(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6973737
(24)【登録日】2021年11月8日
(45)【発行日】2021年12月1日
(54)【発明の名称】遺伝子工学菌VNP20009−Mの肺癌予防・治療薬の製造における応用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/74 20150101AFI20211118BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20211118BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20211118BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20211118BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20211118BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20211118BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A61K48/00
A61P11/00
A61P35/00
!C12N1/21
!C12N15/09 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-569533(P2019-569533)
(86)(22)【出願日】2018年3月29日
(65)【公表番号】特表2020-509093(P2020-509093A)
(43)【公表日】2020年3月26日
(86)【国際出願番号】CN2018081115
(87)【国際公開番号】WO2018177374
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2019年8月30日
(31)【優先権主張番号】201710213446.6
(32)【優先日】2017年4月1日
(33)【優先権主張国】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519315589
【氏名又は名称】広州華津医薬科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】趙子建
(72)【発明者】
【氏名】林艶
(72)【発明者】
【氏名】周素瑾
(72)【発明者】
【氏名】李芳紅
【審査官】
菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/145974(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0376593(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/74
A61K 48/00
A61P 11/00
A61P 35/00
C12N 1/21
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子工学菌VNP20009−Mの肺扁平上皮癌の切除後の再発及び転移の予防・治療薬の製造への使用であって、前記遺伝子工学菌VNP20009−Mは、L−メチオニナーゼ遺伝子がクローニングされた弱毒ネズミチフス菌VNP20009であることを特徴とする、遺伝子工学菌VNP20009−Mの使用。
【請求項2】
前記遺伝子工学菌VNP20009−Mの最小有効投与量は3.5×107CFU/M2であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記遺伝子工学菌VNP20009−Mの投与方式は、経口投与、局所投与、注射投与を含むことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記遺伝子工学菌VNP20009−Mは、L−メチオニナーゼ遺伝子がクローニングされたプラスミドを有する弱毒ネズミチフス菌VNP20009であることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