(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アッパシェルが、軸方向中間部に、径方向内側に向けて突出したフランジ部を有し、前記段部が、前記フランジ部により構成されている、請求項1に記載の懸架装置。
前記段部の内径寸法以下の外径寸法を有し、前記ボールねじ軸の軸方向他側部分の周囲に配置されており、前記段部の内周面に当接または近接対向させた外周面を備えた、バンプストッパを有する、請求項1または2に記載の懸架装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2010−228579号公報に記載の懸架装置は、組立作業を容易にする面から改良の余地がある。すなわち、特開2010−228579号公報に記載の懸架装置では、ボールねじ機構のねじロッドは、複列玉軸受により、インナチューブに対して回転可能に支持され、かつ、インナチューブは、電磁モータのケーシングに対して支持固定されている。電磁モータのケーシングは、マウント部および防振ゴムを介して、アッパーサポートと結合固定されている。特開2010−228579号公報に記載の懸架装置を組み立てる際には、まず、ねじロッドの周囲に、ナット支持筒に固定されたナットをベアリングボールを介して螺合し、ねじロッドをインナチューブの内側に複列玉軸受により回転自在に支持し、かつ、インナチューブを電磁モータのケーシングに対し支持固定することでサブアセンブリを得る。その後、サブアセンブリを、アッパーサポートの内側に挿入し、電磁モータのケーシングとアッパーサポートとを、マウント部および防振ゴムを介して結合固定する。
【0007】
すなわち、特開2010−228579号公報に記載の懸架装置では、組立作業の際に、重量が嵩む電磁モータを、ボールねじ機構およびインナチューブと一体にサブアセンブリとして扱う必要があり、面倒である。
【0008】
また、特開2010−228579号公報に記載の懸架装置では、アッパーサポートに対し、アウターチューブを上下方向(軸方向)の変位を可能に内嵌し、かつ、アッパーサポートの上端部に設けた上部リテーナ(フランジ部)と、アウターチューブの中間部に設けた下部リテーナとの間でコイルスプリングを挟持している。アッパーサポートとアウターチューブとが全長を収縮させることに伴って、コイルスプリングが弾性的に収縮する。ただし、アッパーサポートとアウターチューブとは、アッパーサポートの下端部が下部リテーナに衝突するまでしか、全長を収縮させることができず、コイルスプリングもそれ以上収縮することはできない。なお、下部リテーナの設置位置を下側に移動させることで、アッパーサポートとアウターチューブとの相対変位可能量(ストローク)を増大させることも考えられるが、下部リテーナをアウターチューブの下側に設置すると、レイアウト性が低下する可能性がある。
【0009】
本発明は、上述のような事情を鑑みて、組立作業を容易に行うことができ、かつ、コイルスプリングの収縮可能量を確保しやすい、懸架装置の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様の懸架装置は、アッパシェルと、ロアシェルと、ボールねじ軸と、軸受ユニットと、ボールナットと、複数個のボールと、インナチューブと、電動モータと、コイルスプリングとを備える。
【0011】
前記アッパシェルは、筒形状を有し、かつ、軸方向中間部内周面に段部を有する。
【0012】
前記ロアシェルは、前記アッパシェルの軸方向片側部分の周囲に、該アッパシェルに対する軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に配置されている。
【0013】
前記ボールねじ軸は、軸方向片側部分の外周面に雄ボールねじ溝を有し、前記アッパシェルの内側に回転自在に支持されている。
【0014】
前記軸受ユニットは、前記ボールねじ軸の軸方向他側部分と前記アッパシェルとの間に配置されており、前記アッパシェルに対する回転を阻止され、かつ、前記段部の軸方向他側の側面に直接または他の部材を介して当接する軸方向片側の側面を備えた径方向外側部分を有し、前記ボールねじ軸を前記アッパシェルに対し回転自在に支持する。
【0015】
前記ボールナットは、内周面に雌ボールねじ溝を有し、前記ボールねじ軸と螺合する。
【0016】
前記ボールは、前記雄ボールねじ溝と前記雌ボールねじ溝との間に転動自在に配置されている。
【0017】
前記インナチューブは、前記ロアシェルと前記ボールナットとに結合している。すなわち、前記インナチューブは、前記ロアシェルと前記ボールナットとを一体的な軸方向変位を可能に接続している。
【0018】
前記電動モータは、前記ボールねじ軸の軸方向他側の端部にトルクの伝達を可能に接続された出力軸を有し、前記アッパシェルの軸方向他側の端部に対し支持されている。
【0019】
前記コイルスプリングは、前記アッパシェルと前記ロアシェルとの間で軸方向に弾性的に圧縮された状態で挟持されている。
【0020】
特に、本発明の一態様の懸架装置においては、前記ボールナットおよび前記インナチューブの外接円直径を、前記段部の内径寸法よりも小さくしている。換言すれば、前記ボールナットおよび前記インナチューブは、これらが結合した状態で前記段部の径方向内側を通過可能な大きさを有する。
【0021】
前記アッパシェルは、軸方向中間部に、径方向内側に向けて突出したフランジ部を有することができる。この場合、前記段部は、前記フランジ部により構成される。
【0022】
本発明の懸架装置は、前記段部(フランジ部)の内径寸法以下、好ましくは前記段部(フランジ部)の内径寸法よりも小さい外径寸法を有し、ボールねじ軸の軸方向他側部分の周囲に配置されており、前記段部(フランジ部)の内周面に当接または近接対向させた外周面を備えた、バンプストッパを有することができる。
【0023】
本発明の懸架装置は、前記バンプストッパの軸方向他側部分に内嵌されたストッパホルダを備えることができる。
【0024】
前記ストッパホルダは、前記段部(フランジ部)と前記軸受ユニットの軸方向片側の側面との間に挟持された円輪部と、前記円輪部の径方向内側の端部から軸方向片側に向けて折れ曲がり、前記バンプストッパの軸方向他側部分に内嵌された円筒部とを有することができる。
【0025】
