特許第6973710号(P6973710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973710
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】焼き菓子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/00 20060101AFI20211118BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20211118BHJP
【FI】
   A21D8/00
   A21D13/80
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2020-56831(P2020-56831)
(22)【出願日】2020年3月10日
(65)【公開番号】特開2021-141878(P2021-141878A)
(43)【公開日】2021年9月24日
【審査請求日】2020年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】398066871
【氏名又は名称】株式会社文明堂東京
(74)【代理人】
【識別番号】100201824
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智広
(72)【発明者】
【氏名】大野 進司
【審査官】 高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−329008(JP,A)
【文献】 特開平11−103762(JP,A)
【文献】 特開平06−046740(JP,A)
【文献】 特開平06−335352(JP,A)
【文献】 特開平10−059470(JP,A)
【文献】 特開平02−227022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 3/00
A21D 13/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地を160℃〜250℃で焼成する焼成工程と、
前記焼成工程で生地の芯温に発生した粗熱を自然放熱しながら加圧し、
前記焼成工程後の生地の芯温を80℃〜110℃の範囲とし、
前記自然放熱後の生地の芯温を40℃〜70℃の範囲とし、
前記自然放熱の時間を4時間〜10時間の範囲とし、
前記加圧する時間を4時間〜10時間の範囲とし、
前記加圧を150kg/m〜200kg/mの範囲とし、
前記加圧前の生地の高さを20%〜50%の範囲に圧縮し、
前記加圧後の生地の高さ15mm〜30mmの範囲とする加圧工程と、
を備えることを特徴とする、カステラの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏卵・砂糖・小麦粉を主体として、焼成窯などにより製造される焼き菓子の製造方法に関する。
【0002】
社会的に健康志向が進むなか、スポーツを生活に取り込む傾向がある。その際に栄養素・エネルギーの摂取方法が注目されている。とりわけ、スポーツ前など運動エネルギーを必要とする場面では、グリコーゲンを蓄積する必要があり、高炭水化物を摂取する傾向がある。
【0003】
栄養素摂取により筋持久力を向上させる方法としては、筋肉中にグリコーゲンを蓄積させるグリコーゲンローディングが知られている。グリコーゲンローディングとは、あらかじめ低糖質食を摂取して激しい運動を行い、筋肉中のグリコーゲン量を大幅に減少させた後、高糖質食に切り替えることにより、筋肉中のグリコーゲンをより効果的に増加させるというものである。
【0004】
しかしながら、機能性食品に類するものにはこのグリコーゲンローディングに適しているものも多く見受けられるが、栄養強化目的に食品添加物が用いられており、健康志向という観点では適合していない。また、栄養素・エネルギー量目的で、食品製造時、不用意に栄養価ある原材料を配合することは、食品自体の本来の風味・美味しさを失う問題がある。
【0005】
従来、鶏卵、小麦粉、砂糖、水飴および水を主な原料とするカステラが広く一般に知られている。このようなカステラは、泡立てた鶏卵に、小麦粉、水、砂糖および水飴等を混合することで得られる生地を所定時間焼成し、粗熱を放熱して製造されている。
【先行技術文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3525129号公報