記プラスミドは、pSVSPORTプラスミド、pTrc99Aプラスミド、pcDNA3.1プラスミド、pBR322プラスミド又はpET23aプラスミドを含むことを特徴とする請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記遺伝子工学菌VNP20009−Mは、L−メチオニナーゼ遺伝子をプラスミドにサブクローニングして、L−メチオニナーゼ発現プラスミドを得て、L−メチオニナーゼ発現プラスミドを弱毒ネズミチフス菌VNP20009に電気的形質転換する方法によって構築されることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学薬物の技術分野に属し、具体的には、遺伝子工学菌VNP20009−Mの肺癌予防・治療薬の製造における新しい応用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、人間の死亡を引き起こす重要な原因となっており、2005年から2015年まで、癌発症率が33%増加した。世界保健機関(WHO)により発表された『世界癌レポート2014』は、世界の癌症例が2012年の1400万人から2025年の1900万人、2035年の2400万人まで、益々急速に成長する傾向があると予測している。
【0003】
そのうち、肺癌は、人々の健康と生命を脅かす最も悪性の腫瘍の一つであり、発症率と死亡率の両方が一位であり、2012年だけで世界中約160万人が肺癌で死亡した。中国癌登録センターの2015年報によると、肺癌の発症率と死亡率が中国でも一位であり、中国では肺癌の新規症例が70万人以上あり、死亡者数が60万人以上である。肺癌患者のほとんどは、発見が遅くて薬物治療しか適性治療手段がなく、肺癌の伝統的な治療法には、局所治療(手術治療、放射線療法などを含む)及び全身治療(従来の化学療法、分子標的薬物療法などを含む)が含まれる。現代の医学研究が大きな進歩を遂げて、ゲフィチニブやエルロチニブなどの多くの標的薬が発明されており、肺癌の放射線療法、化学療法、手術治療において一定の進歩を遂げたが、全体的な予後は、まだ不良である。2015年の統計データによれば、中国の肺癌患者の5年生存率はわずか16.1%である。したがって、肺癌を治療する新しい方法を見つけるのは、科学者にとって緊急の課題となっている。
【0004】
従来技術から明らかなように、メチオニン依存性がほとんどの腫瘍細胞の特性であり、腫瘍細胞が過量のメチオニンを必要とし、メチオニンを除去したまたはその前駆体であるホモシステインでメチオニンを置換した培地で培養すると、細胞増殖が阻害されるが、メチオニンが存在した環境では正常に増殖すると表現しており、そのうち、前立腺癌、乳癌、肺癌、及びその他の10種類以上の悪性細胞などが含まれる。しかし、正常細胞にはメチオニン依存性がない。メチオニン欠乏を引き起こす方法として、主に食べ物におけるメチオニンを除去するか、メチオニナーゼでメチオニンを分解することがある。しかし、食べ物からのメチオニンの摂取を制限することによるメチオニンレベル低下の効果には限りがある一方、メチオニン摂取を長期的に制限すると体の栄養失調や代謝障害を引き起こす恐れがある。食べ物によりメチオニンを制限する場合に比べて、メチオニナーゼ(methioninase)を使用した方が過度の代謝問題を引き起こさないとともに、抗腫瘍効果を有する。
【0005】
サルモネラ菌属は、人間や動物の腸に寄生するグラム陰性の侵襲性細胞内通性嫌気性菌のグループである。そのうち、VNP20009菌株が高い腫瘍標的性及び安全性を有するとともに、抗腫瘍効果を果たす担体であることが知られている。VNP20009菌株は、悪性黒色腫や肺癌などのさまざまなマウス固形腫瘍モデルに対して顕著な腫瘍成長阻害効果がある。米国で実施された2つの第I相臨床研究から、安全的にヒトに使用できることが確認されたが、抗腫瘍効果は認められなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、本発明が解決しようとする技術的課題は、遺伝子工学菌VNP20009−Mの肺癌予防・治療薬の製造における新しい応用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するために、本発明は、前記遺伝子工学菌VNP20009−Mの肺癌予防・治療薬の製造における応用を開示する。