前記ボールねじ軸は、軸方向中間部の外周面に、軸方向他側を向いたロア段部を有することができる。前記軸受ユニットは、軸方向片側の端面を前記ロア段部に当接させることにより、前記ボールねじ軸に対して軸方向に位置決めすることができる。
【0026】
本発明の一態様の懸架装置の組立方法は、上記の本発明の一態様の懸架装置を組み立てる際に適用される。特に、本発明の一態様の懸架装置の組立方法は、前記ボールねじ軸の軸方向片側部分の周囲に、前記ボールのそれぞれと前記ボールナットとを配置し、かつ、前記ボールナットに前記インナチューブを結合固定するとともに、前記ボールねじ軸の軸方向他側部分に前記軸受ユニットを外嵌固定することにより中間組立体を得た後、前記中間組立体を前記アッパシェルの内側に、前記中間組立体の軸方向片側の端部を先頭にして前記アッパシェルの軸方向他側の開口から挿入し、前記ボールナットおよび前記インナチューブを前記段部の径方向内側を通過させ、前記ボールねじ軸に外嵌固定された前記軸受ユニットの前記径方向外側部分の前記軸方向片側の側面を、前記段部の前記軸方向他側の側面に直接または他の部材を介して突き当てることで、前記アッパシェルに対する前記ボールねじ軸の軸方向の位置決めを図る工程を備える。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様の懸架装置によれば、組立作業を容易に行うことができ、かつ、コイルスプリングの収縮可能量を確保しやすくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態の1例について、
図1〜
図7を用いて説明する。
【0030】
本例の懸架装置1の構造について、
図1〜
図3を用いて説明する。本例の懸架装置1は、アッパシェル2と、ロアシェル3と、ボールねじ軸4と、軸受ユニット5と、ボールナット6と、複数個のボール123と、インナチューブ61と、電動モータ7と、コイルスプリング8とを備える。
【0031】
アッパシェル2は、軸方向片側から軸方向他側に伸長し、軸方向両側が開口した筒形状を有し、かつ、軸方向中間部内周面に、段部122を有する。段部122は、少なくとも軸方向他側を向いた軸方向他側の側面を有する。本例では、アッパシェル2は、段付円筒状を有し、軸方向片側に位置する小径筒部10と、軸方向他側に位置する大径筒部11と、小径筒部10の軸方向他側の端部と、大径筒部11の軸方向片側の端部とを接続し、軸方向他側に向かうほど直径が大きくなる円すい筒部12とにより構成されている。アッパシェル2は、円周方向に連続した段付円筒状に構成されている。換言すれば、アッパシェル2は、円周方向に分割されておらず、全体を一体に構成されている。大径筒部11は、軸方向片側部分の内周面に、径方向内側に向けて突出したフランジ部9を有する。本例では、段部122は、フランジ部9により構成されている。ただし、円すい筒部12の内周面を段部122の径方向内端部から軸方向片側に伸長するように構成する、すなわち、円すい筒部12の内周面と小径筒部10の内周面とを同一の円筒面により構成する、あるいは、円すい筒部12を省略して、段部122の径方向内端部から小径筒部10が軸方向片側に伸長するように構成する、すなわち、小径筒部10と大径筒部11とを、円輪状の段部により接続することも可能である。
【0032】
なお、懸架装置1に関して、軸方向片側とは、車輪側、すなわち車両に組み付けた状態での下側であり、
図1および
図4〜
図7の左下側、並びに、
図2および
図3の左側をいい、軸方向他側とは、車体側、すなわち車両に組み付けた状態での上側であり、
図1および
図4〜
図7の右上側、並びに、
図2および
図3の右側をいう。
【0033】
ロアシェル3は、アッパシェル2と同軸に配置され、かつ、筒形状を有する。ロアシェル3は、アッパシェル2の軸方向片側部分の周囲に、アッパシェル2に対する軸方向の相対変位を可能に、かつ、回転を不能に配置されている。すなわち、アッパシェル2とロアシェル3とは、全長を伸縮可能に組み合わされている。本例では、ロアシェル3は、シェル本体13と、ロアリテーナ14とを備える。
【0034】
シェル本体13は、筒状部15と、筒状部15の軸方向片側の開口を塞ぐ底部16とを備える。
【0035】
筒状部15は、軸方向他側部分に、軸方向に伸長する長孔17を有し、かつ、軸方向中間部外周面に、雄ねじ部18を有する。
【0036】
底部16は、中央部に、非円形の開口形状を有する係合孔19を有する。本例では、係合孔19の内周面は、互いに平行な一対の平坦面と、該一対の平坦面同士を接続する一対の凹曲面とにより構成されている。代替的に、係合孔19を、スプライン孔、または、矩形孔などの多角形孔により構成することもできる。
【0037】
ロアリテーナ14は、筒形状を有する。ロアリテーナ14は、軸方向他側の端部に、径方向外側に向けて突出した、円輪状の外向フランジ部20を有し、かつ、軸方向中間部に、径方向に貫通するねじ孔21を有する。ロアリテーナ14は、ねじ孔21に螺合したボルト22の先端部を、シェル本体13の長孔17の内側に配置および係合することで、シェル本体13の軸方向他側の端部の周囲に、回転を阻止した状態で支持されている。
【0038】
ロアリテーナ14は、軸方向片側の端部を、シェル本体13の雄ねじ部18に螺合された第1ロックナット23の軸方向他側の端部に当接させている。これにより、シェル本体13に対するロアリテーナ14の軸方向片側への変位が阻止されている。本例では、第1ロックナット23の軸方向片側の端部に、シェル本体13の雄ねじ部18に螺合された第2ロックナット24の軸方向他側の端部に当接させることにより、第1ロックナット23の緩み止めが図られている。
【0039】
ロアリテーナ14の外向フランジ部20の軸方向他側の側面には、弾性材製のシート25を介して、コイルスプリング8の軸方向の片側の端部が当接している。これにより、シェル本体13に対するロアリテーナ14の軸方向他側への変位が規制される。
【0040】
ロアリテーナ14は、軸方向他側の端部内周面に、ダストシール26を有する。ダストシール26は、先端部をアッパシェル2の外周面に摺接させることにより、ロアシェル3の軸方向他側の端部内周面とアッパシェル2の外周面との間部分からの、泥水などの異物の侵入を防止している。
【0041】
