(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
真核生物のmRNAにおけるタンパク質に翻訳されるオープンリーディングフレーム(ORF)以外の生理活性を有するタンパク質をコードしているORFを特定することを特徴とする生理活性タンパク質候補の同定方法であって、
(1)候補ORFを組み込んだ発現ベクターを細胞に導入し、導入された細胞を培養する工程であって、前記候補ORFの開始コドンが、AUG又はAUGの1つの塩基が他の塩基である非AUGであり、
(2)培養細胞から、候補ORFから翻訳される候補タンパク質に結合するタンパク質を検出する工程、
(3)候補タンパク質に結合する他のタンパク質が検出された候補タンパク質を生理活性タンパク質候補と判定する工程、
を含み、
前記候補ORFが、開始コドン、終止コドン共に5’UTRにあり、前記タンパク質に翻訳されるORFと重なっていないORF(iuORF)、又は開始コドンは5’UTRにあり、終止コドンは前記タンパク質に翻訳されるORF内にあり、前記タンパク質に翻訳されるORFと重なっているORF(ouORF)である、
生理活性タンパク質候補の同定方法。
前記タンパク質に翻訳されるORFが、真核生物のmRNAにおけるタンパク質に翻訳される最長のORFである、請求項1に記載の生理活性タンパク質候補の同定方法。
前記結合タンパク質検出工程(2)の前に、予め候補ORFから翻訳される候補タンパク質の発現を検出し、発現量が多い候補ORFを選択する工程を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の生理活性タンパク質候補の同定方法。
前記結合タンパク質検出工程(2)における、前記結合タンパク質を検出する方法が、免疫沈降、酵母ツーハイブリッド法、プロテインアレイ法、ペルオキシダーゼを用いたラベル法、及びBioID法からなる群から選択される方法である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の生理活性タンパク質候補の同定方法。
真核生物のmRNAにおいて、生体内でタンパク質に翻訳されるオープンリーディングフレーム(ORF)以外のさらなるORFであって、生体内でタンパク質をコードしているORFを同定する方法であって、
(1)真核生物のmRNAにおいて、生体内でタンパク質に翻訳されるオープンリーディングフレーム(ORF)以外のさらなるORFを候補ORFとして組み込んだ発現ベクターを細胞に導入し、導入された細胞を培養することと、
(2)培養細胞において前記ORFからのタンパク質の発現を試み、その発現を確認することと、
(3)前記で発現したタンパク質に結合するタンパク質を検出することと、
(4)前記で発現したタンパク質に対する他のタンパク質の結合が検出された場合に、前記で発現したタンパク質をコードするORFを、生体内でタンパク質に翻訳されるORF以外のさらなるORFであってタンパク質をコードしているORFと同定することと、
を含み、
前記候補ORFが、開始コドン、終止コドン共に5’UTRにあり、前記タンパク質に翻訳されるORFと重なっていないORF(iuORF)、又は開始コドンは5’UTRにあり、終止コドンは前記タンパク質に翻訳されるORF内にあり、前記タンパク質に翻訳されるORFと重なっているORF(ouORF)である、方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]生理活性タンパク質の同定方法
本発明の生理活性タンパク質の同定方法は、真核生物のmRNAにおけるメインのオープンリーディングフレーム(ORF)以外の生理活性を有するタンパク質をコードしているORFを特定することを特徴し、(1)候補ORFを組み込んだ発現ベクターを細胞に導入し、導入された細胞を培養する工程であって、前記候補ORFの開始コドンが、AUG又はAUGの1つの塩基が他の塩基である非AUGであり、(2)培養細胞から、候補ORFから翻訳される候補タンパク質に結合するタンパク質を検出する工程、(3)候補タンパク質に結合する他のタンパク質が検出された候補タンパク質を生理活性タンパク質と判定する工程、を含む。
【0010】
《生理活性タンパク質をコードするオープンリーディングフレーム》
本発明の同定方法によって同定される生理活性タンパク質は、真核生物のmRNAに存在するメインのORF(以下、mORFと称する)にコードされているタンパク質ではなく、mORF以外のORFにコードされているタンパク質である。すなわち、本発明の同定方法で特定される標的ORFは、mORF以外のORFを意味する。
2つ以上のORFを含むポリシストロニックmRNAを有する細菌遺伝子と比較して、真核生物のmRNAは生理活性タンパク質をコードする1つのmORFを有するモノシストロニックmRNAであると考えられている。真核生物のmORFは、そのmRNAにおける最長のORF(以下、最長ORFと称することがある)であることが多く、本発明の標的ORFは、比較的短いものが多く、最長ORF以外のORFとしてもよい。
【0011】
標的ORFを、mORFとの位置関係によって分類したものを
図1に示す。まず、本明細書においては、mORFと読み枠が異なり、そしてmORFの開始コドンよりも上流に開始コドンを有するORFをupstream URF(以下、uORFと称する)と称する。また、mORFと読み枠が異なり、mORFの開始コドンよりも下流に開始コドンを有し、そして終止コドンがmORFの終止コドンの下流に位置するORFをdownstream URF(以下、dORFと称する)と称する。
本発明の標的ORFは、
図1の太い矢印で示したタンパク質をコードするmORFに対して、
(1)開始コドン、終止コドン共に5’UTRにあり、mORFと重なっていないuORF(isolated uORF:以下、iuORFと称する)、
(2)開始コドンは5’UTRに、終止コドンはmORF内にありmORFと重なっているuORF(overlapping uORF:以下、ouORFと称する)、
(3)開始コドンは5’UTRにあるがmORFと読み枠が同じで、mORFが5’末端側に伸びたORF(extended mORF:以下、emORFと称する)、
(4)開始コドンがmORF内部にありmORFと読み枠が同じで、mORFの5’末端側が短くなったORF(truncated mORF:以下、tmORFと称する)、
(5)開始コドン、終止コドンともにmORF内にあるORF(included ORF:以下、iORFと称する)、
(6)開始コドンがmORF内部に、終止コドンが3’UTRにありmORFと重なっているdORF(overlapping dORF:以下、odORFと称する)、及び
(7)開始コドン、終止コドン共に3’UTRにあるdORF(isolated dORF:以下、idORFと称する)、
の7つのORFに分類することができる。
【0012】
本発明の同定方法においては、前記標的ORFにコードされているタンパク質が、生理活性を有することを特定する。本明細書において「生理活性を有する」とは、生体内における生理機能に関与する限りにおいて、特に限定されるものではない。例えば、非特許文献1及び2に記載のタンパク質のように、mORFの翻訳制御を生理活性と考えることもできる。しかしながら、タンパク質自体が生体内における生理機能に関与することが好ましい。
【0013】
(候補ORF)
本発明の同定方法によって特定される候補ORFは、mRNAに存在するmORF以外のORFである。限定されるものではないが、候補ORFの最小サイズは、6塩基長以上(開始コドン+終止コドン)とすることができるが、タンパク質を5アミノ酸以上とする場合は、18塩基以上とすればよく、タンパク質を10アミノ酸以上とする場合は、33塩基以上とすればよく、タンパク質を30アミノ酸以上とする場合は、93塩基以上とすればよい。また、異なる複数の開始コドンから始まるが、同一の終止コドンで終わるORFは、別の候補ORFとすることが好ましい。
候補ORFのデータベースを作成し、そのデータベースを用いて、予め候補ORFを選択することが可能である。候補ORFのデータベースは、mRNAのデータベースを用いて作成することができる。用いるmRNAのデータベースは、特に限定されるものではないが、例えばUCSC Genome Browserから取得することができる。得られたmRNAの配列からmORFを特定し、前記のiuORF、ouORF、emORF、tmORF、iORF、odORF、及びidORFを抽出し、データベースを構築することができる。
また、それぞれのORFの開始コドンは、AUG(ATG)のみを用いてもよいが、非AUG(ATG)開始コドンを用いることもできる。非AUG開始コドンは、AUGの1つの塩基が他の塩基に置換されたものであるが、具体的にはUUG(TTG)、GUG(GTG)、CUG(CTG)、AAG、AGG、ACG、AUA(ATA)、AUU(ATT)、及びAUC(ATC)を挙げることができる。すなわち、AUG、UUG、GUG、CUG、AAG、AGG、ACG、AUA、AUU、及びAUCからなる群から選択される1つ以上の開始コドンのORFを、候補ORFとすることができる。
【0014】
(真核生物)
本発明の候補ORFを有する真核生物は、特に限定されるものではないが、動物、植物、菌類、又は原生生物を挙げることができる。真核生物は、その細胞の中に細胞核を有することを特徴とする。
動物としては、脊椎動物及び無脊椎動物を挙げることができる。脊椎動物としては、例えば、哺乳動物、鳥類、爬虫類、両生類、硬骨魚類、軟骨魚類、メクラウナギ類、ヤツメウナギ類などを挙げることができるが、好ましくは哺乳動物である。哺乳類は、単孔類、有袋類、貧歯類、皮翼類、翼手類、食肉類、食虫類、長鼻類、奇蹄類、偶蹄類、管歯類、有鱗類、海牛類、クジラ目、霊長類、齧歯類、ウサギ目などが含まれ、より具体的には、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ラクダ、シカ、ウマ、ウサギ、イヌ、ネコ、フェレット、スイギュウ、ロバ、ファロージカ、トナカイ、マウス、ラット、ハムスター、リス、サル等を挙げることができる。無脊椎動物としては、例えば、甲殻綱、ヤスデ綱、エダヒゲムシ綱、ムカデ綱、コムカデ綱、昆虫綱などを挙げることができる。
本発明の同定方法においては、これらの真核生物のmRNAに存在するmORF以外のORFを候補ORFとして用いることができる。
【0015】
《細胞培養工程(1)》