【特許文献2】特許第3129683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようにカステラをはじめとして生地を焼成して得られる焼き菓子は、添加物を一切使用せずに三大栄養素を手軽に摂取することができる食品であり、健康志向、栄養摂取の両面から適している。しかしながら、他の食品と比べて嵩高なため、移動の際の持ち運びが不便となり、摂取しにくいという問題がある。
【0008】
移動の際の持ち運びを容易にするために生地の高さを低くするには、型へ生地を投入する量目を減らして焼成する製造方法がある。この製造方法は従来からカステラに代表されるイースト発酵を含む膨脹剤を使用しない焼き菓子に見られるような製造方法であり、生地の嵩高を一定に保つことはできる。
【0009】
しかしながら、このような製造方法は、量目が減少するに比例して1食あたりの栄養・エネルギー量も減少することとなる。文部科学省公表のカステラ可食部100gあたりの栄養成分値は、熱量319kcal、たんぱく質6.2g、脂質4.6g、炭水化物63.2gである。文部科学省公表のカステラ可食部100gあたりの栄養成分値が示されるものの、実際摂取する際には、1食あたり50gまでが適量として好ましい。その場合、1食あたり63.2%の炭水化物を手軽に摂取でき、グルコーゲンローディングを実施するに際し、必要量の70%前後の糖質を摂取するための食材としても好ましい。
しかしながら、量目が減少するに比例して1食あたりの栄養・エネルギー量も減少することとなるため、必要な栄養・エネルギー量が取れない問題がある。
【0010】
また、移動の際の持ち運びを容易にすることと、必要な栄養・エネルギー量を摂取することを共に実現するためには添加物を使用することになるが、添加物自体の安全性に留意しなければならない問題がある。
【0011】
移動の際の持ち運びを容易にするために生地の高さを抑えようと、完成した焼き菓子を押しつぶしても、焼き菓子は既に成型されているため、反発力がはたらいて元に戻ろうとして、均一な生地の高さが保持できない。また、完成した製品を圧縮することで見た目にも製品としての基準を満たさないものになる。
【0012】
本発明の目的は、生地の投下量を変更することなく、添加物も使用することなく、1食あたりの栄養・エネルギー量を確保でき、加圧後の生地の高さが抑えられた焼き菓子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意研究したところ、通常製造される鶏卵・砂糖・小麦粉を主原料とし、添加物を一切使用せず焼成された焼き菓子として本発明の製造方法を完成するにいたった。本発明は、生地を160℃〜250℃で焼成する焼成工程と、前記焼成工程で生地の芯温に発生した粗熱を自然放熱しながら加圧し、前記焼成工程後の生地の芯温を80℃〜110℃の範囲とし、前記自然放熱後の生地の芯温を40℃〜70℃の範囲とし、前記自然放熱の時間を4時間〜10時間の範囲とし、前記加圧する時間を4時間〜10時間の範囲とし、前記加圧を150kg/m〜200kg/mの範囲とし、前記加圧前の生地の高さを20%〜50%の範囲に圧縮し、前記加圧後の生地の高さ15mm〜30mmの範囲とする加圧工程とを備えることを特徴とするカステラの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、製造工程上使用する焼き型への生地投入量を増減することや添加物を使用することがないまま焼成し、焼き上がり後の生地の高さを低くしたまま維持することができる。本発明の製造方法によれば、焼き菓子は移動の際の持ち運びが容易であり、1食あたりの栄養・エネルギー量を確保することができる。
【0015】
本発明の製造方法によれば、生地の表皮層(上面)と、生地の内層にあるスポンジ層に均一に力がかかり熱による圧着状態が生まれて放熱後に境界面がなくなるため、生地の表皮層(上面)は保護目的で被せる耐水耐油紙を使用しなくても内層のスポンジ層と分離しにくくなる。
さらに、生地の裏皮層(底面)と、生地の内層にあるスポンジ層に均一に力がかかり熱による圧着状態が生まれて放熱後に境界面がなくなるため、生地の裏皮層は耐水耐油紙を使用しなくても生地の内層にあるスポンジ層と分離しにくくなる。これらにより、製品の保護目的で使用していた耐水耐油紙などの資材を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の焼き菓子の製造方法を示すフロー図である。