ボールねじ軸4は、軸方向片側部分の外周面に雄ボールねじ溝27を有し、アッパシェル2の内側に回転自在に支持されている。本例では、雄ボールねじ溝27は、円弧形の断面形状を有し、ボールねじ軸4の外周面のうち、軸方向片側の端部からフランジ部9よりも軸方向片側に位置する部分までの範囲に、らせん状に形成されている。ボールねじ軸4は、軸方向他側部分に備えられた被支持部28を有する。ボールねじ軸4の被支持部28は、軸受ユニット5により、アッパシェル2の大径筒部11の内周面に対し回転自在に支持されている。
【0042】
被支持部28は、軸方向片側の大径部29と、軸方向他側の小径部30と、大径部29の軸方向他側の端部外周面と小径部30の軸方向片側の端部外周面とを接続する、軸方向他側を向いたロア段部31とを有する。小径部30は、軸方向片側の端部外周面に、円筒面部32と有し、かつ、軸方向他側の端部外周面に、雄ねじ部33を有する。
【0043】
軸受ユニット5は、ボールねじ軸4の軸方向他側部分とアッパシェル2との間に配置されている。軸受ユニット5は、アッパシェル2に対する回転を阻止され、かつ、段部122の軸方向他側の側面に直接または他の部材を介して当接する軸方向片側の側面を備えた径方向外側部分を有する。軸受ユニット5は、ボールねじ軸4をアッパシェル2に対し回転自在に支持する。本例では、軸受ユニット5は、軸受ホルダ34と、押えプレート35と、一対の転がり軸受36a、36bとを備える。
【0044】
軸受ホルダ34は、クランク形の断面形状を有する。具体的には、軸受ホルダ34は、ホルダ円筒部37と、ホルダ円筒部37の軸方向片側の端部外周面から径方向外側に折れ曲がった外向フランジ部38と、ホルダ円筒部37の軸方向他側の端部内周面から径方向内側に折れ曲がった内向フランジ部39とを備える。外向フランジ部38は、円周方向複数箇所に、軸方向に貫通するねじ孔40を有する。
【0045】
押えプレート35は、略L字形の断面形状を有する。具体的には、押えプレート35は、円輪部41と、円輪部41の径方向内側の端部から軸方向他側に向けて折れ曲がったプレート円筒部42とを備える。円輪部41は、円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する通孔43を有する。円輪部41は、アッパシェル2のフランジ部9の内径寸法よりも大きく、かつ、アッパシェル2の大径筒部11の内周面にがたつきなく内嵌可能な(大径筒部11の内径寸法よりもわずかに小さい)外径寸法を有する。プレート円筒部42は、軸受ホルダ34のホルダ円筒部37の軸方向片側の端部にがたつきなく内嵌可能な外径寸法を有する。
【0046】
一対の転がり軸受36a、36bは、内輪44a、44bと、外輪45a、45bと、複数個の転動体46a、46bとを備える。一対の転がり軸受36a、36bは、転動体46a、46bとして玉を使用し、かつ、転動体46a、46bに接触角が付与された、アンギュラ型の玉軸受により構成されている。
【0047】
一対の転がり軸受36a、36bを構成する転動体46a、46bには、正面組み合わせ(DF)型の接触角が付与されている。これにより、ボールねじ軸4の支持剛性を調整して、車輪から作用する水平方向の力に基づく、ボールねじ軸4の揺動変位をある程度許容している。すなわち、背面組み合わせ(DB)型の接触角を付与した場合と比較して、ボールねじ軸4の許容揺動角度を大きくしている。なお、一対の転がり軸受を、転動体として円すいころを使用した、一対の円すいころ軸受により構成することもできる。
【0048】
一対の転がり軸受36a、36を構成する内輪44a、44bは、互いに対向する軸方向端面同士を当接させた状態で、ボールねじ軸4の円筒面部32の軸方向片側部分に圧入により外嵌され、かつ、ロア段部31と、円筒面部32の軸方向他側部分に外嵌されたカラー47との間で軸方向に挟持されている。すなわち、軸方向片側の転がり軸受36aの内輪44aの軸方向片側の端面を、ロア段部31に当接させており、かつ、軸方向他側の転がり軸受36bの内輪44bの軸方向他側の端面に、カラー47の軸方向片側の端面を当接させている。これにより、軸受ユニット5は、ボールねじ軸4に対して軸方向に位置決めされている。カラー47は、含油メタルなどの低摩擦材により、全体を円筒状に構成されており、ボールねじ軸4の雄ねじ部33に螺合されたナット48により軸方向他側への変位が阻止されている。かかる構成により、ボールねじ軸4に対する内輪44a、44bの軸方向の位置決めが図られている。
【0049】
一対の転がり軸受36a、36bを構成する外輪45a、45bは、互いに対向する軸方向端面同士を当接させた状態で、軸受ホルダ34のホルダ円筒部37に圧入により内嵌され、かつ、内向フランジ部39の軸方向片側の側面と、押えプレート35のプレート円筒部42の軸方向他側の端面との間で軸方向に挟持されている。すなわち、軸方向片側の転がり軸受36aの外輪45aの軸方向片側の端面を、プレート円筒部42の軸方向他側の端面に当接させており、かつ、軸方向他側の転がり軸受36bの外輪45bの軸方向他側の端面に、内向フランジ部39の軸方向片側の側面を当接させている。
【0050】
軸受ホルダ34と押えプレート35とは、内向フランジ部39の軸方向片側の側面と、プレート円筒部42の軸方向他側の端面との間で、一対の転がり軸受36a、36bを構成する外輪45a、45bを軸方向に挟持した状態で、通孔43を挿通したボルト49をねじ孔40に螺合することにより互いに結合固定されている。
【0051】
押えプレート35は、円輪部41の外周面を、アッパシェル2の大径筒部11の内周面にがたつきなく内嵌し、かつ、円輪部41の軸方向片側の側面、より具体的にはその径方向外側の端部を、ストッパホルダ50を介して、アッパシェル2の段部122を構成するフランジ部9の軸方向他側の側面に当接させている。
【0052】
軸受ホルダ34は、外向フランジ部38の外周面に係止したOリング51を、大径筒部11の内周面に弾性的に当接させることにより、大径筒部11に対する回転を阻止されている。また、軸受ホルダ34の外向フランジ部38の軸方向他側の側面の径方向外側の端部には、アッパシェル2の大径筒部11にがたつきなく内嵌されたスリーブ52の軸方向片側の端部が当接している。スリーブ52は、大径筒部11の軸方向他側の端部内周面に備えられた雌ねじ部53に螺合されたロックナット54により、軸方向他側への変位が阻止されている。
【0053】