細胞培養工程(1)は、候補ORFを組み込んだ発現ベクターを細胞に導入し、導入された細胞を培養する工程である。
【0016】
(発現ベクター)
本発明の同定方法において用いられる発現ベクターは、組み込まれた遺伝子を細胞において発現できる構成を有する限りにおいて、限定されるものではない。すなわち、用いる細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、候補ORFを挿入することにより得られるベクターを挙げることができる。用いる発現ベクターは、自己複製ベクター、すなわち、染色体外の独立体として存在し、その複製が染色体の複製に依存しない、例えば、プラスミドを基本に構築することができる。
【0017】
本発明の同定方法においてベクターは、候補ORFから発現されるタンパク質にタグを付与することができるベクターが好ましい。候補ORFは、細胞において発現が確認されていないものが多い。従って、それらの候補ORFに対する抗体が取得されているものは、ほとんどない。本発明の同定方法においては、ベクターが導入された細胞において、候補ORFが発現していることをウェスタンブロッティングで確認したり、免疫沈降により候補ORFから翻訳されたタンパク質が細胞中の他のタンパク質と結合していることを確認する必要がある。その場合、候補ORFに対する抗体を用いることなく、タグに対する抗体を用いることによって、ウェスタンブロッティング又は免疫沈降を行うことができる。
タグの長さは、本発明の生理活性タンパク質の同定方法が実施できる限りにおいて、特に限定されるものではなく、例えば500アミノ酸以下の長さのタグを用いることができる。しかしながら、タグの長さは、好ましくは2〜50アミノ酸長であり、より好ましくは3〜30アミノ酸長であり、更に好ましくは4〜20アミノ酸長であり、最も好ましくは5〜10アミノ酸長である。長いアミノ酸長のタグを用いることもできるが、長いタグの場合、タグが細胞中のタンパク質と結合して、非特異的反応を引き起こすことがある。また、長いタグの場合、ほとんどの候補タンパク質を強力に発現させるため、候補タンパク質自体の細胞内での発現を比較することが困難になる。従って、タグの長さは、比較的短いものが好ましい。
タグは、本分野で使用されているタグを用いることができるが、例えばFLAGタグ、HAタグ、HISタグ、mycタグ、又はTAPタグなどを用いることができる。
【0018】
前記発現ベクターは、候補ORFを細胞に導入して発現させるために、候補ORFの配列の他に、その発現を制御するDNA配列や細胞を選択するための遺伝子マーカー等を含んでいるのが望ましい。発現を制御するDNA配列としては、プロモーター及びターミネーター及びシグナルペプチドをコードするDNA配列等が含まれる。遺伝子マーカーは、形質転換体の選択の方法に応じて適宜選択されてよいが、例えば薬剤耐性をコードする遺伝子、栄養要求性を相補する遺伝子を利用することができる。
【0019】
(細胞)
発現ベクターを導入する細胞は、特に限定されるものではないが、真核生物細胞を用いることが好ましい。特に、通常の生理活性を同定するためには、候補ORFの種と同じ種由来の細胞を用いることが好ましく、例えば、ヒト由来の候補ORFを発現させる場合は、ヒト由来の細胞を用いることが好ましい。しかしながら、ヒト由来の候補ORFを、例えばマウス由来の細胞に導入することによっても、生理活性タンパク質を同定することは可能である。
【0020】
細胞としては、HEK293T細胞、HepG2細胞、又はA549細胞を挙げることができる。更に、ES細胞、iPS細胞、又はそれらを分化させた細胞を用いることもできる。
また、得られた生理活性タンパク質が、様々な疾患に関連していた場合、薬剤スクリーニングを行う細胞は、疾患に応じて適宜選択することができる。
【0021】
(プロテアソーム阻害剤及びリソソーム阻害剤)
細胞培養工程(1)において、プロテアソーム阻害剤を細胞培養液に添加することができる。プロテアソーム阻害剤を添加することにより、ORFから翻訳されたタンパク質が、プロテアソームによって分解されることを抑制することができる。候補ORFは、100アミノ酸以下の比較的短いタンパク質が多く、安定な構造を取りにくいと考えられる。従って、候補ORFの中には、プロテアソームによって分解されるものがある。そのような候補ORFの場合、プロテアソーム阻害剤を添加することにより、ORFから翻訳された候補タンパク質を安定的に発現させることが可能である。
プロテアソーム阻害剤としては、特に限定されるものではないが、例えばMG132を挙げることができる。
更に、細胞培養工程(1)において、リソソーム阻害剤を細胞培養液に添加することができる。リソソーム阻害剤を添加することにより、ORFから翻訳されたタンパク質が、リソソームによって分解されることを抑制することができる。リソソーム阻害剤としては、クロロキンを挙げることできる。
【0022】
《タンパク質検出工程(2)》
本発明のタンパク質検出工程(2)は、培養細胞から、候補ORFから翻訳される候補タンパク質に結合するタンパク質を検出する。
【0023】
候補タンパク質に結合する細胞内のタンパク質の検出は、本技術分野において、通常使用されている2つのタンパク質の結合を検出できる方法である限りにおいて、特に限定されるものではない。具体的な方法としては、免疫沈降法、酵母ツーハイブリッド法、プロテインアレイ法、ペルオキシダーゼを用いたラベル法(例えば、アスコルビン酸ペルオキシダーゼを用いたAPEX法)、又はBioID法を挙げることができる。
【0024】
(免疫沈降)
免疫沈降は、本分野で公知の方法によって行うことができる。使用する抗体は、候補ORFから翻訳されるタンパク質(ポリペプチド)をウサギ等に免疫して抗体を得ることができる。しかしながら、多くの候補タンパク質について、それぞれの抗体を作成することは、効率的でない。従って、発現ベクターとして、候補タンパク質にタグを付すことのできるベクターを用いて、タグに対する抗体によって免疫沈降することが好ましい。タグ抗体としては、抗FLAGタグ抗体、抗HAタグ抗体、抗HISタグ抗体、抗mycタグ抗体、又は抗TAPタグ抗体を挙げることができる。
免疫沈降で得られた沈殿物を、ウェスタンブロッティングで解析することによって、細胞内のタンパク質を結合することのできる候補ORFにコードされたタンパク質を検出することができる。
【0025】
(酵母ツーハイブリッド法)
酵母ツーハイブリッド法は、本分野で公知の方法によって行うことができる。具体的には、GAL4のDNA結合ドメイン(DBD)に候補タンパク質を融合させ、GALのアクティベータドメインに細胞内のタンパク質を融合させて、細胞内のタンパク質を結合することのできる候補ORFにコードされたタンパク質を検出することができる。酵母に代えて、大腸菌を用いることもできる。また、GAL4に代えて、LexA、又はRasシグナル経路を用いることもできる。
【0026】
(プロテインアレイ法)
プロテインアレイ法は、本分野で公知の方法によって行うことができる。具体的には、プロテインアレイに細胞内タンパク質を固定し、候補タンパク質を接触させることにより、細胞内のタンパク質を結合することのできる候補ORFにコードされたタンパク質を検出することができる。逆に、プロテインアレイに候補タンパク質を固定し、細胞内タンパク質を接触させることにより、細胞内のタンパク質を結合することのできる候補ORFにコードされたタンパク質を検出することができる。
【0027】
(ペルオキシダーゼを用いたラベル法)
ペルオキシダーゼを用いたラベル法の例としてアスコルビン酸ペルオキシダーゼを用いたAPEX法を挙げることができる。APEX法は、非特許文献4で報告されたアスコルビン酸ペルオキシダーゼをタグとして用いる方法である。具体的には、アスコルビン酸ペルオキシダーゼやその改良型のペルオキシダーゼを目的のタンパク質を融合した形で細胞内発現させると、その近傍に存在する他のタンパク質をビオチンなどでラベルすることができるため、細胞溶解の後、ラベル化されたタンパク質のみを特異的に回収し解析することで、細胞内で目的のタンパク質が相互作用している他のタンパク質を同定できる方法である。
【0028】
(BioID法)
BioID法は、非特許文献5で報告されたBirAを用いる方法である。具体的には、候補タンパク質とBirAとを融合タンパク質として発現させ、細胞内の結合タンパク質と接触させることにより、細胞内のタンパク質を結合することのできる候補ORFにコードされたタンパク質を検出することができる。
【0029】
《判定工程(3)》
判定工程(3)においては、候補タンパク質に結合する他のタンパク質が検出された候補タンパク質を生理活性タンパク質と判定する。
生理活性を有するタンパク質は、生体内で他の分子(タンパク質)と相互作用することにより、生理活性を示すことが多い。換言すれば、生体内で他の分子(タンパク質)と結合する候補タンパク質は、生理活性を有すると考えられる。従って、前記タンパク質検出工程(2)において、細胞内の他のタンパク質と結合することが確認された候補タンパク質は、生理活性タンパク質と判定することができる。
【0030】
《候補タンパク質の発現を検出する工程》
本発明の同定方法においては、前記結合タンパク質検出工程(2)の前に、予め候補ORFから翻訳される候補タンパク質の発現を検出する工程(以下、予備検出工程と称する)を含んでもよい。この予備検出工程を含むことにより、発現が安定している候補タンパク質を選択することが可能であり、タンパク質検出工程(2)における免疫沈降を行う候補タンパク質を、選択することが可能である。候補タンパク質の発現量は、検出が確認できる量である限りにおいて特に限定されるものではない。例えばウェスタン・ブロッティング法で検出が確認できる程度の量であれば限定されるものではないが、好ましくは1ag/g以上であり、より好ましくは10ag/g以上である。より具体的には、ウェスタン・ブロッティング法において、1つのバンドとして、10pg以上のタンパク質をゲルにアプライできる発現量であればよい。
予備検出工程においては、プロテアソーム阻害剤を細胞培養液に添加してもよい。プロテアソーム阻害剤を添加することによって、ロテアソームによって分解される候補タンパク質の発現を安定させることができる。
候補タンパク質の発現の検出方法は、限定されるものではないが、例えば抗体を用いる方法、又は質量分析を挙げることができる。抗体を用いる方法としては、ウェスタンブロッティング法、又はドットブロッティング法などを用いることができる。
【0031】