図2】従来の焼き菓子の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0018】
本発明にいう「焼き菓子」の好ましい例としては、カステラ、スポンジケーキ、パウンドケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、スフレなどの主に型に流し入れて生地を焼成する菓子が挙げられる。
【0019】
本発明における焼成工程とは、主に型に流し入れて生地を焼成する一般的な焼き菓子と同様、生地を焼成窯やオーブンに投入し160℃〜250℃近辺の温度帯で焼成しながら、焼成時間として10分〜80分かけて仕上げる工程を指す。
【0020】
主に型に流し入れて生地を焼成する一般的な焼き菓子、例として堅焼カステラ、パウンドケーキ、食パン等にみられる焼成時における成形目的で加圧する場合もあるが、本発明の製造方法における加圧工程とは焼成中ではなく、焼成窯などで焼成した後の加圧工程を指す。
【0021】
加圧工程は焼成窯などで生地を焼成した後に、生地の芯温に発生した粗熱を一定時間以上かけて自然放熱しながら生地に均一に加圧し、加圧後の生地の高さを維持するようにする工程を含む。
加圧工程における焼成窯などで焼成した後の生地の芯温は80℃から110℃が好ましく、80℃から90℃がより好ましい。
加圧工程における自然放熱後の生地の芯温は40℃から70℃が好ましく、40℃から60℃がより好ましい。自然放熱の時間は室温にて4時間から10時間が好ましく、室温にて4時間から6時間がより好ましい。
【0022】
加圧工程で生地にかける均一の圧力は150kg/mから200kg/mが好ましく、170kg/mから190kg/mがより好ましい。加圧時間は室温にて4時間から10時間が好ましく、室温にて4時間から6時間がより好ましい。加圧後の生地の高さは15mm〜30mmが好ましく、25mm〜27mmがより好ましい。
【0023】
原材料計量工程は、糖類、鶏卵、小麦粉といった原材料を計量する工程をさすが、原材料はこれらに限られない。
【0024】
上述した糖類としては、砂糖、果糖、水飴、蜂蜜および液糖等が挙げられる。本発明では、砂糖と水飴を併用することが望ましい。
【0025】
上述した砂糖としては、白双糖やグラニュー糖といったザラメ糖、粉砂糖や角砂糖といった加工糖、上白糖、黒砂糖、三温糖、和三盆等であってもよい。
【0026】
上述した鶏卵としては、卵黄のみ使用する場合、全卵のみ使用する場合、および卵黄と全卵とを併用する場合のいずれも含む。
【0027】
ミキシング工程は、焼き菓子の生地に使用する全材料を混合、気泡させる一般的なオールインミックス法、シュガーバッター法、フラワーバッター法で調整してもよい。乳化気泡剤を使用する場合は、気泡させる工程が効率よく、乳化起泡剤を均一に分散させることが好ましい。
【0028】
本発明の焼き菓子の生地に加える他の材料は、オールインミックス法、シュガーバッター法、フラワーバッター法で生地を調整する際に加える以外にも、起泡させた後の生地に加えることもできる。
【0029】
濾過工程は、鶏卵の殻やHACCPの危害要因となる異物の混入を防ぐための工程を含む。ここでいうHACCPとはHazard Analysis and Critical Control Pointのそれぞれの頭文字をとった略語をいい、その危害要因は、▲1▼生物的要因(原料由来あるいは工程中に汚染を受ける可能性がある微生物)、▲2▼物理的要因(金属、ガラス、硬質プラスチックなどの混入する可能性がある硬質異物)、▲3▼科学的要因(原料に残存している可能性がある農薬、誤って混入する可能性がある化学物質)を含む。
【0030】
計量工程とは、焼き菓子の生地を焼き型に充填する工程を含み、計量するいずれの方法を制限するものではない。焼き型の容量は、食パン1斤枠(約1700ml)からカステラ枠(約8000ml)までの範囲が好ましい。
【0031】
生地調整工程は、互いに密度の異なる二種類の生地を調整するものであってもよいし、互いに密度の異なる三種類の生地を調整するものであってもよい。
【0032】
反転工程は、焼き菓子を焼成窯から出した後に、生地温度を均一にし、焼成窯等での焼成時に使用した焼き型を外す工程を含むが、反転するいずれの方法を制限するものではない。生地を投入した後は、焼き型内で生地を回転させたり、または反転させることにより、生地の全面を満遍なく焼成することが好ましい。あるいは、焼き型の上部から生地を別途加熱することにより、生地の回転や反転を行うことなく全面を十分に焼成することが可能である。
