形状のプロットが図示された2次元座標Cを含む表示画面DSを表示部150に表示する処理を行う。
【0139】
また、たとえば、処理部130は、単位領域Aごとの2次元データDの時間変化を表示する処理を行う。より詳細には、処理部130は、2次元座標Cとともに、移動標準偏差msの時間変化を示すグラフG1、および移動標準偏差MSの時間変化を示すグラフG4を含む表示画面DSを表示部150に表示する処理を行う。
【0140】
(2次関数F1,F2の生成)
処理部130は、生成部120から受けた複数の2次元データDを用いて、2次関数F1,F2を生成する。
【0141】
図20は、本開示の実施の形態に係る処理装置における処理部による単位領域の決定方法を示す図である。
【0142】
図20を参照して、たとえば、処理部130は、初めに、各2次元データDを極座標系に変換する。そして、処理部130は、2次元座標Cにおける原点を通る、互いに直交する2本の直線である暫定境界線Lp1(θ),Lp2(θ)により、各2次元データDを2次元座標Cにおける4つの暫定単位領域Ap1,Ap2,Ap3,Ap4に分類する。
【0143】
そして、処理部130は、暫定単位領域Ap1を規定する暫定境界線Lp1(θ),Lp2(θ)の2等分線Lb1と、暫定単位領域Ap1に分類した各2次元データDとの成す角度の和である角度和Asum1(θ)を算出する。同様に、処理部130は、暫定単位領域Ap2を規定する暫定境界線Lp1(θ),Lp2(θ)の2等分線Lb2と、暫定単位領域Ap2に分類した各2次元データDとの成す角度の和である角度和Asum2(θ)を算出する。また、処理部130は、暫定単位領域Ap3を規定する暫定境界線Lp1(θ),Lp2(θ)の2等分線Lb1と、暫定単位領域Ap3に分類した各2次元データDとの成す角度の和である角度和Asum3(θ)を算出する。また、処理部130は、暫定単位領域Ap4を規定する暫定境界線Lp1(θ),Lp2(θ)の2等分線Lb2と、暫定単位領域Ap4に分類した各2次元データDとの成す角度の和である角度和Asum4(θ)を算出する。
【0144】
処理部130は、角度和Asum1(θ),Asum2(θ),Asum3(θ),Asum4(θ)の和を評価値V(θ)として算出する。
【0145】
そして、処理部130は、暫定境界線Lp1(θ),Lp2(θ)を原点まわりに微小角度たとえば1°ずらし、1°ずらして得られる暫定境界線Lp1(θ+1),Lp2(θ+1)を用いて、上述した手順で評価値V(θ+1)を算出する。処理部130は、このようにして、暫定境界線Lp1(θ),Lp2(θ)を原点まわり360°回転するまで1°ずつずらしながら、評価値V(θ+n)を繰り返し算出する。ここで、nは1以上かつ360以下の整数である。
【0146】
処理部130は、評価値V(θ+n)が最小となるときの暫定境界線Lp1(θ+n),Lp2(θ+n)を境界線L1,L2として決定し、当該境界線L1を示す2次関数F1および当該境界線L2を示す2次関数F2を生成し、生成した2次関数F1,F2を記憶部140に保存する。
【0147】
処理部130は、切削加工を行うたびに、切削加工の開始前に2次関数F1,F2を生成してもよいし、切刃14またはセンサ20の交換等によって切刃14とセンサ20との位置関係が変化するたびに2次関数F1,F2を生成してもよい。
【0148】
[動作の流れ]
本開示の実施の形態に係る切削システムにおける各装置は、メモリを含むコンピュータを備え、当該コンピュータにおけるCPU等の演算処理部は、以下のフローチャートおよびシーケンスの各ステップの一部または全部を含むプログラムを当該メモリから読み出して実行する。これら複数の装置のプログラムは、それぞれ、HDD(Hard Disk Drive)、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD−ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)および半導体メモリ等の記録媒体に格納された状態で流通する。これら複数の装置のプログラムは、それぞれ、外部からインストールすることができる。たとえば、これら複数の装置のプログラムは、上記記録媒体からインストールすることができる。また、たとえば、これら複数の装置のプログラムは、所定のサーバ等から、電気通信回線、無線通信回線、有線通信回線、およびインターネットを代表とするネットワークを経由してダウンロードし、インストールすることができる。また、たとえば、これら複数の装置のプログラムは、所定のサーバ等からデータ放送等によりダウンロードし、インストールすることができる。