《候補ORFの選択》
本発明の同定方法においては、候補ORFを予め選択することが可能である。例えば、前記候補ORFが、(a)候補ORFの開始コドンが、前記メインORFの開始コドンより5’UTR側に存在すること、(b)候補ORFのコードするタンパク質が10アミノ酸以上であること、(c)候補ORFが、1種の真核生物のmRNAにおけるメインORF以外のORFであり、そして他の1種又は2種以上の真核生物のmRNAにおけるメインORF以外のORFに対して50%以上の同一性を有するORFであること、(d)候補ORFの開始コドンがAUGであること、及び(e)真核生物の細胞に発現しているペプチドを質量分析により分析し、得られたペプチドの分子量を用いて候補ORFのデータベースから一致するアミノ酸配列が検索されたORFであること、からなる群から選択される1つ以上の条件を満たすものを選択することができる。これらの(a)〜(e)の条件は1つを適用してもよく、2つ以上を組み合わせて適用してもよい。また、それぞれの(a)〜(e)の条件において、異なる基準を選択することも可能である。
【0032】
(a)候補ORFの位置
候補ORFの位置に関しては、例えば候補ORFの開始コドンが、前記メインORFの開始コドンより5’UTR側に存在するものを選択してもよい。前記のようにmORF以外の候補ORFは、iuORF、ouORF、emORF、tmORF、iORF、odORF、及びidORFの7つに分類することができる。本発明者は、iuORF及びouORFのuORFが、odORF及びidORFのdORFよりも選択圧がかかっていることを見出した。すなわち、dORFよりもuORFから翻訳されるタンパク質が、生理活性を有している可能性が高いとも考えられる。従って、例えば前記7つに分類された候補ORFからiuORF及び/又はouORFを選択することによって、生理活性タンパク質の同定の頻度を上昇させる可能性がある。
しかしながら、emORF、tmORF、iORF、odORF、又はidORFのいずれかを選択することによって、異なる生理活性を有するタンパク質を同定する可能性もある。従って、iuORF、ouORF、emORF、tmORF、iORF、odORF、及びidORFからなる群から選択される1つ以上のORFを選択することも可能である。
【0033】
(b)候補ORFの長さ
候補ORFの長さに関して、例えば候補ORFのコードするタンパク質が10アミノ酸以上であるものを選択してもよい。本発明で用いる候補ORFの最小サイズは、例えば6塩基長以上(開始コドン+終止コドン)することができる。従って、候補ORFの長さは、限定されるものではないが、好ましくは10アミノ酸以上であり、より好ましくは20アミノ酸以上であり、更に好ましくは30アミノ酸以上であり、更に好ましくは40アミノ酸以上である。しかしながら、短いタンパク質が、特殊な生理活性を示すことあり、例えば10〜20アミノ酸を選択してもよく、10〜30アミノ酸を選択してもよく、10〜40アミノ酸を選択してもよく、30〜50アミノ酸を選択することも可能である。
【0034】
(c)候補ORFの同一性
候補ORFの同一性に関して、候補ORFが、1種の真核生物のmRNAにおけるメインORF以外のORFであり、前記候補ORFから翻訳されるアミノ酸配列が、他の1種又は2種以上の真核生物のmRNAにおけるメインORF以外のORFから翻訳されるアミノ酸配列に対して50%以上の同一性を有するORFであるものを選択してもよい。本発明で用いる候補ORFは、真核生物のORFであるが、2つの動物種の遺伝子配列又はアミノ酸配列を比較した場合、一般的に、生理活性を有するタンパク質は、いくつかの生物種の間でも保存されている可能性が高い。従って2種以上の生物種で保存されているORFを選択することによって、生理活性を有するタンパク質を同定できる可能性が高くなる。例えば、前記同一性は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、更に好ましくは70%以上であり、更に好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。比較する生物種は特に限定されるものではなく、真核生物から任意に選択することが可能であり、比較する生物種の数も限定されるものではない。
同一性を規定する方法は、本分野で通常使用されているソフトウエア(ペアワイズアラインメントツール)を用いることができるが、例えばNeedle(EMBL-EBI)を用いることによって、同一性を計算することができる
【0035】
(d)候補ORFの開始コドン
候補ORFの開始コドンに関して、候補ORFの開始コドンがAUG(ATG)であるものを選択することができる。候補ORFの開始コドンは、前記のとおり、AUG(ATG)又は非AUG(ATG)開始コドンを用いることができる。一般的にはAUGが開始コドンとしてしようされる頻度が高いが、非AUG開始コドンが使用されることもある。従って、候補ORFの開始コドンがAUG(ATG)であることが好ましいが、AUG、UUG、GUG、CUG、AAG、AGG、ACG、AUA、AUU、及びAUCからなる群から選択される1つ以上の開始コドンのORFを選択することも可能である。非AUG(ATG)開始コドンを用いることにより、新たな生理活性タンパク質を同定できる可能性がある。
【0036】
(e)候補ORFの細胞内からの質量分析による検出
本発明の同定方法においては、質量分析によって細胞内からの検出されたペプチドのアミノ酸と、候補ORFのアミノ酸配列とを検索することによって、候補ORFを選択することができる。質量分析によって、ペプチドを構成しているアミノ酸を同定可能である。そのペプチドを構成しているアミノ酸の組成と、候補ORFのデータベース中のアミノ酸配列とを比較することによって、検出されたペプチドを含む候補ORFを特定することが可能である。
この質量分析による検出を用いることにより、実際に細胞内で発現している可能性の高い候補ORFを選択することが可能である。また、2種以上の真核生物において保存性の低い候補タンパク質を選択することも可能である。
質量分析に用いる細胞は、真核生物の細胞であれば特に限定されるものではない。また、培養細胞ではなく、組織又は臓器の細胞を用いることもできる。用いる細胞の種類によって、検出されるペプチドが異なると考えられるため、様々な候補タンパク質の選択が可能となる。
【0037】
[2]生理活性タンパク質
(2−1)精神活動関連タンパク質
本発明の不安行動関連タンパク質は、(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、育児行動の基盤となる精神活動の異常を抑制する機能を示すタンパク質、(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、育児行動の基盤となる精神活動の異常を抑制する機能を示すタンパク質(以下、「機能的等価改変体」と称することがある)、あるいは、(4)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、育児行動の基盤となる精神活動の異常を抑制する機能を示すタンパク質である。なお、本発明のタンパク質(4)は、機能的等価改変体(タンパク質(3))を含むタンパク質である。
なお、ヒト及びマウスの精神活動関連タンパク質のアミノ酸配列は配列番号1に示した同一の配列である。また、ヒトの核酸配列を配列番号2に、マウスの核酸配列を配列番号3に示した。
【0038】
本発明の精神活動関連タンパク質は、ヒトにおいては、ARHGEF9のmORFの5’UTRにORFが存在するタンパク質である。精神活動関連タンパク質をコードするmRNAは、小脳、全脳、及び脊髄などの神経系組織全般に発現している。また、精神活動関連タンパク質は、マウスの大脳及び海馬で発現している。
一方、ARHGEF9のmORFは、大脳及び海馬以外の多くの神経組織で発現しており、uORF44タンパク質とARHGEF9タンパク質との発現の分布は、完全には一致しないようである。
【0039】
本発明の「機能的等価改変体」は、配列番号1で表されるアミノ酸配列における、1又は複数の箇所において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個(例えば、1〜数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、育児行動の異常を抑制する機能を示すタンパク質である限り、特に限定されるものではなく、その起源もヒトに限定されるものではない。
【0040】
本発明の機能的等価改変体には、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質のヒトの変異体が含まれるだけでなく、ヒト以外の生物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、又はイヌ)由来の機能的等価改変体が含まれる。更には、それらの天然ポリペプチド(すなわち、ヒト由来の変異体、あるいは、ヒト以外の生物由来の機能的等価改変体)をコードするポリヌクレオチドを元にして、あるいは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを元にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したタンパク質などが含まれる。
【0041】
本明細書における「育児行動の基盤となる精神活動の異常」は、例えば「育児行動の異常」、又は「育児放棄」などを含む。従って、本明細書において、「育児行動の基盤となる精神活動の異常を抑制する機能」を示すことは、例えば、本発明の精神活動関連タンパク質を発現したマウスが、正常な育児行動を示すことで確認することができる。より具体的には、変異を導入された機能的等価改変体等を発現するマウスが、野生型の不安行動関連タンパク質を発現するマウスと同じように、育児行動の異常を示さない場合に、「育児行動の基盤となる精神活動の異常を抑制する機能」を示すと判断することができる。
【0042】