【0033】
裁断工程とは、スライサーで生地を裁断する工程を含むが、裁断するいずれの方法を制限するものではない。
【0034】
以下、本発明の実施の形態の具体例を図面を参照しながら説明する。
(実施の形態)図1は本発明の一実施の形態による焼き菓子の製造方法を示すフロー図である。図1において、1は原材料計量、2はミキシング工程、3は濾過工程、4は計量工程、5は生地調整工程、6は焼成工程、7は反転工程、8は加圧工程、9は裁断工程である。本実施の形態における焼き菓子の製造方法が従来と異なるのは、図1において加圧工程8が焼成窯などで生地を焼成した後の工程である点、生地の芯温に発生した粗熱を一定時間以上かけて自然放熱しながら生地に均一に加圧する点、加圧工程後の生地の高さを維持するようにする点である。
【0035】
以下、本発明のカステラの製造方法について、図1を用いて説明する。
まず、原材料計量1として、所定量の原材料を従来と同様にして計量する。次いで、ミキシング工程2として、カステラの生地に使用する全材料を従来と同様にして混合、気泡させる。次いで、濾過工程3として、鶏卵の殻やHACCPの危害要因となる異物の混入を防ぐため生地を濾過する。次いで、計量工程4として、カステラの生地を焼き型に充填する。次いで、濾過工程3として、焼き型に充填した生地に異物の混入がないかを確認する。次いで、生地調整工程5として、互いに密度の異なる生地を調整する。次いで、焼成工程6として、生地を焼成窯やオーブンに投入し160℃〜250℃近辺の温度帯で焼成し、10分〜80分かけて仕上げる。次いで、反転工程7として、カステラを焼成窯から出した後に、生地温度を均一にし、焼成窯等での焼成時に使用した焼き型を外す。次いで、加圧工程8として、焼成窯などで生地を焼成した後に、生地の芯温に発生した粗熱を一定時間以上かけて自然放熱しながら生地に均一に敷板をおいて加圧し、加圧工程後の生地の高さを維持する。次いで、裁断工程9として、従来と同様にスライサーで生地を裁断する。以上のようにして、嵩高が抑えられたカステラが製造される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、実施例により何ら制限を受けるわけではない。
【実施例1】
【0037】
焼成工程後、焼成窯から出した時点で芯温が90℃以上あるカステラの生地のまわりに木型を配置し、均等に力がかかるように敷板をおいて1mあたり約185kg以上の圧力を加えながら4時間加圧した。4時間加圧する経過の生地の芯温と生地の高さの推移は表1のとおりである。加圧を継続しながら、生地の芯温が自然放熱によって下降するにつれてカステラの生地の高さが低くなり、加圧後4時間を経過した時点で、カステラの生地の高さは25mm〜27mmとなった。カステラの生地のまわりにある木型を外して圧力を加えることを止めた後も、カステラの生地の高さを維持することができた。量目が減少しないため1食あたりの栄養・エネルギー量も減少しない。
【表1】
また、実施例1のカステラは、カステラの裏皮層(底面)と、カステラの内層にあるスポンジ層との間に境界面がなくなり、カステラの裏皮層(底面)に敷いている耐水耐熱紙を容易にはがすことができた。さらに、カステラ1切れのサイズのみならず、焼き型のサイズでもカステラの裏皮層の下に敷く耐水耐熱紙について、カステラの表皮層(上面)およびカステラの裏皮層(底面)とカステラの内層にあるスポンジ層が分離することなくはがすことができた。
【0038】
(比較例1)
加圧工程以外は、実施例と同様の製法で裁断工程までを行った。焼成工程後の生地の高さと芯温の推移は表1のとおりである。加圧工程を経ていないので、生地の高さは変化しなかった。そのため、生地の高さを低く抑えるためには量目を減少させるしかなかった。
得られたカステラは、下面に敷いた耐水耐熱紙をはがすにあたり、カステラの裏皮層(底面)が耐水耐熱紙に付着して、カステラの内層にあるスポンジ層と分離し、耐水耐熱紙を容易にはがすことができなかった。また、焼き型のサイズでも底面に敷いている耐水耐熱紙も表皮層(上面)およびカステラの裏皮層(底面)とカステラの内層にあるスポンジ層が分離し、耐水耐熱紙を容易にはがすことができず、外観も好ましくないものであった。
【符号の説明】
【0039】
1…原材料計量
2…ミキシング工程
3…濾過工程
4…計量工程
5…生地調整工程
6…焼成工程
7…反転工程
8…加圧工程
9…裁断工程
図1
図2