なお、軸受ホルダ34は、内向フランジ部39の内周面に、先端部をカラー47の外周面に摺接させたオイルシール55aを有し、かつ、押えプレート35は、内周面に、先端部をボールねじ軸4の大径部29の外周面に摺接させたオイルシール55bを有する。これにより、一対の転がり軸受36a、36bのそれぞれを潤滑するグリースが、内輪44a、44bと外輪45a、45bとの間の空間から漏洩することを防止している。
【0054】
本例では、以上のように構成された軸受ユニット5により、アッパシェル2の内側にボールねじ軸4が回転自在に支持されている。すなわち、本例では、一対の転がり軸受36a、36bの外輪45a、45b、軸受ホルダ34、および、押えプレート35が、径方向外側部分を構成する。また、押えプレート35の円輪部41の軸方向片側の側面が、前記径方向外側部分の軸方向片側の側面に相当する。さらに、ストッパホルダ50が、他の部材に相当する。ただし、本発明においては、軸受ユニット5の構成は、上述の構造に限定されることはない。例えば、軸受ユニット5を構成する転がり軸受の構成は、上述した構造の一対の転がり軸受のほか、単一あるいは一対の構成を含めて、従来から知られた種々の構造を採用することができる。また、軸受ユニット5として、外輪と、軸受ホルダおよび/または押えプレートとを一体にした構成、内輪を省略し、外輪とボールねじ軸4の円筒面部32との間に転動体を配置した構成など、ボールねじ軸4をアッパシェル2に対し回転自在に支持可能な、従来から知られた種々の構造を採用することができる。
【0055】
ボールねじ軸4は、中心部のうち、軸方向片側の端部から軸方向中間部までの範囲に、軸方向片側の端面に開口する有底孔56を有する。有底孔56は、インナチューブ61の内側の空間の体積を増大させることにより、懸架装置1の全長が伸縮することに伴う、インナチューブ61の内側の空間の体積の増減による影響を抑えるために備えられている。また、ボールねじ軸4は、軸方向中間部を径方向に貫通する径方向通気孔57と、軸方向他側の端面と径方向通気孔57とに開口する軸方向通気孔58とからなる通気路59を有する。通気路59は、アッパシェル2とロアシェル3との内側に存在する内部空間60の体積を増大させることにより、懸架装置1の全長が伸縮することに伴う、内部空間60の体積増減の影響を抑えるために備えられている。有底孔56および通気路59は、ボールねじ軸4の軽量化にも寄与する。
【0056】
ボールナット6は、内周面に雌ボールねじ溝(図示省略)を有し、ボールねじ軸4と螺合している。本例では、ボールナット6は、円筒状の本体部63と、本体部63の軸方向他側の端部から径方向外側に向けて突出したナットフランジ部64とを備える。本体部63の内周面に前記雌ボールねじ溝が備えられている。ナットフランジ部64は、円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する通孔65を有する。ボールナット6は、ボールねじ軸4のうち、外周面に雄ボールねじ溝27が形成された軸方向片側部分の周囲に配置され、かつ、ロアシェル3に対して一体的な軸方向の変位を可能に支持されている。
【0057】
複数個のボール123は、ボールねじ軸4の雄ボールねじ溝27と、ボールナット6の雌ボールねじ溝の間に転動自在に配置される。これにより、ボールねじ軸4の軸方向片側部分の周囲に配置されたボールナット6が、ボールねじ軸4に螺合される。なお、ボール123は、図示しない循環機構により循環される。すなわち、ボールねじ軸4と、ボールナット6と、複数個のボール123と、循環機構とにより、ボールねじ機構が構成されている。循環機構としては、リターンチューブ、デフレクタ、エンドキャップ、エンドデフレクタ、こま、リターンプレートなどが挙げられる。
【0058】
インナチューブ61は、ロアシェル3とボールナット6とに結合している。これにより、インナチューブ61は、ロアシェル3とボールナット6とを一体的な軸方向変位を可能に接続する。本例では、より具体的には、ボールナット6は、インナチューブ61とロアブッシュ62とにより、ロアシェル3に対して一体的な軸方向の変位を可能に接続されている。
【0059】
インナチューブ61は、円筒部66と、円筒部66の軸方向他側の端部から径方向外側に向けて突出したチューブフランジ部67と、円筒部66の軸方向片側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった底部68と、底部68の軸方向片側の側面から軸方向片側に向けて突出した係合軸部69とを備える。
【0060】
チューブフランジ部67は、円周方向複数箇所に、軸方向他側の側面に開口するねじ孔70を有する。
【0061】
底部68は、円周方向複数箇所に、軸方向片側の側面の径方向外側の端部と、軸方向他側の側面の径方向中間部とに開口する、通気孔71を有する。通気孔71は、インナチューブ61の内側の空間と、内部空間60とを連通することで、懸架装置1の全長が伸縮することに伴う、インナチューブ61の内側の空間の体積の増減による影響を抑えるために備えられている。
【0062】
係合軸部69は、ロアシェル3の係合孔19にがたつきなく内嵌(係合)可能な、外面形状を有する。すなわち、係合軸部69は、ロアシェル3の係合孔19の内周面に相補的な外面形状を有する。本例では、係合軸部69の外面形状は、互いに平行な一対の平坦面と、該一対の平坦面同士を接続する一対の凸曲面とにより構成されている。
【0063】
インナチューブ61は、底部68と係合軸部69とを軸方向に貫通するねじ孔72を有する。
【0064】
インナチューブ61は、アッパシェル2の小径筒部10の内側に、アッパシェル2に対する軸方向の相対変位を可能に配置されている。このために、小径筒部10の軸方向片側部分の内周面に、滑り軸受(ウェアリング)73が支持され、かつ、滑り軸受73の内側に、インナチューブ61が挿通(内嵌)されている。滑り軸受73は、小径筒部10に備えられた内向フランジ部74と、小径筒部10の内周面に係止された止め輪75とにより軸方向両側から挟持されている。なお、アッパシェル2は、小径筒部10の軸方向片側の端部に、先端部をインナチューブ61の外周面に摺接させたオイルシール76を有する。
【0065】