また、本発明のタンパク質は、遺伝子工学的に製造することもできる。配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列の情報を基にして適当なプライマー又はプローブを設計し、前記プライマー又はプローブと目的とする生物[例えば、哺乳動物(例えば、ウシ、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、又はイヌ)]由来の試料(例えば、総RNA、若しくはmRNA分画、cDNAライブラリー、又はファージライブラリー)とを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、又はハイブリダイゼーション法を実施することにより、タンパク質をコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドがコードしたタンパク質が、「育児行動の異常を抑制する機能」を示すことを確認することにより、所望のタンパク質を取得することができる。
また、本発明の「機能的等価改変体」は、前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列の情報を基にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したタンパク質が含まれるが、常法、例えば、部位特異的突然変異誘発法(site−specific mutagenesis)により、タンパク質をコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したタンパク質が、例えば、「育児行動の基盤となる精神活動の異常を抑制する機能」を示すことを確認することにより、所望のタンパク質を取得することができる。
【0043】
また、本発明のタンパク質は、化学合成によって製造することもできる。ペプチドの化学合成法としては、液相法及び固相法があり、固相法が好ましい。固相法としては、Fmoc固相合成法、Boc固相合成法を挙げることができ、合成したペプチドは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の公知の方法で精製することができる。
【0044】
(2−2)ペルオキシレドキシン結合タンパク質
本発明のペルオキシレドキシン結合タンパク質は、(1)配列番号10又は11で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、(2)配列番号10又は11で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、Peroxiredoxin 1との結合能を有するタンパク質、(3)配列番号10又は11で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、Peroxiredoxin 1との結合能を有するタンパク質、あるいは、(4)配列番号10又は11で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、Peroxiredoxin 1との結合能を有するタンパク質である。
なお、ヒト及びマウスのペルオキシレドキシン結合タンパク質のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10及び11に示した同一の配列である。また、ヒトの核酸配列を配列番号12に、マウスの核酸配列を配列番号13に示した。マウスのペルオキシレドキシン結合タンパク質も、Peroxiredoxin 1との結合能を有するタンパク質である。
本発明のペルオキシレドキシン結合タンパク質は、ヒトにおいては、RELL2(RELT−like 2)のmORFの5’UTRにORFが存在するタンパク質である。ペルオキシレドキシン(Prdx)は過酸化水素やアルキルヒドロペルオキシドなどの活性酸素種を還元する酵素で、ヒートショックや酸化ストレスに応答するタンパク質である。
【0045】
本発明の「機能的等価改変体」は、配列番号10又は11で表されるアミノ酸配列における、1又は複数の箇所において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個(例えば、1〜数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、ペルオキシレドキシンとの結合能を示すタンパク質である限り、特に限定されるものではなく、その起源もヒトに限定されるものではない。
【0046】
本発明の機能的等価改変体には、配列番号10又は11で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質のヒトの変異体が含まれるだけでなく、ヒト以外の生物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、又はイヌ)由来の機能的等価改変体が含まれる。更には、それらの天然ポリペプチド(すなわち、ヒト由来の変異体、あるいは、ヒト以外の生物由来の機能的等価改変体)をコードするポリヌクレオチドを元にして、あるいは、配列番号10又は11で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを元にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したタンパク質などが含まれる。
【0047】
また、本発明のタンパク質は、遺伝子工学的に製造することもできる。配列番号10又は11で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列の情報を基にして適当なプライマー又はプローブを設計し、前記プライマー又はプローブと目的とする生物[例えば、哺乳動物(例えば、ウシ、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、又はイヌ)]由来の試料(例えば、総RNA、若しくはmRNA分画、cDNAライブラリー、又はファージライブラリー)とを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、又はハイブリダイゼーション法を実施することにより、タンパク質をコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドがコードしたタンパク質が、ペルオキシレドキシンとの結合能を示すことを確認することにより、所望のタンパク質を取得することができる。
また、本発明の「機能的等価改変体」は、前記配列番号10又は11で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列の情報を基にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したタンパク質が含まれるが、常法、例えば、部位特異的突然変異誘発法(site−specific mutagenesis)により、タンパク質をコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したタンパク質が、例えば、ペルオキシレドキシンとの結合能を示すことを確認することにより、所望のタンパク質を取得することができる。
【0048】
また、本発明のタンパク質は、化学合成によって製造することもできる。ペプチドの化学合成法としては、液相法及び固相法があり、固相法が好ましい。固相法としては、Fmoc固相合成法、Boc固相合成法を挙げることができ、合成したペプチドは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の公知の方法で精製することができる。
【0049】
(2−3)C1QBP結合タンパク質
本発明のQ Subcomponent Binding Protein(以下、C1QBPと称することがある)結合タンパク質は、(1)配列番号14又は15で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、(2)配列番号14又は15で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、Q Subcomponent Binding Proteinとの結合能を有するタンパク質、(3)配列番号14又は15で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、Complement Component 1及び/又はQ Subcomponent Binding Proteinとの結合能を有するタンパク質、あるいは、(4)配列番号14又は15で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、しかも、Complement Component 1及び/又はQ Subcomponent Binding Proteinとの結合能を有するタンパク質である。
なお、ヒト及びマウスのC1QBP結合タンパク質のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号14及び15に示した同一の配列である。また、ヒトの核酸配列を配列番号16に、マウスの核酸配列を配列番号17に示した。マウスのC1QBP結合タンパク質も、C1QBPとの結合能を有するタンパク質である。
本発明のC1QBP結合タンパク質は、ヒトにおいては、FBXL5(F-box and leucine-rich repeat protein 5)のmORFの5’UTRにORFが存在するタンパク質である。C1QBPは、ミトコンドリアに局在し、酸化ストレスに起因する細胞死を抑制するタンパク質である。
【0050】
本発明の「機能的等価改変体」は、配列番号14又は15で表されるアミノ酸配列における、1又は複数の箇所において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個(例えば、1〜数個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、C1QBPに結合能を示すタンパク質である限り、特に限定されるものではなく、その起源もヒトに限定されるものではない。
【0051】
本発明の機能的等価改変体には、配列番号14又は15で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質のヒトの変異体が含まれるだけでなく、ヒト以外の生物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、又はイヌ)由来の機能的等価改変体が含まれる。更には、それらの天然ポリペプチド(すなわち、ヒト由来の変異体、あるいは、ヒト以外の生物由来の機能的等価改変体)をコードするポリヌクレオチドを元にして、あるいは、配列番号14又は15で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを元にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したタンパク質などが含まれる。