【0149】
図21は、本開示の実施の形態に係る切削システムにおける処理装置が切刃の状態を判定する際の動作手順の一例を定めたフローチャートである。
【0150】
図21を参照して、まず、処理装置201は、切削工具101における無線通信装置23からの無線信号を待ち受け(ステップS102でNO)、無線信号を受信すると(ステップS102でYES)、受信した無線信号からセンサ計測値sx,sy,srおよび識別情報を取得する(ステップS104)。
【0151】
次に、処理装置201は、取得したセンサ計測値sx,sy,srおよび記憶部140における変換行列に基づいて、モーメントMx,Myを示す2次元データDを生成する(ステップS106)。
【0152】
次に、処理装置201は、生成した2次元データDを単位領域A1,A2,A3,A4のうちのいずれかに分類する(ステップS108)。
【0153】
次に、処理装置201は、単位領域Aごとに、2次元データDに基づく移動標準偏差MSを算出する(ステップS110)。
【0154】
次に、処理装置201は、各単位領域Aに対応する複数の移動標準偏差MSのうちの一部の移動標準偏差MSのみが上昇した場合(ステップS112でYES)、切刃14において異常が発生したと判断する(ステップS114)。
【0155】
次に、処理装置201は、2次元データDのプロットおよび単位領域Aが図示された2次元座標C、移動標準偏差msの時間変化を示すグラフG1、ならびに移動標準偏差MSの時間変化を示すグラフG3を含む表示画面DSを表示部150に表示する処理を行う(ステップS116)。
【0156】
次に、処理装置201は、切削工具101における無線通信装置23からの新たな無線信号を待ち受ける(ステップS102でNO)。
【0157】
一方、処理装置201は、各単位領域Aに対応するすべての移動標準偏差MSが上昇しなかった場合またはすべての移動標準偏差MSが上昇した場合(ステップS112でNO)、切刃14において異常が発生していないと判断する(ステップS118)。
【0158】
次に、処理装置201は、2次元データDのプロットおよび単位領域Aが図示された2次元座標C、移動標準偏差msの時間変化を示すグラフG1、および移動標準偏差MSの時間変化を示すグラフG4を含む表示画面DSを表示部150に表示する処理を行う(ステップS116)。
【0159】
次に、処理装置201は、切削工具101における無線通信装置23からの新たな無線信号を待ち受ける(ステップS102でNO)。
【0160】
なお、上記ステップS112,S114,S118と、ステップS116との順番は、上記に限らず、順番を入れ替えてもよい。また、上記ステップS112,S114,S118と、ステップS116とのいずれか一方を行わなくてもよい。
【0161】
図22は、本開示の実施の形態に係る切削システムにおける検知処理および表示処理のシーケンスの一例を示す図である。
【0162】
図22を参照して、まず、切削工具101は、2以上の切刃を用いた切削加工を開始する(ステップS202)。
【0163】
次に、切削工具101に設けられたひずみセンサ20は、シャンク部11のひずみεの計測を開始する(ステップS204)。
【0164】
次に、切削工具101は、ひずみセンサ20からのアナログ信号に基づくセンサ計測値sx,sy,srを無線信号に含めて処理装置201へ送信する(ステップS206)。
【0165】
次に、処理装置201は、切削工具101から受信した無線信号からセンサ計測値sx,sy,srを取得し、取得したセンサ計測値sx,sy,srおよび記憶部140における変換行列に基づいて、モーメントMx,Myを示す2次元データDを生成する(ステップS208)。
【0166】
次に、処理装置201は、分類処理を行う(ステップS210)。
【0167】
次に、処理装置201は、検知処理を行う(ステップS212)。
【0168】
次に、処理装置201は、表示処理を行う(ステップS214)。
【0169】
次に、切削工具101は、ひずみセンサ20からのアナログ信号に基づく新たなセンサ計測値sx,sy,srを無線信号に含めて処理装置201へ送信する(ステップS216)。
【0170】
[変形例1]