ボールナット6は、円板状のコンタクトプレート83の円周方向複数箇所に備えられた通孔84と、ナットフランジ部64の通孔65とを挿通したボルト85を、チューブフランジ部67のねじ孔70に螺合することにより、インナチューブ61に対し結合固定されている。なお、インナチューブ61は、チューブフランジ部67の軸方向片側の側面に、ゴムなどのエラストマーを含む弾性体製で、円環状のリバウンドストッパ86を有する。これにより、点検整備に伴い、車両をリフトアップするなどの際に、車輪の重量により、ロアシェル3が下側に引っ張られ、ボールナット6が軸方向片側に移動した場合に、ボールナット6の軸方向片側の端面が、アッパシェル2の内向フランジ部74の軸方向他側の側面に直接メタルコンタクトすることを防止している。
【0066】
本例では、ボールナット6とインナチューブ61とをボルト85により結合した状態で、ボールナット6とインナチューブ61とが、アッパシェル2の段部122(フランジ部9)の径方向内側を通過できるようにしている。換言すれば、ボールナット6およびインナチューブ61(これらの結合体)の外接円直径D
nを、段部122(フランジ部9)の内径寸法d
fよりも小さくしている(D
n<d
f)。また、アッパシェル2の小径筒部の内径寸法は、ボールナット6およびインナチューブ61(これらの結合体)の外接円直径D
nよりも大きく、かつ、段部122の内径寸法d
fよりも小さくなっている。
【0067】
本例では、ロアブッシュ62が備えられる。ロアブッシュ62は、ロアシェル3の軸方向片側の端部に車輪を支持する機能と、インナチューブ61とともに、ボールナット6を、ロアシェル3に対して接続する機能とを有する。ロアブッシュ62は、円環部77と、円環部77の軸方向他側の端部から軸方向他側に向けて突出した軸部78と、軸部78の軸方向片側部分から径方向外側に突出した押えフランジ部79とを備える。軸部78は、軸方向他側の端部外周面に、雄ねじ部80を有する。
【0068】
ロアブッシュ62は、ゴムなどのエラストマー製で、円環部77の内側に保持された円環状の弾性材81と、弾性材81の内側に保持された円環状の支持環部82とを備える。
【0069】
インナチューブ61は、係合軸部69をロアシェル3の係合孔19にがたつきなく内嵌し、かつ、底部68の軸方向片側の側面を、ロアシェル3の底部16の軸方向他側の側面に当接させている。この状態で、インナチューブ61のねじ孔72にロアブッシュ62の雄ねじ部80を螺合し、ロアブッシュ62の押えフランジ部79によりロアシェル3の底部16の軸方向片側の側面を押えつけることで、インナチューブ61がロアシェル3に対し結合固定されている。すなわち、ロアシェル3の底部16は、インナチューブ61の底部68と、ロアブッシュ62の押えフランジ部79との間で軸方向に挟持されている。ただし、ロアブッシュ62以外の部材あるいは嵌合手段などにより、インナチューブ61を、ロアシェル3に結合させることも可能である。
【0070】
電動モータ7は、先端部(軸方向片側の端部)を、ボールねじ軸4の軸方向他側の端部にトルクの伝達を可能に接続された出力軸87を有し、かつ、アッパシェル2の軸方向他側の端部に支持されている。
【0071】
出力軸87は、継手88により、ボールねじ軸4の軸方向他側の端部に、トルクの伝達を可能に接続されている。
【0072】
本例では、継手88は、円筒状のカップリング89と、一対のダボ90a、90bとを備える。
【0073】
一対のダボ90a、90bのうち、軸方向片側のダボ90aは、ボールねじ軸4の軸方向他側の端部と、カップリング89との間にかけ渡されている。具体的には、軸方向片側のダボ90aは、軸方向他側の端部を、カップリング89に対し結合し、かつ、軸方向片側部分を、ボールねじ軸4の軸方向他側の端部に備えられた切り欠き91aに係合している。切り欠き91aは、ボールねじ軸4の軸方向他側の端部外周面と軸方向他側の端面とに開口している。軸方向片側のダボ90aは、ダボ90aを径方向に貫通し、かつ、先端部を、切り欠き91aの底部に係合させた、イモネジなどの結合部材92aにより、切り欠き91aからの脱落が防止されている。
【0074】
一対のダボ90a、90bのうち、軸方向他側のダボ90bは、電動モータ7の出力軸87の軸方向片側の端部と、カップリング89との間にかけ渡されている。具体的には、軸方向他側のダボ90bは、軸方向片側の端部を、カップリング89に対し結合し、かつ、軸方向他側部分を、出力軸87の軸方向片側の端部に備えられた切り欠き91bに係合している。切り欠き91bは、出力軸87の軸方向片側の端部外周面と軸方向片側の端面とに開口している。軸方向他側のダボ90bは、ダボ90bを径方向に貫通し、かつ、先端部を、切り欠き91bの底部に係合させた、イモネジなどの結合部材92bにより、切り欠き91bからの脱落が防止されている。
【0075】
本例では、ボールねじ軸4の軸方向他側の端部にロアカラー93を外嵌し、かつ、電動モータ7の出力軸87の軸方向他側部分にアッパカラー94を外嵌している。ロアカラー93は、軸方向他側の端部に備えられた切り欠き95を、軸方向片側のダボ90aに係合させ、軸方向片側の端面を、ボールねじ軸4に備えられたアッパ段部96に当接または近接対向させ、かつ、軸方向他側の端面を、カップリング89の軸方向片側の側面に当接または近接対向させている。アッパカラー94は、軸方向片側の端部に備えられた切り欠き97を、軸方向他側のダボ90bに係合させ、軸方向片側の端面を、カップリング89の軸方向他側の側面に当接または近接対向させ、かつ、軸方向他側の端面を、電動モータ7のケーシング98の軸方向片側の側面に当接または近接対向させている。これにより、結合部材92a、92bが緩んだ場合においても、カップリング89の軸方向位置がずれることを防止している。
【0076】
なお、継手88の構造については、上述の構造に限定されず、従来から知られた種々の構造を採用することができる。
【0077】
本例では、電動モータ7は、ブラケット99により、アッパシェル2の軸方向他側の端部に支持固定されている。ブラケット99は、ロックナット54と、マウント部材100と、防振部材101とを備える。
【0078】
ロックナット54は、軸方向片側部分の外周面に雄ねじ部102を有する筒状部103と、筒状部103の軸方向他側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった円輪部104とを備える。ロックナット54は、雄ねじ部102を、アッパシェル2の雌ねじ部53に螺合することにより、アッパシェル2に対し結合固定されている。電動モータ7は、ケーシング98を、ロックナット54の円輪部104に対しボルト止めなどにより支持固定されている。