【0008】
さらに、前記肺癌は、原発性肺腫瘍、肺癌術後再発腫瘍及び肺癌転移腫瘍を含む。
【0009】
さらに、前記肺癌は、非小細胞肺癌及び小細胞肺癌などを含む。
【0010】
前記非小細胞肺癌は、上皮細胞由来のものであり、肺癌の主なタイプであり、扁平上皮癌、腺癌、腺扁平上皮癌、大細胞肺癌又は未分化癌を含む。
【0011】
扁平上皮癌は、様々なタイプの肺癌のうち最も一般的なものであり、約50%を占めており、発症年齢はほとんど50歳以上であり、男性の罹患が多い。大きな気管支に由来する場合が多く、中央型肺癌が多く、未分化癌よりも放射線療法と化学療法に対する感度が低い。
【0012】
腺癌は、気管支粘膜上皮に由来するものであり、少数が大気管支の粘液腺に由来し、女性の罹患が多い。一般に、早期には顕著な臨症状がなく、発見すると局所浸潤又は血行性転移が発生することがあり、臨床的には肝臓、脳や骨などの器官に転移しやすく、また、胸膜に影響を与えて胸水を引き起こすこともある。腺癌の放射線療法に対する感度は低い。
【0013】
腺扁平上皮癌及び大細胞癌は、悪性度が高く、分化度が低く、脳転移が発生しやすく、治療効果が悪く、予後不良と考えられる。現在、大細胞肺癌の治療は、主に包括的な治療であり、手術または放射線療法と化学療法単独では、効果が好ましくない。
【0014】
未分化癌は、発症率が扁平上皮癌に次いで2番目であり、男性の罹患が多く、発症年齢が比較的若く、未分化癌の悪性度が高く急速に成長し、且つリンパ系転移及び広範囲の血行性転移が早期に発生し、放射線療法及び化学療法に対する感度が高く、様々なタイプの肺癌のうち予後は最も悪い。
【0015】
小細胞癌は、小細胞神経内分泌癌としても知られており、高悪性型の肺癌である。このタイプの肺癌は、成長速度が高く、早期に転移し、脳、肝臓、骨、副腎などの臓器に転移することが多く、一般的に生存期間が1年未満である。外科的切除による効果が不良であるが、放射線療法及び化学療法にする感度が高く、ただし、放射線療法及び化学療法は、しばしば強い副作用と合併症を伴い、予後は不良である。
【0016】
好ましくは、前記遺伝子工学菌VNP20009−Mの最小有効投与量は、3.5*10
7CFU/M
2である。
【0017】
前記遺伝子工学菌VNP20009−Mを癌症の予防及び治療に適用する投与方式としては、複数種の手段で投与することができ、経口投与、局所投与、注射投与(静脈内投与、腹膜投与、皮下投与、筋肉投与、腫瘍内投与を含むが、これらに制限されない)などを含むが、これらに制限されない。
【0018】
本発明はさらに、遺伝子工学菌VNP20009−Mのメチオニナーゼ製剤の製造における応用を開示する。前記遺伝子工学菌VNP20009−Mは、高いメチオニナーゼ活性を有し、メチオニナーゼ製剤の製造に用いられ得る。
【0019】
上記メチオニナーゼ製剤の投与方式としては、複数種の手段で投与することができ、経口投与、局所投与、注射投与(静脈内投与、腹膜投与、皮下投与、筋肉投与、腫瘍内投与を含むが、これらに制限されない)などを含むが、これらに制限されない。
【0020】
従来技術から明らかなように、本発明に係る上記遺伝子工学菌VNP20009−Mは、既知の菌株であり、その性能、形状、構築方法がすべて中国特許CN105983103Aに記載されている。
【0021】
前記遺伝子工学菌VNP20009−Mは、L−メチオニナーゼ遺伝子がクローニングされた弱毒ネズミチフス菌VNP20009である。
【0022】
さらに、前記遺伝子工学菌VNP20009−Mは、L−メチオニナーゼ遺伝子がクローニングされたプラスミドを有する弱毒ネズミチフス菌VNP20009である。
【0023】
前記プラスミドは、pSVSPORTプラスミド、pTrc99Aプラスミド、pcDNA3.1プラスミド、pBR322プラスミド又はpET23aプラスミドを含むが、これらに制限されない。
【0024】
前記遺伝子工学菌VNP20009−Mは、L−メチオニナーゼ遺伝子をプラスミドにサブクローニングして、L−メチオニナーゼ発現プラスミドを得て、L−メチオニナーゼ発現プラスミドを弱毒ネズミチフス菌VNP20009に電気的形質転換する方法によって構築される。
【0025】