本開示の実施の形態に係る切削工具101は、4つの刃固定部13を含むエンドミルであるとしたが、これに限定するものではない。切削工具101は、2つ、3つまたは5つ以上の刃固定部13を含む構成であってもよい。また、切削工具101は、エンドミル以外の工具たとえば正面フライスであってもよい。
【0171】
[変形例2]
本開示の実施の形態に係る切削システム301は、切削工具101における切刃14の数と相関の無い数のひずみセンサ20を備える構成であるとしたが、これに限定するものではない。切削システム301は、切刃14の数と何らかの相関を有する数のひずみセンサ20を備える構成であってもよい。
【0172】
また、切削システム301は、切削工具101における切刃14の数よりも少数のひずみセンサ20を備える構成であるとしたが、これに限定するものではない。切削システム301は、切削工具101における切刃14の数以上の数のひずみセンサ20を備える構成であってもよい。
【0173】
[変形例3]
本開示の実施の形態に係る切削システム301では、ひずみセンサ20は、切削工具101におけるシャンク部11に設けられる構成であるとしたが、これに限定するものではない。ひずみセンサ20は、切削工具101における刃取付部12に設けられてもよい。また、ひずみセンサ20は、たとえば工具ホルダ210に設けられてもよい。
【0174】
[変形例4]
本開示の実施の形態に係る切削システム301では、ひずみセンサ20は、回転軸17に平行な方向におけるシャンク部11のひずみεを計測する構成であるとしたが、これに限定するものではない。ひずみセンサ20は、シャンク部11のせん断ひずみを計測する構成であってもよい。
【0175】
この場合、たとえば、生成部120は、ひずみセンサ20により計測されたせん断ひずみを示すセンサ計測値に基づいて、切削抵抗作用面18内において切削工具101が受けるX方向の荷重FxおよびY方向の荷重Fyを示す2次元データDを生成する。
【0176】
また、切削システム301は、複数のセンサとして、ひずみセンサ20の代わりに、またはひずみセンサ20に加えて、加速度センサ、速度センサおよび変位センサ等の他のセンサを備える構成であってもよい。
【0177】
この場合、生成部120は、センサによる計測結果に基づいて、切削抵抗作用面18内における切削工具101のX方向の加速度およびY方向の加速度を示す2次元データD、
切削抵抗作用面18内における切削工具101のX方向の速度およびY方向の速度を示す2次元データD、または切削抵抗作用面18内における切削工具101のX方向の変位およびY方向の変位を示す2次元データDを生成する。
【0178】
なお、加速度センサまたは速度センサを用いる場合、計測結果に基づいて生成部120により生成される2次元データDであって、ある切刃14に加わる切削抵抗Fに関する2次元データDと、回転軸17に関して当該切刃14の点対称の位置にある他の切刃14に加わる切削抵抗Fに関する2次元データDとが、2次元座標Cにおいて概ね同じ位置に現れてしまい、各2次元データDを切刃14ごとに分類することが困難となる場合がある。
【0179】
したがって、加速度センサまたは速度センサを用いる場合、回転軸17に関して点対称の位置に切刃14が設けられない切削工具101を用いることが好ましい。具体的には、加速度センサまたは速度センサを用いる場合、たとえば、刃取付部12において回転軸17周りに等間隔に3つの刃固定部13を備える切削工具101、または刃取付部12において回転軸17周りに等間隔に5つの刃固定部13を備える切削工具101を用いることが好ましい。
【0180】
[変形例5]
本開示の実施の形態に係る処理装置201では、処理部130は、生成部120から受けた複数の2次元データDを、回転軸17と垂直な平面内における切刃14の数と同数すなわち4つの単位領域Aのうちのいずれかに分類する構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、複数の2次元データDを、回転軸17と垂直な平面内における切刃14の数より大きい数の単位領域Aのうちのいずれかに分類する構成であってもよい。
【0181】
たとえば、処理部130は、複数の2次元データDを、回転軸17と垂直な平面内における12個の単位領域Aのうちのいずれかに分類する処理である分類処理を行う。この場合、単位領域Aは、360度を30度ごとに分割したときの各々の領域である。すなわち、単位領域Aは、回転軸17と垂直な平面を、当該平面上の直線であって回転軸17を通る6本の直線により回転軸17まわりに12等分したときの各々の領域である。