【0079】
マウント部材100は、アッパ部材105と、ロア部材106とを備える。
【0080】
アッパ部材105は、略U字形の断面形状を有する。具体的には、アッパ部材105は、円筒部107と、円筒部107の軸方向片側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったロア円輪部108と、円筒部107の軸方向他側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったアッパ円輪部109とを備える。本例の懸架装置1は、アッパ円輪部109の円周方向複数箇所に備えられた通孔を軸方向片側から挿通した支持ボルト110により、車体に対し結合固定される。
【0081】
ロア部材106は、略クランク形の断面形状を有する。具体的には、ロア部材106は、円筒部111と、円筒部111の軸方向片側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった円輪部112と、円輪部112の径方向内側の端部から軸方向片側に向けて折れ曲がった折れ曲がり部113と、円筒部111の軸方向他側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった外向フランジ部114とを備える。
【0082】
ロア部材106の円輪部112の軸方向片側の端面には、エンド部材115を介して、コイルスプリング8の軸方向他側の端部が当接している。エンド部材115は、ゴムなどのエラストマーを含む弾性体製で、ロア部材106の折れ曲がり部113を包埋し、かつ、円輪部112の軸方向片側の側面を覆っている。
【0083】
アッパ部材105とロア部材106とは、ロア円輪部108の軸方向片側の側面の径方向外側の端部と、外向フランジ部114の軸方向他側の側面とを当接させた状態で、互いに溶接などの接合手段により結合固定されている。
【0084】
防振部材101は、弾性部材116と、支持部材117とを備える。
【0085】
弾性部材116は、ゴムなどのエラストマーを含む弾性体製で、軸方向に関して対称な略菱形の断面形状を有する。弾性部材116は、ロックナット54の円輪部104の径方向外側の端部を包埋することで、ロックナット54に対し支持されている。
【0086】
支持部材117は、金属や合成樹脂など、弾性部材116を構成する弾性体よりも高い剛性を有する材料製で、円筒形状を有する。支持部材117は、内周面を、弾性部材116の径方向外側の端部に溶着することより、弾性部材116の周囲に支持されている。換言すれば、弾性部材116は、ロックナット54の円輪部104と、支持部材117との間にかけ渡すように設けられている。
【0087】
支持部材117は、ロア部材106の円筒部111に圧入により内嵌されており、かつ、弾性部材116は、アッパ部材105のロア円輪部108と、ロア部材106の円輪部112との間で軸方向に挟持されている。すなわち、弾性部材116は、軸方向片側の端部を、ロア部材106の円輪部112の軸方向他側の側面に弾性的に当接させ、かつ、軸方向他側の端部を、アッパ部材105のロア円輪部108の軸方向片側の側面に弾性的に当接させている。これにより、アッパシェル2、アッパシェル2の内側または周囲に支持された部材、および、電動モータ7は、弾性部材116の軸方向中央位置を中心とする揺動を可能に車体に対し支持される。
【0088】
電動モータ7は、ケーシング98の軸方向片側の側面の径方向外側部分を、ロックナット54の円輪部104の軸方向他側の側面の径方向内側部分に当接させた状態で、ブラケット99に対し支持固定されている。これにより、電動モータ7は、軸方向片側部分を、マウント部材100の内側に配置し、マウント部材100よりも軸方向他側への突出量を抑えている。
【0089】
なお、電動モータ7の構造および電動モータ7をアッパシェル2の軸方向他側の端部に支持する構造については、上述の構造に限定されず、従来から知られた種々の構造を採用することができる。
【0090】
コイルスプリング8は、アッパシェル2の周囲に配置され、かつ、アッパシェル2とロアシェル3との間で軸方向に弾性的に圧縮された状態で挟持されている。具体的には、コイルスプリング8は、ロアリテーナ14の外向フランジ部20の軸方向他側の側面に添着などの固定手段により支持されたシート25と、アッパシェル2に対しブラケット99を介して支持されたエンド部材115との間で軸方向に弾性的に圧縮挟持されている。
【0091】
本例の懸架装置1は、ゴムやウレタンなどのエラストマー製で、筒状のバンプストッパ118を備える。バンプストッパ118は、ストッパホルダ50により、アッパシェル2の円すい筒部12の内側で、かつ、ボールねじ軸4の軸方向中間部の周囲に支持されている。バンプストッパ118は、ロアシェル3の軸方向片側の端部に上向きの衝撃荷重が加わり、ロアシェル3が軸方向他側に移動することに伴って、ボールナット6が軸方向他側に向けて移動した場合に、コンタクトプレート83により押し潰される。すなわち、バンプストッパ118は、ロアシェル3に加わった衝撃荷重を吸収するとともに、コンタクトプレート83が、軸受ユニット5を構成する押えプレート35の軸方向片側の側面に直接メタルコンタクトすることを防止するために設けられている。
【0092】
ストッパホルダ50は、鋼板などの金属板を断面L字形に曲げ成形することにより構成されている。すなわち、ストッパホルダ50は、円輪部119と、円輪部119の径方向内側の端部から軸方向片側に向けて折れ曲がった円筒部120とを備える。ストッパホルダ50は、円輪部119を、アッパシェル2のフランジ部9と、軸受ユニット5の押えプレート35との間で軸方向に挟持することにより、アッパシェル2に対し支持されている。
【0093】
バンプストッパ118は、軸方向他側の端部を、ストッパホルダ50の円筒部120に外嵌することにより、ボールねじ軸4の周囲に支持され、かつ、軸方向に押し潰された際の径方向内側への変形が規制されている。すなわち、バンプストッパ118は、軸方向に押し潰された場合でも、ボールねじ軸4の外周面に接触しないように、軸方向他側部分の内周面を円筒部120に外嵌し、かつ、軸方向片側部分の内周面形状に加工が施されている。