最も好ましくは、遺伝子工学菌VNP20009−Mの構築過程において、pSVSPORTプラスミドを用いる場合、L−メチオニナーゼ遺伝子をプラスミドにサブクローニングして、L−メチオニナーゼ発現プラスミドを得て、次に、L−メチオニナーゼ発現プラスミドを弱毒ネズミチフス菌VNP20009に電気的形質転換して、遺伝子工学菌を得る。
【0026】
そのうち、前記電気的形質転換条件は、電圧2400V、抵抗400Ω、電気容量25μF、放電時間4msである。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、従来の用途に基づいて肺癌を治療するための遺伝子工学菌VNP20009−Mの新しい応用を開示し、前記遺伝子工学菌VNP20009−Mは、肺癌の腫瘍細胞を効果的に殺滅し、肺腫瘍病巣を消すことができ、原発性肺癌、肺癌術後再発及び肺癌から他の部分へ転移した腫瘍細胞に対して、優れた殺傷効果及び良好な治療効果を果たし、さらに、前記遺伝子工学菌は、人体に明らかな毒性と副作用がなく、肺癌を安全で効果的に治療するために新しい手段を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明の内容を容易で明確に理解できるように、以下、本発明の特定実施例にて図面を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。
【
図1】プラスミドpSVSPORT−L−メチオニナーゼに対する酵素消化同定による1%アガロースゲル電気泳動像である。
【
図2】本発明におけるウエスターブロット同定によるメチオニナーゼ発現結果図である。
【
図3】本発明によるサルモネラ菌におけるメチオニナーゼ活性検出結果図である。
【
図4】実施例2における患者の頸部での新病巣の状況である。
【
図5】実施例2における患者の腫瘍塊部位の生検細胞スミアである。
【
図6】実施例2における患者の3週間治療後の腫瘍塊の状況である。
【
図7】実施例2における患者の5週間治療後の腫瘍塊の状況である。
【
図8】実施例2における患者の12週間治療後の原病巣部位の状況である。
【
図9】実施例2における患者の1週間治療後の腫瘍塊内部の細胞学的スミアである。
【
図10】実施例2における患者の3週間治療後の腫瘍塊内部の細胞学的スミアである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施例1 遺伝子工学菌VNP20009−Mの構築
【0030】
本発明の前記遺伝子工学菌VNP20009−Mの構築方法及び過程は、中国特許CN105983103Aにおける実施例に記載されている。
【0031】
(1)L−メチオニナーゼ遺伝子を発現させたプラスミドの構築
【0032】
まず、L−メチオニナーゼ(GenBank:L43133.1)遺伝子を合成してpUC57プラスミド(ジェンスクリプト社)にサブクローニングし、次に、KpnI及びHindIII酵素消化位点を介してpSVSPORTプラスミド(invitrogen)にサブクローニングし、pSVSPORT−L−メチオニナーゼ発現プラスミドを得た。構築過程は、具体的には、以下のとおりである。
【0033】
pSVSPORTプラスミドをKpnI及びHindIIIで二重酵素消化し、酵素消化系は、プラスミドDNA 2μg、10xbuffer 3μL、KpnI酵素1.5μL、HindIII酵素1.5μLに、ddH2Oを体積30μLになるまで加えて、37℃の温浴で3h処理したものである。次に、酵素消化系を1%アガロースゲルにおいて電気泳動分離し、サイズ4.1kbのDNAバンドを切り出し、ゲル回収精製試薬キットでDNAを精製した。
【0034】
全遺伝子合成を利用してL−メチオニナーゼコーディング領域DNA断片を得てpUC57プラスミド(ジェンスクリプト社)にサブクローニングし、KpnI及びHindIIIで二重酵素消化し、酵素消化系は、プラスミドDNA 3μg、10xbuffer 3μL、KpnI酵素1.5μL、HindIII酵素1.5μLに、ddH2Oを体積30μLになるまで加えて、37℃の温浴で3h処理したものである。次に、酵素消化系を1%のアガロースゲルにおいて電気泳動分離し、サイズ1.2kbのDNAバンドを切り出し、ゲル回収精製試薬キットでDNAを精製した。