【0182】
[変形例6]
本開示の実施の形態に係る処理装置201では、処理部130は、2次元データDに基づく指標値の時間変化に基づいて切刃14の異常を検知する構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、2次元データDに基づく指標値の絶対値に基づいて切刃14の異常を検知する構成であってもよい。
【0183】
[変形例7]
本開示の実施の形態に係る処理装置201では、処理部130は、各単位領域Aにおける移動標準偏差msを算出する構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、単位領域Aごとの指標値として、各単位領域Aにおける移動最大値を算出する構成であってもよいし、各単位領域Aにおける移動平均maを算出する構成であってもよい。
【0184】
たとえば、処理部130は、各単位領域Aにおける2次元データDの原点からの距離Rの移動平均maを算出する。具体的には、処理部130は、2次元データD1の距離R1の移動平均ma1、2次元データD2の距離R2の移動平均ma2、2次元データD3の距離R3の移動平均ma3、および2次元データD4の距離R4の移動平均ma4を算出する。
【0185】
図23は、本開示の実施の形態の変形例7に係る処理装置における処理部により算出される移動平均maの一例を示す図である。
図23は、横軸が時間[秒]であり、縦軸が移動平均ma[Nm]であるグラフG5を示している。
図23において、実線は移動平均ma1を示しており、破線は移動平均ma2を示しており、一点鎖線は移動平均ma3を示しており、二点鎖線は移動平均ma4を示している。
【0186】
図23を参照して、処理部130は、算出した移動平均maの時間変化に基づいて検知処理を行う。
【0187】
たとえば、処理部130は、単位領域Aごとの移動平均maと、各単位領域Aの移動平均maの平均値Amaとの差分Dmaの移動標準偏差MAを算出する。
【0188】
より詳細には、処理部130は、移動平均ma1〜ms4の平均値Amaを算出する。そして、処理部130は、各移動平均maと、移動平均maの平均値Amaとの差分Dmaの移動標準偏差MAを算出する。具体的には、処理部130は、移動平均ma1と平均値Amaとの差分Dma1の移動標準偏差MA1、移動平均ma2と平均値Amaとの差分Dma2の移動標準偏差MA2、移動平均ma3と平均値Amaとの差分Dma3の移動標準偏差MA3、および移動平均ma4と平均値Amaとの差分Dma4の移動標準偏差MA4を算出する。
【0189】
図24は、本開示の実施の形態の変形例7に係る処理装置における処理部により算出される平均値Amaの一例を示す図である。
図24は、横軸が時間(秒)であり、縦軸が平均値Ama(Nm)であるグラフG6を示している。
【0190】
図25は、本開示の実施の形態の変形例7に係る処理装置における処理部により算出される差分Dmaの一例を示す図である。
図25は、横軸が時間(秒)であり、縦軸が差分Dma(Nm)であるグラフG7を示している。
図25において、実線は差分Dma1を示しており、破線は差分Dma2を示しており、一点鎖線は差分Dma3を示しており、二点鎖線は差分Dma4を示している。
【0191】
図26は、本開示の実施の形態の変形例7に係る処理装置における処理部により算出される移動標準偏差MAの一例を示す図である。
図26は、横軸が時間(秒)であり、縦軸が移動標準偏差MA(Nm)であるグラフG8を示している。
図26において、実線は移動標準偏差MA1を示しており、破線は移動標準偏差MA2を示しており、一点鎖線は移動標準偏差MA3を示しており、二点鎖線は移動標準偏差MA4を示している。
【0192】
図26を参照して、たとえば、処理部130は、算出した移動標準偏差MAに基づいて、切刃14の異常を検知する。より詳細には、処理部130は、各移動標準偏差MAの変化をモニタし、すべての移動標準偏差MAが上昇した場合、当該移動標準偏差MAの上昇は切刃14の異常によるものではないと判断する一方で、一部の移動標準偏差MAが上昇したことを検知すると、切刃14に異常が発生したと判断する。
【0193】
[変形例8]