【0052】
また、本発明のタンパク質は、遺伝子工学的に製造することもできる。配列番号14又は15で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列の情報を基にして適当なプライマー又はプローブを設計し、前記プライマー又はプローブと目的とする生物[例えば、哺乳動物(例えば、ウシ、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、又はイヌ)]由来の試料(例えば、総RNA、若しくはmRNA分画、cDNAライブラリー、又はファージライブラリー)とを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、又はハイブリダイゼーション法を実施することにより、タンパク質をコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドがコードしたタンパク質が、C1QBPに結合能を示すことを確認することにより、所望のタンパク質を取得することができる。
また、本発明の「機能的等価改変体」は、前記配列番号14又は15で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列の情報を基にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したタンパク質が含まれるが、常法、例えば、部位特異的突然変異誘発法(site−specific mutagenesis)により、タンパク質をコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したタンパク質が、例えば、C1QBPに結合能を示すことを確認することにより、所望のタンパク質を取得することができる。
【0053】
また、本発明のタンパク質は、化学合成によって製造することもできる。ペプチドの化学合成法としては、液相法及び固相法があり、固相法が好ましい。固相法としては、Fmoc固相合成法、Boc固相合成法を挙げることができ、合成したペプチドは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の公知の方法で精製することができる。
【0054】
[3]ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドである限り、特に限定されるものではなく、例えば、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいは、配列番号1で表される塩基配列を含むポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、本明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれる。
【0055】
本発明のポリヌクレオチドの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、(1)PCRを用いた方法、(2)常法の遺伝子工学的手法(すなわち、cDNAライブラリーで形質転換した形質転換株から、所望のcDNAを含む形質転換株を選択する方法)を用いる方法、又は(3)化学合成法などを挙げることができる。以下、各製造方法について、順次、説明する。
【0056】
[4]本発明の発現ベクター及び形質転換体
本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターである。すなわち、本発明のベクターは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、本発明による前記ポリヌクレオチドを挿入することにより得られるベクターを挙げることができる。本発現ベクターは、自己複製ベクター、すなわち、染色体外の独立体として存在し、その複製が染色体の複製に依存しない、例えば、プラスミドを基本に構築することができる。また、本発現ベクターは、宿主細胞に導入されたとき、その宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。本発明によるベクター構築の手順及び方法は、遺伝子工学の分野で慣用されているものを用いることができる。
【0057】
本発明による発現ベクターは、これを実際に宿主細胞に導入して所望の活性を有するタンパク質を発現させるために、前記の本発明によるDNA配列の他に、その発現を制御するDNA配列や微生物を選択するための遺伝子マーカー等を含んでいるのが望ましい。発現を制御するDNA配列としては、プロモーター及びターミネーター及びシグナルペプチドをコードするDNA配列等が含まれる。プロモーターは宿主細胞において転写活性を示すものであれば特に限定されず、宿主細胞と同種若しくは異種のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子の発現を制御するDNA配列として得ることができる。また、シグナルペプチドは、宿主細胞において、タンパク質の分泌に寄与するものであれば特に限定されず、宿主細胞と同種若しくは異種のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子から誘導されるDNA配列より得ることができる。また、本発明における遺伝子マーカーは、形質転換体の選択の方法に応じて適宜選択されてよいが、例えば薬剤耐性をコードする遺伝子、栄養要求性を相補する遺伝子を利用することができる。
【0058】
更に、本発明によれば、この発現ベクターによって形質転換された細胞が提供される。この宿主−ベクター系は特に限定されず、例えば、大腸菌、放線菌、酵母、糸状菌、真核生物の細胞などを用いた系、及び、それらを用いた他のタンパク質との融合タンパク質発現系などを用いることができる。
また、この発現ベクターによる細胞の形質転換も、この分野で慣用されている方法に従い実施することができる。
更に、この形質転換体を適当な培地で培養し、その培養物から上記の本発明によるタンパク質を単離して得ることができる。従って、本発明の別の態様によれば、前記の本発明による新規タンパク質の製造方法が提供される。形質転換体の培養及びその条件は、使用する細胞についてのそれと本質的に同等であってよい。また、形質転換体を培養した後、目的のタンパク質を回収する方法は、この分野で慣用されているものを用いることができる。
【0059】
例えば、真核生物の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、及び酵母等の細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えば、サルの細胞であるCOS細胞、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO)、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞、又はヒト由来細胞である293T細胞等を挙げることができる。
【0060】
脊椎動物細胞の発現ベクターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写終結配列等を有するものを使用することができ、更に必要により、複製起点を有しているものも使用することができる。前記発現ベクターの例としては、例えば、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr、ヒトの延長因子プロモーターを有するpEF−BOS、又はサイトメガロウイルスプロモーターを有するpCEP4(Invitrogen社)等を挙げることができる。
【0061】
前記発現ベクターは、例えば、DEAE−デキストラン法、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法、市販のトランスフェクション試薬を用いた方法、あるいは、電気パスル穿孔法等により、細胞に取り込ませることができる。
【0062】
本発明の形質転換体は、常法に従って培養することができ、前記培養により細胞内に本発明のタンパク質が生産される。前記培養に用いることのできる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種の培地を適宜選択することができる。例えば、293−EBNA細胞の場合には、牛胎仔血清(FBS)等の血清成分を添加したダルベッコ修正イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地にG418を加えた培地を使用することができる。
【0063】
本発明の形質転換体を培養することにより、前記細胞の細胞内に生産される本発明のタンパク質は、前記タンパク質の物理的性質や生化学的性質等を利用した各種の公知の分離操作法により、分離精製することができる。具体的には、本発明のタンパク質を含む細胞抽出液を、例えば、通常のタンパク質沈殿剤による処理、限外濾過、各種液体クロマトグラフィー[例えば、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換体クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等]、若しくは透析法、又はこれらの組合せ等により、本発明のタンパク質を精製することができる。
【0064】
[5]抗体
本発明のタンパク質に反応する抗体(例えば、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体)は、各種動物に、本発明のタンパク質、又はその断片を直接投与することで得ることができる。また、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入したプラスミドを用いて、DNAワクチン法(Raz,E.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,9519−9523,1994;又はDonnelly,J.J.ら,J.Infect.Dis.,173,314−320,1996)によっても得ることができる。