【0094】
本例では、バンプストッパ118は、フランジ部9の内径寸法以下の外径寸法、好ましくはフランジ部9の内径寸法よりもわずかに小さい外径寸法を有する。これにより、バンプストッパ118は、軸方向他側の端部外周面を、アッパシェル2のフランジ部9の内周面に当接または近接対向させて、バンプストッパ118が軸方向に押し潰された際の径方向外側への変形が規制されている。
【0095】
なお、ストッパホルダ50の円筒部120は、ボールナット6の軸方向他側の端部に支持されたコンタクトプレート83の内径寸法d
nよりも小さい外径寸法D
hを有する(d
n<D
h)。したがって、ロアシェル3の軸方向片側の端部に上向きの衝撃荷重が加わることに基づいて、ボールナット6が軸方向他側に移動し、バンプストッパ118が押し潰される際に、コンタクトプレート83は、円筒部120の周囲まで軸方向他側に移動することができる。要するに、コンタクトプレート83の軸方向寸法分だけ、アッパシェル2に対するロアシェル3の軸方向の相対変位量を長くすることができる。
【0096】
本例の懸架装置1は、アッパシェル2の軸方向他側の端部を、マウント部材100を介して、車体に対し支持し、かつ、ロアシェル3の軸方向片側の端部に、ロアブッシュ62を介して、車輪を支持する。すなわち、懸架装置1は、アッパシェル2を上側に配置し、かつ、ロアシェル3を下側に配置した状態で、車体と車輪との間にかけ渡すように支持されている。
【0097】
懸架装置1は、コイルスプリング8の弾性復元力によって、ロアシェル3をアッパシェル2に対し軸方向片側(下側)に向けて押圧する方向の力に基づいて、車輪を構成するタイヤの外周面(トレッド)を路面に押し付ける。
【0098】
また、懸架装置1は、次のようにして、全長を伸縮させることにより、振動や衝撃などを吸収する。
【0099】
すなわち、懸架装置1は、路面からの振動や衝撃などに基づいて、ロアシェル3の軸方向片側の端部に上向き(突き上げる方向)の力が加わると、ロアシェル3は、コイルスプリング8を弾性的に収縮させるとともに、ボールねじ軸4と電動モータの7の出力軸87とを回転させつつ、ボールナット6を軸方向他側(上側)に向けて移動させながら、アッパシェル2に対し軸方向他側に向けて相対変位する。これにより、懸架装置1の全長が収縮する。
【0100】
振動や衝撃などに基づく上向きの力が解放されるか、または、減少すると、コイルスプリング8の弾性復元力によって、ロアシェル3をアッパシェル2に対し軸方向片側(下側)に向けて押圧する方向の力に基づいて、ロアシェル3は、コイルスプリング8を弾性的に復元させるとともに、ボールねじ軸4と電動モータの7の出力軸87とを回転させつつ、ボールナット6を軸方向片側(下側)に向けて移動させながら、アッパシェル2に対し軸方向片側に向けて相対変位する。これにより、懸架装置1の全長が伸長する。
【0101】
本例の懸架装置1は、走行状態や路面の状況などに応じて、電動モータ7への通電を制御することにより、車高や車両の姿勢、減衰力を制御することができる。
【0102】
車高や車両の姿勢を制御する場合には、電動モータ7に通電し、出力軸87を回転駆動することにより、ボールねじ軸4を回転駆動させる。ボールねじ軸4の回転に伴い、ボールナット6が軸方向に移動し、ロアシェル3がアッパシェル2に対し軸方向に相対変位することで、懸架装置1の全長が伸縮する。この結果、ロアシェル3に、ロアブッシュ62を介して支持された車輪に対する、マウント部材100を介してアッパシェル2を支持した車体の高さが調整される。
【0103】
減衰力を制御する場合には、電動モータ7への通電量を制御することで、出力軸87の回転抵抗を調整し、ボールねじ軸4の回転抵抗を調整することに基づいて、ボールナット6が軸方向に移動することに対する抵抗を調整する。これにより、路面からの振動や衝撃などに基づき懸架装置1の全長が伸縮する際に、ロアシェル3がアッパシェル2に対し軸方向に相対変位する速度を調整することにより、減衰力を調整することができる。
【0104】
本例の懸架装置1の組立方法について、
図4〜
図7を用いて説明する。
【0105】
まず、
図4に示すように、ボールねじ軸4のうち、軸方向片側部分の周囲に、複数個のボール123とボールナット6とを配置し、かつ、ボールナット6にインナチューブ61を結合固定する。また、ボールねじ軸4のうち、軸方向中間部の周囲に、バンプストッパ118を配置し、かつ、軸方向他側部分の周囲に、軸受ユニット5を配置する。すなわち、ボールねじ軸4と軸受ユニット5とボールナット6とバンプストッパ118とを組み合わせて、中間組立体124を得る。
【0106】
具体的には、まず、ボールねじ軸4のうち、雄ボールねじ溝27が備えられた軸方向片側部分に、ボールナット6を、複数個のボール123を介して螺合する。次いで、コンタクトプレート83の通孔84と、ボールナット6の通孔65とにボルト85を挿通し、さらに、ボルト85を、チューブフランジ部67のねじ孔70にボルト85を螺合することで、ボールナット6とインナチューブ61とを結合固定する。また、ボールねじ軸4を、ストッパホルダ50に外嵌したバンプストッパ118に軸方向片側から挿入し、ボールねじ軸4の軸方向他側部分に、軸受ユニット5とカラー47とを外嵌する。さらに、ボールねじ軸4の軸方向他側の端部にナット48を螺合する。
【0107】
また、
図5に示すように、アッパシェル2の小径筒部10の内側に、滑り軸受73とオイルシール76とを支持する。
【0108】
次に、
図6に示すように、中間組立体124をアッパシェル2の内側に支持し、かつ、アッパシェル2の軸方向他側の端部に、マウント部材100を支持固定する。
【0109】
具体的には、中間組立体124を、アッパシェル2の内側に軸方向他側から挿入する。これにより、ボールナット6およびインナチューブ61を、段部122(フランジ部9)の径方向内側を通過させて、インナチューブ61を、アッパシェル2の軸方向片側の端部に支持された滑り軸受73に挿入および内嵌し、かつ、ボールナット6を、小径筒部10の軸方向中間部まで移動させる。次いで、軸受ユニット5の押えプレート35の軸方向片側の側面を、ストッパホルダ50を介して、段部122(フランジ部9)の軸方向他側の側面に突き当てることで、アッパシェル2に対する軸受ユニット5の軸方向の位置決めを図る。そして、アッパシェル2の大径筒部11にスリーブ52を内嵌し、さらに、大径筒部11の軸方向他側の端部内周面に備えられた雌ねじ部53に、マウント部材100のロックナット54を螺合する。