本開示の実施の形態に係る切削システム301では、処理部130は、生成部120から受けた2次元データDを分類すると、各単位領域Aにおける2次元データDの原点からの距離Rの移動標準偏差msを算出する構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理部130は、各単位領域Aにおいて、所定のしきい値以上の距離Rのみを用いて移動標準偏差msを算出する構成であってもよい。すなわち、処理部130は、2次元データDの足切りを行う構成であってもよい。距離Rが所定未満である2次元データは、切刃14が切削対象物に接触する前または後のデータである場合があるところ、このような2次元データDの足切りを行うことにより、より正確な検知処理を行うことができる。
【0194】
[変形例9]
本開示の実施の形態に係る切削システム301は、切削工具101とは別個に処理装置201を備える構成であるとしたが、これに限定するものではない。処理装置201は、切削工具101に設けられる構成であってもよいし、工作機械に設けられる構成であってもよい。また、処理装置201は、検知処理および表示処理を行う構成であるとしたが、これに限定するものではない、処理装置201は、検知処理および表示処理のいずれか一方を行わない構成であってもよい。
【0195】
ところで、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することが可能な技術が望まれる。
【0196】
たとえば、特許文献1には、切削工具における各切刃にひずみセンサを取り付け、各ひずみセンサの計測値に基づいて対応の切刃の異常を検知することが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、あるタイミングにおいて複数の切刃が切削対象物に接触するような切削加工を行った場合、各ひずみセンサの計測値は、対応の切刃以外の他の切刃に加わる切削抵抗の影響を受けた値、すなわち切削対象物に接触する複数の切刃に加わる切削抵抗の影響を受けた値となってしまう。言い換えると、特許文献1に記載の技術では、1つの刃部のみに加わる切削抵抗に関する計測値を対応のひずみセンサから取得することができない。したがって、切刃の異常を正確に検知することができない場合がある。また、特許文献1に記載の技術では、切刃の数に対応する数のセンサを要するため、切刃の数の増大に応じてコストが増大する。
【0197】
また、特許文献2に記載の技術では、切刃の数および切削工具の回転数等の切削条件に対してセンサによる計測結果をAD変換する際のサンプリング周波数が十分でない場合、センサによる計測値のピークを正確に検出することができず、切刃の異常を正確に検知することができない場合がある。
【0198】
また、特許文献8,9に記載の技術では、各切刃の回転軸方向およびシャンクの半径方向における位置ずれの影響により、センサの計測結果から得られる2次元の投影図が非対称になってしまい、切刃の異常を正確に検知することができない場合がある。
【0199】
また、特許文献10に記載の技術では、工作機械の主軸の駆動力を測定するセンサを用いることが記載されているが、このようなセンサによる計測結果に基づいて切刃の異常を検知しようとすると、たとえば切削工具の回転数等の加工条件を用いた解析を行う必要があり、構成および処理が複雑化する。また、特許文献10に記載の技術では、センサによる計測結果に基づいて生成される2次元データDを単位領域Aに分類する処理を行わないため、たとえば切刃に加わる切削抵抗を切刃ごとに解析することができず、切刃の異常を正確に検知することができない場合がある。
【0200】
これに対して、本開示の実施の形態に係る切削システム301では、切削工具101は、2以上の切刃14を用いた切削加工を行う。ひずみセンサ20は、切削加工時の切削工具101の負荷に関する状態を示す物理量を計測する。処理装置201は、複数の計測タイミングにおけるひずみセンサ20の計測結果に基づいて、切削工具101の回転軸と垂直な平面内における2方向の負荷に関する、計測タイミングごとの2次元データDをそれぞれ生成し、生成した各2次元データDを当該平面内における切刃14の数以上の複数の単位領域Aのうちのいずれかに分類し、単位領域Aごとの2次元データDに基づいて、切刃14の異常を検知する。
【0201】