【0065】
ポリクローナル抗体は、例えば、本発明のタンパク質又はその断片を適当なアジュバント(例えば、フロイント完全アジュバントなど)に乳濁した乳濁液を、腹腔、皮下、又は静脈等に免疫して感作した動物(例えば、ウサギ、ラット、ヤギ、又はニワトリ等)の血清又は卵から製造することができる。このように製造された血清又は卵から、常法のタンパク質単離精製法によりポリクローナル抗体を分離精製することができる。そのような分離精製方法としては、例えば、遠心分離、透析、硫酸アンモニウムによる塩析、又はDEAE−セルロース、ハイドロキシアパタイト、若しくはプロテインAアガロース等によるクロマトグラフィー法を挙げることができる。
【0066】
モノクローナル抗体は、例えば、ケーラーとミルスタインの細胞融合法(Kohler,G.及びMilstein,C.,Nature,256,495−497,1975)により、当業者が容易に製造することが可能である。
すなわち、本発明のタンパク質又はその断片を適当なアジュバント(例えば、フロイント完全アジュバントなど)に乳濁した乳濁液を、数週間おきにマウスの腹腔、皮下、又は静脈に数回繰り返し接種することにより免疫する。最終免疫後、脾臓細胞を取り出し、ミエローマ細胞と融合してハイブリドーマを作製する。
【0067】
ハイブリドーマを得るためのミエローマ細胞としては、例えば、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損又はチミジンキナーゼ欠損のようなマーカーを有するミエローマ細胞(例えば、マウスミエローマ細胞株P3X63Ag8.U1)を利用することができる。また、融合剤としては、例えば、ポリエチレングリーコールを利用することができる。更には、ハイブリドーマ作製における培地として、例えば、イーグル氏最小必須培地、ダルベッコ氏変法最小必須培地、又はRPMI−1640などの通常よく用いられている培地に、10〜30%のウシ胎仔血清を適宜加えて用いることができる。融合株は、HAT選択法により選択することができる。ハイブリドーマのスクリーニングは培養上清を用い、ELISA法又は免疫組織染色法などの周知の方法により行ない、目的の抗体を分泌しているハイブリドーマのクローンを選択することができる。また、限界希釈法によってサブクローニングを繰り返すことにより、ハイブリドーマの単クローン性を保証することができる。このようにして得られるハイブリドーマは、培地中で2〜4日間、あるいは、プリスタンで前処理したBALB/c系マウスの腹腔内で10〜20日間培養することで、精製可能な量の抗体を産生することができる。
【0068】
このように製造されたモノクローナル抗体は、培養上清又は腹水から常法のポリペプチド単離精製法により分離精製することができる。そのような分離精製方法としては、例えば、遠心分離、透析、硫酸アンモニウムによる塩析、又はDEAE−セルロース、ハイドロキシアパタイト、若しくはプロテインAアガロース等によるクロマトグラフィー法を挙げることができる。
また、モノクローナル抗体又はその一部分を含む抗体断片は、前記モノクローナル抗体をコードする遺伝子の全部又は一部を発現ベクターに組み込み、適当な宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、又は動物細胞)に導入して生産させることもできる。
【0069】
以上のように分離精製された抗体(ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む)について、常法により、ポリペプチド分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)によって消化を行ない、引き続き、常法のポリペプチド単離精製法により分離精製することで、活性のある抗体の一部分を含む抗体断片、例えば、F(ab’)
2、Fab、Fab’、又はFvを得ることができる。
【0070】
更には、本発明のタンパク質に反応する抗体を、クラクソンらの方法又はゼベデらの方法(Clackson,T.ら,Nature,352,624−628,1991;又はZebedee,S.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,3175−3179,1992)により、一本鎖(single chain)Fv又はFabとして得ることも可能である。また、マウスの抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に置き換えたトランスジェニックマウス(Lonberg,N.ら,Nature,368,856−859,1994)に免疫することで、ヒト抗体を得ることも可能である。
【0071】
[6]本発明のノックアウト非ヒト動物及び細胞
本発明のノックアウト非ヒト動物は、本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現が部分的に又は完全に抑制されている限り、特に限定されるものではなく、それ自体公知の方法により、作製することができる。
【0072】
例えば、本発明のポリヌクレオチドを含有してなる組換えベクターを用い、目的とする非ヒト動物、例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウマ、マウス、又はニワトリ等の胚性幹細胞(embryonic stem cell)において、染色体上の本発明のタンパク質をコードする遺伝子を公知の相同組換えの手法[例えば、Nature,326,6110,295(1987);又はCell,51,3,503(1987)等]により不活化するか、あるいは、任意の配列と置換した変異クローンを作製する[例えば、Nature,350,6315,243(1991)]。胚性幹細胞の変異クローンを用い、動物の受精卵の胚盤胞(blastocyst)への注入キメラ法又は集合キメラ法等の手法により、胚性幹細胞クローンと正常細胞とからなるキメラ個体を調製することができる。このキメラ個体と正常個体との掛け合わせにより、全身の細胞の染色体上に存在する本発明のタンパク質をコードする遺伝子に任意の変異を有する個体を得ることができ、更に、その個体の掛け合わせにより相同染色体の双方に変異が入ったホモ個体の中から、本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現が部分的に又は完全に抑制された個体としてノックアウト非ヒト動物を得ることができる。
【0073】
更に、前記ノックアウト非ヒト動物から、本発明のタンパク質をコードする遺伝子の発現が部分的に又は完全に抑制された、本発明の細胞を得ることができる。
あるいは、所望の細胞(例えば、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞、前記HEK293細胞にエプスタイン・バーウイルスのEBNA−1遺伝子を導入した293−EBNA細胞、又はヒト由来細胞である293T細胞)に対して、例えば、RNA干渉法(例えば、Nature,411,494−498,2002)により、細胞内在性の不安行動関連タンパク質の発現を抑制することができ、これらの細胞も本発明の範囲に含まれる。
【0074】
また、染色体上の本発明のタンパク質をコードする遺伝子の任意の位置へ変異を導入することにより、ノックアウト非ヒト動物を作製することも可能である。例えば、染色体上の本発明のタンパク質をコードする遺伝子の翻訳領域中へ、塩基を置換、欠失、及び/又は挿入等させて変異を導入することにより、その遺伝子産物の活性を改変させることも可能である。本発明のノックアウトマウスにおける標的遺伝子は、mRNAにおけるmORF以外のORFにコードされた遺伝子である。従って、その標的遺伝子の機能を解析するためには、mORFの発現に影響を与えないことが好ましい。従って、ターゲット遺伝子の開始コドンであるATGを変異させることによって、標的遺伝子の発現を抑制することが好ましい。後述の実施例においては、uORF44の開始コドンであるATGを終止コドンであるTAGに変異させ、uORF44に含まれる2つのATGもTAGに変異させることによって、標的遺伝子の発現を抑制した。しかしながら、標的遺伝子の発現の抑制は、前記の変異に限定されるものではなく、ATGを他のコドンに変異させることによっても可能である。
また、その発現制御領域への同様な変異を導入することにより、例えば、発現の程度、時期、及び/又は組織特異性等を改変させることも可能である。更に、Cre−loxP系との組合せにより、より積極的に発現時期、発現部位、及び/又は発現量等を制御することも可能である。このような例として、脳のある特定の領域で発現されるプロモーターを利用して、その領域でのみ目的遺伝子を欠失させた例[Cell,87,7,1317(1996)]や、Creを発現するアデノウィルスを用いて、目的の時期に、臓器特異的に目的遺伝子を欠失させた例[Science,278,5335(1997)]が知られている。
【0075】
従って、染色体上の本発明のタンパク質をコードする遺伝子についても、このように任意の時期や組織で発現を制御することができ、また、任意の挿入、欠失、及び/又は置換をその翻訳領域や発現制御領域に有するノックアウト非ヒト動物を作製することができる。ノックアウト非ヒト動物は、任意の時期、任意の程度、及び/又は任意の部位で、本発明のタンパク質に起因する種々の疾患の症状を誘導することができる。このように、本発明のノックアウト非ヒト動物は、本発明のタンパク質に起因する種々の疾患の治療や予防において極めて有用な動物モデルとなる。
【0076】
[7]育児行動の基盤となる精神活動の異常を抑制する化合物のスクリーニング方法
本発明の化合物のスクリーニング方法は、前記ノックアウト非ヒト動物又は細胞に、候補化合物を投与することを特徴とする。
本発明のスクリーニング方法にかけることのできる試験物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術[Terrett, N. K. ら, Tetrahedron, 51, 8135-8137 (1995)]又は通常の合成技術によって得られた化合物群、ファージ・ディスプレイ法[Felici, F. ら, J. Mol. Biol., 222, 301-310 (1991)]などを応用して作成されたランダム・ペプチド群、siRNA、又はuORF44遺伝子又はuORF44タンパク質に結合する抗体、を用いることができる。また、微生物の培養上清、植物若しくは海洋生物由来の天然成分、又は動物組織抽出物などもスクリーニングの試験物質として用いることができる。更には、本発明のスクリーニング方法により選択された化合物(ペプチドを含む)を、化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を用いることができる。