【0110】
図6の例では、ロックナット54の軸方向片側の端面と、スリーブ52の軸方向他側の端面との間に、シム板121を挟持している。ただし、シム板121は、省略することもできる。
【0111】
次いで、
図7に示すように、アッパシェル2の周囲にコイルスプリング8を配置した後、インナチューブ61に対しロアシェル3を、ロアブッシュ62により支持するとともに、電動モータ7の出力軸87をボールねじ軸4に接続し、かつ、ケーシング98をマウント部材100に対し支持固定する。
【0112】
すなわち、コイルスプリング8にアッパシェル2を軸方向片側から挿入し、コイルスプリング8の軸方向他側の端部を、エンド部材115に突き当てる。次いで、アッパシェル2の軸方向片側部分の周囲にロアシェル3を配置し、ロアシェル3の係合孔19とインナチューブ61の係合軸部69とをがたつきなく嵌合する。さらに、インナチューブ61のねじ孔72に、ロアブッシュ62の雄ねじ部80を螺合することで、インナチューブ61とロアシェル3とを結合する。
【0113】
また、電動モータ7の出力軸87の軸方向片側の端部を、継手88を介して、ボールねじ軸4の軸方向他側の端部に、トルクの伝達を可能に接続し、かつ、電動モータ7のケーシング98を、マウント部材100に対し、ねじ止めなどにより、支持固定する。
【0114】
上述した懸架装置1を組み立てる工程は、中間組立体124を組み立てた後で、中間組立体124をアッパシェル2の内側に支持する工程を備え、かつ、矛盾を生じない限り、順番を入れ替えたり、同時に実施したりすることができる。
【0115】
本例の懸架装置1の組立方法によれば、組立作業を容易に行うことができる。
【0116】
特開2010−228579号公報に記載の懸架装置では、ボールねじ機構およびインナチューブを、電磁モータのケーシングに対し支持固定し、かつ、ケーシングを、マウント部および防振ゴムを介してアッパーサポートに結合固定している。すなわち、ボールねじ機構およびインナチューブは、重量が嵩む電磁モータを介して、アッパーサポートに対し軸方向の位置決めを図った状態で支持固定される。
【0117】
これに対し、本例の懸架装置1の組立方法では、ボールねじ軸4と軸受ユニット5とボールナット6とインナチューブ61とバンプストッパ118とからなる中間組立体124を、アッパシェル2に軸方向他側から挿入する。そして、軸受ユニット5の軸方向片側の側面を、アッパシェル2の段部122(フランジ部9)の軸方向他側の側面に、ストッパホルダ50を介して突き当てることにより、アッパシェル2に対するボールねじ軸4の軸方向の位置決めを図った状態で、ボールねじ軸4をアッパシェル2の内側に支持する。その後、電動モータ7の出力軸87を、ボールねじ軸4の軸方向他側の端部に、継手88により、トルクの伝達を可能に接続し、かつ、電動モータ7のケーシング98を、マウント部材100により、アッパシェル2の軸方向他側の端部に支持固定する。
【0118】
すなわち、重量が嵩む電動モータ7をアッパシェル2に対し支持固定する以前に、ボールねじ軸4をアッパシェル2の内側に、アッパシェル2に対するボールねじ軸4の軸方向の位置決めを図った状態で支持することができる。このため、本例の懸架装置1の組立方法によれば、組立作業を容易に行うことができる。
【0119】
さらに、本例では、ボールナット6とインナチューブ61とをボルト85により結合した状態で、ボールナット6およびインナチューブ61(これらの結合体)の外接円直径D
nを、アッパシェル2の段部122(フランジ部9)の内径寸法d
fよりも小さくする(D
n<d
f)ことにより、ボールナット6とインナチューブ61とが、段部122の径方向内側を通過できるようにしている。このため、ボールナット6を、軸受ユニット5およびバンプストッパ118とともにボールねじ軸4の周囲に配置し、中間組立体124を構成した状態で、中間組立体124をアッパシェル2の内側に、中間組立体124の軸方向片側の端部を先頭にしてアッパシェル2の軸方向他側の開口から挿入した場合でも、ボールナット6を、アッパシェル2のフランジ部9の内側を通過させることができる。要するに、アッパシェル2の内側に支持される、ボールねじ軸4と軸受ユニット5とボールナット6とインナチューブ61とバンプストッパ118とを組み合わせて、中間組立体124として一体に取り扱うことができる。この面からも、懸架装置1の組立作業の容易化を図ることができる。
【0120】
また、本例の懸架装置1では、アッパシェル2に対し、ロアシェル3を軸方向の相対変位を可能に外嵌し、かつ、アッパシェル2の軸方向他側の端部に支持固定されたエンド部材115と、ロアシェル3の外向フランジ部20との間でコイルスプリング8を挟持している。コイルスプリング8は、懸架装置1が全長を収縮させる、すなわちアッパシェル2とロアシェル3とが互いに近づく方向に相対変位するのに伴って、弾性的に収縮する。懸架装置1は、アッパシェル2の内向フランジ部74の軸方向他側の側面と、ロアシェル3に支持されたボールナット6の軸方向片側の端面とが、リバウンドストッパ86を介して衝突するまで、全長を収縮させることができる。したがって、本例の懸架装置1によれば、特開2010−228579号公報に記載の懸架装置と比較して、コイルスプリング8の収縮可能量を確保しやすくできる。
組立作業を容易に行うことができ、かつ、コイルスプリングの収縮可能量を確保しやすい懸架装置(1)の構造を実現する。軸受ユニット(5)は、ボールねじ軸(4)の軸方向他側部分とアッパシェル(2)との間に配置され、軸受ユニット(5)を構成し、アッパシェル(2)に対する回転を阻止された押えプレート(35)の軸方向片側の側面を、アッパシェル(2)のフランジ部(9)の軸方向他側の側面にストッパホルダ(50)を介して当接させており、ボールねじ軸(4)をアッパシェルに対し回転自在に支持する。ボールナット(6)およびインナチューブ(61)の外接円直径は、フランジ部(9)の内径寸法より小さい。すなわち、懸架装置(1)の組立時に、ボールナット(6)およびインナチューブ(61)を含む中間組立体(124)が、アッパシェル(2)のフランジ部(9)の径方向内側を通過可能である。