本開示の実施の形態に係る処理装置201では、無線通信部110は、ひずみセンサ20の計測結果であって、2以上の切刃を用いた切削加工を行うフライス加工用の切削工具101における、切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量の計測結果を取得する。生成部120は、無線通信部110により取得された、複数の計測タイミングにおける各ひずみセンサ20の計測結果に基づいて、切削工具101の回転軸17と垂直な平面内における2方向の負荷に関する、計測タイミングごとの2次元データDをそれぞれ生成する。処理部130は、生成部120により生成された各2次元データDを当該平面内における切刃14の数以上の複数の単位領域Aのうちのいずれかに分類し、単位領域Aごとの2次元データDに基づいて、切刃14の異常を検知する。
【0202】
本開示の実施の形態に係る処理方法は、処理装置201における処理方法である。この処理方法では、まず、処理装置201が、ひずみセンサ20の計測結果であって、2以上の切刃14を用いた切削加工を行うフライス加工用の切削工具101における、切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量の計測結果を取得する。次に、処理装置201が、取得した複数の計測タイミングにおける各ひずみセンサ20の計測結果に基づいて、切削工具101の回転軸17と垂直な平面内における2方向の負荷に関する、計測タイミングごとの2次元データDをそれぞれ生成する。次に、処理装置201が、生成した各2次元データDを当該平面内における切刃14の数以上の複数の単位領域Aのうちのいずれかに分類し、単位領域Aごとの2次元データDに基づいて、切刃14の異常を検知する。
【0203】
このように、ひずみセンサ20の計測結果に基づいて生成した各2次元データDを回転軸17と垂直な平面内における複数の単位領域Aのうちのいずれかに分類し、単位領域Aごとの2次元データDに基づいて切刃14の異常を検知する構成および方法により、切刃の異常の発生に伴って生じる一部の単位領域のみにおける2次元データDの変化を、切削条件の変化に伴って生じるすべての単位領域における2次元データDの変化と区別して検知することができるため、切刃の異常を正確に検知することができる。
【0204】
したがって、本開示の実施の形態に係る切削システム、処理装置および処理方法では、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することができる。
【0205】
本開示の実施の形態に係る切削システム101では、切削工具101は、2以上の切刃14を用いた切削加工を行う。ひずみセンサ20は、切削加工時の切削工具101の負荷に関する状態を示す物理量を計測する。処理装置201は、複数の計測タイミングにおけるひずみセンサ20の計測結果に基づいて、切削工具101の回転軸と垂直な平面内における2方向の負荷に関する、計測タイミングごとの2次元データDをそれぞれ生成し、生成した各2次元データDを当該平面内における切刃14の数以上の複数の単位領域Aのうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する処理を行う。
【0206】
本開示の実施の形態に係る処理装置201では、無線通信部110は、ひずみセンサ20の計測結果であって、2以上の切刃を用いた切削加工を行うフライス加工用の切削工具101における、切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量の計測結果を取得する。生成部120は、無線通信部110により取得された、複数の計測タイミングにおける各ひずみセンサ20の計測結果に基づいて、切削工具101の回転軸17と垂直な平面内における2方向の負荷に関する、計測タイミングごとの2次元データDをそれぞれ生成する。処理部130は、生成部120により生成された各2次元データDを当該平面内における切刃14の数以上の複数の単位領域Aのうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する処理を行う。
【0207】
本開示の実施の形態に係る処理方法は、処理装置201における処理方法である。この処理方法では、まず、処理装置201が、ひずみセンサ20の計測結果であって、2以上の切刃14を用いた切削加工を行うフライス加工用の切削工具101における、切削加工時の負荷に関する状態を示す物理量の計測結果を取得する。次に、処理装置201が、取得した複数の計測タイミングにおける各ひずみセンサ20の計測結果に基づいて、切削工具101の回転軸17と垂直な平面内における2方向の負荷に関する、計測タイミングごとの2次元データDをそれぞれ生成する。次に、処理装置201が、生成した各2次元データDを当該平面内における切刃14の数以上の複数の単位領域Aのうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する処理を行う。