【0077】
本発明のスクリーニング方法においては、前記ノックアウト非ヒト動物又は細胞と試験物質とを接触させ、ノックアウト非ヒト動物又は細胞の応答の変化を分析することにより、試験物質をスクリーニングすることができる。
更に、本発明には前記スクリーニング方法により得られたスクリーニング結果物、及びスクリーニング結果物を含む医薬を含むことができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0079】
《実施例1》
本実施例では、ヒトのmRNAの機能性タンパク質をコードするuORFの同定を行った。
【0080】
(1)ORFの取得
UCSC Genome Browserから、ヒト及びマウスのRefSeq Geneの5’UTRのみの配列と、5’UTR+mORFの配列と、5’UTR+mORF+3’UTRの配列を記しているFASTAファイルを取得し、これらの情報をもとに、mORFのmRNA上での位置を決定した(human_refseq_5UTR_20131228.fasta、human_refseq_5UTR_CDS_20131228.fasta、human_refseq_5UTR_CDS_3UTR_20131228.fasta)。5’UTRの長さから、mORFの開始位置を決定し、5’UTR+mORFの長さからmORFの終了位置を決定した。
【0081】
Genome Browserから取得した配列データには、重複している遺伝子及び5’UTRが登録されていない遺伝子が含まれているため、重複している遺伝子及び5’UTRを持たない遺伝子は、自作のプログラム(oneline_fasta.pl、get_NM.pl、及びremove_gene_duplication.pl)によって、予め除いた。
次に、自作プログラム(find_all_ORF.pl)によって、ORFの抽出を行った。開始コドンは異なるが同一の終止コドンをもつ複数のORFを別々のものとして抽出した。
length_orf.plというORFの長さを数えるためのプログラムを利用し、ORFの長さを取得した。長さを取得したのちに、R言語によってORFの長さの統計値解析を行った。
【0082】
(2)uORFのアミノ酸配列への変換と30アミノ残基以上のuORFの取得
得られたヒト及びマウスのmORF以外のORFのうち、mORFの開始コドンATGよりも、5’UTR側に開始コドンATGを有するuORFを抽出した。
ヒトとマウスの全uORFのFASTAファイルを、translation.plによって、アミノ酸配列に変更した。その後、タンパク質の長さが30アミノ残基以上のものだけを、length.plによって取得した。
【0083】
(3)同一性の高いヒトuORF及びマウスuORFの抽出
Needleというペアワイズアラインメントツールを用いて、ヒトuORFとマウスuORFの保存性を計算した。一つのヒトuORFタンパク質と全てのマウスuORFタンパク質をNeedleでペアワイズアラインメントをし、一番スコアが高く、かつ一番identityが高いマウスuORFタンパク質を取得し、この計算を全てのヒトuORFに対して行うneedle30.plというプログラムによってホモログペアを作成した。同じ配列のuORFが含まれているので、remove_dup_seq.plによって重複配列を取り除き、最後はMicrosoftのExcelによって40アミノ残基以上かつ、identity 80%以上のuORFペアを抽出した。更に、mORFと重なっているouORFを除いた。機能性タンパク質をコードしている候補ORFの同定のスキームを
図2に示す。
【0084】
前記の同定の結果、63,425個のuORFから54個の高度に保存されたヒトuORFを抽出することができた。
【0085】
(4)発現プラスミドの構築
得られた54個のORFにコードされているタンパク質を免疫沈降するために、FLAGタグ化発現プラスミドを構築した。54種類のuORFのN末端又はC末端に、FLAGタグが融合したuORFタンパク質を哺乳類細胞内で発現する108種類のプラスミドの作成を試みた(
図3A)。
FLAGタグ化発現プラスミド、及びHAタグ化発現プラスミドの作成には、pcDNA3_FLAG-insert、pcDNA3_insert-FLAG、pcDNA3_HA-insert、pcDNA3_insert-HAを用いた。前記ベクターにPCR(Takara Prime Star GXL polymerase)、制限酵素処理(NEB、NheI-HF、KpnI-HF、AgeI-HF、BamHI-HF、EcoRI-HF、XbaIのうちいずれか二つを使用)、及びライゲーション(Wako 2x ligation mix)によって、ORF配列を挿入した。
72種類の発現プラスミドが構築できた。
【0086】
(5)ウェスタンブロッティング
得られた72種の発現プラスミドを、HEK293Tにトランスフェクションして、発現を確認した。トランスフェクション前日に、トランスフェクションする際にコンフルエンシーが80%程度になるようにHEK293Tを、polyL-Lysine(Sigma、QJ-P4832)によってコーティングされた培養皿(BD Falcon)に撒いた。発現プラスミドはOpt-MEM(Life Technologies)とFuGENE-HD(Promega)に混合し、HEK239Tにトランスフェクションした。発現確認の実験ではトランンスフェクションの48時間後に細胞を1xSDS sample buffer(58.3mM Tris-HCl pH6.8, 1.7%SDS, 5% Glycerol, Complete Protease Inhibitor Cocktail EDTA free(Roche))にて溶かし、ソニケーションをした後95℃5分でタンパク質を変性させた。
SDS−PAGEによる電気泳動を行い、Immobilon P
sq(Millipore)又はImmobilon Pに、タンパク質を転写した。5%スキムミルク(Wako)PBST(ブロッキングバッファー)にてブロッキングし、抗FLAG抗体(Sigma、F3165、5000倍)を用いて、室温一時間で、一次抗体反応を行った。一次抗体反応終了後の洗浄はPBST(0.1% Tween-20)にて室温5分×3回の条件で行った。二次抗体反応は二次抗体(抗マウスIgG抗体(GE、NA931V、5000倍)をブロッキングバッファーにて希釈し、室温一時間の条件で行った。二次抗体反応終了後の洗浄はPBSTにて室温5分×二回と室温30分で行った。HRP検出試薬にはImmobilon Western Chemiluminescent HRP Substrate(Millipore)を用いた。
その結果、目視できるバンドとして発現が確認できたuORFタンパク質は6種類であった。
【0087】
(6)プロテアソームによるタンパク質の抑制
発現が確認できなかったuORFタンパク質が、プロテアソームによって分解されている可能性があると考えた。そのため、プロテアソーム阻害剤を用いて、uORFタンパク質の発現が改善するか否かを確認した。72種のプラスミドのうち、28種のプラスミドについて検討した。
トランスフェクション24時間後、10μΜ MG132(Calbiochem、#474790)入りDMEMに培地交換したことを除いては、前記「(5)ウェスタンブロッティング」の操作を繰り返した。
その結果、28種類のuORFのうち、14種類のFLAGタグ化uORFの発現がウェスタンブロットによって確認できた(
図4)。すなわち、プロテアソーム阻害剤の添加により、28のuORFの中の半数の発現が確認できた。
【0088】
(7)免疫沈降
安定的に発現することが確認できた6種類のuORFについて、免疫沈降を行い、細胞内の他のタンパク質と結合しているか否かを確認した。
10cm培養皿に培養したHEK293T細胞に、発現ベクターをOpt-MEM(Life Technologies)とFuGENE-HD(Promega)を用いてトランスフェクションし、トランスフェクション48時間後に、細胞をPBSにて洗浄後、1mL溶解バッファー(20m Tris-HCl pH7.5、150mM NaCl、0.5%NP40、1x Complete EDTA free(Roche)、10mM Glycerol 2-phosphate、1mM NaVO
4)にて細胞を溶かし、氷上で20分静置した。その後に4℃、21,130×g、30分にて遠心分離を行い、上清を免疫沈降に用いた。免疫沈降には、抗DYKDDDDKタグ抗体ビーズ(Wako、016-22784)50μLまたは、Monoclonal Anti-HA-Agarose(Sigma、A2095)50μLを用いた。抗体ビーズライセートを混ぜ、4℃1時間でロックを行った。抗原抗体反応終了後、溶解バッファー1mLにて洗浄を3回行い、50μL 1xSDS sample bufferにてタンパク質を溶出させた。溶出させたサンプルをSDS-PAGEにて電気泳動をし、その後にウェスタンブロット、またはSYPRO Ruby染色を行った。ウェスタンブロッティングは、前記「(5)ウェスタンブロッティング」の記載に従って行った。SYPRO Ruby染色はSYPRO Ruby protein gel stain(Life Technologies、S12000)を用い、製品のマニュアルに従って行った。
【0089】
その結果、1つのuORF(以下、uORF44と称する)由来のタンパク質(以下、uORF44pと称する)が、5種類の分子量の異なるタンパク質と結合することが示唆された(
図5A、B)。
【0090】
(8)結合タンパク質の解析
これらの5種類の結合タンパク質候補をSDS-PAGEゲルから切り出し、質量分析によってタンパク質を同定した。これらのタンパク質を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