【0035】
pSVSPORT(KpnI/HindIII)及びL−メチオニナーゼコーディング領域DNA断片(KpnI/HindIII)をライゲーションし、ライゲーション反応においてベクター2μL、挿入断片6μL、T4DNAリガーゼ1μLを加えて、16℃の温浴で16h処理した。
【0036】
ライゲーション産物をE.coliDH5α(Takara)のコンピテント細胞に形質転換した。50μLのDH5αコンピテント細胞1本を氷に置き、溶けた後、それに上記ライゲーション産物5μLを加えて、軽くフリックして均一に混合し、次に氷において30minインキュベートし、42℃で60s熱ショックした後、氷において2min静置して、耐性のないLB液体培地500μLを加え、37℃で1h振とう培養した後、アンピシリン耐性を有するLB培地プレートに塗布し、一晩培養した。
【0037】
クローンが成長した後、モノクローナルコロニーをアンピシリンを含むLB培養液3mLに取り、37℃で16h振とう培養して、プラスミドDNAを抽出し、Kpnl及びHindlll酵素消化により同定したところ、
図1に示すように、陽性クローンには4.1kb、1.2kbの2本のDNAバンドが認められた。さらにシーケンシングしたところ、陽性クローンの配列が完全に正確であることが確認された。
【0038】
(2)プラスミドを有するVNP20009菌及びL−メチオニナーゼ遺伝子がクローニングされたプラスミドを有するVNP20009菌の構築
【0039】
pSVSPORT及びpSVSPORT−L−メチオニナーゼ発現プラスミドをそれぞれVN20009菌株(YS1646、ATCC番号202165)に電気的形質転換して、それぞれVNP20009−V及びVNP20009−Mと命名した。構築過程は、具体的には、以下のとおりである。
【0040】
コンピテント細菌VNP20009を氷に置き、溶けた後、予備冷却電気的形質転換カップに移し、それにプラスミド2μLを加えて、軽くフリックして均一に混合し、氷において1minインキュベートした。電気的形質転換カップを電気的形質転換機器に入れて、条件として、電圧2400V、抵抗400Ω、電気容量25μF、放電時間4msと設定した。電気ショックした直後、SOC培地1mLを加えて、軽く均一に混合した。37℃で1h振とう培養し、ピペットを用いて細胞沈殿をピペッティングした後、アンピシリン耐性LB−O培地プレートに塗布した。次に、プレートを37℃のインキュベータに入れて16h培養した。VNP20009−V及びVNP20009−MをLB−Oで培養した後、プラスミドを抽出し、酵素消化で同定したところ、正確であった。
【0041】
1×10
8サルモネラ菌についてタンパク質溶解液でタンパク質を抽出し、10%SDS−PAGE電気泳動を行い、次に、電圧を安定化させながら氷浴でPVDF膜に電気的形質転換し、BSAを用いて室温で1hブロックした後、TBSTで3×5minリンスし、ウサギ抗L−メチオニナーゼ抗体(1:1000)を加えて、4℃で一晩インキュベートした。TBSTで3回リンスし、5minごとにHRP標識抗ウサギ二次抗体(1:10000)を加えて、室温で1hインキュベートし、TBSTで5minずつ3回リンスし、ECL化学発光法により現像させた。その結果、
図2に示すように、約43kDの分子量では特異的バンドが認められ、それは、VNP20009、VNP20009−Vに比べて、VNP20009−MのL−メチオニナーゼ発現量が明らかに向上したことを示した。
【0042】
L−メチオニンとピリドキサールをそれぞれVNP20009−V及びVNP20009−M菌体と混合し、37℃で10minインキュベートした後、50%トリクロロ酢酸で停止して、遠心分離して上澄を得て、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノン−ヒドラゾン塩酸塩水和合(MBTH)と均一になるまで十分に混合し、50℃で30minインキュベートした後、320nmでの吸光値を測定し、1分間にケト酪酸を触媒変換する触媒の量を1酵素活性ユニットとして定義した。その結果(
図3参照)、サルモネラ菌VNP20009−Mのメチオニナーゼ活性は、VNP20009−Vよりも10倍高かった。
【0043】