【0208】
このように、ひずみセンサ20の計測結果に基づいて生成した各2次元データDを回転軸17と垂直な平面内における複数の単位領域Aのうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する構成および方法により、たとえば、各切刃の状態を単位領域Aごとの2次元データとして表示することができるため、切刃14ごとの状態をユーザに認識させることができる。
【0209】
したがって、本開示の実施の形態に係る表示システム、処理装置および処理方法では、切削工具における切刃に関する優れた機能を実現することができる。
【0210】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0211】
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
[付記1]
フライス加工用の切削工具と、
複数のセンサと、
処理部とを備え、
前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、
前記複数のセンサは、切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量を計測し、
前記処理部は、複数の計測タイミングにおける各前記センサの計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測タイミングごとの2次元データをそれぞれ生成し、生成した各前記2次元データを前記平面内における前記切刃の数以上の複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、前記単位領域ごとの前記2次元データに基づいて、前記切刃の異常を検知し、
前記処理部は、前記複数の単位領域の前記2次元データに基づく指標値をそれぞれ算出し、前記単位領域ごとの前記指標値と、各前記単位領域の前記指標値の平均値との差分の標準偏差を算出し、算出した前記標準偏差に基づいて、前記切刃の異常を検知し、
前記処理部は、前記指標値として、各前記単位領域における前記2次元データの、前記平面内における原点からの距離の移動平均または移動標準偏差を算出する、切削システム。
【0212】
[付記2]
フライス加工用の切削工具と、
複数のセンサと、
処理装置とを備え、
前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、
前記複数のセンサは、切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量を計測し、
前記処理装置は、複数の計測タイミングにおける各前記センサの計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測タイミングごとの2次元データをそれぞれ生成し、生成した各前記2次元データを前記平面内における前記切刃の数以上の複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、分類の結果を表示する処理を行い、
前記処理装置は、前記各2次元データを前記切刃の数と同数の前記単位領域のうちのいずれかに分類し、
前記処理装置は、前記分類の結果として、前記2次元データを前記単位領域ごとに異なる態様で表示する処理を行う、表示システム。
切削工具における切刃に関する優れた機能を実現する。切削システムは、フライス加工用の切削工具と、複数のセンサと、処理部とを備え、前記切削工具は、2以上の切刃を用いた切削加工を行い、前記複数のセンサは、切削加工時の前記切削工具の負荷に関する状態を示す物理量を計測し、前記処理部は、複数の計測タイミングにおける各前記センサの計測結果に基づいて、前記切削工具の回転軸と垂直な平面内における2方向の前記負荷に関する、前記計測タイミングごとの2次元データをそれぞれ生成し、生成した各前記2次元データを前記平面内における前記切刃の数以上の複数の単位領域のうちのいずれかに分類し、前記単位領域ごとの前記2次元データに基づいて、前記切刃の異常を検知する。