免疫沈降実験の結果を確認するために、各結合タンパク質候補に対する抗体を用いてウェスタンブロットを行った。1次抗体として、抗BIP抗体(Abcam、ab21685、1000倍)、抗DNA-PKcs抗体(Abcam、ab1832、1000倍)、抗ATPB抗体(Abcam、ab14730、2000倍)、又は抗HA抗体(Santa Cruz、sc-805、2000倍)を用いたことを除いては、前記「(5)ウェスタンブロッティング」の操作を繰り返した。なお、exportin-1については、解析を行っておらず、ANTについては、ヒトのANT遺伝子に存在する3種類のサブファミリー(ANT1-3)を識別できる抗体が市販されていなかった。そのため、それぞれのサブタイプにHAタグを融合したANT1-HA、ANT2-HA、ANT3-HAの発現ベクターをそれぞれ作製し、FLAGタグ付きuORF44発現ベクターと共発現させた後に、一方のタグに対する抗体で免疫沈降、もう一方のタグに対する抗体でウェスタンブロッティングを試みた。
図6に示すように、DNA-PKcs及びBIPは、uORF44pと結合することを確認できた。しかしながら、ATP synthase betaは、uORF44pは結合しなかった。また、ANT2とuORF44pとの結合を示唆する結果が得られた。しかしながら、ANT1とANT3の過剰発現によって細胞がアポトーシスを起こしてしまったため、ANT1とANT3がuORF44pと結合していないかはこの実験では判断できなかった。
以上の免疫沈降の結果からuORF44pは少なくとも4つのタンパク質と結合していることが示唆された。
【0093】
《解析例》
本解析例では、前記uORF44p(配列番号1)が生体内で発現している組織の特定を行った。uORF44は、ARHGEF9のmRNAに存在するORFであった。uORF44pのアミノ酸配列は、ヒト及びマウスで同一である。
まず、20種類のヒト臓器における、uORF44を含むARHGEF9のmRNA発現解析をRT−qPCRによって行った。NCBIのRefSeqデータベースによると、ARHGEF9には3つのトランスクリプトバリアントがあり、そのうちの1つはuORF44を含まないものである。このために二つのqPCRプライマーセットを設計した。一つはuORF44を含むARHGEF9を増幅するもの(qPCR muORF44-s:GACAGGGAAAGAGAGGGAGAAA(配列番号6)、qPCR muORF44-as:GCCTCAGCACTAACGATGGAA(配列番号7))であり、もう一つは3つのバリアント全てを増幅するもの(qPCR mArhgef9-s:CGCCATTACATCAAGCACCTC(配列番号8)、qPCR mArhgef9-as:CACGAAGCCCATCTGAAATCTGT(配列番号9))である(
図7A)。
この二つのプライマーセットを用い、20種類のヒト臓器のcDNAに対するqPCRを行った結果、ARHGEF9は脳、脊髄などの神経系において強く発現していることがわかり、その他の臓器ではほとんどmRNAが発現していないことが判明した(
図7B)。
【0094】
次に、脳においてuORF44pが実際に翻訳されているかを検討した。マウスの大脳、小脳、海馬、脳幹をそれぞれマウス個体から摘出後、ホモジナイズすることでタンパク質ライセートを調製した。そして抗uORF44p抗体を用いたウェスタンブロッティングによって、uORF44pが発現しているかを確認した。その結果、大脳と海馬において、バンドを確認することができた(
図8A)。
この結果を確認するために、大脳のライセートに対し抗uORF44抗体を用いた免疫沈降を行い、uORF44と思われるタンパク質の濃度を高くし質量分析により直接配列確認することを試みた。免疫沈降の結果uORF44と思われるタンパク質の濃縮を確認することができ、SYPRO Ruby染色でもバンドが確認できた(
図8B、C)。
【0095】
《実施例2》
本実施例では、uORF44pに対するポリクローナル抗体(ウサギ抗血清)を作製した。
uORF44pの部分ペプチド「MDSLTEQRLTSPNLPAPHLEHYSVLH」を合成し、キャリアータンパク質との架橋物にして免疫抗原とした。キャリアータンパク質としてKLHを使用した。
免疫抗原2mgをPBS(リン酸緩衝液pH7.4)500μLに溶解し、フロイントの完全アジュバンド500μLと充分混合してエマルジョンとした。このエマルジョンをウサギ(日本白色種、メス)の皮下に数箇所投与した。更に、3週後、新たに前記の半量の合成ペプチド(1mg)をフロイントの不完全アジュバンドと充分混合してエマルジョンとし、皮下に数箇所投与した(2回目投与)。更に、3週後、新たに前記2回目投与と同量の合成ペプチド(1mg)をフロイントの完全アジュバンドと充分混合してエマルジョンとし、ウサギの腰部筋肉内に2箇所投与した(3回目投与)。3回目投与の1週後より耳静脈より大量採血を実施して約40mLの血清を得、以後4週間後まで週1回、約40mLを採血した。得られたウサギ血清は精製して用いた。
【0096】
《実施例3》
(1)ノックアウトマウスの作製
本実施例では、uORF44pのノックアウトマウスを作製した。uORF44が含まれるArhgef9をコードするmRNAの発現量を変化させないために、uORF44内にあるATGコドンを終止コドンのTAGに置換するによって、ノックアウトマウスを作製した。uORF44の場合は、その開始コドンに加えて、そのuORF内部にメチオニンをコードするATGコドンが2つ存在するので、これら3つのATGをTAGに変換した。
図9にターゲティングベクターの模式図を示す。用いたターゲティングベクターは、ネオマイシン耐性遺伝子の両側にloxP配列を持っており、そのさらに外側にゲノムと相同な配列をもっている。3’側の相同領域は完全にゲノム配列を一致しているが、5’側の相同領域はuORF44の3つのATGがすべてTAGに変更されている。このベクターをマウスES細胞にエレクトロポレーションにより導入した。対象ゲノム領域との相同組換えにより、
図9に示すようにuORF44の開始コドンが置換され、ネオマイシン耐性遺伝子(Neo)が挿入されたゲノムをもつ細胞が作出されると考えられる。ネオマイシンによってES細胞を薬剤選択したところ、相同組換えを起こしたES細胞株を3株樹立することができた。これら細胞株にCreタンパク質をエレクトロポレーションで導入することで、同じ向きのloxPに挟まれているネオマイシン遺伝子部位を切り出し、
図9のゲノムを持つノックアウトES細胞を樹立した。なお、前記ターゲティングベクターでは、
図9に示すように、ネオマイシン遺伝子除去後でも、1つのloxP配列がArhgef9のイントロンに残ってしまう。そこでこのloxP残存の影響を調べるためのコントロールES細胞として、uORF44は野生型(開始コドンを終始コドンに変換させていない型)だが、loxPは同じゲノム座位に挿入されているノックアウトES細胞を作製した。
得られたuORF44_KO_ES細胞から、常法に従い、キメラ、ヘテロ、ホモのKOマウスを作製した。
【0097】
(2)ノックアウトマウスにおけるuORF44とArhgef9のmORFの翻訳解析
得られたuORF44ノックアウトマウスにおけるuORF44及びArhgef9のmORFの翻訳を確認した。具体的には、ノックアウトマウスの海馬における翻訳発現をウェスタンブロティングで検証した。その結果、ノックアウトマウスにおいては、uORF44pは全く発現していなかった(
図10)。更に、嗅球においてもuORF44pは野生型(WT)マウスでは発現が確認されたが、ノックアウトマウスでは完全に発現が抑制されていた。
一方、mORFからのArhgef9タンパク質の翻訳発現量は、野生型マウス及びノックアウトマウスにおいて有意な差がみられなかった。この傾向は、Arhgef9だけが翻訳される小脳においても同様で、小脳におけるArhgef9翻訳量は、野生型マウスとノックアウトマウスとの間で有意な差がなかった。
【0098】
(3)ノックアウトマウスの表現型解析
ノックアウトマウスは正常に妊娠及び出産を行うが、出産後に離乳するまでに多くの仔マウスが死亡に至った。ノックアウトマウスの行動解析を行った結果、ノックアウトマウスは育児行動に顕著な異常を示すことが明らかとなった。
野生型雌マウスは、出産未経験であっても、一定時間仔マウスと同居すると、巣作りののちに、仔マウスを巣に連れ帰る行動(retrieving)や、仔マウスに覆いかぶさる行動(Crouching over)を示す。しかしながら、ノックアウトマウスを同時間、仔マウスと同じケージに入れていても、前記の子育て行動が全く観察されなかった(
図11)。
【0099】
《実施例4》
本実施例では、ヒトのmRNAの機能性タンパク質をコードするouORFの同定を行った。研究対象を、mORFと一部重なっている上流ORF(ouRNA)に拡大したことを除いては、実施例1の(1)〜(8)の操作を繰り返した。
その結果、1つのuORF(以下、ouORF7と称する)由来のタンパク質(以下、ouORF7pと称する)が、1種類タンパク質と結合することが示唆された(
図12)。
この結合タンパク質候補をSDS-PAGEゲルから切り出し、質量分析によってタンパク質を同定したところ、ペルオキシレドキシンであった。
【0100】
免疫沈降実験の結果を確認するために、ペルオキシレドキシンに対する抗体を用いてウェスタンブロットを行った。1次抗体として、抗ペルオキシレドキシン抗体(Cell Signaling Technology社)、を用いたことを除いては、前記「(5)ウェスタンブロッティング」の操作を繰り返した。以上の結果からuORF7pはペルオキシレドキシンと結合していることが示唆された。
【0101】
《実施例5》
本実施例では、ヒトのmRNAの機能性タンパク質をコードするouORFの同定を行った。研究対象を、mORFと一部重なっている上流ORF(ouRNA)に拡大したことを除いては、実施例1の(1)〜(8)の操作を繰り返した。
その結果、1つのuORF(以下、ouORF21と称する)由来のタンパク質(以下、ouORF21pと称する)が、2種類のタンパク質と結合することが示唆された(
図13)。
この結合タンパク質候補をSDS-PAGEゲルから切り出し、質量分析によってタンパク質を同定したところ、C1QBPであった。
【0102】
免疫沈降実験の結果を確認するために、C1QBPに対する抗体を用いてウェスタンブロットを行った。1次抗体として、抗C1QBP抗体(Santa Cruz社)を用いたことを除いては、前記「(5)ウェスタンブロッティング」の操作を繰り返した。以上の結果からouORF21pはC1QBPと結合していることが示唆された。