以上から分かるように、構築された遺伝子工学菌であるサルモネラ菌VNP20009−Mは、高いメチオニナーゼ活性を有するため、メチオニナーゼ製剤製造用として有用であった。
【0044】
実施例2 遺伝子工学菌VNP20009−Mの抗腫瘍効果
【0045】
1)、過去の病歴及び診断
臨床で、73歳の男性患者は、胸腔鏡下手術を用いた右下葉扁平上皮癌の根治手術を受けてから5か月間後、頸部に新しい腫瘍塊を発見され(
図4参照)、測定した後、頸部での病巣の大きさは、約8cm×9cmであった。腫瘍塊部位の生検について細胞スミアを経って、癌細胞と同定され(
図5参照)、そして骨ECTは、複数箇所の活発な骨代謝を示し、胸部CT検査では、腫瘍塊形成を伴う胸骨破壊が報告された。
【0046】
患者の以前の治療及び関連検査を参照すると、患者の右下葉扁平上皮癌の術後再発及び転移が診断されたが、臨床的には標準的な治療計画はない。
【0048】
希釈されたVNP20009−Mを腫瘍部位の複数の点に均一に注入し、1回目には6×10
7cfu(約3.5×10
7cfu/m
2)を投与した。1週間後、2回目の投与を行い、薬物の総量を9×10
7cfu(約5×10
7cfu/m
2)に増やした。同様に、腫瘍内注射により薬剤を複数の点に均一に注射した。2回目と同じ方法及び用量で、1週間の間隔で3回目の投与を行った。10日間隔で4回目の投与を行い、薬物濃度を6×10
7cfu/m
2に増やし、腫瘍内投与した。4回目と同じ方法及び用量で、10日間隔で5回目の投与を行った。具体的実施形態については、以下の表1に示される。
【0050】
3) 治療効果
3.1 病巣の大きさの変化
治療前に頸部での病巣の腫瘍塊を測定したところ、そのサイズは、約8cm×9cmであった(
図4参照)。3週間の治療後、腫瘍塊は明らかに減少した(
図6参照)。5週間の治療後(5回目の治療終了)、腫瘍塊は消えた(
図7参照)。12週間の治療後、頸部の鎖骨、すなわち原病巣部位には異常な変化は認めなかった(
図8参照)。
【0051】
3.2 腫瘍塊内部の変化
治療前に、腫瘍塊の内部は嚢胞構造であったが、細胞学的スミアを解析したところ、多数の重度異形細胞、すなわち腫瘍細胞が確認された(参照
図5)。
【0052】
1週間の(1回治療)治療後、腫瘍塊は著しく軟化して(
図9参照)、細胞学的スミアから多数の好中球と少数の腫瘍細胞を含むことが確認された。10日間(2回治療)の治療後、約40mlの滲出液が採取された。2週間(2回治療)の治療後、腫瘍塊の内部は、さらに液化し、約90mlの滲出液が採取された。3週間(3回治療)の治療後、腫瘍は縮小しており(
図10参照)、約45mlの滲出液がさらに採取され、細胞学的スミアから大量の炎症細胞とごく少量の腫瘍細胞が含まれていることが確認され、且つ炎症細胞が腫瘍細胞の周囲を取り囲んでいることが認められた。1か月(4回治療)の治療後、腫瘍はさらに縮小し、採取された滲出液が約20mlに減少した。5回の処理終了後、検査したところ、液体はなくなり、腫瘍塊は消えた。
【0053】
上記の結果は、本発明の前記遺伝子工学菌VNP20009−Mが腫瘍病巣に注入されると、局所炎症細胞浸潤を誘発し、それにより腫瘍細胞を殺す機能を発揮できることを示している。
【0054】
3.3 副作用
毎回治療の当日、注射9−10時間後で、患者が約38度に発熱し、物理的手段で降温すると体温を正常に回復することができる。当日には、約10分間、吐き気や嘔吐を伴った。それ以外は、他の異常な感覚はなかった。治療中、肝機能及び腎機能の指標を検査して、結果を以下の表2に示した。結果から分かるように、患者の肝機能及び腎機能の各指標が正常範囲にあった。以上の結果から分かるように、VNP20009−Mには人体に対する明らかな毒性がなかった。
【0056】
以上のデータから、本発明に係る前記遺伝子工学菌VNP20009−Mは、肺癌を治療するために有用であり、肺扁平上皮癌細胞を効果的に殺滅して、腫瘍病巣を消すことができ、しかも人体に明らかな毒性や副作用がないことが確認された。
【0057】
勿論、上記実施例は、明確に説明するために挙げられた例に過ぎず、実施形態を限定するものではない。当業者であれば、上記説明に基づいて様々な形態の他の変化または変更を行うことができる。ここで、すべての実施例を挙げる必要はなく、且つこのような方法もない。それから生じた明らかな変化または変更も本発明の保護範囲に属する。